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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】面発光型量子カスケードレーザ
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/18 20210101AFI20240823BHJP
   H01S 5/12 20210101ALI20240823BHJP
   H01S 5/30 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H01S5/18
H01S5/12
H01S5/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020106268
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022002245
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-05-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】橋本 玲
(72)【発明者】
【氏名】角野 努
(72)【発明者】
【氏名】金子 桂
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真司
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-243963(JP,A)
【文献】特開2018-093022(JP,A)
【文献】特開2012-129497(JP,A)
【文献】特開2009-231773(JP,A)
【文献】国際公開第03/067724(WO,A1)
【文献】特開2010-114404(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109861078(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた半導体積層体のメサ部であって、キャリアのサブバンド間遷移により発光する発光層と、二次元回折格子を含むフォトニック結晶層とを有し、円柱状に設けられたメサ部と、
前記メサ部の側壁に設けられた反射膜と、
を備える面発光型量子カスケードレーザ。
【請求項2】
前記発光層が発する光に対する前記反射膜の反射率は40%以上である請求項1に記載の面発光型量子カスケードレーザ。
【請求項3】
前記反射膜は、金属膜である請求項1または2に記載の面発光型量子カスケードレーザ。
【請求項4】
前記金属膜は、金を含む請求項記載の面発光型量子カスケードレーザ。
【請求項5】
前記反射膜と連続して前記メサ部に設けられた電極と、
前記メサ部の前記側壁と、前記反射膜との間に設けられた絶縁膜と、
をさらに備える請求項またはに記載の面発光型量子カスケードレーザ。
【請求項6】
前記反射膜は、誘電体多層膜である請求項1または2に記載の面発光型量子カスケードレーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、面発光型量子カスケードレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
二次元回折格子を含むフォトニック結晶層を利用することで面発光可能な量子カスケードレーザが提案されている。このような面発光型量子カスケードレーザにおいて、製造上のばらつきなどから、フォトニック結晶層によって制御される発振波長が、発光層のゲインカーブのピーク波長からずれてしまうと、発振しきい値電流の増大をまねいてしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Applied Physics Letters 114,031102(2019)、「Room temperature surface emission on large-area photonic crystal quantum cascade lasers」、 Published Online:January 23,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、発振しきい値電流を低減することができる面発光型量子カスケードレーザを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、面発光型量子カスケードレーザは、基板と、前記基板上に設けられた半導体積層体のメサ部であって、キャリアのサブバンド間遷移により発光する発光層と、二次元回折格子を含むフォトニック結晶層とを有するメサ部と、前記メサ部の側壁に設けられた反射膜と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の面発光型量子カスケードレーザの模式断面図である。
図2】実施形態の面発光型量子カスケードレーザの模式平面図である。
図3】実施形態の面発光型量子カスケードレーザにおけるフォトニック結晶層の模式平面図である。
図4】(a)は実施形態の面発光型量子カスケードレーザの発振のゲインスペクトルを示す図であり、(b)は面発光型量子カスケードレーザの電流-光出力特性を示す図である。
図5】実施形態の面発光型量子カスケードレーザにおいて反射膜の他の例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照し、実施形態について説明する。なお、各図面中、同じ要素には同じ符号を付している。
【0008】
図1は、実施形態の面発光型量子カスケードレーザの模式断面図である。
【0009】
実施形態の面発光型量子カスケードレーザは、基板10と、半導体積層体のメサ部20と、第1電極31と、第2電極32と、反射膜51とを有する。
【0010】
基板10上に第1クラッド層11が設けられ、第1クラッド層11上にメサ部20が設けられている。メサ部20は、第1クラッド層11上に柱状に突出して設けられ、第1電極31および第2電極32を通じて発光層13に供給される電流の狭窄構造を構成している。
【0011】
図2(a)は、実施形態の面発光型量子カスケードレーザの光出射面側(図1の下面側)から見た模式平面図である。X方向およびY方向は、光出射面10aに平行な面内で互いに直交する2方向を表す。
【0012】
メサ部20は、4つの側壁20a、20b、20c、20dを有する四角柱状に設けられている。図2(a)に示す例では、メサ部20の上面または下面の形状は正方形である。
【0013】
図1に示すように、メサ部20は、第1クラッド層11上に設けられた第1ガイド層12と、第1ガイド層12上に設けられた発光層13と、発光層13上に設けられたフォトニック結晶層14と、フォトニック結晶層14上に設けられた第2クラッド層15とを有する。
【0014】
発光層13は、キャリアのサブバンド間遷移を生じさせる量子井戸構造を有する。例えば、発光層13は、シリコンがドープされたn型のIII-V族化合物半導体層を含み、電子のサブバンド間遷移により発光する。
【0015】
第1クラッド層11の屈折率および第2クラッド層15の屈折率は、第1ガイド層12の屈折率、発光層13の屈折率、およびフォトニック結晶層14の屈折率よりも低い。
【0016】
フォトニック結晶層14は、二次元回折格子を含む。発光層13が発した光は、二次元回折格子により、発光層13の表面に沿った方向に共振するとともに、モードが選択され、発光層13の表面に対して概ね垂直な方向に放出される。概ね垂直な方向とは、発光層13の表面に対する角度が81°以上99°以下の方向を表す。
【0017】
図3は、フォトニック結晶層14の模式平面図である。
【0018】
フォトニック結晶層14は、二次元回折格子として、例えば周期的に配置された複数のピット14aを有する。ピット14aは、フォトニック結晶層14において例えば直角三角柱状の領域が切り出された形状である。なお、ピット14aの形状および配置は、図3に示す形状および配置に限らない。
【0019】
図1に示すように、メサ部20の側壁20a、20bに反射膜51が設けられている。図2(a)に示す4つの側壁20a、20b、20c、20dのうち少なくとも相対する2つの側壁20a、20bに反射膜51が設けられている。本例では、メサ部20のすべての側壁20a、20b、20c、20dに反射膜51が設けられている。
【0020】
発光層13が発する光に対して、反射膜51の反射率は、メサ部20を構成する半導体層と空気との界面における反射率よりも高い。発光層13が発する光に対する反射膜51の反射率は40%以上である。図1に示す例では、反射膜51は金属膜であり、例えば、金を含む。
【0021】
第1電極31は、反射膜51と連続してメサ部20の表面(図1における上面)に設けられている。第1電極31は、メサ部20の表面にベタ上に設けられ、メサ部20の表面に接している。第1電極31と反射膜51は、同材料で同時に形成される。第1電極31と反射膜51は、例えば、蒸着法やスパッタリング法により形成することができる。
【0022】
メサ部20の側壁20a、20b、20c、20dと反射膜51との間に絶縁膜41が設けられている。絶縁膜41は、例えばシリコン酸化膜である。反射膜51の例えば金膜と、絶縁膜41との間に、密着膜として例えばチタン膜を設けることができる。
【0023】
第1クラッド層11の表面におけるメサ部20の周辺にも、絶縁膜41の一部が設けられている。そのメサ部20の周辺の絶縁膜41上にも、反射膜51の一部が設けられている。
【0024】
基板10における、メサ部20を含む半導体積層体が積層された面の反対側の面に、第2電極32が設けられている。図2(a)に示すように、例えば、第2電極32は四角い枠状に設けられている。第2電極32が設けられた基板10の面における第2電極32に囲まれた領域は、光出射面(窓)10aとして機能する。
【0025】
図4(a)は、実施形態の面発光型量子カスケードレーザの発振のゲインスペクトルを示す図である。
【0026】
図4(a)において、細い実線は、発光層13のゲインカーブを表す。これは、発光層13の組成や量子井戸の幅によって決まる。
【0027】
図4(a)において、破線は、フォトニック結晶層14によって制御(選択)された面発光の発振波長のゲインスペクトルを表す。フォトニック結晶層14の二次元回折格子は、発振波長が発光層13のゲインカーブのピーク波長に合致するように設計される。しかしながら、製造上のばらつきなどにより、図4(a)に示すように、フォトニック結晶層14によって制御された発振波長が、発光層13のゲインカーブのピーク波長からずれてしまうことがある。すなわち、ピークよりも少し低いゲインの波長で発振してしまい、これは発振しきい値電流が理想よりも高くなる原因になる。
【0028】
図4(b)は、面発光型量子カスケードレーザの電流-光出力特性(IL特性)を示す図である。
【0029】
図4(b)において、点線で表すIL特性aは、フォトニック結晶層14によって制御された発振波長が、発光層13のゲインカーブのピーク波長に合致した場合の理想的なIL特性を示す。これに対して、フォトニック結晶層14によって制御された発振波長が発光層13のゲインカーブのピーク波長からずれてしまうと、図4(b)において破線で示すIL特性bのように、理想的なIL特性aよりも、発振しきい値電流が高くなる。
【0030】
本実施形態によれば、メサ部20の側壁20a、20b、20c、20dに反射膜51を設けることで、面発光する前に、メサ部20内でファブリペロー共振器による共振を誘発できる。
【0031】
図4(a)において、太い実線は、ファブリペロー共振器による発振波長のゲインスペクトルを表す。
【0032】
ファブリペロー共振器による発振の縦モード(マルチモード)のどれかが発光層13のゲインピークに合致し、これをきかっけにして発振したレーザ光が、フォトニック結晶層14の二次元回折格子によって、発光層13の表面に対して概ね垂直な方向に取り出される。ファブリペロー共振器による発振の縦モード(マルチモード)の中に、フォトニック結晶層14で規定する波長が含まれていれば、その波長でレーザ光は面発光する。
【0033】
図4(b)において、本実施形態の面発光型量子カスケードレーザのIL特性cを実線で表す。
【0034】
本実施形態によれば、フォトニック結晶層14によって制御される発振波長が発光層13のゲインカーブのピーク波長からずれてしまっても、反射膜51を利用したファブリペロー共振器による縦モードを利用して発振を誘発し、発振しきい値電流を低減することができる。本実施形態の面発光型量子カスケードレーザは、特に、要求される光出力が低い領域において有効である。
【0035】
量子カスケードレーザは、キャリアのサブバンド間遷移により発光する。サブバンド間遷移では、発振波長はバンドギャップエネルギーに依存しなため、キャリアの注入がない、または注入量が少ないメサ部20の側壁に近い領域における光吸収が少ない。このため、反射膜51による反射で、メサ部20の側壁に近い領域を利用して発振させても、その領域における損失は少ない。
【0036】
図5は、実施形態の面発光型量子カスケードレーザにおいて反射膜の他の例を示す模式断面図である。
【0037】
図5に示す例においてメサ部20の側壁20a、20bに設けられた反射膜52は、誘電体多層膜である。この誘電体多層膜における光学膜厚は、発振波長に応じて設計される。
【0038】
図2(a)に示すように、メサ部20の平面形状(上面または下面の形状)が正方形の場合、X方向またはY方向のいずれか一方向に優先的に発振する。X方向とY方向のどの方向に発振するかは制御できない場合が多く、反射膜51、52はメサ部20のすべての側壁20a、20b、20c、20dに設けることが好ましい。
【0039】
図2(b)に示すように、メサ部20の平面形状は矩形であってもよい。この場合、長手方向(X方向)に発振しやすい。したがって、反射膜51、52を側壁20a、20bに設け、側壁20c、20dには反射膜51、52を設けなくてもよい場合もある。
【0040】
実施形態の面発光型量子カスケードレーザは、例えば、中赤外からテラヘルツ領域の単一モードのレーザ光を出射することができる。実施形態の面発光型量子カスケードレーザは、例えば、ガス分光法による分析に用いることができる。また、実施形態の面発光型量子カスケードレーザは、例えば、赤外線カメラでガス漏れを検知する用途における赤外線照明として用いることができる。
【0041】
メサ部20は、円柱状に設けられていてもよい。円柱状のメサ部20の上面または下面の形状は円形状である。ここで、円形状とは、真円に限らず、真円から歪んだ円形や、楕円も含む。円柱状のメサ部20の側壁において、少なくとも、中心軸を挟んだ位置にある2カ所に前述した反射膜51または反射膜52が設けられている。例えば、円柱状のメサ部20のすべての側壁に反射膜51または反射膜52が設けられることが好ましい。また、メサ部20は、八角柱や六角柱などの多角柱状に設けられてもよい。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
10…基板、10a…光出射面、13…発光層、14…フォトニック結晶層、20…メサ部、20a~20d…側壁、41…絶縁膜、51…反射膜(金属膜)、52…反射膜(誘電体多層膜)、31…第1電極、32…第2電極
図1
図2
図3
図4
図5