IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電気化学デバイス 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/38 20130101AFI20240823BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240823BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20240823BHJP
【FI】
H01G11/38
H01G11/06
H01G11/60
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020094132
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021190545
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 和晃
【審査官】相澤 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-003078(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135529(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/029902(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/076996(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/38
H01G 11/06
H01G 11/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と電解液とを含む電気化学デバイスであって、
前記一対の電極の少なくとも一方は、活性炭とバインダとを含み、
前記バインダは、85℃の前記電解液中に100時間浸漬したときの体積変化率が50%以上で450%以下であり、
前記バインダは、スチレンブタジエンゴムおよびアクリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、電気化学デバイス。
【請求項2】
前記バインダは、スチレンブタジエンゴムおよびアクリルゴムを含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記バインダは、前記体積変化率が60%以上で150%以下である、請求項1または2に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
前記電解液は、溶媒としてγ-ブチロラクトンを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
電気二重層キャパシタまたはリチウムイオンキャパシタである、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学デバイスの一例として、電気二重層キャパシタが知られている。電気二重層キャパシタは、二次電池と比べて、寿命が長く、急速充電が可能であり、出力特性も優れている。そのため、電気二重層キャパシタなどの電気化学デバイスは、バックアップ用の電源などに広く用いられている。
【0003】
特許文献1(特許第5724875号明細書)は、「溶媒としてγ-ブチロラクトンを含む電解液と、電極材料と、導電性助剤と、結合材として85℃のγ-ブチロラクトンにおける100時間後の膨張率が50%以下であるスチレンブタジエン系エラストマーを水に分散させたスラリーを、エッチング箔からなる集電体に塗布してなるコーティング電極を備えることを特徴とする使用温度が70℃を超える電気二重層キャパシタ」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5724875号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気化学デバイスは、様々な温度での使用が想定されており、低温でも性能低下が小さいことが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、電気化学デバイスに関する。当該電気化学デバイスは、一対の電極と電解液とを含む電気化学デバイスであって、前記一対の電極の少なくとも一方は、活性炭とバインダとを含み、前記バインダは、85℃の前記電解液中に100時間浸漬したときの体積変化率が50%以上で450%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、低温における性能低下が小さい電気化学デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示に係る電気化学デバイスの一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、本開示に係る実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。以下の明細書において、「数値A~数値Bの範囲」という場合、当該範囲には数値Aおよび数値Bが含まれる。
【0010】
従来から、電気化学デバイスでは、高温時の特性が重視されてきた。また、活性層に用いられるバインダは、電解液に浸漬したときの膨潤が小さいものが好ましいと、一般的に考えられてきた。それは、バインダの膨潤度が高いと結着力が低下すると考えられてきたためである。しかし、本願発明者らが検討した結果、従来の技術常識とは異なり、特定の条件下ではバインダの膨潤が大きい方が好ましいことが、新たに見出された。この発明は、この新たな知見に基づくものである。
【0011】
(電気化学デバイス)
本開示に係る電気化学デバイスは、一対の電極と電解液とを含む。一対の電極の少なくとも一方は、活性炭とバインダとを含む。以下では、上記電解液およびバインダをそれぞれ、「電解液(S)」および「バインダ(B)」と称する場合がある。また、以下では、活性炭とバインダ(B)とを含む電極を、「電極(E)」と称する場合がある。バインダ(B)は、85℃の電解液(S)中に100時間浸漬したときの体積変化率が50%以上で450%以下である。当該体積変化率を、以下では、「体積変化率VC」と称する場合がある。体積変化率VCは、電解液(S)中におけるバインダの膨張率を示す値である。
【0012】
後述するように、バインダ(B)(例えばバインダ(B)からなる膜)を85℃の電解液(S)中に100時間浸漬したときに、電解液(S)に浸漬する前のバインダ(B)の体積をV0とし、電解液(S)に100時間浸漬した後の膜の体積をV1とすると、体積変化率VCの値は、以下の式で求められる。
体積変化率VC(%)=100×(V1-V0)/V0
【0013】
本開示に係る電気化学デバイスによれば、低温における性能低下が小さい電気化学デバイスが得られる。本開示に係る電気化学デバイスは、-30℃以下での使用が想定される用途に好ましく用いられる。すなわち、本開示に係る電気化学デバイスの使用温度の下限値は、-30℃以下であり、例えば-45℃~-30℃の範囲にある。
【0014】
電気化学デバイスは、充放電が可能な蓄電デバイスであってもよい。電気化学デバイスは、電気二重層キャパシタ(EDLC)、リチウムイオンキャパシタ(LIC)などであってもよい。電気化学デバイスがEDLCの場合、一対の電極の一方または両方に、上記の電極(E)が用いられる。電気化学デバイスがLICの場合、一対の電極の一方(正極)に上記の電極(E)が用いられる。この場合、一対の電極の他方(負極)には、リチウムイオン二次電池で用いられる負極を用いることができる。リチウムイオン二次電池で用いられる負極の一例は、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質(例えば黒鉛)を含む。
【0015】
(電極(E))
電極(E)は活性層を含む。活性層は、活物質である活性炭とバインダ(B)とを必須成分として含む。電極(E)は、活性層を担持する集電体をさらに含んでもよい。活性層は、上記の必須成分(活性炭およびバインダ(B))以外の成分を含んでもよく、例えば、導電剤などを含んでもよい。導電剤の例には、カーボンブラックなどが含まれる。
【0016】
活物質である活性炭(活性炭粒子)に特に限定はなく、電気化学デバイスに用いられる公知の活性炭を用いてもよい。活性炭は、例えば、原料を熱処理して炭化し、得られた炭化物を賦活処理することによって作製してもよい。原料としては、例えば、木材、ヤシ殻、パルプ廃液、石炭またはその熱分解により得られる石炭系ピッチ、重質油またはその熱分解により得られる石油系ピッチ、フェノール樹脂、石油コークス、石炭コークス等が挙げられる。賦活処理としては、例えば、水蒸気等のガスを利用したガス賦活、水酸化カリウム等のアルカリを利用した薬品賦活が挙げられる。上記の賦活処理で得られた活性炭粒子について粉砕処理を行ってもよい。粉砕処理後、分級処理を行ってもよい。粉砕処理には、例えば、ボールミル、ジェットミル等が用いられる。
【0017】
活性層に占める活性炭の割合(含有率)に特に限定はない。当該割合は、60質量%以上で95質量%以下であってもよく、好ましい一例において、70質量%以上で90質量%以下であってもよい。
【0018】
(バインダ(B))
上述したように、電極バインダ(B)は、85℃の電解液(S)中に100時間浸漬したときの体積変化率VCが50%以上で450%以下である。体積変化率VCの定義および測定方法については、実施例で説明する。体積変化率VCは、60%以上、80%以上(例えば80%を超える)、90%以上、100%以上であってもよい。体積変化率VCは、300%以下、150%以下、100%以下、80%以下、80%未満であってもよい。体積変化率VCは、これらの下限および上限を、矛盾しない組み合わせで組み合わせた範囲にあってもよい。例えば、体積変化率VCは、60%以上で150%以下の範囲、60%以上で100%以下の範囲、60%以上で80%未満の範囲、80%を超えて450%以下の範囲、80%を超えて150%以下の範囲にあってもよい。
【0019】
体積変化率VCは、バインダ(B)の種類やバインダ(B)の構造によって変化させることができる。また、体積変化率VCが異なる複数種のバインダを混合することによって、混合されたバインダの体積変化率VCを変化させることもできる。様々な溶媒に対して体積変化率が異なるバインダ(ポリマー)は、様々なメーカーから市販されている。そのため、それらのバインダを選択することによって、適切な体積変化率を実現することが可能である。バインダ(B)が複数種の高分子(バインダ)の混合物である場合、体積変化率VCは、当該混合物の状態で測定される。
【0020】
バインダ(B)は、スチレンブタジエンゴムおよびアクリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。すなわち、バインダ(B)の必須成分は、スチレンブタジエンゴムであってもよいし、アクリルゴムであってもよいし、スチレンブタジエンゴムおよびアクリルゴムであってもよい。バインダ(B)は、これらのみによって構成されてもよい。
【0021】
なお、電極(E)は、スチレンブタジエンゴムおよびアクリルゴム以外の高分子(バインダ)を含んでもよい。そのような高分子(バインダ)の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂材料やカルボキシメチルセルロース(CMC)などが含まれる。
【0022】
スチレンブタジエンゴムは、スチレンとブタジエンとを主なモノマーとする共重合体(例えばスチレンとブタジエンとの共重合体)であり、それらの共重合体を変性したものであってもよい。スチレンとブタジエンとの重合比や、スチレンブタジエンゴムの平均分子量(例えば重量平均分子量)などを変化させることによって、上記の体積変化率VCを変化させることができる。
【0023】
アクリルゴムは、アクリル酸エステルを主なモノマーとする重合体である。アクリルゴムの例には、アクリル酸エステルと他のモノマーとを含む2種または2種以上のモノマーの共重合体が含まれ、それらの共重合体を変性したものも含まれる。他のモノマーの例には、2-クロロエチルビニルエーテル、アクリロニトリルなどが含まれる。アクリル酸エステルの例には、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシエチルなどが含まれる。アクリル酸エステルは、2種以上を混合しても用いてもよい。-30℃以下での使用を考慮する場合、アクリル酸エステルは、アクリル酸ブチルやアクリル酸メトキシエチルなどを含んでもよい。アクリルゴムは、フッ素化されていてもよい。アクリル酸エステルの種類、他のモノマーの種類、モノマーの共重合比、アクリルゴムの平均分子量(例えば重量平均分子量)などを変化させることによって、上記の体積変化率VCを変化させることができる。
【0024】
所望の体積変化率VCを有するスチレンブタジエンゴムおよび所望の体積変化率VCを有するアクリルゴムとして、市販のスチレンブタジエンゴムおよびアクリルゴムを用いてもよい。
【0025】
活性層に占めるバインダの割合(含有率)に特に限定はない。当該割合は、1質量%以上で20質量%以下であってもよく、好ましい一例において、5質量%以上で10質量%以下であってもよい。
【0026】
バインダ(B)は、スチレンブタジエンゴムおよびアクリルゴムを含んでもよいし、それら2種のみで構成されてもよい。一般に、スチレンブタジエンゴムは、上述した体積変化率VCが小さい。それに対して、一般に、アクリルゴムは体積変化率VCが大きい。そのため、両者を混合することによって、目標とする体積変化率VCを容易に実現できる。スチレンブタジエンゴムとアクリルゴムとの混合比は、質量基準で、スチレンブタジエンゴム:アクリルゴム=95:5~10:90の範囲にあってもよい。
【0027】
(集電体)
電極(E)に用いられる集電体に特に限定はなく、活性層に応じて適切な集電体を選択すればよい。集電体には、公知の電気化学デバイスに用いられている集電体を用いてもよい。集電体の例には、シート状の金属が含まれる。シート状の金属の例には、金属箔、金属多孔体、エッチングメタルなどが含まれる。金属材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、チタンなどを用いてもよい。一例の集電体は、これらの金属材料からなる金属箔である。金属箔の表面は、エッチングなどによって粗面化されていてもよい。
【0028】
(電解液(S))
電解液(S)は、溶媒(非水溶媒)と、イオン性物質と、を含む。イオン性物質は、溶媒中に溶解しており、カチオンと、アニオンと、を含む。イオン性物質は、例えば常温付近で液体として存在し得る、低融点の化合物(イオン性液体)を含んでいてもよい。電解液中のイオン性物質の濃度は、例えば、0.5mol/L以上、2.0mol/Lである。
【0029】
溶媒としては、高沸点溶媒が好ましい。例えば、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類、プロピレンカーボネートなどのカーボネート類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール類、スルホランなどの環状スルホン類、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類、酢酸メチルなどのエステル類、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、ホルムアルデヒドなどを用いることができる。
【0030】
電解液(S)は、溶媒としてγ-ブチロラクトンを含んでもよい。溶媒に占めるγ-ブチロラクトンの割合は、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、または95質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。すなわち、溶媒として、γ-ブチロラクトンのみを用いてもよい。γ-ブチロラクトンは、融点が低いため、-30℃以下での使用を考慮する場合には好ましく用いられる。
【0031】
イオン性物質は、例えば、有機塩を含む。有機塩とは、アニオンおよびカチオンの少なくとも一方が有機物を含む塩である。カチオンが有機物を含む有機塩としては、例えば、4級アンモニウム塩が挙げられる。アニオン(もしくは両イオン)が有機物を含む有機塩としては、例えば、マレイン酸トリメチルアミン、ボロジサリチル酸トリエチルアミン、フタル酸エチルジメチルアミン、フタル酸モノ1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム、フタル酸モノ1,3-ジメチル-2-エチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。
【0032】
アニオンは、耐電圧特性を向上させる観点から、フッ素含有酸のアニオンを含むことが好ましい。フッ素含有酸のアニオンとしては、例えば、BF および/またはPF が挙げられる。有機塩は、例えば、テトラアルキルアンモニウムのカチオンと、フッ素含有酸のアニオンと、を含むことが好ましい。具体的には、ジエチルジメチルアンモニウムテトラフルオロボレート(DEDMABF)、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEMABF)等が挙げられる。
【0033】
本開示の電気化学デバイスの一例は、以下の構成(1)を満たし、さらに以下の構成(2)~(4)の少なくとも1つを満たしてもよい。
(1)活性炭とバインダ(B)とを含む少なくとも1つの電極(E)と、電解液(S)とを含む。当該バインダ(B)は、85℃の電解液(S)中に100時間浸漬したときの体積変化率VCが50%以上で450%以下である。体積変化率VCは、例えば60%以上で450%以下の範囲や、60%以上で150%以下の範囲や、80%を超え150%以下の範囲にあってもよい。
(2)バインダ(B)が、スチレンブタジエンゴムおよびアクリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種を含み、例えばそれらの両方を含む。
(3)電解液(S)の溶媒がγ-ブチロラクトンを含む。その場合、電解液(S)に溶解されるイオン性物質は、テトラアルキルアンモニウムのカチオンとフッ素含有酸のアニオンとを含む上記の有機塩を含んでもよい。電解液(S)の溶媒に占めるγ-ブチロラクトンの割合は、上述した割合であってもよい。
(4)使用温度の下限が-30℃以下である。
【0034】
(セパレータ)
一対の電極の間には、セパレータが配置されてもよい。セパレータは、イオン透過性を有し、一対の電極を物理的に離間させて短絡を防止する役割を有する。セパレータの例には、セルロースを主成分とする不織布、ガラス繊維マット、ポリエチレン等のポリオレフィンの微多孔フィルムなどが含まれる。
【0035】
電気化学デバイスの形状に特に限定はなく、公知の電気化学デバイスの形状と同様の形状としてもよい。例えば、電気化学デバイスの形状は、円筒状であってもよいし、直方体状(角形)であってもよいし、コイン形(ボタン形を含む)であってもよい。円筒状電気化学デバイスの一例では、一対の電極とセパレータとが巻回されて巻回型の電極群が構成される。このとき、一対の電極間にセパレータが配置されるようにそれらが巻回される。直方体状やコイン形の電気化学デバイスの一例では、一対の電極がセパレータを挟んで積層されて積層型の電極群が構成される。なお、一対の電極を構成する2つの電極はそれぞれ、複数の電極で構成されてもよい。例えば、一対の電極を構成する2つの電極を正極と負極として考えた場合、正極は複数の正極板で構成されてもよいし、負極は複数の負極板で構成されてもよい。積層形の電極群は、複数の正極板と複数の負極板とを、それらの間にセパレータが配置されるように積層することによって形成してもよい。
【0036】
(電極(E)および電気化学デバイスの製造方法)
電極(E)および電気化学デバイスの製造方法に特に限定はなく、公知の方法で製造してもよい。電極(E)の製造方法の一例について以下に説明する。なお、電極(E)を製造できる限り、他の製造方法で製造してもよい。
【0037】
まず、活性炭粒子、バインダ、導電剤、および溶媒(例えば水)を混合してスラリーを得る。バインダは、懸濁液の状態で添加してもよい。次に、得られたスラリーを集電体の表面に塗布して塗膜を形成する。次に、塗膜を乾燥させ、必要に応じて圧延して活性層を形成する。このようにして、電極(E)を形成できる。
【0038】
(実施形態1)
以下では、本開示の電気化学デバイスの一例について、図面を参照して具体的に説明する。以下で説明する電気化学デバイスの構成要素には、上述した構成要素を適用できる。また、以下で説明する電気化学デバイスは、上述した記載に基づいて変更できる。また、以下で説明する事項を、上記の実施形態に適用してもよい。また、以下で説明する実施形態において、本開示の電気化学デバイスに必須ではない構成要素は省略してもよい。
【0039】
実施形態1に係る電気化学デバイス10の構成を図1に模式的に示す。図1は、電気化学デバイス10を模式的に示す斜視図である。理解を容易にするため、図1では、電気化学デバイス10の一部を切り欠いた状態で示す。
【0040】
図1の電気化学デバイス10は、電気二重層キャパシタである。電気化学デバイス10は、巻回型のキャパシタ素子1を含む。キャパシタ素子1は、シート状の第1電極2とシート状の第2電極3とをセパレータ4を介して巻回することによって構成されている。第1電極2および第2電極3はそれぞれ、上述した電極(E)である。
【0041】
第1電極2および第2電極3はそれぞれ、金属製の第1集電体および第2集電体と、その表面に担持された第1活性層および第2活性層とを有する。第1電極2および第2電極3はそれぞれ、イオンを吸着および脱着することで容量を発現する。
【0042】
なお、第1電極2と第2電極3とは全く同じ電極(E)であってもよいし、構成が異なる電極(E)であってもよい。また、上述したように、いずれか一方の電極は、電極(E)ではない電極であってもよい。
【0043】
第1電極2および第2電極3には、それぞれ引出部材として第1リード線5aおよび第2リード線5bが接続されている。キャパシタ素子1は、電解液(図示せず)とともに円筒型の外装ケース6に収容されている。外装ケース6の材質は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮等の金属などであってもよい。外装ケース6の開口は、封口部材7によって封止されている。リード線5a、5bは、封口部材7を貫通するように外部に導出されている。封口部材7には、例えば、ブチルゴム等のゴム材などが用いられる。
【実施例
【0044】
以下、実施例に基づいて、本開示をより詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されない。
【0045】
(実施例1)
実施例1では、活性層に含まれるバインダの体積変化率VCを変化させて7種類の電気化学デバイス(デバイスA1~A5、CA1およびCA2)を作製して評価した。電気化学デバイスとしては、定格電圧2.7Vの巻回型の電気二重層キャパシタを作製した。一対の電極には、構成が同じである2つの電極を用いた。以下に、電気化学デバイスの具体的な製造方法について説明する。
【0046】
(バインダの体積変化率VCの測定)
実施例で用いたバインダの体積変化率VCは、以下のようにして求めた。まず、電気化学デバイスの作製に用いられる電解液(後述)とバインダとを準備した。次に、バインダの懸濁液をシャーレにキャストして乾燥させることによって、バインダからなる膜を形成した。この膜(バインダ)を、85℃の電解液中に100時間浸漬し、浸漬前後の膜の体積を測定した。電解液に浸漬する前の膜の体積をV0とし、電解液に100時間浸漬した後の膜の体積をV1とすると、体積変化率VCの値は、以下の式で求められる。
体積変化率VC(%)=100×(V1-V0)/V0
【0047】
膜の体積は、アルキメデス法を用いて測定した。具体的には、測定する膜の大気中における重量W0と、体積測定用の液体中における膜の重量W1とを測定した。体積測定用の液体の密度をρとすると、膜の体積は、以下の式で求められる。
膜体積V=(W0-W1)/ρ
【0048】
上記の方法による膜の体積の測定を、電解液に浸漬する前と電解液に浸漬した後とで行うことによって、体積V0と体積V1とを求めた。
【0049】
(電極の作製)
活物質である活性炭粒子80質量部と、バインダであるスチレンブタジエンゴム5質量部と、増粘剤であるCMC5質量部と、導電剤であるアセチレンブラック10質量部とを、水に分散させ、スラリーを調製した。スチレンブタジエンゴムは、懸濁液(分散媒は水)の状態で添加した。スチレンブタジエンゴムには、体積変化率VCが50%のものを用いた。次に、得られたスラリーをAl箔(厚さ30μm)の両面に塗布して塗膜を形成した。この塗膜を110℃で真空乾燥した後、圧延することによって、活性層(厚さ40μm)を形成した。このようにして電極(電極(E))を作製した。
【0050】
(電解液の調製)
γ-ブチロラクトン(GBL)に、ジエチルジメチルアンモニウムテトラフルオロボレート(DEDMABF)を溶解することによって電解液を調製した。電解液中のDEDMABFの濃度は、1.0mol/Lとした。
【0051】
(電気化学デバイスA1の作製)
上記の電極を2つ準備し、それぞれにリード線を接続した。次に、セルロース製不織布のセパレータを介して2つの電極を巻回してキャパシタ素子を作製した。このキャパシタ素子を電解液とともに所定の外装ケースに収容した。次に、外装ケースを封口部材で封口して、電気化学デバイス(電気二重層キャパシタ)を組み立てた。その後、定格電圧を印加しながら、60℃で16時間エージング処理を行った。このようにして、電気化学デバイスA1を得た。
【0052】
(電気化学デバイスA2、A3、およびCA1の作製)
バインダとして用いたスチレンブタジエンゴムの体積変化率VCを変えたことを除いて、デバイスA1の作製と同様の材料および方法で、電気化学デバイスA2、A3、およびCA1を作製した。
【0053】
(電気化学デバイスA4、A5、およびCA2の作製)
バインダとして、スチレンブタジエンゴムの代わりに、体積変化率VCが異なるアクリルゴムを用いたことを除いて、デバイスA1の作製と同様の材料および方法で、電気化学デバイスA4、A5、およびCA2を作製した。
【0054】
なお、実施例に用いたスチレンブタジエンゴムおよびアクリルゴムは、所定の体積変化率VCを有するそれらのゴムを購入することによって準備した。
【0055】
作製された電気化学デバイスのそれぞれについて、-30℃における内部抵抗(DCR)の変化を測定した。具体的には、まず、-30℃の環境下で、電圧が2.7Vになるまで100mAの電流で電気化学デバイスを定電流充電した後、2.7Vの電圧を印加した状態を7分間保持した。その後、-30℃の環境下で、電圧が0Vになるまで20mAの電流で定電流放電を行った。この放電における初期の放電曲線(縦軸:放電電圧、横軸:放電時間)を用いて、電気デバイスの内部抵抗を求めた。
【0056】
(実施例2)
実施例2では、活性層に含まれるバインダの種類を変えたことを除いて、実施例1の電気化学デバイスA1と同様の方法で7種類の電気化学デバイス(電気化学デバイスB1~B5、CB1およびCB2)を作製した。
【0057】
実施例2では、バインダとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)とアクリルゴムとを混合して用いた。そして、バインダの体積変化率VCのみを変化させて7種類の電気化学デバイス(デバイスB1~B5、CA1およびCA2)を作製して評価した。体積変化率VCは、アクリルゴムの体積変化率VCと、スチレンブタジエンゴムとアクリルゴムとの混合比とを変化させることによって変化させた。なお、電極の作製では、スチレンブタジエンゴムとアクリルゴムの懸濁液を用いた。
【0058】
作製された電気化学デバイスについて、実施例1と同様に-30℃における内部抵抗を測定した。
【0059】
(実施例1および2の評価結果)
実施例1の電気化学デバイスの作製に用いたバインダと、内部抵抗の評価結果とを、表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例2の電気化学デバイスの作製に用いたバインダと、内部抵抗の評価結果とを、表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表1および表2の内部抵抗は、電気化学デバイスA1の内部抵抗を100%としたときの相対値である。いずれの値も、低い方が低温での特性が高いことを示している。表1および2に示すように、体積変化率VCが50~450%の範囲にある場合には内部抵抗が低く、体積変化率VCが60~150%の範囲にある場合には内部抵抗がより低く、体積変化率VCが100~150%の範囲にある場合には内部抵抗が特に低かった。また、スチレンブタジエンゴムおよびアクリルゴムの一方のみをバインダに用いる場合と比較して、スチレンブタジエンゴムとアクリルゴムとを混合してバインダとして用いる方が、内部抵抗を低減できた。
【0064】
体積変化率を50~450%の範囲としたときに低温における内部抵抗が低下する理由については、現在のところ明確ではない。しかし、1つの考え方として、以下のように考えることが可能である。
【0065】
室温における電極の内部抵抗では、電子伝導が支配的であるが、低温における電極の内部抵抗は、電解液におけるイオン伝導の影響が大きくなると考えられる。バインダの体積変化率VCが大きい場合、電極中の電解液量が増えるため、イオンの移動経路が多くなり、低温での内部抵抗が低下すると推測される。一方、バインダの体積変化率VCが大きくなりすぎると、電極内の導電性材料同士の接触抵抗が増大して電子伝導が不充分となる。その結果、バインダの体積変化率VCが大きくなりすぎても内部抵抗が高くなると推測される。そのため、バインダの体積変化率VCを適切な範囲とすることによって、低温における内部抵抗を低減することが可能になると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、電気化学デバイスに利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1:キャパシタ素子、2:第1電極、3:第2電極、4:セパレータ、5a:第1リード線、5b:第2リード線、6:外装ケース、7:封口部材、10:電気化学デバイス
図1