(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】ボンディングワイヤ及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20240823BHJP
C22C 5/06 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H01L21/60 301F
H01L21/60 301H
C22C5/06 Z
(21)【出願番号】P 2022144806
(22)【出願日】2022-09-12
(62)【分割の表示】P 2021201999の分割
【原出願日】2021-12-13
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝川 圭美
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 央
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/100583(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/098707(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/006326(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/187653(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
C22C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Inの含有量が0.005質量%以上
1.1質量%以下、
Au及びPdから選択された1種又は2種の元素の含有量の合計が0.005質量%以上2.0質量%以下、
Bi及びCuから選択された1種又は2種以上の元素の含有量の合計が
10質量ppm以上500質量ppm以下、
Ca、Mg、Ge、Y、Nd、Sm、Gd、La及びCeからなる群から選択された1種又は2種以上の元素の含有量の合計が
30質量ppm以上500質量ppm以下であり、
残部がAgからな
り、
Ca、Mg、Ge、Y、Nd、Sm、Gd、La及びCeからなる群から選択された1種又は2種以上の元素の含有量の合計が、Bi及びCuから選択された1種又は2種以上の元素の含有量の合計より多い、
ボンディングワイヤ。
【請求項2】
Au及びPdの含有量の合計に対するInの含有量の比率が
2.9以下である請求項
1に記載のボンディングワイヤ。
【請求項3】
ワイヤ直径が25μmのワイヤに対してワイヤ直径の2.0倍の大きさのFABを窒素ガス雰囲気で作製した時に生じるHAZ長さが100μm以下である請求項1
又は2に記載のボンディングワイヤ。
【請求項4】
ワイヤ中心を中心として半径方向にワイヤ直径の30%までの領域内における平均結晶粒径に対するワイヤ表面から半径方向にワイヤ直径の30%までの領域における平均結晶粒径の比率が、0.5以上5.0以下である請求項1~
3のいずれか1項に記載のボンディングワイヤ。
【請求項5】
ワイヤの中心部に存在し、ワイヤ長手方向の長さに対するワイヤ半径方向の長さの比が1/10以下である結晶を細長い結晶粒とすると、ワイヤ中心を含むワイヤ長手方向の断面に占める前記細長い結晶粒の面積の比率が40%以下である請求項1~
3のいずれか1項に記載のボンディングワイヤ。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のボンディングワイヤを使用した半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ag(銀)を主成分とするボンディングワイヤ及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子上の電極と基板の電極との結線等に用いられるボンディングワイヤは、一般に非常に細いため、導電性が良好で加工性に優れた金属材料により製造されている。特に、化学的な安定性や大気中での取り扱いやすさから、従来からAu(金)を主成分とするボンディングワイヤが広く用いられている。しかし、Auを主成分とするボンディングワイヤは質量の99%以上がAuであり非常に高価である。
【0003】
そこで、Ag(銀)を主成分とするボンディングワイヤも提案されている。AgはAuと比べ安価ではあるが、Agを主成分とするボンディングワイヤでは、長期信頼性や周囲温度の変化に対する耐性(ヒートサイクル性)が劣る。この問題を解決するために、下記特許文献1のようにIn(インジウム)、Ga(ガリウム)、Cd(カドミウム)などの元素を主成分のAgに添加して長期信頼性を向上させたボンディングワイヤが提案されている。
【0004】
ところで、ボールボンディングでは、放電加熱等によりボンディングワイヤの先端に形成したフリーエアボール(以下、FABと略記する)を電極に押し当てて潰した後、熱エネルギー及び振動エネルギーを与えて1st接合を行う。1st接合の後、ボンディングワイヤの外周面を他方の電極に押し当てて2nd接合を行う。近年の半導体素子の高密度化に伴い、電極のファインピッチ化が進んでおり、FABを電極に押し当て潰した時に形成される1st接合部の形状を円形に制御して隣接する電極間での短絡を防止することが求められている。しかし、下記特許文献1のボンディングワイヤでは、1st接合部の形状を制御しにくく、ファインピッチ化に対応しにくいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、Agを主成分とするボンディングワイヤにおいて、長期信頼性を良好にするとともに、FABを電極に接触させ潰した時の形状を良好な円形とすることができるボンディングワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のボンディングワイヤは、Inの含有量が0.005質量%以上1.1質量%以下、Au及びPdから選択された1種又は2種の元素の含有量の合計が0.005質量%以上2.0質量%以下、Bi及びCuから選択された1種又は2種以上の元素の含有量の合計が10質量ppm以上500質量ppm以下、Ca、Mg、Ge、Y、Nd、Sm、Gd、La及びCeからなる群から選択された1種又は2種以上の元素の含有量の合計が30質量ppm以上500質量ppm以下であり、残部がAgからなり、Ca、Mg、Ge、Y、Nd、Sm、Gd、La及びCeからなる群から選択された1種又は2種以上の元素の含有量の合計が、Bi及びCuから選択された1種又は2種以上の元素の含有量の合計より多い、ボンディングワイヤである。
【0009】
本発明に係るボンディングワイヤにおいて、Au及びPdの含有量の合計に対するIn
の含有量の比率が2.9以下とすることができる。
【0010】
本発明に係るボンディングワイヤにおいて、Bi及びCuの両元素を含有することができる。
本発明に係るボンディングワイヤにおいて、ワイヤ直径が25μmのワイヤに対してワイヤ直径の2.0倍の大きさのFABを窒素ガス雰囲気で作製した時に生じるHAZ長さを100μm以下とすることができる。
【0011】
本発明に係るボンディングワイヤにおいて、ワイヤ中心を中心として半径方向にワイヤ直径の30%までの領域内における平均結晶粒径に対する、ワイヤ表面から半径方向にワイヤ直径の30%までの領域における平均結晶粒径の比率が、0.5以上5.0以下とすることができる。
【0012】
本発明に係るボンディングワイヤにおいて、ワイヤの中心部に存在し、ワイヤ長手方向の長さに対するワイヤ半径方向の長さの比が1/10以下である結晶を細長い結晶粒とすると、ワイヤ中心を含むワイヤ長手方向の断面に占める細長い結晶粒の面積の比率が40%以下とすることができる。
【0013】
本発明の半導体装置は、上記の本発明のいずれか1つに係るボンディングワイヤを使用した半導体装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のAgを主成分とするボンディングワイヤでは、長期信頼性を良好にするとともに、FABを電極に接触させ潰した時に形成される1st接合部の形状を良好な円形とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】半導体装置において電極間を結線したワイヤWを拡大して示す図である。
【
図2】本実施形態のボンディングワイヤのワイヤ中心を含む長手方向の断面のSEM像であって、平均結晶粒径の比率を算出する方法を説明するための図である。
【
図3】本実施形態のボンディングワイヤのワイヤ中心を含む長手方向の断面のSEM像であって、ワイヤ中心を含むワイヤ長手方向の断面に占める細長い結晶粒の面積の比率の算出方法を説明するための図である。
【
図4】フラットボンドを行ったボンディングワイヤの拡大図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るボンディングワイヤW及び半導体装置について図面を参照して説明する。
【0017】
図1に例示する半導体装置Mは、例えば、パワーIC、LSI、トランジスタ、BGA(Ball Grid Array package)、QFN(Quad Flat Nonlead package)、LED(発光ダイオード)等の半導体素子1上の電極(例えば、Al合金電極、ニッケル・パラジウム・金被覆電極、Au被覆電極等)10と、回路配線基板(リードフレーム、セラミック基板、プリント基板等)2の導体配線(電極)11とが、ボンディングワイヤWを用いたボールボンディング法によって接続されたものである。
【0018】
半導体装置Mに用いられるボンディングワイヤWは、0.005質量%以上2.0質量%以下のInと、0.005質量%以上2.0質量%以下のAu及びPd(パラジウム)からなる群から選択された1種又は2種の元素と、5質量ppm以上500質量ppm以下のBi(ビスマス)及びCu(銅)からなる群から選択された1種又は2種の元素とを含有し、残部がAgからなるものである。
【0019】
ボンディングワイヤWの線径は用途に応じて種々の大きさとしてよい。例えば、ボンディングワイヤWの線径は5μm以上150μm以下とすることができる。
【0020】
具体的には、ボンディングワイヤWを構成するAgは、精製上不可避的に存在する鉄(Fe)等の不純物を含有してもよく、純度99.9質量%以上のAgを用いてボンディングワイヤWを構成するAg合金を製作することが好ましい。
【0021】
ボンディングワイヤWは、Inを含有することにより、電極10に溶融したFABを圧着することで電極10上に形成される1st接合部12の耐食性が向上し、長期信頼性を改善することができる。半導体パッケージの電極にはAl(アルミニウム)もしくはAl合金が被覆されていることが多い。AgとAlを接合すると、接合界面にAg2AlやAg3AlといったAgとAlの金属間化合物層が生成する。接合界面に生成された金属間化合物層は、外部から水や塩素が進入して1st接合部12の劣化を起こしやすい。ボンディングワイヤがInを一定量含有すると、接合界面から進入する水や塩素によるAgとAlの金属間化合物層の劣化を抑えることができ、1st接合部12の耐食性を向上することができる。
【0022】
Inの含有量が0.005質量%以上であると1st接合部12の耐食性が向上し、長期信頼性を改善することができる。Inの含有量が2.0質量%以下であるとワイヤの固有抵抗が適切な範囲に維持される。また、Inの含有量が2.0質量%以下であると、電極10、11の間を結線した時にできるループ形状にばらつきが生じにくくなる。
【0023】
ボンディングワイヤWは、Au及びPdの少なくとも一方の元素を含有することにより、1st接合部12の耐食性が向上し、長期信頼性を改善することができる。特に、Inに加えてAu及びPdの少なくとも一方の元素を含有することによって、ボンディングワイヤWの固有抵抗を小さく抑えつつ、1st接合部12の耐食性が顕著に向上し、長期信頼性を大幅に改善することができる。また、Au及びPdの少なくとも一方の元素を含有することにより、電極10,11を結線した時にできるループ高さH(
図1参照)を小さくすることができる。
【0024】
Au及びPdが選択された1種又は2種の元素の含有量の合計が0.005質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。0.005質量%以上であると長期信頼性を改善することができ、ループ高さHを小さくすることができる。Au及びPdの含有量の合計が2.0質量%以下であると、貴金属の含有量が低くボンディングワイヤの製造コストを抑えることができる。
【0025】
特に、ボンディングワイヤWの固有抵抗を抑えつつ長期信頼性を向上させることができる点から、Au及びPdの含有量の合計に対するInの含有量の比率が、1以上5以下となるようにAu、Pd及びInを含有することが好ましく、より好ましくは1以上3以下である。
【0026】
ボンディングワイヤWは、Bi及びCuの少なくとも一方を含有することにより、1st接合部12の形状を円形に近い形状に制御することができる。Bi及びCuの含有量の合計は、5質量ppm以上500質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは5質量ppm以上100質量ppm以下、更に好ましくは5質量ppm以上50質量ppmである。
【0027】
Bi及びCuはそれぞれ単独で添加しても1st接合部12の形状を円形に近い形状に制御する効果が得られるが、BiとCuを複合して含有することで、添加量が少量でも平均結晶粒がより揃ってさらに円形に近い形状になる。Cuに比べてBiを多く添加するとFABの表面に凹凸を生じたり引け巣を生じたりすることを抑制できるので、BiをCuより多く含有するのがより好ましい。
【0028】
なお、本発明では、上記したAu、Pd、In、Bi及びCuに加え、更に、Ca、Mg、Ge、Y、Nd、Sm、Gd、La及びCeからなる群(以下、「選択元素群」ということもある)から選択された1種又は2種以上の元素を追加的に含有してもよい。つまり、選択元素群は任意成分である。この選択元素群の含有量の合計が500質量ppm以下であれば、Au、Pd、In、Bi及びCuを添加したことによる上記した作用効果を損なうことがない。また、選択元素群の含有量の合計が10質量ppm以上であると、ワイヤの耐熱性が向上するとともにFAB形成時にHAZ(Heat Affected Zone)と呼ばれる結晶粒の大きな領域が発生しにくくなり結線時のループの高さHを小さくすることができる。よって、選択元素群を添加する場合、選択元素群の含有量の合計は、10質量ppm以上500質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは10質量ppm以上100質量ppm以下である。
【0029】
また、選択元素群を添加する場合、選択元素群の含有量の合計は、Bi及びCuの含有量の合計より多く含有することが好ましい。Bi及びCuより選択元素群から選択された元素を多く含有することによって、FAB形状の真球性を悪化させることなくループ高さHを小さくすることができる。
【0030】
次いで、棒状インゴットを伸線加工して所定の直径に達するまで縮径してボンディングワイヤとする。なお、必要に応じて伸線加工の途中で軟化熱処理を行っても良い。
【0031】
そして、所定の直径まで伸線加工を行った後、必要に応じて熱処理炉中を走行させて調質熱処理を行い、ボンディングワイヤが得られる。
【0032】
本実施形態のボンディングワイヤは、Inの含有量が0.005質量%以上2.0質量%以下、Au及びPdから選択された1種又は2種の元素の含有量の合計が0.005質量%以上2.0質量%以下、Bi及びCuから選択された1種又は2種以上の元素の含有量の合計が5質量ppm以上500質量ppm以下であり、残部がAgからなるので、長期信頼性やヒートサイクル性を良好にするとともに、結線時にできるループの高さを小さくしたり、ループ形状の安定性を高めたり、電極との接合部分の形状の安定性を高めたりすることができる。
【0033】
本実施形態のボンディングワイヤWにおいて、Ca、Mg、Ge、Y、Nd、Sm、Gd、La及びCeからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を追加的に含有してもよく、これらの元素の含有量の合計は10質量ppm以上500質量ppm以下であることが好ましい。Au、Pd、In、Bi及びCuに加え、更に、Ca、Mg、Ge、Y、Nd、Sm、Gd、La及びCeからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を追加的に含有することで、ワイヤの強度や耐熱性を上げ、ヒートサイクル性を向上させることができる。
【0034】
また、本実施形態のボンディングワイヤにおいて、ワイヤ直径の2.0倍の直径を有するFABを窒素ガス雰囲気下で作製する時に生じるHAZ長さを100μm以下とすることができる。このような長さにすることで、結線時にできるループの高さを小さく設けることができ半導体装置の薄型化が可能となる。
【0035】
なお、HAZ長さは、汎用型電子顕微鏡を用いたボンディングワイヤの外観観察によって測定することができる。
【0036】
また、本実施形態のボンディングワイヤでは、
図2に示すようなボンディングワイヤのワイヤ中心Cを含む長手方向の断面のSEM像において、ワイヤ中心Cを中心として半径方向にワイヤ直径の30%までの領域(ワイヤ中心Cを挟んで半径方向両側にワイヤ直径の15%までの領域)R1内における平均結晶粒径D1に対する、ワイヤ表面から半径方向にワイヤ直径の30%までの領域R2における平均結晶粒径D2の比率P(=D2/D1)を0.5以上5.0以下とすることができる。このような場合、FABを電極に押し当て潰した時に形成される1st接合部12の形状を円形に近い形状に制御することができる。
【0037】
なお、本明細書における平均結晶粒径は、下記式(1)により求めることができる。
【式1】
【0038】
【0039】
式(1)中、Nは、
図2に示すようなボンディングワイヤの断面SEM像からワイヤの長手方向にワイヤ直径の3~4倍の長さの領域を任意に選択し、選択した領域内に存在する結晶粒の個数である。Sは、上記のように選択した領域の面積である。
【0040】
本発明に係るボンディングワイヤにおいて、ワイヤの中心部に存在し、ワイヤ長手方向の長さに対するワイヤ半径方向の長さの比が1/10以下である結晶を細長い結晶粒とすると、
図3に示すようなワイヤ中心Cを含むワイヤ長手方向の断面に占める細長い結晶粒の面積の合計(
図3の場合、ワイヤの中心部に存在する細長い結晶粒からなる領域R3の面積に相当)の比率Qを40%以下とすることができる。このような場合、ループ形状の安定性を高めることができる。
【0041】
なお、本実施形態のボンディングワイヤWは、上記したような半導体装置以外にも種々の態様のボンディングワイヤとして使用することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
純度99.9質量%以上のAg原料を用いて、下記表1に示すような組成のAg合金を溶解し、連続鋳造法にて棒状インゴットを作製した。作製した棒状インゴットに対して伸線加工を施して直径25μmに達するまで縮径し、その後、調質熱処理を施し、実施例1~11及び比較例1~7のボンディングワイヤを得た。なお、実施例1~11及び比較例1~7のボンディングワイヤの線径(直径)はいずれも25μmである。
【0045】
【0046】
得られた実施例1~11及び比較例1~7のボンディングワイヤにつき、次の(1)~(11)の評価を行った。具体的な評価方法は以下のとおりである。
【0047】
(1)固有抵抗
実施例1~11及び比較例1~7の各ボンディングワイヤについて3つずつ評価用試料を作成し、4端子法を用いて室温での電気抵抗を測定した。3つの評価用試料の固有抵抗の平均値が4.0μΩ・cm未満であれば十分な導電性を有するので「A」、4.0μΩ・cm以上であれば「D」とした。
【0048】
(2)ループ高さ
ワイヤボンダー(株式会社カイジョー製、ワイヤボンダーFB-780)にて、
図4に示すように、電極10上に形成した1st接合部12と、1st接合の後にボンディングワイヤWの外周面を電極11に押し当てて形成された接合部(2nd接合部)の高さが同じとなるように窒素ガス雰囲気でフラットボンドを行った。光学顕微鏡を用いて2nd接合部の接地点から最高地点のワイヤまでの高さhを測定した。ワイヤ直径の3~5倍までの高さhであれば「A」、ワイヤ直径の5~10倍までの高さHであれば「B」、ワイヤ直径の10倍以上の高さHであれば「D」とした。
【0049】
(3)FAB真球性(形成性)
上記(2)で用いたワイヤボンダーにてワイヤ直径の1.9倍~2.1倍の大きさのFABを窒素ガス雰囲気で作製した。FAB真球性(形成性)の評価としては、実施例及び比較例のボンディングワイヤ毎にFABを100個ずつ作製した後、汎用型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JSM-6510LA)にて外観観察を行い、作製したFABのワイヤ平行方向と垂直方向の長さをそれぞれ測定した。FABのワイヤ平行方向の長さXと垂直方向の長さYの比(X/Y)の平均値が85%以上115%以下であれば「真球性あり」と判断し「A」、上記の比(X/Y)の平均値が85%未満あるいは115%より大きい場合、もしくは目視して円形出なければ「D」とした。
【0050】
(4)HAZ長さ
上記(3)においてFABを作製したワイヤを上記汎用型電子顕微鏡にて外観観察を行い、FAB直近のワイヤ部分に発生したHAZの長さを測定し、その平均値を算出した。
HAZ長さが100μm以下であれば「A」、それ以上の場合「B」とした。
【0051】
(5)ボンディングワイヤの内部領域における平均結晶粒径に対するボンディングワイヤの表面領域における平均結晶粒径の比率P
ワイヤの長手方向の断面を断面試料作製装置(日本電子(株)製、IB-09020CP)で露出させた後、汎用型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JSM-6510LA)にてワイヤ断面の金属組織のSEM画像を取得し、取得したSEM画像からワイヤの長手方向にワイヤ直径の3倍の長さの領域を任意に選択した。選択した領域について、ワイヤ中心Cを中心として半径方向にワイヤ直径の30%の領域R1における平均結晶粒径D1と、ワイヤ表面から半径方向にワイヤ直径の30%までの領域R2における平均結晶粒径D2とを算出し、領域R1における平均結晶粒径D1に対する領域R2における平均結晶粒径D2の比率Pを算出した。
【0052】
なお、平均結晶粒径D1は、SEM画像からワイヤの長手方向にワイヤ直径の3倍の長さにわたって領域R1内に存在する結晶粒の個数N及び領域R1の面積Sを計測し、上記式(1)により求めた。平均結晶粒径D2は、SEM画像からワイヤの長手方向にワイヤ直径の3倍の長さにわたって領域R2内に存在する結晶粒の個数N及び領域R2の面積Sを計測し、上記式(1)により求めた。
【0053】
領域R1における平均結晶粒径D1に対する領域R2における平均結晶粒径D2の比率Pが、0.5以上5.0以下の場合は「A」、それ以外の場合は「B」とした。
【0054】
(6)ワイヤ全体の面積に対する細長い結晶粒の面積の比率Q
上記(5)と同じ方法で取得した金属組織のSEM画像からワイヤの長手方向にワイヤ直径の3倍の長さの領域を任意に選択し、選択した領域に存在する結晶粒について、ワイヤ長手方向及びワイヤ半径方向の長さをそれぞれ計測し、ワイヤ長手方向の長さに対するワイヤ半径方向の長さの比を算出した。算出した比が1/10以下である結晶を細長い結晶粒とし、選択した領域に存在する細長い結晶粒の面積の合計(総面積)を計測した。そして、選択した領域の面積に対する細長い結晶粒の総面積の比率Qを算出した。算出した比率Qが40%以下の場合を「A」、それ以外の場合は「B」とした。
【0055】
(7)1st接合部のサイズ安定性
上記(2)で用いたワイヤボンダーにて窒素ガス雰囲気で作製した100個のFABを電極に押し当てて1st接合部の直径がFABの直径の1.4倍の大きさになるようにボンディングを行った。1st接合部の直交する2方向の直径を汎用型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JSM-6510LA)を用いて測定した。100個のFAB全てにおいて1st接合部の2方向の直径の差が2.5μm以下であれば「A」、2.5μmを超えて5μm以下の1st接合部が1個でもあれば「B」、5μmを超える1st接合部が1個でもあれば真円性が低くファインピッチ用途に不適と考えて「D」とした。
【0056】
(8)ヒートサイクル試験
上記(2)で用いたワイヤボンダーにて窒素ガス雰囲気でボンディングを行った後、エポキシ樹脂封止をした半導体試料を市販の熱サイクル試験装置を用いて評価した。温度履歴は-40℃で60分間保持した後、125℃まで昇温しこの温度で60分間保持する。これを1サイクルとして、1000サイクルの試験を行った。試験後に電気的測定を行い、導通評価をした。評価したワイヤ数は500本であり、不良率が1%以下の場合は「A」、1%を超え3%以下の場合は「B」、3%を超える場合は耐性が低いことから「D」とした。
【0057】
(9)高温放置試験(長期信頼性)
上記(2)で用いたワイヤボンダーにて窒素ガス雰囲気でボンディングを行った後、エポキシ樹脂封止をした半導体試料を作成した。市販の恒温槽を用いて作成した半導体試料を175℃で1000時間保持した後、電気的測定を行い、導通評価をした。評価したワイヤ数は500本であり、不良率が1%以下の場合は「A」、1%を超え3%以下の場合は「B」、3%を超える場合は耐性が低いことから「D」とした。
【0058】
(10)ループ形成性
上記(2)で用いたワイヤボンダーにて窒素ガス雰囲気で1st接合部と2nd接合部を同一の高さとし、ループ長さ(1st接合部と2nd接合部とを接続するワイヤの長さ)が2mm、ループ高さが200μmとなるようにボンドを行った。ループを真上から観察し、1st接合部の中心と2nd接合部の中心を結んだ直線とワイヤ中心Cとのズレ量の最大値(ワイヤ中心Cが前記直線からワイヤ径方向に最も離れた箇所でのワイヤ中心Cと前記直線との距離)を計測した。評価したワイヤ数は500本であり、前記直線からワイヤ中心Cが20μm以上外れている不良ワイヤが評価したワイヤ全体の5%以下の場合は「A」、5%を超え10%以下の場合は「B」、10%を超える場合はループが安定に形成できないことから「D」とした。
【0059】
(11)総合評価
各評価で全て「A」のものを「A」、「B」が1~3つあるものを「B」、「B」が4つ以上あるものを「C」、「D」が1つでもあるものを「D」とした。なお、この評価において、「A」のものは勿論のこと、「B」や「C」のものは、半導体素子の種類により接合条件に制約がない場合等の使用条件によれば、この発明の作用効果を発揮して使用し得る。
【0060】
【0061】
結果は、表2に示すとおりであり、実施例1~11では、上記(1)~(11)の全ての評価において良好な結果が得られた。
【0062】
一方、Bi及びCuの含有量の合計が500質量ppmを越える比較例1では、真球度の高いFABを形成することができなかった。Inの含有量が2.0質量%を越える比較例2では、固有抵抗及びループ形成性の評価が「D」となった。Au及びPdの含有量の合計が0.005質量%未満の比較例3では、ヒートサイクル試験及び高温放置試験の評価が「D」となった。Ca、Mg、Ge、Y、Nd、Sm、Gd、La及びCeの含有量の合計が500質量ppmを越える比較例6では、固有抵抗及びFAB形成性の評価が「D」となった。Au及びPdの含有量の合計が2.0質量%を越える比較例5では、固有抵抗の評価が「D」となった。Inの含有量が0.005質量%未満の比較例6では、高温放置試験の評価が「D」となった。Bi及びCuの含有量の合計が5質量ppm未満の比較例7では、1st接合部の形状の評価が「D」となった。