(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】電気化学セルの製造方法、およびスタック
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1213 20160101AFI20240823BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240823BHJP
C25B 11/047 20210101ALI20240823BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20240823BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240823BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240823BHJP
H01M 8/1226 20160101ALI20240823BHJP
H01M 8/1253 20160101ALI20240823BHJP
【FI】
H01M8/1213
C25B9/23
C25B11/047
C25B13/04 301
H01M4/88 T
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/1226
H01M8/1253
(21)【出願番号】P 2019224128
(22)【出願日】2019-12-12
【審査請求日】2022-06-15
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500107762
【氏名又は名称】ハミルトン・サンドストランド・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HAMILTON SUNDSTRAND CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ティアンリ ジュー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ポール ハンバート
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-521496(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101183716(CN,A)
【文献】特開2017-135090(JP,A)
【文献】特開2005-327586(JP,A)
【文献】特開2012-146628(JP,A)
【文献】Tianli Zhu,HydroGEN Seedling: Thin-film, Metal-Supported, High-Paerformance, and Durable Proton-Solid Oxide Electrolyzer Cell,FY 2018 Progress report for the DOE the hydrogen and fuel cells program,2019年04月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
H01M 8/1213
H01M 8/1016
H01M 8/0289
C25B 9/23
C25B 11/04
C25B 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルの製造方法であって、
多孔質金属担体層の表面にアノード層を堆積させることと、
前記アノード層の表面に電解質層を堆積させることであって、前記電解質層がサスペンションプラズマ溶射によって堆積し、前記電解質層がプロトンを伝導する、前記電解質層を堆積させることと、
前記電解質層の表面にカソード層を堆積させることと、
を備え、
前記アノード層が、サスペンションプラズマ溶射または補助プラズマ溶射によって堆積される、方法。
【請求項2】
前記電気化学セルが、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、またはそれらの組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多孔質金属担体層、前記アノード層、またはそれらの組合せが、多孔質構造を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アノード層がニッケル酸化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電解質層が、前記電解質層の総重量に基づいて、35重量%以上のバリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記電解質層が、イットリウム添加バリウムジルコネート、セリウム添加バリウムイットリウムジルコネート、セリウム/イッテルビウム添加バリウムイットリウムジルコネート、イットリウム/スズ添加バリウムジルコネート、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記カソード層がペロブスカイト鉱物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記カソード層が、Ba
0.5Pr
0.5CoO
3、Ba
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3、Ba(Ce
1-xBi
x)O
3、PrBa
0.5Sr
0.5Co
1.5Fe
0.5O
5+δ、またはそれらの組合せを含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記カソード層が、サスペンションプラズマ溶射、補助プラズマ溶射、またはスラリー塗布によって堆積する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記アノード層及び前記カソード層が、サスペンションプラズマ溶射によって堆積する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記アノード層の前記サスペンションプラズマ溶射に使用される粉末粒子の粒径が、電子顕微鏡によって測定される平均粒径で1マイクロメートルから15マイクロメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記アノード層の前記サスペンションプラズマ溶射が、液体中に懸濁させた粉末を
用いることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
電気化学セルの製造方法であって、
多孔質金属担体層の表面に
酸化保護層を堆積させることと、
前記酸化保護層の表面にアノード層を堆積させることと、
前記アノード層の表面に電解質層を堆積させることであって、前記電解質層がサスペンションプラズマ溶射によって堆積し、前記電解質層がプロトンを伝導する、前記電解質層を堆積させることと、
前記電解質層の表面にカソード層を堆積させることと、
を備
えた、方法。
【請求項14】
電気化学セルの製造方法であって、
多孔質金属担体層の表面にアノード層を堆積させることと、
前記アノード層の表面に電解質層を堆積させることであって、前記電解質層がサスペンションプラズマ溶射によって堆積し、前記電解質層がプロトンを伝導する、前記電解質層を堆積させることと、
前記電解質層の表面にカソード層を堆積させることと、
を備え、
前記カソード層が、サスペンションプラズマ溶射、補助プラズマ溶射、またはスラリー塗布によって堆積される、方法。
【請求項15】
電気化学セルの製造方法であって、
多孔質金属担体層の表面にアノード層を堆積させることと、
前記アノード層の表面に電解質層を堆積させることであって、前記電解質層がサスペンションプラズマ溶射によって堆積し、前記電解質層がプロトンを伝導する、前記電解質層を堆積させることと、
前記電解質層の表面にカソード層を堆積させることと、
を備え、
前記アノード層及び前記カソード層が、サスペンションプラズマ溶射によって堆積される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦政府の支援に関する表明)
本発明は、エネルギー省によって与えられた契約DE-EE0008080の下に、政府支援を受けてなされたものである。政府は本発明に対して一定の権限を有する。
【0002】
例示的な実施形態は、電気化学セルの技術に関係し、より詳細には、サスペンションプラズマ溶射を使用して電気化学セルを作製する方法に関係する。
【背景技術】
【0003】
酸化物燃料電池は、多くの潜在用途を有する。例えば、航空宇宙産業では、潜在用途としては、電気分解、補助発電、航空機推進がある。例えば、固体酸化物燃料電池は、メタン、エタノール、及びジェット燃料などの炭化水素燃料と互換性がある。金属担持電気化学セルスタックが、プロトン伝導性電解質材料によって可能になり、高速起動時間、高速過渡応答、及び高出力密度を提供することもできる。しかし、固体酸化物燃料電池テクノロジは、多くの場合、製造に非常に費用がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、より効率的でより安価な、固体酸化物燃料電池などの電気化学燃料電池の製造方法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
電気化学セルの製造方法であって、多孔質金属担体層の表面上にアノード層を堆積させること、アノード層の表面上に電解質層を堆積させることであって、電解質層がサスペンションプラズマ溶射によって堆積し、電解質層がプロトンを伝導する、電解質層を堆積させること、及び電解質層の表面上にカソード層を堆積させることを含む方法が開示されている。
【0006】
また、上記の電気化学セルの2つ以上を含むスタックが開示されている。
【0007】
以下の説明は、いかなる意味においても限定的であると考えるべきではない。添付の図面を参照すると、同様の要素には同様の番号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】例示的な実施形態による電気化学セルを表す簡略図である。
【
図2】例示的な実施形態による電気化学セルスタックを表す簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
開示される装置及び方法の1つ以上の実施形態の詳細な説明が、例示を目的として本明細書に提示されており、図面を参照して限定するものではない。
【0010】
図1を参照すると、電気化学セル10は、多孔質金属担体層12、酸化物保護層13、アノード層14、電解質層16、及びカソード層18を含むことができる。例えば、電気化学セルは、固体酸化物燃料電池、固体酸化物形電気分解セル、またはそれらの組合せであってもよい。
【0011】
多孔質金属担体層12は、金属材料、金属セラミック複合材料、またはそれらの組合せを含み得る。例えば、多孔質金属担体層12は、ニッケル、鉄ニッケル合金、ニッケルクロムアルミニウムイットリウム、ステンレス鋼、例えば、フェライト系ステンレス鋼、またはそれらの任意の組合せを含み得る。多孔質金属担体層12は、多孔質金属担体層12の総体積に基づいて、約10%から約50%の多孔率を有し得る。多孔率は、例えば、電子顕微鏡、例えば、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡である、いずれかの好適な手段を用いて測定することができる。
【0012】
アノード層14は、多孔質金属担体層12の表面上に堆積し得る。アノード層14は、金属材料、金属セラミック複合材料、またはそれらの組合せを含み得る。例えば、アノード層14は、ニッケル酸化物及びセラミック電解質材料を含んでもよい。アノード層14は、多孔質構造を含み得る。例えば、アノード層14は、多孔質ニッケル酸化物と電解質材料との混合物を含んでもよい。アノード層14と多孔質金属担体層12との間に、酸化保護層13を堆積させることもできる。例えば、酸化物保護層13は、金属酸化物、例えば、マンガン酸銅を含んでもよい。
【0013】
アノード層14は、サスペンションプラズマ溶射または補助プラズマ溶射によって金属担体層12の表面上に堆積させることができる。例えば、サスペンションプラズマ溶射では、粉末状の金属及び/またはセラミックアノード材料を、液体(例えば、水性液体または有機液体)中に懸濁させてもよい。粉末粒子が溶融状態に達するまで、粉末粒子を加熱する(例えば、焼結させる)ことができる。次に、結果として生じる材料を、所望の表面に噴射することができる。より細かい粉末を使用することで、より微細な微細構造とより薄い層とがもたらされる。例えば、サスペンションプラズマ溶射は、平均粒径が15マイクロメートル未満の粒子、例えば、平均粒径が約1マイクロメートルから約15マイクロメートルの粒子を含み得る。平均粒径は、例えば、電子顕微鏡、例えば、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡である、いずれかの好適な手段を用いて測定することができる。サスペンションプラズマ溶射は、例えば、厚さ100マイクロメートル以下、例えば、厚さ約10マイクロメートルから約50マイクロメートルの層をもたらし得る。
【0014】
補助プラズマ溶射法では、粉末のみが用いられる(つまり、液体懸濁液は用いられない)。補助プラズマ溶射を使用することにより、微細構造が粗くなり、層が厚くなり得る。例えば、補助プラズマ溶射は、例えば、透過型電子顕微鏡により測定される平均粒径が約10マイクロメートルから約100マイクロメートルの粒子、例えば、平均粒径が約20マイクロメートルから約30マイクロメートルの粒子を含み得る。サスペンションプラズマ溶射及び補助プラズマ溶射は、二重噴射ノズルを介して施してもよい。例えば、堆積させる層が2つ以上の構成要素(例えば、アノード層14)を含む場合に、二重噴射ノズルを使用することができる。
【0015】
電解質層16は、アノード層14の表面上に堆積させ得る。例えば、電解質層16は、サスペンションプラズマ溶射によってアノード層14の表面に堆積することができる。電解質層16は、プロトン伝導性であり得る。例えば、電解質層16のプロトン伝導性の性質によって、電気化学セル10が電気分解に使用されるようになり得る。電解質層16は、金属材料、セラミック複合材料、またはそれらの組合せを含み得る。電解質層16は、1つ以上の付加的な材料(例えば、ペロブスカイト構造物)が添加されたバリウム化合物を含んでもよい。例えば、電解質層16は、イットリウム添加バリウムジルコネート、セリウム添加バリウムイットリウムジルコネート、セリウム/イッテルビウム添加バリウムイットリウムジルコネート、イットリウム/スズ添加バリウムジルコネート、またはそれらの組合せを含んでもよい。例えば、電解質層16のドーピングレベルは、約5%から約20%のイットリウム、約20%から約80%のセリウム、またはそれらの組合せであり得る。これらの化合物の化学量論比は、1.0の化学量論量のバリウム、例えば、Ba1.0Y0.2Z0.8O3を含み得る。電解質層16は、電解質層16の総重量に基づいて、35重量%以上のバリウム、例えば、40重量%以上のバリウム、例えば、約35重量%から約55重量%のバリウムを含み得る。
【0016】
バリウムは、サスペンションプラズマ溶射プロセスの間に、失われる可能性がある。この消失を補い、適切な量のバリウムが最終的な電解質層16中に存在することを確保するために、電解質層16が堆積する前に、過剰のバリウムをサスペンションプラズマ溶射に加えてもよい。例えば、過剰のバリウムは、サスペンションプラズマ溶射で使用されるBYZペロブスカイト化合物に直接添加してもよい。例えば、Ba1.0Y0.2Z0.8O3が最終的な電解質層16に必要な場合には、Ba1.0+xY0.2Z0.8O3をサスペンションプラズマ溶射に使用してもよい。ただし、xは、0.1から0.3、例えば、約0.2である。追加として、または代替として、炭酸バリウム、水酸化バリウム、またはそれらの組合せの形の過剰のバリウムを、アノード層層14上に堆積させる前に、サスペンションプラズマ溶射に加えてもよい。例えば、サスペンションプラズマ溶射中の重量によるバリウムの量は、最終的な電解質層16中に所望されるバリウムの量よりも、10%から30%多く、例えば、約20%多くすることができる。
【0017】
カソード層18は、電解質層16の表面上に堆積させ得る。例えば、カソード層18は、いずれかの好適な方法、例えば、サスペンションプラズマ溶射、補助プラズマ溶射、スラリー塗布、またはそれらの組合せによって堆積させることができる。一実施形態では、アノード層及びカソード層の両方が、サスペンションプラズマ溶射によって堆積する。カソード層は、ペロブスカイト鉱物及び/または酸化バリウムを含み得る。例えば、カソード層は、Ba0.5Pr0.5CoO3、Ba0.5Sr0.5Co0.8Fe0.2O3、Ba(Ce1-xBix)O3、PrBa0.5Sr0.5Co1.5Fe0.5O5+δ、またはそれらの組合せを含んでもよい。
【0018】
図2を参照すると、電気化学セル10の2つ以上、金属メッシュ層22、及び流路層24をスタック20が含み得る。例えば、スタック20は、2つの電気化学セル10の間に堆積した金属メッシュ層22を含み得る。スタック20は、2つの電気化学セル10の間に堆積した流路層を含み得る。
【0019】
電気化学セル10及び/またはスタック20は、多くの有用な用途を有する。例えば、電気化学セル10及び/またはスタック20は、水蒸気電解を目的として逆に用いることができる。電気分解は、原子力または風力や太陽光といった再生可能エネルギー源と組み合わせると、水素発生のための高効率でコスト競争力のあるプロセスになり得る。電気化学セル10及び/またはスタック20は、補助発電や航空機推進などの航空宇宙産業での用途を有する。例えば、電気化学セル10及び/またはスタック20は、メタン、エタノール、及びジェット燃料などの炭化水素燃料と互換性がある。電気化学セル10及び/またはスタック20は、使用中に炭化水素燃料と接触する可能性がある。電気化学セル10及び/またはスタック20の動作温度は、700°C(1292°F)以下であり、例えば、約500°C(932°F)から約650°C(1202°F)であり得る。電気化学セル10及び/またはスタック20は、プロトン伝導性電解質材料によって可能になり、高速起動時間、高速過渡応答、及び高出力密度を提供することもできる。
【0020】
「約」という用語は、出願時に利用可能な設備に基づく特定の量の測定に関連する誤差の程度を含むことを意図している。
【0021】
本明細書で用いられる用語は、特定の実施形態の記述のみを目的としたものであり、本開示を限定する目的で用いられているものではない。本明細書で使用するとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上別段に明示されていない限り、複数形も同様に含むことが意図されている。本明細書で使用される場合に、用語「含む(comprises)」及び/または「含んでいる(comprising)」は、記載された機能、整数値、ステップ、操作、要素、及び/または構成要素の存在を指定するが(「~からなる(consist(s) of)」、「~からなっている(consisting of)」、「実質的に~からなる(consist(s) essentially of)」、及び「実質的に~からなっている(consisting essentially of)」を包含する)、1つ以上の他の機能、整数値、ステップ、操作、要素、構成要素、及び/またはそれらのグループの存在または追加を、必ずしも排除するものではないことがさらに理解されるであろう。
【0022】
本開示を、例示的な1つの実施形態または複数の実施形態を参照しながら説明したが、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行ってもよく、本発明の構成要素を均等物と置き換えてもよいことが当業者には理解されるであろう。さらに、本開示の本質的な範囲から逸脱することなく、本開示の教示に対して特定の状況または材料を適合させるように、多くの修正を行ってもよい。したがって、本開示は、本開示を実施するために企図される最良の形態として開示される特定の実施形態に限定されず、本開示は、特許請求の範囲内に入る全ての実施形態を含むことが意図される。