IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国科学院動物研究所の特許一覧

特許7542258細胞の機械的恒常性を破壊し、組織器官の再生と修復を促進する方法、およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】細胞の機械的恒常性を破壊し、組織器官の再生と修復を促進する方法、およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4745 20060101AFI20240823BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 39/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
A61K31/4745
A61P1/16
A61P9/00
A61P11/00
A61P17/00
A61P21/00
A61P25/00
A61P31/00
A61P31/12
A61P37/02
A61P39/00
A61P43/00 101
A61P43/00 105
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020562820
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 CN2019073622
(87)【国際公開番号】W WO2019144967
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-09-25
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】201810083566.3
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201810082885.2
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520176566
【氏名又は名称】中国科学院動物研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF ZOOLOGY,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No.5, 1 Beichen West Road, Chaoyang District, Beijing 100101, China
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲き▼
(72)【発明者】
【氏名】李 偉
(72)【発明者】
【氏名】何 正泉
(72)【発明者】
【氏名】王 柳
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】光本 美奈子
【審判官】冨永 みどり
(56)【参考文献】
【文献】J Biol Chem,2016,vol.291,p.6083-6095
【文献】J Mol Biol,2010,vol.401,p.564-578
【文献】British J Pharmacol,2010,vol.159,p.04-315
【文献】Science,2003,vol.299,p.1743-1747
【文献】Nature Medicine,2012,vol.18,p.1028-1040
【文献】J Pathol,2003,vol.200,p.500-503
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/80
A61K45/00
A61P1/00-43/00
CAPlus/REGISTRY/EMBASE/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝線維化に関連する疾患を治療するための薬剤または試薬の調製における、(-)-ブレビスタチン((-)-Blebbistatin)または(-)-ブレビスタチン O-ベンゾエート((-)-Blebbistatin O-Benzoate)の使用。
【請求項2】
前記肝線維化は、アルコール性肝炎によって引き起こされる肝線維化、ウイルス性肝炎によって引き起こされる肝線維化、非アルコール性脂肪性肝炎によって引き起こされる肝線維化、毒素または薬物によって引き起こされる肝線維化、自己免疫性肝疾患によって引き起こされる肝線維化、肝うっ血によって引き起こされる肝線維化、遺伝性代謝疾患によって引き起こされる肝線維化、または他の原因によって引き起こされる肝線維化である、
請求項1に記載の使用。
【請求項3】
(-)-ブレビスタチンまたは(-)-ブレビスタチン O-ベンゾエートを含む、肝線維化に関連する疾患を治療するための薬剤。
【請求項4】
前記肝線維化は、アルコール性肝炎によって引き起こされる肝線維化、ウイルス性肝炎によって引き起こされる肝線維化、非アルコール性脂肪性肝炎によって引き起こされる肝線維化、毒素または薬物によって引き起こされる肝線維化、自己免疫性肝疾患によって引き起こされる肝線維化、肝うっ血によって引き起こされる肝線維化、遺伝性代謝疾患によって引き起こされる肝線維化、または他の原因によって引き起こされる肝線維化である、
請求項3に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ技術分野に関し、具体的には細胞の機械的恒常性を破壊する方法およびその関連使用に関する。本発明はさらに、組織器官の再生と修復を促進する方法およびその関連使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多細胞生物の組織と器官は、実質細胞と間質細胞およびそれらが分泌した細胞外マトリックスで構成される。実質細胞とは、組織や器官の主要な構造と機能的細胞(例えば、脳の実質細胞はニューロンであり、肝臓の実質細胞は肝細胞である)をいい、間質細胞と細胞外マトリックスは組織と器官の間質部分(主に間質細胞、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン、プロテオグリカン、糖タンパク質、グリコサミノグリカンがある)を構成し、主に機械的なサポートと接続の役割を果たす。細胞外マトリックスは、細胞の生理学的活動の微小環境を構成して維持し、細胞間のシグナル伝達の架け橋であり、複数の生理学的および病理学的プロセスに参与して調節し、組織の創傷の修復、再生、および線維化プロセスで重要な役割を果たす。
【0003】
下等生物の再生の過程で、損傷は迅速なストレス応答を引き起こす。熱ショックタンパク質ファミリーなどの一連のストレスタンパク質の発現はアップレギュレーションされ、ストレス応答は損傷から24時間以内に発生する。損傷後2~2.5日で再生反応が開始させられ、再生の開始に関連するいくつかの遺伝子および組織特異的遺伝子はアップレギュレーションされ、再生の最終段階には特定の分化した組織細胞が現れ、新しい組織が再生される。
【0004】
進化論上の理由から、哺乳動物の再生能力は非常に限られている。高等哺乳動物の組織細胞の損傷は、組織細胞の変性や壊死を引き起こし、炎症反応も伴われる。損傷が小さい場合、損傷した組織細胞の周囲の正常な実質細胞は増殖して修復し、それにより正常な組織構造と機能を完全に回復する。しかし、損傷が大きい場合、あるいは繰り返して損傷して周囲の実質細胞の再生修復能力を超えた場合、過剰な出血を防ぎ、感染のリスクを低減するために、生体は重度のストレス保護メカニズムを起こし、凝固、免疫および炎症反応を引き起こし、間質部分の線維性結合組織(細胞外マトリックス)の大量の増殖を促進して欠損組織を修復し、これに伴って線維化の病理学的な変化が発生する。過形成した線維性結合組織は欠損を修復して組織器官の相対的な完全性を最大限に保護するが、この修復は正常な再生修復を阻害して元の器官の構造と機能を持たなくなるだけではなく、この過剰で強力な、且つ制御されていない修復反応により、器官の線維化、硬化および機能の喪失が引き起こされることもある。
【0005】
世界中で、組織器官の線維化は、多くの疾患による障害や死亡の主な原因であり、組織器官の線維化は、人体の各主要な器官における関連疾患の発生及び進展において重要な役割を果たす。関連する統計資料によると、米国の各疾患で亡くなった患者のほぼ45%は、組織器官の繊維増殖性疾患に起因する可能性がある。したがって、哺乳動物の線維化のプロセスを制御することは、複数の疾患を治療する重要な考えである。
【0006】
ストレスファイバーは、真核細胞に広く存在するマイクロフィラメント構造であり、大量のマイクロフィラメントが平行に並んで構成されており、細胞間または細胞とマトリックス表面との接着に密接に関係しており、細胞の形態形成、細胞分化、および組織の形成などにおいて重要な役割を果たす。その成分は、アクチン、ミオシン、トロポミオシンおよびαアクチニンである。ストレスファイバー、細胞外マトリックス、細胞膜受容体(インテグリンなど)、核骨格および細胞骨格のリンカー複合体、核繊維層、染色体骨格などが細胞の主要な機械的ストレスシステムを構成する。機械的ストレスシステムは、細胞に機械的硬度調節を付与し、細胞内外の機械的力の感応、伝達および生成に参加し、遺伝物質の組立、分布および発現を調節する。機械的ストレスシステムの恒常性は、特定の細胞の特性インデックスの一つである。細胞の機械的ストレスシステムの恒常性は、特定の細胞属性の維持と確立、細胞の特定の遺伝調節および発現特性の維持と安定化に寄与し、細胞損傷として細胞の機械的恒常性を破壊して細胞のストレス応答を刺激し、細胞損傷修復の強い能力を刺激する。
【0007】
本発明は、無損失および非出血の方法を使用して、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性を破壊することにより、細胞の機械的硬度を破壊し、細胞を軟化し、細胞の運命の再構築性を改善し、特定の条件下で、幹細胞と類似的に、運命の異なる細胞に転換することができる。
【0008】
本発明はさらに、無損失および非出血の方法を使用して、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性を破壊することにより、下等生物の再生プロセスと類似したストレス応答と再生反応を刺激し、ストレス応答を利用して細胞の遺伝的修復能力を大幅に改善することができる。本発明は処理が単純であるため、哺乳動物が病変損傷の過程において体細胞を動員して細胞再生に参加し、組織線維化を阻害し、組織修復および器官再生能力を改善する新しい方法として使用できる。また、細胞本体の相同組換え能力および二本鎖切断媒介の相同組換え能力を改善するための新しい手段として使用することもできる。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、Myosin阻害剤が、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性を破壊し、細胞の機械的硬度を破壊し、細胞の軟化を引き起こし、組織器官の線維化を低減することができるという、本発明者らの発見に基づいてなされた。
【0010】
したがって、一実施形態では、本発明は、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性の破壊におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0011】
一実施形態では、本発明はまた、細胞の機械的硬度の破壊におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0012】
一実施形態では、本発明はまた、細胞の軟化におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0013】
一実施形態では、本発明はまた、組織、器官の線維化の低減におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0014】
一実施形態では、本発明はまた、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性の破壊のための薬剤または試薬の調製におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0015】
一実施形態では、本発明はまた、細胞の機械的硬度の破壊のための薬剤または試薬の調製におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0016】
一実施形態では、本発明はまた、細胞の軟化のための薬剤または試薬の調製におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0017】
一実施形態では、本発明はまた、組織、器官の線維化の低減のための薬剤または試薬の調製におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0018】
一実施形態では、本発明はまた、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性障害、細胞の機械的硬度障害、または組織、器官の線維化に関連する疾患を治療するための薬剤または試薬の調製におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0019】
一実施形態では、前記Myosin阻害剤は(-)-Blebbistatinであり、BleまたはBlebもしくはBlebbと略す。
【0020】
一実施形態では、前記Myosin阻害剤は(-)-Blebbistatin O-Benzoateであり、S-Bleb-OBと略す。
【0021】
本発明で使用される(-)-Blebbistatin((S)-(-)-BlebbistatinまたはS-Blebとも表される)は、非ミオシンIIATPaseに作用する細胞透過性阻害剤であり、ミオシン軽鎖キナーゼを阻害せず、分裂溝の収縮を阻害し、有糸分裂または収縮環の組立を妨害しない。その構造式は式(I)で表され、分子量は292.33である。
【0022】
本発明で使用される(-)-Blebbistatin O-Benzoate((S)-(-)-Blebbistatin O-BenzoateまたはS-Bleb-OBとも表される)は(-)-Blebbistatinの誘導体であり、その構造式は式(II)で表される。
【0023】
【化1】
【0024】
一実施形態では、前記線維化は、任意の組織または器官の線維化である。
【0025】
一実施形態では、前記線維化は、肝線維化、肺線維化、筋線維化、皮膚瘢痕または神経組織瘢痕である。
【0026】
一実施形態では、前記肝線維化は、アルコール性肝炎によって引き起こされる肝線維化、ウイルス性肝炎によって引き起こされる肝線維化、非アルコール性脂肪性肝炎によって引き起こされる肝線維化、毒素または薬物によって引き起こされる肝線維化、自己免疫性肝疾患によって引き起こされる肝線維化、肝うっ血によって引き起こされる肝線維化、遺伝性代謝疾患によって引き起こされる肝線維化、または他の原因によって引き起こされる肝線維化である。
【0027】
一実施形態では、前記肺線維化は、無機粉塵の吸入、放射線損傷、有機粉塵の吸入、薬物損傷などの原因によって引き起こされる肺線維化、および特発性肺線維化を含む、複数の原因によって引き起こされる肺線維化である。
【0028】
一実施形態では、前記筋線維化は、遺伝的要因または先天的要因によって引き起こされる筋線維化である。
【0029】
一実施形態では、前記皮膚瘢痕は、物理的、生物学的、化学的などの要因による皮膚損傷、または遺伝的要因によって引き起こされる皮膚線維化である。
【0030】
一実施形態では、前記神経組織瘢痕は、機械的損傷、低酸素症、低血糖症、感染症、中毒などによる中枢神経系の損傷によって引き起こされるグリア細胞の増殖などの要因によって引き起こされる神経組織の線維化である。
【0031】
一実施形態では、前記中枢神経系は脳組織または脊髄を含む。
【0032】
本発明の方法は、単一の小分子または単一因子により処理すればよく、操作が単純であり、再現性が良く、哺乳動物の病変損傷の過程において組織、器官の線維化を阻害する新しい方法として使用できる。
【0033】
本発明は、Myosin阻害剤が、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性を破壊し、下等生物の再生プロセスと同様のストレス応答および再生反応を刺激し、ストレス応答を利用して細胞の遺伝的修復能力を大幅に改善できるという、本発明者らの発見に基づいてなされた。
【0034】
したがって、一実施形態では、本発明は、ストレス応答の刺激におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0035】
一実施形態では、本発明は、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性を破壊することによってストレス応答を刺激することにおけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0036】
一実施形態では、本発明はまた、再生反応の刺激におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0037】
一実施形態では、本発明は、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性を破壊することによって再生反応を刺激することにおけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0038】
一実施形態では、本発明はまた、細胞の遺伝的修復能力の改善におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0039】
一実施形態では、本発明は、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性を破壊することによって細胞の遺伝的修復能力を改善することにおけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0040】
一実施形態では、前記ストレス応答の刺激は、高い遺伝的損傷修復反応を刺激し、それによって本体相同組換え修復遺伝子のアップレギュレーションを増加させ、組換え能力を高める。
【0041】
一実施形態では、本発明はまた、組織器官の再生と修復を促進することにおけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0042】
一実施形態では、本発明は、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性を破壊することによって組織器官の再生と修復を促進することにおけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0043】
一実施形態では、本発明はまた、ストレス応答の刺激、再生反応の刺激、細胞の遺伝的修復能力の改善、および/または組織器官の再生と修復の促進のための薬剤または試薬の調製におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0044】
一実施形態では、本発明はまた、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性を破壊することによるストレス応答の刺激、再生反応の刺激、細胞の遺伝的修復能力の改善、および/または組織器官の再生と修復の促進のための薬剤または試薬の調製におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0045】
一実施形態では、本発明はまた、ストレス応答、再生反応、細胞の遺伝的修復能力、および/または組織器官の再生と修復に関連する疾患を治療するための薬剤または試薬の調製におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0046】
一実施形態では、前記疾患は強皮症である。
【0047】
一実施形態では、前記Myosin阻害剤は(-)-Blebbistatinであり、BleまたはBlebまたはBlebbと略す。
【0048】
一実施形態では、前記器官は肝臓である。
【0049】
本発明の方法は、単一の小分子または単一因子のみにより処理すればよく、操作が単純であり、再現性が良く、ストレス応答や再生反応を刺激し、細胞の遺伝的修復能力を改善する、および/または組織器官の再生修復を促進する新しい方法として使用できる。
【0050】
一実施形態では、本発明は、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性の破壊、細胞の機械的硬度の破壊、細胞の軟化、または組織または器官の線維化の低減の方法であって、それを必要とする被験者にMyosin阻害剤を投与することを含む、方法に係る。
【0051】
一実施形態では、本発明は、Myosin阻害剤を含む、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性障害、細胞の機械的硬度障害、または組織または器官の線維化に関連する疾患を治療する薬剤に係る。
【0052】
一実施形態では、本発明は、ストレス応答の刺激、再生反応の刺激、および/または細胞の遺伝的修復能力の改善の方法であって、それを必要とする被験者にMyosin阻害剤を投与することを含む、方法に係る。
【0053】
一実施形態では、本発明は、組織器官の再生と修復を促進する方法であって、それを必要とする被験者にMyosin阻害剤を投与することを含む、方法に係る。
【0054】
一実施形態では、本発明は、ストレス応答、再生反応、および/または細胞の遺伝的修復能力に関連する疾患を治療する方法であって、それを必要とする被験者にMyosin阻害剤を投与することを含む、方法に係る。
【0055】
一実施形態では、本発明は、Myosin阻害剤を含む、ストレス応答の刺激、再生反応の刺激、および/または細胞の遺伝的修復能力の改善のための薬剤に係る。
【0056】
一実施形態では、本発明は、Myosin阻害剤を含む、組織器官の再生と修復を促進する薬剤に係る。
【0057】
一実施形態では、本発明は、Myosin阻害剤を含む、ストレス応答、再生反応、および/または細胞の遺伝的修復能力に関連する疾患を治療する薬剤に係る。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1-1】図1は、Myosin阻害剤が細胞の機械系の恒常性を破壊し、細胞の軟化を誘導することを示す図である。
図1-2】図1は、Myosin阻害剤が細胞の機械系の恒常性を破壊し、細胞の軟化を誘導することを示す図である。
図2図2は、CClによって誘導された軽度の肝線維化の阻害における細胞軟化の使用、およびCClによって誘導された軽度の肝損傷の修復の治療において線維化を阻害し、再生修復を促進することにおける、Myosin阻害剤によって誘導されたストレス応答の使用を示す図である。図2Aは、慢性軽度肝線維化モデルの治療における投与計画を示す図である。図2Bは、シリウスレッド免疫組織化学(左)とCClによって誘導された軽度の肝損傷モデルの肝組織のシリウスレッド染色の定量分析(右)(n=3匹のマウスを油処理群に使用し、n=5匹のメスマウスをCClモデリング群に使用する)を示す図である。図2Cは、H&E(上の図)とシリウスレッド(下の図)免疫組織化学分析の治療効果(n=各群で6匹のマウス)を示す図である。図2Dは、シリウスレッド染色結果の偏光解析を示す図である。データは平均値±SDとして表される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(スチューデントt-検定)。
図3-1】図3は、CClによって誘導された慢性重度の肝線維化の阻害における細胞軟化の使用、およびCClによって誘導された慢性重度の肝損傷の修復の治療において線維化を阻害し、再生修復を促進することにおける、Myosin阻害剤によって誘導されたストレス応答の使用を示す図である。図3Aは、慢性重度肝線維化モデルの治療における投与計画を示す図である。図3Bは、シリウスレッド染色によるCClモデリングの効果の分析(n=5匹のマウスを油処理群に使用し、n=4匹のマウスをCClモデリング群に使用する)を示す図である。図3C~3Dは、それぞれシリウスレッド組織化学染色とタイプIコラーゲン免疫蛍光染色を用いた治療効果の分析(3Cでは、n=各群で少なくとも5匹のマウス;3Dでは、n=各群で3匹のマウス)を示す図である。図3E~3Fは、治療過程における、転写レベルから分析された線維化関連指標の変化を示す図である(n=各群で3匹のマウス、有意性分析はRNAseqデータに由来)。データは平均値±SDとして表される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(スチューデントt-検定)。
図3-2】図3E~3Fは、治療過程における、転写レベルから分析された線維化関連指標の変化を示す図である(n=各群で3匹のマウス、有意性分析はRNAseqデータに由来)。データは平均値±SDとして表される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(スチューデントt-検定)。
図4-1】図4は、細胞の軟化が組織の線維化を阻害し、肝細胞の増殖を促進し、肝臓の再生を促進し、およびMyosin阻害剤によって誘導されたストレス応答が組織の線維化を阻害し、肝細胞の増殖を促進し、肝臓の再生を促進することを示す図である。図4Aは、治療群と対照群における肝損傷及び肝機能に関連する指標の血液生化学分析を示す図である(n=各群で3匹のマウス)。図4Bは、Alb Creマウスを使用して追跡した、治療群と対照群の肝細胞におけるALBタンパク質の発現状況をを示す図である。図4Cは、ALBとKi-67を共染色することによる、治療群と対照群における肝細胞の増殖状況の分析を示す図である。図4Dは、TUNEL染色を使用した、治療群と対照群の肝組織のアポトーシスの分析を示す図である。
図4-2】図4Eは、転写レベルにより定量された治療群と対照群の肝組織の肝機能の関連指標を示す図である(n=各群で3匹のマウス)。データは平均値±SDとして表される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図5図5は、肝損傷の過程中の組織器官の硬化の低減における細胞軟化の使用、およびMyosin阻害剤が肝損傷の過程中の組織剛性を低減することを示す図である。図5Aは、Mark 10 ESM303を使用して、治療前後の新鮮な肝臓組織の機械的剛性を測定したことを示す図である(WT群、n=4匹のマウス、n=他の群で少なくとも6匹のマウス)。図5Bは、第2高調波を使用してインビボスキャンした、治療群と対照群の線維含有量およびトポロジー分布を示す図である(n=各群で5匹のマウス)。データは平均値±SDとして表される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(スチューデントt-検定)。
図6図6は、胆管結紮によって誘導された肝線維化の阻害における細胞軟化の使用、および胆管結紮によって引き起こされた肝損傷における、Myosin阻害剤によって誘導されたストレス応答の使用を示す図である。図6Aは、胆管結紮によって誘導された肝損傷をBlebで治療するフローチャートである。図6Bは、治療群と対照群のマウス状態を示す図である。図6Cは、治療の15日後に、シリウスレッド組織化学染色およびαSMA免疫蛍光による、コラーゲン繊維の堆積と筋線維芽細胞の活性化の分析を示す図である(シリウスレッド、n=各群で6匹のマウス;αSMA、n=各群で少なくとも4匹のマウス)。図6Dは、治療の30日後に、シリウスレッド組織化学染色によって示されたコラーゲン繊維の堆積状況を示す図である(n=各群で少なくとも3匹のマウス)。図6Eは、治療群と対照群における肝組織細胞の増殖状況を示す図である。データは平均値±SDとして表される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001(スチューデントt-検定)。
図7-1】図7は、皮膚線維化の阻害および強皮症の治療における細胞軟化の使用、および強皮症の治療における、Myosin阻害剤によって誘導されたストレス応答の使用を示す図である。図7Aは、ブレオマイシンによって誘導された強皮症をBlebで治療するフローチャートである。図7Bは、7日間治療した後の皮膚構造の変化を示す図である。図7Cは、治療後のメラニンの蓄積と新しい毛髪の成長状況を示す図である。図7Dは、H&E組織化学およびMasson染色による、硬化領域での皮膚構造と繊維の堆積の分析を示す図である。図7Eは、治療後の硬化領域の表皮および真皮の厚さを示す図である(n=各群で少なくとも3匹のマウス)。図7Fは、治療後の硬化領域の毛包の数の分析を示す図である(n=各群で少なくとも3匹のマウス)。図7Gは、治療後の硬化領域の増殖の分析を示す図である。
図7-2】図7Hは、毛包と腺の再生の同定を示す図である。図7Iは、毛包の増殖の同定を示す図である。図7J~Kは、免疫蛍光によるFGF9およびNeuNの発現の分析を示す図である。
図8図8は、肺線維化の阻害における細胞軟化の使用を示す図である。図8Aは、ブレオマイシンによって誘導された肺線維化をBlebで治療するフローチャートである。図8Bは、Blebでの治療が肺線維化マウスの生存率を有意に改善したことを示す図である。図8C~8Dは、小動物CTイメージングでは、Blebでの治療が非容積減少を有意に阻害したことを示す図である。図8Eの上の図は、ヘマトキシリン-エオシン(HE)染色法では、Blebでの治療が肺損傷の程度を軽減したことを示す図である。図8Eの下の図は、シリウスレッド染色(Sirus Red)では、Blebでの治療が肺線維化を軽減したことを示す図である。
図9-1】図9(A)~(C)は、Myosin阻害剤が細胞の機械系の恒常性を破壊し、再生関連のストレス応答及び再生の開始と組織の発生関連反応を破壊することを示す図である。
図9-2】図9(A)~(C)は、Myosin阻害剤が細胞の機械系の恒常性を破壊し、再生関連のストレス応答及び再生の開始と組織の発生関連反応を破壊することを示す図である。
図10-1】図10は、(-)-Blebbistatinが刺激したストレス応答によって活性化された高い遺伝的損傷修復反応が、本体相同組換え修復の遺伝子のアップレギュレーションを高めたことを示す図である。図10(A)は、5~50μmоl(-)-Blebbistatinでヒト線維芽細胞を処理し、6時間のトランスクリプトーム解析を経て、DNA複製と相同組換えに関連する遺伝子、ミスマッチ修復関連遺伝子、ヌクレオチド切除修復および塩基切除修復遺伝子が有意にアップレギュレーションされたことを示す図である。
図10-2】図10(B)は、更なる分析では、相同組換えに関与するほとんどすべての重要な遺伝子が有意にアップレギュレーションされたことを示す図である。
図11-1】図11(A)~(E)は、本体相同組換え修復の遺伝子のアップレギュレーションにおける、(-)-Blebbistatinが刺激したストレス応答によって活性化された高い遺伝的損傷修復反応の使用を示す図である。ストレス応答の刺激に伴われる高い遺伝的損傷修復反応が、本体相同組換え遺伝子の修復を改善することを示す図である。
図11-2】図11(A)~(E)は、本体相同組換え修復の遺伝子のアップレギュレーションにおける、(-)-Blebbistatinが刺激したストレス応答によって活性化された高い遺伝的損傷修復反応の使用を示す図である。ストレス応答の刺激に伴われる高い遺伝的損傷修復反応が、本体相同組換え遺伝子の修復を改善することを示す図である。
図12-1】図12(A)~(C)は、ヒト肝細胞のインビトロでの増殖の促進における、Myosin阻害剤によって刺激されたストレス応答の使用を示す図である。
図12-2】図12(A)~(C)は、ヒト肝細胞のインビトロでの増殖の促進における、Myosin阻害剤によって刺激されたストレス応答の使用を示す図である。
図12-3】図12(A)~(C)は、ヒト肝細胞のインビトロでの増殖の促進における、Myosin阻害剤によって刺激されたストレス応答の使用を示す図である。
図13-1】図13(A)~(F)は、Myosin阻害剤が、TGF-β1によって誘導されたマウス星状細胞mHSCsの筋線維芽細胞への転換および細胞外マトリックスの合成を阻害することを示す図である。その中で、図13(A)は、実施例9-1の具体的なスキームを示し、図13(B)には、TGF-β1のない誘導群を陰性対照(Control)とし、「Con」と表記し、TGF-β1誘導群をDMSOとBlebでそれぞれ処理して「TGFB+DMSO」と「TGFB+Bleb」と表記し、Iは免疫蛍光染色結果であり、IIは定量PCR同定結果である。
図13-2】3回繰り返して、図13(C)は、Blebが、TGF-β1によって誘導されたマウスMEFsの筋線維芽細胞への転換および細胞外マトリックスの合成を有意に阻害することを示す図である。
図13-3】図13(D)は、Blebが、TGF-β1によって誘導されたマウスの異なる臓器の初代間質細胞の筋線維芽細胞への転換および細胞外マトリックスの合成を有意に阻害することを示す図である。
図13-4】図13(E)には、TGF-β1のない誘導群を陰性対照(Control)とし、「Con」と表記し、TGF-β1誘導群をDMSOとBlebでそれぞれ処理して「TGFB+DMSO」と「TGFB+Bleb」と表記し、3回繰り返した。
図13-5】図13(F)と図13(G)は、BlebとS-Bleb-OBdなどを含む異なる化合物が、TGF-β1によって誘導された筋線維芽細胞の活性化に対する阻害作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施例をより詳細に説明する。本発明の具体的な実施例は図面に示されているが、ここで説明する実施例に制限せずに、本発明は様々な形で実施できることを理解されたい。逆に、これらの実施例は、本発明をよりよく理解し、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるために提供されたものである。
【0060】
なお、明細書および特許請求の範囲では、特定の構成要素を指すために特定の用語が使われている。技術者が同じ構成要素を指すために異なる用語を使用する場合があることを、当業者は理解するのであろう。本明細書および特許請求の範囲は、構成要素を区別する方法として用語の違いを使用せず、構成要素の機能の違いをその区別の基準として使用する。例えば、明細書および特許請求の範囲全文で言及されている「含む」または「備える」はオープンな用語であるため、「含むがそれらに限定されない」と解釈すべきである。以下の明細書の説明は、本発明を実施するための好ましい実施形態であるが、その説明は、明細書の一般的な原則を説明することを目的としており、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されるものに従うものとする。
【0061】
本文で使用されているように、特定の成分について、「実質的に含まない」とは、特定の成分が意図的に組成物に配合されておらず、および/または汚染物としてまたは痕跡量でのみ存在することをいう。よって、組成物の偶発的な汚染によって引き起こされる特定の成分の総量は、0.05%未満、好ましくは0.01%未満である。もっとも好ましいのは、特定の成分の量が標準的な分析方法では検出できない組成物である。
【0062】
本明細書で使用されているように、「一」または「一つ」は、1つ以上を意味し得る。特許請求の範囲で使用されているように、「含む」という単語とともに使用される場合、「一」または「一つ」は、1つまたは複数を意味することができる。
【0063】
代替案のみを指すこと、または代替案が相互に排他的であると明確に述べられている場合以外に、特許請求の範囲では「または」という用語を使用して「および/または」を表すが、本開示内容は代替案のみを指すことおよび「および/または」の定義をサポートしている。本文で使用されているように、「もう一つの/別の」は、少なくとも2つめの、またはそれ以上を意味することができる。
【0064】
本願全体を通して、「約/くらい」という用語は、その値がデバイスのエラーの固有の変動を含むことを示すために使用され、その方法は、その値または研究対象間に存在する変動を測定するために使用される。
【0065】
本文では、「分化」とは、あまり特殊化していない細胞がより特殊化した細胞型になるプロセスをいう。「脱分化」とは、一部または最終的に分化した細胞が、多能性または多潜在性などのより初期の発生段階に戻る細胞プロセスをいう。「分化転換」とは、あるタイプの分化細胞が別のタイプの分化細胞に転換するプロセスをいう。典型的には、細胞は中間多能性段階を通過せずに、プログラミングすることによって分化転換が発生し、すなわち、細胞は、あるタイプの分化細胞から別のタイプの分化細胞に直接にプログラミングされる。
【0066】
本文で使用されているように、「被験者」または「必要とする被験者」という用語は、細胞または組織の移植を必要とする任意の年齢のオスまたはメスの哺乳動物を指し、好ましくはヒトを指す。通常、被験者は細胞または組織の移植を必要とし(本文ではレシピエントとも呼ばれる)、これは、細胞または組織移植を介した治療に適した病症または病状または望ましくない状況、状態または症候群、若しくは物理的、形態学的、または生理学的異常によるものである。
【0067】
本文に係るいくつかの用語の定義は次の通りである。
BMP4:骨形成タンパク質4(bone morphogenetic protein,bmp4)。
高グルコースDMEM:高グルコースDMEM培地(dulbecco’s modified eagle medium,DMEM)、すなわち、MEM培地をベースにして開発された、様々なグルコースとアミノ酸を含む市販の培地。
N2B27:DMEM/F12基礎培地とneurobasal基礎培地を1:1で混合した、N2添加剤とB27添加剤を含む、成分がはっきりしている細胞培養液である。マウス胚肝細胞の神経系への分化に寄与すると報告されている。
DMEM/F12:クローン密度培養に適した、DMEM培地とF12培地を1:1で混合した市販の基礎培養液。
Neurobasal:神経細胞培養に寄与する市販の基礎培地。
GlutaMAX:細胞培地中のL-グルタミンを直接に置き換えることができる細胞培養添加剤。
二重抗生:ペニシリンとストレプトマイシンは、細胞培養中に細菌の混入を防ぐために細胞培養で一般的に使用される2つの抗生物質である。
N2添加剤:市販の無血清細胞培養添加剤。
B27添加剤:市販の無血清細胞培養添加剤。
KOSR:市販の血清の代替物(Knockout serum replacement,KOSR)。
CHIR99021:Wntシグナル伝達経路の活性化剤としてよく使用されるGSK-3α/β阻害剤。
A83-01:ALK4、ALK5、及びALK7の活性を顕著に阻害できる選択的TGF-β阻害剤。
CCl:四塩化炭素のことであり、肝損傷を誘導するための試薬として使用される有機化合物。
ブレオマイシン:皮膚強皮症と肺線維化モデルを誘導するための試薬として使用される化学療法薬。
Sirius Red:強酸性染料であるシリウスレッドのことであり、コラーゲン分子と結合して複屈折減少を強化し、異なる色と形のコラーゲン繊維を区別付ける。
Masson染色:コラーゲン繊維を同定する方法であり、2つまたは3つのアニオン染料から混合してなり、コラーゲン繊維は青色を呈し、筋線維は赤色を呈する。組織の線維および炎症性因子を示すために使用される染色方法の一つ。
α-SMA:α平滑筋アクチンであり、Acta2とも呼ばれ、繊維化組織において、筋線維芽細胞(主にコラーゲン繊維などの細胞外マトリックスを合成および分泌する細胞)のマーカータンパク質として、筋線維芽細胞の活性化を同定するために使用される。正常な生理機能は血管平滑筋細胞にも発現されている。
DMSO:ジメチルスルホキシド、有機溶媒。
PEG400:ポリエチレングリコール400のことであり、液体であり、各種の溶媒との相溶性が高く、良溶剤・可溶化剤であり、経口液剤や点眼剤などの液剤に広く使用されている。
Tween80:注射剤や経口液剤の可溶化剤または乳化剤として使用される、ソルビタンモノオレエートポリオキシエチレンエーテル。
【0068】
本発明は、細胞の機械的ストレスシステムの恒常性の破壊、細胞の機械的硬度の破壊、細胞の軟化、または組織または器官の線維化の低減におけるMyosin阻害剤の使用に係る。
【0069】
本発明の一つの具体的な実施形態では、器官線維化は、例えば、肝線維化である。肝線維化は、病理生理学的プロセスにおいて様々な生理学的および病原性因子によって引き起こされる肝臓の結合組織の異常な増殖であり、しかも肝組織に大量の細胞外マトリックスの蓄積が伴われる。如何なるタイプの肝臓損傷は、肝臓の修復と治癒の過程で異なる程度の肝線維化を伴う。損傷要因を長期間取り除くことができない場合、肝臓の再生と修復および肝臓の正常な機能に影響を与えるだけではなく、線維化の過程が長期間続くと肝硬変、さらに肝癌に発展する。抗肝線維化の治療は主に、抗肝炎ウイルス治療、住血吸虫症などの抗寄生虫治療、禁酒および良好な生活習慣の養成など、原発性疾患の病原因子の除去を含む。線維化自体の治療では、炎症、脂質過酸化を阻害し、または、肝星細胞の増殖活性化を阻害し、およびコラーゲンの分解を促進することによって達成できる。しかし、臨床において肝線維化を治療および予防するための安全で効果的な手段はまだない。よって、新しい抗繊維化標的とその制御方法を見つけて開発することが急務である。本文では、肝線維化の原因については具体的な限定はない。例えば、肝線維化は、アルコール性肝炎によって引き起こされる肝線維化、ウイルス性肝炎によって引き起こされる肝線維化、非アルコール性脂肪性肝炎によって引き起こされる肝線維化、毒素または薬物によって引き起こされる肝線維化、自己免疫性肝疾患によって引き起こされる肝線維化、肝うっ血によって引き起こされる肝線維化、遺伝性代謝疾患によって引き起こされる肝線維化、または他の原因によって引き起こされる肝線維化などがある。本願は、Myosinの阻害を使用して細胞骨格の恒常性を破壊し、細胞の軟化を実現し、(-)-Blebbistatin(Ble、BlebまたはBlebbと略す)または(-)-Blebbistatin O-BenzoateのようなMyosinの小分子化合物阻害剤が、複数のタイプの肝損傷モデルにおいて線維化を阻害して再生修復を促進できる効果を検証した。
【0070】
本発明は、Myosin阻害剤の使用が軽度の肝損傷の過程における肝線維化を有意に阻害できることを示している。本発明は、Myosin阻害剤の使用が慢性重度の肝損傷の過程における肝線維化を有意に阻害できることを示している。本発明は、Myosin阻害剤の使用が肝損傷後の細胞増殖を有意に促進し、肝損傷の過程における細胞アポトーシスを低減できることを示している。本発明は、Myosin阻害剤が、肝損傷線維化を阻害することにより、肝細胞増殖を促進し、細胞アポトーシスを低減し、肝臓の再生を促進し、これによって肝機能を維持できることを示している。さらに、本発明は、Myosin阻害剤によって誘導されるストレス応答の使用が、組織線維化を阻害し、肝細胞増殖を促進し、肝臓の再生を促進することを示している。本発明は、Myosin阻害剤の使用が肝損傷の過程における組織の剛性を低減できることを示している。
【0071】
さらに、本発明は、Myosin阻害剤の使用が、胆管結紮によって引き起こされるコラーゲン繊維の蓄積を有意に阻害し、胆管結紮の過程で肝細胞の増殖を促進できることを示している。
【0072】
本発明の一つの具体的な実施形態では、器官線維化とは、肺線維化をいう。肺線維化は、線維芽細胞の増殖および大量の細胞外マトリックスの堆積を特徴とする病理学的な変化であり、しかも炎症性損傷と組織構造の破壊が伴われる。つまり、正常な肺胞組織が損傷し、異常な修復を経て構造異常(瘢痕形成)を引き起こす。肺線維化は、ヒトの呼吸機能に深刻な影響を及ぼし、さまざまな呼吸困難として現れ、病状や肺損傷の悪化および患者の呼吸機能の持続的な悪化が伴われる。報告によると、特発性肺線維化の罹患率と死亡率は世界中で年々増加しており、診断後の平均生存期間は3年未満であり、ほとんどの腫瘍よりも高いため、「腫瘍様疾患」とも呼ばれる。したがって、肺線維化を効果的に阻害可能な新しい標的および薬剤を見つけることは、肺線維化関連疾患の治療および予防において重要な使用価値がある。本発明において、肺線維化の原因は特に限定されていないが、本発明でいう肺線維化とは、無機粉塵の吸入、放射線損傷、有機粉塵の吸入、薬物損傷などの原因によって引き起こされる肺線維化、および特発性肺線維化を含む、複数の原因によって引き起こされる肺線維化のことである。
【0073】
本発明において、Myosin阻害剤により、肺損傷の過程での組織損傷及び線維化を阻害することができる。
【0074】
本発明は、ストレス応答、再生反応、および/または細胞の遺伝的修復能力に関連する疾患を治療するための薬剤または試薬の調製におけるMyosin阻害剤の使用に係る。一つの具体的な実施形態では、組織器官の再生と修復に関連する疾患は強皮症である。本発明において、Myosin阻害剤の使用は、硬化領域におけるメラニンの蓄積および新しい毛髪の成長を促進し、間質繊維の蓄積を有意に減少させ、毛包または腺の数を促進することができる。本発明において、Myosin阻害剤の使用は、毛包細胞の増殖を促進し、それによって毛包の形成を促進することができる。さらに、本発明において、Myosin阻害剤の使用は強皮症を治療することができる。
【0075】
本発明において、Myosin阻害剤により、一般的なストレス応答に関連する遺伝子の発現をアップレギュレーションすることができ、FSTなどの再生開始に関連する遺伝子および神経発生関連遺伝子を有意にアップレギュレーションすることができる。
【0076】
本発明において、Myosin阻害剤により、DNA複製と相同組換えに関連する遺伝子、ミスマッチ修復関連遺伝子、ヌクレオチド切除修復および塩基切除修復遺伝子の発現を有意にアップレギュレーションすることができる。
【実施例
【0077】
次は具体的な実施例を用いて本発明の実施形態を詳しく説明する。ただし、以下の内容は、本発明に対するいかなる制限として解釈されるべきではない。特に明記しない限り、実施例で使用される材料は市販の製品である。
【0078】
実施例1
Myosin阻害剤による細胞の機械系の恒常性の破壊および細胞軟化の誘導
図1Aは共焦点レーザースキャンを示す図である。図1Bは、DMSO(対照)、(-)-Blebbistatin(BlebbistatinまたはBleとも略す)(20μmоl)で処理されたヒト線維芽細胞を示し、ファロイジンで染色され、対照群(上の行)の細胞には、豊富なストレスファイバーが平行に配置されており、細胞核はその縁が滑らかで円形または楕円形を呈し、実験群をBleで処理した後、ストレスファイバーは分解し、細胞核にはしわが出て不規則な形になる。図1Cは、ラミンA/CがDNAの外周に強く均一に分布しており、基底-舌先の方向に明らかな極性を持っており、舌先部分のラミンA/Cが明らかに基底部分より高いことを示す図である。ヘテロクロマチンHP1タンパク質では、対照群が実験群より有意に強いことが示される。図1Dに示す結果は、実験群の90%を超える細胞の中で、ストレスエフェクトタンパク質YAP1/TAZは核に位置するシグナルが細胞質に位置するシグナルより有意に強く、実験群の薬剤処理では35%の細胞のみが明らかに核に位置していることを示す。図1Eは、定量PCR測定によって細胞の機械的硬度の調節に関連するタンパク質が、小分子による処理後に有意にダウンレギュレーションされたことを示す図である。フルオロウラシルヌクレオシドを使用してリボソーム転写RNAを標識すると、図1Fに示すように、対照群の転写活性領域は主に細胞核の中心付近に集中しているが、実験群では、フルオロウラシルヌクレオシドにより標記されたアクティブな転写領域が細胞核の外周近くにも分布している。3回で生物学的に繰り返した。エピジェネティックに対する免疫蛍光染色Blebの影響の結果、図1Gに示すように、Blebが4日目にH3K27トリメチル化の修飾を大幅に低減したことは示され、さらにH3K27トリメチル化修飾複合体の成分EZH2を検証すると、図1Hに示すように、対照群EZH2の明らかに核に位置していることが発見され、Bleで処理されたEZH2タンパク質レベルがダウンレギュレーションされ、細胞質に位置していることが示された。
【0079】
実施例2
肝線維化関連疾患の治療における、肝線維化を阻害する細胞軟化の使用
肝線維化は、病理生理学的プロセスにおいて様々な生理学的および病原性因子によって引き起こされる肝臓の結合組織の異常な増殖であり、しかも肝組織に大量の細胞外マトリックスの蓄積が伴われる。如何なるタイプの肝臓損傷は、肝臓の修復と治癒の過程で異なる程度の肝線維化を伴う。損傷要因を長期間取り除くことができない場合、肝臓の再生と修復および肝臓の正常な機能に影響を与えるだけではなく、線維化の過程が長期間続くと肝硬変、さらに肝癌まで発展する。抗肝線維化の治療は主に、抗肝炎ウイルス治療、住血吸虫症などの抗寄生虫治療、アルコールの禁欲および良好な生活習慣の養成など、原発性疾患の病原因子の除去を含む。線維化自体の治療では、炎症、脂質過酸化を阻害し、または、肝星細胞の増殖活性化を阻害し、およびコラーゲンの分解を促進することによって達成できる。しかし、臨床において肝線維化を治療および予防するための安全で効果的な手段はまだない。よって、新しい抗繊維化標的とその制御方法を見つけて開発することが急務である。本願の発明者らは、Myosinを阻害することにより細胞骨格の恒常性を破壊し、細胞を軟化することを発見し、(-)-Blebbistatin(Ble、BlebまたはBlebbと略す)のようなMyosinの小分子化合物阻害剤が、複数のタイプの肝損傷モデルにおいて線維化を阻害して再生修復を促進できる効果を検証した。
【0080】
実施例2-1
CClによって誘導された軽度の肝線維化の阻害における細胞軟化の使用
実験で使用されたICR、C57B1/6マウスはSPF(Beijing)Biotechnology Co., Ltd.から購入され、四塩化炭素はAladdin Reagent(Shanghai)Co., Ltd.から購入され(C131583-1L)、コーンオイルはSigmaから購入された(C8267)。CCl軽度肝損傷の実験フローを図2Aに示す。8週齢のメスマウスを選択して1週間バリア内で飼育し、ランダムに2つの群に分け、それぞれCCl/コーンオイル(配合容量2:5)とコーンオイルを注射した。CCl投与量は0.5ml/kgであり、週に2回、4週間連続して投与した。4週間後、マウスを5%抱水クロラールで麻酔し、肝小葉の一部を取り出して4%パラホルムアルデヒドで固定し、脱水してワックスに浸し、シリウスレッド(Y-Y-R20384-100ML)キットを使用して繊維化染色をした。図2Bに示すように、コラーゲン繊維は赤色を呈する。同定モデリングが成功した後、腹腔内注射または尾静脈注射により薬剤を投与して治療した。小分子をジメチルスルホキシドに溶解し、1日当たり1mgまたは3mg/kgの濃度で、2~5%DMSO+30%プロピレングリコール+2%Tween80+ddHOを順に添加した。対照群は「Control」であり、図において「Con」と略す。腹腔内注射の方法は次の通りである。1mlの注射器で薬剤を吸引し、横隔膜や他の臓器を傷つけないように皮下注射器で皮膚と腹部の筋肉を刺して液体を腹腔内に注射し、液体が漏れないようにしばらく待ってから針を抜いた。尾静脈注射の方法は次の通りである。マウスを固定器内に固定し、尾を真っすぐにして締め、注射後に綿を用いて出血を止めた。1~2週間連続して注射した後、注射を停止した。再度シリウスレッド染色による同定を行った結果、図2Cと2Dに示すように、Myosin阻害剤(-)-Blebbistatinは線維化を有意に阻害した。上記実験から、CClによって誘導された軽度の肝損傷の修復の治療において線維化を阻害し、再生修復を促進することにおける、Myosin阻害剤によって誘導されたストレス応答の使用が分かる。
【0081】
実施例2-2
CClによって誘導された慢性重度の肝線維化の阻害における細胞軟化の使用
実験で使用されたICR、C57B1/6マウスはSPF(Beijing)Biotechnology Co., Ltd.から購入され、四塩化炭素はAladdin Reagent(Shanghai)Co., Ltd.から購入され(C131583-1L)、コーンオイルはSigmaから購入された(C8267)。CCl軽度肝損傷の実験フローを図3Aに示す。8~10週齢のメスマウスを選択して1週間バリア内で飼育し、ランダムに2つの群に分け、それぞれCCl/コーンオイル(配合容量1:2)とコーンオイルを注射した。CCl投与量は2ml/kgであり、週に2回、4週間連続して投与した。6週間後、マウスを5%抱水クロラールで麻酔し、肝小葉の一部を取り出して4%パラホルムアルデヒドで固定し、脱水してワックスに浸し、シリウスレッド(Y-Y-R20384-100ML)キットを使用して繊維化染色をした。図3Bに示すように、コラーゲン繊維は赤色を呈する。同定モデリングが成功した後、腹腔内注射または尾静脈注射により薬剤を投与して治療した。小分子をジメチルスルホキシドに溶解し、1日当たり1mgまたは3mg/kgの濃度で、2~5%DMSO+30%プロピレングリコール+2%Tween80+ddHOを順に添加した。対照群は「Control」であり、図において「Con」と略す。腹腔内注射の方法は次の通りである。1mlの注射器で薬剤を吸引し、横隔膜や他の臓器を傷つけないように皮下注射器で皮膚と腹部の筋肉を刺して液体を腹腔内に注射し、液体が漏れないようにしばらく待ってから針を抜いた。尾静脈注射の方法は次の通りである。マウスを固定器内に固定し、尾を真っすぐにして締め、注射後に綿を用いて出血を止めた。6~8週間連続して注射した後、注射を停止した。再度シリウスレッド染色(コラーゲン繊維の同定のため)によって同定を行い、その結果を図3Cに示す。タイプIコラーゲンCol I染色を行い、その結果を図3Dに示す。さらに、線維化関連遺伝子Acta2(筋線維芽細胞マーカータンパク質)、Col1a1(タイプIコラーゲンを表す)、Col1a2(タイプIコラーゲンを表す)、Col6a1(コラーゲンを表す)、Col6a2(コラーゲンを表す)、Vim(線維芽細胞を表す)の発現を定量PCRで同定し、その結果を図3E図3F(続)に示す。Myosin阻害剤(-)-Blebbistatinは、CClによって誘導された慢性重度の肝損傷の過程でのコラーゲン繊維の堆積と筋線維芽細胞の活性化を阻害し、これによって組織の線維化を阻害したことが分かる。それとともにに、CClによって誘導された慢性重度の肝損傷の修復の治療において線維化を阻害し、再生修復を促進することにおける、Myosin阻害剤によって誘導されたストレス応答の使用も分かる。
【0082】
実施例2-3
組織の線維化の阻害、肝細胞の増殖の促進、肝臓の再生の促進における細胞軟化の使用
図4Aに示すように、血液生化学分析(サンプリングの前に12~16時間断食)により、Myosin阻害剤(-)-BlebbistatinがALT、AST、GGTなどの肝損傷指標の含有量を低減できることは実証された。さらにAlb-cre×mTmGハイブリッドマウスを使用し、その成熟肝細胞はGFPを発現し、CClは線維化モデリングに用いられ、薬剤による治療処理後、GFPを発現する細胞のほとんどはAlbを発現するが、DMSOでGFPを発現する細胞の一部はAlbを発現しない。これは、図4Bに示すように、Myosin阻害剤(-)-Blebbistatinが肝損傷の過程における肝機能の喪失を阻止できることは示されている。さらに染色同定すると、図4Cに示すように、(-)-Blebbistatinが肝損傷後の細胞増殖を有意に促進できることが分かり、図4Dに示すように、肝損傷の過程における細胞アポトーシスが低減された。さらに肝機能関連指標を転写レベルにより分析した結果、図4E(続)に示すように、対照群と比べて、Myosin阻害剤(-)-Blebbistatinで処理された後、肝臓細胞関連遺伝子(Alb、G6P、Hnf4a、Hnfla、TF、Cy3al)、胆管関連遺伝子(CK19、Hnflb)、および増殖関連遺伝子(Ki67)などの高レベルの発現を有意に維持できることが分かった。以上によって、Myosin阻害剤(-)-Blebbistatinは、肝損傷の線維化を阻害し、肝細胞の増殖を促進し、細胞アポトーシスを減少させて肝臓の再生を促進することによって肝機能を維持する。上記結果からも、Myosin阻害剤によって誘導されたストレス応答は、組織の線維化を阻害し、肝細胞の増殖を促進し、肝臓の再生を促進することが分かる。
【0083】
実施例2-4
肝損傷の過程中の組織器官の硬化の軽減における細胞軟化の使用
実験で使用されたICR、C57B1/6マウスはSPF(Beijing)Biotechnology Co., Ltd.から購入され、肘ピンセット、指ピンセット、はさみ、持針器、縫合針、縫合糸はアスワン商貿有限公司から購入され、抗生物質はGibco(15240-062)から購入された。CClによって誘導された慢性重度肝損傷を構築し(実施例4と同じ)、モデリング後、頸椎脱臼でマウスを殺処分し、新鮮な肝組織のヤング率をMark-10 ESM303で測定した。非モデリング群と比較して、CClモデリング群の肝臓では、肝組織のヤング率が有意に増加した(図6Aの「WT」と「CClモデリング」)。モデリングが成功したマウスを2つの群に均等に分け、それぞれDMSO(図中「Con」)で処理し、(-)-Blebbistatinで治療された。治療後の7日目に、頸椎脱臼でマウスを殺処分し、新鮮な肝組織のヤング率をMark-10 ESM303で測定した結果、図5Aの「7日間治療-Con」と「7日間治療-Bleb」に示すように、Myosinが7日目に肝組織の剛性を有意に低下させたことが示されている。それと共に、第2高調波を使用してインビボスキャンした結果、(-)-Blebbistatin治療群(図5B右)では、肝組織の大量の平行に配置された繊維が低減され(図5B、中央の矢印により示される)、正常なマウスにより近いグリッド形状を呈した。上記の結果から、Myosin阻害剤が肝損傷の過程での組織剛性を低減することが分かる。
【0084】
実施例2-5
胆管結紮によって誘導された線維化の阻害における細胞軟化の使用
実験で使用されたICR、C57B1/6マウスはSPF(Beijing)Biotechnology Co., Ltd.から購入され、肘ピンセット、指ピンセット、はさみ、持針器、縫合針、縫合糸はアスワン商貿有限公司から購入され、抗生物質はGibco(15240-062)から購入された。
8週齢のメスマウスを選択し、実験の前に24時間断食禁水し、マウスを8ml/kgの腹腔内注射により5%抱水クロラールで麻酔し、麻酔後にマウスを固定し、腹部を切開し、臓器を露出させ、胃の端付近の十二指腸を見つけてゆっくり引っ張って胆管を見つけ、ピンセットで慎重に胆管を剥し、縫合糸で胆管を結紮し、抗生物質を滴下してから縫合糸で腹腔を閉じた。手術後に12時間断食禁水した。
手術の14~20日後に、マウスの皮膚が黄緑色を呈することが観察され、薬剤を投与して治療した。モデリング群を2つの群に均等に分け、実験群に(-)-Blebbistatinを腹腔内注射した。投与方法として、DMSOに溶解した(-)-Blebbistatinに2~5%DMSO(最終濃度、容量比)+30%PEG400(最終濃度、容量比)+2%Tween80(最終濃度、容量比)を順に加え、対照群には小分子を加えずに同量のDMSOを含有する溶剤を注射した(「Con」と表記)。
図6Aは、胆管結紮によって引き起こされた肝損傷線維化を(-)-Blebbistatin(以下においてBlebと略す)で治療するフローチャートである。その結果、図6Bは、肝線維化モデル対照群のジメチルスルホキシドで処理されたマウスが緩慢で弱体化しており、それと比べて、Myosin阻害剤Blebで阻害された処理群のマウスがより活発でエネルギーに満ちた状態を示している。図6Cは、シリウスレッド(Sirius Red)およびα-SMA染色した結果、Myosin阻害剤(-)-Blebbistatinで15日間治療した後、胆管結紮によるコラーゲン繊維の堆積(6C、上層)と筋線維芽細胞の増殖(6C、下層)が有意に阻害されたことを示す。30日間治療した後、対照群(対照群は「Control」であり、図において「Con」と略す)と比べて、Bledは依然として、胆管結紮によるコラーゲン繊維の堆積(図6D)を有意に阻害した。細胞増殖タンパク質Ki-67染色の結果、Blebが胆管結紮の過程における肝細胞の増殖を促進したことは示されている(図6E)。
以上の結果によって、胆管結紮による肝損傷における、Myosin阻害剤によって誘導されるストレス応答の使用が示されている。
【0085】
実施例3
強皮症の治療における皮膚線維化を阻害する細胞軟化の使用
強皮症は、皮膚および内臓器官の限局性またはびまん性線維化が発展して硬化および萎縮することをを特徴とする結合組織疾患である。この疾患は複数のシステムに損傷を与えることができ、現在のところ、その確実な病因と発症メカニズムはまだ不明であり、効果的な治療手段もない。本発明は、ブレオマイシン(bleomycin,BLM)をICRまたはC57B1/6マウスの背中に局所注射してマウスの皮膚硬化症を誘発し、治療のためにMyosin阻害剤(-)-Blebbistatinを腹腔内投与した。実験フローを図7Aに示す。
ブレオマイシンを注射してから1週間後、マウスの背部の注射部位の皮膚は厚くて硬くなり、弾力性が劣り、注射が終わるまで毛髪には成長の変化は見られなかった。それと共に、注射部位には、表在性潰瘍を伴う硬結とかさぶたが現れた。図7Bに示すように、生理食塩水対照群のマウス背部の、剃毛した注射領域の毛髪は成長し続け、明らかな皮膚の硬化や肥厚は見られなかった。治療群(Bleb):Myosin阻害剤(-)-Blebbistatin(1~3mg/kg/日、2~5%DMSO+30%PEG400+2%Tween80+ddHOに溶解)を腹腔内投与した。対照群(con):(-)-Blebbistatinを含まず、同量のDMSOを含む。図7Bに示すように、3週間治療した後、治療群では硬結とかさぶたの程度が明らかに軽減され、表在性潰瘍の程度がより小さくなった。図7Cに示すように、Myosin阻害剤(-)-Blebbistatinが硬結領域のメラニンの蓄積と新しい毛髪の成長を促進することは、更なる実験により実証された。図7Dに示すように、H&EおよびMasson繊維染色の結果、(-)-Blebbistatinが間質繊維の蓄積を有意に低減した。図7Eに示すように、さらに分析した結果、(-)-Blebbistatin治療が表皮と真皮の厚さを有意に減少させ、また、図7Fに示すように、毛包または腺の数を促進した。図7Gに示すように、Ki-67染色の結果、(-)-Blebbistatinは毛包細胞の増殖を促進し、これによって毛包の形成を促進した。図7H(続)に示すように、さらに免疫染色によって同定した結果、(-)-Blebbistatin治療群KRT17(毛包マーカータンパク質)陽性細胞はKRT18(腺マーカータンパク質)陽性細胞よりはるかに多かった。図7I(続)に示すように、KRT17と増殖マーカータンパク質PCNAを共に免疫染色することにより、(-)-Blebbistatinが毛包細胞の増殖を促進することで毛包の再生を促進することが分かった。さらに、図7J(続)に示すように、(-)-Blebbistatin治療群はより多くの、毛包の再生を促進することが報告されたFGF9を発現したことが発見された。意外なことに、(-)-Blebbistatinは硬結領域の神経運命の出現を促進でき、一部の細胞は(-)-Blebbistatin治療により、図7Kに示すように、核に位置している成熟ニューロンのMarker NeuNを発現し、これは、神経運命の誘導の発生が損傷の修復と組織の再生に寄与するか否かについて更なる研究が必要であることを示唆している。上記の結果も、強皮症の治療における、Myosin阻害剤によって誘導されるストレス応答の使用を示している。
【0086】
実施例4
肺線維化関連疾患の治療における肺線維化を阻害する細胞軟化の使用
肺線維化は、線維芽細胞の増殖および大量の細胞外マトリックスの堆積を特徴とする病理学的な変化であり、しかも炎症性損傷と組織構造の破壊が伴われる。つまり、正常な肺胞組織が損傷し、異常な修復を経て構造異常(瘢痕形成)を引き起こす。肺線維化は、ヒトの呼吸機能に深刻な影響を及ぼし、さまざまな呼吸困難として現れ、病状や肺損傷の悪化および患者の呼吸機能の持続的な悪化が伴われる。報告によると、特発性肺線維化の罹患率と死亡率は世界中で年々増加しており、診断後の平均生存期間は3年未満であり、ほとんどの腫瘍よりも高いため、「腫瘍様疾患」とも呼ばれる。したがって、肺線維化を効果的に阻害可能な新しい標的および薬剤を見つけることは、肺線維化関連疾患の治療および予防において重要な使用価値がある。
本発明は、ブレオマイシン(bleomycin,BLM)をICRまたはC57B1/6マウスの肺気管に点滴注射して肺線維化のマウスモデルをうまく構築し、治療のためにMyosin阻害剤(-)-Blebbistatinを腹腔内投与した。(-)-Blebbistatinが肺線維化を阻害し、肺線維化マウスの生存を有意に促進できることは実証された。具体的な実験フローを図8Aに示す。具体的なブレオマイシンの注射プロセスは次の通りである。
(1)ブレオマイシン希釈:母液50mg/mlを25倍に希釈して最終濃度は2mg/mlであった;
(2)0.5%ペントバルビタールナトリウム(100μl/10g b.w.)の腹腔内注射によりマウスを麻酔した;
(3)首の皮膚を75%アルコールで消毒し、首の皮膚を切り、上部気管粘膜と筋肉を丸く切り離(Blunt separation、鈍い分離)して、甲状腺に損傷を与えないように気管を露出させた;
(4)ブレオマイシン50μl(20g体重)をインスリン注射器で5mg/kgの用量で気管軟骨スペースに注入し、針を抜いた後、直ちに手術台を直立させ、1分間左右に回転させ、皮膚を縫合した。マウスが自然に目覚めた後、自由に飲水と食事をした。
(5)手術7日後に、小動物CTでスキャンした結果、図8Cと8Dに示すように、(-)-Blebbistatinは、ブレオマイシンによって誘導された肺損傷の過程における肺の体積の減少を阻害した。同定して2つの群に均等に分け、それぞれDMSO(図8中にConと表記)と(-)-Blebbistatin(図8中にBeb、1~3mg/kg/日)を腹腔内注射し、それぞれ2~5%DMSO+30%PEG400+2%Tween80+ddHOに溶解した。腹腔内注射/日、尾静脈注射/3日で、マウスの生存状態を記録した。その結果、図8Bに示すように、対照群は治療後8日目にすべて死亡したが、Bleb治療群は治療後15日目に生存率が40%であった。統計分析した結果、(-)-Blebbistatinはブレオマイシンによって誘導された肺線維化を有意に増加させた。各群で10匹のマウスであった。
(6)D8(モデリングD14)に小動物のCTスキャンを行い、心臓に灌流し、取材して固定し、切片してH&Eおよびシリウスレッド染色をした。その結果、図8Dに示すように、(-)-Blebbistatinは、ブレオマイシンによって誘導された肺損傷の過程における組織の損傷及び線維化を阻害することが示された。
【0087】
実施例5
細胞の機械系の恒常性の破壊は再生関連のストレス応答と再生開始および組織発生関連反応を誘導すること
(-)-Blebbistatinでヒト線維芽細胞を処理し、トランスクリプトームシーケンシングのためにそれぞれ0時間、6時間、1日、および2日間処理したサンプルを収集した。データ分析は図9(A)に示すように、誘導初期の6時間に、大量のHSP70ファミリーやHSP90などの一般的なストレス応答に関連する遺伝子がアップレギュレーションされた。1日と2日目にこれらの遺伝子のmRNA発現はダウンレギュレーションされ始めた。神経誘導システムで22日間誘導した後、図9(B)と図9(C)に示すように、FSTなどの再生開始に関連する遺伝子および神経発生関連遺伝子が有意にアップレギュレーションされた。
【0088】
実施例6
(-)-Blebbistatinが刺激したストレス応答によって活性化された高い遺伝的損傷修復反応が、本体相同組換え修復の遺伝子のアップレギュレーションを高めたこと
図10Aに示すように、5~50μmоl(-)-Blebbistatinでヒト線維芽細胞を処理し、6時間のトランスクリプトーム解析を経て、DNA複製と相同組換えに関連する遺伝子、ミスマッチ修復関連遺伝子、ヌクレオチド切除修復および塩基切除修復遺伝子が有意にアップレギュレーションされた。図10Bに示すように、更なる分析では、相同組換えに関与するほとんどすべての重要な遺伝子が有意にアップレギュレーションされたことが明らかになった。
【0089】
実施例7
本体相同組換え修復の遺伝子のアップレギュレーションにおける、(-)-Blebbistatinが刺激したストレス応答によって活性化された高い遺伝的損傷修復反応の使用
実験フローは図11Aに示すように、まず相同組換え修復用のレポータープラスミドシステムを構築した。外因性相同配列と細胞の相同断片が相同組換えを起こす場合のみ、細胞は緑色の蛍光を発した。同時に、細胞のトランスフェクションの効率を表記するためにmRuby赤色蛍光タンパク質を導入し、フローサイトメトリーによる緑色蛍光タンパク質とmRubyの比率で相同組換えの発生効率を判断した。対照群をトランスフェクションして溶液を交換して18時間後にDMSOで4時間処理し、実験群について、トランスフェクションして溶液を交換してからそれぞれ18時間、24時間、36時間後に(-)-Blebbistatinで4時間処理し、トランスフェクションして72時間後にHDR効率をフローサイトメトリーで分析した。その結果、図11(B)~(C)に示すように、(-)-Blebbistatinが本体相同組換え遺伝子の効率を有意に向上させた。Nrf2は酸化ストレス応答において有意にアップレギュレーションされる遺伝子であり、酸化ストレスのエフェクタータンパク質であるため、小分子Nrf活性化剤による酸化ストレスのシミュレーションは、図11(D)~(E)に示すように、ストレス応答が相同組換えの能力を改善できることをさらに検証した。実験フローは次の通りである。トランスフェクションして溶液を交換した後、対照群をDMSOで処理し、実験群について、トランスフェクションして溶液を交換した後に250nM RTA408で処理し、トランスフェクションして72時間後にHDR効率をフローサイトメトリーで分析した。
【0090】
実施例8
インビトロでのヒト肝細胞の増殖促進における、ストレス応答を刺激するMyosin阻害剤の使用
実施例1~6は、Myosin阻害剤がストレス応答を刺激し、異なるマウスの肝損傷または皮膚損傷モデルにおいて肝または皮膚の線維化を阻害し、肝細胞または毛包細胞の増殖を促進して肝臓または毛包の再生を促進できることを示した。本実施例はさらに、Myosin阻害剤がヒト肝細胞の線維化を阻害し、肝細胞の増殖を促進することを検証し、これは、ヒト肝損傷及び関連疾患の治療におけるこの方法のさらなる使用について更なる証拠サポートを提供する。
【0091】
実施例8-1
ヒト胚性肝細胞の培養
ヒト胚性肝細胞の回復:液体窒素タンクからヒト胚性肝細胞(流産した胎児、凍結保存の日付けは2014年1月15日、凍結保存溶液はcell banker2、凍結保存細胞数は2×10/チューブ)を取り出してすぐに37℃の水浴ナベに入れ、溶解した後すぐに5mL肝細胞培地(対照群)が入った15mLの遠心チューブに吸い取り、50g、4℃、5分間遠心分離した。上澄を捨て、500μl肝細胞培地で再懸濁してカウントすると1.16×10となり、細胞回復率は5.8%であった。
ヒト胚性肝細胞の播種:播種密度は、1×10/24ウェルのプレートのウェルに、それぞれ500μl肝細胞培地(対照群)を加えた。10μM小分子を含む肝細胞培地および20μM小分子を含む肝細胞培地で播種してから24時間後、各群から3つのウェルで消化した細胞をカウントし、壁への付着率を計算した。播種から72時間後、各群で3つのウェルの細胞を消化してカウントした。72時間の細胞数を24時間の細胞数で割ると、細胞数の変化倍数を得ることができる。各ウェルから一部の細胞(細胞数の2/5)を取って、RNAの抽出およびヒト肝細胞関連遺伝子の発現の検出に使用した。
ヒト胚性肝細胞の初代継代:72時間初代培養中の細胞数の3/5の播種密度で、細胞をそれぞれマウス尾コラーゲンでコーティングした24ウェルプレートに播種した(上述のように)。各群で3つのウェルであった。細胞培養の72時間後に消化してカウントした。この細胞数と播種時の細胞数との比は、初代継代の増殖倍数となる。各ウェルから一部の細胞(細胞数の2/5)をRNAの抽出およびヒト肝細胞関連遺伝子の発現の検出に使用した。
ヒト胚性肝細胞の二世代の継代:72時間初代継代培養中の細胞数の3/5の播種密度で、細胞をそれぞれマウス尾コラーゲンでコーティングした24ウェルプレートに播種した(上述のように)。対照群の初代継代培養の72時間後にほとんどの細胞が死亡し、少数の細胞しか残っていなかったため、これらの細胞はすべて播種された。2日ごとに培養液を交換し、144時間(6日)培養を続けた後、細胞を消化してカウントし、この時の細胞数と播種時の細胞数との比は、二世代の継代の増殖倍数となる。各ウェルの細胞培養上澄を取ってヒトアルブミンの濃度を検出し、一部の細胞(細胞数の2/5)をRNAの抽出およびヒト肝細胞関連遺伝子の発現の検出に使用した。
結果:ヒト胚性肝細胞を液体窒素で3年半凍結保存した後の回復率は約5.8%であった。図12(A)と図12(B)に示すように、小分子培地で12日間継代(合計3世代)培養した後、10μMの小分子培地は約22.1倍(SD=4.2)で増幅させることができ、20μMのBleb培地は約13.0倍(SD=3.39)で増幅させることができた(図12(B))。この時、細胞形態は依然として典型的な肝細胞形態であり、不規則な多角形を呈した。しかし、対照群の培地で継代培養した後、初代継代培養後にほとんどの細胞が死亡したため、残った小部分の細胞は培養されて12日に増幅倍数が58.3倍になった(SD=13.9)が、この時の細胞は、細長い扁平な典型的な肝細胞形態を呈した(図12(A))。図12(C)に示すようにヒト肝細胞特異的遺伝子アルブミン(ALB、ALBUMIN)とアルファフェトプロテイン(AFP、Alpha fetoprotein)をリアルタイムPCRで検出した。その結果、ヒト肝細胞は10μMと20μM小分子培地で12日間継代培養した後、依然としてヒト肝細胞特異的遺伝子を発現し、これに対して、controlの培地で12日間継代して得られた細胞から、非常に低いアルブミン発現が検出され、アルファフェトプロテイン遺伝子の発現が検出できず、この時の細胞がもはや肝細胞ではないことは示されている。これは、図12(A)と図12(B)の結果と一致している。
【0092】
実施例8-2
ヒト成体肝細胞の小分子増幅
ヒト成体肝細胞(成人肝細胞)の回復と培養:液体窒素タンクからヒト成体肝細胞(M00995-P Male human、Bioreclamation IVT)を取り出してすぐに37℃の水浴ナベに入れ、溶解した後すぐに37℃に予熱した5mL肝細胞播種培地(In VitroGRO CP Medium)に加え、カウントした後、9×10/ウェルで24ウェルプレートに播種し、肝細胞が壁に2~4時間付着した後、肝細胞播種培地を吸引して捨て、それぞれ肝臓細胞培養対照培地、10μm小分子培地、および20μm小分子培地を加えた。2日ごとに培養液を交換した。2日目に写真から細胞数を推算した。4日後に20μm小分子培地群を10μm小分子培地に変更して培養した。共培養の6日目に細胞をカウントした。一部の細胞を取り、RNAの抽出およびヒト肝細胞特異的遺伝子の発現の検出に使用した。
ヒト成体肝細胞の継代:上記対照群で培養した肝細胞4.7×10および10μm小分子培地で培養した肝細胞8×10をそれぞれマウス尾コラーゲンでコーティングした24ウェルプレートに再播種し、2日ごとに培養液を交換して6日間培養し、写真を撮って細胞成長状況を記録した。
小分子培地で増幅されたヒト成体肝細胞のCYP1A2誘導:3×10肝細胞をマウス尾コラーゲンでコーティングした24ウェルプレートに播種し、10μm小分子培地で24時間培養した後、50μmオメプラゾール(Omeprazole)を含む10μm小分子培地に置き換え、対照群はDMSOを含む10μm小分子培地であり、48時間後に細胞を収集してCYP1A2遺伝子の発現を検出した。
結果:ヒト成体肝細胞の播種後5時間の壁への付着率はほぼ同じであり、2日後には、対照群、10μm小分子群、および20μm小分子群の細胞はいずれも大量に死亡した。写真を撮って細胞の壁への付着率を推算した(2.53×10、SD=0.09)。4日目に、小分子群の細胞には増幅クローンが現れたが、対照群には明らかな増幅はなかった。この時、20μm培地群は10μm小分子培地に変更された(protocol#と命名され、すなわち、20μmで4日間培養し、10μmで2日間培養した)。引き続き2日間培養した後、小分子群の細胞クローンはさらに増幅したが、対照群には明らかな変化はなかった(図12(D))。6日間培養した後、細胞数はそれぞれ、対照群では1.59×10(SD=0.28)、10μm群では6.47×10(SD=1.24)、#群では9.47×10(SD=0.98)であった。6日目の細胞数と2日目の細胞数との比は、細胞増幅倍数となる。その結果、小分子がヒト成体肝細胞に対して有意な増幅効果を用いてることは示された(図12(D)と図12(E))。小分子群の増殖細胞核抗原遺伝子(PCNA)の発現は、対照群より有意に高く、小分子が細胞増殖に影響を与えることはさらに証明された(図12(F))。小分子によって増幅されたヒト成体肝細胞は、依然としてヒト肝細胞特異的遺伝子ALBUMIN、AFP、CYP1A2、CYP3A4を発現した(図12(G))。10μm小分子培地はヒト肝細胞を継代培養できたが、対照群培地はヒト成体肝細胞を継代培養できなかった(図12(H))。継代培養されたヒト成体肝細胞をオメプラゾールによって誘導した後、CYP1A2遺伝子の発現を増加させることができる。これは、小分子によって増幅された肝細胞が依然として機能を有することを示唆している(図12(I))。
【0093】
実施例9-1
Blebが、TGF-beta媒介の筋線維芽細胞の活性化および線維化関連タンパク質の発現を阻害すること
線維化における筋線維芽細胞の過剰な活性化は、線維化の症状につながる主要な細胞メカニズムである。サイトカインや炎症因子などの線維芽細胞増殖因子は、損傷過程において損傷部位付近の繊維細胞、周皮細胞、成体幹細胞または前駆細胞、内皮細胞、および上皮細胞の、筋線維芽細胞への転換を促進する。このような筋線維芽細胞は過剰に増殖し、収縮して主にコラーゲンなどを含む大量の細胞外マトリックスを合成して分泌する。これにより、組織が硬化して線維化を形成し、組織または器官の再生と修復を妨げ、組織または器官の機能に深刻な損傷を与える。その中で、転換成長因子beta 1(TGF-β1)は、筋線維芽細胞の活性化および線維化を引き起こす最も重要で効果的な成長因子の一つである。
本実施例では、それぞれ、TGF-β1によって誘導された、マウスの肝星状細胞(mouse Hepatic Stellate Cells,mHSCs、図13(B))、マウス胎児線維芽細胞(Mouse Embryonic Fibroblasts,MEFs、図13(C))、マウス成体肝臓、肺、心臓由来の間質細胞(primary Mesenchymal Cells,priMCs、図13(D))、およびヒト肝星状細胞(hLX-2、図13(E))の筋線維芽細胞への活性化のインビトロ線維化の細胞モデルを構築した。具体的な実験フローは図9Aに示すように、10%血清を含む培地で細胞培養を開始し、24時間後に低血清培地に変更し(または予め16時間飢餓処理した)、それと共に3ng/ml TGF-β1とDMSOまたはBleb(20μM)を加え、7日後に筋線維芽細胞活性化マーカータンパク質(Acta2)、コラーゲン(Col1a1、Col1a2、Col3a1、Col1a2)、およびマトリックスメタロプロテイナーゼおよび阻害剤(コラゲナーゼ:MmP8、MmP13;ゼラチナーゼ:MmP2、MmP9;メタロプロテイナーゼ阻害剤:Timp1/2/3)の発現を同定した。
上記の実験の結果、図13(B)に示すように、Blebは、TGF-β1によって誘導されたマウス星状細胞mHSCsの筋線維芽細胞への転換および細胞外マトリックスの合成を有意に阻害した。また、図13(C)は、Blebが、TGF-β1によって誘導されたマウスMEFsの筋線維芽細胞への転換および細胞外マトリックスの合成を有意に阻害したことを示している。図13(D)に示すように、Blebは、TGF-β1によって誘導されたマウスの異なる臓器の初代間質細胞の筋線維芽細胞への転換および細胞外マトリックスの合成を有意に阻害した。図13(E)に示すように、Blebは、TGF-β1によって誘導されたヒト星状細胞hLX-2の筋線維芽細胞への転換および細胞外マトリックスの合成を有意に阻害し、同時に細胞外マトリックスを分解させたメタロプロテイナーゼ発現のアップレギュレーションおよびメタロプロテイナーゼの阻害剤のダウンレギュレーションを促進した。
以上によって、Blebは、マウスまたはヒトの複数種類の間質細胞(肝星状細胞、線維芽細胞、臓器間質細胞などを含む)の筋線維芽細胞への転換および細胞外マトリックスの合成を有意に阻害し、それと共に細胞外マトリックスを分解させたメタロプロテイナーゼ発現のアップレギュレーションおよび阻害剤のダウンレギュレーションを促進し、これによって損傷の過程における線維化を阻害する。この効果は、異なる種や異なる間質細胞の種類の間で保存的である。
【0094】
実施例9-2
Bleb誘導体および繊維状アクチン(F-actin)組み立て阻害剤が、TGF-beta媒介の筋線維芽細胞の活性化および線維化関連タンパク質の発現を阻害できること
実施例9-1で説明された評価スキームにより、Bleb((S)-(-)-Blebbistatin)誘導体の影響をさらに評価した。その結果、DMSOと比較して、BlebがMEFs細胞の伸長状態を破壊できることが分かった(図13(F)の中のIとII)。図13(G)に示すように、不活性なエナンチオマー(R)-(+)-Blebbistatin(R-Blebと略す)はMEFsの繊維状形態に影響せず、TGF-β1によって誘導された筋線維芽細胞の活性化に対して阻害効果はない。これは、Blebのキラルヒドロキシル基が線維化活性を阻害するために必要であることを示している(図13(F)の中のIII)。実験の結果、別の誘導体(S)-(-)-Blebbistatin O-Benzoate(S-Bleb-OB)(20μM)も良好な活性を有し、MEFs細胞の伸長状態を破壊でき(図13(F)の中のIV)、また、図13(G)に示すように、TGF-β1によって誘導された筋線維芽細胞の活性化を阻害することもできることは示されている。これは、Blebを修飾することによって生成される新しい誘導体がBlebよりも優れた生物学的活性を持っている可能性があることを示している。
BlebはMyosinを標的としており、Myosinはアクトミオシン(actomyosin)の主要な成分の一つであり、アクトミオシンは、細胞が収縮力を生み出すための主要な構造基盤である。これは、Myosinがアクトミオシン細胞骨格系を構成し、筋線維芽細胞の活性化および組織器官の線維化を阻害する効果的な標的として使用できることを示している。
【0095】
以上は本発明の原理のみを示したにすぎず、本発明の範囲は本明細書に記載の例示的な態様に限定されるものではなく、現在知られているおよび将来開発される同等物をすべて含むべきである。なお、本発明の技術的原理から逸脱することなく、いくつかの改善および変更を行うことができ、これらの改善および変更も本発明の範囲と見なされるべきである。
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図13-1】
図13-2】
図13-3】
図13-4】
図13-5】