(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/105 20120101AFI20240823BHJP
【FI】
B60W40/105
(21)【出願番号】P 2020139416
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大黒 智寛
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-107155(JP,A)
【文献】特開2011-139561(JP,A)
【文献】特開2010-076584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の複数の車輪それぞれの車輪速、および、前記車両の操舵角を取得する取得部と、
前記複数の車輪の車輪速のうち最小の車輪速および前記操舵角に基づいて、各車輪位置での車速を推定する推定部と、
を備え
、
前記推定部は、
前記最小の車輪速を有する車輪の車輪位置での車速を前記最小の車輪速と一致するものとし、
前記操舵角に基づいて前記車両の旋回半径を特定し、
前記旋回半径に基づいて、前記車両の旋回中心から前記最小の車輪速を有する車輪までの距離に対する前記旋回中心から当該車輪以外の他の車輪までの距離の比率を特定し、
前記比率に基づいて前記他の車輪の車輪位置での車速を推定する、
制御装置。
【請求項2】
前記推定部により推定された前記各車輪位置での車速を用いて前記車輪のスリップ率を制御する制御部をさらに備える、
請求項
1に記載の制御装置。
【請求項3】
車両の複数の車輪それぞれの車輪速、および、前記車両の操舵角を取得する取得部と、
前記複数の車輪の車輪速のうち最小の車輪速および前記操舵角に基づいて、各車輪位置での車速を推定する推定部と、
前記推定部により推定された前記各車輪位置での車速を用いて前記車輪のスリップ率を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記車両の全ての車輪がスリップしている場合、前記推定部により推定される前記各車輪位置での車速を用いた前記スリップ率の制御を行わない
、
制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車体挙動を安定化する目的で、車輪のスリップを抑制するためのスリップ抑制制御に関する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、車輪がスリップした場合に、車両の駆動トルクを低下させることによって、スリップを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スリップ抑制制御では、車輪のスリップ率が目標スリップ率に近づくように制御される。スリップ率は、車輪速と車速を用いて算出される。ここで、車両の旋回時には、内輪差が生じるので、各車輪位置での車速が車輪によって異なる。しかしながら、従来の技術では、スリップ率の算出において、車体の中央位置での速度である車体速が車速として用いられることが多い。ゆえに、スリップ率の算出値が実際のスリップ率から乖離してしまう。それにより、スリップ抑制制御において、スリップ率を適切に制御することが困難となるおそれがある。また、車輪のスリップが生じたか否かを判定するスリップ判定の判定精度が低下するおそれもある。
【0005】
そこで、本発明は、このような課題に鑑み、各車輪位置での車速を適切に推定することが可能な制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の制御装置は、車両の複数の車輪それぞれの車輪速、および、車両の操舵角を取得する取得部と、複数の車輪の車輪速のうち最小の車輪速および操舵角に基づいて、各車輪位置での車速を推定する推定部と、を備え、記推定部は、最小の車輪速を有する車輪の車輪位置での車速を最小の車輪速と一致するものとし、操舵角に基づいて車両の旋回半径を特定し、旋回半径に基づいて、車両の旋回中心から最小の車輪速を有する車輪までの距離に対する旋回中心から当該車輪以外の他の車輪までの距離の比率を特定し、比率に基づいて他の車輪の車輪位置での車速を推定する。
【0008】
推定部により推定された各車輪位置での車速を用いて車輪のスリップ率を制御する制御部をさらに備えてもよい。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の制御装置は、車両の複数の車輪それぞれの車輪速、および、車両の操舵角を取得する取得部と、複数の車輪の車輪速のうち最小の車輪速および操舵角に基づいて、各車輪位置での車速を推定する推定部と、推定部により推定された各車輪位置での車速を用いて車輪のスリップ率を制御する制御部と、を備え、制御部は、車両の全ての車輪がスリップしている場合、推定部により推定される各車輪位置での車速を用いたスリップ率の制御を行わない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各車輪位置での車速を適切に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る制御装置が搭載される車両の概略構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】スリップ率とグリップ力との関係を示す模式図である。
【
図4】車輪のスリップが発生していない場合の旋回時における各車輪の車輪速の一例を示す模式図である。
【
図5】車輪のスリップが発生している場合の旋回時における各車輪の車輪速の一例を示す模式図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る制御装置が行う各車輪位置での車速の推定に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】車両の旋回中心と各車輪との位置関係を示す模式図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る制御装置が行うトルクダウン制御に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
<車両の構成>
図1および
図2を参照して、本発明の実施形態に係る制御装置100が搭載される車両1の構成について説明する。
【0014】
図1は、車両1の概略構成を示す模式図である。
図1では、車両1の前進方向を前方向とし、前進方向に対して逆側の後退方向を後方向とし、前方向を向いた状態における左側および右側をそれぞれ左方向および右方向として、車両1が示されている。
【0015】
車両1は、駆動源として、駆動用モータを備え、駆動用モータから出力されるトルクを用いて走行する電気車両である。
【0016】
なお、以下で説明する車両1は、あくまでも本発明に係る制御装置が搭載される車両の一例であり、後述されるように、本発明に係る制御装置が搭載される車両の構成は車両1の構成に特に限定されない。
【0017】
図1に示されるように、車両1は、左前輪11aと、右前輪11bと、左後輪11cと、右後輪11dと、左前輪駆動用モータ13aと、右前輪駆動用モータ13bと、左後輪駆動用モータ13cと、右後輪駆動用モータ13dと、インバータ15a、15b、15c、15dと、バッテリ17と、左前輪モータ回転数センサ19aと、右前輪モータ回転数センサ19bと、左後輪モータ回転数センサ19cと、右後輪モータ回転数センサ19dと、操舵角センサ21と、車体速センサ23と、制御装置100とを備える。
【0018】
以下、左前輪11a、右前輪11b、左後輪11cおよび右後輪11dを区別しない場合には、これらを単に車輪11とも呼ぶ。また、左前輪駆動用モータ13a、右前輪駆動用モータ13b、左後輪駆動用モータ13cおよび右後輪駆動用モータ13dを区別しない場合には、これらを単に駆動用モータ13とも呼ぶ。また、インバータ15a、15b、15c、15dを区別しない場合には、これらを単にインバータ15とも呼ぶ。また、左前輪モータ回転数センサ19a、右前輪モータ回転数センサ19b、左後輪モータ回転数センサ19cおよび右後輪モータ回転数センサ19dを区別しない場合には、これらを単にモータ回転数センサ19とも呼ぶ。
【0019】
左前輪駆動用モータ13aは、左前輪11aと接続されており、左前輪11aを駆動するトルクを出力する。右前輪駆動用モータ13bは、右前輪11bと接続されており、右前輪11bを駆動するトルクを出力する。左後輪駆動用モータ13cは、左後輪11cと接続されており、左後輪11cを駆動するトルクを出力する。右後輪駆動用モータ13dは、右後輪11dと接続されており、右後輪11dを駆動するトルクを出力する。
【0020】
駆動用モータ13は、例えば、多相交流式のモータである。左前輪駆動用モータ13aは、インバータ15aを介してバッテリ17と接続されている。右前輪駆動用モータ13bは、インバータ15bを介してバッテリ17と接続されている。左後輪駆動用モータ13cは、インバータ15cを介してバッテリ17と接続されている。右後輪駆動用モータ13dは、インバータ15dを介してバッテリ17と接続されている。バッテリ17から供給される直流電力は、各インバータ15によって交流電力に変換され、各駆動用モータ13へ供給される。各駆動用モータ13は、バッテリ17から供給される電力を用いて駆動される。
【0021】
駆動用モータ13は、車輪11の駆動トルクを出力する機能の他に、車輪11の運動エネルギを用いて発電する発電機としての機能を有してもよい。駆動用モータ13が発電機として機能する場合、駆動用モータ13により発電が行われるとともに、回生制動による制動力が車両1に付与される。駆動用モータ13により発電された交流電力は、インバータ15によって直流電力に変換され、バッテリ17へ供給される。それにより、バッテリ17が充電される。
【0022】
左前輪モータ回転数センサ19aは、左前輪駆動用モータ13aの回転数を検出し、検出結果を出力する。左前輪モータ回転数センサ19aにより検出される左前輪駆動用モータ13aの回転数は、左前輪11aの車輪速を示す情報に相当し得る。
【0023】
右前輪モータ回転数センサ19bは、右前輪駆動用モータ13bの回転数を検出し、検出結果を出力する。右前輪モータ回転数センサ19bにより検出される右前輪駆動用モータ13bの回転数は、右前輪11bの車輪速を示す情報に相当し得る。
【0024】
左後輪モータ回転数センサ19cは、左後輪駆動用モータ13cの回転数を検出し、検出結果を出力する。左後輪モータ回転数センサ19cにより検出される左後輪駆動用モータ13cの回転数は、左後輪11cの車輪速を示す情報に相当し得る。
【0025】
右後輪モータ回転数センサ19dは、右後輪駆動用モータ13dの回転数を検出し、検出結果を出力する。右後輪モータ回転数センサ19dにより検出される右後輪駆動用モータ13dの回転数は、右後輪11dの車輪速を示す情報に相当し得る。
【0026】
操舵角センサ21は、車両1のステアリングホイールの操舵角を検出し、検出結果を出力する。
【0027】
車体速センサ23は、車体の中央位置での速度である車体速を検出し、検出結果を出力する。車体速センサ23による車体速の検出は、例えば、車両1の加速度に基づいて行われてもよく、GPS(Global Positioning System)信号に基づいて行われてもよい。
【0028】
制御装置100は、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)、CPUが使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する記憶素子であるROM(Read Only Memory)、および、CPUの実行において適宜変化するパラメータ等を一時記憶する記憶素子であるRAM(Random Access Memory)等を含む。
【0029】
制御装置100は、車両1に搭載される各装置と通信を行う。例えば、制御装置100は、各インバータ15、各モータ回転数センサ19、操舵角センサ21および車体速センサ23等と通信を行う。制御装置100と各装置との通信は、例えば、CAN(Controller Area Network)通信を用いて実現される。
【0030】
なお、本実施形態に係る制御装置100が有する機能は複数の制御装置により分割されてもよく、複数の機能が1つの制御装置によって実現されてもよい。制御装置100が有する機能が複数の制御装置により分割される場合、当該複数の制御装置は、CAN等の通信バスを介して、互いに接続されてもよい。
【0031】
図2は、制御装置100の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0032】
例えば、
図2に示されるように、制御装置100は、取得部110と、推定部120と、制御部130とを有する。
【0033】
取得部110は、推定部120および制御部130が行う処理において用いられる各種情報を取得し、推定部120および制御部130へ出力する。例えば、取得部110は、各モータ回転数センサ19、操舵角センサ21および車体速センサ23から情報を取得する。
【0034】
推定部120は、各車輪位置での車速を推定する。推定部120により推定された各車輪位置での車速は、制御部130が行う処理に利用される。なお、推定部120が行う各車輪位置での車速の推定に関する処理の詳細については、後述する。
【0035】
制御部130は、車両1内の各装置の動作を制御することによって、車両1の走行を制御する。特に、制御部130は、各駆動用モータ13の動作を制御する。
【0036】
具体的には、制御部130は、各インバータ15のスイッチング素子の動作を制御することによって、バッテリ17と各駆動用モータ13との間の電力の供給を制御する。それにより、各駆動用モータ13により出力されるトルクが制御される。制御部130は、各駆動用モータ13の動作を個別に制御することによって、各車輪11のトルクを個別に制御することができる。
【0037】
ここで、制御部130は、車輪11のトルクを制御することによって、車輪11のスリップ率を制御することができる。例えば、制御部130は、車輪11のスリップが発生したと判定した場合に、車輪11のスリップを抑制するためのスリップ抑制制御として、トルクダウン制御を行う。トルクダウン制御は、車輪11のトルクを要求トルクに対して低下させる制御である。スリップは、車輪11が空転する現象を意味し、例えば、車両1が低μ路に進入した際に生じる。制御部130は、例えば、車輪11のスリップ率が基準スリップ率を超えた場合に、車輪11のスリップが発生していると判定することができる。
【0038】
<制御装置の動作>
続いて、
図3~
図7を参照して、本発明の実施形態に係る制御装置100の動作について説明する。
【0039】
上述したように、制御部130は、車輪11のスリップが発生したと判定した場合に、トルクダウン制御を行う。制御部130は、トルクダウン制御において、車輪11のスリップ率が目標スリップ率に近づくように、車輪11のトルクを制御する。目標スリップ率は、タイヤと路面との間に生じる摩擦力であるグリップ力が効果的に回復される範囲内の値に設定される。
【0040】
図3は、スリップ率とグリップ力との関係を示す模式図である。
図3に示されるように、一般に、グリップ力の進行方向成分である縦グリップ力は、車輪11のスリップ率が0%から20%程度まで増大する過程で増大し、その後、車輪11のスリップ率が増大する過程では減少する。また、一般に、グリップ力の進行方向に垂直な成分である横グリップ力は、車輪11のスリップ率が高くなるにつれて減少する。ゆえに、縦グリップ力および横グリップ力を高い水準で両立させるためには、10%程度から20%程度までの目標領域内に車輪11のスリップ率を調整することが好ましい。よって、目標スリップ率は、例えば、車輪11のタイヤのグリップ力が効果的に回復される範囲である上記の目標領域内の値に設定される。
【0041】
図4は、車輪11のスリップが発生していない場合の旋回時における各車輪11の車輪速の一例を示す模式図である。
図4では、各車輪11の車輪速V1、V2、V3、V4、および、それらの平均値Vaの推移が示されている。スリップが発生していない車輪11のスリップ率は0%なので、当該車輪11の車輪速は、当該車輪11の車輪位置での車速と一致する。ここで、
図4に示されるように、車輪11のスリップが発生していない場合であっても、車両1の旋回時には、内輪差が生じるので、各車輪11の車輪速V1、V2、V3、V4が互いに異なる。つまり、各車輪位置での車速が車輪11によって異なる。
【0042】
図5は、車輪11のスリップが発生している場合の旋回時における各車輪11の車輪速の一例を示す模式図である。
図5では、
図4と同様に、各車輪11の車輪速V1、V2、V3、V4、および、それらの平均値Vaの推移が示されている。
図5に示される例では、車輪速V1、V2と対応する車輪11においてスリップが発生している。ゆえに、
図4に示される例と比べて、車輪速V1、V2が大きくなっている。
【0043】
ところで、従来の技術では、スリップ率の算出において、車体の中央位置での速度である車体速が車速として用いられている。具体的には、車輪速と車体速との差を車体速で除算して得られる値が、スリップ率として算出される。しかしながら、上述したように、車両1の旋回時には、各車輪位置での車速は車輪11によって異なる。ゆえに、スリップ率の算出において車輪速との比較対象となる車速として車体速が用いられる場合、スリップ率の算出値が実際のスリップ率から乖離してしまう。それにより、トルクダウン制御において、スリップ率を適切に制御することが困難となるおそれがある。また、車輪11のスリップが生じたか否かを判定するスリップ判定の判定精度が低下するおそれもある。
【0044】
ここで、本実施形態では、推定部120は、複数の車輪11の車輪速のうち最小の車輪速および操舵角に基づいて、各車輪位置での車速を推定する。それにより、各車輪位置での車速を適切に推定することが可能となる。ゆえに、スリップ率の制御、および、スリップ判定が適正化される。以下、制御装置100が行う各車輪位置での車速の推定に関する処理の詳細について、
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0045】
図6は、制御装置100が行う各車輪位置での車速の推定に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6に示される制御フローは、例えば、設定時間間隔を空けて繰り返し開始される。
【0046】
図6に示される制御フローが開始されると、まず、ステップS101において、取得部110は、各車輪11の車輪速を取得する。取得部110は、例えば、各モータ回転数センサ19から取得される各駆動用モータ13の回転数を、各車輪11の車輪速として取得する。
【0047】
次に、ステップS102において、取得部110は、操舵角を取得する。取得部110は、例えば、操舵角センサ21から操舵角を取得する。
【0048】
次に、ステップS103において、推定部120は、各車輪11の車輪速のうち最小の車輪速を特定する。上述したように、スリップが発生している車輪11の車輪速は、他の車輪11の車輪速よりも大きくなる。つまり、全ての車輪11がスリップしている場合等の特殊な状況を除き、最小の車輪速を有する車輪11ではスリップが生じていないと判断できる。ゆえに、最小の車輪速を有する車輪11の車輪速は、当該車輪11の車輪位置での車速と基本的に一致する。
【0049】
次に、ステップS104において、推定部120は、最小の車輪速および操舵角に基づいて、各車輪位置での車速を推定し、
図6に示される制御フローを終了する。
【0050】
図7は、車両1の旋回中心PTと各車輪11との位置関係を示す模式図である。
図7では、車両1が進行方向に対して左側に旋回する場合の例が示されている。推定部120は、例えば、操舵角と車両1の旋回半径Rとの関係と、旋回半径Rと車両1の旋回中心PTから各車輪11までの距離との関係とに基づいて、各車輪位置での車速を推定する。以下、推定部120が、アッカーマンの定理を利用して、幾何的に各車輪位置での車速を推定する例について説明する。
【0051】
例えば、推定部120は、操舵角に基づいて車両1の旋回半径Rを特定する。操舵角が大きくなるほど、旋回半径Rは小さくなる。そして、推定部120は、旋回半径Rに基づいて旋回中心PTの位置を特定する。旋回中心PTは、左後輪11cの中心と右後輪11dの中心とを結ぶ直線上に位置し、車体中心PVから旋回半径Rだけ離れている。推定部120は、具体的には、旋回半径Rに加えて車両1の車幅Tおよび車長Lを用いることによって、旋回中心PTの位置を特定することができる。旋回中心PTの位置が特定されると、推定部120は、旋回中心PTから左前輪11aまでの距離D-FL、旋回中心PTから右前輪11bまでの距離D-FR、旋回中心PTから左後輪11cまでの距離D-RL、および、旋回中心PTから右後輪11dまでの距離D-RRを特定することができる。
【0052】
ここで、各車輪位置での車速の比率は、旋回中心PTから各車輪11までの距離の比率と一致する。例えば、旋回中心PTから右後輪11dまでの距離D-RRが、旋回中心PTから左後輪11cまでの距離D-RLの1.5倍である場合、右後輪11dの車輪位置での車速は、左後輪11cの車輪位置での車速の1.5倍となる。ゆえに、例えば、左後輪11cの車輪速が最小の車輪速である場合、推定部120は、左後輪11cの車輪速を1.5倍して得られる値を右後輪11dの車輪速として推定する。
【0053】
なお、推定部120による各車輪位置での車速の推定処理は、上記の例に特に限定されない。例えば、操舵角と車両1の旋回半径Rとの関係を規定するマップと、旋回半径Rと車両1の旋回中心PTから各車輪11までの距離との関係を規定するマップとが制御装置100の記憶素子に予め記憶されていてもよい。この場合、推定部120は、これらのマップと、最小の車輪速と、操舵角とを用いて、各車輪位置での車速を推定することができる。
【0054】
上記のように、操舵角が決まると旋回半径Rが決まる。また、旋回半径Rが決まると旋回中心PTから各車輪11までの距離が決まる。そして、推定部120は、旋回中心PTから各車輪11までの距離の比率と、最小の車輪速とに基づいて、各車輪位置での車速を推定する。
【0055】
図8は、制御装置100が行うトルクダウン制御に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8に示される制御フローは、トルクダウン制御が実行されていない場合に開始される。
図8に示される制御フローは、例えば、
図6に示される制御フローと並列して行われる。
【0056】
図8に示される制御フローが開始されると、まず、ステップS201において、制御装置100は、車輪11のスリップが発生したか否かを判定する。車輪11のスリップが発生したと判定された場合(ステップS201/YES)、制御装置100は、ステップS202に進む。車輪11のスリップが発生していないと判定された場合(ステップS201/NO)、制御装置100は、
図8に示される制御フローを終了する。
【0057】
ステップS201では、制御装置100は、例えば、推定部120により推定される各車輪位置での車速を用いて各車輪11のスリップ率を算出し、各車輪11のスリップ率と基準スリップ率を比較することによって、各車輪11のスリップが発生したか否かを判定する。基準スリップ率は、車体挙動が不安定になる程度に車輪11がスリップしているか否かを適切に判断し得る値であり、例えば、制御装置100の記憶素子に予め記憶されている。制御装置100は、少なくとも1つの車輪11においてスリップが発生していると判定した場合、ステップS201でYESと判定する。一方、制御装置100は、いずれの車輪11においてもスリップが発生していないと判定した場合、ステップS201でNOと判定する。
【0058】
なお、ステップS201の判定処理は、上記の例に特に限定されない。例えば、制御装置100は、各駆動用モータ13の回転数の時間変化量に基づいて、各車輪11のスリップが発生したか否かを判定してもよい。
【0059】
ステップS201でYESと判定された場合、ステップS202において、制御装置100は、全ての車輪11がスリップしているか否かを判定する。全ての車輪11がスリップしていると判定されなかった場合(ステップS202/NO)、制御装置100は、ステップS203に進み、推定部120により推定される各車輪位置での車速を用いたトルクダウン制御を実行する。全ての車輪11がスリップしていると判定された場合(ステップS202/YES)、制御装置100は、ステップS204に進み、車体速センサ23から取得される車体速を用いたトルクダウン制御を実行する。なお、制御装置100は、所定の終了条件が満たされた場合にトルクダウン制御を終了し、その後、
図8に示される制御フローを終了する。
【0060】
上記のように、制御部130は、車両1の全ての車輪11がスリップしている場合、推定部120により推定される各車輪位置での車速を用いたスリップ率の制御であるトルクダウン制御を行わない。全ての車輪11がスリップしている場合には、最小の車輪速を有する車輪11においてもスリップが発生している。ゆえに、最小の車輪速を有する車輪11の車輪速は、当該車輪11の車輪位置での車速から乖離している。よって、推定部120により推定される各車輪位置での車速が、実際の各車輪位置での車速から乖離しやすくなる。したがって、このような場合には、推定部120により推定される各車輪位置での車速を用いたトルクダウン制御を実行するよりも、車体速を用いたトルクダウン制御を実行する方が、却ってスリップ率の制御が適正化され得る。
【0061】
なお、上記では、車両1の全ての車輪11がスリップしているか否かの判定の結果によらずに、推定部120による各車輪位置での車速の推定処理が行われる例を説明したが、車両1の全ての車輪11がスリップしていると判定された場合、推定部120は、各車輪位置での車速の推定処理を行わなくてもよい。
【0062】
<制御装置の効果>
続いて、本発明の実施形態に係る制御装置100の効果について説明する。
【0063】
本実施形態に係る制御装置100では、取得部110は、車両1の複数の車輪11それぞれの車輪速、および、車両1の操舵角を取得する。そして、推定部120は、複数の車輪11の車輪速のうち最小の車輪速および操舵角に基づいて、各車輪位置での車速を推定する。ゆえに、最小の車輪速を有する車輪11の車輪速が当該車輪11の車輪位置での車速と基本的に一致する点に着目することによって、各車輪位置での車速を適切に推定することができる。それにより、スリップ率の制御、および、スリップ判定が適正化される。
【0064】
また、本実施形態に係る制御装置100では、推定部120は、操舵角と車両1の旋回半径Rとの関係と、旋回半径Rと車両1の旋回中心PTから複数の車輪11までの距離との関係とに基づいて、各車輪位置での車速を推定することが好ましい。それにより、例えば、アッカーマンの定理を利用し、各車輪位置での車速をより適切に推定することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る制御装置100は、推定部120により推定された各車輪位置での車速を用いて車輪11のスリップ率を制御する制御部130をさらに備えることが好ましい。それにより、スリップ率の算出値が実際のスリップ率から乖離することが抑制された上で、そのようなスリップ率の算出値を用いてスリップ率を制御することができる。ゆえに、スリップ率を適切に制御することができる。
【0066】
また、本実施形態に係る制御装置100では、制御部130は、車両1の全ての車輪11がスリップしている場合、推定部120により推定される各車輪位置での車速を用いたスリップ率の制御を行わないことが好ましい。それにより、最小の車輪速を有する車輪11の車輪速が当該車輪11の車輪位置での車速から乖離している場合に、例えば、車体速を用いたスリップ率の制御を実行することによって、スリップ率を適切に制御することができる。
【0067】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例または修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0068】
例えば、上記では、
図1を参照して、車両1の構成について説明したが、本発明に係る車両の構成は、このような例に限定されない。本発明に係る車両は、例えば、
図1に示される車両1に対して一部の構成要素の削除、追加または変更を加えたものであってもよい。また、本発明に係る車両は、例えば、左前輪11aおよび右前輪11bを駆動する前輪駆動用モータと、左後輪11cおよび右後輪11dを駆動する後輪駆動用モータとの2つの駆動用モータが設けられる車両であってもよい。なお、その場合、各車輪11に対して車輪速センサを設けることによって、各車輪11の車輪速が取得され得る。また、本発明に係る車両における駆動源の一部または全部が駆動用モータ以外の駆動源(例えば、エンジン等)であってもよい。
【0069】
また、例えば、本明細書においてフローチャートを用いて説明した処理は、必ずしもフローチャートに示された順序で実行されなくてもよい。また、追加的な処理ステップが採用されてもよく、一部の処理ステップが省略されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、制御装置に利用できる。
【符号の説明】
【0071】
1 車両
11 車輪
13 駆動用モータ
15 インバータ
17 バッテリ
19 モータ回転数センサ
21 操舵角センサ
23 車体速センサ
100 制御装置
110 取得部
120 推定部
130 制御部
D-FL 距離
D-FR 距離
D-RL 距離
D-RR 距離
PT 旋回中心
R 旋回半径