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特許7542247口腔機能の評価方法、口腔機能の評価プログラム、及び身体状態予測プログラム、並びに口腔機能評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】口腔機能の評価方法、口腔機能の評価プログラム、及び身体状態予測プログラム、並びに口腔機能評価装置
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/00 20180101AFI20240823BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20240823BHJP
   A61C 19/05 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
G16H50/00
A61B5/11 300
A61B5/11 310
A61B5/11 320
A61C19/05 110
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020075052
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021174076
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】平野 浩彦
【審査官】鹿谷 真紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/225242(WO,A1)
【文献】尾崎和美,“地域高齢者の口腔・食支援の‘見える化’システム”,日本歯周病学会会誌 [オンライン],第60巻, 第1号,2018年03月30日,pp.35~43,<DOI: https://doi.org/10.2329/perio.60.35>,2024年3月13日検索
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
A61B 5/11
A61C 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに以下の各ステップを実行させて疾病含有可能性の評価を実行する、疾病含有可能性評価プログラム。
コンピュータに入力される複数の口腔機能評価結果をコンピュータに保存する結果保存ステップであって、所定の評価項目における正常な標準偏差との差をコンピュータに保存する結果保存ステップ、
保存された評価結果及び評価対象者である被験者情報を予め構築されたデータベースに照合して、データベースに蓄積された図形情報及び被験者情報における被験者の疾病記録に基づいて疾病含有可能性の評価を行う評価ステップであって、特定の項目の基準値との差が近似するデータがあるか否かを判定し、近似するデータにおいて全身疾病の情報がある場合には、疾病含有可能性があるとして当該全身疾病情報にかかる疾病を、評価結果として出力する評価ステップ。
【請求項2】
更に、被験者情報と、当該被験者における複数の口腔機能評価の結果を図形化したデータとを関連付けて記録し、構築されたデータベースを作成するデータベース作成ステップを具備し、
上記結果保存ステップは、口腔機能評価結果を用いて所定の図形に図形化することを含み、
上記評価ステップは、図形化された図形の特徴点として、内積と特異点とを抽出し、内積が近いものと特異点が同じものとを照合して、一致するデータがある場合には、かかるデータをもって最も近似するデータとして抽出する
ことを特徴とする請求項1記載の疾病含有可能性評価プログラム。
【請求項3】
上記口腔機能評価における口腔機能の項目は、口腔衛生、口腔乾燥、歯数、咬合力、パの発音、タの発音、カの発音、舌圧、咀嚼機能及び嚥下機能である
ことを特徴とする請求項1記載の疾病含有可能性評価プログラム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか記載の評価プログラムが格納されたコンピュータにより構成され、入力された口腔機能に関するデータを保存する保存手段、保存されたデータをデータベースに照合して特異点の有無を確認すると共に特異点がある場合には当該特異点を抽出する抽出手段、及び抽出結果に基づいて評価結果を表示する結果表示手段を具備する、疾病可能性の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーラルフレイルの評価を簡易かつ簡便に行うための口腔機能の評価方法、口腔機能の評価プログラム、及び口腔機能評価装置、並びに口腔機能の評価と身体の状態とを関連付けて簡易的に身体の状態を予測する身体状態予測プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、寿命が長くなり、高齢化社会が進行するに従い、高齢となっても口腔機能を維持することが重要になっている。口腔機能が低下すると、それに伴い身体機能の低下も生じる可能性が高く、予防医学の見地からも老年期における口腔機能を維持するための取り組みがなされている。
かかる観点から、口腔機能を高いレベルで維持するために、口腔機能の評価を行うため、種々の提案されている。例えば、特許文献1には、安静時唾液量および刺激時唾液量、さらには酵素などの量をも短時間で、精度良く行える口腔機能測定器および口腔機能測定方法が提案されている。具体的には、機器本体と、操作機器本体に接続ケーブルを介して着脱自在に設けられた唾液を感知するセンサープローブと、操作機器に接続ケーブルを介して接続されて唾液腺を刺激する刺激付与部とを具備し、操作機器は、センサープローブにより感知された、通常時分泌される安静時唾液量と、刺激付与部による唾液腺の刺激で分泌される刺激時唾液量との測定データを検知できるようにした装置が提案されている。
また、特許文献2には、健康寿命の延長を目的として口腔および咽頭領域の健康の維持や増進をサポートするシステムが提案されている。具体的には、支援サーバが、個々のユーザのセンサ付きの端末から口腔および咽頭領域における日常の生体組織の機能や健康の状態およびケアの実態を把握することが可能な情報を取得するとともに、個々のユーザの端末又はユーザの情報を保有する機関のコンピュータから、ユーザの口腔および咽頭領域に対する意識・知識実態を把握する事が可能な情報、並びにユーザの一般属性、全身の健康状態、治療履歴などのユーザ情報を取得し、最新および過去の口腔および咽頭領域についての生体組織の機能や健康の状態、ケアの実態および意識・知識実態を把握する事が可能な情報を、ユーザ情報に基づき解析し、解析した情報を提供する時点において、ユーザの健康寿命を延長するために有用な情報を生成し、ユーザ端末に提供するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-295472号公報
【文献】特開2019-67302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の提案にかかる装置及びシステムでは、未だ十分に正確な口腔機の評価が偉得ていなかった。また、近年オーラルフレイル(日本歯科医師会発行「歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル」等参照)の概念が確立されており、口腔機能を評価するための基準については確立されていると言えるが、かかる評価基準を用いた評価を実際に行うための評価方法や、評価の支援システムは未だ提案されておらず、オーラルフレイルの概念を実装化できる、方法やシステムの開発が要望されているのが現状である。
【0005】
したがって、本発明の目的は、概念化だけで実装に至っていないオーラルフレイルの概念を用いた評価を、簡易かつ簡便に行うための口腔機能の評価方法、口腔機能の評価プログラム、及び口腔機能の評価に基づいて身体の状態を簡易的に予測する身体状態予測プログラムを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、口腔機能のデータを図形化することで口腔機能の評価をオーラルフレイルの基準に基づいて簡易に評価可能であることを知見し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.被験者情報と、当該被験者における複数の口腔機能評価の結果を図形化したデータとを関連付けて記録し、構築されたデータベースを作成するデータベース作成ステップと、
任意の評価対象者について、複数の口腔機能評価を行い、当該口腔機能評価の結果を取得する評価結果取得ステップと、
得られた評価結果をデータベースに照合して、口腔機能の評価を行う評価ステップと
を備えた口腔機能の評価方法。
2.コンピュータに以下の各ステップを実行させて口腔機能の評価を実行する、口腔機能の評価プログラム。
コンピュータに入力される複数の口腔機能評価結果をコンピュータに保存する結果保存ステップ。
保存された評価結果を予め構築されたデータベースに照合して、口腔機能の評価を行う評価ステップ。
3.コンピュータに以下の各ステップを実行させて疾病含有可能性の評価を実行する、疾病含有可能性評価プログラム。
コンピュータに入力される複数の口腔機能評価結果をコンピュータに保存する結果保存ステップ。
保存された評価結果及び評価対象者情報を予め構築されたデータベースに照合して、データベースに蓄積された図形情報及び被験者情報における被験者の疾病記録に基づいて疾病含有可能性の評価を行う評価ステップ。
4.2記載の評価プログラムが格納されたコンピュータにより構成され、入力された口腔機能に関するデータを保存する保存手段、保存されたデータをデータベースに照合して特異点の有無を確認すると共に特異点がある場合には当該特異点を抽出する抽出手段、及び抽出結果に基づいて評価結果を表示する結果表示手段を具備する、口腔機能の評価装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の口腔機能の評価方法及び口腔機能の評価プログラムによれば、概念化だけで実装に至っていないオーラルフレイルの概念を用いた評価を、簡易かつ簡便に行うことができる。
また、本発明の身体状態予測プログラムによれば、口腔機能の評価に基づいて身体の状態を簡易的に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明において用いられるコンピュータの概要図である。
図2図2は、本発明の口腔機能の評価プログラムの1実施形態のフローシートを示す概要図である。
図3図3は、本発明の口腔機能の評価プログラムの他の実施形態のフローシートを示す模式図である。
図4図4は、本発明において用いられるオーラルフレイルの概念についての説明図である。
図5図5(a)~(f)は、本発明の口腔機能の評価プログラムにおける図形化して得られる図形を模式的に示す概要図である。
図6図6は、本発明の疾病含有可能性評価プログラムの1実施形態のフローシートを示す模式図である。
【符号の説明】
【0009】
1:コンピュータ、11:メモリ、13:CPU、15:記憶媒体、20:入力機器、30:出力手段
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
まず、本発明のプログラムについて説明した後、本発明の評価方法について説明する。
本発明の評価プログラムは、図1に示すコンピュータに、図2又は3に示す下記の各ステップを実行させて口腔機能の評価を実行する、口腔機能の評価プログラムである。
コンピュータに入力される複数の口腔機能評価結果をコンピュータに保存する結果保存ステップ。
保存された評価結果を予め構築されたデータベースに照合して、口腔機能の評価を行う評価ステップ。
以下、本実施形態について、まず上記コンピュータを説明した後、各ステップについて説明する。
【0011】
〔コンピュータ〕
本実施形態において用いられるコンピュータ1は、具体的には、図1に示すように、中央演算処理装置(CPU)13、一時記憶領域としてのメモリ11、及びハードディスクやソリッドステートデバイス等の不揮発性の記憶媒体15を含む、通常のパーソナルコンピュータを特に制限なく用いることができる。また、いわゆるスマートフォンやタブレット端末のような携帯端末も用いることができ、これらも本発明における「コンピュータ」に含まれる。また、本実施形態におけるコンピュータは、特に図示しないが、通信デバイスを有し、ネットワークを介しての通信が可能であるのが好ましい。通信を行うことでネットワーク上に置かれたデータベースを有するサーバーに接続し、データベースから随時更新されたデータを入手するように設定することもできる。また、コンピュータには、キーボード、マウス、カメラなどの画像入力装置、マイクなどの音声入力装置、ブルートゥース(登録商標)等の通信機器による通信入力装置等の入力機器20を備えさせて、適宜必要なデータ及び情報を入力するように設定する。また、評価結果を表示するディスプレイ、または印刷するプリンター等の出力手段30を備え、適宜結果を所望の形態で出力する。
本実施形態においては、このコンピュータに本実施形態のプログラムが格納されて、当該コンピュータを、上記図形化ステップを行う図形化手段及び上記評価ステップを行う評価手段として機能させる。
<他の部材(デバイス)>
本実施形態のコンピュータは、上述した各デバイス以外に必要に応じて種々デバイスを含むことができる。
【0012】
〔入力ステップS01、構築ステップS02〕
本実施形態の口腔機能の評価プログラムは、上述の各ステップを行う前提として、所定のデータを入力する入力ステップS01とデータベースを構築する構築ステップS02とを具備し、これらのステップをコンピュータに実行させるのが好ましい。
(入力ステップS01)
入力ステップS01は、所定の情報を、入力機器20を介してコンピュータ1の記憶媒体15に格納するステップである。ここで、所定の情報としては、被験者の氏名、年齢、性別、歯数、既往症等が挙げられる。更に、口腔衛生、口腔乾燥、歯数、咬合力、パの発音(以下「Pa」という)、タの発音(以下「Ta」という)、カの発音(以下「Ka」という)、舌圧、咀嚼機能、嚥下機能等の口腔機能評価の情報も入力される。なお、口腔機能の情報については、たとえば2010年、2013年、2016年等複数の年についての情報がある場合、それらのすべてを入力するのが好ましい。
また、上記の口腔機能は、それぞれ常法に従って測定することができるが、たとえば以下の通り測定し、評価して、それぞれ入力することができる。
口腔衛生:Tongue Coating Index(TCI)などを用い舌および口腔内の汚れを測定し、地域在住高齢者の基礎データ等別に測定したデータからパーセンタイル値を算出し、80パーセンタイル値以上の場合を5、60以上80パーセンタイル値未満の場合を4、40以上60パーセンタイル値未満の場合を3、20以上40パーセンタイル値未満の場合を2、20パーセンタイル未満の場合を1とした。
口腔乾燥:口腔水分計(ライフ社製、商品名「ムーカス」)などを用い、口腔内の乾燥状態を測定し、地域在住高齢者の基礎データ等別に測定したデータからパーセンタイル値を算出し、80パーセンタイル値以上の場合を5、60以上80パーセンタイル値未満の場合を4、40以上60パーセンタイル値未満の場合を3、20以上40パーセンタイル値未満の場合を2、20パーセンタイル未満の場合を1とした。
歯数:目視により対象者自身の歯の数を数え、地域在住高齢者の基礎データ等の別に測定したデータからパーセンタイル値を算出し、80パーセンタイル値以上の場合を5、60以上80パーセンタイル値未満の場合を4、40以上60パーセンタイル値未満の場合を3、20以上40パーセンタイル値未満の場合を2、20パーセンタイル未満の場合を1とした。
咬合力:咬合力の測定装置(GC社製、商品名「デンタルプレスケール」等)を用いて咬合力を測定し、地域在住高齢者の基礎データ等の別に測定したデータからパーセンタイル値を算出し、80パーセンタイル値以上の場合を5、60以上80パーセンタイル値未満の場合を4、40以上60パーセンタイル値未満の場合を3、20以上40パーセンタイル値未満の場合を2、20パーセンタイル未満の場合を1とした。
パの発音(以下「Pa」という):対象者に「パ」を5秒間できる限りの回数発音してもらい、1秒当たりの回数を算出し、地域在住高齢者の基礎データ等の別に測定したデータからパーセンタイル値を算出し、80パーセンタイル値以上の場合を5、60以上80パーセンタイル値未満の場合を4、40以上60パーセンタイル値未満の場合を3、20以上40パーセンタイル値未満の場合を2、20パーセンタイル未満の場合を1とした。
タの発音(以下「Ta」という):対象者に「タ」を5秒間できる限りの回数発音してもらい、1秒当たりの回数を算出し、地域在住高齢者の基礎データ等の別に測定したデータからパーセンタイル値を算出し、80パーセンタイル値以上の場合を5、60以上80パーセンタイル値未満の場合を4、40以上60パーセンタイル値未満の場合を3、20以上40パーセンタイル値未満の場合を2、20パーセンタイル未満の場合を1とした。
カの発音(以下「Ka」という):対象者に「カ」を5秒間できる限りの回数発音してもらい、1秒当たりの回数を算出し、地域在住高齢者の基礎データ等の別に測定したデータからパーセンタイル値を算出し、80パーセンタイル値以上の場合を5、60以上80パーセンタイル値未満の場合を4、40以上60パーセンタイル値未満の場合を3、20以上40パーセンタイル値未満の場合を2、20パーセンタイル未満の場合を1とした。

舌圧:舌圧測定器(JMS社製「JMS舌圧測定器」等)を用い、舌圧を測定し、地域在住高齢者の基礎データ等の別に測定したデータからパーセンタイル値を算出し、80パーセンタイル値以上の場合を5、60以上80パーセンタイル値未満の場合を4、40以上60パーセンタイル値未満の場合を3、20以上40パーセンタイル値未満の場合を2、20パーセンタイル未満の場合を1とした。
咀嚼機能:咀嚼判定ガム(ロッテ社製)、咀嚼能力検査システム(GC社製、商品名「グルコセンサー」)、咀嚼能率検査用グミゼリー(UHA味覚糖社製、商品名「アズワン」)などを用い、咀嚼機能を測定し、地域在住高齢者の基礎データ等の別に測定したデータからパーセンタイル値を算出し、80パーセンタイル値以上の場合を5、60以上80パーセンタイル値未満の場合を4、40以上60パーセンタイル値未満の場合を3、20以上40パーセンタイル値未満の場合を2、20パーセンタイル未満の場合を1とした。
嚥下機能:嚥下スクリーニング検査(The 10-item Eating Assessment Tool,商品名「EAT-10」、Nestle社)、自記式質問票「聖隷式嚥下質問紙」などを用い嚥下機能を測定し、地域在住高齢者の基礎データ等の別に測定したデータからパーセンタイル値を算出し、80パーセンタイル値以上の場合を5、60以上80パーセンタイル値未満の場合を4、40以上60パーセンタイル値未満の場合を3、20以上40パーセンタイル値未満の場合を2、20パーセンタイル未満の場合を1とした。
また、上記口腔機能の情報とともに図4に示す口腔フレイルの評価も入力する。たとえば、全く正常な場合には(フェーズ0)と、歯周病、う蝕がある場合には(フェーズ1)と、滑舌低下、食べこぼし/僅かなムセ、噛めない食品の低下がある場合には(フェーズ2)と、咬合力低下、舌運動力低下、食べる量の低下がある場合には(フェーズ3)と、フェーズ0~3に当てはまらない場合又は摂食嚥下障害、咀嚼機能不全がある場合には(フェーズ4)と入力する。
【0013】
(構築ステップS02)
構築ステップS02は、入力ステップS01で入力されて、記憶媒体に格納された上記の所定の情報をすべて関連付けるとともに、後述する結果保存ステップS1にて得られた口腔機能評価結果を上記の所定の情報に関連付けて格納するステップである。さらに後述する結果保存ステップS1で口腔機能評価結果に基づいて所定の図形を形成する場合には、この付データを上記の所定の情報に関連付けて格納することにより、図形データのデータベースを構築するステップとすることもできる。
このステップを備えることにより、後述する評価ステップにより評価を行うことが可能となる。
【0014】
〔結果保存ステップS1〕
本ステップは、コンピュータに入力される複数の口腔機能評価結果をコンピュータに保存するステップである。
すなわち、本ステップでは、図2に示すように、入力ステップS01で入力された口腔機能評価の結果のデータをコンピュータに格納すると同時に、データベースに上記の所定の情報と関連付けてこれらの口腔機能評価の結果データを格納して、データベースの更新も行う。
更に、図3のS1’に示すように、本ステップにおいては、単に口腔機能評価結果を格納するだけではなく、口腔機能評価結果を用いて所定の図形に図形化することができる。図形化することで後述の評価方法を実行することが可能となる他、評価結果を視覚的に認識することが可能となり、口腔機能の状態を容易に把握することが可能となる。
ここで、上記の「所定の図形」は、図5に示すように、口腔機能の各データの出力部分を円形に且つ等間隔に離隔させて配置し、それぞれの口腔機能評価の結果データをこの出力部分にプロットし、プロットした点をつなぐことで形成される、いわゆるレーダーチャートにより形成される図形である。
上記の所定の図形においては、各機能の配置自体については特に制限がないが、すべての被験者及び評価対象者について、同じ配置で機能を配置して図形化することが必要である。また、上述の口腔機能の全てについて配置することも重要であり、図5に示すようにすべての口腔機能を配置することで正確な評価を行うことが可能となる。
【0015】
〔評価ステップS2〕
本ステップは、上記結果保存ステップS1にて保存された評価結果を、上述の構築ステップS02において構築されたデータベースに照合して、口腔機能の評価を行うステップである。
ここで、照合は以下のようにして行う。
すなわち、図2に示すように、データベースのデータを年齢・性別ごとのグループに分類し、それぞれのグループをフレイルのフェーズ0~4に分類する作業をサーバー等に実行させせる。例えば、65歳男性のグループに分類した上で、かかるグループをフェーズ0、及び図4に示すフェーズ1~4のそれぞれに分類して、65・m・フェーズ0、65・m・フェーズ1、65・m・フェーズ2、65・m・フェーズ3又は65・m・フェーズ4と名称をつけたサンプルを得る。なお、通常口腔機能に何らの障害もないことはほぼありえないので、フェーズ0は設定できなくても良い。なお、男性でなく女性の場合にはmがfとなる。
次に、各サンプルにおける各評価項目の標準偏差を求めると共に、全項目の合計点の標準偏差をとる。通常、フェーズ0の場合の各評価項目の平均値及び全項目の合計点の平均値を基準値とした場合に、フェーズ1の標準偏差は当該基準値-0.5の範囲内となり、フェーズ2の標準偏差は当該基準値-1.0の範囲内となり、フェーズ3の標準偏差は当該基準値-1.5の範囲内となり、フェーズ4の標準偏差は当該基準値-1.5を超える場合となる。したがって、フェーズ0のサンプルが得られる場合には、当該フェーズ0のサンプルの各項目及び合計点の平均値を基準値として、当該基準値-0.1の範囲内ならばフェーズ0と、フェーズ0の範囲外で且つ当該基準値-0.5の範囲内ならばフェーズ1と、フェーズ0及び1の範囲外で且つ当該基準値-1.0の範囲内ならばフェーズ2と、フェーズ0、1及び2の範囲外で且つ当該基準値-1.5の範囲内ならばフェーズ3と、フェーズ0、1、2及び3の範囲外ならばフェーズ4として評価する。なお、各評価項目及び合計点のうち一つでも上述の基準値に対しての±のズレが生じる場合には上述のように評価する。
また、本実施形態においては、図3のS2’に示すように、図形化して図形の特徴点から評価する事もできる。
この場合、まず、形成した図形の特徴点として、内積と特異点とを抽出する。
上記内積は、図5(a)において410で示される図形化した部分の面積である。この面積は通常の面積を求める手法を特に制限なく用いて求める事ができる。
また、上記特異点は、図5(a)の410で示される部分のように円形に近い形状を基準形状とし、図5(c)の420で示される部分における421のように円形から突出した凸部があるか、又は図5(e)の430で示される部分における431及び433、図5(b)の440で示される部分における441、図5(d)の450で示される部分における451及び453、図5(f)の460で示される部分における461のような凹部があるか、を抽出したものである。特異点については、凸部の頂部を形成する機能の数、凸部の数により更に分類され、また凹部の底部を形成する機能の数、凹部の数により更に分類される。たとえば、図5(c)の420に示す被験者の図形データの特異点は、凸部1、頂部を形成する機能1、凹部2、底部を形成する機能各1、となる。また440に示す被験者の図形データの特異点は、凸部0、頂部を形成する機能0、凹部1、底部を形成する機能1、となる。また、図5(f)の460に示す被験者の図形データの特異点は、凸部0、頂部を形成する機能0、凹部2、底部を形成する機能1及び3、となる。
【0016】
そして、本実施形態のプログラムにおいて、照合は以下の手順にて行うように設定されている。
まず、形成した対象者の図形の内積と、特異点を求める。
ついで、内積が近いものをデータベースから数点、好ましくは最も近いものから順に5~10点抽出する。同じものが10点以上ある場合には、性別が同じで年齢が近いものを基準として順に5~10点抽出する。また特異点についても4点全てが共通するものを抽出する。この際特異点が全く同じものがない場合には、3点以上共通するものを抽出する。
そして、内積が近いものと特異点が同じものとを照合して、一致するデータ(以下、単に「一致データ」という)がある場合には、かかるデータをもって最も近似する被験者データとして抽出する。2つ以上ヒットする場合には、最も内積の近いものを最も近似する被験者データとして抽出する。
そして、上述の図2に示す評価の結果又は図3に示す抽出された被験者データにおけるオーラルフレイルのフェーズをもって、対象者の評価結果として出力する。なお、図3に示すS2’の抽出結果としては一致データがない場合もありうる。その場合には、特異点が通常の状態ではないことを示しており、オーラルフレイルのフェーズ1、フーズ2及びフェーズ3に該当しない場合であると判断して、フェーズ4として評価する。また、この場合には全身疾患を有している可能性が高いので、その旨、後述する出力に際しては表示する。
出力は、上記の出力手段30に評価結果を表示又は印刷することで行われる。本実施形態のプログラムにおいては、評価結果を出力手段30により出力するように設定されている。
また、上記データベースに、オーラルフレイルのフェーズに応じた対処(処置)についても記録されている場合、この評価結果に応じて、対処(処置)も合わせて出力するように、本実施形態のプログラムが設定されていても良い。
【0017】
(他のステップ)
本発明のプログラムは、上述の各ステップの他に、通常この種のプログラムにおいて設定されるような、コンピュータに実行させるべきステップを実行させるように構成されていてもよい。
たとえば、上述のデータベースを、インターネットを通じて各所からアクセス可能なサーバーに構築する。そして、本発明のプログラムを該サーバーにアクセス可能な携帯端末(スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータ)に格納して、対象者の図形データの作成までは携帯端末で行い、得られた図形データを上記サーバー上にて照合して、評価結果を携帯端末で出力する。この際、評価と対象者のデータをデータベースに組み込み、更にデータベースをブラッシュアップさせ、その後の臨床結果も入力することで、サーバー上でデータベースの学習システムを構築しても良い。このように構成する場合には、本発明における「コンピュータ」は、サーバーと携帯端末との2つ以上により構成されていてもよい。
【0018】
〔装置〕
上記の本実施形態のプログラムが格納されて、各ステップを実行可能に構成されたコンピュータは、口腔機能の評価装置として機能する。すなわち、コンピュータは、入力された口腔機能に関するデータを保存する上記結果保存ステップを実行する保存手段(図形化する図形化手段を含む)、保存したデータ(又は得られた図形)をデータベースに照合して特異点(上述した基準値との差又は図形における特徴点)の有無を確認すると共に特異点がある場合には当該特異点を抽出する抽出手段、及び抽出結果に基づいて評価結果を表示する結果表示手段(抽出手段と結果表示手段とで評価ステップを実行する)を具備する、口腔機能の評価装置として機能する。
【0019】
〔使用例〕
次に、本実施形態のプログラム及び評価装置を用いた口腔機能の評価方法について説明する。本実施形態の評価方法は、被験者情報と、当該被験者における複数の口腔機能評価の結果を図形化したデータとを関連付けて記録し、構築されたデータベースを作成するデータベース作成ステップと、
任意の評価対象者について、複数の口腔機能評価を行い、当該口腔機能評価の結果を取得する評価結果取得ステップと、
得られた評価結果をデータベースに照合して、口腔機能の評価を行う評価ステップとを実行することにより実施することができる。
(データベース作成ステップ)
本ステップは、上述の入力ステップS01と構築ステップS02とを実行することで実施できる。すなわち、被験者に関するデータをコンピュータに入力してデータベース化するとともに、かかる口腔機能のデータを図形化したデータも合わせてデータベース化することで、コンピュータにデータベースを構築することができる。
(評価結果取得ステップ)
本ステップは、上述の結果保存ステップS1を実行することで実施できる。すなわち、入力された対象者の口腔機能のデータをコンピュータの記憶媒体に保存すること、好ましくは被験者情報と関連付けてデータベースに格納することにより実施できる。またこの際、図5に示す所定の配置位置に準じてプロットして、各プロットを連結することで図形を作成し、実施することができる。
(評価ステップ)
本ステップは、上述の評価ステップS2を実行することで実施できる。また、図形化する場合に、得られた対象者の図形から、内積を求めるとともに特異点を抽出し、得られた内積値と特異点とをデータベースに上述の評価ステップS2において詳述したように照合して、最も近い被験者データを抽出して、得られた抽出データのオーラルフレイルデータをもって評価結果として出力することにより実施できる。なお、図形化した場合でも、図形の特異点等を活用して評価せずに、上述の標準偏差により評価することもできる。
【0020】
〔他の実施形態(疾病含有可能性の評価)〕
本発明においては、単に口腔機能の評価に留まらず、更に全身の疾病可能性についての評価を行うこともできる。すなわち、図6に示すように他の実施形態のプログラムを構成して、他の実施形態の評価プログラムを、コンピュータに以下の各ステップを実行させて疾病含有可能性の評価を実行する、疾病含有可能性の評価プログラムとして構成することもできる。
コンピュータに入力される複数の口腔機能評価結果をコンピュータに保存する結果保存ステップ。
得られた図形及び評価対象者情報をデータベースに照合して、データベースに蓄積された図形情報及び被験者情報における被験者の疾病記録とに基づいて疾病含有可能性の評価を行う評価ステップ。
以下、上述した口腔機能の評価プログラムと異なる点を特に説明する。説明しない点については、上述した口腔機能の評価プログラムにおける各ステップにおける説明がそれぞれ適用される。
〔入力ステップS101及び構築ステップS102〕
これらのステップにおいては、被験者の全身疾患の情報を入力する点、及びこれらの全身疾患の情報を被験者情報や口腔機能データと関連付けて格納することでデータベースを構築する点を除いて、上述した入力ステップS01及び構築ステップS02と同じである。
〔結果保存ステップS11〕
このステップにおいては、上述した結果保存ステップS1及びS1’とほぼ同じであるが、図4に示すように特定の疾患と特定の評価項目の基準値との差とを関連付けて把握する点が異なる。すなわち、たとえば、図4(e)及び(f)に示すチャート430又はチャート460のように、特定疾患(神経筋疾患)、例えばパーキンソン病やALSがある場合には、pa、ta、kaといった発音や嚥下機能に特徴的に凹部(基準値との著しい差)が生じる傾向がある。したがって、特定の評価項目における正常な標準偏差(基準値)との差を、後の評価ステップにおいて評価可能に把握して、コンピュータに保存する。この際、被験者に全身疾患のデータが判明している場合にはそのデータも合わせてデータベースに格納する旨の指示を行う設定とする。また、全身疾患の情報がない場合には、単に結果を保存する。
〔評価ステップS12〕
このステップにおいては、図2に示す上記評価ステップS2及び図3に示す上記評価ステップS2’に加えて更に、特定の項目の基準値との差が近似するデータがあるか否か、判定する。ここで近似とは、特定の評価項目の基準値との「差」が±0.1の範囲内にある場合を言う。この近似するデータにおいて全身疾病の情報がある場合には、疾病含有可能性して当該全身疾病情報にかかる疾病を、評価結果として出力する。
また、一致データがない場合には、オーラルフレイル評価はフェーズ4とするとともに、疾病可能性が高いものと評価する。この際、上記図形化ステップS11において特に特徴的な図形の特徴点がある疾病であるとデータベースに記録された疾病に近似する特徴点がある場合には、当該疾病の可能性があるとして評価し、このような特徴点が認識できない場合には、疾病は不明だが、何らからの疾病がある可能性が高いとして評価する。
(使用例)
この実施形態の評価プログラムが格納されてなるコンピュータは、上述の口腔機能の評価プログラムが格納されたコンピュータと同様にして用いることができる。
【0021】
なお、本発明は上述の実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6