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  • 特許-複合銅粒子、および、それの製造方法 図1
  • 特許-複合銅粒子、および、それの製造方法 図2
  • 特許-複合銅粒子、および、それの製造方法 図3
  • 特許-複合銅粒子、および、それの製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】複合銅粒子、および、それの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240823BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240823BHJP
   B22F 1/065 20220101ALI20240823BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240823BHJP
   B22F 10/20 20210101ALI20240823BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20240823BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/052
B22F1/065
B22F1/14 400
B22F10/20
B33Y70/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020125900
(22)【出願日】2020-07-23
(65)【公開番号】P2022021968
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000110734
【氏名又は名称】ニイミ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新美 良夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 好明
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105861862(CN,A)
【文献】国際公開第2006/043431(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/199110(WO,A1)
【文献】特開2015-063444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 10/00
B33Y 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンタにてレーザ光を照射して造形を行うために用いられる複合銅粒子であって、
銅のベース粒子に、そのベース粒子よりも粒子径が小さく波長1μmの光の吸収率が40%以上である光吸収物質の粒子がそのベース粒子の表面だけでなく内部にも分散した複合銅粒子。
【請求項2】
前記光吸収物質が、カーボン,マグネタイト,ウスタイト,クロミア,ヘマタイトから選ばれる1以上のものである請求項1に記載の複合銅粒子。
【請求項3】
前記光吸収物質が、カーボンである請求項2に記載の複合銅粒子。
【請求項4】
前記光吸収物質が、マグネタイトである請求項2に記載の複合銅粒子。
【請求項5】
当該複合銅粒子の粒子径が、10μm以上100μm以下である請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の複合銅粒子。
【請求項6】
前記光吸収物質の粒子の粒子径が、0.01μm以上1μm以下である請求項5に記載の複合銅粒子。
【請求項7】
当該複合銅粒子が、短径に対する長径の比が1以上1.5以下の球形をなす請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の複合銅粒子。
【請求項8】
当該複合銅粒子中において、前記光吸収物質が1wt%以上10wt%以下含まれる請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載の複合銅粒子。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の複合銅粒子の製造方法であって、
前記ベース粒子よりも小さな粒子径の銅粒子と前記光吸収物質の粒子とが凝集若しくは互いに結着した前駆体粒子を作製する工程と、
その前駆体粒子を、熱プラズマフレーム内に投入し、前記銅粒子を溶融して前記ベース粒子を生成するとともに、当該複合銅粒子を球状化する工程と
を含む複合銅粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合銅粒子、それの製造方法、および、それを用いて行う複合銅造形体の造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、粉末金属材料を用いた3Dプリンタによる造形(金属積層造形)が注目されており、電気伝導性,熱伝導性が良好であることに鑑みて、銅を母材とする造形体を3Dプリンタによって造形することも検討されている。例えば、下記特許文献には、Cu-Cr合金粉末を材料とする3Dプリンタによる造形方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-070914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
銅を合金化すれば、一般的に、電気伝導性,熱伝導性が悪化することは避けられない。そこで、純銅粉末を材料として3Dプリンタによって造形体を造形することが望まれる。しかしながら、純銅粉末を材料として用いる場合、銅の光の吸収率が極めて低いため、高いエネルギのビームを照射する必要がある。例えば、青色半導体レーザ等の低波長レーザを照射したり、近赤外線レーザ(代表的にはYbファイバーレーザ)を採用する比較的安価な3Dプリンタで造形する場合においては、比較的高出力で造形を行わなければならない。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、3Dプリンタによる実用的な造形を可能とする銅粉末材料となり得る複合銅粒子、および、それの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の複合銅粒子は、
3Dプリンタにてレーザ光を照射して造形を行うために用いられる複合銅粒子であって、
銅のベース粒子に、そのベース粒子よりも粒子径が小さく波長1μmの光の吸収率が40%以上である光吸収物質の粒子が分散したことを特徴とする。
【0006】
また、上記本発明の複合銅粒子を製造するための本発明の複合銅粒子の製造方法は、
前記ベース粒子よりも小さな粒子径の銅粒子と前記光吸収物質の粒子とが凝集若しくは互いに結着した前駆体粒子を作製する工程と、
その前駆体粒子を、熱プラズマフレーム内に投入し、前記銅粒子を溶融して前記ベース粒子を生成するとともに、当該複合銅粒子を球状化する工程と
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合銅粒子は、ベース粒子に分散している上記光吸収物質の粒子によって、複合銅粒子自体の光の吸収の程度が比較的高い。そのため、その複合銅粒子を用いて行う複合銅造形体の造形方法によれば、比較的低い出力でその造形を行うことが可能となる。また、その造形方法によって造形された複合銅造形体は、純銅の造形体と同等の電気伝導性,熱伝導性を有するとともに、銅のマトリクスの中に上記光吸収物質の粒子が均一に分散するため、純銅の造形体よりも高い硬度を有することとなる。また、本発明の複合銅粒子の製造方法によれば、上記光吸収物質の粒子が均一に分散化し、かつ、球状をなす本発明の複合銅粒子を、簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】熱プラズマフレームによる前駆体粒子の球状化を説明するための模式図である。
図2】実施例の複合銅粒子のSEM像を示す写真、および、粒度分布を示すグラフである。
図3】実施例の複合銅粒子の光吸収の程度を測定するための装置の模式図である。
図4】実施例の複合銅粒子の発熱量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の複合銅粒子は、1つの銅のベース粒子に、そのベース粒子よりも粒子径が小さく波長1μmの光の吸収率が40%以上である光吸収物質の粒子が複数若しくは多数分散したものである。「ベース粒子」は、マトリクス粒子,母材粒子と呼ぶこともできる。「光吸収物質」には、本発明の複合銅粒子がYbファイバーレーザによる造形に採用されることに鑑みて、波長1μmの光の吸収率が40%以上であるものを採用している。「光吸収物質の粒子」は、ベース粒子に分散するため、ベース粒子より粒子径が小さいものを採用している。造形において本発明の複合銅粒子がYbファイバーレーザによって溶融する際、その溶融によってベース粒子内部が溶融して露出する。そのため、光吸収物質の粒子は、ベース粒子の表面だけでなく、内部にも分散していることが望ましい。
【0011】
「光吸収物質」は、銅と化合物を作らないものが望ましく、具体的には、例えば、カーボン(C),マグネタイト(Fe3O4),ウスタイト(FeO),クロミア(Cr2O3),ヘマタイト(Fe2O3)から選ばれる1以上のものを採用することができる。特に、カーボンを採用する場合、造形体の電気伝導度を高く維持できる。また、マグネタイトを採用する場合、容易に、球状化した複合銅粒子が得られることになる。
【0012】
Ybファイバーレーザによる造形に鑑みれば、本発明の複合銅粒子の粒子径は、10μm以上100μm以下であることが望ましい。その粒子径の複合銅粒子に分散させるためには、光吸収物質の粒子の粒子径は、0.01μm以上1μm以下であることが望ましい。
【0013】
粒子の形状に関して言えば、本発明の複合銅粒子は、短径に対する長径の比が1以上1.5以下であることが望ましく、端的に言えば、球形をなしていることが望ましい。
【0014】
Ybファイバーレーザによる造形に採用されること、および、純銅の造形体に対して電気伝導度、熱伝導度が低下しないことに鑑みれば、本発明の複合銅粒子は、当該複合銅粒子中において光吸収物質が1wt%以上10wt%以下含まれることが望ましい。銅と光吸収物質との重量組成比で表せば、99:1~90:10の範囲であることが望ましい。
【0015】
本発明の複合銅粒子の製造方法は、i)ベース粒子よりも小さな粒子径の複数若しくは多数の銅粒子(便宜的に、「銅小粒子」呼ぶ場合がある)と、複数若しくは多数の光吸収物質の粒子とが、凝集若しくは互いに結着した前駆体粒子を作製する前駆体粒子作製工程と、ii)その前駆体粒子を、熱プラズマフレーム内に投入し、銅小粒子を溶融して前記ベース粒子を生成するとともに、当該複合銅粒子を球状化する球状化処理工程とを含んで構成される。ちなみに、銅小粒子は、粒子径が0.1μm以上10μm以下のものを採用することが望ましい。
【0016】
前駆体粒子作製工程は、上記銅小粒子の粉末と、光吸収物質の粒子粉末とを、バインダ,媒体である水を添加しつつ、ボールミル,乳鉢等で混合して、ペースト若しくはスラリーを調整し、そのスラリーを乾燥・仮焼し、乾燥・仮焼したものを粉砕,分級等する、若しくは、そのスラリーを、スプレードライヤで噴霧乾燥して、乾燥したものを仮焼する等するようにして行えばよい。ちなみに、前駆体粒子は、粒子径が15μm以上105μm以下のものを作製することが望ましい。
【0017】
球状化処理工程は、Ar雰囲気中、若しくは、Ar-H2雰囲気中で、高周波誘導コイルによって発生させられた熱プラズマフレームの中に、前駆体粒子を投入するようにして行えばよい。具体的には、例えば、特許第3639279号公報に記載されているような装置を用いて行えばよい。
【0018】
本発明の複合銅造形体の造形方法は、本発明の複合銅粒子を用い、3DプリンタにてYbファイバーレーザ光を照射して造形を行えばよく、具体的な装置、造形が限定されるものではない。一般的には、パウダーベッド方式にて行えばよいが、メタルデポジション方式にて行ってもよい。
【実施例
【0019】
[A]複合銅粒子の製造
光吸収物質としてカーボン(C)を採用した3種の複合銅粒子(サンプル番号#11,#21,#22)、および、光吸収物質としてマグネタイト(Fe3O4)を採用した3種の複合銅粒子(サンプル番号#31,#32,#33)を製造した。カーボン,マグネタイトは、いずれも、銅と化合物を生成しないものである。製造プロセスは、(a)原材料の調合と前駆体粒子の作製、(b)球状化処理および分級に分けることができる。以下に、それぞれのプロセスについて説明する。
【0020】
(a)原材料の調合と前駆体粒子の作製
各複合銅粒子の製造、つまり、各前駆体粒子の作製における原料の配合比は、下記表のとおりである。
【表1】
【0021】
i)サンプル番号#11
銅として、日本アトマイズ加工(株)製の銅紛AFS-Cu 7μm(平均粒径7.2μm)を準備し、カーボンとして、COLOUR BLACK 社製 FW200(平均粒径0.013μm)を備した。それらを、上記表の配合比に従って、媒体としてのメタノールと、純水とを添加しつつ、乳鉢にて混合し、ペーストを調製した。
【0022】
そのペーストを室温にて乾燥後、直径50mmのダイスを用いて、加圧力1tonで、圧粉成形し、ペレットを得た。次いで、そのペレットを、Ar雰囲気中に600℃で8時間保持することで、仮焼し、その仮焼したペレットを乳鉢にて粉砕し、分級して、20~80μmの粒径を有する前駆体粒子を作製した。
【0023】
ii)サンプル番号#21,#22
銅として、日本アトマイズ加工(株)の銅紛ATP-Cu 1.5μm(平均粒径1.54μm)を準備し、カーボンとして、オリオンエンジニアドカーボンズ社製のカーボン紛Nerox505(平均粒径0.015μm程度)を準備した。それらを上記表の配合比に従って混合し、上記表の配合比の純水を媒体とするとともに、バインダとしての日本酢ビ・ポバール(株)製の特殊なポリビニルアルコールPVA JMR-10Mを固形分が上記表の配合比となるように加え、ボールミルによって分散混合してスラリーを調整した。
【0024】
そのスラリーを、(株)坂本技研製スプレードライヤ(TRS-2W)にて噴霧乾燥し、平均粒径35μmの造粒紛を得、その造粒紛を、Ar雰囲気中に600℃で12時間保持することで、仮焼し、脱バインダされた固形紛を、前駆体粒子として作製した。
【0025】
iii)サンプル番号#31,#32,#33
銅として、日本アトマイズ加工(株)の銅紛ATP-Cu 1.5μm(平均粒径1.54μm)を準備し、マグネタイトとして、LANXESS(ランクセス)社製マグネタイト紛BayferroxR(バイフェロックス:登録商標)(平均粒径0.2μm程度)を準備した。それらを上記表の配合比に従って混合し、上記表の配合比の純水を媒体とするとともに、バインダとしての日本酢ビ・ポバール(株)製の特殊なポリビニルアルコールPVA JMR-10Mを固形分が上記表の配合比となるように加え、ボールミルによって分散混合してスラリーを調整した。
【0026】
そのスラリーを、ロータリエバポレータにて乾燥し、直径50mmのダイスを用いて、加圧力1tonで、圧粉成形し、ペレットを得た。そのペレットを、200メッシュ(74μm)のステンレス網上で粉砕しつつ裏ごしして粉末を得、その粉末を、Ar雰囲気中に600℃で12時間保持することで、仮焼し、脱バインダされた固形紛を、前駆体粒子として作製した。
【0027】
(b)球状化処理および分級
上述のようにして作製された前駆体粒子は、複数若しくは多数の比較的小さな銅粒子(以下、便宜的に「銅小粒子」と呼ぶ場合がある)と、複数若しくは多数の光吸収物質の粒子とが、凝集、若しくは、互いに結着状態にある。球状化処理は、そのような前駆体粒子を、熱プラズマフレームで加熱溶融して球状化する処理である。模式的には、図1に示すように、高周波誘導コイル10によって発生させられたプラズマフレーム12の中に、供給管14から前駆体粒子16を投入することで、球状化した複合銅粒子18が得られる。前駆体粒子16は、10μm以下の複数の銅粒子と、0.01μm以上1μm以下の複数の光吸収物質粒子が凝集してなるものであり、この球状化処理により、複数の銅粒子が溶融し、1つのベース粒子となる。その結果、球状化処理によって得られた複合銅粒子は、1つのベース粒子に、そのベース粒子よりも粒子径が小さい光吸収物質の粒子が分散したものとなる。
【0028】
球状化処理は、例えば、特許第3639279号公報に記載されているような装置を用いて行えばよく、本実施例の複合銅粒子における球状化処理は、具体的には、日本高周波株式会社製の高温プラズマ発生装置YPK-70を自作のステンレス反応容器に接続した装置を用いて行い、Ar-H2雰囲気中で、30kWの電力によって熱プラズマフレームを発生させて行った。
【0029】
分級は、メッシュを用いた一般的な方法で行った。なお、特許第3639279号公報に記載されているように、微粒子を除去しつつ球状化処理を行ってもよい。分級の結果、いずれのサンプル番号のものも、粒子径10μm以上100μm以下の複合銅粒子が製造された。
【0030】
製造された複合銅粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM像)、および、粒度分布を、サンプル番号#22,#32のものについて、図2に示す。ちなみに、顕微鏡は、日立社製卓上顕微鏡TM400であり、粒度分布は、フリーソフトウェアのImage Jによって取得されたものである。いずれのサンプル番号のものも、各複合銅粒子の短径に対する長径の比は、1以上1.5以下であり、端的に言えば、いずれの複合銅粒子も略球形をなしている。
【0031】
[B]光吸収についての評価
i)各構成物質の光吸収率
実施例の複合銅粒子は、例えば、Ybファイバーレーザ3Dプリンタによる造形に利用することを想定しており、その用途において、Ybファイバーレーザのレーザ光の波長である約1.1μmの光の吸収率が問題となる。実施例の複合銅粒子を構成する物質の吸収率は、下記表のようになる。ちなみに、下記表には,高温強度が高く3Dプリンタに多用されるという理由から、ニッケル合金の一種であるインコネル718をも併記してある。なお、1.1μmの光に対する光吸収率と略近似しているため、下記表には、1μmの光に対する吸収率が掲げてある。
【表2】
【0032】
ii)光吸収の程度の測定方法
各複合銅粒子の光の吸収の程度の測定は、図3に示す測定装置を用いて行った。測定装置は、ビーカ20を載置する台22と、台22の下方に配設されたハロゲンスポットヒータ24と、ビーカ20内を攪拌する攪拌機26と、ビーカ20内の温度を測定する温度計28とを含んで構成されている。台22は、上下に、石英ガラス30で塞がれた開口を有しており、ハロゲンスポットヒータ24からの光は、台22を通してビーカ20内に照射される。台22の内部には、赤外線フィルタ32が配設されており、その赤外線フィルタ32は、台22の内部を流れる冷却水34によって冷却されるようになっている。
【0033】
ビーカ20の中には、所定量のメタノール36が入れられており、そのメタノール36は、攪拌機26によって攪拌されている。実施例の複合銅粒子38は、ビーカ20の底に沈降させられている。ハロゲンスポットヒータ24は、近赤外線(約1μm)の照射装置であり、銅の光の吸収率が高くなる1μm未満の波長の光は、赤外線フィルタ32によってカットされ、ビーカ20には届かない。ちなみに、ハロゲンスポットヒータ24からの光は、ビーカ20内において沈降させられている複合銅粒子38に焦点が合うようにされている。
【0034】
ハロゲンスポットヒータ24から光を照射し、温度計28によって測定される温度の変化によって、時間の経過に対する複合銅粒子38による発熱量を測定する。メタノール36,冷却水34,ビーカ20自体,石英ガラス30は、光を殆ど透過させるため、発熱には寄与しないとみなすことができる。複合銅粒子38が光を吸収する程度が高い程、つまり、複合銅粒子自体の光の吸収率が高い程、発熱が多くなると考えることができる。
【0035】
光吸収の程度の測定の結果として、図4に、ハロゲンスポットヒータからの光の照射を開始してからの時間の経過に対する発熱量を、実施例の各複合銅粒子について、グラフにして示す。なお、実施例の各複合銅粒子との比較のために、グラフには、比較例の粒子として、 a)サンプル番号#41:タフピッチ銅粒子(平均粒径30μm)、b)サンプル番号#42:インコネル718粒子(平均粒径35μm)についての発熱量についても掲載する。
【0036】
グラフから解るように、タフピッチ銅粒子(#41)については、最も発熱量が小さく、光の吸収の程度が最も低い。それに対して、実施例の複合銅粒子(#11~#33)は、いずれも、タフピッチ銅粒子よりも発熱量が大きく、光の吸収の程度が高くなっている。詳しく言えば、カーボンを光吸収物質とする複合銅粒子(#11,#21,#22)は、前駆体粒子の作製方法の違いに拘わらず、カーボンの配合比が高いもの程、光の吸収の程度が高く、同様に、マグネタイトを光吸収物質とする複合銅粒子(#31,#32,#33)も、マグネタイトの配合比が高いもの程、光の吸収の程度が高くなっている。さらに言えば、カーボン,マグネタイトの配合比をある程度高くすることによって、インコネル718粒子(#42)以上に、光の吸収の程度を高くすることが可能となる。
【0037】
[C]3Dプリンタによる造形
上記実施例の複合銅粒子のうち、サンプル番号#32のものを用い、EOS社製3D積層造形装置(EOS M280)にて、造形を行った。この3D積層造形装置は、レーザタイプが、Ybファイバーレーザであり、最大出力が400W,レーザ径が約100μmのものである。比較例として、サンプル番号#41のタフピッチ銅粒子をも用いて、造形を行った。造形体の寸法は、長さ100mm,幅50mm,厚さ20mmであり、サンプル番号#32の複合銅粒子に対しては出力200W、サンプル番号#41のタフピッチ銅粒子に対しては出力380Wで、ともに、積層ピッチ30μmの条件で造形を行った。なお、以下、サンプル番号#32の複合銅粒子を用いた造形体を、マグネタイト複合銅造形体と、サンプル番号#41のタフピッチ銅粒子を用いた造形体を、タフピッチ銅造形体と、それぞれ呼ぶこととする。
【0038】
それら造形体の特性として、硬さ(ビッカース硬度),電気伝導度,熱伝導率を測定し、それらの測定結果を、下記表に示す。
【表3】
【0039】
上記表から解るように、マグネタイト複合銅造形体は、電気伝導度,熱伝導率において、タフピッチ銅造形体と略同等の物性を示している。言い換えれば、実施例の複合銅粒子を用いることで、小さな出力のYbファイバーレーザでも、純銅の粒子を用いた造形体と同等の物性を有する造形体を造形することが可能なのである。
【0040】
なお、マグネタイト複合銅造形体の方が、タフピッチ銅造形体よりも、硬いものとなっている。これは、複合されているマグネタイト粒子が、銅のマトリクスの中に均一に分散しているため、アルミナ分散強化銅と同様の物性を示すためであると考えられる。したがって、マグネタイト複合銅造形体は、ある程度の高温状態においても、軟化することなく、高硬度,高伝導度が維持されることが期待される。
【符号の説明】
【0041】
10:高周波誘導コイル 12:プラズマフレーム 14:供給管 16:前駆体粒子 18:複合銅粒子 20:ビーカ 22:台 24:ハロゲンスポットヒータ 26:攪拌機 28:温度計 30:石英ガラス 32:赤外線フィルタ 34:冷却水 36:メタノール 38:複合銅粒子
図1
図2
図3
図4