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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】推定装置及び推定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1171 20160101AFI20240823BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
A61B5/1171
A61B5/11 110
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021544655
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2020049131
(87)【国際公開番号】W WO2021140988
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2020000876
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中山 武司
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 翔一
(72)【発明者】
【氏名】本間 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】白木 信之
(72)【発明者】
【氏名】林 哲平
(72)【発明者】
【氏名】沼▲崎▼ 和樹
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-093104(JP,A)
【文献】特開2019-197039(JP,A)
【文献】特開2019-211458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/1171
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体を識別、または、生体の方向を推定する推定装置であって、
第一生体を含む所定範囲に第一送信信号を送信するM個(Mは1以上の整数)の送信アンテナ素子と、
前記第一生体によって前記第一送信信号が反射された第一受信信号を所定期間受信する受信アンテナ素子を有し、前記所定範囲の周囲を囲んで配置されるN個(Nは3以上の整数)の受信部と、
M個の前記送信アンテナ素子より送信された第二送信信号が第二生体によって反射された第二受信信号をN個の前記受信部に予め受信させることにより得られた(M×N)個の第二受信信号である教師信号を記憶するメモリと、
(a)前記教師信号から教師信号第一ベクトルを算出し、かつ、(b)N個の前記受信部のそれぞれが前記第一受信信号を受信することにより得られた(M×N)個の第一受信信号から第一受信信号第一ベクトルを算出する第一ベクトル算出部と、
前記教師信号第一ベクトルと前記第一受信信号第一ベクトルとの成分ごとの相関係数を含む複数の相関係数を算出し、算出した前記複数の相関係数を用いて、所定の方法で前記第一生体を識別、または、前記第一生体の方向を推定する推定部とを備え、
前記第一ベクトル算出部は、
前記教師信号から教師信号第二行列を算出し、かつ、前記第一受信信号から第一受信信号第二行列を算出する第二行列算出部と、
前記教師信号第二行列を所定の方法で分解し、前記教師信号第二行列の要素を所定の方法で順序を並べ替え、かつ、前記第一受信信号第二行列を所定の方法で分解し、前記第一受信信号第二行列の要素を所定の方法で順序を並べ替える分解部とを有し、
前記教師信号第二行列の並べ替えられた要素と、前記教師信号とを用いて前記教師信号第一ベクトルを算出し、かつ、前記第一受信信号第二行列の並べ替えられた要素と、前記第一受信信号とを用いて前記第一受信信号第一ベクトルを算出する
推定装置。
【請求項2】
前記分解部は
前記教師信号第二行列を固有値分解し、対角要素である固有値の大きい順に並べ替え
前記第一受信信号第二行列を固有値分解し、対角要素である固有値の大きい順に並べ替える
請求項に記載の推定装置。
【請求項3】
前記分解部は
前記教師信号第二行列を特異値分解し、対角要素である特異値の大きい順に並べ替え
前記第一受信信号第二行列を特異値分解し、対角要素である特異値の大きい順に並べ替える
請求項に記載の推定装置。
【請求項4】
前記第一ベクトル算出部は、前記教師信号第一ベクトルと前記第一受信信号とを算出した後に所定の方法でDC成分を除去する
請求項1から請求項のいずれか1つに記載の推定装置。
【請求項5】
前記推定部は、複数の相関行列のうち、所定の方法で相関関数の使用個数を算出し、使用個数分、複数の相関行列の総和を取る
請求項1から請求項のいずれか1つに記載の推定装置。
【請求項6】
前記推定部は、前記第一生体の向き推定を行う場合は、教師信号を生体の向きごとに記憶し、複数の相関行列の総和の最大を取る教師信号の向きを前記第一生体の向きと推定する
請求項に記載の推定装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記第一生体の識別を行う場合は、同じ方向を向いた教師信号を生体ごとに記憶し、複数の相関行列の総和の最大を取る教師信号を生体と同一生体と推定する
請求項に記載の推定装置。
【請求項8】
生体を識別、または、生体の方向を推定する推定装置が実行する推定方法であって、
前記推定装置は、
第一生体を含む所定範囲に第一送信信号を送信するM個(Mは1以上の整数)の送信アンテナ素子と、
前記第一生体によって前記第一送信信号が反射された第一受信信号を所定期間受信する受信アンテナ素子を有し、前記所定範囲の周囲を囲んで配置されるN個(Nは3以上の整数)の受信部と、
M個の前記送信アンテナ素子より送信された第二送信信号が第二生体によって反射された第二受信信号をN個の前記受信部に予め受信させることにより得られた(M×N)個の第二受信信号である教師信号を記憶するメモリとを備え、
前記推定方法は、
(a)前記教師信号から教師信号第一ベクトルを算出し、かつ、(b)N個の前記受信部のそれぞれが前記第一受信信号を受信することにより得られた(M×N)個の第一受信信号から第一受信信号第一ベクトルを算し、
前記教師信号第一ベクトルと前記第一受信信号第一ベクトルとの成分ごとの相関係数を含む複数の相関係数を算出し、算出した前記複数の相関係数を用いて、所定の方法で前記第一生体を識別、または、前記第一生体の方向を推定し、
前記教師信号第一ベクトルおよび第一受信信号第一ベクトルを算出する際には、
前記教師信号から教師信号第二行列を算出し、かつ、前記第一受信信号から第一受信信号第二行列を算出し、
前記教師信号第二行列を所定の方法で分解し、前記教師信号第二行列の要素を所定の方法で順序を並べ替え、かつ、前記第一受信信号第二行列を所定の方法で分解し、前記第一受信信号第二行列の要素を所定の方法で順序を並べ替え、
前記教師信号第二行列の並べ替えられた要素と、前記教師信号とを用いて前記教師信号第一ベクトルを算出し、かつ、前記第一受信信号第二行列の並べ替えられた要素と、前記第一受信信号とを用いて前記第一受信信号第一ベクトルを算出する
定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体に無線信号を照射し、その反射信号を受信して生体の識別、または生体の向き推定を行う推定装置及び推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体に無線信号を照射し、その反射信号を受信して生体の識別推定又は生体の向き推定を行う技術が知られている(例えば特許文献1、特許文献2)。特許文献1には、自動車の運転者に対して電磁波を照射し、その反射波を用いて心拍及び心音信号を抽出することで、運転者個人を推定する装置が開示されている。また、特許文献2には、自動車の運転者に対し複数の送受信機を用い、被験者の心拍数を測定する方法が開示されている。
【0003】
また、例えば特許文献3には、被験者に対し複数アンテナによる360度放射パターン測定装置が開示されている。また、例えば特許文献4には、被験者に対し近傍に複数アンテナを設置して個人識別を行う識別装置が開示されている。
【0004】
また、例えば特許文献5には、被験者に対し近傍に複数アンテナを設置して生体の向き推定を行う推定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-042293号公報
【文献】特開2009-055997号公報
【文献】特開2007-325621号公報
【文献】特開2019-93104号公報
【文献】特開2019-211458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電磁波を利用した生体識別又は生体の向き推定は、特許文献1、特許文献2、特許文献4、特許文献5に開示されるように被測定者とアンテナとが比較的近距離の状態で生体識別を行う場合が多い。
【0007】
しかしながら、運転席または個室のような狭小領域において個人識別を行う場合、被験者とアンテナとの間の距離が近いという制約は問題となりにくいが、日常生活などの場面では利用しにくいという課題がある。
【0008】
本開示は、上述の事情を鑑みてなされたもので、例えば屋内など被験者とアンテナとの間の距離を離した状態でも電磁波を利用した生体識別又は生体の向き推定を行うことができる推定装置及び推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一形態に係る推定装置は、生体を識別、または、生体の方向を推定する推定装置であって、第一生体を含む所定範囲に第一送信信号を送信するM個(Mは1以上の整数)の送信アンテナ素子と、前記第一生体によって前記第一送信信号が反射された第一受信信号を所定期間受信する受信アンテナ素子を有し、前記所定範囲の周囲を囲んで配置されるN個(Nは3以上の整数)の受信部と、M個の前記送信アンテナ素子より送信された第二送信信号が第二生体によって反射された第二受信信号をN個の前記受信部に予め受信させることにより得られた(M×N)個の第二受信信号である教師信号を記憶するメモリと、前記教師信号と、N個の前記受信部のそれぞれが前記第一受信信号を受信することにより得られた(M×N)個の第一受信信号について、それぞれ所定の方法で第一ベクトルをそれぞれ算出する第一ベクトル算出部と、前記第一ベクトルから複数の相関係数を算出し、算出した前記複数の相関係数を用いて、所定の方法で前記第一生体を識別、または、前記第一生体の方向を推定する推定部とを備える。
【0010】
なお、これらの包括的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る推定装置によれば、例えば屋内など被験者とアンテナとの間の距離を離した状態でも電磁波を利用した生体識別又は生体の向き推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態における推定装置の構成の一例を示す構成図である。
図2図2は、図1に示す教師信号の一例を示す図である。
図3図3は、図1に示す回路の詳細構成の一例を示す構成図である。
図4図4は、実施の形態における推定装置の動作の一例を示すフローチャートを示す図である。
図5図5は、実施の形態のステップS11の詳細動作の一例を示すフローチャートを示す図である。
図6図6は、実施の形態のステップS13の詳細動作の一例を示すフローチャートを示す図である。
図7図7は、実施の形態における推定装置による試験に用いた環境を示す図である。
図8図8は、図7に示す環境において受信した受信信号より算出した伝搬チャネルの一例を示す図である。
図9図9は、図8に示す伝搬チャネルについて、第一ベクトルを算出後、相関計算した結果の一例を示す図である。
図10図10は、3人データの正答率の一例を示す図である。
図11図11は、特許文献1の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示の基礎となった知見)
特許文献1及び特許文献2では、自動車の運転席に座っている人物に電磁波を照射して、その人物からの反射波を測定する。そして、測定した結果に対して演算処理を行うことにより心拍または心音の測定を行い、測定した心拍または心音の時間相関を取得することにより生体識別を実現している。
【0014】
しかしながら、上述したように、特許文献1の方法は運転席のような狭い空間において、被験者とアンテナの位置が特定可能という限られた環境でのみ運用可能という問題がある。このため屋内の日常生活のような場面ではアンテナと被験者の距離を離し、かつアンテナと被験者の位置関係に自由度を持たせた環境にて生体識別又は生体の向き推定を行うことが求められている。
【0015】
発明者らは、この課題に対して研究を重ねた結果、屋内など被験者とアンテナの距離を離した状態でも電磁波を利用した生体識別又は生体の向き推定を行う為、次のようなことを見出した。すなわち識別対象が活動する部屋の周囲にアンテナ素子を設置し、様々な方向から送信波を送信し、かつ、様々な方向にて反射波、散乱波を受信することで生体の特徴をより多く捕捉した受信信号を取得する。
【0016】
そして、受信信号は、生体とアンテナの距離、又は、生体の方向若しくは姿勢により少なからず変化するので、生体識別又は生体の向き推定を行うには、受信信号より生体の位置又は姿勢を推定しつつ、教師データを取得し、生体の位置又は姿勢を識別位置として保存する。この時、特許文献1及び特許文献2のような先行例のようにアンテナと被験者との距離が十分に近い場合は、受信信号が比較的大きく個人識別又は生体の向き推定を実現可能であるが、屋内などで被験者とアンテナとの距離を離した状態でも電磁波を利用した生体識別を行うと、受信信号が距離減衰により小さくなりノイズフロアと見分けがつきにくく、個人識別又は生体の向き推定の精度が下がってしまう。
【0017】
そこで相関行列を固有値分解し、固有値順に並べ替え、バイタル成分が多く含まれるチャネルを抽出しDC成分除去後、被験者が識別位置にて同じ姿勢をした後、教師データとの相関を算出することで、住空間のような領域においても、教師データ中に測定対象の生体が有るか否か、またはその生体の向きを精度よく識別できることを見出した。
【0018】
本開示の一態様に係る推定装置は、生体を識別、または、生体の方向を推定する推定装置であって、第一生体を含む所定範囲に第一送信信号を送信するM個(Mは1以上の整数)の送信アンテナ素子と、前記第一生体によって前記第一送信信号が反射された第一受信信号を所定期間受信する受信アンテナ素子を有し、前記所定範囲の周囲を囲んで配置されるN個(Nは3以上の整数)の受信部と、M個の前記送信アンテナ素子より送信された第二送信信号が第二生体によって反射された第二受信信号をN個の前記受信部に予め受信させることにより得られた(M×N)個の第二受信信号である教師信号を記憶するメモリと、前記教師信号と、N個の前記受信部のそれぞれが前記第一受信信号を受信することにより得られた(M×N)個の第一受信信号について、それぞれ所定の方法で第一ベクトルをそれぞれ算出する第一ベクトル算出部と、前記第一ベクトルから複数の相関係数を算出し、算出した前記複数の相関係数を用いて、所定の方法で前記第一生体を識別、または、前記第一生体の方向を推定する推定部と、を備える推定装置である。なお、第一ベクトルは、例えば、教師第一ベクトルとテスト第一ベクトルとに相当する。推定部は、例えば、回路に相当する。
【0019】
これによれば、第一生体の周囲に設置した受信アンテナ素子から得た測定信号である第一受信信号と教師信号とから、複数の相関係数を算出することができる。そして、複数の相関係数のうちの最大値が閾値を上回ったかどうかに応じて、第一生体と教師データに含まれる第二生体とが同じ方向を向いているかを推定することができる。または、第一生体と教師データに含まれる第二生体とが同一であることを識別することで、生体認証を行うことができる。
【0020】
例えば、前記第一ベクトル算出部は、前記第一受信信号より第二行列を算出する第二行列算出部と、前記第二行列を所定の方法で分解し、前記第二行列の要素を所定の方法で順序を並べ替える分解部と、前記第二行列の並べ替えられた要素と、前記教師信号または前記第一受信信号とを用いて前記第一ベクトルを算出してもよい。
【0021】
例えば、前記分解部は、前記第二行列を固有値分解し、対角要素である固有値の大きい順に並べ替えてもよい。
【0022】
例えば、前記分解部は、前記第二行列を特異値分解し、対角要素である特異値の大きい順に並べ替えてもよい。
【0023】
例えば、前記第一ベクトル算出部は、前記第一ベクトル算出後に所定の方法でDC成分を除去してもよい。
【0024】
例えば、前記推定部は、複数の相関行列のうち、所定の方法で相関関数の使用個数を算出し、使用個数分、複数の相関行列の総和を取ってもよい。
【0025】
例えば、前記推定部は、前記第一生体の向き推定を行う場合は、教師信号を生体の向きごとに記憶し、複数の相関行列の総和の最大を取る教師信号の向きを前記第一生体の向きと推定してもよい。
【0026】
これにより住空間のような領域においても、教師データ中に測定対象の生体と同じ向きの生体が有るか否かを精度よく識別できる。
【0027】
例えば、前記推定部は、前記第一生体の識別を行う場合は、同じ方向を向いた教師信号を生体ごとに記憶し、複数の相関行列の総和の最大を取る教師信号を生体と同一生体と推定してもよい。
【0028】
これにより住空間のような領域においても、教師データ中に測定対象の生体が有るか否かを精度よく識別できる。
【0029】
また、本開示の一態様に係る生体位置推定方法は、生体を識別、または、生体の方向を推定する推定装置が実行する推定方法であって、前記推定装置は、第一生体を含む所定範囲に第一送信信号を送信するM個(Mは1以上の整数)の送信アンテナ素子と、前記第一生体によって前記第一送信信号が反射された第一受信信号を所定期間受信する受信アンテナ素子を有し、前記所定範囲の周囲を囲んで配置されるN個(Nは3以上の整数)の受信部と、M個の前記送信アンテナ素子より送信された第二送信信号が第二生体によって反射された第二受信信号をN個の前記受信部に予め受信させることにより得られた(M×N)個の第二受信信号である教師信号を記憶するメモリとを備え、前記推定方法は、前記教師信号と、N個の前記受信部のそれぞれが前記第一受信信号を受信することにより得られた(M×N)個の第一受信信号について、それぞれ所定の方法で第一ベクトルをそれぞれ算出する第一ベクトル算出部と、前記第一ベクトルから複数の相関係数を算出し、算出した前記複数の相関係数を用いて、所定の方法で前記第一生体を識別、または、前記第一生体の方向を推定する推定部と、を含む推定方法である。
【0030】
なお、これらの全般的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータで読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0031】
以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0032】
(実施の形態)
[推定装置10Aの構成]
図1は、実施の形態における推定装置10Aの構成の一例を示す構成図である。図2は、図1に示す教師信号42の一例を示す図である。図3は、図1に示す回路40の詳細構成の一例を示す構成図である。
【0033】
本開示における推定装置10Aは、M個(Mは1以上の整数)の送信アンテナ素子と、それぞれが受信アンテナ素子を有するN個(Nは3以上の整数)の受信部と、回路40と、メモリ41とを備える。
【0034】
M個の送信アンテナ素子は、生体50を含む所定範囲A1に送信信号を送信する。送信信号は、送信機等により生成されたマイクロ波などの高周波の信号である。
【0035】
生体50は、ヒト等である。生体50は、推定装置10Aの推定対象であり、生体認証又は生体の向き推定が行われる対象である生体である。
【0036】
所定範囲A1とは、予め定められた範囲の空間であり、生体50を含む空間である。換言すると、所定範囲A1は、推定装置10Aが生体50を推定するために用いられる空間である。
【0037】
M個の送信アンテナ素子は、例えば、測定対象の生体50である第一生体を含む所定範囲A1に第一送信信号を送信する。また、M個の送信アンテナ素子は、教師データとしての既知の生体50である第二生体を含む所定範囲A1に第二送信信号を送信する。
【0038】
N個の受信部は、それぞれ受信アンテナ素子を有し、所定範囲A1の周囲を囲んで配置される。N個の受信部はそれぞれ、当該受信アンテナ素子を用いて、生体50によって送信信号が反射された反射信号を含む受信信号を所定期間かけて受信する。例えば、N個の受信部はそれぞれ、当該受信アンテナ素子を用いて、第一生体によって第一送信信号が反射された反射信号を含む第一受信信号を所定期間Tをかけて受信する。また、例えば、N個の受信部はそれぞれ、当該受信アンテナ素子を用いて、第二生体によって第二送信信号が反射された反射信号を含む第二受信信号である教師信号を、所定期間TのK倍(Kは2以上)の期間、受信する。
【0039】
本実施の形態では、推定装置10Aは、図1に示すように、例えば8個の送受信部30A~30Hと、回路40と、メモリ41とを備える。つまり、M個の送信アンテナ素子及びN個の受信部は、8個の送受信部30A~30Hで構成されてもよい。なお、送受信部は、8個に限らない。
【0040】
[送受信部30A~30H]
本実施の形態では、8個の送受信部30A~30Hは、所定範囲A1の周囲の位置に配置され、ヒト等の生体50を含む所定範囲A1に対して送信信号を送信することで、生体50で反射された反射信号を含む受信信号を受信する。例えば、8個の送受信部30A~30Hは、それぞれが等間隔に円形に配置されてもよく、所定範囲A1の外側の位置に配置されてもよい。
【0041】
図1に示すように、送受信部30A~30Hはそれぞれ、アンテナ素子31A~31Hを有している。送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hを用いて、所定範囲A1に送信信号を送信する。より具体的には、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hを用いて、ヒトなどの生体50に対して、マイクロ波を送信信号として発射する。なお、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hを用いて、無変調の送信信号を送信してもよいし、変調処理が行われた送信信号を送信してもよい。
【0042】
変調処理が行われた送信信号を送信する場合、送受信部30A~30Hは、変調処理を行うための回路をさらに含むとしてもよい。
【0043】
また、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hを用いて、生体50によって送信信号が反射された信号である反射信号を含む受信信号を、所定期間かけて受信する。送受信部30A~30Hは、受信した受信信号を回路40に出力する。なお、送受信部30A~30Hのそれぞれは、受信信号を処理するための回路を含んでいてもよい。この場合、送受信部30A~30Hのそれぞれは、受信した受信信号を周波数変換し、低周波信号に変換してもよい。また、送受信部30A~30Hのそれぞれは、受信信号に復調処理を行ってもよい。
【0044】
そして、送受信部30A~30Hのそれぞれは、周波数変換および/または復調処理することにより得られた信号を回路40に出力する。
【0045】
なお、図1に示す例では、推定装置10Aを、送信部と受信部とをそれぞれ送信用と受信用とで共通の4個のアンテナ素子を持つ8個の送受信部30A~30Hで構成されるとして表現したが、構成はこれに限らない。例えば8個の送受信部30A~30Hは、8個に限らず、N個(Nは3以上の整数)の送受信部で構成されてもよい。また、M個(Mは1以上の整数)の送信アンテナ素子を有する送信部とN個の受信アンテナ素子とを有する受信部とが別々に設けられるとしてもよい。
【0046】
[メモリ41]
メモリ41は、不揮発性の記憶領域を有する補助記憶装置であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)などである。メモリ41は、例えば、推定装置10Aを動作させる各種処理に利用される情報を記憶している。
【0047】
メモリ41は、図1に示すように、教師信号42を記憶している。この教師信号42は、所定範囲A1に居る(存在する)既知の生体50である第二生体に対して予め取得された信号波形である。より具体的には、教師信号42は、第二生体に対してM個の送信アンテナ素子より送信された第二送信信号が、第二生体によって反射された反射信号を含む第二受信信号をN個の受信部に予め受信させることにより得られた、MにNを乗じた(M×N)個数の第二受信信号である。ここで、教師信号42は、所定期間のK倍(Kは2以上)の期間、N個の受信部が予め第二受信信号を受信することにより得られた(M×N)個の第二受信信号であってもよい。
【0048】
本実施の形態では、M個の送信アンテナ素子及びN個の受信部は、図1に示すように8個の送受信部30A~30Hで構成されている。この場合における教師信号42の一例について図2を用いて説明する。図2に示す教師信号42は、1個の受信部が測定期間において受信した受信信号の一例である。
【0049】
図2に示す教師信号42は、所定範囲A1にいる既知の生体50(第二生体)に対して、アンテナ素子31A~31Hから送信された送信信号が、当該生体50の表面によって反射された反射信号を含む受信信号を、送受信部30A~30Hが予め受信することにより得られた複数の受信信号の時間応答波形である。つまり、図2に示す教師信号42は、送受信部30A~30Hが反射信号を含む受信信号を、測定期間において、予め受信することにより得られた複数の受信信号の強度を示す。ここで、測定期間は、上記の所定期間のK倍(Kは2以上)の期間である。測定期間は、例えば120秒〔s〕であるが、これに限らない。ヒトの心拍の周期以上であればよいので、3秒〔s〕でもよいし、10秒〔s〕でもよいし、30秒〔s〕でもよい。
【0050】
なお、教師信号42は、複数の既知の第二生体のそれぞれについて、予め取得されるとしてもよい。この場合、複数の既知の第二生体にそれぞれに対応する複数の教師信号42は、対応する第二生体を推定する推定情報と対応付けられた状態でメモリ41に記憶されればよい。
【0051】
[回路40]
推定部である回路40は、推定装置10Aを動作させる各種処理を実行する。回路40は、例えば、制御プログラムを実行するプロセッサと、当該制御プログラムを実行するときに使用するワークエリアとして用いられる揮発性の記憶領域(主記憶装置)とにより構成される。この記憶領域は、例えば、RAM(Random Access Memory)である。
【0052】
回路40は、N個の受信部のそれぞれから取得した第一受信信号を、記憶領域に所定期間、一時的に記憶する。回路40は、第一受信信号の位相及び振幅を当該記憶領域に所定期間、一時的に記憶してもよい。本実施の形態では、回路40は、送受信部30A~30Hのそれぞれから取得した受信信号を、記憶領域に所定期間、一時的に記憶する。
【0053】
なお、回路40は、推定装置10Aを動作させる各種処理を行うための専用回路により構成されていてもよい。つまり、回路40は、ソフトウェア処理を行う回路であってもよいし、ハードウェア処理を行う回路であってもよい。また、回路40は、不揮発性の記憶領域を有していてもよい。
【0054】
続いて、回路40の機能的な構成について説明する。
【0055】
回路40は、図3に示すように、第一ベクトル算出部410と、DC除去部411と、推定部412とを有する。なお、DC除去部411は必須でない。
【0056】
<第一ベクトル算出部410>
より具体的には、まず、第一ベクトル算出部410は、回路40の記憶領域に記憶している受信信号と、メモリ41に記憶されている教師信号とを用いて、それぞれの伝搬チャネル
【数1】
を算出する。
【0057】
ここで、受信機K、送信機K、M個の受信アンテナ素子とM個の送信アンテナ素子とで構成されるMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)アレーアンテナを生体50の周囲に配置した場合に得られる伝搬チャネル
【数2】
は、以下の(式1)(式2)で表される。
【0058】
【数3】
【数4】
【0059】
(式1)(式2)においてK、Kは受信機番号、送信機番号を示し、M、Mは各受信機、送信機のアンテナ素子番号を示す。
【0060】
【数5】
は送信機KのM番目のアンテナから受信機KのM番目のアンテナへの複素チャネル応答を示し、tは観測時間を示す。
【0061】
次に第一ベクトル算出部410は伝搬チャネル
【数6】
の周波数応答行列
【数7】
を算出する。周波数応答行列
【数8】
は(式3)で表される。
【0062】
【数9】
【0063】
ここでωは、生体に対応する周波数範囲である。
【0064】
次に第一ベクトル算出部410は、伝搬チャネル
【数10】
と周波数応答行列
【数11】
を、
【数12】
としてベクトル化する。
【0065】
【数13】
は、それぞれ(式4)、(式5)で表される。ここでTは転置を表す。
【0066】
【数14】
【数15】
【0067】
次に第一ベクトル算出部410は、ベクトル行列
【数16】
より第二行列
【数17】
を算出する。第二行列
【数18】
は(式6)で表される。ここでE[{}・{}]はアンサンブル平均である。
【0068】
【数19】
【0069】
次に第一ベクトル算出部410は、第二行列
【数20】
を固有値分解する。固有値分解は、(式7)、(式8)、(式9)で表される。ここでHは複素共役転置を表す。
【0070】
【数21】
【数22】
【数23】
【0071】
ここで
【数24】
は、固有値の対角成分を、
【数25】
は、固有値に対応した固有ベクトルを示す。
【0072】
次に第一ベクトル算出部410は、固有ベクトル
【数26】
と(式4)の
【数27】
を用い第一ベクトルを算出する。
【0073】
【数28】
【0074】
<DC除去部411>
DC除去部411は、(式10)で表される、受信信号と教師信号との第一ベクトルから、生体50の推定に不要なノイズ成分であるDC成分を除去したDC除去第一ベクトルを算出する。DC除去部411は、算出したDC除去第一ベクトルをメモリ41に記憶してもよいし、回路40の記憶領域に記憶してもよい。
【0075】
DC除去部411は、例えば、(式11)の方法により、第一ベクトルのDC(Direct Current)成分を除去する。
【0076】
【数29】
【0077】
<推定部412>
推定部412は受信信号を元に算出した第一ベクトル
【数30】
と教師信号を元に算出した第一ベクトル
【数31】
をそれぞれDC除去した
【数32】
を(式12)に用いて相関係数を算出する。ここで「*」は複素共役を表す。
【0078】
【数33】
【0079】
ここでtは教師データ観測時間、Lは任意の固有値番号、NTはテストデータの受信信号のサンプル数、NDは教師信号のサンプル数、FSはサンプリング周波数を表す。
【0080】
この時、相関係数の算出式は(式13)、(式14)を用いてもよい。
【0081】
【数34】
【数35】
【0082】
次に推定部412は、固有値Lごとに時間t方向の最大値を(式15)のように算出する。
【0083】
【数36】
【0084】
次に推定部412は固有値ごとの最大値を使用固有値の数だけ(式16)に示すように加算する。この(式16)の処理を記憶された教師データについてそれぞれ行い、Sが最大となる教師データを正解の生体と推定する。
【0085】
【数37】
【0086】
この時、(式16)の代わりに(式17)のように固有値ごとに係数をつけてもよい。
【数38】
【0087】
この時、教師データが生体の向きを変更しながら取得した教師データであれば、生体の向きを推定可能であるし、教師データが生体の向きを固定して異なる複数名分の生体を記憶した教師データであれば、生体の識別が可能となる。
【0088】
このようにして、図1に示す推定装置10Aは、送受信部30A~30Hで受信された受信信号を、回路40で処理することで、生体50を推定することができる。
【0089】
[推定装置10Aの動作]
次に、以上のように構成された推定装置10Aの動作について説明する。図4は、実施の形態における推定装置10Aの動作の一例を示すフローチャートである。図5は、実施の形態における推定装置10Aの第一ベクトル算出部410の動作を示すフローチャートである。図6は、実施の形態における推定装置10Aの推定部412の動作を示すフローチャートである。
【0090】
まず、推定装置10Aは、M個の送信信号を送信し、N個の受信信号を受信する(S10)。より具体的には、推定装置10Aは、(送信機K)×(送信アンテナ素子数M)=M個の送信アンテナ素子を用いて、第一生体を含む所定範囲A1に第一送信信号を送信する。そして、推定装置10Aは、(受信機K)×(受信アンテナ数M)=N個の受信部のそれぞれが、当該受信アンテナ素子を用いて、第一生体によって第一送信信号が反射された反射信号を含む第一受信信号を所定期間かけて受信する。本実施の形態では、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hに、推定対象の生体50である第一生体を所定範囲A1内に配置した状態で、所定範囲A1へ送信信号を送信させる。
【0091】
そして、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hを用いて、第一生体によって第一送信信号が反射された反射信号を含む第一受信信号を所定期間受信する。
【0092】
ここで、図7は、実施の形態の一例における推定装置10Aを使用して推定試験を実施した環境を示す図である。図8は、図7に示す環境において受信した受信信号より、算出した伝搬チャネルの一例を示す図である。
【0093】
図7に示すように、この実施の形態の推定試験では、推定装置10Aは送受信部30B、30D、30F、30Hに相当する4台の送受信機を用いている。ここで受信機および送信機は図1に示すように8台構成でもよいし、4台構成など、2台以上であれば何台でもよい。
【0094】
4台の送受信機は、被験者50aを中心として、1辺が4メートル(m)の正方形の頂点に位置する位置に並べて配置されている。被験者50aは、推定試験において推定対象の生体50すなわち第一生体に相当する。また、アンテナ素子31B~31Hに相当する受信アンテナ素子及び送信アンテナ素子として、それぞれ4素子の方形パッチアンテナを用いている。
【0095】
より具体的には、4台の送受信機が有する8個の受信アンテナ素子は、それぞれ方形パッチアンテナであり、床面から0.9mの高さに設置されている。4台の送受信機が有する8個の送信アンテナ素子は、対応する受信アンテナ素子のマイクロ波の1波長真上に配置されている。ここで送信アンテナと受信アンテナとは共用してもよいし、別々に用いてもよい。
【0096】
次に、推定装置10Aは、ステップS10で取得した複数の第一受信信号と、メモリ41に記憶されている教師信号42から第一ベクトルを算出する(S11)。ステップS11に含まれる詳細な処理が、図5に示されている。
【0097】
まず、推定装置10Aは、既知の生体50である第二生体に対して、M個の送信アンテナ素子が送信した第二送信信号が、第二生体によって反射された反射信号を、N個の受信部が予め受信することにより得られた、(M×N)個の第二受信信号である教師信号42を、メモリ41から読み出す。
【0098】
そして、推定装置10Aは、ステップS10で取得した第一受信信号と、メモリ41から読み出した教師信号42から、それぞれ第二行列を算出する(S20)。
【0099】
その後、第二行列を固有値分解し(S21)、対角要素の大きい順に並び替え、第一ベクトルを算出する(S22)。本実施の形態では、回路40は、この第一ベクトルを第一受信信号と、教師信号42の両方に対して算出する。なお、ここではS21にて固有値分解を用いたが、第二行列より特異値分解して、特異値を元に第一ベクトルを算出してもよい。この時、第一ベクトルは特異値の大きな順に並べかえ、特異ベクトルを用いてもよいし、固有ベクトルを用いてもよい。
【0100】
図4にもどり、次に、推定装置10Aは、ステップS11で取得した第一受信信号と教師信号42とのそれぞれの第一ベクトルからDC成分を除去する(S12)。
【0101】
次に、推定装置10Aは、ステップS12でDC成分を除去した第一受信信号と教師信号42とのそれぞれの第一ベクトルを用いて、生体の推定を行う(S13)。ステップS13に含まれる詳細な処理が、図6に示されている。
【0102】
推定装置10Aは、第一受信信号と教師信号42とのそれぞれの第一ベクトルを用いて、固有値ごとに相関係数を計算する(S30)。図9に固有値ごとに算出した相関係数を示す。第一固有値、第二固有値など、固有値が大きい順に第一ベクトルが並べ替えられているので、図9より、固有値が大きい方の相関が大きく、固有値が小さい方は相関が小さくなることが読み取れる。
【0103】
次に、推定装置10Aは、固有値ごとに時間方向の最大値を求め、更に所定の方法で決めた使用固有値数の数分、固有値ごとの最大値の総和を算出する(S31)。ここで使用固有値数は、例えば、8個又は9個など固有値全体の3分の2(2/3)程度としてもよいし、固有値ごとの相関係数の平均値が一定以上の固有値を選択してもよいし、相関係数の最大値と最小値の差が一定以上の固有値を選択してもよい。
【0104】
更に使用固有値の最大値の総和を算出する際は、最大値の総和を素直に算出してもよいし、固有値ごとに傾斜をつけて総和を算出してもよい。
【0105】
ここで固有値ごとに傾斜をつける場合は、傾斜係数αには1.7を用いてもよいし、他の係数を用いてもよい。図10は、図7の推定装置10Aによる推定試験にて3人の被験者を元に生体の向き推定を行った結果を示している。この結果には、3人の被験者がどの位置に立った場合でも、平均正答率が75%以上であることが示されている。
【0106】
次に推定装置10Aは、生体についての推定を行う(S32)。推定装置10Aは、使用固有値の最大値について、生体の向き推定を行う場合は、教師信号を生体の向き毎に測定し、使用固有値の最大値が最も大きい方向を生体の向きとする。また、生体識別を行う場合は、同じ方向を向いた教師信号を複数位置に置いて測定し、教師信号を取得した方向と同じ方向にて第二の生体の第一信号を測定し、使用固有値の最大値を算出し、使用固有値の最大値が最も大きな教師信号を識別された生体とする。この時、使用固有値の最大値が最大の教師信号を識別された生体としてもよいし、閾値以上の生体を識別された生体としてもよい。
【0107】
[効果等]
図7に示すような認識試験に用いた環境では、本開示の一例の推定装置10Aでは、生体50の周囲の、例えば4カ所に設置した送信機、または、受信機のアンテナ素子のそれぞれから送信波を送信し、受信信号を受信する。そして、推定装置10Aは、メモリ41に記憶されている教師信号と、生体認証の対象である生体50である被験者50aからの受信信号とから第2行列を算出し、固有値分解を行い、固有値の大きな順に並べ替え、固有値ごとに第一ベクトルを算出し、DC分解除去後に複数の第一ベクトルの時間的な相関関係を、スライディング相関演算により算出する。
【0108】
生体成分は固有値の大きな第一ベクトルにより多く含まれるため、使用固有値を絞ることで、生体成分のS/N比を上げることができる。
【0109】
ここで、被験者50aと、教師信号に含まれる既知の生体50とが一致する場合、すなわち、既知の生体50と被験者50aとが同じ方向を向いている場合、または、同じ方向を向いた同一人である場合、スライディング相関の相関係数の最大値が大きくなる。一方、被験者50aと、教師信号に含まれる既知の生体50とが異なる、すなわち、既知の生体50と被験者50aが異なる方向を向いた場合、または、同じ方向を向いた異なる人である場合、スライディング相関の相関係数の最大値が小さくなる。
【0110】
これにより、推定装置10Aは、スライディング相関演算により算出した相関係数の最大値を用いて、被験者50aが教師信号に含まれる既知の生体50と同じ方向を向いているか、同じ生体であるか否かを判定することができる。
【0111】
また、推定装置10Aの各アンテナ素子が取得する受信信号にDCバイアスがかかっており、このDCバイアスは、推定装置10Aの個体差及び生体50の微妙な位置の違いによる影響を受けやすく、推定率に影響を与える。このため、本実施の形態に係る推定装置10Aは、DC成分を除去した受信信号を用いて複数の相関係数を算出する。これにより、推定率を改善することができる。
【0112】
以上のように、本実施の形態に係る推定装置10Aによれば、第一生体の周囲に設置した受信アンテナ素子から得た測定信号である第一受信信号と教師信号とから、固有値ごとに第一ベクトルを算出し、使用値数を選択して、複数の相関係数を算出することができる。これにより生体とアンテナが比較的距離があり、生体成分のS/N比が悪い条件下でも生体の向き推定および、個人識別を可能にできる。
【0113】
そして、複数の相関係数のうちの最大値が閾値を上回ったかに応じて、第一生体と教師データに含まれる第二生体とが同じ方向を向いているか、または、同じ方向を向いた同一人物であることを推定することで生体認証を行うことができる。
【0114】
また、本実施の形態に係る推定装置10Aでは、第一ベクトルのDC成分を所定の方法で除去した上で、相関係数を算出する。これにより、受信信号から、生体推定に不要なノイズ成分であるDC成分を抑制することができるので、生体推定を短時間で効率よく行うことができる。
【0115】
また、本実施の形態に係る推定装置10Aは、マイクロ波などの無線信号を用いて、ヒト等の生体50を推定することができる。つまり、本実施の形態に係る推定装置10Aは、カメラ等で撮像した画像に対して画像解析することなくヒト等の生体50を推定できる。したがって、ヒトのプライバシーを保護した状態で、ヒトの推定を行うことができる。
【0116】
なお、上記実施の形態において、各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUまたはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。ここで、上記実施の形態の推定装置などを実現するソフトウェアは、次のようなプログラムである。
【0117】
すなわち、このプログラムは、コンピュータに、生体を識別、または、生体の方向を推定する推定装置が実行する推定方法であって、前記推定装置は、第一生体を含む所定範囲に第一送信信号を送信するM個(Mは1以上の整数)の送信アンテナ素子と、前記第一生体によって前記第一送信信号が反射された第一受信信号を所定期間受信する受信アンテナ素子を有し、前記所定範囲の周囲を囲んで配置されるN個(Nは3以上の整数)の受信部と、M個の前記送信アンテナ素子より送信された第二送信信号が第二生体によって反射された第二受信信号をN個の前記受信部に予め受信させることにより得られた(M×N)個の第二受信信号である教師信号を記憶するメモリとを備え、前記推定方法は、前記教師信号と、N個の前記受信部のそれぞれが前記第一受信信号を受信することにより得られた(M×N)個の第一受信信号について、それぞれ所定の方法で第一ベクトルをそれぞれ算出する第一ベクトル算出部と、前記第一ベクトルから複数の相関係数を算出し、算出した前記複数の相関係数を用いて、所定の方法で前記第一生体を識別、または、前記第一生体の方向を推定する推定部と、を含む推定方法を実行させるプログラムである。
【0118】
以上、一つまたは複数の態様に係る推定装置などについて、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本開示は、無線信号を利用して生体を推定する推定装置及び推定方法に利用でき、特に、生体に応じた制御を行う家電機器、生体の侵入を検知する監視装置などに搭載される推定装置及び推定方法に利用できる。
【符号の説明】
【0120】
10A 推定装置
30A~30H 送受信部
31A~31H アンテナ素子
40 回路
41 メモリ
42 教師信号
50 生体
50a 被験者
410 第一ベクトル算出部
411 DC除去部
412 推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11