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特許7542274サイクル安定性に優れた二次電池用シリコン負極の製造方法および二次電池用シリコン負極
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】サイクル安定性に優れた二次電池用シリコン負極の製造方法および二次電池用シリコン負極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1395 20100101AFI20240823BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240823BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240823BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/134
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022548720
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 DE2021100100
(87)【国際公開番号】W WO2021160212
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】102020103469.5
(32)【優先日】2020-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513181698
【氏名又は名称】クリスティアン-アルブレヒツ-ウニヴェアズィテート ツー キール
【氏名又は名称原語表記】Christian-Albrechts-Universitaet zu Kiel
【住所又は居所原語表記】Christian-Albrechts-Platz 4, D-24118 Kiel, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ライナー アーデルング
(72)【発明者】
【氏名】ザンドラ ハンゼン
(72)【発明者】
【氏名】イェアク バール
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン カーステンゼン
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-509687(JP,A)
【文献】特表2014-525651(JP,A)
【文献】特開2010-251647(JP,A)
【文献】国際公開第2004/064189(WO,A1)
【文献】特開2013-016365(JP,A)
【文献】特表2014-534633(JP,A)
【文献】特表2013-501309(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0022706(KR,A)
【文献】Filimon Zacharatos,Highly ordered hexagonally arranged sub-200 nm diameter vertical cylindrical pores on p-type Si usin,physica status solidi (a),206巻,6号,2009年03月25日,pp. 1286-1289
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用シリコン負極の製造方法であって、
a.(100)配向平坦面を有する単結晶シリコンウェハを提供するステップ;
b.前記ウェハの裏面に平坦な第1の電極を接触させるステップ;
c.フッ酸を含む電解質と第2の電極とを有するエッチング浴に前記ウェハの前面を入れるステップ;
d.所定のエッチング電流密度を設定することにより、電気化学的エッチングによって前記シリコンウェハの前記前面に少なくとも4マイクロメートルの孔深さのメソ孔を生成して、
e.メソポーラス層の気孔率を40%~80%とするステップ;
f.エッチング電流密度を高めることにより、前記メソポーラス層の下方にマイクロポーラス剥離層を生成するステップ;
g.エッチングされた前記ウェハを電気メッキ浴に移すステップ;
h.エッチングにより生成された前記メソ孔に単体金属を2マイクロメートル未満の所定の孔深さまで電着させるステップ;
i.エッチングされた前記ウェハの前記前面に少なくとも数マイクロメートルの厚さの金属層を析出させて、前記金属層と前記メソ孔内の前記単体金属との導電性および機械的密着性のある接触部を形成するステップ;
j.前記マイクロポーラス剥離層を機械的に破壊して、前記金属層と、前記メソ孔内に部分的に前記単体金属が充填されたメソポーラス単結晶(100)配向シリコン層とをリフトオフするステップ
を特徴とする、方法。
【請求項2】
前記単結晶シリコンウェハは、p型ドーピングが施されており、かつ10mΩcm未満の比抵抗を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
エッチングによって、4~16マイクロメートルの孔深さの前記メソ孔を生成する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記メソポーラス層の気孔率を70%~75%に設定する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記メソ孔に、前記単体金属である銅またはニッケルのうちの1つを析出させる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記メソ孔への前記単体金属の析出を、数十ナノメートル~数百ナノメートルの孔深さまで行う、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも数マイクロメートルの厚さの金属層を、前記メソ孔内に析出させた単体金属以外の金属から形成する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
金属層と、メソ孔内に部分的に単体金属が充填されたメソポーラス単結晶(100)配向シリコン層とを特徴とする二次電池用シリコン負極であって、前記メソ孔内の前記単体金属は、前記金属層と電気的に導通し、かつ機械的に密着して接触している、シリコン負極。
【請求項9】
アルカリ金属イオンを含む電解質を有する二次電池の負極としての、請求項8記載のシリコン負極の使用であって、前記アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムまたはカリウムの群のうちの少なくとも1つである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池(蓄電池ともいう)用、特にリチウムイオン電池用シリコン負極の製造方法、および該方法により製造可能なシリコン負極に関する。
【0002】
シリコン系負極は、リチウムイオン電池に有効であることが知られている。充電式リチウムイオン二次電池の性能は、単位重量あたりの貯蔵エネルギー(単位:mAh/g)で測定される。ここで重要となるパタメータは、電極の重量1gあたりに負極および正極の両電極にどれだけのリチウムを蓄えられるかである。二次電池の品質を決定するその他の要素は、電極に大きく依存し、貯蔵安定性、すなわち非充電状態の電池の可能な無損傷寿命、自己放電の程度、充電速度、およびサイクル安定性である。サイクル運転とは、電池の完全な充放電を繰り返すこと(充電サイクル)を意味し、サイクル運転に対して安定した電池は、多くの充電サイクルにわたってごくわずかにしか、理想的には全く容量が低下しない。
【0003】
既知の電池コンセプトはいずれも技術的に優れているが、製造コスト、したがって価格性能比を市場性のある範囲に抑えなければならない。特に、例えばエレクトロモビリティや家庭用蓄電池の分野といった蓄電容量が非常に高い蓄電池では、一方では安全性の要求ゆえに、また他方では大面積で堅牢な電極の製造コストゆえに、ここではなおも不足がある。
【0004】
安全性に関して、電池のシリコン電極は、従来使用されてきた炭素(黒鉛電極)の代替となり得るため、これにより電池の火災の危険性が大幅に低減されるという利点を有する。シリコンは、工業的に一般的な黒鉛負極に比べて、シリコン1gあたり約11倍のリチウムを吸蔵(インターカレート)し、シリコン-リチウム化合物を形成できることが以前から知られている。理論容量は4000mAh/g超と、金属リチウムよりもさらに高い。しかし、初期のシリコン負極使用の試みは、実質的にサイクル安定性が得られなかったため失敗に終わった。シリコンのサイクル安定性が極めて低い理由は、リチウムのインターカレーションに伴ってシリコンの体積が4倍に膨張することにある。その際に生じる機械的応力は非常に大きく、その結果、材料は粉砕される。
【0005】
リチウムイオン電池の負極については、Chanらの研究(”High-performance lithium battery anodes using silicon nanowires”, Nature Nanotechnology 3, 31 (2008))において、金属膜(集電体)上にシリコンナノワイヤを直立配置することが提案されている。Chanらの研究は、既知の技術(ここでは液体-蒸気-固体、LVS)を用いて、例えば鋼鉄基材上にシリコンナノワイヤを成長させるものである。このナノワイヤは柔軟性があり、破断せずに直径が2倍となり得る。シリコンをナノ構造化することで、一方ではリチウムイオンを取り込む表面積が増加し、他方では前述の機械的応力を回避するための空間が形成される。しかし、Chanらによる製造方法は煩雑であり、かつ高コストである。LVSプロセスでシリコンナノワイヤを成長させるには、ナノワイヤの先端に残る核生成シードとして金粒子が必要である。ナノワイヤ自体は金が飽和しているため、太いワイヤや大面積のものを製造すると非常に高価になる。さらに、得られたナノワイヤは均一ではない。基材上には、太い・細い、長い・短い、直立した・屈曲した、基材に固定された・離脱したナノワイヤが存在する。金属膜と接触していないシリコンナノワイヤは、商業生産上、特に好ましくない。こうしたナノワイヤは、電池の容量には寄与しないが、最初の充電時にリチウムイオンを取り込み、それ以降はリチウムイオンを取り出すことができなくなる(不可逆容量)。そして当然のことながら、Chanらによる方法では、これも金が飽和している。
【0006】
欧州特許第2460214号明細書では、シリコンピラーがその基点の領域内に金属膜で囲まれた部分を有することによって、サイクル中にシリコンピラーが金属膜から剥離するのをできるだけ完全に防ぐという目的が追求されており、その際、金属膜は、少なくとも1マイクロメートルの厚さである。このように埋め込まれた単結晶シリコン製ピラーは、金属膜(この場合は銅製)によって固定され、囲まれた部分にリチウムイオンが取り込まれることも防いでいる。これらのピラーは、サイクル時にしっかりと固定されたままであり、よって、金属製のアレスタと低抵抗で接触する。さらに、欧州特許第2460214号明細書では、すべてのピラーが同じ厚さ、同じ高さで、同じように結晶学的に配向し、さらには規則的に配列されているが、これは、該文献に記載された製造方法によるものである。ナノピラーは、マクロ孔を狙いどおりにオーバエッチングしてシリコンウェハ上に規則正しく配列させた後、金属膜を直立ピラーの脚部に電着させ、この後に熱または機械力を加えてウェハから剥離させるものである。その際、埋め込まれたシリコンピラーは金属膜上に残り、ウェハから引き剥がされる。欧州特許第2460214号明細書によるシリコン負極は、数百回の充電サイクルの後でも容量低下を示さないことが強調されるべきである。しかし、この製造方法は、特に比較的深いマクロ孔のエッチングと電気メッキとの双方に時間がかかり、さらに高価なウェハ材料の大部分を効率的に使用することができないため、大量生産にはほぼ適さない。
【0007】
リチウムイオン電池用シリコン系電極を創作するさらなるアプローチは、シリコン結晶の各種粉末、例えばウェハのSi破砕粒子を導電性粒子、例えばカーボンブラックと混合し、これをさらに有機バインダーと混合して金属板に厚膜として施与することである。孤立したSi粒子はリチウムをインターカレートすることができ、その際、例えば、層のマトリックスが必要に応じて変形により機械的な力を吸収できるため、層に大きな機械的応力を生じさせる必要なしにその体積を増加させることができる。しかし、この機械的応力は長期的に影響がないわけではなく、経時的に、例えば、シリコンとリード電極との電気的接触の中断、場合によってはさらにはコーティングの剥離、ひいては容量低下を招く。
【0008】
独国特許出願公開第102015120879号明細書では、リチウムイオン電池用シリコン負極として銅膜をシリコンでコーティングし、その際、シリコンを気相または液相から堆積させ、その後、シリコンのエッチングによりメソポーラス孔を生成することが提案されている。IUPACの定義によれば、メソポーラス孔とは、孔径2~50nmの孔である。目標とされる気孔率(=層体積に占める孔体積の割合)は60~90%であり、リチウム負荷時の体積膨張に備えてシリコンコーティングに内部空隙を持たせることを意図している。シリコンは銅との密着性が低いため、この研究では、銅膜と堆積させたシリコン膜との間にチタン、ニッケルまたはバナジウムを含む追加の付着促進膜を配置することが規定されている。メソ孔の片側電気化学エッチングを容易にするため、析出時にシリコンにp型ドーピングが行われる。著者らは、該文献の第0048段落でのみサイクル安定性について述べている:「工業的に確立された炭素系材料と比較すると、容量は4倍増加するが、サイクル安定性は今のところまだ低い」。
【0009】
メソ孔は、適切なプロセスパラメータを使用してシリコンウェハに電気化学的にエッチングすることも可能であることに言及すべきである。シリコンへのドーピングは有用であるが、Si単結晶にメソ孔を形成する上で重要ではない。特に、エッチングプロセス中にエッチングパラメータを変更することで、ウェハの深さごとに異なる孔の形態を狙いどおりに形成することができる。これは、複雑ではあるが先行技術で確立されている技術である。
【0010】
本発明の課題は、サイクル安定性に優れた二次電池用シリコン負極を製造するための、費用対効果の高い、大規模的な適用が可能な方法を提案することである。
【0011】
この課題は、二次電池用シリコン負極の製造方法であって、
a.(100)配向平坦面を有する単結晶シリコンウェハを提供するステップ;
b.ウェハの裏面に平坦な第1の電極を接触させるステップ;
c.フッ酸を含む電解質と第2の電極とを有するエッチング浴にウェハの前面を入れるステップ;
d.所定のエッチング電流密度を設定することにより、電気化学的エッチングによってシリコンウェハの前面に少なくとも4マイクロメートルの孔深さのメソ孔を生成して、
e.メソポーラス層の気孔率を40%~80%とするステップ;
f.エッチング電流密度を高めることにより、メソポーラス層の下方にマイクロポーラス剥離層を生成するステップ;
g.エッチングされたウェハを電気メッキ浴に移すステップ;
h.エッチングにより生成されたメソ孔に単体金属を2マイクロメートル未満の所定の孔深さまで電着させるステップ;
i.エッチングされたウェハの前面に少なくとも数マイクロメートルの厚さの金属層を析出させて、金属層とメソ孔内の単体金属との導電性および機械的密着性のある接触部を形成するステップ;
j.マイクロポーラス剥離層を機械的に破壊して、金属層と、メソ孔内に部分的に単体金属が充填されたメソポーラス単結晶(100)配向シリコン層とをリフトオフするステップ
を特徴とする方法によって解決される。
【0012】
副次的な請求項は、本方法により製造可能なシリコン負極に関するものである。従属請求項は、有利な実施形態を示す。
【0013】
本発明は、特にリチウムイオンのインターカレーションの過程での体積膨張のための空間を提供するために負極にメソポーラスシリコンを使用するという独国特許出願公開第102015120879号明細書の構想を取り上げる。しかし、該文献での金属膜をシリコンでコーティングするというアプローチは、本発明ではその逆に置き替えられ、すなわち、エッチングされた単結晶シリコンウェハ上に金属を析出させるというアプローチがとられる。本発明によれば、シリコンが単結晶であり、かつウェハの2つの平坦面が(100)配向しており、すなわちバルク結晶の(100)方向に対して垂直に延在していることが重要である。
【0014】
さらに、独国特許出願公開第102015120879号明細書に従って金属膜上に堆積されたシリコンはいずれも単結晶ではないことに留意すべきである。この理由だけでも、該刊行物は方向性がまったく異なるものである。
【0015】
(100)方向に沿って、シリコン結晶を特に高速に成長させることができる。したがって、(100)配向面は可動シリコン原子に強い秩序化効果を有することが推測される。しかし、これを利用できるようにするためには、充電サイクルの間にシリコンが大幅に再構築されるにもかかわらず、シリコン負極の結晶構造が完全に失われないようにする必要がある。よって、本発明によれば、単体金属を所定の孔深さまで電着させることにより、メソポーラスシリコンの一部で結晶構造が「凍結」される。析出された単体金属、好ましくは銅またはニッケルは、機械的に堅固でかつ非圧縮性であり、金属析出物の深さまでシリコンの移動または体積増加のあらゆる余地を奪うため、単体金属が充填された層領域でのインターカレーションが防止される。このため、二次電池の充電サイクル時にも、この層領域のシリコンの結晶性および(100)配向は常に維持される。メソポーラスシリコンのうち単体金属が充填されていない部分は、イオンの取り込みによって確かに大きく再構成されるが、イオンが排出されると再び自己組織的に再構成され、その結果、シリコン負極は均一で予測可能かつサイクル安定性に優れた挙動を示すようになる。この自己組織化は、総じて単結晶(100)面の存在によって初めて可能になるか、あるいは少なくとも大いに促進されるものと推測される。
【0016】
エッチングにより生成されたウェハのメソ孔に単体金属を電着させ、その後、ウェハの同じ平坦面に金属膜を析出させることの副次的効果は、キーロック原理により、金属膜とシリコンとが強固に機械的に結合することである。孔内の単体金属と金属膜との材料接続的な密着性は非常に良好であることが知られているが、一部の金属、例えば銅に対するシリコンの密着性はどちらかといえば劣悪である。しかし、単体金属が充填されたメソ孔は、通常、平滑でもチャネル状でもなく、孔の深さによって直径が異なり、横方向、すなわち孔の延在に対して垂直な方向に突起や鋸歯を有する。このような孔に固体材料が充填されている場合、材料の引き抜きは不可能であり、材料は、形状接続により機械的に固定されている。これにより、シリコン層のうち単体金属が充填された領域を金属膜から剥離させることはほぼ不可能となる。
【0017】
以下に、図面も参照しながら本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ウェハまたは金属膜に対して垂直な断面に沿ったシリコン負極の概略図である。
図2】メソポーラスSiウェハの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
図3】リチウムイオンを含む電解質を用いた試験セルにおける、最初の100回の充電サイクル時のSi負極の比容量の測定値を示す図である。
図4】a)およびb)はそれぞれ、リチウム試験セルで数回の充電サイクルを経た後の厚さ6マイクロメートルのシリコン層を有するSi負極のSEM画像の2倍拡大図である。
図5】ニッケル・マンガン・コバルト正極に対する層厚26μmのSi負極の充電容量の測定値を示す図である。
図6】ナトリウムイオンを含む電解質を用いた試験セルにおける、最初の17回の充電サイクル時のSi負極の比容量の測定値を示す図である。
図7】a)およびb)は、ナトリウム試験セルで数回の充電サイクルを経た後のSi負極のSEM画像の2倍拡大図である。
図8】カリウムイオンを含む電解質を用いた試験セルにおける、最初の15回の充電サイクル時のSi負極の比容量の測定値を示す図である。
【0019】
単結晶Siウェハを公知の方法で電気化学的にエッチングすることにより、シリコンに様々な種類の孔を生成することができる。その際、電気化学の当業者は、プロセスステップa)~f)自体を熟知しており、自身の選択した電解質組成で所定のドーピングを施した所定のウェハバッチをメソポーラスエッチングしたい場合に正確なエッチングパラメータ(電流密度、エッチング時間、電解質の温度およびフロー)を決定する方法を知っている。当業者は、例えば独国特許発明第10318995号明細書および該文献に引用されている情報源を参考にすることができる。すでに述べたように、シリコンの特定のドーピングは必ずしも必要というわけではない。しかし、メソ孔のエッチングには、ドーピングされたシリコンを使用するのが有利であることは確かである。このようなシリコンは総じて、高純度シリコンよりも安価でもある。実験では、比抵抗が10mΩcm未満、好ましくは約8mΩcmの、例えばホウ素によるp型ドーピングが施されたシリコンウェハが有利な選択肢であることがわかっている。
【0020】
米国特許第7,208,069号明細書から大型シリコンウェハのエッチング装置が知られており、この装置はメソ孔の生成にも適している。電解質として、例えば、フッ化水素(HF)20重量%とエタノール5重量%とポリエチレングリコール(PEG)1重量%とを含む水溶液が該当し、必要に応じて、PEGに加えてあるいはPEGに代えて1重量%の硫酸(HSO)を添加してもよい。浴温は、通常は20℃で一定であり、電流密度は、一般的な範囲では50~100mA/cmに設定することができ、その際、値が大きいほど気孔率は高くなる。
【0021】
本発明によれば、メソポーラスエッチング層において、メソ孔の総体積は、元のシリコン体積の40%~80%であることが望ましい。間隔の広さの理由については、以下でさらに説明する。特にリチウムイオン電池用Si負極では、気孔率を70%~75%の値に設定することが有利である。
【0022】
また、当業者は、メソポーラス層の下方にスポンジ状の孔構造を有するマイクロポーラス剥離層を生成するために、自身の構成体においてエッチング電流密度をどこまでどれだけの時間高めなければならないかを知っているか、または予備試験で容易に調べることができる。剥離層は、機械的に容易に破壊する非常に薄く脆い孔壁しか有しないように設計することができる。しかし、孔壁がなおも損なわれていない限り、メソポーラス層はウェハに付着したまま、これと一緒に移動することができる。
【0023】
本発明によれば、エッチングされたウェハは、この後、単体金属イオンを含む電解質を含む電気メッキ浴に移される。好ましくは、これには銅イオンまたはニッケルイオンが該当する。
【0024】
可能な電解質は、例えば、好ましくはpH値1~2.7の、硫酸(HSO)と1重量%のPEG(分子量約3360)とを加えた硫酸銅/ニッケル水溶液(モル比0.25M~1.25M)である。ニッケル析出の最良の結果は、ワット溶液、すなわち200g/l硫酸ニッケル(NiSO)、45g/l塩化ニッケル(NiCl)、45g/lホウ酸(HBO)により得られる。NiSOに代えて添加される30g/lのスルファミン酸ニッケルNi(SONH)を利用しても、同様に良好な結果を得ることができる。
【0025】
また、電解質は、少なくとも表面近傍の領域ではメソ孔にも浸透し、その場合、通電およびイオンの析出還元によりメソ孔に部分的に単体金属が充填される。ここでいう「部分的に」とは、少なくとも4マイクロメートルであることが望ましい孔深さ全体に単体金属を充填するわけではないことを意味する。これは、数百ナノメートル以上の孔深さでは、電解質の流れが阻害されすぎて、メソ孔での析出が困難になるためである。本発明の目的には、数十~数百ナノメートルの孔深さでの金属析出ですでに完全に十分である。当業者は、特に電解質の粘度を制御することによって電解質の浸透深さに影響を与えることができることを知っている。
【0026】
好ましくは、この後に、少なくとも数マイクロメートルの厚さの金属層がウェハ表面上に形成されるまで金属析出が継続される。金属層とメソ孔内に析出された単体金属とが材料接続により結合されることで、最良の導電性および機械的密着性のある接触部が保証される。あるいは、メソ孔を充填している金属とは異なる金属で金属層を形成することもできる。例えば、電解質を変更することや、別の金属化プロセスを用いて金属層を施与することもできる。製造の最後には、メソ孔が設けられたシリコン単結晶を金属層が自由に支持できることが必要であり、このシリコン単結晶は、前述の剥離層が破壊されてウェハから分離された後に金属層に付着している。
【0027】
剥離層は非常に脆く、例えば、完成した金属膜およびメソポーラスシリコン単結晶をウェハから引き剥がすことにより機械的に破壊することが可能である。機械的破壊のもう1つの方法は、必要に応じてパルス状としたおよび/または集束させた超音波を剥離層に照射することであり得る。
【0028】
本方法の結果を、図1に概略的に示す。金属膜(Met)およびSiウェハに対して垂直に示されたこの断面概略図において、鋸歯状に延在するメソ孔壁(Si)、および間隙としての孔が図示されている。破線の間では、金属が孔内に析出し、したがって孔が部分的に充填されている。示された事例では、少なくとも数マイクロメートルの厚さの金属膜が形成されるまで、つまり孔の内側と外側とで金属が同じになるまで、孔内での単体金属の電着が続けられた。
【0029】
金属膜に付着するシリコン層の厚さは、エッチングプロセス時のメソ孔深さの選択によって決まり、本発明によれば少なくとも4マイクロメートルであることが望ましい。好ましくは、メソポーラスシリコン層の厚さは4~16マイクロメートルであり、特に好ましくは6~12マイクロメートルである。上述した実施形態例において、エッチング速度は、1分間に2マイクロメートルを若干超える程度である。
【0030】
一見すると、図1は、欧州特許第2460214号明細書の金属で囲まれたSiナノワイヤの概略図を想起させる。しかし、図1に図示されたSiは像面外で互いに完全につながっているため、この関連付けは誤解を招くことになる。実際には、金属膜から出た金属の突起をシリコンが取り囲んでいる。
【0031】
図1は、本発明による二次電池用シリコン負極を概略的に示したものであり、該シリコン負極は、金属層と、メソ孔内に部分的に単体金属が充填されたメソポーラス単結晶(100)配向シリコン層とを含み、その際、メソ孔内の単体金属は、金属層と電気的に導通し、かつ機械的に密着して接触している。この負極を、電気リード線を金属膜に接触させた状態でリチウム二次電池に直接挿入することができ、その際、金属リチウム製の電極を正極として利用することができる。負極のシリコン側は、リチウムイオンを含む無水電解質に向けて配置される。剥離層が完全に除去されると、シリコン側は、メソポーラスエッチングされたSiウェハの前面と全く同じに見え、これは、図2のSEM画像として見ることができる。
【0032】
二次電池において、例えば以下の2種類の電解質が適している:
a)炭酸塩系電解質。これは、溶媒である1:1の割合のエチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)に溶解させた1Mの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)(市販品)からなる。
【0033】
b)エーテル系電解質。これは、例えば1:2の割合のジオキソラン-1,3(DOL)およびジメチルエーテル(DME)中のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム塩(LiTFSi)の溶液として製造することができる。
【0034】
図3は、厚さ6マイクロメートルのシリコン層を有するシリコン負極とリチウム金属正極とを備えたリチウムイオン試験セルの比充電容量の測定値を示す。リチウムの充電は、電池技術において通例であるとおり、理論上の最大値の75%程度までしか行われない。放電曲線から、わずか数サイクルで充電可能な容量が高いレベルで安定することがわかる。約20サイクル目以降は、それ以上の変化は検出されない。示されている試験では、試験セルの充電および放電にそれぞれ2時間ずつを要する。
【0035】
サイクル運転後に安定化された放電負極を取り出し、検査することができる。走査型電子顕微鏡では、シリコン側は、図4a)および図4b)に2倍拡大図で図示されているように再構成を示している。全面にわたって塔状の構造物が形成されており、それらはクラックによって互いに分離されている。その際、クラックは、十分に連結したネットワークを形成しており、幅は約1マイクロメートルである。表面の外観は、まるで干上がった川底のようであり、析出物の水分が蒸発すると乾燥したクラックが現れる。詳しく調べると、塔状の構造物の表面は、シリコンおよびリチウムから形成される、「固体電解質界面」(”solid-electrolyte interface”、SEI)と呼ばれる固溶体相で覆われていることが判明した。このSEIは、リチウムのインターカレーション時にシリコンの体積とともに膨張し、放電時に再び収縮することが知られている(S Hansen, S Shree, G Neubueser, J Carstensen, L Kienle, R Adelung, ”Corset-like solid electrolyte interface for fast charging of silicon wire anodes”, Journal of Power Sources 381, 8-17, 2018)。SEIは、電池が完全に放電した際にもそのまま残り、電解質中の一定割合のリチウムイオンを永久的に結合させる。SEIは、従来の黒鉛を用いたリチウムイオン電池のように、裂けることも、永久的に増大することもない。SEIは、このクラックを完全に包み込み、このクラックにさらなる機械的な保持性および安定性を与える。
【0036】
ここで、充電サイクルを何回繰り返した後に負極を調べても、図4に示した構造が大きく変わることはないことに留意することが重要である。各充電サイクル中にシリコン層は大きく再構成するものの、前述の川底の構造は常に新しく形成される。このことが、新規のシリコン負極のサイクル安定性が測定可能である主な理由であると考えられる。同時に、その貯蔵能力も、入手可能な最良の炭素系負極より明らかに優れている。本発明者による評価によれば、本発明による負極と現在市販されている最良の正極とを備えた大量生産に適したリチウムイオン電池は、そのような電池の充電容量を少なくとも2倍にすることが期待できる。
【0037】
また、図5には、厚さ26マイクロメートル、孔径30ナノメートルで気孔率65%のシリコン層を備えた本発明によるシリコン負極について、ニッケル・マンガン・コバルト正極に対する充填容量の測定値のプロットが示されている。図3と比較すると容量レベルがかなり低いが、これは主に正極が限られているため、シリコン負極の性能を十分に引き出せないことに起因する。しかし、ここでより重要であるのは、40回の充電サイクルにわたる負極の安定性(Cレート C/4)であり、充放電容量は、すべてのサイクルで300mAh/gを超える。この測定値では、リチウムの吸蔵に活動的に関与するシリコン層は比較的少ないが、単結晶の(100)配向メソポーラスシリコン層を金属膜に固定することが必要である。メソ孔への電着によるキーロック原理の確立がなければ、26マイクロメートルの層は早くも10回程度の充電サイクルで崩れてしまい、その際に電気的接触が失われる。
【0038】
いくつかの厚さのシリコン層について調べたところ、シリコン層厚が少なくとも4マイクロメートルであれば、サイクル安定性に優れた二次電池用シリコン負極を実現できることが判明した。さらに、測定結果から、4~16マイクロメートル、極めて特に6~12マイクロメートルの層厚が、現在、最良の結果、特にリチウムイオンの効率的な吸蔵を約束し、したがって好ましいことが判明した。
【0039】
最後にさらに、シリコンは他のアルカリ金属、特にナトリウムおよびカリウムもインターカレートできることが指摘されるべきである。したがって、ナトリウムまたはカリウムイオン電解質と金属ナトリウムまたはカリウム正極とを備えた試験セルにシリコン負極を挿入してサイクル運転させることも可能である。これには、例えば、ナトリウム電池用のトリフルオロメタンスルホンイミドナトリウム塩(NaTFSi)やカリウム電池用のトリフルオロメタンスルホンイミドカリウム塩(KTFSi)が任意に溶解した前述のエーテル系電解質が該当する。
【0040】
実際に、本発明によるシリコン負極は、ナトリウムまたはカリウムイオン電池での使用にも適していることが実証されている。少なくとも驚くほど安定した充電サイクルを実施することが可能であるが、中にはリチウムよりさらに時間を要するものもある。
【0041】
しかし、ナトリウムまたはカリウムは、シリコンのインターカレーション時にリチウムよりもシリコンの体積の増加を小さくするため、この状況では、より小さい気孔率、特に40%~60%の範囲の値を設けることによりシリコン負極を設計することが合理的であり得る。
【0042】
例えば、図6には、ナトリウム試験セルの充電容量の測定値のプロットが示されている。ここでは、負極にナトリウムイオンを理論上の最大充電容量まで、すなわち各種出典によれば約1000mAh/gまで負荷させる。測定データには11回の充電サイクルが含まれ、そのうち最初の6回はC/4という高いCレートで実施される。最初はナトリウム正極がまだ不働態化されておらず、すなわち保護層で覆われておらず、これにより、最初は充電時に高容量であることが説明される。このSEIがナトリウム正極およびシリコン負極上に形成されるとすぐに充電容量は非常に大幅に低下し、一方で放電容量は低いレベルにとどまる。しかし、7サイクル目以降はCレートが大幅に低下してC/10となり、すなわち完全な充電に10時間の充電時間を要する。これには、充電時には最大の容量を発揮することができ、一方で放電容量は、さらなる各サイクルで、ここではなおも達成されていない最終レベルに達するまで増加するという、容易に認識可能な効果がある。蓄電池の挙動が明らかに向上した理由は、ナトリウムイオンが、シリコンにインターカレートして活性化エネルギーを橋渡しするのに十分な時間を必要とするためであると考えられる。よって、シリコン負極を使用して、ナトリウムイオン二次電池を創作することも実際に可能であるが、この二次電池は、現在は電荷を蓄えたり放出したりすることが比較的ゆっくりとしかできない。しかし、例えば太陽電池由来のエネルギーを蓄えるのに、リチウムイオンに代えてナトリウムイオンを使用できるという利点は、ここでは必ず言及に値するものと思われる。
【0043】
図7a)および図7b)には、ナトリウム試験セルでサイクル運転させたシリコン負極のSEM画像の2倍拡大図が示されている。薄いラメラで濡れたシリコンの表面が見える。しかし、特に図7b)で視認可能であるが、ソディエーション時のシリコンの体積膨張が減少したため、クラックパターンははるかに小さくなる。繰り返しのサイクルでも常にこのようなクラックパターンが確立されているという観察が強調されるべきである。このことから、ナトリウムイオン電池においても本発明によるシリコン負極の高いサイクル安定性が期待される。
【0044】
図8は、本発明によるシリコン負極とカリウム正極とを備えたカリウムイオン試験セルの充電容量の測定値のプロットを示す。最初の15回の充電サイクルにおけるセルの挙動が示されており、その際、各充放電には4時間を要する(Cレート C/4)。興味深いことに、ここではナトリウムの場合のような電極の適合問題は現れず、察知可能な充電容量の最終レベルを容易に見積もることができ、これは約550mAh/gである。なお、左側の目盛りは350mAh/gから始まる。このため、充電容量に対する放電容量の比率は約75%である。
図1
図2
図3
図4a)】
図4b)】
図5
図6
図7a)】
図7b)】
図8