(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】自動運転自動車両の操舵角を制御するための装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
B62D6/00
(21)【出願番号】P 2022519267
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2020076676
(87)【国際公開番号】W WO2021063787
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-25
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ゴンサレス バウティスタ, ダビド
(72)【発明者】
【氏名】ミラネス, ビセンテ
(72)【発明者】
【氏名】ナヴァス マトス, フランシスコ マーティン
【審査官】松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-183904(JP,A)
【文献】特開2019-077375(JP,A)
【文献】米国特許第06427130(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0233001(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両の操舵角を制御するための装置(1)であって、
自動運転モードにおける軌道に追従するように、前記車両のハンドルの回転角によって前記車両の誘導車輪の前記操舵角に作用する前記車両の操舵システム(15)の少なくとも1つのアクチュエータへのコマンドを出力として生成するように構成された横方向のコントローラ(14)を備え、
縦方向の勾配がなく横方向の傾斜がない道路状態を検出することができ、前記縦方向の勾配がなく横方向の傾斜がない道路状態が検出されたとき、前記横方向のコントローラに接続された自動のハンドル角度ズレ補整モジュール(16)に対して、車両の誘導車輪の現在の操舵角誤差値を出力として供給することができる軌道追従解析モジュール(11)
を更に備えることを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記横方向のコントローラ(14)の出力が、前記車両の所望の軌道から得られた所望のヨー角速度と、現在のハンドル角度の測定値が供給された車両モデルに基づいて推定された前記車両の現在のヨー角速度との間の誤差の極小化に基づくことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ハンドル角度ズレ補整モジュール(16)が、前記車両の軌道追従性能を分析するための前記モジュールによって供給される前記操舵角誤差値の関数として、前記誘導車輪の前記操舵角と前記ハンドル角度とのズレを即座に補整することができることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記ハンドル角度ズレ補整モジュール(16)が、前記車両の前記操舵システム(15)の前記アクチュエータの制御の補正を生成し、前記誘導車輪の前記操舵角と前記ハンドル角度との間の前記ズレを反復的に補整するために、前記現在のハンドル角度の測定値を補正し、補正されたハンドル角度の測定値が前記車両モデルへ戻されるように構成されることを特徴とする、請求項2または
請求項2に従属するときの請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記ハンドル角度ズレ補整モジュール(16)が、少なくとも1度のハンドル角度ズレの迅速な補正を許可することができる第1の設定モードと、1度未満のハンドル角度ズレに対応する第2の、細かい設定モードとの2つの設定モードを続けて適用するように構成されることを特徴とする、請求項3または4に記載の装置。
【請求項6】
前記車両のヨー角速度を測定することができる埋め込みセンサと、前記センサによって供給された前記ヨー角速度と前記車両モデルによって供給された前記ヨー角速度とを比較することができ、前記ハンドル角度ズレが補整されたときに2つの前記ヨー角速度を対応付けることができる、前記センサの補正モジュール(17)とを備えることを特徴とする、
請求項2または請求項2に従属するときの請求項
3から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記ハンドル角度ズレ補整モジュールが、前記第2の、細かい設定モードに従って動作するときに、前記センサの前記補正モジュールが起動されることを特徴とする、請求項5
に従属するときの請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記車両の前途の軌道上の道路の
前記縦方向の勾配および
前記横方向の傾斜の角度の値を検出し得る複数の測定装置を備え、受信した傾斜の角度および勾配の値がそれぞれの所定の閾値未満であるときに前記道路状態が確認されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記車両の横方向における車線維持誤差が車線の中心と前記車両の重心との差の測定値に基づいて算出されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の制御装置(1)を備えることを特徴とする自動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、完全に自動運転モードで動作する自動車両の操舵角を制御するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
完全に自動化された運転モードを提供する自動車両の自動運転支援システムの状況において、そのようなシステムの管理装置は、車両の縦方向の動きのコントローラ、および、車両の横方向の動きのコントローラから構成される。これらのコントローラは、車両の自動運転モードにおいて車両が計画された軌道に追従するように、加速装置、制動装置、および、車輪操舵システムに、それぞれ作用する、車両のアクチュエータへの、加速、制動、および、ステアリングのコマンド信号を生成することができる。
【0003】
ハンドル角度は、自動運転支援システムのための重要な要素である。したがって、ハンドル角度は、適切なコマンドによって操舵システムのアクチュエータを制御するために横方向のコントローラによって用いられる。ここで、工場における車輪とハンドルとの不十分なアラインメントに関連するソース欠陥から生じた結果であるにせよ、または、ステアリングコマンドを算出するために用いられた様々なセンサの経時劣化に関連する欠陥から生じた結果であるにせよ、供給されたハンドルの操舵角が正しくない可能性がある。これらの2つの状況のために、供給されるハンドル角度測定値が誤ったものになる可能性がある。特に、車両の車輪を完全に真直ぐに保つという事実が、それにもかかわらず、ハンドルの回転角のゼロでない測定値を生じさせ得る。そのような偏りは、結果として事故を発生させる可能性がある。そのような誤差は、人間のドライバが容易に適応することができるハンドルの小さい回転角に作用するので、この問題は人間のドライバによって制御される車両においては考慮されない。しかしながら、このことは、自動運転を有する車両においては重要な役割を果たす。
【0004】
実際、自律的車両の横方向の動態の自動制御を可能にするために、アクチュエータに送られるコマンドは、正確でなければならず、車両の所望の軌道に正しく合わせられなければならない。このことを実行するため、横方向のコントローラが、車両の車輪の如何なるミスアラインメントにも、または、車両の操舵システムに作用するアクチュエータを対象とするコマンドを算出する際に用いられる様々なセンサの偏りにも、適応し得ることが重要である。
【0005】
特許文献DE102008026233は、単一軌道モデルタイプの車両モデルの使用に基づく、ハンドル角度ズレ補整モジュールを開示している。このモジュールによれば、車両のヨー角速度が、検出されたハンドル角度の、車両の速度の、そして、推定されたハンドル角度ズレの関数として算出される。それから、正当に算出されたヨー角速度は、埋め込まれたセンサによって測定されたヨー角速度と比較され、算出されたヨー角速度値と測定されたヨー角速度値との差から導き出された誤差はハンドル角度ズレとして車両のモデルに戻され、ハンドル角度ズレを決定し、反復的に補整する。こうして、ハンドル角度ズレの決定は比較的迅速に実行され得る。しかしながら、この装置についての欠点は、このズレの補整が、可能性がある車輪アラインメント不足を考慮するだけでなく、道路の傾斜をも考慮するという点である。このことにより、ロールまたは傾斜角が常に変化する平坦でない道路上において望ましくない挙動に導かれ得る。この場合、用いられるモデルの有効性の範囲は、操舵システムのアクチュエータ制御則のロバスト性を損なうほどに制限される。換言すれば、このハンドル角度ズレ補整装置は、高度な運転支援システムを一層指向するものであるが、このハンドル角度ズレ補整装置は(人間の運転者のいない)完全に自律的なモードで車両の運転を制御するシステムにおける適用に適していない。
【発明の概要】
【0006】
この状況において、本発明の目的は、上述の制限なしに、ハンドル角度のズレを補整することを可能にする装置を提供することである。
【0007】
このために、本発明は、自動車両の操舵角を制御するための装置を提案する。この装置は、自動運転モードにおける軌道に追従するように、前記車両のハンドルの回転角によって前記車両の誘導車輪の前記操舵角に作用する前記車両の操舵システムの少なくとも1つのアクチュエータへのコマンドを出力として生成するように構成された横方向のコントローラを備える。前記装置は、縦方向の勾配がなく横方向の傾斜がない道路状態を検出することができ、そのような道路状態が検出されたとき、前記横方向のコントローラに接続された自動のハンドル角度ズレ補整モジュールに対して、車両の誘導車輪の現在の操舵角誤差値を出力として供給することができる軌道追従解析モジュールを、更に備えることを特徴とする。
【0008】
ハンドルと車両の誘導車輪とのアラインメント不足、または、センサのハードウェア性能低下に関連するあらゆるハンドル角度ズレを、自律モードで運転するときに自動的かつリアルタイムで識別し除去することを、本発明は上記の構成によって可能にする。したがって、手動で車両の操舵システムを再調整する必要が避けられ、メンテナンス時間、したがってコストに関してかなりの節減を提供する。
【0009】
有利であることに、前記横方向のコントローラの出力は、車両の所望の軌道から得られた所望のヨー角速度と、現在のハンドル角度の測定値が供給された車両モデルに基づいて推定された車両の現在のヨー角速度との間のヨー誤差の極小化に基づく。
【0010】
有利であることに、ハンドル角度ズレ補整モジュールは、車両の軌道追従解析モジュールによって供給される操舵角誤差値の関数として、誘導車輪の操舵角とハンドル角度とのズレを即座に補整することができる。
【0011】
有利であることに、ハンドル角度ズレ補整モジュールが、車両のハンドルシステムの上記アクチュエータの制御の補正を生成し、誘導車輪の操舵角とハンドル角度との間のズレを反復的に補整するために、現在のハンドル角度の測定値を補正し、補正されたハンドル角度の測定値が車両モデルへ戻されるように構成される。
【0012】
好適には、ハンドル角度ズレ補整モジュールが、少なくとも1度のハンドル角度ズレの迅速な補正を許可することができる第1の設定モードと、1度未満のハンドル角度ズレに対応する第2の、細かい設定モードとの2つの設定モードを続けて適用するように構成される。
【0013】
有利であることに、装置は、車両のヨー角速度を測定することができる埋め込みセンサと、このセンサによって供給されたヨー角速度と車両モデルによって供給されたヨー角速度とを比較することができ、ハンドル角度ズレが補整されたときに2つのヨー角速度を対応付けることができる、前記センサの補正モジュールとを備える。
【0014】
有利であることに、ハンドル角度ズレ補整モジュールが、前記第2の、細かい設定モードに従って動作するときに、前記センサの前記補正モジュールが起動される。
【0015】
有利であることに、車両の前途の軌道上の道路の勾配および傾斜の角度の値を検出し得る複数の測定装置を備え、受信した傾斜の角度および勾配の値がそれぞれの所定の閾値未満であるときに前記道路状態が確認される。
【0016】
有利であることに、車両の横方向における車線維持誤差が車線の中心と車両の重心との差の測定値に基づいて算出される。
【0017】
本発明は、更に、上述のような制御装置を備えることを特徴とする自動車両に関する。
【0018】
本発明の他の特徴および利点は、例証である非限定的な例として提示される以下の説明を、添付の図面を参照して読むことにより、より明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の制御装置のアーキテクチャを示す図である。
【
図2】本発明の制御装置の典型的な実装形態を例示するために車両によって追従される軌道の1つの例を示す図である。
【
図3】
図2に例示される車両の軌道に対する、ハンドル角度ズレの、時間の関数としての、傾向を示すグラフである。
【
図4】
図2の軌道に沿う車両の横方向の軌道追従誤差の、時間の関数としての、傾向を示すグラフである。
【
図5】車両に埋め込まれたセンサによって測定され、車両モデルを使用して算出されたヨー角速度の、時間の関数としての、傾向を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照して、車両の誘導車輪の操舵角を補整するための装置1は、路面車線標識を検出するための埋め込み装置10を含む。埋め込み装置10は、例えば、自動車両の正面方向に向けられた埋め込みカメラであり得、例えば、車両の前方のシーンの複数の画像を獲得することを可能にし、かつ、自動車両の前方の路面標示を検出することが可能であるように、フロントガラスの上部の、車両の屋根との接合箇所に、または、車両内部のバックミラーの後ろ側にさえ、取り付けられる。
【0021】
カメラの使用の変形において、道路の限界をエレクトロニックホライズン(electronic horizon)まで検出し得る他の任意の埋め込み検出装置を使用することが可能であろう。「エレクトロニックホライズン」という表現は、車両がこれからその中を走行しそうな道路環境に関係する全ての情報、すなわち、実際には、この埋め込み検出装置によって許される最大の視界を意味すると理解される。
【0022】
カメラ10は処理ユニットと関連付けられている。処理ユニットは、カメラによって供給される画像のストリームを読み出し、画像処理技術によって分析し、特に、車両によって追従される車線に沿って位置する地上の路面標示ラインを検出する。処理ユニットはまた、検出された標識の関数として、道路アラインメントに関係する情報、特に、車線の数、境界線の幅、中央車線の方への横方向のズレ、軌道曲率のプロファイルを供給するように構成されている。
【0023】
道路アラインメントに関係するこの情報は車両軌道追従解析モジュール11へ供給される。車両軌道追従解析モジュール11の役割は以下に詳述されるが、車両軌道追従解析モジュール11はまた、車両の慣性測定ユニット12によって供給された、道路の縦方向の勾配および横方向の傾斜(または、バンキング)の角度を入力データとして受信する。そして、車両軌道追従解析モジュール11は、前途の軌道の縦方向の勾配および横方向の傾斜の角度を検出することができる測定装置を含む。
【0024】
車両は、また、車両の様々な装備品(ハンドル、操舵システム、制動装置等)に配置され、車両の動的挙動に関係する情報、特に、車両の速度、方位角、加速度、ヨー角速度等の情報を供給することができる1組の埋め込みセンサ13を備えている。車両の動的挙動に関係するそのような情報もまた軌道追従解析モジュール11へ入力として供給される。
【0025】
道路アラインメントに関係する情報および車両の動的挙動に関係する情報は、自律モードの車両の制御モジュールに供給される。制御モジュールは、特に、横方向のコントローラ14を含む。横方向のコントローラ14は、上記の情報から、アクチュエータ、特に、車両の操舵システム15の少なくとも1つのアクチュエータへのコマンド信号を生成することができる。操舵システム15の少なくとも1つのアクチュエータは、車両のハンドルの回転角によって車両の誘導車輪の操舵角に作用して自律モードの車両の操舵を可能にする。すなわち、運転者の動作なしで、例えば、アクチュエータへのコマンド信号が車両を車線の中央に維持することを目的とする中央車線維持制御策を適用することによって、自律モードの車両の操舵を可能にする。
【0026】
自律モードの車両の制御モジュールはまた、縦方向のコントローラ(図示されない)を含む。縦方向のコントローラは、入力として受信した情報から、アクチュエータ14、特に、車両の複数の縦方向制御システムの少なくとも1つのアクチュエータに対する縦方向の動きのコマンド信号を生成することができる。
【0027】
こうして、車両の縦方向の配置については、縦方向のコントローラが、車両の制動および加速アクチュエータを制御するために用いられる。車両の横方向の配置については、車両の横方向のコントローラが、例えば、車両を車線の中央に保つように、車輪の操舵角を制御するべく車両のハンドルシステムのアクチュエータを制御するために用いられる。
【0028】
補整装置1において用いられる横方向のコントローラ14の動作は、以下に更に詳細に記載される。
【0029】
横方向のコントローラの出力は、車両の現在の軌道と車両の所望の軌道との間の車両のヨー角速度の極小化に基づく。所望の軌道は、車両の所望の軌道に対応する1組の経路点を生成するように、埋め込みカメラと関連付けられた処理ユニットから導き出された道路アラインメントに関係する情報の関数として、算出される。したがって、実装される調節は、算出された所望の軌道から得られ「YawRateDesired」で示される所望のヨー角速度と、車両の1つのモデルに基づいて推定され「YawRateMeasuredFromModel」で示される、車両の現在のヨー角速度との間のヨー誤差を極小化することを目的とする。この調節は、以下の式によって定義される。
ΔSteeringWheelAngle=YawRateDesired-YawRateMeasuredFromModel
【0030】
横方向のコントローラ14の出力は、中央車線維持制御策を適用することによって車両の操舵システム15へ供給される。上記のように、横方向のコントローラは車両モデルを使用して現在のヨー角速度を算出する。このことは、特にアクチュエータの、そして、ヨー速度センサの応答時間に関連するシステムの遅延を補整することを可能にし、したがって、システムの応答性を向上させる。
【0031】
車両の現在の角速度を推定するために用いられる車両モデルは以下の通りに定義される。
Y
v=C
vX
v
ここで、u
vはハンドル角度コマンド、そして、X
vは状態ベクトルであり、以下のように定義される。
X
v=[y
vv
yψ
vω
v]
ここで、y
vは車両の横方向の位置、v
yは車両の横方向の速度、ψ
vは車両のヨー角、そして、ω
vは車両のヨー角速度である。
【0032】
マトリックスA、BおよびCは、以下に記載されている。
C
v=[0 0 0 1]
ここで、C
fおよびC
rはそれぞれ前輪および後輪のコーナリングスティフネスに対応し、v
xは車両の速度、mは車両の重量、l
zは垂直軸Z廻りの慣性モーメント、そして、aおよびbは車両の重心から前輪の軸および後輪の軸それぞれまでの距離である。
【0033】
ヨー角速度を推定するために横方向のコントローラにより用いられる上述のモデルには、ハンドル角度の現在の測定値および車両の速度が供給される。
【0034】
次いで、可能な軌道追従誤差が縦方向の勾配を有する道路構成または横方向の傾斜角を有する道路構成によらない運転状況を分離しようとする。この分離をするために、完全に平坦で真直ぐである、すなわち、縦方向の勾配または横方向の傾斜の角度がないか、または、全体として無視できる道路区間を分離するべく、縦方向の勾配または横方向の傾斜の角度が重要と思われる道路構成を識別するために、慣性測定ユニット12によって供給されたデータは車両の軌道追従解析モジュール11によって用いられる。
【0035】
前述のように、道路アラインメントに関係する情報、車両の動的挙動に関係する情報、ならびに、道路の縦方向の勾配および横方向の傾斜の角度データは結合され、車両の軌道追従解析モジュール11へ供給される。車両の軌道追従解析モジュール11は、車両の横方向における車線維持誤差を検出し、更に、起こり得る誤差の影響を分別することを意図して道路状態を識別するために設けられている。
【0036】
車両の横方向における車線維持誤差は、車線の中心と車両の重心との間の、車線の中心に対して直角の方向の、距離の測定に基づいて算出される。
【0037】
また、解析モジュール11の役割は、真直ぐで平坦である、すなわち、横方向の傾斜角および縦方向の勾配値が無視され得る)道路区間上の運転状況を検出することである。受信された傾斜角および勾配値が所定のそれぞれの閾値より低いときに、これらの道路区間は識別される。これらの条件において、車線維持誤差が検出される場合、この誤差は専ら誘導車輪の操舵角と、ハンドル角度位置センサで決定されるハンドルの回転角との間のズレだけから生じると考えられる。このズレが、工場における車輪とハンドルとのアラインメント不足に関連するにせよ、ステアリングコマンドを算出するために用いられる様々なセンサの経時的なハードウェア劣化に関連するにせよである。換言すれば、これらの特定の道路条件が満たされる、すなわち、車両が真直ぐで平坦な道路区間を走行しているときにのみ、ハンドル角度ズレの補整が許可される。
【0038】
この場合、車両の横方向における車線維持誤差が検出される場合、軌道追従解析モジュール11は、車線維持軌道に対して検出された横方向の差に基づいて、自動ハンドル角度補整モジュール16に車両の誘導車輪の操舵角誤差値を出力として供給する。
【0039】
したがって、モジュール11は、車両の車線維持において起こり得る横方向の誤差を識別するために、常に車両の車線維持性能をモニタし、縦方向の勾配および横方向の傾斜の角度の値がそれぞれ所定の閾値未満である、平坦で真直ぐな道路上の運転状況の存在に関する条件によって、まさに誘導車輪の操舵角とハンドルの回転角との間のズレに起因する横方向の誤差を分離することを可能にする。したがって、誘導車輪の操舵角とハンドルの回転角との間のズレのうち、車線維持の欠陥による部分を、道路の横方向の傾斜角および/または縦方向の勾配による部分から区別することができる。
【0040】
自動ハンドル角度補整モジュール16は、横方向のコントローラ14に接続され、2つのズレ設定モードを検出された操舵角誤差値に応じて適用するように設計されている。第1の設定モードは、検出された誤差が有意である状況に対応する。有意な誤差は、誘導車輪の操舵角とハンドル角度との間の誤差が1度より大きい状況であると理解される。この場合、ハンドル角度ズレは、例えば、1度のステップで直接補正される。第2の設定モードは、1度未満の小さいハンドル角度ズレのための、1度以内の、より細かい設定モードに対応する。したがって、補整モジュール16は、横方向のコントローラ14に補整値を供給し、測定されたハンドル角度値と、誘導車輪の操舵角に作用するアクチュエータに対するコマンドとの両方を、車輪の操舵角とハンドル角度との間のズレを補整するように補正することを可能にする。
【0041】
この原理は
図3を参照して例示される。
図3は、
図2にてX-Y基準フレーム内に図示したような車両の軌道に対する、ハンドル角度ズレの傾向の1つの例を時間の関数として示す。この例によれば、ハンドル角度ズレは、-2度のズレを有するように手動で調整された。(すなわち、車両の誘導車輪を真直ぐに保つことが目的であるならば、ハンドルは右へ2度回転されなければならない。)本発明の原理をよりよく例示するために、ハンドルの操舵角の初期ズレは意図的に-10度に移動された。(すなわち、車輪の真直ぐな位置は、10度右に回転されたハンドルの位置に対応する。)
【0042】
図4は、
図2の軌道に沿う試験の継続時間の全体にわたって、車両の横方向における軌道追従誤差の傾向を時間の関数として示す。約10秒経過時に、真直ぐで平坦な道路区間が検出され、そのとき、システムはハンドル角度ズレ値を補正する許可を与えられる。この目的のために、ズレは、直接に1度補正され、この例によれば-10度から-9度へ変化する。次に、車両は1つのカーブにおいてハンドル角度ズレが-9度のこの値に設定されたままに留まるように継続する。ハンドル角度のズレのこの補正の影響は、横方向における軌道追従誤差の傾向において明らかに認められ得る。次いで、軌道追従誤差は約22cmに維持され、初期の軌道追従性能は既に改善している。
【0043】
20秒経過時と25秒経過時との間に平坦で真直ぐな道路状態が検出され、そのとき車両は再びハンドル角度ズレを補正する許可を与えられる。それから、この補正は第1のズレ設定モードに従って1度きざみのステップで実行され、横方向における軌道追従誤差をほぼ0まで減少させる。補正の後、-4度のズレ値が得られる。
図3において20秒経過時と25秒経過時との間に走行した軌道部分は、2つのカーブの間に延びる小さい真直ぐで平坦な道路区間であることを示すということが分かる。このことは、この第1のズレ設定モードによって、迅速にハンドル角度ズレを補正するシステムの能力を示す。25秒経過時後に、車両は再びカーブに入り、ズレの補正はもはや許可されない。この位置まで、自動ハンドル角度補整モジュール16は、第1のズレ設定モード、すなわち、細かい設定のないモードを採用する。換言すれば、細かい設定モードを使用することによるズレの補正のための閾値は、まだ起動していない。
【0044】
35秒経過時後に再び、平坦で真直ぐな道路区間が検出され、ズレはまず最初に直接1度だけ補正され、この例によれば-3.5度から-2.5度へ変化する。それから、自動ハンドル角度補整モジュール16は、細かい設定モードを適用して、ハンドル角度のズレを補正する。手動調整による実際の値は-2度であるが、実際には、現在ズレ値は約-2.5度である。この細かい設定モードは、35秒経過時から60秒経過時までの、真直ぐで平坦な道路状態がまだ検出されている期間において維持され、-2度の値に近付けることによってズレを僅かに補正することを可能にする。
図4を参照すると、ハンドル角度ズレが補整されるこの期間に横方向における車線維持誤差が10センチメートル未満で維持されることが分かる。
【0045】
したがって、真直ぐで平坦な道路状態の事前の観測確認によって一旦ズレの補正が許可されると、誘導車輪の操舵角とハンドルの回転角との間に新しい制御則を定めるようにズレがリアルタイムで段階的に補正される。
【0046】
一旦上記のズレが完全に補整されると、埋め込みヨー角速度センサにおけるズレもまた点検され、それに対応してそのセンサによって供給される値を適応させて車両のコントローラに供給する。
【0047】
補整モジュール16は、ヨー角速度センサの補正モジュール17とも接続される。事実、初期のハンドル角度ズレのため、モデルによって供給されるヨー角速度と埋め込みセンサによって供給されるヨー角速度との間にズレが存在する。したがって、このズレのために、埋め込みヨー角速度センサを再調整することが必要である。
【0048】
こうして、ヨー角速度センサの補正モジュール17は、2つのタイプのヨー角速度測定値、それぞれ、モデルによって供給されるヨー角速度
および埋め込みセンサによって供給されるヨー角速度
を比較するために設けられている。ヨー角速度センサの補正モジュール17はデータフィルタおよび時間遅延補整を実装し、センサによって得られたヨー角速度に対する、モデルから得られるヨー角速度の位相のずれを除去することを可能にすることによって、モデルおよびセンサの2つのシステムを対応付ける。2つのタイプの測定値の間にズレが生じた場合、埋め込みヨー角速度センサは、
図5に示されるように、2つのタイプの測定値を対応付けるように、このズレの関数として再調整される。自動ハンドル角度補整モジュール16が第2の、細かい設定モードで動作しているときに(すなわち、この例では約30秒後に)補正モジュール17が動作し始める。
【0049】
したがって、この段階で、ハンドル角度ズレは大きく補整され、車両は計画された軌道に正しく追従し、横方向における軌道追従誤差は大きく減らされている。この状況では、埋め込みヨー角速度センサの補正モジュール17は、センサによって供給される値とモデルによって供給される値とが一致するまで、センサによって供給される測定値におけるあらゆるズレを調整することを可能にする。このことはセンサが完全に調整されることを示す。次いで、センサの補正モジュール17からの出力として供給される補正されたヨー角速度値は、横方向のコントローラ14へ供給するために用いられる。完全な調整を確実にするために、完全自動運転モードのハンドル角度ズレが一旦補正されると、埋め込みヨー角速度センサのこの補正は常に実行される。
【0050】
したがって、完全自動運転モードで動作している車両の横方向のコントローラの性能は、その応答を評価するために、モジュール11によって、道路アラインメントの関数としてリアルタイムに分析される。軌道追従の性能の低下が観察された場合、この低下がハンドルと誘導車輪とのミスアラインメントのため発生するときにのみ、操舵角に対して補整が実行され、自律モードにおいて最適な車両横方向制御性能を確実にする。特に、起こり得る全ての、操舵システムの経時的な機械的劣化を考慮して、この補整は車両の軌道追従性能に関して常に点検される。
【0051】
加えて、自律車両が計画された軌道に正しく追従するときを含めて、埋め込みヨー角速度センサもまた、その調整において起こり得るあらゆる偏りを補正し、それに応じてその応答を適合させるべく、点検される。