(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】クレーン装置、揺動制御方法及び揺動制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
B66C13/22 M
(21)【出願番号】P 2020192078
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】593001945
【氏名又は名称】株式会社エムエムアイ
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】宇丹 友浩
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 晋司
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-199357(JP,A)
【文献】特開昭60-077088(JP,A)
【文献】特開平09-301679(JP,A)
【文献】特開2016-199359(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0168397(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00- 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面内において第1方向に沿って直線的に移動可能な第1走行装置と、
前記第1走行装置により搬送されて水平面内で前記第1方向に沿って直線的に移動可能な巻上装置と、
前記第1走行装置及び前記巻上装置の動作を制御する制御装置と、を有するクレーン装置であって、
前記巻上装置は、
吊荷を吊り上げるワイヤロープの巻上げ及び巻下げが可能な巻上ドラムと、
前記ワイヤロープが巻回されて前記吊荷の吊上げを中継するエコライザーと、を有し、
前記エコライザーには、
前記ワイヤロープが巻回されて回転可能なエコライザーシーブと、
前記第1方向を含む鉛直面内での第1揺動が可能な揺動構造と、
前記第1揺動により生じた前記エコライザーの第1傾斜角を検出可能な傾斜センサと、が設けられており、
前記制御装置は、
前記傾斜センサにより検出された前記エコライザーの前記第1傾斜角の値
の増減傾向に基づき、
前記第1傾斜角の絶対値が増加傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が増加するように正の加速度をもって加速し、
前記第1傾斜角の絶対値が減少傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が減少するように負の加速度をもって減速する、制御を行うクレーン装置。
【請求項2】
前記加速度が一定である、請求項1に記載のクレーン装置。
【請求項3】
前記加速度をα、重力加速度をg、前記エコライザーの第1傾斜角をθ、円周率をπとしたときに、
前記加速度が、
|α|=(2・g・tan|θ|)/π
2
で算出された加速度である、請求項1又は請求項2に記載のクレーン装置。
【請求項4】
前記クレーン装置が、水平面内において前記第1方向と直交する第2方向に沿って直線的に移動可能な第2走行装置を有し、
前記巻上装置が、前記第2走行装置により搬送されて前記水平面内で前記第2方向に沿って直線的に移動可能であり、
前記制御装置が、前記第2走行装置の動作を制御し、
前記揺動構造が、前記第2方向を含む鉛直面内での第2揺動が可能であり、
前記傾斜センサが、前記第2揺動により生じた前記エコライザーの第2傾斜角を検出可能であり、
前記制御装置は、
前記傾斜センサにより検出された前記エコライザーの前記第2傾斜角の値
の増減傾向に基づき、
前記第2傾斜角の絶対値が増加傾向にある間は、前記第2傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第2方向に沿って前記第2走行装置をその速度の絶対値が増加するように正の加速度をもって加速し、
前記第2傾斜角の絶対値が減少傾向にある間は、前記第2傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第2方向に沿って前記第2走行装置をその速度の絶対値が減少するように負の加速度をもって減速する、制御を行う、請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のクレーン装置。
【請求項5】
水平面内において第1方向に沿って直線的に移動可能な第1走行装置と、
前記第1走行装置により搬送されて水平面内で前記第1方向に沿って直線的に移動可能な巻上装置と、
前記第1走行装置及び前記巻上装置の動作を制御する制御装置と、を有し、
前記巻上装置は、
吊荷を吊り上げるワイヤロープの巻上げ及び巻下げが可能な巻上ドラムと、
前記ワイヤロープが巻回されて前記吊荷の吊上げを中継するエコライザーと、を有し、
前記エコライザーには、
前記ワイヤロープが巻回されて回転可能なエコライザーシーブと、
前記第1方向を含む鉛直面内での第1揺動が可能な揺動構造と、
前記第1揺動により生じた前記エコライザーの第1傾斜角を検出可能な傾斜センサと、が設けられたクレーン装置により前記吊荷を吊り上げた状態での前記吊荷の揺動を制御する揺動制御方法であって、
前記傾斜センサにより前記エコライザーの前記第1傾斜角を検出する検出工程と、
前記制御装置により、
前記第1傾斜角の絶対値が増加傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が増加するように正の加速度をもって加速し、かつ、
前記第1傾斜角の絶対値が減少傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が減少するように負の加速度をもって減速する
制御を、前記第1傾斜角の値の増減傾向に基づき実行する走行制御工程と、を有する揺動制御方法。
【請求項6】
水平面内において第1方向に沿って直線的に移動可能な第1走行装置と、
前記第1走行装置により搬送されて水平面内で前記第1方向に沿って直線的に移動可能な巻上装置と、
前記第1走行装置及び前記巻上装置の動作を制御するコンピュータと、を有し、
前記巻上装置は、
吊荷を吊り上げるワイヤロープの巻上げ及び巻下げが可能な巻上ドラムと、
前記ワイヤロープが巻回されて前記吊荷の吊上げを中継するエコライザーと、を有し、
前記エコライザーには、
前記ワイヤロープが巻回されて回転可能なエコライザーシーブと、
前記第1方向を含む鉛直面内での第1揺動が可能な揺動構造と、
前記第1揺動により生じた前記エコライザーの第1傾斜角を検出可能な傾斜センサと、が設けられたクレーン装置により前記吊荷を吊り上げた状態での前記吊荷の揺動を制御する揺動制御プログラムであって、
コンピュータに、
前記傾斜センサにより前記エコライザーの前記第1傾斜角を検出する検出機能と、
前記第1傾斜角の絶対値が増加傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が増加するように正の加速度をもって加速し、かつ、
前記第1傾斜角の絶対値が減少傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が減少するように負の加速度をもって減速する
制御を、前記第1傾斜角の値の増減傾向に基づき実行する走行制御機能と、を実現させる揺動制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン装置、揺動制御方法及び揺動制御プログラムに係り、特に作業現場において重量物等の吊荷を吊り上げた際の吊荷の揺動を制御可能なクレーン装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、工場や倉庫等の作業現場において重量物等の吊荷を吊り上げるためにクレーン装置が用いられている。クレーン装置には、例えば門型(ガントリー)構造を有するもの(ガントリークレーン)や建物内で用いられる天井クレーンがある。これらのクレーン装置は、吊荷を吊り上げる機能(上下移動機能)、吊荷を特定の水平方向(走行方向)に沿って移動させる機能(走行機能)、吊荷を走行方向と直交する水平方向(横行方向)に沿って移動させる機能(横行機能)を有し、吊荷を自在にある場所から別の場所に移動することができるようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1には走行方向及び横行方向に沿って移動可能なトロリ1が巻き取り装置11を有し、その巻き取り装置11がワイヤ4の巻上げ、巻下げを行うことで吊荷6の上げ下げが可能な構成が開示されている。また、特許文献1には、吊荷が吊り上げられた状態で運搬されるために、トロリ/ガーダが停止すると吊荷が振れてしまうという課題に対し、簡単な操作で吊荷の振れを抑制すべく、吊荷のモデル速度を算出し、そのモデル速度に基づいてトロリの速度制御を行う趣旨の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示のものは、算出された吊荷のモデル速度と、吊荷の目標速度とが一致又は近づくよう、制御対象機器の速度を算出している。しかしながら、この手法によれば、吊荷のモデル速度の出力を繰り返し行う必要がある。また、速度と速度との差分に基づきトロリの速度制御を行うフィードバック制御であるため、吊荷の振れの抑制が素早く精度よく行えるか否かに疑問がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、重量物等の吊荷を吊り上げた状態での吊荷の揺動(振れ)の制御をシンプルな演算処理で素早く行うことのできるクレーン装置、揺動制御方法及び揺動制御プログラムを提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
水平面内において第1方向に沿って直線的に移動可能な第1走行装置と、
前記第1走行装置により搬送されて水平面内で前記第1方向に沿って直線的に移動可能な巻上装置と、
前記第1走行装置及び前記巻上装置の動作を制御する制御装置と、を有するクレーン装置であって、
前記巻上装置は、
吊荷を吊り上げるワイヤロープの巻上げ及び巻下げが可能な巻上ドラムと、
前記ワイヤロープが巻回されて前記吊荷の吊上げを中継するエコライザーと、を有し、
前記エコライザーには、
前記ワイヤロープが巻回されて回転可能なエコライザーシーブと、
前記第1方向を含む鉛直面内での第1揺動が可能な揺動構造と、
前記第1揺動により生じた前記エコライザーの第1傾斜角を検出可能な傾斜センサと、が設けられており、
前記制御装置は、
前記傾斜センサにより検出された前記エコライザーの前記第1傾斜角の値に基づき、
前記第1傾斜角の絶対値が増加傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が増加するように正の加速度をもって加速し、
前記第1傾斜角の絶対値が減少傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が減少するように負の加速度をもって減速する、制御を行うクレーン装置。
【0008】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【0009】
本発明によれば、重量物等の吊荷を吊り上げた状態での吊荷の揺動(振れ)の制御をシンプルな演算処理で素早く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態1に係るクレーン装置の全体構成図である。
【
図2】
図1のクレーン装置における要部を説明する図であって、巻上ユニットの周囲構成を示す図である。
【
図3】
図1に示すクレーン装置におけるワイヤロープの引き回しの状況を説明する模式図である。
【
図4】
図1に示すクレーン装置におけるエコライザーの概略構成図である。
【
図5】
図1に示すクレーン装置における制御ユニットのブロック構成図である。
【
図6】本発明の実施形態1に係る揺動制御方法を説明するためのフローチャートである。
【
図7】吊荷の揺動制御方法を説明するための説明図である。
【
図8】吊荷の揺動制御方法の原理を説明するチャート図である。
【
図9】本発明の実施形態2に係る揺動制御方法において、クラブの移動により吊荷1を運搬する様子を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態3に係る揺動制御方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態1]
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態1について説明する。
図1は、実施形態1に係るクレーン装置Sの全体構成図である。クレーン装置Sは、工場内、建設作業現場、コンテナターミナル等の作業現場において、重量物である吊荷1を吊り上げて運搬するためのクレーン装置であり、例えばガントリークレーンや天井クレーンである。クレーン装置Sが屋内に設置されるか屋外に設置されるかは問わない。
【0012】
<クレーン装置の構成>
クレーン装置Sは、サドル(第1走行装置:走行装置ともいう。)2、クラブ(第2走行装置:横行装置ともいう。)4、巻上ユニット(巻上装置)6、制御ユニット(制御装置)8を有して大略構成される。クレーン装置Sの設置場所には、サドル2がX方向(第1方向:走行方向ともいう。)に沿って走行するための走行レール16、クラブ4がY方向(第2方向:横行方向ともいう。)に沿って走行(横行)するためのガーダ18a及び横行レール18bも設置されている。また、吊荷1の吊上げには、ワイヤロープ10、フックユニット12、及び吊荷1に取り付ける玉掛ワイヤ14(
図2参照)も用いられる。
【0013】
サドル2は、水平面内において走行方向(
図1中のX方向)に沿って直線的に移動可能に構成された移動体である。走行レール16がX方向に沿って延びるように敷設されており、サドル2は、その走行レール16上を制御ユニット8からの制御指令に基づいて往復移動可能とされている。
【0014】
サドル2上にはガーダ18aが設置されている。ガーダ18aは、水平面内において走行方向と直交する横行方向(
図1中のY方向)に沿って延びており、その上部に横行レール18bがガーダ18aと同方向に延びて設置されている。したがって、横行レール18bもサドル2と共にX方向に沿って直線的に往復移動可能である。クラブ4は、横行レール18b上を移動可能に構成された移動体である。クラブ4は、横行レール18b上を制御ユニット8からの制御信号に基づいてY方向に沿って往復移動可能である。
【0015】
なお、本実施形態1においては、サドル2を第1走行装置、クラブ4を第2走行装置として説明しているが、これに限られない。例えば、クラブ4が第1方向(X方向)に沿って移動する第1走行装置であり、サドル2が第2方向(Y方向)に沿って移動する第2走行装置であっても構わない。サドル2及びクラブ4のいずれを第1走行装置とするか第2走行装置とするかは定義付の問題であり、設計事項である。同様に、第1方向及び第2方向のいずれをX方向とするかY方向とするかも定義付の問題であり、設計事項である。
【0016】
クラブ4上に巻上ユニット6が設置されている。巻上ユニット6は、クラブ4と共に、水平面内においてX方向及びY方向に自在に移動可能とされている。巻上ユニット6は、
図1及び
図2に示すように、巻上ドラム20とエコライザー22とを有している。巻上ドラム20は、吊荷1を吊り上げるためのワイヤロープ10の巻上げ及び巻下げが可能な回転体であり、図示しない巻上モータに連結されて制御ユニット8(
図5参照)からの制御指令に基づき、正逆回転が可能とされている。なお、
図2はY方向(横行方向)及び上下方向を含む平面(鉛直面)を矢視する方向で図示されている。
【0017】
ワイヤロープ10には、吊荷1又は吊荷1に取り付けられた玉掛ワイヤ14を掛けるためのフックユニット12が繋留されている。フックユニット12は、吊荷1又は玉掛ワイヤ14を掛けるためのフック部12aとワイヤロープ10にフックユニット12を繋留するためのシーブ12bとを有している。実施形態1では、フックユニット12はシーブ12bを2個並列保持し、その各々のシーブ12bにワイヤロープ10が巻回されている。
【0018】
図3は、ワイヤロープ10の引き回しの状況を説明する模式図である。ワイヤロープ10の先端10aは、巻上ドラム20に固定されている。ワイヤロープ10は、先端から垂れ下がってフックユニット12へと至り、1つ目のシーブ12bに巻き掛けられた後にエコライザー22へと至る。ワイヤロープ10は、エコライザー22内のエコライザーシーブ26(後述)に巻回された後に再びフックユニット12の2つ目のシーブ12bに巻き掛けられ、その後に再び巻上ドラム20へと戻り、その後端10bが巻上ドラム20に固定されている。
【0019】
なお、
図1や
図3に示されるワイヤロープ10の巻上ドラム20への巻付け方向と
図2や
図7に示されるワイヤロープ10の巻上ドラム20への巻付け方向とは異なっているが、ワイヤロープ10の巻上ドラム20への巻付け方向はいずれの方向であってもよく、巻付け方向は本発明の趣旨に影響しない。
【0020】
つまり、ワイヤロープ10の先端及び後端が巻上ドラム20に固定され、ワイヤロープ10の略中央長さ位置にエコライザー22のエコライザーシーブ26が位置し、巻上ドラム20とエコライザー22とで負荷を保持されるように、その間にフックユニット12がぶら下がっている。巻上ドラム20の巻上動作によりフックユニット12が上方移動し、巻下動作によりフックユニット12が下方移動する。実施形態1では、巻上ドラム20の巻上動作時の動作負荷は、吊荷1の重量負荷の1/2となる。
【0021】
図4は、エコライザー22の概略構造図である。
図4は、X方向(走行方向)及び上下方向を含む平面(鉛直面)を矢視する方向で図示されている。エコライザー22は、ワイヤロープ10が巻回されて吊荷1の吊上げを中継するためのものである。エコライザー22は、
図4に示すように、エコライザーシーブ26、傾斜センサ28、地切りセンサ30、張力センサ32、揺動構造34、緩衝構造36及びベース基板38を有している。エコライザー22の主要部としてのエコライザーシーブ26、傾斜センサ28、地切りセンサ30、張力センサ32はベース基板38上に配置されている。なお、エコライザーシーブ26は緩衝構造36を介してベース基板38に上下移動可能に配置されている。
【0022】
ベース基板38は、揺動構造34により巻上ユニット6内の所定の台座(不図示)に懸架され、揺動構造34の機能によってクラブ4に対して揺動可能とされている。揺動構造34では、例えば、X方向(走行方向)に沿って延びる軸34aが嵌合孔に嵌合され、その軸34a周りにベース基板38が揺動可能とされることによりX方向軸周りの揺動が実現されている。これにより、エコライザー22は、Y方向を含む鉛直面内での揺動(第2揺動)が可能となっている。また、揺動構造34では、例えば、Y方向(横行方向であって、
図4の紙面に垂直な方向)に沿って延びる及び軸34bが嵌合孔に嵌合され、その軸34b周りにベース基板38が揺動可能とされることによりY方向軸周りの揺動が実現されている。これにより、エコライザー22は、X方向を含む鉛直面内での揺動(第1揺動)も可能となっている。実施形態1では、ベース基板38は、X方向軸周りの揺動及びY方向軸周りの揺動の両方が可能である。
【0023】
エコライザーシーブ26は、ワイヤロープ10が巻回されるシーブであって、Y方向に沿って延びる軸26a周りに回転自在とされている。エコライザーシーブ26は、緩衝構造36を介してベース基板38に対して上下移動可能に取り付けられている。緩衝構造36の詳細な構造及び動作については後述する。
【0024】
傾斜センサ28は、揺動構造34による揺動の結果生じたエコライザー22の傾斜角θを検出するためのセンサである。実施形態1では、傾斜センサ28は、ベース基板38に固定されており、エコライザー22のX方向軸回りの傾斜角θxもY方向軸回りの傾斜角θyも検出可能であるが、実施態様によっては、X方向軸回りの傾斜角θxのみ、又は、Y方向軸回りの傾斜角θyのみを検出可能であってもよい。ここで、傾斜角θxは、エコライザー22の第2揺動により生じた第2傾斜角であり、傾斜角θyは、エコライザー22の第1揺動により生じた第1傾斜角である。傾斜センサ28は、その検出結果としての出力信号を制御ユニット8へと送信可能である(
図5参照)。なお、X方向軸回りの傾斜角θxは、Y方向及び上下方向を含む鉛直面内での傾斜角であり、Y方向軸回りの傾斜角θyは、X方向及び上下方向を含む鉛直面内での傾斜角である。
【0025】
地切りセンサ30は、吊荷1の地切りを検出するためのセンサであり、実施形態1では、リミットスイッチが用いられる。地切りセンサ30は、ベース基板38に取り付けられ、緩衝構造36によって懸架されたエコライザーシーブ26の上下移動によりオンオフを検出することができる位置に配置されている。
【0026】
ここで、「地切り」とは、吊荷1が地面G(又は接地面)から持ち上げられて地面Gから離れる瞬間又はその前後の状況を意味するが、本出願において「地切りを検出する」とは、地切り間近又は直前の状況を検出することを意味する。すなわち、吊荷1が地面Gに接しているが、地面Gから離れる直前又はそれが間近の状況であり、吊荷1が地面Gに接触しているがワイヤロープ10が弛んでおらず、ワイヤロープ10にテンションが生じている状況や、吊荷1の一部が地面Gから離れているが、他の一部がまだ地面Gに接触している状況を検出することを意味する。換言すれば、地切りセンサ30は、吊荷1の少なくとも一部がまだ地面Gと接触していて地面Gに拘束されて揺動しないが、ワイヤロープ10にテンションが生じていて弛んでいない状況を検出する。
【0027】
ワイヤロープ10が弛んだ状態では、ワイヤロープ10にはそれ自身の自重によるもの以外の荷重(テンション)が生じることはない。エコライザーシーブ26は緩衝構造36の作用によって上方に付勢された状態を維持する。ワイヤロープ10が巻上げられてその弛みがなくなり、吊荷1がまさに地面Gから持ち上げられる地切りの前後においては、ワイヤロープ10に急激に大きなテンションが生じる。
【0028】
その際、ワイヤロープ10が巻回されたエコライザーシーブ26には、テンションの作用により下方向への外力が加わる。エコライザーシーブ26が緩衝構造36によってベース基板38に対して上下移動可能に構成されているので、エコライザーシーブ26はベース基板38上を下方移動する。
【0029】
エコライザーシーブ26の軸26aは、緩衝構造36によって懸架された移動基板27に配置されており、その移動基板27には、例えば下方に向けて突出する検出ドグ26bが設けられている。エコライザーシーブ26、軸26a、検出ドグ26bは、一体となってベース基板38に対して上下移動可能とされている。ワイヤロープ10にテンションが加わらずエコライザーシーブ26が上方位置に維持されている状態では、地切りセンサ30は検出ドグ26bを検出せずその出力信号はオフである。吊荷1が地切りを始めてワイヤロープ10に強いテンションが加わるとエコライザーシーブ26が下方移動する。エコライザーシーブ26の下方移動により検出ドグ26bが地切りセンサ30によって検出されると、地切りセンサ30はオン信号を出力する。それにより、地切りセンサ30からの出力信号が入力される制御ユニット8側で、吊荷1の地切りを判断することができる。
【0030】
なお、実施形態1では、エコライザー22に地切りセンサ30が配置され、ワイヤロープ10のテンションに応じて吊荷1の地切りが検出できるようになっているが、地切りセンサ30は、必ずしもエコライザー22に配置されていなくてもよい。例えば、エコライザーシーブ26とは別の、エコライザー22以外の場所に配置されてワイヤロープ10が巻回されるシーブ(不図示)に加わるワイヤロープ10のテンションを検出する構成を地切りセンサとしたり、ワイヤロープ10自体のテンションを検出する歪みセンサを地切りセンサとしたりすることが可能である。また、地切りセンサ30は必ずしもリミットスイッチである必要がなく、例えばフォトインタラプタ等の光学センサ、その他の検出デバイスであってもよい。
【0031】
張力センサ32は、吊荷1の地切り以前におけるワイヤロープ10の張力変化を検出するためのものであり、実施形態1では、地切りセンサ30と同様にリミットスイッチを張力センサ32として用いている。張力センサ32は、ベース基板38に取り付けられ、緩衝構造36によって懸架されたエコライザーシーブ26の上下移動によりオンオフを検出することができる位置に配置されている。
【0032】
エコライザーシーブ26の軸26aが配置された移動基板27には、例えば上方に向けて突出する検出ドグ26cが設けられている。吊荷1の地切り以前の状態において、ワイヤロープ10にテンションが殆ど生じていない場合、エコライザーシーブ26が緩衝構造36によって上方に付勢されている。このとき、ベース基板38上に配置された張力センサ32によって検出ドグ26cが検出され、張力センサ32はオン信号を出力する。
【0033】
ワイヤロープ10が巻き上げられてワイヤロープ10へのテンションが増大し始めると、緩衝構造36の付勢力に抗してエコライザーシーブ26及び検出ドグ26cが下方移動を開始する。検出ドグ26cが下方移動によって検出されなくなると、張力センサ32は出力信号をオフ信号とする。つまり、ワイヤロープ10の張力(テンション)の変化を張力センサ32のオンオフ信号により検出している。そして、張力センサ32のオン→オフへの出力信号の切り替えの後に、更にワイヤロープ10のテンションが増大して吊荷1の地切りが生じると、地切りセンサ30の出力信号がオフ→オンへと切り替わる。
【0034】
張力センサ32によりワイヤロープ10のテンションの変化を検出することで、地切りセンサ30による地切りの検出前に、地切りのタイミングが近いことを把握することができる。例えば、ワイヤロープ10が弛んでいる状態では巻上ドラム20により高速巻上を実行しつつ、張力センサ32での検出の後に巻上ドラム20による巻上速度を減速し、その後地切りセンサ30での地切り検出によって吊荷1が地面Gから離れてしまう前に遅れることなく適切なタイミングで巻上動作を停止するような動作制御が可能となる。吊上げ工程の高速化(時間短縮)と、地切り検出でのオーバーラン防止とを一層高い効果で両立することができる。
【0035】
つまり、張力センサ32は、吊荷1の地切りの時期が近づいていることを検出するセンサであるとも言える。また、巻上ドラム20による巻上動作の減速タイミングを検出するセンサであるとも言える。もちろん、張力センサ32は、必須の構成ではなく、張力センサ32を配置しなくとも適切な吊荷1の地切り検出を行うことができる。また、張力センサ32が必ずしもエコライザー22に配置されている必要がない点、リミットスイッチに限定されずにフォトインタラプタ等の光学センサ、その他の検出デバイスを適用できる点については、地切りセンサ30と同様である。
【0036】
緩衝構造36は、吊荷1の地切り以前におけるワイヤロープ10の張力変化を低減するための構造である。実施形態1では、緩衝構造36は、弾性部材としてのバネ40を有しており、エコライザー22のベース基板38に対してバネ40(
図4では圧縮バネ)によりエコライザーシーブ26を懸架する構造を呈する。
【0037】
バネ40の一端(
図4では下端)がベース基板38に固定又は係止されており、バネ40の他端(
図4では上端)が移動基板27に固定又は係止されている。移動基板27は、エコライザーシーブ26及び検出ドグ26b、26cと共にベース基板38に対して上下移動可能である。
【0038】
エコライザーシーブ26は、バネ40の付勢力によりベース基板38上を上方移動し、また、バネ40の付勢力に抗してベース基板38上を下方移動することができる。通常状態、すなわち、吊荷1がまだ吊り上げられておらず、ワイヤロープ10にテンションが生じていない状態では、バネ40の付勢力によりエコライザーシーブ26はベース基板38の上方に向けて付勢され、移動基板27は、例えばベース基板38の上側ストッパ(不図示)に当接する。このとき、検出ドグ26cが張力センサ32により検出されている。
【0039】
ワイヤロープ10が巻上ドラム20により巻上げられた結果、ワイヤロープ10に強いテンションが生じると、そのテンションの作用によりバネ40の付勢力に抗してエコライザーシーブ26がベース基板38上を下方移動する。エコライザーシーブ26の下方移動の結果、検出ドグ26cが張力センサ32による検出から外れ、その後更にエコライザーシーブ26が下方移動すると検出ドグ26bが地切りセンサ30により検出される。
【0040】
このように、ワイヤロープ10のテンションに応じて、エコライザーシーブ26及び移動基板27はベース基板38上を上下移動する。なお、張力センサ32の検出がオフとなってから地切りセンサ30の検出がオンとなるまでの間、ワイヤロープ10のテンションとバネ40による付勢力は釣り合いの状態を維持しつつバネ40が圧縮される。緩衝部材として機能するバネ40が圧縮されることで、ワイヤロープ10への急激なテンション増大が防止され、その結果、張力センサ32の検出がオフとなってから地切りセンサ30の検出がオンとなるまでの間におけるワイヤロープ10に生じるテンションの大きさは緩衝構造36がない場合に比較して略一定に安定維持され、テンションの変化が低減されている。
【0041】
<制御ユニット>
図5は、クレーン装置Sの制御ユニット8のブロック構成図である。制御ユニット8の設置場所に限定はない。クラブ4上に設置されていてもよいし、サドル2や横行レール18bの近傍に配置されていてもよいし、それらと離間した異なる場所に設置されていてもよい。制御ユニット8は、サドル2、クラブ4、巻上ドラム20、傾斜センサ28、地切りセンサ30、張力センサ32と接続されている。また、制御ユニット8は主としてコンピュータを含んで構成されており、内部にCPU8a及びメモリ8bを有している。
【0042】
メモリ8b内には吊荷1を吊り上げた状態での吊荷1の揺動を制御するための揺動制御プログラム(吊上げプログラム)Pが格納されている。この揺動制御プログラムPが実行されることにより、CPU8aが、自身に接続されたサドル2、クラブ4、巻上ドラム20、傾斜センサ28、地切りセンサ30、張力センサ32と協働してクレーン装置Sによる揺動制御方法を実現する。
【0043】
CPU8aは、サドル2、クラブ4、巻上ドラム20に対して動作制御指令を出力可能である。すなわち、CPU8aからの動作制御指令に基づいて、サドル2は走行レール16上を往復動するようになっており、クラブ4は横行レール18b上を往復動するようになっており、巻上ドラム20はワイヤロープ10を巻上又は巻下するようになっている。つまり、CPU8aは、実質的に信号出力手段81aとして機能する。信号出力手段81aは、後述する信号入力手段81bで受信した各センサからの出力信号に基づいて、サドル2、クラブ4、巻上ドラム20に対して動作制御指令を出力する機能を実現する。
【0044】
CPU8aは、傾斜センサ28、地切りセンサ30、張力センサ32からの検出結果としての出力信号を受信(入力)可能である。つまり、CPU8aは、実質的に信号入力手段81bとして機能する。信号入力手段81bは、傾斜センサ28からの出力信号を受信することにより、傾斜センサ28にエコライザー22の傾斜角θ(θx、θy)を検出させる。信号入力手段81bは、地切りセンサ30からの出力信号を受信することにより、地切りセンサ30に吊荷1の地切りを検出させる。信号入力手段81bは、張力センサ32からの出力信号を受信することにより、張力センサ32に吊荷1の地切り以前におけるワイヤロープ10のテンションの変化を検出させる。
【0045】
<吊荷の揺動制御方法>
このクレーン装置Sを用いた吊荷1の揺動制御方法について、
図6、
図7、
図8を用いて説明する。なお、
図6は、クレーン装置Sを用いた揺動制御方法を説明するためのフローチャートである。
図7は、Y方向(横行方向)及び上下方向を含む鉛直面内における吊荷1の揺動制御方法を説明するための説明図である。
図8は、この揺動制御方法の原理を説明するチャート図である。
【0046】
なお、
図7、
図8では、クラブ4(第2走行装置)のY方向(第2方向)移動による吊荷1の揺動制御方法について説明する。つまり吊荷1がY方向を含む鉛直面内で揺動した状態での揺動制御方法について説明する。もちろん、サドル2(第1走行装置)のX方向(第1方向)移動による吊荷1の揺動制御方法についても、基本原理や制御プロセスは同様である。クラブ4をサドル2に読み替え、Y方向(第2方向)をX方向(第1方向)に読み替えることで、下記の説明は、吊荷1がX方向を含む鉛直面内で揺動した状態での揺動制御方法についても適用可能である。また、サドル2とクラブ4とを同時制御することにより、吊荷1のX方向及びY方向の両方向での揺動制御が可能となる。
【0047】
この揺動制御方法は、揺動制御プログラムPが実行されることにより実現する。なお、以下の説明において、「吊荷1の重心位置とフックユニット12の重心位置と」の芯出し・芯ずれ・左右方向ずれ(水平面内でのずれ)等を単に「吊荷1とフックユニット12と」の芯出し・芯ずれ・左右方向ずれ(水平面内でのずれ)等のように「重心位置」の文言を省略していうことがあるものとする。
【0048】
まず、吊荷1の吊上げの前段階として巻上ドラム20を巻下げ動作させ、ワイヤロープ10を充分に弛ませておく。その状態で、吊荷1の玉掛ワイヤ14にフックユニット12のフック部12aを掛ける玉掛け操作を行う(S.1)。フックユニット12が玉掛ワイヤ14に係止されているが、吊荷1は地面Gに接地し、ワイヤロープ10は弛み、吊荷1とフックユニット12とは芯ずれを生じた状態である。
【0049】
ここで、吊荷1の揺動制御方法を実行する。具体的には、制御ユニット8に接続された操作部8c(
図5参照)を操作することにより、揺動制御プログラムPの実行が開始される(S.2)。揺動制御プログラムPの実行が開始されると、傾斜センサ28によるエコライザー22の傾斜角θの検出、地切りセンサ30による吊荷1の地切りの検出、張力センサ32によるワイヤロープ10のテンション変化の検出が開始される(S.3)。それと共に、巻上ドラム20による巻上げ動作が開始される(S.4:巻上工程)。
【0050】
揺動制御プログラムPの実行開始時においては、傾斜センサ28の検出結果は、X方向、Y方向共に傾斜角θ=0°である。また、地切りセンサ30の出力信号はオフ状態(検出ドグ26bを検出しておらず吊荷1の地切りを検出していない状態)、張力センサ32の出力信号はオン状態(検出ドグ26cを検出しておりワイヤロープ10のテンション変化を検出していない状態)である。なお、ここでは理解容易のために、ワイヤロープ10の自重、エコライザーシーブ26や他のシーブの重量や摩擦負荷等の影響は無視するものとする。
【0051】
巻上げが進むと、徐々にワイヤロープ10の弛みが減少してワイヤロープ10にテンションが生じ始める。そしてワイヤロープ10のテンションが一定以上になると、つまり、バネ40による不勢力に抗してエコライザーシーブ26が下方移動を開始すると、検出ドグ26cが張力センサ32で検出されなくなり、張力センサ32の出力信号はオフとなる(S.5:張力変化検出工程)。すなわち、張力センサ32によってワイヤロープ10のテンション変化が検出される。張力センサ32のオフ信号出力を受信すると、制御ユニット8は巻上ドラム20に減速を指示する制御指令を送信し、巻上ドラム20の巻上動作が低速となる(S.6:減速工程)。
【0052】
更に巻上げが進むと、ワイヤロープ10のテンションが更に増大し、エコライザー22が更に下方移動する。吊荷1が地切りとなる(すなわち、地面Gから離れる)前に、地切りセンサ30によって検出ドグ26bが検出され、地切りセンサ30の出力信号がオンとなる(S.7:地切り検出工程)。すなわち、地切りセンサ30により吊荷1の地切りが検出される。地切りが検出された後に更に巻上ドラム20による巻上動作を行い、吊荷1が地面Gから離れ、クレーン装置Sにより吊荷1が吊り上げられた状態となった後に巻上ドラム20による巻上動作を停止する(S.8)。このとき、制御ユニット8は、吊荷1の吊上げ時の振り子長さ(クラブ4から吊荷1までの長さ。
図7参照)Lを把握する(S.9)。
【0053】
ここで、傾斜センサ28により検出されたX方向軸周りの(Y方向を含む鉛直面内での)傾斜角θx及びY方向軸周りの(X方向を含む鉛直面内での)傾斜角θyが傾斜センサ28から制御ユニット8へと出力される。制御ユニット8内のメモリ8b内には、傾斜角θx、θyの各々に対応する適正範囲としての許容値θxo、θyoの値が格納されている。許容値θxo、θyoは、下限値~上限値までの範囲幅を持つ値であり、後述する理想角θrを中心としてプラスマイナスの許容幅を持つ値であってもよい。メモリ8b内にデータベースD(不図示)が構築され、データベースD内に、これら許容値θxo、θyo、理想角θrの値が格納されていてもよい。
【0054】
制御ユニット8は、受信した傾斜角θxの値と許容値θxoとを照合する(S.10:照合工程)。傾斜角θxが許容値θxoの範囲内であれば、X方向軸周りのエコライザー22の傾斜が正常範囲であると判断し、クラブ4の動作を行うことなく吊荷1の揺動制御を終了する(S.11)。受信した傾斜角θxの値と許容値θxoとを照合した結果、傾斜角θxが許容値θxoの範囲外である場合には(S.10)、吊荷1がX軸回りの揺動を開始する。傾斜センサ28は、吊荷1の揺動に基づき傾斜角θxのピーク値θxpを検出する(S.12検出工程)。制御ユニット8は、検出された傾斜角θxのピーク値θxpに基づき、クラブ4に対し、Y方向に所定の加速度を与える動作制御を実行する(S.13:走行制御工程)。このY方向の揺動制御のプロセスについて、
図7を用いて後述する。
【0055】
制御ユニット8は、傾斜角θxの値と許容値θxoとの照合(S.10)と共に、受信した傾斜角θyの値と許容値θyoとを照合する(S.14:照合工程)。傾斜角θyが許容値θyoの範囲内であれば、Y方向軸周りのエコライザー22の傾斜が正常範囲であると判断し、サドル2の動作を行うことなく吊荷1の揺動制御を終了する(S.11)。受信した傾斜角θyの値と許容値θyoとを照合した結果、傾斜角θyの値が許容値θyoの範囲外である場合には(S.14)、吊荷1がY軸回りの揺動を開始する。傾斜センサ28は、吊荷1の揺動に基づき傾斜角θyのピーク値θypを検出する(S.15:検出工程)。制御ユニット8は、検出された傾斜角θyのピーク値θypに基づき、サドル2に対し、X方向に所定の加速度を与える動作制御を実行する(S.16:走行制御工程)。
【0056】
傾斜角θxが許容値θxoの範囲内であり、かつ、傾斜角θyが許容値θyoの範囲内であることが確認できれば、制御ユニット8は、クレーン装置Sによる吊荷1の揺動制御を終了する(S.11)。
【0057】
なお、上記(S.8)では、吊荷1の揺動によっても、吊荷1が地面Gと接触しない程度に巻上動作を行った後に巻上ドラム20の動作を停止する必要がある。また、後述するように、この揺動制御方法に基づき制御ユニット8がサドル2やクラブ4に与える加速度は、吊荷1の吊上げ時の振り子長さLに依存しない。したがって、(S.8)において巻上ドラム20による巻上動作を停止することなく、巻上動作を継続しつつこの揺動制御方法を実行することも可能である。この場合、サドル2やクラブ4に与える加速度を変化させるタイミングを吊荷1の揺動周期Tに基づいて決定するのでなく、傾斜センサ28の検出結果に基づき傾斜角θx、θyの増減が反転するタイミングに基づいて行えばよい。
【0058】
上記フローチャートによれば、傾斜センサ28により検出された傾斜角θx、θyのピーク値に基づいてサドル2やクラブ4に加速度を与えているが、後述するように、必ずしもピーク値θxp、θypに基づいて加速度を算出する必要はない。傾斜センサ28により傾斜角θx、θyを常時検出し、その検出値に応じてサドル2やクラブ4に与える加速度を算出してもよい。
【0059】
<クラブの動作制御>
図7は、Y方向(横行方向)及び上下方向を含む鉛直面を矢視して巻上ユニット6を示したものである。ここでは、X方向軸周りの傾斜角θxの検出値に基づき、クラブ4をY方向に移動させてY方向における吊荷1の揺動を制御する揺動制御方法について説明する。なお、
図7において、便宜的に右向きを(+)、左向きを(-)とし、図中右方向を+Y方向、図中左方向を-Y方向とする。
【0060】
図7において、実線で示されるクラブ4及びフックユニット12は、クラブ4に対して吊荷1が芯ずれを生じていない状態を示している。この状態を状態Qoということとする。状態Qoは、クラブ4に対して吊荷1がバランスよく静止している場合の状態にも出現し、吊荷1が揺動している状態において吊荷1の位置エネルギーが最小かつ運動エネルギーが最大の場合にも出現する。
【0061】
この状態Qoにおいて、吊荷1及びフックユニット12は巻上ドラム20とエコライザー22との丁度中間地点に位置する。すなわち、ワイヤロープ10は、巻上ドラム20~フックユニット12~エコライザー22間で、倒立した略二等辺三角形を呈する。このときのフックユニット12~エコライザー22間のワイヤロープ10と鉛直方向とが為す角を理想角θrとする。理想角θrに対し、一定の許容幅をプラスマイナスで範囲設定したものが許容値θxoである。例えば、理想角θr=1°であるとして、±0.3°の許容幅を設定した許容値θxoは0.7°~1.3°の角度範囲となる。なお、振り子長さLが充分長い場合は、状態Qoにおいて理想角θr=0°と近似的に考えることもできる。その場合は、許容値θxoは-0.3°~+0.3°であってもよい。
【0062】
<揺動制御のプロセス>
吊荷1がY方向に揺動を生じると、吊荷1がクラブ4に対して破線で示す状態となる。ここで、吊荷1が-Y方向に振れた状態を状態Qmといい、吊荷1が+Y方向に振れた状態を状態Qpということとする。状態Qmのときの傾斜センサ28による検出結果としての傾斜角θxはマイナスの値であり、状態Qpのときの傾斜センサ28による検出結果としての傾斜角θxはプラスの値である。便宜的に、状態Qmのときの傾斜角を-θx、状態Qpのときの傾斜角を+θxと表すこととする。
【0063】
状態Qmのとき、すなわち傾斜角が-θxのときは、制御ユニット8は、クラブ4を-Y方向に移動させる制御を行う。つまり、クラブ4を、傾斜角-θxの絶対値|θx|が減少する方向に移動させる制御を行う。
【0064】
状態Qmのときであって、吊荷1のクラブ4に対する移動方向が-Y方向であるとき、すなわち、傾斜角-θxの絶対値|θx|が増加する方向に吊荷1が移動しつつあるとき、制御ユニット8は、クラブ4に対し、-Y方向に沿って(すなわち、傾斜角-θxの絶対値|θx|が減少する方向に)その速度の絶対値が増加するように加速する制御を行う。
【0065】
状態Qmのときであって、吊荷1のクラブ4に対する移動方向が+Y方向であるとき、すなわち、傾斜角-θxの絶対値|θx|が減少する方向に吊荷1が移動しつつあるとき、制御ユニット8は、クラブ4に対し、-Y方向に沿って(すなわち、傾斜角-θxの絶対値|θx|が減少する方向に)その速度の絶対値が減少するように減速する制御を行う。
【0066】
状態Qpのとき、すなわち傾斜角が+θxのときは、制御ユニット8は、クラブ4を+Y方向に移動させる制御を行う。つまり、クラブ4を、傾斜角+θxの絶対値|θx|が減少する方向に移動させる制御を行う。
【0067】
状態Qpのときであって、吊荷1のクラブ4に対する移動方向が+Y方向であるとき、すなわち、傾斜角+θxの絶対値|θx|が増加する方向に吊荷1が移動しつつあるとき、制御ユニット8は、クラブ4に対し、+Y方向に沿って(すなわち、傾斜角+θxの絶対値|θx|が減少する方向に)その速度の絶対値が増加するように加速する制御を行う。
【0068】
状態Qpのときであって、吊荷1のクラブ4に対する移動方向が-Y方向であるとき、すなわち、傾斜角+θxの絶対値|θx|が減少する方向に吊荷1が移動しつつあるとき、制御ユニット8は、クラブ4に対し、+Y方向に沿って(すなわち、傾斜角θxの絶対値|θx|が減少する方向に)その速度の絶対値が減少するように減速する制御を行う。
【0069】
ここで、制御ユニット8がクラブ4に与える加速度αは、例えば、以下の式に基づき算出されてもよい。
【0070】
|α|=2×g×tan|θx|)/π2 -(1)
ここで、gは重力加速度、πは円周率である。この式(1)によれば、制御ユニット8がクラブ4に与えるY方向の加速度αの絶対値は、傾斜センサ28により検出された傾斜角θxの絶対値に基づいて決定される。そして、加速度の絶対値|α|のクラブ4への付与の方向は、状態Qmのときはクラブ4の速度Vが-Y方向となるように、かつ、傾斜角の絶対値|θx|が増加する間は速度Vの絶対値が増加(加速)し、傾斜角の絶対値|θx|が減少する間は速度Vの絶対値が減少(減速)するように決定される。加速度の絶対値|α|のクラブ4への付与の方向は、状態Qpのときはクラブ4の速度Vが+Y方向となるように、かつ、傾斜角の絶対値|θx|が増加する間は速度Vの絶対値が増加(加速)し、傾斜角の絶対値|θx|が減少する間は速度Vの絶対値が減少(減速)するように決定される。
【0071】
なお、傾斜センサ28により検出された傾斜角θxのピーク値θxpを用いて、以下の式(2)に基づき加速度が決定されてもよい。ここでピーク値θxpは、X軸周り(Y方向を含む鉛直面内)での吊荷1の揺動における吊荷1の速度が0(位置エネルギーが最大かつ運動エネルギーが最小)のときの傾斜角θxである。
【0072】
|α|=2×g×tan|θxp|)/π2 -(2)
この式(2)によれば、加速度の絶対値|α|は定数となる。すなわち、クラブ4に付与する加速度は、正の加速度、負の加速度を問わず絶対値としては一定となる。この式(2)による揺動制御においても、上記式(1)の場合と同様に、加速度の絶対値|α|のクラブ4への付与の方向は、状態Qmのときはクラブ4の速度Vが-Y方向となるように、かつ、傾斜角の絶対値|θx|が増加する間は速度Vの絶対値が増加(加速)し、傾斜角の絶対値|θx|が減少する間は速度Vの絶対値が減少(減速)するように決定される。加速度の絶対値|α|のクラブ4への付与の方向は、状態Qpのときはクラブ4の速度Vが+Y方向となるように、かつ、傾斜角の絶対値|θx|が増加する間は速度Vの絶対値が増加(加速)し、傾斜角の絶対値|θx|が減少する間は速度Vの絶対値が減少(減速)するように決定される。
【0073】
この式(2)において、最初に検出されたピーク値θxpを揺動制御の実行中に更新せずに定数値として用いてもよいし、吊荷1の揺動に伴い複数回検出されるピーク値θxpを更新しつつ加速度αを算出してもよい。また、実際に傾斜センサ28によって検出されたピーク値θxpの代わりに、予め設定された定数値を用いてもよい。ピーク値θxpの代わりにピーク値θxpに近い定数値を用いることにより、ピーク値θxpを現実に検出しなくても、加速度αを定数としてこの揺動制御方法を実行することができる。
【0074】
なお、クラブ4への正の加速度の付与(加速)及び負の加速度の付与(減速)の方向及び付与のタイミング、クラブ4の速度Vの方向、及び、吊荷1の揺動周期Tについて、
図8のチャート図を用いて説明する。
【0075】
<揺動制御の原理>
図8は、この揺動制御方法の原理を説明するチャート図である。
図8では、クラブ4を移動させることにより、吊荷1のX軸周り(Y方向を含む鉛直面内)での揺動を制御する揺動制御方法について説明している。なお、この
図8では、上記式(2)に基づく揺動制御を説明している。
【0076】
図8(a)において、横軸は時間軸であり、縦軸は吊荷1のY方向位置である。チャートW1は、吊荷1の時間ごとのY方向位置を示している。時間t=0は状態Qoの状態である。吊荷1がクラブ4の略真下に位置する状態であり、吊荷1の位置エネルギーが最小かつ運動エネルギーが最大の状態である。この位置を
図8では位置P0とする。吊荷1は、ここから-Y方向に振れ、t=T/4のとき傾斜角-θxがピーク値-θxpとなる(位置エネルギーが最大かつ運動エネルギーが最小)。この位置を
図8では位置P1とする。
【0077】
その後吊荷1は、再び位置エネルギーを運動エネルギーに変換しつつ+Y方向に振れてt=2T/4のときにクラブ4の略真下の位置に戻る。この位置を
図8では位置P2とする。吊荷1は更に+Y方向に振れ、t=3T/4のとき傾斜角+θxが再びピーク値+θxpとなる。この位置を
図8では位置P3とする。そして、吊荷1は揺動方向を-Y方向に転換し、t=4T/4のときにまたクラブ4の略真下の位置に戻る。この位置を
図8では位置P4とする。
【0078】
このように、揺動周期Tの間に、P0~P4への移動を繰り返し、吊荷1はX軸周りに揺動する。ここで、位置P0~P1の間は、吊荷1がクラブ4に対して-Y方向の位置にあり、かつ吊荷1の傾斜角-θxの絶対値|θx|が増加傾向にある状態である。位置P1~P2の間は、吊荷1がクラブ4に対して-Y方向の位置にあり、かつ吊荷1の傾斜角-θxの絶対値|θx|が減少傾向にある状態である。位置P2~P3の間は、吊荷1がクラブ4に対して+Y方向の位置にあり、かつ吊荷1の傾斜角+θxの絶対値|θx|が増加傾向にある状態である。位置P3~P4の間は、吊荷1がクラブ4に対して+Y方向の位置にあり、かつ吊荷1の傾斜角+θxの絶対値|θx|が減少傾向にある状態である。
【0079】
図8(b)において、横軸は
図8(a)と共通する時間軸であり、縦軸はクラブ4の速度Vである。チャートW2は、クラブ4のY方向に沿った移動速度を示しており、
図8(a)と同様に上向きが-Y方向、下向きが+Y方向である。
【0080】
位置P0~P1の間は、制御ユニット8はクラブ4に-Y方向への一定の正の加速度αを与えているので、クラブ4の速度Vの絶対値|V|は0~|Vm|にまで直線的に増加している。ここで、「正の加速度」とは、速度の絶対値を増加(加速)させる加速度を意味する。したがって、位置P1でのクラブ4の速度は-Y方向に|Vm|となる。このときのチャートW2の傾きが加速度αであり、式(2)で算出される絶対値を有する。クラブ4の速度Vmの絶対値は、以下式(3)で表される。
【0081】
|Vm|=|α|×T/4 -(3)
位置P1~P2の間は、制御ユニット8はクラブ4に-Y方向への一定の負の加速度αを与えているので、クラブ4の速度Vの絶対値|V|は|Vm|~0にまで直線的に減少している。ここで、「負の加速度」とは、速度の絶対値を減少(減速)させる加速度を意味する。したがって、位置P2でのクラブ4の速度は0となる。
【0082】
位置P2~P3の間は、制御ユニット8はクラブ4に+Y方向への一定の正の加速度αを与えているので、クラブ4の速度Vの絶対値|V|は0~|Vm|にまで直線的に増加している。したがって、位置P3でのクラブ4の速度は+Y方向に|Vm|となる。
【0083】
位置P3~P4の間は、制御ユニット8はクラブ4に+Y方向への一定の負の加速度αを与えているので、クラブ4の速度Vの絶対値|V|は|Vm|~0にまで直線的に減少している。したがって、位置P3でのクラブ4の速度は0となる。
【0084】
上記ように、傾斜角θxに基づいて、クラブ4の移動方向及びクラブ4に付与する加速度を制御することにより吊荷1の揺動制御が効果的に行われ、素早く吊荷1の振れを低減することができる。なお、クラブ4へ付与する加速度の値の切り替えは、
図8に示されるように、吊荷1の揺動周期Tに基づき行われる。具体的には、T/4ごとにクラブ4に付与する加速度の値の切り替えが行われる。
【0085】
この切り替えタイミングは、揺動周期Tに基づいている。したがって、予め制御ユニット8が吊荷1の振り子長さLを把握している場合は、
T=2×π√(L/g) -(4)
に基づき揺動周期を算出してもよい。傾斜センサ28の検出結果に基づき状態Qoとなるタイミング(又は傾斜角θxがピーク値θxpとなるタイミング)を把握した上で、内部クロックにより加速度の値の切り替えタイミングを1/4周期ごとに把握するものであってもよい。
【0086】
また、傾斜センサ28により傾斜角θxを常時検出可能な場合は、傾斜角θxの値の変化により状態Qoとなったタイミング、傾斜角θxがピーク値θxpとなったタイミングを把握することができるので、振り子長さLや揺動周期Tを把握することなく加速度の切り替えタイミングを把握することもできる。
【0087】
なお、上記
図7及び
図8においては、吊荷1のX軸周りの揺動制御方法、すなわち、クラブ4のY方向に沿った加速及び減速の付与について説明しているが、もちろん吊荷1のY軸周りの揺動制御方法、すなわち、サドル2のX方向に沿った加速及び減速の付与についても同様の技術思想を適用することができる。その場合、クラブ4をサドル2と読み替え、XとY、xとyを入れ替えることで略同様の説明内容となるので、図示及び詳細な説明を省略する。
【0088】
[変形例1]
上記実施形態では、地切りセンサ30及び張力センサ32が各々検出ドグ26b、26cを検出しない状態でオフ信号、検出した状態でオン信号を出力する場合について説明したが、もちろん、検出ドグの検出とオンオフの状態とが逆であってもよい。すなわち、地切りセンサ30及び張力センサ32が各々検出ドグ26b、26cを検出しない状態でオン信号、検出した状態でオフ信号を出力するように構成されていてもよい。また、各センサ30、32が検出ドグ26b、26cを各々検出する状態と検出しない状態とが上記実施形態と逆の状態であってもよい。要するに、検出状態の変化によって張力センサ32がワイヤロープ10のテンション変化を検出することができ、地切りセンサ30が吊荷1の地切りを検出することができればよい。
【0089】
[変形例2]
上記実施形態では、エコライザー22がX方向に沿って延びる軸34aとY方向に沿って延びる軸34bとを有する揺動構造34によってX方向軸周りにもY方向軸周りにも揺動可能であるが、それに限定されない。揺動構造34がX方向に沿って延びる軸34aのみを有してエコライザー22がX方向軸周りにのみ揺動可能であってもよいし、揺動構造34がY方向に沿って延びる軸34bのみを有してエコライザー22がY方向軸周りにのみ揺動可能であってもよい。もちろん、揺動構造34が、軸34aや軸34bを有さずにボールジョイントによってエコライザー22をXY方向に自在に揺動可能とするものであってもよい。
【0090】
[実施形態2]
上記実施形態1では、吊荷1を吊り上げる際の吊荷1の揺動、すなわち地切りのタイミングにおいて吊荷1とフックユニット12とが芯ずれしている場合に生じる吊荷1の揺動を制御する場合について説明した。本発明は、上記の場合のみならず、例えば
図9に示すような吊荷1の運搬時に生じる揺動を制御する場合にも適用することができる。
【0091】
図9は、吊荷1の吊上げ状態において、ある位置J1から別の位置J2に向けて吊荷1を運搬する様子を示す図である。位置J1から位置J2への移動は、説明容易のため、Y方向に沿った移動、すなわち横行方向への移動であるものとして説明する。この実施形態2では、位置J2は位置J1よりも-Y方向にあるものとする。もちろん、位置J1から位置J2への移動がX方向に沿った移動であっても、X方向への移動とY方向への移動との両方を伴うものであっても本発明は適用可能である。
【0092】
制御ユニット8からの動作指令に基づき、クラブ4は、吊荷1を吊り上げた状態で位置J1から位置J2へと移動する。そして位置J2の少し手前あたりの位置から、クラブ4は所定の移動速度からの減速を開始し、位置J2にて一旦停止する。クラブ4の減速開始位置や減速プロファイル等は作業効率、安全性等種々の観点から設計的に決定される。
【0093】
一般的にクラブ4が位置J2で停止するまでは、吊荷1はクラブ4に遅れて追従することとなり、クラブ4が位置J2で停止した後に、慣性の法則に基づき吊荷1がクラブ4を追い越して揺動する。
【0094】
すなわち、クラブ4が位置J1と位置J2との間を移動する際は、クラブ4と吊荷1との関係は、
図7の状態Qpのようになっており、位置J2において吊荷1がクラブ4を追い越したときにクラブ4と吊荷1との関係は、
図7の状態Qmと同様の状態となる。
【0095】
位置J1から位置J2への移動の際に、傾斜センサ28による傾斜角θxの計測が行われていてもよいが、少なくとも位置J2でクラブ4が停止した際には傾斜角θxの計測が開始されていることが好ましい。そして、傾斜角θxがプラスの値からマイナスの値に変化するとき、すなわち傾斜角θxが0以下となったときに本発明に係る揺動制御方法が開始される。揺動制御方法は、揺動制御プログラムPの実行により開始される。
【0096】
揺動制御プログラムPの実行開始により、傾斜角θxと許容値θxoとが比較され(S.10)、その結果に応じてクラブ4の動作制御が行われる(S.13)。クラブ4の動作制御においては、検出された傾斜角θxの値を用いて式(1)に基づき加速度αが算出されてもよいし、ピーク値θxpを検出した後に、そのピーク値θxpを用いて式(2)に基づき加速度αが算出されてもよいし、ピーク値θxpの代わりに予め設定された定数値を用いて式(2)に基づき加速度αが算出されてもよい。
【0097】
なお、上記のようにクラブ4が位置J2に到達し、位置J2にて一旦停止した後にこの揺動制御方法が実行されてもよいが、位置J1から位置J2への移動途中においてすでにこの揺動制御方法が実行されてもよい。この場合、移動途中において傾斜センサ28は傾斜角θxの検出を行っている。そして、傾斜角θxがプラスの値の状態(
図7における状態Qpと同様の状態)で、加速度αが算出される。
【0098】
クラブ4が位置J2に到達する前からこの揺動制御方法が実行される場合には、制御ユニット8からクラブ4への動作指令は、位置J1から位置J2への吊荷1の搬送動作指令(すなわち、所定の速度でクラブ4を位置J1から位置J2へと移動させ、位置J2において停止させる指令)に対し、式(1)又は式(2)に基づき算出された加速度αを付与する動作指令が加えられてクラブ4が動作する。
【0099】
なお、この実施形態2で説明したように、吊荷1を吊り上げた状態である位置から別の位置に吊荷1を運搬する際に本発明の揺動制御方法を実行する場合には、地切りセンサ30、張力センサ32は必要ない。
【0100】
[実施形態3]
上記実施形態1では、本発明の揺動制御方法の実行において、予めメモリ8b内に格納された許容値θxo、θyoと、検出された傾斜角θx、θyとの照合をそれぞれ行い(S.10)(S.14)、傾斜角θx、θyが許容値θxo、θyoの範囲内となるまでクラブ4やサドル2の動作制御を行う例について説明した。実施形態3では、傾斜角θx、θyと許容値θxo、θyoのとの各々の照合を行わず、吊荷1が所定回数(又は所定時間)揺動したらクラブ4の動作制御(すなわち、加速度αの付与)を終了する例について説明する。実施形態3では、クラブ4の動作制御についてのみ説明するが、もちろんサドル2の動作制御においても同様の方法を適用することが可能である。
【0101】
図10は、実施形態3に係る揺動制御方法を説明するためのフローチャートである。実施形態3では、実施形態2と同様に、クラブ4を位置J1から位置J2へと移動させて吊荷1を運搬する場合を例示する。また、この揺動制御方法においては、ピーク値θxpを検出した後、クラブ4への加速度αの付与を吊荷1の揺動1周期に相当する時間で終了するものとする。もちろん、クラブ4への加速度αの付与は、揺動半周期に相当する時間で終了しても、揺動2周期分以上に相当する時間で終了してもよい。クラブ4への加速度αの付与の時間は、吊荷1の減衰の程度に応じて、適宜設定可能である。実施形態3に係る揺動制御方法も揺動制御プログラムP(
図5参照)の実行によって実現されるものであってもよい。
【0102】
また、揺動制御が、クラブ4の位置J1から位置J2への移動の途中に、またはそれ以前から開始されるものであってもよいが、実施形態3では、説明容易のために、クラブ4が位置J2に停止後に揺動制御が開始される場合について説明する。
【0103】
位置J1で停止中のクラブ4に、制御ユニット8から位置J2へ移動させる動作指令が入力され、クラブ4が位置J1から移動を開始する(S.21)。クラブ4が位置J2に到達したら、クラブ4は移動を停止する(S.22)。クラブ4の停止により、クラブ4に遅れて移動してきた吊荷1がクラブ4を追い越す状態となる。すなわち、傾斜角θxがプラスの値からマイナスの値へ変化する。クラブ4が位置J2で停止している場合に傾斜角θxが0となる吊荷1の位置を「原点位置」ということとし、最初に吊荷1が初期位置となった時刻tをt=0とする。
【0104】
クラブ4の停止後に、傾斜センサ28は傾斜角θxのピーク値θxpを検出する(S.23)。ピーク値θxpの検出は、傾斜センサ28により連続して複数回の傾斜角θxを検出することにより実現可能である。例えば、0.1secで検出した傾斜角θxの値の前後2回の検出値の差分が反転したことを検出することにより、傾斜角θxがピーク値θxpを超えたと判断することができる。また、例えばより確実なピーク値θxpの判断のために、前後2回の検出値の差分の反転状態が複数回(例えば、3回)連続したことをもって、傾斜角θxがピーク値θxpを超えたと判断するものであってもよい。
【0105】
クラブ4の停止後に最初のピーク値θxpが検出された時点で、吊荷1の揺動は、原点位置から1/4周期分進行している(t=T/4)。したがって、時刻t=T/4のときの傾斜センサ28の検出値をもってピーク値θxpとすることも可能である。このピーク値θxpを用いて式(2)に基づきクラブ4に付与する加速度αが算出される(S.24)。
【0106】
この実施形態3においては、T/4<t≦2T/4の間は、クラブ4に対する動作制御は行われず、クラブ4は停止状態のままである。2T/4<tとなったとき(S.25)、すなわち、再び吊荷1が原点位置に戻ったときからクラブ4に対する動作制御が開始される(S.26)。
【0107】
クラブ4に対するY方向の動作制御は、以下の通りである。傾斜角θxの絶対値|θx|が増加傾向にある間は、傾斜角θxの絶対値|θx|が減少する方向に向けてY方向に沿ってクラブ4をその速度の絶対値が増加するように正の加速度をもって増速するように動作制御が行われる。すなわち、2T/4<t≦3T/4においては、クラブ4が+Y方向に増速するように正の加速度αが付与される。そして、傾斜角θxの絶対値|θx|が減少傾向にある間は、傾斜角θxの絶対値|θx|が減少する方向に向けてY方向に沿ってクラブ4をその速度の絶対値が減少するように負の加速度をもって減速するように動作制御が行われる。
【0108】
すなわち、2T/4<t≦3T/4においては、クラブ4に対して+Y方向に増速するように正の加速度αが付与される。3T/4<t≦Tにおいては、クラブ4に対して+Y方向に減速するように負の加速度αが付与される。T<t≦5T/4においては、クラブ4に対して-Y方向に増速するように正の加速度αが付与される。5T/4<t≦6T/4においては、クラブ4に対して-Y方向に減速するように負の加速度αが付与される。
【0109】
6T/4<tとなったら(S.27)、クラブ4に対する動作制御が停止され、吊荷1の揺動制御が終了する(S.28)。この揺動制御においては、クラブ4への加速度αの付与が2T/4<t≦6T/4までの1周期分の揺動時間で終了する。
【0110】
なお、加速度αの算出に用いるピーク値θxpは、吊荷1が最初に原点位置を通過してから1回目に検出されたピーク値θxpの値を定数として用い、ピーク値θxpの値を更新しないとすることもできる。揺動制御の停止までに吊荷1は複数回の揺動を行うので、新たなピーク値θxpが検出されるごとに、ピーク値θxpの値を更新して式(2)により加速度αを算出することもできる。
【0111】
以上、本発明の好ましい実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。なお、本発明は、以下の趣旨を含む。
【0112】
[趣旨1]
水平面内において第1方向に沿って直線的に移動可能な第1走行装置と、
前記第1走行装置により搬送されて水平面内で前記第1方向に沿って直線的に移動可能な巻上装置と、
前記第1走行装置及び前記巻上装置の動作を制御する制御装置と、を有するクレーン装置であって、
前記巻上装置は、
吊荷を吊り上げるワイヤロープの巻上げ及び巻下げが可能な巻上ドラムと、
前記ワイヤロープが巻回されて前記吊荷の吊上げを中継するエコライザーと、を有し、
前記エコライザーには、
前記ワイヤロープが巻回されて回転可能なエコライザーシーブと、
前記第1方向を含む鉛直面内での第1揺動が可能な揺動構造と、
前記第1揺動により生じた前記エコライザーの第1傾斜角を検出可能な傾斜センサと、が設けられており、
前記制御装置は、
前記傾斜センサにより検出された前記エコライザーの前記第1傾斜角の値に基づき、
前記第1傾斜角の絶対値が増加傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が増加するように正の加速度をもって加速し、
前記第1傾斜角の絶対値が減少傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が減少するように負の加速度をもって減速する、制御を行うクレーン装置。
【0113】
[趣旨2]
前記加速度が一定であってもよい。
【0114】
[趣旨3]
前記加速度をα、重力加速度をg、前記エコライザーの第1傾斜角をθ、円周率をπとしたときに、
前記加速度が、
|α|=(2・g・tan|θ|)/π2
で算出された加速度であってもよい。
【0115】
[趣旨4]
前記クレーン装置が、水平面内において前記第1方向と直交する第2方向に沿って直線的に移動可能な第2走行装置を有し、
前記巻上装置が、前記第2走行装置により搬送されて前記水平面内で前記第2方向に沿って直線的に移動可能であり、
前記制御装置が、前記第2走行装置の動作を制御し、
前記揺動構造が、前記第2方向を含む鉛直面内での第2揺動が可能であり、
前記傾斜センサが、前記第2揺動により生じた前記エコライザーの第2傾斜角を検出可能であり、
前記制御装置は、
前記傾斜センサにより検出された前記エコライザーの前記第2傾斜角の値に基づき、
前記第2傾斜角の絶対値が増加傾向にある間は、前記第2傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第2方向に沿って前記第2走行装置をその速度の絶対値が増加するように正の加速度をもって加速し、
前記第2傾斜角の絶対値が減少傾向にある間は、前記第2傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第2方向に沿って前記第2走行装置をその速度の絶対値が減少するように負の加速度をもって減速する、制御を行う、請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のクレーン装置。
【0116】
[趣旨5]
水平面内において第1方向に沿って直線的に移動可能な第1走行装置と、
前記第1走行装置により搬送されて水平面内で前記第1方向に沿って直線的に移動可能な巻上装置と、
前記第1走行装置及び前記巻上装置の動作を制御する制御装置と、を有し、
前記巻上装置は、
吊荷を吊り上げるワイヤロープの巻上げ及び巻下げが可能な巻上ドラムと、
前記ワイヤロープが巻回されて前記吊荷の吊上げを中継するエコライザーと、を有し、
前記エコライザーには、
前記ワイヤロープが巻回されて回転可能なエコライザーシーブと、
前記第1方向を含む鉛直面内での第1揺動が可能な揺動構造と、
前記第1揺動により生じた前記エコライザーの第1傾斜角を検出可能な傾斜センサと、が設けられたクレーン装置により前記吊荷を吊り上げた状態での前記吊荷の揺動を制御する揺動制御方法であって、
前記傾斜センサにより前記エコライザーの前記第1傾斜角を検出する検出工程と、
前記制御装置により、
前記第1傾斜角の絶対値が増加傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が増加するように正の加速度をもって加速し、かつ、
前記第1傾斜角の絶対値が減少傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が減少するように負の加速度をもって減速する、制御を実行する走行制御工程と、を有する揺動制御方法。
【0117】
[趣旨6]
水平面内において第1方向に沿って直線的に移動可能な第1走行装置と、
前記第1走行装置により搬送されて水平面内で前記第1方向に沿って直線的に移動可能な巻上装置と、
前記第1走行装置及び前記巻上装置の動作を制御するコンピュータと、を有し、
前記巻上装置は、
吊荷を吊り上げるワイヤロープの巻上げ及び巻下げが可能な巻上ドラムと、
前記ワイヤロープが巻回されて前記吊荷の吊上げを中継するエコライザーと、を有し、
前記エコライザーには、
前記ワイヤロープが巻回されて回転可能なエコライザーシーブと、
前記第1方向を含む鉛直面内での第1揺動が可能な揺動構造と、
前記第1揺動により生じた前記エコライザーの第1傾斜角を検出可能な傾斜センサと、が設けられたクレーン装置により前記吊荷を吊り上げた状態での前記吊荷の揺動を制御する揺動制御プログラムであって、
コンピュータに、
前記傾斜センサにより前記エコライザーの前記第1傾斜角を検出する検出機能と、
前記第1傾斜角の絶対値が増加傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が増加するように正の加速度をもって加速し、かつ、
前記第1傾斜角の絶対値が減少傾向にある間は、前記第1傾斜角の絶対値が減少する方向に向けて前記第1方向に沿って前記第1走行装置をその速度の絶対値が減少するように負の加速度をもって減速する、制御を実行する走行制御機能と、を実現させる揺動制御プログラム。
【符合の説明】
【0118】
B:台 D:データベース
G:地面 J1、J2、P0~P3:位置
L:振り子長さ P:揺動制御プログラム
Qo、Qp、Qm:状態 S:クレーン装置
V、Vm:速度 W1、W2:チャート
X:走行方向(第1方向) Y:横行方向(第2方向)
θ:傾斜角 θx:X方向軸周り傾斜角(第2傾斜角)
θy:Y方向軸周り傾斜角(第1傾斜角) θxo、θyo:許容値
θxp、θyp:ピーク値 θr:理想角
1:吊荷 2:サドル(第1走行装置)
4:クラブ(第2走行装置) 6:巻上ユニット(巻上装置)
8:制御ユニット(制御装置) 8a:CPU
8b:メモリ 8c:操作部
10:ワイヤロープ 10a:先端
10b:後端 12:フックユニット
12a:フック部 12b:シーブ
14:玉掛ワイヤ 16:走行レール
18a:ガーダ 18b:横行レール
20:巻上ドラム 22:エコライザー
26:エコライザーシーブ 26a:軸
26b、26c:検出ドグ 27:移動基板
28:傾斜センサ 30:地切りセンサ
32:張力センサ 34:揺動構造
34a、34b:軸 36:緩衝構造
38:ベース基板 40:バネ
81a:信号出力手段 81b:信号入力手段