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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/052 20060101AFI20240823BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H01G9/052 500
H01G9/00 290D
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021012244
(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公開番号】P2022115591
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 之康
(72)【発明者】
【氏名】大形 徳彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和秀
(72)【発明者】
【氏名】矢野 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】南浦 武史
(72)【発明者】
【氏名】鳳桐 将之
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-213302(JP,A)
【文献】特開2008-244184(JP,A)
【文献】特開2007-088144(JP,A)
【文献】特許第5698882(JP,B2)
【文献】国際公開第2014/203816(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/052
H01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の陽極体と、
前記陽極体に一部が埋設された陽極リードと、
前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備え、
前記陽極体は、第1粒子同士が焼結した複数の第1領域と、第2粒子同士が焼結した複数の第2領域と、を有し、
前記第1粒子の平均粒子径D1は、前記第2粒子の平均粒子径D2よりも小さく、
前記誘電体層を有する前記陽極体の体積基準の細孔径分布は、0.5μm以下の範囲に第1ピークを有し、0.5μmを超える範囲に第2ピークを有し、
前記第1領域および前記第2領域は、前記陽極体内に混在している、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記第1領域は、複数の第1細孔を含み、
前記第2領域は、複数の第2細孔を含み、
前記第1細孔の平均細孔径は、前記第2細孔の平均細孔径よりも小さい、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記第1ピークの高さは、前記第2ピークの高さより大きい、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記第1ピークに対応する細孔径d1と、前記第2ピークに対応する細孔径d2との差が、0.4μm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記細孔径d1は0.5μm以下、前記細孔径d2は0.7μm以上である、請求項4に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記第2ピークを構成する細孔容積は、全細孔容積の18%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
多孔質の陽極体(ただし、前記陽極体が80質量%以上のタングステンを含む場合を除く)と、
前記陽極体に一部が埋設された陽極リードと、
前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備え、
前記陽極体は、第1粒子同士が焼結した複数の第1領域と、第2粒子同士が焼結した複数の第2領域と、を有し、
前記第1粒子の平均粒子径D1は、前記第2粒子の平均粒子径D2よりも小さく、
前記第1領域は、複数の第1細孔を含み、
前記第2領域は、複数の第2細孔を含み、
前記第1細孔の平均細孔径は、前記第2細孔の平均細孔径よりも小さく、
前記第1領域および前記第2領域は、前記陽極体内に混在している、電解コンデンサ。
【請求項8】
前記第1粒子の平均粒子径D1は、1μm以下であり、
前記第2粒子の平均粒子径D2は、3μm以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】
前記第2粒子は、前記第1粒子よりもアスペクト比が大きいフレーク状の粒子である、請求項1~8のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】
前記誘電体層を有する前記陽極体の断面において、前記第1領域と前記第2領域の合計面積に占める前記第2領域の面積の割合は、2%以上、40%以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項11】
平均粒子径D1の第1粒子が凝集した複数の第1二次粒子と、前記平均粒子径D1よりも大きい平均粒子径D2の第2粒子が凝集した複数の第2二次粒子と、を混合して、二次粒子混合物を得る工程と、
前記二次粒子混合物を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結して、前記第1二次粒子内で前記第1粒子同士が焼結した複数の第1領域と、前記第2二次粒子内で前記第2粒子同士が焼結した複数の第2領域と、を有する陽極体を得る工程と、
前記陽極体の表面に誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部を形成する工程と、を備え、
前記誘電体層を形成する前の前記陽極体の体積基準の細孔径分布は、0.5μm以下の範囲に第1ピークを有し、0.5μmを超える範囲に第2ピークを有する、電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
前記第1領域は、複数の第1細孔を含み、
前記第2領域は、複数の第2細孔を含み、
前記第1細孔の平均細孔径は、前記第2細孔の平均細孔径よりも小さい、請求項11に記載の電解コンデンサ。
【請求項13】
前記第1ピークの高さは、前記第2ピークの高さより大きい、請求項11または12に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項14】
前記第1ピークに対応する細孔径d1と、前記第2ピークに対応する細孔径d2との差が、0.4μm以上である、請求項11~13のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項15】
前記第2ピークを構成する細孔容積は、全細孔容積の18%以上である、請求項11~14のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項16】
平均粒子径D1の第1粒子が凝集した複数の第1二次粒子と、前記平均粒子径D1よりも大きい平均粒子径D2の第2粒子が複数の凝集した第2二次粒子と、を混合して、二次粒子混合物(ただし、前記二次粒子混合物が80質量%以上のタングステンを含む場合を除く)を得る工程と、
前記二次粒子混合物を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結して、前記第1二次粒子内で前記第1粒子同士が焼結した複数の第1領域と、前記第2二次粒子内で前記第2粒子同士が焼結した複数の第2領域と、を有する陽極体を得る工程と、
前記陽極体の表面に誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部を形成する工程と、を備え、
前記第1領域は、複数の第1細孔を含み、
前記第2領域は、複数の第2細孔を含み、
前記第1細孔の平均細孔径は、前記第2細孔の平均細孔径よりも小さい、電解コンデンサの製造方法。
【請求項17】
前記二次粒子混合物を得る工程において、前記第1二次粒子と前記第2二次粒子との合計に占める前記第2二次粒子の割合は、5質量%以上、40質量%以下である、請求項11~16のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項18】
前記第2粒子は、前記第1粒子よりもアスペクト比が大きいフレーク状の粒子である、請求項11~17のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項19】
前記第1粒子の平均粒子径D1は、1μm以下であり、
前記第2粒子の平均粒子径D2は、3μm以上である、請求項11~18のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項20】
前記第1二次粒子径の体積基準の粒度分布における最大頻度に対応するピーク粒子径SD1および前記第2二次粒子径の体積基準の粒度分布における最大頻度に対応するピーク粒子径SD2はそれぞれ10μm以上300μm以下であり、
前記SD2は前記SD1に対して10%以上の差を有する、請求項11~19のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、等価直列抵抗(ESR)が小さく、周波数特性に優れている電解コンデンサの開発が進められている。電解コンデンサは、多孔質の陽極体と、陽極体の表面に形成された誘電体層と、誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部とを具備する。
【0003】
陽極体として、金属粒子の成形体の焼結体が用いられる。成形体は、通常、陽極リードを金型の所定位置に配置し、当該金型に金属粒子を投入し、加圧成形することにより製造される。
【0004】
特許文献1は、タンタル粉末組成物の製造方法であって、約1250℃~約1550℃の温度範囲で約5分間~約120分間、フレーク状のタンタル粉末を加熱処理してフレーク状粉末を予備アグロメレートさせ、予備アグロメレートさせたフレーク状タンタル粉末を粒状のタンタル粉末と混合してタンタル粉末組成物を形成し、約1250℃~約1550℃の温度で約5分間~約120分間、該タンタル粉末組成物をアグロメレートさせることを特徴とする方法を提案している。
【0005】
特許文献2は、ニオブまたはタンタルの一次粒子が凝集した凝集粒からなり、水銀圧入法で測定した空孔分布が1~20μmの範囲内にピークを有することを特徴とするニオブまたはタンタル粉末を提案している。また、特許文献2は、ニオブまたはタンタルの一次粒子に、熱分解性または熱昇華性であって、粒状、フィルム状、箔状、フレーク状、繊維状のうちの少なくとも1種の形状を有する空孔形成材を添加し、ついで熱処理して空孔形成材を除去するとともに凝集粒を形成することを特徴とするニオブまたはタンタル粉末の製造方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-149401号公報
【文献】特開2001-345238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、タンタル粉末組成物の取り扱い特性を改良する観点から、予備アグロメレートさせたフレーク状タンタル粉末を粒状のタンタル粉末と混合してタンタル粉末組成物を形成し、1250℃以上の高温でタンタル粉末組成物をアグロメレートさせている。また、フレーク状タンタル粉末が約20~約40重量パーセントから成る組成物が製造されている。この場合、アグロメレートさせたタンタル粉末組成物中に形成される細孔径が大きくなり、十分な容量を得ることが困難である。
【0008】
特許文献2では、焼結体を構成する個々の凝集粒に、大きな空孔を形成して、電解質溶液の浸透性を改良する観点から、空孔分布が1~20μmの範囲内にピークをニオブまたはタンタル粉末を提案している。しかし、大きな空孔は、導電経路を形成しないため、ESRの低減を図ることが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、多孔質の陽極体と、前記陽極体に一部が埋設された陽極リードと、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備え、前記陽極体は、第1粒子同士が焼結した第1領域と、第2粒子同士が焼結した第2領域と、を有し、前記第1粒子の平均粒子径D1は、前記第2粒子の平均粒子径D2よりも小さく、前記誘電体層を有する前記陽極体の体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)は、0.5μm以下の範囲に第1ピークを有し、0.5μmを超える範囲に第2ピークを有する、電解コンデンサに関する。
【0010】
本発明の別の側面は、平均粒子径D1の第1粒子が凝集した第1二次粒子と、前記平均粒子径D1よりも大きい平均粒子径D2の第2粒子が凝集した第2二次粒子と、を混合して、二次粒子混合物を得る工程と、前記二次粒子混合物を成形して成形体を得る工程と、前記成形体を焼結して、前記第1粒子同士が焼結した第1領域と、前記第2粒子同士が焼結した第2領域と、を有する陽極体を得る工程と、前記陽極体の表面に誘電体層を形成する工程と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部を形成する工程と、を備え、前記誘電体層を形成する前の陽極体の体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)は、0.5μm以下の範囲に第1ピークを有し、0.5μmを超える範囲に第2ピークを有する、電解コンデンサの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、良好な容量を有し、ESRの低い電解コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の実施形態に係る電解コンデンサの一例の模式的な断面図である。
図2】比較例1の化成前の陽極体の体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)を示す図である。
図3】実施例1の化成前の陽極体の体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)を示す図である。
図4】実施例2の化成前の陽極体の体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)を示す図である。
図5】実施例3の化成前の陽極体の体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)を示す図である。
図6】実施例2の陽極体の誘電体層を形成する前の走査型電子顕微鏡(SEM)により観察された断面像である。
図7】実施例2の陽極体の体積基準の細孔径分布をd1に対応する対数正規分布A1とd2に対応する対数正規分布A2との和で近似した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。なお、本開示に特徴的な部分以外の構成要素には、公知の電解コンデンサの構成要素を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値Bの範囲」という場合、当該範囲には数値Aおよび数値Bが含まれる。
【0014】
[電解コンデンサ]
本開示に係る電解コンデンサは、多孔質の陽極体と、陽極体に一部が埋設された陽極リードと、陽極体の表面に形成された誘電体層と、誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部とを含むコンデンサ素子を備える。
【0015】
コンデンサ素子は、陽極部と陰極部とに区分される。陽極体と陽極リードは、陽極部を構成する。陰極部の構成に特に限定はなく、公知の陰極部またはそれと同様の構成を有する陰極部であってもよい。
【0016】
電解コンデンサは、コンデンサ素子の陽極部(具体的には陽極リード)に電気的に接続された第1端子と、陰極部と電気的に接続された第2端子とを有してもよい。電解コンデンサは、コンデンサ素子の周囲に配置された外装樹脂を含んでもよい。第1端子および第2端子の一部は、それぞれ外装樹脂の外部に延出される。第2端子は、陰極部との接続面を有する。接続面は、例えば導電性部材を介して陰極部と接続される。
【0017】
コンデンサ素子の形状、サイズなどに特に限定はなく、公知のコンデンサ素子またはそれと同様の構成を有するコンデンサ素子であってもよい。
【0018】
(陽極体)
多孔質の陽極体は、粒子の成形体の焼結体であり、金属で形成されている。陽極体は、材料となる粒子を形成し、成形体を焼結することにより形成される。材料粒子の例には、金属の粒子、合金の粒子、金属化合物の粒子などが含まれる。これらの粒子は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
本実施形態において、陽極体は、第1粒子同士が焼結した第1領域と、第2粒子同士が焼結した第2領域を有する。第1粒子の平均粒子径D1は、第2粒子の平均粒子径D2よりも小さい。相対的に小粒子の焼結体で構成される第1領域は、陽極体に十分に大きな比表面積を付与するために必要であり、比表面積の増大は静電容量の増大に寄与する。一方、相対的に大粒子の焼結体で構成される第2領域は、バルク抵抗が低く、かつ第2領域には相対的に大きな空隙が形成される。このような空隙には、電気を引き出すための陰極部が侵入しやすく、太い導電パスを有する陰極部が形成される。バルク抵抗の低減と太い導電パスとが協働することで、電解コンデンサのESRが低減する。
【0020】
ここで、陽極体の体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)は、0.5μm以下の範囲に第1ピークを有し、0.5μmを超える範囲に第2ピークを有する。第1ピークは、主に第1領域に由来するピークである。第2ピークは、主に第2領域に由来するピークである。十分に大きい静電容量を確保する観点からは、第1ピークが十分に大きいことが望ましい。一方、第2ピークの存在は、ESRの低減に有利な第2領域が陽極体の内部に十分に形成されていることを意味する。十分に小さいESRを達成する観点から、第2ピークが十分に大きいことが望ましい。
【0021】
誘電体層を有する陽極体の体積基準の細孔径分布は、誘電体層を形成する前の陽極体の体積基準の細孔径分布よりも、細孔径が小さくなる方向にシフトする。ただし、誘電体層の厚さがnmオーダーであることから、シフト量は僅かである。よって、誘電体層を形成する前と後で、陽極体の体積基準の細孔径分布が大きく変化することはない。よって、誘電体層を有する陽極体の体積基準の細孔径分布が0.5μm以下の範囲に第1ピークを有し、かつ0.5μmを超える範囲に第2ピークを有する場合、誘電体層を形成する前の陽極体の体積基準の細孔径分布も0.5μm以下の範囲に第1ピークを有し、かつ0.5μmを超える範囲に第2ピークを有する。逆に、誘電体層を形成する前の陽極体の体積基準の細孔径分布が0.5μm以下の範囲に第1ピークを有し、かつ0.5μmを超える範囲に第2ピークを有する場合、誘電体層を有する陽極体の体積基準の細孔径分布も0.5μm以下の範囲に第1ピークを有し、かつ0.5μmを超える範囲に第2ピークを有する。
【0022】
十分に大きい静電容量を確保する観点から、第1ピークの高さは、第2ピークの高さより大きいことが望ましい。第1ピークの高さが、第2ピークの高さに対して十分に大きいことで、十分に大きい静電容量を確保しつつ、十分に小さいESRを達成することが可能となる。第1ピークの高さは、例えば、第2ピークの高さの1.5倍以上であってもよく、1.8倍以上であってもよい。
【0023】
第1粒子の平均粒子径D1は、例えば、1μm以下であってもよく、0.3μm以下であってもよい。また、第2粒子の平均粒子径D2は、例えば3μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。このような第1粒子と第2粒子とを用いることで、0.5μm以下の範囲にシャープな第1ピークを有し、かつ0.5μmを超える範囲に明確な第2ピークを有する体積基準の細孔径分布を有する陽極体を得やすくなる。
【0024】
第1粒子の平均粒子径D1および第2粒子の平均粒子径D2は、例えば、以下の方法で求めることができる。まず、誘電体層を形成する前または形成後の陽極体の断面を形成し、断面を研磨とクロスポリッシャにより処理する。その後、処理された断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、陽極体の断面像を撮影する。画像解析式の粒度分布測定ソフトウェア(例えば、MAC-View(株式会社マウンテック))を用いて断面像を分析し、それぞれ100個の第1粒子および第2粒子の輪郭を特定し、輪郭で囲まれた面積と同じ面積の相当円の粒子径を求める。100個の第1粒子の相当円の粒子径の平均値が平均粒子径D1であり、100個の第2粒子の相当円の粒子径の平均値が平均粒子径D2である。
【0025】
誘電体層を形成する前または形成後の陽極体の体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)は、必要に応じて陽極体から陰極部を分離して、例えば、水銀圧入式ポロシメータ(例えば、Micromeritics社のAutoPore V)。陽極体から陰極部を分離する方法は、特に限定されないが、例えば、陰極部の固体電解質層は、発煙硝酸を用いることで陽極体から除去することができる。
【0026】
誘電体層を有する陽極体から陰極部を分離できない場合には、平均粒子径の測定に準じて体積基準の細孔径分布を求めることができる。すなわち、誘電体層を有する陽極体の処理された断面像を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影し、断面像を画像解析式の粒度分布測定ソフトウェアを用いて分析し、誘電体層を有する陽極体と、それ以外の領域(以下、領域Rと称する。))を区別する。領域Rは、陰極部が形成される前に空隙が占める領域である。よって、領域Rは誘電体層を有する陽極体の細孔に相当する。次に、領域R(すなわち、細孔)を粒子に見立てて細孔の輪郭を特定し、輪郭で囲まれた面積と同じ面積の相当円を細孔径として求める。測定された全ての細孔径の分布を求め、Log微分細孔容積を算出する。なお、分析する断面像の面積は1視野あたり0.01mm2以上とする。複数の視野(例えば5視野)で同様の測定を行い、得られた全ての細孔径の分布を求めてもよい。
【0027】
陽極体の体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)において、0.5μm以下の第1ピークに対応する細孔径d1と、0.5μmを超える第2ピークに対応する細孔径d2との差は、例えば、0.4μm以上であってもよく、例えば0.45μm以上、更には0.5μm以上であってもよい。
【0028】
細孔径d1およびd2は、体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)の測定結果を2つの対数正規分布の和に近似して求めてもよい。体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)の測定結果を、第1ピークに対応する対数正規分布A1(d1に対応する対数正規分布とも称する。)と、第2ピークに対応する対数正規分布A2(d2に対応する対数正規分布とも称する。)との和で近似すると、近似式は、B((1-P2)A1+P2A2)となる。ここで、Bは定数、P2は全細孔容積に対する第2ピークを構成する細孔容積の割合である。第1ピークに対応する正規分布として算出される細孔径の対数とLog微分細孔容積との関係が対数正規分布A1である。対数正規分布A1の平均値は、logd1、標準偏差はσ1で表される。第2ピークに対応する正規分布として算出される細孔径の対数とLog微分細孔容積との関係が対数正規分布A2である。対数正規分布A2の平均値は、logd2、標準偏差はσ2で表される。近似式:B((1-P2)A1+P2A2)から、全細孔容積に対する第2ピークを構成する細孔容積の割合P2が算出される。
【0029】
第2ピークを構成する細孔容積の割合は、例えば、全細孔容積の18%以上であってもよく、20%以上、更には25%以上であってもよい。
【0030】
細孔径d1と細孔径d2とが0.4μm以上離れていることは、陽極体内に異なる機能を有するパスが複数形成され得ることを意味する。細孔径d2が大きいほど、第2領域内で陰極部が形成する導電パスは太くなりやすいため、ESRの低減に有利である。ただし、第2領域は、比表面積が相対的に小さいため、静電容量を稼ぐことができない。換言すれば、電解コンデンサの静電容量は、主に第1領域の構造により支配される。細孔径d1が小さいほど、第1領域の比表面積が大きく、静電容量が増大する。第1領域内で陰極部が形成する微細な導電パスは、第2領域内の太い導電パスに繋がる支流として機能する。その結果、全体として集電性に優れた導電経路が形成される。
【0031】
細孔径d1と細孔径d2との差を0.4μm以上とする観点から、細孔径d1およびd2を、それぞれ、0.5μm以下および0.7μm以上としてもよく、0.5μm以下および0.8μm以上としてもよく、0.45μm以下および0.8μm以上としてもよい。
【0032】
第2粒子は、第1粒子よりもアスペクト比が大きいフレーク状の粒子であってもよい。フレーク状の粒子とは、長径、短径および厚さの3つのパラメータを有する形状をいう。長径とは、第2粒子の最大径である。短径とは、長径に垂直な方向の最大径である。厚さとは、長径および短径に垂直な方向の長さであり、短径よりも短い。厚さは、長径を二等分する第2粒子の中央において測定する。
【0033】
第2粒子のアスペクト比は、第2粒子の厚さに対する長径の比をいう。第2粒子のアスペクト比は、例えば、5以上であり、8以上でもよく、10以上でもよい。第2粒子のアスペクト比の上限は、例えば100であるが、これに限定されるものではない。
【0034】
第2粒子のアスペクト比は、陽極体の第2粒子の厚さを観察できる断面で測定できる。具体的には、まず第2粒子の厚さ方向と平行になるように陽極体の断面を形成する。この断面で観察できる最大径を長径として測定する。第2粒子のアスペクト比は、任意に選択される十分な数(例えば30個以上)の第2粒子について測定し、平均値を算出する。
【0035】
陽極体の第2粒子の厚さを観察できる断面において、第1粒子のアスペクト比を求めてもよい。第1粒子のアスペクト比は、第1粒子の短径に対する長径の比をいう。長径は、第1粒子の最大径である。短径は、長径に垂直な方向の最大径である。第1粒子のアスペクト比は、任意に選択される十分な数(例えば30個以上)の第1粒子について測定し、平均値を算出する。
【0036】
誘電体層を有する陽極体にそれぞれ十分な高さの第1ピークと第2ピークを持たせ、高い静電容量と低いESRとを達成するには、第1領域と第2領域とをバランスよく形成することが望まれる。具体的には、陽極体の断面において、第1領域と第2領域の合計面積に占める第2領域の面積の割合は、例えば、2%以上、40%以下であり、5%以上、30%以下であってもよい。
【0037】
第1領域と第2領域の合計面積に占める第2領域の面積の割合は、例えば、以下の方法で求めることができる。まず、陽極体の断面を互いに直交する3つの平面で形成し、各断面を研磨とクロスポリッシャにより処理する。その後、処理された断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、陽極体の断面像を撮影する。断面像を画像処理し、第2領域の輪郭を特定し、輪郭で囲まれた面積を求める。第2領域の輪郭は、各第2領域の最も外側に位置する第2粒子の外縁を繋げることで得られる。輪郭内に含まれる空隙の面積も第2領域の面積に含める。観察視野の面積に占める第2領域の面積の割合が、第1領域と第2領域に占める第2領域の割合である。測定する観察視野の数は、各断面において、それぞれ5箇所以上とする。観察視野のサイズは、それぞれ0.01mm2以上とする。全ての観察視野で得られた第2領域の面積の割合の平均値を求める。
【0038】
陽極体(すなわち焼結体)を形成する金属としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)などの弁作用金属が用いられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、TaおよびNbの少なくとも一方を用いることが望ましい。
【0039】
(陽極リード)
陽極リードは、金属で形成されている。陽極リードの一部は陽極体に埋設され、残部は陽極体から突き出している。すなわち、陽極リードは、陽極体に埋設された埋設部と陽極体の外部へ突出する突出部とを有する。
【0040】
(誘電体層)
陽極体の表面に形成される誘電体層に特に限定はなく、公知の方法で形成してもよい。例えば、誘電体層は、陽極体に化成処理を施し、陽極体の表面に酸化被膜を成長させることにより形成される。化成処理は、化成液中に陽極体を浸漬して陽極体の表面を陽極酸化することによって施してもよい。あるいは、原子層体積法(ALD法)のような気相法を利用してもよいし、酸素を含む雰囲気下で陽極体を加熱して陽極体の表面を酸化してもよい。
【0041】
(陰極部)
陰極部は、例えば固体電解質層を有する。陰極部は、固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極層を含んでもよい。なお、固体電解質でなく、電解液を有する電解質であってもよい。
【0042】
固体電解質層に特に限定はなく、公知の電解コンデンサに用いられている固体電解質を適用してもよい。固体電解質層は、2層以上の異なる固体電解質層の積層体であってもよい。固体電解質層は、誘電体層の少なくとも一部を覆うように配置される。固体電解質層は、マンガン化合物や導電性高分子を用いて形成してもよい。
【0043】
導電性高分子は、π共役系高分子であってもよく、導電性高分子の例には、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、およびこれらの誘導体などが含まれる。これらは、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、導電性高分子は、2種以上のモノマーの共重合体でもよい。なお、導電性高分子の誘導体とは、導電性高分子を基本骨格とする高分子を意味する。例えば、ポリチオフェンの誘導体の例には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが含まれる。
【0044】
導電性高分子にはドーパントが添加されていることが好ましい。ドーパントは、導電性高分子に応じて選択でき、公知のドーパントを用いてもよい。ドーパントの例には、ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、およびこれらの塩などが含まれる。固体電解質層の一例は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を用いて形成される。
【0045】
導電性高分子を含む固体電解質層は、誘電体層にモノマーやオリゴマーを含浸させ、その後、化学重合や電解重合によりモノマーやオリゴマーを重合させる方法、あるいは、誘電体層が形成された陽極体に、導電性高分子(および必要に応じてドーパント)の溶液または分散液を含浸し、乾燥させることにより、誘電体層の少なくとも一部に形成される。
【0046】
陰極層は、固体電解質層上に形成された導電層であってもよく、例えば、固体電解質層を覆うように形成された導電層であってもよい。陰極層は、固体電解質層上に形成されたカーボン層と、カーボン層上に形成された金属ペースト層とを含んでもよい。カーボン層は、黒鉛等の導電性炭素材料と樹脂とによって形成されてもよい。金属ペースト層は、金属粒子(例えば銀粒子)と樹脂とによって形成されてもよく、例えば公知の銀ペーストによって形成されてもよい。
【0047】
[電解コンデンサの製造方法]
まず、陽極体の製造方法について説明する。
陽極体は、二次粒子混合物の成形体の焼結体である。二次粒子混合物とは、第1粒子が凝集した第1二次粒子と、第2粒子が凝集した第2二次粒子との混合物である。第1二次粒子は、第1粒子を加熱してアグロメレートさせることで得られる。第2二次粒子は、第2粒子を加熱してアグロメレートさせることで得られる。すなわち、第1粒子および第2粒子はそれぞれが予めアグロメレートされた状態で混合される。
【0048】
仮に、第1粒子および第2粒子をいずれも凝集させずに一次粒子の状態で混合する場合、両者が均一に混合されるため、陽極体の体積基準の細孔径分布に第1ピークと第2ピークを持たせることは困難である。また、少なくとも第2粒子を予め凝集させない場合、陽極体に第2粒子同士が焼結した第2領域を持たせることはできない。よって、バルク抵抗の低減と太い導電パスを有する陰極部とを形成することができず、電解コンデンサのESRを十分に低減することは困難である。また、第2粒子だけを予め凝集させ、第1粒子を凝集させない場合、第2二次粒子内に形成される相対的に大きな空隙もしくは細孔に第1粒子が侵入してしまい、陽極体の体積基準の細孔径分布に第2ピークを持たせることは困難である。
【0049】
一方、第1粒子および第2粒子がそれぞれ予めアグロメレートされた状態で混合された二次粒子混合物を用いることで、陽極体の体積基準の細孔径分布に第1ピークと第2ピークを持たせることができる。
【0050】
第1二次粒子の体積基準の粒度分布における最大頻度に対応するピーク粒子径SD1および第2二次粒子の体積基準の粒度分布における最大頻度に対応するピーク粒子径SD2はそれぞれ10μm以上、より好ましくは50μm以上である。ピーク粒子径SD1およびSD2をそれぞれ10μm以上とすることで、陽極体の体積基準の細孔径分布に第1ピークと第2ピークを持たせやすくなる。また、ピーク粒子径SD1およびSD2がそれぞれ50μm以上であれば、第1二次粒子および第2二次粒子の混合がより容易である。また、ピーク粒子径SD1およびSD2をそれぞれ300μm以下とすることで、成形時に各二次粒子の移動が容易となり、成形密度にばらつきが生じにくい。
【0051】
第1二次粒子と第2二次粒子をバランスよく混合するとともに、第1領域と第2領域とをバランスよく形成するためには、ピーク粒子径SD2は、ピーク粒子径SD1に対して10%以上、より好ましくは15%以上の差を有することが経験上好ましい。このような差が存在することで二次粒子同士を混合しやすくなる。その理由は明確ではないが、いずれか大きい方の二次粒子が小さい方の二次粒子をほぐす作用を有すると考えられる。
【0052】
ピーク粒子径SD1およびSD2は、例えば、レーザー回折散乱式の粒度分布測定装置で求められる体積基準の粒度分布において、最大頻度となる粒子径である。
【0053】
二次粒子混合物を得る工程において、第1二次粒子と第2二次粒子との合計に占める第2二次粒子の割合は、例えば、5質量%以上、40質量%以下であってもよく、5質量%以上、20質量%以下であってもよく、10質量%以上、20質量%以下であってもよい。第2二次粒子の割合が40質量%以下の場合、第2二次粒子が第1二次粒子に囲まれて熱収縮しやすく、第1二次粒子と第2二次粒子との焼結および第2二次粒子同士の焼結が十分に進行しやすい。
【0054】
次に、二次粒子混合物を所定形状に成形し、成形体を得る。成形体の形状は、陽極体の形状に応じて選択される。陽極体の形状は、特に限定されないが、例えば、対向する一対の主面と、一対の主面とそれぞれ交差する側面とを有する。例えば、二次粒子混合物の中に陽極リードの一部を埋め込み、二次粒子混合物を柱状もしくは直方体の形状に加圧成形する。その後、得られた成形体を焼結することによって、陽極リードの一部が埋設された陽極体を形成する。
【0055】
次に、成形体を焼結することで、第1粒子同士が焼結した第1領域と、第2粒子同士が焼結した第2領域とを有する陽極体を得ることができる。
【0056】
次に、陽極体に化成などを施すことで、陽極体の表面に誘電体層が形成される。その後、誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部が形成される。
【0057】
次に、図面を参照しながら更に具体的に説明するが、以下の例は本発明を限定するものではない。以下で示す図は模式的なものであり、実際の部材の形状、寸法、数などを正確に反映するものではない。
【0058】
図1は、本開示の実施形態に係る電解コンデンサの一例の模式的な断面図である。電解コンデンサ20は、陽極部6および陰極部7を有するコンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を封止する外装樹脂11と、陽極部6と電気的に接続し、かつ、外装樹脂11から一部が露出する第1端子13と、陰極部7と電気的に接続し、かつ、外装樹脂11から一部が露出する第2端子14とを備えている。陽極部6は、陽極体1と陽極リード2とを有する。第1端子13は、陽極リード2に接合される。外装樹脂11の内部に配置される第2端子14の接続面14aは、導電性部材8を介して、陰極層5に接合されている。
【0059】
陽極体1の表面には誘電体層3が形成されている。陰極部7は、誘電体層3の少なくとも一部を覆う固体電解質層4と、固体電解質層4の表面を覆う陰極層5とを有する。陰極層5は、固体電解質層4を覆うように形成されたカーボン層と、カーボン層の表面に形成された金属ペースト層とを有している。カーボン層は、黒鉛等の導電性炭素材料と樹脂を含む。金属ペースト層は、例えば、金属粒子(例えば、銀)と樹脂とを含む。なお、陰極層5の構成は、この構成に限定されない。陰極層5の構成は、集電機能を有する構成であればよい。
【0060】
外装樹脂は、電解コンデンサの表面にコンデンサ素子が露出しないように、コンデンサ素子の周囲に配置される。さらに、外装樹脂は、第1端子と第2端子とを絶縁する。外装樹脂には、電解コンデンサに用いられる公知の外装樹脂を適用してもよい。例えば、外装樹脂は、コンデンサ素子の封止に用いられる絶縁性の樹脂材料を用いて形成してもよい。外装樹脂は、コンデンサ素子を金型に収容し、トランスファー成型法、圧縮成型法等により未硬化の熱硬化性樹脂およびフィラーを金型に導入して硬化させることにより形成してもよい。
【0061】
第1端子は、コンデンサ素子の陽極部(具体的には陽極リード)に電気的に接続された陽極端子である。第1端子の一部は、外装樹脂から露出し、陽極外部端子として使用される。第1端子は、例えば、金属(銅、銅合金など)からなる金属シート(金属板および金属箔を含む)を、公知の金属加工法で加工することによって形成してもよい。
【0062】
第2端子は、コンデンサ素子の陰極部に電気的に接続された陰極端子である。第2端子の一部は、外装樹脂から露出し、陰極外部端子として使用される。第2端子は、例えば、金属(銅、銅合金など)からなる金属シート(金属板および金属箔を含む)を、公知の金属加工法で加工することによって形成してもよい。
【0063】
以下、本発明の実験例および実施例について説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0064】
《実施例1~3、比較例1》
下記の要領で、図1に示すような電解コンデンサ(定格電圧2.5V、静電容量470μF)を100個ずつ作製し、その特性を評価した。
【0065】
(i)コンデンサ素子の作製
(i-i)陽極体の作製
陽極体の材料としてTaを用いた。陽極ワイヤとしてTaワイヤを用いた。Taワイヤの一端を二次粒子混合物に埋め込んで二次粒子混合物を直方体に成形し、その後、成形体を真空中で焼結した。これにより、多孔質なTaの焼結体からなり、Taワイヤの一部が埋設された状態の陽極体(すなわち陽極部)を得た。
【0066】
二次粒子混合物は、平均粒子径D1=0.2μmの第1粒子が凝集した第1二次粒子(平均粒子径SD1=100μm)と、平均粒子径D2=3~5μmの第2粒子が凝集した第2二次粒子(平均粒子径SD2=150μm)との混合物である。二次粒子混合物における第1二次粒子と第2二次粒子の質量割合は、表1のように変化させた。第1粒子のアスペクト比は1~2である。第2粒子はフレーク状であり、そのアスペクト比は1.5~10である。ここで示した凝集させる前の第1および第2粒子の平均粒子径D1およびD2、ならびに第1および第2二次粒子の平均粒子径SD1およびSD2は、いずれもレーザー回折散乱式の粒度分布測定装置で求められる体積基準の粒度分布において最大頻度となる粒子径である。
【0067】
得られた陽極体の体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)を図2~5に示す。実施例1の陽極体X1(図3)、実施例2の陽極体X2(図4)、および、実施例3の陽極体X3(図5)では、いずれも0.5μm以下の範囲の第1ピークと、0.5μmを超える範囲の第2ピークとが観測される。また、第1ピークの高さは、第2ピークの高さより大きい。第1ピークに対応する細孔径d1と、第2ピークに対応する細孔径d2との差は、いずれも0.4μm以上、もしくは0.45μm以上である。一方、比較例1の陽極体Y1(図2)では、実質的な第2ピークは見られない。比較例1の陽極体Y1の体積基準の細孔径分布を強引に2つの対数正規分布の近似式に当てはめた場合、第1ピークに対応する細孔径d1と仮想的な第2ピークに対応する細孔径d2との差は0.4μm未満である。また、第2ピークを構成する細孔容積の全細孔容積に占める割合P2は、陽極体X1~X3では18%以上、もしくは20%以上であるが、陽極体Y1では16%である。
【0068】
【表1】
【0069】
(i-ii)誘電体層の形成
電解水溶液であるリン酸水溶液が満たされた化成槽に、陽極体およびワイヤの一部を浸漬し、陽極酸化を行うことにより、陽極体の表面およびワイヤの一部の表面に、均一な酸化被膜を誘電体層として形成した。陽極酸化は、0.1質量%リン酸水溶液中で、化成電圧10Vで化成を行った。
【0070】
(i-iii)固体電解質層の形成
誘電体層が形成された陽極体に、導電性高分子からなる固体電解質層を次のように形成した。まず、誘電体層の表面上にポリピロールを含むプレコート層を、化学重合法により薄く形成した。次に、プレコート層の表面上に、電解重合法を用いてポリピロールを含む導電性高分子層を形成した。
【0071】
(i-iv)カーボン層の形成
固体電解質層にカーボン粒子の分散液(カーボンペースト)を塗布した後、200℃で加熱することにより、固体電解質層の表面にカーボン層(厚み約3μm)を形成した。
【0072】
(i-v)金属ペースト層の形成
カーボン層の表面に、銀粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む金属ペーストを塗布した。その後、200℃で加熱して金属ペースト層(厚み10μm)を形成し、コンデンサ素子を得た。
【0073】
(ii)電解コンデンサの作製
金属ペースト層に導電性部材となる導電性接着材を塗布し、陰極リード端子と金属ペースト層とを接合した。ワイヤと陽極リード端子とを抵抗溶接により接合した。次いで、各リード端子が接合されたコンデンサ素子をトランスファー成型法により外装樹脂で封止して、実施例1~3の電解コンデンサX1~X3および比較例1の電解コンデンサY1を作製した。
【0074】
[評価(静電容量およびESR)]
上記で作製した電解コンデンサX1~X3およびY1について、20℃の環境下で、4端子測定用のLCRメータを用いて、初期の静電容量値(μF)、および、周波数100kHzにおける初期のESR値(mΩ)をそれぞれ測定した。電解コンデンサY1に対する静電容量値の増加率(Δ静電容量)、および、初期のESR値の増加率(ΔESR)を表1に示す。表1より、電解コンデンサX1~X3の静電容量は、電解コンデンサY1より若干減少するものの、それ以上に有意に電解コンデンサX1~X3のESRを電解コンデンサY1よりも低減できることが理解できる。
【0075】
なお、陽極体X2の誘電体層を形成する前の走査型電子顕微鏡(SEM)により観察された断面像を図6に示す。図6には、幾つかの第1粒子および第2粒子の輪郭を特定した例を示す。第1粒子および第2粒子の輪郭で囲まれた面積と同じ面積の相当円の粒子径から、平均粒子径D1と平均粒子径D2を求めることも可能である。
【0076】
図7には、陽極体X2の体積基準の細孔径分布(Log微分細孔容積)の測定結果と、d1に対応する対数正規分布A1とd2に対応する対数正規分布A2との和で近似した対数正規分布の一例を示す。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示は、多孔質の陽極体と、陽極体に一部が埋設された陽極リードとを備える電解コンデンサに利用することができる。本開示に係る電解コンデンサは、良好な静電容量と低いESRが求められる様々な用途に利用できる。
【符号の説明】
【0078】
20:電解コンデンサ
10:コンデンサ素子
1:陽極体
2:陽極リード
2a:埋設部
2b:突出部
3:誘電体層
4:固体電解質層
5:陰極層
6:陽極部
7:陰極部
8:導電性部材
11:外装樹脂
13:第1端子
14:第2端子
14a:接続面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7