(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】コバルトを選択的に抽出する溶媒抽出方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240823BHJP
C22B 3/32 20060101ALI20240823BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240823BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240823BHJP
B01D 11/04 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B3/32
C22B23/00 102
H01M10/54
B01D11/04 B
(21)【出願番号】P 2024029725
(22)【出願日】2024-02-29
【審査請求日】2024-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2023139430
(32)【優先日】2023-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岸 建吾
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-105597(JP,A)
【文献】特開2013-216656(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0192425(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第114317961(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00
C22B 3/32
C22B 23/00
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池廃棄物を湿式処理することにより得たものであり、少なくともコバルトおよびニッケルを含有する浸出液から、前記コバルトを選択的に抽出する溶媒抽出方法であって、
アミンキレート骨格を有するハロゲン化物塩を前記浸出液に添加することにより、前処理済浸出液を得る前処理工程と、抽出剤としてネオデカン酸を使用することにより、前記前処理済浸出液から前記コバルトを選択的に抽出する抽出工程とを有し、前記前処理工程を前記抽出工程よりも先に実施する溶媒抽出方法。
【請求項2】
リチウムイオン電池廃棄物を湿式処理することにより得たものであり、少なくともコバルトおよびニッケルを含有する浸出液から、前記コバルトを選択的に抽出する溶媒抽出方法であって、
抽出剤としてネオデカン酸を使用することにより、前記浸出液から抽出液を得る抽出工程と、アミンキレート骨格を有するハロゲン化物塩を前記抽出液に添加することにより、前記コバルトを選択的に得るスクラビング工程とを有し、前記抽出工程を前記スクラビング工程よりも先に実施する溶媒抽出方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化物塩が、塩酸塩である請求項1に記載の溶媒抽出方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化物塩が、塩酸塩である請求項2に記載の溶媒抽出方法。
【請求項5】
前記浸出液が銅を含有するものであり、前記抽出工程において、少なくとも前記銅の一部を除去する請求項1に記載の溶媒抽出方法。
【請求項6】
前記前処理工程において、前記浸出液のpHを7.0~9.0に調整する請求項1に記載の溶媒抽出方法。
【請求項7】
前記ハロゲン化物塩に由来するハロゲン化物イオンの濃度が1.5M以上である請求項1に記載の溶媒抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池廃棄物から、最終的にコバルトを選択的に抽出する溶媒抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SDGsの観点から、リチウムイオン電池廃棄物からコバルトおよびニッケルなどの有価金属を回収・再利用することが広く検討されている。
【0003】
リチウムイオン電池廃棄物からコバルトおよびニッケルなどの有価金属を回収する場合、リチウムイオン電池廃棄物に対し、焙焼・粉砕などの処理を行い、得られるリチウムイオン電池粉を酸性溶液に添加し、リチウム、銅、コバルト、ニッケル、鉄、アルミニウム、マンガンなどが溶解した浸出液を得る。次いで、固液分離や溶媒抽出を繰り返し行うことで、所望の有価金属、例えばコバルトやニッケルなどが溶解した溶液を得る。最後に、ニッケルおよびコバルトは各溶液から電気分解などを実施することで回収する。
【0004】
例えば、下記特許文献1では、ニッケルおよびコバルトを含有したホスホン酸またはホスフィン酸またはこれらのエステルを鉱酸水溶液を用いて逆抽出するに際し、該鉱酸水溶液にマグネシウムイオンを含有させることを特徴とするニッケルとコバルトの分離方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが前記特許文献1に記載の分離方法について鋭意検討した結果、コバルトと、特にニッケルおよび銅とを分離することが難しく、コバルトのみを選択的に分離するためにはさらなる改良の余地があることが判明した。
【0007】
上記に鑑み、本発明の課題は、リチウムイオン電池廃棄物から、最終的にコバルトを選択的に高抽出率で抽出する溶媒抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は下記構成により解決し得る。すなわち本発明は、リチウムイオン電池廃棄物を湿式処理することにより得たものであり、少なくともコバルトおよびニッケルを含有する浸出液から、前記コバルトを選択的に抽出する溶媒抽出方法であって、アミンキレート骨格を有するハロゲン化物塩を前記浸出液に添加する工程Aと、抽出剤としてネオデカン酸を使用することにより、前記浸出液から前記コバルトを選択的に抽出する工程Bとを有する溶媒抽出方法(1)に関する。
【0009】
上記溶媒抽出方法(1)において、前記工程Aが前記ハロゲン化物塩を前記浸出液に添加することにより、前処理済浸出液を得る前処理工程であり、前記工程Bが抽出剤として前記ネオデカン酸を使用することにより、前記前処理済浸出液から前記コバルトを選択的に抽出する抽出工程であり、前記前処理工程を前記抽出工程よりも先に実施する溶媒抽出方法(2)が好ましい。
【0010】
上記溶媒抽出方法(1)において、前記工程Bが抽出剤として前記ネオデカン酸を使用することにより、前記浸出液から抽出液を得る抽出工程であり、前記工程Aが前記ハロゲン化物塩を前記抽出液に添加するスクラビング工程であり、前記抽出工程を前記スクラビング工程よりも先に実施する溶媒抽出方法(3)が好ましい。
【0011】
上記溶媒抽出方法(1)~(3)いずれかにおいて、前記ハロゲン化物塩が、塩酸塩である溶媒抽出方法(4)が好ましい。
【0012】
上記溶媒抽出方法(1)~(4)いずれかにおいて、前記浸出液が銅を含有するものであり、前記抽出工程において、少なくとも前記銅の一部を除去する溶媒抽出方法(5)が好ましい。
【0013】
上記溶媒抽出方法(1)~(5)いずれかにおいて、前記前処理工程において、前記浸出液のpHを7.0~9.0に調整する溶媒抽出方法(6)が好ましい。
【0014】
上記溶媒抽出方法(1)~(6)いずれかにおいて、前記ハロゲン化物塩に由来するハロゲン化物イオンの濃度が1.5M以上である溶媒抽出方法(7)が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、リチウムイオン電池廃棄物から、最終的にコバルトを選択的に抽出する溶媒抽出方法に関し、少なくともコバルトおよびニッケルを含有する浸出液から、最終的にコバルトを選択的に高抽出率で抽出することができる。また、本発明では浸出液がさらに銅を含有する場合であっても、コバルトを選択的に高抽出率で抽出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、リチウムイオン電池廃棄物を湿式処理することにより得たものであり、少なくともコバルトおよびニッケルを含有する浸出液から、コバルトを選択的に抽出する溶媒抽出方法に関する。
【0017】
リチウムイオン電池廃棄物は、電気自動車や携帯電話・パソコンなどの種々の機器で使用されるリチウムイオン電池の廃棄物である。リチウムイオン電池は通常、コバルト酸リチウムなどを主活物質として有する正極、特殊カーボンを主活物質とする負極、セパレータなどが電解液を含んだ状態で積層または渦巻き状に巻回され、さらにアルミニウムなどの外装材の中に配置されている。
【0018】
リチウムイオン電池廃棄物は、湿式処理工程前に通常、焙焼、破砕などの前処理が施される。焙焼処理では、リチウムイオン電池を例えば500~1000℃の範囲で数時間加熱保持される。加熱保持する際は、炉内で行っても大気中で行ってもよい。破砕処理では、サンプルミルやハンマーミル、ハンマークラッシャーなどの粉砕機が用いられる。本発明においては、必要に応じて湿式処理工程前に焙焼、破砕以外の前処理を実施してもよい。例えば、焙焼・粉砕などの前処理を経て、リチウムイオン電池廃棄物を微粉末状のリチウムイオン電池粉とした後、例えばイオン交換水などと接触させることにより、リチウムイオン電池粉から一定量のリチウムを回収してもよい。
【0019】
リチウムイオン電池廃棄物は、リチウム、銅、コバルト、ニッケル、鉄、アルミニウム、マンガンなどを含有する。リチウムイオン電池廃棄物中に含まれる各金属の濃度は、例えば以下の方法により測定可能である。具体的には、焙焼・粉砕などの前処理を経て、リチウムイオン電池廃棄物を微粉末状のリチウムイオン電池粉とした後、例えば王水(塩酸/硝酸=3/1溶液)中にリチウムイオン電池粉を添加することで、リチウム、銅、コバルト、ニッケル、鉄、アルミニウム、マンガンなどが溶解した浸出液を得る。浸出液は、リチウムイオン電池粉を王水などの酸性溶液で浸出したものが好ましい。王水添加後の浸出液のpHとしては、例えば0.0~1.0が好ましい。浸出液を得る条件としては、例えば王水50.0~500.0ml当たりリチウムイオン電池粉を1.0~10.0g加え、25~80℃で1~72時間、250~1500rpmの攪拌速度で浸出する条件が例示可能である。浸出後に吸引ろ過機などを用いて固液分離を行い、得られたろ液中の各金属の濃度を測定する。浸出液中の各金属の濃度は、例えばICP発光分光分析装置(Inductively coupled plasma optical emission spectrometer;ICP-OES)などにより測定可能である。
【0020】
本発明において、浸出液を得る条件は特に限定されるものではなく、例えば以下の湿式処理方法により得ることができる。
【0021】
(湿式処理方法)
湿式処理方法は、例えば以下に示す湿式処理工程と固液分離工程とを備えてもよい。
【0022】
(湿式処理工程)
湿式処理工程では、リチウムイオン電池廃棄物に対し、アンモニアおよびその塩、ならびにアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(1)を添加し、混合することにより、少なくともコバルトおよびニッケルが溶解した浸出液を得る。
【0023】
化合物(1)は、アンモニアおよびその塩、ならびにアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。アンモニアの塩(アンモニウム塩)としては例えば、塩化アンモニウムなどが挙げられる。アミン化合物としては例えば、エチレンジアミン、トリス(2-エチルアミノ)アミン、イミダゾール、2-ピペラジン、トリエタノールアミン、L-リシン、アミノグアニジンなどが挙げられる。アミン化合物の塩としては例えば、エチレンジアミン二塩酸塩、2-ピペラジン塩酸塩、2-ピペラジン塩酸塩・1水和物、システアミン塩酸塩、トリエタノールアミン塩酸塩、L-リシン塩酸塩、アミノグアニジン塩酸塩などが挙げられる。アンモニアおよびその塩、ならびにアミン化合物およびその塩は単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。例えば、アンモニウム塩とアンモニアとを組み合わせてもよく、アミン化合物の塩とアンモニアとを組み合わせてもよい。より具体的には例えば、塩化アンモニウムとアンモニアとを組み合わせてもよく、2-ピペラジン塩酸塩・1水和物とアンモニアとを組み合わせてもよく、システアミン塩酸塩とアンモニアとを組み合わせてもよく、エチレンジアミン二塩酸塩とアンモニアとを組み合わせてもよく、トリエタノールアミン塩酸塩とアンモニアとを組み合わせてもよく、L-リシン塩酸塩とアンモニアとを組み合わせてもよく、アミノグアニジン塩酸塩とアンモニアとを組み合わせてもよい。
【0024】
化合物(1)の中でも、アミノ基を有するアミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好ましく、アミノ基を2以上有するキレート系アミン化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物がさらに好ましい。具体的には例えばエチレンジアミン、トリス(2-エチルアミノ)アミン、2-ピペラジン塩酸塩・1水和物、エチレンジアミン二塩酸塩、L-リシン塩酸塩を使用した場合、ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率をより高められるため好ましい。
【0025】
ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率を高めるために、湿式処理工程では、リチウムイオン電池廃棄物に対し、化合物(1)に加えて、酸を添加し、混合することにより、コバルトおよび前記ニッケル以外の金属の少なくとも一部を除去することが好ましく、酸として、モノカルボン酸系有機酸および無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(2)を添加し、混合することにより、コバルトおよびニッケル以外の金属の少なくとも一部を除去することがさらに好ましい。モノカルボン酸系有機酸としては例えば、ギ酸、酢酸などが例示可能である。また、無機酸としては例えば、塩酸、臭化水素酸などが例示可能である。
【0026】
湿式処理工程において、化合物(1)に加えて化合物(2)を添加する場合、化合物(2):化合物(1)をモル比で1:1~1:6にすることが好ましく、1:1~1:2にすることがより好ましい。かかる範囲に設定することにより、ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率をさらに高めることができる。
【0027】
ニッケルおよびコバルトなどの所望の有価金属の回収率を高めるために、湿式処理工程において、化合物(1)のみを添加した後の浸出液、あるいは化合物(1)および化合物(2)を添加した後の浸出液のpHを3.0~12.5に調整することが好ましく、9.5~11.0に調整することがより好ましい。また、浸出液の温度を25~80℃に設定し、8~24時間、500~1000rpmの攪拌速度で攪拌することが好ましい。
【0028】
(固液分離工程)
湿式処理工程で得られた浸出液から、溶解しない金属の少なくとも一部を除去する除去方法としては、例えば少なくともコバルトおよびニッケルが溶解した浸出液と、除去対象である例えばアルミニウムや鉄の沈殿物とを固液分離により分別する方法が挙げられる。
【0029】
本発明に係る溶媒抽出方法では、例えば上記湿式処理方法などを利用して得られた浸出液から、コバルトを選択的に抽出する。なお、本発明に係る溶媒抽出方法で使用する浸出液は、上記湿式処理方法以外の当業者に公知の処理方法を実施することにより得られたものであってもよく、少なくともコバルトおよびニッケルを含有する酸性水溶液、中性水溶液およびアルカリ性溶液、より好適には、少なくともコバルト、ニッケルおよび銅を含有する酸性水溶液、中性水溶液およびアルカリ性溶液であってもよい。本発明に係る溶媒抽出方法では、コバルトとニッケルとを分離し、コバルトを選択的に高抽出率で抽出できる点に特徴があるが、コバルトとニッケルだけでなくコバルトと銅とを分離し、コバルトを選択的に高抽出率で抽出することも可能である。このため、本発明に係る溶媒抽出方法は、浸出液が銅を含有するものであり、抽出工程において、少なくとも銅の一部を除去する方法としても優れた効果を奏する。
【0030】
本発明に係る溶媒抽出方法は、少なくともアミンキレート骨格を有するハロゲン化物塩を前記浸出液に添加する工程Aと、抽出剤としてネオデカン酸を使用することにより、前記浸出液から前記コバルトを選択的に抽出する工程Bとを有する。本発明に係る溶媒抽出方法は、例えば前記工程Aが前記ハロゲン化物塩を前記浸出液に添加することにより、前処理済浸出液を得る前処理工程であり、前記工程Bが抽出剤として前記ネオデカン酸を使用することにより、前記前処理済浸出液から前記コバルトを選択的に抽出する抽出工程であり、前記前処理工程を前記抽出工程よりも先に実施する溶媒抽出方法Aであってもよく、前記工程Bが抽出剤として前記ネオデカン酸を使用することにより、前記浸出液から抽出液を得る抽出工程であり、前記工程Aが前記ハロゲン化物塩を前記抽出液に添加するスクラビング工程であり、前記抽出工程を前記スクラビング工程よりも先に実施する溶媒抽出方法Bであってもよい。まず、溶媒抽出方法Aについて以下に説明する。
【0031】
[溶媒抽出方法A]
溶媒抽出方法Aは、リチウムイオン電池廃棄物を湿式処理することにより得たものであり、少なくともコバルトおよびニッケルを含有する浸出液から、前記コバルトを選択的に抽出する溶媒抽出方法であって、アミンキレート骨格を有するハロゲン化物塩を前記浸出液に添加することにより、前処理済浸出液を得る前処理工程と、抽出剤としてネオデカン酸を使用することにより、前記前処理済浸出液から前記コバルトを選択的に抽出する抽出工程とを有する。溶媒抽出方法Aでは、前記前処理工程を前記抽出工程よりも先に実施する。溶媒抽出方法Aにおける前処理工程および抽出工程について、以下に説明する。
【0032】
(前処理工程)
前処理工程では、アミノ基を少なくとも1つ以上有するハロゲン化物塩を浸出液に添加することにより、前処理済浸出液を得る。ハロゲン化物塩は、アミノ基を少なくとも1つ以上有する化合物であるが、アミノ基を2つ以上有し、アミンキレート骨格を有する化合物であることがより好ましい。また、ハロゲン化物塩は、塩酸塩であることが好ましい。本発明において使用可能なハロゲン化物塩としては、例えば塩化アンモニウム、ピペラジン二塩酸塩・1水和物、アミノグアニジン塩酸塩、エチレンジアミン二塩酸塩などが挙げられる。これらの中でも、アミンキレート骨格を有する化合物であって、かつ塩酸塩であるエチレンジアミン二塩酸塩が特に好ましい。
【0033】
浸出液がアルカリ性である場合は、塩酸水などの酸を添加することにより、前処理済浸出液のpHを、7.0~9.0に調整することが好ましい。このような条件に調整することにより、最終的にコバルトをより選択的にかつ高抽出率で抽出することができるため好ましい。
【0034】
前処理工程において、ハロゲン化物塩を浸出液に添加する際の濃度は、1.0~20.0質量%であることが好ましく、10.0~15.0質量%であることがより好ましい。このような条件に調整することにより、最終的にコバルトをより選択的にかつ高抽出率で抽出することができるため好ましい。
【0035】
(抽出工程)
抽出工程では、抽出剤としてネオデカン酸を使用することにより、前処理済浸出液からコバルトを選択的に抽出する。抽出剤として使用するネオデカン酸は、シクロヘキサンやベンゼンなどの希釈剤で希釈して使用することが好ましい。ネオデカン酸を希釈する場合、ネオデカン酸と希釈剤との割合は、ネオデカン酸が10~30体積%であり、希釈剤が70~90体積%であることが好ましい。
【0036】
抽出工程において、ハロゲン化物イオン塩に由来するハロゲン化物イオンの濃度は、1.5M以上に設定することが好ましく、1.5M以上に設定することが好ましい。このように設定することにより、最終的にコバルトをより選択的にかつ高抽出率で抽出することができるため好ましい。
【0037】
抽出工程の後、有機相にコバルトが移動し、水相にはニッケルおよび銅が残存する。必要に応じて逆抽出工程を実施することにより、有機相から水相にコバルトが移動する。逆抽出工程において、逆抽出剤としては硫酸水溶液を用いることができる。逆抽出剤として硫酸水溶液を使用する場合の濃度は、5.0~20.0質量%が例示可能である。本発明に係る溶媒抽出方法は、コバルトおよびニッケルからコバルトを選択的に分離することが可能であり、コバルト、ニッケルおよび銅からでもコバルトを選択的に分離することができる。したがって、本発明はリチウムイオン電池廃棄物からコバルトを回収する際の溶媒抽出方法として特に有用である。
【0038】
[溶媒抽出方法B]
つぎに、リチウムイオン電池廃棄物を湿式処理することにより得たものであり、少なくともコバルトおよびニッケルを含有する浸出液から、前記コバルトを選択的に抽出する溶媒抽出方法であって、アミンキレート骨格を有するハロゲン化物塩を前記浸出液に添加する工程Aと、抽出剤としてネオデカン酸を使用することにより、前記浸出液から前記コバルトを選択的に抽出する工程Bとを有し、前記工程Bが抽出剤として前記ネオデカン酸を使用することにより、前記浸出液から抽出液を得る抽出工程であり、前記工程Aが前記ハロゲン化物塩を前記抽出液に添加するスクラビング工程であり、前記抽出工程を前記スクラビング工程よりも先に実施する溶媒抽出方法Bについて以下に説明する。
【0039】
(抽出工程)
抽出工程では、抽出剤としてネオデカン酸を使用することにより、浸出液からコバルトを選択的に抽出する。抽出剤として使用するネオデカン酸は、シクロヘキサンやベンゼンなどの希釈剤で希釈して使用することが好ましい。ネオデカン酸を希釈する場合、ネオデカン酸と希釈剤との割合は、ネオデカン酸が10~30体積%であり、希釈剤が70~90体積%であることが好ましい。浸出液がアルカリ性である場合は、塩酸水などの酸を添加することにより、浸出液のpHを、7.0~9.0に調整することが好ましい。このような条件に調整することにより、最終的にコバルトをより選択的にかつ高抽出率で抽出することができるため好ましい。
【0040】
(スクラビング工程)
スクラビング工程では、アミノ基を少なくとも1つ以上有するハロゲン化物塩を抽出液に添加する。ハロゲン化物塩は、アミノ基を少なくとも1つ以上有する化合物であるが、アミノ基を2つ以上有し、アミンキレート骨格を有する化合物であることがより好ましい。また、ハロゲン化物塩は、塩酸塩であることが好ましい。本発明において使用可能なハロゲン化物塩としては、例えば塩化アンモニウム、ピペラジン二塩酸塩・1水和物、アミノグアニジン塩酸塩、エチレンジアミン二塩酸塩などが挙げられる。これらの中でも、アミンキレート骨格を有する化合物であって、かつ塩酸塩であるエチレンジアミン二塩酸塩が特に好ましい。
【0041】
スクラビング工程に使用する溶液のpHは3.5~4.0に調整することが好ましい。このような条件に調整することにより、最終的にコバルトをより選択的に抽出することができるため好ましい。
【0042】
スクラビング工程において、ハロゲン化物塩を浸出液に添加する際の濃度は、3.0質量%以上であることが好ましい。このような条件に調整することにより、最終的にコバルトをより選択的にかつ高抽出率で抽出することができるため好ましい。
【0043】
スクラビング工程において、ハロゲン化物イオン塩に由来するハロゲン化物イオン濃度は、1.5M以上に設定することが好ましい。このように設定することにより、最終的にコバルトをより選択的にかつ高抽出率で抽出できることができるため好ましい。
【0044】
スクラビング工程の後、有機相にコバルトが残存し、水相にニッケルおよび銅が移動する。必要に応じて逆抽出工程を実施することにより、有機相から水相にコバルトが移動する。逆抽出工程において、逆抽出剤としては硫酸水溶液を用いることができる。逆抽出剤として硫酸水溶液を使用する場合の濃度は、5.0~20.0質量%が例示可能である。本発明に係る溶媒抽出方法は、コバルトおよびニッケルからコバルトを選択的に分離することが可能であり、コバルト、ニッケルおよび銅からでもコバルトを選択的に分離することができる。したがって、本発明はリチウムイオン電池廃棄物からコバルトを回収する際の溶媒抽出方法として特に有用である。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を説明するが、かかる説明に本発明は何ら限定されるものではない。
【0046】
(実施態様1)
実施態様1では、溶媒抽出方法Aに基づき実施した。つまり、工程Aがハロゲン化物塩を浸出液に添加することにより、前処理済浸出液を得る前処理工程であり、工程Bが抽出剤としてネオデカン酸を使用することにより、前処理済浸出液からコバルトを選択的に抽出する抽出工程であり、前処理工程を抽出工程よりも先に実施した。具体的な実施態様は以下のとおりである。
【0047】
(浸出液の製造例)
リチウムイオン電池廃棄物に対し、焙焼、破砕処理を施すことにより得られたリチウムイオン電池粉を湿式処理することにより、少なくともコバルト、ニッケルおよび銅が溶解した浸出液を得た。表1に浸出液の含有金属濃度を示す。
【0048】
【0049】
実施例1
(前処理工程)
上記で得た浸出液に対し、ハロゲン化物塩としての塩化アンモニウムを10質量%となるように添加し、35%の塩酸水でpHを7.0~9.0、塩化物イオン濃度を1.5M以上になるように調整することにより、前処理済浸出液を得た。
【0050】
(抽出工程)
上記で得た前処理済浸出液(以下、「水相」ともいう)50ml、抽出剤としてのネオデカン酸/シクロヘキサン=30/70(体積比)(以下、「有機相」ともいう)50mlを順次、分液漏斗に加え、体積比が1:1の状態で攪拌した。攪拌後、水相を取り出し、新たに同量の有機相を加え、再攪拌した。得られた有機相を最初に得られた有機相と混合し、合計体積100mlの有機相を得た。
【0051】
(逆抽出工程)
上記で得られた有機相100ml、6.25%硫酸水100ml(以下、「水相2」ともいう)を体積比が1:1となるように順次加え、攪拌した。撹拌後、水相2を取り出し、ICP発光分光分析装置(Inductively coupled plasma optical emission spectrometer;ICP-OES)にて水相2中の金属濃度を測定した。
【0052】
水相2中、コバルトが選択的に抽出されており、かつニッケルおよび銅の抽出率が低いほど、コバルトが選択的に高抽出率で抽出できていることを意味する。表2中にコバルト、ニッケルおよび銅の抽出率の結果を示す。抽出率の評価基準は以下のとおりである。
【0053】
・Coについて
◎:抽出率90%以上
〇:抽出率80%~90%
△:抽出率70%~80%
×:抽出率70%以下
・Niについて
◎:抽出率10%以下
〇:抽出率10%~20%
△:抽出率20~30
×:抽出率30%以上
・Cuについて
◎:抽出率10%以下
〇:抽出率10%~20%
△:抽出率20~30%
×:抽出率30%以上
【0054】
実施例2~4および比較例1~2
ハロゲン化物塩および抽出剤を表2に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により溶媒抽出方法を実施した。
【0055】
【0056】
表2の結果から、実施例1~4ではコバルトと銅とを極めて効率よく分離できていることが分かる。また、コバルトとニッケルとについても、効率よく分離できていることが分かる。特に、ハロゲン化物塩としてアミンキレート骨格を有する化合物であるピペラジン二塩酸塩・1水和物、アミノグアニジン、エチレンジアミン二塩酸塩を使用した実施例2~4では、コバルトと銅とを特に効率よく分離できていることが分かる。
【0057】
(実施態様2)
実施態様2では、溶媒抽出方法Bに基づき実施した。つまり、工程Bが抽出剤としてネオデカン酸を使用することにより、浸出液から抽出液を得る抽出工程であり、工程Aがハロゲン化物塩を抽出液に添加するスクラビング工程であり、抽出工程をスクラビング工程よりも先に実施した。具体的な実施態様は以下のとおりである。
【0058】
(浸出液の製造例)
リチウムイオン電池廃棄物に対し、焙焼、破砕処理を施すことにより得られたリチウムイオン電池粉を湿式処理することにより、表1に記載の含有金属濃度である浸出液を得た。
【0059】
実施例5
(抽出工程)
上記で得た浸出液に対して、35%の塩酸水でpHを7.0~9.0に調整した浸出液(以下、「水相」ともいう)50ml、抽出剤としてのネオデカン酸/シクロヘキサン=30/70(体積比)(以下、「有機相」ともいう)50mlを順次、分液漏斗に加え、体積比が1:1の状態で攪拌した。攪拌後、水相を取り出し、新たに同量の有機相を加え、再攪拌した。得られた有機相を最初に得られた有機相と混合し、合計体積100mlの有機相を得た。
【0060】
(スクラビング工程)
ピペラジン二塩酸塩・1水和物3質量%の水溶液100ml、上記で得た有機相100mlを体積比が1:1となるように順次加え、攪拌し、有機相100mlを回収した。
【0061】
(逆抽出工程)
上記で得られた有機相100ml、6.25%硫酸水100ml(以下、「水相2」ともいう)を体積比が1:1となるように順次加え、攪拌した。撹拌後、水相2を取り出し、ICP発光分光分析装置(Inductively coupled plasma optical emission spectrometer;ICP-OES)にて水相2中の金属濃度を測定した。
【0062】
水相2中、コバルトが選択的に抽出されており、かつニッケルおよび銅の抽出率が低いほど、コバルトが選択的に高抽出率で抽出できていることを意味する。表3中にコバルト、ニッケルおよび銅の抽出率の結果を示す。抽出率の評価基準は以下のとおりである。
【0063】
・Coについて
◎:抽出率90%以上
〇:抽出率80%~90%
△:抽出率70%~80%
×:抽出率70%以下
・Niについて
◎:抽出率10%以下
〇:抽出率10%~20%
△:抽出率20~30
×:抽出率30%以上
・Cuについて
◎:抽出率10%以下
〇:抽出率10%~20%
△:抽出率20~30%
×:抽出率30%以上
【0064】
実施例6~8および比較例3~4
ハロゲン化物塩を表3に記載のものに変更したこと以外は、実施例5と同様の方法により溶媒抽出方法を実施した。
【0065】
【0066】
表3の結果から、実施例5~8ではコバルトと銅とを極めて効率よく分離できていることが分かる。特に、ハロゲン化物塩としてピペラジン二塩酸塩・1水和物、エチレンジアミン二塩酸塩を使用した実施例5~8では、コバルトとニッケルとを特に効率よく分離できていることが分かる。
【要約】
【課題】リチウムイオン電池廃棄物から、最終的にコバルトを選択的に高抽出率で抽出する溶媒抽出方法を提供すること。
【解決手段】リチウムイオン電池廃棄物を湿式処理することにより得たものであり、少なくともコバルトおよびニッケルを含有する浸出液から、コバルトを選択的に抽出する溶媒抽出方法であって、アミンキレート骨格を有するハロゲン化物塩を浸出液に添加する工程Aと、抽出剤としてネオデカン酸を使用することにより、浸出液からコバルトを選択的に抽出する工程Bとを有する溶媒抽出方法。
【選択図】なし