(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】ハロゲン化物固体電解質材料およびこれを用いた電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20240823BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240823BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20240823BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020549981
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2019029126
(87)【国際公開番号】W WO2020070958
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018186928
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】酒井 章裕
(72)【発明者】
【氏名】浅野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】境田 真志
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃暢
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107665(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025582(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/141735(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03327837(EP,A1)
【文献】特開2011-129312(JP,A)
【文献】特開2006-244734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
C01G 25/00
C01G 29/00
C01G 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式(I)により表され、
Li
6-(4+a)b(Zr
1-aM
a)
bX
6 (I)
ここで、
Mは、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、
Xは、
Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン元素であり、
以下の数式
0<a<1、かつ
0<b<1.5
が充足される、
ハロゲン化物固体電解質材料(ただし、22℃でのイオン伝導度が
10
-5
S/cm未満のハロゲン化物固体電解質材料は除く)。
【請求項2】
請求項1に記載のハロゲン化物固体電解質材料であって、
以下の数式
0.05≦a≦0.7
が充足される、
ハロゲン化物固体電解質材料。
【請求項3】
請求項2に記載のハロゲン化物固体電解質材料であって、
以下の数式
0.05≦a≦0.4
が充足される、
ハロゲン化物固体電解質材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のハロゲン化物固体電解質材料であって、
以下の数式
0.5≦b≦1.3
が充足される、
ハロゲン化物固体電解質材料。
【請求項5】
請求項4に記載のハロゲン化物固体電解質材料であって、
以下の数式
0.8≦b≦1.1
が充足される、
ハロゲン化物固体電解質材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のハロゲン化物固体電解質材料であって、
以下の化学式(II)により表され、
Li
6-(4+a)b(Zr
1-aM
a)
bCl
6-x-yBr
xI
y (II)
ここで、以下の数式、
0≦x≦6、
0≦y≦6、および
(x+y)≦6
が充足される、
ハロゲン化物固体電解質材料。
【請求項7】
請求項6に記載のハロゲン化物固体電解質材料であって、
以下の数式
(x+y)<6
が充足される、
ハロゲン化物固体電解質材料。
【請求項8】
電池であって、
正極、
負極、および
前記正極および前記負極の間に設けられている電解質層、
を備え、
前記正極、前記負極、および前記電解質層からなる群から選択される少なくとも1つは、請求項1~7のいずれか1項に記載のハロゲン化物固体電解質材料を含有する、
電池。
【請求項9】
以下の化学式(I)により表され、
Li
6-(4+a)b(Zr
1-aM
a)
bX
6 (I)
ここで、
Mは、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、
Xは、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン元素であり、
以下の数式
0.05≦a≦0.7、かつ
0.5≦b≦1.3
が充足される、
ハロゲン化物固体電解質材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハロゲン化物固体電解質材料およびこれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、硫化物固体電解質を用いた全固体電池を開示している。特許文献2は、インジウムを含むハロゲン化物を固体電解質として用いた全固体電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-129312号公報
【文献】特開2006-244734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、高いリチウムイオン伝導性を有する固体電解質材料および当該ハロゲン化物固体電解質材料が用いられた電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によるハロゲン化物固体電解質材料は、
以下の化学式(I)により表され、
Li6-(4+a)b(Zr1-aMa)bX6 (I)
ここで、
Mは、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、
Xは、ハロゲン元素であり、
以下の数式
0<a<1、かつ
0<b<1.5
が充足される。
【0006】
本開示による電池は、正極と、負極と、前記正極および前記負極との間に設けられている電解質層を備え、かつ前記正極、前記負極、および前記電解質層からなる群から選択される少なくとも1つは、上記固体電解質材料を含有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、高いリチウムイオン伝導性を有する固体電解質材料および当該固体電解質材料が用いられた電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第2実施形態による電池1000の断面図を示す。
【
図2】
図2は、ハロゲン化物固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられる加圧成形ダイス300の模式図を示す。
【
図3】
図3は、実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料のインピーダンス測定結果のCole-Cole線図のグラフを示す。
【
図4】
図4は、実施例1による電池の初期放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら説明される。
(第1実施形態)
第1実施形態に係るハロゲン化物固体電解質材料は、
以下の化学式(I)により表され、
Li6-(4+a)b(Zr1-aMa)bX6 (I)
ここで、
Mは、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、
Xは、ハロゲン元素であり、
以下の数式
0<a<1、かつ
0<b<1.5
が充足される。
第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料は、高いリチウムイオン伝導性を有する。
【0010】
化学式(I)において、Liのモル分率αは、(6-(4+a)b)に等しい。Zrのモル分率βは、(1-a)bに等しい。Mのモル分率γは、abに等しい。固体電解質材料の実際の分析において、α、β、およびγの値は、およそ5%以下(望ましくは、およそ3%以下)の誤差を有してもよい。当該誤差が含まれていても、化学式(I)が充足されていると見做される。
【0011】
言い換えれば、以下の3つの数式が充足されてもよい。
0.95≦A/α≦1.05、
0.95≦B/β≦1.05、および
0.95≦C/γ≦1.05
ここで、
A、B、およびCは、それぞれ、原子吸光分析法または誘導結合プラズマ発光分析法(以下、「ICP-AES法」という)のような分析法によってハロゲン化物固体電解質材料を実際に分析することによって得られるLi、Zr、およびMのモル分率である。
【0012】
望ましくは、以下3つの数式が充足される。
0.97≦A/α≦1.03、
0.97≦B/β≦1.03、および
0.97≦C/γ≦1.03.
【0013】
換言すれば、第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料は、Li2ZrX6で示されるハロゲン化金属複合化合物であって、LiまたはZrの一部がMで置換されたハロゲン化金属複合化合物である。
【0014】
ハロゲン化物固体電解質材料のリチウムイオン伝導性を高めるために、数式:0.01≦a≦0.7が充足されてもよい。望ましくは、数式:0.01≦a≦0.4が充足されてもよい。
【0015】
ハロゲン化物固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をさらに高めるために、数式:0.5≦b≦1.3が充足されてもよい。望ましくは、数式:0.8≦b≦1.1が充足されてもよい。
【0016】
MはTaでもよい。MはNbでもよい。MはTaおよびNbの組み合わせでもよい。
【0017】
一例として、第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料は、化学式(II):Li6-(4+a)b(Zr1-aMa)bCl6-x-yBrxIy(ここで、0≦x≦6、0≦y≦6、かつ(x+y)≦6)により表される。このようなハロゲン化物固体電解質材料は、高いリチウムイオン伝導性を有する。
【0018】
ハロゲン化物固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をさらに高めるために、数式:(x+y)<6が充足されてもよい。
【0019】
ハロゲン化物固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をさらに高めるために、数式:(x+y)≦1.2が充足されてもよい。すなわち、化学式(I)において、Xの80原子%以上は、Clで占められてもよい。ハロゲン化物固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をさらに高めるために、数式:x=y=0が充足されてもよい。すなわち、化学式(I)において、Xの全体がClであってもよい。
【0020】
第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料を用いて、充放電特性に優れた全固体電池が得られる。全固体電池は、一次電池でもよく、二次電池でもよい。第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料を用いることで、硫黄を含有しない全固体電池が得られる。第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料が大気に曝露されても、硫化水素は発生しないので、第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料が用いられた全固体電池は安全性に優れている。特許文献1に開示された硫化物固体電解質が大気中に曝露されると、硫化水素が発生し得ることに留意せよ。
【0021】
第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料は、結晶質であっても、非晶質であってもよい。
【0022】
第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料の形状は、限定されない。当該形状の例は、針状、球状、または楕円球状である。第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料は、粒子であってもよい。第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料は、ペレットまたは板の形状を有するように形成されてもよい。
【0023】
一例として、第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料が粒子状(例えば、球状)である場合、第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料は、0.1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下のメジアン径を有していてもよい。メジアン径とは、体積基準の粒度分布における累積体積が50%に等しい場合の粒径を意味する。体積基準の粒度分布は、レーザ回折式測定装置または画像解析装置により測定され得る。
【0024】
第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をさらに高め、かつ第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料および後述される活物質を良好に分散させるために、メジアン径は0.5マイクロメートル以上10マイクロメートル以下であってもよい。
【0025】
第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料および活物質をさらに良好に分散させるために、第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料は、活物質よりも小さいメジアン径を有していてもよい。
【0026】
<ハロゲン化物固体電解質材料の製造方法>
第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料は、下記の方法により製造され得る。
【0027】
まず、目的の組成を有するように、2種類以上のハロゲン化物の原料粉が混合される。このようにして、混合物を得る。
【0028】
一例として、目的とされる組成がLi1.9Zr0.9Ta0.1Cl6である場合、LiCl原料粉、ZrCl4原料粉、TaCl5原料粉が、およそ1.9:0.9:0.1のLiCl:ZrCl4:TaCl5モル比で混合される。
【0029】
次の段落において説明される合成プロセスにおいて生じ得る組成変化を相殺するように予め調整されたモル比で原料粉は混合されてもよい。
【0030】
上記混合物に含有される原料粉を遊星型ボールミルのような混合装置内でメカノケミカル的に(すなわち、メカノケミカルミリング処理の方法により)互いに反応させ、反応物を得る。反応物は、真空中または不活性雰囲気中で焼成されてもよい。あるいは、混合物を真空中もしくは不活性雰囲気中で焼成し、反応物を得てもよい。
【0031】
焼成は、摂氏100度~摂氏400度の温度で1時間以上、行ってもよい。焼成によって生じる組成変化を抑えるために、反応物または混合物は、石英管のような密閉容器に封入され、次いで焼成されてもよい。これにより、所望のハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0032】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態が説明される。第1実施形態において説明された事項は、省略され得る。
【0033】
第2実施形態では、第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質が用いられた電気化学デバイスが説明される。
【0034】
第2実施形態による電気化学デバイスの一例として、以下、電池が説明される。第2実施形態による電池は、正極、負極、および電解質層を具備する。電解質層は、正極および負極の間に設けられる。正極、電解質層、および負極からなる群から選択される少なくとも1つは、第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料を含有する。第2実施形態による電池は、優れた充放電特性を有する。当該電池は、全固体電池であってもよい。
【0035】
図1は、第2実施形態による電池1000の断面図を示す。電池1000は、正極201、電解質層202、および負極203を具備する。正極201は、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100を含有する。電解質層202は、正極201および負極203の間に設けられている。電解質層202は、電解質材料(例えば、ハロゲン化物固体電解質材料)を含有する。負極203は、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100を含有する。
【0036】
固体電解質粒子100は、ハロゲン化物固体電解質材料からなる粒子、または、ハロゲン化物固体電解質材料を主たる成分として含有する粒子である。
【0037】
正極201は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵および放出可能な正極活物質粒子204を含有する。
【0038】
正極活物質の例は、リチウム含有遷移金属酸化物(例えば、LiNi1-d-fCodAlfO2(ここで、0<d、0<f、かつ0<(d+f)<1)またはLiCoO2)、遷移金属フッ化物、ポリアニオン材料、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシフッ化物、遷移金属オキシ硫化物、または遷移金属オキシ窒化物である。
【0039】
正極201において正極活物質粒子204および固体電解質粒子100の良好な分散状態を形成するために、正極活物質粒子204は、0.1マイクロメートル以上のメジアン径を有することが望ましい。当該良好な分散状態により、電池1000の充放電特性が向上する。正極活物質粒子204内でリチウムを速やかに拡散させるために、正極活物質粒子204は、100マイクロメートル以下のメジアン径を有することが望ましい。リチウムの速やかな拡散のため、電池1000は高い出力で動作できる。上記の通り、正極活物質粒子204は、0.1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下のメジアン径を有していてもよい。
【0040】
正極活物質粒子204および固体電解質粒子100の良好な分散状態を容易に形成するために、正極活物質粒子204は、固体電解質粒子100よりも大きいメジアン径を有していてもよい。
【0041】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、正極201において、正極活物質粒子204の体積Vca1および固体電解質粒子100の体積Vce1の合計に対する、正極活物質粒子204の体積Vca1の比は、0.3以上0.95以下であってもよい。すなわち、(Vca1)/(Vca1+Vce1))の比は、0.3以上0.95以下であってもよい。
【0042】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、正極201は、10マイクロメートル以上500マイクロメートル以下の厚みを有していてもよい。
【0043】
電解質層202は、電解質材料を含有する。電解質材料は、第1実施形態におけるハロゲン化物固体電解質材料であってもよい。電解質層202は、固体電解質層であってもよい。一般的に、電解質層202は、リチウムイオン伝導性を有するが、電子伝導性は有さない。
【0044】
電解質層202は、第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料のみから構成されていてもよい。もしくは、電解質層202は、第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料とは異なる固体電解質材料のみから構成されていてもよい。
【0045】
第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料とは異なる固体電解質材料の例は、Li2MgX4、Li2FeX4、Li(Al,Ga,In)X4、Li3(Al,Ga,In)X6、またはLiXである。Xは、ハロゲン元素(すなわち、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種の元素)である。
【0046】
以下、第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料は、第1固体電解質材料と呼ばれる。第1実施形態によるハロゲン化物固体電解質材料とは異なる固体電解質材料は、第2固体電解質材料と呼ばれる。
【0047】
電解質層202は、第1固体電解質材料だけでなく、第2固体電解質材料をも含有していてもよい。電解質層202において、第1固体電解質材料および第2固体電解質材料は、均一に分散していてもよい。第1固体電解質材料から形成される層および第2固体電解質材料から形成される層が、電池1000の積層方向に沿って積層されていてもよい。
【0048】
正極201および負極203の間の短絡の抑制および電池の高い出力の観点から、固体電解質層は、1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下の厚みを有していてもよい。
【0049】
負極203は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵および放出可能な負極活物質粒子205を含有する。
【0050】
負極活物質の例は、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、または珪素化合物である。金属材料は、単体の金属であってもよく、合金であってもよい。金属材料の例は、リチウム金属またはリチウム合金である。炭素材料の例は、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、または非晶質炭素である。容量密度の観点から、負極活物質の好適な例は、珪素(すなわち、Si)、錫(すなわち、Sn)、珪素化合物、または錫化合物である。
【0051】
負極203において負極活物質粒子205および固体電解質粒子100の良好な分散状態を形成するために、負極活物質粒子205は、0.1マイクロメートル以上のメジアン径を有していてもよい。当該良好な分散状態により、電池の充放電特性が向上する。負極活物質粒子205内でリチウムを速やかに拡散させるために、負極活物質粒子205は、100マイクロメートル以下のメジアン径を有していてもよい。リチウムの速やかな拡散のため、電池は高い出力で動作する。上記の通り、負極活物質粒子205は、0.1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下のメジアン径を有していてもよい。
【0052】
負極活物質粒子205および固体電解質粒子100の良好な分散状態を容易に形成するために、負極活物質粒子205は、固体電解質粒子100よりも大きいメジアン径を有していてもよい。
【0053】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、負極203において、負極活物質粒子205の体積vaa1および固体電解質粒子100の体積vae1の合計に対する、負極活物質粒子205の体積vaa1の比は、0.3以上0.95以下であってもよい。すなわち、(vaa1)/(vaa1+vae1))の比は、0.3以上0.95以下であってもよい。
【0054】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、負極203は、10マイクロメートル以上500マイクロメートル以下の厚みを有していてもよい。
【0055】
イオン伝導性、化学的安定性、および電気化学的安定性を高める目的で、正極201、電解質層202、および負極203からなる群から選択される少なくとも1つは、第2固体電解質材料を含有していてもよい。
【0056】
上述されたように、第2固体電解質材料は、ハロゲン化物固体電解質であってもよい。ハロゲン化物固体電解質の例は、Li2MgX4、Li2FeX4、Li(Al,Ga,In)X4、Li3(Al,Ga,In)X6、またはLiXである。Xは、ハロゲン元素(すなわち、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種の元素)である。
【0057】
第2固体電解質材料は、硫化物固体電解質であってもよい。
【0058】
硫化物固体電解質の例は、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-B2S3、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.25P0.75S4、またはLi10GeP2S12である。
【0059】
第2固体電解質材料は、酸化物固体電解質であってもよい。
【0060】
酸化物固体電解質の例は、
(i) LiTi2(PO4)3またはその元素置換体のようなNASICON型固体電解質、
(ii) (LaLi)TiO3系のペロブスカイト型固体電解質、
(iii) Li14ZnGe4O16、Li4SiO4、LiGeO4、またはその元素置換体のようなLISICON型固体電解質、
(iv) Li7La3Zr2O12またはその元素置換体のようなガーネット型固体電解質、または
(v) Li3PO4またはそのN置換体
である。
【0061】
第2固体電解質材料は、有機ポリマー固体電解質であってもよい。
【0062】
有機ポリマー固体電解質の例は、高分子化合物およびリチウム塩の化合物である。高分子化合物は、エチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有する高分子化合物は、リチウム塩を多く含有することができるので、イオン導電率をさらに高めることができる。
【0063】
リチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、またはLiC(SO2CF3)3である。これらから選択される1種のリチウム塩が単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。
【0064】
正極201、負極203、および電解質層202からなる群から選ばれる少なくとも1つは、リチウムイオンの授受を容易にし、電池1000の出力特性を向上する目的で、非水電解液、ゲル電解質、又はイオン液体を含有していてもよい。
【0065】
非水電解液は、非水溶媒および当該非水溶媒に溶けたリチウム塩を含む。
【0066】
非水溶媒の例は、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、またはフッ素溶媒である。
【0067】
環状炭酸エステル溶媒の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはブチレンカーボネートである。
【0068】
鎖状炭酸エステル溶媒の例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートである。
【0069】
環状エーテル溶媒の例は、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、または1,3-ジオキソランである。
【0070】
鎖状エーテル溶媒の例は、1,2-ジメトキシエタンまたは1,2-ジエトキシエタンである。
【0071】
環状エステル溶媒の例は、γ-ブチロラクトンである。
【0072】
鎖状エステル溶媒の例、酢酸メチルである。
【0073】
フッ素溶媒の例は、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、またはフルオロジメチレンカーボネートである。
【0074】
これらから選択される1種の非水溶媒が単独で使用されてもよいし、これらから選ばれる2種以上の非水溶媒の混合物が使用されてもよい。
【0075】
リチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、またはLiC(SO2CF3)3である。
【0076】
これらから選ばれる1種のリチウム塩が単独で使用されてもよいし、これらから選ばれる2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。
【0077】
リチウム塩の濃度は、例えば、0.5mol/リットル以上2mol/リットル以下の範囲にある。
【0078】
ゲル電解質として、非水電解液を含浸しているポリマー材料が使用されうる。ポリマー材料の例は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、またはエチレンオキシド結合を有するポリマーである。
【0079】
イオン液体に含まれるカチオンの例は、
(i) テトラアルキルアンモニウムまたはテトラアルキルホスホニウムのような脂肪族鎖状4級塩類、
(ii) ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類またはピペリジニウム類のような脂肪族環状アンモニウム、または
(iii) ピリジニウム類またはイミダゾリウム類のような含窒素ヘテロ環芳香族カチオン
である。
【0080】
イオン液体に含まれるアニオンは、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、AsF6
-、SO3CF3
-、N(SO2CF3)2
-、N(SO2C2F5)2
-、N(SO2CF3)(SO2C4F9)-、またはC(SO2CF3)3
-である。
イオン液体はリチウム塩を含有していてもよい。
【0081】
正極201、負極203、および電解質層202からなる群から選ばれる少なくとも1つには、粒子同士の密着性を向上させる目的で、結着剤が含まれてもよい。
【0082】
結着剤の例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、またはカルボキシメチルセルロースである。
【0083】
共重合体もまた、結着剤として用いられ得る。このような結着剤の例は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、及びヘキサジエンからなる群から選ばれる2種以上の材料の共重合体である。
上記の材料から選ばれる2種以上の混合物を結着剤として使用してもよい。
【0084】
正極201及び負極203から選ばれる少なくとも1つには、電子導電性を高める目的で、導電助剤が含まれていてもよい。
【0085】
導電助剤の例は、
(i) 天然黒鉛または人造黒鉛のようなグラファイト
(ii) アセチレンブラックまたはケッチェンブラックのようなカーボンブラック、
(iii) 炭素繊維または金属繊維のような導電性繊維、
(iv) フッ化カーボン、
(v) アルミニウム粉末のような金属粉末、
(vi) 酸化亜鉛ウィスカーまたはチタン酸カリウムウィスカーのような導電性ウィスカー、
(vii) 酸化チタンのような導電性金属酸化物、または
(viii) ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンのような導電性高分子化合物
である。
【0086】
第2実施形態による電池の形状について、電池は、コイン型電池、円筒型電池、角型電池、シート型電池、ボタン型電池(すなわち、ボタン型セル)、扁平型電池、または積層型電池である。
【0087】
(実施例)
本開示が、以下の実施例を参照しながらより詳細に説明される。
【0088】
(実施例1)
(ハロゲン化物固体電解質材料の調製]
摂氏マイナス90度以下の露点を有するアルゴン雰囲気(以下、乾燥アルゴン雰囲気と称する。)中で、LiCl粉末、ZrCl4粉末、およびTaCl5粉末が、1.9:0.9:0.1のLiCl:ZrCl4:TaCl5モル比を有するように用意された。これらの粉末が、乳鉢で粉砕され、混合された。このようにして、混合物を得た。その後、混合物は、遊星型ボールミルで、25時間、600rpmでメカノケミカル的に反応するようにミリング処理された。このようにして、実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料の粉末が得られた。実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料は、Li1.9Zr0.9Ta0.1Cl6の組成式により表される組成を有していた。すなわち、実施例1においては、aおよびbの値は、それぞれ、0.10および1に等しかった。
【0089】
実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料の単位質量あたりのLi含有量が、原子吸光分析法で測定された。実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料のZr含有量およびTa含有量が、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定された。これらの測定結果から得られたLi:Zr:Taの含有量を元に、Li:Zr:Taのモル比が算出された。その結果、実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料は、1.9:0.9:1.0のLi:Zr:Taの原子比(すなわち、Li:Zr:Taのモル比)を有していた。このように、実施例1では、実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料のLi:Zr:Taのモル比は、混合物に含有されていたLiCl粉末、ZrCl4粉末、およびTaCl5粉末のLi:Zr:Taのモル比と同じであった。
【0090】
(イオン伝導度の評価)
図2は、ハロゲン化物固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられた加圧成形ダイス300の模式図を示す。加圧成形ダイス300は、枠型301、パンチ下部302、およびパンチ上部303を具備していた。枠型301は、絶縁性ポリカーボネートから形成されていた。パンチ上部303およびパンチ下部302は、いずれも、電子伝導性のステンレスから形成されていた。
【0091】
図2に示される加圧成形ダイス300を用いて、下記の方法により、実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料のイオン伝導度が測定された。
【0092】
乾燥アルゴン雰囲気中で、実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料の粉末を加圧成形ダイス300の内部に充填した。
【0093】
加圧成形ダイス300の内部で、実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料に、パンチ上部303を用いて400MPaの圧力が印加された。
【0094】
圧力が印加されたまま、パンチ下部302およびパンチ上部303を介して、ポテンショスタット(Princeton Applied Research社製、商品名「VersaSTAT4」)を用いて、電気化学的インピーダンス測定法により、室温において、実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料のインピーダンスが測定された。
図3は、インピーダンス測定結果のCole-Cole線図のグラフを示す。
【0095】
図3において、複素インピーダンスの位相の絶対値が最も小さい測定点でのインピーダンスの実数値が、ハロゲン化物固体電解質材料のイオン伝導に対する抵抗値と見なされた。当該実数値については、
図3において示される矢印R
SEを参照せよ。当該抵抗値を用いて以下の数式(III)に基づいてイオン伝導度が算出された。
σ=(R
SE×S/t)
-1 ・・・(III)
ここで、
σはイオン伝導度であり、
Sは、固体電解質材料のパンチ上部303との接触面積(
図2において、枠型301の中空部の断面積に等しい)であり、
R
SEは、インピーダンス測定における固体電解質材料の抵抗値であり、かつ
tは、圧力が印加された固体電解質材料の厚み(
図2において、固体電解質粒子100から形成される層の厚みに等しい)である。
【0096】
摂氏22度で測定された実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料のイオン伝導度は、51×10-5S/cmであった。
【0097】
(二次電池の作製)
乾燥アルゴン雰囲気中で、実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料の粉末およびLiCoO2を、30:70の体積比率で用意した。用意されたこれらの材料をメノウ乳鉢で混合することで混合物を得た。LiCoO2は、活物質として機能した。
【0098】
9.5ミリメートルの内径を有する絶縁性の筒の中で、実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料(100ミリグラム)、上記の混合物(9.9ミリグラム)、およびアルミニウム金属粉末(14.7ミリグラム)を、順に積層して、積層体を得た。積層体に300MPaの圧力が印加され、第1電極および固体電解質層が形成された。第1電極はアルミニウムから形成されていた。固体電解質層は、実施例1によるハロゲン化物固体電解質材料の粉末およびLiCoO2から形成されていた。
【0099】
次に、固体電解質層に金属インジウム箔を接触させた。固体電解質層は、金属インジウム箔および第1電極の間に挟まれていた。金属インジウム箔は、200マイクロメートルの厚みを有していた。次に、金属インジウム箔に80MPaの圧力を印加した。このようにして、金属インジウム箔から形成された第2電極が形成された。
【0100】
ステンレス鋼から形成された集電体が第1電極および第2電極に取り付けられ、次いで、当該集電体に集電リードが取り付けられた。最後に、絶縁性フェルールを用いて、絶縁性の筒の内部を外気雰囲気から遮断し、絶縁性の筒の内部を密閉した。このようにして、実施例1による二次電池が得られた。
【0101】
[充放電試験]
得られた二次電池は、摂氏25度に維持された恒温槽に配置された。
【0102】
0.068mA/cm2の電流密度で、3.6ボルトの電圧に達するまで、実施例1による電池を充電した。当該電流密度は、0.05Cレートに相当する。
【0103】
次いで、0.068mA/cm2の電流密度で、1.9ボルトの電圧に達するまで、実施例1による電池を放電した。
【0104】
充放電試験の結果、実施例1による二次電池は、274μAhの初期放電容量を有していた。
図4は、実施例1による二次電池の初期放電特性を示すグラフである。
【0105】
(実施例2~実施例24)
実施例2~実施例24では、LiCl粉末、ZrCl4粉末、およびMCl5粉末が、(6-(4+a)b):(1-a)b:abのLiCl:ZrCl4:MCl5モル比を有するように用意されたこと以外は、実施例1と同様の実験が行われた。Mの元素は、表1に示される。aおよびbの値も、表1に示される。
【0106】
(実施例25)
実施例25では、LiBr粉末、ZrBr4粉末、およびTaBr5粉末が、2.265:0.765:0.135のLiBr:ZrBr4:TaBr5モル比を有するように用意されたこと以外は、実施例1と同様の実験が行われた。
【0107】
(実施例26)
実施例26では、LiBr粉末、ZrCl4粉末、ZrBr4粉末、およびTaCl5粉末が、2.265:0.581:0.184 :0.135のLiBr:ZrCl4:ZrBr4:TaCl5モル比を有するように用意されたこと以外は、実施例1と同様の実験が行われた。
【0108】
(実施例27)
実施例27では、LiBr粉末、ZrCl4粉末、ZrBr4粉末、およびNbCl5粉末が、2.22:0.525:0.195 :0.18のLiBr:ZrCl4:ZrBr4:NbCl5モル比を有するように用意されたこと以外は、実施例1と同様の実験が行われた。
【0109】
(実施例28)
実施例28では、LiI粉末、LiBr粉末、ZrCl4粉末、ZrBr4粉末、およびTaCl5粉末が、2:0.265:0.331:0.434:0.135のLiI:LiBr:ZrCl4:ZrBr4:TaCl5モル比を有するように用意されたこと以外は、実施例1と同様の実験が行われた。
【0110】
(実施例29)
実施例29では、LiI粉末、LiBr粉末、ZrCl4粉末、ZrBr4粉末、およびNbCl5粉末が、2:0.22:0.275:0.445:0.18のLiI:LiBr:ZrCl4:ZrBr4:NbCl5モル比を有するように用意されたこと以外は、実施例1と同様の実験が行われた。
【0111】
実施例2~実施例29によるハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度が、実施例1の場合と同様に測定された。結果は表1に示される。
【0112】
実施例2~実施例29によるハロゲン化物固体電解質を用いて、実施例1の場合と同様に、二次電池を得た。実施例2~実施例29による電池は、実施例1による電池と同様に、良好な充放電特性を有していた。
【0113】
(比較例1)
比較例1では、LiBr粉末およびInBr3粉末が、3:1のLiBr:InBr3モル比を有するように用意された。用意された粉末は、乳鉢中で粉砕し、混合物を得た。得られた混合物に圧力を印加して、ペレットを形成した。ペレットは、真空下でガラス管に封入され、次いで摂氏200度で1週間焼成された。このようにして、比較例1による固体電解質材料を得た。比較例1による固体電解質材料は、Li3InBr6で表される組成を有していた。比較例1による固体電解質材料のイオン伝導度が、実施例1の場合と同様に測定された。その結果、摂氏22度で測定されたイオン伝導度は、1×10-7S/cm未満であった。
【0114】
(比較例2)
比較例2では、LiCl粉末およびFeCl2粉末が、2:1のLiCl:FeCl2モル比を有するように用意された。用意された粉末は、実施例1の場合と同様にメカノケミカル的に混合された。このようにして、比較例2による固体電解質材料が得られた。比較例2による固体電解質材料は、Li2FeCl4で表される組成を有していた。比較例1による固体電解質材料のイオン伝導度が、実施例1の場合と同様に測定された。その結果、摂氏22度で測定されたイオン伝導度は、9×10-6S/cmであった。
【0115】
比較例2による固体電解質材料を用い、実施例1の場合と同様に、二次電池を得た。比較例2による二次電池は充放電試験に供された。比較例2による二次電池は、1μAh以下の初期放電容量を有していた。その結果、比較例2による二次電池は、充電も放電もされなかった。言い換えれば、比較例2による二次電池は、電池として機能しなかった。
【0116】
実施例1~実施例29におけるイオン伝導度の測定結果は、表1に示される。比較例1および比較例2におけるイオン伝導度の測定結果は、表2に示される。
【0117】
【0118】
【0119】
表1~表2から明らかなように、実施例1~実施例29によるハロゲン化物固体電解質は、室温において、1×10-5S/cm以上の高いイオン伝導度を有する。一方、比較例1および比較例2によるハロゲン化物固体電解質は、それぞれ、1×10-7S/cm未満および9×10-6S/cm以下という低いイオン伝導度を有する。
【0120】
数式:0.01≦a≦0.7が充足される場合、イオン伝導度がさらに向上する。
【0121】
実施例1~実施例7によるハロゲン化物固体電解質を互いに比較すると明らかなように、数式:0.01≦a≦0.4(望ましくは0.05≦a≦0.4)が充足される場合、イオン伝導度がさらに高くなる。
【0122】
bの値は、化学量論比からのLi欠損量(すなわち、Liの化学量論比からのずれ)を表す。bの値が0.5以上1.3以下である場合には、イオン伝導度が高い。
【0123】
実施例9~実施例11によるハロゲン化物固体電解質を、実施例8および実施例12によるハロゲン化物固体電解質と比較すると明らかなように、bの値が0.8以上1.1以下である場合には、イオン伝導度がさらに高くなる。このことは、実施例21~実施例23によるハロゲン化物固体電解質を、実施例20および実施例24によるハロゲン化物固体電解質との比較からも支持される。
【0124】
全ての実施例1~実施例29において、室温において電池は充電および放電された。一方、比較例2では、電池は充電も放電もされなかった。
【0125】
実施例1~実施例29によるハロゲン化物固体電解質は、硫黄を含有しないため、硫化水素が発生しない。
【0126】
以上のように、本開示に係るハロゲン化物固体電解質材料は、硫化水素を発生せず、高いリチウムイオン伝導度を有し、かつ良好に充電および放電可能な電池を提供するために適切である。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本開示に係るハロゲン化物固体電解質材料は、電池(例えば、全固体電池)のような電気化学デバイスにおいて利用される。
【符号の説明】
【0128】
100 固体電解質粒子
201 正極
202 電解質層
203 負極
204 正極活物質粒子
205 負極活物質粒子
300 加圧成形用ダイス
301 枠型
302 パンチ下部
303 パンチ上部
1000 電池