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特許7542376導電性高分子粉体及びその製造方法、導電性高分子組成物、導電性成形体、並びに電極及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】導電性高分子粉体及びその製造方法、導電性高分子組成物、導電性成形体、並びに電極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20240823BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20240823BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20240823BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20240823BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20240823BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240823BHJP
   H01M 4/137 20100101ALI20240823BHJP
   H01M 4/1399 20100101ALI20240823BHJP
【FI】
C08L65/00
C08G61/12
C08L25/18
H01B1/12 F
H01B1/20 A
H01B13/00 Z
H01M4/137
H01M4/1399
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020158519
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052251
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 裕美
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-116925(JP,A)
【文献】特開2012-144640(JP,A)
【文献】特開2019-081870(JP,A)
【文献】特開2020-107413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 65/00
C08G 61/12
C08L 25/18
H01B 1/12
H01B 1/20
H01B 13/00
H01M 4/137
H01M 4/1399
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリアニオンであるポリスチレンスルホン酸を含む導電性高分子粉体であって、
前記導電性高分子粉体における前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの含有比が質量基準で(1:0.5)~(1:1)であり、
前記導電性高分子粉体の総質量に対する鉄の含有量が0.65質量%以下である、導電性高分子粉体。
【請求項2】
前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基が、アミン化合物と反応して修飾されている、請求項1記載の導電性高分子粉体。
【請求項3】
前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基が、エポキシ化合物と反応して修飾されている、請求項1記載の導電性高分子粉体。
【請求項4】
請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子粉体と、バインダ成分と、を含む導電性高分子組成物。
【請求項5】
請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子粉体を押し固めた導電性成形体。
【請求項6】
請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子粉体を含む、電極。
【請求項7】
π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を形成し得るモノマーと、ポリアニオンであるポリスチレンスルホン酸と、水とを含む反応液に、触媒及び酸化剤を加えることにより、前記モノマーを酸化重合し、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性高分子粉体を形成する工程と、
前記反応液から前記導電性高分子粉体を分取する工程と、を有し、
前記反応液における、前記モノマー:前記ポリアニオンの含有比が質量基準で(1:0.5)~(1:1)であり、
前記反応液から分取した前記導電性高分子粉体に含まれる鉄の含有量が、前記導電性高分子粉体の総質量に対して、0.65質量%以下である、導電性高分子粉体の製造方法。
【請求項8】
π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を形成し得るモノマーと、ポリアニオンであるポリスチレンスルホン酸と、水とを含む反応液に、触媒及び酸化剤を加えることにより、前記モノマーを酸化重合し、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性高分子粉体を形成する工程と、
前記導電性高分子粉体を含む前記反応液に、アミン化合物及びエポキシ化合物のうち少なくとも一方を添加して反応させることにより、修飾された前記導電性高分子粉体を析出させる工程と、
前記反応液から前記導電性高分子粉体を分取する工程と、を有し、
前記反応液における、前記モノマー:前記ポリアニオンの含有比が質量基準で(1:0.5)~(1:1)であり、
前記反応液から分取した前記導電性高分子粉体に含まれる鉄の含有量が、前記導電性高分子粉体の総質量に対して、0.65質量%以下である、導電性高分子粉体の製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の導電性高分子組成物を基材の少なくとも一部に塗工し、前記基材上に形成した塗膜を硬化させ、導電層を形成することにより、前記基材の少なくとも一部に前記導電層を備えた電極を得る、電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含む導電性高分子粉体及びその製造方法、導電性高分子組成物、導電性成形体、並びに電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、基本的には水に溶け難いが、親水性のアニオン基を有するポリアニオンと複合体を形成することによって、水分散性の導電性複合体とする方法が知られている。この導電性複合体の形成により導電性が高められる。また、導電性複合体が有する水分散性のアニオン基にアミン化合物やエポキシ化合物を反応させて疎水化することにより、有機溶剤に分散させる方法が知られている(特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-032382号公報
【文献】国際公開第2014/125827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~2では、分散媒に対して導電性複合体を分子レベルで均一に分散又は溶解した塗料を得ることを目的としている。
ところで、導電性高分子を電池等のエネルギーデバイスの電極材料とする場合、導電性複合体が分子レベルで互いに分散している必要は無く、導電性複合体が凝集した粉体の状態である方が、扱いが容易な場合がある。そこで、本発明者らは、導電性複合体の粉体を得る方法を検討した。
【0005】
本発明は、電池等のエネルギーデバイスの電極材料として有用な導電性高分子粉体及びその製造方法、導電性高分子組成物、導電性成形体、並びに電極及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性高分子粉体であって、前記導電性高分子粉体における前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの含有比が質量基準で(1:0.5)~(1:1)であり、前記導電性高分子粉体の総質量に対する鉄の含有量が0.65質量%以下である、導電性高分子粉体。
[2] 前記導電性高分子粉体が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸のうち少なくとも一方を含む、[1]に記載の導電性高分子粉体。
[3] 前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基が、アミン化合物と反応して修飾されている、[1]又は[2]に記載の導電性高分子粉体。
[4] 前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基が、エポキシ化合物と反応して修飾されている、[1]又は[2]に記載の導電性高分子粉体。
[5] [1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子粉体と、バインダ成分と、を含む導電性高分子組成物。
[6] [1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子粉体を押し固めた導電性成形体。
[7] [1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子粉体を含む、電極。
[8] π共役系導電性高分子を形成し得るモノマーと、ポリアニオンと、水とを含む反応液に、触媒及び酸化剤を加えることにより、前記モノマーを酸化重合し、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性高分子粉体を形成する工程と、前記反応液から前記導電性高分子粉体を分取する工程と、を有し、前記反応液における、前記モノマー:前記ポリアニオンの含有比が質量基準で(1:0.5)~(1:1)であり、前記反応液から分取した前記導電性高分子粉体に含まれる鉄の含有量が、前記導電性高分子粉体の総質量に対して、0.65質量%以下である、導電性高分子粉体の製造方法。
[9] π共役系導電性高分子を形成し得るモノマーと、ポリアニオンと、水とを含む反応液に、触媒及び酸化剤を加えることにより、前記モノマーを酸化重合し、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性高分子粉体を形成する工程と、前記導電性高分子粉体を含む前記反応液に、アミン化合物及びエポキシ化合物のうち少なくとも一方を添加して反応させることにより、修飾された前記導電性高分子粉体を析出させる工程と、前記反応液から前記導電性高分子粉体を分取する工程と、を有し、前記反応液における、前記モノマー:前記ポリアニオンの含有比が質量基準で(1:0.5)~(1:1)であり、前記反応液から分取した前記導電性高分子粉体に含まれる鉄の含有量が、前記導電性高分子粉体の総質量に対して、0.65質量%以下である、導電性高分子粉体の製造方法。
[10] [5]に記載の導電性高分子組成物を基材の少なくとも一部に塗工し、前記基材上に形成した塗膜を硬化させ、導電層を形成することにより、前記基材の少なくとも一部に前記導電層を備えた電極を得る、電極の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性高分子粉体を用いて作製した導電性成形体や電極は、導電性に優れるので、電池等の電極として有用である。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【0010】
≪導電性高分子粉体≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性高分子粉体であって、前記導電性高分子粉体における前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの含有比が質量基準で(1:0.5)~(1:1)であり、前記導電性高分子粉体の総質量に対する鉄イオンの含有量が0.65質量%以下である、導電性粉体である。
【0011】
本態様の導電性高分子粉体は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを有する導電性複合体を含む導電性粒子の集合体である。
【0012】
[π共役系導電性高分子]
前記π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている導電性の有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0013】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4
-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
前記導電性高分子粉体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
(ポリアニオン)
前記ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0015】
前記ポリアニオンは前記π共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。導電性複合体におけるπ共役系導電性高分子とポリアニオンの含有比が下記であることにより、導電性複合体は導電性高分子粉体を形成することができる。
【0016】
前記導電性複合体における前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの含有比は、質量基準で(1:0.5)~(1:1)であり、(1:0.5)~(1:0.90)が好ましく、(1:0.5)~(1:0.80)がより好ましく、(1:0.5)~(1:0.70)がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、ポリアニオンによるドープ効果が充分に発揮され、導電性複合体によって形成された導電性高分子粉体の導電性がより向上する。
上記範囲の上限値以下であると、ポリアニオンによるドープ効果を得つつ、水に対する分散性が低く、水中で容易に沈殿させることが可能な導電性高分子粉体となる。
【0017】
本態様の導電性高分子粉体のポリアニオンにおいては、アニオン基の大半又は殆ど全てがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基は少ない又は殆ど無いことが好ましい。π共役系導電性高分子:ポリアニオンの含有比を前述した好適な範囲とすることで、余剰のアニオン基を少なくする又は殆ど無くすことができる。
余剰のアニオン基が少ない又は殆ど無いことにより、導電性高分子粉体が水中で容易に沈殿する程の疎水性を呈する。また、導電性高分子粉体を含む導電性粉体は、優れた電池特性を発揮する電極を形成することができる。
【0018】
本態様の導電性高分子粉体中のポリアニオンの一部が、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有する場合、これらの余剰のアニオン基は、アミン化合物及びエポキシ化合物のうち少なくとも一方と反応して疎水的に修飾されていてもよい。
【0019】
(置換基A)
前記余剰のアニオン基がエポキシ化合物と反応したことによって形成され得る置換基Aは、例えば次のような構造式で表される。
修飾された導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(A)は下記式(A1)で示される基、又は下記式(A2)で表される基であると推測される。
【0020】
【化1】
[式(A1)中、R11、R12、R13、及びR14はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基である。]
【0021】
【化2】
[式(A2)中、mは2以上の整数であり、複数のR15、複数のR16、複数のR17、及び複数のR18はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基であり、複数のR15は同一でも異なっていてもよく、複数のR16は同一でも異なっていてもよく、複数のR17は同一でも異なっていてもよく、複数のR18は同一でも異なっていてもよい。]
【0022】
式(A1)及び式(A2)において、左端の結合手は、置換基(A)が、アニオン基のプロトンと置換していることを表す。置換されるプロトンを有するアニオン基として、例えば、「-SOH」のように酸素原子に結合した活性なプロトンを有するアニオン基が挙げられる。
【0023】
式(A1)において、R11、R12、R13、及びR14の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R11とR13とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。例えば、R11とR13とが前記炭化水素基であり、R11の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基と、R13の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基とが、前記水素原子が除かれた炭素原子同士で結合して環を形成する場合が挙げられる。
なかでも、式(A1)において、R11が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R12が水素原子であり、R13が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R14が水素原子であることが好ましい。
【0024】
式(A2)において、R15、R16、R17、及びR18の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R15とR17とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。環を形成する例は、上記と同様である。
なかでも、式(A2)において、R15が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R16が水素原子であり、R17が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R18が水素原子であることが好ましい。
【0025】
本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
置換基としての1価の基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、トリアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基等)、等が挙げられる。
置換基としての2価の基としては、酸素原子(-O-)、-C(=O)-、-C(=O)-O-等が挙げられる。ただし、2つの酸素原子同士が隣接する場合を除く。
【0026】
式(A2)において、mは2以上の整数であり、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~25がさらに好ましい。mが上記下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。mが前記上限値以下であると、疎水性が高くなりすぎたり、導電性が低下したりするのを抑制することができる。
【0027】
前記エポキシ基含有化合物(エポキシ化合物)は、1分子中にエポキシ基を1つ以上有する化合物である。導電性複合体を修飾する際の凝集又はゲル化を防止する点では、エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ有する化合物が好ましい。
エポキシ化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
1分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、2,3-ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシテトラデカン、グリシジルメチルエーテル、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、エチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシエイコサン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシプロパン、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-9-デカン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシブタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-トリフルオロブタン、アリルグリシジルエーテル、テトラシアノエチレンオキサイド、グリシジルブチレート、1,2-エポキシシクロオクタン、グリシジルメタクリレート、1,2-エポキシシクロドデカン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタデカン、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-ヘプタデカフルオロブタン、3,4-エポキシテトラヒドロフラン、グリシジルステアレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシコハク酸、グリシジルフェニルエーテル、イソホロンオキサイド、α-ピネンオキサイド、2,3-エポキシノルボルネン、ベンジルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(パーフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、9,10-エポキシ-1,5-シクロドデカジエン、4-tert-ブチル安息香酸グリシジル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、2-tert-ブチル-2-[2-(4-クロロフェニル)]エチルオキシラン、スチレンオキサイド、グリシジルトリチルエーテル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-フェニルプロピレンオキサイド、コレステロール-5α,6α-エポキシド、スチルベンオキサイド、p-トルエンスルホン酸グリシジル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、N-プロピル-N-(2,3-エポキシプロピル)ペルフルオロ-n-オクチルスルホンアミド、(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-フェニルブタン、3-ニトロベンゼンスルホン酸(R)-グリシジル、3-ニトロベンゼンスルホン酸-グリシジル、パルテノリド、N-グリシジルフタルイミド、エンドリン、デイルドリン、4-グリシジルオキシカルバゾール、7,7-ジメチルオクタン酸[オキシラニルメチル]、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0029】
前記高級アルコールグリシジルエーテルとしては、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上が好ましく、炭素数12~14の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上がより好ましく、C12(炭素数12)高級アルコールグリシジルエーテル及びC13(炭素数13)高級アルコールグリシジルエーテルのうち少なくとも1種がさらに好ましく、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0030】
1分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,7-オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、イソシアヌル酸トリグリシジル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0031】
エポキシ化合物は、余剰のアニオン基に対する反応性が良好であることから、分子量が50以上2000以下であることが好ましい。また、同様の観点から、エポキシ化合物は、炭素数が2以上100以下のものが好ましく、5以上80以下のものがより好ましく、10以上50以下のものがさらに好ましい。
【0032】
(置換基B)
前記余剰のアニオン基がアミン化合物と反応したことによって形成され得る置換基Bは、例えば次のような構造式で表される。
導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(B)は下記式(B)で表される基であると推測される。
【0033】
-HN212223 ・・・(B)
[式(B)中、R21~R23はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、ただし、R21~R23のうち少なくとも1つは置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0034】
置換基(B)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、アミン化合物の正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO 」のように、活性なプロトンが結合し得る酸素原子を有するアニオン基が挙げられる。
【0035】
式(B)におけるR21~R23は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。式(B)におけるR21~R23はアミン化合物に由来する置換基である。
式(B)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の水素を置換してもよい置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の水素を置換してもよい置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0036】
前記アミン化合物は、第一級アミン(1級アミン)、第二級アミン(2級アミン)及び第三級アミン(3級アミン)よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。アミン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、導電性複合体を容易に疎水化できることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0037】
前記アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が4以上の置換基を有することが好ましく、窒素原子上に炭素数が6以上の置換基を有することがより好ましい。
【0038】
(置換基C)
前記余剰のアニオン基と反応したアミン化合物が、複素環式芳香族アミンである場合、これと反応したことによって形成された置換基Cは、例えば次のような構造式で表される。
【0039】
-HN24 ・・・(C)
[式(C)中、N24は、プロトンが付加したことにより正に帯電した窒素原子を含む、複素環式芳香族アミンを表す。]
ここで、複素環式芳香族アミンとは、芳香環を構成する窒素原子を含む環式のアミン化合物を意味し、そのアミン化合物に結合する水素原子は任意に置換されていてもよい。
【0040】
式(C)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、複素環式芳香族アミンの正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO 」のように、活性なプロトンが結合し得る酸素原子を有するアニオン基が挙げられる。
【0041】
複素環式芳香族アミンの塩基性が強すぎると、修飾された導電性複合体の導電性が低下することがあるため、複素環式芳香族アミンのうち、塩基性が弱い、イミダゾール系アミンが好ましい。ここで、イミダゾール系アミンとは、イミダゾール環を有する化合物を意味し、そのイミダゾール環に結合する水素原子は任意に置換されていてもよい。
【0042】
イミダゾール環の水素原子を任意に置換してもよい置換基としては、例えば、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基が挙げられる。これらの置換基を構成する水素原子は水酸基又はシアノ基によって置換されていてもよい。また、これらの置換基を構成する2価又は3価の基は、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-N=、等に置換されていてもよい。また、イミダゾール環の水素原子を置換する置換基を2つ以上有する場合、これらの置換基同士が結合して環を形成していてもよい。
【0043】
前記イミダゾール系アミンとしては、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、N-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-アセチルイミダゾール、2-アミノベンズイミダゾール、2-アミノ-1-メチルベンズイミダゾール、2-ヒドロキシベンズイミダゾール、2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール等が挙げられる。
なかでも、導電性複合体のアニオン基との反応性が良好であり、安価であることから、イミダゾールが好ましい。
【0044】
本態様の導電性高分子粉体の電気伝導度(単位:S/cm)は、0.1以上100以下が好ましく、0.3以上100以下がより好ましく、1以上100以下がさらに好ましく、2以上100以下が特に好ましく、3以上100以下が最も好ましい。
電気伝導度が高いほど、導電性高分子粉体の導電性が高まるので好ましい。
電気伝導度の上限値は特に制限されず、上記範囲の100以下という値は目安である。
本態様の導電性高分子粉体の電気伝導度は、導電性高分子粉体を押し固めて得た成形体を試料として測定したものである。
【0045】
本態様の導電性高分子粉体の数平均粒子径は、0.1μm以上100μm以下が好ましく、0.5μm以上50μm以下がより好ましく、1μm以上10μm以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、粉体としての取り扱いがより容易になる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子粉体のバインダ成分に対する分散性がより向上する。
本態様の導電性高分子粉体の数平均粒子径は、動的光散乱粒度分布測定装置を用いて測定した個数基準の平均粒子径である。
【0046】
(鉄含有量)
本態様の導電性高分子粉体に含まれる鉄の含有量は、導電性高分子粉体の総質量に対して、0.65質量%以下である。好適な範囲は、導電性高分子粉体を構成するπ共役系導電性高分子とポリアニオンの比率によって変わる。
前記比率が質量基準で、π共役系導電性高分子:ポリアニオン=(1:0.5)~(1:0.75)である場合(ただし、1:0.75である場合を除く。)、前記鉄の含有量は、0.10質量%以上0.60質量%以下が好ましく、0.15質量%以上0.55質量%以下がより好ましく、0.20質量%以上0.50質量%以下がさらに好ましく、0.25質量%以上0.45質量%以下が特に好ましく、0.30質量%以上0.40質量%以下が最も好ましい。
前記比率が質量基準で、π共役系導電性高分子:ポリアニオン=(1:0.75)~(1:1)である場合、前記鉄の含有量は、0.10質量%以上0.65質量%以下が好ましく、0.30質量%以上0.65質量%以下がより好ましく、0.40質量%以上0.65質量%以下がさらに好ましく、0.50質量%以上0.65質量%以下が特に好ましく、0.55質量%以上0.62質量%以下が最も好ましい。
上記好適な範囲であると、本態様の導電性高分子粉体を含む導電性成形体や電極の導電性をより高めることができる。
前記導電性高分子粉体に含まれる鉄の含有量は、蛍光X線分析を用いた常法により測定された値である。
【0047】
本態様の導電性高分子粉体は、水を含んでもよいが、水の含有量は少ない程好ましい。導電性高分子粉体の総質量に対する水の含有量は、例えば、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。水の含有量は、実質的に0質量%であることが最も好ましい。
上記範囲の上限値以下であると、非水系の材料、例えばバインダ成分と混合する場合に、導電性高分子粉体の凝集を抑制することができる。
前記導電性高分子粉体に含まれる水の含有量は、カールフィッシャー法により測定された値である。
【0048】
[導電助剤]
本態様の導電性高分子粉体は、前述した導電性高分子粉体以外の導電助剤を含んでいてもよい。
導電助剤としては、例えば、公知のリチウムイオン二次電池の電極活物質に添加される導電助剤が挙げられる。具体的には、例えば、炭素材料、金属粒子等が挙げられる。
炭素材料としては、カーボンブラック、黒鉛、気相成長炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン等が例示できる。
金属粒子としては、銀粒子、銅粒子、金粒子、アルミニウム粒子等が例示できる。
本態様に含まれる導電助剤は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0049】
本態様の導電性高分子粉体の総質量に対する前記導電助剤の含有量は、例えば、0質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0050】
(その他の任意成分)
本態様の導電性高分子粉体は、前述した導電助剤以外の任意成分を含んでいてもよい。具体的には、例えば、無機化合物(但し、炭素材料及び金属粒子を除く。)が挙げられる。
無機化合物としては、例えば、シリカ、シリカ-アルミナ、ガラス、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、タルク、アルミナ、チタニア、ジルコニア、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト、マイカ等が挙げられる。
【0051】
本態様の導電性高分子粉体の総質量に対する前記その他の任意成分の含有量は、例えば、0質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0052】
≪導電性高分子組成物≫
本発明の第二態様は、第一態様の導電性粉体と、バインダ成分と、を含む導電性高分子組成物である。本態様の形態は、液状であってもよいし、ゲル状であってもよいし、固体状であってもよい。
【0053】
(バインダ成分)
バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
本態様の導電性高分子組成物に含まれるバインダ成分は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0054】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン等が挙げられる。
【0055】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー、オルガノシロキサン等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー(硬化型シリコーン)等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。
【0056】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0057】
本態様の導電性高分子組成物におけるバインダ成分の含有割合は、導電性高分子粉体100質量部に対して、例えば、10質量部以上10000質量部以下とすることができ、100質量部以上5000質量部以下が好ましく、200質量部以上3000質量部以下がより好ましく、300質量部以上1500質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であれば、本態様の導電性高分子組成物からなる塗料をフィルム基材等に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であれば、導電性高分子粉体の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0058】
本態様の導電性高分子組成物における導電性高分子粉体の含有量としては、例えば、0.1質量%以上30質量%が好ましく、0.5質量%以上20質量%以下がより好ましく、1質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性に優れた導電層を形成することができる。
上記範囲の上限値以下であると、バインダ成分を相対的に多く含有することができ、機械的強度に優れた導電層を形成することができる。
【0059】
本態様の導電性高分子組成物は、希釈のための分散媒を含んでいてもよい。前記分散媒は、水、有機溶剤、又は水と有機溶剤の混合液の何れであってもよい。
【0060】
前記有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤(アルコール類)、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
本態様の導電性高分子組成物に含まれる有機溶剤は、1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0061】
(その他の添加剤)
本態様の導電性高分子組成物には、バインダ成分及び分散媒以外のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。
ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、導電助剤以外のものである。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0062】
本態様の導電性高分子組成物が前記その他の添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性高分子粉体100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0063】
≪導電性成形体≫
本発明の第三態様は、第一態様の導電性高分子粉体を含む導電性成形体である。本態様の導電性成形体は第一態様の導電性高分子粉体を押し固めた導電性成形体であることが好ましい。
導電性成形体の形状は特に制限されず、例えば、板状、シート状、膜状、棒状、柱状等の形状が挙げられる。
板状、シート状及び膜状の導電性成形体の平均厚さは、電気抵抗の低減、導電性成形体の薄型化を両立する観点から、例えば、0.01μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上100μm以下がより好ましい。
板状、シート状及び膜状の導電性成形体の平均厚さは、導電性成形体の断面を、測定顕微鏡等の拡大観察手段を用いて観察し、無作為に選択される10箇所以上の厚さを測定した値の平均値である。
本態様の導電性成形体は、フィルム又は基板等の基材によって支持されていてもよいし、独立した導電性成形体であってもよい。
【0064】
<導電性成形体の製造方法>
本態様の導電性成形体の製造方法としては、例えば、第一態様の導電性高分子粉体を、公知の粉体を成形する公知方法により所望の形状に成形する方法、第二態様の導電性高分子組成物からなる塗料を所望の基材に塗布して乾燥し、前記基材の表面に第一態様の導電性粉体を含む導電性成形体(例えば導電層)を形成する方法等が挙げられる。
第一態様の導電性高分子粉体を成形する方法としては、例えば、第一態様の導電性高分子粉体を型枠に充填し、押し固めることにより、型枠の形状が反映された立体形状の導電性成形体を得る方法が挙げられる。
第二態様の導電性高分子組成物からなる塗料を塗布する基材は特に制限されず、プラスチック、ガラス、金属等の任意の材料からなる基材が挙げられる。塗布方法は特に制限されず、常法を適用すればよい。
【0065】
≪電極≫
本発明の第四態様は、第一態様の導電性高分子粉体を含む電極である。
電極の形状は特に制限されず、例えば、板状、シート状、膜状、棒状、柱状等の公知の電極の形状が挙げられる。
板状、シート状及び膜状の電極の平均厚さは、電気抵抗の低減、電極の薄型化を両立する観点から、例えば、0.01μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上100μm以下がより好ましい。
板状、シート状及び膜状の電極の平均厚さは、電極の断面を、測定顕微鏡等の拡大観察手段を用いて観察し、無作為に選択される10箇所以上の厚さを測定した値の平均値である。
本態様の電極は、フィルム又は基板等の基材によって支持されていてもよいし、独立した電極であってもよい。
本態様の電極をリチウムイオン二次電池の電極として用いる場合、正極であってもよいし、負極であってもよい。
【0066】
前記電極は、良好な導電性の目安として、例えば、10Ω/□未満の表面抵抗値を有することが好ましく、0.5Ω/□以上9Ω/□以下の表面抵抗値を有することがより好ましくい。
【0067】
<電極の製造方法>
本態様の電極の製造方法としては、例えば、第一態様の導電性高分子粉体を所望の形状の電極に成形する方法、第二態様の導電性高分子組成物からなる塗料を所望の基材に塗布して乾燥し、前記基材の表面に第一態様の導電性高分子粉体を含む電極層(導電層)を形成する方法等が挙げられる。
第一態様の導電性高分子粉体を成形する方法は特に制限されず、例えば、公知のリチウムイオン二次電池の電極活物質に含まれるバインダ等と、第一態様の導電性高分子粉体を混錬し、ペレットを得て、このペレットを用いて、成形型等で成型してもよいし、押出成形してもよい。或いは、導電性高分子粉体を型枠に充填し、押し固めることにより、型枠の形状が反映された立体形状の電極を形成してもよい。
第二態様の導電性高分子組成物からなる塗料を塗布する基材としては、公知の電池の電極活物質層を支持する基材が適用でき、例えば、金属箔、金属板等の金属材が挙げられる。例えば、銅箔、アルミニウム箔、ステンレス板等が挙げられる。また、公知の樹脂フィルムや樹脂板を基材として用いてもよい。塗布方法は特に制限されず、常法を適用すればよい。
【0068】
<電池>
本態様の電極を備えた電池やキャパシタを製造することもできる。
前記電池は、一次電池でもよいし、二次電池でもよい。電池の形態は特に制限されず、例えば、乾電池、電極積層型ラミネート電池、ボタン電池等の公知の電池形態が挙げられる。
前記電池は、通常、正極、負極、電解質を有する。本態様の電極は、正極であってもよいし、負極であってもよい。電池における正極と負極とは不織布等のセパレータによって絶縁されていることが好ましい。
前記電池は、リチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0069】
<導電性フィルムの製造方法>
本発明に関連する別の態様は、第二態様の導電性高分子組成物からなる塗料をフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工し、前記フィルム基材上に形成した塗膜を硬化させ、導電層を形成することにより、前記基材の少なくとも一部に前記導電層を形成した導電性フィルムを得る、導電性フィルムの製造方法である。
前記導電層は電極層であってもよく、前記導電性フィルムは、フィルム基材に支持された電極であってもよい。
【0070】
(フィルム基材)
前記フィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルムが挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0071】
フィルム基材用の樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、導電性高分子含有液から形成される導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0072】
フィルム基材の平均厚みとしては、5μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0073】
前記塗料をフィルム基材に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0074】
フィルム基材上に塗工した前記塗料からなる塗膜を乾燥させ、硬化させることにより、導電層が形成された導電性フィルムを得ることができる。
塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上150℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
【0075】
前記塗料が、バインダ成分として熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、塗膜を加熱して、バインダ成分を硬化させることにより、導電層が形成された導電性フィルムを得ることができる。
前記塗料が、バインダ成分として光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、塗膜に紫外線又は電子線を照射して、バインダ成分を硬化させることにより、導電層が形成された導電性フィルムを得ることができる。
【0076】
<導電性フィルム>
本発明に関連する別の態様は、フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に設けられた導電層とを有する導電性フィルムであり、前記導電層に第一態様の導電性高分子粉体が含まれる、導電性フィルムである。本態様の導電性フィルムは上述の製造方法により製造することができる。
前記導電層は電極層であってもよく、前記導電性フィルムは、フィルム基材に支持された電極であってもよい。
【0077】
(導電層)
フィルム基材の少なくとも一方の面に備えられた前記導電層の平均厚みとしては、例えば、1μm以上50μm以下が好ましく、2μm以上10μm以下がより好ましい。
前記導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
【0078】
前記導電層は、良好な導電性の目安として、例えば、1Ω/□以上1×1010Ω/□以下の表面抵抗値を有することが好ましく、10Ω/□以上1×10Ω/□以下の表面抵抗値を有することがより好ましく、100Ω/□以上1×10Ω/□以下の表面抵抗値を有することがさらに好ましい。
【0079】
≪導電性高分子粉体の製造方法(1)≫
本発明の第五態様は、π共役系導電性高分子を形成し得るモノマーと、ポリアニオンと、水とを含む反応液に、触媒及び酸化剤を加えることにより、前記モノマーを酸化重合し、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性高分子粉体を形成する工程(重合工程)と、前記反応液から前記導電性高分子粉体を分取する工程(分取工程)とを有する、導電性高分子粉体の製造方法である。
前記反応液における、前記モノマー:前記ポリアニオンの含有比は質量基準で(1:0.5)~(1:1)である。
前記反応液から分取した前記導電性高分子粉体に含まれる鉄の含有量が、前記導電性高分子粉体の総質量に対して、0.65質量%以下である。
【0080】
(重合工程)
本工程において、前記モノマーと、前記ポリアニオンとを特定の含有比で含む水溶液(反応液)を調製し、前記モノマーを重合させることにより、π共役系導電性高分子を形成する。前記反応液において、π共役系導電性高分子にポリアニオンが自然にドープされ、π共役系導電性高分子とポリアニオンからなる導電性複合体を含む導電性高分子粉体が形成される。形成された導電性複合体に含まれる、π共役系導電性高分子:ポリアニオンの含有比(質量基準)は、前記水溶液中に重合開始直前に含まれていた前記モノマーの含有量と、前記ポリアニオンの含有量の比率と同じである。つまり、前記反応液中に配合したモノマーとポリアニオンの含有比が、形成した導電性複合体及び導電性高分子粉体におけるπ共役系導電性高分子とポリアニオンの含有比に反映される。
【0081】
重合開始直前の前記反応液に含まれる前記モノマー:前記ポリアニオンの含有比は、質量基準で(1:0.5)~(1:1)であり、(1:0.5)~(1:0.90)が好ましく、(1:0.5)~(1:0.80)がより好ましく、(1:0.5)~(1:0.70)がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、ポリアニオンによるドープ効果が充分に発揮され、より導電性に優れた導電性高分子粉体が得られる。
上記範囲の上限値以下であると、ポリアニオンによるドープ効果を得つつ、水に対する分散性が低く、容易に沈殿させることが可能な導電性高分子粉体を形成することができる。
【0082】
本工程において、前記反応液に含有させる触媒は、前記モノマーを重合させるものであれば特に制限されず、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。なかでも、室温におけるモノマーの重合が安定に進むことから、鉄を含む触媒を使用することが好ましい。
前記触媒とともに、酸化剤を含有させることが好ましい。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。
触媒としてFe(鉄)を含む触媒を用いると、導電性高分子粉体に触媒由来のFeが含まれることがある。
【0083】
重合開始直前の前記反応液に含まれる前記モノマーの含有量は、例えば、前記反応液の総質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.3質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、形成される導電性高分子粉体を容易に分取することができる。
上記範囲の上限値以下であると、重合反応を安定に進められるので、反応系に存在するポリアニオンとの複合化が安定に進み、導電性の高い良質な導電性高分子粉体を容易に得ることができる。
【0084】
重合開始直前の前記反応液に含まれる前記ポリアニオンの含有量は、前記モノマーに対する前記含有比に基づいて設定されることが好ましい。
【0085】
重合開始直前の前記反応液に含まれる前記触媒の含有量は、例えば、前記反応液の総質量に対して、0.01質量%以上3質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上1質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性高分子粉体を容易に形成することができる。
上記範囲の上限値以下であると、重合反応を安定に進められるので、反応系に存在するポリアニオンとの複合化が安定に進み、導電性の高い良質な導電性高分子粉体を容易に得ることができる。
【0086】
上記重合反応を促進する観点から、前記反応液を加熱して撹拌しながら反応させてもよい。前記反応液の加熱温度は、例えば、60~100℃とすることができる。
上記範囲の下限値以上であると、重合反応を充分に促進できる。
上記範囲の上限値以下であると、π共役系導電性高分子の熱による劣化を抑制できる。
上記範囲の加熱温度で行う反応時間は、例えば1~10時間程度とすることができる。
【0087】
(析出工程)
重合工程と回収工程の間に析出工程を設けてもよい。本工程において、前記モノマーの重合反応後の前記反応液中に導電性高分子粉体を析出させる方法は特に制限されず、例えば、反応後の反応液を静置する方法、反応後の反応液をゆっくり撹拌する方法、反応後の反応液を-20℃~4℃程度に冷却する方法、反応液にアミン化合物及びエポキシ化合物のうち少なくとも一方を添加する方法等が挙げられる。いずれの方法においても、導電性高分子粉体の水に溶解し難い性質により、自然に析出させることができる。
【0088】
重合反応後の前記反応液にアミン化合物及びエポキシ化合物のうち少なくとも一方を添加することにより、重合反応後に形成された前記導電性複合体が有する余剰のアニオン基にアミン化合物及びエポキシ化合物のうち少なくとも一方を反応させ、前記余剰のアニオン基を修飾することにより、前記導電性複合体の疎水性を高め、前記反応液中に前記導電性高分子粉体を析出させることがより一層容易となる。
【0089】
前記反応液に添加するアミン化合物及びエポキシ化合物の説明は、第一態様の説明と同様であるので重複する説明は省略する。前記反応液に添加するアミン化合物又はエポキシ化合物の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0090】
前記反応液に添加するアミン化合物の添加量は、導電性高分子粉体を構成する導電性複合体100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、200質量部以上6000質量部以下であることがより好ましく、300質量部以上3000質量部以下であることがさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に向上し、析出した導電性複合体が前記反応液の上層に浮遊するので、導電性高分子粉体として収率良く回収することができる。上記範囲の上限値以下であると、導電性複合体が修飾されることによる導電性の低下を抑制することができる。
【0091】
前記反応液に添加するエポキシ化合物の添加量は、導電性高分子粉体を構成する導電性複合体100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、200質量部以上6000質量部以下であることがより好ましく、300質量部以上3000質量部以下であることがさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に向上し、析出した導電性複合体が前記反応液の下層に沈降するので、導電性高分子粉体として収率良く回収することができる。上記範囲の上限値以下であると、導電性複合体が修飾されることによる導電性の低下を抑制することができる。
【0092】
前記反応液にアミン化合物又はエポキシ化合物を添加する前、添加と同時又は添加した後には、有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。添加する水溶性有機溶剤は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0093】
(分取工程)
分取工程は、前記反応液に形成した導電性複合体を含む導電性高分子粉体を、前記反応液から分取し、回収する工程である。分取する方法としては、例えば、前記反応液を入れた容器の底に導電性高分子粉体を自然に沈殿させて上澄み液を除去する方法、前記反応液の上層に浮遊した導電性高分子粉体を吸引して回収する方法、前記反応液を濾過してフィルター上に導電性高分子粉体を得る方法、遠心分離により前記反応液を入れた容器の底に導電性高分子粉体のペレットを形成する方法、前記反応液を気体中に噴霧して乾燥させ、乾燥した導電性高分子粉体を得る方法、等が挙げられる。
これらの回収方法の中でも、自然に沈殿又は浮遊させて回収する方法は、不純物が少なく、導電性に優れ、流動性に優れた導電性高分子粉体を容易に得られるので、好ましい。
【0094】
前記反応液から回収した直後の導電性高分子粉体は、触媒や酸化剤等を含む反応液が付着しているので、導電性高分子粉体を水または有機溶剤により洗浄してもよい。
具体的には、例えば、水または有機溶剤からなる洗浄液に導電性高分子粉体を添加し、攪拌した後、再度、沈殿させる等の方法により、導電性高分子粉体を洗浄液から回収する方法が挙げられる。
前記有機溶剤としては、例えば、導電性高分子粉体を溶解し難く、洗浄力に優れることから、イソプロピルアルコール、メタノール、及びアセトンから選択される1種以上が好ましい。
【0095】
本工程で得られた導電性高分子粉体は、乾燥することにより、取り扱いが容易な乾燥粉体とすることができる。乾燥方法は特に制限されず、粉体を乾燥する公知方法が適用される。
【0096】
本工程で得られた導電性高分子粉体は、所望の粒子径となるように、粉砕してもよい。粉砕方法は特に制限されず、例えば、乳鉢を用いてすり潰して粉砕する方法、粉砕機を用いて粉砕する方法等が挙げられる。粉砕機としては、例えば、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル等が挙げられる。
【0097】
導電性高分子粉体を粉砕する方式は、分散媒中で粉砕する湿式でもよいし、分散媒を含まない状態で粉砕する乾式でもよい。導電性高分子粉体の数平均粒子径が0.1μm以上100μm以下の範囲の導電性高分子粉体を容易に製造できる点では、湿式が好ましい。湿式を適用した場合には、導電性高分子粉体は、分散媒中に分散した状態で得られる。湿式粉砕に使用する分散媒としては、例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、及びアセトンから選択される1種以上を含むことが好ましい。これら好ましい分散媒を使用すると、導電性高分子粉体の導電性を損なわずに、数平均粒子径が0.1μm以上100μm以下の範囲の導電性高分子粉体をより容易に製造できる。
【0098】
以上で説明した各工程により、第一態様の導電性高分子粉体を容易に製造することができる。
製造した導電性高分子粉体に含まれる鉄の含有量は、重合工程で触媒として使用する鉄化合物の添加量によって調整することができる。また、鉄の含有量を高める場合には、適量の鉄化合物を導電性高分子粉体に添加してもよい。逆に、鉄の含有量を低減したい場合には、導電性高分子粉体を前述の方法により洗浄すればよい。
【実施例
【0099】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0100】
(実施例1)
5.0gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、2.5gのポリスチレンスルホン酸を997.5mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、89mlのイオン交換水に溶かした11gの過硫酸アンモニウムと、49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、24時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を濾過し、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)の粉体7.5g(PEDOT:PSS=5g:2.5g)を得た。得られた粉体の総質量に対する鉄含有量を蛍光X線分析により測定した結果を表1に示す。
次に、鉄板上に15mm角で切り抜いたPETフィルム(東レ社製、ルミラー、T60、厚さ188μm)を乗せ、このPETフィルム上に(切り抜いたフィルム部分に)、得られた粉体を0.1g乗せ、更に別の鉄板を乗せ、5N/225mmの圧力で3分間プレスした。鉄板の間で固まった粉体からなる15mm角のプレート状の導電性成形体を取り出し、その表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。
【0101】
(実施例2)
実施例1において49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液を、49.4mlのイオン交換水に溶かした0.6gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液に変えたところ、7.5gの粉体(PEDOT:PSS=5g:2.5g)を得た。それ以外は実施例1と同様にして、鉄含有量と表面抵抗値の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0102】
(実施例3)
実施例1において49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液を、48.8mlのイオン交換水に溶かした1.2gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液に変えたところ、7.5gの粉体(PEDOT:PSS=5g:2.5g)を得た。それ以外は実施例1と同様にして、鉄含有量と表面抵抗値の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0103】
(実施例4)
実施例1において49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液を、48.2mlのイオン交換水に溶かした1.8gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液に変えたところ、7.5gの粉体(PEDOT:PSS=5g:2.5g)を得た。それ以外は実施例1と同様にして、鉄含有量と表面抵抗値の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0104】
(実施例5)
実施例1において49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液を、47.6mlのイオン交換水に溶かした2.4gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液に変えたところ、7.5gの粉体(PEDOT:PSS=5g:2.5g)を得た。それ以外は実施例1と同様にして、鉄含有量と表面抵抗値の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0105】
(比較例1)
実施例1において49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液を、47.0mlのイオン交換水に溶かした3.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液に変えたところ、7.5gの粉体(PEDOT:PSS=5g:2.5g)を得た。それ以外は実施例1と同様にして、鉄含有量と表面抵抗値の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0106】
(実施例7)
5.0gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、5.0gのポリスチレンスルホン酸を995.0mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、89mlのイオン交換水に溶かした11gの過硫酸アンモニウムと、49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、24時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を濾過し、PEDOT-PSSの粉体10.0g(PEDOT:PSS=5g:5g)を得た。得られた粉体の総質量に対する鉄含有量を蛍光X線分析により測定した結果を表1に示す。
次に、実施例1と同様にしてプレスを行い、鉄板の間で固まった粉体からなる15mm角のプレート状の導電性成形体を取り出し、その表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。
【0107】
(実施例8)
実施例7において49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液を、49.4mlのイオン交換水に溶かした0.6gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液に変えたところ、10.0gの粉体(PEDOT:PSS=5g:5g)を得た。それ以外は実施例7と同様にして、鉄含有量と表面抵抗値の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0108】
(実施例9)
実施例7において49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液を、48.8mlのイオン交換水に溶かした1.2gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液に変えたところ、10.0gの粉体(PEDOT:PSS=5g:5g)を得た。それ以外は実施例7と同様にして、鉄含有量と表面抵抗値の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0109】
(実施例10)
実施例7において49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液を、48.2mlのイオン交換水に溶かした1.8gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液に変えたところ、10.0gの粉体(PEDOT:PSS=5g:5g)を得た。それ以外は実施例7と同様にして、鉄含有量と表面抵抗値の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0110】
(比較例2)
実施例7において49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液を、47.6mlのイオン交換水に溶かした2.4gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液に変えたところ、10.0gの粉体(PEDOT:PSS=5g:5g)を得た。それ以外は実施例7と同様にして、鉄含有量と表面抵抗値の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0111】
(比較例3)
実施例7において49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液を、47.0mlのイオン交換水に溶かした3.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液に変えたところ、10.0gの粉体(PEDOT:PSS=5g:5g)を得た。それ以外は実施例7と同様にして、鉄含有量と表面抵抗値の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0112】
(実施例13)
5.0gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、2.5gのポリスチレンスルホン酸を997.5mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、89mlのイオン交換水に溶かした11gの過硫酸アンモニウムと、48.2mlのイオン交換水に溶かした1.8gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、24時間攪拌して反応させた。
次に、イソプロパノール500gとトリオクチルアミン100gを添加し、1時間攪拌した。ここで、析出したπ共役系導電性高分子とポリアニオンとトリオクチルアミンの反応物が、すべて溶液上層に浮遊したことを確認した。得られた反応液を濾過し、PEDOT-PSSとトリオクチルアミンの反応物からなる粉体7.7g(PEDOT:PSS=5g:2.5g)を得た。
次に、粉体の鉄含有量を上記方法で測定した後、実施例1と同様にしてプレスを行い、鉄板の間で固まった粉体からなる15mm角のプレート状の導電性成形体を取り出し、その表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。
【0113】
(実施例14)
5.0gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、2.5gのポリスチレンスルホン酸を997.5mlのイオン交換水に溶かした溶液を20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、89mlのイオン交換水に溶かした11gの過硫酸アンモニウムと、48.2mlのイオン交換水に溶かした1.8gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、24時間攪拌して反応させた。
次に、ブチルグリシジルエーテル100gを添加し1時間攪拌した。ここで、析出したπ共役系導電性高分子とポリアニオンとブチルグリシジルエーテルの反応物が、すべて溶液下層に沈降したことを確認した。得られた反応液を濾過し、PEDOT-PSSとブチルグリシジルエーテルの反応物からなる粉体7.8g(PEDOT:PSS=5g:2.5g)を得た。
次に、粉体の鉄含有量を上記方法で測定した後、実施例1と同様にしてプレスを行い、鉄板の間で固まった粉体からなる15mm角のプレート状の導電性成形体を取り出し、その表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。
【0114】
(実施例15)
5.0gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、2.5gのポリスチレンスルホン酸を997.5mlのイオン交換水に溶かした溶液を20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、89mlのイオン交換水に溶かした11gの過硫酸アンモニウムと、48.2mlのイオン交換水に溶かした1.8gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、24時間攪拌して反応させた。
次に、ブチルグリシジルエーテル100gを添加して1時間攪拌した後、続いて、イソプロパノール500gとトリオクチルアミン100gを添加して1時間攪拌した。ここで、析出したπ共役系導電性高分子とポリアニオンとブチルグリシジルエーテル及びトリオクチルアミンとの反応物が、すべて溶液下層に沈降したことを確認した。得られた反応液を濾過し、PEDOT-PSSとブチルグリシジルエーテル及びトリオクチルアミンとの反応物からなる粉体8.0g(PEDOT:PSS=5g:2.5g)を得た。
次に、粉体の鉄含有量を上記方法で測定した後、実施例1と同様にしてプレスを行い、鉄板の間で固まった粉体からなる15mm角のプレート状の導電性成形体を取り出し、その表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。
【0115】
(比較例4)
5.0gの3,4-エチレンジオキシチオフェンを、1000mlのイオン交換水に溶かした溶液を20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、89mlのイオン交換水に溶かした11gの過硫酸アンモニウムと、49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、24時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を濾過し、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の粉体5.0g(PEDOT:PSS=5g:0g)を得た。
【0116】
(比較例5)
5.0gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、10.0gのポリスチレンスルホン酸を990.0mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、89mlのイオン交換水に溶かした11gの過硫酸アンモニウムと、49.7mlのイオン交換水に溶かした0.3gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、24時間攪拌して反応させた。
得られた反応液中に析出物は生じず、濾過したところ反応物がすべて濾紙を通過したため、検討を中止した。
【0117】
<評価方法>
[表面抵抗値]
各例の導電性成形体の表面抵抗値は、抵抗率計(日東精工アナリテック社製ハイレスタ)を用い、印加電圧を10Vとして測定した。その測定結果を表1に記載する。なお、表中の「Ω/□」はオームパースクエアの意味であり、表面抵抗値が小さい程、導電性が高いことを示す。
【0118】
【表1】
【0119】
<結果>
本発明に係る各実施例において、PEDOT:PSSの質量比が(1:0.5)~(1:1)である導電性高分子粉体が得られた。この導電性高分子粉体の鉄含有量は0.65質量%以下であるため、この粉体をプレスしてなる導電性成形体の導電性は優れている。導電性高分子粉体を構成する導電性複合体は、アミン化合物及びエポキシ化合物の少なくとも一方と反応すると、反応液中で浮遊又は沈降するので、反応液からの分取がより容易となっている。
比較例1~3の導電性高分子粉体の鉄含有量は0.65質量%を超えるので、導電性が劣っていた。
比較例4で得たPEDOTの粉体は、PSSを含まないので、導電性に劣っていた。
比較例5で得たPEDOT-PSSは、PEDOTよりもPSSの比率が大きいので、水に対する分散性が優れ、粉体を形成しなかった。