(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】水性親水化組成物および物品
(51)【国際特許分類】
C09D 183/02 20060101AFI20240823BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240823BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240823BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240823BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C09D183/02
C09D7/63
C09D7/61
B32B9/00 A
B32B9/04
(21)【出願番号】P 2021091534
(22)【出願日】2021-05-31
【審査請求日】2024-04-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 朗
(72)【発明者】
【氏名】古屋 大地
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-109983(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217474(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217513(WO,A1)
【文献】特開2014-111717(JP,A)
【文献】国際公開第2019/82768(WO,A1)
【文献】特開2016-164265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 201/10
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラアルコキシシランの加水分解物およびテトラアルコキシシランの縮合物の加水分解物からなる群より選択される1種以上と、
シラノール基と配位結合またはイオン結合可能な金属化合物と、
界面活性剤と、
酸性コロイダルシリカと、
親水性有機溶剤と、
水と、
を含む水性親水化組成物であって、
前記界面活性剤は、
アルキレンオキシド単位を有するノニオン系界面活性剤と、
アニオン系界面活性剤と、
を含
み、
前記アニオン系界面活性剤の質量が、前記ノニオン系界面活性剤およびアニオン系界面活性剤の総質量に対して、65~99質量%の範囲内であり、
前記ノニオン系界面活性剤および前記アニオン系界面活性剤の合計質量が、前記水100質量部に対し、0.01~2.00質量部であり、
前記親水性有機溶剤が、アルコール、グリコール誘導体およびエーテルからなる群より選択される1種以上である、水性親水化組成物。
【請求項2】
前記アニオン系界面活性剤が、スルホン酸基、スルホン酸塩基、硫酸塩基、カルボン酸基およびカルボン酸塩基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する、請求項1に記載の水性親水化組成物。
【請求項3】
ラジカル反応性官能基とスルホン酸基とを有する化合物をさらに含む、請求項1または2に記載の水性親水化組成物。
【請求項4】
前記金属化合物の質量が、前記加水分解物の総質量に対して、0.5~5質量%であり、
前記酸性コロイダルシリカの質量が、前記加水分解物の合計100質量部に対して、固形分で0.05~300質量部である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の水性親水化組成物。
【請求項5】
銀、銅およびチタンからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む金属含有成分をさらに含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の水性親水化組成物。
【請求項6】
前記金属含有成分が、銀、銅および水酸化第四アンモニウムを含む光触媒酸化チタンゾル、銀イオン担持無機イオン交換体、アミノ酸銀、アミノ酸銅、もしくは、銀および/または銅担持二酸化チタン粒子である、請求項
5に記載の水性親水化組成物。
【請求項7】
表面に、請求項1~
6のいずれか一項に記載の水性親水化組成物を用いた塗膜を有する、物品。
【請求項8】
順に、
被塗物と、
プライマー層と、
請求項1~
6のいずれか一項に記載の水性親水化組成物を用いた塗膜と、
を有する、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性親水化組成物および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外に設置される物品に防汚性または防曇性を付与するために、親水化処理剤または親水化処理用組成物が用いられている。親水化処理剤または親水化処理用組成物による皮膜が物品表面の濡れ性を高め、物品表面の汚れ成分が洗い流されやすくなったり、物品表面において水滴が形成されにくくなったりすることで、物品に防汚性または防曇性が付与される。
【0003】
本出願人は、特許文献1において、貯蔵安定性に優れた水性の親水化処理剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の段落[0076]では、製造直後の水性親水化処理剤と、60℃で1週間および2週間保管後の水性親水化処理剤を塗布して得られた親水性膜のそれぞれの外観と接触角の値を測定している。
【0006】
しかし、特許文献1では、水性親水化処理剤自体の貯蔵安定性は評価しているが、得られた親水性膜の親水性がどのような条件でどの程度持続するかについては着目がない。
【0007】
本発明者らが検討したところ、親水性膜の形成直後の親水性と、親水性膜が流水に長期間接触した後の親水性(以下、「長期流水後親水持続性」という)に改良の余地があることが分かった。
【0008】
そこで、本発明は、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを有する親水性塗膜を形成可能な水性親水化組成物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の別の目的は、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを有する物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る水性親水化組成物は、
テトラアルコキシシランの加水分解物およびテトラアルコキシシランの縮合物の加水分解物からなる群より選択される1種以上と、
シラノール基と配位結合またはイオン結合可能な金属化合物と、
界面活性剤と、
酸性コロイダルシリカと、
親水性有機溶剤と、
水と、
を含む水性親水化組成物であって、
前記界面活性剤は、
アルキレンオキシド単位を有するノニオン系界面活性剤と、
アニオン系界面活性剤と、
を含む、水性親水化組成物である。これにより、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを有する親水性塗膜を形成可能である。
【0011】
本発明に係る水性親水化組成物の一実施形態では、前記アニオン系界面活性剤が、スルホン酸基、スルホン酸塩基、硫酸塩基、カルボン酸基およびカルボン酸塩基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する。
【0012】
本発明に係る水性親水化組成物の一実施形態では、ラジカル反応性官能基とスルホン酸基とを有する化合物をさらに含む。
【0013】
本発明に係る水性親水化組成物の一実施形態では、前記アニオン系界面活性剤の質量が、前記ノニオン系界面活性剤およびアニオン系界面活性剤の総質量に対して、50~99質量%の範囲内である。
【0014】
本発明に係る水性親水化組成物の一実施形態では、前記金属化合物の質量が、前記加水分解物の総質量に対して、0.5~5質量%であり、
前記酸性コロイダルシリカの質量が、前記加水分解物の合計100質量部に対して、固形分で0.05~300質量部であり、
前記ノニオン系界面活性剤および前記アニオン系界面活性剤の合計質量が、前記水100質量部に対し、0.01~3質量部である。
【0015】
本発明に係る水性親水化組成物の一実施形態では、銀、銅およびチタンからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む金属含有成分をさらに含む。
【0016】
本発明に係る水性親水化組成物の一実施形態では、前記金属含有成分が、銀、銅および水酸化第四アンモニウムを含む光触媒酸化チタンゾル、銀イオン担持無機イオン交換体、アミノ酸銀、アミノ酸銅、もしくは、銀および/または銅担持二酸化チタン粒子である。
【0017】
本発明に係る物品は、表面に、上記いずれかの水性親水化組成物を用いた塗膜を有する、物品である。これにより、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを有する。
【0018】
また、本発明に係る物品は、順に、
被塗物と、
プライマー層と、
請求項1~5のいずれか一項に記載の水性親水化組成物を用いた塗膜と、
を有する、物品である。これにより、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを有する親水性塗膜を形成可能な水性親水化組成物を提供することができる。本発明によれば、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを有する物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0021】
本発明において、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0022】
本発明において、皮膜と塗膜は相互互換的に用いることができる。
【0023】
本発明において、用語「固形分」は、固形分、不揮発分および有効成分を包括する概念である。
【0024】
本明細書において、数値範囲は、別段の記載がない限り、その範囲の上限値および下限値を含むことを意図している。例えば、50~99質量%は、50質量%以上99質量%以下の範囲を意味する。
【0025】
本明細書では、テトラアルコキシシランの加水分解物およびテトラアルコキシシランの縮合物の加水分解物からなる群より選択される1種以上を「A成分」、シラノール基と配位結合またはイオン結合可能な金属化合物を「B成分」、界面活性剤を「C成分」、酸性コロイダルシリカを「D成分」、親水性有機溶剤を「E成分」ということがある。また、C成分のうち、アルキレンオキシド単位を有するノニオン系界面活性剤を「CN成分」、アニオン系界面活性剤を「CA成分」ということがある。
【0026】
本発明では、スルホン酸基は、-SO3Hを指し、スルホン酸塩基は、-SO3M(Mは、Na、KまたはNH4)を指し、硫酸塩基は、-O-SO3M(Mは、Na、KまたはNH4)を指し、カルボン酸基は、-CO2Hを指し、カルボン酸塩基は、-CO2M(Mは、Na、KまたはNH4)を指す。ただし、スルホン酸塩基と硫酸塩基の両方に該当する場合、硫酸塩基として扱う。
【0027】
(水性親水化組成物)
本発明に係る水性親水化組成物は、
テトラアルコキシシランの加水分解物およびテトラアルコキシシランの縮合物の加水分解物からなる群より選択される1種以上と、
シラノール基と配位結合またはイオン結合可能な金属化合物と、
界面活性剤と、
酸性コロイダルシリカと、
親水性有機溶剤と、
水と、
を含む水性親水化組成物であって、
前記界面活性剤は、
アルキレンオキシド単位を有するノニオン系界面活性剤と、
アニオン系界面活性剤と、
を含む、水性親水化組成物である。
【0028】
以下、本発明に係る水性親水化組成物の各成分について説明する。
【0029】
・A成分
テトラアルコキシシランの加水分解物およびテトラアルコキシシランの縮合物の加水分解物は、水性親水化組成物を用いた塗膜に親水性を付与する働きを有する。
【0030】
テトラアルコキシシランとしては、特に限定されず、公知のテトラアルコキシシランを適宜選択して用いることができる。テトラアルコキシシランとしては、例えば、アルコキシ部分の炭素数が1~6のテトラアルコキシシランが挙げられ、アルコキシ部分のアルキル部分は、直鎖でも分岐でもよい。テトラアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラtert-ブトキシシラン、テトラペントキシシラン、テトラヘキソキシシランなどが挙げられる。
【0031】
一実施形態では、テトラアルコキシシランのアルコキシ部分の炭素数は、1,2,3または4である。別の実施形態では、テトラアルコキシシランは、テトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランからなる群より選択される1種以上である。
【0032】
テトラアルコキシシランの縮合物としては、特に限定されず、公知のテトラアルコキシシランの縮合物を用いることができる。テトラアルコキシシランの縮合物の縮合度としては、例えば、2~30であってもよい。
【0033】
テトラアルコキシシランの加水分解物は、テトラアルコキシシランを加水分解することによって得られる生成物である。テトラアルコキシシランの加水分解物の生成は、加水分解物のIRスペクトルにおいて、テトラアルコキシシランのアルコキシシリル基に基づくピークが消失していることから確認することができる。この場合、加水分解によって、テトラアルコキシシランのアルコキシシリル基がシラノール基に変換されていると推測される。
【0034】
テトラアルコキシシランの加水分解物において、テトラアルコキシシラン1分子中の4個のアルコキシシリル基のうち、1個、2個、3個または4個が加水分解されていればよい。
【0035】
テトラアルコキシシランの加水分解物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
テトラアルコキシシランの縮合物の加水分解物は、テトラアルコキシシランの縮合物を加水分解することによって得られる生成物である。テトラアルコキシシランの縮合物の加水分解物の生成は、加水分解物のIRスペクトルにおいて、テトラアルコキシシランの縮合物のアルコキシシリル基に基づくピークが消失していることから確認することができる。
【0037】
縮合前のテトラアルコキシシランとしては、例えば、上記テトラアルコキシシランが挙げられる。一実施形態では、縮合前のテトラアルコキシシランのアルコキシ部分の炭素数は、1,2,3または4である。別の実施形態では、縮合前のテトラアルコキシシランは、テトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランからなる群より選択される1種以上である。
【0038】
テトラアルコキシシランの縮合物の加水分解物において、縮合物1分子中のアルコキシシリル基のうち、1個または複数個が加水分解されていればよい。
【0039】
テトラアルコキシシランの縮合物の加水分解物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
水性親水化組成物におけるA成分の含有量は、適宜調節すればよいが、例えば、水性親水化組成物の全質量に対して、A成分の固形分換算で、0.02~5質量%である。一実施形態では、A成分の含有量は、水性親水化組成物の全質量に対して、A成分の固形分換算で、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.50質量%以上、1.00質量%以上、1.10質量%以上、1.20質量%以上、1.30質量%以上、1.40質量%以上、1.50質量%以上、1.60質量%以上、1.70質量%以上、1.80質量%以上、1.90質量%以上、2.00質量%以上、2.50質量%以上、3.00質量%以上、3.50質量%以上、4.00質量%以上または4.50質量%以上である。別の実施形態では、A成分の含有量は、水性親水化組成物の全質量に対して、A成分の固形分換算で、5.00質量%以下、4.50質量%以下、4.00質量%以下、3.50質量%以下、3.00質量%以下、2.50質量%以下、2.00質量%以下、1.90質量%以下、1.80質量%以下、1.70質量%以下、1.60質量%以下、1.50質量%以下、1.40質量%以下、1.30質量%以下、1.20質量%以下、1.10質量%以下、1.00質量%以下、0.50質量%以下または0.10質量%以下である。
【0041】
・B成分
シラノール基と配位結合またはイオン結合可能な金属化合物は、水性親水化組成物の貯蔵安定性を高める働きを有する。
【0042】
B成分が有する金属としては、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウムなどが挙げられる。
【0043】
B成分としては、例えば、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムモノブトキシイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)、チタンテトラキス(アセチルアセトネート)、チタンビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)、チタンビス(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)などが挙げられる。
【0044】
一実施形態では、B成分は、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)(CAS番号:19443-16-4)およびジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)からなる群より選択される1種以上である。
【0045】
アルミニウムを有するB成分の市販品としては、例えば、マツモトファインケミカル社製の商品名「オルガチックス AL-3001」、「オルガチックス AL-3100」、「オルガチックス AL-3200」、「オルガチックス AL-3215」などのオルガチックスシリーズが挙げられる。また、ジルコニウムを有するB成分の市販品としては、例えば、マツモトファインケミカル社製の商品名「オルガチックス ZA-45」、「オルガチックス ZA-65」、「オルガチックス ZC-150」、「オルガチックス ZC-162」、「オルガチックス ZC-540」、「オルガチックス ZC-700」、「オルガチックス ZC-580」、「オルガチックス ZC-200」、「オルガチックス ZC-320」、「オルガチックス ZC-126」、「オルガチックス ZC-300」などが挙げられる。本明細書では「オルガチックス」は登録商標である。
【0046】
B成分は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
水性親水化組成物におけるB成分の含有量は、適宜調節すればよいが、例えば、A成分の全固形分の総質量に対して、固形分換算で0.5~10質量%である。一実施形態では、B成分の含有量は、A成分の全固形分の総質量に対して、固形分換算で0.5質量%以上、1.0質量%以上、3.5質量%以上、5.0質量%以上または7.5質量%以上である。別の実施形態では、B成分の含有量は、A成分の全固形分の総質量に対して、固形分換算で10.0質量%以下、7.5質量%以下、5.0質量%以下、3.5質量%以下または1.0質量%以下である。
【0048】
B成分と後述する金属含有成分が重複する場合は、その重複する成分はB成分ではなく金属含有成分として扱う。
【0049】
・C成分
界面活性剤のうち、アルキレンオキシド単位を有するノニオン系界面活性剤は、水性親水化組成物を塗布する際の均一性を高める。界面活性剤のうち、アニオン系界面活性剤は、親水性膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを高める働きを有する。
【0050】
・CN成分
CN成分が有するアルキレンオキシド単位としては、例えば、炭素数2~6のアルキレンオキシド単位が挙げられ、具体例としては、-(CH2CH2O)-、-(CH2CH2CH2O)-、-(CH(CH3)CH2O)-、-(CH2CH2CH2CH2O)-、-(CH2CH2CH2CH2CH2O)-、-(CH2CH2CH2CH2CH2CH2O)-などが挙げられる。一実施形態では、アルキレンオキシド単位は、-(CH2CH2O)-、-(CH2CH2CH2O)-および-(CH(CH3)CH2O)-からなる群より選択される1種以上である。
【0051】
CN成分が有するアルキレンオキシド単位の繰返し数は、例えば、2~10である。
【0052】
CN成分としては、例えば、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリオキシアルキレンp-クミルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタンオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレン 2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル、ポリオキシアルキレンひまし油エーテル、ポリオキシアルキレンセチルエーテル、ポリオキシアルキレンステアリルエーテルなどが挙げられ、これらのポリオキシアルキレン部分としては、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンなどが挙げられる。
【0053】
CN成分のHLBは、特に限定されず、例えば、0~20であってもよく、好ましくは10.0~15.0である。一実施形態では、CN成分のHLBは、8.0以上、8.5以上、9.0以上、9.5以上、10.0以上、10.5以上、11.0以上、11.5以上、12.0以上、12.5以上、13.0以上、13.5以上、14.0以上または14.5以上である。別の実施形態では、CN成分のHLBは、15.0以下、14.5以下、14.0以下、13.5以下、13.0以下、12.5以下、12.0以下、11.5以下、11.0以下、10.5以下、10.0以下、9.5以下、9.0以下または8.5以下である。
【0054】
アルキレンオキシド単位を有するノニオン系界面活性剤としては、市販品を用いてもよい。このような市販品としては、例えば、日本乳化剤社製の「ニューコール B」シリーズ、「ニューコール CMP」シリーズ、「DMH」シリーズ、「ニューコール 80」シリーズ、「ニューコール 400」シリーズ、「ニューコール 600」シリーズ、「ニューコール 2600」シリーズ、「ニューコール 700」シリーズ、「ニューコール 700-F」シリーズ、「ニューコール 2600-F」シリーズ、「ニューコール 3600-F」シリーズ、「ニューコール 1000」シリーズ、「ニューコール 1200」シリーズ、「ニューコール 1300」シリーズ、「ニューコール 1500」シリーズ、「ニューコール 1600」シリーズ、「ニューコール 1800」シリーズ、「ニューコール 2300」シリーズ、「ニューコール 2300-Y」シリーズ、「ニューコール 2500」シリーズ、「ニューコール 3500」シリーズなどが挙げられる。本明細書では「ニューコール」は登録商標である。
【0055】
さらに、「ニューコール 700」シリーズとしては、例えば、ニューコール 703、HLB8.0;ニューコール 704、HLB9.2;ニューコール 706、HLB10.9;ニューコール 707、HLB12.3;ニューコール 708、HLB12.6;ニューコール 709、HLB13.3;ニューコール 710、HLB13.6などが挙げられる。
【0056】
CN成分は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
・CA成分
アニオン系界面活性剤としては、特に限定されず、公知のアニオン系界面活性剤を用いることができる。
【0058】
CA成分としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸、スルホン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤などが挙げられる。
【0059】
アルキル硫酸エステル塩としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0060】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンジスチレン化エーテル硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0061】
スルホン酸塩としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、スルホコハク酸アルキルモノアミドジナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0062】
脂肪酸塩としては、例えば、半硬化牛脂脂肪酸ソーダ石けん、ステアリン酸ソーダ石けん、半硬化牛脂脂肪酸カリ石けん、オレイン酸カリ石けん、ヒマシ油カリ石けんなどが挙げられる。
【0063】
ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物としては、例えば、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩などが挙げられる。
【0064】
その他のアニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸カリウム、アルケニルコハク酸ジカリウムなどが挙げられる。
【0065】
アルキル硫酸エステル塩の市販品としては、例えば、花王社のエマール 0、エマール 10G、エマール 2Fペースト、エマール 2FG、エマール 2F-30、エマール 40ペースト、エマール TD、ラテムル AD-25などが挙げられる。本明細書では「エマール」は登録商標である。
【0066】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の市販品としては、例えば、花王社のエマール 20C、エマール E-27C、エマール 270J、エマール 20CM、エマール D-3-D、エマール D-4-D、ラテムル E-118D、ラテムル E-150、レベノール WX、ラテムル WX、エマール 20T、ラテムル E-108MB、ラテムル E-1000Aなどが挙げられる。
【0067】
アルキルベンゼンスルホン酸の市販品としては、例えば、花王社のネオペレックス GSなどが挙げられる。
【0068】
スルホン酸塩の市販品としては、例えば、花王社のネオペレックス G-15、ネオペレックス G-25、ネオペレックス G-65、ペレックス NB-L、ペレックス OT-P、ペレックス TR、ペレックス TA、ペレックス SS-L、ペレックス SS-H、ラテムル PSなどが挙げられる。
【0069】
脂肪酸塩の市販品としては、例えば、花王社のNSソープ、SS-40N、KSソープ、OSソープ、FR-14、FR-25などが挙げられる。
【0070】
ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の市販品としては、例えば、花王社のデモール N、デモール NL、デモール RN、デモール RN-L、デモール T、デモール T-45、デモール MS、デモール SN-B、デモール SS-L、デモール SC-30、デモール EP、ポイズ 520、ポイズ 521、ポイズ 530、ホモゲノール L-18、ホモゲノール L-1820、ホモゲノール L-95などが挙げられる。本明細書では「デモール」、「ポイズ」および「ホモゲノール」は、登録商標である。
【0071】
ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムの市販品としては、例えば、花王社のラテムル PD-104、ラテムル PD-105などが挙げられる。
【0072】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸カリウムの市販品としては、例えば、花王社のエレクトロストリッパー Fなどが挙げられる。
【0073】
アルケニルコハク酸ジカリウムの市販品としては、例えば、花王社のラテムル ASKなどが挙げられる。
【0074】
この他、CA成分としては、例えば、特開2020-100685号公報に記載のアニオン性界面活性剤を用いてもよい。
【0075】
一実施形態では、CA成分は、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸、スルホン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物およびポリカルボン酸型高分子界面活性剤からなる群より選択される1種以上を含む。別の実施形態では、CA成分は、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸、スルホン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物およびポリカルボン酸型高分子界面活性剤からなる群より選択される1種以上である。さらに別の実施形態では、CA成分は、スルホン酸塩およびポリカルボン酸型高分子界面活性剤からなる群より選択される1種以上を含む。さらに別の実施形態では、CA成分は、スルホン酸塩およびポリカルボン酸型高分子界面活性剤からなる群より選択される1種以上である。さらに別の実施形態では、CA成分は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、スルホコハク酸アルキルモノアミドジナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウムおよびポリカルボン酸型高分子界面活性剤からなる群より選択される1種以上を含む。さらに別の実施形態では、CA成分は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、スルホコハク酸アルキルモノアミドジナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウムおよびポリカルボン酸型高分子界面活性剤からなる群より選択される1種以上である。
【0076】
一実施形態では、前記アニオン系界面活性剤が、スルホン酸基、スルホン酸塩基、硫酸塩基、カルボン酸基およびカルボン酸塩基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する。
【0077】
CA成分は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
一実施形態では、C成分は、CN成分およびCA成分からなり、すなわち、C成分は、カチオン系界面活性剤を含まない。
【0079】
水性親水化組成物におけるCN成分とCA成分の合計含有量は、適宜調節すればよいが、例えば、水100質量部に対して、0.001~5質量部である。一実施形態では、CN成分とCA成分の合計含有量は、水100質量部に対して、0.01質量部以上、0.10質量部以上、0.15質量部以上、0.50質量部以上、1.00質量部以上、1.10質量部以上、1.50質量部以上、2.00質量部以上、2.50質量部以上、3.00質量部以上、3.50質量部以上、4.00質量部以上または4.50質量部以上である。別の実施形態では、CN成分とCA成分の合計含有量は、水100質量部に対して、5.00質量部以下、4.50質量部以下、4.00質量部以下、3.50質量部以下、3.00質量部以下、2.50質量部以下、2.00質量部以下、1.50質量部以下、1.10質量部以下、1.00質量部以下、0.50質量部以下、0.15質量部以下または0.10質量部以下である。
【0080】
C成分におけるCA成分の割合は、適宜調節すればよい。一実施形態では、CA成分の質量は、CN成分およびCA成分の総質量に対して、50~99質量%の範囲内である。別の実施形態では、CA成分の質量は、CN成分およびCA成分の総質量に対して、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上または95質量%以上である。さらに別の実施形態では、CA成分の質量は、CN成分およびCA成分の総質量に対して、99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下または55質量%以下である。
【0081】
・D成分
酸性コロイダルシリカは、水性親水化組成物の貯蔵安定性を高める働きを有する。酸性コロイダルシリカは、通常のコロイダルシリカのナトリウム塩部分またはアンモニウム塩部分がシラノール基に変換されているコロイダルシリカである。
【0082】
D成分は、公知の酸性コロイダルシリカを用いることができる。D成分としては、例えば、特許文献1に記載の酸性コロイダルシリカを用いることができる。
【0083】
酸性コロイダルシリカの平均粒子径は、例えば、1~100nmまたは10~50nmである。平均粒子径は、動的光散乱法による粒子径測定装置、例えば、FPAR-1000(大塚電子社製)により測定する。
【0084】
D成分は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
水性親水化組成物におけるD成分の含有量は、特に限定されず、適宜調節すればよいが、例えば、A成分の合計100質量部に対して、0.05~300質量部である。一実施形態では、D成分の含有量は、A成分の合計100質量部に対して、5質量部以上、10質量部以上、50質量部以上、100質量部以上または200質量部以である。別の実施形態では、D成分の含有量は、A成分の合計100質量部に対して、300質量部以下、290質量部以下、280質量部以下、270質量部以下、200質量部以下、100質量部以下、50質量部以下または10質量部以下である。
【0086】
・E成分
親水性有機溶剤は、水性親水化組成物を塗布した後の乾燥状態を制御する働きを有する。
【0087】
E成分としては、例えば、アルコール、グリコール誘導体、ケトン、エーテルなどが挙げられる。
【0088】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられる。
【0089】
グリコール誘導体としては、例えば、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、テトラエチレングリコールなどが挙げられる。
【0090】
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0091】
エーテルとしては、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0092】
E成分は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
水性親水化組成物におけるE成分の量は、適宜調節すればよいが、例えば、E成分と水との合計質量に対して、5~95質量%である。
【0094】
・水
水は、水道水、蒸留水、脱イオン水などの公知の水を1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0095】
水性親水化組成物における水の量は、適宜調節すればよいが、例えば、水性親水化組成物の総質量に対して、5~90質量%である。
【0096】
・ラジカル反応性官能基とスルホン酸基とを有する化合物
水性親水化組成物は、A~E成分および水に加えて、任意成分として、ラジカル反応性官能基とスルホン酸基とを有する化合物(以下、「F成分」ということがある)をさらに含んでいてもよい。F成分は、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とをさらに高める働きを有する。
【0097】
ラジカル反応性官能基としては、例えば、エチレン性二重結合が挙げられ、エチレン性二重結合としては、ビニル基(CH2CH-)、アクリロイル基(CH2CHCO-)、メタクリロイル基(CH2C(CH3)CO-)などが挙げられる。
【0098】
F成分としては、例えば、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、2-(アクリロイルアミノ)-2-メチルー1-プロパンスルホン酸、2-(アクリロイルアミノ)-2-メチルー1-プロパンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0099】
水性親水化組成物におけるF成分の量は、適宜調節すればよいが、例えば、D成分の質量に対して0~30%、好ましくは10~25%、より好ましいは15~20%である。
【0100】
F成分は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
・その他の成分
水性親水化組成物は、任意に、A~E成分および水以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、樹脂成分、金属含有成分、酸性化合物などが挙げられる。これらの成分は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
・金属含有成分
一実施態様において、水性親水化組成物は、必要に応じてさらに、銀、銅およびチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む金属含有成分を含んでもよい。上記金属含有成分を含むことによって、水性親水化組成物を用いた塗膜に抗菌性・抗ウイルス性を付与することができる。
【0103】
上記金属含有成分の好適な1態様として、例えば、銀、銅および水酸化第四アンモニウムを含む光触媒酸化チタンゾルが挙げられる。光触媒酸化チタンゾルに含まれる酸化チタンは、光触媒効果を有するアナターゼ型またはルチル型の結晶並びにこれらの混合物からなり、少なくともゾルを乾燥して得られる粉の粉末X線回折が明らかにアナターゼ型またはルチル型と同定されるものであるのが好ましい。光触媒酸化チタンゾル中に含まれる酸化チタンの濃度は、TiO2として3~15質量%の範囲であるのが好ましい。
【0104】
光触媒酸化チタンゾルに含まれる銀は、銀酸化物または銀水酸化物など、イオン化していない形態が好ましい。光触媒酸化チタンゾル中に含まれる銀の含有量は、上記酸化チタンに対する銀の量がAg2O/TiO2として0.1~5質量%の範囲であるのが好ましく、1~3質量%の範囲であるのがより好ましい。
【0105】
光触媒酸化チタンゾルに含まれる水酸化第四アンモニウムは、光触媒酸化チタンゾルを安定化させる成分である。水酸化第四アンモニウムは、酸化チタンゾルを安定化させながら銀・銅などの変色を抑制することができる。水酸化第四アンモニウムとしては水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムを例示することができる。特に水酸化テトラメチルアンモニウムはそれ自身安定であり、容易に入手できることから本発明のゾルの安定化剤として好適である。水酸化第四アンモニウムの含有量についてはゾルを安定化させるため、酸化チタン(TiO2)1モルに対して0.01~0.1モルの範囲で含有されることが望ましい。
【0106】
光触媒酸化チタンゾルに含まれる銅は、銅酸化物、銅水酸化物などの形態が好ましい。光触媒酸化チタンゾルに含まれる銅の含有量は、銀に対する銅の割合がCuO/Ag2O(質量比)として1~30の範囲であるのが好ましく、1~10の範囲であるのがより好ましい。
【0107】
上記光触媒酸化チタンゾルは、例えば特開2008-260684号公報に記載されるような当業者に知られた製造方法によって調製することができる。また、上記光触媒酸化チタンゾルとして市販品を用いてもよい。市販品として例えば、多木化学社製 タイノックシリーズなどが挙げられる。
【0108】
上記金属含有成分の好適な他の1態様として、例えば、銀イオン担持無機イオン交換体が挙げられる。銀イオンを担持させる無機イオン交換体として、例えば、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、チタン酸カリウム、含水酸化ビスマス、リン酸ジルコニウム塩、ハイドロタルサイトなどが挙げられる。これらの無機イオン交換体に銀イオンを担持させる方法には、特に制限なく従来知られた担持方法がいずれも採用できる。例えば物理吸着又は化学吸着により担持させる方法、イオン交換反応により担持させる方法、結合剤により担持させる方法、銀化合物を無機化合物に打ち込むことにより担持させる方法、蒸着、溶解析出反応、スパッタ等の薄膜形成法により無機化合物の表面に銀化合物の薄層を形成させることにより担持させる方法等が挙げられる。上記無機イオン交換体は、銀イオンを強固に担持できる利点がある。無機イオン交換体として、特にゼオライトやリン酸ジルコニウム塩などが好適に使用できる。
【0109】
銀イオン担持無機イオン交換体の粒径は、上り性、抗菌性能・抗ウイルス性能の点などから、平均粒径10μm以下であるのが好ましく、0.01~5μmであるのがより好ましい。
【0110】
銀イオン担持無機イオン交換体として市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、「ノバロンAG-300」(東亜合成化学社製、銀イオン担持リン酸ジルコニウム)、「ゼオミックAW-10D」(シナネンニューセラミック社製、銀イオン担持ゼオライト)などが挙げられる。
【0111】
上記銀イオン担持無機イオン交換体を用いる場合は、必要に応じて、メルカプトピリジン金属塩(例えばビス(ピリジン-2-チオール-1-オキシド)亜鉛塩など)を併用してもよい。
【0112】
上記金属含有成分の好適な他の1態様として、銀および銅からなる群から選択される1種またはそれ以上を担持する二酸化チタン粒子が挙げられる。本明細書において、上記粒子を、銀および/または銅担持二酸化チタン粒子と記載することもある。
【0113】
銀および/または銅担持二酸化チタン粒子を構成する二酸化チタン粒子は、必要に応じて金属酸化物で被覆されていてもよい。二酸化チタン粒子の被覆に好適な金属酸化物として、例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。
【0114】
二酸化チタンに担持される銀および/または銅は、金属単体の形態であってよく、金属化合物の形態であってよく、イオン状態の形態であってよく、または他の化合物と錯体化している状態の形態であってもよい。これらのうち、金属単体の形態、特に水に難溶性の金属単体または金属化合物の形態であるのがより好ましい。具体的には、酸化銀、塩化銀、酸化銅、水酸化銅、硫酸銅などが挙げられる。
【0115】
銀および/または銅担持二酸化チタン粒子に含まれる、銀および/または銅の質量(銀および/または銅の総量)は、上記二酸化チタン粒子の質量に基づいて、0.1~10%の範囲であることが好ましい。上記下限は0.5%であるのがより好ましい。上記上限は8%であるのがより好ましく、4%であるのがさらに好ましい。
【0116】
銀および/または銅担持二酸化チタン粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、1nm以上、3nm以上、5nm以上、または10nm以上であってよい。また、この平均粒子径は、400nm以下、300nm以下、200nm以下、または100nm以下であってよい。
【0117】
上記銀および/または銅担持二酸化チタン粒子は、例えば特開2019-98297号公報に記載されるような当業者に知られた製造方法によって調製することができる。
また、銀および/または銅担持二酸化チタン粒子として市販品を用いてもよい。
【0118】
上記金属含有成分の好適な他の1態様として、アミノ酸銀、アミノ酸銅などが挙げられる。アミノ酸銀およびアミノ酸亜鉛におけるアミノ酸として、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トレオニン、トリプトファン、メチオニン、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンピドール酸、L-グルタミン酸、L-グルチム酸、L-グルチミン酸、L-グルタミン酸ラクタム、L-グルチミニン酸、L-ピロリドンカルボン酸、L-ピログルタミン酸、オキソプロリンのうちの1種または2種以上を例示することができる。これらの中でも、L-ピロリドンカルボン酸は、抗菌・抗ウイルス効果に優れるという利点がある。
【0119】
上記金属含有成分として、銀、銅および水酸化第四アンモニウムを含む光触媒酸化チタンゾル、銀イオン担持無機イオン交換体、銅担持二酸化チタン粒子などが特に好適に用いられる。
【0120】
水性親水化組成物が上記金属含有成分を含む態様における、上記金属含有成分の好適な含有量は、水性親水化組成物中に含まれる、銀、銅およびチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属成分の量が、下限0.001質量%上限5質量%となる量であるのが好ましい。上記下限値は、0.01質量%、0.05質量%、0.1質量%であってよい。また上記上限値は、3質量%、1質量%、0.5質量%であってよい。
【0121】
本明細書において、上記金属含有成分のある1態様において含まれうるジルコニウム成分は、上記B成分(シラノール基と配位結合またはイオン結合可能な金属化合物)には含まれない。金属含有成分の1態様において含まれうるジルコニウム成分(具体的にはリン酸ジルコニウム塩など)は、銀イオンを担持させる無機イオン交換体であり、既に銀イオンを担持した状態であることから、上記B成分のように、「シラノール基と配位結合またはイオン結合可能な金属化合物」として機能しないためである。
【0122】
・酸性化合物
また、本発明の水性親水化組成物は、上記成分以外に、さらに酸性化合物を含むことができる。加水分解体が有するシラノール基の縮合反応は酸性条件下では進行しにくいため、酸性化合物を含むことで貯蔵安定性を向上させることができる。この酸性化合物としては、有機酸、無機酸、ルイス酸やブレンステッド酸として機能する金属化合物、ホウ素化合物などが挙げられる。
【0123】
本発明の水性親水化組成物は、純粋な水溶液ではないため、上記酸性化合物の添加によって到達すべき酸性度を明示することは難しいが、系を酸性にするための添加量を求めることは、当業者にとって特に困難なものではない。なお、(b)成分であるシラノール基と相互作用可能な金属化合物はルイス酸とみなされるが、この酸性化合物には含めないものとする。
【0124】
・水性親水化組成物の調製方法
水性親水化組成物の調製方法は、A~E成分および水を含めば特に限定されない。例えば、水または水とE成分の存在下で、テトラアルコキシシランまたはテトラアルコキシシランの縮合物を加水分解してA成分を形成することと、A成分とB~E成分および水を混合することによって、水性親水化組成物を調製してもよい。
【0125】
A成分の形成方法は、例えば、特許文献1に記載の方法を用いることができる。
【0126】
A成分とB~E成分および水を混合する場合、E成分と水は、A成分の形成に用いたE成分と水を用いてもよい。
【0127】
(物品)
一実施形態では、本発明に係る物品は、表面に、上記いずれかの水性親水化組成物を用いた塗膜を有する、物品である。
【0128】
別の実施形態では、本発明に係る物品は、順に、
被塗物と、
プライマー層と、
上記いずれかの水性親水化組成物を用いた塗膜と、
を有する、物品である。
【0129】
物品、換言すると被塗物は、特に限定されず、適宜選択すればよいが、例えば、道路標識、建築物用ガラス、車両用ガラス、浴室建材、洗面台、台所建材、ビニールハウス用ビニール、テント、倉庫建材、太陽光発電パネル、アルミフィン、熱交換器、エアコン、光学レンズ、カメラなどが挙げられる。
【0130】
水性親水化組成物を用いた塗膜、すなわち親水性塗膜の厚さは、特に限定されず、適宜調節すればよい。親水性塗膜の厚さ(乾燥膜厚)は、例えば、0.01~1μmである。
【0131】
親水性塗膜の形成方法は、特に限定されず、従来公知の塗装方法を用いることができる。例えば、アプリケータ、バーコーター、刷毛、スプレー、ローラー、ロールコーター、カーテンコーター、シャワーカーテン、浸漬などの塗装方法を用いて塗布することができる。
【0132】
水性親水化組成物を塗布した後の乾燥条件は、適宜調節すればよい。例えば、室温でもよいし、40~150℃で1~30分などでもよい。
【0133】
プライマー層は、被塗物に耐食性を付与したり、被塗物と水性親水化組成物を用いた塗膜との密着性を高めるために用いる層である。
【0134】
プライマー層としては、特に限定されず、公知のプライマー層を用いることができる。プライマー層としては、例えば、特開2019-108483号などに記載のプライマー塗膜などを用いることができる。
【0135】
プライマー層の膜厚は、例えば、1~10μmである。
【実施例】
【0136】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0137】
実施例で使用した材料および装置は以下のとおりである。
・A成分前駆体
テトラメトキシシラン:三菱ケミカル社製の商品名「MKC(登録商標)シリケート MS51」、A成分、すなわち、テトラメトキシシラン加水分解物は、表1~3中、「MS51加水分解物」と表記
・B成分
アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート):マツモトファインケミカル社製の商品名「オルガチックス(登録商標)AL-3200」、固形分76%、表1~3中、「Alキレート」と表記
ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート):マツモトファインケミカル社製の商品名「オルガチックス(登録商標)ZC-150」、固形分99%以上、表1~2中、「Zrキレート」と表記
・CN成分
日本乳化剤社製の商品名「ニューコール(登録商標)710」、HLB:13.6、固形分100%、表1~3中、「ニューコール710」と表記
日本乳化剤社製の商品名「ニューコール(登録商標)706」、HLB:10.9、固形分100%、表1中、「ニューコール706」と表記
・CA成分
ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム:花王社の商品名「ペレックス OT-P」、スルホン酸塩基含有、固形分70%、表1~3中、「ペレックスOTP」と表記
ポリカルボン酸型高分子界面活性剤:花王社の商品名「デモール(登録商標)EP」、カルボン酸基含有、固形分25%、表1~2中、「デモールEP」と表記
アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム:花王社の商品名「ペレックス SS-H」、スルホン酸塩基含有、固形分50%、表2中、「ペレックスSSH」と表記
ポリオキシエチレン(2)ラウリル硫酸ナトリウム:花王社の商品名「エマール E-27C」、硫酸塩基含有、固形分27%、表2中、「エマールE27C」と表記
アルキルベンゼンスルホン酸:花王社の商品名「ネオペレックス GS」、スルホン酸基含有、固形分96%以上、表2中、「ネオペレックスGS」と表記
ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェートカリウム塩:花王社の商品名「エレクトロストリッパー F」、リン酸基含有、固形分70%、表2中、「ESF」と表記
・D成分
日産化学社製の商品名「スノーテックス(登録商標)O」、平均粒子径12nm、固形分20%、表1~3中、「STO」と表記
・E成分
エタノール:三菱ケミカル社製
・F成分
ビニルスルホン酸ナトリウム:旭化成ファインケム社製の商品名「N-SVS-25」、表1中、「NSVS25」と表記
・カチオン系界面活性剤
塩化ラウリルトリメチルアンモニウム:花王社製の商品名「コータミン 24P」、表2中、「コータミン24P」と表記
・抗ウイルス剤
酸化チタンゾル:多木化学社製の商品名「タイノック AM-15」、表3中、「AM15」と表記
銀系無機抗菌剤:東亞合成社製の商品名「ノバロン(登録商標)AG300」、表3中、「AG300」と表記
銅担持酸化チタン:昭和電工社製の商品名「ルミレッシュ(登録商標)CT-S2」、表3中、「CTS2」と表記
・プライマー層用組成物
特開2019-108483号の実施例1のプライマー組成物
・被塗物
スライドガラス:松浪硝子工業社製、商品名「MICROSLIDEガラス S9213」、76mm×52mm
・接触角測定装置
協和界面科学社製の商品名「CA-A型接触角測定装置」
【0138】
・実施例1
加水分解後の固形分換算で79.56質量部のMS51に、固形分換算で4.74質量部のオルガチックス AL-3200、4000質量部のエタノールを混合して溶液化した。これを30℃に加温した後、2.8質量部のニューコール710を溶解させた5840質量部の水を徐々に加え、40℃で2時間攪拌した。その溶液を室温で7日間放置して、加水分解を進行させた。その溶液に1140質量部のエタノール、61質量部の水および固形分換算で6.1質量部のペレックスOT-Pの混合物を加えた。その溶液にさらに、固形分換算で200質量部のスノーテックスOを加えて攪拌し、水性親水化組成物を得た。
【0139】
・実施例2~10
配合を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様に水性親水化組成物を調製した。
【0140】
・実施例11~実施例16および比較例1~2
配合を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様に水性親水化組成物を調製した。
【0141】
・実施例17~19
配合を表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様に水性親水化組成物を調製した。
【0142】
・親水性塗膜の形成
実施例および比較例で調製した各水性親水化組成物をスライドガラスにバーコーターを用いて塗布した。塗布後、室温に1時間放置して水性親水化組成物の膜を乾燥させ、膜厚0.5μmの親水性塗膜を形成して、スライドガラスの表面に親水性塗膜を有する積層体1を得た。
【0143】
・プライマー層と塗膜の形成
スライドガラスに、プライマー層用組成物をバーコーターを用いて塗布した。塗布後、室温1時間放置して、プライマー層を形成した。次いで、実施例および比較例で調製した各水性親水化組成物をプライマー層上にバーコーターを用いて塗布した。塗布後、室温に1時間放置して水性親水化組成物の膜を乾燥させ、膜厚1μmの親水性塗膜を形成して、順に被塗物、プライマー層および親水性塗膜を有する積層体2を得た。
【0144】
・初期親水性評価
積層体1を用いて、親水性塗膜形成直後、親水性塗膜表面の水接触角を25℃、50%RT下で接触角測定装置を用いて測定した。その結果を表1~3に合わせて示す。接触角が小さいほど、親水性が良好であることを示す。
・長期流水後親水持続性評価
積層体1を用いて、流水中にその積層体1を10日間浸漬し、親水性塗膜表面の水接触角を接触角測定装置を用いて測定した。流水の流量は、100mL/分とした。その結果を表1~3に合わせて示す。接触角が小さいほど、親水性が良好であることを示す。
【0145】
・べたつき性評価
形成後、室温に1時間放置した積層体1を用いて、塗装表面を指で押して以下の基準で親水性塗膜表面のべたつき性を評価した。その結果を表1~3に合わせて示す。
A:積層体が指に粘着しない
B:積層体が指に粘着するが、すぐに離れる
C:積層体が指に粘着したまま離れない
【0146】
・抗ウイルス性評価
実施例及び比較例で得られた試験板について、JIS R 1756(2020)に規定する方法に従って、バクテリオファージQβを用いて、抗ウイルス試験を実施した。すなわち、20Wの白色蛍光灯ネオラインFL20S・W(東芝ライテック社製)を光源として用い、紫外線カットフィルターN-169(日東樹脂工業社製)を通して、380nm以上の可視光を、照度500ルクスで照射した。なお、照度は照度計IM-5(トプコン社製)を用いて測定した。可視光の照射時間を4時間として、明所の抗ウイルス活性値(V)を下式により算出した。基準板は抗ウイルス加工が成されていないソーダガラス板を用いた。その結果を表3に合わせて示す。
明所の抗ウイルス活性値:V=Log10(UV/TV)
TV:光照射後の試験板あたりのバクテリオファージ感染価(pfu)
UV:光照射後の基準板あたりのバクテリオファージ感染価(pfu)
なお、抗ウイルス性を評価する前に、塗装体の表面及び裏面をそれぞれ、クリンベンチ内にて殺菌灯を照射して、滅菌処理した。殺菌灯は15Wの殺菌灯(波長254nm)がクリンベンチの側面に各1本、計2本設置され、塗装体から光源までの距離を30cm~60cmとした。殺菌灯の照射時間は15分とした。
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
本発明によれば、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを有する親水性塗膜を形成可能な水性親水化組成物を提供することができた。本発明によれば、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを有する物品を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明によれば、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを有する親水性塗膜を形成可能な水性親水化組成物を提供することができる。本発明によれば、親水性塗膜の形成直後の親水性と、長期流水後親水持続性とを有する物品を提供することができる。