(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】車室の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23C 3/04 20060101AFI20240823BHJP
F04D 29/60 20060101ALI20240823BHJP
B23Q 5/04 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B23C3/04
F04D29/60 H
B23Q5/04 520C
B23Q5/04 520D
(21)【出願番号】P 2020154460
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉原 大志
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-151049(JP,A)
【文献】特開2001-300811(JP,A)
【文献】特開2001-239409(JP,A)
【文献】米国特許第05779406(US,A)
【文献】国際公開第2020/148767(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102007021659(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 1/00-9/00
B23Q 5/00-5/58
B23B 1/00-25/06
B23B 35/00-49/06
F04D 29/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心として延びる筒状に形成された車室本体、及び前記車室本体から前記軸線を基準とする径方向の外側に向かって突出し、前記車室本体の内部と連通する吸込ノズル及び排出ノズルを有する車室の製造方法であって、
筒状に形成された車室本体形成部、及び前記車室本体形成部から前記径方向の外側に向かって突出する突出部形成部、を有する車室形成部材を準備する工程と、
鉛直方向に延びるテーブル軸を中心として回転可能なテーブル上に前記車室形成部材を載置し、前記車室形成部材に対して前記径方向の内側に工具軸を中心として回転可能な工具を配置する工程と、
前記車室形成部材とともに前記テーブル軸を中心として前記テーブルを回転させるとともに、前記工具軸を中心として前記工具を回転させながら、前記工具で、前記車室形成部材の内周面を切削加工して前記車室を形成する工程と、を含み、
前記テーブル軸を中心とする前記テーブルの回転数は、前記工具軸を中心とする前記工具の回転数よりも低く、
前記テーブルの回転数は
、1rpm以下である車室の製造方法。
【請求項2】
前記工具は、前記テーブル軸に対して交差するように前記工具軸が延びている請求項1に記載の車室の製造方法。
【請求項3】
前記工具は、前記テーブル軸と平行に前記工具軸が延びている請求項1又は2に記載の車室の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車室の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、筒状に形成されて、その内部にロータを収容可能な車室を備えた遠心圧縮機が開示されている。この構成において、車室は、円筒状の車室の本体部分から径方向の外側に突出するように吸込ノズルや吐出ノズルが一体に形成されている。
【0003】
このような車室を製造するには、ターニング加工を用いるのが一般的である。ターニング加工では、予め筒状に形成された車室の本体部分となるワークを載せたテーブルを、鉛直軸周りに高速回転させる。これにより、ワークがテーブルと共に鉛直軸周りに高速回転する。この状態で、筒状のワークに対して径方向の内側に工具を挿入し、工具の先端をワークの内周面に押し当てる。これにより、工具の先端に対し、鉛直軸周りに回転するワークの内周面が相対移動し、ワークの内周面が切削加工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したように車室には、ワークの外周面から突出する吸込ノズルや吐出ノズルが形成されている。この吸込ノズルや吐出ノズルの重量は、車室が大型となった場合には、非常大きくなる。そのため、吸込ノズルや吐出ノズルによって、ワーク自体の重心が中心軸からずれるように偏心している場合がある。このようなワークに対して、ターニング加工のためにテーブルを高速回転させると、重量物である吸込ノズルや吐出ノズルによって偏心した状態であるワークには大きな遠心力が作用する。その結果、高速回転するワークのバランスが大きく崩れ、加工精度を確保できない可能性がある。そのため、偏心しているワークの加工時のバランスを確保するためには、テーブルの回転数を抑えて吸込ノズルや吐出ノズルによって生じる遠心力の影響を抑える必要がある。しかしながら、テーブルの回転数を抑えた場合には、加工に要する時間が増大してしまう。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、大型の車室であっても、加工時にバランスを崩すことを抑えつつ、加工時間も抑えることができる車室の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係る車室の製造方法は、軸線を中心として延びる筒状に形成された車室本体、及び前記車室本体から前記軸線を基準とする径方向の外側に向かって突出し、前記車室本体の内部と連通する吸込ノズル及び排出ノズルを有する車室の製造方法であって、筒状に形成された車室本体形成部、及び前記車室本体形成部から前記径方向の外側に向かって突出する突出部形成部、を有する車室形成部材を準備する工程と、鉛直方向に延びるテーブル軸を中心として回転可能なテーブル上に前記車室形成部材を載置し、前記車室形成部材に対して前記径方向の内側に工具軸を中心として回転可能な工具を配置する工程と、前記車室形成部材とともに前記テーブル軸を中心として前記テーブルを回転させるとともに、前記工具軸を中心として前記工具を回転させながら、前記工具で、前記車室形成部材の内周面を切削加工して前記車室を形成する工程と、を含み、前記テーブル軸を中心とする前記テーブルの回転数は、前記工具軸を中心とする前記工具の回転数よりも低く、前記テーブルの回転数は、1rpm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の車室の製造方法によれば、大型の車室であっても、加工時にバランスを崩すことを抑えつつ、加工時間も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態に係る車室の製造方法によって製造する車室の概略構成を示す断面図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る車室の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】車室形成部材を準備する工程で予め準備した車室形成部材を示す断面図である。
【
図4】車室の端面に第一基準面及び第二基準面を形成した状態を示す断面図である。
【
図6】上記実施形態の車室の製造方法によって形成された、車室本体形成部の内周面に形成される加工痕を示す図である。
【
図7】ターニング加工によって生じる加工痕を示す参考図である。
【
図8】本開示の実施形態に係る車室の製造方法の変形例で用いる工具の変形例を示す図である。
【
図9】上記実施形態の車室の製造方法の変形例の工具によって形成された、車室本体形成部の内周面に形成される加工痕を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本開示による車室の製造方法を実施するための形態を説明する。しかし、本開示はこの実施形態のみに限定されるものではない。
【0011】
(車室の構成)
図1に示すように、車室5は、回転機械1の一部を構成する。回転機械1は、ロータ2と、車室5と、を主に備えている。本開示の実施形態において、回転機械1は、例えば、多段式の遠心圧縮機である。
【0012】
ロータ2は、ロータ本体3と、複数のインペラ4と、を備えている。ロータ本体3は、軸線Arを中心として軸方向Daに延びている。ロータ本体3は、軸受部(図示無し)により、軸線Arを中心に回転自在に支持されている。
【0013】
なお、以下では、軸線Arが延びている方向が軸方向Daとされる。軸線Arを基準にした径方向が単に径方向Drとされる。軸線Arを中心とするロータ2周りの方向が周方向Dcとされる。
【0014】
インペラ4は、軸方向Daに間隔をあけて複数配置されている。各インペラ4は、ロータ本体3に対して径方向Drの外側に固定されている。各インペラ4は、ロータ本体3と一体に軸線Arを中心として回転可能とされている。
【0015】
車室5は、ロータ2を覆うように配置されている。車室5は、車室本体6と、吸込ノズル71と、排出ノズル72と、を有している。車室本体6は、軸線Arを中心として軸方向Daに延びる筒状に形成されている。吸込ノズル71及び排出ノズル72は、車室本体6から径方向Drの外側Droに向かって突出している。本実施形態において、吸込ノズル71は、車室本体6の内部に外部から供給されてきた作動流体を導く。排出ノズル72は、車室本体6の内部を流れた作動流体を外部に排出する。
【0016】
(車室の製造方法の手順)
上記したような車室5は、予め所定形状に形成された車室形成部材100(
図3参照)に対し、切削加工を施すことで形成される。
図2に示すように、車室5の製造方法S1は、車室形成部材100を準備する工程S2と、車室形成部材100をテーブル21上に載置し、工具22を配置する工程S3と、車室5を形成する工程S4と、を備えている。
【0017】
車室形成部材100を準備する工程S2では、
図3に示すように、車室形成部材100を準備する。車室形成部材100は、車室本体6が形成される車室本体形成部101と、吸込ノズル71や排出ノズル72のような車室本体6から突出した突出部が形成される突出部形成部102と、を有している。車室本体形成部101は、所定の加工が施されることによって上記車室本体6となる。車室本体形成部101は、軸線Arを中心として軸方向Daに延びる筒状をなしている。突出部形成部102は、所定の加工が施されることによって吸込ノズル71や排出ノズル72となる。突出部形成部102は、車室本体形成部101から径方向Drの外側Droに向かって突出している。
【0018】
車室形成部材100は、例えば鋳造、鍛造、鋼板溶接組立、あるいは積層造形法等によって、車室5の形状に近い所定形状に形成される。車室形成部材100を準備する工程S2では、所定形状に形成された車室形成部材100に対し、
図4に示すように、車室本体形成部101の軸方向Daの第一側Da1の端面を切削する。これにより、車室本体形成部101を加工する際の基準となる第一基準面201が形成される。ここで、第一基準面201は、最終的に形成される車室本体6の軸方向Daの第一側Da1の端面6s(
図1参照)に対し、例えば数mmの厚みの削り代を残して形成する。また、車室形成部材100を準備する工程S2では、車室本体形成部101の軸方向Daの第二側Da2から、車室本体形成部101の内周面101gを切削する。これにより、車室本体形成部101の芯出しを行うための第二基準面202が形成される。ここで、第二基準面202は、最終的に形成される車室5の車室本体6の内周面6gに対し、例えば数mmの厚みの削り代を残して形成する。
【0019】
車室形成部材100をテーブル21上に載置し、工具22を配置する工程S3では、
図5に示すように、車室形成部材100を、軸線Arとテーブル軸21sとが一致した状態でテーブル21上に載置する。テーブル21は、鉛直方向Dvから見て、例えば円形に形成されている。テーブル21は、鉛直方向Dvに直交する載置面21aを有している。テーブル21は、鉛直方向Dvに延びるテーブル軸21sを中心として回転可能に構成されている。テーブル21は、モータや減速機等を備えたテーブル駆動機構22mにより、テーブル軸21sを中心として回転駆動される。
【0020】
車室形成部材100は、上記工程S2で形成した第一基準面201を載置面21aに接触させた状態で設置される。その際、車室本体形成部101は、第二基準面202を用い、テーブル軸21sと軸線Arとが同軸状となるように芯出しして配置される。
【0021】
車室5を形成する工程S4では、テーブル21を回転させるとともに、工具22で車室本体形成部101の内周面101gを切削加工して車室本体6を形成する。テーブル21は、テーブル駆動機構22mにより、テーブル軸21sを中心として予め設定したテーブル回転数(テーブル回転速度)で回転させる。これにより、車室形成部材100が、テーブル21とともにテーブル軸21sを中心として周方向Dcに回転する。
【0022】
また、上記工程S4では、工具22は、テーブル21上に載置された車室本体形成部101の径方向Drの内側Driに挿入される。工具22は、鉛直方向Dvの上方、すなわち車室本体形成部101に対して軸方向Daの第二側Da2から第一側Da1に向かって、車室本体形成部101の径方向Drの内側Driに挿入される。
【0023】
工具22は、加工機械50の主軸51に保持されている。主軸51は、主軸移動機構(図示無し)によって、鉛直方向Dv及び鉛直方向Dvに直交する車室本体形成部101の径方向Drに移動可能に支持されている。主軸51は、モータや減速機等を備えた主軸回転駆動機構(図示無し)によって、鉛直方向Dvに延びる作動軸51sを中心として回転駆動される。工具22は、主軸51に対し、ヘッド52を介して連結されている。本実施形態において、ヘッド52は、工具軸22sが径方向Drに延びるようにして、主軸51に対して工具22を保持する。つまり、ヘッド52は、ライトアングルヘッドのように、主軸51の回転を水平方向の回転に変換している。これにより、工具22は、工具軸22sがテーブル軸21sに対して交差(直交)するように延びている。ヘッド52は、主軸51の回転を、ギヤ(図示無し)等を介して工具22の工具軸22sに伝達する。車室本体形成部101に対して径方向Drの内側Driに配置された工具22は、軸線Arに対して直交した状態で径方向Drに延びる工具軸22sを中心に、予め設定した工具回転数(工具回転速度)で回転される。
【0024】
ここで、予め設定される工具22の工具回転数は、テーブル21のテーブル回転数よりも高くなるように設定される。これにより、テーブル21は、工具22よりもゆっくりと回転することとなる。このとき、テーブル21のテーブル回転数は、例えば、0rpm以上1rpm以下とするのが好ましい。テーブル回転数は、0.1rpmに可能な限り近いことがより好ましい。
【0025】
工具22の工具回転数は、上述したテーブル回転数でテーブル21とともに回転する車室形成部材100に対し、工具22の刃先における切削速度が、所望の切削加工が良好に行えるように適宜設定するのが好ましい。つまり、テーブル21に対する工具22の相対的な速度が所望の切削速度となるように工具回転数は設定される。例えば、工具22の回転数である工具回転数は、500rpm程度とする。
【0026】
このようにテーブル21及び工具22を回転させた状態で、車室5を形成する工程S4では、工具22により、車室本体形成部101を切削加工していく。具体的には、テーブル駆動機構22mによって、テーブル21とともに車室形成部材100を所定のテーブル回転数で回転させつつ、主軸移動機構(図示無し)により主軸51を所定の位置に移動させる。この状態で、工具軸22s周りに回転している工具22の先端を、車室本体形成部101の内周面101gに押し付ける。これにより、回転する工具22が、車室本体形成部101の内周面101gに対し、テーブル軸21s周りの周方向Dcに相対移動していく。さらに、主軸移動機構(図示無し)により、工具22を主軸51とともに、予め設定した移動速度で鉛直方向Dvに移動させていく。これにより、車室本体形成部101の内周面101gが、工具22によって、テーブル軸21sを中心として1周/ピッチ毎に切削され、断続切削される。また、工程S3に戻って車室本体形成部101の軸方向Daの向きを途中で上下反転させて工程S4が実施されることで、軸方向Daの両側から車室本体形成部101の内周面101gが加工される。このように車室本体形成部101の向きを変えながら加工することで、荒加工や仕上げ加工が実施され、所定寸法の車室本体6が形成される。
【0027】
なお、吸込ノズル71や排出ノズル72は、任意のタイミングで突出部形成部102に対して、セレーション加工、孔開け加工をはじめとした各種の加工を施して形成される。したがって、吸込ノズル71や排出ノズル72は、工程S3の前に準備する工程S2で形成されてもよく、車室形成部材100の上下を反転させる途中のように車室5を形成する工程S4の途中で形成されてもよく、車室5を形成する工程S4の後に形成されてもよい。
【0028】
(車室に形成される加工痕について)
上記のように、テーブル21とともに車室形成部材100を回転させながら、工具22も回転させることによって、車室本体形成部101の内周面101gを切削加工していくと、
図6に示すような加工痕T1が形成される。この加工痕T1では、工具22を径方向Drに延びる工具軸22s周りに回転させながら切削加工を行う、いわゆるフライス加工特有の円弧状の切削目が残る。さらに、車室形成部材100をテーブル軸21s周りに回転させることで、加工痕T1は、周方向Dc(
図6において紙面左右方向)に連続したものとなる。さらに、車室形成部材100をテーブル軸21s周りに回転させながら、工具22を鉛直方向Dvに移動させて切削加工を行うことで、周方向Dcに連続する加工痕T1が鉛直方向Dv(軸方向Da:
図6において紙面上下方向)に所定のピッチ幅で形成され、その境目が顕著に観察される。
【0029】
なお、参考となるが、工具を固定した状態でテーブル21のみを回転させて加工を行うターニング加工の場合、
図7に示すような加工痕T11が形成される。ターニング加工では、固定された工具に取り付けられたチップ先端を細かいピッチで送りながら切削する。そのため、この加工痕T11は、周方向Dcに線状の切削痕が形成され、本実施形態の加工痕T1とは大きく異なった状態となる。
【0030】
(作用効果)
上記構成の車室5の製造方法S1では、テーブル21上に載置した車室形成部材100を、テーブル21ととともにテーブル軸21sを中心として回転させながら、工具軸22sを中心に回転させた工具22によって、車室本体形成部101の内周面101gが切削加工される。これにより、工具22と車室本体形成部101の内周面101gとの相対変位速度は、テーブル21とともに回転する車室本体形成部101の周速と、工具軸22s周りに回転する工具22の周速との和となる。したがって、工具軸22s周りの工具22の周速を高めることで、テーブル軸21s周りの車室形成部材100の周速を抑えても、高精度の切削加工を行うことが可能となる。その結果、大型の車室5であっても、バランスウェイト等の他の重量物を車室形成部材100に取り付けなくたり、テーブル21に設置しなくても、加工時に車室形成部材100に生じる遠心力を抑えることができる。これにより、大型の車室5であっても、加工時にバランスを崩すことを抑えつつ、加工時間も抑えることができる。
【0031】
上記構成の車室5の製造方法S1では、テーブル21のテーブル軸21s周りの回転数は、工具22の工具軸22s周りの回転数よりも低い。そのため、テーブル軸21s周りの車室形成部材100の周速が低く抑えられる。その結果、加工時に車室5に生じる遠心力を、より確実に抑えることができる。これにより、加工時に車室5の倒れを抑制できるため、製品要求精度(同軸度)を満足させる高精度な加工が可能となる。
【0032】
上記構成の車室5の製造方法S1では、工具22は、ヘッド52によって、テーブル軸21sに対して交差するように径方向Drに工具軸22sが延びている。そのため、車室本体形成部101の内周面101gの形状に応じて、高い自由度で工具22による加工を行うことができる。
【0033】
(実施形態の変形例)
上記実施形態では、工具22は、主軸51に対し、工具22が径方向Drに延びる工具軸22s周りに回転するヘッド52を介し、工具22が主軸51に連結されているが、このような向きで工具22が配置されることに限られるものではない。
【0034】
図8に示すように、工具22Bは、テーブル軸21sと平行に延びる主軸51に対し、ヘッド52Bを介して保持されている。ヘッド52Bは、主軸51の作動軸51sに交差する径方向Dr方向にオフセットした位置で、工具22Bを保持する。具体的には、ヘッド52Bは、ユニバーサルアタッチメントのように、工具軸22tの位置を作動軸51sに対して径方向Drに平行に移動させている。これにより、本実施形態の変形例において、工具軸22tは、作動軸51sに対して径方向Drにずれた位置で、テーブル軸21sと平行に延びている。ヘッド52Bは、主軸51の作動軸51s周りの回転を、ギヤ(図示無し)等を介して工具22Bの工具軸22tに伝達する。
【0035】
このような工具22Bを用いる場合も、上記実施形態と同様、回転する工具22によって、テーブル21とともに回転する車室本体形成部101に対して切削加工していくことができる。つまり、主軸51の作動軸51sに対してオフセットした位置でテーブル軸21sと平行に延びる工具軸22tを中心として回転する工具22Bを用いて切削加工ができる。これにより、車室本体形成部101の内周面101gの形状に応じて、高い自由度で工具22による加工を行うことができる。
【0036】
また、このような変形例のヘッド52Bを用いた場合、
図9に示すような加工痕T2が形成される。この加工痕T2は、工具22Bによる切削痕がうろこ状に残る。さらに、車室形成部材100をテーブル軸21s周りに回転させることで、加工痕T2は、周方向Dc(
図9において紙面左右方向)に連続したものとなる。さらに、車室形成部材100をテーブル軸21s周りに回転させながら、工具22を鉛直方向Dvに移動させて切削加工を行うことで、周方向Dcに連続する加工痕T2が鉛直方向Dv(軸方向Da;
図9において紙面上下直方向)に所定のピッチ幅で形成され、その境目が顕著に見られる。
【0037】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0038】
なお、上記実施形態では、車室形成部材100を、軸方向Daの第一側Da1と、軸方向Daの第二側Da2とで、上下を反転させて加工を行うようにしたが、これに限られない。車室形成部材100の大きさによっては、上下を反転せずに、車室形成部材100の加工を行うようにしてもよい。
【0039】
また、上記実施形態において、回転機械1の例として、例えば遠心圧縮機を示したが、これに限らない。回転機械1は、例えば、蒸気タービン等であってもよい。
【0040】
また、上記実施形態において、車室5の製造方法S1の手順について例示したが、その順序、各工程における詳細な作業内容は、適宜変更可能である。
【0041】
<付記>
実施形態に記載の車室5の製造方法S1は、例えば以下のように把握される。
【0042】
(1)第1の態様に係る車室5の製造方法S1は、軸線Arを中心として延びる筒状に形成された車室本体6、及び前記車室本体6から前記軸線Arを基準とする径方向Drの外側Droに向かって突出し、前記車室本体6の内部と連通する吸込ノズル71及び排出ノズル72を有する車室5の製造方法S1であって、筒状に形成された車室本体形成部101、及び前記車室本体形成部101から前記径方向Drの外側Droに向かって突出する突出部形成部102、を有する車室形成部材100を準備する工程S2と、鉛直方向Dvに延びるテーブル軸21sを中心として回転可能なテーブル21上に前記車室形成部材100を載置し、前記車室形成部材100に対して前記径方向Drの内側Driに工具軸22sを中心として回転可能な工具22を配置する工程S3と、前記車室形成部材100とともに前記テーブル軸21sを中心として前記テーブル21を回転させるとともに、前記工具軸22sを中心として前記工具22を回転させながら、前記工具22で、前記車室形成部材100の内周面101gを切削加工して前記車室を形成する工程と、を含む。
【0043】
これにより、工具22と車室本体形成部101の内周面101gとの相対変位速度は、テーブル21とともに回転する車室本体形成部101の周速と、工具軸22s周りに回転する工具22の周速との和となる。したがって、工具軸22s周りの工具22の周速を高めることで、テーブル軸21s周りの車室形成部材100の周速を抑えても、高精度の切削加工を行うことが可能となる。その結果、大型の車室5であっても、加工時に車室形成部材100に生じる遠心力を抑えることができる。これにより、大型の車室5であっても、加工時にバランスを崩すことを抑えつつ、加工時間も抑えることができる。
【0044】
(2)第2の態様に係る車室5の製造方法S1は、(1)の車室5の製造方法S1であって、前記テーブル軸21sを中心とする前記テーブル21の回転数は、前記工具軸22sを中心とする前記工具22の回転数よりも低くてもよい。
【0045】
これにより、テーブル軸21s周りの車室形成部材100の周速が低く抑えられる。その結果、加工時に車室5に生じる遠心力を、より確実に抑えることができる。これにより、加工時にバランスを崩すことを高い精度で抑えることができる。
【0046】
(3)第3の態様に係る車室5の製造方法S1は、(1)又は(2)の車室5の製造方法S1であって、前記工具22は、前記テーブル軸21sに対して交差するように前記工具軸22sが延びていてもよい。
【0047】
これにより、車室本体形成部101の内周面101gの形状に応じて、高い自由度で工具22による加工を行うことができる。
【0048】
(4)第4の態様に係る車室5の製造方法S1は、(1)又は(2)の車室5の製造方法S1であって、前記工具22は、前記テーブル軸21sと平行に前記工具軸22tが延びていてもよい。
【0049】
これにより、車室本体形成部101の内周面101gの形状に応じて、高い自由度で工具22による加工を行うことができる。
【符号の説明】
【0050】
1…回転機械
2…ロータ
3…ロータ本体
4…インペラ
5…車室
6…車室本体
6g…内周面
6s、6t…端面
21…テーブル
21a…載置面
21s…テーブル軸
22、22B…工具
22m…テーブル駆動機構
22s、22t…工具軸
50…加工機械
51…主軸
51s…作動軸
52、52B…ヘッド
71…吸込ノズル
72…排出ノズル
100…車室形成部材
101…車室本体形成部
101g…内周面
102…突出部形成部
201…第一基準面
202…第二基準面
Ar…軸線
Da…軸方向
Da1…第一側
Da2…第二側
Dc…周方向
Dr…径方向
Dri…内側
Dro…外側
Dv…鉛直方向
S1…車室の製造方法
S2…車室形成部材を準備する工程
S3…車室形成部材をテーブル上に載置し、工具を配置する工程
S4…車室を形成する工程
T1、T2、T11…加工痕