(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】ポンプの診断方法
(51)【国際特許分類】
F04B 51/00 20060101AFI20240823BHJP
F04D 15/00 20060101ALI20240823BHJP
H02P 29/024 20160101ALI20240823BHJP
【FI】
F04B51/00
F04D15/00 B
H02P29/024
(21)【出願番号】P 2021210210
(22)【出願日】2021-12-24
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】浦野 健司
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-213548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 51/00
F04D 15/00
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプが停止した状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって、前記ポンプに流れる電流を測定して、単位時間ごとに測定された電流値と時刻との組の集合を含む電流値データを取得する計測工程と、
前記電流値データに基づいて、前記ポンプを起動してから運転状態が安定するまでの期間である安定化期間を特定する特定工程と、
前記安定化期間を含む根拠に基づいて、前記ポンプを診断する診断工程と、を含
み、
前記特定工程が、
前記単位時間ごとに、前記電流値の絶対値の時間変化率を算出するステップと、
前記電流値の絶対値が前記ポンプを起動した直後にピークを示す時刻より後の時刻において、前記時間変化率が増加傾向にあり、かつ前記時間変化率が所定の閾値を超えた時刻を、前記安定化期間の終点として特定するステップと、を含み、
前記安定化期間が、前記終点を含む根拠に基づいて特定される、ポンプの診断方法。
【請求項2】
前記特定工程が、
前記電流値の包絡線を特定するステップを含み、
前記安定化期間が、前記包絡線上の電流値を含む根拠に基づいて特定される請求項
1に記載のポンプの診断方法。
【請求項3】
前記安定化期間が、
前記時間変化率に加えて前記電流値の絶対値を含む根拠に基づいて特定される請求項1
または2に記載のポンプの診断方法。
【請求項4】
前記診断工程において、前記安定化期間に加えて、前記電流値の絶対値、および、前記電流値の絶対値の時間変化率、の少なくとも一つを含む根拠に基づいて、前記ポンプを診断する請求項1~
3のいずれか一項に記載のポンプの診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプの診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
雨水を集約して排水する設備として、ポンプピットを設け、当該ポンプピットに雨水排水ポンプを設ける設備が汎用されている。この種の設備では、ポンプピットの水位が上昇して既定の上限水位に達したときにポンプを運転して雨水を排出し、ポンプの運転により水位が既定の下限水位に達したときにポンプを停止する。通常、晴天時は元より、小規模な降雨では上限水位に達することが少ないため、ポンプが実際に運転される場面が集中豪雨などの場面に限られるケースが多い。
【0003】
上記のような性質上、ポンプピットに設けられた雨水排水ポンプは、その運転が集中豪雨などの緊急時に限られる一方で、その運転には確実性が求められる。すなわち、平常時の運転状態に基づいて故障またはその兆候を検知する機会が乏しいにもかかわらず、故障を確実に防止することが求められる。そのような管理運転の方法として、ポンプピットのポンプについて、回転機器に係る公知の管理運転方法(たとえば、特開2019-23473号公報(特許文献1)、特許第3525736号公報(特許文献2)など)を適用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-23473号公報
【文献】特許第3525736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポンプピットのポンプは本来水中において駆動する装置であるので、管理運転時にポンプを水中に配置して管理運転を行うことが望ましい。しかし、当該ポンプを水中に配置するためにはポンプピット水を流入させて水位を確保する必要があるが、ポンプピットが設置されている箇所によってはそのような水の利用が難しい場合がある。また、ポンプが水中に配置されている場合であっても、その水位は直近の天候などによって変動するため、毎回の管理運転時の水位を一定にすることは困難である。そこで、ポンプピットの水位に関わらず有効な管理運転を実施できる技術の実現が求められるが、本来の運転条件に近い状態で実施することを前提とする特許文献1および2のような技術では不十分だった。
【0006】
また、ポンプピットのポンプは水中に設置される水中ポンプであるため、診断に必要な計測を行うための計測機器を設置することが難しい場合があった。
【0007】
そこで、液位に関わらず水中ポンプの有効な診断を実施できるポンプの診断方法の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るポンプの診断方法は、ポンプが停止した状態において前記ポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって、前記ポンプに流れる電流を測定して、単位時間ごとに測定された電流値と時刻との組の集合を含む電流値データを取得する計測工程と、前記電流値データに基づいて、前記ポンプを起動してから運転状態が安定するまでの期間である安定化期間を特定する特定工程と、前記安定化期間を含む根拠に基づいて、前記ポンプを診断する診断工程と、を含み、前記特定工程が、前記単位時間ごとに、前記電流値の絶対値の時間変化率を算出するステップと、前記電流値の絶対値が前記ポンプを起動した直後にピークを示す時刻より後の時刻において、前記時間変化率が増加傾向にあり、かつ前記時間変化率が所定の閾値を超えた時刻を、前記安定化期間の終点として特定するステップと、を含み、前記安定化期間が、前記終点を含む根拠に基づいて特定される、ことを特徴とする。
【0009】
本発明者は、ポンプピットの液位によって電流値が受ける影響に比べて、安定化期間が受ける影響の方が小さいことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、上記の構成によれば、安定化期間を含む根拠に基づいて水中ポンプを診断することによって、液位に関わらず水中ポンプの有効な診断を実施できる。この点は、液位が低く、水中ポンプが完全に露出している場合でも同様である。また、電流値は、水中ポンプに対して電源を供給する電源設備(配電盤など)、すなわち地上に設置されている部分において測定できるので、上記の診断方法を実施するにあたり、水中に計測機器を設置する必要がない。さらに、時間変化率の挙動は水位の影響を受けにくいため、上記の構成によれば、管理運転時の水位がばらつく条件であっても、診断の信頼性を向上できる。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0013】
本発明に係るポンプの診断方法は、一態様として、前記特定工程が、前記電流値の包絡線を特定するステップを含み、前記安定化期間が、前記包絡線上の電流値を含む根拠に基づいて特定されることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、包絡線を特定して電流値に係る情報を単純化してから安定化期間を特定するので、安定化期間の特定が容易である。
【0015】
本発明に係るポンプの診断方法は、一態様として、前記安定化期間が、前記時間変化率に加えて前記電流値の絶対値を含む根拠に基づいて特定されることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、電流値の絶対値の変化に表れやすい異常または異常の兆候を検知しやすい。
【0017】
本発明に係るポンプの診断方法は、一態様として、前記診断工程において、前記安定化期間に加えて、前記電流値の絶対値、および、前記電流値の絶対値の時間変化率、の少なくとも一つを含む根拠に基づいて、前記ポンプを診断することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、電流値の絶対値の変化に表れやすい異常または異常の兆候を検知しやすい。
【0019】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係るポンプの診断方法のフロー図である。
【
図2】実施形態に係る計測工程で取得される電流値データの例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る特定工程で特定される包絡線の例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る特定工程で特定される包絡線の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るポンプの診断方法の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係るポンプの診断方法を、ポンプピットに設置されている雨水排水ポンプ(以下、単に「ポンプ」と称する。)の診断に適用した例について説明する。
【0022】
〔診断方法の構成〕
本実施形態に係るポンプの診断方法は、電流値データを取得する計測工程#10、ポンプの安定化期間を特定する特定工程#20、および、安定化期間に基づいてポンプを診断する診断工程#30を含む(
図1)。
【0023】
(1)計測工程#10
計測工程#10は、ポンプが停止した状態においてポンプを起動し、当該起動後の所定の計測期間にわたって、ポンプに流れる電流を測定して、単位時間ごとに測定された電流値と時刻との組の集合を含む電流値データを取得する工程である。ここで、所定の計測時間は、ポンプの運転が安定化するまでに要する時間として当業者が通常考える時間よりも長い時間(たとえば10秒以上)に設定してもよいし、ポンプの試運転を行って特定した時間に設定してもよい。なお、本実施形態に係るポンプの診断方法を複数回実施する場合、各回の計測工程#10を実施する際のポンプピットの液位を同程度(たとえば平均値±10%以内)にすることが好ましい。ポンプの設置条件によって、ポンプ起動時にポンプピット内に水が残っている状態(排水運転)か、ポンプピット内に水が無い状態(空運転)か、について事前に把握することが可能である。つまり、ポンプピットの液位を同程度とすることが好ましいケースは排水運転となるポンプ設置条件を想定したものである。また、ポンプの運転が安定化するまでに要する時間は短時間であり、かつ、起動時の排水量は少量である。このことから、ポンプピット内に水が残っている状態でポンプを起動し、安定化までの間にポンプピット内の水が無くなるケースは稀ではあるが、そのようなケースを想定して、ポンプ起動時の吸込水位を測定し、所定の範囲内かどうかを判断する工程を実施してもよい。
【0024】
計測工程#10の実施は、公知の電流計を用いて実施されうる。たとえば、ポンプに流れる電流を検出するプローブ部分と、当該プローブ部分が検出した電流に基づいて電流値と時刻との組の集合を含む電流値データを生成する演算機部分と、を有する電流計を使用できる。生成された電流値データは、特定工程#20および診断工程#30を実行するコンピュータに入力される。なお、当該コンピュータが、電流値データを生成する演算機部分を兼ねてもよい。
【0025】
計測工程#10における電流値の測定は、ポンプに電力を供給する電力系のいずれかの位置で実施すればよく、したがって、必ずしもポンプ自身にプローブ部分を装着する必要はない。本実施形態では、ポンプ自体はポンプピットの水中に設置されているので、ポンプ自身にプローブ部分を装着することは難しいが、地上部分に設置されている電力系(配電盤など)であれば、比較的容易にプローブ部分を設置できる。
【0026】
図2では、計測工程#10において取得される電流計データの一例を、時刻を横軸とし、電流値を縦軸とするグラフとして示している。本実施形態では、ポンプが交流電源で駆動しており、したがって時刻と電流値との関係が、時刻によって電流値の絶対値が変化する正弦曲線で表される。
【0027】
(2)特定工程#20
特定工程#20は、計測工程#10において取得した電流値データに基づいて、ポンプを起動してから運転状態が安定するまでの期間である安定化期間を特定する工程である。特定工程#20は、コンピュータを用いた演算処理として実行されうる。
【0028】
ポンプを起動すると、後述するような起動時に特有の電流値挙動を示したのちに、安定的な運転状態(以下、定常状態という。)になる。特定工程#20では、所定の基準に基づいてポンプが定常状態に達したとみなせる時刻を特定し、ポンプの起動から当該時刻までの期間を安定化期間として特定する。
【0029】
第一に、電流値の包絡線を特定するステップ#21が実行される。包絡線処理ステップ#21では、計測工程#10において取得した電流値データ(
図2)に対して包絡線処理を施して、包絡線E1(
図3)を特定する。包絡線E1は、たとえば、電流値の絶対値の波形の、各周期において絶対値
が最大値を取る点を順に接続して得られる。なお、
図3では包絡線E1を曲線の形で図示しているが、包絡線E1を構成するデータ自身は、電流値の絶対値と、当該絶対値が測定された時刻と、の組の集合である。
【0030】
第二に、電流値の時間変化率を算出するステップ#22が実行される。ステップ#22では、ステップ#21で得た包絡線E1を構成する単位データ(電流値の絶対値と当該絶対値が測定された時刻との組)ごとに、電流値の絶対値の時間変化率(電流値の時間変化率の一態様である。)を算出する。具体的には、ある単位データについての時間変化率を特定する場合は、その前後いずれかの単位データとの電流値の差を、当該前後いずれかの単位データとの時刻の差から求められる時間で除した値を求める。なお、電流値の絶対値の時間変化率は、
図3では包絡線E1の傾きとして現れる。
【0031】
第三に、安定化期間の始点T1を特定するステップ#23が実行される。ステップ#23では、ステップ#22で算出した電流値の絶対値の時間変化率が、所定の閾値を初めて超えた時刻を、安定化期間の始点T1として特定する。ここで、
図3に示した例では、所定の閾値は正の値である。停止しているポンプには電流が流れていないので、起動前の包絡線E1は実質的に絶対値0の横ばいである。一方、起動直後のポンプには起動電流が流れるため、包絡線E1は起動直後から急峻に立ち上がる。すなわち、ポンプを起動すると、電流値の絶対値の時間変化率(包絡線E1の傾き)が0付近から急峻に増加する。ステップ#23では、この挙動に着目して安定化期間の始点T1を特定する。
【0032】
第四に、安定化期間の終点T2を特定するステップ#24が実行される。ステップ#24では、ステップ#22で算出した電流値の絶対値の時間変化率が増加傾向にあり、かつ時間変化率が所定の閾値を超えた時刻を、安定化期間の終点T2として特定する。
【0033】
電流値の絶対値は、ポンプを起動した直後に急峻に増加してピークP1に達したのちに減少に転じ、変曲点P2を経て定常的な値に収束する。ピークP1より後の期間における電流値の絶対値の時間変化率の挙動に着目すると、ピークP1において時間変化率が0であり、ピークP1から変曲点P2までの区間では時間変化率が次第に低下し、変曲点P2を境に増加に転じる。換言すれば、変曲点P2より前の区間では電流値の絶対値の時間による二回微分値が負であり、変曲点P2より後の区間では当該二回微分値が正である。
【0034】
ステップ#24では、この挙動に着目して安定化期間の終点T2を特定する。すなわち、電流値の絶対値の時間変化率が増加傾向にある旨の条件は、終点T2を変曲点P2より後の区間において特定することを意味する。また、時間変化率が所定の閾値を超えた時刻を安定化期間の終点T2として特定する旨の条件は、電流値の絶対値が収束に向かっている(時間変化率が0に近づいている)ことをもってポンプが定常状態に達したとみなして、終点T2として特定することを意味する。
【0035】
なお、
図3では変曲点P2より後の区間に電流値の絶対値の極小値が存在する場合の包絡線E1を示しているが、
図4に示す包絡線E2のように極小値が存在しない場合もある。ただし、極小値の有無に関わらず、ピークP1の後、変曲点P2を経て収束する点において共通する。
図4に示した例では、安定化期間の終点T2を特定する際の所定の閾値が、負の値である。
【0036】
第五に、安定化期間の長さを特定するステップ#25が実行される。安定化期間は始点T1から終点T2までの期間であるので、始点T1から終点T2までの経過時間が、安定化期間の長さである。
【0037】
(3)診断工程#30
診断工程#30は、安定化期間を含む根拠に基づいて、ポンプを診断する工程である。診断工程#30は、コンピュータを用いた演算処理として実行されうる。なお、ここで診断に用いられる根拠は、安定化期間以外の要素を含んでいてもよい。たとえば、電流値の絶対値や、電流値の絶対値の時間変化率、などが根拠に含まれうる。
【0038】
たとえば、ポンプにおいて軸受、シール、羽根車などの摺動摩擦が増大する不具合が生じている場合は、ポンプが正常な場合に比べて安定化期間が長くなるので、安定化期間の長さが所定の閾値を超える場合にポンプが異常であると診断する。この態様の異常状態の包絡線Eaの例を、正常状態の包絡線E1(破線)とともに
図5に示す。異常状態の包絡線Eaでは、ピークP1aの位置は正常状態のピークP1とほぼ同一だが、変曲点P2aが正常状態の変曲点P2より後ろに表れ、安定化期間の終点T2aが正常状態の終点T2より後ろに特定される。したがって安定化期間が正常状態に比べて長い。なお、閾値を複数段階設けて、異常の程度(たとえば、要観察状態、要修理状態、など。)を含む診断としてもよい。
【0039】
また、本実施形態に係るポンプの診断方法を複数回実施するとともに、各回の実施における安定化期間の長さを記録しておき、その傾向に基づいてポンプを診断してもよい。たとえば、複数回の実施を経て安定化期間の長さが増加傾向にある場合は、摺動摩擦が増大する不具合が徐々に進行していることが疑われる。この場合、本実施形態に係るポンプの診断方法を定期的に実施すると、効果的である。
【0040】
電流値の絶対値をさらに根拠に含む場合は、より詳細な診断が可能である。たとえば、摺動摩擦が極端に大きくなった場合に、定常状態における電流値の絶対値が、ポンプが正常な場合における定常状態の電流値より大きい値に収束することがある。この態様の不具合が生じている場合は、安定化期間の長さが正常時と同等であるか、または正常時より短くなる傾向があるため、安定化期間の長さが所定の閾値を超えることがなく、ポンプが正常であるとする誤った判断がなされるおそれがある。この態様の異常状態の包絡線Ebの例を、正常状態の包絡線E1(破線)とともに
図6に示す。包絡線Ebにおいて特定される安定化期間の終点T2bは正常状態の終点T2とほぼ同じ位置にあり、したがって安定化期間について正常状態と区別できない。
【0041】
これを回避するためには、定常状態の電流値の絶対値Ibが所定の閾値を超える場合に、ポンプが異常であると診断するようにすればよい。この場合の閾値は、たとえば、検査対象のポンプの出荷前や設置時など(正常状態であることが保証されている状態での検査である。以下、初期状態と称する。)における定常状態の電流値の絶対値Iに所定の倍率(たとえば1.2倍)を乗じて決定できる。また、同様の目的で、ピークP1より後の区間における電流値の絶対値の最小値に対するピークP1における電流値の絶対値の比が、所定の閾値を下回る場合に、ポンプが異常であると診断してもよい。この場合の閾値も、初期状態に基づいて決定でき、たとえば初期状態の比の0.5倍でありうる。このように、電流値の絶対値をさらに根拠に含むことで、診断の精度が向上しうる。
【0042】
なお、電流値の絶対値に替えて、または併せて、電流値の絶対値の時間変化率を根拠としてもよい。この場合は、ピークP1より後であり、かつ時間変化率が負の値である期間の長さが所定の閾値を下回る場合に、ポンプが異常であると診断しうる。この場合の閾値も、初期状態に基づいて決定でき、たとえば初期状態の当該期間の長さの0.7倍でありうる。
【0043】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係るポンプの診断方法のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0044】
上記の実施形態では、特定工程#20において行われる処理について、ステップ#21~#25に分けて説明した。しかし、本発明に係る特定工程は、電流値データに基づいて安定化期間を特定する工程である限りにおいて、その具体的な方法が限定されない。たとえば、包絡線を特定することなく、計測工程において取得した電流値データそのものを用いて安定化期間を特定する場合は、上記の実施形態におけるステップ#21は実施されない。また、安定化期間を特定する根拠として電流値の絶対値の時間変化率を使用しない場合(たとえば、電流値の絶対値自身のみを用いて安定化期間を特定する場合)は、上記の実施形態におけるステップ#22は実施されない。
【0045】
また、ステップ#23の変形例として、電流値の絶対値の時間変化率に替えて、電流の絶対値自身に基づいて安定化期間の始点を特定してもよい。この場合、電流の絶対値が所定の閾値を初めて超えた時刻を、安定化期間の始点として特定する。また、電流値の絶対値の時間変化率と、電流の絶対値自身と、の双方を基準として用いて始点を特定してもよい。この場合、少なくとも一方の基準が閾値を超えた時刻を始点としてもよいし、双方の基準が閾値を超えた時刻を始点としてもよい。
【0046】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、たとえばポンプピットに設置されている雨水排水ポンプの診断に利用できる。
【符号の説明】
【0048】
〔正常状態の例〕
E1 :包絡線
P1 :ピーク
P2 :変曲点
T1 :安定化期間の始点
T2 :安定化期間の終点
I :定常状態の電流値の絶対値
E2 :包絡線
〔異常状態の例〕
Ea :包絡線
P1a :ピーク
P2a :変曲点
T2a :安定化期間の終点
Eb :包絡線
T2b :安定化期間の終点
Ib :定常状態の電流値の絶対値