(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】二酸化炭素電解装置および二酸化炭素電解装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
C25B 13/02 20060101AFI20240823BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240823BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240823BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20240823BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20240823BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20240823BHJP
【FI】
C25B13/02 302
C25B9/23
C25B15/08 302
C25B11/054
C25B1/23
C25B11/032
(21)【出願番号】P 2021044811
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山際 正和
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】小藤 勇介
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由紀
(72)【発明者】
【氏名】北川 良太
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 智
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154898(JP,A)
【文献】特開2019-167556(JP,A)
【文献】特開2019-056136(JP,A)
【文献】特開2018-154899(JP,A)
【文献】特開2018-154901(JP,A)
【文献】国際公開第2006/121157(WO,A1)
【文献】特表2002-530816(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0002821(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 13/02
C25B 9/23
C25B 15/08
C25B 11/054
C25B 1/23
C25B 11/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するためのカソードと、
水を酸化して酸素を生成するためのアノードと、
前記カソードに面し、二酸化炭素を含むガスを供給するためのカソードガス流路と、
前記アノードに面し、水を含む電解溶液を供給するためのアノード溶液流路と、
前記アノードと前記カソードとの間に設けられたセパレータと、
を具備し、
前記カソードガス流路の幅
の平均値に対する前記カソードガス流路の深さ
の平均値hの比により定義される前記カソードガス流路のアスペクト比は、1より大きく、3以下であり、
前記カソードガス流路における前記カソードと前記カソードガス流路との対向面に垂直な方向に沿う断面において、前記カソードガス流路の断面積に対する前記カソードガス流路の周囲長の比により定義される前記カソードガス流路の流体平均深さMと、前記カソードガス流路の深さ
の平均値hは、
式:h/8≦M<h/4
を満たし、
且つ前記Mは0.33以上である、二酸化炭素電解装置。
【請求項2】
前記カソードガス流路は、
前記カソードに面する第1の領域と、
前記第1の領域と前記カソードガス流路の内底面との間に設けられた第2の領域と、
を有し、
前記第2の領域の幅は、前記第1の領域の幅よりも広い、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記カソードガス流路は、
前記カソードに面し、親水性の第1の内壁面を有する第1の領域と、
前記第1の領域と前記カソードガス流路の内底面との間に設けられ、撥水性の第2の内壁面を有する第2の領域と、
を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記電解溶液は、金属イオンを含む、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記カソードは、銅、金、および銀からなる群より選ばれる少なくとも一つの触媒を含む、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記カソードと、前記アノードと、前記カソードガス流路と、前記アノード溶液流路と、前記セパレータと、を有する電解セルと、
前記カソードガス流路に前記ガスを供給するガス供給部と、
前記アノード溶液流路に前記電解溶液を供給する溶液供給部と、
前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電源と、
前記カソード
ガス流路にリンス液を供給する液供給部を備えるリフレッシュ材供給部と、
前記電解セルの性能の要求基準に基づいて、前記ガス供給部による前記ガスの供給を停止し、前記溶液供給部による前記電解溶液の供給を停止するとともに、前記リフレッシュ材供給部により前記カソードにリンス液を供給する動作を制御する制御部と、
をさらに具備する、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
二酸化炭素電解装置の運転方法であって、
前記二酸化炭素電解装置は、
電解セルを具備し、
前記電解セルは、
二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するためのカソードと、
水を酸化して酸素を生成するためのアノードと、
前記カソードに面し、二酸化炭素を含むガスを供給するためのカソードガス流路と、
前記アノードに面し、水を含む電解溶液を供給するためのアノード溶液流路と、
前記アノードと前記カソードとの間に設けられたセパレータと、
を具備し、
前記カソードガス流路の幅
の平均値に対する前記カソードガス流路の深さ
の平均値hの比により定義される前記カソードガス流路のアスペクト比は、1より大きく、3以下であり、
前記カソードガス流路における前記カソードと前記カソードガス流路との対向面に垂直な方向に沿う断面において、前記カソードガス流路の断面積に対する前記カソードガス流路の周囲長の比により定義される前記カソードガス流路の流体平均深さMと、前記カソードガス流路の深さ
の平均値hは、
式:h/8≦M<h/4
を満たし、
且つ前記Mは0.33以上であり、
前記方法は、
前記カソードガス流路に二酸化炭素を含むガスを供給すると共に、前記アノード溶液流路に電解溶液を供給するステップと、
前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加し、前記電解セルの前記カソード付近で二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成すると共に、前記アノード付近で水または水酸化物イオンを酸化して酸素を生成するステップと、
前記電解セルの性能の要求基準に基づいて、前記ガスおよび前記電解溶液の供給を停止するとともに、前記カソードガス流路にリンス液を供給するステップと、
を具備する、二酸化炭素電解装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態の発明は、二酸化炭素電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー問題と環境問題の両方の観点から、太陽光発電などの再生可能エネルギーを電気エネルギーに変換して利用するだけでなく、それを貯蔵し且つ運搬可能な状態に変換することが望まれている。この要望に対して、植物による光合成のように太陽光を用いて化学物質を生成する人工光合成技術の研究開発が進められている。この技術により、再生可能エネルギーを貯蔵可能な燃料として貯蔵する可能性もでき、また、工業原料となる化学物質を生成することにより、価値を生み出すことも期待される。
【0003】
太陽光発電などの再生可能エネルギーを用いて化学物質を生成する装置として、例えば発電所やごみ処理所から発生した二酸化炭素(CO2)を還元するカソードと、水(H2O)を酸化するアノードとを具備する電気化学反応装置が知られている。カソードでは、例えば二酸化炭素を還元して一酸化炭素(CO)等の炭素化合物を生成する。このような電気化学反応装置を、セル形態(電解セルともいう)により実現する場合、例えばPolymer Electric Fuel Cell(PEFC)等の燃料電池に類似する形態により実現することが有効であると考えられる。二酸化炭素をカソードの触媒層に直接供給することにより、速やかに二酸化炭素の還元反応を進行させることが可能となる。
【0004】
しかしながら、このようなセル形態においては、PEFCが有する課題に類似する課題が生じる。すなわち、故障がしにくく耐久性がある電解セルを実現し、炭素化合物生成効率を向上させるためには、カソード触媒層へ安定的に二酸化炭素を供給する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第7659024号
【文献】米国特許第7087337号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、二酸化炭素電解装置の電解効率の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の二酸化炭素電解装置は、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するためのカソードと、水を酸化して酸素を生成するためのアノードと、カソードに面し、二酸化炭素を含むガスを供給するためのカソードガス流路と、アノードに面し、水を含む電解溶液を供給するためのアノード溶液流路と、アノードとカソードとの間に設けられたセパレータと、を具備する。カソードガス流路の幅の平均値に対するカソードガス流路の深さの平均値hの比により定義されるカソードガス流路のアスペクト比は、1より大きく、3以下である。カソードガス流路の断面積に対するカソードガス流路の周囲長の比により定義されるカソードガス流路の流体平均深さMと、カソードガス流路の深さの平均値hは、式:h/8≦M<h/4を満たし、且つMは0.33以上である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】二酸化炭素電解装置の構成例を説明するための模式図である。
【
図2】流路板の一部の構造例を示す平面模式図である。
【
図3】流路板の一部の構造例を示す断面模式図である。
【
図4】流路板の他の構造例を示す平面模式図である。
【
図5】流路板の一部の他の構造例を示す断面模式図である。
【
図6】流路板の一部の他の構造例を示す断面模式図である。
【
図7】流路板の一部の他の構造例を示す断面模式図である。
【
図8】二酸化炭素電解装置の他の構成例を示す模式図である。
【
図9】二酸化炭素電解装置の運転方法例を説明するためのフローチャートである。
【
図10】リフレッシュ動作工程の動作例を説明するためのフローチャートである。
【
図11】一酸化炭素の部分電流密度とカソードの二酸化炭素の利用率との関係を示す図である。
【
図12】一酸化炭素の部分電流密度とカソードの二酸化炭素の利用率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面は模式的であり、例えば各構成要素の厚さ、幅等の寸法は実際の構成要素の寸法と異なる場合がある。また、実施形態において、実質的に同一の構成要素には同一の符号を付け、説明を省略する場合がある。
【0010】
なお、本明細書において、「接続する」とは、特に指定する場合を除き、直接的に接続することだけでなく、間接的に接続することも含む。
【0011】
図1は、二酸化炭素電解装置の構成例を説明するための模式図である。
図1は、電解セル10を具備する二酸化炭素電解装置1を示す。
【0012】
電解セル10は、アノード部11と、カソード部12と、アノード部11とカソード部12とを分離するセパレータ13と、を含む。電解セル10は、例えば、一対の支持板で挟み込まれ、さらにボルト等で締め付けられる。
【0013】
アノード部11は、アノード111と、流路板112に設けられたアノード溶液流路112aと、アノード集電体113と、を含む。
【0014】
カソード部12は、カソード121と、流路板122に設けられたカソードガス流路122aと、カソード集電体123と、を含む。
【0015】
アノード111は、アノード溶液中の水(H2O)の酸化反応を促し、酸素(O2)や水素イオン(H+)を生成する、またはカソード部12で生じた水酸化物イオン(OH-)の酸化反応を促し、酸素や水を生成する電極(酸化電極)である。
【0016】
アノード111は、セパレータ13と流路板112との間に、これらと接するように配置されている。アノード111の第1の表面は、セパレータ13と接する。アノード111の第2の表面は、アノード111の第1の表面の反対側に設けられ、アノード溶液流路112aに面する。
【0017】
アノード111の酸化反応により生成される化合物は、酸化触媒の種類等によって異なる。アノード溶液に電解液を用いる場合、アノード111は水(H2O)を酸化して酸素や水素イオンを生成する、もしくは水酸化物イオン(OH-)を酸化して水や酸素を生成することが可能で、そのような反応の過電圧を減少させることが可能な触媒材料(アノード触媒材料)で主として構成されることが好ましい。そのような触媒材料としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等の金属、それらの金属を含む合金や金属間化合物、酸化マンガン(Mn-O)、酸化イリジウム(Ir-O)、酸化ニッケル(Ni-O)、酸化コバルト(Co-O)、酸化鉄(Fe-O)、酸化スズ(Sn-O)、酸化インジウム(In-O)、酸化ルテニウム(Ru-O)、酸化リチウム(Li-O)、酸化ランタン(La-O)等の二元系金属酸化物、Ni-Co-O、Ni-Fe-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等の三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等の四元系金属酸化物、Ru錯体やFe錯体等の金属錯体が挙げられる。
【0018】
アノード111は、セパレータ13とアノード溶液流路112aとの間でアノード溶液やイオンを移動させることが可能な構造、例えばメッシュ材、パンチング材、または多孔体等の多孔質構造を有する基材(担体)を備えていることが好ましい。多孔体構造を有する基材としては、金属繊維焼結体のような、比較的空隙の大きいものも包含する。基材は、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の金属やこれら金属を少なくとも1つ含む合金(例えばSUS)等の金属材料で構成してもよいし、上述したアノード触媒材料で構成してもよい。アノード触媒材料として酸化物を用いる場合には、上記した金属材料からなる基材の表面にアノード触媒材料を付着もしくは積層して触媒層を形成することが好ましい。アノード触媒材料は、酸化反応を高める上でナノ粒子、ナノ構造体、ナノワイヤ等の形状を有することが好ましい。ナノ構造体とは、触媒材料の表面にナノスケールの凹凸を形成した構造体である。また、必ずしも酸化電極に酸化触媒を設けなくてもよい。酸化電極以外に設けられた酸化触媒層を酸化電極に電気的に接続してもよい。
【0019】
カソード121は、二酸化炭素の還元反応や還元生成物の還元反応を生起し、炭素化合物を生成するための電極(還元電極)である。炭素化合物の例は、一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、メタノール(CH3OH)、酢酸(CH3COOH)、エタノール(C2H5OH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、プロパノール(C3H7OH)、エチレングリコール(C2H6O2)を含む。カソード121での還元反応は、二酸化炭素の還元反応とともに、水の還元反応を生起して水素(H2)を生成する副反応を含んでいてもよい。
【0020】
カソード121は、電極基材、および炭素材料に担持された金属触媒に加えて、イオン伝導性物質から構成されることが好ましい。イオン伝導性物質は、層中に含まれる金属触媒の間のイオンを授受する作用を奏するため、電極活性の向上に効果を示す。上記イオン伝導性物質としてはカチオン交換樹脂またはアニオン交換樹脂が好ましく用いられる。
【0021】
金属触媒の担体は、多孔質構造を有していると好ましい。適用可能な材料としては、上記材料に加え、例えばケッチェンブラックやバルカンXC-72等のカーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ等が挙げられる。多孔質構造を有することにより、酸化還元反応に寄与する活性面の面積を大きくすることができるため、変換効率を高めることができる。
【0022】
担体だけでなく、基材上に形成された触媒層そのものも多孔質構造を有し、比較的大きな空孔を多数有していると好ましい。具体的には、水銀圧入法で測定した触媒層の細孔径分布において、直径5μm以上200μm以下の範囲において空孔の分布頻度が最大となると好ましい。この場合、触媒層内全体にガスが素早く拡散し、還元生成物もこの経路を経て触媒層外へと排出されやすくなるため、効率が良い電極となる。
【0023】
二酸化炭素を触媒層に効率良く供給するために、触媒層を担持する電極基材にガス拡散層を有することが好ましい。ガス拡散層は導電性がある多孔体によって形成される。ガス拡散層は撥水性のある多孔体で形成されると、還元反応によって生成された水や、酸化側から移動してきた水の量を減らし、還元流路を経て水を排出させ、多孔体中の二酸化炭素ガスの割合を多くできるため、好ましい。
【0024】
ガス拡散層の厚さが極端に小さいと、セル面での均一性が損なわれるため、好ましくない。一方で厚さが極端に大きいと部材コストが増加するほか、ガスの拡散抵抗の増加により効率が低下するため、好ましくない。拡散性をより向上させるためにガス拡散層と触媒層の間により緻密な拡散層(メソポーラスレイヤー(MPL))を設けると、撥水性や多孔体度を変えて、ガスの拡散性と液体成分の排出を促進させるため、より好ましい。
【0025】
上記担体に担持される金属触媒としては、水素イオンや二酸化炭素を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料が挙げられる。言い換えると、二酸化炭素の還元反応により炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる金属材料が挙げられる。例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、カドニウム(Cd)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、鉛(Pb)、および錫(Sn)からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属および金属酸化物、または当該金属を含む合金を用いることが好ましい。例えば、銅、金、および銀の少なくとも一つを用いることが好ましい。なお、これに限定されず、還元触媒として例えばルテニウム(Ru)錯体またはレニウム(Re)錯体等の金属錯体、を用いることもできる。また、複数の材料を混合してもよい。金属触媒には板状、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状等の各種形状を適用することができる。
【0026】
金属触媒に金属ナノ粒子を適用する場合には、その平均直径は1nm以上15nm以下が好ましく、1nm以上10nm以下がより好ましく、1nm以上5nm以下がさらに好ましい。この条件を満たすと、触媒重量あたりの金属の表面積が大きくなり、少量の金属で高い活性を示すようになるため好ましい。
【0027】
アノード111およびカソード121は、電源20に接続可能である。電源20は、アノード111とカソード121との間に電圧を印加する。電源20の例は、通常の系統電源や電池に限定されず、太陽電池や風力発電等の再生可能エネルギーで発生させた電力を供給する電力源を含んでいてもよい。電源20は、上記電源の出力を調整してアノード111とカソード121との間の電圧を制御するパワーコントローラをさらに有していてもよい。なお、電源20は、二酸化炭素電解装置1の外部に設けられてもよい。
【0028】
アノード溶液流路112aは、アノード111にアノード溶液を供給する機能を有する。アノード溶液流路112aは、流路板112に設けられたピット(溝部/凹部)により構成される。流路板112は、アノード溶液流路112aに接続された、流入口および流出口(いずれも図示せず)を有し、これら流入口および流出口を介して、ポンプ(図示せず)によりアノード溶液が導入および排出される。アノード溶液は、アノードと接するようにアノード溶液流路112a内を流通する。
【0029】
アノード溶液としては、金属イオンを含有する水溶液(電解溶液)を用いることができる。金属イオンを含有する電解溶液を用いることにより、電解効率を高めることができる。水溶液としては、例えばリン酸イオン(PO4
2-)、ホウ酸イオン(BO3
3-)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、リチウムイオン(Li+)、セシウムイオン(Cs+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸イオン(CO3
2-)等を含む水溶液が挙げられる。他にも、LiHCO3、NaHCO3、KHCO3、CsHCO3、リン酸、ホウ酸等を含む水溶液を用いてもよい。
【0030】
カソードガス流路122aは、カソード121の第1の表面に面する。カソードガス流路122aは、カソード121に二酸化炭素を含むガスを供給する機能を有する。カソードガス流路122aは、例えば、二酸化炭素を含むガスを供給する二酸化炭素供給源に接続可能である。二酸化炭素供給源としては、例えば発電所やごみ処理所等の施設が挙げられる。カソードガス流路122aは、流路板122に設けられたピット(溝部/凹部)により構成される。流路板122は、カソードガス流路122aに接続された、流入口および流出口(いずれも図示せず)を有し、これら流入口および流出口を介して、ポンプ(図示せず)により上記ガスが導入および排出される。
【0031】
流路板112、流路板122の材料は、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料の例は、例えばTiやSUS等の金属材料、カーボン等を含む。なお、流路板112、流路板122は、図示されていないが、各流路のための流入口および流出口、また締め付けのためのネジ穴を有する。また、各流路板の前後には、図示を省略したパッキンが必要に応じて挟み込まれる。また、流路板112、流路板122は、主に一つの部材から形成されているが、異なる部材から形成され、それらを積層して構成されてもよい。さらに、一部、または全面に表面処理を施すことで、親水性・撥水性の機能を付与してもよい。
【0032】
流路板122は、カソード121との電気的接続のためにカソード121と接するランドを有することができる。カソードガス流路122aの形状としては、柱状のランドに隣接する形状や細長い流路を折り曲げたサーペンタイン形状等の形状が挙げられるが、空洞を有する形状であれば特に限定されない。並列に接続された複数の流路またはサーペンタイン流路やその組み合わせによりカソードガス流路122aを構成すると、カソード121に供給されるガスの均一性を高めることができ、電解反応の均一性を高めることができるため、好ましい。
【0033】
図2は流路板122の一部の構造例を示す平面模式図である。
図2は、X軸とX軸に直交するY軸とを含む流路板122のX-Y平面を示す。
図2では、流路板122とカソード121との重畳部のみを模式的に図示する。
図3は、流路板122の一部の構造例を示す断面模式図である。
図3はY軸とY軸およびX軸に直交するZ軸とを含む流路板122のY-Z平面を示す。Z軸方向は、流路板122の厚さ方向である。
【0034】
流路板122は、表面241と、表面242と、カソードガス流路122aと、を備える。表面241は、カソード121に接する。表面242は、表面241の反対側に設けられ、カソード集電体123に接する。
図2および
図3に示す流路板122は、直方体形状を有する。流路板122の立体形状は、直方体形状に限定されない。
【0035】
カソードガス流路122aは、カソード121のガス拡散層に面する。カソードガス流路122aは、流入口および流出口に連通する。流入口は、二酸化炭素を含むガスをカソードガス流路122aに導入するために設けられる。流出口は、二酸化炭素を含むガスをカソードガス流路122aから排出するためおよび還元反応による生成物をカソードガス流路122aから排出するために設けられる。
【0036】
図2に示すカソードガス流路122aは、表面241に沿ってサーペンタイン状に延在する。これに限定されず、カソードガス流路122aは、表面241に沿って櫛歯状や渦巻状に延在してもよい。カソードガス流路122aは、例えば流路板122に設けられた溝または開口により形成される空間を含む。
【0037】
供給する二酸化炭素ガスは乾燥状態で供給されてもよい。カソードガス流路122aに供給されるガス中の二酸化炭素濃度は100%でなくてもよい。この場合、効率は低下するが、様々な施設で排出された二酸化炭素を含むガスを還元することも可能である。
【0038】
流路板112と流路板122は、互いに同一の形状を有することが好ましい。これにより、反応の均一性を高めることができる。なお、流路板112と流路板122は、互いに異なる形状を有していてもよい。
【0039】
アノード集電体113は、流路板112のアノード111との接触面と反対側の面に接する。アノード集電体113は、アノード111に電気的に接続される。アノード集電体113は、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を含むことが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0040】
カソード集電体123は、流路板122のカソード121との接触面と反対側の面に接する。カソード集電体123は、カソード121に電気的に接続される。カソード集電体123は、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を含むことが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0041】
セパレータ13は、アノード111とカソード121との間に設けられる。セパレータ13は、アノードとカソードとの間でイオンを移動させることができ、かつアノード部とカソード部とを分離することが可能なイオン交換膜等で構成される。イオン交換膜としては、例えばナフィオンやフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタやセレミオン、サステニオンのようなアニオン交換膜を使用することができる。電解液にアルカリ溶液を使用し、主として水酸化物イオン(OH-)の移動を想定した場合、セパレータはアニオン交換膜で構成することが好ましい。また、炭化水素を基本骨格とした膜や、アミン基を有する膜を用いてイオン交換膜が構成されていてもよい。ただし、イオン交換膜以外にもアノードとカソードとの間でイオンを移動させることが可能な材料であれば、塩橋、ガラスフィルタ、多孔質高分子膜、多孔質絶縁材料等をセパレータに適用してもよい。ただし、カソード部とアノード部との間でガスの流通が起こると、還元生成物の再酸化による循環反応が起きることがある。このため、カソード部とアノード部との間のガスの交換が少ない方が好ましい。このため多孔体の薄膜をセパレータとして用いる場合には注意が必要である。
【0042】
次に、実施形態の二酸化炭素電解装置の動作例について説明する。ここでは、
図1に示す二酸化炭素電解装置1が炭素化合物として一酸化炭素を生成する場合について、主として説明するが、二酸化炭素の還元生成物としての炭素化合物は一酸化炭素に限定されない。また、還元生成物である一酸化炭素をさらに還元し、上記したような有機化合物を生成してもよい。溶液状の炭素化合物を生成する場合には電解セル10を使用することが好ましい。また、電解セル10による反応過程としては、主に水素イオン(H
+)を生成する場合と、主に水酸化物イオン(OH
-)を生成する場合とが考えられるが、これら反応過程のいずれかに限定されない。
【0043】
主に水(H2O)を酸化して水素イオン(H+)を生成する場合の反応過程について述べる。アノード111とカソード121との間に電源20から電流を供給すると、アノード溶液と接するアノード111で水(H2O)の酸化反応が生じる。具体的には、下記の(1)式に示すように、アノード溶液中に含まれるH2Oが酸化されて、酸素(O2)と水素イオン(H+)とが生成する。
2H2O → 4H++O2+4e- ・・・(1)
【0044】
アノード111で生成されたH+は、アノード111内に存在する電解液、セパレータ13を移動し、カソード121付近に到達する。電源20からカソード121に供給される電流に基づく電子(e-)とカソード121付近に移動したH+とによって、二酸化炭素(CO2)の還元反応が生じる。具体的には、下記の(2)式に示すように、カソードガス流路122aからカソード121に供給された二酸化炭素が還元されて一酸化炭素が生成される。また、下記式(3)のように水素イオンが電子を受け取ることにより、水素が生成する。このとき、水素は一酸化炭素と同時に生成してもよい。
CO2+2H++2e- → CO+H2O ・・・(2)
2H++2e- → H2 ・・・(3)
【0045】
次に、主に二酸化炭素(CO2)を還元して水酸化物イオン(OH-)を生成する場合の反応過程について述べる。アノード111とカソード121との間に電源20から電流を供給すると、カソード121付近において、下記の(4)式に示すように、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)が還元されて、一酸化炭素(CO)と水酸化物イオン(OH-)とが生成する。また、下記式(5)のように水が電子を受け取ることにより、水素が生成する。このとき、水素は一酸化炭素と同時に生成してもよい。これらの反応により生成した水酸化物イオン(OH-)はアノード111付近に拡散し、下記の(6)式に示すように、水酸化物イオン(OH-)が酸化されて酸素(O2)が生成する。
2CO2+2H2O+4e- → 2CO+4OH- ・・・(4)
2H2O+2e- → H2+2OH- ・・・(5)
4OH- → 2H2O+O2+4e- ・・・(6)
【0046】
図1に示す電解セル10では、セパレータ13からアノード溶液やイオンが供給され、カソードガス流路122aから二酸化炭素ガスが供給される。
【0047】
二酸化炭素電解装置1は、二酸化炭素の還元のみに特化するだけでなく、たとえば一酸化炭素と水素を1:2で生成し、その後の化学反応でメタノールを製造するなどの任意の割合で持って、二酸化炭素還元物と水素を製造することもできる。
【0048】
水素は水の電解や化石燃料から安価かつ入手しやすい原料であるため、水素の比率が大きい必要はない。これらの観点から一酸化炭素の水素に対する比率が少なくとも1以上、好ましくは1.5以上であると経済性や環境性の観点から好ましい。
【0049】
カソードガス流路122aは、浅い方がガス拡散層への二酸化炭素の供給の観点から好ましい。一方で、カソードガス流路122aが細いとカソードガス流路122aにおいて圧力損失が増加し、ガス供給のエネルギーロスの観点から好ましくない。さらに、アノード溶液中の金属イオンと二酸化炭素ガスとの反応により塩が析出し、カソードガス流路122aのガス拡散層との境界でその塩が固化した際、流路が浅いと流路が閉鎖され、電極全面に二酸化炭素ガスが行き渡らず、故障の原因となることで耐久性に影響しうる。
【0050】
従来の燃料電池の一例では、異物(水滴)により流路が閉塞することを抑制するため、流路の内底面に異物(水滴)を貯めるための溝を形成することが知られている。しかしながら、二酸化炭素電解装置の場合、析出した塩がカソード121とカソードガス流路122aとの対向面近傍で固化するため、内底面に溝を形成しても閉塞の抑制効果が低い。
【0051】
これに対し、本実施形態の二酸化炭素電解装置では、カソードガス流路122aの断面形状を制御して流路の閉塞を抑制する。カソードガス流路122aのアスペクト比は、1よりも大きく3以下であることが好ましい。カソードガス流路122aのアスペクト比は、カソードガス流路122aのX軸方向またはY軸方向の幅Wに対するカソードガス流路122aの深さhの比により定義される。
【0052】
アスペクト比が1未満であると、塩の析出により流路が閉塞する場合がある。アスペクト比が3を超えると、流路板122を厚くする必要があり、材料コストや加工コストが増大する。アスペクト比は、2以上3以下がより好ましい。
【0053】
カソードガス流路122aの流体平均深さMとカソードガス流路122aの深さhは、下記式(A)を満たすことが好ましい。
式:h/8≦M<h/4 (A)
【0054】
カソードガス流路122aの流体平均深さMは、カソードガス流路122aの周囲長Sに対するカソードガス流路122aの断面積Acにより定義される。周囲長Sは、(幅W×2)+(深さh×2)により算出されてもよい。仮に、カソードガス流路122aのアスペクト比が大きくても、カソードガス流路122aの流体平均深さMが小さいと、カソードガス流路122a内に塩が析出してカソードガス流路122aが閉塞しやすい場合がある。
【0055】
流体平均深さMがh/8未満の場合、塩の析出により流路が閉塞する場合がある。流体平均深さMがh/4以上の場合、二酸化炭素の利用率が下がる場合がある。流体平均深さMは、h/7.9以上h/6以下がより好ましい。
【0056】
深さh、幅W、周囲長S、流体平均深さMは、以下の方法により測定可能である。流路板122を、カソードガス流路122aの長い方向(
図2におけるY軸方向)に対して垂直な方向(
図2におけるX軸方向)における断面を任意の位置で切り出し、その断面を例えば顕微鏡等で観察し各パラメータを測定する。また、非破壊検査の手法として、例えば中性子ラジオグラフィーを用いて流路板内を可視化する方法を用いてもよい。これらの値は、複数個所の平均値により算出することが好ましい。
【0057】
上記条件を満たすようにカソードガス流路122aを深く形成することにより、カソードガス流路122aの深さ方向にガスが迂回できる空間が設けられ、塩析出時のガス供給解消の観点から好ましい。これにより、カソードガス流路122aの一部に塩が析出しても、カソード121全面に二酸化炭素ガスを供給しやすくできるため、故障しにくく耐久性の観点からも好ましい。よって、電解効率の低下が抑制され、高効率かつ長時間の運転が可能な二酸化炭素電解装置を提供できる。
【0058】
カソードガス流路122aの形状は、
図2および
図3に示す形状に限定されない。カソードガス流路122aの他の形状例について以下に説明する。
【0059】
図4は、流路板122の他の構造例を示す平面模式図である。
図4は流路板122のX-Y平面を示す。
図4に示す流路板122は、
図2に示す流路板122と比較して、X-Y平面において、カソードガス流路122aが並列に接続された複数の流路部244を有する点が異なる。なお、その他の部分は、
図2に示す流路板122と同じであるため、上記説明を適宜援用できる。
【0060】
複数の流路部244は、カソードガス流路122aの長い方向(
図4におけるY軸方向)に沿って延在する。
図4は、カソードガス流路122aが折り返すごとに2つの流路部244が並列に接続された例を示すが、流路部244の数は、
図4に示す数に限定されない。
図4に示すカソードガス流路122aの幅Wは、1つの流路部244の幅により定義される。
【0061】
図5は、流路板122の一部の他の構造例を示す断面模式図である。
図5は流路板122のY-Z平面を示す。
図5に示す流路板122は、
図3に示す流路板122と比較して、X-Z断面において、カソードガス流路122aが領域122a1と領域122a2とを有する点が異なる。なお、その他の部分は、
図3に示す流路板122と同じであるため、上記説明を適宜援用できる。
【0062】
領域122a1は、カソード121に面し、内壁面246を有する。
図5に示す領域122a1の断面形状は、長方形であるが、領域122a1の形状は、
図5に限定されない。
【0063】
領域122a2は、領域122a1とカソードガス流路122aの内底面245との間に設けられ、内壁面247を有する。
図5に示す領域122a2の断面形状は、長方形であるが、領域122a2の形状は、
図5に限定されない。
【0064】
領域122a2のX軸方向の幅W2は、領域122a1のX軸方向の幅W1よりも広い。
図5に示す流路板122では、幅W2を幅W1よりも広くすることにより、二酸化炭素ガスの迂回スペースを大きくすることができ、塩の析出によるカソードガス流路122aの閉塞を抑制できる。
図5に示すカソードガス流路122aの幅Wは、幅W1により定義される。また、流体平均深さMは、幅W1および幅W2の両方が考慮され、
図5に示す形状のカソードガス流路122aの周囲長により定義される。
【0065】
図6は、流路板122の一部の他の構造例を示す断面模式図である。
図6は流路板122のY-Z平面を示す。
図6に示す流路板122は、
図5に示す流路板122と比較して、X-Z断面において、領域122a2の形状が異なる。なお、その他の部分は、
図5に示す流路板122と同じであるため、上記説明を適宜援用できる。
【0066】
図6に示す領域122a2の断面形状は、正方形であるが、領域122a2の形状は、
図6に限定されない。
図6において、領域122a2の断面積は、領域122a1の断面積よりも大きい。これにより、二酸化炭素ガスの迂回スペースを大きくすることができ、塩の析出によるカソードガス流路122aの閉塞を抑制できる。
図6に示すカソードガス流路122aの幅Wは、幅W1により定義される。また、流体平均深さMは、幅W1および幅W2の両方が考慮され、
図6に示す形状のカソードガス流路122aの周囲長により定義される。
【0067】
図7は、流路板122の一部の他の構造例を示す断面模式図である。
図7は流路板122のY-Z平面を示す。
図7に示す流路板122は、
図3に示す流路板122と比較して、X-Z断面において、カソードガス流路122aが領域122a1と領域122a2とを有し、領域122a1の内壁面246が親水性であり、領域122a2の内壁面247および内底面245が撥水性である点が異なる。なお、その他の部分は、
図3に示す流路板122と同じであるため、上記説明を適宜援用できる。
【0068】
親水性の内壁面246における水との接触角は、例えば0度超90度以下である。親水性の内壁面246は、例えば親水性材料を含む流路層を用いて形成できる。また、親水性の内壁面246は、流路板122に適用可能な材料を含む流路層に親水化処理を施すことにより形成されてもよい。
【0069】
撥水性の内壁面247における水との接触角は、例えば100度以上180度未満である。撥水性の内壁面247は、例えば撥水性材料を含む流路層を用いて形成できる。また、撥水性の内壁面247は、流路板122に適用可能な材料を含む流路層に撥水化処理を施すことにより形成されてもよい。
【0070】
領域122a1の厚さ(Z軸方向の長さ)は、特に限定されないが、例えばカソードガス流路122aの深さhの半分以上であることが好ましい。
【0071】
図7に示すカソードガス流路122aでは、親水性の内壁面246と撥水性の内壁面247とを形成することにより、例えばアノード溶液中の金属イオンがカソードガス流路122aに流れる場合、アノード溶液は、領域122a1に流れやすい。よって、領域122a2において塩の析出を抑制でき、塩の析出によるカソードガス流路122aの閉塞を抑制できる。なお、
図7に示す構造と
図5または
図6に示す構造を適宜組み合わせてもよい。
【0072】
(第2の実施形態)
図8は、二酸化炭素電解装置の他の構成例を示す模式図である。
図8に示す二酸化炭素の電解装置1は、電解セル10と、電解セル10にアノード溶液を供給するアノード溶液供給系統100と、電解セル10に二酸化炭素(CO
2)ガスを供給するガス供給系統300と、電解セル10における還元反応により生成した生成物を収集する生成物収集系統400と、収集した生成物の種類や生成量を検出すると共に、生成物の制御やリフレッシュ動作の制御を行う制御系500と、アノード溶液の廃液を収集する廃液収集系統600と、電解セル10のアノードやカソード等を回復させるリフレッシュ材供給部700と、を具備する。なお、リフレッシュ動作に必要な構成要素は必ずしも設けられなくてもよい。
【0073】
電解セル10は、
図1に示す電解セル10に相当する。電解セル10の各構成要素の説明は、第1の実施形態の説明を適宜援用できる。
【0074】
図8において、アノード111およびカソード121に電流を流す電源20が設けられている。電源20は電流導入部材を介してアノード集電体113およびカソード集電体123と接続されている。電源20は、通常の系統電源や電池等に限られるものではなく、太陽電池や風力発電等の再生可能エネルギーで発生させた電力を供給する電力源を有していてもよい。なお、電源20は、上記電力源と、上記電力源の出力を調整してアノード111とカソード121との間の電圧を制御するパワーコントローラ等を有していてもよい。
【0075】
アノード部11のアノード溶液流路112aには、アノード溶液供給系統100から電解溶液としてアノード溶液が供給される。アノード溶液供給系統100は、アノード溶液がアノード溶液流路112a内を流通するように、アノード溶液を循環させる。アノード溶液供給系統100は、圧力制御部101、アノード溶液タンク102、流量制御部(ポンプ)103、基準電極104、圧力計105を有しており、アノード溶液がアノード溶液流路112aを循環するように構成されている。アノード溶液タンク102は、循環するアノード溶液中に含まれる酸素(O2)等のガス成分を収集する、図示しないガス成分収集部に接続されている。アノード溶液は、圧力制御部101および流量制御部103において、流量や圧力が制御されてアノード溶液流路112aに導入される。
【0076】
カソードガス流路122aには、ガス供給系統300からCO2ガスが供給される。ガス供給系統300は、CO2ガスボンベ301、流量制御部302、圧力計303、および圧力制御部304を有する。CO2ガスは、流量制御部302および圧力制御部304において、流量や圧力が制御されてカソードガス流路122aに導入される。ガス供給系統300は、カソードガス流路122aを流通したガス中の生成物を収集する生成物収集系統400と接続されている。生成物収集系統400は、気液分離部401と生成物収集部402とを有する。カソードガス流路122aを流通したガス中に含まれるCOやH2等の還元生成物は、気液分離部401を介して生成物収集部402に蓄積される。
【0077】
アノード溶液は、上述したように電解反応動作時においてはアノード溶液流路112aを循環する。後述する電解セル10のリフレッシュ動作時には、アノード111、アノード溶液流路112aがアノード溶液から露出するように、アノード溶液は廃液収集系統600に排出される。
【0078】
廃液収集系統600は、アノード溶液流路112aに接続された廃液収集タンク601を有する。アノード溶液の廃液は、図示しないバルブを開閉することによって、廃液収集タンク601に収集される。バルブの開閉等は制御系500により一括して制御される。廃液収集タンク601は、リフレッシュ材供給部700から供給されるリンス液の収集部としても機能する。さらに、リフレッシュ材供給部700から供給され、液状物質を一部含むガス状物質も、必要に応じて廃液収集タンク601で収集される。
【0079】
リフレッシュ材供給部700は、ガス状物質供給系710とリンス液供給系720とを備えている。なお、リンス液供給系720は、場合によっては省くことも可能である。ガス状物質供給系710は、空気、二酸化炭素、酸素、窒素、アルゴン等のガス状物質の供給源となるガスタンク711と、ガス状物質の供給圧力を制御する圧力制御部712とを有する。リンス液供給系720は、水等のリンス液の供給源となるリンス液タンク721と、リンス液の供給流量等を制御する流量制御部(ポンプ)722とを有する。ガス状物質供給系710およびリンス液供給系720は、配管を介してアノード溶液流路112a、およびカソードガス流路122aに接続されている。ガス状物質やリンス液は、図示しないバルブを開閉することによって、アノード溶液流路112a、カソードガス流路122aに供給される。バルブの開閉等は制御系500により一括して制御される。
【0080】
生成物収集部402に蓄積された還元生成物の一部は、制御系500の還元性能検出部501に送られる。還元性能検出部501においては、還元生成物中のCOやH2等の各生成物の生成量や比率が検出される。検出された各生成物の生成量や比率は、制御系500のデータ収集・制御部502に入力される。さらに、データ収集・制御部502は電解セル10のセル性能の一部として、セル電圧、セル電流、カソード電位、アノード電位等の電気的なデータやアノード溶液流路112aおよびカソードガス流路122aの内部の圧力および圧力損失等のデータを収集してリフレッシュ制御部503に送る。
【0081】
データ収集・制御部502は、還元性能検出部501に加えて、電源20、アノード溶液供給系統100の圧力制御部101や流量制御部103、ガス供給系統300の流量制御部302や圧力制御部304、およびリフレッシュ材供給部700の圧力制御部712や流量制御部722と、一部図示を省略した双方向の信号線を介して電気的に接続されており、これらは一括して制御される。なお、各配管には図示しないバルブが設けられており、バルブの開閉動作はデータ収集・制御部502からの信号により制御される。データ収集・制御部502は、例えば電解動作時に上記構成要素の動作を制御してもよい。
【0082】
リフレッシュ制御部503は、電源20、アノード溶液供給系統100の流量制御部103、ガス供給系統300の流量制御部302、およびリフレッシュ材供給部700の圧力制御部712、流量制御部722と、一部図示を省略した双方向の信号線を介して電気的に接続されており、これらは一括して制御される。なお、各配管には図示しないバルブが設けられており、バルブの開閉動作はリフレッシュ制御部503からの信号により制御される。リフレッシュ制御部503は、例えば電解動作時に上記構成要素の動作を制御してもよい。また、リフレッシュ制御部503およびデータ収集・制御部502を一つの制御部により構成してもよい。
【0083】
実施形態の二酸化炭素電解装置1の運転動作について説明する。
図9は、二酸化炭素電解装置1の運転方法例を説明するためのフローチャートである。まず、
図9に示すように、二酸化炭素電解装置1の立上げ工程S101が実施される。二酸化炭素電解装置1の立上げ工程S101においては、以下の動作が実施される。アノード溶液供給系統100においては、圧力制御部101や流量制御部103で流量や圧力を制御して、アノード溶液をアノード溶液流路112aに導入する。ガス供給系統300においては、流量制御部302や圧力制御部304で流量や圧力を制御して、CO
2ガスをカソードガス流路122aに導入する。
【0084】
次に、CO2の電解動作工程S102が実施される。CO2の電解動作工程S102においては、立上げ工程S101が実施された電解装置1の電源20による電解電圧の印加を開始し、アノード111とカソード121との間に電圧を印加して電流が供給される。アノード111とカソード121との間に電流を流すと、以下に示すアノード111付近での酸化反応およびカソード121付近での還元反応が生じる。酸化反応および還元反応の説明は、第1の実施形態の説明を適宜援用できる。
【0085】
電解動作によってカソードガス流路122aに塩が析出し、セル性能が低下する場合がある。これはイオンがセパレータ30やイオン交換膜を介してアノード111とカソード121との間で移動し、当該イオンがガス成分と反応するためである。例えば、アノード溶液に水酸化カリウム溶液を用い、カソードガスに二酸化炭素ガスを用いる場合、アノード111からカソード121にカリウムイオンが移動し、当該イオンが二酸化炭素と反応して炭酸水素カリウムや炭酸カリウム等の塩が生じる。カソードガス流路122aにおいて、上記塩が溶解度以下である場合にカソードガス流路122aに上記塩が析出する。塩の析出により、セル全体の均一なガスの流れが妨げられてセル性能が低下する。特に複数のカソードガス流路122aを設ける場合、セル性能の低下が顕著である。なお、ガス流速が部分的に速くなることなどで、セル自体の性能が向上する場合もある。これはガスの圧力が増加することによって、触媒に供給されるガス成分等が増加する、またはガス拡散性が増加することによりセル性能が向上させるためである。このようなセル性能の低下を検知するために、セル性能が要求基準を満たしているかどうかを判定する工程S103を実施する。
【0086】
データ収集・制御部502は前述したように、例えば定期的にまたは連続的に各生成物の生成量や比率、電解セル10のセル電圧、セル電流、カソード電位、アノード電位、アノード溶液流路112aの内部の圧力、カソードガス流路122aの内部の圧力等のセル性能を収集する。さらに、データ収集・制御部502には、セル性能の要求基準が予め設定されており、収集したデータが設定された要求基準を満たしているかどうかが判定される。収集データが設定された要求基準を満たしている場合には、CO2の電解停止(S104)を行うことなく、CO2の電解動作が継続される。収集データが設定された要求基準を満たしていない場合には、リフレッシュ動作工程S105が実施される。
【0087】
データ収集・制御部502で収集するセル性能は、例えば電解セル10に定電流を流した際のセル電圧の上限値、電解セル10に定電圧を印加した際のセル電流の下限値、CO2の還元反応により生成した炭素化合物のファラデー効率等のパラメータにより定義される。ここで、ファラデー効率は電解セル10に流れた全電流に対し、目的とする炭素化合物の生成に寄与した電流の比率と定義する。電解効率を維持するためには、定電流を流した際のセル電圧の上限値は設定値の150%以上、好ましくは120%以上に達した際にリフレッシュ動作工程S105を実施するとよい。また、定電圧を印加した際のセル電流の下限値は設定値の50%以下、好ましくは80%以下に達した際にリフレッシュ動作工程S105を実施するとよい。炭素化合物等の還元生成物の生産量を維持するためには、炭素化合物のファラデー効率が設定値より50%以下、好ましくは80%以下になった場合にリフレッシュ動作工程S105を実施するとよい。
【0088】
セル性能の判定は、例えばセル電圧、セル電流、炭素化合物のファラデー効率、アノード溶液流路112aの内部の圧力、およびカソードガス流路122aの内部の圧力の少なくとも1つのパラメータが要求基準を満たしていない場合に、セル性能が要求基準を満たしていないと判定し、リフレッシュ動作工程S105を実施する。また、上記パラメータの2つ以上を組み合わせて、セル性能の要求基準を設定してもよい。例えば、セル電圧および炭素化合物のファラデー効率が共に要求基準を満たしていない場合に、リフレッシュ動作工程S105を実施するようにしてもよい。リフレッシュ動作工程S105は、セル性能の少なくとも1つが要求基準を満たしていない場合に実施する。CO2電解動作工程S102を安定して実施するために、リフレッシュ動作工程S105は例えば1時間以上間隔を開けて実施することが好ましい。
【0089】
電解セル10が例えばCOをメインに生成する場合、水素であれば、通常時の少なくとも2倍、好ましくは1.5倍以上に上昇した場合にセル性能の要求基準を満たしていないと判断することができる。例えばCOであれば、通常時の少なくとも0.8倍以下、好ましくは0.9倍以下まで低下した場合にセル性能の要求基準を満たしていないと判断することができる。
【0090】
塩を検知した場合はリンス液によって塩を排出するが、塩の排出によっても物質移動量が変化しない場合には電解セル10においてリークが発生していると判断してもよい。電解セル10のリークとはアノード111とカソード121との間のガスのリークに限定されず、例えばカソード121とカソードガス流路122aとの間からのガスリークなども含む。このガスリークは、例えば塩が析出した電解セル10をカソードガス流路122aの圧力が高い条件で長時間運転したときに起こりやすい。
【0091】
図10は、リフレッシュ動作工程S105の動作例を説明するためのフローチャートである。まず、電源20による電解電圧の印加を停止し、CO
2の還元反応を停止させる(S201)。このとき、必ずしも電解電圧の印加を停止しなくてもよい。次に、カソードガス流路122aへのガスの供給を停止し、アノード溶液流路112aへのアノード溶液の供給を停止するとともに、アノード溶液流路112aからアノード溶液を排出(S202)させる。次に、リンス液をアノード溶液流路112aおよびカソードガス流路122aに供給(S203)して洗浄を行う。
【0092】
リンス液を供給している間、アノード111とカソード121との間にリフレッシュ電圧を印加してもよい。これにより、カソード触媒層に付着したイオンや不純物を除去することができる。主に酸化処理になるようにリフレッシュ電圧を印加すると触媒表面についたイオンや有機物等の不純物が酸化され除去される。また、この処理をリンス液中で行うことによって触媒のリフレッシュだけでなく、セパレータ30としてイオン交換膜を用いる場合にイオン交換樹脂中に置換されたイオンを除去することもできる。
【0093】
リフレッシュ電圧は、例えば-2.5V以上2.5V以下であることが好ましい。リフレッシュ動作にエネルギーを使うため、リフレッシュ電圧の範囲は、できる限り狭い方が好ましく、例えば-1.5V以上1.5V以下であることがより好ましい。リフレッシュ電圧は、イオンや不純物の酸化処理と還元処理が交互に行われるようにサイクリックに印加されてもよい。これにより、イオン交換樹脂の再生や触媒の再生を加速させることができる。また、リフレッシュ電圧として電解動作時の電解電圧と同等の値の電圧を印加して、リフレッシュ動作を行ってもよい。この場合、電源20の構成を簡略化することができる。
【0094】
次に、アノード溶液流路112aおよびカソードガス流路122aにガスを供給(S204)し、カソード121およびアノード111を乾燥させる。アノード溶液流路112aおよびカソードガス流路122aにリンス液を供給すると、ガス拡散層中の水の飽和度が上昇し、ガスの拡散性による出力低下が生じる。ガスを供給することにより、水の飽和度が下がるためセル性能が回復し、リフレッシュ効果が高まる。ガスは、リンス液流通後すぐに供給することが好ましく、少なくともリンス液の供給の終了後5分以内に行うことが好ましい。これは水の飽和度の上昇による出力低下が大きいためであり、例えば1時間おきにリフレッシュ動作を行うとすると、5分間のリフレッシュ動作中の出力は0Vかあるいは著しく少ないため、出力の5/60を失う場合がある。
【0095】
以上のリフレッシュ動作が終了したら、アノード溶液流路112aにアノード溶液を、カソードガス流路122aにCO2ガスを導入(S205)する。そして、電源20によるアノード111とカソード121との間に電解電圧の印加を再開させてCO2電解動作を再開する(S206)。なお、S201で電解電圧の印加を停止していない場合には上記再開動作は行われない。アノード溶液流路112aからのアノード溶液の排出には、ガスを用いてもよいし、リンス液を用いてもよい。
【0096】
リンス液の供給およびフロー(S203)は、アノード溶液に含まれる電解質の析出を防止し、カソード121、アノード111、アノード溶液流路112a、およびカソードガス流路122aを洗浄するために実施される。そのため、リンス液は水が好ましく、電気伝導率が1mS/m以下の水がより好ましく、0.1mS/m以下の水がさらに好ましい。カソード121やアノード111等における電解質等の析出物を除去するためには、低濃度の硫酸、硝酸、塩酸等の酸性リンス液を供給してもよく、これにより電解質を溶解させるようにしてもよい。低濃度の酸性リンス液を用いた場合、その後工程で水のリンス液を供給する工程を実施する。ガスの供給工程の直前は、リンス液中に含まれる添加剤が残留することを防止するために、水のリンス液の供給工程を実施することが好ましい。
図8は1つのリンス液タンク721を有するリンス液供給系720を示したが、水と酸性リンス液というように複数のリンス液を用いる場合には、それに応じた複数のリンス液タンク721が用いられる。
【0097】
特にイオン交換樹脂のリフレッシュのためには、酸またはアルカリのリンス液が好ましい。これは、イオン交換樹脂中にプロトンやOH-の代わりに置換された、陽イオンや陰イオンを排出する効果がある。このため、酸とアルカリのリンス液を交互に流通させることや、電気伝導率が1mS/m以下の水との組み合わせ、リンス液が混合しないように複数のリンス液の供給の合間にガスを供給することが好ましい。
【0098】
ガスの供給およびフロー工程S204に用いるガスは、空気、二酸化炭素、酸素、窒素、およびアルゴンの少なくとも1つを含むことが好ましい。さらに、化学反応性の低いガスを用いることが好ましい。このような点から、空気、窒素、およびアルゴンが好ましく用いられ、さらには窒素およびアルゴンがより好ましい。リフレッシュ用のリンス液およびガスの供給は、アノード溶液流路112aおよびカソードガス流路122aのみに限らず、カソード121のカソードガス流路122aと接する面を洗浄するため、カソードガス流路122aにリンス液およびガスを供給してもよい。カソードガス流路122aと接する面側からもカソード121を乾燥させるために、カソードガス流路122aにガスを供給することは有効である。
【0099】
以上ではリフレッシュ用のリンス液およびガスをアノード部11およびカソード部12の両方に供給する場合について説明したが、カソード部12のみにリフレッシュ用のリンス液およびガスを供給してもよい。
【0100】
上述したように、電解セル10のセル性能が要求基準を満たしているかどうかに基づいて、CO2の電解動作工程S102を継続するか、もしくはリフレッシュ動作工程S105を実施するかが判定される。リフレッシュ動作工程S105でリフレッシュ用のリンス液やガスを供給することによって、セル性能の低下要因となるアノード111およびカソード121付近におけるイオンや残存ガスの分布の偏り、カソード121、アノード111、アノード溶液流路112a、およびカソードガス流路122aにおける電解質の析出等が取り除かれる。従って、リフレッシュ動作工程S105後にCO2の電解動作工程S102を再開することによって、電解セル10のセル性能を回復させることができる。このようなCO2の電解動作工程S102およびリフレッシュ動作工程S105をセル性能の要求基準に基づいて繰り返すことによって、電解装置1によるCO2の電解性能を長時間にわたって維持することが可能になる。
【0101】
以上のように、本実施形態の二酸化炭素電解装置では、塩が析出した際に、流路に一時的にリンス液を流して電解セルのリフレッシュ動作を行うことにより、流路の閉塞を抑制できる。よって、二酸化炭素電解装置の電解効率の低下を抑制できる。
【0102】
リフレッシュ動作を行う場合、
図7に示すように、親水性の内壁面246を有する領域122a1と撥水性の内壁面247を有する領域122a2とをカソードガス流路122aに形成することにより、塩が析出しても、塩近傍が親水性の内壁面246であるため、リンス液が塩を迂回して塩近傍である領域122a2を流れやすく、塩が溶解されやすい。また、塩が溶解するまで、リンス液は、領域122a2に流れ、カソード121全面にリンス液を供給できるため、効率よく塩を除去できる。
【実施例】
【0103】
(実施例1)
以下のように二酸化炭素電解装置を作製した。チタンメッシュの表面に、酸化触媒として酸化イリジウムを形成した。また、MPL付きカーボンペーパーに10.2質量%の金が坦持されたカーボンをスプレーして、触媒層付きカーボンペーパーを作製した。このカーボンペーパーと酸化イリジウム付きチタンメッシュをイオン交換膜で挟んで積層した膜電極複合体(触媒面積4cm角)を準備した。
【0104】
カソードガス流路およびアノード溶液流路は、チタンで形成され、並列接続された2つの流路部を含むサーペンタイン状の流路であり、ランド幅0.8mm、流路幅W1mm、流路深さhは3mmであった。アスペクト比は3であり、流体平均深さMは0.38であった。このアノード溶液流路とカソードガス流路で上記膜電極複合体を挟み、電解セルを組み立てた。
【0105】
アノード溶液流路に電解液として0.1Mの炭酸水素カリウム溶液を10mL/minで供給した。カソードガス流路に二酸化炭素ガスを320ccmの流量で供給した。アノードとカソードとの間に電流を段階的に電流値を上げながら流し、カソード側から発生する気体を捕集し、その流量、および二酸化炭素の変換効率を測定した。発生する気体をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにより同定・定量を行った。
【0106】
このときの電流値を電流計で測定した。二酸化炭素から一酸化炭素への変換効率から、流した全電流密度のうち、一酸化炭素の生成に使用された割合の指標である一酸化炭素(CO)の部分電流密度を求めた。さらに、二酸化炭素から一酸化炭素への変換効率と、カソード側から発生する気体の流量から、カソードの二酸化炭素の利用率を求めた。これらから、一酸化炭素の部分電流密度とカソードの二酸化炭素の利用率との関係を評価した。
【0107】
(比較例1)
実施例1の二酸化炭素電解装置において、カソードガス流路をランド幅0.8mm、流路幅W1mm、流路深さh0.5mmにすること以外は、実施例1と同様の方法で電解セルを組み立てた。カソードガス流路は、アスペクト比0.5であり、流体平均深さM0.17であった。実施例1と同様に一酸化炭素の部分電流密度とカソードの二酸化炭素の利用率との関係を評価した。
【0108】
(比較例2)
実施例1の二酸化炭素電解装置において、カソードガス流路をランド幅0.8mm、流路幅W1mm、流路深さh1mmにすること以外は、実施例1と同様の方法で電解セルを組み立てた。カソードガス流路は、アスペクト比が1であり、流体平均深さが0.25であった。実施例1と同様に一酸化炭素の部分電流密度とカソードの二酸化炭素の利用率との関係を評価した。
【0109】
(実施例2)
実施例1の二酸化炭素電解装置において、カソードガス流路をランド幅0.8mm、流路幅W1mm、流路深さh2mmにすること以外は、実施例1と同様の方法で電解セルを組み立てた。カソードガス流路は、アスペクト比が2であり、流体平均深さが0.33であった。実施例1と同様に一酸化炭素の部分電流密度とカソードの二酸化炭素の利用率との関係を評価した。
【0110】
(比較例3)
実施例1の二酸化炭素電解装置において、カソードガス流路をランド幅0.49mm、流路幅W0.49mm、流路深さh1mmにすること以外は、実施例1と同様の方法で電解セルを組み立てた。カソードガス流路は、アスペクト比が2であり、流体平均深さが0.16であった。実施例1と同様に一酸化炭素の部分電流密度とカソードの二酸化炭素の利用率との関係を評価した。
【0111】
実施例1、比較例1、比較例2、および
実施例2における一酸化炭素の部分電流密度とカソードの二酸化炭素の利用率との関係を
図11に示す。
【0112】
実施例2および
比較例3における一酸化炭素の部分電流密度とカソードの二酸化炭素の利用率との関係を
図12に示す。
【0113】
図11から、カソードガス流路のアスペクト比が1よりも大きく3以下の範囲であって、カソードガス流路の平均流路深さMと深さhが式:h/8≦M<h/4を満たす場合において、400mA/cm
2以上の高いCO部分電流密度において、30%以上の高いCO
2利用率を実現できることがわかる。また、
図12から、アスペクト比が同じであっても、流体平均深さMが大きい方が、高いCO部分電流密度で、高いCO
2利用率を得ることができることがわかる。
【0114】
上記実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0115】
10…電解セル、11…アノード部、12…カソード部、13…セパレータ、20…電源、30…セパレータ、100…アノード溶液供給系統、101…圧力制御部、102…アノード溶液タンク、103…流量制御部、104…基準電極、105…圧力計、111…アノード、112…流路板、112a…アノード溶液流路、113…アノード集電体、121…カソード、122…流路板、122a…カソードガス流路、122a1…領域、122a2…領域、123…カソード集電体、241…表面、242…表面、244…流路部、245…内底面、246…内壁面、247…内壁面、300…ガス供給系統、301…CO2ガスボンベ、302…流量制御部、303…圧力計、304…圧力制御部、400…生成物収集系統、401…気液分離部、402…生成物収集部、500…制御系、501…還元性能検出部、502…データ収集・制御部、503…リフレッシュ制御部、600…廃液収集系統、601…廃液収集タンク、700…リフレッシュ材供給部、710…ガス状物質供給系、711…ガスタンク、712…圧力制御部、720…リンス液供給系、721…リンス液タンク、722…流量制御部。