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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】検査システム及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20240823BHJP
   G01N 29/14 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
G01N29/07
G01N29/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021151060
(22)【出願日】2021-09-16
(65)【公開番号】P2023043422
(43)【公開日】2023-03-29
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】碓井 隆
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/124237(WO,A1)
【文献】特開2019-194541(JP,A)
【文献】特開昭54-145588(JP,A)
【文献】米国特許第04487068(US,A)
【文献】特開昭54-147882(JP,A)
【文献】特開2012-002507(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113109450(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01H 1/00 - G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状の検査対象物を伝搬する第1弾性波に起因して、前記検査対象物から外部に放出される第2弾性波を検出する1以上のセンサを備え、
前記1以上のセンサは、前記検査対象物から離れた位置に固定して配置され、指向性の方向が前記検査対象物の軸線に対して所定の角度で傾斜しており、
前記検査対象物は、中空の回転ローラーであるガイドローラーにより移動を補助される、1つ又は複数の被ガイド部材であり、
前記1以上のセンサは、前記被ガイド部材の損傷により発生し、ガイドローラーに伝わる弾性波を第1弾性波とし、ガイドローラーから外部に放出される弾性波を前記第2弾性波として検出する、検査システム。
【請求項2】
前記センサは、前記指向性の方向が前記検査対象物の長手方向における中央部に向かって所定の角度傾斜している、
請求項1に記載の検査システム。
【請求項3】
前記所定の角度は、前記第2弾性波の速度をVとし、前記第1弾性波の速度をVaeとすると、以下の式(1)で表される、
請求項1又は2に記載の検査システム。
【数1】
なお、上式(1)におけるvは空気中の音速V air 又は水中の音速V uw である。
【請求項4】
前記所定の角度は、前記1以上のセンサの共振周波数及び電気回路の統合特性で決まる中心周波数と、前記検査対象物の軸径と、に基づいて得られる、
請求項1又は2に記載の検査システム。
【請求項5】
前記検査対象物は、前記第1弾性波の波長よりも小さい径を有する中実構造、もしくは前記第1弾性波の波長よりも小さい板厚を有する中空構造の少なくともいずれか一方である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の検査システム。
【請求項6】
前記検査対象物は、軸を中心に回転する中実の回転軸、又は、中空の回転ローラーである、
請求項1から5のいずれか一項に記載の検査システム。
【請求項7】
前記検査対象物は、軸に沿って直動する対象物である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の検査システム。
【請求項8】
前記1以上のセンサは、複数のセンサであり、
前記複数のセンサそれぞれで検出された前記第2弾性波に基づいて、前記検査対象物、又は、前記検査対象物に接する物体上で発生した弾性波の発生源の位置を標定する位置標定部をさらに備える、
請求項1からのいずれか一項に記載の検査システム。
【請求項9】
前記位置標定部により標定された前記弾性波の発生源の位置に基づいて、前記検査対象物、又は、前記検査対象物に接する物体の劣化状態を評価する評価部をさらに備える、
請求項に記載の検査システム。
【請求項10】
軸状の検査対象物を伝搬する第1弾性波に起因して、前記検査対象物から外部に放出される第2弾性波を検出する複数のセンサであって、前記検査対象物から離れた位置に固定して配置され、指向性の方向が前記検査対象物の軸線に対して所定の角度で傾斜している前記複数のセンサそれぞれで検出された前記第2弾性波に基づいて、前記検査対象物、又は、前記検査対象物に接する物体上で発生した弾性波の発生源の位置を標定し、
前記検査対象物は、中空の回転ローラーであるガイドローラーにより移動を補助される、1つ又は複数の被ガイド部材であり、
前記複数のセンサは、前記被ガイド部材の損傷により発生し、ガイドローラーに伝わる弾性波を第1弾性波とし、ガイドローラーから外部に放出される弾性波を前記第2弾性波として検出する、検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検査システム及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検査の対象となる構造物(被検査物)を破壊することなく、機械装置や構造物の損傷を検知する、いわゆる非破壊検査技術が知られている。近年の情報技術の発展に伴い、特に機械装置本来の機能を作動させながら損傷を検知する、いわゆるモニタリング技術の需要が高まっている。その1つとして、亀裂の発生、進展、こすれ等に伴い発生する弾性波を、高感度センサにより検出するアコースティック・エミッション(AE:Acoustic Emission)方式により、機械装置の損傷を早期に検出する技術が知られている。
【0003】
しかしながら、従来の技術では、検査対象物にセンサを接触して配置する必要があり、機械装置の機能を維持したまま損傷を検知できない場合があった。例えば、従来の技術は、回転軸やローラーなどの軸状の検査対象物には適用できない場合があった。このような問題は、軸状の検査対象物で発生した弾性波を検出する場合に限らず、軸状の検査対象物を介して伝搬する弾性波を検出する場合全てに共通する課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-210860号公報
【文献】特開2004-93185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、軸状の検査対象物を介して伝搬する弾性波を精度よく検出することができる検査システム及び検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の検査システムは、1以上のセンサを持つ。1以上のセンサは、軸状の検査対象物を伝搬する第1弾性波に起因して、前記検査対象物から外部に放出される第2弾性波を検出する。前記1以上のセンサは、前記検査対象物から離れた位置に固定して配置され、指向性の方向が前記検査対象物の軸線に対して所定の角度で傾斜している。前記検査対象物は、中空の回転ローラーであるガイドローラーにより移動を補助される、1つ又は複数の被ガイド部材である。前記1以上のセンサは、前記被ガイド部材の損傷により発生し、ガイドローラーに伝わる弾性波を第1弾性波とし、ガイドローラーから外部に放出される弾性波を前記第2弾性波として検出する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】棒状部材を伝わる弾性波の概念図。
図2】空気中に放出される波動の波面をシミュレーションした結果を示す図。
図3】実施形態におけるセンサの配置を説明するための図。
図4】各軸径におけるLモードとFモードの周波数と速度との関係を示す図。
図5】従来のセンサ配置の問題点を示す図。
図6】ローラーで発生する弾性波をより精度よく検出するためのセンサ配置の一例を示す図。
図7】実施形態における検査システム100の構成を表す図。
図8】実施形態における信号処理部30の機能を表す概略ブロック図。
図9】実施形態における検査システム100の処理の流れを示すシーケンス図。
図10】実施形態における検査対象物の別例を示す図。
図11】実施形態における検査対象物の別例を示す図。
図12】実施形態における検査対象物の別例を示す図。
図13図12に示す例のセンサ配置のバリエーションを示す図。
図14】実施形態における検査対象物の別例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の検査システム及び検査方法を、図面を参照して説明する。
(概要)
実施形態における検査システムは、軸状の検査対象物を介して伝搬する弾性波を精度よく検出するシステムである。このような効果を得るために、実施形態における検査システムでは、軸状の検査対象物を伝搬する弾性波(第1弾性波)に起因して、軸状の検査対象物の外部(例えば、空気中又は海中)に放出される弾性波(第2弾性波)を、軸状の検査対象物から離れた位置に固定して配置され、センサの指向性の方向が軸状の検査対象物の軸線に対して所定の角度で傾斜している1以上のセンサで検出する。ここで、軸状の検査対象物は、少なくとも軸状の検査対象物を伝搬する弾性波の波長よりも小さい径を有する中実構造、又は、軸状の検査対象物を伝搬する弾性波の波長よりも小さい板厚を有する中空構造の少なくともいずれか一方を有する部材であって、以下の1)~3)のいずれかである。
1)軸を中心に回転する中実の回転軸、又は、中空の回転ローラー
2)1つ又は複数の被ガイド部材の移動を補助するために設けられたガイドローラー
3)軸に沿って直動する部材(例えば、鋼製ワイヤロープ)
【0009】
次に、軸状の検査対象物における弾性波の伝搬について説明する。軸上で、き裂等により発生した弾性波は、軸内を材料固有の速度で伝搬する。例えば丸棒内を伝搬する弾性波は、後述する理論で示す通り、材料固有の値(例えば、材料固有の材料内部を伝搬する速度)と、形状(例えば、軸径)のパラメータとによって、所定の速度vaeで伝搬する。材料表面のある点に着目すると、弾性波の伝搬に伴い、変位する。これが点音源となり、ホイヘンス=フレネルの原理により、空気中に波動を放出する。この時に空気中に伝わる波の速度は、空気中の音速(vair=340.29[m/s])となる。
【0010】
図1は、棒状部材1を伝わる弾性波の概念図である。図1(A)には棒状部材1を伝わる弾性波AEの例を示し、図1(B)には空気中に放出される弾性波の角度を示している。弾性波AEの伝搬に伴い、点音源が移動することを考えると、空気中に放出される波動の波面は、鉛直方向を基準とすると、下記式(1)で表される角度θだけ、傾斜することになる。
【0011】
【数1】
【0012】
式(1)におけるvaeは、上述したように材料の経と、材料内部を伝播する波の速度に基づいて算出される。従って、軸状の検査対象物内を伝搬する弾性波の速度が既知であれば、上記式(1)に基づいて、空気中に放出される波面の角度を推定することができる。空気中に放出される波動の波面をシミュレーションした結果を図2に示す。図2におけるAirで示される領域は音圧の値を表し、図2における符号1は棒状部材を表す。棒状部材1内部においては速度の値が示されている。図2の左図に示す状態において、SRで示す位置で微小振動を与えた場合、図2の右図に示すように弾性波が伝搬している様子が見て取れる。さらに、図2の右図において、空気中に漏洩する音波面が示されている。
【0013】
空気中に漏洩する音波は、指向性の高いセンサ10を用いて検出することができる。図3では、空気中に漏洩する音波をセンサ10で検出する例として、検査対象物の一例である棒状部材1を用いている。図3に示す棒状部材1は、軸を中心に回転する中実の回転軸である。図3に示すように、式(1)に基づいて得られる波面の角度と、センサ10の指向性方向を一致させることによって、感度よく、空中に放出される音波(第2弾性波)を検出することが可能になる。そこで、本実施形態における検査システムでは、1以上のセンサ10を検査対象物から離れた位置に固定して配置し、1以上のセンサ10の指向性の方向を検査対象物の軸線に対して式(1)に基づいて得られる角度で傾斜させることで、波面の角度と、センサ10の指向性方向を一致させる。例えば、1以上のセンサ10は、指向性の方向が検査対象物の長手方向における中央部に向かって所定の角度傾斜している。なお、センサ10の角度を固定する方法は、アクチュエータを用いてもよいし、その他の手段で角度を固定してもよい。本実施形態における検査システムでは、式(1)に基づいて得られる角度で、手動又は自動で傾斜させればよい。
【0014】
上述した方法は、検査対象物内部を伝搬する弾性波の速度が既知である場合に可能となる。一方で、全ての検査対象物において検査対象物内部を伝搬する弾性波の速度が既知であるとは限らない。そこで、検査対象物内部を伝搬する弾性波の速度が不明の場合には、最大の検出感度となる角度を求めることによって、上記式(1)より、材料中で発生した弾性波の速度ベクトルを検出することができる。
【0015】
検査対象物を構成する軸が回転していることを考慮すると、弾性波のモードによって取り扱いが異なる。軸に対して対称に弾性波が伝搬する軸対称モード(Lモード)の場合、回転軸に対して放射状に漏洩弾性波が放出される。そのため、軸の回転が、検出する信号に影響しないことは明らかである。
【0016】
一方、非対称モード(Fモード)の場合、回転軸に対して非対称な伝搬となる。そのため、回転周波数faxleが、弾性波の周波数faeに対して、十分遅いとみなせる場合には、軸の回転の影響を無視することができる。例えば、以下の式(2)に示す関係にあるときに、軸の回転の影響がなく弾性波を検出することができる。ここでいう軸の回転の影響がないとは、弾性波の周波数が軸の回転の周波数よりも非常に大きいために、軸の回転の影響が小さすぎるために無視できることを意味する。
【0017】
【数2】
【0018】
(軸中の弾性波の伝搬速度に関する理論的背景)
弾性波動論における支配方程式は、物質固有の値であるLame定数をλ、μ、変位u、時刻tとして以下の式(3)で表される。
【0019】
【数3】
【0020】
さらにヘルムホルツの定理を用いて、以下の式(4)で示される縦波、横波の2つの波動方程式が導き出せる。
【0021】
【数4】
【0022】
それぞれの速度は、Lame定数により以下の式(5)となる。
【0023】
【数5】
【0024】
さらに、材料が波長よりも小さい径を有する軸の場合、縦波と横波とが境界で相互に変換され、所定の位相条件を満たした合成波がある波数の進行波として観測され、ガイド波と呼ばれるモードが生じる。形状が丸棒であるとき、丸棒内を伝搬する弾性波は以下の式(6)に示す厳密解が導出できることが知られている。
【0025】
【数6】
【0026】
ガイド波の位相速度vphaseと群速度vgroupはそれぞれ、以下の式(7)に示す関係になる。
【0027】
【数7】
【0028】
以上の結果として、周波数fと速度vphase,vgroupの関係を求めることができる。すなわち材料固有の値と、形状(この場合は軸径)のパラメータ及び周波数によって、速度を求めることができる。速度分散の計算例を図4に示す。図4では、各軸径(φ20、φ33.6)におけるLモードとFモードの周波数と速度との関係を示している。Lモードは軸対称モードを表し、Fモードはたわみモード(非対称モード)を表している。図4における符号15は、軸径φ20のFモードの周波数と速度との関係を示し、図4における符号16は、軸径φ33.6のFモードの周波数と速度との関係を示す。図4における符号17は、軸径φ20のLモードの周波数と速度との関係を示し、図4における符号18は、軸径φ33.6のLモードの周波数と速度との関係を示す。
【0029】
図4によれば、周波数(センサ共振周波数)と軸径とを事前情報として用いることで弾性波の速度が特定できることを示している。その結果、検査対象物内部を伝搬する弾性波の速度が既知でない場合であっても、上述した式(1)に基づいて最適なセンサ設置角度を求めることができる。弾性波の速度が既知でない場合における所定の角度は、1以上のセンサ10の共振周波数及び電気回路の統合特性で決まる中心周波数と、検査対象物の軸径とに基づいて得られる。ここで、電気回路は、センサ10から出力される電気信号を処理する電子回路であり、例えば信号処理部である。信号処理部には、測定帯域外のノイズを除去するバンドパスフィルタが備えられる。バンドパスフィルタは、目的の周波数を通過させ、それ以外の周波数を除去する周波数特性を有している。センサ10は、一般的に、周波数によって感度が変わる特性を持っている。特に、実施形態における振動を検出するセンサ10は、機械的な共振周波数において、感度が最大になる周波数特性を有している。センサ10の周波数特性Aと、バンドパスフィルタの周波数特性Bの統合特性として、中心周波数を選択することができる。すなわち、センサ10とバンドパスフィルタを選択することで、観測する周波数を選択することができる。
【0030】
次に、検査対象物の他の具体例を挙げて、センサによる弾性波の具体的な検出方法について説明する。
(第1例:検査対象物が、中空の回転ローラーである場合)
図5では、ローラーRと、軸受と、固定軸2とで構成される部材3を例に説明する。ローラーRは、中空の回転ローラーである。ローラーRは通常、軸受を介して、固定軸2と接触している。一般的に、接触式のセンサ11を用いて損傷を検知する場合には、図5(A)に示すように固定軸2上にセンサ11を設置することになる。図5(A)のSR(a)で示すように発信源が固定軸2上にある場合、弾性波は固定軸2上を伝搬し、少ない減衰でセンサ11に到達する。
【0031】
一方で、図5(A)のSR(b)で示すようにローラーR上で発生した弾性波は、軸受を介して固定軸2からセンサ11へ到達することになる。軸受はボールや円筒などの球体、もしくは曲面で接触しており、接触面積を小さくするような構造がとられている。そのため、軸受を通過することで弾性波のエネルギー伝搬阻害され、減衰が非常に大きくなってしまう。
【0032】
図5(B)には、各SR(a)及びSR(b)を弾性波源として発生した弾性波をセンサ11で検出した際の信号を示している。図5(B)の上図(例えば、(a))は、図5(A)のSR(a)で示す位置が弾性波源であった場合にセンサ11で検出した弾性波を表す。図5(B)の下図(例えば、(b))は、図5(A)のSR(b)で示す位置が弾性波源であった場合にセンサ11で検出した弾性波を表す。図5(B)から明らかなように、ローラーR上で発生した弾性波は、減衰が非常に大きくなってしまいほとんど検出されていないことがわかる。
【0033】
そこで、ローラーRで発生する弾性波をより精度よく検出するためのセンサ配置を図6に示す。図6(A)には、従来手法と提案手法とのセンサ配置を示す。従来手法では、図5(A)で示したように固定軸2上にセンサ11を配置している。一方、提案手法では、図3で説明したように波面の角度と、センサ10の指向性方向を一致させるように、センサ10を固定して配置している。
【0034】
図6(B)は、提案手法で配置したセンサ10で検出した信号を表し、図6(C)は、従来手法で配置したセンサ11で検出した信号を表す。提案手法では、従来手法に比べ、発生した弾性波を高い信号対雑音比(SN比)で検出できていることが分かる。このように、提案手法のセンサ配置では、中空の回転ローラーにおいても弾性波を精度よく検出することができる。
【0035】
提案手法におけるセンサ配置を利用して、2つのセンサ10-1~10-2を軸両端部に向けて配置し、センサ10-1~10-2それぞれへの弾性波の到達時間差を求めることで、弾性波の発生源(以下「弾性波源」という。)の位置を標定することもできる。以下、詳細に説明する。
【0036】
(第1例における具体的な処理の説明)
図7は、実施形態における検査システム100の構成を表す図である。検査システム100は、複数のセンサ10-1~10-n(nは2以上の整数)、増幅器20、信号処理部30及び検査装置40を備える。センサ10-1~10-nと増幅器20とは、有線により接続される。増幅器20と信号処理部30とは、有線により接続される。図7では、センサ10が2つの場合を例に説明する。以下の説明では、センサ10-1~10-nについて特に区別しない場合には、単にセンサ10と記載する。
【0037】
センサ10-1及び10-2は、部材3の両端部付近において部材3から離れた位置に固定して配置され、指向性の方向が検査対象物の軸線に対して所定の角度で傾斜して配置される。例えば、センサ10-1及び10-2は、指向性の方向がローラーRの長手方向における中央部に向かって式(1)に基づいて得られる角度で傾斜させて配置される。センサ10-1及び10-2は、部材3を伝搬する弾性波AEに起因して、部材3から外部(例えば、空気中)に放出される弾性波(図7で示す漏洩弾性波)を検出する。ここで、図7では、ローラーR上のSRで示す位置が弾性波源であるとする。弾性波源SRで発生した弾性波AEは、ローラーR中を伝搬して外部に放出される。センサ10-1及び10-2は、検出した弾性波を電気信号に変換する。なお、部材3におけるBは、ベアリングを表す。
【0038】
センサ10には、例えば10kHz~1MHzの範囲に感度を有する圧電素子が用いられる。センサ10としてより好適なものは、100kHz~200kHzに感度を有する圧電素子である。センサ10は、周波数範囲内に共振ピークをもつ共振型、共振を抑えた広帯域型等の種類があるが、センサ10の種類はいずれでもよい。センサ10が弾性波を検出する方法は、電圧出力型、抵抗変化型及び静電容量型等があるが、いずれの検出方法でもよい。センサ10は、増幅器を内蔵していてもよい。
【0039】
センサ10に代えて加速度センサが用いられてもよい。この場合、加速度センサは、棒状部材1を伝搬する弾性波AEに起因して、棒状部材1から外部に放出される弾性波を検出する。加速度センサは、センサ10と同様の処理を行うことによって、検出した弾性波を電気信号に変換する。
【0040】
増幅器20は、各センサ10によって検出された電気信号を増幅する。増幅器20は、増幅後の電気信号を信号処理部30に出力する。
【0041】
信号処理部30は、増幅器20から出力された電気信号を入力とする。信号処理部30は、入力した電気信号に対して信号処理を行う。信号処理部30が行う信号処理は、例えば、ノイズ除去、到達時刻の決定、パラメータ抽出等である。信号処理部30は、信号処理により得られた弾性波の特徴量のデータを送信データとして検査装置40に出力する。
【0042】
信号処理部30は、アナログ回路又はデジタル回路を用いて構成される。デジタル回路は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やマイクロコンピュータにより実現される。不揮発型のFPGAを用いることで、待機時の消費電力を抑えることができる。デジタル回路は、専用のLSI(Large-Scale Integration)により実現されてもいい。信号処理部30は、フラッシュメモリ等の不揮発メモリや、取り外し可能なメモリを搭載してもよい。
【0043】
検査装置40は、信号処理部30から送信された所定期間分の送信データを用いて、棒状部材1の検査を行う。
【0044】
図8は、実施形態における信号処理部30の機能を表す概略ブロック図である。信号処理部30は、フィルタ31、A/D変換器32、波形整形フィルタ33、ゲート生成回路34、到達時刻決定部35、特徴量抽出部36、送信データ生成部37、メモリ38及び出力部39を備える。
【0045】
フィルタ31では、増幅器20から出力された電気信号において信号帯域以外のノイズ成分が除去される。フィルタ31は、例えばバンドパスフィルタ(BPF:Band pass filter)である。フィルタ31では、上述した周波数特性Bを有するバンドパスフィルタに相当する。
【0046】
A/D変換器32は、ノイズ成分が除去された電気信号を量子化してデジタル信号に変換する。A/D変換器32は、デジタル信号を波形整形フィルタ33に出力する。
【0047】
波形整形フィルタ33は、入力された時系列データのデジタル信号から所定の信号帯域外のノイズ成分を除去する。波形整形フィルタ33は、例えばバンドパスフィルタ(BPF)である。波形整形フィルタ33は、例えばフィルタ31と同じ周波数帯域を通過させるように設定されているものとする。波形整形フィルタ33は、ノイズ成分除去後の信号(以下「ノイズ除去信号」という。)をゲート生成回路34及び特徴量抽出部36に出力する。
【0048】
ゲート生成回路34は、波形整形フィルタ33から出力されたノイズ除去信号を入力とする。ゲート生成回路34は、入力したノイズ除去信号に基づいてゲート信号を生成する。ゲート信号は、ノイズ除去信号の波形が持続しているか否かを示す信号である。
【0049】
ゲート生成回路34は、例えばエンベロープ検出器及びコンパレータにより実現される。エンベロープ検出器は、ノイズ除去信号のエンベロープを検出する。エンベロープは、例えばノイズ除去信号を二乗し、二乗した出力値に対して所定の処理(例えばローパスフィルタを用いた処理やヒルベルト変換)を行うことで抽出される。コンパレータは、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値以上であるか否かを判定する。
【0050】
ゲート生成回路34は、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値以上となった場合、ノイズ除去信号の波形が持続していることを示す第1のゲート信号を到達時刻決定部35及び特徴量抽出部36に出力する。一方、ゲート生成回路34は、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値未満になった場合、ノイズ除去信号の波形が持続していないことを示す第2のゲート信号を到達時刻決定部35及び特徴量抽出部36に出力する。
【0051】
到達時刻決定部35は、不図示の水晶発振器などのクロック源から出力されるクロックと、ゲート生成回路34から出力されたゲート信号とを入力とする。到達時刻決定部35は、第1のゲート信号が入力されている間に入力されたクロックを用いて、弾性波到達時刻を決定する。到達時刻決定部35は、決定した弾性波到達時刻を時刻情報として送信データ生成部37に出力する。到達時刻決定部35は、第2のゲート信号が入力されている間に処理を行わない。到達時刻決定部35は、クロック源からの信号をもとに、電源投入時からの累積の時刻情報を生成する。具体的には、到達時刻決定部35は、クロックのエッジをカウントするカウンタとし、カウンタのレジスタの値を時刻情報とすればよい。カウンタのレジスタは所定のビット長を有するように決定される。
【0052】
特徴量抽出部36は、波形整形フィルタ33から出力されたノイズ除去信号と、ゲート生成回路34から出力されたゲート信号とを入力とする。特徴量抽出部36は、第1のゲート信号が入力されている間に入力されたノイズ除去信号を用いて、ノイズ除去信号の特徴量を抽出する。特徴量抽出部36は、第2のゲート信号が入力されている間に処理を行わない。特徴量は、ノイズ除去信号の特徴を示す情報である。
【0053】
特徴量は、例えば波形の振幅[mV]、波形の立ち上がり時間[usec]、ゲート信号の持続時間[usec]、ゼロクロスカウント数[times]、波形のエネルギー[arb.]、周波数[Hz]及びRMS(Root Mean Square:二乗平均平方根)値等である。特徴量抽出部36は、抽出した特徴量に関するパラメータを送信データ生成部37に出力する。特徴量抽出部36は、特徴量に関するパラメータを出力する際に、特徴量に関するパラメータにセンサIDを対応付ける。センサIDは、検査対象物から離れた位置に設置されているセンサ10を識別するための識別情報を表す。これにより、特徴量に関するパラメータが、どのセンサ10により検出された弾性波の特徴量であるのかを特定することができる。
【0054】
波形の振幅は、例えばノイズ除去信号の中で最大振幅の値である。波形の立ち上がり時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始からノイズ除去信号が最大値に達するまでの時間T1である。ゲート信号の持続時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始から振幅が予め設定される値よりも小さくなるまでの時間である。ゼロクロスカウント数は、例えばゼロ値を通る基準線をノイズ除去信号が横切る回数である。
【0055】
波形のエネルギーは、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗したものを時間積分した値である。なお、エネルギーの定義は、上記例に限定されず、例えば波形の包絡線を用いて近似されたものでもよい。周波数は、ノイズ除去信号の周波数である。RMS値は、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗して平方根により求めた値である。
【0056】
送信データ生成部37は、センサIDと、時刻情報と、特徴量に関するパラメータとを入力とする。送信データ生成部37は、入力したセンサIDと、時刻情報と、特徴量に関するパラメータとを含む送信データを生成する。送信データ生成部37は、生成した送信データをメモリ38に記録してもよいし、メモリ38に記録せずに出力部39に出力してもよい。
【0057】
メモリ38は、送信データを記憶する。メモリ38は、例えばデュアルポートRAM(Random Access Memory)である。
【0058】
出力部39は、メモリ38に記憶されている送信データ、又は、送信データ生成部37から出力された送信データを検査装置40に逐次出力する。
【0059】
図7に戻って説明を続ける。
検査装置40は、通信部41、制御部42、記憶部43及び表示部44を備える。
【0060】
通信部41は、信号処理部30から送信された送信データを受信する。通信部41は、受信した送信データを制御部42に出力する。
【0061】
制御部42は、検査装置40全体を制御する。制御部42は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部42は、プログラムを実行することによって、取得部421、イベント抽出部422、位置標定部423及び評価部424として機能する。
【0062】
取得部421、イベント抽出部422、位置標定部423及び評価部424の機能部のうち一部または全部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)、FPGAなどのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0063】
取得部421、イベント抽出部422、位置標定部423及び評価部424の機能の一部は、予め検査装置40に搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムが検査装置40にインストールされることで実現されてもよい。
【0064】
取得部421は、各種情報を取得する。例えば、取得部421は、通信部41によって受信された送信データを取得する。取得部421は、取得した送信データを記憶部43に保存する。
【0065】
イベント抽出部422は、記憶部43に記憶されている送信データの中から1イベントにおける送信データを抽出する。イベントとは、棒状部材1で起こった弾性波発生事象を表す。本実施形態における弾性波発生事象は、棒状部材1における損傷である。1回のイベントが発生した場合、複数のセンサ10で略同時刻に弾性波が検出されることになる。すなわち、記憶部43には、略同時刻に検出された弾性波に関する送信データが記憶されていることになる。そこで、イベント抽出部422は、所定の時間窓を設け、到達時刻が時間窓の範囲内に存在する全ての送信データを1イベントにおける送信データとして抽出する。イベント抽出部422は、抽出した1イベントにおける送信データを位置標定部423に出力する。
【0066】
時間窓の範囲Twは、対象とする台車1における弾性波伝搬速度vと、最大のセンサ間隔dmaxを用いて、Tw≧dmax/vの範囲になるように決定してもよい。誤検出を避けるためには、Twをできるだけ小さい値に設定することが望ましいため、実質的にはTw=dmax/vとすることができる。弾性波伝搬速度vは、予め求められていてもよい。
【0067】
なお、イベント抽出部422は、送信データに含まれるパラメータ間の類似度を計算することで、1イベントにおける送信データを抽出してもよい。具体的には、イベント抽出部422は、類似度が所定の閾値以上となる送信データを同一の発生源から発生した弾性波から得られたデータとする。類似度の算出には、例えば標準ユークリッド距離、ミンコフスキー距離、マハラノビス距離が用いられてもよい。
【0068】
位置標定部423は、イベント抽出部422によって抽出された1イベントにおける複数の送信データそれぞれに含まれるセンサIDと、時刻情報と、センサ位置情報に基づいて弾性波源の位置を標定する。センサ位置情報には、センサIDに対応付けてセンサ10の設置位置に関する情報が含まれる。
【0069】
評価部424は、位置標定部423における標定結果に基づいて、検査対象物、又は、検査対象物に接する物体の劣化状態を評価する。評価部424は、標定結果に基づいて、弾性波源の空間密度が所定の閾値以上となった領域に損傷があると評価する。
【0070】
記憶部43は、取得部421によって取得された送信データ及びセンサ位置情報を記憶する。記憶部43は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。
【0071】
表示部44は、制御部42の制御に従って情報を表示する。例えば、表示部44は、位置標定部423による特定結果を表示する。表示部44は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置である。表示部44は、画像表示装置を検査装置40に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部44は、特定結果を表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。
【0072】
図9は、実施形態における検査システム100の処理の流れを示すシーケンス図である。
各センサ10-1~10-2は、棒状部材1に生じた損傷から発生した弾性波に起因して、棒状部材1の外部に放出された弾性波を検出する。各センサ10-1~10-2は、検出した弾性波を電気信号に変換して増幅器20に出力する。信号処理部30は、増幅器20により増幅された弾性波の電気信号を取得する(ステップS101)。信号処理部30は、取得した各電気信号に対して信号処理を行う(ステップS102)。具体的には、信号処理部30は、各電気信号に対してノイズ除去、到達時刻の決定、パラメータ抽出等の信号処理を行う。信号処理部30は、上記の信号処理をセンサ10から電気信号が得られる度に実行する。
【0073】
信号処理部30は、信号処理後のデータを用いてセンサ10毎の送信データを生成する(ステップS103)。信号処理部30は、生成したセンサ10毎の送信データを検査装置40に送信する(ステップS104)。ここで、信号処理部30は、送信データを生成する度に検査装置40に送信してもよいし、ある期間分の送信データを生成したタイミングでまとめて検査装置40に送信してもよい。
【0074】
検査装置40の通信部41は、信号処理部30から送信された送信データを受信する。取得部421は、通信部41によって受信された送信データを取得する。取得部421は、取得した送信データを記憶部43に記録する(ステップS105)。イベント抽出部422は、記憶部43に記憶されている1イベントにおける複数の送信データを抽出する(ステップS106)。イベント抽出部422は、抽出した1イベントにおける送信データを位置標定部423に出力する。
【0075】
位置標定部423は、イベント抽出部422によって抽出された1イベントにおける複数の送信データそれぞれに含まれるセンサIDと、時刻情報と、センサ位置情報とに基づいて、弾性波源の位置を標定する(ステップS107)。位置標定部423は、弾性波源の標定結果を評価部424に出力する。評価部424は、評価に必要となる標定結果を得るための所定期間分処理が実施されたか否かを判定する(ステップS108)。所定期間分処理が実施されていない場合(ステップS108-NO)、イベント抽出部422及び位置標定部423は、ステップS106及びステップS107の処理を繰り返し実行する。
【0076】
一方、所定期間分処理が実施された場合(ステップS108-YES)、評価部424は所定期間分の標定結果を用いて棒状部材1の劣化状態を評価する(ステップS109)。具体的には、評価部424は、弾性波源の空間密度が所定の閾値以上となった領域に損傷があると評価する。評価部424は、評価結果を表示部44に表示させる(ステップS110)。
【0077】
(第2例:検査対象物が、ローラーRにより移動を補助される1つの被ガイド部材(1つの被搬送物)である場合)
第1例では、ローラーR上に弾性波源がある場合の例を示した。第2例では、弾性波源が、ローラーRそのものではなく、図10に示すようにローラーRにより搬送される被搬送物P(被ガイド部材)である場合について説明する。第2例におけるローラーRは、軸を中心に回転する中実の回転軸、又は、中空の回転ローラーであり、被搬送物Pの移動を補助するためのガイドローラーに相当する。ローラーRにより搬送される被搬送物Pは、例えば画像形成装置において搬送されるシートである。シートは、搬送時に破れてしまったり、歪んだりする場合がある。この搬送時に破れる又は歪む現象がシートの損傷となり、シートにおいて弾性波が生じる。被搬送物Pにおいて生じた弾性波(例えば、図10における弾性波源SRの位置で生じた弾性波)は、被搬送物PからローラーRに伝搬し、第1例と同様にローラーRを介して外部に放出される。1以上のセンサ10は、被搬送物Pの損傷により発生し、ローラーRに伝わる弾性波を第1弾性波とし、ローラーRから外部に放出される弾性波を第2弾性波として検出する。センサ10により検出された弾性波に基づく処理については、第1例で示した処理と同様であるため処理の具体的な説明については省略する。センサ10により検出された弾性波に基づく処理とは、増幅器20、信号処理部30及び検査装置40が行う処理である。この場合、検査装置40は、被搬送物Pの劣化状態を評価する。このように、実施形態における提案手法のセンサ配置は、ローラーRにより搬送される被搬送物において生じた弾性波を検出する場合にも適用可能である。
【0078】
(第3例:検査対象物が、ローラーRにより移動を補助される複数の被ガイド部材(例えば、複数の被搬送物)である場合)
第3例では、弾性波源が、ローラーRそのものではなく、図11に示すようにローラーRにより搬送される複数の被搬送物4-1~4-5(被ガイド部材)である場合について説明する。第3例におけるローラーRは、軸を中心に回転する中実の回転軸、又は、中空の回転ローラーであり、複数の被搬送物4-1~4-5の移動を補助するためのガイドローラーに相当する。ローラーRにより搬送される複数の被搬送物4-1~4-5は、例えばエレベーターのロープである。エレベーターのロープは、破断により弾性波が生じる。被搬送物4-1~4-5のうちいずれかの被搬送物において生じた弾性波(例えば、図11における弾性波源SRの位置で生じた弾性波)は、被搬送物4-1~4-5(例えば、被搬送物4-2)からローラーRに伝搬し、第1例と同様にローラーRを介して外部に放出される。1以上のセンサ10は、被搬送物4-1~4-5のうちいずれかの被搬送物の損傷により発生し、ローラーRに伝わる弾性波を第1弾性波とし、ローラーRから外部に放出される弾性波を第2弾性波として検出する。センサ10により検出された弾性波に基づく処理については、第1例で示した処理と同様であるため処理の具体的な説明については省略する。この場合、検査装置40は、被搬送物4-1~4-5の劣化状態を評価する。なお、第3例の場合には、2つのセンサ10-1及び10-2それぞれへ弾性波の到達時刻差を用いて弾性波源の位置標定を行うことで、複数の被搬送物4-1~4-5のうち、いずれの被搬送物において弾性波が生じたのかを判定することもできる。すなわち、第3例の場合には、2つのセンサ10-1及び10-2それぞれへ弾性波の到達時刻差を用いることで、複数の被搬送物4-1~4-5のいずれかに位置する弾性波源を標定することもできる。
【0079】
(第4例:検査対象物が、1つ又は複数の被ガイド部材の移動を補助するために設けられたガイドローラーである場合)
第4例では、検査対象物が1つ又は複数の被ガイド部材の移動を補助するために設けられたガイドローラーである場合について説明する。第4例における被ガイド部材の移動を補助するために設けられたガイドローラーとは、例えば図12に示すような2つの車輪Wを保持する車軸5である。すなわち、第4例では、車軸5が検査対象物となる。そこで、図12に示すように、車軸5で発生した弾性波を検出するために、センサ10-1及び10-2をそれぞれ上記式(1)に基づく角度となるように設置する。車軸5で発生した弾性波は、車軸5内部を伝搬して外部に放出される。センサ10により検出された弾性波に基づく処理については、第1例で示した処理と同様であるため処理の具体的な説明については省略する。この場合、検査装置40は、車軸5の劣化状態を評価する。なお、図12では、車軸5が、2つの車輪Wを保持する構成を示した。しかし、第4例に示す処理は、車軸5が1つの車輪を保持(例えば、一輪車)する構成、車軸5が3つ以上の車輪を保持する構成にも適用可能である。
【0080】
なお、車軸5で発生した弾性波を検出するためのセンサ配置は、図12に示す配置に限定される必要はなく、図13に示すように配置されてもよい。図13は、図12に示す例のセンサ配置のバリエーションを示す図である。図12に示す例では、各センサ10-1及び10-2がそれぞれ、各車輪Wの外側に配置されていたが、図13に示す例では各センサ10-1及び10-2がそれぞれ、2つの車輪Wの間に配置されている。さらに、図13(A)では、各センサ10-1及び10-2の指向性の方向が車軸5の長手方向における中央部に向かって式(1)に基づく角度で傾斜して配置される。一方、図13(B)では、各センサ10-1及び10-2の指向性の方向が各車輪Wに向かって式(1)に基づく角度で傾斜して配置される。
【0081】
(第5例:検査対象物が、軸に沿って直動する部材である場合)
第5例では、検査対象物が軸に沿って直動する部材である場合について説明する。ここで、検査対象物が軸に沿って直動する部材とは、例えばセンサ10に対して直動する鋼製ワイヤロープWRである。このように、実施形態における検査システムでは、回転以外でも、直動する軸状部材の損傷で発生する弾性波を検出するように構成することもできる。鋼製ワイヤロープWRは、滑車5-1と滑車5-2の周囲に設けられる。図14のように、例えば、4つのセンサ10-1~10-4を用いることで弾性波源を精度よく標定することができる。センサ10により検出された弾性波に基づく処理については、第5例で示した処理と同様であるため処理の具体的な説明については省略する。この場合、検査装置40は、鋼製ワイヤロープWRの劣化状態を評価する。
【0082】
以上のように構成された検査システムによれば、軸状の検査対象物を伝搬する弾性波(第1弾性波)に起因して、軸状の検査対象物の外部(例えば、空気中又は海中)に放出される弾性波(第2弾性波)を、軸状の検査対象物から離れた位置に固定して配置され、センサの指向性の方向が軸状の検査対象物の軸線に対して所定の角度で傾斜している1以上のセンサで検出する。これにより、軸状の検査対象物を介して伝搬する弾性波であっても精度よく検出することが可能になる。その結果、検出した弾性波に基づく弾性波源の位置標定や、劣化の評価を行うことも可能になる。
【0083】
以下、変形例について説明する。
上述した実施形態では、軸状の検査対象物を伝搬する弾性波に起因して、放出される軸状の検査対象物の外部が空気である場合を例に説明したが、検査対象物を取りまく媒質は空気に限られない。例えば、軸状の検査対象物を伝搬する弾性波に起因して、放出される軸状の検査対象物の外部は、水中であってもよい。このように構成される場合、式(1)におけるvairはvuwに置き換えればよい。vuwは、例えば、1500[m/s]である。
【0084】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、軸状の検査対象物を伝搬する第1弾性波に起因して、検査対象物から外部に放出される第2弾性波を検出する1以上のセンサを備え、1以上のセンサが、検査対象物から離れた位置に固定して配置され、指向性の方向が検査対象物の軸線に対して所定の角度で傾斜している構成を持つことにより、軸状の検査対象物を介して伝搬する弾性波を精度よく検出することができる。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0086】
10、10-1~10-2…センサ,20…増幅器,30…信号処理部,31…フィルタ,32…A/D変換器,33…波形整形フィルタ,34…ゲート生成回路,35…到達時刻決定部,36…特徴量抽出部,37…送信データ生成部,38…メモリ,39…出力部,40…検査装置,41…通信部,42…制御部,43…記憶部,44…表示部,421…取得部,422…イベント抽出部,423…位置標定部,424…評価部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14