(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】美容装置
(51)【国際特許分類】
A61N 1/32 20060101AFI20240823BHJP
A61N 1/30 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
A61N1/32
A61N1/30
(21)【出願番号】P 2019034988
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-10-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大野木 洋子
(72)【発明者】
【氏名】立田 茂
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】近藤 利充
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-526448(JP,A)
【文献】特開2007-98060(JP,A)
【文献】特表2004-526517(JP,A)
【文献】特表平6-503496(JP,A)
【文献】特開2001-37476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
櫛歯電極である第1電極と、
櫛歯電極である第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極に印加される電圧を制御する電圧制御部を含む制御装置と、を備える美容装置であって、
前記電圧制御部は、
化粧品の美容成分が浸透する経路が形成されるように前記第1電極および前記第2電極に直流パルス電圧を周期的に印加し、
前記第2電極よりも高電位の直流パルス電圧を前記第1電極に印加し、
前記直流パルス電圧のデューティ比を75%以上かつ85%以下に設定し、
前記第1電極および前記第2電極は前記第1電極の歯と前記第2電極の歯とが所定方向に交互に並ぶように配置され、
前記第1電極の歯と前記第2電極の歯との間隔は前記第1電極の歯の幅および前記第2電極の歯の幅の少なくとも一方よりも狭い、
ただし、前記直流パルス電圧のデューティ比に関する75%以上かつ85%以下の範囲から75%、および、80%以上かつ85%以下の範囲を除く
美容装置。
【請求項2】
前記第1電極の歯の数は前記第2電極の歯の数よりも多い
請求項1に記載の美容装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚内部に化粧品の美容成分を浸透させる美容装置およびその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚内部に電界を形成し、化粧品の美容成分を皮膚内部に浸透させる美容装置が知られている。特許文献1には従来の美容装置の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
美容装置に対しては皮膚への美容等に関する有効成分の浸透性の向上が期待される。本願発明者が得た知見では、電気パルスのデューティ比は皮膚への美容等に関する有効成分の浸透性に影響する。特許文献1では、電気パルスのデューティ比と薬剤の浸透性との関係について特に着目していない。
本発明の目的は化粧品の美容成分を皮膚内部に効率的に浸透させることができる制御装置およびこれを備える美容装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態に関する美容装置の制御装置は化粧品の美容成分が浸透する経路が形成されるように皮膚内部に電界を形成する第1電極および第2電極を備える美容装置の制御装置であって、前記第1電極に前記第2電極よりも高電位の直流パルス電圧を周期的に印加し、前記直流パルス電圧のデューティ比を50%超かつ85%以下に設定する電圧制御部を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明に関する制御装置およびこれを備える美容装置は化粧品の美容成分を皮膚内部に効率的に浸透させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図8】美容成分の浸透方法の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(制御装置等が取り得る形態の一例)
本発明の一形態に関する美容装置の制御装置は化粧品の美容成分が浸透する経路が形成されるように皮膚内部に電界を形成する第1電極および第2電極を備える美容装置の制御装置であって、前記第1電極に前記第2電極よりも高電位の直流パルス電圧を周期的に印加し、前記直流パルス電圧のデューティ比を50%超かつ85%以下に設定する電圧制御部を備える。
上記制御装置によれば、化粧品の美容成分を皮膚内部に効率的に浸透させることができる。
【0009】
前記制御装置の一例によれば、前記電圧制御部は前記デューティ比を75%以上に設定する。
上記制御装置によれば、皮膚内部への化粧品の美容成分の浸透性が向上する。
【0010】
前記制御装置の一例によれば、前記第1電極および前記第2電極は櫛歯電極であり、前記第1電極の歯と前記第2電極の歯とが所定方向に交互に並ぶように配置され、前記第1電極の歯数は前記第2電極の歯数よりも多い。
上記制御装置によれば、皮膚内部に強い電界が形成されやすい。
【0011】
本発明の一形態に関する美容装置は前記制御装置のいずれか1つを備える。
上記美容装置によれば、化粧品の美容成分を皮膚内部に効率的に浸透させることができる。
【0012】
(実施の形態)
図1に示される美容装置10は、電気エネルギーにより生じる生体の作用を利用して化粧品の美容成分に関する経皮吸収または粘膜吸収を促進させる美容機能を備えている。美容装置10は主に、人体の対象部位の皮膚表面に塗布された化粧品の美容成分を皮膚内部に浸透させるために用いられる。美容成分は例えば高分子を含む。美容成分の具体例としてはヒアルロン酸、コラーゲン、および、ビタミンC誘導体等が挙げられる。美容機能には、皮膚内部に電界を形成し、皮膚のバリア機能を低下させる弛緩機能、および、皮膚内部に微弱電流を流し、皮膚内部への美容成分の浸透を促進する浸透機能が含まれる。微弱電流とは生体に強い刺激を与えない程度の大きさの電流である。弛緩機能は例えばエレクトロポレーションの利用により実現される。浸透機能は例えばイオントフォレシスの利用により実現される。
【0013】
皮膚のバリア機能は皮膚のラメラ構造により与えられる。皮膚のラメラ構造は主に角質細胞および細胞間脂質により構成されている。弛緩機能では、例えば皮膚表面に配置された電極に電気パルスを印加し、皮膚内部にパルス電界を形成する。パルス電界の作用により皮膚のラメラ構造が弛緩し、皮膚のバリア機能が低下する。バリア機能が低下した皮膚では、皮膚を構成する細胞間に孔が形成される。細胞間の孔は皮膚表面から皮膚内部に美容成分を浸透させる経路(以下「浸透経路」という)を形成する。美容成分は浸透経路を介して皮膚内部の深部に浸透する。
【0014】
美容装置10は経路形成機構100を備えている。経路形成機構100は美容装置10に弛緩機能を付与する。経路形成機構100は第1電極110および第2電極120を備えている。第1電極110および第2電極120は皮膚内部に浸透経路が形成されるように皮膚内部に電界を形成する。第1電極110および第2電極120の一方には他方よりも高電位が印加される。一例では、第1電極110には第2電極120よりも高電位が印加される。経路形成機構100は周期的に電気パルスを発生することによりパルス電界を形成する。電気パルスは例えば直流パルスまたは交流パルスである。
【0015】
美容装置10は本体20および浸透促進機構200をさらに備えている。本体20は美容装置10の構造的基礎を構成している。一例では、本体20は片手で持ち運びできるように構成されている。本体20はケース21を備えている。ケース21は電気的な絶縁性を有する材料により形成されている。ケース21の内部には、美容装置10を構成する種々の要素を配置できるように空間が形成されている。ケース21はハンドル22およびヘッド23を含む。ハンドル22は片手で握ることができるように構成されている。ヘッド23はハンドル22の上部に設けられている。ケース21の表面は第1面21Aおよび第2面21Bを含む。第1面21Aはケース21の中心面に対する一方に位置する。第2面21Bはケース21の中心面に対する他方に位置する。
【0016】
経路形成機構100は本体20に設けられている。経路形成機構100と本体20との構造的な関係は任意に選択できる。第1例では、経路形成機構100は本体20に対して着脱可能である。第2例では、経路形成機構100は本体20に一体化される。
図2に示されるように、経路形成機構100はヘッド23の第1面21Aに設けられている。経路形成機構100が皮膚表面に配置された状態において、各電極110、120に電圧が印加されることにより皮膚内部に電界が形成される。経路形成機構100が皮膚表面に配置された状態とは、各電極110、120により皮膚内部に適切に電界が形成されるように経路形成機構100が皮膚表面に接触した状態、または、皮膚表面の近傍に配置された状態である。
【0017】
浸透促進機構200は美容装置10に浸透機能を付与する。浸透促進機構200は本体20に設けられている。浸透促進機構200と本体20との構造的な関係は任意に選択できる。第1例では、浸透促進機構200は本体20に対して着脱可能である。第2例では、浸透促進機構200は本体20に一体化される。浸透促進機構200は第3電極210および第4電極220を備えている。第3電極210および第4電極220は皮膚内部に微弱電流が流れるように皮膚に電圧を印加する電極である。
図3に示されるように、第3電極210はヘッド23の第2面21Bに設けられている。
図2に示されるように、第4電極220はハンドル22の第1面21Aに設けられている。
【0018】
第3電極210は皮膚に電圧を印加する電極面210Aを含む。第3電極210は電極面210Aがケース21の外部に露出するようにヘッド23に設けられている。第3電極210にはシートを取り付けることができる。シートは化粧品を含浸できるように構成される。シートは例えば不織布である。第4電極220は皮膚に電圧を印加する電極面220Aを含む。第4電極220は電極面220Aがケース21の外部に露出するようにハンドル22に設けられている。
【0019】
浸透促進機構200により皮膚に電圧を印加する場合、第3電極210が皮膚表面に配置され、第4電極220がハンドル22を握る手の掌に接触する。第3電極210が皮膚表面に配置された状態とは、浸透促進機構200により皮膚に適切に電圧を印加できるように第3電極210が皮膚表面に接触した状態、または、第3電極210が皮膚表面の近傍に配置された状態である。
【0020】
第3電極210が皮膚表面に配置され、第4電極220が掌に接触した状態で各電極210、220に電圧が印加されることにより、第3電極210と皮膚との間に電位差が生じ、皮膚内部に微弱電流が流れる。この状態では、同種の電荷の間に働く電気的な反発力、または、電気浸透流により、浸透経路を介した皮膚内部への美容成分の浸透が促進される。美容成分の浸透の促進とは、皮膚表面から皮膚内部への美容成分の浸透が可能な状態において美容成分を皮膚内部に浸透させる作用が強められることをいう。
【0021】
図4および
図5を参照して、経路形成機構100の詳細について説明する。
図4に示されるように、経路形成機構100は各電極110、120に加え、基板130およびカバー140をさらに備えている。基板130は電気的な絶縁性を有する材料により形成されている。基板130は例えばフレキシブルプリント基板である。基板130はベース、カバーレイ、および、接着層を含む。ベース、カバーレイ、および、接着層は電気的な絶縁性を有する材料により形成されている。一例では、ベースおよびカバーレイはポリイミドにより形成される。接着層はエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、または、ポリイミド系樹脂の接着材料により形成される。ベースおよびカバーレイは積層されている。カバーレイはベースを被覆する。接着層はベースとカバーレイとを接着するようにベースとカバーレイとの間に形成されている。第1電極110および第2電極120はベース上に形成された銅箔のパターンである。
【0022】
カバー140は基板130に積層されている。カバー140は電気的な絶縁性を有する材料により形成されている。その一例はポリエチレンテレフタレートである。カバー140の形態は例えばシートである。カバー140により基板130が皮膚に対して電気的に絶縁されるため、皮膚が電気的な刺激から保護される。カバー140の具体的構成は任意に選択できる。第1例では、
図4に示されるように、基板130上に1枚のカバー140が設けられる。1枚のカバー140は基板130における各電極110、120に対応する領域を被覆する。第2例では、基板130に沿うように複数枚のカバー140が基板130上に設けられる。1または複数枚の第1のカバー140は基板130における第1電極110に対応する領域を被覆する。1または複数枚の第2のカバー140は基板130における第2電極120に対応する領域を被覆する。
【0023】
図5に示されるように、経路形成機構100の各電極110、120は櫛歯電極である。第1電極110は基礎部111および複数の歯112を備えている。基礎部111の形状は第1方向に長い帯状である。基礎部111から複数の歯112が第2方向に突出している。第2電極120は基礎部121および複数の歯122を備えている。基礎部121の形状は第1方向に長い帯状である。基礎部121から複数の歯122が第2方向に突出している。第2方向は平面の基板130上、または、平面に投影された基板130上において第1方向に交差する。一例では、第2方向は第1方向に直交する。
【0024】
第1電極110の歯112の形状は任意に設定できる。一例では、歯112の形状は第2方向に長い帯状である。歯112の中心軸は第2方向に平行である。各歯112の形状は同一である。歯112は第2方向に平行な直線部112A、および、直線部112Aに対して基礎部111とは反対側に設けられる先端部112Bを含む。先端部112Bの形状は丸みを帯びた形状である。第1方向における歯112の長さを「歯112の幅W1」と称する。第2方向における歯112の幅W1が一定ではない場合、歯112の幅W1は歯112の代表的な幅により規定される。歯112の代表的な幅について例示する。第1例では、歯112の代表的な幅は歯112の主要部の幅である。第2例では、歯112の代表的な幅は歯112における複数の部分の幅の平均である。第3例では、歯112の代表的な幅は歯112における最も狭い部分の幅である。第4例では、歯112の代表的な幅は歯112における最も広い部分の幅である。図示される例では、直線部112Aは歯112の主要部を構成している。直線部112Aの幅は一定である。直線部112Aの幅は歯112の代表的な幅に相当する。各歯112の幅W1は互いに等しい。
【0025】
第2電極120の歯122の形状は任意に設定できる。一例では、歯122の形状は第2方向に長い帯状である。歯122の中心軸は第2方向に平行である。各歯122の形状は同一である。歯122は第2方向に平行な直線部122A、および、直線部122Aに対して基礎部121とは反対側に設けられる先端部122Bを含む。先端部122Bの形状は丸みを帯びた形状である。第1方向における歯122の長さを「歯122の幅W2」と称する。第2方向における歯122の幅W2が一定ではない場合、歯122の幅W2は歯122の代表的な幅により規定される。歯122の代表的な幅について例示する。第1例では、歯122の代表的な幅は歯122の主要部の幅である。第2例では、歯122の代表的な幅は歯122における複数の部分の幅の平均である。第3例では、歯122の代表的な幅は歯122における最も狭い部分の幅である。第4例では、歯122の代表的な幅は歯122における最も広い部分の幅である。図示される例では、直線部122Aは歯122の主要部を構成している。直線部122Aの幅は一定である。直線部122Aの幅は歯122の代表的な幅に相当する。各歯122の幅W2は互いに等しい。
【0026】
第1電極110の歯112の数および第2電極120の歯122の数は任意に設定できる。第1例では、第1電極110の歯112の数と第2電極120の歯122の数とは異なる。第2例では、第1電極110の歯112の数は第2電極120の歯122の数よりも多い。第3例では、
図5に示されるように、第1電極110の歯112は第2電極120の歯122よりも1本多い。第4例では、第2電極120の歯122の数は第1電極110の歯112の数よりも多い。第5例では、第2電極120の歯122は第1電極110の歯112よりも1本多い。第6例では、第1電極110の歯112の数と第2電極120の歯122の数とは等しい。
【0027】
基板130における第1電極110の総面積と第2電極120の総面積との関係は任意に設定できる。第1例では、第1電極110の総面積と第2電極120の総面積とは異なる。第2例では、第1電極110の総面積は第2電極120の総面積よりも広い。第3例では、第2電極120の総面積は第1電極110の総面積よりも広い。第1例~第3例において各総面積の差をもたらす主要な因子は、例えば第1電極110の歯112の数と第2電極120の歯122の数との差である。第4例では、第1電極110の総面積と第2電極120の総面積とは等しい。本願発明者の知見によれば、総面積が広い第1電極110に高電位が印加された場合、皮膚内部に強い電界が形成されやすい。これは皮膚のバリア機能を低下させる作用を強めることに寄与する。
【0028】
第1電極110の各歯112および第2電極120の各歯122は第1方向において交互に配置されている。第1電極110の各歯112のうち、第1方向の両端のそれぞれに設けられた歯112を「端部歯113」と称する。第1電極110の各歯112のうち、各端部歯113以外の各歯112は第1方向において一方の端部歯113と他方の端部歯113との間に配置されている。第2電極120の各歯122は第1方向において、一方の端部歯113と他方の端部歯113との間に配置されている。
【0029】
第1電極110の各端部歯113以外の各歯112はそれぞれ第2電極120の歯122と歯122との間に配置されている。一方の端部歯113以外の各歯112の先端部112Bは第2電極120の基礎部121に対向している。第2電極120の各歯122はそれぞれ第1電極110の歯112と歯112との間に配置されている。第2電極120の各歯122の先端部122Bは第1電極110の基礎部111に対向している。一例では、第1電極110の歯112の形状および第2電極120の歯122の形状は同一である。これは皮膚内部に形成される電界の均一性を高めることに寄与する。
【0030】
複数の歯112および複数の歯122が基板130に設けられているため、各電極110、120により形成される電界が面状に分布し、皮膚内部の広い範囲に電界が形成される。一方の端部歯113と他方の端部歯113との間に他の複数の歯112および複数の歯122が配置されているため、皮膚内部における経路形成機構100に対応する領域外への電界の広がりが各端部歯113により抑えられ、皮膚内部に効率的に電界が形成される。
【0031】
第1方向において隣接する第1電極110の歯112と第2電極120の歯122との間には、これらの歯112、122を絶縁する非導電部131が設けられている。非導電部131は例えば基板130の接着層により構成される。一例では、第1方向において隣接する歯112と歯122との間隔Dは第2方向に一定である。ただし、歯112の先端部112Bに対応する部分、および、歯122の先端部122Bに対応する部分を除く。一定に設定された間隔Dは皮膚内部に形成される電界の均一性を高めることに寄与する。
【0032】
歯112の幅W1および歯122の幅W2と間隔Dとの関係は任意に設定できる。間隔Dは第1方向において隣接する第1電極110の歯112の縁と第2電極120の歯122の縁との距離である。第1例では、間隔Dは第1電極110の歯112の幅W1および第2電極120の歯122の幅W2の一方よりも狭い。第2例では、間隔Dは歯112の幅W1および歯122の幅W2の両方よりも狭い。第3例では、間隔Dは第1電極110の歯112の幅W1および第2電極120の歯122の幅W2の一方と等しい。第4例では、間隔Dは第1電極110の歯112の幅W1および第2電極120の歯122の幅W2の両方と等しい。第5例では、間隔Dは第1電極110の歯112の幅W1および第2電極120の歯122の幅W2の一方よりも広い。第6例では、間隔Dは第1電極110の歯112の幅W1および第2電極120の歯122の幅W2の両方よりも広い。第1例~第6例における第1電極110の歯112の幅W1は、複数の方法により規定可能な歯112の代表的な幅のうちの少なくとも1つである。第1例~第6例における第2電極120の歯122の幅W2は、複数の方法により規定可能な歯122の代表的な幅のうちの少なくとも1つである。第1例~第6例における間隔Dは、複数の方法により規定可能な歯112の代表的な幅のうちの少なくとも1つを規定する歯112の部分の縁と、複数の方法により規定可能な歯122の代表的な幅のうちの少なくとも1つを規定する歯122の部分の縁との距離である。
【0033】
間隔Dに対する第1電極110の歯112の幅W1または第2電極120の歯122の幅W2の割合を「幅間隔比」と称する。幅間隔比は第1電極110の歯112の幅W1または第2電極120の歯122の幅W2を間隔Dで除することにより求められる。幅間隔比は任意に設定できる。間隔Dが歯112の幅W1と等しい場合、間隔Dおよび歯112の幅W1により規定される幅間隔比は1である。間隔Dが歯112の幅W1よりも狭い場合、間隔Dおよび歯112の幅W1により規定される幅間隔比は1よりも大きい。間隔Dが歯112の幅W1よりも広い場合、間隔Dおよび歯112の幅W1により規定される幅間隔比は1よりも小さい。間隔Dが歯122の幅W2と等しい場合、間隔Dおよび歯122の幅W2により規定される幅間隔比は1である。間隔Dが歯122の幅W2よりも狭い場合、間隔Dおよび歯122の幅W2により規定される幅間隔比は1よりも大きい。間隔Dが歯122の幅W2よりも広い場合、間隔Dおよび歯122の幅W2により規定される幅間隔比は1よりも小さい。
【0034】
幅間隔比の具体例について例示する。第1例では、幅間隔比は1以上かつ3以下である。すなわち、歯112の幅W1および歯122の幅W2の少なくとも一方は間隔Dの1倍以上かつ3倍以下である。この例では、幅間隔比が1未満の場合と比較して皮膚内部への美容成分の浸透性が向上する。また、幅間隔比が3超の場合と比較して各電極110、120の製造に適した間隔Dが確保され、経路形成機構100の製造性が向上する。第2例では、幅間隔比は1超かつ2.5以下である。すなわち、歯112の幅W1および歯122の幅W2の少なくとも一方は間隔Dの1倍超かつ2.5倍以下である。この例では、第1例と比較して皮膚内部への美容成分の浸透性が向上する。第3例では、幅間隔比は2超かつ2.5以下である。すなわち、歯112の幅W1および歯122の幅W2の少なくとも一方は間隔Dの2倍超かつ2.5倍以下である。この例では、第2例と比較して皮膚内部への美容成分の浸透性が向上する。第3例では、幅間隔比は1.8超かつ2.2以下である。すなわち、歯112の幅W1および歯122の幅W2の少なくとも一方は間隔Dの1.8倍超かつ2.2倍以下である。この例では、第1例と比較して皮膚内部への美容成分の浸透性が一層向上し、第1例~第3例と比較して経路形成機構100の製造性が向上し、製造コストが低減する。
【0035】
図4に示されるように、経路形成機構100は取付部150をさらに備えている。取付部150は枠151および導電部152を備えている。枠151は本体20に着脱できるように構成されている。枠151は電気的な絶縁性を有する材料により形成されている。積層された基板130およびカバー140は枠151に取り付けられている。取付部150が本体20に取り付けられた状態では、基板130およびカバー140の形状は平面的な形状、または、皮膚をソフトに押すような曲面的な形状である。枠151には、カバー140における各電極110、120に対応する領域を露出させる開口部151Aが形成されている。経路形成機構100が皮膚表面に配置された状態では、各電極110、120はカバー140および開口部151Aを介して皮膚表面に面する。
【0036】
導電部152は枠151の表面に設けられている。導電部152は開口部151Aの空間を介して露出する各電極110、120の周囲の一部または全部を取り囲むように枠151に設けられている。導電部152の形成箇所は任意に選択できる。他の例では、導電部152は各電極110、120の周囲の一部または全部を取り囲むようにカバー140に設けられる。
【0037】
導電部152は各電極110、120に対して電気的に絶縁されている。導電部152は導電性を有する材料により形成されている。その一例はインジウムである。導電部152は枠151の表面に塗装された塗料である。塗料は多数の小さな金属片、および、多数の微小な金属粒子の少なくとも一方を含有する。塗料に含有される金属片および金属粒子の少なくとも一方は塗料中に分散している。本願発明者の知見によれば、経路形成機構100が皮膚表面に配置された状態において各電極110、120が導電部152に取り囲まれることにより、各電極110、120により形成される電界に導電部152が影響し、皮膚のバリア機能を低下させる作用が強められる。
【0038】
図6に示されるように、美容装置10は温度調整部30をさらに備えている。温度調整部30はヘッド23に設けられている。温度調整部30は皮膚の温度を調節することにより浸透経路の形成、および、皮膚内部への美容成分の浸透の少なくとも一方を補助する。温度調整部30は皮膚の温度を上昇させる加熱部31、および、皮膚の温度を低下させる冷却部32の少なくとも一方を備えている。一例では、温度調整部30は加熱部31および冷却部32の両方を備えている。
【0039】
加熱部31は皮膚のバリア機能を低下させるために用いられる。経路形成機構100により皮膚内部に電界が形成される場合、加熱部31は浸透経路の形成が促進されるように皮膚の温度を調節する。皮膚内部に電界が形成された状態において皮膚の温度が上昇する場合、皮膚のバリア機能を低下させる作用が強くなる。これは皮膚のバリア機能が低下する速度を上昇させ、皮膚内部への美容成分の浸透に関する効率を高めることに寄与する。
【0040】
冷却部32は皮膚のバリア機能が低下した状態を保つために用いられる。浸透促進機構200により皮膚内部に微弱電流が流れる場合、冷却部32は皮膚内部に美容成分が浸透する状態が保たれるように皮膚の温度を調節する。皮膚のバリア機能が低下した状態において皮膚の温度が低下する場合、皮膚のラメラ構造における脂質の流動性が低下し、弛緩したラメラ構造の回復速度が低下する。これは皮膚のバリア機能が元の状態に戻る速度を低下させ、皮膚内部に美容成分が浸透可能な状態を持続させ、皮膚内部への美容成分の浸透に関する効率を高めることに寄与する。
【0041】
加熱部31は直接的または間接的に皮膚を加熱する。一例では、加熱部31は経路形成機構100を介して皮膚を加熱する。加熱部31は各電極110、120を加熱する。各電極110、120が加熱されることにより各電極110、120を被覆するカバー140が加熱され、カバー140に接触する皮膚表面、または、カバー140の近傍に位置する皮膚表面が加熱される。加熱部31の具体的構成は任意に選択できる。第1例では、加熱部31は冷却部32とは個別に構成される。加熱部31はヒータを備える。ヒータは各電極110、120に対して直接的または間接的に熱的に接続される。ヒータはジュール熱により各電極110、120を加熱する。第2例では、
図6に示されるように、加熱部31は冷却部32と一体的に構成される。加熱部31はペルチェ素子33の発熱面33Aを備える。発熱面33Aは各電極110、120に対して直接的または間接的に熱的に接続される。
【0042】
冷却部32は直接的または間接的に皮膚を加熱する。一例では、冷却部32は浸透促進機構200の第3電極210を介して皮膚を冷却する。冷却部32は第3電極210の熱を吸熱する。第3電極210が吸熱されることにより第3電極210に接触する皮膚表面、または、第3電極210の近傍に位置する皮膚表面が吸熱される。冷却部32の具体的構成は任意に選択できる。第1例では、冷却部32は加熱部31とは個別に構成される。冷却部32はヒートシンクおよび電動ファンを備える。ヒートシンクは第3電極210に対して直接的または間接的に熱的に接続される。電動ファンはヒートシンクを冷却する。第2例では、
図6に示されるように、冷却部32は加熱部31と一体的に構成される。冷却部32はペルチェ素子33の吸熱面33Bを備える。吸熱面33Bは第3電極210に対して直接的または間接的に熱的に接続される。
【0043】
温度調整部30がペルチェ素子33を備える形態では、経路形成機構100の加熱と第3電極210の冷却とが同時に行われる。これはエネルギーの使用に関する効率の向上に寄与する。ペルチェ素子33が加熱部31および冷却部32を構成するため、温度調整部30が小型化され、美容装置10が軽量化される。
【0044】
温度調整部30は熱伝導部34をさらに備えている。熱伝導部34はヘッド23に設けられている。熱伝導部34は第1熱伝導部34Aおよび第2熱伝導部34Bを含む。第1熱伝導部34Aは加熱部31と経路形成機構100との間に設けられている。第1熱伝導部34Aは加熱部31と経路形成機構100とを熱的に接続している。加熱部31の熱は第1熱伝導部34Aを介して経路形成機構100の各電極110、120に流れる。第2熱伝導部34Bは冷却部32と第3電極210との間に設けられている。第2熱伝導部34Bは冷却部32と第3電極210とを熱的に接続している。第3電極210の熱は第2熱伝導部34Bを介して冷却部32に流れる。熱伝導部34の具体的構成は任意に選択できる。一例では、熱伝導部34は熱伝導性が高い金属部材、または、ヒートパイプを備える。
【0045】
図7に示されるように、美容装置10は操作部40、検知部50、報知部60、記憶部70、制御装置80、および、電源部90をさらに備えている。電源部90は美容装置10に設けられる電気的要素に電力を供給する。電源部90は電源ユニットを備えている。電源ユニットは商用交流電源の電力、または、美容装置10に設けられる電池の電力を電気的要素に供給する。経路形成機構100、浸透促進機構200、温度調整部30、検知部50、報知部60、記憶部70、および、制御装置80は電源部90から供給される電力により動作する。
図3に示されるように、操作部40は本体20に設けられている。操作部40は美容装置10の電源のオンオフを切り替えるスイッチ、および、美容装置10の動作モードを選択するスイッチ等を含む。操作部40の操作に応じて、電源部90から電気的要素に電力が供給されるオン状態と電力が供給されないオフ状態とが切り替えられる。
【0046】
検知部50は美容装置10に関する状態を検知する。一例では、検知部50は第1検知部51および第2検知部52を備えている。各検知部51、52は検知の結果を含む検知信号を制御装置80に送信する。第1検知部51は経路形成機構100が皮膚表面に配置されているか否かを検知する。第1検知部51は経路形成機構100が皮膚表面に配置されている場合、第1検知信号を制御装置80に送信する。一例では、第1検知部51は接触検知センサを備えている。接触検知センサは経路形成機構100が皮膚表面に接触していること、または、経路形成機構100が皮膚表面の近傍に配置されていることを検知する。接触検知センサの具体的構成は任意に選択できる。一例では、接触検知センサは静電容量の変化を利用して接触を検知するセンサ、感圧導電性ゴムの電気抵抗値の変化を利用して接触を検知するセンサ、または、受光素子が発光素子から受光する光量の変化を利用して接触を検知するセンサである。
【0047】
第2検知部52は浸透促進機構200の第3電極210が皮膚表面に配置されているか否かを検知する。第2検知部52は第3電極210が皮膚表面に配置されている場合、第2検知信号を制御装置80に送信する。一例では、第2検知部52は接触検知センサを備えている。接触検知センサは第3電極210が皮膚表面に接触していること、または、第3電極210が皮膚表面の近傍に配置されていることを検知する。接触検知センサの具体的構成は第1検知部51の接触検知センサと同様に任意に選択できる。
【0048】
報知部60は美容装置10に関する情報を出力する。報知部60は制御装置80から受信する信号に応じて情報を出力する。報知部60による情報の出力方法は任意に選択できる。一例では、報知部60は視覚的情報、聴覚的情報、および、皮膚感覚的情報の少なくとも1つを出力する。視覚的情報は例えば可視光を含む。視覚的情報を出力する手段は例えばランプおよびディスプレイの少なくとも一方である。聴覚的情報は例えば可聴域の周波数の音を含む。聴覚的情報を出力する手段は例えばスピーカーである。皮膚感覚的情報は例えば皮膚に知覚される物体の接触を含む。振動する物体の接触も皮膚感覚的情報に含まれる。皮膚感覚的情報を出力する手段は例えばバイブレータである。経路形成機構100または浸透促進機構200が皮膚表面に配置され、ユーザが本体20を視認しにくい状態では、皮膚感覚的情報および聴覚的情報の少なくとも一方が報知部60により出力されることが好ましい。
【0049】
制御装置80は美容装置10に設けられた制御対象を制御できるように構成されている。一例では、制御対象には経路形成機構100、浸透促進機構200、温度調整部30、および、報知部60が含まれる。制御装置80は操作部40から受信する信号、検知部50から受信する信号、および、記憶部70に記憶されている情報等を参照して制御対象を制御する。記憶部70は制御装置80の制御において参照される各種の情報等を記憶できるように構成されている。記憶部70は例えば不揮発性メモリおよび揮発性メモリを備えている。制御装置80は経路形成機構100に電圧を印加する回路を構成する部品、浸透促進機構200に電圧を印加する回路を構成する部品、温度調整部30に電流を流す回路を構成する部品、および、制御に関する演算等を実行するプロセッサを備えている。制御装置80に設けられる部品およびプロセッサ等は複数の機能部を構成している。一例では、複数の機能部には判定部81、計時部82、第1電圧制御部83、第2電圧制御部84、温度制御部85、および、報知制御部86が含まれる。
【0050】
判定部81は検知部50から受信した検知信号を参照して美容装置10の状態を判定する。判定部81は第1検知部51から第1検知信号を受信した場合、経路形成機構100が皮膚表面に配置されていると判定し、第1判定信号を第1電圧制御部83および計時部82に送信する。判定部81は第2検知部52から第2検知信号を受信した場合、第3電極210が皮膚表面に配置されていると判定し、第2判定信号を第2電圧制御部84および計時部82に送信する。
【0051】
計時部82は、判定部81から受信した判定信号を参照して種々の時間を計測する。計時部82は美容装置10の電源をオンするオン信号を操作部40から受信した場合、準備時間の計測を開始する。準備時間は美容装置10のオン状態にともない温度調整部30に電流が供給された時間を示す。準備時間が準備完了時間に到達した場合、計時部82は準備完了信号を報知制御部86に送信する。準備時間が準備完了時間以上の状態では、経路形成機構100の温度が第1所定温度以上であると推測できる。経路形成機構100の温度が第1所定温度以上である場合、皮膚のバリア機能を低下させる作用が好適に促進される。
【0052】
計時部82は判定部81から第1検知信号を受信した場合、第1経過時間の計測を開始する。第1経過時間は経路形成機構100が皮膚表面に配置された状態が継続した時間を示す。第1経過時間が第1所定時間に到達した場合、計時部82は第1経過信号を第1電圧制御部83および報知制御部86に送信する。第1経過時間が第1所定時間以上の状態では、経路形成機構100が形成する電界の作用により皮膚内部に浸透経路が形成されていると推測できる。
【0053】
計時部82は判定部81から第2検知信号を受信した場合、第2経過時間の計測を開始する。第2経過時間は第3電極210が皮膚表面に配置された状態が継続した時間を示す。第2経過時間が第2所定時間に到達した場合、計時部82は第2経過信号を第2電圧制御部84および報知制御部86に送信する。第2経過時間が第2所定時間以上の状態では、浸透促進機構200が流す微弱電流の作用により皮膚内部に一定量の美容成分が浸透していると推測できる。
【0054】
第1電圧制御部83は経路形成機構100の各電極110、120に印加される電圧を制御する。第1電圧制御部83は判定部81から第1検知信号を受信した場合、各電極110、120への電圧の印加を開始する。第1電圧制御部83は第1電極110に対して第2電極120よりも高い電圧を印加する。一例では、第1電圧制御部83は経路形成機構100の各電極110、120に直流パルス電圧を周期的に印加する。直流パルス電圧のデューティ比および周波数は第1電圧制御部83により設定される。デューティ比は一定の周期で出力されるパルスのオン時間とオフ時間との比率である。デューティ比はパルスの1周期におけるオン時間を1周期で除することにより求められる。記憶部70は第1電圧制御情報を記憶している。第1電圧制御情報は1または複数のデューティ比に関する情報、および、1または複数の周波数に関する情報を含む。第1電圧制御部83は第1電圧制御情報を参照してデューティ比および周波数を設定する。第1電圧制御情報に複数のデューティ比に関する情報が含まれる場合、第1電圧制御部83は第1選択条件に従ってデューティ比を設定する。第1電圧制御情報に複数の周波数に関する情報が含まれる場合、第1電圧制御部83は第2選択条件に従って周波数を設定する。第1選択条件および第2選択条件は例えば操作部40の操作に応じて設定される。
【0055】
デューティ比は任意に設定できる。第1例では、デューティ比は50%超かつ85%以下である。この例では、デューティ比が50%の場合、および、デューティ比が50%未満の場合と比較して皮膚内部への美容成分の浸透性が向上する。第2例では、デューティ比は75%以上かつ85%以下である。この例では、デューティ比が50%の場合、および、デューティ比が50%超かつ75%未満の場合と比較して皮膚内部への美容成分の浸透性が向上する。
【0056】
第2電圧制御部84は浸透促進機構200の各電極210、220に印加される電圧を制御する。第2電圧制御部84は判定部81から第2検知信号を受信した場合、各電極210、220への電圧の印加を開始する。第2電圧制御部84は第3電極210に対して第4電極220よりも高い電圧を印加する。各電極210、220に印加される電圧(以下「印加電圧」という)、および、電圧が印加される時間(以下「印加時間」という)は第2電圧制御部84により設定される。記憶部70は第2電圧制御情報を記憶している。第2電圧制御情報は1または複数の印加電圧に関する情報、および、1または複数の印加時間に関する情報を含む。第2電圧制御部84は第2電圧制御情報を参照して印加電圧および印加時間を設定する。第2電圧制御情報に複数の印加電圧に関する情報が含まれる場合、第2電圧制御部84は第3選択条件に従って印加電圧を設定する。第2電圧制御情報に複数の印加時間に関する情報が含まれる場合、第2電圧制御部84は第4選択条件に従って印加時間を設定する。第3選択条件および第4選択条件は例えば操作部40の操作に応じて設定される。
【0057】
温度制御部85は温度調整部30に供給される電流を制御する。一例では、温度制御部85は操作部40から受信した操作信号に応じて温度調整部30を制御する。具体的には、温度制御部85は美容装置10をオン状態に設定する操作信号を受信した場合、温度調整部30に所定の電流を供給する。温度制御部85は美容装置10をオフ状態に設定する操作信号を受信した場合、温度調整部30への電流の供給を停止する。
【0058】
報知制御部86は報知部60を制御する。報知制御部86は計時部82から受信した信号に応じて報知部60に情報を出力させる。一例では、報知制御部86は次のように各種の情報を報知部60に出力させる。報知制御部86は計時部82から準備完了信号を受信した場合、経路形成機構100を対象部位の皮膚表面に配置することを促す情報を報知部60に出力させる。報知制御部86は計時部82から第1経過信号を受信した場合、浸透促進機構200の第3電極210を対象部位の皮膚表面に配置することを促す情報を報知部60に出力させる。報知制御部86は計時部82から第2経過信号を受信した場合、美容成分の浸透方法の1セットが完了したことを案内する情報を報知部60に出力させる。
【0059】
図8を参照して、美容装置10を用いた美容成分の浸透方法について説明する。美容成分の浸透方法は例えば3つのフェーズに区分される。第1フェーズは経路形成機構100の温度が皮膚のバリア機能の低下の促進に適した温度となるように加熱部31により経路形成機構100を加熱するフェーズである。第2フェーズは第1フェーズの完了後、経路形成機構100を皮膚表面に配置し、電界の作用により皮膚のバリア機能を低下させ、皮膚内部に浸透経路を形成するフェーズである。第3フェーズは第2フェーズの完了後、浸透促進機構200を皮膚表面に配置し、浸透促進機構200と皮膚との電位差により皮膚内部への美容成分の浸透を促進させるフェーズである。美容成分の浸透方法の具体的手順の一例を以下に示す。
【0060】
ステップS11では、一方の手で本体20のハンドル22が握られる。浸透促進機構200の第4電極220が掌に接触する。ステップS12では、美容装置10の電源がオンになるように操作部40が操作される。温度調整部30による経路形成機構100の加熱、および、浸透促進機構200の第3電極210の冷却が開始される。計時部82による準備時間の計時が開始される。ステップS13では、準備時間が準備完了時間に到達したことにともない第1フェーズが完了したことを示す情報が報知部60により出力される。
【0061】
ステップS21では、化粧品の美容成分を浸透させる人体の対象部位の皮膚表面に経路形成機構100が配置される。ステップS22では、皮膚表面に経路形成機構100が配置されたことが第1検知部51により検知され、経路形成機構100の各電極110、120に直流パルス電圧が印加され、計時部82による第1経過時間の計時が開始される。直流パルス電圧に応じたパルス電界が皮膚内部に形成され、パルス電界により皮膚のバリア機能が低下し、美容成分が浸透可能な浸透経路が皮膚内部に形成される。皮膚表面に配置された経路形成機構100から皮膚に熱が流れ、皮膚が加熱され、皮膚のラメラ構造の弛緩によるバリア機能の低下が促進される。これは第3フェーズに移行するまでに要する時間の短縮、および、皮膚内部への美容成分の浸透性を向上させることに寄与する。ステップS23では、第1経過時間が第1所定時間に到達したことにともない第2フェーズが完了したことを示す情報が報知部60により出力される。
【0062】
ステップS31では、浸透促進機構200の第3電極210が皮膚表面に配置される。ステップS21において経路形成機構100が配置される前からステップS31において第3電極210が配置される前までの期間に皮膚表面に化粧品が塗布される。一例では、ステップS31において第3電極210が配置される直前に皮膚表面に化粧品が塗布される。ステップS32では、第3電極210が皮膚表面に配置されたことが第2検知部52により検知され、浸透促進機構200の各電極210、220に電圧が印加され、計時部82による第2経過時間の計時が開始される。電圧の印加により皮膚内部に微弱電流が流れ、皮膚内部への美容成分の浸透が促進される。皮膚の熱が皮膚表面に配置された第3電極210に吸熱され、皮膚のラメラ構造が徐々に冷却され、脂質の流動性が低下し、弛緩したラメラ構造の回復速度が低下する。皮膚のバリア機能が低下した状態が長く維持され、皮膚内部への美容成分の浸透が促進される状態も維持される。ステップS33では、第2経過時間が第2所定時間に到達したことにともない第3フェーズが完了したことを示す情報が報知部60により出力される。
【0063】
(実施例)
美容装置10を用いた美容成分の浸透方法に関する美容成分の浸透性を評価する第1試験および第2試験を実施した。第1試験では、経路形成機構100の幅間隔比と美容成分の浸透性との関係を確認した。第2試験では、経路形成機構100のデューティ比と美容成分の浸透性との関係を確認した。
【0064】
第1試験の詳細について説明する。第1試験の条件は次のとおりである。化粧品の美容成分はヒアルロン酸である。美容成分を浸透させる被験者の対象部位は前腕内側である。対象部位の皮膚表面に塗布される試料はヒアルロン酸水溶液である。試料が塗布される皮膚表面の範囲は各辺が2cmの正方形である。ヒアルロン酸水溶液のヒアルロン酸の分子量は5000~10000である。ヒアルロン酸水溶液の濃度は0.3mg/mLである。幅間隔比の水準は5水準である。具体的には幅間隔比の水準は0.2、0.5、1、2、2.5である。直流パルス電圧のデューティ比の水準は1水準である。具体的には直流パルス電圧のデューティ比は50%である。
【0065】
第1試験の手順は次のとおりである。最初に、第1フェーズが実行される。次に、皮膚表面にヒアルロン酸水溶液が塗布される。次に、第2フェーズが実行される。第2フェーズでは、皮膚表面に配置された経路形成機構100の各電極110、120に直流パルス電圧が印加される。各電極110、120に印加される電圧は37Vである。直流パルス電圧の周波数は1kHzである。次に、第3フェーズが実行される。第3フェーズでは、皮膚表面に配置された第3電極210、および、掌に接触した第4電極220に電圧が印加される。各電極210、220に印加される電圧は10Vである。電圧が印加される時間は6秒である。次に、皮膚の角質が採取される。採取方法はテープストリッピング法である。採取される皮膚の範囲は直径22mmである。次に、採取された角質が測定用バッファーに溶脱され、ヒアルロン酸定量用ELISAキットで反応させられる。次に、吸光度分析によりヒアルロン酸量が定量化される。
【0066】
図9は第1試験における幅間隔比と定量化されたヒアルロン酸量の浸透比との関係を示す。グラフのX軸は幅間隔比を示す。グラフのY軸は浸透比を示す。浸透比は任意の幅間隔比に対応するヒアルロン酸量を幅間隔比が0.5の場合のヒアルロン酸量で除した値である。幅間隔比が1の場合の浸透比は1である。幅間隔比が0.5未満の場合、幅間隔比が0.5の場合と比較して浸透比が低下している。幅間隔比が0.5よりも大きい場合、幅間隔比が0.5の場合と比較して浸透比が増加している。幅間隔比が2または2.5の場合では、幅間隔比が0.5の場合と比較して浸透比が大きく増加している。
【0067】
電気パルスによる電気的な振動により皮膚のラメラ構造が弛緩することにともない、経路形成機構100により形成されるパルス電界が皮膚表面の近傍だけではなく皮膚内部の深部まで到達し、皮膚内部へのヒアルロン酸水溶液の浸透が好適に促進されると推測される。櫛歯電極である各電極110、120の各歯112、122が交互に配置され、各歯112、122が対向する部分が広範囲に形成される場合、間隔Dが狭くなるほど皮膚内部の深部まで電界が到達すると推測される。第1試験の結果によれば、間隔Dが歯112の幅W1または歯122の幅W2よりも狭い場合、ヒアルロン酸の浸透性が向上することが確認された。歯112の幅W1または歯122の幅W2が広いことにより、各電極110、120が設けられた基板130において各歯112、122が対向する部分に蓄えられる電荷の量が増加していると推測される。
【0068】
第2試験の詳細について説明する。第2試験の条件は次のとおりである。化粧品の美容成分はヒアルロン酸である。美容成分を浸透させる被験者の対象部位は前腕内側である。対象部位の皮膚表面に塗布される試料はヒアルロン酸水溶液である。試料が塗布される皮膚表面の範囲は各辺が2cmの正方形である。ヒアルロン酸水溶液のヒアルロン酸の分子量は5000~10000である。ヒアルロン酸水溶液の濃度は0.3mg/mLである。幅間隔比の水準は1水準である。具体的には幅間隔比は0.5である。直流パルス電圧のデューティ比の水準は9水準である。具体的には直流パルス電圧のデューティ比は0%、10%、20%、30%、50%、75%、85%、95%、100%である。第2試験の手順は第1試験の手順と同様である。
【0069】
図10は第2試験により得られたデューティ比と浸透比との関係を示す。グラフのX軸はデューティ比を示す。グラフのY軸は定量化されたヒアルロン酸量の浸透比を示す。浸透比は任意のデューティ比に対応するヒアルロン酸量をデューティ比が50%の場合のヒアルロン酸量で除した値である。デューティ比が50%の場合の浸透比は1である。デューティ比が50%未満の場合、デューティ比が50%の場合と比較して浸透比が低下している。デューティ比が50%超かつ85%以下の場合、デューティ比が50%の場合と比較して浸透比が増加している。デューティ比が75%以上かつ85%以下の場合、デューティ比が50%の場合と比較して浸透比が大きく増加している。デューティ比が90%の場合、デューティ比が50%の場合と比較して浸透比が増加し、デューティ比が50%超かつ85%以下の場合と比較して浸透比が低下ししている。デューティ比が95%の場合、デューティ比が50%の場合と比較して浸透比が低下している。
【0070】
第2試験によれば、デューティ比が50%超かつ85%以下の場合、ヒアルロン酸水溶液の浸透性が向上することが確認された。デューティ比が75%以上かつ85%以下の場合、ヒアルロン酸水溶液の浸透性が大きく向上することが確認された。デューティ比が0%または100%の場合では皮膚のラメラ構造に電気的な振動が与えられないため、ラメラ構造を弛緩させる作用が得られないと推測される。この点を考慮すると、ラメラ構造を弛緩させるための好ましいデューティ比は0%と100%との中間の50%と考えることもできる。しかし、第2試験の結果はデューティ比が50%の場合よりもデューティ比が50%超かつ85%以下の場合の方がラメラ構造を弛緩する作用が強くなることを示唆している。一定の直流電圧下においては、皮膚表面の近傍と皮膚内部の深部とでは電気的な振動に対するラメラ構造の挙動が異なることが関係していると推測される。デューティ比が50%の場合、直流パルス電圧が形成する電界は皮膚表面の近傍のラメラ構造に対して強い弛緩作用を及ぼし、皮膚内部の深部のラメラ構造に対しては強い弛緩作用を及ぼすことができない。デューティ比が50%超かつ85%以下の場合、直流パルス電圧が形成する電界が皮膚表面の近傍のラメラ構造に及ぼす弛緩作用はデューティ比が50%の場合と比較して弱くなるが、その電界が皮膚内部の深部のラメラ構造に及ぼす弛緩作用はデューティ比が50%の場合と比較して強くなる。これがヒアルロン酸の浸透性の向上に寄与していると推測される。
【0071】
(変形例)
上記実施の形態に示された美容装置およびその制御装置は本発明に関する美容装置およびその制御装置の一例である。上記実施の形態は本発明を制限しない。本発明に関する美容装置およびその制御装置は上記実施の形態に例示された形態とは異なる形態を取り得る。その一例は、実施の形態の構成の一部を置換、変更、もしくは、省略した形態、または、実施の形態に新たな構成を付加した形態である。
【0072】
経路形成機構100の各電極110、120の構成は任意に設定できる。
図11は各電極110、120の第1変形例を示している。第1電極110は一対の基礎部111、複数の歯112、および、接続部114を備えている。一対の基礎部111は第1方向に平行である。一方の基礎部111と他方の基礎部111とは所定の間隔を空けて第2方向に並ぶ。接続部114は第2方向に平行である。接続部114は一方の基礎部111と他方の基礎部111とを接続している。各基礎部111のそれぞれから複数の歯112が突出している。一方の基礎部111から突出する歯112の先端部112Bと他方の基礎部111から突出する歯112の先端部112Bとは、第2方向に所定の間隔を空けて対向する。第2電極120は基礎部121および複数の歯122を備えている。基礎部121は一方の基礎部111から突出する歯112の先端部112Bと他方の基礎部111から突出する歯112の先端部112Bとの間に配置されている。基礎部121から一方の基礎部111および他方の基礎部111のそれぞれに向けて複数の歯122が突出している。
【0073】
図12は各電極110、120の第2変形例を示している。第1電極110は環状である。第2電極120は第1電極110の内側に配置されている。第2電極120は円形である。第1電極110および第2電極120は同心円状に配置されている。1つの第1電極110とその内側に配置される1つの第2電極120は1組の電極対を構成している。経路形成機構100は複数の電極対を備えている。複数の電極対が第1方向および第2方向のそれぞれに並べられている。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は美容に関連する各種の用途の美容装置およびその制御装置に利用できる。
【符号の説明】
【0075】
10 :美容装置
80 :制御装置
83 :第1電圧制御部
110:第1電極
112:歯
120:第2電極
122:歯