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特許7542589高濃度のタンパク質ベース治療薬を含有する医薬組成物における安定化化合物としてのアミノ酸の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】高濃度のタンパク質ベース治療薬を含有する医薬組成物における安定化化合物としてのアミノ酸の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/08 20060101AFI20240823BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240823BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240823BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20240823BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240823BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240823BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240823BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
A61K9/08
A61K9/19
A61K38/17
A61K38/22
A61K39/395 M
A61K39/395 A
A61K47/18
A61K47/36
A61K47/26
A61P43/00 111
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022187483
(22)【出願日】2022-11-24
(62)【分割の表示】P 2018553413の分割
【原出願日】2017-04-11
(65)【公開番号】P2023018090
(43)【公開日】2023-02-07
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】62/321,895
(32)【優先日】2016-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】サジャル・マヌバイ・パテル
(72)【発明者】
【氏名】スレシュクマール・バナラム・チョウダリー
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-525986(JP,A)
【文献】国際公開第2007/074880(WO,A1)
【文献】特開平09-025241(JP,A)
【文献】特表2013-510893(JP,A)
【文献】特表2015-536934(JP,A)
【文献】国際公開第2016/034648(WO,A1)
【文献】特表2010-513522(JP,A)
【文献】特表2015-527402(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0186373(US,A1)
【文献】特表2014-514346(JP,A)
【文献】特表2012-502004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 38/00-38/58
A61K 39/00-39/44
A61K 45/00-45/08
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質生体分子を活性薬剤又は活性成分として含有する医薬組成物であって、
(A)(1)水性担体;
(2)タンパク質生体分子;
(3)緩衝液;および
(4)約1%(w/v)~約6%(w/v)の総濃度で、
アルギニン若しくはその塩およびアラニン若しくはその塩を含む安定化化合物、又は
アルギニン若しくはその塩およびアラニン若しくはその塩を含み、さらにグリシン、リシン又はプロリン、若しくはそれらの塩、又はそれらの混合物を含む安定化化合物;
或いは
(B)(A)の凍結乾燥物
を含み、
前記組成物が、デキストラン、ショ糖、又はトレハロース二水和物を欠き、
前記組成物が、ポリソルベート-80(PS-80)をさらに含み、
前記緩衝液が、ヒスチジンを含み、及び
前記アラニン又はその塩(w/v%)の前記アルギニン又はその塩(w/v%)に対する比が、2:1である、医薬組成物。
【請求項2】
前記組成物が、約10mg/mL~約200mg/mLのタンパク質生体分子を含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記組成物が、50mg/mL、75mg/mL、100mg/mL、150mg/mL又は200mg/mLのタンパク質生体分子を含有する、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記タンパク質生体分子が、抗体又は抗体ベース免疫療法薬、酵素、又はホルモン/因子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記タンパク質生体分子が、ホルモン/因子であり、前記ホルモン/因子が、表2のホルモン/因子から選択される、請求項4に記載の医薬組成物:
【表2】
【請求項6】
前記組成物が、少なくとも2種のタンパク質生体分子を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記アラニンが、約2.5%(w/v)、約3.5%(w/v)、又は約4.0%(w/v)の濃度で存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記アルギニンが、約1.25%(w/v)、約1.75%(w/v)、又は約2.0%(w/v)の濃度で存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記安定化化合物が、グリシン又はその塩をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記グリシンが、約2.5%(w/v)~約5.5%(w/v)の濃度、好ましくは約2.5%(w/v)、約3.5%(w/v)、約4.0%(w/v)又は約5.5%(w/v)の濃度で存在する、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物のpHが、約3~約11、約4~約9、約5~約8、約5~約7.5、好ましくは6.0又は7.4である、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記緩衝液が、約5mM~約50mM、約20mM~約30mM、又は約23mM~約27mMの範囲内で存在し、好ましくは前記緩衝液が、25mMで存在する、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記緩衝液が、ヒスチジン/ヒスチジン-HClである、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記ポリソルベート-80(PS-80)が、0.005~0.1%(w/v)の濃度、好ましくは0.02%(w/v)の濃度で存在する、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記医薬組成物が前記凍結乾燥物である、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記組成物が、pH6.0で、100mg/mLのタンパク質生体分子、25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、4%アラニン、2%アルギニン、0.02% PS-80を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の医薬組成物を収容しているアンプル、バイアル、カートリッジ、注射器又は小袋。
【請求項18】
医薬における使用のための、請求項1~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度の1種以上のタンパク質生体分子を含有する改善された医薬組成物に関する。特に、本発明は、安定化化合物として1種以上のアミノ酸分子、特にアルギニン、アラニン、グリシン、リシン又はプロリン、又はそれらの誘導体及び塩、又はそれらの混合物を含有するそのような医薬組成物に関する。そのような安定化化合物の含有により、タンパク質生体分子の長期安定性を改善及び/又は維持する一方で再構成時間が短縮されて、医薬組成物による疾病又は病状の処置、管理、回復及び/又は予防が促進される。本発明は、特に、糖安定化剤を欠いた、又は実質的に欠いたそのような医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質ベース治療薬(例えば、ホルモン、酵素、サイトカイン、ワクチン、免疫療法薬等)は、ヒト疾病の管理及び処置に益々重要となっている。2014年に関しては、60種を超えるそのような治療薬が販売を認可されており、約140種の追加の薬物が臨床試験下にあり、500種を超える治療ペプチドが前臨床開発の様々な段階にある(Fosgerau,K.et al.(2014)“Peptide Therapeutics:Current Status And Future Directions,”Drug Discov.Today 20(1):122-128;Kaspar,A.A.et al.(2013)“Future Directions For Peptide Therapeutics Development,”Drug Discov.Today 18:807-817)。
【0003】
それらの治療薬の使用に対する1つの障害は、それらの貯蔵において度々遭遇する物理的不安定性である(米国特許第8,617,576号明細書;PCT国際公開第2014/100143号パンフレット及び同第2015/061584号パンフレット;Balcao,V.M.et al.(2014)“Structural And Functional Stabilization Of Protein Entities:State-Of-The-Art,”Adv.Drug Deliv.Rev.(Epub.):doi:10.1016/j.addr.2014.10.005;pp.1-17;Maddux,N.R.et al.(2011)“Multidimensional Methods For The Formulation Of Biopharmaceuticals And Vaccines,”J.Pharm.Sci.100:4171-4197;Wang,W.(1999)“Instability,Stabilization,And Formulation Of Liquid Protein Pharmaceuticals,”Int.J.Pharm.185:129-188;Kristensen,D.et al.(2011)“Vaccine Stabilization:Research,Commercialization,And Potential Impact,”Vaccine 29:7122-7124;Kumru,O.S.et al.(2014)“Vaccine Instability In The Cold Chain:Mechanisms,Analysis And Formulation Strategies,”Biologicals 42:237-259)。そのような不安定性は、複数の態様を含む場合がある。タンパク質ベース治療薬は、例えば操作上の不安定性、例えば加工操作(例えば滅菌、凍結乾燥、凍結貯蔵等)を乗り切る能力の欠如等を経験する場合がある。加えて又は代替的に、タンパク質は、所望の2次構造又は3次構造が貯蔵により損失又は変更されるように、熱力学的不安定性を経験する場合がある。更なる及び特に複雑な問題は、サブユニットが解離して製品の不活性化をもたらす、多量体タンパク質サブユニットを含む治療薬の安定化に存在する。動力学的不安定性は、インビトロの非天然条件下での構造の不可逆的変化に抵抗する、タンパク質の能力の目安である。タンパク質の凝集及び封入体の形成は、不安定性の最も一般的な現れであると考えられ、製品開発の複数の段階において潜在的に遭遇する(Wang、W.(2005)“Protein Aggregation And Its Inhibition In Biopharmaceutics,”Int.J.Pharm.289:1-30;Wang,W.(1999)“Instability,Stabilization,And Formulation Of Liquid Protein Pharmaceuticals,”Int.J.Pharm.185:129-188;Arakawa,T.et al.(1993)“Factors Affecting Short-Term And Long-Term Stabilities Of Proteins,”Adv.Drug Deliv.Rev.10:1-28;Arakawa,T.et al.(2001)“Factors Affecting Short-Term And Long-Term Stabilities Of Proteins,”Adv.Drug Deliv.Rev.46:307-326)。そのような不安定性の問題は、治療の有効性だけでなく、レシピエント患者に対するその免疫原性にも影響を及ぼし得る。それ故、タンパク質の不安定性は、タンパク質ベース治療薬の使用の妨げとなる主な欠点の1つである(Balcao,V.M.et al.(2014)“Structural And Functional Stabilization Of Protein Entities:State-Of-The-Art,”Adv.Drug Deliv.Rev.(Epub.):doi:10.1016/j.addr.2014.10.005;pp.1-17)。
【0004】
タンパク質ベース治療薬の安定化は、そのような薬剤の構造及び機能性を保存することを必要とし、そのような薬剤とそれらの薬剤の(微小)環境との間の熱力学的平衡を確立することにより達成されている(Balcao,V.M.et al.(2014)“Structural And Functional Stabilization Of Protein Entities:State-Of-The-Art,”Adv.Drug Deliv.Rev.(Epub.):doi:10.1016/j.addr.2014.10.005;pp.1-17)。タンパク質ベース治療薬を安定化する1つの手法は、追加の共有(例えば、ジスルフィド)結合を含むようにタンパク質を改変して、所望の構造に関連したエンタルピーを増大させることを含む。代替的に、タンパク質は追加の極性基を含むように修飾されて、溶媒和水分子とのその水素結合を増大させてもよい(Mozhaev,V.V.et al.(1990)“Structure-Stability Relationships In Proteins:A Guide To Approaches To Stabilizing Enzymes,”Adv.Drug Deliv.Rev.4:387-419;Iyer,P.V.et al.(2008)“Enzyme Stability And Stabilization-Aqueous And Non-Aqueous Environment,”Process Biochem.43:1019-1032)。
【0005】
タンパク質ベース治療薬を安定化する第2の手法は、例えば水を凍結させ、又は特定の溶質を添加し、又は医薬組成物を凍結乾燥することにより、タンパク質の微小環境中に存在する水の化学的活性を低減することを含む(例えば、Castronuovo,G.(1991)“Proteins In Aqueous Solutions.Calorimetric Studies And Thermodynamic Characterization,”Thermochim.Acta 193:363-390参照)。
【0006】
使用される溶質は、低分子量イオン(例えば塩、緩衝剤)から中間サイズの溶質(例えばアミノ酸、糖)、さらにより高い分子量の化合物(例えばポリマー、タンパク質)に及ぶ(Kamerzell,T.J.et al.(2011)“Protein-Excipient Interactions:Mechanisms And Biophysical Characterization Applied To Protein Formulation Development,”Adv.Drug Deliv.Rev.63:1118-1159)。
【0007】
例えば、そのような溶質には、ブデソニド、デキストランDMSOグリセロール、ブドウ糖、インスリン、乳糖、麦芽糖、マンニトール、PEG、ピロキシカム、PLGA、PVAソルビトール、ショ糖、トレハロース及び尿素が含まれる(Ohtake,S.et al.(2011)“Trehalose:Current Use and Future Applications,”J.Pharm.Sci.100(6):2020-2053;Willart,J.F.et al.(2008)“Solid State Amorphization of Pharmaceuticals,”Molec.Pharmaceut.5(6):905-920;Kumru,O.S.et al.(2014)“Vaccine Instability In The Cold Chain:Mechanisms,Analysis And Formulation Strategies,”Biologicals 42:237-259;Somero,G.N.(1995)“Proteins And Temperature,”Annu.Rev.Physiol.57:43-68;Sasahara,K.et al.(2003)“Effect Of Dextran On Protein Stability And Conformation Attributed To Macromolecular Crowding,”J.Mol.Biol.326:1227-1237;Jain,N.K.et al.(2014)“Formulation And Stabilization Of Recombinant Protein Based Virus-Like Particle Vaccines,”Adv.Drug Deliv.Rev.(Epub.)doi:10.1016/j.addr.2014.10.023;pp.1-14;Kissmann,J.et al.(2011)“H1N1 Influenza Virus-Like Particles:Physical Degradation Pathways And Identification Of Stabilizers,”J.Pharm.Sci.100:634-645;Kamerzell,T.J.et al.(2011)“Protein-Excipient Interactions:Mechanisms And Biophysical Characterization Applied To Protein Formulation Development,”Adv.Drug Deliv.Rev.63:1118-1159)。
【0008】
ショ糖及びトレハロース二水和物等の糖は、一般に、例えば2~8℃での貯蔵のために、凍結乾燥される治療的タンパク質製剤中で凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)及び凍結保護剤として使用されて、製剤の安定性を改善する(米国特許第8,617,576号明細書及び同第8,754,195号明細書)。特にトレハロースは、安定化剤として広く使用されており;多様な研究用途に使用され、HERCEPTIN(登録商標)、AVASTIN(登録商標)、LUCENTIS(登録商標)及びADVATE(登録商標)を含む数種の市販の治療薬中に含まれている(Ohtake、S.et al.(2011)「Trehalose:Current Use and Future Applications,」J.Pharm.Sci.100(6):2020-2053)。
【0009】
アミノ酸ヒスチジン、アルギニン、グルタメート、グリシン、プロリン、リシン及びメチオニンは、タンパク質を安定化する天然化合物として言及されている。ヒト血清アルブミン(HSA)及びゼラチンは、タンパク質安定剤として言及されている(米国特許第8,617,576号明細書;米国特許出願公開第2015/0118249号明細書;Kamerzell,T.J.et al.(2011)“Protein-Excipient Interactions:Mechanisms And Biophysical Characterization Applied To Protein Formulation Development,”Adv.Drug Deliv.Rev.63:1118-1159;Kumru,O.S.et al.(2014)“Vaccine Instability In The Cold Chain:Mechanisms,Analysis And Formulation Strategies,”Biologicals 42:237-259;Arakawa,T.et al.(2007)“Suppression Of Protein Interactions By Arginine:A Proposed Mechanism Of The Arginine Effects,”Biophys.Chem.127:1-8;Arakawa,T.et al.(2007)“Biotechnology Applications Of Amino Acids In Protein Purification And Formulations,”Amino Acids 33:587-605;Chen,B.(2003)“Influence Of Histidine On The Stability And Physical Properties Of A Fully Human Antibody In Aqueous And Solid Forms,”Pharm.Res.20:1952-1960;Tian,F.et al.(2007)“Spectroscopic Evaluation Of The Stabilization Of Humanized Monoclonal Antibodies In Amino Acid Formulations,”Int.J.Pharm.335:20-31;Wade,A.M.et al.(1998)“Antioxidant Characteristics Of L-Histidine,”J.Nutr.Biochem.9:308-315;Yates,Z.et al.(2010)“Histidine Residue Mediates Radical-Induced Hinge Cleavage Of Human Igg1,”J.Biol.Chem.285:18662-18671;Lange,C.et al.(2009)“Suppression Of Protein Aggregation By L-Arginine,”Curr.Pharm.Biotechnol.10:408-414;Nakakido,M.et al.(2009)“To Be Excluded Or To Bind,That Is The Question:Arginine Effects On Proteins,”Curr.Pharm.Biotechnol.10:415-420;Shukla,D.et al.(2010)“Interaction Of Arginine With Proteins And The Mechanism By Which It Inhibits Aggregation,”J.Phys.Chem.B 114:13426-13438;Pyne,A.et al.(2001)“Phase Transitions Of Glycine In Frozen Aqueous Solutions And During Freeze-Drying,”Pharm.Res.18:1448-1454;Lam,X.M.et al.(1997)“Antioxidants For Prevention Of Methionine Oxidation In Recombinant Monoclonal Antibody HER2,”J.Pharm.Sci.86:1250-1255;Maeder,W.et al.(2011)“Local Tolerance And Stability Up To 24 Months Of A New 20% Proline-Stabilized Polyclonal Immunoglobulin For Subcutaneous Administration,”Biologicals 39:43-49;Kadoya,S.et al.(2010)“Freeze-Drying Of Proteins With Glass-Forming Oligosaccharide-Derived Sugar Alcohols,”Int.J.Pharm.389:107-113;Golovanov,A.P.et al.(2004)“A Simple Method For Improving Protein Solubility And Long-Term Stability,J.Am.Chem.Soc.126:8933-8939)。
【0010】
一般に、1:1又は1:2(w/w)のタンパク質対安定剤化合物の比が、比較的低いタンパク質濃度(<50mg/mL)において最適な安定性を達成するのに用いられている。しかしながら、比較的高いタンパク質濃度(≧50mg/mL)の場合、1:1又は1:2(w/w)範囲のタンパク質対安定剤化合物の比は、あまり望ましくない。例えば、そのような高い糖濃度は高い粘度をもたらす場合があり、このことは充填完了操作及び薬物送達中に困難を課し、凍結乾燥製剤の再構成時間の増大を必要とし得る。更に、再構成された製剤は、特に、比較的高いタンパク質濃度を達成するために部分的再構成が望ましい場合、所望の浸透圧の範囲から高く外れる高い浸透圧を示す場合がある。最後に、1:1又は1:2(w/w)の範囲のタンパク質対安定剤化合物の比を有する高濃度タンパク質製剤は、遥かに低い温度で、受け入れ難く長い凍結乾燥加工時間を必要とする熱特性を示す場合がある。
【0011】
そのようなタンパク質ベース治療薬を再構成する必要性は、それらの使用に第2の障害を課す。再構成時間に影響を与える因子は、未だによく理解されていない(Beech,K.E.et al.(2015)“Insights Into The Influence Of The Cooling Profile On The Reconstitution Times Of Amorphous Lyophilized Protein Formulations,”Eur.J.Pharmaceut.Biopharmaceut.96:247-254)。従来の組成物を完全に再構成するのに必要な時間は、かなりのものであり得(例えば、20~40分間以上)、完全に再構成されていない製品は、レシピエント患者に有害であり得る。加えて、再構成の手順は製品によって異なる場合があり、このことは投与過程に更なる複雑さを加え得る。例えば、完全に再構成するために、製品は、希釈剤を添加した後、既定の間隔でかき混ぜる必要があり得、又はそのままで放置される必要があり得る(Beech,K.E.et al.(2015)“Insights Into The Influence Of The Cooling Profile On The Reconstitution Times Of Amorphous Lyophilized Protein Formulations,”Eur.J.Pharmaceut.Biopharmaceut.96:247-254)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、そのような多くの進歩にも関わらず、医薬組成物が凍結乾燥/凍結保存形態の両方で、再構成後に、改善された粘度及び再構成時間、並びに向上された安定性を示すように、特に糖安定化剤を含有しないタンパク質ベース医薬組成物の安定化に好適な製剤が依然として必要とされている。本発明は、この目標及び他の目標に向けられている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、高濃度の1種以上のタンパク質生体分子を含有する改善された医薬組成物に関する。特に、本発明は、安定化化合物として1種以上のアミノ酸分子、特にアルギニン、アラニン、グリシン、リシン又はプロリン、又はそれらの誘導体及び塩、又はそれらの混合物を含有する、そのような医薬組成物に関する。そのような安定化化合物の含有により、タンパク質生体分子の長期安定性を改善及び/又は維持する一方で再構成時間が短縮されて、医薬組成物による疾病又は病状の処置、管理、回復及び/又は予防が促進される。本発明は、特に、糖安定化剤を欠いた、又は実質的に欠いたそのような医薬組成物に関する。
【0014】
詳細には、本発明は、活性薬剤又は活性成分としてのタンパク質生体分子を含有する医薬組成物に関し、組成物は:
(A)(1)水性担体;
(2)タンパク質生体分子;
(3)緩衝液;
(4)アルギニン、アラニン、グリシン、リシン又はプロリン、又はそれらの誘導体若しくは塩、又はそれらの混合物からなる群から選択される安定化化合物(約1%(w/v)~約6%(w/v)の総濃度で);
又は
(B)(A)の凍結乾燥物
を含む。
【0015】
本発明は更に、組成物が実質的に糖安定化化合物を欠いている、上記の医薬組成物の実施形態に関する。
【0016】
本発明は更に、組成物が約10mg/mL~約200mg/mLのタンパク質生体分子を含有し、組成物が50mg/mL、75mg/mL、100mg/mL、150mg/mL又は200mg/mLのタンパク質生体分子を含有する、上記のいずれかの医薬組成物の実施形態に関する。
【0017】
本発明は更に、タンパク質生体分子が抗体若しくは抗体ベース免疫療法薬、酵素、又はホルモン/因子である、上記の全部の医薬組成物の実施形態に関する。
【0018】
本発明は更に、タンパク質生体分子が抗体又は抗体ベース免疫療法薬であり、抗体が表1の抗体から選択される、上記の医薬組成物の実施形態に関する。
【0019】
本発明は更に、タンパク質生体分子がホルモン/因子であり、ホルモン/因子が表2のホルモン/因子から選択される、上記の医薬組成物の実施形態に関する。
【0020】
本発明は更に、組成物が少なくとも2種のタンパク質生体分子を含有する、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。
【0021】
本発明は更に、安定化化合物がアルギニン又はその誘導体若しくは塩であり、アルギニンが約2.0%(w/v)~約5.0%(w/v)の濃度、好ましくは2.0%(w/v)の濃度、3.5%(w/v)の濃度又は5.5%(w/v)の濃度で存在する、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。
【0022】
本発明は更に、安定化化合物がアラニン又はその誘導体若しくは塩であり、アラニンが約2.5%(w/v)~約5.5%(w/v)の濃度、好ましくは約2.5%(w/v)、約3.5%(w/v)、約4.0%(w/v)、又は約5.5%(w/v)の濃度で存在する、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。本発明は更に、更にアルギニンが約1.25%(w/v)、約1.75%(w/v)、約2.0%(w/v)又は約2.75%(w/v)の濃度で存在する、そのような医薬組成物の実施形態に関する。
【0023】
本発明は更に、安定化化合物がグリシン又はその誘導体若しくは塩であり、グリシンが、約2.5%(w/v)~約5.5%(w/v)、好ましくは約2.5%(w/v)、約3.5%(w/v)、約4.0%(w/v)又は約5.5%(w/v)の濃度で存在する、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。本発明は更に、更にアルギニンが約1.25%(w/v)、約1.75%(w/v)、約2.0%(w/v)又は約2.75%(w/v)の濃度で存在する、そのような医薬組成物の実施形態に関する。
【0024】
本発明は更に、組成物が少なくとも2種の安定化化合物を含有する、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。
【0025】
本発明は更に、医薬組成物のpHが、約3~約11、約4~約9、約5~約8、約5~約7.5、好ましくは6.0又は7.4である、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。
【0026】
本発明は更に、緩衝液が約5mM~約50mM、約20mM~約30mM、又は約23mM~約27mMの範囲内で存在し、好ましくは緩衝液が25mMで存在する、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。
【0027】
本発明は更に、緩衝液がヒスチジン、ホスフェート、アセテート、シトレート、スクシネート、トリス、又はそれらの組み合わせを含み、緩衝液がヒスチジン/ヒスチジン-HClである、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。
【0028】
本発明は更に、医薬組成物が更に非イオン性洗浄剤を含有し、特に非イオン性洗浄剤がポリソルベート-80(PS-80)である、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。本発明は更に、そのようなポリソルベート-80(PS-80)が0.005~0.1%(w/v)の濃度、好ましくは0.02%(w/v)の濃度で存在する、そのような医薬組成物の実施形態に関する。
【0029】
本発明は更に、医薬組成物が凍結乾燥物である、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。
【0030】
本発明は更に、安定化化合物の存在が、医薬組成物の凍結乾燥物の再構成時間を20分未満、15分未満、10分未満、8分未満、5分未満、又は2分未満とする、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。
【0031】
本発明は更に、安定化化合物の存在が、医薬組成物の安定特性を、アミノ酸安定化化合物の完全な非存在下で観察されるような安定特性に対して、400%を超えて、200%を超えて、100%を超えて、50%を超えて、又は10%を超えて向上させる、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。
【0032】
本発明は更に、安定化化合物の存在が、医薬組成物の安定特性を、糖安定化化合物の完全な非存在下で観察されるような安定特性に対して、50%を超えて、20%を超えて、10%を超えて、5%を超えて、又は1%を超えて向上させる、上記の任意の医薬組成物の実施形態に関する。
【0033】
本発明は更に、上記の任意の医薬組成物を収容するアンプル、バイアル、カートリッジ、注射器又は小袋に関する。
【0034】
本発明は更に、上記の任意の医薬組成物を投与することによる、疾病又は疾患の処置方法に関する。
【0035】
本発明は更に、医薬における使用のための、上記の医薬組成物に関する。
【0036】
本発明は更に、再構成時間を短縮するための、医薬製剤中の1種以上の糖の代替物としての、アルギニン、アラニン、グリシン、リシン又はプロリン等の1種以上のアミノ酸の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】様々なアミノ酸-糖の組み合わせを有する、高濃度(100mg/mL)の例示的なタンパク質生体分子(ヒトIgG1モノクローナル抗体)を含有する医薬組成物の凍結乾燥製剤の観察された再構成時間及び凝集の程度(高性能サイズ排除クロマトグラフィー(HPSEC)により評価)を示す。凍結乾燥後のパーセント凝集体増加(左軸)は、棒グラフとして示され、再構成時間(右軸)は、ひし形として示される。
図2】高濃度(50mg/mL、75mg/mL又は100mg/mL)のヒトIgG1モノクローナル抗体を含有する医薬組成物の示される凍結乾燥製剤の再構成時間に対するタンパク質濃度及びアミノ酸賦形剤の効果を示す。ヒトIgG1モノクローナル抗体は、例示的なタンパク質生体分子として使用された。
図3】示されるような様々な添加賦形剤を有する75mg/mL又は100mg/mLのヒトIgG1モノクローナル抗体を含有する医薬組成物の製剤に関してHPSECで決定した、40℃、60%相対湿度(図3A)及び25℃、75%相対湿度(図3B)での経時的なパーセントモノマー純度を示す。ヒトIgG1モノクローナル抗体は、例示的なタンパク質生体分子として使用された。
図4】高濃度(75mg/mL又は100mg/mL)のヒトIgG1モノクローナル抗体を含有する医薬組成物の、示されるような凍結乾燥製剤の再構成時間を示し、ヒトIgG1モノクローナル抗体は例示的なタンパク質生体分子として使用された。結果は、10回の反復実験の平均である。
図5】様々なアミノ酸賦形剤を有する、75mg/mL又は100mg/mLの、3種の異なる例示的なタンパク質のうちの1つを用いて調製された凍結乾燥製剤の再構成時間を示す。図5Aは、ヒトIgG1モノクローナル抗体に関する再構成時間を示す。図5Bは、Tn3-HSA融合タンパク質に関する再構成時間を示す。図5Cは、ヒト化IgG4モノクローナル抗体に関する再構成時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、高濃度の1種以上のタンパク質生体分子を含有する改善された医薬組成物に関する。特に、本発明は、安定化化合物として1種以上のアミノ酸分子、特にアルギニン、アラニン、グリシン、リシン又はプロリン、又はそれらの誘導体及び塩、又はそれらの混合物を含有するそのような医薬組成物に関する。そのような安定化化合物の含有により、タンパク質生体分子の長期安定性が改善及び/又は維持する一方で再構成時間が短縮されて、医薬組成物による疾病又は病状の処置、管理、回復及び/又は予防が促進される。本発明は、特に、糖安定化剤を欠いた、又は実質的に欠いたそのような医薬組成物に関する。
【0039】
I.本発明の医薬組成物
本明細書で使用するとき、用語「医薬組成物」は、「治療的」医薬(即ち、レシピエント対象の現存する疾病又は病状を処置するために処方される医薬)又は「予防的」医薬(即ち、レシピエント対象の潜在的な又は切迫する疾病又は病状の症状を予防する又は回復させるために処方される医薬)を指すことを意図し、この医薬は、1種以上のタンパク質生体分子をその活性治療薬若しくは活性予防薬又は活性治療成分若しくは活性予防成分として含有する。本発明の医薬組成物は、組成物の活性薬剤又は活性成分としての役割を果たす1種以上のタンパク質生体分子を含有する。治療的使用のために、医薬組成物は、「治療的有効」量のタンパク質生体分子を含有及び提供し、この量は、疾病若しくは病状の進行、重篤さ、及び/若しくは持続時間を低減若しくは改善し、及び/又は、そのような疾病若しくは病状に関連した1つ以上の症状を改善する量である。予防的使用のために、医薬組成物は、「予防的有効」量のタンパク質生体分子を含有及び提供し、この量は、疾病又は病状の発生、再発、発症又は進行の予防をもたらすに十分な量である。レシピエント対象は、動物、好ましくは非霊長類(例えば、雌牛、豚、馬、猫、犬、ラット又はマウス)、又は霊長類(例えば、チンパンジー、猿、カニクイザル、及びヒト等)を含む哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0040】
II.本発明の医薬組成物の安定化化合物
本発明の安定化化合物は、「凍結乾燥保護剤」であり(従って、医薬組成物のタンパク質生体分子を、凍結乾燥及び続く貯蔵中の変性から保護する役割を果たす)、及び/又は「凍結保護剤」である(従って、医薬組成物のタンパク質生体分子を、凍結を原因とする変性から保護する役割を果たす)。「安定化」化合物は、組成物の活性薬剤又は活性成分であるタンパク質生体分子の構造及び機能性を、そのような製剤の非存在下で観察されるそのような構造及び機能性の変化に対して保存する役割を果たす場合、本発明の医薬組成物のタンパク質生体分子を「安定化」又は「保護」すると言われる。安定化化合物は、組成物の凍結又はその組成物の通常の融点(T)における融解を防止し又はその程度を低減する役割を果たすものである。
【0041】
タンパク質生体分子に提供される「保護」は、高性能サイズ排除クロマトグラフィー(「HPSEC」)を使用して評価することができ、高性能サイズ排除クロマトグラフィーは、医薬タンパク質凝集体の検出及び定量化のための業界の標準技術である(米国特許出願公開第2015/0005475号明細書;Gabrielson,J.P.et al.(2006)“Quantitation Of Aggregate Levels In A Recombinant Humanized Monoclonal Antibody Formulation By Size-Exclusion Chromatography,Asymmetrical Flow Field Flow Fractionation,And Sedimentation Velocity,”J.Pharm.Sci.96(2):268-279;Liu,H.et al.(2009)“Analysis Of Reduced Monoclonal Antibodies Using Size Exclusion Chromatography Coupled With Mass Spectrometry,”J.Amer.Soc.Mass Spectrom.20:2258-2264;Mahler,H.C.et al.(2008)“Protein Aggregation:Pathways,Induction Factors And Analysis,”J.Pharm.Sci.98(9):2909-2934)。そのような保護によって、タンパク質生体分子は、「低~検出不可能なレベル」の分裂(即ち、医薬組成物のサンプル中、HPSECにより決定して、80%、85%、90% 95%、98%、又は99%を超えるタンパク質生体分子が単一のピーク中に移動するような、及び/又は「低~検出不可能なレベル」の関連する生物学的活性の損失(即ち、医薬組成物のサンプル中、HPSECにより決定して、存在する80%、85%、90% 95%、98%、又は99%を超えるタンパク質生体分子がその初期の生物学的活性を示すような、及び/又は低~検出不可能なレベル」の凝集(即ち、医薬組成物のサンプル中、HPSECにより決定して、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以下、タンパク質の凝集のような、を示すことが可能となる。本発明の医薬組成物により提供される「長期間」安定性によって、そのような組成物を3カ月を超えて、6カ月を超えて、9カ月を超えて、1年を超えて、18カ月を超えて、2年を超えて、又は30カ月を超えて貯蔵することが可能となる。
【0042】
本発明の好ましい「安定化化合物」は、高濃度の1種以上のタンパク質生体分子を含有する凍結乾燥医薬組成物の、より短い再構成時間を達成する。最も好ましくは、そのような安定化化合物はアミノ酸分子であり、より好ましくは、アミノ酸:アラニン、アルギニン、グリシン、リシン及び/又はプロリン、又はそれらの誘導体及び塩、又はそれらの混合物であり、更により好ましくは、アミノ酸:アラニン、アルギニン及び/又はグリシン、又はそれらの誘導体及び塩、又はそれらの混合物である。そのようなアミノ酸分子は、好ましくはL-アミノ酸分子であるが、D-アミノ酸分子、又はD-及びL-アミノ酸分子の任意の組み合わせであってもよく、この組み合わせはそれらのラセミ混合物を含む。好ましくは、本発明のそのような安定化化合物の存在は、医薬組成物の凍結乾燥物の再構成時間を20分未満、15分未満、10分未満、8分未満、5分未満、又は2分未満とするのに十分であり、また医薬組成物の安定特性(例えば、凍結乾燥保護又は凍結保護特性、例えば、単一投与量再構成時間、平均有効期間、設定温度(例えば、0度を下回る温度、室温又は高温)にて、指定された時間間隔で残留するパーセント活性等)を、アミノ酸安定化化合物の完全な非存在下で観察されるような安定特性に対して、400%を超えて、200%を超えて、100%を超えて、50%を超えて、又は10%を超えて向上させるのに十分である。
【0043】
そのようなアミノ酸分子に関連した「それらの誘導体及び塩」という用語は、REMINGTON:The Science and Practice of Pharmacy,21th Edition,Gennaro,Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA,2005に開示されているもの等の任意の薬学的に許容され得る塩又はアミノ酸誘導体を示す。そのような誘導体は、置換されたアミン、アミノアルコール、アルデヒド、ラクトン、エステル、水和物等を含む。アラニンの例示的な誘導体には:2-アリル-グリシン、2-アミノ酪酸、cis-アミクレノマイシン、アダマンタン(adamanthane)等が挙げられる。アルギニンの例示的な誘導体には:2-アミノ-3-グアニジノプロピオン酸、2-アミノ-4-グアニジノ酪酸、5-メチル-アルギニン、アルギニンメチルエステル、アルギニン-O-tBu、カナバニン、シトルリン、c-γ-ヒドロキシアルギニン、ホモアルギニン、N-トシル-アルギニン、Nω-ニトロ-アルギニン、チオ-シトルリン等が挙げられる。リシンの例示的な誘導体には:ジアミノ酪酸、2,3-ジアミノプロパン酸、(2s)-2,8-ジアミノアクタン(diaminoactanoic)酸、オルニチン、チアリシン等が挙げられる。プロリンの例示的な誘導体には:trans-1-アセチル-4-ヒドロキシプロリン、3,4-デヒドロプロリン、cis-3-ヒドロキシプロリン、cis-4-ヒドロキシプロリン、trans-3-ヒドロキシプロリン、trans-4-ヒドロキシプロリン、α-メチルプロリン、ピペコリン酸等が挙げられる。
【0044】
そのようなアミノ酸分子及びそれらの誘導体の塩には、適切な酸、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、酢酸又はp-トルエンスルホン酸から誘導されたもの等の、そのような分子の付加塩が挙げられる。塩酸塩が特に好ましい。
【0045】
そのような安定化化合物は、本発明の医薬組成物中で個々に又は組み合わせで使用することができる(例えば、任意の2種の安定化化合物、任意の3種の安定化化合物、任意の4種の安定化化合物、任意の5種の安定化化合物、又は5種を超えるそのような安定化化合物の任意の組み合わせ。
【0046】
上述したように、デキストラン、ショ糖、トレハロース二水和物等の糖は、凍結乾燥した治療的タンパク質製剤中の安定化化合物として典型的に使用される。本発明の非常に好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、糖安定化化合物を実質的に欠き(即ち、実質的に含まない)、本発明の更に非常に好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、糖安定化化合物を完全に欠いている(即ち、完全に含まない)。本明細書で使用するとき、本発明の医薬組成物は、そのような化合物の存在が、医薬組成物の安定特性(例えば、凍結乾燥保護性又は凍結保護性)を、そのような糖安定化化合物の完全な非存在下で観察されるような安定特性に対して、50%を超えて、20%を超えて、10%を超えて、5%を超えて、又は1%を超えて向上させない場合、「糖安定化化合物を実質的に欠いている」と言われる。本明細書で使用するとき、本発明の医薬組成物は、そのような化合物の存在が検出可能ではない場合、「糖安定化化合物を完全に欠いている」と言われる。本発明の医薬組成物は、任意の糖安定化化合物を完全に欠いていることが好ましい。
【0047】
ショ糖及びトレハロース二水和物等の糖は、凍結乾燥治療的タンパク質製剤中の賦形剤として典型的に使用されて、例えば2~8℃での貯蔵のために、製剤の安定性を改善する(米国特許第8,617,576号明細書及び同第8,754,195号明細書)。特にトレハロースは安定化剤として広く使用されており;多様な研究用途に使用され、またHERCEPTIN(登録商標)、AVASTIN(登録商標)、LUCENTIS(登録商標)、及びADVATE(登録商標)を含む数種の市販の治療薬に含まれている(Ohtake,S.et al.(2011)“Trehalose:Current Use and Future Applications,”J.Pharm.Sci.100(6):2020-2053)。
【0048】
III.本発明の医薬組成物のタンパク質生体分子
本発明の安定化化合物は、活性薬剤又は活性成分として高濃度の1種以上のタンパク質生体分子を含有する医薬組成物中での使用に特に好適である。本明細書で使用するとき、用語「高濃度」は、10mg/mLを超える、20mg/mLを超える、30mg/mLを超える、40mg/mLを超える、50mg/mLを超える、60mg/mLを超える、70mg/mLを超える、80mg/mLを超える、90mg/mLを超える、100mg/mLを超える、120mg/mLを超える、150mg/mLを超える、200mg/mLを超える、250mg/mLを超える、300mg/mLを超える、350mg/mLを超える、400mg/mLを超える、450mg/mLを超える、又は500mg/mLを超えるタンパク質生体分子の濃度を示す。
【0049】
非限定的に、そのような医薬組成物に含まれる「タンパク質生体分子」は、単一ポリペプチド鎖タンパク質又は多ポリペプチド鎖タンパク質を含む任意の種類のタンパク質分子であり得る。本明細書で使用するとき、タンパク質生体分子という用語は、分子が任意の特定のサイズのものであることを含意するわけではなく、5未満、10未満、20未満 30未満、40未満又は50未満のアミノ酸残基を含むタンパク質生体分子、及び、50を超える、100を超える、200を超える 300を超える、400を超える、又は500を超えるアミノ酸残基を含むタンパク質生体分子を含むことが意図される。
【0050】
本発明の医薬組成物中に存在し得るタンパク質生体分子の例は、表1及び2に提供され、抗体又は抗体ベース免疫療法薬(例えば、呼吸器多核体ウイルス(RSV)のFタンパク質のA抗原部位内のエピトープに指向されるパリビズマブ(SYNAGIS(登録商標);米国特許第8,460,663号明細書及び同第8,986,686号明細書)、アンジオポエチン-2に対して指向される抗体(米国特許第8,507,656号明細書及び同第8,834,880号明細書);δ様タンパク質前駆体4(DLL4)に対して指向される抗体(米国特許第8,663,636号明細書;米国特許出願公開第2015/0005475号明細書;PCT国際公開第2013/113898号パンフレット);血小板由来増殖因子-α(PDGRF-α)に対して指向される抗体(米国特許第8,697,664号明細書);α-V-β-6インテグリン(αVβ6)に対して指向される抗体(米国特許第8,894,998号明細書;増殖・分化因子(GDF-8)に対して指向される抗体(米国特許第8,697,664号明細書)、ワクチンにおいて使用される酵素、ホルモン及び因子、並びに抗原タンパク質(例えば、インスリン、エリスロポエチン、成長ホルモン等)を含む。
【0051】
【表1-1】
【0052】
【表1-2】
【0053】
【表1-3】
【0054】
【表1-4】
【0055】
【表1-5】
【0056】
【表1-6】
【0057】
【表1-7】
【0058】
【表1-8】
【0059】
【表1-9】
【0060】
【表1-10】
【0061】
【表2】
【0062】
IV.本発明の医薬組成物の製剤
本発明の医薬組成物は、少なくとも当初は水性液体として典型的に処方されるであろうが、最も好ましくは、その後の凍結乾燥に好適である。そのような凍結乾燥の後の本発明の医薬組成物は、本明細書では「凍結乾燥物」と称される。
【0063】
本発明の医薬組成物の液体製剤は、好ましくは好適な無菌水性担体、高濃度(上記で定義した)のタンパク質生体分子、緩衝液、及び本発明の安定化化合物を含む。場合により、そのような本発明の医薬組成物の液体製剤は、追加の成分、例えば、薬学的に許容され得る、無毒賦形剤、緩衝液又は洗浄剤を含んでもよい。本発明の医薬組成物は、糖を欠いており、又は糖を実質的に含まない。
【0064】
本発明の医薬組成物中で使用され得る好適な無菌水性担体の例には、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、エタノール、右旋糖溶液、及び水/ポリオール溶液(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)が挙げられる。
【0065】
本発明に従って任意の好適な緩衝液を使用することができる。液体を約3~約11、より好ましくは約4~約9、より好ましくは約5~約8、より好ましくは約5~約7.5のpH範囲内に、より好ましくは5.0;5.1;5.2;5.3;5.4;5.5;5.6;5.7;5.8;5.9;6.0;6.1;6.2;6.3;6.4;6.5;6.6;6.7;6.8;6.9;7.0;7.1;7.2;7.3;7.4;7.5;7.6;7.7;7.8;7.9;又は8.0のpHに緩衝することが可能な緩衝液を使用することが好ましい。
【0066】
好適な緩衝液としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ヒスチジン、イミダゾール、クエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム及び炭酸アンモニウムが挙げられる。
【0067】
一般に、緩衝液は、約1mM~約2M、約2mM~約1M、約1mM~約100mM、約10mM~約50mM、約20mM~約30mM、又は約23mM~約27mM、最も好ましくは約5mM、10mM、15mM、20mM又は25mMのモル濃度で使用される。一実施形態では、緩衝液は、ヒスチジン/ヒスチジンHClであってもよい。ヒスチジンは、L-ヒスチジン、D-ヒスチジン、又はそれらの混合物の形態であってもよいが、L-ヒスチジンが最も好ましい。ヒスチジンはまた、水和物、又は薬学的に許容され得る塩、例えば塩酸塩(例えば、一塩酸塩又は二塩酸塩)、臭化水素酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の形態であってもよい。ヒスチジンの純度は、少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.5%でなければならない。
【0068】
本発明の組成物に含まれる安定化化合物の濃度は、好ましくは約1%(重量/体積(w/v))~約6%(w/v)、より好ましくは約2%(w/v)~約5%(w/v)又は約2%(w/v)~約4%(w/v))の範囲である。2~5%(w/v)アルギニン、2~5.5%(w/v)アラニン、及び2~5.5%(w/v)グリシン、又はそれらの混合物を含む安定化組成物が特に好ましい。
【0069】
ポリソルベート-80(「PS-80」)は、本発明の好ましい非イオン性界面活性剤及び乳化剤であるが、他の好適な非イオン性界面活性剤及び乳化剤(例えば、Tween-20(登録商標)、Tween-80(登録商標)、Polaxamers、ドデシル硫酸ナトリウム等)を代替的に又は更に使用することができる。
【0070】
(1)約75mg/mL、約25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、約3.5%アルギニン(w/v)、及び約0.02% PS-80(w/v)、pH6;
(2)約75mg/mL、約25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、約5%アルギニン(w/v)、及び約0.02% PS-80(w/v)、pH6;
(3)約100mg/mL、約25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、約4%アラニン(w/v)、約2%アルギニン(w/v)、及び約0.02% PS-80(w/v)、pH6;
(4)約100mg/mL、約25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、約4%グリシン(w/v)、約2%アルギニン(w/v)、及び約0.02% PS-80(w/v)、pH6;
を含む液体製剤が特に好ましい。
【0071】
液体製剤は、凍結乾燥されて、タンパク質生体分子を更に安定化することができる。任意の好適な凍結乾燥装置及びレジメンを使用することができるが、そのような凍結乾燥は、表3、表5又は表11に示すように達成することが好ましい。
【0072】
特に、そのような凍結乾燥後の再構成に続いて、本発明の医薬組成物の液体製剤は、更に、鉱物油又は植物油(例えば、オリーブ油、トウモロコシ油、ピーナッツ油、綿実油、及びゴマ油)、カルボキシメチルセルロースコロイド溶液、トラガカントガム、及びオレイン酸エチル等の注射用有機エステル等の非水性担体を含むことができる。
【0073】
本発明は、有効量の本発明の液体製剤を、最初に処方されたままで又は凍結乾燥物の再構成後に、対象に投与することによる、疾病又は病状、又はそれらの1種以上の症状の処置、予防、及び回復方法を提供する。
【0074】
様々な送達システムが既知であり、そのような液体組成物の投与に使用することができ、この送達システムには、非限定的に、非経口投与(例えば、皮内、筋内、腹腔内、静脈内及び皮下)、硬膜外投与、局所投与、経肺投与、及び粘膜投与(例えば、鼻腔内及び経口ミュート(mute))が挙げられる。特定の実施形態では、本発明の液体製剤は、筋肉内、静脈内、又は皮下に投与される。製剤は、任意の都合よいミュートにより、例えば注入又はボーラス注射により、上皮層又は皮膚粘膜層(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜等)を介した吸収により投与することができ、また他の生物学的に活性な薬剤と共に投与することができる。投与は、全身又は局所であってもよい。加えて、例えば吸入器又は噴霧器の使用により経肺投与を用いることができる。
【0075】
本発明は、最初に処方された液体医薬組成物が、中に含まれるタンパク質生体分子の量が示されている、アンプル、バイアル、カートリッジ、注射器又は小袋等の密封容器内に包装され得ることも提供する。そのような最初に処方された液体医薬組成物は、そのようなアンプル又は小袋内にある間に凍結乾燥されることが好ましく、アンプル又は小袋は、所望の高濃度のタンパク質生体分子を含むように凍結乾燥物を再構成するために添加される担体の量を示す。
【0076】
治療的又は予防的使用に有効であろう本発明の液体製剤の量。
【0077】
製剤において使用される正確な用量は、投与経路、処置される疾病又は病状、医薬組成物の特定のタンパク質生体分子にも依存し、開業医の判断及び各対象の環境に従って決定される必要がある。例示的な用量は、30mg/kg以下、15mg/kg以下、5mg/kg以下、3mg/kg以下、1mg/kg以下又は0.5mg/kg以下を含む。
【実施例
【0078】
以下の実施例は、本発明の組成物及びそれらの特性を説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を説明することを意図し、限定を意図するものでは全くない。
【0079】
実施例1
材料及び方法
凍結乾燥 - 1.1mLアリコートの医薬組成物を3ccガラスバイアル内に導入した。13mmの単一孔凍結乾燥ストッパーを用いてバイアルに栓をした。次いでバイアルを、表3に記載した凍結乾燥サイクルを用いて凍結乾燥した。
【0080】
【表3】
【0081】
凍結乾燥の終点は、ピラニ真空ゲージを使用して決定した(例えば、Patel、S.M.et al.(2009)“Determination of End Point of Primary Drying in Freeze-Drying Process Control,”AAPS Pharm.Sci.Tech.11(1):73-84参照)。そのようなゲージは、乾燥チャンバ内の気体の熱伝導率の測定の原理で働く(Nail、S.L.et al.(1992)“Methodology For In-Process Determination Of Residual Water In Freeze-Dried Products,”Dev.Biol.Stand.74:137-151;Biol.Prod.Freeze-Drying Formulation)。凍結乾燥サイクルの完了後、バイアルに真空栓をして、凍結乾燥機から取り出した。次いでバイアルの上部をWest 13mmアルミニウムFlip-Offオーバーシールで覆った。
【0082】
高性能サイズ排除クロマトグラフィー(HPSEC)-HPSECに先立って、HPSECサンプルを10mg/mLリン酸緩衝生理食塩水中で希釈した。サンプルをTSKgel G3000SWXLカラム上に注入し、硫酸ナトリウム及びアジ化ナトリウムを含有するリン酸緩衝液を用いて均一濃度で溶出した。溶出されたタンパク質を280nmのUV吸光度を用いて検出した。結果を、生成物モノマーピークの面積パーセントとして報告する。モノマーよりも早く溶出したピークはパーセント凝集体として記録し、モノマーの後に溶出したピークはパーセント断片/その他として記録する。
【0083】
再構成手順-使用に先立って、また一般に使用前の6時間以内に、無菌水を凍結乾燥バイアル内に注入し、次いでこれを穏やかにかき混ぜて、最小限の泡立ちで再構成を達成する。再構成には2つの再構成手順を使用した:手順A-全ケーキが溶液中に完全に溶解する迄、1分間かき混ぜた後、5分間保持する方法、及び手順B-全ケーキが溶液中に完全に溶解する迄、1分間保持した後、1分間かき混ぜる方法。
【0084】
実施例2
再構成時間及び医薬組成物のタンパク質凝集に対するアミノ酸対糖比の変動の影響
医薬組成物の調製、安定性及び貯蔵に対するそのような組成物中のアミノ酸対糖濃度の比の変動の効果を検討するために、例示的なタンパク質生体分子(ヒトIgG1モノクローナル抗体)を含有する医薬組成物を、異なるアミノ酸を異なるアミノ酸対糖比で含む製剤中でインキュベートした。より詳細には、医薬組成物を25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、0.02%(w/v)ポリソルベート-80(PS-80)、pH6緩衝液中、100mg/mLで、アルギニン-HCl、リシン-HCl、プロリン、アラニン又はグリシンを用いて、表4に示すアミノ酸対糖比で処方し、この調製物を、凍結乾燥製剤の再構成時間に対するその効果に関して評価した。
【0085】
【表4】
【0086】
製剤を表5の工程に従って凍結乾燥した。
【0087】
【表5】
【0088】
図1に、凝集及び再構成時間の結果をまとめる。リシン-HClを含む例示的なタンパク質生体分子を含有する上述の医薬組成物の全製剤は、長い、及びいくつかの場合には、許容不可能なほど長い再構成時間を有した。アルギニン、リシン-HCl又はプロリンを含有する医薬組成物の製剤は、工程中の凝集の増加を示さなかった。対照的に、アラニン及びグリシンを含有する医薬組成物の製剤は、工程中の凝集レベルの増加を示したが、非晶質内容物(ショ糖)の添加により、用いた比に応じて、この増加は、最小限となり又は防止された。結果は、アルギニン、リシン及びプロリンが、凝集に影響を与えることなく、ショ糖の代用となり得ることを示す。
【0089】
凍結乾燥製剤を粉末X線回折(XRPD)にも供して、凍結乾燥物の結晶化度を決定した。結果と再構成時間を表6に示す(分による再構成時間(RC);n=2;XRPD、n=1;A、非晶質;M、非晶質と結晶質との混合)。
【0090】
【表6】
【0091】
要約すれば、アルギニンを単独で含む例示的なタンパク質生体分子を含有する医薬組成物の製剤は、ショ糖のみの製剤と比較して有意に短い再構成時間を示した。アルギニン製剤に1%(w/v)のショ糖を加えた場合でも、再構成時間が増大した。アルギニンを有する全製剤は、XRPDにより測定して非晶質であった。アラニン又はグリシンを含有する医薬組成物の製剤は、ショ糖の非存在下、又は1%(w/v)ショ糖の存在下で急速な再構成を示したが、5%(w/v)及びより高いショ糖濃度の添加は、再構成時間を増大させた。アラニン又はグリシン及び0~1%(w/v)ショ糖を含有する医薬組成物の製剤は、XRPDにより非晶質と結晶質との生成物の混合物を示した一方、これらの製剤へのより多量のショ糖の添加は、XRPDにより決定して、非晶質マトリクスをもたらした。リシン又はプロリンを含有する医薬組成物の製剤は再構成が困難であり、従ってより長い再構成時間を有した。しかしながら、リシン-及びプロリン-含有製剤の全部は、XRPDにより決定して非晶質であった。これらの結果は、アルギニン、アラニン又はグリシンの存在が再構成時間を有意に短縮し得ることを示す。
【0092】
実施例3
高濃度タンパク質製剤における糖対アミノ酸比の最適化
実施例2に示したデータは、アラニン及びグリシンの両方が、単独で又は少量の糖の存在下で凍結乾燥した際、結晶化する傾向を有することを示す。糖対アミノ酸の比を最適化して(アラニン又はグリシンを使用して)、許容可能な安定性と短い再構成時間を有する非晶質凍結乾燥ケーキを得るために、以下の研究を実施した。様々なアミノ酸対糖比を有するアミノ酸/ショ糖製剤を、表7に示すようにアラニン及びグリシンの両方に関して調製した。製剤を表5に示した工程に従って、また-16℃で300分間のアニーリングを加えて、凍結乾燥した。凍結乾燥物をXRPDに供し、次いで再構成した。再構成時間、凍結乾燥前の溶液に対するパーセント凝集体増加、及び浸透圧を測定した。
【0093】
【表7】
【0094】
表8は、再構成時間及び凍結乾燥後の凝集体の増加に対するアミノ酸対糖比の効果をまとめる。結果は、製剤中の糖の増大が凍結乾燥工程中の凝集体の形成を防止するが、再構成時間を増大させることを示す。結果は、アミノ酸対糖比を調整することによる、凝集と再構成時間との間の許容可能なバランスを決定する指針を提供する。
【0095】
【表8】
【0096】
実施例4
高濃度タンパク質/アミノ酸製剤の評価
実施例2で観察されたように、アルギニン-HClを有する高濃度タンパク質製剤は、凍結乾燥中に非晶質のままであり、これは、アルギニン-HClが凍結保護剤及び凍結乾燥保護剤として作用し得ることを示す。加えて、アルギニン単独のタンパク質製剤は、短縮された再構成時間を示した。これらの特性のため、例示的なタンパク質生体分子を含有する上述した医薬組成物の一連の高濃度製剤において、アルギニンをアラニン及び/又はグリシンと組み合わせて評価した。この研究では、再構成時間に対するタンパク質濃度及びアミノ酸比の影響を評価した。評価された製剤は、表9にチェックマークを用いて示される(N/A、データなし)。表3に示した工程に従って製剤を凍結乾燥した。凍結乾燥物をXRPDに供し、次いで再構成した。再構成時間を測定した。
【0097】
【表9】
【0098】
様々な製剤の再構成時間を、図2に示す。これらのデータは、タンパク質濃度が再構成時間に対して影響を有したことを示す。タンパク質濃度が増大するにつれて、再構成時間が増大した。また、再構成時間の増大の程度は、製剤中に存在するアミノ酸のタイプ及び量により影響を受けた。3.5%(w/v)アルギニン及び5%(w/v)アルギニンの両方は、再構成時間に対して同様の影響を有した。
【0099】
4%グリシン(w/v)又は4%アラニン(w/v)と2%アルギニン(w/v)との組み合わせを含有する製剤は、100mg凍結乾燥製剤に関して、約10分に短縮された再構成時間を示した(即ち、溶質の他の組み合わせを使用して観察された再構成時間の約1/3~1/2)。また、再構成時間の短縮の程度は、アミノ酸比に依存した。例えば、2:1グリシン:アルギニン又はアラニン:アルギニンは、1:1グリシン:アルギニン又はアラニン:アルギニンよりも再構成時間の短縮に効果的であった。
【0100】
XRPD結果は、2:1グリシン:アルギニンを除いた全ての製剤が、非晶質であることを明らかにした(表10;A、非晶質;M、非晶質と結晶質との混合;N/A、データなし)。
【0101】
【表10】
【0102】
表10及び図2の結果に基づいて、以下の医薬組成物の凍結乾燥製剤を、その安定性に関して5℃、25℃ 60%相対湿度及び40℃ 75%相対湿度で評価した:
(1)75mg/mL、25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、3.5%アルギニン(w/v)、及び0.02% PS-80(w/v)、pH6;
(2)75mg/mL、25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、5%アルギニン(w/v)、及び0.02% PS-80(w/v)、pH6;
(3)100mg/mL、25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、4%アラニン(w/v)、2%アルギニン(w/v)、及び0.02% PS-80(w/v)、pH6;
(4)100mg/mL、25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、4%グリシン(w/v)、2%アルギニン(w/v)、及び0.02% PS-80(w/v)、pH6;
【0103】
凍結乾燥に先立って、1.1mLの上述した4種の製剤を、3ccバイアル内での無制御1x凍結/解凍(F/T)に供した(-80℃で凍結及び室温で解凍)。解凍前及び解凍後にHPSECを監視して、凍結/解凍サイクルの影響を研究した。凍結/解凍サイクルにおいて純度の有意な変化は観察されなかった。
【0104】
図3A及び3Bは、各々40℃及び25℃での凍結乾燥物の安定性を示す。安定性は、25℃で6カ月、及び40℃で3カ月監視した。25℃及び40℃の両方での純度損失率は、ショ糖含有製剤と同様であった。40℃での3カ月後、凍結乾燥医薬組成物製剤のサンプルをXRPD分析に提出した。XRPD分析に基づき、グリシンを含有するものを除いて、全製剤が非晶質であった。グリシン含有製剤は、非晶質と結晶質との成分の混合を示し、これは初期(T-0)観察と一致する。安定性も5℃で22カ月評価し、純度の変化は示されなかった。
【0105】
各製剤(凍結乾燥後)の10個のバイアルを再構成し、再構成時間を測定した。結果を図4に示す。全製剤の平均再構成時間は、15分未満であった。グリシンとアルギニンとの組み合わせを含む例示的なタンパク質生体分子を含有する医薬組成物の100mg/mL製剤は、再構成時間の短縮において最も有効であり、次はアラニンとアルギニンとの組み合わせであった。例示的なタンパク質生体分子を含有する医薬組成物の75mg/mL製剤に関しては、3.5%及び5%アルギニン(w/v)製剤の両方が許容可能な再構成時間を提供した。
【0106】
実施例5
再構成時間に対する分子タイプの影響の評価
再構成時間に対する分子タイプの影響を理解し、また任意のタンパク質生体分子に関連した本発明の普遍性を明らかにするために、代替的なタンパク質生体分子を使用して医薬組成物を調製した。詳細には、テネイシン-3-ヒト血清アルブミン(Tn3-HSA)融合タンパク質(例えば、PCT国際公開第2013/055745号パンフレット参照)、又は、上述した医薬組成物のヒトIgG1モノクローナル抗体の代わりに、ヒト化IgG4モノクローナル抗体を使用して医薬組成物を調製した。使用した製剤は、実施例4に記した4種のリード製剤であった(下記に繰り返す):
(1)75mg/mL、25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、3.5%アルギニン、0.02% PS-80、pH6;
(2)75mg/mL、25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、5%アルギニン、0.02% PS-80、pH6;
(3)100mg/mL、25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、4%アラニン、2%アルギニン、0.02% PS-80、pH6;
(4)100mg/mL、25mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl、4%グリシン、2%アルギニン、0.02% PS-80、pH6;
【0107】
追加の医薬組成物を示されるように処方し、表11の工程に従って凍結乾燥した。
【0108】
【表11】
【0109】
凍結乾燥物サンプルを様々な温度での安定性評価に提出する。サンプルのパーセント凝集をHPSECにより評価する。凍結乾燥後、サンプルを再構成した。2つの代替的手順の1つを使用して製剤を再構成した(手順AはヒトIgG1モノクローナル抗体で使用され、手順BはTn3-HSA融合タンパク質及びヒト化IgG4モノクローナル抗体で使用された)。IgG1抗体の再構成時間を図5Aに示す。Tn3-HSA融合タンパク質の再構成時間を図5Bに示す。IgG4抗体の再構成時間を図5Cに示す。3種の分子に関する再構成時間は、ショ糖のみの製剤と比較して有意に短く、全て15分以下であった。
【0110】
本明細書に言及した全ての刊行物及び特許は、各々の個々の刊行物及び特許出願が、その全体が参照により組み込まれることを詳細にかつ個別に示される場合と同じ程度まで参照により本明細書に組み込まれる。本発明はその特定の実施形態に関連して記載されてきたが、更なる修正が可能であり、本願は、概して本発明の原理に従う任意の変更、使用又は適用を包含することが意図され、前述した本質的な特徴に適合し得る、本発明が属する技術の既知の又は慣習的な実践の範囲内となる本開示からのそのような逸脱を含むことが理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】