(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】発光装置及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H01L 33/50 20100101AFI20240823BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20240823BHJP
C09K 11/80 20060101ALI20240823BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H01L33/50
H01S5/022
C09K11/80
G02B5/20
(21)【出願番号】P 2021025191
(22)【出願日】2021-02-19
(62)【分割の表示】P 2020563130の分割
【原出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2018245494
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】新田 充
(72)【発明者】
【氏名】大塩 祥三
(72)【発明者】
【氏名】阿部 岳志
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/103671(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/164214(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230207(WO,A1)
【文献】特開2018-041856(JP,A)
【文献】特開平05-156246(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108865139(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01S 5/00- 5/50
A61M 36/10-36/14
A61N 5/00- 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次光を放射する光源と、前記一次光を吸収して前記一次光よりも長波長の第一の波長変換光に変換する第一の蛍光体と、を備える発光装置であって、
前記一次光の光密度は、
3W/mm
2を超え、
前記第一の波長変換光は、Cr
3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光を含み、
前記第一の波長変換光の蛍光スペクトルは、波長7
30nmを超える波長領域に蛍光強度最大値を有する発光装置。
【請求項2】
前記第一の波長変換光の蛍光スペクトルは、波長7
50nmを超える波長領域に蛍光強度最大値を有する、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記第一の波長変換光の1/10残光は1ms未満である請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第一の波長変換光の蛍光強度最大値ピークにおける80%スペクトル幅は、20nm以上80nm未満である請求項1~3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記第一の波長変換光の蛍光スペクトルの蛍光強度最大値に対する波長780nmの蛍光強度の比率は、30%を超える請求項1~4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記第一の波長変換光の蛍光スペクトルは、Cr
3+の電子エネルギー遷移に由来する線状スペクトル成分の証跡を含まない請求項1~5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記第一の蛍光体は、ガーネットの結晶構造を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記一次光を吸収して、前記一次光よりも長波長でかつ前記第一の波長変換光とは異なる第二の波長変換光に変換する第二の蛍光体を、さらに備える請求項1~7のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項9】
前記第一の蛍光体は、二種類以上のCr
3+付活蛍光体を含む請求項1~8のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項10】
前記一次光は、400nm以上500nm未満の波長範囲内に蛍光強度最大値を有する寒色光、及び、570nm以上660nm未満の波長領域内に蛍光強度最大値を有する暖色光の少なくともいずれか一方である請求項1~9のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項11】
医療用光源又は医療用照明装置である請求項1~10のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項12】
センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムである請求項1~10のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の発光装置を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Cr3+付活蛍光体を用いた(構成(P))発光装置が知られている。また、インコヒーレントな光を放射するLEDチップと、近赤外蛍光体とを備える(構成(Q))発光装置が知られている。さらに、レーザーダイオード等のコヒーレントなレーザー光を放射する光源と、赤色の蛍光成分を放射する蛍光体(以後、「赤色蛍光体」という。)とを備える(構成(R))発光装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、構成(P)及び(Q)を満たす発光装置として、Cr3+とCe3+で共付活されたYAG系蛍光体を用いる発光装置が開示されている。上記YAG系蛍光体としては、Y3Al5O12:Cr3+,Ce3+、Lu3Al5O12:Cr3+,Ce3+、Y3(Al,Ga)5O12:Cr3+,Ce3+、(Y,Gd)3Al5O12:Cr3+,Ce3+等が用いられる。
【0004】
また、特許文献2には、構成(P)及び(Q)を満たす発光装置として、植物が有する色素タンパク質(フィトクロム)の光吸収スペクトルに対応する700~760nmの波長領域に蛍光ピークを有する蛍光体を用いた植物育成用の照明光源が開示されている。具体的には、特許文献2には、700~760nmの波長領域に蛍光ピークを有するGd3Ga5O12:Cr3+蛍光体と、青色LEDと、をパッケージ化した植物育成用の照明光源が開示されている。この照明光源によれば、蛍光体の蛍光ピークが存在する700~760nmの波長領域が、色素タンパク質(フィトクロム)の光吸収スペクトルに対応するため、植物の生長や分化を制御することができる。また、特許文献6には、Siフォトダイオード検出器の受光感度が高い波長域において広帯域で発光する赤外発光装置が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、構成(Q)を満たす発光装置として、生体組織に照射した近赤外の光成分の反射像や透過像を出力する医療用検査装置が開示されている。この医療用検査装置では、近赤外の光成分として、希土類のNdとYbを付活剤として含む蛍光体が放射する蛍光成分を用いている。
【0006】
また、特許文献4には、構成(R)を満たす発光装置として、レーザーダイオードと、Ce3+で付活された赤色蛍光体とを備える各種のレーザー応用照明装置が開示されている。
【0007】
なお、構成(R)を満たさない特許文献1~3及び6に記載された発光装置は、植物育成用の照明装置の提供等を目的として、植物育成等に適する近赤外の光成分を含む出力光を単に得るためのものである。すなわち、特許文献1~3及び6に記載された発光装置は、レーザー光を用いる発光装置に固有の蛍光体の光出力が飽和するという課題を解決するものではない。したがって、特許文献1~3及び6に記載された発光装置は、蛍光体の光出力が飽和するという課題を解決するために、Cr3+付活蛍光体が放射する蛍光スペクトルの形状等を極度に限定するものでもない。
【0008】
また、近赤外蛍光体を用いる第一の発光装置として、主に植物育成用の照明装置が知られている。しかし、この第一の発光装置は、植物育成に適する近赤外の光成分を含む出力光を単に得るためのものであり、蛍光体を高密度光励起したときの蛍光体の光出力が飽和するという課題を解決するものではない。
【0009】
さらに、近赤外蛍光体を用いる第二の発光装置として、生体組織に照射する近赤外の光成分の反射像や透過像を出力する光干渉断層装置(OCT:Optical Coherence Tomography)用の照明装置が知られている。しかし、この第二の発光装置は、医療用の照明装置に関するものであり、蛍光イメージング法や光線力学療法を用いる医療技術に固有の薬剤の吸収波長のばらつきに起因したエネルギー変換効率の低下という課題を解決するものではない。
【0010】
また、レーザー光を用いる発光装置として、主に希土類イオン(Ce3+やEu2+)で付活された蛍光体を用いて可視光の出力光を得る発光装置が知られている。しかし、この発光装置は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく近赤外の高出力光を得るものではない。
【0011】
なお、蛍光体をレーザー光で励起する発光装置では、これまで、蛍光体の蛍光出力が飽和するという課題があった。従来、この蛍光出力の飽和の抑制のためには、例えば特許文献4又は5に示されるように、Ce3+やEu2+等のパリティー許容遷移に基づく蛍光を示す短残光性(10μs以下)の蛍光体を用いることが必須であるとされていた。特に超短残光性(10~100ns)を示すCe3+付活蛍光体を用いることが好ましいとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2016-121226号公報
【文献】国際公開第2010/053341号
【文献】特許第5812461号公報
【文献】特許第6206696号公報
【文献】国際公開第2016/092743号
【文献】国際公開第2018/207703号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、蛍光体をレーザー光で励起する発光装置において、医療やセンシングで求められる近赤外の光成分を、Ce3+付活蛍光体やEu2+付活蛍光体を用いて得ようとした場合、次のような課題がある。すなわち、蛍光体に用いられる材料の選択の幅が狭い上に温度消光が大きくなることから蛍光体の開発が困難であるため、近赤外の光成分を放射する発光装置が得られないという課題があった。
【0014】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものである。本開示は、パリティー禁制遷移に基づく長残光性(10μs以上)の蛍光を放射するCr3+を付活剤とする蛍光体を用いると、従来の技術常識に反し、高密度のレーザー光励起下でも蛍光出力の飽和が生じにくいことを見出してなし得たものである。
【0015】
上記の発見事項は、蛍光出力の飽和の抑制のためには短残光性(10μs未満)の蛍光体の使用が必須とされていた従来の技術常識とは大きく異なるものであり、驚くべきものである。
【0016】
本開示は、高密度のレーザー光の励起下で近赤外の蛍光成分の割合が多い高出力光を放射する発光装置、及びこれを用いた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本開示の第1の態様に係る発光装置は、一次光を放射する光源と、前記一次光を吸収して前記一次光よりも長波長の第一の波長変換光に変換する第一の蛍光体と、を備える発光装置であって、前記一次光は定格光出力が1W以上であり、前記第一の波長変換光は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光を含み、前記第一の波長変換光の蛍光スペクトルは、波長710nmを超える波長領域に蛍光強度最大値を有する。
【0018】
本開示の第2の態様に係る発光装置は、一次光を放射する光源と、前記一次光を吸収して前記一次光よりも長波長の第一の波長変換光に変換する第一の蛍光体と、を備える発光装置であって、前記一次光の光密度は、0.5W/mm2を超え、前記第一の波長変換光は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光を含み、前記第一の波長変換光の蛍光スペクトルは、波長710nmを超える波長領域に蛍光強度最大値を有する。
【0019】
本開示の第3の態様に係る電子機器は、本開示の第1又は第2の態様に係る発光装置を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1の実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。
【
図2】第2の実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。
【
図3】第3の実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。
【
図4】第4の実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。
【
図5】Cr
3+の電子エネルギー準位を示す図である。
【
図6】実施形態に係る内視鏡の構成を概略的に示す図である。
【
図7】実施形態に係る内視鏡システムの構成を概略的に示す図である。
【
図8】波長とPL強度との関係を示すグラフである。
【
図9】減衰率とPL強度との関係を示すグラフである。
【
図10】励起光パワー密度とPL強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本実施形態に係る発光装置について説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0022】
[発光装置]
本実施形態に係る発光装置1、1A、1B及び1Cを
図1~
図4に示す。
図1は、第1の実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。
図2は、第2の実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。
図3は、第3の実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。
図4は、第4の実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。
【0023】
本実施形態に係る発光装置1、1A、1B及び1Cは、それぞれ、医療用発光装置の一例である。
図1~
図4に示すように、発光装置1、1A、1B及び1Cは、共通して、光源2と、第一の蛍光体4とを備える。
【0024】
なお、発光装置1及び1Bにおいて第一の蛍光体4は波長変換体3に含まれ、発光装置1A及び1Cにおいて第一の蛍光体4は波長変換体3Aに含まれる。このため、発光装置1及び1Bは、光源2と、第一の蛍光体4を含む波長変換体3とを備える。また、発光装置1A及び1Cは、光源2と、第一の蛍光体4を含む波長変換体3Aとを備える。
【0025】
発光装置1、1A、1B及び1Cは、光源2から放射された一次光6が波長変換体3、3Aに入射すると、波長変換体3、3Aに含まれる第一の蛍光体4等の蛍光体が蛍光を放射するようになっている。また、第一の蛍光体4は、一次光6を受光すると、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光を含み、かつ波長710nmを超える波長領域に蛍光強度最大値を有する第一の波長変換光を放射するようになっている。
【0026】
なお、
図1に示す発光装置1の波長変換体3と、
図2に示す発光装置1Aの波長変換体3Aとは、正面3aで一次光6を受光し、背面3bから蛍光を放射する構成になっている。また、
図3に示す発光装置1Bの波長変換体3と、
図4に示す発光装置1Cの波長変換体3Aとは、正面3aで一次光6を受光し、同じ正面3aで蛍光を放射する構成になっている。
【0027】
発光装置1、1A、1B及び1Cは、680~710nmの波長領域内に蛍光強度最大値を有する線状スペクトル成分よりも、710nmを超える波長領域に蛍光強度最大値を有するブロードなスペクトル成分の方が多い第一の波長変換光を放射する。このため、発光装置1、1A、1B及び1Cは、近赤外成分を多く含む点光源の発光装置になっている。
【0028】
なお、上記線状スペクトル成分は、Cr3+の、2T1及び2E→4A2の電子エネルギー遷移(スピン禁制遷移)に基づく、長残光性の光成分である。また、上記ブロードなスペクトル成分は、4T2→4A2の電子エネルギー遷移(スピン許容遷移)に基づく、短残光性の光成分である。このようなCr3+による蛍光のメカニズムについては、後述する。以下、発光装置1、1A、1B及び1Cにつき説明する。
【0029】
[第1の実施形態]
第1の実施形態に係る発光装置1について説明する。
【0030】
(光源)
光源2は、一次光6を放射する。一次光6としては、レーザー光が用いられる。レーザー光としては、例えば、400nm以上500nm未満の波長範囲内に蛍光強度最大値を有する寒色光、及び、570nm以上660nm未満の波長範囲内に蛍光強度最大値を有する暖色光の少なくともいずれか一方を含むレーザー光が用いられる。寒色光としては、好ましくは、430nm以上480nm未満の波長範囲内に蛍光強度最大値を有する光が用いられる。暖色光としては、好ましくは、590nm以上640nm未満の波長範囲内に蛍光強度最大値を有する光が用いられる。
【0031】
一次光6として、上記寒色光及び上記暖色光の少なくともいずれか一方を含むレーザー光が用いられると、レーザー光が、Cr3+で付活された第一の蛍光体4によく吸収されて、第一の波長変換光7に効率よく波長変換される。このため、一次光6として上記寒色光及び上記暖色光の少なくともいずれか一方を含むレーザー光が用いられる発光装置1によれば、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光成分割合が多い出力光を放射することが可能である。
【0032】
光源2としては、上記寒色光の色のレーザー光を放射する寒色光レーザー素子又は上記暖色光の色のレーザー光を放射する暖色光レーザー素子が用いられる。寒色光レーザー素子としては、好ましくは青色のレーザー光を放射する青色レーザー素子が用いられる。暖色光レーザー素子としては、好ましくは赤色のレーザー光を放射する赤色レーザー素子が用いられる。光源2が、寒色光レーザー素子又は暖色光レーザー素子であると、波長変換体3、3A中の蛍光体が高効率で励起されることから、発光装置1、1A、1B及び1Cが高出力な近赤外光を放射することが可能になる。
【0033】
なお、寒色光レーザー素子のうち青色レーザー素子は、高効率かつ高出力のレーザー素子の入手が容易である。このため、光源2として青色レーザー素子を用いると、発光装置の高出力化を図る上で好ましい。また、暖色光レーザー素子のうち赤色レーザー素子は、近赤外の光成分とのエネルギー差が小さく、波長変換に伴うエネルギーロスが小さい。このため、光源2として赤色レーザー素子を用いると、発光装置の高効率化を図る上で好ましい。
【0034】
光源2としては、例えば、面発光レーザーダイオードが用いられる。また、光源2は、定格光出力が、通常1W以上、好ましくは3W以上の固体発光素子である。光源2の定格光出力が上記範囲内にあると、高出力の一次光6を放射するため、発光装置1の高出力化が可能である。
【0035】
なお、定格光出力の上限は特に限定されるものではない。光源2を複数の固体発光素子で構成するようにすることで光源2の高出力化が可能である。ただし、実用性を考慮すると、光源2の定格光出力は、通常10kW未満、好ましくは3kW未満である。
【0036】
第一の蛍光体4に照射される一次光6の光密度は、通常0.5W/mm2を超え、好ましくは3W/mm2を超え、より好ましくは10W/mm2を超え、さらに好ましくは30W/mm2を超えるようにする。一次光6の光密度が上記範囲内にあると、第一の蛍光体4が高密度光で励起されることにより、発光装置1が高出力の蛍光成分を放射することが可能になる。なお、今後のLEDのハイパワー化により、0.5W/mm2を超える高出力LEDが開発された場合、上記レーザーと同様に高出力LEDを用いることもできる。
【0037】
(波長変換体)
波長変換体3は、第一の蛍光体4と封止材5とを含む。波長変換体3において、第一の蛍光体4は封止材5中に含まれる。
【0038】
<第一の蛍光体>
第一の蛍光体4は、一次光6を吸収して一次光6よりも長波長の第一の波長変換光7に変換する蛍光体である。第一の蛍光体4は、一次光6を吸収して、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光を含む第一の波長変換光7を放射する。すなわち、第一の波長変換光7は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光を含む。ここで、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光とは、4T2→4A2の電子エネルギー遷移(スピン許容遷移)に基づく蛍光を意味する。
【0039】
以下、Cr
3+の電子エネルギー遷移について説明する。
図5は、Cr
3+の電子エネルギー準位を示す図である。具体的には、
図5は、6配位のCr
3+、Mn
4+等に適用される田辺-菅野ダイアグラムである。
【0040】
図5の横軸は、配位子場分裂の大きさを意味するDqを、電子の間に働く静電的な反発力の強さを意味するラカーパラメータのBで割ったものである。
図5の横軸は、Cr
3+が結晶の中で周囲の配位子から受ける配位子場の強さを示す指標と理解することができる。結晶中のCr
3+の周囲の配位子としては、酸素イオン等が挙げられる。
【0041】
図5の縦軸は、基底状態からのエネルギーEを上記ラカーパラメータのBで割ったものである。
図5の縦軸は、Cr
3+の最外殻の電子雲を形成する3個の3d電子が形成する励起状態の電子エネルギーの大きさ、すなわち、3つの3d電子が形成する励起状態と基底状態との間のエネルギー差を示す指標と理解することができる。
【0042】
図5によれば、蛍光体結晶中のCr
3+の3d軌道の電子が形成する励起状態の電子エネルギーが、離散したいくつかの状態を取ることが分かる。また、
図5によれば、蛍光体結晶中のCr
3+が有する電子が形成する電子エネルギーの状態は、周囲の配位子の種類や数や配置の仕方、配位子までの距離等による影響を受けて変化し、この結果、励起状態と基底状態の間のエネルギー差が変化することが分かる。さらに、
図5によれば、離散したいくつかの状態をとる、上記励起状態の電子エネルギーの各々が、配位子場によって異なる挙動を示すことが分かる。なお、
図5中に示される、
2Eや
4T
2や
4A
2等の記号は、Cr
3+の3d軌道の3つの電子が形成する離散した電子エネルギーの状態の各々を示す公知の記号である。
【0043】
ここで、蛍光を伴う電子エネルギー遷移は、通常、最も低い励起状態(
図5中の
2T
1及び
2E又は
4T
2)から基底状態(
図5中の
4A
2)への電子エネルギー遷移になる。このため、
図5によれば、結晶中でCr
3+が受ける配位子場の強さが強い場合(
図5中の横軸の数値が大きい場合)は、Cr
3+は
2T
1及び
2Eから
4A
2への電子エネルギー遷移による蛍光を示すことが分かる。また、
図5によれば、配位子場の強さが弱い場合(
図5中の横軸の数値が小さい場合)は、
4T
2から
4A
2への電子エネルギー遷移による蛍光を示すことが分かる。第一の蛍光体4は、後者の電子エネルギー遷移による蛍光を示すものである。
【0044】
なお、
2T
1及び
2Eから
4A
2への電子エネルギー遷移は、
図5から分かるように、配位子場の強さが変わっても、エネルギー差が大きく変わらないため、蛍光スペクトルは線状になる。
【0045】
一方、
4T
2から
4A
2への電子エネルギー遷移は、
図5から分かるように、配位子場の強さが変わると、エネルギー差が大きく変わるため、蛍光スペクトルはブロードな形状になる。第一の蛍光体4の蛍光スペクトルは、
4T
2から
4A
2への電子エネルギー遷移(スピン許容遷移)に基づくため、ブロードな形状になる。
【0046】
なお、Cr3+の3d電子の2T1及び2Eから4A2への電子エネルギー遷移のエネルギー準位間のエネルギー遷移はパリティー禁制遷移のため、蛍光の残光時間は100μs以上50ms未満と長い。このCr3+に基づく蛍光の残光時間は、パリティー許容遷移を示すCe3+やEu2+の蛍光の残光時間(10μs以下)に比較して長くなる。ただし、Cr3+の4T2から4A2への電子エネルギー遷移は、同じスピンを有する二つの状態間を遷移するスピン許容遷移であるため、残光時間は比較的短くなり、100μs前後となる。
【0047】
このようなパリティー禁制(スピン許容)の電子エネルギー遷移による蛍光を示すCr3+付活蛍光体は、パリティー許容の電子エネルギー遷移による蛍光を示すEu2+付活蛍光体よりもはるかに長い残光特性を示す。本開示は、パリティー禁制の電子エネルギー遷移による蛍光を示すCr3+付活蛍光体が、Eu2+付活蛍光体よりもはるかに長い残光特性を示すにも関わらず、蛍光出力の飽和が、驚くほど少ないことを見出してなし得たものである。
【0048】
第一の蛍光体4は、第一の波長変換光7がCr3+のスピン許容型の電子エネルギー遷移に基づく蛍光であるため、下記特性(A)~(D)の少なくとも1個を満たす蛍光を放射する。第一の波長変換光7は、特性(A)~(D)の2個以上を満たす蛍光を放射してもよい。
【0049】
[特性(A)]
特性(A)は、第一の波長変換光7の蛍光スペクトルは、波長710nmを超える波長領域に蛍光強度最大値を有する、という特性である。ここで、蛍光強度最大値とは、蛍光スペクトル中のピークのうち、蛍光強度が最大値を示すピークの最大蛍光強度を意味する。第一の波長変換光7の蛍光スペクトルは、好ましくは波長730nmを超え、より好ましくは波長750nmを超える波長領域に蛍光強度最大値を有する。
【0050】
第一の波長変換光7の蛍光スペクトルが波長710nmを超える波長領域に蛍光強度最大値を有する、すなわち特性(A)を満たす発光装置によれば、近赤外成分を多く含む点光源が容易に得られる。
【0051】
また、特性(A)を満たす発光装置は、第一の波長変換光7の蛍光スペクトルが、医療用に好適な波長領域である波長710nmを超える波長領域に蛍光強度最大値を有するため、医療用発光装置として好適である。
【0052】
[特性(B)]
特性(B)は、第一の波長変換光7の蛍光強度最大値ピークにおける80%スペクトル幅は、20nm以上80nm未満である、という特性である。ここで、蛍光強度最大値ピークにおける80%スペクトル幅とは、第一の波長変換光7の蛍光スペクトルのピークのうち蛍光強度最大値を有する蛍光強度最大値ピークにおける、発光ピーク強度(蛍光強度最大値)の80%の強度でのスペクトル幅を意味する。上記80%スペクトル幅は、好ましくは25nm以上70nm未満、より好ましくは30nm以上65nm未満である。
【0053】
上記80%スペクトル幅が上記範囲内にあると、蛍光イメージング法や光線力学療法(PDT法)において、蛍光薬剤や光感受性薬剤の感度の波長依存性のばらつきの影響を受けずに上記薬剤を用いることができる。ここで、光感受性薬剤とは、光感受性の薬剤を意味する。特性(B)を満たす発光装置によれば、仮に、蛍光薬剤や光感受性薬剤において感度の波長依存性にばらつきがあっても、このばらつきの影響を受けずに上記薬剤を十分に機能させることができる高出力の近赤外線を放射することが可能になる。
【0054】
[特性(C)]
特性(C)は、第一の波長変換光7の蛍光スペクトルの蛍光強度最大値に対する波長780nmの蛍光強度の比率は、30%を超える、という特性である。以下、上記蛍光強度の比率を「780nm蛍光強度比率」ともいう。780nm蛍光強度比率は、好ましくは60%を超え、より好ましくは80%を超える。
【0055】
780nm蛍光強度比率が上記範囲内にあると、第一の波長変換光7が、「生体の窓」と呼ばれる、光が生体を透過しやすい近赤外の波長域(650~1000nm)の蛍光成分を多く含む。このため、特性(C)を満たす発光装置によれば、生体を透過する近赤外の光強度を大きくすることができる。
【0056】
[特性(D)]
特性(D)は、第一の波長変換光7の1/10残光は1ms未満である、という特性である。ここで、1/10残光とは、最大発光強度を示した時間から、最大発光強度の1/10の強度になるまでに要した時間τ1/10を意味する。1/10残光は、好ましくは10μs以上1ms未満、より好ましくは10μs以上800μs未満、さらに好ましくは10μs以上400μs未満、特に好ましくは10μs以上350μs未満、さらに特に好ましくは10μs以上100μs未満である。
【0057】
1/10残光が上記範囲内にあると、第一の蛍光体4を励起する励起光の光密度が高い場合であっても、第一の蛍光体4が放射する蛍光の出力が飽和しにくくなる。このため、特性(D)を満たす発光装置によれば、高光密度のレーザー光を照射したときの蛍光の出力の飽和が少なく、高出力の近赤外光を放射することが可能になる。
【0058】
なお、第一の波長変換光7の1/10残光は、Ce3+やEu2+等のパリティー許容遷移に基づく短残光性(10μs未満)の蛍光の1/10残光より長くなる。これは、第一の波長変換光7が残光の比較的長いCr3+のスピン許容型の電子エネルギー遷移に基づく蛍光であるためである。
【0059】
第一の蛍光体4としては、例えば、Lu2CaMg2(SiO4)3:Cr3+、Y3Ga2(AlO4)3:Cr3+、Y3Ga2(GaO4)3:Cr3+、Gd3Ga2(AlO4)3:Cr3+、Gd3Ga2(GaO4)3:Cr3+、(Y,La)3Ga2(GaO4)3:Cr3+、(Gd,La)3Ga2(GaO4)3:Cr3+、Ca2LuZr2(AlO4)3:Cr3+、Ca2GdZr2(AlO4)3:Cr3+、Lu3Sc2(GaO4)3:Cr3+、Y3Sc2(AlO4)3:Cr3+、Y3Sc2(GaO4)3:Cr3+、Gd3Sc2(GaO4)3:Cr3+、La3Sc2(GaO4)3:Cr3+、Ca3Sc2(SiO4)3:Cr3+、Ca3Sc2(GeO4)3:Cr3+、BeAl2O4:Cr3+、LiAl5O8:Cr3+、LiGa5O8:Cr3+、Mg2SiO4:Cr3+,Li+、La3Ga5GeO14:Cr3+、La3Ga5.5Nb0.5O14:Cr3+等の蛍光体を用いることができる。
【0060】
第一の蛍光体4は、セラミックスからなることが好ましい。第一の蛍光体4がセラミックスからなると、第一の蛍光体4の放熱性が高まるため、温度消光による第一の蛍光体4の出力低下が抑制され、発光装置が高出力の近赤外光を放射することが可能になる。
【0061】
発光装置1では、第一の蛍光体4が放射する第一の波長変換光7は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく特定の蛍光成分を有する。これにより、発光装置1によれば、ICG等の蛍光薬剤やフタロシアニン等の光感受性薬剤(蛍光薬剤でもある。)を効率的に励起することができる。
【0062】
第一の波長変換光7は、好ましくは700nm以上800nm未満の波長範囲全体に亘って光成分を有し、より好ましくは750nm以上800nm未満の波長範囲全体に亘って光成分を有する。これにより、第一の蛍光体4が放射する近赤外域の光成分を蛍光薬剤や光感受性薬剤がさらに効率よく吸収することができ、蛍光薬剤から放射される近赤外光の光量や光感受性薬剤から放射される熱線を多くすることが可能になる。このため、第一の波長変換光7が700nm以上800nm未満の波長範囲全体に亘って光成分を有すると、蛍光薬剤から放射される近赤外光の光量や光感受性薬剤から放射される熱線が多くなり、医療用に好適な発光装置が得られる。
【0063】
なお、第一の波長変換光7の蛍光スペクトルは、Cr3+の電子エネルギー遷移に由来する線状スペクトル成分の証跡を含まないことが好ましい。Cr3+の電子エネルギー遷移に由来する線状スペクトル成分は、Cr3+のスピン禁制遷移による長残光性の蛍光成分である。第一の波長変換光7の蛍光スペクトルが上記証跡を含まない場合、第一の波長変換光7がCr3+のスピン禁制遷移による長残光性の蛍光成分を含まないため、高光密度のレーザー光を照射したときの蛍光出力の飽和がより小さい高出力の点光源が得られる。
【0064】
波長変換体3は、蛍光体としてCr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光を含む第一の蛍光体4のみを含む。また、第一の蛍光体4は、Cr3+以外の付活剤を含まない。このため、第一の蛍光体4に吸収された光は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光だけに変換される。したがって、第一の蛍光体4がCr3+以外の付活剤を含まない発光装置1によれば、近赤外の蛍光成分の出力割合を最大限にまで高める出力光の設計が容易になる。
【0065】
第一の蛍光体4は、ガーネットの結晶構造を有することが好ましい。ガーネット蛍光体は、組成変形が容易であることから数多くの蛍光体化合物の作製が可能である。このため、第一の蛍光体4がガーネットの結晶構造を有すると、Cr3+の周囲の結晶場の調整が容易であり、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく蛍光の色調制御が容易になる。
【0066】
なお、ガーネット構造を有する蛍光体、特に酸化物は、球に近い多面体の粒子形状を有し、蛍光体粒子群の分散性に優れる。このため、第一の蛍光体4がガーネット構造を有する場合、光透過性に優れる波長変換体3を比較的容易に製造でき、得られる発光装置1の高出力化が可能になる。また、ガーネットの結晶構造を有する蛍光体はLED用蛍光体として実用実績があるため、第一の蛍光体4がガーネットの結晶構造を有する発光装置1は、信頼性が高くなる。
【0067】
第一の蛍光体4は、酸化物系の蛍光体であることが好ましく、酸化物蛍光体であることがより好ましい。なお、酸化物系の蛍光体とは、酸素を含むが窒素は含まない蛍光体をいう。
【0068】
酸化物は大気中で安定な物質であるため、レーザー光による高密度の光励起によって酸化物蛍光体が発熱した場合に、窒化物蛍光体に比較して、大気で酸化されることによる蛍光体結晶の変質が生じにくい。第一の蛍光体4の全てが、酸化物系の蛍光体であると信頼性の高い発光装置1が得られる。
【0069】
なお、第一の蛍光体4は、二種類以上のCr3+付活蛍光体を含んでいてもよい。第一の蛍光体4が二種類以上のCr3+付活蛍光体を含む場合、少なくとも近赤外の波長領域の出力光成分を制御することができる。このため、第一の蛍光体4が二種類以上のCr3+付活蛍光体を含む発光装置によれば、近赤外の蛍光成分の分光分布の調整が容易になる。
【0070】
<封止材>
波長変換体3において、第一の蛍光体4は封止材5中に含まれる。好ましくは、第一の蛍光体4は封止材5中に分散される。第一の蛍光体4が封止材5中に分散されると、光源2が放射する一次光6を効率的に吸収し、効率的に近赤外光に波長変換することが可能になる。また、第一の蛍光体4が封止材5中に分散されると、波長変換体3をシート状やフィルム状に成形しやすくなる。
【0071】
封止材5は、有機材料及び無機材料の少なくとも一方からなる。封止材5は、好ましくは、透明(透光性)有機材料及び透明(透光性)無機材料の少なくとも一方からなる。有機材料の封止材としては、例えば、シリコーン樹脂等の透明有機材料が挙げられる。無機材料の封止材としては、例えば、低融点ガラス等の透明無機材料が挙げられる。
【0072】
なお、波長変換体3は無機材料からなることが好ましい。ここで無機材料とは、有機材料以外の材料を意味し、セラミックスや金属を含む概念である。波長変換体3が無機材料からなることにより、封止樹脂等の有機材料を含む波長変換体と比較して熱伝導性が高くなるため、放熱設計が容易となる。このため、光源2から放射された一次光6により第一の蛍光体4が高密度で光励起された場合でも、波長変換体3の温度上昇を効果的に抑制することができる。この結果、波長変換体3中の第一の蛍光体4の温度消光が抑制され、発光の高出力化が可能になる。
【0073】
波長変換体3は無機材料からなる場合、封止材5は無機材料からなることが好ましい。また、封止材5用の無機材料としては、酸化亜鉛(ZnO)が好ましい。封止材5が無機材料からなると、第一の蛍光体4の放熱性がさらに高まるため、温度消光による第一の蛍光体4の出力低下が抑制され、高出力の近赤外光を放射することが可能になる。
【0074】
なお、発光装置1の変形例として、波長変換体3に代えて、封止材5を含まない波長変換体とすることもできる。この場合、有機又は無機の結着剤を用いて、第一の蛍光体4同士を固着すればよい。また、第一の蛍光体4の加熱反応を用いて、第一の蛍光体4同士を固着することもできる。結着剤としては、一般的に用いられる樹脂系の接着剤、又はセラミックス微粒子や低融点ガラス等を用いることができる。封止材5を含まない波長変換体によれば、波長変換体の厚みを薄くすることができる。
【0075】
(作用)
発光装置1の作用について説明する。はじめに、光源2から放射された一次光6(レーザー光)が波長変換体3の正面3aに照射される。照射された一次光6は、波長変換体3を透過する。そして、一次光6が波長変換体3を透過する際に、波長変換体3に含まれる第一の蛍光体4が一次光6の一部を吸収して第一の波長変換光7を放射する。このようにして、波長変換体3の背面3bから、出力光として一次光6と第一の波長変換光7とを含む光が放射される。
【0076】
発光装置1は、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく近赤外の蛍光成分を多く含む特定の蛍光成分を有する第一の波長変換光7を放射するため、医療用近赤外光源又はセンシング用近赤外光源として適するものになる。
【0077】
発光装置1は、医療用光源又は医療用照明装置用の照明装置とすることができる。また、発光装置1は、特に、蛍光イメージング法又は光線力学療法を用いる医療システム用の照明装置とすることができる。なお、これらの医療システムは、蛍光薬剤を用いる医療システムであるため、上記医療システム用の発光装置1は、蛍光薬剤を用いる医療システム用の発光装置ともいえる。
【0078】
医療用光源又は医療用照明装置用の照明装置としての発光装置1は、「生体の窓」を通して、生体内部を、近赤外のブロードな高出力光で照らし、生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分機能させることができる光源又は照明装置になる。このため、医療用光源又は医療用照明装置用の照明装置、特に蛍光イメージング法又は光線力学療法を用いる医療システム用の照明装置としての発光装置1によれば、大きな治療効果を期待できる発光装置が得られる。
【0079】
発光装置1は、センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムとすることもできる。発光装置1では、近赤外の波長領域に受光感度を有する、オーソドックスな受光素子を用いて、高感度のセンシングシステムを構成することができる。このため、センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムとしての発光装置1によれば、センシングシステムの小型化やセンシング範囲の広域化を容易にする発光装置が得られる。
【0080】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る発光装置1Aについて説明する。第2の実施形態に係る発光装置1Aは、第1の実施形態に係る発光装置1の波長変換体3に代えて、波長変換体3Aを用いたものである。第2の実施形態に係る発光装置1Aと、第1の実施形態に係る発光装置1との相違点は、波長変換体3Aのみにある。このため、以下、波長変換体3Aについて説明し、これ以外の部材については、構成及び作用の説明を省略又は簡略化する。
【0081】
(波長変換体)
波長変換体3Aは、第一の蛍光体4と第二の蛍光体8と封止材5とを含む。波長変換体3Aにおいて、第一の蛍光体4及び第二の蛍光体8は封止材5中に含まれる。すなわち、発光装置1Aの波長変換体3Aは、一次光6を吸収して、一次光6よりも長波長でかつ第一の波長変換光7とは異なる第二の波長変換光9に変換する第二の蛍光体8を、をさらに備える。
【0082】
波長変換体3Aは、第二の蛍光体8をさらに含む以外は、第1の実施形態に係る発光装置1の波長変換体3と同じである。このため、以下、主に第二の蛍光体8について説明し、これ以外の構成及び作用の説明を省略又は簡略化する。
【0083】
<第二の蛍光体>
第二の蛍光体8は、一次光6を吸収して、一次光6よりも長波長でかつ第一の波長変換光7とは異なる第二の波長変換光9に変換する蛍光体である。発光装置1Aは、波長変換体3Aが第一の蛍光体4に加えて第二の蛍光体8をさらに備えることにより、光源2が発する一次光6、例えば青色レーザー光との加法混色により、白色の出力光を放射することが可能になっている。
【0084】
このように、波長変換体3Aが第一の蛍光体4に加えて第二の蛍光体8をさらに備えると、波長変換体3Aから放射される蛍光スペクトルの形状や励起特性を制御できるようになる。このため、得られる発光装置1Aは使用用途に応じて出力光の分光分布を容易に調整することが可能になる。
【0085】
波長変換体3Aに含まれる第二の蛍光体8は、光源2が発する一次光6を吸収して可視光である第二の波長変換光9を放射できるものであれば特に限定されない。第二の蛍光体8は、好ましくは、ガーネット型、カルシウムフェライト型、及びランタンシリコンナイトライド(La3Si6N11)型の結晶構造からなる化合物群より選ばれる少なくとも一つを主成分とする化合物を母体としてなるCe3+付活蛍光体である。また、第二の蛍光体8は、好ましくは、ガーネット型、カルシウムフェライト型、及びランタンシリコンナイトライド(La3Si6N11)型の結晶構造からなる化合物群より選ばれる少なくとも一つの化合物を母体としてなるCe3+付活蛍光体である。このような第二の蛍光体8を用いると、緑色系から黄色系の光成分を多く有する出力光を得ることが可能になる。
【0086】
第二の蛍光体8としては、例えば、M3RE2(SiO4)3、RE3Al2(AlO4)3、MRE2O4、及びRE3Si6N11からなる群より選ばれる少なくとも一つを主成分とする化合物(B)を母体としてなるCe3+付活蛍光体が用いられる。また、第二の蛍光体8としては、例えば、M3RE2(SiO4)3、RE3Al2(AlO4)3、MRE2O4、及びRE3Si6N11からなる群より選ばれる少なくとも一つを母体としてなるCe3+付活蛍光体が用いられる。第二の蛍光体8は、好ましくは、上記化合物(B)を端成分とする固溶体を母体としてなるCe3+付活蛍光体である。なお、上記化合物(B)において、Mはアルカリ土類金属であり、REは希土類元素である。
【0087】
これらの第二の蛍光体8は、430nm以上480nm以下の波長範囲内の光をよく吸収し、540nm以上590nm未満の波長範囲内に強度最大値を有する緑色~黄色系の光に高効率に変換する。このため、寒色光を一次光6として放射する光源2とした上で、上記第二の蛍光体8として用いることにより、可視光成分を容易に得ることが可能になる。
【0088】
波長変換体3Aが第一の蛍光体4と第二の蛍光体8とを含む場合、第一の蛍光体4は、光源2が発する一次光6及び第二の蛍光体8が発する第二の波長変換光9の少なくともいずれか一方を吸収することで、第一の波長変換光7を放射することが好ましい。上述のように、第一の蛍光体4は、光源2が発する一次光6を吸収して、近赤外光である第一の波長変換光7を放射する蛍光体であることが好ましい。
【0089】
第一の蛍光体4は、第二の蛍光体8が発する第二の波長変換光9を吸収して、近赤外光である第一の波長変換光7を放射する蛍光体であってもよい。すなわち、第二の蛍光体8が一次光6によって励起されて第二の波長変換光9を放射し、第一の蛍光体4は第二の波長変換光9によって励起されて第一の波長変換光7を放射してもよい。この場合、第一の蛍光体4が一次光6によってほとんど励起されない蛍光体であっても、第二の蛍光体8を介することによって、第二の蛍光体8が発する蛍光により励起することが可能になる。
【0090】
このため、第一の蛍光体4が第二の波長変換光9を吸収して第一の波長変換光7を放射する場合、第一の蛍光体4として、可視光を吸収する蛍光体を選択できるようになるため、第一の蛍光体4の選択肢が広がり、発光装置1Aの工業生産が容易になる。また、第一の蛍光体4が第二の波長変換光9を吸収して第一の波長変換光7を放射する場合、発光装置1Aは、近赤外の光成分強度が大きい第一の波長変換光7を放射することが可能になる。
【0091】
なお、第二の蛍光体8は、二種類以上のCr3+付活蛍光体を含んでいてもよい。第二の蛍光体8が二種類以上のCr3+付活蛍光体を含む場合、少なくとも近赤外の波長領域の出力光成分を制御することができるため、近赤外の蛍光成分の分光分布の調整が容易になる。
【0092】
(作用)
発光装置1Aの作用について説明する。はじめに、光源2から放射された一次光6(レーザー光)が波長変換体3Aの正面3aに照射される。照射された一次光6は、波長変換体3Aを透過する。そして、一次光6が波長変換体3Aを透過する際に、波長変換体3Aに含まれる第二の蛍光体8が一次光6の一部を吸収して第二の波長変換光9を放射する。さらに、波長変換体3Aに含まれる第一の蛍光体4が一次光6及び/又は第二の波長変換光9の一部を吸収して第一の波長変換光7を放射する。このようにして、波長変換体3Aの背面3bから、出力光として一次光6と第一の波長変換光7と第二の波長変換光9とを含む光が放射される。
【0093】
発光装置1Aは、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく近赤外の蛍光成分を多く含む特定の蛍光成分を有する第一の波長変換光7を放射するため、医療用近赤外光源又はセンシング用近赤外光源として適するものになる。
【0094】
発光装置1Aは、医療用光源又は医療用照明装置用の照明装置とすることができる。また、発光装置1Aは、特に、蛍光イメージング法又は光線力学療法を用いる医療システム用の照明装置とすることができる。なお、これらの医療システムは、蛍光薬剤又は光感受性薬剤を用いる医療システムであるため、上記医療システム用の発光装置1Aは、蛍光薬剤又は光感受性薬剤を用いる医療システム用の発光装置ともいえる。
【0095】
発光装置1Aは、「生体の窓」を通して、生体内部を、近赤外のブロードな高出力光で照らし、生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分機能させることができる光源又は照明装置になる。このため、発光装置1Aによれば、大きな治療効果を期待できる発光装置が得られる。
【0096】
発光装置1Aは、センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムとすることもできる。発光装置1Aでは、近赤外の波長領域に受光感度を有する、オーソドックスな受光素子を用いて、高感度のセンシングシステムを構成することができる。このため、発光装置1Aによれば、センシングシステムの小型化やセンシング範囲の広域化を容易にする発光装置が得られる。
【0097】
[第3の実施形態]
第3の実施形態に係る発光装置1Bについて説明する。第3の実施形態に係る発光装置1Bは、第1の実施形態に係る発光装置1の波長変換体3に代えて、波長変換体3Bを用いたものである。第3の実施形態に係る発光装置1Bと、第1の実施形態に係る発光装置1との相違点は、波長変換体3Bのみにある。このため、以下、波長変換体3Bについて説明し、これ以外の部材については、構成及び作用の説明を省略又は簡略化する。
【0098】
(波長変換体)
波長変換体3Bは、第一の蛍光体4と封止材5とを含む。波長変換体3Bにおいて、第一の蛍光体4は封止材5中に含まれる。波長変換体3Bは、第一の蛍光体4と封止材5とを含む点で第1の実施形態に係る発光装置1の波長変換体3と同じであるが、光学的な作用が波長変換体3と異なる。
【0099】
第1の実施形態に係る発光装置1の波長変換体3では、波長変換体3に照射された一次光6は、波長変換体3を透過する。一方、波長変換体3Bでは、波長変換体3Bに照射された一次光6は、多くが波長変換体3Bの正面3aから波長変換体3B内に入射し、残部が正面3aで反射するようになっている。
【0100】
波長変換体3Bでは、一次光6(レーザー光)の照射光が波長変換体3Bの正面3aから入射し、第一の蛍光体4の出力光が波長変換体3Bの正面3aから放射されるように構成される。これにより、波長変換体3Bに照射された一次光6は、多くが波長変換体3Bの正面3aから波長変換体3B内に入射し、残部が正面3aで反射するようになっている。
【0101】
(作用)
発光装置1Bの作用について説明する。はじめに、光源2から放射された一次光6(レーザー光)が波長変換体3Bの正面3aに照射される。一次光6は、多くが波長変換体3Bの正面3aから波長変換体3B内に入射し、残部が正面3aで反射する。波長変換体3Bでは、一次光6で励起された第一の蛍光体4から第一の波長変換光7が放射され、第一の波長変換光7は正面3aから放射される。
【0102】
発光装置1Bは、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく近赤外の蛍光成分を多く含む特定の蛍光成分を有する第一の波長変換光7を放射するため、医療用近赤外光源又はセンシング用近赤外光源として適するものになる。
【0103】
発光装置1Bは、医療用光源又は医療用照明装置用の照明装置とすることができる。また、発光装置1Bは、特に、蛍光イメージング法又は光線力学療法を用いる医療システム用の照明装置とすることができる。なお、これらの医療システムは、蛍光薬剤又は光感受性薬剤を用いる医療システムであるため、上記医療システム用の発光装置1Bは、蛍光薬剤又は光感受性薬剤を用いる医療システム用の発光装置ともいえる。
【0104】
発光装置1Bは、「生体の窓」を通して、生体内部を、近赤外のブロードな高出力光で照らし、生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分機能させることができる光源又は照明装置になる。このため、発光装置1Bによれば、大きな治療効果を期待できる発光装置が得られる。
【0105】
発光装置1Bは、センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムとすることもできる。発光装置1Bでは、近赤外の波長領域に受光感度を有する、オーソドックスな受光素子を用いて、高感度のセンシングシステムを構成することができる。このため、発光装置1Bによれば、センシングシステムの小型化やセンシング範囲の広域化を容易にする発光装置が得られる。
【0106】
[第4の実施形態]
第4の実施形態に係る発光装置1Cについて説明する。第4の実施形態に係る発光装置1Cは、第2の実施形態に係る発光装置1Aの波長変換体3Aに代えて、波長変換体3Cを用いたものである。第4の実施形態に係る発光装置1Cと、第2の実施形態に係る発光装置1Aとの相違点は、波長変換体3Cのみにある。このため、以下、波長変換体3Cについて説明し、これ以外の部材については、構成及び作用の説明を省略又は簡略化する。
【0107】
(波長変換体)
波長変換体3Cは、第一の蛍光体4と第二の蛍光体8と封止材5とを含む。波長変換体3Cにおいて、第一の蛍光体4及び第二の蛍光体8は封止材5中に含まれる。すなわち、発光装置1Cの波長変換体3Cは、一次光6を吸収して、一次光6よりも長波長でかつ第一の波長変換光7とは異なる第二の波長変換光9に変換する第二の蛍光体8を、をさらに備える。波長変換体3Cは、第一の蛍光体4と第二の蛍光体8と封止材5とを含む点で第2の実施形態に係る発光装置1Aの波長変換体3Aと同じであるが、光学的な作用が波長変換体3Aと異なる。
【0108】
波長変換体3Cで用いられる第二の蛍光体8は、第2の実施形態に係る発光装置1Aの波長変換体3Aと同じであるため、説明を省略する。発光装置1Cは、波長変換体3Cが第二の蛍光体8を含むことにより、光源2が発する一次光6、例えば青色レーザー光との加法混色により、白色の出力光を放射することが可能になっている。
【0109】
このように、第一の蛍光体4と第二の蛍光体8とを適宜組み合わせて用いると、第一の波長変換光7の蛍光スペクトルの形状や励起特性を制御できるようになる。このため、得られる発光装置Cは使用用途に応じて出力光の分光分布を容易に調整できるものになる。
【0110】
第2の実施形態に係る発光装置1の波長変換体3Aでは、波長変換体3Aに照射された一次光6は、波長変換体3を透過する。一方、波長変換体3Cでは、波長変換体3Cに照射された一次光6は、多くが波長変換体3Cの正面3aから波長変換体3C内に入射し、残部が正面3aで反射するようになっている。
【0111】
波長変換体3Cでは、一次光6(レーザー光)の照射光が波長変換体3Bの正面3aから入射し、第一の蛍光体4の出力光が波長変換体3Bの正面3aから放射されるように構成される。これにより、波長変換体3Cに照射された一次光6は、多くが波長変換体3Cの正面3aから波長変換体3C内に入射し、残部が正面3aで反射するようになっている。
【0112】
(作用)
図4に示す発光装置1Cでは、はじめに、光源2から放射された一次光6(レーザー光)が波長変換体3Cの正面3aに照射される。一次光6は、多くが波長変換体3Cの正面3aから波長変換体3C内に入射し、残部が正面3aで反射する。波長変換体3Cでは、一次光6で励起された第二の蛍光体8から第二の波長変換光9が放射され、一次光6及び/又は第二の波長変換光9で励起された第一の蛍光体4から第一の波長変換光7が放射される。そして、第一の波長変換光7及び第二の波長変換光9は正面3aから放射される。
【0113】
発光装置1Cは、Cr3+の電子エネルギー遷移に基づく近赤外の蛍光成分を多く含む特定の蛍光成分を有する第一の波長変換光7を放射するため、医療用近赤外光源又はセンシング用近赤外光源として適するものになる。
【0114】
発光装置1Cは、医療用光源又は医療用照明装置用の照明装置とすることができる。また、発光装置1Cは、特に、蛍光イメージング法又は光線力学療法を用いる医療システム用の照明装置とすることができる。なお、これらの医療システムは、蛍光薬剤又は光感受性薬剤を用いる医療システムであるため、上記医療システム用の発光装置1Cは、蛍光薬剤又は光感受性薬剤を用いる医療システム用の発光装置ともいえる。
【0115】
発光装置1Cは、「生体の窓」を通して、生体内部を、近赤外のブロードな高出力光で照らし、生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分機能させることができる光源又は照明装置になる。このため、発光装置1Cによれば、大きな治療効果を期待できる発光装置が得られる。
【0116】
発光装置1Cは、センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムとすることもできる。発光装置1Cでは、近赤外の波長領域に受光感度を有する、オーソドックスな受光素子を用いて、高感度のセンシングシステムを構成することができる。このため、発光装置1Cによれば、センシングシステムの小型化やセンシング範囲の広域化を容易にする発光装置が得られる。
【0117】
[電子機器]
上記発光装置1~1Cのいずれかを用いて本実施形態に係る電子機器を得ることができる。すなわち、本実施形態に係る電子機器は、本実施形態に係る発光装置1~1Cのいずれかを備える。発光装置1~1Cは、大きな治療効果を期待することができ、センシングシステムの小型化等が容易である。本実施形態に係る電子機器は、本実施形態に係る発光装置を用いるため、医療機器やセンシング機器用に用いると、大きな治療効果やセンシングシステムの小型化等を期待することができる。
【0118】
[内視鏡及び内視鏡システム]
本実施形態に係る内視鏡は、上記医療用発光装置を備える。以下、本実施形態に係る内視鏡及び当該内視鏡を用いた内視鏡システムの一例について、
図6及び
図7を用いて説明する。なお、以下で説明する内視鏡は、近赤外光に加えて可視光を放射する発光装置1A又は1Cを備える例である。
【0119】
(内視鏡)
図6に示すように、内視鏡11は、スコープ110、光源コネクタ111、マウントアダプタ112、リレーレンズ113、カメラヘッド114、及び操作スイッチ115を備える。
【0120】
スコープ110は、末端から先端まで光を導くことが可能な細長い導光部材であり、使用時には体内に挿入される。スコープ110は先端に撮像窓110zを備えており、撮像窓110zには光学ガラスや光学プラスチック等の光学材料が用いられる。スコープ110は、さらに、光源コネクタ111から導入された光を先端まで導く光ファイバーと、撮像窓110zから入射した光学像が伝送される光ファイバーとを有する。
【0121】
マウントアダプタ112は、スコープ110をカメラヘッド114に取り付けるための部材である。マウントアダプタ112には、種々のスコープ110が着脱自在に装着される。
【0122】
光源コネクタ111は、発光装置1A又は1Cから、体内の患部等に照射される照明光を導入する。本実施形態では、照明光は可視光及び近赤外光を含んでいる。光源コネクタ111に導入された光は、光ファイバーを介してスコープ110の先端まで導かれ、撮像窓110zから体内の患部等に照射される。なお、
図6に示すように、光源コネクタ111には、発光装置1A又は1Cからスコープ110に照明光を導くための伝送ケーブル111zが接続されている。伝送ケーブル111zには、光ファイバーが含まれていてもよい。
【0123】
リレーレンズ113は、スコープ110を通して伝達される光学像を、イメージセンサの撮像面に収束させる。なお、リレーレンズ113は、操作スイッチ115の操作量に応じてレンズを移動させて、焦点調整及び倍率調整を行ってもよい。
【0124】
カメラヘッド114は、色分解プリズムを内部に有する。色分解プリズムは、リレーレンズ113で収束された光を、R光(赤色光)、G光(緑色光)、B光(青色光)、及びIR光(近赤外光)の4色に分解する。色分解プリズムは、例えば、ガラス等の透光性部材で構成されている。
【0125】
カメラヘッド114は、さらに、検出器としてのイメージセンサを内部に有する。イメージセンサは、例えば4つ備えられており、4つのイメージセンサは、各々の撮像面に結像した光学像を電気信号に変換する。イメージセンサは特に限定されないが、CCD(Charge Coupled Device)及びCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)の少なくとも一方を用いることができる。4つのイメージセンサは、IR成分(近赤外成分)、B成分(青色成分)、R成分(赤色成分)、及びG成分(緑色成分)の光をそれぞれ受光する専用のセンサである。
【0126】
カメラヘッド114は、色分解プリズムの代わりに、カラーフィルターを内部に有していてもよい。カラーフィルターは、イメージセンサの撮像面に備えられる。カラーフィルターは、例えば4つ備えられており、4つのカラーフィルターは、リレーレンズ113で収束された光を受けて、R光(赤色光)、G光(緑色光)、B光(青色光)、及びIR光(近赤外光)をそれぞれ選択的に透過させる。
【0127】
IR光を選択的に透過するカラーフィルターには、照明光に含まれる近赤外光(IR光)の反射成分をカットするバリアフィルムが備えられていることが好ましい。これにより、ICGから発せられたIR光からなる蛍光のみが、IR光用のイメージセンサの撮像面に結像するようになる。このため、ICGにより発光した患部を明瞭に観察しやすくなる。
【0128】
なお、
図6に示すように、カメラヘッド114には、イメージセンサからの電気信号を、後述するCCU12に伝送するための信号ケーブル114zが接続されている。
【0129】
このような構成の内視鏡11では、被検体からの光は、スコープ110を通ってリレーレンズ113に導かれ、さらにカメラヘッド114内の色分解プリズムを透過して4つのイメージセンサに結像する。
【0130】
(内視鏡システム)
図7に示すように、内視鏡システム100は、被検体内を撮像する内視鏡11、CCU(Camera Control Unit)12、発光装置1A又は1C、及びディスプレイ等の表示装置13を備える。
【0131】
CCU12は、少なくとも、RGB信号処理部、IR信号処理部、及び出力部を備える。CCU12は、CCU12の内部又は外部のメモリが保持するプログラムを実行することで、RGB信号処理部、IR信号処理部、及び出力部の各機能を実現する。
【0132】
RGB信号処理部は、イメージセンサからのB成分、R成分、G成分の電気信号を、表示装置13に表示可能な映像信号に変換し、出力部に出力する。また、IR信号処理部は、イメージセンサからのIR成分の電気信号を映像信号に変換し、出力部に出力する。
【0133】
出力部は、RGB各色成分の映像信号及びIR成分の映像信号の少なくとも一方を表示装置13に出力する。例えば、出力部は、同時出力モード及び重畳出力モードのいずれかに基づいて、映像信号を出力する。
【0134】
同時出力モードでは、出力部は、RGB画像とIR画像とを別画面により同時に出力する。同時出力モードにより、RGB画像とIR画像とを別画面で比較して、患部を観察することができる。重畳出力モードでは、出力部は、RGB画像とIR画像とが重畳された合成画像を出力する。重畳出力モードにより、例えば、RGB画像内で、ICGにより発光した患部を明瞭に観察することができる。
【0135】
表示装置13は、CCU12からの映像信号に基づいて、患部等の対象物の画像を画面に表示する。同時出力モードの場合、表示装置13は、画面を複数に分割し、各画面にRGB画像及びIR画像を並べて表示する。重畳出力モードの場合、表示装置13は、RGB画像とIR画像とが重ねられた合成画像を1画面で表示する。
【0136】
(作用)
次に、本実施形態に係る内視鏡11及び内視鏡システム100の作用について説明する。内視鏡システム100を用いて被検体を観察する場合、はじめに蛍光物質であるインドシアニングリーン(ICG)を被検体に投与する。これにより、ICGがリンパや腫瘍等の部位(患部)に集積する。
【0137】
次に、伝送ケーブル111zを通じて、発光装置1A又は1Cから光源コネクタ111に可視光及び近赤外光を導入する。光源コネクタ111に導入された光は、スコープ110の先端側に導かれ、撮像窓110zから投射されることで、患部を含む患部周囲を照射する。患部等で反射された光及びICGから発せられた蛍光は、撮像窓110z及び光ファイバーを通してスコープ110の後端側に導かれ、リレーレンズ113で収束し、カメラヘッド114内部の色分解プリズムに入射する。
【0138】
色分解プリズムでは、入射した光のうち、IR分解プリズムによって分解したIR成分の光は、IR用のイメージセンサで、赤外光成分の光学像として撮像される。青色分解プリズムによって分解したB成分の光は、青色用のイメージセンサで、青色成分の光学像として撮像される。赤色分解プリズムによって分解したR成分の光は、赤色用のイメージセンサで、赤色成分の光学像として撮像される。緑色分解プリズムによって分解したG成分の光は、緑色用のイメージセンサで、緑色成分の光学像として撮像される。
【0139】
IR用のイメージセンサで変換されたIR成分の電気信号は、CCU12内部のIR信号処理部で映像信号に変換される。RGB用のイメージセンサでそれぞれ変換されたB成分、R成分、G成分の各電気信号は、CCU12内部のRGB信号処理部で各映像信号に変換される。IR成分の映像信号及びB成分、R成分、G成分の各映像信号は同期して、表示装置13に出力される。
【0140】
CCU12内部で同時出力モードが設定されている場合、表示装置13には、RGB画像とIR画像とが同時に2画面で表示される。また、CCU12内部で重畳出力モードが設定されている場合、表示装置13には、RGB画像とIR画像とが重畳された合成画像が表示される。
【0141】
このように、本実施形態に係る内視鏡11は、医療用発光装置1、1A、1B及び1Cを備える。このため、内視鏡11を用いて蛍光薬剤を効率的に励起して発光させることにより、患部を明瞭に観察することが可能になる。
【0142】
本実施形態に係る内視鏡11は、第一の波長変換光7を吸収した蛍光薬剤から発せられる蛍光を検出する検出器をさらに備えることが好ましい。内視鏡11が発光装置1、1A、1B及び1Cに加えて、蛍光薬剤から発せられた蛍光を検出する検出器を一体的に備えることにより、内視鏡のみで患部を特定することができる。このため、従来のように大きく開腹して患部を特定する必要がないことから、患者の負担が少ない診察及び治療を行うことが可能になる。また、内視鏡11を使用する医師は患部を正確に把握できることから、治療効率を向上させることが可能になる。
【0143】
[発光装置の使用方法]
次に、本実施形態に係る発光装置の使用方法について説明する。本実施形態に係る発光装置の使用方法は、発光装置が蛍光イメージング法又は光線力学療法を用いる医療システム用の照明装置である場合の発光装置の使用方法である。本実施形態に係る発光装置の使用方法は、被検体に蛍光薬剤又は光感受性薬剤を投与する工程と、蛍光薬剤又は光感受性薬剤が接触した被検体に、第一の波長変換光を照射する工程と、を有する。以下、本実施形態に係る発光装置の使用方法を、蛍光イメージング法を用いる発光装置の使用方法と、光線力学療法を用いる発光装置の使用方法とに分けて詳述する。
【0144】
(蛍光イメージング法を用いる発光装置の使用方法)
はじめに、蛍光イメージング法を用いる発光装置の使用方法について説明する。蛍光イメージング法を用いる発光装置の使用方法は、医療用発光装置の一例として説明した上記発光装置1、1A、1B、1Cを医療システム用の照明装置として用いる場合又は内視鏡11を用いる場合の使用方法であって、蛍光イメージング法を用いるものである。蛍光イメージング法を用いる発光装置の使用方法は、被検体に蛍光薬剤を投与する工程と、蛍光薬剤が接触した被検体に、第一の波長変換光7を照射する工程と、を有する。
【0145】
蛍光イメージング法を用いる発光装置の使用方法では、はじめに、被検体に蛍光薬剤を投与して、蛍光薬剤を被検体内の患部に特異的に集積させる。被検体に投与される蛍光薬剤としては、上述のように、近赤外光領域の励起光を吸収し、さらに当該励起光よりも長波長であり、かつ、近赤外光領域の蛍光を放射する薬剤を用いることができる。蛍光薬剤としては、例えば、インドシアニングリーン(ICG)、フタロシアニン系の化合物、タラポルフィンナトリウム系の化合物、及びDipicolylcyanine(DIPCY)系の化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0146】
次に、蛍光薬剤が接触した被検体に、第一の波長変換光7を照射する。上述のように、第一の波長変換光7は、医療用発光装置1、1A、1B、1C又は内視鏡11から発せられ、少なくとも700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有している。近赤外光領域の光は、生体内のヘモグロビンや水によって散乱されにくく、生体を透過しやすいため、第一の波長変換光7は生体を透過して蛍光薬剤を励起する。励起した蛍光薬剤は、励起光よりも長波長であり、かつ、近赤外光領域の蛍光を放射する。そして、このように蛍光薬剤から発せられた蛍光を、検出器を用いて検出することにより、生体内の患部の観察及び治療が可能となる。
【0147】
上述のように、第一の波長変換光7は、少なくとも700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有するため、蛍光薬剤に特性バラツキが生じた場合でも、高効率に蛍光薬剤を励起することが可能となる。また、医療用発光装置1、1A、1B、1Cの固体発光素子2がレーザー光を放射する場合には、第一の蛍光体4から発せられる第一の波長変換光7は高強度となる。このため、被検体内の蛍光薬剤をより高効率に励起して、長波長の蛍光を放射することが可能となる。
【0148】
(光線力学療法を用いる発光装置の使用方法)
次に、光線力学療法を用いる発光装置の使用方法について説明する。光線力学療法を用いる発光装置の使用方法は、医療用発光装置の一例として説明した上記発光装置1、1A、1B、1Cを医療システム用の照明装置として用いる場合又は内視鏡11を用いる場合の使用方法であって、光線力学療法を用いるものである。光線力学療法を用いる発光装置の使用方法は、光感受性薬剤を投与する工程と、光感受性薬剤が接触した被検体に、第一の波長変換光7を照射する工程と、を有する。ここで、光感受性薬剤とは、光を吸収して熱や活性酸素種を生じる物質を意味する。また、光感受性薬剤は、光感受性物質、光感受性化合物、光増感剤、発熱物質等とも称される。
【0149】
光線力学療法を用いる発光装置の使用方法では、はじめに、被検体に光感受性薬剤を投与して、光感受性薬剤を被検体内の患部に特異的に集積させる。被検体に投与される光感受性薬剤としては、上述のように、近赤外光領域の励起光を吸収し、熱や活性酸素種を生じる薬剤を用いることができる。光感受性薬剤としては、例えば、フタロシアニン系の化合物、タラポルフィンナトリウム系の化合物、及びポルフィルマーナトリウム系の化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0150】
次に、光感受性薬剤が接触した被検体に、第一の波長変換光7を照射する。上述のように、第一の波長変換光7は、医療用発光装置1、1A、1B、1C又は内視鏡11から発せられ、少なくとも700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有している。近赤外光領域の光は、生体内のヘモグロビンや水によって散乱されにくく、生体を透過しやすいため、第一の波長変換光7は生体を透過して光感受性薬剤を照射する。第一の波長変換光7が照射した光感受性薬剤は、熱や活性酸素種を生じる。そして、このように光感受性薬剤から生じた熱や活性酸素種が、癌細胞を死滅させることにより、生体内の患部の治療が可能となる。
【0151】
上述のように、第一の波長変換光7は、少なくとも700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を有するため、光感受性薬剤に特性バラツキが生じた場合でも、高効率に光感受性薬剤から熱や活性酸素種を発生させることが可能となる。また、医療用発光装置1、1A、1B、1Cの固体発光素子2がレーザー光を放射する場合には、第一の蛍光体4から発せられる第一の波長変換光7は高強度となる。このため、高効率に光感受性薬剤から熱や活性酸素種を発生させることが可能となる。
【0152】
蛍光イメージング法で用いられる蛍光薬剤、及び、光線力学療法で用いられる光感受性薬剤は、ソルバトクロミック効果や、会合による電子吸引性変化や、官能基・置換基・側鎖の種類の違い等によって、被検体内で、吸収スペクトルが変化することがある。ここで、ソルバトクロミック効果とは、溶媒の極性の変化によって基底状態及び励起状態が変化する効果である。また、会合とは、分子間力による同種分子同士の結合を意味する。このため、レーザー素子のような固体発光素子が放射する光が発光スペクトル半値幅が狭い光であると、薬剤の吸収スペクトル変化に対応できない場合がある。具体的には、固体発光素子が放射する光が発光スペクトル半値幅が狭い光であると、薬剤の光エネルギーから光エネルギーへの変換効率、及び、薬剤の光エネルギーから熱エネルギーへの変換効率が低下する場合がある。
【実施例】
【0153】
[参考例1]
(蛍光体の調製)
固相反応を用いる調製手法を用いて酸化物蛍光体を合成した。具体的には、Y3(Ga0.98,Cr0.02)2(GaO4)3の組成式で表される酸化物蛍光体を合成した。なお、酸化物蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として用いた。
酸化イットリウム(Y2O3):純度3N、信越化学工業株式会社製
酸化ガリウム(Ga2O3):純度4N、アジア物性材料株式会社製
酸化クロム(Cr2O3):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
【0154】
はじめに、化学量論的組成の化合物Y3(Ga0.98,Cr0.02)2(GaO4)3となるように、上記原料を秤量した。次に、乳鉢と乳棒を用いて乾式混合し、焼成原料とした。
【0155】
上記焼成原料を蓋付きのアルミナるつぼに移し、箱型電気炉を用いて1600℃の大気中で2時間焼成した後、焼成物を軽く解砕したところ、参考例1の蛍光体が得られた。なお、焼成後の試料がY3(Ga0.98,Cr0.02)2(GaO4)3であることは、X線回折法によって確認した。
【0156】
(発光スペクトルの評価)
蛍光体の発光スペクトルを、分光蛍光光度計FP-6500(日本分光株式会社製)を用いて評価した。
【0157】
[実施例2]
(蛍光体の調製)
固相反応を用いる調製手法を用いて酸化物蛍光体を合成した。具体的には、Gd3(Ga0.98,Cr0.02)2(GaO4)3の組成式で表される酸化物蛍光体を合成した。なお、酸化物蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として用いた。
酸化ガドリニウム(Gd2O3):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
酸化ガリウム(Ga2O3):純度4N、アジア物性材料株式会社製
酸化クロム(Cr2O3):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
【0158】
はじめに、化学量論的組成の化合物Gd3(Ga0.98,Cr0.02)2(GaO4)3となるように、上記原料を秤量した。次に、乳鉢と乳棒を用いて乾式混合し、焼成原料とした。
【0159】
上記焼成原料を蓋付きのアルミナるつぼに移し、箱型電気炉を用いて1600℃の大気中で2時間焼成した後、焼成物を軽く解砕したところ、実施例2の蛍光体が得られた。なお、焼成後の試料がGd3(Ga0.98,Cr0.02)2(GaO4)3であることは、X線回折法によって確認した。
【0160】
(発光スペクトルの評価)
参考例1と同様にして、蛍光体の発光スペクトルを評価した。結果を
図8及び表1に示す。
【0161】
[実施例3]
(蛍光体の調製)
固相反応を用いる調製手法を用いて酸化物蛍光体を合成した。具体的には、(Gd0.75,La0.25)3(Ga0.98,Cr0.02)2(GaO4)3の組成式で表される酸化物蛍光体を合成した。なお、酸化物蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として用いた。
酸化ガドリニウム(Gd2O3):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
酸化ランタン(La2O3):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
酸化ガリウム(Ga2O3):純度4N、アジア物性材料株式会社製
酸化クロム(Cr2O3):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
【0162】
はじめに、化学量論的組成の化合物(Gd0.75,La0.25)3(Ga0.98,Cr0.02)2(GaO4)3となるように、上記原料を秤量した。次に、乳鉢と乳棒を用いて乾式混合し、焼成原料とした。
【0163】
上記焼成原料を蓋付きのアルミナるつぼに移し、箱型電気炉を用いて1400℃の大気中で2時間焼成した後、焼成物を軽く解砕したところ、実施例3の蛍光体が得られた。なお、焼成後の試料が(Gd0.75,La0.25)3(Ga0.98,Cr0.02)2(GaO4)3であることは、X線回折法によって確認した。
【0164】
(発光スペクトルの評価)
参考例1と同様にして、蛍光体の発光スペクトルを評価した。結果を
図8及び表1に示す。
【0165】
[比較例1]
(蛍光体の調製)
固相反応を用いる調製手法を用いて酸化物蛍光体を合成した。具体的には、Y3(Al0.98,Cr0.02)2(AlO4)3の組成式で表される酸化物蛍光体を合成した。なお、酸化物蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として用いた。
酸化イットリウム(Y2O3):純度3N、信越化学工業株式会社製
酸化アルミニウム(Al2O3):純度3N、住友化学株式会社製
酸化クロム(Cr2O3):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
【0166】
はじめに、化学量論的組成の化合物Y3(Al0.98,Cr0.02)2(AlO4)3となるように、上記原料を秤量した。次に、乳鉢と乳棒を用いて乾式混合し、焼成原料とした。
【0167】
上記焼成原料を蓋付きのアルミナるつぼに移し、箱型電気炉を用いて1600℃の大気中で2時間焼成した後、焼成物を軽く解砕したところ、比較例1の蛍光体が得られた。なお、焼成後の試料がY3(Al0.98,Cr0.02)2(AlO4)3であることは、X線回折法によって確認した。
【0168】
(発光スペクトルの評価)
参考例1と同様にして、蛍光体の発光スペクトルを評価した。結果を
図8及び表1に示す。
【0169】
図8に、励起波長:450nmで励起したときの発光スペクトルを示す。なお、
図8には、実施例2、実施例3及び比較例1の発光スペクトルも示す。
表1に、発光スペクトル中で蛍光強度最大値を示す蛍光強度最大値ピークのピーク波長である発光ピーク波長λ
MAXを示す。また、表1に、蛍光強度最大値ピークの発光ピーク強度(蛍光強度最大値)の80%の強度でのスペクトル幅(80%スペクトル幅)W
80%を示す。さらに、表1に、発光スペクトルの蛍光強度最大値ピークにおける発光ピーク強度(蛍光強度最大値)に対する、波長780nmの発光強度の比率、である780nm蛍光強度比率L
780nmを示す。
【0170】
【0171】
(発光スペクトルの評価のまとめ)
参考例1、実施例2及び実施例3の蛍光体は、680~710nmの波長領域内に蛍光強度最大値を有する線状スペクトル成分よりも、710nmを超える波長領域に蛍光強度最大値を有するブロードなスペクトル成分の方が多い波長変換光を放射することが分かった。
なお、上記線状スペクトル成分は、Cr3+の、2T1及び2E→4A2(t2
3)の電子エネルギー遷移(スピン禁制遷移)に基づく、長残光性の光成分である。また、上記ブロードなスペクトル成分は、4T2→4A2の電子エネルギー遷移(スピン許容遷移)に基づく、短残光性の光成分である。
このため、参考例1、実施例2及び実施例3の蛍光体を第一の蛍光体として用いた発光装置によれば、近赤外成分を多く含む点光源を容易に作製することができることが分かった。
【0172】
また、参考例1、実施例2及び実施例3の蛍光体を第一の蛍光体として用いた発光装置によれば、蛍光イメージング法や光線力学療法(PDT法)において、蛍光薬剤や光感受性薬剤の感度の波長依存性のばらつきの影響を受けずに上記薬剤を用いることができることが分かった。すなわち、仮に、蛍光薬剤や光感受性薬剤において感度の波長依存性にばらつきがあっても、このばらつきの影響を受けずに上記薬剤を十分に機能させることができることが分かった。
【0173】
さらに、参考例1、実施例2及び実施例3の蛍光体を第一の蛍光体として用いた発光装置は、第一の波長変換光7が、「生体の窓」と呼ばれる、光が生体を透過しやすい近赤外の波長域(650~1000nm)の蛍光成分を多く含むことが分かった。このため、参考例1、実施例2及び実施例3の蛍光体を第一の蛍光体として用いた発光装置によれば、生体を透過する近赤外の光強度が大きくなることが分かった。
【0174】
[比較例2]
(蛍光体の調製)
固相反応を用いる調製手法を用いて窒化物蛍光体を合成した。具体的には、(Ca0.997,Eu0.003)AlSiN3の組成式で表される窒化物蛍光体を合成した。なお、窒化物蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として用いた。
窒化カルシウム(Ca3N2):純度2N、太平洋セメント株式会社製
窒化アルミニウム(AlN):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
窒化ケイ素(Si3N4):純度3N、株式会社デンカ製
窒化ユウロピウム(EuN):純度2N、太平洋セメント株式会社製
【0175】
はじめに、化学量論的組成の化合物(Ca0.997,Eu0.003)AlSiN3となるように、N2雰囲気のグローブボックス中で上記原料を秤量した。次に、乳鉢と乳棒を用いて乾式混合し、焼成原料とした。
【0176】
上記焼成原料を蓋付きの窒化ホウ素製(BN)るつぼに移し、加圧雰囲気制御電気炉を用いて1600℃のN2(0.6MPa)加圧雰囲気中で2時間焼成した後、焼成物を軽く解砕したところ、比較例2の蛍光体が得られた。なお、焼成後の試料が(Ca0.997,Eu0.003)AlSiN3であることは、X線回折法によって確認した。
【0177】
(発光寿命の評価)
蛍光体の発光寿命を、Quantaurus-Tau小型蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス株式会社製)を用いて評価した。結果を
図9及び表2に示す。
【0178】
図9に、
参考例1の発光寿命を示す。なお、
図9には、実施例2、実施例3、比較例1及び比較例2の発光寿命も示す。
表2に最大発光強度の1/10の強度になるまでの時間(1/10残光):τ
1/10を示す。
【0179】
【0180】
(発光寿命の評価のまとめ)
参考例1、実施例2及び実施例3の蛍光体は、680~710nmの波長領域内に蛍光強度最大値を有する長残光性の線状スペクトル成分よりも、710nmを超える波長領域に存在する短残光性の近赤外成分の方が多い波長変換光を放射することが分かった。
なお、上記長残光性の線状スペクトル成分は、Cr3+の、2T1及び2E→4A2(の電子エネルギー遷移(スピン禁制遷移)に基づく光成分である。また、上記短残光性の近赤外成分は、4T2→4A2の電子エネルギー遷移(スピン許容遷移)に基づく光成分である。
このため、参考例1、実施例2及び実施例3の蛍光体を第一の蛍光体として用いた発光装置によれば、近赤外成分を多く含み、高光密度のレーザー光を照射したときの蛍光出力飽和が少なく、高出力化が容易であることが分かった。
【0181】
[実施例4]
(焼結体の作製)
参考例1の蛍光体粉末1.0gを油圧プレス機により210MPaの圧力をかけて成型し、直径13mmの圧粉体を作製した。この圧粉体を、箱型電気炉を用いて1400℃の大気中で1時間焼成することで、実施例4の焼結体を得た。
【0182】
[実施例5]
(焼結体の作製)
実施例2の蛍光体粉末1.0gを油圧プレス機により210MPaの圧力をかけて成型し、直径13mmの圧粉体を作製した。この圧粉体を、箱型電気炉を用いて1400℃の大気中で1時間焼成することで、実施例5の焼結体を得た。
【0183】
[実施例6]
(焼結体の作製)
実施例3の蛍光体粉末1.0gを油圧プレス機により210MPaの圧力をかけて成型し、直径13mmの圧粉体を作製した。この圧粉体を、箱型電気炉を用いて1400℃の大気中で1時間焼成することで、実施例6の焼結体を得た。
【0184】
[比較例3]
(焼結体の作製)
比較例2の蛍光体粉末0.5gを油圧プレス機により210MPaの圧力をかけて成型し、直径13mmの圧粉体を作製した。この圧粉体を、加圧雰囲気制御電気炉を用いて1700℃のN2(0.6MPa)加圧雰囲気中で2時間焼成することで、比較例3の焼結体を得た。
【0185】
(蛍光出力飽和の評価)
蛍光体の蛍光出力飽和特性は、積分球を用い、ピーク波長450nmの青色LD光を蛍光体に照射し、マルチチャンネル分光器により蛍光体ペレットの発光を観測した。このとき、青色LD光の定格出力を0.93Wから3.87Wまで変化させた。蛍光体への照射面積は0.785mm2とした。
【0186】
図10に、実施例4から実施例6と、比較例3の蛍光出力飽和特性を示す。Cr
3+付活蛍光体の発光寿命はEu
2+付活蛍光体の発光寿命に比較して非常に長いことが分かった。また、Cr
3+付活蛍光体は、発光寿命が長いにもかかわらず、励起光のパワー密度が高い領域においても高い発光効率を維持することができることが分かった。
【0187】
以上、実施例に沿って本実施形態の内容を説明したが、本実施形態はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【産業上の利用可能性】
【0188】
本開示によれば、高密度のレーザー光の励起下で近赤外の蛍光成分の割合が多い高出力光を放射する発光装置、及びこれを用いた電子機器を提供することができる。
【符号の説明】
【0189】
1、1A、1B、1C 医療用発光装置(発光装置)
2 固体発光素子(光源)
3、3A 波長変換体
4 第一の蛍光体
6 一次光
7 第一の波長変換光
8 第二の蛍光体
9 第二の波長変換光
11 内視鏡
100 内視鏡システム