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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】塗料組成物及び塗装品
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240823BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240823BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240823BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C09D201/00
B32B27/30 D
C09D7/20
C09D127/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021147799
(22)【出願日】2021-09-10
(65)【公開番号】P2022046456
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2021-09-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2020151930
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】門脇 優
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
【合議体】
【審判長】関根 裕
【審判官】門前 浩一
【審判官】長谷川 真一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-26786(JP,A)
【文献】特開平2-45546(JP,A)
【文献】特許第6753546(JP,B1)
【文献】特開2019-26770(JP,A)
【文献】特開2017-141321(JP,A)
【文献】特公平1-25506(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性バインダー樹脂、熱溶融性フッ素樹脂及び有機溶剤を含む塗料組成物であって、
前記熱溶融性フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であり、1.0μm以下の平均粒径を有する粉末であり、融点が270℃以上(ただし、320℃以上を除く)であり、かつメルトフローレートが2035g/10分であり、
前記耐熱性バインダー樹脂100質量部に対して、前記熱溶融性フッ素樹脂が10~200質量部であり、
前記有機溶剤は、N-エチル-2-ピロリドン、3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、N-ホルミルモルホリン、N-アセチルモルホリン及びジメチルプロピレンウレアからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド及びN,N-ジメチルホルムアミドの合計量が、前記塗料組成物に対して、0.1質量%未満である塗料組成物。
【請求項2】
基材と、前記基材上に設けられた、請求項1記載の塗料組成物から形成される塗膜とを備える塗装品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗料組成物及び塗装品に関する。
【背景技術】
【0002】
フライパン、ガステーブルの天板、電子レンジの内壁材等には耐熱性及び非粘着性が求められている。
【0003】
特許文献1には、ポリエーテルスルホン樹脂と、特定の融点及び平均粒径を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体と、特定の有機溶剤とを、特定の割合で含有する塗料組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-026786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、非粘着性の持続性に優れる塗膜を与える塗料組成物、及び、非粘着性の持続性に優れる塗装品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、耐熱性バインダー樹脂、熱溶融性フッ素樹脂及び有機溶剤を含み、上記熱溶融性フッ素樹脂は、1.0μm以下の平均粒径を有する粉末であり、融点が270℃以上であり、かつメルトフローレートが15~45g/10分であり、上記耐熱性バインダー樹脂100質量部に対して、上記熱溶融性フッ素樹脂が10~200質量部である塗料組成物に関する。
【0007】
本開示は、基材と、上記基材上に設けられた、上記塗料組成物から形成される塗膜とを備える塗装品にも関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、非粘着性の持続性に優れる塗膜を与える塗料組成物、及び、非粘着性の持続性に優れる塗装品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を具体的に説明する。
本開示は、耐熱性バインダー樹脂、熱溶融性フッ素樹脂及び有機溶剤を含み、上記熱溶融性フッ素樹脂は、1.0μm以下の平均粒径を有する粉末であり、融点が270℃以上であり、かつメルトフローレートが15~45g/10分であり、上記耐熱性バインダー樹脂100質量部に対して、上記熱溶融性フッ素樹脂が10~200質量部である塗料組成物に関する。
本開示の塗料組成物は、非粘着性の持続性に優れる塗膜を与えることができる。
本開示の塗料組成物は、また、表面平滑性に優れる塗膜を与えることもできる。
【0010】
本開示の塗料組成物は、耐熱性バインダー樹脂を含む。
上記耐熱性バインダー樹脂は、通常、耐熱性を有すると認識されている樹脂であればよいが、含フッ素重合体は除くものとする。本明細書において、「耐熱性」とは、150℃以上の温度における連続使用が可能である性質を意味する。
【0011】
上記耐熱性バインダー樹脂としては、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂及びポリアリーレンサルファイド樹脂等が挙げられ、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0012】
PAIは、分子構造中にアミド結合及びイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PAIとしては特に限定されず、例えば、アミド結合を分子内に有する芳香族ジアミンとピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸との反応;無水トリメリット酸等の芳香族三価カルボン酸と4,4-ジアミノフェニルエーテル等のジアミンやジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートとの反応;芳香族イミド環を分子内に有する二塩基酸とジアミンとの反応等の各反応により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。耐熱性に優れる点から、上記PAIとしては、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0013】
PIは、分子構造中にイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PIとしては特に限定されず、例えば、無水ピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸無水物の反応等により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。耐熱性に優れる点から、上記PIとしては、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0014】
PESは、下記一般式:
【0015】
【化1】
【0016】
で表される繰り返し単位を有する重合体からなる樹脂である。PESとしては特に限定されず、例えば、ジクロロジフェニルスルホンとビスフェノールとの重縮合により得られる重合体からなる樹脂等が挙げられる。
【0017】
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、アリーレン基とエーテル基[-O-]とカルボニル基[-C(=O)-]とで構成された繰り返し単位を含む樹脂である。上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂としては、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂(PEEKK)、ポリエーテルケトンエステル樹脂等が例示できる。上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂としては、PEK、PEEK、PEEKK及びポリエーテルケトンエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PEEKがより好ましい。
【0018】
上記耐熱性バインダー樹脂は、PAI、PI、PEI及びPESからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、非粘着性の持続性及び表面平滑性に一層優れる塗膜が得られる。また、基材との密着性に優れ、塗膜を形成する際に行う焼成時の温度下でも充分な耐熱性を有し、得られる塗膜が耐食性及び耐水蒸気性に優れる。
上記耐熱性バインダー樹脂は、上述の効果に加え、着色の自由度及び加工性の点で、PESを含むことがより好ましい。
【0019】
本開示の塗料組成物は、熱溶融性フッ素樹脂を含む。
上記熱溶融性フッ素樹脂は、メルトフローレート(MFR)が15~45g/10分である。MFRが低すぎると、非粘着性の持続性及び表面平滑性が悪化するおそれがあり、MFRが高すぎると、非粘着性の持続性が悪化するおそれがある。
上記MFRは、20g/10分以上であることが好ましく、25g/10分以上であることがより好ましい。また、40g/10分以下であることが好ましく、35g/10分以下であることがより好ましい。
上記MFRは、ASTM D 1238に従って、メルトインデクサー((株)安田精機製作所製)を用いて、フルオロポリマーの種類によって定められた測定温度(例えば、PFAやFEPの場合は372℃、ETFEの場合は297℃)、荷重(例えば、PFA、FEP及びETFEの場合は5kg)において内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0020】
上記熱溶融性フッ素樹脂は、融点が270℃以上である。上記融点は、耐熱防汚性の点で、270~330℃であることが好ましい。また、耐熱性及び加工時の熱溶融性フッ素樹脂の造膜性の点で、280~320℃であることがより好ましい。
上記融点は、示差走査熱量計を用い、ASTM D-4591に準拠して昇温速度10℃/分にて熱測定を行い、得られた吸熱曲線のピークの温度である。
【0021】
上記熱溶融性フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体(PFA)、TFE/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(FEP)、エチレン(Et)/TFE共重合体(ETFE)、Et/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、CTFE/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
上記熱溶融性フッ素樹脂は、非粘着性の持続性及び表面平滑性に一層優れる塗膜が得られる点で、PFA及びFEPからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、上記効果及び耐熱性の点で、PFAであることがより好ましい。
【0022】
上記PFAにおけるPAVEとしては、例えば、式(1):
CF=CF-ORf (1)
(式中、Rfは、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるものが挙げられ、なかでもパーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕が好ましい。
【0023】
上記PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位とPAVE単位とのモル比(TFE単位/PAVE単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上98.9/1.1以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記PFAは、TFE単位及びPAVE単位のみからなることも好ましく、また、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1~10モル%であり、TFE単位及びPAVE単位が合計で90~99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びPAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ=CZ(CF(式中、Z、Z及びZは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Zは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0024】
上記PFAは、熱分解開始温度が380℃以上であることが好ましい。上記熱分解開始温度は、400℃以上であることがより好ましく、410℃以上であることが更に好ましい。
【0025】
本明細書において、熱分解開始温度は、示差熱・熱重量測定装置〔TG-DTA〕(商品名:TG/DTA6200、セイコー電子社製)を用い、試料10mgを昇温速度10℃/分で室温から昇温し、試料が1質量%減少した温度である。
【0026】
上記FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位とHFP単位とのモル比(TFE単位/HFP単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上98.9/1.1以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記FEPは、TFE単位及びHFP単位のみからなることも好ましく、また、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1~10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90~99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びHFPと共重合可能な単量体としては、PAVE、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0027】
上記FEPは、熱分解開始温度が360℃以上であることが好ましい。上記熱分解開始温度は、380℃以上であることがより好ましく、390℃以上であることが更に好ましい。
【0028】
上記熱溶融性フッ素樹脂の各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0029】
上記熱溶融性フッ素樹脂は、1.0μm以下の平均粒径を有する粉末である。これにより、得られる塗膜中で良好な分散性を発揮させて耐熱性及び非粘着性に優れた被膜を表面に形成させることができる。
上記平均粒径は、0.5μm以下であることが好ましい。上記平均粒径は、また、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましい。これらの範囲内であると、造膜性や、焼成時のフッ素樹脂の溶融性に優れる。
上記平均粒径は、株式会社堀場製作所製「CAPA-700」を用いて、カスケードは使用せず、分散圧力1.0barで測定を行い、粒度分布積算の50%に対応する粒子径に等しいとする。
【0030】
上記熱溶融性フッ素樹脂は、例えば、特公平1-25506号公報記載の方法を参考にして得ることができる。より具体的には、水性媒体中で単量体を共存させて乳化重合を行い、得られたディスパージョンを、界面活性剤を添加せずに凝析、乾燥して得られる。
これにより、平均粒径を1.0μm以下にすることができる。
【0031】
また、連鎖移動剤を適切に使用することにより、上記熱溶融性フッ素樹脂のMFRを、上述した範囲内に制御することができる。
【0032】
上記連鎖移動剤は、炭素数1~6の飽和炭化水素、炭素数1~4のアルコール、炭素数4~8のカルボン酸エステル化合物、炭素数1~2の塩素置換炭化水素、炭素数3~5のケトン、及び、炭素数10~12のメルカプタンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
上記連鎖移動剤は、重合媒体中への分散性、連鎖移動性、目的の製品からの除去性の点で、エタン、イソペンタン、メタノール、イソプロパノール、アセトン、及び、酢酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0033】
上記熱溶融性フッ素樹脂は、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩である含フッ素界面活性剤を使用せずに製造することが好ましく、含フッ素界面活性剤を使用せずに製造することがより好ましい。これにより、含フッ素界面活性剤、特に上記炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩を含まない熱溶融性フッ素樹脂が得られる。
【0034】
上記含フッ素界面活性剤としては、下記一般式(N):
n0-(CFm1-Y (N
(式中、Xn0は、H、Cl及びFであり、m1は3~15の整数であり、Yは、-SOM、-SOM、-SOR、-SOR、-COOM、-PO、-PO(MはH、NH又はアルカリ金属を表し、Rは炭素数1~12のアルキル基を表す。)である。)で表される化合物、下記一般式(N):
Rfn1-O-(CF(CF)CFO)m2CFXn1-Y (N
(式中、Rfn1は、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基であり、m2は、0~3の整数であり、Xn1は、F又はCFであり、Yは、上記定義したものである。)で表される化合物が挙げられる。
【0035】
本開示の塗料組成物において、上記熱溶融性フッ素樹脂の含有量は、上記耐熱性バインダー樹脂100質量部に対して10~200質量部である。上記熱溶融性フッ素樹脂が少なすぎると非粘着性の持続性が低下し、多すぎると得られる塗料組成物と基材との密着性が低下するおそれがある。非粘着性及び密着性を一層向上させる点で、上記熱溶融性フッ素樹脂の含有量は、上記耐熱性バインダー樹脂100質量部に対して50質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、また、150質量部以下であることが好ましく、120質量部以下であることがより好ましい。
【0036】
本開示の塗料組成物は、有機溶剤を含む。本開示の塗料組成物は、溶剤系塗料組成物であってよい。
上記有機溶剤は、有機化合物であって、20℃程度の常温において液体であることが好ましい。
上記有機溶剤は、上記耐熱性バインダー樹脂を溶解するものであってよく、上記熱溶融性フッ素樹脂を分散させるものであってもよい。
【0037】
上記有機溶剤としては、例えば、N-エチル-2-ピロリドン、3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、N-ホルミルモルホリン、N-アセチルモルホリン、ジメチルプロピレンウレア、アニソール、ジエチルエーテル、エチレングリコール、アセトフェノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、キシレン、トルエン、エタノール、2-プロパノール等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。
【0038】
上記有機溶剤は、N-エチル-2-ピロリドン、3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、N-ホルミルモルホリン、N-アセチルモルホリン、ジメチルプロピレンウレア、アニソール、ジエチルエーテル、エチレングリコール、アセトフェノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、キシレン、トルエン、エタノール及び2-プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、N-エチル-2-ピロリドン、3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、N-ホルミルモルホリン、N-アセチルモルホリン及びジメチルプロピレンウレアからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、N-エチル-2-ピロリドン、3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、N-ホルミルモルホリン、N-アセチルモルホリン及びジメチルプロピレンウレアからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0039】
上記3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドは、N(CHCOCHCHOR11(R11はアルキル基)で表される。アルコキシ基(R11O基)は、特に限定されないが、炭素数1~6程度の低級アルキル基を含むアルコキシ基であることが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又はブトキシ基であることがより好ましい。上記3-アルコキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドとしては、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(N(CHCOCHCHOCH)が特に好ましい。
【0040】
上記有機溶剤の配合量は、得られる塗料組成物に塗膜形成性を与え、また、塗装方法に適した塗料粘度を与える範囲で選択することができる。
【0041】
本開示の塗料組成物においては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド及びN,N-ジメチルホルムアミドの合計量が、上記塗料組成物に対し、0.1質量%未満であることが好ましい。上記合計量は、0.01質量%未満であることがより好ましく、0.001質量%未満であることが更に好ましい。
上記合計量は、液体クロマトグラフィーにより測定する値である。
本開示の塗料組成物は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド及びN,N-ジメチルホルムアミドのいずれをも含まないことも好ましい。
【0042】
本開示の塗料組成物においては、水の含有量が、上記塗料組成物に対し、1質量%未満であることが好ましい。
上記水の含有量は、カールフィッシャー法により測定することができる。
【0043】
本開示の塗料組成物においては、炭素数が8以上、14以下のパーフルオロカルボン酸及びその塩の含有量が、上記塗料組成物に対し、25質量ppb未満であることが好ましい。上記含有量は、20質量ppb以下であることがより好ましく、15質量ppb以下であることが更に好ましく、10質量ppb以下であることが更により好ましく、5質量ppb以下であることが特に好ましく、5質量ppb未満であることが最も好ましい。
上記パーフルオロカルボン酸及びその塩の含有量は、液体クロマトグラフィーにより測定できる。
【0044】
本開示の塗料組成物においては、含フッ素界面活性剤の含有量が、上記塗料組成物に対し、25質量ppb未満であることが好ましい。上記含有量は、20質量ppb以下であることがより好ましく、15質量ppb以下であることが更に好ましく、10質量ppb以下であることが更により好ましく、5質量ppb以下であることが特に好ましく、5質量ppb未満であることが最も好ましい。
上記含フッ素界面活性剤の含有量は、液体クロマトグラフィーにより測定できる。
【0045】
本開示の塗料組成物は、更に、他の成分として、例えば、顔料、光輝剤、抗菌剤、充填材等の従来用いられている添加剤も、本開示の塗料組成物の効果を損なわない範囲で含むことができる。
【0046】
上記界面活性剤を除く上記他の成分の配合量は、得られる塗料組成物からなる塗膜の非粘着性を低下させない点で、合計で、上記耐熱性バインダーと上記熱溶融性フッ素樹脂の合計量の50質量%までの範囲であってよい。
【0047】
本開示の塗料組成物は常法によって製造することができる。例えば、ボールミル、3本ロール、ディスパー等の撹拌混合装置を用いて、各成分を撹拌混合することによって製造することができる。
【0048】
本開示の塗料組成物は、塗装性の点で、固形分濃度が10~50質量%であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、また、35質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
本開示は、基材と、上記基材上に設けられた、本開示の塗料組成物から形成される塗膜とを備える塗装品にも関する。
本開示の塗装品は、非粘着性の持続性に優れる。
本開示の塗装品は、また、表面平滑性にも優れる。
【0050】
上記基材の材料としては、鉄、アルミニウム、銅等の金属単体及びこれらの合金類、めっき鋼板等の金属;ホーロー、ガラス、セラミック等の非金属無機材料等が挙げられる。上記合金類としては、ステンレス等が挙げられる。
また、必要に応じて防錆プライマー層等のプライマー層を基材上に設けてもよい。
【0051】
上記基材の形状としては、例えば板状、棒状、球状が挙げられ、所望する塗装品の最終形状であってもよい。
【0052】
上記基材に塗料組成物を塗布する場合は、例えばロールコーター、フローコーター、スプレー等を用いて、常法により塗布することができる。また、基材との密着性の点から、ブラスト、酸、アルカリ及びクロメート等によって基材の表面を処理してから塗布することが好ましい。
塗布後に焼成を行ってもよい。
【0053】
本開示の塗料組成物を基材に塗布する場合、その乾燥膜厚は耐熱性を損なわない範囲であればよく、更に、非粘着性の持続性の点から5~40μmであることが好ましく、加工性の点から10~20μmであることがより好ましい。
【0054】
本開示の塗料組成物、及び、本開示の塗装品を適用することが可能な用途としては特に限定されず、熱溶融性フッ素樹脂が有する耐食性、耐熱性、非粘着性、滑り性等の特性を利用した用途を挙げることができる。例えば、フライパン、圧力鍋、鍋、グリル鍋、炊飯釜、オーブン、ホットプレート、パン焼き型、包丁、ガステーブル(例えば天板)、電子レンジ(例えば内壁材)等の調理器具;電気ポット、オイルポット、製氷トレー、金型、レンジフード等の厨房用品;練りロール、圧延ロール、コンベア、ホッパー等の食品工業用部品;オフィースオートメーション(OA)用ロール、OA用ベルト、OA用分離爪、製紙ロール、フィルム製造用カレンダーロール等の工業用品;インジェクション金型、発泡スチロール成形用等の金型、鋳型;合板・化粧板製造用離型板等の成形金型離型;工業用コンテナ(特に半導体工業用);のこぎり、やすり等の工具;アイロン、鋏、包丁等の家庭用品;金属箔;電線;食品加工機、包装機、紡織機械等のすべり軸受;カメラ・時計の摺動部品;パイプ、バルブ、ベアリング等の自動車部品;雪かきシャベル;すき;シュート等が挙げられる。
本開示の塗料組成物、及び、本開示の塗装品は、調理器具又は厨房用品に用いられることが好ましい。本開示の塗装品は、調理器具、厨房用品又はその構成部材であることも好ましい。
上記調理器具又は厨房用品としては、フライパン、ガステーブルの天板、電子レンジの内壁材が好ましい。
【実施例
【0055】
次に実施例を挙げて本開示を更に詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0057】
(融点)
示差走査熱量計を用い、ASTM D-4591に準拠して昇温速度10℃/分にて熱測定を行い、得られた吸熱曲線のピークの温度として求めた。
(MFR)
ASTM D 1238に従って、メルトインデクサー((株)安田精機製作所製)を用いて、372℃、荷重5kgにおいて内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)を、MFRとした。
(平均粒径)
株式会社堀場製作所製「CAPA-700」を用いて、カスケードは使用せず、分散圧力1.0barで測定を行い、粒度分布積算の50%に対応する粒子径を、平均粒径とした。
【0058】
実施例1
ポリエーテルスルホン樹脂(PES5003P、住友化学工業(株)製)10g、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA1、融点318℃、MFR 30g/10min、平均粒径0.3μm)10gをN-エチル-2-ピロリドン50g、メチルイソブチルケトン15g、キシレン15gの混合溶剤に加え、ボールミルで溶解分散して本開示の塗料組成物を得た。ついで、当該組成物を塗布型クロメート処理した0.5mmのステンレス鋼板にバーコーターにて乾燥膜厚が10μmになるように塗布し、400℃で90秒間焼成して、本開示の塗装品を得た。
【0059】
実施例2
ポリエーテルスルホン樹脂(PES5003P、住友化学工業(株)製)10g、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA1、融点318℃、MFR 30g/10min、平均粒径0.3μm)10g、複合酸化物顔料(ダイピロキサイドカラ#9510、大日本精化工業(株)製)5gをN-エチル-2-ピロリドン47g、メチルイソブチルケトン14g、キシレン13gの混合溶剤に加え、ボールミルで溶解分散させ、更にアルミフレーク(HS-2、東洋アルミ(株)製)を1g添加して撹拌、分散させたこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0060】
実施例3
上記PFA1に代えて、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP1、融点282℃、MFR 30g/10min、平均粒径0.2μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0061】
実施例4
上記PFA1に代えて、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA2、融点304℃、MFR 31g/10min、平均粒径0.15μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0062】
実施例5
上記PFA1に代えて、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA3、融点316℃、MFR 16g/10min、平均粒径0.3μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0063】
実施例6
上記PFA1に代えて、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA4、融点316℃、MFR 43g/10min、平均粒径0.3μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0064】
実施例7
ポリエーテルスルホン樹脂(PES5003P、住友化学工業(株)製)14g、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA1、融点318℃、MFR 30g/10min、平均粒径0.3μm)7gを使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0065】
実施例8
ポリエーテルスルホン樹脂(PES5003P、住友化学工業(株)製)8g、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA1、融点318℃、MFR 30g/10min、平均粒径0.3μm)12gを使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0066】
実施例9
上記N-エチル-2-ピロリドンに代えて、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドを使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0067】
実施例10
上記N-エチル-2-ピロリドンに代えて、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0068】
実施例11
ポリアミドイミド樹脂(HPC-3010、昭和電工マテリアルズ(株)製、γ-ブチロラクトン溶解品、固形分濃度30%)33gをN-エチル-2-ピロリドン27g、メチルイソブチルケトン15g、キシレン15gの混合溶剤に加えたこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0069】
実施例12
上記ポリエーテルスルホン樹脂に代えて、ポリエーテルイミド樹脂(Ultem1000、SABIC製)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0070】
比較例1
上記PFA1に代えて、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA5、融点316℃、MFR 11g/10min、平均粒径0.3μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0071】
比較例2
上記PFA1に代えて、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA6、融点317℃、MFR 62g/10min、平均粒径0.3μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0072】
比較例3
上記PFA1に代えて、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP2、融点241℃、MFR 29g/10min、平均粒径0.2μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0073】
比較例4
上記PFA1に代えて、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA7、融点304℃、MFR 31g/10min、平均粒径5μm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0074】
比較例5
ポリエーテルスルホン樹脂(PES5003P、住友化学工業(株)製)10g、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA1、融点318℃、MFR 30g/10min、平均粒径0.3μm)0.9gを使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0075】
比較例6
ポリエーテルスルホン樹脂(PES5003P、住友化学工業(株)製)6g、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA1、融点318℃、MFR 30g/10min、平均粒径0.3μm)15gを使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物及び塗装品を得た。
【0076】
実施例及び比較例で得られた塗装品を切断して試験片を得、試験片を下記の項目にて試験、評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[試験方法]
(1)表面粗さ(表面平滑性)
試験片の表面粗さ(Ra)を、Surtronic DuoII(TAYLOR HOBSON製)で測定した。
【0078】
(2)初期非粘着性
卵/砂糖/醤油=1/1/1(質量比)からなる汚染液を試験片にスポットし、260℃で30分間焼き付けた後、爪により汚染物を除去した。簡単に汚染物が除去可能で、塗膜への付着物がほとんどないものをA、簡単に汚染物が除去可能であるが、爪で擦って取れる程度の付着物があるものをB、汚染物が取れ難く、爪で擦って取れる程度の付着物があるものをC、汚染物が取れ難く、爪で擦っても取れない付着物があるものをD、汚染物が取れず、塗膜剥離を伴うものをEとした。
【0079】
(3)非粘着性の持続性
前記、初期非粘着性試験を1サイクルとし、汚染物が取れなくなるまでのサイクル数を調べた。
【表1】