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特許7542235陰イオン吸着剤、吸着剤袋、陰イオン吸着剤の使用方法、及び井戸水の浄化方法。
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  • 特許-陰イオン吸着剤、吸着剤袋、陰イオン吸着剤の使用方法、及び井戸水の浄化方法。 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】陰イオン吸着剤、吸着剤袋、陰イオン吸着剤の使用方法、及び井戸水の浄化方法。
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/10 20060101AFI20240823BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240823BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240823BHJP
   C01G 49/02 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B01J20/10 C
B01J20/28
C02F1/28 B
C02F1/28 L
C02F1/28 E
C01G49/02 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020132685
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029369
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】523279338
【氏名又は名称】株式会社加月金物興業
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】加月 利子
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/003120(WO,A1)
【文献】特開2005-000871(JP,A)
【文献】特開2020-032404(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076335(WO,A1)
【文献】特開2007-014826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類の陰イオン吸着剤が収容された透水性の袋状体を井戸の底にそのまま載置することを含み、
前記陰イオン吸着剤は、
オキシ水酸化鉄成分と、硫黄成分と、シリカ成分とを含有し、
前記硫黄成分の含有量が前記陰イオン吸着剤100質量部に対して0.001質量部以上1質量部以下であり、
前記シリカ成分の含有量が前記陰イオン吸着剤100質量部に対して0.0001質量部以上0.1質量部以下であり、
レーザ回折散乱法による体積頻度粒度分布測定における累積値が10%となる粒子径D10が1μm以上であり、
前記袋状体のメッシュ又は網を形成する糸、ひも、ロープ、又はストリップ間の開口の大きさは、前記陰イオン吸着剤の10%粒子径D10よりも小さい、
井戸水の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン吸着剤、吸着剤袋、陰イオン吸着剤の使用方法、及び井戸水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有害無機陰イオンによる水質汚染が世界的な問題となっている。深刻な事例として、例えば、インド東部に位置するオディシャ州バラソール県レムナ郡にある、地下水のフッ化物汚染、東南アジア地域における井戸のヒ素汚染、アメリカ西部や中国の炭鉱付近における水質・土壌のセレンによる汚染等が挙げられる。
【0003】
無機イオンによる水質汚染は、元素の移動性に密接に関係している。陽イオンとして溶存する多くの重金属種は、強酸性条件を除くと移動性は低い。それに対し、陰イオンとして溶存するヨウ素、フッ素等は、液性に関わらず、どのような環境においても移動性が高い。また、ヒ素、セレンは、還元環境でなければ移動性が高い。この性質により、自然由来か、あるいは人為的な由来かは別にして、地下水の汚染が進行することになる。
【0004】
これらの陰イオン種の処理方法として、凝集沈殿法、膜処理法、及び吸着法が広く採用されている。
【0005】
凝集沈殿法は、反応槽において、水溶液と、無機凝集剤及び/又は高分子凝集剤高分子凝集剤とを混合し、沈殿槽において、混合液を沈殿汚泥と上澄水に分離する手法である。日本の浄水場では、有害無機陰イオンを除去する処理として、凝集沈殿法が広く採用されている。しかしながら、例えばヒ素については、現在の処理の中心である凝集沈殿法は、含有ヒ素汚泥が定常的に排出されることと、設備設置スペースが大きくなることが課題である。地下水系の小規模水道や、地熱・温泉排水では、凝集沈殿法の処理場新設が困難な場合が多い。また、凝集沈殿法は、大規模で、設備コストがかさむため、開発途上国での水処理法として採用するのは難しい。
【0006】
膜処理法は、モジュールと呼ばれる装置(ユニット)にμm~nm(10-6m~10-9m)オーダーの細孔を有する水処理膜を取り付け、水の中から細孔を通り抜けることのできない不純物を除去する手法である。しかしながら、膜の価格が高く、プラントを稼働する際の電力費も高額であるため、開発途上国での水処理法として採用するのは難しい。
【0007】
吸着法は、イオン交換法と類似しており、吸着剤に無機イオンを吸着させて有害物質を除去する手法である。吸着法は、有害無機陰イオンの除去性能に優れ、凝集沈殿法及び膜処理法に比べると低コストである。そのため、投資額の大きい凝集沈殿法を採用し難い地下水を上水とする箇所、ヒ素濃度の高い地熱・温泉排水において利用可能性が見込まれる。また、資金力がなく、投資額の大きな設備を導入するのが難しい開発途上国において、利用可能性が見込まれる。
【0008】
吸着剤として、例えば、希土類元素水酸化物およびその表面を被覆する高分子樹脂からなる砒素吸着剤が提案されている(特許文献1参照)。この吸着剤において、該希土類元素水酸化物は中心空洞部とその周囲の微細空隙部を有し、該希土類元素水酸化物表面を被覆する高分子樹脂は耐水性を有する多孔質のスキン層である。特許文献1に記載の吸着剤によると、砒素で汚染された水を大量に高速度で浄化処理することが可能であり、また、低濃度の砒素を含む被処理水も効率的に浄化が可能である。加えて、吸着活性を長期間保持できるので、メンテナンスも容易である。また、吸着剤や樹脂成分の溶出もない。
【0009】
また、オルトチタン酸、メタチタン酸及び酸化チタンから選ばれる少なくとも1つの化合物を用いた亜ヒ酸イオン吸着剤が提案されている(特許文献2参照)。そして、金属酸化物、半金属酸化物又は活性炭の少なくとも1種を含む担体上にビスマス材料と、ヒ素材料とを含み、金属酸化物が、酸化チタン、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、ゼオライト、活性炭及びそれらの混合物からなる群から選択される吸着剤組成物が提案されている(特許文献3参照)。特許文献2及び3に記載の吸着剤によると、ヒ素材料に対する良好な除去性能を有する。
【0010】
また、第一鉄種が存在する条件下で生成された水酸化第二鉄を含有するアニオン吸着剤が提案されている(特許文献4参照)。特許文献4に記載の吸着剤によると、複数種類の有害アニオンであるリン酸イオン、ヒ酸イオン及び亜ヒ酸イオンに対する吸着性能を有する。そして、水酸化第二鉄から水酸基が脱水し、吸着性能が低下するのを防ぐため、アニオン吸着剤は、有機系のバインダーであるグリセリンを含有し、凍結乾燥や噴霧乾燥等による乾燥状態にあることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2005-288363号公報
【文献】特開2018-027517号公報
【文献】特表2018-525218号公報
【文献】国際公開2008/001442号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の吸着剤では、原料コストがかさむことから、砒素吸着剤の製品価格も高い。開発途上国で利用可能にするには、製品価格をより低く抑えることが好ましい。
【0013】
特許文献2及び3に記載の吸着剤においても、原料コストがかさむことから、吸着剤の製品価格も高い。そのため、製品価格をより低く抑えることが好ましい。
【0014】
特許文献4に記載の吸着剤では、吸着剤が鉄系であり、特許文献1~3に記載の吸着剤に比べると低コストではある。しかしながら、吸着性能の低下を抑えるには、水酸化第二鉄に、有機系のバインダー展開した上で凍結乾燥や噴霧乾燥等に付することを要する。そのため、材料そのものが低コストであっても、吸着剤にするための加工コストが高コストであり、また、大量生産には向いていないかもしれない。その点で、低コスト化にはなおいっそうの改良の余地がある。
【0015】
ところで、井戸での水質汚染を解消するに際し、吸着剤を井戸に直接散布すると、井戸内の土を浚渫することがあった場合には有害陰イオンを吸着した汚染土が地上に現れることになる。また、井戸水とともに有害陰イオンを吸着した吸着剤もくみ上げられる可能性も否定できない。
【0016】
そうすると、吸着剤を収容した収容体を井戸内に設置し、収容体に井戸水を通過させることが好ましいが、この場合、(1)収容体に井戸水を通過させるだけで通過後の井戸水が法で定める基準値を充足できるだけの安全性を付与し、かつ、(2)単位時間あたりに大量の処理能力を発揮可能にするという点で、吸着剤に高いろ過性が求められる。
【0017】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、有害無機陰イオンの吸着性能と、単位時間あたりの処理量との両面において高いろ過性を有し、フッ化物汚染、ヒ素汚染、及びセレン汚染のいずれにも対応可能な陰イオン吸着剤をより安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、オキシ水酸化鉄成分と、硫黄成分と、シリカ成分とを含有し、所定範囲の径を有する粒子を陰イオン吸着剤にすることで、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0019】
第1の特徴に係る発明は、オキシ水酸化鉄成分と、硫黄成分と、シリカ成分とを含有し、レーザ回折散乱法による体積頻度粒度分布測定における累積値が10%となる粒子径D10が1μm以上である、陰イオン吸着剤を提供する。
【0020】
第1の特徴に係る発明によると、陰イオン吸着剤は、オキシ水酸化鉄成分を含有する。オキシ水酸化鉄成分は、有害陰イオンであるフッ化物イオン、ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオン、セレン酸イオン、及び亜セレン酸イオンに対する十分な吸着性能を有する。よって、複数種類の吸着剤を使い分けることなく、第1の特徴に係る発明に係る1種類の吸着剤で、ヒ素汚染、フッ化物汚染及びセレン汚染のいずれにも対応可能である。
【0021】
また、第1の特徴に係る発明によると、陰イオン吸着剤は、オキシ水酸化鉄成分に加え、硫黄成分及びシリカ成分も含有する。そのため、粒子の形状安定性が高まり、粒子径D10を1μm以上にすることができ、単位時間あたりの処理量を上げることができる。
【0022】
したがって、第1の特徴に係る発明によると、有害無機陰イオンの吸着性能と、単位時間あたりの処理量との両面において、粒子のろ過性が大きく高めることができる。
【0023】
また、陰イオン吸着剤を構成する成分は、オキシ水酸化鉄成分、硫黄成分、及びシリカ成分であり、いずれも安価である。そして、鉄成分が水酸化第二鉄ではなく、オキシ水酸化鉄であることから、有機系のバインダー展開や、凍結乾燥や噴霧乾燥等を行わなくても、使用を重ねることによる吸着性能の低下を抑えられる。そのため、原料コストのみならず、加工コストも抑えられ、従来の吸着剤に比べて価格優位性に優れる。
【0024】
以上から、第1の特徴に係る発明によると、有害無機陰イオンの吸着性能と、単位時間あたりの処理量との両面において高いろ過性を有し、フッ化物汚染、ヒ素汚染、及びセレン汚染のいずれにも対応可能な陰イオン吸着剤をより安価に提供することができる。
【0025】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記硫黄成分の含有量が前記陰イオン吸着剤100質量部に対して1質量部以下であり、前記シリカ成分の含有量が前記陰イオン吸着剤100質量部に対して0.1質量部以下である、陰イオン吸着剤を提供する。
【0026】
第2の特徴に係る発明によると、硫黄成分及びシリカ成分を含有することによる、粒子の高いろ過性を付与しつつ、硫黄成分及びシリカ成分の含有量が所定範囲に抑えられていることで、オキシ水酸化鉄成分の機能であるフッ化物イオン、ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオンセレン酸イオン、及び亜セレン酸イオンの吸着性能を保つことができる。
【0027】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明の陰イオン吸着剤が透水性を有する袋状体に収容された吸着剤袋である。
【0028】
第3の特徴に係る発明によると、吸着剤が高いろ過性を有するため、吸着剤を収容した収容体を井戸内に設置するだけで、井戸の水質を改善できる。そして、吸着剤を井戸に直接散布するのとは異なり、井戸内の土を浚渫することがあったとしても、有害陰イオンを吸着した汚染土が地上に現れることがなく、井戸水とともに有害陰イオンを吸着した吸着剤がくみ上げられることもない。有害陰イオンを吸着した吸着剤がくみ上げられると、有害陰イオンを含む物質の経口摂取に繋がるリスクを伴う。当該物質が口から入れば、胃酸により有害陰イオンの溶出性が増し、有害陰イオンの問題が顕在化する可能性がある。
【0029】
よって、第3の特徴に係る発明によると、よりいっそう高い安全性を担保した状態で陰イオン吸着剤を供給できる。
【0030】
第4の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明の陰イオン吸着剤が収容された透水性の袋状体に、pHが10未満の水系材料を接触させることを含む、陰イオン吸着剤の使用方法である。また、第5の特徴に係る発明は、第4の特徴に係る発明であって、前記袋状体をカラムに充填し、前記カラムに前記水系材料を通液することを含む、陰イオン吸着剤の使用方法である。
【0031】
第1又は第2の特徴に係る発明の陰イオン吸着剤において、オキシ水酸化鉄成分は、中性から酸性領域で陰イオンを吸着可能であり、pHが10以上のアルカリ領域では、陰イオンを脱離する性質を有する。そのため、pHが10未満の水系材料を陰イオン吸着剤に接触させると、粒子を、吸着剤として機能させることができる。
【0032】
そして、袋状体を取り出し、pHが10以上の水系材料を接触させると、吸着剤に吸着した陰イオンが脱離し、粒子を、吸着剤として再利用することが可能となる。
【0033】
第4及び第5の特徴に係る発明によると、高いろ過性を有し、フッ化物汚染、ヒ素汚染、及びセレン汚染のいずれにも対応可能な陰イオン吸着剤を、原料コストにとどまらず、再利用が可能である点でも、よりリーズナブルに提供することができる。
【0034】
第6の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明の陰イオン吸着剤が収容された透水性の袋状体を井戸の底に載置することを含む、井戸水の浄化方法である。
【0035】
第3の特徴に係る発明にて説明した通り、第6の特徴に係る発明によると、よりいっそう高い安全性を担保した状態で井戸水を浄化することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、高いろ過性を有し、フッ化物汚染、ヒ素汚染、及びセレン汚染のいずれにも対応可能な陰イオン吸着剤をより安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、本実施形態の陰イオン吸着剤を、透水性を有する袋状体に収容した吸着剤袋の状態にて井戸水の浄化に利用するときの一例を示す。
図2図2は、本実施形態の陰イオン吸着剤を、カラムに充填する充填剤として利用するときの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0039】
<陰イオン吸着剤>
本実施形態において、陰イオン吸着剤は、オキシ水酸化鉄成分と、硫黄成分と、シリカ成分とを含有する。そして、陰イオン吸着剤の10%粒子径D10は、1μm以上である。
【0040】
〔オキシ水酸化鉄成分〕
陰イオン吸着剤は、オキシ水酸化鉄成分を含有する。
【0041】
オキシ水酸化鉄として、α-FeOOH(α-オキシ水酸化鉄:針鉄鉱、ゲーサイトとも呼ばれる。)、β-FeOOH(β-オキシ水酸化鉄:赤金鉱、アカガナイトとも呼ばれる。)、γ-FeOOH(γ-オキシ水酸化鉄:鱗鉄鉱、レピドクロサイトとも呼ばれる。)、δ-FeOOH(δ-オキシ水酸化鉄:フェロオキシハイトとも呼ばれる。)、FeHO・4HO(フェリヒドライト)、高圧FeOOH(シュベルトマンナイト)、及びFe(III) Fe(II) (OH)3x+2y-z(A(緑錆)が知られている。本実施形態において、オキシ水酸化鉄の種類は、特に限定されない。
【0042】
本実施形態に記載の陰イオン吸着剤は、有害陰イオンであるフッ化物イオン、ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオン、セレン酸イオン、及び亜セレン酸イオンに対する吸着を可能にする。本実施形態によると、複数種類の吸着剤を使い分けることなく、本実施形態に記載の1種類の吸着剤で、ヒ素汚染、フッ化物汚染及びセレン汚染のいずれにも対応可能である。
【0043】
[ヒ素についての基準]
【表1】
【0044】
表1は、ヒ素の環境存在度を示す。ヒ素の地殻中の存在度は、1.8mg/kgとされているが、地殻中に均一に存在しているわけではなく、火山地帯では、他の地帯に比べて存在度が大きいことが知られている。水1Lあたり0.2mg以上のヒ素が含まれると、ヒ素による慢性中毒を引き起こすとされている。そして、排水基準を決める省令におけるヒ素の排出基準(許容限度)は、水1Lあたり0.1mg/L以下とされている。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表2は、水質汚濁防止法で定める水質汚濁に係わる環境基準である。また、表3は、水道法に基づく水質基準である。これらの基準は、表1に示すヒ素の排出基準よりもさらに厳しく、ヒ素の含有量は、水1Lあたり0.01mg以下と規定されている。また、WHOのガイドラインにおいても、ヒ素の含有量は、水1Lあたり0.01mg以下であることが推奨されている。
【0048】
そして、地方自治体等の運転管理側においては、ヒ素の含有量は、水1Lあたり0.005mg/L未満と、法や、WHOガイドラインで定める基準よりさらに厳しい基準で運用されている。
【0049】
[フッ素及びセレンについての基準]
【表4】
【0050】
表4は、水道水質基準について水質基準項目と基準値(51項目)から抜粋したものである。フッ素及びセレンについても、水1Lあたり0.01mg/L以下にすることが定められている。
【0051】
本実施形態によると、複数種類の吸着剤を使い分けることなく、本実施形態に記載の1種類の吸着剤で、ヒ素、フッ素及びセレンのいずれの吸着も可能にし、吸着後の水に含まれるヒ素、フッ素及びセレンの含有量を、法や、WHOガイドラインで定める基準以下にすることができる。なお、特に断りがない限り、本実施形態では、セレンは、亜セレン酸及びセレン酸の両方を含む。
【0052】
〔硫黄成分〕
硫黄成分は、陰イオン吸着剤を構成するオキシ水酸化鉄成分の製造時の形状に寄与し、結晶としての粒子性を増大させる触媒能を有する。本実施形態によると、陰イオン吸着剤が硫黄成分を含有することにより、陰イオン吸着剤の10%粒子径D10を1μm以上にすることができる。そして、本実施形態によると、陰イオン吸着剤の10%粒子径D10が1μm以上であることから、単位時間あたりの水処理量を上げることができる。
【0053】
硫黄成分量の下限は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法(ICP-AES)において硫黄の存在を検出できる程度であれば、特に限定されない。より好ましくは、硫黄成分量の下限は、陰イオン吸着剤100質量部に対して0.001質量部以上であることが好ましい。
【0054】
硫黄成分量の上限は、陰イオン吸着剤100質量部に対して1質量部以下である。硫黄成分量が多すぎると、鉄の結晶構造に変化が起こり有害陰イオンの吸着性能に影響を及ぼし得る。硫黄成分量の上限は、陰イオン吸着剤100質量部に対して0.1質量部以下であることが好ましい。
【0055】
本発明において、陰イオン吸着剤に硫黄成分が入っているか否かは、高温の酸又はアルカリで試料を完全溶解させた後、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)に基づくICP発光分光分析装置を用いて波長182.625nmにおける試料溶液の発光強度を測定することによって確認するものとする。
【0056】
〔シリカ成分〕
シリカ成分は、陰イオン吸着剤を構成するオキシ水酸化鉄粒子の造粒性、結合性を増し形状安定性に寄与する。本実施形態によると、陰イオン吸着剤がシリカ成分を含有することにより、粒子の形状安定性が増し、透水性とろ過性を安定させることが出来る。そして、本実施形態によると、単位時間あたりの水処理量を上げることができる。
【0057】
シリカ成分量の下限は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)においてシリカの存在を検出できる程度であれば、特に限定されない。より好ましくは、シリカ成分量の下限は、陰イオン吸着剤100質量部に対して0.0001質量部以上であることが好ましく、0.001質量部以上であることがより好ましい。
【0058】
シリカ成分量の上限は、陰イオン吸着剤100質量部に対して0.1質量部以下である。シリカ成分量が多すぎると、反応時の結晶成長に悪影響を及ぼし吸着能に影響を及ぼし得る。シリカ成分量の上限は、陰イオン吸着剤100質量部に対して0.01質量部以下であることがより好ましい。
【0059】
本発明において、陰イオン吸着剤にシリカ成分が入っているか否かは、高温の酸又はアルカリで試料を完全溶解させた後、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)に基づくICP発光分光分析装置を用いて波長251.612nmにおける試料溶液の発光強度を測定することによって確認するものとする。
【0060】
〔粒子径〕
本実施形態において、X%粒子径DXとは、レーザ回折散乱法に基づく粒度分布測定装置を用いて体積頻度粒度分布測定をしたときの累積値がX%となる粒子径をいう。例えば、10%粒子径D10は、レーザ回折散乱法に基づく粒度分布測定装置を用いて体積頻度粒度分布測定をしたときの累積値が10%となる粒子径であり、5%粒子径D5は、レーザ回折散乱法に基づく粒度分布測定装置を用いて体積頻度粒度分布測定をしたときの累積値が5%となる粒子径である。
【0061】
陰イオン吸着剤における10%粒子径D10は、1μm以上である。5%粒子径D10が1μm以上であれば、より好ましく、1%粒子径D10が1μm以上であれば、さらに好ましい。陰イオン吸着剤に含まれるオキシ水酸化鉄粒子の大きさが所定の大きさ以上であることから、単位時間あたりの水処理量を上げることができる。
【0062】
<陰イオン吸着剤の製造方法>
続いて、陰イオン吸着剤の製造方法について説明する。陰イオン吸着剤は、所定温度の水系溶媒に、三価鉄成分と硫黄成分とを含有する溶液を所定温度に保ちながら混ぜ、pHを2~3に保つため、必要に応じて中和剤であるシリカ成分を含有するアルカリ溶液を併せて添加することによって得られる固液混合物を固液分離して固体を取り出すことによって得られる。
【0063】
〔添加工程〕
[水系溶媒]
水系溶媒とは、水、極性有機溶媒、又は水と極性有機溶媒との混合溶媒をいう。水系材料として、例えば、水、アルコール類、カルボン酸類、ケトン類、エーテル類、エステル類、アミド類、アミン類、硫黄化合物類等及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0064】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、プロピレングリコール及びフェノール等が挙げられる。
【0065】
カルボン酸類としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸等の低級カルボン酸が挙げられる。
【0066】
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0067】
エーテル類としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン及びメチルセロソルブ等が挙げられる。
【0068】
エステル類としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0069】
アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミド、ニトロメタン及びアセトニトリル等が挙げられる。
【0070】
アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0071】
硫黄化合物類としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0072】
中でも、取扱いが容易であることから、水系材料は、水、アルコール類及びカルボン酸類から選択される1種以上を含むことが好ましく、水であることがより好ましい。
【0073】
また、三価鉄からオキシ水酸化鉄への反応効率を高めるため、水系溶媒は、所定温度に加温されていることが好ましい。水系溶媒の温度の下限は、水系溶媒に添加される酸化鉄成分からオキシ水酸化鉄成分への酸化が進行し、酸化後液に沈殿を生成可能な温度であれば、特に限定されない。水系溶媒の温度の下限は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。
【0074】
水系溶媒の温度の上限は、水系溶媒が沸騰しない程度であれば、特に限定されない。水系溶媒の温度の上限は、90℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。
【0075】
[三価鉄成分]
三価鉄成分は、特に限定されるものでなく、例えば、塩化第二鉄等が挙げられる。
【0076】
[硫黄成分]
硫黄成分は、特に限定されるものでなく、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等が挙げられる。
【0077】
硫黄成分の含有量の下限は、三価鉄成分の含有量に対してモル比で0.001%以上であることが好ましく、0.02%以上であることがより好ましい。硫黄成分を含有することで、陰イオン吸着剤を構成するオキシ水酸化鉄成分の結晶としての粒子性を増大させる触媒能を有する。
【0078】
硫黄成分の含有量の上限は、三価鉄成分の含有量に対してモル比で0.1%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましい。硫黄成分量が所定の閾値以下であることにより、オキシ水酸化鉄成分がもたらす機能である有害陰イオンの吸着性能を十分に発揮することができる。
【0079】
[加熱温度]
水系溶媒に三価鉄成分及び硫黄成分を添加した添加後液の加熱温度の下限は、添加後液に含まれる成分の酸化が進行し、酸化後液に沈殿を生成可能な温度であれば、特に限定されない。添加後液の加熱温度の下限は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。
【0080】
添加後液の加熱温度の上限は、添加後液が沸騰しない程度であれば、特に限定されない。添加後液の加熱温度の上限は、90℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。
【0081】
[中和剤]
中和剤は、アルカリ成分であれば特に限定されるものでなく、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)等が挙げられる。
【0082】
(シリカ成分)
中和剤は、シリカ成分を含有する。シリカ成分は、陰イオン吸着剤を構成するオキシ水酸化鉄粒子の造粒性、結合性を増し形状安定性に寄与する。本実施形態によると、陰イオン吸着剤がシリカ成分を含有することにより、粒子の形状安定性が増し、透水性とろ過性を安定させることができる。
【0083】
シリカ成分の種類は特に限定されるものでなく、例えば、メタケイ酸ナトリウム等が挙げられる。
【0084】
シリカ成分の含有量の下限は、三価鉄成分の含有量に対してモル比で0.01%以上であることが好ましく、0.02%以上であることがより好ましい。シリカ成分を含有することで、陰イオン吸着剤を構成するオキシ水酸化鉄粒子の造粒性、結合性を増し形状安定性に寄与する。
【0085】
シリカ成分の含有量の上限は、三価鉄成分の含有量に対してモル比で1%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましい。シリカ成分量が所定の閾値以下であることにより、反応時の三価鉄成分の結晶成長を好適に進めることができ、製品としての陰イオン吸着剤がもつ有害陰イオンの吸着性能を十分に発揮することができる。
【0086】
[中和時間]
添加後液に含まれる成分の中和反応と結晶成長を適切に進めるため、中和に要する時間は、添加後液の加熱とともに、2時間以上であることが好ましく、4時間以上であることがより好ましい。
【0087】
中和に要する時間の上限は特に限定されるものでないが、陰イオン吸着剤の製造効率の観点から、12時間以下であることが好ましく、24時間以下であることがより好ましい。
【0088】
中和後液には、オキシ水酸化鉄が含まれる。オキシ水酸化鉄が有害陰イオンの吸着に寄与する。
【0089】
〔固液分離工程〕
中和後液に含まれる沈殿を取り出すため、中和後液を固液分離する。
【0090】
固液分離の手法は特に限定されるものでなく、例えば、ろ過等が挙げられる。ろ過で使用するフィルターの目の大きさを1μm以上にすることで、取り出される粒子の10%粒子径D10を1μm以上にすることができる。
【0091】
固液分離によって取り出される固体を乾燥(105℃、5Hr程度)することで、本実施形態に記載の陰イオン吸着剤が得られる。
【0092】
<陰イオン吸着剤の用途>
〔水質浄化剤としての利用〕
本実施形態の陰イオン吸着剤は、水質浄化剤として利用することができる。
【0093】
浄化対象は、pHが10未満の水系材料であれば、特に限定されない。水系材料の種類は、上述した「水系溶媒」と同じである。
【0094】
本実施形態に記載の陰イオン吸着剤において、オキシ水酸化鉄成分は、中性から酸性領域で陰イオンを吸着可能であり、pHが10以上のアルカリ領域では、陰イオンを脱離する性質を有する。そのため、pHが10未満の水系材料を陰イオン吸着剤に接触させると、粒子を、吸着剤として機能させることができる。
【0095】
本実施形態の陰イオン吸着剤は、例えば、川、海、湖沼、井戸、養魚水槽、養魚池等、水質浄化が求められる場所であれば、どこにでも適用できる。
【0096】
陰イオン吸着剤の使用量は、水質浄化の対象、水中の陰イオン濃度等によって異なるが、一般に水1mに対し、100g以上1000g以下程度であることが好ましい。
【0097】
陰イオン吸着剤を使用する手法も特に限定されない。例えば、浄化対象にそのまま散布してもよい。
【0098】
ところで、東南アジア地域では井戸のヒ素汚染が問題となっている。吸着剤を井戸に直接散布する場合、井戸内の土を浚渫することがあると、有害陰イオンを吸着した汚染土が地上に現れたり、井戸水とともに有害陰イオンを吸着した吸着剤がくみ上げられること等があり得る。有害陰イオンを吸着した吸着剤がくみ上げられると、有害陰イオンを含む物質の経口摂取に繋がるリスクを伴う。当該物質が口から入れば、胃酸により有害陰イオンの溶出性が増し、有害陰イオンの問題が顕在化する可能性がある。
【0099】
そこで、本実施形態では、浄化対象にそのまま散布する態様のほか、陰イオン吸着剤が収容された透水性の袋状体に、pHが10未満の水系材料を接触させる態様で陰イオン吸着剤を用いてもよい。
【0100】
陰イオン吸着剤は、pHが10以上のアルカリ領域では、陰イオンを脱離する性質を有する。そのため、陰イオン吸着剤を袋状態に収容した形態で用いることで、袋状体を浄化対象から取り出し、袋状体にpHが10以上の水系材料を接触させることで、吸着剤に吸着した陰イオンが脱離し、袋状体に収容されている使用済みの粒子を、新たな吸着剤として再利用できるという副次的な効果も奏する。
【0101】
図1は、本実施形態の陰イオン吸着剤を、透水性を有する袋状体に収容した吸着剤袋の状態にて井戸水の浄化に利用するときの一例を示す。袋状体1は、井戸Wの底に載置され、井戸水WWに浸かった状態にある。
【0102】
袋状体1は、透水性を有していれば、特に限定されない。透水性を有しないと、袋状体に収容されている陰イオン吸着剤に水を接触させることができないため、好ましくない。
【0103】
袋状体1の材質は、特に限定されない。例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0104】
袋状体1の構造も特に限定されない。例えば、メッシュ状、網状等が挙げられる。メッシュ又は網を形成する糸、ひも、ロープ、又はストリップ間の開口の大きさは、吸着剤の漏れが起こらない大きさ、すなわち、陰イオン吸着剤の10%粒子径D10よりも小さければ、特に限定されない。
【0105】
袋状体1の大きさも特に限定されないが、浄化対象に袋状体1を載置する回数をできるだけ少なく抑えるという観点から、大きさの下限は、50mm角以上であることが好ましく、100mm角以上であることがより好ましい。また、人手での設置を考えると、袋状体1が重くなりすぎること、大きくなりすぎることは好ましくないため、大きさの上限は、1000mm角以下であることが好ましく、500mm角以下であることがより好ましい。
【0106】
袋状体1を構成するろ布の厚さは特に限定されないが、使用する際に、袋状体1が破損するのを防ぐ観点から、ろ布の厚さの下限は、0.1mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましい。また、通水性を確保する観点から、ろ布の厚さの上限は、2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。
【0107】
〔カラム充填剤としての利用〕
本実施形態の陰イオン吸着剤は、カラムに充填する充填剤として利用することができる。
【0108】
図2は、本実施形態の陰イオン吸着剤を、カラムに充填する充填剤として利用するときの一例を示す。袋状体1は、カラム(吸着剤袋収容容器)Cに収容され、カラムCの入口から出口に向けて水系材料を通液可能な状態に構成される。
【0109】
カラムCの入口から処理前水PWを通液すると、カラムCの出口から処理後水AWが排出される。これにより、処理前水に含まれるフッ素成分、ヒ素成分及びセレン成分を、効率よく除去できる。
【0110】
なお、カラムCに充填剤を収容するにあたっては、図2に示すように袋状体1の状態で収容してもよいし、陰イオン吸着剤をそのまま収容してもよい。
【0111】
〔土壌浄化剤としての利用〕
本実施形態の陰イオン吸着剤は、土壌浄化剤として利用することもできる。
【0112】
土壌浄化剤として利用する場合、本実施形態の陰イオン吸着剤を、土壌汚染が問題となる土壌(スラッジや浚渫汚泥を含む)に適用することができる。陰イオン吸着剤の使用量は、浄化の対象土壌、土壌中のアニオン濃度等によって異なるが、例えば土壌中に汚染物質が0.1mg~10mg/L程度含まれる場合には、土壌1mに対して、100g~10,000g(10kg)程度が適当である。
【0113】
本実施形態の陰イオン吸着剤を、土壌と混合する方法として、土壌及び土壌浄化剤を各種ミキサー等で混合する方法、ポンプ注入、ジェット注入、土壌表面に単に散布する方法及びスプリンクラーによる散布等が挙げられる。
【実施例
【0114】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0115】
<吸着剤の製造>
300mLの70℃加温水に、塩化第二鉄0.5mol/Lと、硫酸ナトリウム0.05mol/Lとを含有する水溶液350mLを、全体として70℃に保ちながら、約1.2mL/minの速度で5時間程度かけて一定速度で添加した。添加の際、pHを2に保つため、必要に応じて中和剤(炭酸ナトリウム0.75mol/Lと、メタケイ酸0.01mol/Lとを含有する水溶液)を併せて添加した。中和反応の反応後液を、目の大きさが1μmであるフィルターを用いてろ過し、実施例に係る吸着剤を得た。
【0116】
<評価>
〔評価1〕ヒ素の除去処理
実施例に係る吸着剤500gを、透水性を有するバックに入れ、図2に示すカラムCに充填した。そして、濃度1ppm(1mg/L)の亜ヒ酸水溶液5LをカラムCに通水し、通水後の処理後液に含まれる亜ヒ酸濃度を測定した。その結果、亜ヒ酸濃度は、測定下限である0.01ppm未満(0.01mg/L)であり、法及びWHOガイドラインに定める基準を充足することが確認された。
【0117】
また、濃度1ppm(1mg/L)の亜ヒ酸水溶液5Lを、濃度1ppm(1mg/L)のヒ酸水溶液10Lに置き換えて同様の試験を行った。この場合においても、ヒ酸濃度は、測定下限である0.01ppm未満(0.01mg/L)であり、法及びWHOガイドラインに定める基準を充足することが確認された。
【0118】
〔評価2〕セレンの除去処理
濃度1ppm(1mg/L)の亜ヒ酸水溶液5Lを、濃度1ppm(1mg/L)のセレン水溶液5Lに置き換えたこと以外は、評価1と同様の評価を行った。その結果、セレン濃度は、測定下限である0.01ppm未満(0.01mg/L)であり、法及びWHOガイドラインに定める基準を充足することが確認された。
【0119】
〔評価3〕フッ素の除去処理
濃度1ppm(1mg/L)の亜ヒ酸水溶液5Lを、濃度10ppm(10mg/L)のフッ素水溶液5Lに置き換えたこと以外は、評価1と同様の評価を行った。その結果、フッ素濃度は、測定下限である0.01ppm未満(0.01mg/L)であり、法及びWHOガイドラインに定める基準を充足することが確認された。
【符号の説明】
【0120】
1 袋状体
W 井戸
WW 井戸水

図1
図2