(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】多機能SMA用アスファルト混合物
(51)【国際特許分類】
C08L 95/00 20060101AFI20240823BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240823BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240823BHJP
E01C 7/18 20060101ALI20240823BHJP
E01C 7/26 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C08L95/00
C08L67/00
C08K3/26
E01C7/18
E01C7/26
(21)【出願番号】P 2020098772
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2019105494
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 良一
(72)【発明者】
【氏名】秋野 雄亮
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/037771(WO,A1)
【文献】特開平04-008766(JP,A)
【文献】特開2006-096799(JP,A)
【文献】国際公開第2017/220421(WO,A1)
【文献】特開2008-144556(JP,A)
【文献】特開2003-147709(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0061236(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
E01C 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材と、ポリエステルと、アスファルトと、炭酸カルシウムとを含有する
多機能SMA用アスファルト混合物であって、アスファルト混合物中のアスファルトの含有量が、骨材及び炭酸カルシウムの合計100質量部に対し4.5質量部以上
7.5質量部以下であり、骨材中の粒径2.36mm以上の粗骨材の比率が、70質量%以上であ
り、
多機能SMAのアスファルト混合物中のポリエステルの比率が、アスファルト100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下であり、
ポリエステルが、90℃以上140℃以下の軟化点、及び40℃以上59.8℃以下のガラス転移点を有する非晶質ポリエステル、及び直鎖の脂肪族アルコール由来の構成単位とカルボン酸由来の構成単位とを含む結晶性ポリエステルからなる群より選択される少なくとも1種である、
多機能SMA用アスファルト混合物。
【請求項2】
前記アスファルト混合物中の炭酸カルシウムの含有量が、骨材及び炭酸カルシウムの合計100質量%中、1質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載の
多機能SMA用アスファルト混合物。
【請求項3】
前記アスファルトが、ストレートアスファルト及びポリマー改質アスファルトからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の
多機能SMA用アスファルト混合物。
【請求項4】
前記ポリエステルが、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を60モル%以上含むアルコール成分由来の構成単位と、カルボン酸成分由来の構成単位とを含む非晶質ポリエステルである、請求項1~
3のいずれか1つに記載の
多機能SMA用アスファルト混合物。
【請求項5】
前記ポリエステルが、2mgKOH/g以上30mgKOH/g以下の酸価を有する非晶質ポリエステルである、請求項1~
4のいずれか1つに記載の
多機能SMA用アスファルト混合物。
【請求項6】
前記ポリエステルが、1000以上50000以下の重量平均分子量Mwを有する非晶質ポリエステルである、請求項1~
5のいずれか1つに記載の
多機能SMA用アスファルト混合物。
【請求項7】
前記ポリエステルが、65℃以上160℃以下の融点を有する結晶性ポリエステルである、請求項1~
3のいずれか1つに記載の
多機能SMA用アスファルト混合物。
【請求項8】
前記ポリエステルが、5mgKOH/g以上40mgKOH/g以下の酸価を有する結晶性ポリエステルである、請求項1~
3及び7のいずれか1つに記載のアスファルト混合物。
【請求項9】
前記ポリエステルが1000以上50000以下の重量平均分子量を有する結晶性ポリエステルである、請求項1~
3、7及び8のいずれかに記載の
多機能SMA用アスファルト混合物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1つに記載の
多機能SMA用アスファルト混合物で舗装された舗装体。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか1つに記載の
多機能SMA用アスファルト混合物によって道路を舗装する道路舗装の施工方法。
【請求項12】
前記
多機能SMA用アスファルト混合物を道路の基層に施工する、請求項
11に記載の道路舗装の施工方法。
【請求項13】
請求項1~
9のいずれかに記載の
多機能SMA用アスファルト混合物によって道路の表層を舗装し、道路表面の凍結を防止する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト混合物及びそれを用いた道路舗装の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車道や駐車場、貨物ヤード、歩道等の舗装には、敷設が比較的容易であり、舗装作業開始から交通開始までの時間が短くてすむことから、アスファルト混合物を用いるアスファルト舗装が行われている。このアスファルト舗装は、骨材をアスファルトで結合したアスファルト混合物によって路面が形成されているので、舗装道路は良好な硬度や耐久性を有している。
【0003】
砕石マスチックアスファルト(SMA)は、1960年代半ばにドイツで開発された耐摩耗用アスファルト混合物である。例えば、非特許文献1には、SMA配合において、植物繊維が配合されることが開示されている。当業界では植物繊維としてセルロースが用いられてきた。
【0004】
一般的な密粒配合では、骨材100質量部に対して5.5質量部程度のアスファルトが配合されており、かつ、骨材中の粒径2.36mm以上の粗骨材の比率が70質量%未満である。これに対して、SMAでは、骨材100質量部に対して6~7.5質量部程度のアスファルトが配合されており、かつ、骨材中の粒径2.36mm以上の粗骨材の比率が70質量%以上である。そして、骨材中、粗骨材同士の間隙に細砂や石粉が充填されている。SMA配合は密粒配合に比べてアスファルト量が多く、粗骨材量も多いため、アスファルトモルタルの分離(ダレ)が発生しやすい。すなわち、輸送時の振動によってアスファルトモルタルの分離が発生し、分離したアスファルトモルタルがダンプトラックの荷台に付着する。また、そのようなアスファルト合材を用いて施工すると、ブリージングや目詰まりムラが発生したり、骨材とアスファルトとの付着が弱まりアスファルト混合物のすべりや破損が発生したりする。
【0005】
このようなアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制するために、SMA配合において0.3質量部程度のセルロースを配合することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】徳光克也・吉武美智男編,「舗装技術の質疑応答 第11巻」,株式会社建設図書,2014年4月,pp.56~62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、セルロースはアスファルト合材中での混合性が悪く、ダマになりやすい。そのため、セルロースが組成物中に均一に分散せず、依然としてアスファルトモルタルの分離(ダレ)が発生しやすいという問題がある。また、セルロースの添加量を増加すればアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制できるが、本来粗骨材に付着すべきモルタルがセルロースに吸着してしまい、粗骨材に対するモルタルの付着性に劣る。
本発明は、砕石マスチックアスファルト(SMA)において、アスファルトモルタルの分離(ダレ)が抑制され、かつ、粗骨材に対するモルタルの付着性に優れるアスファルト混合物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の〔1〕~〔4〕に関する。
〔1〕骨材と、ポリエステルと、アスファルトと、炭酸カルシウムとを含有するアスファルト混合物であって、アスファルト混合物中のアスファルトの含有量が、骨材及び炭酸カルシウムの合計100質量部に対し4.5質量部以上10質量部以下であり、骨材中の粒径2.36mm以上の粗骨材の比率が、70質量%以上である、アスファルト混合物。
〔2〕上記〔1〕に記載のアスファルト混合物で舗装された舗装体。
〔3〕上記〔1〕に記載のアスファルト混合物によって道路を舗装する道路舗装の施工方法。
〔4〕上記〔1〕に記載のアスファルト混合物によって道路の表層を舗装し、道路表面の凍結を防止する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、砕石マスチックアスファルト(SMA)において、アスファルトモルタルの分離(ダレ)が抑制され、かつ、粗骨材に対するモルタルの付着性に優れるアスファルト混合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1のアスファルト混合物の外観写真である。
【
図2】
図2は、比較例5のアスファルト混合物の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[アスファルト混合物]
本発明のアスファルト混合物は、骨材と、ポリエステルと、アスファルトと、炭酸カルシウムとを含有するアスファルト混合物であって、アスファルト混合物中のアスファルトの含有量が、骨材及び炭酸カルシウムの合計100質量部に対し4.5質量部以上10質量部以下であり、骨材中の粒径2.36mm以上の粗骨材の比率が、70質量%以上である、アスファルト混合物である。本発明のアスファルト混合物は、舗装用として好適であり、特に道路舗装用として好適である。
本発明の別の態様は、骨材と、ポリエステルと、アスファルトと、炭酸カルシウムとを含有するアスファルト混合物であって、アスファルト混合物中のアスファルトの含有量が、骨材及び炭酸カルシウムの合計100質量部に対し6~10質量部である、アスファルト混合物である。
【0012】
本発明者らは、アスファルトの含有量が比較的多いSMA配合のアスファルト混合物において、ポリエステル及び炭酸カルシウムを含有させることによって、粗骨材に対するアスファルトモルタルの付着性を低下させることなくアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制できることを見出した。
【0013】
本発明の効果が得られる詳細な機構は不明であるが、一部は以下のように考えられる。すなわち、酸化ケイ素を主成分とする骨材や砂利は親水性であるためアスファルトとの親和性が悪いが、これに対し炭酸カルシウムはフィラーとして用いられることもあり、アスファルトとの親和性は良い。
これが、アスファルト含有量が多くかつ炭酸カルシウムを含むSMA配合においては、過剰分のアスファルトが炭酸カルシウムに吸着し、この凝集物を形成すると考えられる。この凝集物がアスファルト混合物中に留まることができず、アスファルトモルタルの分離(ダレ)が発生する原因となる。
これに対し、本発明のアスファルト混合物では、ポリエステルがアスファルトを改質し、骨材や砂利に対するアスファルトの親和性を向上させ、骨材や砂利に吸着し、材や砂同士をつなぐと考えられる。この骨材や砂同士をつなぐ効果により、アスファルト含有量が多くかつ炭酸カルシウムを含むSMA配合であっても、ダレの原因となるアスファルトと炭酸カルシウムの凝集物をとどまらせることができ、粗骨材に対するアスファルトモルタルの付着性を低下させることなくアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制すると推定される。
また、ポリエステル分子の末端の酸基の数が多い、即ちポリエステルの酸価が高いと、ダレ抑制効果が特に高い。酸基がフィラーである炭酸カルシウムと吸着し、その結果、アスファルトモルタルの粘度が高くなり、ダレ抑制効果が特に高くなると考えられる。
また、ポリエステルの分子量が低いとダレ抑制効果が特に高い。これは、分子量が小さいポリエステルは、アスファルト混合物の製造時に、他の成分と容易に混合されるためであると考えられる。
また、アルキル鎖を有するポリエステルは、ダレ抑制効果が特に高い。本発明のポリエステルの好ましい態様の1つである結晶性ポリエステルはアルキル鎖の含有量を大きくし、芳香環構造の含有量を小さくすることが可能であり、ダレ抑制効果が特に高い。アルキル鎖の含有量を大きいと、アスファルト中のマルテン成分との親和性が高くなるためと考えられる。
【0014】
本明細書における各種用語の定義等を以下に示す。
「アスファルト組成物」とは、アスファルト又はアスファルトと熱可塑性エラストマーとを含む組成物を意味し、例えば、後述の熱可塑性エラストマーで改質されたアスファルト(以下、「改質アスファルト」ともいう)を含む概念である。
ポリエステル中、「アルコール成分由来の構成単位」とは、アルコール成分の水酸基から水素原子を除いた構造を意味し、「カルボン酸成分由来の構成単位」とは、カルボン酸成分のカルボキシル基から水酸基を除いた構造を意味する。
「カルボン酸化合物」とは、そのカルボン酸のみならず、反応中に分解して酸を生成する無水物、及びカルボン酸のアルキルエステル(例えば、アルキル基の炭素数1以上3以下)も含む概念である。カルボン酸化合物がカルボン酸のアルキルエステルである場合、カルボン酸化合物の炭素数には、エステルのアルコール残基であるアルキル基の炭素数を算入しない。
樹脂が結晶性であるか非晶質であるかについては、結晶性指数により判定される。結晶性指数は、後述する実施例に記載の測定方法における、樹脂の軟化点と吸熱の最大ピーク温度との比(軟化点(℃)/吸熱の最大ピーク温度(℃))で定義される。結晶性樹脂とは、結晶性指数が0.6以上1.4以下のものである。非晶質樹脂とは、結晶性指数が0.6未満又は1.4超のものである。結晶性指数は、原料モノマーの種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。
【0015】
<骨材>
本発明のアスファルト混合物は、骨材を含有する。
骨材としては、例えば、砕石、玉石、砂利、砂、再生骨材、セラミックス等を任意に選択して用いることができる。
【0016】
本発明の適用対象であるSMA配合は、骨材中に粒径2.36mm以上の粗骨材を含む。骨材中の粒径2.36mm以上の粗骨材の比率は、粗骨材同士のかみ合わせを高め、流動化を抑制する観点から70質量%以上であり、好ましくは72質量%以上、より好ましくは75質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは87質量%以下である。
粗骨材としては、例えば、粒径範囲2.36mm以上4.75mm未満の7号砕石、粒径範囲4.75mm以上13.2mm未満の6号砕石、粒径範囲13.2mm以上19mm未満の5号砕石、粒径範囲19mm以上31.5mm未満の4号砕石が挙げられる。
骨材としては、粒径2.36mm未満の細骨材をさらに組み合わせて使用することができる。細骨材は、好ましくは粒径0.075mm以上2.36mm未満の細骨材である。細骨材としては、例えば、川砂、丘砂、山砂、海砂、砕砂、細砂、スクリーニングス、砕石ダスト、シリカサンド、人工砂、ガラスカレット、鋳物砂、再生骨材破砕砂が挙げられる。
上記の粒径はJIS A5001-2008に規定される値である。
これらの中でも、粗骨材と細骨材との組み合わせが好ましい。
【0017】
なお、SMA配合における骨材配合の一例として、日本国内の骨材配合としては、骨材のふるい目開き75μmが8~13%、300μmが10~20%、2.36mmが20~35%、4.75mmが20~50%、13.2mmが95~100%の通過質量百分率である骨材配合が挙げられる。また、米国の骨材配合としては、骨材のふるい目開き75μmが8~10%、300μmが12~15%、600μmが12~16%、2.36mmが16~24%、4.75mmが20~28%、9.5mmが75%以下、12.5mmが85~95%、19mmが100%の通過質量百分率である骨材配合が挙げられる。
【0018】
<炭酸カルシウム>
本発明のアスファルト混合物は、炭酸カルシウムを含有する。炭酸カルシウムは粉粒体であることが好ましい。具体的には、石灰石の粉末などが挙げられる。
炭酸カルシウムの平均粒径は、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、好ましくは0.001mm以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは0.075mm未満、より好ましくは0.05mm以下、更に好ましくは0.03mm以下、更に好ましくは0.02mm以下である。炭酸カルシウムの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定することができる。ここで、平均粒径とは、体積累積50%の平均粒径を意味する。
【0019】
〔炭酸カルシウム平均粒径の測定方法〕
炭酸カルシウムの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-950」)を用い、以下に示す条件で測定した値である。
・測定方法:フロー法
・分散媒:エタノール
・試料調製:2mg/100mL
・分散方法:撹拌、内蔵超音波1分
【0020】
骨材及び炭酸カルシウムの合計100質量%中の炭酸カルシウムの含有量としては、粗骨材間中にモルタルを保持する観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、一定の強度を維持する観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましく25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0021】
<アスファルト>
本発明のアスファルト混合物は、アスファルトを含有する。アスファルトとしては、種々のアスファルトが使用できる。例えば舗装用石油アスファルトであるストレートアスファルトの他、改質アスファルトが挙げられる。改質アスファルトとしては、ブローンアスファルト;熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂等の高分子材料で改質したアスファルト等が挙げられる。ストレートアスファルトとは、原油を常圧蒸留装置、減圧蒸留装置等にかけて得られる残留瀝青物質のことである。また、ブローンアスファルトとは、ストレートアスファルトと重質油との混合物を加熱し、その後空気を吹き込んで酸化させることによって得られるアスファルトを意味する。アスファルトは、ストレートアスファルト及びポリマー改質アスファルトからなる群から選択されることが好ましく、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点からは改質アスファルトがより好ましく、汎用性の観点からはストレートアスファルトがより好ましい。
【0022】
〔熱可塑性エラストマー〕
アスファルト組成物は、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。アスファルト組成物としては、熱可塑性エラストマーで改質されたストレートアスファルト(改質アスファルト)等が挙げられる。
【0023】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン/ブタジエンブロック共重合体(以下、単に「SB」ともいう)、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体(以下、単に「SBS」ともいう)、スチレン/ブタジエンランダム共重合体(以下、単に「SBR」ともいう)、スチレン/イソプレンブロック共重合体(以下、単に「SI」ともいう)、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体(以下、単に「SIS」ともいう)、スチレン/イソプレンランダム共重合体(以下、単に「SIR」ともいう)、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及びエチレン/アクリル酸エステル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
エチレン/アクリル酸エステル共重合体の市販品としては、例えば、「Elvaroy」(デュポン社製)が挙げられる。
【0024】
これらの熱可塑性エラストマーの中でも、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、スチレン/ブタジエンブロック共重合体、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、スチレン/ブタジエンランダム共重合体、スチレン/イソプレンブロック共重合体、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体、及びスチレン/イソプレンランダム共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、スチレン/ブタジエンランダム共重合体及びスチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0025】
アスファルト組成物中の熱可塑性エラストマーの含有量は、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、アスファルト組成物100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0026】
アスファルト組成物において、熱可塑性エラストマーの比率は、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、アスファルト100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは42質量部以下、より好ましくは25質量部以下、更に好ましくは11質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0027】
アスファルト組成物中におけるアスファルトの含有量は、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点とアスファルト性能を発揮する観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、ポリエステルを含有し、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
【0028】
本発明のアスファルト混合物中のアスファルトの含有量は、骨材と炭酸カルシウムの合計100質量部に対して、4.5質量部以上であり、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは5.5質量部以上であり、更に好ましくは6質量部以上、より更に好ましくは6.4質量部以上であり、そして、10質量部以下であることを要し、好ましくは9質量部以下、より好ましくは8質量部以下、更に好ましくは7.5質量部以下である。本発明のアスファルト混合物は、一般的なアスファルト混合物に比べてアスファルト含有量が多いSMA配合である。
【0029】
なお、従来の骨材とアスファルトを含むアスファルト混合物におけるアスファルトの配合割合については、通常、公益社団法人日本道路協会発行の「舗装設計施工指針」に記載されている「アスファルト組成物の配合設計」から求められる最適アスファルト量に準じて決定してもよい。ただし、「舗装設計施工指針」に記載の方法に限定する必要はなく、他の方法によって決定してもよい。
【0030】
<ポリエステル>
本発明のアスファルト混合物は、ポリエステルを含有する。ポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合物である。
ポリエステルとしては、非晶質ポリエステル及び結晶性ポリエステルが挙げられ、いずれもが、好ましい。
〔非晶質ポリエステル〕
非晶質ポリエステルは、前述の結晶性指数が0.6未満又は1.4超のポリエステルであれば特に限定されない。SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を60モル%以上含むアルコール成分由来の構成単位とカルボン酸成分由来の構成単位とを含む。
【0031】
(アルコール成分)
非晶質ポリエステルにおけるアルコール成分としては、例えばジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられる。ジオールとしては、脂肪族ジオール、芳香族ジオールが挙げられる。これらのアルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
アルコール成分は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を含み、より好ましくは式(I):
【0032】
【化1】
〔式中、OR
1及びR
1Oはアルキレンオキシドであり、R
1は炭素数2又は3のアルキレン基、x及びyはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示す正の数を示し、xとyの和は好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは16以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは4以下である。〕
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を含む。
【0033】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物としては、例えば、ビスフェノールA〔2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〕のプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物が挙げられる。これらのビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の使用量は、アスファルトへの溶融分散性を高め、かつSMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、アルコール成分100モル%中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは75モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下である。
【0035】
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールが挙げられる。
3価以上の多価アルコールは、例えば3価アルコールである。3価以上の多価アルコールとしては、例えばグリセリンが挙げられる。
【0036】
(カルボン酸成分)
非晶質ポリエステルにおけるカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物、3価以上6価以下の多価カルボン酸化合物が挙げられる。これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
脂肪族ジカルボン酸の主鎖の炭素数は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。
脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸、マロン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、炭素数1以上20以下のアルキル基若しくは炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸、又は、これらの無水物、これらのアルキルエステル(例えば、アルキル基の炭素数1以上3以下)が挙げられる。置換されたコハク酸としては、例えば、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸が挙げられる。以上の脂肪族ジカルボン酸化合物の中でも、フマル酸、マレイン酸及びアジピン酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アジピン酸がより好ましい。
【0038】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、又は、これらの無水物、これらのアルキルエステル(例えば、アルキル基の炭素数1以上3以下)が挙げられる。以上の芳香族ジカルボン酸化合物の中でも、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、イソフタル酸及びテレフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0039】
3価以上6価以下の多価カルボン酸は、好ましくは3価カルボン酸である。3価以上6価以下の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸が挙げられる。なお、多価カルボン酸を含む場合、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、アルコール成分には1価のアルコールが適宜含有されていてもよく、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が適宜含有されていてもよい。
【0040】
脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、非晶質ポリエステルの可撓性を上げて、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは10モル%以上であり、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは25モル%以下である。
【0041】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、アスファルトへの溶融分散性を高め、かつSMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、カルボン酸成分100モル%中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは75モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは99モル%以下、更に好ましくは95モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。
【0042】
(ポリエチレンテレフタレート由来の構成単位)
本発明に用いられる非晶質ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート由来のエチレングリコールに由来する構成単位及びポリエチレンテレフタレート由来のテレフタル酸に由来する構成単位を含むことができる。ポリエチレンテレフタレートは、上記ユニットの他にブタンジオールやイソフタル酸等の成分を少量含有してもよい。ポリエチレンテレフタレートは、回収されたポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
近年、廃プラスチックが環境に与える影響が問題となっており、廃プラスチックのリサイクルが検討されている。本発明では、ポリエチレンテレフタレートはボトルやフィルム等の製品として汎用されていることから、それらの製品として製造され、その後廃棄されたものを回収したポリエチレンテレフタレート(以下「回収PET」ともいう)が、環境問題及び価格の面から好ましく用いられる。なお、回収品は、トナーの性能や重合反応を妨げるような化合物を含有せず、ある程度の純度を有しているものであれば、その種類等は特に限定されない。
【0043】
なお、回収品の使用に際しては、取り扱いや分散及び分解等の容易性のため、フレーク状に粉砕されたもの、ペレット等が好適に用いられる。本発明に用いられる回収品の具体的な大きさとしては、反応効率の観点から、4mm2以上15mm2以下程度が好ましく、厚みは3mm以下程度が好ましい。
【0044】
(アルコール成分由来の構成単位に対するカルボン酸成分由来の構成単位のモル比)
アルコール成分由来の構成単位に対するカルボン酸成分由来の構成単位のモル比〔カルボン酸成分/アルコール成分〕は、酸価を調整しダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.1以下である。
【0045】
(非晶質ポリエステルの物性)
非晶質ポリエステルの軟化点は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上、更に好ましくは100℃以上であり、そして、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下、更に好ましくは125℃以下、更に好ましくは120℃以下、更に好ましくは115℃以下である。
【0046】
非晶質ポリエステルの酸価は、骨材への吸着を促進し、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは2mgKOH/g以上、より好ましくは3mgKOH/g以上、更に好ましくは4mgKOH/g以上であり、そして、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点及び舗装面の耐水性を高める観点から、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは20mgKOH/g以下、更に好ましくは18mgKOH/g以下である。
【0047】
非晶質ポリエステルの水酸基価は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは2mgKOH/g以上、更に好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは15mgKOH/g以上、更に好ましくは20mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは25mgKOH/g以下である。
【0048】
非晶質ポリエステルのガラス転移点は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点及び高温における耐流動性を向上させる観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
非晶質ポリエステルの重量平均分子量Mwは、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは1000以上、より好ましくは2000以上、更に好ましくは3000以上であり、そして、好ましくは50000以下、より好ましくは30000以下、更に好ましくは20000以下である。
【0049】
非晶質ポリエステルの軟化点、酸価、水酸基価及びガラス転移点は、実施例に記載の方法により測定することができる。なお、軟化点、酸価、水酸基価及びガラス転移点は、原料モノマー組成、分子量、触媒量又は反応条件により調整することができる。
【0050】
〔結晶性ポリエステル〕
結晶性ポリエステルは、前述の結晶性指数が0.6以上1.4以下のポリエステルであれば特に限定されない。
(アルコール成分)
結晶性ポリエステルにおけるアルコール成分としては、例えばジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられる。結晶性ポリエステルにおけるアルコール成分は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは直鎖脂肪族アルコール、より好ましくは直鎖脂肪族ジオール、更に好ましくはα,ω-直鎖脂肪族ジオールを含む。
直鎖の脂肪族アルコールの炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。
直鎖の脂肪族アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオールが挙げられる。これらの中でも、1,6-ヘキサンジオールが好ましい。これらの直鎖の脂肪族アルコールは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
直鎖の脂肪族アルコールの使用量は、アスファルトへの溶融分散性を高め、かつSMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、アルコール成分100モル%中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、更に好ましくは100モル%である。
【0052】
アルコール成分は、直鎖の脂肪族アルコールとは異なる他のアルコール成分をさらに含有していてもよい。他のアルコール成分としては、例えば、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の直鎖の脂肪族アルコール以外の脂肪族ジオール;ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物等の芳香族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。これらのアルコール成分は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0053】
(カルボン酸成分)
結晶性ポリエステルにおけるカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、3価以上6価以下の多価カルボン酸化合物が挙げられる。カルボン酸成分は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは脂肪族ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸、より好ましくは直鎖脂肪族ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸、更に好ましくは直鎖脂肪族ジカルボン酸を含む。これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
脂肪族ジカルボン酸の主鎖の炭素数は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、フマル酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸が挙げられる。これらの中でも、フマル酸、セバシン酸、ドデカン二酸、又はテトラデカン二酸が好ましく、セバシン酸がより好ましい。これらのカルボン酸成分は、1種又は2種以上を用いてもよい。
芳香族ジカルボン酸の炭素数は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは8以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸が挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸が好ましい。
【0054】
脂肪族ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸の使用量は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、カルボン酸成分中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、そして、100モル%以下である。
カルボン酸成分は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、さらに、脂肪族モノカルボン酸を含有することができる。
脂肪族モノカルボン酸の炭素数は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは8以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは16以上であり、そして、好ましくは24以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。
脂肪族モノカルボン酸としては、ステアリン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられ、これらのなかでは、ステアリン酸が好ましい。
脂肪族モノカルボン酸の使用量は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、カルボン酸成分中、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは1モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上であり、そして、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
カルボン酸成分は、上記のカルボン酸とは異なる他のカルボン酸成分をさらに含有していてもよい。他のカルボン酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸が挙げられる。これらのカルボン酸成分は、1種又は2種以上用いてもよい。
【0055】
(アルコール成分由来の構成単位に対するカルボン酸成分由来の構成単位のモル比)
結晶性ポリエステルのアルコール成分の水酸基に対するカルボン酸成分のカルボキシ基の当量比(COOH基/OH基)は、酸価を調整しダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下である。
【0056】
(結晶性ポリエステルの物性)
結晶性ポリエステルの軟化点は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは45℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、そして、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下、更に好ましくは160℃以下である。
結晶性ポリエステルの融点は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは65℃以上、より好ましくは66℃以上であり、そして、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下、更に好ましくは120℃以下である。
【0057】
結晶性ポリエステルの酸価は、骨材への吸着を促進し、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点及び舗装面の耐水性を高める観点から、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは35mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下である。
結晶性ポリエステルの重量平均分子量Mwは、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは1000以上、より好ましくは2000以上、更に好ましくは3000以上であり、そして、好ましくは50000以下、より好ましくは30000以下、更に好ましくは20000以下である。
【0058】
結晶性ポリエステルの軟化点、融点、酸価、水酸基価、実施例に記載の方法により測定することができる。なお、軟化点、酸価、水酸基価及びガラス転移点は、原料モノマー組成、分子量、触媒量又は反応条件により調整することができる。
【0059】
(ポリエステルの製造方法)
ポリエステルの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上述したアルコール成分及びカルボン酸成分を重縮合することにより製造することができる。
重縮合反応の温度は、特に限定されるものではないが、反応性を調整し、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、好ましくは160℃以上260℃以下である。
【0060】
本発明に用いられるポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート由来のエチレングリコールに由来する構成単位及びポリエチレンテレフタレート由来のテレフタル酸に由来する構成単位を含む非晶質ポリエステルである場合、その原料におけるポリエチレンテレフタレートの存在量は、ポリエチレンテレフタレート、アルコール成分及びカルボン酸成分の総量中、好ましくは5~80質量%、より好ましくは15~70質量%、更に好ましくは25~65質量%である。
【0061】
重縮合反応には、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)等のSn-C結合を有していない錫(II)化合物を触媒として、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは0.6質量部以下、用いてもよい。
重縮合反応には、触媒に加えて、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、没食子酸等のピロガロール化合物をエステル化触媒として、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上、そして、好ましくは0.15質量部以下、より好ましくは0.10質量部以下、更に好ましくは0.05質量部以下、用いてもよい。
重縮合反応には、触媒に加えて、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、ターシャルブチルカテコール等の重合禁止剤を、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.2質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下、用いてもよい。
【0062】
(ポリエステルの比率)
SMA舗装は水密性を高めるために用いられるが、道路の基層や表層に用いられ、表層の場合には表面を粗骨材のかみ合わせによるテクスチャを有し、内部は水密性が高い緻密な層を形成する多機能型SMA舗装にも用いられる。
SMA舗装を基層に適用する場合、表層は排水性舗装となり、基層側に水が排出され、基層には水が浸入しやすい課題がある。このためSMA配合のアスファルト混合物を基層に用いるためには、基層の水密性は非常に高いことが求められ、アスファルトモルタルを粗骨材間に隙間なく充填させることが望まれる。この場合、できる限りダレは少なくして、構造内にアスファルトモルタルを充填させる必要がある。
本発明のアスファルト混合物に含まれるポリエステルの比率は、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、アスファルト100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上であり、そして、作業性の観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下である。ただし、ポリエステル比率は、アスファルト混合物中のアスファルトの含有量に応じて決定される。
【0063】
なお、SMA舗装を道路の表層に適用する場合もある。SMA配合のアスファルト混合物を表層に用いる場合には多機能SMAが使用される。多機能SMAを用いて、ごく表面のアスファルトモルタルの分離(ダレ)を僅かに発生させて凹凸をつけることで、耐摩擦抵抗性を付与したり、凹凸の隙間に凍結防止剤等を保持しやすいようにさせたりする一方で、道路内部は水密性が高いようにモルタルを充填させる。
多機能SMAのアスファルト混合物に含まれるポリエステルの比率は、アスファルトモルタルの分離(ダレ)を僅かに発生させる観点から、アスファルト100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0064】
<添加剤>
本発明のアスファルト混合物には、上記の骨材、炭酸カルシウム、アスファルト及びポリエステルに加え、必要に応じて、従来、アスファルト混合物に慣用されている各種添加剤、例えば、造膜剤、増粘安定剤、乳化剤等を添加してもよい。
具体的には、鉱物質粉末、ガラス繊維等の充填剤や補強剤、鉱物質の骨材、ベンガラ、二酸化チタン等の顔料、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、低分子量ポリエチレンワックス等のワックス類、アゾジカルボンアミド等の発泡剤、アタクチックポリプロピレン、エチレン-エチルアクリレート共重合体等のポリオレフィン系又は低分子量のビニル芳香族系熱可塑性樹脂、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、イソプレン-イソブチレンゴム、ポリペンテナマーゴム、スチレン-ブタジエン系ブロック共重合体、スチレン-イソプレン系ブロック共重合体、水素化スチレン-ブタジエン系ブロック共重合体、水素化スチレン-イソプレン系ブロック共重合体等の合成ゴムが挙げられる。
これらの合計添加量は、アスファルト混合物全体に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である。
【0065】
[アスファルト混合物の製造方法]
アスファルト混合物の具体的な製造方法としては、従来のプラントミックス方式、プレミックス方式等といわれるアスファルト混合物の製造方法が挙げられる。いずれも加熱した骨材及び炭酸カルシウムにアスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)及びポリエステルを添加する方法である。添加方法は、例えば、アスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)及びポリエステルを予め溶解させたプレミックス方式、又はアスファルトに熱可塑性エラストマーを溶解させた改質アスファルトを骨材及び炭酸カルシウムに添加し、その後にポリエステルを投入するプラントミックス法が挙げられる。これらの中でも、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、プレミックス方式が好ましい。
より具体的には、アスファルト混合物の製造方法は、当該混合する工程において、好ましくは、
(i)加熱した骨材及び炭酸カルシウムに、アスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)を添加及び混合して混合物を得た後、ポリエステルを添加して、該混合物とポリエステルとを混合する、
(ii)加熱した骨材及び炭酸カルシウムに、アスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)及びポリエステルを同時に添加及び混合する、又は
(iii)加熱した骨材及び炭酸カルシウムに、事前に加熱混合したアスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)とポリエステルとの混合物を添加及び混合する。
これらの中でも、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、(i)の方法が好ましい。
【0066】
加熱した骨材及び炭酸カルシウムにアスファルト及びポリエステルを混合するときの温度は、アスファルトを軟化させ、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、好ましくは130℃以上、より好ましくは140℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下、更に好ましくは180℃以下である。
また、加熱した骨材及び炭酸カルシウムにアスファルト及びポリエステルを混合するときの時間は、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、好ましくは30秒間以上、より好ましくは1分間以上、更に好ましくは2分間以上、より更に好ましくは5分間以上であり、時間の上限は、特に限定されないが例えば約30分間程度である。
【0067】
上記(iii)の方法において、事前に加熱混合したアスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)とポリエステルとの混合物を調製する方法は特に限定されないが、アスファルトを加熱溶融し、ポリエステル及び必要に応じて他の添加剤を添加し、通常用いられている混合機にて、各成分が均一に分散するまで撹拌混合する工程を含むことが好ましい。通常用いられている混合機としては、ホモミキサー、ディゾルバー、パドルミキサー、リボンミキサー、スクリューミキサー、プラネタリーミキサー、真空逆流ミキサー、ロールミル、二軸押出機等が挙げられる。
【0068】
上記アスファルトとポリエステルとの混合温度は、アスファルト中にポリエステルを均一に分散させ、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは160℃以上、より更に好ましくは170℃以上であり、そして、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下、より更に好ましくは190℃以下である。
【0069】
また、アスファルトとポリエステルとの混合時間は、効率的にアスファルト中にポリエステルを均一に分散させ、SMA配合のアスファルト混合物におけるアスファルトモルタルの分離(ダレ)を抑制する観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1.0時間以上、より更に好ましくは1.5時間以上であり、そして、好ましくは10時間以下、より好ましくは7時間以下、更に好ましくは5時間以下、より更に好ましくは3時間以下である。
なお、アスファルトに対するポリエステルの好ましい含有量は、上述したとおりである。
【0070】
上記(iii)の方法において、アスファルトとポリエステルとの混合物は、水を実質的に含まない加熱アスファルト混合物として使用してもよく、また、上記アスファルト混合物に乳化剤や水を配合してアスファルト乳剤とし、これに骨材等を配合し、常温アスファルト混合物として使用してもよい。
【0071】
アスファルト混合物を加熱アスファルト混合物として使用する場合のアスファルト混合物の製造方法については、特に制限はなく、いかなる方法で製造してもよいが、通常、骨材とアスファルト組成物とを含むアスファルト混合物の製造方法に準じて行えばよい。
【0072】
[道路舗装の施工方法、舗装体、道路表面の凍結を防止する方法]
本発明のアスファルト混合物は、道路舗装用として好適である。本発明の道路舗装の施工方法は、好ましくは、本発明のアスファルト混合物を道路等に施工し、アスファルト舗装材層を形成する工程を有する。本発明のアスファルト混合物は、アスファルトモルタルの分離(ダレ)が抑制され、かつ、粗骨材に対するモルタルの付着性に優れるため、本発明のアスファルト混合物で舗装された舗装体は、骨材とアスファルトとの付着力が強く、良好な耐久性を有する。
【0073】
また、本発明の道路舗装の施工方法は、本発明のアスファルト混合物を道路の基層に施工する工程を有することが好ましい。特に、高速道路の基層に本発明のアスファルト混合物を施工することが好ましい。
【0074】
なお、道路舗装方法において、アスファルト混合物は、通常のアスファルト混合物と同様の施工機械編成で、同様の方法によって締固め施工すればよい。加熱アスファルト混合物として使用する場合のアスファルト混合物の締固め温度は、ダレ抑制とモルタルの付着性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは130℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは170℃以下である。
【0075】
また、本発明のアスファルト混合物は道路表面に凹凸を設ける構造を形成させることができるので、本発明のアスファルト混合物によって道路の表層を舗装することで、道路表面の凍結を防止することができる。
【実施例】
【0076】
各種物性については、以下の方法により、測定及び評価を行った。
なお、以下の実施例及び比較例において、特に断りのない限り、部及び%は質量基準である。
【0077】
(1)ポリエステルの酸価及び水酸基価
ポリエステルの酸価及び水酸基価は、JIS K0070:1992の方法に基づき測定した。ただし、測定溶媒のみJIS K0070:1992に規定のエタノールとエーテルとの混合溶媒から、アセトンとトルエンとの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0078】
(2)ポリエステルの軟化点
フローテスター「CFT-500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0079】
(3)ポリエステルの融点及びガラス転移点
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に昇温速度10℃/分で150℃まで昇温しながら測定した。ピーク面積が最大のピークの温度が、軟化点との差が20℃以内であれば融点とした。
吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移点とした。
【0080】
(4)ポリエステルの結晶性指数
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.02gをアルミパンに計量し、室温(20℃)から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次いで試料をそのままの温度で1分間維持し、その後、昇温速度10℃/分で180℃まで昇温しながら熱量を測定した。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を吸熱の最大ピーク温度とした。
[融点]/[吸熱の最大ピーク温度]により、結晶性指数を求めた。
【0081】
(5)非晶質ポリエステルの分子量測定
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により、非晶質ポリエステルの重量平均分子量(Mw)を求めた。
(i)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフランに、40℃で溶解させた。次いで、この溶液を孔径0.20μmのPTFEタイプメンブレンフィルター「DISMIC-25JP」(東洋濾紙(株)製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(ii)分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させた。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出した。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー(株)製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として作成したものを用いた。括弧内は分子量を示す。
測定装置:「HLC-8220GPC」(東ソー(株)製)
分析カラム:「TSKgel GMHXL」+「TSKgel G3000HXL」(東ソー(株)製)
【0082】
(6)結晶性ポリエステルの分子量測定方法
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により、結晶性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)を求めた。
(i)試料溶液の調製
濃度が0.1g/100mLになるように、樹脂(N)をクロロホルムに溶解させた。
ついで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター「FP-200」(住友電気工業株式会社製)を用いて濾過して不溶成分を除き、試料溶液とした。
(ii)分子量測定
下記装置を用いて、溶離液としてクロロホルムを、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定化させた。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行った。試料の分子量は、予め作製した検量線に基づき算出した。このときの検量線には、数種類の分子量が既知の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製;2.63×103、2.06×104、1.02×105、ジーエルサイエンス株式会社製;2.10×103、7.00×103、5.04×104)を標準試料として作成したものを用いた。
測定装置:「CO-8010」(東ソー株式会社製)
分析カラム:「Shodex(登録商標)GPC K-804L」(昭和電工株式会社
製)2本を直列で連結したものを用いた。
【0083】
製造例1、2(ポリエステル樹脂A及びB)
表1-1に示すポリエステルのアルコール成分と、テレフタル酸を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)20g、及び没食子酸2gを添加し、マントルヒーター中で3時間かけて235℃まで昇温を行い235℃到達後5時間保持した後8.0kPaにて1時間減圧反応を行った。その後、180℃まで冷却後、アジピン酸を投入し、210℃まで2時間かけて昇温後210℃で1時間保持し、8.0kPaにて減圧反応を行った後、表1-1に示す軟化点に達するまで反応を行い、非晶質ポリエステルである目的のポリエステル樹脂A、Bを得た。
【0084】
製造例3,4(ポリエステル樹脂C及びD)
表1-1に示すポリエステルのアルコール成分と、テレフタル酸を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)20g、及び没食子酸2gを添加し、マントルヒーター中で3時間かけて235℃まで昇温を行い235℃到達後7時間保持した。8.0kPaにて減圧反応を行い、表1-1に示す軟化点に達するまで反応を行い、非晶質ポリエステルである目的のポリエステル樹脂C及びDを得た。
【0085】
製造例5(ポリエステル樹脂E)
表1-1に示すポリエステルのアルコール成分、カルボン酸成分及びPET(ポリエチレンテレフタレート)を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にて表1-1に示す量のジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)及び没食子酸を添加し、マントルヒーター中で3時間かけて235℃まで昇温を行い235℃到達後5時間保持し、反応物からPET粒が目視で消失したことを確認後、8.0kPaにて減圧反応を行った後、表1-1に示す軟化点に達するまで反応を行い、目的のポリエステル樹脂Eを得た。
【0086】
【0087】
製造例6(ポリエステル樹脂F)
表1-2に示す原料モノマーを温度計、ステンレス製撹拌棒、脱水管、窒素導入管、熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にて140℃で6時間保持、さらに200℃まで6時間かけて昇温後、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)20g、及び没食子酸2gを加え、200℃にて1時間反応させた後、8.3kPaにて1時間減圧反応させて、結晶性ポリエステルである目的のポリエステル樹脂Fを得た。
【0088】
製造例7(ポリエステル樹脂G)
表1-2に示す原料モノマーを温度計、ステンレス製撹拌棒、脱水管、窒素導入管、熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、140℃で6時間保持、さらに200℃まで6時間かけて昇温後、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)20g、及びターシャルブチルカテコール2gを加え、200℃にて1時間反応させた後、8.3kPaにて1時間減圧反応させて、結晶性ポリエステルである目的のポリエステル樹脂Gを得た。
【0089】
【0090】
実施例で用いたアスファルトを以下に示す。
アスファルトA:改質II型アスファルト(日本 日進化成株式会社製「エポックファルトD」)
アスファルトB:ストレートアスファルト(メキシコ FEPSA社製)
また、実施例で用いた骨材及び炭酸カルシウムの配合(配合A及びB)を表2に示す。
【0091】
【0092】
実施例1
まず、耐熱用の受け皿の質量W0を測定した。180℃以上に加熱した配合A 100gを配合し、その容器に十分に加熱したアスファルトAを骨材に対して7質量%配合し、混合した。その後、更にポリエステルAをアスファルトに対して5質量%配合して混合し、アスファルト混合物を得た。得られたアスファルト混合物を耐熱用の受け皿に広げ、受け皿及び混合物の質量W1を測定した。
アスファルト混合物を載せた受け皿を180℃の乾燥機中で2時間保管した。保管後の受け皿を取り出し、受け皿を反転させ、アスファルト混合物を取り去った後、受け皿と受け皿に付着したアスファルトモルタルの質量W2を測定した。
【0093】
(アスファルト分離率の算出)
「舗装調査・試験法便覧(第3分冊)」の「B009 ダレ試験方法」に従い、下式によりアスファルト分離率を算出した。
アスファルト分離率(%)=〔(W2-W0)/(W1-W0)〕×100
【0094】
(モルタル付着性)
混合後のアスファルト混合物の粗骨材を観察し、粗骨材表面のモルタル付着性の評価を行った。粗骨材を取り出し、モルタルが十分に付着しているものを○、粗骨材にモルタルが付着していない状態を×として測定した。
【0095】
実施例2~19
実施例1において、骨材及び炭酸カルシウムの配合の種類、アスファルトの種類及び添加量、ポリエステルの種類及び添加量を表3に示したとおり変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト混合物を得た。そして、実施例1と同様にして、アスファルト分離率を算出した。
【0096】
比較例1
実施例1において、ポリエステルAを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト混合物を得た。そして、実施例1と同様にして、アスファルト分離率を算出した。
【0097】
比較例2~3及び8
比較例1において、アスファルトの添加量を表3に示したとおり変更したこと以外は比較例1と同様にして、アスファルト混合物を得た。そして、実施例1と同様にして、アスファルト分離率を算出した。
【0098】
比較例4
実施例1において、ポリエステルAを添加しない代わりにセルロース(アビセル社(ドイツ)製、商品名「トップセルP1004」)をアスファルト100質量部に対して0.3質量部配合したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト混合物を得た。そして、実施例1と同様にして、アスファルト分離率を算出した。
【0099】
比較例5~7
比較例4において、骨材及び炭酸カルシウムの配合の種類、アスファルトの添加量及びセルロースの添加量を表3に示したとおり変更したこと以外は比較例4と同様にして、アスファルト混合物を得た。そして、実施例1と同様にして、アスファルト分離率を算出した。
【0100】
【0101】
表3中、「PES」はポリエステルを示す。表3の結果から、骨材及び炭酸カルシウムの合計100質量部に対してアスファルト6.0~7.0質量部が配合されたSMA配合において、本発明のアスファルト混合物は、アスファルトモルタルの分離(ダレ)が抑制され、かつ、粗骨材に対するモルタルの付着性に優れることがわかる。
これに対し、ポリエステル及びセルロースを配合していない比較例1~3のアスファルト混合物では、アスファルト分離率が高く、アスファルトモルタルの分離(ダレ)が抑制できていない。また、アスファルト100質量部に対してセルロース0.3質量部を配合した比較例4、6及び7では、依然としてアスファルト分離率が高く、アスファルトモルタルの分離(ダレ)が抑制できていない。アスファルト100質量部に対するセルロースの添加量を1質量部に増加した比較例5では、アスファルト分離率は低下するものの、本来粗骨材に付着すべきモルタルがセルロースに吸着してしまい、粗骨材に対するモルタルの付着性に劣る。粗骨材に対するモルタルの付着性に劣ると、粗骨材剥離を引き起こすと考えられる。
アスファルトモルタルの分離(ダレ)について、肉眼観察を行った。
図1は、実施例1のアスファルト混合物の外観写真であり、
図2は、比較例5のアスファルト混合物の外観写真であり、それぞれアスファルト合材におけるモルタル付着の様子を示している。実施例1では粗骨材にモルタルがしっかりと付着しているが、比較例5では粗骨材全体に白っぽく、モルタルの付着状態が悪いのが観察される。