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特許7542364ノコギリヒラタムシ、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキの誘引剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】ノコギリヒラタムシ、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキの誘引剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/08 20060101AFI20240823BHJP
   A01N 63/14 20200101ALI20240823BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20240823BHJP
   A01P 19/00 20060101ALI20240823BHJP
   A01M 1/02 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
A01N43/08 H
A01N63/14
A01N43/16
A01P19/00
A01M1/02 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020143995
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039131
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】391020584
【氏名又は名称】富士フレーバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】中川 りき
(72)【発明者】
【氏名】武藤 進悦
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106417274(CN,A)
【文献】特開2017-006126(JP,A)
【文献】特開2012-005360(JP,A)
【文献】特開2012-001532(JP,A)
【文献】特開平11-130612(JP,A)
【文献】特開昭52-082729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 43/
A01N 63/
A01P 19/
A01M 1/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソトロンを含むか、またはソトロンとマルトールを含むことを特徴とする、ノコギリヒラタムシの誘引剤。
【請求項2】
ソトロンを含むことを特徴とする、鞘翅目ゴミムシダマシ科に属する昆虫の誘引剤。
【請求項3】
鞘翅目ゴミムシダマシ科に属する昆虫が、コクヌストモドキ又はヒラタコクヌストモドキであることを特徴とする、請求項2に記載の誘引剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞘翅目に属する昆虫の誘引剤に関する。特に、本発明は、ホソヒラタムシ科に属するノコギリヒラタムシ、ゴミムシダマシ科に属するコクヌストモドキおよびヒラタコクヌストモドキの誘引剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鞘翅目ホソヒラタムシ科に属するノコギリヒラタムシ(学名:Oryzaephilus surinamensis)、鞘翅目ゴミムシダマシ科に属するコクヌストモドキ(学名:Tribolium castaneum)とヒラタコクヌストモドキ(学名:Tribolium confusum)は、日本をはじめ世界各地に生息し、穀粉や加工食品などの貯蔵食品を加害する害虫である。これらの害虫は、単に食糧ロスを生じさせるだけでなく、食品中に混入することでクレームや企業イメージの失墜を引き起こし、食品業界に多大な経済的被害をもたらす。
【0003】
ノコギリヒラタムシ、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキの被害を予防あるいは防除するためには、総合的害虫管理の観点からモニタリングが重要な役割を担っている。害虫のモニタリングを行う一般的な手段としては、粘着トラップ、光に集まる習性を利用したライトトラップ、誘引物質を利用したトラップなどがあるが、上記3種の虫については、誘引物質を使用したトラップが最も効果的である。
【0004】
ノコギリヒラタムシ、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキの誘引物質としては、コクヌストモドキおよびヒラタコクヌストモドキの集合フェロモンである、4,8-ジメチルデカナール(SUZUKI, T., & SUGAWARA, R. (1979). Isolation of an aggregation pheromone from the flour beetles, Tribolium castaneum and T. confusum (Coleoptera: Tenebrionidae). Applied Entomology and Zoology, 14(2), 228-230.)、ならびにノコギリヒラタムシの集合フェロモンである、3,6-ドデカジエン-12-オライド、3,6-ドデカジエン-11-オライド、5,8-テトラデカジエン-13-オライド(Pierce, A. M., Pierce Jr, H. D., Oehlschlager, A. C., & Borden, J. H. (1985). Macrolide aggregation pheromones in Oryzaephilus surinamensis and O. mercator (Coleoptera: Cucujidae). Journal of Agricultural and Food Chemistry, 33(5), 848-852.)のほか、特にノコギリヒラタムシについてはイナゴマメ抽出エキス(O’Donnell, M. J., Chambers, J., & McFarland, S. M. (1983). Attractancy to Oryzaephilus surinamensis (L.), saw-toothed grain beetle, of extracts of carobs, some triglycerides, and related compounds. Journal of Chemical Ecology, 9(3), 357-374.)が知られ、実用化されている。
【0005】
しかし、これらの誘引物質には一定の効果があるものの、実用上十分とまでは言えず、さらに誘引効果の高い物質の発見が望まれていた。
【0006】
フェロモン以外で昆虫を誘引する物質を探索するには、一般的にその昆虫の餌(食草など)の匂い成分を捕集分析し、検出した物質を網羅的に生物実験に供す手法がとられるが、膨大な数の物質を検査するには労力がかかるうえ、結果として効果的な誘引物質が見つからないことも多い。また、ある物質がある昆虫を誘引することが分かっていても、その物質が他の昆虫に対しても同様の効果を持つかどうかは全く予測できず、昆虫の新規誘引物質を発見することは非常に困難なことである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】SUZUKI, T., & SUGAWARA, R. (1979). Isolation of an aggregation pheromone from the flour beetles, Tribolium castaneum and T. confusum (Coleoptera: Tenebrionidae). Applied Entomology and Zoology, 14(2), 228-230.
【文献】Pierce, A. M., Pierce Jr, H. D., Oehlschlager, A. C., & Borden, J. H. (1985). Macrolide aggregation pheromones in Oryzaephilus surinamensis and O. mercator (Coleoptera: Cucujidae). Journal of Agricultural and Food Chemistry, 33(5), 848-852.
【文献】O’Donnell, M. J., Chambers, J., & McFarland, S. M. (1983). Attractancy to Oryzaephilus surinamensis (L.), saw-toothed grain beetle, of extracts of carobs, some triglycerides, and related compounds. Journal of Chemical Ecology, 9(3), 357-374.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、ノコギリヒラタムシ、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキに対して強い誘引効果を有する誘引剤を提供することを目的とする。さらに、その有効成分が安全であり、日常的な使用にも耐えうることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、ノコギリヒラタムシ、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキに対して誘引効果を持つ物質について鋭意検討した。その結果、以下に示す誘引剤を見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、第一に、ソトロンとマルトールからなる群より選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする、ノコギリヒラタムシの誘引剤である。
第二に、ソトロンを含むことを特徴とする、鞘翅目ゴミムシダマシ科に属する昆虫の誘引剤である。
第三に、鞘翅目ゴミムシダマシ科に属する昆虫が、コクヌストモドキ又はヒラタコクヌストモドキであることを特徴とする、上記第二に記載の誘引剤である。
【0011】
ソトロンは、鞘翅目のホソヒラタムシ科に属するノコギリヒラタムシ、およびゴミムシダマシ科に属する昆虫、特に、コクヌストモドキまたはヒラタコクヌストモドキに対する誘引効果を有する。さらに、マルトールは、鞘翅目の中でもノコギリヒラタムシに対する誘引効果が顕著である。
【0012】
本発明に係る誘引剤の調製は、これらの物質を用いて通常誘引剤の調製に際して適用されている製剤化技術を用いて行うことができる。例えば、これらの化合物をそのまま、あるいはエーテル、アセトン、アルコール、ヘキサン、ペンタン、ジクロロメタン、トリグリセライド等の適当な溶媒で希釈した後、適当な担体、例えば、各種合成高分子体、ゴム等に吸着させたり、綿や不織布、紙、繊維等に含浸させたり、さらに適当な高分子材料の成型物に封入して製剤化することができる。
【0013】
誘引剤における有効成分の含有量は使用環境に応じて適宜定めることができるが、本発明においては、通常製剤あたり有効成分量を0.001mg~1g添加することができ、好ましくは0.01mg~10mgの範囲である。
【0014】
本発明の誘引剤は水盤式、滑落式、粘着式等の任意の形態の捕虫器の誘引源として利用することができる。また、接触毒作用を有するダイアジノン等の殺虫剤を塗布した木片、樹脂片等に含浸させ、誘引捕殺に利用することも可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ソトロンとマルトールのうち少なくとも片方、または両方を任意の比率で混合したものを含む誘引剤により、従来の誘引剤と比べ強力に、ノコギリヒラタムシ、コクヌストモドキ、またはヒラタコクヌストモドキといった害虫を誘引することができる。また、ソトロンやマルトールは食品香料のため安全であり、食品工場等での日常的な使用にも耐えうるものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例で使用した誘引剤は、全て不織布に誘引物質を規定量含浸させ、その後ポリエチレンフィルムで覆って製剤化したものである。
【実施例1】
【0017】
ノコギリヒラタムシの誘引剤として、以下の誘引物質A、B、C、D、E、F、Gを上記の手法に則りそれぞれ製剤化したものを用いた。
A:5,8-テトラデカジエン-13-オライド(ノコギリヒラタムシフェロモン)1mg
B:イナゴマメ抽出エキスをエタノールで精製したもの5mg
C:ソトロン1mg
D:ソトロン0.1mg
E:マルトール1mg
F:マルトール0.1mg
G:ソトロン1mg+マルトール1mg
【0018】
これらの誘引剤を、粘着紙を使用した害虫捕獲器(「トリオス」、富士フレーバー株式会社製)に装填し、何も誘引剤を入れない同一の害虫捕獲器とともに、互いに30cmの距離を置いて一辺50cmの塩化ビニル製ケージの底面に設置した。このケージ内部に、ノコギリヒラタムシ100匹を放飼し24時間自由に活動させた。
【0019】
24時間後、各捕獲器の捕虫数を計測しEPI:(誘引剤入りトラップの捕虫数-何も入れないトラップの捕虫数)/(誘引剤入りトラップの捕虫数+何も入れないトラップの捕虫数)を算出した。複数回行ったEPIの平均値は、A:0.11、B:0.13、C:0.39、D:0.24、E:0.34、F:0.48、G:0.31であった。
【0020】
この結果により、ソトロンやマルトールは既知のフェロモンやイナゴマメ抽出エキスに比べ、格段に高い誘引力を持つことが示された。
【実施例2】
【0021】
コクヌストモドキの誘引剤として、以下の誘引物質H、Iを上記の手法に則りそれぞれ製剤化したものを用いた。
H:4,8-ジメチルデカナール(コクヌストモドキフェロモン)1mg
I:ソトロン0.1mg
【0022】
これらの誘引剤を、粘着紙を使用した害虫捕獲器(「トリオス」、富士フレーバー株式会社製)に装填し、何も誘引剤を入れない同一の害虫捕獲器とともに、互いに50cmの距離を置いて一辺100cmの塩化ビニル製ケージの底面に設置した。このケージ内部に、コクヌストモドキ100匹を放飼し、24時間自由に活動させた。
【0023】
24時間後、各捕獲器の捕虫数を計測し、実施例1と同様にEPIを算出した。複数回行ったEPIの平均値は、H:0.19、I:0.25であった。
【0024】
この結果により、ソトロンは既知のフェロモンに比べ、高い誘引力を持つことが示された。
【実施例3】
【0025】
ヒラタコクヌストモドキの誘引剤として、以下の誘引物質J、Kを上記の手法に則りそれぞれ製剤化したものを用いた。
J:4,8-ジメチルデカナール(ヒラタコクヌストモドキフェロモン)1mg
K:ソトロン1mg
【0026】
これらの誘引剤を、粘着紙を使用した害虫捕獲器(「トリオス」、富士フレーバー株式会社製)に装填し、何も誘引剤を入れない同一の害虫捕獲器とともに、互いに50cmの距離を置いて一辺100cmの塩化ビニル製ケージの底面に設置した。このケージ内部に、ヒラタコクヌストモドキ80匹を放飼し、24時間自由に活動させた。
【0027】
24時間後、各捕獲器の捕虫数を計測し、実施例1と同様にEPIを算出した。複数回行ったEPIの平均値は、J:-0.045、K:0.13であった。
【0028】
この結果により、ソトロンは既知のフェロモンに比べ、高い誘引力を持つことが示された。