(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】留め具
(51)【国際特許分類】
F16B 19/00 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
F16B19/00 E
F16B19/00 N
(21)【出願番号】P 2021184572
(22)【出願日】2021-11-12
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】100098202
【氏名又は名称】中村 信彦
(72)【発明者】
【氏名】矢口 明宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛裕
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/093496(WO,A1)
【文献】実開昭60-196013(JP,U)
【文献】特開2014-009743(JP,A)
【文献】特開2000-055021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
留め付け対象に設けられた貫通穴にはめ込まれるはめ込み部を備えてなる留め具であって、
前記はめ込み部は、
ベース部と、
前記ベース部の側方にあって、前記貫通穴への前記はめ込み部の挿入を前記ベース部に近接する向きの弾性変形により許容すると共に、前記挿入の終了位置での弾性復帰により前記挿入の挿入先において前記貫通穴に係合するように構成され、かつ、前記貫通穴から前記はめ込み部を抜き出す向きの力が作用されたときに前記近接する向きの弾性変形を生じるように構成された弾性片とを備えており、
前記ベース部には、前記抜き出す向きの力の作用時に前記弾性片に突き当たる当接部が設けられていると共に、
前記抜き出す向きの力が所定の大きさ以上となったときに、前記弾性片が前記当接部よりも内方となる前記はめ込み部の中心軸に近づく向きに撓むようにしてなる、留め具。
【請求項2】
前記はめ込み部は、前記中心軸を含む仮想の一つの平面に沿うように形成されたガイド部を備えると共に、
前記はめ込み部の前記挿入先側の端末を前記ガイド部の端末により構成させるようにしてなる、請求項1に記載の留め具。
【請求項3】
前記ガイド部は、前記仮想の一つの平面に沿った第一部分に対し、前記中心軸の位置で交叉する第二部分を備えてなる、請求項2に記載の留め具。
【請求項4】
前記弾性片を、前記ベース部との間に間隔を開けて前記中心軸に沿う向きに延びる内腕部と、この内腕部の前記挿入先側の端末から前記はめ込み部の基部側に延びる外腕部とを備えた屈曲片状としてなる、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の留め具。
【請求項5】
前記抜き出す向きの力の作用時に、前記弾性片の前記内腕部の前記挿入先側の端末が、前記ベース部の前記当接部に突き当たるようにしてなる、請求項4に記載の留め具。
【請求項6】
前記はめ込み部は、前記中心軸を含む仮想の一つの平面に沿うように形成されたガイド部を備えると共に、
前記弾性片の前記外腕部に前記ガイド部側に突き出す支持突部を形成させてなる、請求項5に記載の留め具。
【請求項7】
前記当接部及び前記弾性片における前記当接部に突き当たる箇所の双方又はいずれか一方を、突部とさせてなる、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の留め具。
【請求項8】
一つの前記ベース部の両側にそれぞれ前記弾性片を備えさせ
てなる、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の留め具。
【請求項9】
前記はめ込み部は、前記中心軸を含む仮想の一つの平面に沿うように形成されたガイド部を備えると共に、
前記ガイド部の両側にそれぞれ前記ベース部を備えさせると共に、前記ガイド部の一方側に位置する
前記ベース部の両側にそれぞれ前記弾性片を備えさせ、かつ、前記ガイド部の他方側に位置する
前記ベース部の両側にそれぞれ前記弾性片を備えさせてなる、請求項2~請求項8のいずれか1項に記載の留め具。
【請求項10】
前記弾性片を、前記ベース部との間に間隔を開けて前記中心軸に沿う向きに延びる内腕部と、この内腕部の前記挿入先側の端末から前記はめ込み部の基部側に延びる外腕部とを備えた屈曲片状としてなると共に、
前記弾性片の前記外腕部における前記はめ込み部の基部側に位置される前記貫通穴に対する係合端と前記中心軸との距離が四つの前記弾性片においてそれぞれ等しくなるようにしてなる、請求項9に記載の留め具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種の取り付け対象に形成された貫通穴にはめ込まれるはめ込み部を備え、かかるはめ込みによって、かかる貫通穴を塞ぐようにしてかかる取り付け対象に取り付けられる留め具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
取付穴(貫通穴)に挿入・係合されるアンカーを、一対の支柱から構成し、アンカーに保持力を超える抜去力が加えられたときに、支柱が互いに交叉する向きに傾倒されるようにして、取付穴から無理なくアンカーを抜き取り可能とし、繰り返しの使用を担保したクリップ(留め具)として、特許文献1に示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のクリップでは、取付穴に対するアンカーの係合を解くための支柱の傾倒方向は一定であり、この方向に向けて支柱が所定量変形しないと前記係合は解かれない。このため、特許文献1のクリップは、取付穴からの抜去時のアンカーの負担をより軽減できる構造の検討の余地を残すものであった。
【0005】
この発明が解決しようとする主たる問題点は、貫通穴からの抜去時のこの種の留め具のはめ込み部の負担をより効果的に軽減可能な構造を、この種の留め具に合理的に持たせる点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するために、この発明にあっては、留め具を、留め付け対象に設けられた貫通穴にはめ込まれるはめ込み部を備えてなる留め具であって、
前記はめ込み部は、
ベース部と、
前記ベース部の側方にあって、前記貫通穴への前記はめ込み部の挿入を前記ベース部に近接する向きの弾性変形により許容すると共に、前記挿入の終了位置での弾性復帰により前記挿入の挿入先において前記貫通穴に係合するように構成され、かつ、前記貫通穴から前記はめ込み部を抜き出す向きの力が作用されたときに前記近接する向きの弾性変形を生じるように構成された弾性片とを備えており、
前記ベース部には、前記抜き出す向きの力の作用時に前記弾性片に突き当たる当接部が設けられていると共に、
前記抜き出す向きの力が所定の大きさ以上となったときに、前記弾性片が前記当接部よりも内方となる前記はめ込み部の中心軸に近づく向きに撓むようにしてなる、ものとした。
【0007】
かかる留め具に対し貫通穴からはめ込み部を抜き出す向きの力が作用されると、貫通穴に係合する弾性片はベース部に近接する向きに弾性変形されるが、この弾性変形はベース部の当接部への弾性片の当接によって抑制される。これにより、前記抜き出す向きの力が所定の大きさ未満である限り貫通穴と弾性片との係合が解かれないようにすることができる。一方、前記抜き出す向きの力が所定の大きさ以上となったときは、前記弾性片が前記当接部よりも内方となる前記はめ込み部の中心軸に近づく向きに撓むようになっている。
これにより、かかる留め具にあっては、留め付け対象から留め具を取り外すために、貫通穴からはめ込み部を抜き出す向きの力の作用を受けると、先ず弾性片がベース部に近接する向きに弾性変形し、次いで弾性片が中心軸に近づく向きに撓み変形し、この変形の向きを異ならせる二つの変形によって貫通穴と弾性片との係合を解除可能となる。したがって、留め付け対象から留め具を取り外すにあたっての前記ベース部に近接する向きでの弾性片の変形量、および、前記中心軸に近づく向きでの弾性片の変形量をそれぞれ、必要最小限とすることができ、かかる取り外しにあたって弾性片に座屈や破断などが生じる事態を可及的に防止し、再利用可能な状態での留め付け対象からの留め具の取り外しが可能となる。
【0008】
前記はめ込み部は、前記中心軸を含む仮想の一つの平面に沿うように形成されたガイド部を備えると共に、
前記はめ込み部の前記挿入先側の端末を前記ガイド部の端末により構成させるようにしておくことが、この発明の態様の一つとされる。
【0009】
また、前記ガイド部は、前記仮想の一つの平面に沿った第一部分に対し、前記中心軸の位置で交叉する第二部分を備えたものとすることが、この発明の態様の一つとされる。
【0010】
また、前記弾性片を、前記ベース部との間に間隔を開けて前記中心軸に沿う向きに延びる内腕部と、この内腕部の前記挿入先側の端末から前記はめ込み部の基部側に延びる外腕部とを備えた屈曲片状とすることが、この発明の態様の一つとされる。
【0011】
また、前記抜き出す向きの力の作用時に、前記弾性片の前記内腕部の前記挿入先側の端末が、前記ベース部の前記当接部に突き当たるようにすることが、この発明の態様の一つとされる。
【0012】
また、前記弾性片の前記外腕部に前記ガイド部側に突き出す支持突部を形成させることが、この発明の態様の一つとされる。
【0013】
また、前記当接部及び前記弾性片における前記当接部に突き当たる箇所の双方又はいずれか一方を、突部とさせておくことが、この発明の態様の一つとされる。
【0014】
また、一つの前記ベース部の両側にそれぞれ前記弾性片を備えさせておくことが、この発明の態様の一つとされる。
【0015】
また、前記ガイド部の両側にそれぞれ前記ベース部を備えさせると共に、前記ガイド部の一方側に位置するベース部の両側にそれぞれ前記弾性片を備えさせ、かつ、前記ガイド部の他方側に位置するベース部の両側にそれぞれ前記弾性片を備えさせておくことが、この発明の態様の一つとされる。
【0016】
また、前記弾性片の前記外腕部における前記はめ込み部の基部側に位置される前記貫通穴に対する係合端と前記中心軸との距離が四つの前記弾性片においてそれぞれ等しくなるようにしておくことが、この発明の態様の一つとされる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、貫通穴からの抜去時のこの種の留め具のはめ込み部の負担を効果的に軽減可能な構造を、この種の留め具に合理的に持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、この発明の一実施の形態にかかる留め具の斜視図である。
【
図2】
図2は、前記留め具を
図1と反対の向きから見た斜視図である。
【
図4】
図4は、前記留め具を
図1のV1方向から見るとともに左側を断面で表した半裁側面図である。
【
図5】
図5は、前記留め具を
図1のV2方向から見るとともに左側を断面で表した半裁側面図である。
【
図6】
図6は、前記留め具を
図1のV3方向から見た底面図である。
【
図9】
図9は、留め具の使用状態を示した側面図である。
【
図15】
図15は、はめ込み部の構成の一部変更例を示した底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1~
図15に基づいて、この発明の典型的な実施の形態について、説明する。この実施の形態にかかる留め具1は、各種の取り付け対象Pに形成された貫通穴Paにはめ込まれるはめ込み部2を備え、かかるはめ込みによって、かかる貫通穴Paを塞ぐようにしてかかる取り付け対象Pに取り付けられるものである。すなわち、かかる留め具1はリベットなどの軸状止着体の代用となるものである。
【0020】
かかる留め具1は、例えば、貫通穴Paを備えた二つの取り付け対象Pをそれぞれの貫通穴Paを連通させるように重ね合わせた状態において、かかる貫通穴Paにはめ込ませることで、二つの取り付け対象Pを留め合わせるように用いることができる。
【0021】
また、かかる留め具1は、取り付け対象Pに設けられた貫通穴Paを使用しないときに、この貫通穴Paに取り外し可能にはめ込まれる、穴塞ぎとして用いることができる。より具体的には、かかる留め具1は、自動車や電気製品などのオプション装備品の取り付け用の貫通穴Paなどの穴塞ぎとしても用いることができる。
【0022】
また、かかる留め具1は、はめ込み部2を介して取り付けられる取り付け対象Pに、貫通穴Paへの非挿入部分を利用して別の対象物P’を組み合わせるように用いることもできる。
【0023】
図示の例では、留め具1は、非挿入部分としての頭部3と、はめ込み部2とを備え、この頭部3を利用して、はめ込み部2のはめ込まれる貫通穴Paを備えた取り付け対象Pに、別の対象物P’を組み合わせることができるようになっている(
図9参照)。
【0024】
頭部3は、留め具1の中心軸x(
図4、
図5、
図6、
図8参照/貫通穴Paへのはめ込み部2の挿入方向y(
図1参照)に沿った留め具1の中心を通る仮想の直線)を中心とした円板状体3aを、中心軸xに沿う向きにおいて、隣り合う円板状体3aとの間に間隔を開けて、三枚重ねにするようにして、構成されている。
【0025】
はめ込み部2の基部2a側に位置される円板状体3aaが最も大径で、この基部側2aから離れるに従って円板状体3aは小径化するようになっている。最も小径の円板状体3acと中間の円板状体3abとの間に前記中心軸xに沿った頸部3bが形成されている。
【0026】
はめ込み部2の基部2a側に位置される最も大径の円板状体3aaには、その縁部に向かうにつれて中間の円板状体3abとの距離を漸増させる傾斜が付与されている。かかる最も大径の円板状体3aaは、後述のように貫通穴Paにはめ込み部2をはめ込みきったときに、この傾斜を緩める向きに弾性変形されて、貫通穴Paの挿入手前側Pbの穴縁部に密着するようになっている。
【0027】
はめ込み部2は、前記の最も大径の円板状体3aaの中央から、前記中心軸xに沿う向きに突き出している。
【0028】
はめ込み部2は、前記中心軸xを含む仮想の一つの平面(
図6/以下第一平面S1という。)と、この第一平面S1に前記中心軸xで直交する仮想の平面(
図6/以下第二平面S2という。)とによって区分される四つの領域のそれぞれに、弾性片4を配している。また、第一平面S1を挟んだ両側であって、二箇所の弾性片4の間にそれぞれ、ベース部8を配している。また、前記第一平面S1に板面を沿わせるように形成された板状の第一部分9aと、この第一部分9aに前記中心軸xの位置で交叉するように形成された前記第二平面S2に板面を沿わせるように形成されたひれ状の第二部分9bとを備えたガイド部9を備えている。
【0029】
すなわち、この実施の形態にあっては、一つの前記ベース部8の両側にそれぞれ前記弾性片4を備えさせている。
【0030】
また、前記ガイド部9の両側にそれぞれ前記ベース部8を備えさせると共に、前記ガイド部9の一方側に位置するベース部8の両側にそれぞれ前記弾性片4を備えさせ、かつ、前記ガイド部9の他方側に位置するベース部8の両側にそれぞれ前記弾性片4を備えさせている。
【0031】
また、前記弾性片4の後述の外腕部6における前記はめ込み部2の基部2a側に位置される前記貫通穴Paに対する係合端(後述の稜部6e)と前記中心軸xとの距離が四つの前記弾性片4においてそれぞれ等しくなるようにしている。
【0032】
より具体的には、前記第一平面S1を挟んだ両側においてそれぞれ、前記第二平面S2を挟んだ一方側に位置される弾性片4に対し、他方側に位置される弾性片4が、実質的に対称となる形態を持つようにしてある。
【0033】
図6に示されるように、ガイド部9とベース部8及び弾性片4との間には中心軸xに直交する向きにおいて隙間10が形成されると共に、ベース部8と弾性片4との間にも中心軸xに直交する向きにおいて隙間11が形成されている。
【0034】
ガイド部9は、はめ込み部2の貫通穴Paへの挿入先Pcとなる側の端末を、前記ガイド部9の端末9cにより構成させるように、形成されている。
【0035】
図示の例では、ガイド部9は、中心軸xに直交する向きの断面を十字状を呈するように、構成されている。
【0036】
第一部分9aは、貫通穴Paの穴径と実質的に等しいか、やや小さい幅(第一平面S1に沿う向きの寸法)を持つ。第一部分9aの端末9c側は、貫通穴Paに導入しやすいように、仮想の円の円弧に倣うように形成されている。
【0037】
第二部分9bは、第一部分9aよりも幅は小さく、第二部分9bの突き出し端9dとの間に間隔を開けてベース部8が配されている。
【0038】
ガイド部9は、その端末9cをはめ込み部2の端末とし、かつ、前記のように断面十字状を呈することから変形しがたく、貫通穴Paへのはめ込み部2の挿入はガイド部9により安定的に導かれる。ガイド部9の全長(貫通穴Paの挿入方向yでのガイド部9の長さ)の中程の位置にベース部8の端末と弾性片4の屈曲部7(後述の内腕部5と外腕部6との連接箇所)が位置され、ガイド部9がその全長の中程の位置まで貫通穴Paに挿入されたタイミングで弾性片4の弾性変形が開始されるようになっている。
【0039】
ベース部8は、一端を頭部3に一体に連接させて中心軸xに沿う向きに突き出す棒状を呈している。
【0040】
ベース部8の基部側はガイド部9の第二部分9bと連接部12を介して一体化されており、ベース部8も変形しがたい構成となっている。
【0041】
ベース部8には、貫通穴Paにはめ込まれたはめ込み部2をこの貫通穴Paから抜き出す向きの力が留め具1に作用されたときに、前記弾性片4に突き当たる当接部8bが設けられている。
図1~
図14に示される例では、かかる当接部8bは、突部8cとして構成されている。
【0042】
突部8cは、ベース部8の端末8aよりやや基部側となる位置において、前記第二平面S2を挟んだ両側にそれぞれ設けられている。
【0043】
突部8cは、前記第一平面S1に向き合う方向からはめ込み部2を見た状態において(
図8、
図9参照)、中心軸xに沿った直線状の突き出し端8dを有すると共に、ベース部8の基部側に向けられた段差部8eをこの基部側に向かうに連れて突部8cの突き出し寸法を漸減させる傾斜を持った形態としている。
【0044】
弾性片4は、ベース部8の側方にあって、貫通穴Paへのはめ込み部2の挿入をベース部8に近接する向きの弾性変形により許容すると共に、前記挿入の終了位置での弾性復帰により前記挿入の挿入先Pcにおいて貫通穴Paに係合するように構成され、かつ、貫通穴Paからはめ込み部2を抜き出す向きの力f1が作用されたときに前記近接する向きの弾性変形を生じるように構成されている。
【0045】
この実施の形態にあっては、弾性片4は、ベース部8との間に間隔を開けて中心軸xに沿う向きに延びる内腕部5と、この内腕部5のはめ込み部2の貫通穴Paへの挿入先Pcとなる側の端末からはめ込み部2の基部2a側に延びる外腕部6とを備えた屈曲片状となっている。
【0046】
前記第一平面S1に向き合う方向からはめ込み部2を見た状態において、ベース部8と内腕部5との間、および、内腕部5と外腕部6との間にそれぞれ、隙間13、14が形成されている(
図9参照)。
【0047】
外腕部6は、内腕部5と向き合う面6a(
図4参照)と、ガイド部9に向き合う面6b(
図5参照)と、前記挿入時に貫通穴Paに摺接する外面6cとを有している。この外面6cは、はめ込み部2を中心軸xに直交する向きから見た状態において、仮想の円の円弧に沿うように湾曲されており(
図6参照)、はめ込み部2の貫通穴Paへのはめ込みが円滑になされるようになっている。
【0048】
また、外腕部6の外面6cは、内腕部5との連接箇所となる挿入先7から頭部3側に近づくに連れてベース部8との距離を漸増させる向きに傾斜しており、外腕部6の外面6cは前記湾曲とこの傾斜とを持った三次元曲面となっている。
【0049】
図示の例では、内腕部5の基部5aはベース部8の基部側に連接部14を介して一体化されている。
【0050】
また、図示の例では、内腕部5の基部5a側と端末5b側とはそれぞれ、中間部よりも断面積を小さくするように構成されており、弾性片4はこの内腕部5の基部5a側と端末5b側とでそれぞれ、弾性変形を生じやすくなっている。
【0051】
外腕部6は、頭部3側に位置する端末と三次元曲面状をなす外面6cとの間に、頭部3に向き合う係合面6dを備えている。ガイド部9を挟んだ両側においてそれぞれベース部8を挟んだ両側に形成された弾性片4における係合面6dと外面6cとの接する稜部6e(係合端)間の距離は、貫通穴Paの穴径よりもやや大きくなっている。
【0052】
これにより、はめ込み部2を貫通穴Paに挿入すると、外腕部6の外面6cが貫通穴Paの穴縁に摺接して弾性片4はベース部8に近づく向きに弾性変形し、かかる挿入が許容される。前記稜部6eが挿入先Pc側の貫通穴Paの穴縁の先に至ると、弾性片4の弾性復帰が許容され、係合面6dが挿入先Pc側の貫通穴Paの穴縁に係合される。そして、前記頭部3を構成する最も大径の円板状体3aaと弾性片4との間で取り付け対象Pを挟み付けるようにして、取り付け対象Pに留め具1が留め付けられるようになっている。
【0053】
かかる係合状態において、外腕部6は、外腕部6の端末と係合面6dとの間に位置される延出部6fを貫通穴Pa内に位置させるようになっている。この延出部6fにより、留め具1に対し貫通穴Paからはめ込み部2を抜き出す向きの力f1が作用されたときに弾性片4はベース部8に近接する向きm1の弾性変形を生じるようになっている(
図11、
図12参照)。
【0054】
弾性片4の屈曲部7近傍のベース部8の突部8cに向き合う箇所には、突部8cの直線状の突き出し端8dに対する受け面6gが形成されている。この受け面6gは、中心軸xから離れるに従ってベース部8との距離を漸増させる傾斜を備えている。
【0055】
留め具1に対し貫通穴Paからはめ込み部2を抜き出す向きの力f1が作用されると、貫通穴Paに係合する弾性片4はベース部8に近接する向きm1に弾性変形されるが、この弾性変形はベース部8の当接部8bへの弾性片4の当接によって抑制される(
図11、
図12参照)。これにより、前記抜き出す向きの力f1が所定の大きさ未満である限り貫通穴Paと弾性片4との係合が解かれないようにすることができる。
【0056】
図1~
図14に示される例では、前記当接部8bを突部8cとしている。一方、
図15に示される例では、前記当接部8bを平面状に形成すると共に、弾性片4におけるこの当接部8bに突き当たる箇所を突部4aとしている。いずれの場合も、かかる突部8c、4aの突き出し寸法を調整することで留め具1の抜去力を適切に制御できる。図示は省略するが、前記当接部8bと前記弾性片4における当接部8bに突き当たる箇所の双方を突部としておくこともある。
【0057】
なお、
図15のように弾性片4の側に突部4aを設けた場合は、当接部8bよりも中心軸x側に弾性片4側の突部4aの逃がし部15を形成し、後述のように前記抜き出す向きの力f1が所定の大きさ以上となったときは、当接部8bよりも内方の逃し部15に弾性片4側の突部4aが入り込むようにする。
【0058】
一方、前記抜き出す向きの力f1が所定の大きさ以上となったときは、前記弾性片4が前記当接部8bよりも内方となる前記はめ込み部2の中心軸xに近づく向きm2(
図14参照)に撓むようになっている。この実施の形態にあっては、前記受け面6gの傾斜により、前記抜き出す向きの力f1が所定の大きさ以上となったときは、当接部8bよりも中心軸x側に受け面6gが入り込み、つまり、当接部8bと弾性片4との当接状態が解かれ、前記稜部6eが貫通穴Pa内に入り込む位置まで弾性片4が弾性変形されて、弾性片4と貫通穴Paとの係合が解かれるようになっている(
図13、
図14参照)。
【0059】
すなわち、この実施の形態にかかる留め具1にあっては、留め付け対象から留め具1を取り外すために、貫通穴Paからはめ込み部2を抜き出す向きの力f1の作用を受けると、先ず弾性片4がベース部8に近接する向きm1に弾性変形し、次いで弾性片4が中心軸xに近づく向きm2に撓み変形し、この変形の向きを異ならせる二つの変形によって貫通穴Paと弾性片4との係合を解くようになっている。したがって、留め付け対象から留め具1を取り外すにあたっての前記ベース部8に近接する向きm1での弾性片4の変形量、および、前記中心軸xに近づく向きm2での弾性片4の変形量をそれぞれ、必要最小限とすることができ、かかる取り外しにあたって弾性片4に座屈や破断などが生じる事態を可及的に防止し、再利用可能な状態での留め付け対象からの留め具1の取り外しが可能となる。
【0060】
図示の例では、四つの弾性片4の稜部6eがそれぞれ、
図12に示される位置から
図14に示されるようにいずれも中心軸xに近づき、これによって、弾性片4と貫通穴Paとの係合が解かれるようになっている。
【0061】
また、この実施の形態にあっては、前記弾性片4の前記外腕部6に前記ガイド部9側に突き出す支持突部6hを形成させている。
【0062】
図示の例では、支持突部6hは、前記外腕部6における係合面6dと屈曲部7との間であって、ガイド部9に向き合う面6bと外面6cとの接し合う縁部からガイド部9に向けて突き出している。
【0063】
これにより、弾性片4が前記中心軸xに近づく向きに撓むときの姿勢を制御することが可能となり、貫通穴Paからのはめ込み部2の安定的な抜去が可能となる。図示の例では、弾性片4は、前記中心軸xに近づく向きに撓むときに、ガイド部9に前記支持突部6hを接しさせて、弾性片4によってベース部8を外側に押圧することなく、前記中心軸xに近づく向きに撓むようになっている(
図14参照)。
【0064】
以上に説明した留め具1における弾性変形特性を備えるべき箇所へのこの特性の付与は、かかる留め具1を合成樹脂の射出成形品とすることで、容易且つ適切に確保することができる。
【0065】
なお、当然のことながら、本発明は以上に説明した実施態様に限定されるものではなく、本発明の目的を達成し得るすべての実施態様を含むものである。
【符号の説明】
【0066】
2 はめ込み部
4 弾性片
8 ベース部
8b 当接部
Pa 貫通穴
Pc 挿入先
f1 抜き出す向きの力
m1 ベース部に近接する向き
m2 中心軸に近づく向き
x はめ込み部の中心軸