(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】圧粉材料、回転電機、圧粉材料を含む磁性楔及び圧粉材料を含むコア
(51)【国際特許分類】
H01F 1/22 20060101AFI20240823BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240823BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240823BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20240823BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240823BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
H01F1/22
H01F27/255
B22F1/00 Y
H02K1/02 A
B22F3/00 E
C22C38/00 303S
(21)【出願番号】P 2021046801
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】萩原 将也
(72)【発明者】
【氏名】末綱 倫浩
(72)【発明者】
【氏名】眞田 直幸
(72)【発明者】
【氏名】木内 宏彰
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-056618(JP,A)
【文献】特開2013-051329(JP,A)
【文献】特開2006-245472(JP,A)
【文献】特開2018-142642(JP,A)
【文献】特開2017-135358(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0228717(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0209924(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/22
H01F 27/255
B22F 1/00
H02K 1/02
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Co及び0.001at%以上のSiを含む磁性金属相を有する第1の磁性金属粒子と、Feを含む磁性金属相を有する第2の磁性金属粒子と、を備える圧粉材料であり、前記第1及び第2の磁性金属粒子のFeとCoの合計量に対するCoの量を、それぞれCo1及びCo2とした際に、Co1に対するCo2の比(Co2/Co1)が0以上0.5以下であり、短径に対する長径の比の平均値が前記第1の磁性金属粒子は2以上であり、前記第2の磁性金属粒子は1以上であり、前記第2の磁性金属粒子が前記第1の磁性金属粒子の粒子間に存在し、前記第2の磁性金属粒子の長径の平均値は、前記第1の磁性金属粒子の長径の平均値と比べ、同じかそれより長
く、
前記第1の磁性金属粒子の平均長さが10μm以上300μm以下であり、短径に対する長径の比の平均値が2以上100以下であり、前記第2の磁性金属粒子の平均長さが50μm以上500μm以下であり、短径に対する長径の比の平均値が1以上50以下であり、
前記第2の磁性金属粒子の長径の値と短径に対する長径の比の関係を線形近似した場合の傾きが0.005/μm以上0.07/μm以下であり、
成型体の密度が6g/cm
3
以上である、
圧粉材料。
【請求項2】
前記第1の磁性金属粒子の磁性金属相は、30at%以下のSiを含む請求項
1に記載の圧粉材料。
【請求項3】
前記第2の磁性金属粒子の前記短径に対する前記長径の比の平均値が1より大きい請求項
1又は請求項2に記載の圧粉材料。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の圧粉材料を備える回転電機。
【請求項5】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の圧粉材料を含むコアを備える回転電機。
【請求項6】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の圧粉材料を含む磁性楔。
【請求項7】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の圧粉材料を含むコア。
【請求項8】
Fe及びCoを含む磁性金属相を有する第1の磁性金属粒子と、Feを含む磁性金属相を有する第2の磁性金属粒子と、を備える磁性楔であり、前記第1及び第2の磁性金属粒子のFeとCoの合計量に対するCoの量を、それぞれCo1及びCo2とした際に、Co1に対するCo2の比(Co2/Co1)が0以上0.5以下であり、短径に対する長径の比の平均値が前記第1の磁性金属粒子は2以上であり、前記第2の磁性金属粒子は1以上であり、前記第2の磁性金属粒子が前記第1の磁性金属粒子の粒子間に存在し、前記第2の磁性金属粒子の長径の平均値は、前記第1の磁性金属粒子の長径の平均値と比べ、同じかそれより長
く、
前記第1の磁性金属粒子の平均長さが10μm以上300μm以下であり、短径に対する長径の比の平均値が2以上100以下であり、前記第2の磁性金属粒子の平均長さが50μm以上500μm以下であり、短径に対する長径の比の平均値が1以上50以下であり、
前記第2の磁性金属粒子の長径の値と短径に対する長径の比の関係を線形近似した場合の傾きが0.005/μm以上0.07/μm以下であり、
成型体の密度が6g/cm
3
以上である、
圧粉材料を含む磁性楔。
【請求項9】
Fe及びCoを含む磁性金属相を有する第1の磁性金属粒子と、Feを含む磁性金属相を有する第2の磁性金属粒子と、を備える圧粉材料を含むコアであり、前記第1及び第2の磁性金属粒子のFeとCoの合計量に対するCoの量を、それぞれCo1及びCo2とした際に、Co1に対するCo2の比(Co2/Co1)が0以上0.5以下であり、短径に対する長径の比の平均値が前記第1の磁性金属粒子は2以上であり、前記第2の磁性金属粒子は1以上であり、前記第2の磁性金属粒子が前記第1の磁性金属粒子の粒子間に存在し、前記第2の磁性金属粒子の長径の平均値は、前記第1の磁性金属粒子の長径の平均値と比べ、同じかそれより長
く、
前記第1の磁性金属粒子の平均長さが10μm以上300μm以下であり、短径に対する長径の比の平均値が2以上100以下であり、前記第2の磁性金属粒子の平均長さが50μm以上500μm以下であり、短径に対する長径の比の平均値が1以上50以下であり、
前記第2の磁性金属粒子の長径の値と短径に対する長径の比の関係を線形近似した場合の傾きが0.005/μm以上0.07/μm以下であり、
成型体の密度が6g/cm
3
以上である、
圧粉材料を含むコア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、圧粉材料、回転電機、圧粉材料を含む磁性楔及び圧粉材料を含むコアに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、軟磁性材料は、回転電機(例えば、モータ、発電機など)、変圧器、インダクタ、トランス、磁性インク、アンテナ装置等の様々なシステム、デバイスの部品に適用されており非常に重要な材料である。これらの部品においては、軟磁性材料の有する透磁率実部(比透磁率実部)μ’を利用するため、実際に使用する場合は、利用周波数帯域に合わせてμ’を制御することが好ましい。また、高効率のシステムを実現するためには、できるだけ低損失の材料にすることが好ましい。つまり、透磁率虚部(比透磁率虚部)μ”(損失に相当)をできるだけ小さくすることが好ましい。損失に関しては、損失係数tanδ(=μ”/μ’×100(%))が一つの目安となり、μ’に対してμ”が小さければ小さい程損失係数tanδが小さくなり好ましい。そのためには、実際の動作条件においての鉄損を小さくすることが好ましく、すなわち、渦電流損失、ヒステリシス損失、強磁性共鳴損失、残留損失(その他の損失)をできる限り小さくすることが好ましい。渦電流損失を小さくするためには電気抵抗を大きくしたり、金属部のサイズを小さくしたり、磁区構造を細分化したりすることが有効である。ヒステリシス損失を小さくするためには、保磁力を小さくしたり、飽和磁化を大きくしたりすることが有効である。強磁性共鳴損失を小さくするためには、材料の異方性磁界を大きくすることによって強磁性共鳴周波数を高周波化することが有効である。また、近年ではハイパワーの電力を扱う需要が高まっているため、特に、高電流、高電圧等、材料に印加される実効的な磁界が大きい動作条件下で損失が小さいことが求められる。そのためには磁気飽和を起こさないように軟磁性材料の飽和磁化はできるだけ大きい方が好ましい。更には、近年では、高周波化によって機器の小型化が可能なため、システム、デバイス機器の利用周波数帯域の高周波数帯化が進んでおり、高周波で高い透磁率と低い損失を備え、特性に優れた磁性材料の開発が急務となっている。
【0003】
また、近年、省エネ問題、環境問題に対する意識の高まりから、システムの効率をできるだけ高めることが求められている。特に、モータシステムは、世の中の電力消費の多くを担っているため、モータの高効率化は非常に重要である。この中でモータを構成するコア等は軟磁性材料で構成され、軟磁性材料の透磁率や飽和磁化をできるだけ大きくすることや、損失をできるだけ小さくすることが求められている。また、モータの一部に使われている磁性楔(磁性くさび)においては損失をできるだけ小さくすることが求められている。なお、トランスを用いたシステムにおいても同様のことが要求される。モータやトランスなどにおいては、高効率化とともに小型化への要求も大きい。小型化を実現するためには、軟磁性材料の透磁率、飽和磁化をできるだけ大きくすることが重要である。また、磁気飽和を防ぐためにも飽和磁化をできるだけ大きくすることが重要である。更にはシステムの動作周波数を高周波化したい需要も大きく、高周波帯域で低損失の材料の開発が求められている。
【0004】
また、高い透磁率と低い損失を有する軟磁性材料は、インダクタンス素子やアンテナ装置などにも用いられるが、その中でも特に、近年、パワー半導体に用いるパワーインダクタンス素子への応用に関して注目されている。近年、省エネルギー、環境保護の重要性が盛んに唱えられており、CO2排出量削減や化石燃料への依存度の低減が求められてきた。この結果、ガソリン自動車に代わる電気自動車やハイブリッド自動車の開発が精力的に進められている。また、太陽光発電や風力発電といった自然エネルギーの利用技術が省エネ社会のキー・テクノロジーといわれており、先進各国は自然エネルギーの利用技術の開発を積極的に進めている。更に、環境にやさしい省電力システムとして、太陽光発電、風力発電等で発電した電力をスマートグリッドで制御し、家庭内やオフィス、工場に高効率で需給するHEMS(Home Energy Management System)、BEMS(Building and Energy Management System)構築の重要性が盛んに提唱されている。このような省エネルギー化の流れの中で、重要な役割を担うのがパワー半導体である。パワー半導体は、高い電力やエネルギーを高効率で制御する半導体であり、IGBT(insulated gate bipolar transistor)、MOSFET、パワー・バイポーラ・トランジスタ、パワー・ダイオードなどのパワー個別半導体に加え、リニア・レギュレータ、スイッチング・レギュレータなどの電源回路、更にはこれらを制御するためのパワー・マネジメント用ロジックLSIなどが含まれる。パワー半導体は、家電、コンピュータ、自動車、鉄道などあらゆる機器に幅広く使われており、これら応用機器の普及拡大、更にこれらの機器へのパワー半導体の搭載比率拡大が期待できるため、今後のパワー半導体は大きな市場成長が予想されている。例えば、多くの家電に搭載されているインバータには、ほとんどといって良いほどパワー半導体が使われており、これによって大幅な省エネが可能になる。パワー半導体は、現在、Siが主流であるが、更なる高効率化や機器の小型化のためには、SiC、GaNの利用が有効であると考えられている。SiCやGaNはSiよりも、バンドギャップや絶縁破壊電界が大きく、耐圧を高くできるため素子を薄くできる。そのため、半導体のオン抵抗を下げることができ、低損失化・高効率化に有効である。また、SiCやGaNはキャリア移動度が高いため、スイッチング周波数を高周波化することが可能となり、素子の小型化に有効となる。更には、特にSiCではSiよりも熱伝導率が高いため放熱能力が高く高温動作が可能となり、冷却機構を簡素化ができ小型化に有効となる。以上の観点から、SiC、GaNパワー半導体の開発が精力的に行われている。しかし、その実現のためには、パワー半導体とともに使用されるパワーインダクタ素子の開発、すなわち、高透磁率軟磁性材料(高い透磁率と低い損失)の開発が不可欠である。この時、磁性材料に求められる特性としては、駆動周波数帯域での高い透磁率、低い磁気損失は勿論のこと、大電流に対応できる高い飽和磁化が好ましい。飽和磁化が高い場合、高い磁場を印加しても磁気飽和を起こしにくく、実効的なインダクタンス値の低下が抑制できる。これによって、デバイスの直流重畳特性が向上し、システムの効率が向上する。
【0005】
また、高周波で高い透磁率と低い損失を有する磁性材料は、アンテナ装置等の高周波通信機器のデバイスへの応用も期待される。アンテナの小型化、省電力化の方法として、高透磁率(高い透磁率と低い損失)の絶縁基板をアンテナ基板として、アンテナから通信機器内の電子部品や基板へ到達する電波を巻き込んで電子部品や基板へ電波を到達させずに送受信を行う方法がある。これによって、アンテナの小型化と省電力化が可能となるが、同時に、アンテナの共振周波数を広帯域化することも可能となり好ましい。
【0006】
なお、上記各々のシステム、デバイス、に組み込んだ際に求められるその他の特性としては、高い熱的安定性、高強度、高靱性、等も挙げられる。また、複雑な形状に適用するためには、板やリボンの形状よりも圧粉材料の方が好ましい。しかしながら一般に圧粉材料にすると、飽和磁化、透磁率、損失、強度、靱性、硬度などの点で特性が劣化することが知られており、特性の向上が好ましい。
【0007】
次に既存の軟磁性材料について、その種類と問題点について説明する。
【0008】
10kH以下のシステム用の既存の軟磁性材料としては、珪素鋼板(FeSi)が挙げられる。珪素鋼板は歴史が古く、大電力を扱う回転電機、トランスのコア材料のほとんどに採用されている材料である。無方向珪素鋼板から方向性珪素鋼板へと高特性化が図られ、発見当初に比べると進化はしているが、近年では特性改善は頭打ちになってきている。特性としては、高飽和磁化、高透磁率、低損失を同時に満たすことが特に重要である。世の中では、珪素鋼板を超える材料の研究がアモルファス系、ナノクリスタル系の組成を中心に盛んに行われてはいるが、すべての面で珪素鋼板を超える材料組成はいまだ見付かっていない。また複雑な形状に適用可能な圧粉材料の研究も行われているが、圧粉材料においては板やリボンと比べて、特性が悪いという欠点を有している。
【0009】
10kHz~100kHzのシステム用の既存の軟磁性材料としては、センダスト(Fe-Si-Al)、ナノクリスタル系ファインメット(Fe-Si-B-Cu-Nb)、Fe基若しくはCo基アモルファス・ガラスのリボン・圧粉材料、又はMnZn系フェライト材料が挙げられる。しかしながら、いずれも高透磁率、低損失、高飽和磁化、高い熱的安定性、高強度、高靱性、高硬度を完全に満たしてはおらず不十分である。
【0010】
100kHz以上(MHz帯域以上)の既存の軟磁性材料としては、NiZn系フェライト、六方晶フェライト等が挙げられるが、高周波での磁気特性が不十分である。
【0011】
以上のことから、高飽和磁化、高透磁率、低損失、高い熱的安定性、優れた機械特性を有する磁性材料の開発が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、優れた磁気特性を有する圧粉材料、及びこれを用いた回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
実施の形態の圧粉材料は、Fe、Co及び0.001at%以上のSiを含む磁性金属相を有する第1の磁性金属粒子と、Feを含む磁性金属相を有する第2の磁性金属粒子と、を備える圧粉材料であり、第1及び第2の磁性金属粒子のFeとCoの合計量に対するCoの量を、それぞれCo1及びCo2とした際に、Co1に対するCo2の比(Co2/Co1)が0以上0.5以下であり、短径に対する長径の比の平均値が第1の磁性金属粒子は2以上であり、第2の磁性金属粒子は1以上であり、第2の磁性金属粒子が第1の磁性金属粒子の粒子間に存在し、第2の磁性金属粒子の長径の平均値は、第1の磁性金属粒子の長径の平均値と比べ、同じかそれより長く、第1の磁性金属粒子の平均長さが10μm以上300μm以下であり、短径に対する長径の比の平均値が2以上100以下であり、第2の磁性金属粒子の平均長さが50μm以上500μm以下であり、短径に対する長径の比の平均値が1以上50以下であり、第2の磁性金属粒子の長径の値と短径に対する長径の比の関係を線形近似した場合の傾きが0.005/μm以上0.07/μm以下であり、成型体の密度が6g/cm
3
以上である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施の形態の圧粉材料の断面模式図である。
【
図2】第1の実施の形態の圧粉材料において、磁性金属粒子の長径及び短径の求め方を説明するための模式図である。
【
図3】第2の実施の形態の磁性金属粒子の模式図である。
【
図4】第4の実施の形態のモータシステムの模式図である。
【
図6】第4の実施の形態のモータコア(ステータ)の模式図である。
【
図7】第4の実施の形態のモータコア(ロータ)の模式図である。
【
図8】第4の実施の形態の変圧器・トランスの模式図である。
【
図9】第4の実施の形態のインダクタ(リング状インダクタ、棒状インダクタ)の模式図である。
【
図10】第4の実施の形態のインダクタ(チップインダクタ、平面インダクタ)の模式図である。
【
図11】第4の実施の形態の発電機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて実施の形態を説明する。なお、図面中、同一又は類似の箇所には、同一又は類似の符号を付している。
【0017】
(第1の実施の形態)
本実施形態の圧粉材料は、Co含有量の異なる、少なくとも2種類の磁性金属粒子を備える。第1の磁性金属粒子は、Fe及びCoを含む磁性金属相を有し、Co含有量Co1は、磁性金属相中のFeとCoの合計量に対するCoの量として表され、第2の磁性金属粒子は、Feを含む磁性金属相を有し、Co含有量Co2は、磁性金属相中のFeとCoの合計量に対するCoの量として表され、Co1に対するCo2の比(Co2/Co1)が0以上0.5以下である。
【0018】
図1は、本実施形態の圧粉材料の断面模式図である。第1の磁性金属粒子は、Fe、Co及びSiを含む磁性金属相を有すことが望ましい。以下この場合について詳しく説明する。前記磁性金属相におけるCo含有量Co1は、5at%以上80at%以下であることが好ましく、より好ましくは7at%以上40at%以下であることが好ましく、更に好ましくは10at%以上30at%以下、更に好ましくは10at%以上20at%以下であることが好ましい。これによって高い飽和磁化が実現でき好ましい。また、Siの量は前記磁性金属相全体に対して0.001at%以上30at%以下であることが好ましく、より好ましくは1at%以上25at%以下であることが好ましく、更に好ましくは4at%以上15at%以下であることが好ましい。これによって、結晶磁気異方性が適度な大きさになり、保磁力も低減しやすく、低ヒステリシス損失、高透磁率が実現しやすくなる。
図1には、圧粉材料100、第1の磁性金属粒子1及び第2の磁性金属粒子2が示されている。
【0019】
第2の磁性金属粒子は、Feを含む磁性金属相を有すことが望ましい。前記磁性金属相におけるCo含有量Co2は、0at%以上2.5at%以下であることが好ましく、より好ましくは0at%以上1at%以下であることが好ましい。また、Siの量は前記磁性金属相全体に対して0at%以上30at%以下であることが好ましく、より好ましくは0at%以上10at%以下であることが好ましい。
【0020】
前記Co1に対するCo2の比(Co2/Co1)が0以上0.5以下であることが好ましい。より好ましくは0以上0.25以下であり、更に好ましくは0以上0.1以下である。圧粉材料において高飽和磁化を実現するためには、圧粉材料の密度を高めることが有効である。圧粉材料の密度を高める方法としては、焼結によって緻密化する方法がある。ところが、焼結によって圧粉材料を緻密化してしまうと、鉄損、特に渦電流損が大幅に増加してしまう。印加磁場と垂直な磁性体断面積が小さいほど渦電流損を低減しやすいと言われており、焼結によって粒子同士が結合し、粗大化してしまうために、渦電流損が増加していると考えられる。高飽和磁化と低損失(特に低渦損失)を両立するためには、上記のような相反する特徴を同時に満たす必要がある。そこで、本発明では、Co含有量の異なる、少なくとも2種類の磁性金属粒子を備える構成とする。Co含有量の多い第1の磁性金属粒子は、Co含有量の少ない第2の磁性金属粒子と比べ、焼結の進行する温度が高い。そのため、適切な焼結温度を選択することで、第2の磁性金属粒子では焼結が進行しているが、第1の磁性金属粒子では焼結が進行していない状態を実現することができる。更に、第1の磁性金属粒子が第2の磁性金属粒子の焼結を阻害することで、第2の磁性金属粒子が過度に粗大化することを抑制することができる。圧粉材料の緻密化と磁性金属粒子の粗大化の抑制が同時に実現され、高飽和磁化と低損失の両立が可能となる。
【0021】
圧粉材料の鉄損は、例えば、B-Hアナライザ等で測定できる。渦電流損は、例えば、鉄損の周波数依存性から算出することができる。例えば、複数の周波数において鉄損を測定し、横軸を周波数、縦軸を鉄損として測定値をプロットし、最小二乗法を用いて線形近似する。その際の縦軸切片の値をヒステリシス損失と仮定し、各周波数での鉄損からヒステリシス損失を差し引くことで、渦電流損を評価できる。
【0022】
粒子等に含まれる元素の検出及び元素の原子濃度の測定は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)又は波長分散型X線分析法(WDX:Wavelength Dispersive X-ray Fluorescence Spectroscopy)を用いて行うことが可能である。また、粒子等に含まれる物質の同定は、例えば、粉末X線回折法(X-ray Powder Diffraction)を用いて行うことが可能である。
【0023】
また、本実施形態においては、短径に対する長径の比の平均値が前記第1の磁性金属粒子は2以上であり、前記第2の磁性金属粒子は1以上であり、前記第2の磁性金属粒子が前記第1の磁性金属粒子の粒子間に存在し、前記第2の磁性金属粒子の長径の平均値は、前記第1の磁性金属粒子の長径の平均値と比べ、同じかそれより長い。ここで、短径に対する長径の比(長径/短径)は、アスペクト比である。前述のように圧粉材料の高飽和磁化と低損失化を両立するためには、圧粉材料の緻密化と磁性金属粒の粗大化抑制が有効である。本実施形態の粒子形状とすることにより、第2の磁性金属粒子の焼結による緻密化の進行と、第1の磁性金属粒子による第2の磁性金属粒子の粗大化の抑制が効果的に実現され、高飽和磁化と低損失化を両立できる。また、短径に対する長径の比が大きいことは渦電流損の低減に有効である。更に、本実施形態の粒子形状とすることにより、第2の磁性金属粒子が第1の磁性金属粒子に対し、バインダーのような効果を発揮し、高い機械特性も得られる。
【0024】
第1の磁性金属粒子の長径の平均値は1μm以上500μm以下が好ましい。より好ましくは、5μm以上400μm以下、更に好ましくは、10μm以上300μm以下である。長径が短すぎる場合には、粉末の微細化に伴う保磁力の増加によってヒステリシス損失が増加する。長径が長すぎる場合には、渦電流損の電流パスが形成されやすく渦電流損失が増加する。短径に対する長径の比の平均値は2以上100以下が好ましい。
【0025】
第2の磁性金属粒子の長径の平均値は1μm以上800μm以下が好ましい。より好ましくは、5μm以上700μm以下、より好ましくは、10μm以上600μm以下、更に好ましくは、50μm以上500μm以下である。長径が短すぎる場合には、焼結の進行が不十分で飽和磁化が低下する。長径が長すぎる場合には、渦電流損の電流パスが形成されやすく渦電流損失が増加する。短径に対する長径の比の平均値は1以上50以下が好ましい。
【0026】
また、複数個の第2の磁性金属粒子に対し、長径の値と短径に対する長径の比をプロットし、線形近似した場合に、その傾き(α)は0.005/μm以上0.07/μm以下であることが好ましい。言い換えると、縦軸に、ある特定の第2の磁性金属粒子の、短径に対する長径の比(長径/短径)をとり、横軸に、その第2の磁性金属粒子の長径を、単位をμmとして、プロットする。この傾き(α)が0.005/μm以上0.07/μm以下であることが好ましい。傾き(α)をこの範囲とすることで、緻密化の進行と粗大化の抑制を効果的に実現できる。
【0027】
磁性金属粒子の存在形態は、例えば、圧粉材料の断面の観察像から確認することができる。圧粉材料の断面は、圧粉材料の切断や破断、研磨によって得ることができる。圧粉材料のプレス方向が同定できる場合には、プレス方向と平行な断面を観察することが望ましい。また、圧粉材料の中心付近の断面を観察することが望ましい。断面観察には、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)又は走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)又は光学顕微鏡などが使用できる。磁性金属粒子の長径及び短径の平均値は、上記、断面観察像から求めることができる。
図2は、第1の実施の形態の圧粉材料において、磁性金属粒子の長径及び短径の求め方を説明するための模式図である。例えば、EDX分析によって第1の磁性金属粒子と第2の磁性金属粒子を同定する。次に、任意の磁性金属粒子を1つ選び、その磁性金属粒子が内接する最小面積の長方形を求める。求めた長方形の長辺の長さを、選んだ磁性金属粒子の長径、求めた長方形の短辺の長さを、選んだ磁性金属粒子の短径と定義する。この操作を第1及び第2の磁性金属粒子複数個に対して行い、それぞれの平均値を求めることで、第1及び第2の磁性金属粒子の長径及び短径の平均値を求めることができる。選択する磁性金属粒子は第1及び第2それぞれについて10個以上あることが望ましい。1つの観察断面で十分な個数が観察できない場合、複数の観察断面に対して実施し、平均値を求めることが望ましい。
【0028】
圧粉材料は、飽和磁化が高い方が好ましく、1T以上であることが好ましく、より好ましくは1.5T以上であることが好ましく、更に好ましくは1.8T以上、更に好ましくは2.0T以上であることが好ましい。これによって磁気飽和が抑制され、システム上で磁気特性を十分に発揮することができ好ましい。圧粉材料の飽和磁化は振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)等を用いて評価できる。
【0029】
圧粉材料の成型体の密度は、6g/cm
3
以上であることが好ましい。密度が6g/cm
3
未満である場合、圧粉材料としての高い飽和磁化を得ることができないためである。
【0030】
次に、第1の実施形態の圧粉材料について、作製方法の一例を説明する。
【0031】
第1の実施形態の圧粉材料は、第1及び第2の磁性金属粒子粉末を準備し、混合した粉末を成型した後に、熱処理を施すことで作製できる。
【0032】
第1及び第2の磁性金属粒子粉末の作製方法を説明する。所望の組成比となるように原料を秤量した後、溶解して合金を作製する。溶解方法には高周波溶解やアーク溶解などを用いることができる。得られた合金には均質化のための熱処理を施してもよい。得られた合金を粉砕することで磁性金属粉末を作製できる。粉砕方法はボールミルやジェットミル、ジョークラッシャーなどを用いることができる。また、合金は液体急冷装置を用いてリボン状にしても良い。液体急冷法は単ロール法でも双ロール法でも良い。リボン状とすることで容易に粉砕することができ、粉砕工程で粉末に加わる歪みを少なくし、保磁力の上昇を抑えられるため好ましい。粉砕前のリボンに300℃から1200℃の温度で熱処理を施しても良い。これにより、粉砕性を更に高めることができる。リボンの粉砕には、カッターミルやミキサー、ボールミル、ジェットミルなどが使用できる。また、アトマイズ法を用いて磁性金属粒子の粉末を作製しても良い。アトマイズ法には、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法などが使用できる。また、鉄カーボニルの熱分解で作製されるカルボニル鉄粉や、酸化鉄を還元して得られる還元鉄粉を使用しても良い。得られた粉末はスクリーンや篩などを使用して、分級しても良い。
【0033】
前記第1及び第2の磁性金属粒子粉末を混合する。混合の比率については、第1及び第2の磁性金属粒子粉末の総量に対する第2の磁性金属粒子粉末の割合が10%より多く、90%以下となるように制御する。第2の磁性金属粒子粉末の割合が少なすぎると、圧粉材料を緻密化する効果が少なく、飽和磁化が低くなる。多すぎると、第2の磁性金属粒子が粗大化し、渦電流損失が増加する。15%以上70%以下がより好ましく、更に好ましくは20%以上60%以下である。
【0034】
前記混合後の粉末を成型する。圧縮成型や射出成型などが使用できる。成型時には少量のバインダーを混合しても良い。バインダーは、樹脂や共晶系を有する酸化物などが好ましい。樹脂は、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリブタジエン系樹脂、テフロン(登録商標、ポリテトラフルオロエチレン)系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ABS樹脂、ニトリル-ブタジエン系ゴム、スチレン-ブタジエン系ゴム、シリコーン樹脂、その他の合成ゴム、天然ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アリル樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、或いはそれらの共重合体が用いられる。共晶系を有する酸化物は、例えば、B(ホウ素)、Si(シリコン)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Li(リチウム)、Ba(バリウム)、Zn(亜鉛)、La(ランタン)、P(リン)、Al(アルミニウム)、Ge(ゲルマニウム)、W(タングステン)、Na(ナトリウム)、Ti(チタン)、As(ヒ素)、V(バナジウム)、Ca(カルシウム)、Bi(ビスマス)、Pb(鉛)、Te(テルル)、Sn(スズ)からなる群から選ばれる少なくとも2つの第3の元素を含む共晶系を有する酸化物が用いられる。特に、B、Bi、Si、Zn、Pbのうちの少なくとも2つの元素を含む共晶系を含むことが好ましい。成型は磁場印可下で行っても良い。これにより磁性金属粒子粉末の配向性を向上させることができる。また、圧縮成型時には1000kgf/cm2以上の圧力で加圧することが好ましい。圧粉材料の緻密化に有効である。より好ましくは5000kgf/cm2以上、更に好ましくは10000kgf/cm2以上である。
【0035】
前記成型体に熱処理を施す。熱処理温度は500℃以上1200℃以下が好ましい。温度が低すぎる場合、圧粉材料を緻密化する効果が少なく、飽和磁化が低くなる。温度が高すぎる場合、磁性金属粒子の粗大化が進行し、渦電流損失が増加する。好ましくは600℃以上1100℃以下であり、更に好ましくは700℃以上1000℃以下である。熱処理の保持時間は1min以上200時間以下が好ましい。保持時間が短すぎる場合には、圧粉材料内部で密度むらが生じやすくなる。保持時間が長すぎる場合には、生産性が著しく低下する。熱処理雰囲気は水素雰囲気中や、アルゴン雰囲気中、窒素雰囲気中、大気中、水素とアルゴンなどの混合雰囲気中、真空中などが選択できる。また、熱処理を磁場印可下で行っても良い。これにより磁性金属粒子粉末の配向性を向上させることができる。
【0036】
また、ホットプレスや熱間静水圧加圧などを用いて、前記成型工程と熱処理工程を同時に実施しても良いし、得られた成型体に更に熱処理を施しても良い。材料組成や形状などに応じて適切な方法を選択することで、より効果的に緻密化できる。
【0037】
本実施形態によれば、高い飽和磁化と低い磁気損失、高い機械特性等の優れた特性を有する圧粉材料の提供が可能になる。
【0038】
(第2の実施形態)
本実施形態の圧粉材料に含まれる複数の磁性金属粒子は、磁性金属粒子の表面の少なくとも一部が、厚さ0.1nm以上1μm以下で、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)、リン(P)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも1つの第2の元素を含む被覆層で覆われている点で、第1の実施形態と異なっている。
【0039】
なお、第1の実施の形態と重複する内容の記載は省略する。
【0040】
図は、第2の実施の形態の磁性金属粒子の模式図である。被覆層3が示されている。
【0041】
被覆層は、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含み、かつ、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)、リン(P)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも1つの第2の元素を含むことがより好ましい。非磁性金属としては、Al、Siが熱的安定性の観点から特に好ましい。磁性金属粒子がMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む場合は、被覆層は、磁性金属粒子の構成成分の1つである非磁性金属と同じ非磁性金属を少なくとも1つ含むことがより好ましい。酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)、リン(P)及びフッ素(F)の中では、酸素(O)を含むことが好ましく、酸化物、複合酸化物であることが好ましい。以上は、被覆層形成の容易性、耐酸化性、熱的安定性の観点からである。以上によって、磁性金属粒子と被覆層の密着性を向上でき、圧粉材料の熱的安定性及び耐酸化性を向上させることが可能となる。被覆層は、熱的安定性や耐酸化性を向上させるのみならず、圧粉材料の電気抵抗を向上させることができる。電気抵抗を高くすることによって、渦電流損失を抑制し、透磁率の周波数特性を向上することが可能になる。このため、被覆層14は電気的に高抵抗であることが好ましく、例えば1mΩ・cm以上の抵抗値を有することが好ましい。
【0042】
また、被覆層は磁性金属粒子の構成成分の1つである、鉄、コバルト、鉄とコバルトの化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含み、かつ、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)、リン(P)及びフッ素(F)からなる群から選ばれる少なくとも1つの第2の元素を含むことも好ましい。
【0043】
被覆層の厚みは、熱的安定性・耐酸化性・電気抵抗の観点からは、厚ければ厚い程好ましい。しかしながら、被覆層の厚さが厚くなりすぎると、飽和磁化が小さくなるため透磁率も小さくなり好ましくない。好ましい被覆層の厚さは、0.1nm以上1μm以下、より好ましくは0.1nm以上100nm以下である。
【0044】
前記被覆層は膜状であることが好ましいが、微粒子形状であっても良い。微粒子形状の場合には平均粒径が0.1nm以上1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1nm以上100nm以下である。また、膜状と微粒子形状が混在していても良い。
【0045】
以上、本実施形態によれば、高い透磁率、低い損失、優れた機械特性、高い熱的安定性等の優れた特性を有する圧粉材料の提供が可能となる。
【0046】
(第3の実施の形態)
本実施の形態のシステム及びデバイス装置は、第1あるいは第2の実施の形態の圧粉材料を有するものである。したがって、第1あるいは第2の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。このシステム、デバイス装置に含まれる圧粉材料の部品は、例えば、各種モータや発電機などの回転電機(例えば、モータ、発電機など)、変圧器、インダクタ、トランス、チョークコイル、フィルタ等のコアや、回転電機用の磁性楔(磁性くさび)等である。
図4は、第3の実施の形態のモータシステムの模式図である。モータシステムは、回転電機システムの一例である。モータシステムとは、モータの回転数や電力(出力パワー)を制御する制御系を含めたシステムのことである。モータの回転数を制御する方式としては、ブリッジサーボ回路による制御、比例電流制御、電圧比較制御、周波数同期制御、PLL(Phase Locked Loop:位相同期ループ)制御、等による制御方法がある。一例として、PLLによる制御法について
図4に示してある。PLLによるモータの回転数を制御するモータシステムは、モータと、モータの回転の機械的変位量を電気信号に変換してモータの回転数を検出するロータリーエンコーダと、ある命令により与えられたモータの回転数とロータリーエンコーダにより検出されたモータの回転数を比較しそれらの回転数差を出力する位相比較器と、当該回転数差を小さくするようにモータを制御するコントローラと、を備える。一方、モータの電力を制御する方法としては、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御、PAM(Pulse Amplitude Modulation:パルス電圧振幅波形)制御、ベクトル制御、パルス制御、バイポーラ駆動、ペデスタル制御、抵抗制御、等による制御方法がある。またその他の制御方法として、マイクロステップ駆動制御、多相駆動制御、インバータ制御、スイッチング制御、等の制御方法がある。一例として、インバータによる制御法について
図4に示してある。インバータによるモータの電力を制御するモータシステムは、交流電源と、交流電源の出力を直流電流に変換する整流器と、当該直流電流を任意の周波数による交流に変換するインバータ回路と、当該交流により制御されるモータと、を備える。
【0047】
図5は、第3の実施の形態のモータの模式図を示す。モータ200は、回転電機の一例である。モータ200においては、第1のステータ(固定子)と第2のロータ(回転子)が配置されている。図では、ロータがステータの内側に配置されているインナーロータ型を示しているが、ロータがステータの外側に配置されるアウターロータ型でも構わない。
【0048】
図6は、第3の実施の形態のモータコア(ステータ)の模式図である。
図7は、第3の実施の形態のモータコア(ロータ)の模式図である。モータコア300(モータのコア)としては、ステータ及びロータのコアが該当する。この点を、以下に説明する。
図6は第1のステータの模式図である。第1のステータは、コアと、巻き線と、を有する。巻き線は、コア内側に設けられた、コアが有する突起の一部に巻き付けられている。このコア内に第1第2の実施形態の圧粉材料を配置することができる。
図7は第1のロータの模式図である。第1のロータは、コアと、巻き線と、を有する。巻き線は、コア外側に設けられた、コアが有する突起の一部に巻き付けられている。このコア内に第1あるいは第2の実施形態の圧粉材料を配置することができる。
【0049】
なお、
図6、
図7はあくまでモータの一例を示したものであり、圧粉材料の適用先としてはこれに限定されるものではない。磁束を導きやすくするためのコアとして、あらゆる種類のモータに適用することができる。
【0050】
図8は、第3の実施の形態の変圧器・トランスの模式図である。
図9は、第3の実施の形態のインダクタ(リング状インダクタ、棒状インダクタ)の模式図である。
図10は、第3の実施の形態のインダクタ(チップインダクタ、平面インダクタ)模式図である。これらもあくまで一例として示したものである。変圧器・トランス400、インダクタ500においてもモータコアと同様に、磁束を導きやすくするために、又は高い透磁率を利用するために、あらゆる種類の変圧器・トランス、インダクタに圧粉材料を適用することができる。
【0051】
図11は、第3の実施の形態の発電機500の模式図である。発電機500は、回転電機の一例である。発電機500は、第1あるいは第2の実施形態の圧粉材料をコアとして用いた第2のステータ(固定子)530と、第1あるいは第2の実施形態の圧粉材料をコアとして用いた第2のロータ(回転子)540の、いずれか一方又はその両方を備えている。図では、第2のロータ(回転子)540は第2のステータ530の内側に配置されているが、外側に配置されていても構わない。第2のロータ540は、発電機500の一端に設けられたタービン510と、シャフト520を介して接続されている。タービン510は、例えば図示しない外部から供給される流体により回転する。なお、流体により回転するタービンに代えて、自動車の回生エネルギー等の動的な回転を伝達することによって、シャフトを回転することも可能である。第2のステータ530及び第2のロータ540には、各種公知の構成を採用することができる。
【0052】
シャフトは、第2のロータに対してタービンとは反対側に配置された、図示しない整流子と接触している。第2のロータの回転により発生した起電力は、発電機の電力として、図示しない相分離母線及び図示しない主変圧器を介して、系統電圧に昇圧されて送電される。なお、第2のロータには、タービンからの静電気や発電に伴う軸電流による帯電が発生する。このため、発電機は、第2のロータの帯電を放電させるためのブラシを備えている。
【0053】
また、本実施形態の回転電機は、鉄道車両に好ましく用いることができる。例えば、鉄道車両を駆動するモータ200や、鉄道車両を駆動するための電気を発生する発電機500に好ましく用いることができる。
【0054】
このシステム及びデバイス装置に適用するために、圧粉材料は、種々の加工を施すことを許容する。例えば焼結体の場合は、研磨や切削等の機械加工が施され、粉末の場合はエポキシ樹脂、ポリブタジエンのような樹脂との混合が施される。必要に応じて更に表面処理が施される。また、必要に応じて巻線処理がなされる。
【0055】
本実施の形態のシステム及びデバイス装置によれば、優れた特性(高効率、低損失)を有するモータシステム、モータ、変圧器、トランス、インダクタ及び発電機が実現可能となる。
【0056】
(実施例)
以下に、実施例1~11を、比較例と対比しながらより詳細に説明する。以下に示す実施例及び比較例によって得られる圧粉材料について、第1及び第2の磁性金属粒子の組成と、Co1に対するCo2の比(Co2/Co1)と、第1及び第2の磁性金属粒子の長径の平均値と、第1及び第2の磁性金属粒子の短径に対する長径の比の平均値と、第2の磁性金属粒子の長径の値と短径に対する長径の比をプロットし、線形近似した場合の傾き(α)と、飽和磁化と、渦電流損とをまとめたものを表1に示す。なお、渦電流損については、比較例1の場合を基準とし、基準に対し10%~50%低減した場合を〇、50%以上低減した場合を◎とし、低減率が10%未満あるいは、低減しない場合には×とした。
【0057】
(実施例1)
まず、表1に示す組成となるように、原料を秤量し、高周波溶解で合金を作製する。得られた合金から、単ロール急冷装置を用いて、リボンを作製する。次に得られたリボンをAr雰囲気中500℃で熱処理を行う。次に、このリボンを、ミキサー装置を用いて粉砕し、開口径75μmの篩を用いて分級することで、第1の磁性金属粒子粉末を得る。次に第2の磁性金属粒子粉末として鉄粉を準備し、第1の磁性金属粒子粉末と第2の磁性金属粒子粉末を重量比で50:50となるように混合する。混合した粉末を、金型を用いて12000kgf/cm2の圧力でプレス成型する。得られた成型体にH2とArの混合雰囲気中900℃で5時間保持する熱処理を施すことによって圧粉材料を得る。得られた圧粉材料に対し、VSMで飽和磁化を評価し、B-Hアナライザで鉄損を測定して、鉄損の周波数依存性から渦電流損を評価し、断面SEM観察から、短径に対する長径の比の平均値及びαの値を評価した。
【0058】
(実施例2~7)
まず、表1に示す組成となるように、原料を秤量し、高周波溶解で合金を作製する。得られた合金から、単ロール急冷装置を用いて、リボンを作製する。次に得られたリボンをAr雰囲気中500℃で熱処理を行う。次に、このリボンを、ミキサー装置を用いて粉砕し、開口径75μmの篩を用いて分級することで、第1の磁性金属粒子粉末を得る。次に第2の磁性金属粒子粉末として鉄粉を準備し、第1の磁性金属粒子粉末と第2の磁性金属粒子粉末を重量比で70:30となるように混合する。混合した粉末を、金型を用いて12000kgf/cm2の圧力でプレス成型する。得られた成型体にH2とArの混合雰囲気中1000℃で3時間保持する熱処理を施すことによって圧粉材料を得る。得られた圧粉材料を実施例1と同じ方法で評価した。
【0059】
(実施例8~9)
まず、表1に示す組成となるように、原料を秤量し、高周波溶解で合金を作製する。得られた合金から、単ロール急冷装置を用いて、リボンを作製する。次に得られたリボンをAr雰囲気中500℃で熱処理を行う。次に、このリボンを、ミキサー装置を用いて粉砕し、開口径75μmの篩を用いて分級することで、第1の磁性金属粒子粉末を得る。次に、表1に示す組成となるように、原料を秤量し、高周波溶解で合金を作製する。得られた合金から、単ロール急冷装置を用いて、リボンを作製する。次に得られたリボンをH2雰囲気中500℃で熱処理を行う。次に、このリボンを、ミキサー装置を用いて粉砕し、開口径75μmの篩を用いて分級することで、第2の磁性金属粒子粉末を得る。第1の磁性金属粒子粉末と第2の磁性金属粒子粉末を重量比で60:40となるように混合する。混合した粉末を、金型を用いて10000kgf/cm2の圧力でプレス成型する。得られた成型体にH2とArの混合雰囲気中900℃で10時間保持する熱処理を施すことによって圧粉材料を得る。得られた圧粉材料を実施例1と同じ方法で評価した。
【0060】
(実施例10)
実施例1と同じ方法で作製した第1の磁性金属粒子粉末と第2の磁性金属粒子粉末の混合粉末に対し、テトラエトキシシラン(TEOS)の加水分解を用いて、シリカの被覆処理を行う。被覆処理後の粉末を、金型を用いて12000kgf/cm2の圧力でプレス成型する。得られた成型体にH2とArの混合雰囲気中900℃で5時間保持する熱処理を施すことによって圧粉材料を得る。得られた圧粉材料を実施例1と同じ方法で評価した。
【0061】
(実施例11)
実施例1と同じ方法で作製した第1の磁性金属粒子粉末と第2の磁性金属粒子粉末の混合粉末に対し、リン酸溶液を加え、大気中200℃で熱処理を行う。熱処理後の粉末に対し、TEOSを用いて、シリカの被覆処理を行う。被覆処理後の粉末を、金型を用いて12000kgf/cm2の圧力でプレス成型する。得られた成型体にH2とArの混合雰囲気中900℃で4時間保持する熱処理を施すことによって圧粉材料を得る。得られた圧粉材料を実施例1と同じ方法で評価した。
【0062】
(比較例1)
まず、表1に示す組成となるように、原料を秤量し、高周波溶解で合金を作製する。得られた合金から、単ロール急冷装置を用いて、リボンを作製する。次に得られたリボンをAr雰囲気中500℃で熱処理を行う。次に、このリボンを、ミキサー装置を用いて粉砕し、開口径75μmの篩を用いて分級することで、第1の磁性金属粒子粉末を得る。次に、第1の磁性金属粒子粉末と同じ方法で第2の磁性金属粒子粉末を作製する。第1の磁性金属粒子粉末と第2の磁性金属粒子粉末を重量比で50:50となるように混合する。混合した粉末を、金型を用いて12000kgf/cm2の圧力でプレス成型する。得られた成型体にH2とArの混合雰囲気中1000℃で5時間保持する熱処理を施すことによって圧粉材料を得る。得られた圧粉材料を実施例1と同じ方法で評価した。
【0063】
(比較例2)
まず、表1に示す組成となるように、原料を秤量し、高周波溶解で合金を作製する。得られた合金から、単ロール急冷装置を用いて、リボンを作製する。次に得られたリボンをAr雰囲気中500℃で熱処理を行う。次に、このリボンを、ミキサー装置を用いて粉砕し、開口径75μmの篩を用いて分級することで、第1の磁性金属粒子粉末を得る。次に、第1の磁性金属粒子粉末と同じ方法で第2の磁性金属粒子粉末を作製する。第1の磁性金属粒子粉末と第2の磁性金属粒子粉末を重量比で50:50となるように混合する。混合した粉末を、金型を用いて12000kgf/cm2の圧力でプレス成型する。得られた成型体にH2とArの混合雰囲気中1250℃で5時間保持する熱処理を施すことによって圧粉材料を得る。得られた圧粉材料を実施例1と同じ方法で評価した。
【0064】
(比較例3)
まず、表1に示す組成となるように、原料を秤量し、高周波溶解で合金を作製する。得られた合金から、単ロール急冷装置を用いて、リボンを作製する。次に得られたリボンをAr雰囲気中500℃で熱処理を行う。次に、このリボンを、ミキサー装置を用いて粉砕し、開口径75μmの篩を用いて分級することで、第1の磁性金属粒子粉末を得る。次に第2の磁性金属粒子粉末として鉄粉を準備し、第1の磁性金属粒子粉末と第2の磁性金属粒子粉末を重量比で20:80となるように混合する。混合した粉末を、金型を用いて12000kgf/cm2の圧力でプレス成型する。得られた成型体にH2とArの混合雰囲気中1000℃で5時間保持する熱処理を施すことによって圧粉材料を得る。得られた圧粉材料を実施例1と同じ方法で評価した。
【0065】
(比較例4)
まず、表1に示す組成となるように、原料を秤量し、高周波溶解で合金を作製する。得られた合金から、単ロール急冷装置を用いて、リボンを作製する。次に得られたリボンをAr雰囲気中500℃で熱処理を行う。次に、このリボンを、ミキサー装置を用いて粉砕し、開口径75μmの篩を用いて分級することで、第1の磁性金属粒子粉末を得る。次に第2の磁性金属粒子粉末として鉄粉を準備し、第1の磁性金属粒子粉末と第2の磁性金属粒子粉末を重量比で90:10となるように混合する。混合した粉末を、金型を用いて12000kgf/cm2の圧力でプレス成型する。得られた成型体にH2とArの混合雰囲気中1000℃で5時間保持する熱処理を施すことによって圧粉材料を得る。得られた圧粉材料を実施例1と同じ方法で評価した。
【0066】
【0067】
表1から明らかなように、実施例1~11に係る圧粉材料は、Co1に対するCo2の比(Co2/Co1)が0以上0.5以下であり、短径に対する長径の比の平均値が前記第1の磁性金属粒子は2以上であり、前記第2の磁性金属粒子は1以上であり、前記第2の磁性金属粒子の長径の平均値は、前記第1の磁性金属粒子の長径の平均値と比べ、同じかそれより長い。一方で、比較例では上記の範囲に含まれていない。
【0068】
実施例1~11に係る圧粉材料は比較例の圧粉材料と比べ、高い飽和磁化を維持したまま、渦電流損が低減しており、顕著な効果が得られている。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態及び実施例を説明したが、これらの実施形態及び実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1 第1の磁性金属粒子
2 第2の磁性金属粒子
3 被覆層
10 磁性金属粒子
100 圧粉材料
200 モータ
300 モータコア
400 変圧器・トランス
500 インダクタ