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特許7542345レシプロ機構及びレシプロ機構を備えた機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】レシプロ機構及びレシプロ機構を備えた機器
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
F04B39/00 107Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020122686
(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公開番号】P2022019099
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】永田 修平
(72)【発明者】
【氏名】成澤 伸之
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3094674(JP,U)
【文献】特開2001-271744(JP,A)
【文献】特開2004-092638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F04B 1/00- 7/06
39/00-39/16
25/00-37/20
41/00-41/06
F16J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮室を形成するシリンダと、
前記シリンダ内を揺動しながら往復動するピストンと、
クランクシャフトと、
前記クランクシャフトと前記ピストンとを連結する連接棒と、を備え、
前記ピストンは、前記圧縮室をシールするピストンリングを有し、
前記ピストンには、前記圧縮室とは反対側から前記ピストンリングを支持するリング支持部が形成され、
前記リング支持部には、前記ピストンが上死点から下死点に移動するときに、前記圧縮室外の気体を前記圧縮室内へ導く凹部が形成され、
記凹部は、前記クランクシャフトの回転中心軸方向の前記ピストンの幅中心を含む、前記クランクシャフトの回転中心軸に直交する平面上に形成され、
記リング支持部における前記ピストンの揺動方向一方側の厚みが、前記リング支持部における前記ピストンの揺動方向他方側の厚みに比べて薄いことにより、前記凹部が形成される、
レシプロ機構。
【請求項2】
圧縮室を形成するシリンダと、
前記シリンダ内を揺動しながら往復動するピストンと、
クランクシャフトと、
前記クランクシャフトと前記ピストンとを連結する連接棒と、を備え、
前記ピストンは、前記圧縮室をシールするピストンリングを有し、
前記ピストンには、前記圧縮室とは反対側から前記ピストンリングを支持するリング支持部が形成され、
前記リング支持部には、前記ピストンが上死点から下死点に移動するときに、前記圧縮室外の気体を前記圧縮室内へ導く凹部が形成され、
記凹部は、前記クランクシャフトの回転中心軸方向の前記ピストンの幅中心を含む、前記クランクシャフトの回転中心軸に直交する平面から離れた位置に形成され、
記リング支持部における前記ピストンの揺動方向一方側の厚みは、前記リング支持部における前記ピストンの揺動方向他方側の厚みに比べて厚く、前記凹部は、前記リング支持部における前記ピストンの揺動方向一方側に形成される、
レシプロ機構。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のレシプロ機構において、
前記ピストンと前記連接棒とは異なる材料で形成される、
レシプロ機構。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のレシプロ機構において、
前記ピストンまたは前記連接棒には、前記リング支持部を保持する保持部が形成され、
前記保持部は、前記連接棒の軸方向に直交する断面形状が、前記リング支持部に向かうにつれて拡大する形状となるように形成される、
レシプロ機構。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のレシプロ機構において、
前記ピストンが下死点から上死点に移動する間の最大揺動角度が、前記ピストンが上死点から下死点に移動する間の最大揺動角度よりも小さくなるように、前記シリンダの中心軸が、前記クランクシャフトの回転中心軸に対してオフセットしている、
レシプロ機構。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のレシプロ機構を備えた機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシプロ機構及びレシプロ機構を備えた機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、球体状のピストンがシリンダ内を摺動しつつ往復する往復動圧縮機において、ピストンが吸入工程で揺動したときのシリンダ内周面と摺接する部位のピストン球面を窪ませて流体をピストンロッド側から圧縮室内に吸い込むための吸込口を形成した往復動圧縮機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-253971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の往復動圧縮機では、球体状のピストンとシリンダとが線接触する構成であり、圧縮工程において圧縮室内の気密性を確保できないおそれがある。ここで、気密性の確保のために、ピストンにピストンリングを設けることが考えられるが、吸入工程において圧縮室内に気体を吸い込むことができないおそれがある。
【0005】
本発明は、圧縮工程において圧縮室の気密性を確保し、吸入工程において圧縮室内に気体を効果的に吸い込むことのできるレシプロ機構及びそれを備えた機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によるレシプロ機構は、圧縮室を形成するシリンダと、前記シリンダ内を揺動しながら往復動するピストンと、クランクシャフトと、前記クランクシャフトと前記ピストンとを連結する連接棒と、を備える。前記ピストンは、前記圧縮室をシールするピストンリングを有し、前記ピストンには、前記圧縮室とは反対側から前記ピストンリングを支持するリング支持部が形成され、前記リング支持部には、前記ピストンが上死点から下死点に移動するときに、前記圧縮室外の気体を前記圧縮室内へ導く凹部が形成される。前記凹部は、前記クランクシャフトの回転中心軸方向の前記ピストンの幅中心を含む、前記クランクシャフトの回転中心軸に直交する平面上に形成され、前記リング支持部における前記ピストンの揺動方向一方側の厚みが、前記リング支持部における前記ピストンの揺動方向他方側の厚みに比べて薄いことにより、前記凹部が形成される。
本発明の第2の態様によるレシプロ機構は、圧縮室を形成するシリンダと、前記シリンダ内を揺動しながら往復動するピストンと、クランクシャフトと、前記クランクシャフトと前記ピストンとを連結する連接棒と、を備える。前記ピストンは、前記圧縮室をシールするピストンリングを有し、前記ピストンには、前記圧縮室とは反対側から前記ピストンリングを支持するリング支持部が形成され、前記リング支持部には、前記ピストンが上死点から下死点に移動するときに、前記圧縮室外の気体を前記圧縮室内へ導く凹部が形成される。前記凹部は、前記クランクシャフトの回転中心軸方向の前記ピストンの幅中心を含む、前記クランクシャフトの回転中心軸に直交する平面から離れた位置に形成され、前記リング支持部における前記ピストンの揺動方向一方側の厚みは、前記リング支持部における前記ピストンの揺動方向他方側の厚みに比べて厚く、前記凹部は、前記リング支持部における前記ピストンの揺動方向一方側に形成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、圧縮工程において圧縮室の気密性を確保し、吸入工程において圧縮室内に気体を効果的に吸い込むことのできるレシプロ機構及びそれを備えた機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】圧縮機の構成を示す図。
図2】本実施形態に係るレシプロ機構の構成を示す図。
図3】本実施形態に係るピストン及び連接棒の概略図。
図4】ピストンを構成するピストン本体及びピストンリングの斜視図。
図5】シリンダの中心軸Ccとクランクシャフトの回転中心軸Csとのオフセット量及び連接棒の揺動角度を説明するための図。
図6】揺動角度に対するピストン本体に装着されたピストンリングのシール特性について示す図。
図7】クランク角度θに対する揺動角度βの変化について示すグラフ。
図8】吸入行程のときのレシプロ機構の断面模式図。
図9図8のピストン及び連接棒の先端部のIX-IX線断面模式図。
図10】ピストン本体の外形形状の変形例について示す図。
図11】本実施形態の変形例3に係るレシプロ機構におけるピストン及び連接棒の概略図。
図12】本実施形態の変形例4に係るレシプロ機構の構成を示す図。
図13図12のピストン本体のXIII-XIII線断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1図9を参照して、本発明の実施形態に係るレシプロ機構100を備えた圧縮機1について説明する。
【0010】
図1は圧縮機1の構成を示す図であり、図2はレシプロ機構100の構成を示す図である。図1に示すように、圧縮機1は、気体(例えば、空気)を圧縮する圧縮機本体10と、それを駆動する電動機2と、圧縮機本体10が吐出する気体を貯留するタンク3と、を備える。
【0011】
図2に示すように、圧縮機本体10は、クランクシャフト160を収容するクランクケース109と、クランクシャフト160を含むレシプロ機構100とを備える。レシプロ機構100は、クランクケース109から鉛直方向(図示上方)に突出するシリンダ110と、クランクシャフト160と、基端部がクランクシャフト160のクランクピン162に回転可能に接続される連接棒102と、連接棒102の先端部に固定されるピストン104と、を有する。クランクシャフト160は、クランクケース109に回転可能に支持される。
【0012】
圧縮機本体10は、クランクシャフト160が回転することで、連接棒102の基端部(大端部)121に回転力を与え、シリンダ110内に設置されたピストン104が鉛直方向に往復動し、その結果としてシリンダ110の外部から気体を吸引し圧縮してタンク3(図1参照)へ吐出する。
【0013】
図1に示すように、圧縮機本体10及び電動機2は、圧縮機本体10のクランクシャフト160と電動機2の回転軸とが平行になるように、タンク3上に設置されている。クランクシャフト160には圧縮機プーリ4が固定され、電動機2の回転軸には電動機プーリ5が固定されている。圧縮機プーリ4及び電動機プーリ5には、電動機2で発生した動力を圧縮機本体10に伝達する伝動ベルト6が巻回されている。これにより、電動機2の回転力は、電動機プーリ5、伝動ベルト6及び圧縮機プーリ4を介して圧縮機本体10のクランクシャフト160に伝達され、クランクシャフト160が回転する。電動機2によってクランクシャフト160が回転駆動されることにより、圧縮機本体10が気体を圧縮する。
【0014】
図2に示すように、クランクシャフト160は、クランクケース109に回転自在に支持されるクランクジャーナル161と、クランクジャーナル161の回転中心から偏心した位置で連接棒102に接続されるクランクピン162(偏心部)と、クランクジャーナル161とクランクピン162とを接続するクランクアーム164と、クランクウエイト163と、を有する。
【0015】
クランクピン162は、大端部軸受128を介して連接棒102の基端部(大端部)121に連結されている。大端部軸受128には、転がり軸受、滑り軸受などを採用することができる。なお、大端部軸受128は、連接棒102及びクランクシャフト160と別体となるよう構成してもよいし、連接棒102またはクランクシャフト160と一体となるよう構成してもよい。
【0016】
シリンダ110は、円筒状のシリンダ本体111と、シリンダ本体111の上部開口端部を塞ぐように設けられるバルブプレート112と、シリンダ本体111とでバルブプレート112を挟持するシリンダヘッド113と、を備え、クランクケース109に固定される。バルブプレート112は、シリンダヘッド113とシリンダ110との間に介装される。バルブプレート112は、シリンダヘッド113の内部と、シリンダ本体111の内部とを連通する吸入孔112a及び吐出孔112bが形成されている。バルブプレート112には、リード弁タイプの吸入弁112c及び吐出弁112dが取り付けられている。
【0017】
吸入弁112cは、シリンダヘッド113内の気体が吸入孔112aを通じてシリンダ本体111内へ流入することを許容し、シリンダ本体111内の気体が吸入孔112aを通じてシリンダヘッド113内へ流入することを禁止する。吐出弁112dは、シリンダ本体111内の気体が吐出孔112bを通じてシリンダヘッド113内へ流入することを許容し、シリンダヘッド113内の気体が吐出孔112bを通じてシリンダ本体111内へ流入することを禁止する。
【0018】
ピストン104、シリンダ110及びバルブプレート112によって形成される圧縮室119は、ピストン104がシリンダ110内を往復することにより、膨張と収縮を繰り返す。圧縮室119の膨張及び収縮に伴ってクランクケース109内の容積についても収縮及び膨張を繰り返す。また、圧縮室119の膨張及び収縮に合わせて吸入弁112c及び吐出弁112dが開閉する。クランクケース109には、クランクケース109の内外を連通する呼吸孔109aが形成される。
【0019】
電動機2によってクランクシャフト160が回転すると、ピストン104がシリンダ110内を往復運動する。ピストン104が上死点から下死点へ向かう吸入工程では、圧縮室119が膨張し、吸入弁112cが開いてシリンダヘッド113内の吸気室から圧縮室119内に気体が吸い込まれるとともに、クランクケース109内からピストン104とシリンダ110との間の隙間を通じて圧縮室119内に気体が吸い込まれる(図8参照)。ピストン104が下死点から上死点へ向かう圧縮工程では、圧縮室119が収縮し、圧縮室119内の気体が圧縮され、吐出弁112dが開いてシリンダヘッド113内の排気室及びこの排気室に接続される配管7(図1参照)を通じて圧縮気体がタンク3へ吐出される。
【0020】
図3は、ピストン104及び連接棒102の概略図(分解図)である。連接棒102は、クランクシャフト160とピストン104とを連結する部材である。連接棒102の先端部129には、ピストン104が固定される。ピストン104と連接棒102とは異なる材料で形成される。本実施形態に係るピストン104は、軸受を介すことなく連接棒102の先端部129に固定されることにより、連接棒102に一体化されている。なお、ピストン104と連接棒102の固定方法は、ボルトによる締結、または溶接、圧入等である。つまり、ピストン104は、クランクシャフト160が回転すると、連接棒102と一体となってシリンダ110内を揺動しながら往復動する揺動型のピストン(ロッキングピストン)である。
【0021】
連接棒102は、円筒状の基端部(大端部)121と、半球状の先端部(小端部)129と、基端部121と先端部129とを接続する直棒部120と、を有する。先端部129は、球面側で直棒部120に接続され、円形状の平面部がピストン104の下端面に面接触する。直棒部120は、その中心軸が、半球状の先端部129の中心と円筒状の基端部121の中心軸(すなわち、大端部軸受128の中心軸Cb)とを結ぶ直線に一致するように配置される。以下、直棒部120の中心軸を連接棒102の中心軸Crとも記す。
【0022】
連接棒102は、揺動運動を行うため、圧縮機1の振動低減の観点からは重量が軽いことが望まれる。このため、直棒部120は、幅(連接棒102の中心軸Cr及び基端部121の中心軸に直交する方向の寸法)が、基端部121及び先端部129に比べて小さい。また、直棒部120は、基端部121側から先端部129側に向かって先細り形状となっている。
【0023】
図4はピストン104を構成するピストン本体140及びピストンリング149の斜視図である。図3及び図4に示すように、ピストン104は、ピストン本体140と、ピストン本体140の外周とシリンダ本体111の内周との間の隙間を塞ぎ、圧縮室119をシールするピストンリング149と、を有する。ピストン本体140は、略円板状に形成され、その外周面にはピストンリング149が装着される環状溝141が形成されている。ピストンリング149は、ピストン本体140の外周面に設けられた環状溝141に対してある隙間をもって嵌合する。ピストンリング149は、ピストン本体140に装着された状態において、シリンダ110内を滑らかに摺動しつつ、圧縮工程のときに、圧縮室119の気密性が保たれるように形成される。
【0024】
ピストンリング149は、略C字形状であり、合口149aを有する。ピストンリング149は、自然状態ではその外径がシリンダ本体111の内径よりも若干大きい。このため、ピストンリング149が装着されたピストン本体140が、シリンダ本体111内に挿入された状態では、ピストンリング149の変形による反力によってピストンリング149の外周面がシリンダ110の内周面に略密着することにより、圧縮室119の気密性が保たれる。
【0025】
ピストン本体140は、円筒形のシリンダ本体111内を滑らかに往復運動するために、その外周面が球面状に形成される。クランクシャフト160が回転すると、ピストン本体140は、シリンダ本体111によってシリンダ周方向の移動が拘束された状態で、シリンダ軸方向に往復運動を行うとともに、回転運動(揺動運動)を行う。本実施形態では、ピストン本体140の外周面が球面状に形成されているため、ピストン104の回転運動中心が連接棒102に対して一定の位置となる。
【0026】
本実施形態では、圧縮工程において、ピストン本体140の外周面とシリンダ本体111の内周面とが線接触状態となるが、ピストンリング149の外周面とシリンダ本体111の内周面とが面接触状態となるため、圧縮室119の高い気密性を確保することができる。
【0027】
環状溝141が形成されることにより、ピストン本体140は、環状溝141を挟むように、円板状の受圧部142と、円板状のリング支持部143とが形成される。リング支持部143は、その外周部において、圧縮室119とは反対側(連接棒102側)からピストンリング149を支持する。リング支持部143の中央部は、連接棒102によって支持される。受圧部142は、圧縮室119内の気体圧力を受ける部位である。また、受圧部142は、吸入工程のときに、その外周部においてピストンリング149の移動を規制し、ピストンリング149がピストン本体140から外れることを防止する。
【0028】
圧縮工程において、圧縮室119内の気体圧力は、主に受圧部142の上端面(先端面)142c及び側面、並びにピストンリング149に作用する。これらの力は概ね連接棒102の中心軸方向に加わるため、シリンダ本体111の内周面とピストン104の間に働く気体圧力に基づく分力は極めて小さい。すなわち、シリンダ本体111の内周面とピストン104の間の摺動面に働く力は小さい。
【0029】
ピストン本体140においてシリンダ110の内周面と摺動しうる部位は、受圧部142の側面とリング支持部143の側面である。本実施形態では、ピストン本体140が固体潤滑性の優れた材料で形成され、潤滑油を用いない構成とすることが可能である。潤滑油を用いない構成とすることで、圧縮室119内の気体に潤滑油が混入することがなくなるという利点を有する。固体潤滑性の優れた材料の一例としては、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂に、強度などの機械的特性を改善するためにグラスファイバーなどの充填剤を入れた材料がある。なお、本実施形態では、ピストンリング149は、ピストン本体140と同じ材料で形成される。
【0030】
連接棒102の基端部121には、圧縮室119内の気体圧力に基づく圧縮反力が加わる。このため、連接棒102の基端部121には、機械的強度が求められる。したがって、連接棒102は、ピストン本体140の材料よりも機械的強度の高い材料で構成することが望ましい。機械的強度の高い材料の一例としては、鉄系材料、アルミ系材料などの金属材料がある。
【0031】
ここで、ピストン本体140と連接棒102を同じ材料で一体成形する場合、以下のような懸念が生じる場合がある。ピストン本体140と連接棒102を固体潤滑性の優れた材料で一体成形する場合、連接棒102に作用する圧縮負荷により、連接棒102が折損するおそれがある。このため、圧縮負荷が小さい機械にしか実装できず、その適用範囲が狭くなるおそれがある。
【0032】
ピストン104と連接棒102を機械的強度の高い材料で一体成形する場合、ピストン104とシリンダ110との間の接触部の潤滑特性及びシール特性を満足させるために、潤滑油を用いることが考えられる。しかしながら、吸入工程でクランクシャフト160側から圧縮室119内に吸気を行う構造の場合、潤滑油が圧縮室119に入り込むことにより吸気量が低下し、圧縮機効率が低下したり、液圧縮によって弁体(吸入弁112c及び吐出弁112d)が破損したりするおそれがある。
【0033】
これに対して、本実施形態では、ピストン本体140と連接棒102とを異なる材料で形成しているため、連接棒102の機械的強度と、潤滑油を用いない環境下でのピストン本体140の摺動特性とを両立させることができる。つまり、本実施形態によれば、連接棒102の破損を防止することができるとともに、潤滑油が圧縮室119に入り込むことに起因する効率の低下及び弁体の破損を防止することができる。
【0034】
次に図5を参照して、シリンダ110の中心軸Ccとクランクシャフト160の回転中心軸Csとの位置関係及び連接棒102の揺動角度βについて説明する。図5は、シリンダ110の中心軸Ccとクランクシャフト160の回転中心軸Csとのオフセット量δ及び連接棒102の揺動角度βを説明するための図である。
【0035】
図5に示すように、本実施形態に係るレシプロ機構100では、クランクシャフト160の回転中心軸(クランクジャーナル161の回転中心軸)Csとシリンダ110の中心軸Ccとは交差せず、オフセットした構造をとっている。クランクシャフト160は、図示反時計回りに回転するが、シリンダ110の中心軸Ccはクランクシャフト160の回転中心軸Csに対して、圧縮行程においてクランクピン162が位置する側(図示右側)にオフセットしている。
【0036】
ここで、連接棒102の中心軸Crとシリンダ110の中心軸Ccとの鋭角側のなす角度(以下、揺動角度βと記す)に着目する。シリンダ110の中心軸Ccとクランクシャフト160の回転中心軸Csとが交差する場合(すなわち、オフセット量δが0の場合)、揺動運動がシリンダ110の中心軸Ccに対して左右対称となり、圧縮行程での揺動角度βの最大値と、吸入行程での揺動角度βの最大値とは等しくなる。一方、シリンダ110の中心軸Ccとクランクシャフト160の回転中心軸Csとをオフセットさせた構成では、揺動運動がシリンダ110の中心軸Ccに対して左右非対称となる。
【0037】
本実施形態では、ピストン104が下死点から上死点に移動する間の最大揺動角度(すなわち圧縮工程での最大揺動角度)が、ピストン104が上死点から下死点に移動する間の最大揺動角度(すなわち吸入工程での最大揺動角度)よりも小さくなるように、シリンダ110の中心軸Ccが、クランクシャフト160の回転中心軸Csに対してオフセットしている。
【0038】
このように、シリンダ110の中心軸Ccとクランクシャフト160の回転中心軸Csとをオフセットさせた構成とすると、圧縮工程において圧縮室119の気密性を高めることができる。以下、詳しく説明する。図6は、揺動角度βに対するピストン本体140に装着されたピストンリング149のシール特性について示す図である。図6では、横軸が揺動角度β、すなわち、シリンダ110に対するピストンリング149の傾斜角度を表し、縦軸がピストンリング149とシリンダ110との壁面間から漏洩する気体の質量流量(漏洩量)を表している。なお、図6では、シリンダ110の中心軸Ccと連接棒102の中心軸Crとが一致するとき(平行のとき)には揺動角度βは0(ゼロ)°であり、また、シリンダ110の中心軸Ccに対して連接棒102の中心軸Crが傾斜しているときには、その傾き角の絶対値を揺動角度βとして表している。
【0039】
図6に示すように、揺動角度βが小さい場合、すなわちピストンリング149とシリンダ110との間の傾き角が小さい場合、ピストンリング149とシリンダ110との接触状態は面接触である。したがって、ピストンリング149によってピストン本体140とシリンダ本体111の内周面との隙間が適切にシールされるので、圧縮室119の内部から外部(クランクケース109内)への気体の漏洩量は極めて少ない。揺動角度βが大きくなり、シリンダ110に対するピストンリング149の傾き角が大きくなると、シリンダ110の内周面に対してピストンリング149が片当たり接触する状態となり、ピストンリング149とシリンダ110との接触状態が面接触状態から線接触または点接触状態に変化する。その結果、揺動角度βが大きくなるほど、ピストンリング149のシール特性が悪化し、圧縮室119の内部から外部(クランクケース109内)への気体の漏洩量が増加する。
【0040】
図7は、本実施形態に係るレシプロ機構100におけるクランク角度θに対する揺動角度βの変化について示すグラフである。図7では、横軸がクランクシャフト160の回転角度であるクランク角度θを表し、縦軸が揺動角度βを表している。図7において、クランク角度θは、大端部軸受128の中心軸Cbがクランクシャフト160の回転中心軸Csの下方であって、大端部軸受128の中心軸Cbとクランクシャフト160の回転中心軸Csとを結ぶ直線がシリンダ110の中心軸Ccと平行になるときの角度を0°とし、図5における反時計回りを正方向とし、反時計回りの回転角度を正の値で表している。また、図7では、図5において大端部軸受128の中心軸Cbがシリンダ110の中心軸Ccの左側に位置するときの揺動角度βを正の値で表し、大端部軸受128の中心軸Cbがシリンダ110の中心軸Ccの右側に位置するときの揺動角度βを負の値で表している。
【0041】
上述したように、本実施形態では、クランクシャフト160の回転中心軸Csとシリンダ110の中心軸Ccとがオフセットしている。このため、図7に示すように、揺動角度βの時刻歴変化は、揺動角度0°を表す横軸に対して上下非対称となる。また、ピストン104が下死点から上死点に移動する圧縮行程での最大揺動角度は、オフセット量δが0(ゼロ)の場合に比べて小さくなり、ピストン104が上死点から下死点に移動する吸入工程での最大揺動角度は、オフセット量δが0(ゼロ)の場合に比べて大きくなる。
【0042】
本実施形態では、クランクシャフト160の回転中心軸Csとシリンダ110の中心軸Ccとをオフセットさせることにより、圧縮行程において揺動角度β(図7において、揺動角度βの絶対値)を小さく抑えることができる。このため、圧縮行程において、ピストンリング149とシリンダ110との壁面間を通じた圧縮室119内からクランクケース109内への気体の漏洩量を少ない状態に維持することができる。つまり、圧縮室119内の圧力を高める圧縮行程において、圧縮室119の気密性を高めることができるため、圧縮機効率を高めることができる。
【0043】
なお、図5に示すように、圧縮行程でのピストン本体140におけるシリンダ110との主な接触部分は、受圧部142の図示左側側面142bとリング支持部143の図示右側側面143aである。
【0044】
本実施形態では、圧縮行程でのピストン本体140におけるシリンダ本体111との接触部近傍にピストンリング149が位置するように、環状溝141が形成されている。つまり、ピストン本体140の受圧部142の図示右側面上端よりもリング支持部143の図示右側面下端に近い位置にピストンリング149が位置するように、環状溝141が形成されている。このため、圧縮室119内の気密性を高めることができる。
【0045】
次に、図4図8及び図9を参照して、吸入行程において、効率よく気体を圧縮室119に吸い込むための構成について説明する。図8は、吸入行程のときのレシプロ機構100の断面模式図である。図8に示すように、吸入行程では圧縮行程に比べて揺動角度βが大きくなる(図7参照)。揺動角度βが、最大揺動角度を含む所定角度範囲内のときには、ピストンリング149の外周面の一部がシリンダ本体111の内周面から離れ非接触となる。
【0046】
吸入行程でのピストン本体140におけるシリンダ110との主な接触部分は、受圧部142の図示右側側面142aとリング支持部143の図示左側側面143bである。ここで、本実施形態では、吸入工程において、クランクケース109内の気体が圧縮室119内にスムーズに導かれるように、リング支持部143の左側側面143bに円弧状凹部147が形成されている。
【0047】
図9は、図8のピストン104及び連接棒102の先端部129のIX-IX線断面模式図である。図9において、説明の便宜上、クランクシャフト160の回転中心軸Csに平行であり、かつ、連接棒102の中心軸Crを通る軸をy軸とし、y軸及び連接棒102の中心軸Crに直交し、かつ、連接棒102の中心軸Crを通る軸をx軸とした座標系において、反時計方向に第1象限、第2象限、第3象限及び第4象限に区分する。図示するように、第1象限及び第4象限は、圧縮工程においてリング支持部143(側面143a)がシリンダ本体111の内周面に接触する側であり、第2象限及び第3象限は、吸入工程においてリング支持部143(側面143b)がシリンダ本体111の内周面に接触する側である。
【0048】
図9に示すように、ピストン本体140は、連接棒102の先端部129の先端面に面接触する円形状かつ平坦な平面部(以下、円形平面部と記す)145aと、円形平面部145aの径方向外方において突出する円弧状の突出部146と、円形平面部145aの径方向外方において突出部146が形成されず、円形平面部145aと面一となっている円弧状の外周平面部145bと、を有する。ピストン本体140は、その底面(下面)の外周部に円弧状の突出部146が設けられており、突出部146が設けられている部分では、その他の部分に比べて厚みが厚くなっている。換言すれば、リング支持部143は、図8に示すように、ピストン104の揺動方向一方側(図示左側)の厚みが、揺動方向他方側(図示右側)の厚みに比べて薄い。
【0049】
なお、揺動方向一方とは、圧縮工程から吸入工程に移行するときのピストン104及び連接棒102の揺動方向(図示左方向)に相当し、揺動方向他方とは、吸入工程から圧縮工程に移行するときのピストン104及び連接棒102の揺動方向(図示右方向)に相当する。また、揺動方向一方側とは、圧縮工程において受圧部142がシリンダ110の内周面に接触する側(すなわち吸入工程においてリング支持部143がシリンダ110の内周面に接触する側)に相当し、揺動方向他方側とは、圧縮工程においてリング支持部143がシリンダ110の内周面に接触する側(すなわち吸入工程において受圧部142がシリンダ110の内周面に接触する側)に相当する。
【0050】
このように、ピストン本体140には、円形平面部145a及び外周平面部145bを底面とし、突出部146を側壁とする凹部144が形成される。凹部144の円形平面部145aに、連接棒102の先端部129が接合されると、円弧状凹部147が形成される。円弧状凹部147は、外周平面部145bを底面とし、円弧状の突出部146の周方向両端面及び連接棒102の先端部129の外表面を側面とする凹形状を呈する。このように、本実施形態では、円弧状凹部147は、リング支持部143におけるピストン104の揺動方向一方側(図示左側)の厚みが、リング支持部143におけるピストン104の揺動方向他方側(図示右側)の厚みに比べて薄いことにより形成される。
【0051】
図9に示すように、円弧状凹部147は、クランクシャフト160の回転中心軸方向(y軸方向)のピストン104(ピストン本体140)の幅中心を含む、クランクシャフト160の回転中心軸Csに直交する平面(以下、揺動運動平面190とも記す)上に形成される。なお、揺動運動平面190は、連接棒102の中心軸Crを含む平面でもある。また、円弧状凹部147は、第2象限及び第3象限に形成され、第1象限及び第4象限には形成されない。本実施形態では、円弧状凹部147は、x軸に対して対称、かつ、座標系の原点O(連接棒102の中心軸Cr)を中心として所定の角度範囲φ(例えば120°程度)で形成されている。
【0052】
仮に、円弧状凹部147の形成範囲が180°よりも大きい場合、すなわち円弧状凹部147が第1象限及び第4象限にまで形成されると、吸入工程において、リング支持部143におけるシリンダ本体111の内周面と接触する面(以下、負荷面とも記す)を十分に確保することができず、信頼性の観点から好ましくない。このため、円弧状凹部147の形成範囲は、座標系の原点Oを中心として、第2象限及び第3象限において180°以下とすることが好ましい。これにより、吸入工程において揺動角度βが最大揺動角度を含む所定角度範囲内であるときに、シリンダ本体111の内周面と接触する負荷面143b1を確保することができる。
【0053】
本実施形態では、リング支持部143に円弧状凹部147が設けられているため、吸入工程において揺動角度βが所定の角度よりも大きくなると、シリンダ本体111の内周面とリング支持部143における左側側面143bの一部とが非接触となる。このとき、圧縮室119内とクランクケース109内とが円弧状凹部147を介して連通する。
【0054】
吸入行程では、圧縮室119内の圧力はクランクケース109内の圧力に比べて低い状態となっているため、クランクケース109内の気体が圧縮室119内へと吸入される。すなわち本実施形態では吸入行程において、バルブプレート112に設けた吸入弁112cを通じて気体が圧縮室119内に吸入されるとともに、円弧状凹部147を通じてクランクケース109内の気体が圧縮室119内に吸入される。このように、本実施形態では、リング支持部143に、ピストン104が上死点から下死点に移動する吸入工程において、圧縮室119外(クランクケース109内)の気体を連接棒102側から圧縮室119内に導く円弧状凹部147を設けている。これにより、本実施形態では、円弧状凹部147を設けない場合に比べて、圧縮室119内への気体の流入断面積を増加させることができるので、効果的に気体を圧縮室119内に吸入することができる。
【0055】
ここで、圧縮室119内に吸入される気体(例えば、空気)の温度について説明する。圧縮機1の運転が継続して行われると、圧縮機本体10を構成するシリンダ本体111、ピストン104、バルブプレート112、及びシリンダヘッド113が、圧縮空気により加熱され高温となる。特に、吐出空間を構成しているバルブプレート112及びシリンダヘッド113は、シリンダ本体111及びピストン104に比べて高い温度となっている。このため、バルブプレート112の吸入弁112cを通じて圧縮室119内に吸入される空気は、それら高温となった部材の影響を受けて加熱されることになる。圧縮室119内に吸入される空気の温度は、低温であるほど空気密度が高くなり、結果として吐出される空気の質量流量が大きくなる。そのため、吐き出し空気量の高い圧縮機1を構成するためには、圧縮室119内に吸入される空気温度は低いほどよい。
【0056】
本実施形態に係るレシプロ機構100は、高温となっているバルブプレート112に取り付けられた吸入弁112cを通じて空気を圧縮室119内に吸入する第1吸気経路の他に、比較的低温であるクランクケース109内からピストン本体140の円弧状凹部147を通じて空気を圧縮室119内に吸入する第2吸気経路が形成される構成である。そのため、吸入弁112cを通じて空気を圧縮室119内に吸入する第1吸気経路のみが形成される構成に比べて、圧縮室119内に吸入する空気温度を低くすることができ、吐き出し空気量の高い圧縮機1を構成することが可能である。
【0057】
本実施形態では、リング支持部143に吸気経路を形成する円弧状凹部147が設けられているため、この部分のリング支持部143の厚みが、円弧状凹部147が設けられていない部分の厚みに比べて薄くなる。このため、連接棒102の直棒部120を直接ピストン104に接続する構成とすると、圧縮工程においてピストンリング149にかかる圧力をリング支持部143で十分に受けることができず、リング支持部143の薄肉部が撓んだり、破損したりするおそれがある。
【0058】
これに対して、本実施形態では、連接棒102の直棒部120の先端に、半球状の先端部129が形成されており、この先端部129がリング支持部143を保持する保持部として機能する。連接棒102の先端部(保持部)129は、連接棒102の軸方向(すなわち、連接棒102の中心軸Crに平行な方向)に直交する断面形状が、リング支持部143に向かうにつれて拡大する形状となるように形成される。なお、連接棒102の先端部(保持部)129は、その外径がピストンリング149の内径よりも小さくてもよいが、ピストンリング149の内径と略同じか、ピストンリング149の内径よりも大きくなるように形成することがより好ましい。つまり、ピストンリング149の直下に、連接棒102の先端部129の外周部が位置するように、先端部129を形成することがより好ましい。
【0059】
このような構成によれば、連接棒102の先端部(保持部)129とピストン本体140との接触面積を十分にとることができるとともに、リング支持部143の外周近傍を、連接棒102の先端部(保持部)129で受けることができる。したがって、リング支持部143の外周部(すなわち環状溝141の底面から径方向外方に突出する環状の凸部)の撓み(変形)を抑制し、リング支持部143の破損を防止することができる。リング支持部143の外周部の撓みを抑制することができるので、ピストンリング149を適切な位置に保持することができる。その結果、圧縮工程において、ピストンリング149により圧縮室119を適切にシールすることができる。
【0060】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0061】
(1)レシプロ機構100は、圧縮室119を形成するシリンダ110と、シリンダ110内を揺動しながら往復動するピストン104と、クランクシャフト160と、クランクシャフト160とピストン104とを連結する連接棒102と、を備える。ピストン104は、圧縮室119をシールするピストンリング149を有する。ピストン104には、圧縮室119とは反対側からピストンリング149を支持するリング支持部143が形成される。リング支持部143には、ピストン104が上死点から下死点に移動するときに、圧縮室119外(クランクケース109内)の気体を連接棒102側から圧縮室119内へ導く円弧状凹部(凹部)147が形成される。したがって、本実施形態によれば、圧縮工程において圧縮室119の気密性を確保し、吸入工程において圧縮室119内に気体を効果的に吸い込むことのできるレシプロ機構100及びそれを備えた圧縮機(機器)1を提供することができる。つまり、本実施形態によれば、信頼性が高く高効率なレシプロ機構100及びそれを備えた圧縮機(機器)1を提供することができる。
【0062】
(2)円弧状凹部(凹部)147は、クランクシャフト160の回転中心軸方向のピストン104の幅中心を含む、クランクシャフト160の回転中心軸Csに直交する平面(揺動運動平面190)上に形成される。これにより、圧縮室119内への気体の流入断面積を大きくとることができるので、効果的に気体を圧縮室119内に吸入することができる。
【0063】
(3)連接棒102には、リング支持部143を保持する保持部(先端部129)が形成される。保持部(先端部129)は、連接棒102の軸方向に直交する断面形状が、リング支持部143に向かうにつれて拡大する形状となるように形成される。これにより、連接棒102の軽量化及びピストン104の強度確保を両立させることができる。また、保持部(先端部129)は、ピストン104との接合面にむけて、その軸方向断面積が拡大する形状となっているため、保持部(先端部129)とピストン104とが大きな面で強固に接合することとなり、ピストン104の環状溝141の下方の部位(すなわち、リング支持部143の外周部)が、負荷荷重により変形、破損することを防止することができる。
【0064】
(4)リング支持部143におけるピストン104の揺動方向一方側(図2において左側)の厚みが、リング支持部143におけるピストン104の揺動方向他方側(図2において右側)の厚みに比べて薄いことにより、円弧状凹部147が形成される。このような構成によれば、容易に円弧状凹部147を形成することができる。
【0065】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0066】
<変形例1>
上記実施形態では、バルブプレート112に吸入孔112a及び吸入弁112cが設けられ、シリンダヘッド113側の第1吸気経路から吸気を行うとともにクランクケース109側の第2吸気経路から吸気を行う例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1吸気経路を省略し、円弧状凹部147により形成される流路を含む第2吸気経路のみを通じて、圧縮室119内に気体を吸入する構成としてもよい。本変形例では、吸入孔112a及び吸入弁112cを省略することができるため、部品点数削減の他、吸入弁112cの動作に伴う弁体着座音を低減することができる。また、弁体損傷による圧縮機故障のリスクを低減することができる。つまり、本変形例によれば、より信頼性が高く静粛性の高いレシプロ機構100を提供することができる。
【0067】
<変形例2>
上記実施形態では、ピストン本体140の外周面(摺動面)が球面状に形成される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。クランクシャフト160の回転角度(クランク角度θ)に応じて、ピストン104の回転運動中心が移動するように設計することも可能である。つまり、ピストン本体140の外周面(摺動面)は、種々の曲面形状に形成することができる。図10は、ピストン本体の外形形状の変形例について示す図である。なお、図10では上記実施形態との違いを明確にするために、外形形状の起伏を誇張して描いている。
【0068】
本変形例では、ピストン本体240の摺動面となる受圧部242の外周面及びリング支持部243の外周面は、球面形状ではない。なお、その他の構成については、上記実施形態と同様である。図10では、比較のための球面を表す円形を破線で示しており、この円形は、図示するXY座標系において、角度tを媒介変数とする媒介変数表示では、次式(1),(2)のように表される。
X = Rcos(t) …(1)
Y = Rsin(t) …(2)
Rは、破線で示す円の半径である。
【0069】
これに対して、本変形例では、次式(3),(4)で表される曲線に一致するように外形形状(図示二点鎖線参照)が定められる。
X = Rcos(t) …(3)
Y = Rsin(t)+A(t) …(4)
A(t)は、任意に設定可能な角度tの関数である。
【0070】
本変形例では、ピストン104とシリンダ110間の摺動特性及びシール特性に応じて、ピストン本体240の外周面(摺動面)の曲率を任意に設計することができる。したがって、本変形例によれば、レシプロ機構100の信頼性及び効率の向上を図ることができる。
【0071】
<変形例3>
上記実施形態では、連接棒102の半球状の先端部129が、リング支持部143を保持する保持部として機能し、リング支持部143の外周部の撓みを防止する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。図11に示すように、連接棒102に半球状の先端部129を設けずに、ピストン本体340にリング支持部143を保持する保持部348を形成してもよい。つまり、受圧部142、リング支持部143及び保持部348は、同じ材料で一体成形してもよい。保持部348は、連接棒102の軸方向に直交する断面形状が、リング支持部143に向かうにつれて拡大する形状となるように形成される。
【0072】
本変形例では、環状溝141の下方の部位(すなわち、リング支持部143の外周部)に対して作用する負荷荷重による変形、破損を、上記実施形態のピストン本体140に相当する部位と一体成形された半球状の保持部348により、抑止することができる。また、連接棒302とピストン304とは別体であり、ボルト等により結合される構成であるため、上記実施形態と同様、基端部121の機械的強度及び潤滑油を用いない環境下でのピストン304の摺動特性を両立させることができる。よって本変形例によれば、上記実施形態と同様、信頼性が高く高効率なレシプロ機構を提供することができる。
【0073】
<変形例4>
上記実施形態では、吸気経路を形成する凹部(円弧状凹部147)が、クランクシャフト160の回転中心軸方向のピストン104(ピストン本体140)の幅中心を含む(すなわち、連接棒102の中心軸Crを含む)、クランクシャフト160の回転中心軸Csに直交する平面(揺動運動平面190)上に形成される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0074】
図12及び図13に示すように、クランクシャフト160の回転中心軸方向のピストン404(ピストン本体440)の幅中心を含む(すなわち、連接棒102の中心軸Crを含む)、クランクシャフト160の回転中心軸Csに直交する平面(揺動運動平面190)から離れた位置に、吸気経路を形成する凹部447を形成してもよい。本変形例では、リング支持部443に一対の凹部447が形成されている。一対の凹部447は、揺動運動平面190に対して対称形状となるように、図13における第2象限及び第3象限のそれぞれに形成される。凹部447は、下端面及び側面(摺動面)が開口となるように形成されている。
【0075】
図12に示すように、リング支持部443は、図示左端(揺動方向一方端)から図示右端(揺動方向他方端)に向かって徐々に厚みが薄くなるように形成される。つまり、クランクシャフト160の回転中心軸Csに対するシリンダ110の中心軸Ccのオフセット方向側の端部の厚みよりも、反対側の端部の厚みの方が大きい。凹部447が形成される側のリング支持部443の厚みを大きくすることにより、材料コストの増加を抑えつつ、リング支持部443の変形を効果的に抑制することができる。
【0076】
本変形例では、シリンダ本体111の内周面と接触する負荷面443b1が、揺動運動平面190と交差する位置を含むことになる。連接棒102の揺動運動に伴って発生する慣性力は、x軸方向であり、この慣性力を受ける負荷面443b1は負荷方向(慣性力の方向)に対して略直角である。このため、負荷面443b1は、面圧が低い状態で荷重を支持することが可能である。したがって、本変形例によれば、信頼性が高く高効率なレシプロ機構を提供することが可能である。
【0077】
また、本変形例では、リング支持部443におけるピストン404の揺動方向一方側(図示左側)の厚みが、リング支持部443におけるピストン404の揺動方向他方側(図示右側)の厚みに比べて厚く、凹部447が、リング支持部443におけるピストン404の揺動方向一方側(図示左側)に形成される。これにより、材料コストの増加を抑えつつ、変形を効果的に抑制することができる。
【0078】
<変形例5>
上記実施形態では、リング支持部143を保持する保持部(先端部129)が半球状に形成される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。四角錐台形状など、連接棒102の軸方向に直交する断面形状が、直棒部120からリング支持部143に向かって拡大する種々の形状を採用することができる。なお、上記実施形態で説明したように、ピストン本体140に接合する面を円形状にすることで、ピストンリング149の下方の部位に作用する荷重を均等に受けることができるので好ましい。
【0079】
<変形例6>
上記実施形態では、シリンダ110の中心軸Ccとクランクシャフト160の回転中心軸Csとをオフセットさせる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。レシプロ機構100は、シリンダ110の中心軸Cc上にクランクシャフト160の回転中心軸Csが位置するように構成してもよい。
【0080】
<変形例7>
上記実施形態では、円弧状凹部147を一つ設ける例について説明したが本発明はこれに限定されない。揺動運動平面190上に形成される凹部と、揺動運動平面190から離れた位置に形成される凹部と、をリング支持部143に形成してもよい。つまり、吸気経路を形成するための凹部は、上記実施形態で説明したように1つ形成する場合に限らず、また、上記変形例4で説明したように2つ形成する場合に限らない。吸気経路を形成するための凹部をリング支持部143に4つ以上設けてもよい。
【0081】
<変形例8>
上記実施形態では、ピストン本体140及びピストンリング149が、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂に、強度などの機械的特性を改善するためにグラスファイバーなどの充填剤を入れた材料で形成される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、フェノール樹脂、ポリイミド系樹脂、コプナ樹脂等の樹脂材料によってピストン本体140及びピストンリング149を形成してもよい。
【0082】
<変形例9>
上記実施形態では、レシプロ機構を空気等の気体を圧縮する圧縮機に適用する例について説明したが、その他の機器に適用してもよい。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0084】
1…圧縮機、2…電動機、10…圧縮機本体、100…レシプロ機構、102,302…連接棒、104,304…ピストン、109…クランクケース、109a…呼吸孔、110…シリンダ、111…シリンダ本体、112…バルブプレート、113…シリンダヘッド、119…圧縮室、120…直棒部、121…基端部、128…大端部軸受、129…先端部(保持部)、140,240,340…ピストン本体、141…環状溝、142,242…受圧部、143,243,443…リング支持部、143b1,443b1…負荷面、143b1…負荷面、147…円弧状凹部(凹部)、149…ピストンリング、160…クランクシャフト、190…揺動運動平面、348…保持部、447…凹部、Cb…大端部軸受の中心軸、Cs…クランクシャフトの回転中心軸、Cc…シリンダの中心軸、Cr…連接棒の中心軸、β…揺動角度、δ…オフセット量、θ…クランク角度
図1
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図13