(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】屈折率が異なる領域を有する合わせガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20240823BHJP
B60J 1/00 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
C03C27/12 D
C03C27/12 N
B60J1/00 J
(21)【出願番号】P 2021549936
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2020054679
(87)【国際公開番号】W WO2020173838
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-17
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512192277
【氏名又は名称】クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp-Reis-Strasse 4, D-65795 Hattersheim am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】イオン ラザール
(72)【発明者】
【氏名】ロビン エシュリッチ
(72)【発明者】
【氏名】レオナルド ヴォルピ
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-523222(JP,A)
【文献】国際公開第2017/144324(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C27/12
B32B27/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタールPBおよび少なくとも1つの可塑剤WBを含有する少なくとも1つの膜Bと、ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含有する少なくとも1つの領域Aと、を含む接着膜によって組み合わせた2つのガラス板を含む合わせガラスであって、
領域Aおよび膜Bの屈折率の差が少なくとも0.0002であ
り、
領域Aは、前記合わせガラスの端部または側面から光を当てた場合に、透かしのように見えるパターンを有することを特徴とする、合わせガラス。
【請求項2】
領域Aの厚さが少なくとも5μmである、請求項1記載の合わせガラス。
【請求項3】
前記合わせガラスが2つの表面領域および少なくとも3つの端部領域を有し、前記合わせガラスに前記端部領域または前記表面領域の1つから光を当てた場合に、領域Aおよび膜Bの屈折率の差が少なくとも0.0002である、請求項1または2記載の合わせガラス。
【請求項4】
端部領域または表面領域の少なくとも1つに照明装置が設けられているか、または日光が当てられる、請求項1から3までのいずれか1項記載の合わせガラス。
【請求項5】
前記2つのガラス板を組み合わせる前に、領域A中の可塑剤WAの量が45質量%未満であり、膜B中の可塑剤WBの量が45質量%未満である、請求項1から4までのいずれか1項記載の合わせガラス。
【請求項6】
領域Aが、膜B上に設けられた、ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含む溶融物
の印刷物である、請求項1から5までのいずれか1項記載の合わせガラス。
【請求項7】
領域Aが、膜Bと、ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含む
膜の切り抜きまたは打ち抜きパターンと、を組み合わせることによって設けられたものである、請求項1から6までのいずれか1項記載の合わせガラス。
【請求項8】
前記領域Aが、同じかまたは異なるポリビニルアセタールPBおよび少なくとも1つの可塑剤WBを含む2つの膜Bの間に挟まれている、請求項1記載の合わせガラス。
【請求項9】
領域Aが無機フィラー、顔料または染料を含む、請求項1記載の合わせガラス。
【請求項10】
前記膜Bが無機フィラー、顔料または染料を含む、請求項1記載の合わせガラス。
【請求項11】
膜Bに対する領域Aの厚さ比が0.002~1、好ましくは0.002~0.2である、請求項1から8までのいずれか1項記載の合わせガラス。
【請求項12】
膜Bが、層中の可塑剤WBの量が少なくとも2質量%だけ異なる少なくとも2つの層を含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の合わせガラス。
【請求項13】
前記膜Bが、くさび形の厚さプロファイルを有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の合わせガラス。
【請求項14】
ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含有する溶融物を膜B
上に印刷することによって得られる、ポリビニルアセタールPBおよび少なくとも1つの可塑剤WBを含有する少なくとも1つの膜Bと、ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含有する少なくとも1つの領域Aと、を含む接着膜であって、
領域Aおよび膜Bの屈折率の差が少なくとも0.0002である接着膜を用いて2つのガラス板を組み合わせることで合わせガラスを製造する方法
であって、
領域Aは、前記合わせガラスの端部または側面から光を当てた場合に、透かしのように見えるパターンを有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その端部またはその側面から光を当てた場合に異なる屈折率を示す合わせガラス、特にフロントガラスまたは建築に使用されるラミネートに関する。
【0002】
発明の課題
合わせガラスのポリビニルブチラール(PVB)中間層は、低品質で提供されることが多い。しかしながら、これらの中間層をガラス板とラミネートして最終グレージングを形成した後に、純正の製品がグレージングに使用されているかを最終顧客が確認することは極めて困難である。
【0003】
したがって、本発明の課題は、純正のPVB中間層が使用されているかを検出することを可能にするラミネートを提供することであった。本発明者らは、屈折率が異なる中間層中の2つの別個の膜を使用した中間層によってこの課題が解決されることを見出した。その端部またはその側面から光を当てた場合に、パターンが透かしのように見えるようにすることができる。
【0004】
したがって、本発明の課題は、ポリビニルアセタールPBおよび少なくとも1つの可塑剤WBを含有する少なくとも1つの膜Bと、ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含有する少なくとも1つの領域Aと、を含む接着膜によって組み合わせた2つのガラス板を含む合わせガラスであって、膜Aおよび膜Bの屈折率の差が少なくとも0.0002であることを特徴とする、合わせガラスであった。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】本発明、および光を当てた場合に屈折率が異なる2つの膜によって検出され得るパターンを示す。
【
図2】本発明、および光を当てた場合に屈折率が異なる2つの膜によって検出され得るパターンを示す。
【
図3】本発明、および光を当てた場合に屈折率が異なる2つの膜によって検出され得るパターンを示す。
【
図4】本発明、および光を当てた場合に屈折率が異なる2つの膜によって検出され得るパターンを示す。
【
図5】本発明、および光を当てた場合に屈折率が異なる2つの膜によって検出され得るパターンを示す。
【
図6】本発明、および光を当てた場合に屈折率が異なる2つの膜によって検出され得るパターンを示す。
【0006】
膜Bとは異なる屈折率を有する膜Aのパターンを、当業者に既知の様々な手法によって膜Bに適用することができる。膜Aは、押出により製造された後、形状を切り抜かれるかまたは打ち抜かれ、膜Bと共にラミネートされ得る。代替的には、PVBを膜B上またはガラス板上に印刷、例えば3D印刷した後、膜Bと共にラミネートし、膜Aを形成することができる。
【0007】
好ましくは、領域Aの厚さは少なくとも5μmである。
【0008】
第1の実施形態では、合わせガラスは、2つの表面領域および少なくとも3つの端部領域を有し、合わせガラスに端部領域または表面領域の1つから光を当てた場合に、領域Aおよび膜Bの屈折率の差が少なくとも0.0002である。
【0009】
第2の実施形態では、端部領域または表面領域の少なくとも1つに照明装置が設けられ、または日光が当てられる。
【0010】
第3の実施形態では、2つのガラス板を組み合わせる前に、領域A中の可塑剤WAの量は45質量%未満であり、膜B中の可塑剤WBの量は45質量%未満である。
【0011】
第5の実施形態では、領域Aは、ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含む溶融物を膜B上または膜B中に印刷することによって設けられる。
【0012】
第6の実施形態では、領域Aは、膜Bと、ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含む膜Aの切り抜きまたは打ち抜きパターンと、を組み合わせることによって設けられる。
【0013】
第7の実施形態では、1つ以上の領域Aが、同じかまたは異なるポリビニルアセタールPBおよび少なくとも1つの可塑剤WBを含む2つの膜Bの間に挟まれる。
【0014】
第8の実施形態では、領域Aは無機フィラー、顔料または染料を含む。
【0015】
第9の実施形態では、膜Bは無機フィラー、顔料または染料を含む。
【0016】
第10の実施形態では、膜Bに対する領域Aの厚さ比は0.002~1、好ましくは0.002~0.2である。
【0017】
第11の実施形態では、膜Bは、層中の可塑剤WBの量が少なくとも2質量%だけ異なる少なくとも2つの層を含む。
【0018】
第12の実施形態では、膜Bは、くさび形の厚さプロファイルを有する。
【0019】
本発明の別の課題は、ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含有する溶融物を膜B上または膜B中に印刷することによって得られる、ポリビニルアセタールPBおよび少なくとも1つの可塑剤WBを含有する少なくとも1つの膜Bと、ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含有する少なくとも1つの領域Aと、を含む接着膜であって、膜Aおよび膜Bの屈折率の差が少なくとも0.0002である接着膜を用いて2つのガラス板を組み合わせることで合わせガラスを製造する方法である。
【0020】
以下、「ラミネーション前」という用語は、互いに何らかの接触をする前の膜Aおよび膜Bの状態を指す。例えば、この用語は、別々に形成され、個々のロールに別々に巻き付けられた各膜の組成を指す。「ラミネーション前」という用語は、合わせガラスのラミネーションプロセスにおいて組み合わせる前、またはラミネーションに使用される層からスタックを構築する前の層または膜の状態を指す。
【0021】
「領域A」という用語は、ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含有する混合物を含む、連続的または断続的な表面を有する領域を指す。好ましくは、領域Aは膜によってもたらされる。本願全体を通して、「膜A」および「領域A」という用語が同義語として使用されることに留意されたい。
【0022】
薄いガラス上の焼結エナメルでは、光学的欠陥を有する規格外の湾曲した板が得られる傾向がさらに高いため、本発明は、薄いガラス板を含むラミネートにも有利である。本発明の好ましい実施形態では、ガラス板の少なくとも1つが2.1mm未満、例えば1.8mm、1.8mm未満、1.6mm未満、1.4mm未満、1.0mm未満または0.9mm未満の厚さを有する。
【0023】
領域A
本発明によるラミネートは、1つ以上の膜Aを含み得るが、少なくとも1つの薄膜Aが本発明による合わせガラスのガラス表面に隣接するように向けられる。ガラス/膜A/膜B/膜A/ガラスの層順序を有する合わせガラスラミネートが得られるように、膜Aを両方のガラス表面に適用することも可能である。
【0024】
印刷された領域の乾燥膜厚は、印刷法および必要とされる不透明度に応じて1~50μmである。通常、乾燥膜厚は10~30μmである。逐次的な印刷/コーティング工程の繰り返しによってインク層を重層することで、十分に高い総乾燥膜厚を達成することができる。
【0025】
ラミネーション前の開始状態の膜Aは、膜Bに対して0.2未満の厚さ比を有し得る。
【0026】
ラミネーション前の開始状態の膜Aの厚さは、10~250μm、好ましくは20~160μm、好ましくは30~120μm、好ましくは40~100μm、最も好ましくは50~80μmである。この厚さの範囲は、膜上の付加的な印刷層/コーティング層を含まない。合わせガラスでは、膜の厚さは、膜Bからの可塑剤の移動によって増加し得る。
【0027】
膜Aは、膜Bとは別々に作製され(例えば押出または溶媒キャスト)、その後の機能化および加工に悪影響を及ぼさないように、可塑剤を全く有しないか、または十分に少ない割合の可塑剤を有する。
【0028】
膜Aが合わせガラスの内表面の一方と直接接触することが好ましいことから、ECE 43Rのような種々の安全ガラス規格に規定される自動車の種々のグレージング位置に必須の十分な貫通抵抗を達成するために、その接着を中程度に制御することが望ましい。この目的で、膜Aは、ガラスへの接着度を調整するためのアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオン(いわゆる接着防止添加剤)を含有していてもよい。
【0029】
アルカリ金属イオンとしては、カリウムまたはナトリウムまたはリチウムが好ましい。アルカリ金属イオンの濃度の好ましい範囲は、リチウムの場合には7~210ppm、好ましくは14~140ppm、より好ましくは21~140ppm、ナトリウムの場合には23~690ppm、好ましくは46~460ppm、より好ましくは69~460ppm、カリウムの場合には39~1170ppm、好ましくは78~780ppm、より好ましくは117~780ppmである。1~10個の炭素原子を有するカルボン酸の塩の形態でアルカリ金属イオンを添加することがさらに好ましい。酢酸カリウムが接着制御剤として特に好ましい。
【0030】
アルカリ金属塩の総量は、膜Aの質量をベースとして0.005質量%と低くてもよい。アルカリ金属塩の好ましい範囲は、それぞれ膜Aの質量をベースとして0.01~0.1質量%、0.02~0.08質量%、0.03~0.06質量%である。
【0031】
本発明のラミネートに使用される膜Aは、アルカリ土類イオンを付加的に含み得るが、接着に対するそれらの効果が限定的であるため、アルカリイオンと比較して少量で使用する必要があるのみである。本発明の第1の実施形態では、膜Aは0~20ppm、好ましくは0~5ppmのアルカリ土類イオンを含む。
【0032】
しかしながら、アルカリ土類イオンは、可塑化PVB膜が表面化学の異なる2つのガラス板に面する場合に接着のバランス効果を有することが知られている。したがって、本発明の第2の実施形態では、膜Aは5~20ppmのアルカリ土類イオンを含む。アルカリ土類イオンは、1~10個の炭素原子を有するカルボン酸の塩の形態で添加することができる。酢酸マグネシウムが二次接着制御剤として特に好ましい。この実施形態では、膜A中のアルカリ土類イオンに対するアルカリイオンのppmでの比率は、好ましくは少なくとも1、特に5超、より好ましくは10超である。
【0033】
アルカリおよびアルカリ土類イオンの量の代わりに、膜Aおよび膜Bのアルカリ価を用いて膜中の接着防止剤(すなわち、アルカリおよびアルカリ土類塩)の量を特徴付けることができる。膜Aのアルカリ価は、いずれの場合にも最大値を500として10超、20超、40超、50超、80超、90超、好ましくは100超とすることができる。膜Aとは対照的に、膜Bのアルカリ価は、より低くすることが好ましく、より詳細には、アルカリ価(膜A)とアルカリ価(膜B)との差は2AT単位より大きいか、6AT単位より大きく、好ましくは10AT単位より大きい。
【0034】
ヘイズを回避するために、膜A中の塩化物イオンおよび/または硝酸イオンおよび/または硫酸イオンの量を減少させてもよい。
【0035】
このため、膜Aの塩化物含有量は150ppm未満、好ましくは100ppm未満、特に50ppm未満であり得る。理想的な場合には、膜Aの塩化物含有量は、10ppm未満またはさらには0ppmである。
【0036】
膜Aの硝酸塩含有量は、任意に150ppm未満、好ましくは100ppm未満、特に50ppm未満であり得る。理想的な場合には、膜Aの硝酸塩含有量は、10ppm未満またはさらには0ppmである。
【0037】
また任意に、膜Aの硫酸塩含有量は150ppm未満、好ましくは100ppm未満、特に50ppm未満であり得る。理想的な場合には、膜Aの硫酸塩含有量は、10ppm未満またはさらには0ppmである。
【0038】
膜B
膜Bは、当該技術分野で既知の任意の可塑化PVB膜とすることができる。膜Aおよび膜Bは、ラミネーション前の開始状態で、かつ/またはガラス板間のラミネーションのために準備されたスタックにおいて、単一の可塑剤、ならびに異なる組成および同一の組成の両方の可塑剤の混合物を含有し得る。「異なる組成」という用語は、混合物中の可塑剤のタイプおよびその割合の両方を指す。ラミネーション後の、すなわち完成した合わせガラス中の膜Aおよび膜Bは、好ましくは同じ可塑剤WAおよびWBを有する。しかしながら、好ましい変形形態では、膜Aは、その開始状態でいかなる可塑剤も含有せず、ラミネーション後に可塑剤WBを平衡量で含有する。
【0039】
本発明に従って使用される可塑剤含有膜Bは、ラミネーション前の開始状態で、少なくとも22質量%、例えば22.0~45.0質量%、好ましくは25.0~32.0質量%、特に26.0~30.0質量%の可塑剤を含有する。
【0040】
本発明に従って使用される膜Aは、ラミネーション前の開始状態で、22質量%未満(例えば21.9質量%)、18質量%未満、16質量%未満、12質量%未満、8質量%未満、4質量%未満、2質量%未満、1質量%未満の可塑剤を含有してもよく、またはさらには可塑剤を含有しなくてもよい(0.0質量%)。本発明の好ましい実施形態では、可塑剤含有量が低い膜Aは、好ましくは0.0~8質量%、最も好ましくは0~4質量%の可塑剤を含有する。
【0041】
膜Aまたは膜Bは、好ましくは、ポリ酢酸ビニル基を、0.1~20mol%、好ましくは0.5~3mol%、または5~8mol%の、同一のまたは異なる割合で有するポリビニルアセタールを含有する。
【0042】
開始状態での膜Bの厚さは、450~2500μm、好ましくは600~1000μm、好ましくは700~900μmである。互いに積み重ねられた複数の膜B、または膜Aで隔てられた複数の膜Bを本発明において使用することができる。
【0043】
膜Bをサンドイッチの作製前に延伸し、かつ/または付加的に、湾曲させてスクリーン(例えばフロントガラス)の形状に適合させる場合、ラミネーション時の特定の厚さをさらに最大で20%減らすことができる。
【0044】
ポリビニルアセタール
本発明に従って使用される膜Aおよび膜Bは、ポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーのアセタール化によって作製されるポリビニルアセタールを含有する。
【0045】
膜は、それぞれ異なるポリビニルアルコール含有量、アセタール化度、残留アセテート含有量、エチレン割合、分子量、および/またはアセタール基のアルデヒドの鎖長を有するポリビニルアセタールを含有し得る。
【0046】
特に、ポリビニルアセタールの作製に使用されるアルデヒドまたはケト化合物は、対応する直鎖または分岐アセタール基をもたらす、2~10個の炭素原子を含有する直鎖または分岐(すなわち「n」型または「イソ」型)とすることができる。したがって、ポリビニルアセタールは、「ポリビニル(イソ)アセタール」または「ポリビニル(n)アセタール」と称される。
【0047】
本発明に従って使用されるポリビニルアセタールは、特に、少なくとも1つのポリビニルアルコールと、2~10個の炭素原子を含有する1つ以上の脂肪族非分岐ケト化合物との反応によって生じる。この目的で、n-ブチルアルデヒドを使用するのが好ましい。
【0048】
膜Aまたは膜B中のポリビニルアセタールの作製に使用されるポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーは、同一であっても、または異なっていてもよく、純粋であっても、または重合度もしくは加水分解度が異なるポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーの混合物であってもよい。
【0049】
膜Aまたは膜B中のポリビニルアセタールのポリ酢酸ビニル含有量は、適切な程度まで鹸化されたポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーを用いて設定することができる。ポリビニルアセタールの極性は、ポリ酢酸ビニル含有量の影響を受け、それにより可塑剤の相溶性およびそれぞれの層の機械的強度も変化する。ポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーのアセタール化を、多数のアルデヒドまたはケト化合物の混合物を用いて行うことも可能である。
【0050】
膜Aまたは膜Bは、好ましくは、ポリ酢酸ビニル基を、0.1~20mol%、好ましくは0.5~3mol%、または5~8mol%の、同一のまたは異なる割合で有するポリビニルアセタールを含有する。
【0051】
膜Aに使用されるポリビニルアセタールPAのポリビニルアルコール含有量は、6~26質量%、8~24質量%、10~22質量%、12~21質量%、14~20質量%、16~19質量%、好ましくは16~21質量%、または10~16質量%であり得る。
【0052】
膜Aとは独立して、膜Bに使用されるポリビニルアセタールPBのポリビニルアルコール含有量は14~26質量%、16~24質量%、17~23質量%、好ましくは18~21質量%であり得る。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、膜Aはビニルアルコール基の割合が6~26質量%のポリビニルアセタールPAを含み、膜Bはビニルアルコール基の割合が14~26質量%のポリビニルアセタールBを含む。
【0054】
可塑剤
本発明に従って使用される膜Aおよび/または膜Bは、可塑剤として、以下の群から選択される1つ以上の化合物を含有することができる:
-多価脂肪族酸または多価芳香族酸のエステル、例えばアジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ヘプチルとアジピン酸ノニルとの混合物、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニルなどのアジピン酸ジアルキル;およびアジピン酸と脂環式エステルアルコールまたはエーテル化合物を含有するエステルアルコールとのエステル;セバシン酸ジブチルなどのセバシン酸ジアルキル;さらにはセバシン酸と脂環式エステルアルコールまたはエーテル化合物を含有するエステルアルコールとのエステル;フタル酸ブチルベンジルまたはフタル酸ビス-2-ブトキシエチルなどのフタル酸のエステル
-1つ以上の非分岐または分岐の脂肪族置換基または芳香族置換基を有する、多価脂肪族アルコール、多価芳香族アルコールまたはオリゴエーテルグリコールのエステルまたはエーテル、例えばグリセロール、ジグリコール、トリグリコールまたはテトラグリコールと直鎖または分岐の脂肪族カルボン酸または脂環式カルボン酸とのエステル;後者の群の例としては、ジエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルブタノエート)、テトラエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘキサノエート、テトラエチレングリコールジメチルエーテルおよび/またはジプロピレングリコールベンゾエートが挙げられる
-脂肪族エステルアルコールまたは芳香族エステルアルコールのリン酸エステル、例えばトリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート(TOF)、トリエチルホスフェート、ジフェニル-2-エチルヘキシルホスフェートおよび/またはトリクレジルホスフェート
-クエン酸、コハク酸および/またはフマル酸のエステル。
【0055】
定義によると、可塑剤は高い沸点を有する有機液体である。この理由から、120℃を超える沸点を有する更なるタイプの有機液体も可塑剤として使用することができる。
【0056】
可塑剤WAが開始状態で膜A中に存在する変形形態における膜A、さらには膜Bは、特に好ましくは1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル(DINCH)またはトリエチレングリコール-ビス-2-エチルヘキサノエート(3GOまたは3G8)を可塑剤として含有する。
【0057】
膜Bは、異なる可塑剤含有量を有する少なくとも2つの下位膜B’およびB’’からなっていてもよい。
【0058】
加えて、膜Aおよび膜Bは更なる添加剤、例えば残留量の水、UV吸収剤、酸化防止剤、接着調節剤、光学的光沢剤または蛍光添加剤、安定剤、着色剤、加工助剤、無機もしくは有機ナノ粒子、焼成ケイ酸および/または表面活性物質を含有していてもよい。
【0059】
特に、膜Bは、0.001~0.1質量%のカルボン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類塩を接着制御剤として含み得る。膜Bが少なくとも10ppm、好ましくは20ppm、最も好ましくは30ppmの量のマグネシウムイオンを含有することが好ましい。
【0060】
ラミネーションプロセス
本発明は、膜Aをガラス板上に配置した後、少なくとも1つの膜Bで被覆し、続いて第2のガラス板を適用する、前述の合わせガラスを作製する方法にも関する。
【0061】
代替的には、膜Bをガラス板上に配置した後、少なくとも1つの膜Aで被覆し、第2のガラス板を適用することが可能である。
【0062】
本発明はさらに、少なくとも1つの膜Aと少なくとも1つの膜Bとを含むスタックを用意し、スタックを第1のガラス板上に配置した後、第2のガラス板を適用する、合わせガラスを作製する方法に関する。
【0063】
本発明によると、初めに昇温により膜Aをガラス板上で全領域にわたってまたは局所的に溶融させ、これを続いて膜Bで被覆することが可能である。代替的には、膜Aおよび膜Bを2つのガラス板の間に一緒に配置し、昇温で溶融させることができる。
【0064】
合わせガラスを作製するためのラミネーション工程は、膜Aおよび膜Bを2つのガラス板の間に配置し、このように準備された積層体を昇圧下または減圧下において昇温下でプレスしてラミネートを形成するように行うのが好ましい。
【0065】
積層体をラミネートするために、事前のプレラミネートの作製を行い、また行わずに、当業者が精通している方法を用いることができる。
【0066】
いわゆる「オートクレーブプロセス」は、およそ10~15barの昇圧下および100~150℃の温度でおよそ2時間にわたって行われる。例えば欧州特許第1235683号明細書による真空バッグまたは真空リング法は、およそ200mbarおよび130~145℃で機能する。
【0067】
真空ラミネータを使用することもできる。これらは、加熱および排気することができるチャンバからなり、その中で合わせガラスを30~60分以内にラミネートすることができる。0.01~300mbarの減圧下および100~200℃、特に130~160℃の温度が実際に有益であることが証明されている。
【0068】
最も簡単な場合では、合わせガラスラミネートを作製するために、膜Aまたは膜Bをガラス板上に配置し、更なる膜Bまたは膜Aを同時にまたは続いて配置する。次いで、第2のガラス板を適用し、ガラス膜ラミネートを作製する。続いて、当業者に既知の任意のプレラミネーション法を用いて過剰空気を除去することができる。また、ここでは、層を初めに互いにかつガラスに軽く接着接合しておく。
【0069】
次いで、ガラス膜ラミネートをオートクレーブプロセスに供することができる。膜Aを好ましくは第1のガラス板上に配置し、より厚い膜Bで被覆した後、第2のガラス板を適用する。この方法は、多くの考え得る、原則として実行可能な変形形態で行うことができる。例えば、膜Aが適切な幅のロールから容易に取り出され、膜Bが作製される合わせガラスのサイズに合わせて予め切断してある。これはフロントガラスおよび他の自動車用グレージング部品の場合に特に有利である。この場合、より厚い膜Bを、サイズに合わせて切断する前に追加的にさらに延伸することが特に有利である。これにより、膜のより経済的な使用が可能となるか、または膜Bが色合いを有する場合には、その曲率を板の上縁に適合させることが可能となる。
【0070】
自動車分野では、特にフロントガラスの作製のために、膜Aおよび/または膜Bには、インクリボンのような着色領域を膜の上部領域に設けてもよい。この目的で、膜Bの上部のいずれかを、適切に着色したポリマー溶融物と共押出することができる。
【0071】
したがって、本発明によると、膜Bは、特に先のプロセス工程において上記の成形プロセスによってフロントガラスの幾何学的形状に既に適合させた色合いを有することができる。
【0072】
膜Bがくさび形の厚さプロファイルを有することも可能である。本発明による合わせガラスラミネートは、膜Aが平行平面厚さプロファイルを有していても、くさび形の厚さプロファイルを得て、自動車用フロントガラスにおいてHUDディスプレイに使用することができる。
【0073】
さらに、膜Bは、層中の可塑剤WBの量が少なくとも2質量%だけ異なる少なくとも2つの層を含んでいてもよい。消音目的では、膜Bは3つの層を含み、そのコア層は、より高い可塑剤含有量のためにより柔軟である。
【0074】
最も簡単な場合では、膜Bは、インクリボンの有無を問わず、またくさび形厚さプロファイルの有無を問わずに市販のPVB膜である。IR保護のためにナノ粒子を分散させた膜Bを着色膜として使用することもできる。当然ながら、膜Bは遮音機能を有する膜であってもよく、膜Aと組み合わせることで、さらに改善された防音特性が得られる。当然ながら、膜Bは多数の言及された機能を組み合わせたものであってもよい。
【0075】
薄膜Aは概して、キャストフィルムラインを用いてまたはインフレーションフィルムの形態で押出によって作製される。ここで、メルトフラクチャーの制御により、または付加的に構造化チルロールおよび/もしくは構造バックロールを用いたキャストフィルム法を用いて表面粗さを生じさせることもできる。代替的には、溶媒キャスト法を用いて膜Aを作製した後、機能化し、記載の貫通抵抗合わせガラスに使用することができる。本発明に従って使用される膜は、好ましくは、0~25μmの粗さRz、好ましくは1~20μmのRz、特に好ましくは3~15μmのRz、特に4~12μmのRzを有する片面表面構造を有する。ガラス板と接触する膜Aの面が、その厚さの20%未満の表面粗さRzを有することが特に好ましい。
【0076】
実施例
1.48970の屈折率を有するPolymaker社のPolysmooth PVBフィラメントを、Raise3D N2 plus 3Dプリンターを用いて215℃のノズル温度、70℃の加熱ビルドプレート、90mm/秒の印刷速度および100μmの層厚でガラス上に3d印刷し、27.5%の可塑剤含有量および1.47979の屈折率を有するPVB膜と共にラミネートした。このラミネートは透明に見えたが、上記の光学特性を妨げるものであった。
【0077】
別の例では、100μmの厚さおよび1.48995の屈折率を有するPVB膜からパターンを打ち抜き、27.5%の可塑剤含有量および1.47979の屈折率を有するPVB膜と共にラミネートした。
【0078】
第3の例では、Polymaker社の白色Polysmooth PVBフィラメントを3D印刷し、片面が平坦であり、もう片面が異なる厚さを示す構造を形成した。透明なPolysmooth PVBフィラメントを用いて膜を3D印刷することで、これらのフィラメントを組み合わせた場合に膜の両方の外表面が平坦に見え、平坦なガラスとのラミネーションが可能となるように、それらの大きな差を調和させた。