(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】メタルマスクとその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41N 1/24 20060101AFI20240823BHJP
B41C 1/14 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B41N1/24
B41C1/14 101
(21)【出願番号】P 2020210555
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】中島 貴士
(72)【発明者】
【氏名】助川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】五郎丸 佑也
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-205056(JP,A)
【文献】特開2012-111195(JP,A)
【文献】特開2015-127441(JP,A)
【文献】特開2006-161113(JP,A)
【文献】特開2011-042877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41C 1/00- 3/08
B41D 1/00-99/00
B41N 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数独立の通孔(6)を有するマスク本体(2)と、マスク本体(2)を囲むように配置された該マスク本体(2)の補強用の枠体(3)とを備えるメタルマスク(1)であって、
枠体(3)の熱線膨張係数は、マスク本体(2)の熱線膨張係数よりも小さいものとされており、
マスク本体(2)には、マスク本体(2)と枠体(3)の熱線膨張係数の差に由来して、マスク本体(2)が収縮することによって生じる引っ張り応力(F1)と、マスク本体(2)自身が内方に収縮しようとする圧縮応力(F2)とが作用されており、
両応力の合計値が、150ppm/℃以上、800ppm/℃以下の
熱線膨張係数に相当する応力に設定されて
おり、
マスク本体(2)と枠体(3)の熱線膨張係数の差に由来して、マスク本体(2)が収縮することによって生じる引っ張り応力(F1)が、マスク本体(2)自身が内方に収縮しようとする圧縮応力(F2)よりも大きく設定されており、
枠体(3)が、マスク本体(2)に固定されて、該マスク本体(2)よりも熱線膨張係数の小さな支持体(7)と、支持体(7)に固定されて、該支持体(7)よりも厚み寸法の大きな枠本体(8)とで構成されており、
枠本体(8)の熱線膨張係数が、支持体(7)の熱線膨張係数と同等、或いは支持体(7)の熱線膨張係数よりも大きいものとされていることを特徴とするメタルマスク。
【請求項2】
多数独立の通孔(6)を有する電鋳製のマスク本体(2)と、マスク本体(2)を囲むように配置された該マスク本体(2)の補強用の枠体(3)とを備えるメタルマスク(1)の製造方法であって、
母型(12)の表面に、レジスト体(16a)を有するパターンレジスト(16)を設けるパターンニング工程と、
パターンレジスト(16)を用いて、母型(12)上に電着金属を電鋳して、マスク本体(2)に対応する電着層(17)を形成する電鋳工程と、
電着層(17)と母型(12)とを加熱する加熱工程と、
電着層(17)と母型(12)とが加熱された状態で、電着層(17)を囲むように該電着層(17)上に加熱されていない枠体(3)を配し、加熱状態の電着層(17)と非加熱状態の枠体(3)とを接合する枠体接合工程と、
電着層(17)と母型(12)とを冷却したうえで、母型(12)を剥離する母型剥離工程と、
を含み、
枠体(3)の熱線膨張係数が、マスク本体(2)の熱線膨張係数よりも小さいものとされていることを特徴とするメタルマスクの製造方法。
【請求項3】
枠体(3)が、マスク本体(2)に固定されて、該マスク本体(2)よりも熱線膨張係数の小さな支持体(7)と、支持体(7)に固定されて、該支持体(7)よりも厚み寸法の大きな枠本体(8)とで構成されており、
枠体接合工程においては、電着層(17)と母型(12)とが加熱された状態で、電着層(17)を囲むように、該電着層(17)上に加熱されていない支持体(7)を配し、加熱状態の電着層(17)と非加熱状態の支持体(7)とを接合しており、
母型剥離工程後に、支持体(7)上に枠本体(8)を接合する工程を含む、請求項2記載のメタルマスクの製造方法。
【請求項4】
多数独立の通孔(6)を有する電鋳製のマスク本体(2)と、マスク本体(2)を囲むように配置された該マスク本体(2)の補強用の枠体(3)とを備えるメタルマスク(1)の製造方法であって、
母型(12)の表面に、レジスト体(16a)を有するパターンレジスト(16)を設けるパターンニング工程と、
パターンレジスト(16)を用いて、母型(12)上に電着金属を電鋳して、マスク本体(2)に対応する電着層(17)を形成する電鋳工程と、
電着層(17)と母型(12)とを加熱する加熱工程と、
電着層(17)と母型(12)とが加熱された状態で、電着層(17)上に加熱されていない支持材(23)を接合して、電着層(17)と母型(12)とを支持材(23)に担持させる支持材担持工程と、
電着層(17)と母型(12)とを冷却したうえで、母型(12)を剥離する母型剥離工程と、
電着層(17)を囲むように、該電着層(17)上に枠体(3)を配したうえで、電着層(17)と枠体(3)とを接合する枠体接合工程と、
支持材(23)を剥離する支持材剥離工程と、
を含み、
枠体(3)の熱線膨張係数がマスク本体(2)の熱線膨張係数よりも小さいものとされるとともに、支持材(23)の熱線膨張係数が枠体(3)の熱線膨張係数よりも小さいものとされていることを特徴とするメタルマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数独立の通孔を有するマスク本体と、このマスク本体を囲むように配された補強用の枠体とを備えるメタルマスクに関する。このメタルマスクは、例えば蒸着マスクや印刷用メタルマスク、ボール配列用マスクなどに適用できる。
【背景技術】
【0002】
マスク本体に応力を作用させることは、本出願人による特許文献1、2に公知である。これら特許文献1、2に記載の金属多孔体(マスク)では、本体プレート(マスク本体)と枠体とを連結する電着金属層を生成する際の電鋳浴槽中に添加する第2種光沢剤のカーボン及びイオウ比率の含有比率を調整することで、引っ張り応力を付与している。また、これら特許文献1、2に記載の金属多孔体(マスク)では、本体プレート(マスク本体)を生成する際の電鋳浴槽中に添加する第2種光沢剤のカーボン及びイオウ比率の含有比率を調整すること、或いは母型と母型上に形成される本体プレート(マスク本体)を構成する電着金属との熱線膨張係数の差によって、母型から剥離した一次電着層が常温時に内方側に収縮するように設定することで、圧縮応力を付与している。
【0003】
引っ張り応力の付与に際して、これらマスク本体と枠体との熱線膨張係数の差を利用することも公知であり、例えば、特許文献3の蒸着マスクでは、フレーム(枠体)の熱線膨張係数を、蒸着マスク(マスク本体)のそれよりも小さなものとし、両者を互いに積層してなる積層体を高温に加熱したとき、蒸着マスク(マスク本体)を枠体に接着している。これによれば、積層体を室温に戻したとき、フレーム(枠体)に対して蒸着マスク(マスク本体)はピンと張られた引っ張り応力が作用した状態で張設することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-161113号公報
【文献】特開2011-42877号公報
【文献】特開2015-127441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蒸着用マスクや印刷用マスクの分野では、通孔の開口面積をより小さくする小形化と、通孔どうしの間隔寸法をより小さくする狭ピッチ化が急速に進められており、これに伴いマスク本体における通孔の開口位置精度の向上が急務とされている。より具体的には、マスクを使った蒸着作業時や印刷作業時において、マスク本体に微小サイズで形成された通孔の開口位置が位置ずれしないことが求められている。
【0006】
特許文献1、2のメタルマスクのように、マスク本体と枠体の熱線膨張係数の差に由来して、マスク本体が収縮することによって生じる引っ張り応力に加えて、マスク本体自身が内方に収縮しようとする圧縮応力が作用されるようになっていると、両応力によりマスク本体が膨張することをある程度は防ぐことができる。但し、引っ張り応力が、マスク本体と枠体とを連結する電着金属層を生成する際の電鋳浴槽中に添加する第2種光沢剤のカーボン及びイオウ比率の含有比率を調整することで付与されているため、当該電着金属層を具備しないマスクでは、引っ張り応力が得られない不利がある。
【0007】
特許文献3のメタルマスクのように、マスク本体と枠体との熱線膨張係数の差により引っ張り応力を付与する構成では、電着金属層を具備しないマスクに対しても引っ張り応力を付与することができる。しかし特許文献3では、マスク本体と枠体の両者を互いに積層してなる積層体を高温に加熱したのちに、マスク本体を枠体に接着しているため、両者の熱線膨張係数の差に由来する引っ張り付与力が小さくなることが避けられず、引っ張り応力が十分に得られない不利がある。加熱状態でマスク本体と枠体とを接着しているため、冷却時における枠体の収縮具合によってはマスク本体に歪みが生じて、通孔の開口位置精度が低下するおそれもある。
【0008】
本発明は、マスク本体に対して、より大きな応力(引っ張り応力と圧縮応力)が付与されており、したがって通孔の開口位置精度の各段の向上を図ることができるメタルマスクとその製造方法とを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、多数独立の通孔6を有するマスク本体2と、マスク本体2を囲むように配置された該マスク本体2の補強用の枠体3とを備えるメタルマスク1を対象とする。枠体3の熱線膨張係数は、マスク本体2の熱線膨張係数よりも小さいものとされている。マスク本体2には、マスク本体2と枠体3の熱線膨張係数の差に由来して、マスク本体2が収縮することによって生じる引っ張り応力(F1)と、マスク本体2自身が内方に収縮しようとする圧縮応力(F2)とが作用されており、両応力の合計値が、150ppm/℃以上、800ppm/℃以下の熱線膨張係数に相当する応力に設定されている。マスク本体2と枠体3の熱線膨張係数の差に由来して、マスク本体2が収縮することによって生じる引っ張り応力F1が、マスク本体2自身が内方に収縮しようとする圧縮応力F2よりも大きく設定されている。枠体3は、マスク本体2に固定されて、該マスク本体2よりも熱線膨張係数の小さな支持体7と、支持体7に固定されて、該支持体7よりも厚み寸法の大きな枠本体8とで構成されている。枠本体8の熱線膨張係数が、支持体7の熱線膨張係数と同等、或いは支持体7の熱線膨張係数よりも大きいものとされている。
【0015】
本発明は、多数独立の通孔6を有する電鋳製のマスク本体2と、マスク本体2を囲むように配置された該マスク本体2の補強用の枠体3とを備えるメタルマスク1の製造方法を対象とする。この製造方法は、母型12の表面に、レジスト体16aを有するパターンレジスト16を設けるパターンニング工程と、パターンレジスト16を用いて、母型12上に電着金属を電鋳して、マスク本体2に対応する電着層17を形成する電鋳工程と、電着層17と母型12とを加熱する加熱工程と、電着層17と母型12とが加熱された状態で、電着層17を囲むように該電着層17上に加熱されていない枠体3を配し、加熱状態の電着層17と非加熱状態の枠体3とを接合する枠体接合工程と、電着層17と母型12とを冷却したうえで、母型12を剥離する母型剥離工程とを含む。そして、枠体3の熱線膨張係数が、マスク本体2の熱線膨張係数よりも小さいものとされていることを特徴とする。
【0016】
枠体3が、マスク本体2に固定されて、該マスク本体2よりも熱線膨張係数の小さな支持体7と、支持体7に固定されて、該支持体7よりも厚み寸法の大きな枠本体8とで構成されており、枠体接合工程においては、電着層17と母型12とが加熱された状態で、電着層17を囲むように、該電着層17上に加熱されていない支持体7を配し、加熱状態の電着層17と非加熱状態の支持体7とを接合しており、母型剥離工程後に、支持体7上に枠本体8を接合する工程を含むものとすることができる。
【0017】
本発明は、多数独立の通孔6を有する電鋳製のマスク本体2と、マスク本体2を囲むように配置された該マスク本体2の補強用の枠体3とを備えるメタルマスク1の製造方法を対象とする。この製造方法は、母型12の表面に、レジスト体16aを有するパターンレジスト16を設けるパターンニング工程と、パターンレジスト16を用いて、母型12上に電着金属を電鋳して、マスク本体2に対応する電着層17を形成する電鋳工程と、電着層17と母型12とを加熱する加熱工程と、電着層17と母型12とが加熱された状態で、電着層17上に加熱されていない支持材23を接合して、電着層17と母型12とを支持材23に担持させる支持材担持工程と、電着層17と母型12とを冷却したうえで、母型12を剥離する母型剥離工程と、電着層17を囲むように、該電着層17上に枠体3を配したうえで、電着層17と枠体3とを接合する枠体接合工程と、支持材23を剥離する支持材剥離工程とを含む。そして、枠体3の熱線膨張係数がマスク本体2の熱線膨張係数よりも小さいものとされるとともに、支持材23の熱線膨張係数が枠体3の熱線膨張係数よりも小さいものとされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のメタルマスク1のように、マスク本体2に、マスク本体2と枠体3の熱線膨張係数の差に由来して、マスク本体2が収縮することによって生じる引っ張り応力(F1)と、マスク本体2自身が内方に収縮しようとする圧縮応力(F2)の両応力が作用されていると、それぞれの応力のみが作用する構成に比べて、より大きな応力をマスク本体2に付与することができる。これによれば、例えば周囲環境温度の変化に由来してマスク本体2が歪むことをより効果的に抑えることができるので、通孔6の開口位置精度に優れたメタルマスク1を得ることができる。また、特許文献1、2の構成では、引っ張り応力が、マスク本体と枠体とを連結する電着金属層を生成する際の電鋳浴槽中に添加する第2種光沢剤のカーボン及びイオウ比率の含有比率を調整することで付与されているため、当該電着金属層を具備しないマスクでは、引っ張り応力が得られないのに対して、本発明によれば、マスク本体と枠体とを連結する電着金属層を具備しないマスクに対しても引っ張り応力(F1)を付与することができる点でも優れている。
【0019】
本発明において、引っ張り応力(F1)は、概ねマスク本体2の外周部において作用されるのに対して、マスク本体2自身が内方に収縮しようとする圧縮応力(F2)は、概ねマスク本体2の中央部において中央方向に向かって作用されるものであるため、両応力が作用することにより、マスク本体2の全体に対して応力を付与することができる。したがって、本発明によればマスク本体2が歪むことをより効果的に抑えることができる。両応力の合計値は、150ppm/℃以上、800ppm/℃以下の熱線膨張係数に相当する応力に設定されていることが好ましく、これは150ppm/℃未満の熱線膨張係数に相当する応力であると、両応力に由来するマスク本体2の歪み防止効果が期待できず、マスク本体2のテンションが不均一となるおそれがあり、一方、800ppm/℃以下の熱線膨張係数に相当する応力を超えると、マスク本体2が破損するおそれ、マスク本体2の平面性を確保することが困難となるおそれが生じることに拠る。
【0020】
マスク本体2と枠体3の熱線膨張係数の差に由来して、マスク本体2が収縮することによって生じる引っ張り応力(F1)が、マスク本体2自身が内方に収縮しようとする圧縮応力(F2)よりも大きく設定することが望ましい。これは、マスク本体2自身の圧縮応力(F2)は、例えばマスク本体2を生成する際の電鋳浴槽中に添加する第2種光沢剤のカーボン及びイオウ比率の含有比率を調整することで得られるものであり、これを大きくすることは困難であるのに対して、引っ張り応力(F1)は、マスク本体2と枠体3の熱線膨張係数の差に由来するものであり、これを大きくすることは比較的容易であることに拠る。
【0021】
枠体3は、マスク本体2に固定されて、該マスク本体2よりも熱線膨張係数の小さな支持体7と、支持体7に固定されて、該支持体7よりも厚み寸法の大きな枠本体8とで構成することができる。これによれば、引っ張り応力(F1)の付与を支持体7に委ねながら、枠本体8に剛性の向上を委ねることで、用途に応じた適切な応力や剛性をメタルマスク1に付与することができる。
【0022】
本発明のように、母型12上に電着層17を形成する電鋳工程を行ったのちに、電着層17と母型12とを加熱した状態で電着層17に枠体3を接合する枠体接合工程を行うようにしていると、枠体3が加熱されることによる当該枠体3の熱膨張と、これが冷却することによる熱収縮とを抑えることができるので、電着層17(マスク本体2)の熱線膨張係数の差に由来する効果をより顕著なものとして、当該熱線膨張係数の差に由来して生じる引っ張り応力(F1)をより大きなものとすることができる。つまり、電着層17だけでなく枠体3も加熱する態様(特許文献3)では、枠体3自身も熱膨張・収縮するのに対して、本発明のように電着層17のみを加熱するようにしていると、枠体3と電着層17(マスク本体2)との収縮差を大きくすることができるので、より大きな引っ張り応力(F1)を電着層17(マスク本体2)に付与することができる。また、枠体3が熱膨張・収縮することに拠る枠体3の自身の歪みを抑えることができるので、マスク本体2に対してより均一に引っ張り応力(F1)を付与することができる。したがって、マスク本体2に歪みが生じることを抑えて、通孔6の開口位置精度に優れたメタルマスク1を得ることができる。
【0023】
本発明のように、母型12上に電着層17を形成する電鋳工程と、電着層17と母型12とを加熱した状態で、電着層17上に支持材23を接合する支持材担持工程と、電着層17と母型12とを冷却したうえで、母型12を剥離する母型剥離工程と、電着層17と枠体3とを接合する枠体接合工程とを行うようにして、支持材23に膨張後の電着層17の状態を支持させるとともに、膨張状態に支持された電着層17に枠体3を接合するようにしていると、製造工程において枠体3が熱膨張および熱収縮することを完全に排することができるので、枠体3の熱膨張・収縮に起因する枠体3自身の歪みの発生を抑えることできる。これにより、マスク本体2に対してより均一に引っ張り応力(F1)を付与することができるので、マスク本体2に歪みが生じることを抑えて、通孔6の開口位置精度に優れたメタルマスク1を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るメタルマスクの平面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るメタルマスクの分解斜視図である。
【
図4】(a)~(e)は本発明の第1実施形態に係るメタルマスクの製造方法を示す、縦断面図である。
【
図5】(a)~(d)は本発明の第1実施形態に係るメタルマスクの製造方法を示す、縦断面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るメタルマスクの縦断正面図である。
【
図7】(a)~(e)は本発明の第2実施形態に係るメタルマスクの製造方法を示す、縦断面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係るメタルマスクの縦断正面図である。
【
図9】本発明の第4実施形態に係るメタルマスクの縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
図1乃至
図5に本発明のメタルマスクをスクリーン印刷用のメタルマスクに適用した第1実施形態を示す。なお、本発明における前後、左右、上下とは、
図1および
図3に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。
図1においてメタルマスク1は、ニッケルやニッケルコバルト等のニッケル合金、その他の電着金属を素材として、電鋳方法により形成されたマスク本体2と、このマスク本体2を囲むように装着された補強用の枠体3とを含む。
【0026】
メタルマスク1は、正方形状に形成されており、同マスク1を四つの象限に分割したときの各象限には、一つずつのマスク本体2が配設されている。各マスク本体2は、400mm×400mmの正方形状の外形を有する通孔のないベタ部4と、ベタ部4の内部に形成された310mm×310mmの正方形状の外形を有するパターン部5とで構成される。パターン部5には、多数独立の印刷用の通孔6からなる印刷パターン(マスクパターン)が形成されている。各マスク本体2の厚みは0.01~0.1mmの範囲にあり、本実施形態では0.03mmに設定されている。なお、
図1等は、実際のメタルマスク1の様子を示したものではなく、それを模式的に示している。また、
図3等における通孔6の開口寸法やマスク本体2の厚み寸法等は、図面作成の便宜上、そのような寸法に示したものであって実寸法とは異なる。
【0027】
図2および
図3に示すように、枠体3は、マスク本体2の外周縁を支持するように、該マスク本体2の上面に固定される支持体7と、支持体7の上面に固定される枠本体8とで構成される。支持体7は、42アロイ、インバー材、SUS430等のマスク本体2を構成する電着金属よりも熱線膨張係数の小さな金属(低熱膨張材)を素材とする平板体であり、その盤面中央には、マスク本体2に対応して計4つの四角形状の開口10が形成されている。枠本体8は、支持体7と熱線膨張係数が同等、或いは支持体7よりも熱線膨張係数が大きく、且つ支持体7よりも肉厚の金属成形品であり、支持体7と同様にその盤面中央には、マスク本体2に対応して計4つの四角形状の開口11が形成されている。本実施形態においては、支持体7はインバー材を素材と形成され、枠本体8はアルミニウムを素材として形成される。なお、枠本体8の素材として支持体7と同じ素材を用いても良い。支持体7の厚み寸法は1~5mmの範囲にあり、本実施形態では2mmに設定されている。枠本体8の厚み寸法は10~50mmの範囲にあり、本実施形態では20mmに設定されている。
【0028】
図4および
図5に本実施形態に係るメタルマスクの製造方法を示す。まず、
図4(a)に示すように、導電性を有する例えばステンレス製や真ちゅう鋼製の母型12の表面にフォトレジスト層13を形成する。このフォトレジスト層13は、ネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、所定の高さに合わせて一枚ないし数枚ラミネートして熱圧着により形成した。
【0029】
次いで、
図4(b)に示すように、フォトレジスト層13の上に、前記の通孔6およびマスク本体2の外周形状に対応する透光孔14aを有するパターンフィルム14(ガラスマスク)を密着させたのち、紫外光ランプ15で紫外線光を照射して露光を行い、現像・乾燥の各処理を行って、未露光部分を溶解除去することにより、
図4(c)に示すごとく、通孔6およびマスク本体2の外周形状に対応するストレート状のレジスト体16aを有するパターンレジスト16を母型12上に形成した(パターンニング工程)。
【0030】
続いて、母型12を所定の条件に建浴した電鋳槽に入れ、
図4(d)に示すごとく、先のレジスト体16aの高さの範囲内で、母型12のレジスト体16aで覆われていない表面にニッケル合金等の電着金属を電鋳して、マスク本体2となる電着層17を形成した。次に、レジスト体16aを溶解除去することにより、
図4(e)に示すごとく、多数独立の通孔6を有するパターン部5と、それを囲むベタ部4とを備えるマスク本体2を得た(電鋳工程)。
【0031】
電着層17(マスク本体2)は、それ自体に内方に収縮する方向の応力(圧縮応力:F2)が作用するようなテンションを加えた状態とされている。この圧縮応力F2の付与は、電着層17を形成する際の電鋳槽中に添加する第2種光沢剤中のカーボン及びイオウ比率の含有比率を調整することで実現できる。
【0032】
次に、
図5(a)に示すように、母型12と電着層17とをヒータープレート19の上に載置して、両者(母型12と電着層17)を加熱したうえで(加熱工程)、
図5(b)に示すように、電着層17のベタ部4の上面に支持体7の開口10の開口縁が接するように、支持体7を配置し、電着層17のベタ部4と支持体7とを接着剤等により不離一体的に接合する(枠体接合工程)。つまり、本実施形態では、母型12と電着層17のみが加熱された状態で、電着層17に支持体7を接合する。
【0033】
次に、母型12、電着層17、および支持体7の三者をヒータープレート19から降ろし、母型12と電着層17とを常温まで冷却したのち、母型12を剥離する(
図5(c)参照、母型剥離工程)。このように電着層17が常温まで冷却されたとき、電着層17と支持体7との熱線膨張係数の差によって、電着層17には、当該電着層17が収縮することによって生じる引っ張り応力(F1)が作用する。つまり、電着層17には、電着層17と支持体7との熱線膨張係数の差に由来して、電着層17が収縮することによって生じる引っ張り応力(F1)と、先の電着層17自身が内方に収縮しようとする圧縮応力(F2)の両応力が作用する。
【0034】
最後に、支持体7の上に枠本体8を接着剤により接合することにより、
図5(d)に示すようなメタルマスク1を得ることができる。本実施形態では、電着層17と支持体7との熱線膨張係数の差に由来して電着層17が収縮することによって生じる引っ張り応力(F1)は、電着層17自身が内方に収縮しようとする圧縮応力(F2)よりも大きく設定されている。これは、加熱による熱膨張ならびに冷却による収縮はマスク本体2全体に均一に作用されるので、F2よりもF1を大きく設定することで、通孔6の開口位置精度の向上に寄与できる。また、両応力の合計値は、150ppm/℃以上、800ppm/℃以下、好ましくは400ppm/℃以上、800ppm/℃以下の熱線膨張係数に相当する応力に設定されている。なお、本出願人の検証により、400ppm/℃以上の応力を作用させたときの効果として、版離れ性の向上が期待できることを知見した。また、電鋳(めっき)による電着層17の形成(電着層17自身が内方に収縮しようとする圧縮応力F2)だけでは開口位置精度を確保しながら400ppm/℃以上の応力を作用させることが困難であることがわかった。
【0035】
以上のように本実施形態のメタルマスク1においては、マスク本体2(電着層17)に、マスク本体2と枠体3の熱線膨張係数の差に由来して、マスク本体2が収縮することによって生じる引っ張り応力(F1)と、マスク本体2自身が内方に収縮しようとする圧縮応力(F2)の両応力が作用されるようにしたので、それぞれの応力(F1又はF2)のみが作用する構成に比べて、より大きな応力をマスク本体2に付与することができる。したがって、本実施形態によれば、例えば周囲環境温度の変化に由来してマスク本体2が歪むことをより効果的に抑えることが可能となり、通孔6の開口位置精度に優れたメタルマスク1を得ることができる。
【0036】
また、このメタルマスクを印刷用メタルマスクとして用いた場合、適切な位置に適正な量の印刷材(ペースト、クリームなど)を印刷することができるので、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう_強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る)に貢献することが可能となる。
【0037】
引っ張り応力(F1)は、概ねマスク本体2の外周部において外方向に向かって作用されるのに対して、マスク本体2自身が内方に収縮しようとする圧縮応力(F2)は、概ねマスク本体2の中央部において中央方向に向かって作用される。このため、本実施形態によれば、両応力(F1、F2)がマスク本体2に作用されるように構成することで、マスク本体2の全体に応力(テンション)を作用させて、マスク本体2が歪むことをより効果的に抑えることができる。両応力の合計値を150ppm/℃以上の熱線膨張係数に相当する応力としたので、両応力に由来するマスク本体2の歪み防止効果を確実に得ることができる。また、両応力の合計値を800ppm/℃以下の熱線膨張係数に相当する応力に設定したので、マスク本体2が破損するおそれもない。
【0038】
枠体3を、マスク本体2に固定されて、該マスク本体2よりも熱線膨張係数の小さな支持体7と、支持体7に固定されて、該支持体7よりも厚み寸法の大きな枠本体8とで構成したので、例えば引っ張り応力(F1)の付与を支持体7に委ねながら、枠本体8に剛性の向上を委ねるなどの対応が可能となる。したがって、用途に応じた適切な応力や剛性を備えるメタルマスク1を得ることができる。
【0039】
(第2実施形態)
図6および
図7に、本発明に係るメタルマスクをスクリーン印刷用のメタルマスクに適用した第2実施形態を示す。この第2実施形態に係るメタルマスクでは、枠体3が一層で構成されている点が第1実施形態と相違する。つまり、先の第1実施形態では、枠体3は支持体7と枠本体8の二層で構成されていたのに対して、この第2実施形態では、枠体3は一層のみで構成されている。枠体3は、熱線膨張係数の小さな42アロイ、インバー材、SUS430等を素材とするものであり、本実施形態では、インバー材を素材として構成される。枠体3の開口22の開口寸法は、先の第1実施形態における支持体7の開口10の開口寸法と同寸法に設定されている。また、この第2実施形態では、ガラス製の支持材23を使って、熱膨張された電着層17(マスク本体2)を支持する点が、先の第1実施形態と相違する。
【0040】
図7に本実施形態に係るメタルマスクの製造方法を示す。本実施形態においても、まず、第1実施形態の
図4(a)~(e)に示した手順(パターンニング工程、電鋳工程)で、母型12上に多数独立の通孔6を有するパターン部5と、それを囲むベタ部4とを備えるマスク本体2を得る(
図4(e)参照)。なお、上述したように、
図4(e)の状態では、電着層17(マスク本体2)は、それ自体に内方に収縮する方向の応力(圧縮応力:F2)が作用するようなテンションが付与されている。
【0041】
次いで、
図7(a)に示すように、母型12と電着層17とをヒータープレート19の上に載置して、両者(母型12と電着層17)を加熱したうえで(加熱工程)、
図7(b)に示すように、電着層17の上面に接着剤などを介して支持材23を接合して、電着層17と母型12とを支持材23に担持させる(支持材担持工程)。支持材23は、枠体3よりも熱線膨張係数の小さな素材(低熱膨張材)からなり、ここではガラスからなるものとした。
【0042】
次に、電着層17、母型12、および支持材23をヒータープレート19から降ろし、これらを常温まで冷却させてから、母型12を剥離する(母型剥離工程)。続いて、
図7(c)に示すように、電着層17と支持材23とを、支持材23が下方に来る天地逆姿勢としたのち、
図7(d)に示すように、電着層17のベタ部4の上面に枠体3の開口22の開口縁が接するように枠体3を配置して、電着層17のベタ部4と枠体3とを接着剤等により不離一体的に接合する(枠体接合工程)。
【0043】
最後に、支持材23を電着層17から剥離することにより(支持材剥離工程)、
図7(e)に示すようなメタルマスク1を得ることができる。また、このように支持材23を電着層17から剥離することにより、電着層17には、電着層17と枠体3との熱線膨張係数の差に由来して、電着層17が収縮することによって生じる引っ張り応力(F1)と、電着層17自身が内方に収縮しようとする圧縮応力(F2)の両応力が作用することとなる。
【0044】
以上のように本実施形態においては、母型12上に電着層17を形成する電鋳工程と、電着層17と母型12とを加熱した状態で、電着層17上に支持材23を接合する支持材担持工程と、電着層17と母型12とを冷却したうえで、母型12を剥離する母型剥離工程と、電着層17と枠体3とを接合する枠体接合工程と、電着層17から支持材23を剥離する支持材剥離工程とを経て、メタルマスク1を得るようにした。このように、加熱により膨張された電着層17をガラス材からなる支持材23で固定し、電着層17の冷却後に枠体3を接合するようにしていると、加熱状態にある電着層17に枠体3を接合する形態では不可避となる枠体3の熱膨張・収縮を完全に排することができるので、枠体3が熱膨張・収縮することに起因する枠体3自身の歪みの発生を抑えることができる。これにより、電着層17(マスク本体2)に対して均一に引っ張り応力(F1)を付与することができるので、マスク本体2に歪みが生じることを抑えて、通孔6の開口位置精度に優れたメタルマスク1を得ることができる。
【0045】
(第3実施形態)
図8に本発明に係るメタルマスクをスクリーン印刷用のメタルマスクに適用した第3実施形態を示す。このメタルマスク1を構成するマスク本体2は、一群のパターン開口30を備えたマスク版31と、パターン開口30に対応する一群の調整開口32を備えたスキージ版33とを備えている点が、先の第1・第2実施形態と相違する。
【0046】
マスク版31に形成されるパターン開口30の開口形状は、四隅部が丸められた左右横長の長方形状に形成されている。パターン開口30は、パターン部5の領域内に格子状に配置されている。パターン開口30の上方のスキージ版33に形成される調整開口32の開口形状は、パターン開口30の開口形状よりも相似的に大きく形成されている。調整開口32には、調整開口32の開口周縁の内壁面から延設されてパターン開口30の上面を部分的に覆う調整リブ34が形成されている。調整リブ34は、対向する長辺部の開口周縁どうしの延設方向が異なるように形成されており、つまり、隣接する調整リブ34が互いに逆向きに傾斜する状態で形成されている。このように調整リブ34が形成されていると、パターン開口30に押し出される印刷ペーストの量を調整することができる。それ以外の点は、先の第1・第2実施形態と同様である。
【0047】
(第4実施形態)
図9に本発明のメタルマスクをスクリーン印刷用のメタルマスクに適用した第4実施形態を示す。このメタルマスク1を構成するマスク本体2のパターン部5に形成される通孔6は、下方に行くに従って漸次内径寸法が小さくなる、下窄まりテーパー状に形成されている点が、先の第1・第2実施形態と相違する。それ以外の点は、先の第1・第2実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0048】
1 メタルマスク
2 マスク本体
3 枠体
6 通孔
7 支持体
8 枠本体
12 母型
16 パターンレジスト
17 電着層
23 支持材