(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】ブレーキ本体及び制動装置
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20240823BHJP
F16D 65/10 20060101ALI20240823BHJP
C22C 45/02 20060101ALI20240823BHJP
C23C 4/06 20160101ALN20240823BHJP
C23C 4/129 20160101ALN20240823BHJP
【FI】
F16D65/12 S
F16D65/12 E
F16D65/12 M
F16D65/10
C22C45/02 Z
C23C4/06
C23C4/129
(21)【出願番号】P 2022543583
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 KR2021000569
(87)【国際公開番号】W WO2021145709
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0006342
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】チョ,グン サン
(72)【発明者】
【氏名】キム,チュンニョン ポール
(72)【発明者】
【氏名】チェ,クワン ミン
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0242405(US,A1)
【文献】特開平07-278756(JP,A)
【文献】特開昭46-002706(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0304063(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0184164(US,A1)
【文献】特表2016-503149(JP,A)
【文献】岸武勝彦,耐食・耐摩耗性に優れた鉄非結晶溶射皮膜の開発,まてりあ,日本,(公社)日本金属学会,2001年04月20日,2001年40巻第4号,331-334,https://doi.org/10.2320/materia.40.331
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 35/00-45/10
C23C 4/00-6/00
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動装置に備えられるブレーキ本体であって、
前記ブレーキ本体は、駆動軸に連結される結合部;及び
前記結合部の外周面に連結されるロータと、前記ロータの表面に備えられるコーティング層を有する制動部;を含み、
前記コーティング層は、粒度が10μm~100μmである非晶質合金を含み、熱膨張係数が前記ロータの熱膨張係数の1.0倍~1.4倍であり、
前記非晶質合金はFeを含み、
Cr、Mo及びCoからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第1成分;
B、C、Si及びNbからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第2成分;及び
W、Y、Mn、Al、Zr、Ni、Sc及びPからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第3成分を含み、
前記非晶質合金は、Fe100重量部に対して、
前記第1成分を30~140重量部、
前記第2成分を4~20重量部、
前記第3成分を1.125重量部未満で含む、ブレーキ本体。
【請求項2】
前記ロータは鉄系合金を含む、請求項1に記載のブレーキ本体。
【請求項3】
前記コーティング層のビッカース硬度は700~1,200Hvである、請求項1に記載のブレーキ本体。
【請求項4】
前記コーティング層は気孔率が0.1%~1.0%である、請求項1に記載のブレーキ本体。
【請求項5】
前記コーティング層の厚さは50μm~400μmである、請求項1に記載のブレーキ本体。
【請求項6】
前記コーティング層は、前記ロータの表面に鉄系非晶質合金粉末を溶射して備えられる、請求項2に記載のブレーキ本体。
【請求項7】
駆動軸を含んで駆動される機械を制動する制動装置であって、
駆動時に前記駆動軸と結合して回転する結合部と、前記結合部の外周面に連結される制動部とを有するブレーキ本体;及び
前記制動時に前記ブレーキ本体に向かって変位して前記ブレーキ本体と接触し、前記制動部と摩擦する摩擦手段;を含み、
前記制動部は、前記結合部と連結されるロータ及び前記ロータの表面に備えられるコーティング層を含み、
前記コーティング層の熱膨張係数は、前記ロータの熱膨張係数の1.0倍~1.4倍であり、粒度が10μm~100μmである非晶質合金を含み、
前記非晶質合金は、
Feを含み、
Cr、Mo及びCoからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第1成分;
B、C、Si及びNbからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第2成分;及び
W、Y、Mn、Al、Zr、Ni、Sc及びPからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第3成分を含み、
前記非晶質合金は、Fe100重量部に対して、
前記第1成分を30~140重量部、
前記第2成分を4~20重量部、
前記第3成分を1.125重量部未満で含む、制動装置。
【請求項8】
前記ロータは鉄系合金を含む、請求項
7に記載の制動装置。
【請求項9】
前記ロータはディスク型であり、前記ロータの少なくとも一側の表面に前記コーティング層が備えられる、請求項
7または
8に記載の制動装置。
【請求項10】
前記ロータはドラム型であり、前記ロータの内周面に前記コーティング層が備えられる、請求項
7または
8に記載の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、車両または駆動装置に使用できる制動装置及びこれに含まれるブレーキ本体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、制動装置とは、車両や機械装置の運転速度を調節し、制御するための装置を通称するものであり、制動力を提供するメカニズムに応じてドラムブレーキとディスクブレーキとに大分される。
【0003】
ドラム式ブレーキは、流体の圧力によってピストンを加圧し、上記ピストンの動きに応じてブレーキシュー(brake shoe)がドラムに圧着されて制動力が作用することを特徴とするが、放熱性能が良くないため、最近のほとんどの車両ではドラム式ブレーキより放熱性能に優れたディスクブレーキが使用される傾向にある。
【0004】
ディスクブレーキには、回転体(ディスク)及び上記回転体の回転を停止させるためのブレーキパッドを有する本体が含まれる。上記ディスクブレーキは、風力発電用ブレーキ装置、車両用ブレーキ装置及び一般(建設)機械用ブレーキ装置などに使用されることができる。
【0005】
車両に使用されるブレーキ装置は、車両の性能及び乗員の安全に影響を及ぼし得る腐食、摩耗及び変形(distortion)のような問題に対して脆弱である。例えば、摩擦表面上の腐食は、ブレーキ中に騒音及び/または振動をもたらす。従来の鋳鉄ブレーキディスクは、このような腐食問題に対して脆弱であり、重量が相対的に重く、鋳鉄ブレーキよりも軽いブレーキディスクは、車両のばね下重量(unsprung weight)を減少させ、車両の改良されたハンドリングといった利点を提供することができる。したがって、改善された熱、摩耗及び腐食の特性を有し、減少した質量を有する車両用ブレーキディスクが継続的に研究及び使用されるものと予想される。
【0006】
腐食及び摩擦に対する耐性を向上させ、改善された特性を持たせるための方法として、ディスク自体に使用できる新たな素材を研究するよりも、コーティングなどの表面処理による表面特性を改善させることが容易であり、経済的な方法にて多く研究されている。車両コンポーネントをコーティングするための従来のプロセスは、従来の熱処理(例えば、軟窒化処理(FNC;ferritic-nitro carburizing))を含む。鋳鉄ブレーキディスクを塩浴(salt bath)に液浸する熱処理は、改善された酸化及び耐食性を有する、化学的に変形された表面をもたらす。しかし、このようなプロセスは部品全体の加熱及び急冷を必要とし、これは熱変形(distortion)を引き起こす可能性がある。このプロセスは、車両コンポーネントに、コーティングされた表面を提供することができるのであるが、熱変形(distortion)は、寸法安定性及びプロセス中のスクラップの結果に悪影響を及ぼす。
【0007】
他の従来技術の方法は、アルミニウムコアと、ステンレス鋼シートとの間に拡散接合(diffusion bond)を生成するための方法を提供する。しかし、拡散接合は、プロセスに関連する技術的な難題及び制限を有する。例えば、拡散接合時における高圧ローリングに対する要件は、このようなプロセスの平坦なディスクへの適用を制限する。逆に、任意の形状の材料及びコンポーネント(例えば、ロータ)に適用可能なプロセスを有することが有用であるといえる。また、拡散は、通常、かなりの時間にわたっての高い熱及び圧力を必要とする。高圧を必要とせずに熱がベース材料の最小領域に移動する時間効率的なプロセス(Time-efficient processes)も有用であるといえる。このような改善が好ましいが、拡散接合プロセスを代替可能なプロセス、例えば、噴射された金属の使用で代替することに関連する更なる難題が存在する。例えば、関連技術は、金属噴射が、金属ベースと噴射-コーティングされた金属との間の分離により、満足のいく製品が導出されないことがあることを教示しているが、具体的に、噴射-コーティングされた金属は欠片内で剥がれる可能性があり、例えば、拡散接合プロセスに従って準備された積層シートの一体性に欠ける可能性がある。
【0008】
さらに、新たなコーティング方法は、車両部品の摩耗(例えば、ブレーキロータの摩耗)の新たな表示子(indicator)を許容することができる。例えば、関連技術の摩擦ディスクは、耐摩耗層、及び一体型の摩耗表示を特徴として:耐摩耗層が摩耗される場合、少なくとも一つの区別される特徴、色または質感を有する表示表面エレメントが露出することで、摩擦ディスクが露出したことを知らせる。しかし、ブレーキ摩耗表示子は、ブレーキディスクに直接に統合されず、長時間の後処理を必要とする。金属に直接統合された摩耗表示子を導出する新たなコーティング方法は、例えば、製造プロセスにおいて、相当な効率を提供することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面は、腐食及び摩耗に対する改善された耐久性を有し、粉塵及び微細粉塵の排出が低減され、寿命が延長し、製造コストを節減することができ、量産型車両等に適用できるブレーキ本体及びこれを含む制動装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、制動装置に備えられるブレーキ本体であって、上記ブレーキ本体は、駆動軸に連結される結合部;及び上記結合部の外周面に連結されるロータと、上記ロータの表面に備えられるコーティング層とを有する制動部;を含み、上記コーティング層は非晶質合金を含み、熱膨張係数が、上記ロータの熱膨張係数の1.0倍~1.4倍である、ブレーキ本体である。
【0011】
ここで、上記非晶質合金はFeを含み、Cr、Mo及びCoからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第1成分;及びB、C、Si及びNbからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第2成分;を含むことがよく、上記ロータは鉄系合金を含むことがよく、上記コーティング層は、100Nの条件で測定した平均摩擦係数が0.001~0.08であることがよく、上記コーティング層のビッカース硬度は700~1,200Hvであることが好ましい。
【0012】
また、上記コーティング層は気孔率が0.1%~1.0%であることがよく、上記コーティング層の厚さは50μm~400μmであることがよく、上記コーティング層は、上記ロータの表面に、鉄系非晶質合金粉末を溶射して備えられることが好ましい。
【0013】
このとき、上記ロータはディスク型であり、上記ディスクの少なくとも一側の表面に上記コーティング層が備えられるブレーキ本体、または、上記ロータはドラム型であり、上記ロータの内周面に上記コーティング層が備えられるブレーキ本体であることが好ましい。
【0014】
本発明の他の側面は、駆動軸を含んで駆動される機械を制動する制動装置であって、駆動時に上記駆動軸と結合して回転する結合部と、上記結合部の外周面に連結される制動部とを有するブレーキ本体;及び、上記制動時に上記ブレーキ本体に向かって変位して上記ブレーキ本体と接触し、上記制動部と摩擦する摩擦手段;を含み、上記制動部は、上記結合部と連結されるロータ及び上記ロータの表面に備えられるコーティング層を含み、上記コーティング層の熱膨張係数は、上記ロータの熱膨張係数の1.0倍~1.4倍であり、非晶質合金を含む、制動装置である。
【0015】
ここで、上記非晶質合金は、Feを含むとともに、Cr、Mo及びCoからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第1成分;及びB、C、Si及びNbからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第2成分;を含むことがよく、上記ロータは鉄系合金を含むことがよく、上記ロータはディスク型であって、上記ロータの少なくとも一側の表面に上記コーティング層が備えられるか、または、上記ロータはドラム型であって、上記ロータの内周面に上記コーティング層が備えられる制動装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施例に係るブレーキ本体は、制動時に摩擦が生じる制動部に、非晶質合金コーティング層が形成され、従来のブレーキ本体に比べて表面における低い摩擦係数を有するため、制動時に粉塵や微細粉塵が多量に発生するという問題点を防止することができ、コーティング層の耐摩耗性及び耐腐食性が向上してブレーキ本体の寿命が改善されるという効果がある。
【0017】
また、非晶質合金を有するコーティング層が備えられるブレーキ本体を製造する場合、量産型ブレーキ本体のロータを母材として使用することができるため、低い生産コストで高品質のブレーキディスクを生産することができ、価格競争力に優れる。
【0018】
また、本発明の一実施例は、鉄系ブレーキ本体のロータを母材とし、同一の鉄系組成の非晶質合金コーティング層を形成するため、母材とコーティング層の熱膨張係数が1~1.4倍と類似して得られ、摩擦熱による剥離、欠陥の発生が少なく、母材の表面におけるコーティング層の接合力に優れるという利点がある。
【0019】
さらに、コーティング層の形成時に別途の中間層やボンディング層を必要としないため、工程及び生産コストが節減されるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施例に係る制動装置を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る制動装置のブレーキ本体を概略的に示す図である。
【
図3】本発明の実施例の耐食性実験前後のコーティング層の変化を撮影した図である。
【
図4】本発明の比較例の耐食性実験前後のコーティング層の変化を撮影した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明を詳細に説明する前に、本明細書で使用された用語は、特定の実施例を記述するためのものであるだけで、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される、本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、特に断らない限り、技術的に、通常の技術を有する者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0022】
ここで、1)添付の図面に示される形状、大きさ、比率、角度、個数等は、概略的なものであって、多少変更することができる。2)図面は観察者の視線へと図示されるため、図面を説明する方向や位置は、観察者の位置に応じて多様に変更することができる。3)図面番号が異なっても、同一の部分に対しては同一の図面符号を使用することができる。
【0023】
4)「含む(comprise、comprises、comprising)、有する、なる」などが使用される場合、「~のみ」が使用されない限り、他の部分を追加することができる。5)単数として説明される場合、多数としても解釈することができる。6)形状、大きさの比較、位置関係等が「約、実質的」等で説明されていなくても、通常の誤差範囲が含まれるように解釈される。
【0024】
7)「~後、~前、次いで、後続して、ここで(このとき)」などの用語が使用されても、時間的位置を限定する意味としては使用されない。8)「第1、第2、第3」などの用語は、単に区分の便宜上、選択的、交換的、または反復的に使用され、限定的な意味として解釈されない。
【0025】
9)「~上に、~上部に、~下部に、~横に、~側面に、~間に」などのように2つの部分の位置関係が説明される場合、「直ぐ」が使用されない限り、2つの部分の間に一つ以上の他の部分が配置されることもできる。10)複数の部分が「~または」で電気的に接続されるという場合、これらの部分の単独だけでなく組み合わせも含まれるように解釈されるが、「~または、~のうち一つ」で電気的に接続されるという場合は、これら部分の単独としてのみ解釈される。
【0026】
本明細書において「非晶質」という用語は、「非結晶質」または「非晶質相」の意味を含み、固体内で結晶がなされていない、すなわち、規則的な構造を有さない相(phase)をいう。
【0027】
なお、本明細書において鉄系非晶質合金粉末とは、鉄が最も多い重量比で含まれ、粉末内で非晶質相が実質的に大部分を占める粉末状の合金を含む。
【0028】
本発明の一側面であるブレーキ本体10は、装置や機械において、ホイールが結合される回転軸または駆動軸に結合される結合部200と、結合部200の外周面に結合される制動部100とを含んでなり、結合部は、実質的に制動部と、回転軸または駆動軸とを連結する役割を果たす。
【0029】
ブレーキ本体の形態は、使用される装置の種類、制動装置の形態及び方式によって異なりうるのであり、例えば、ディスクまたはドラムのように、中心軸に対して回転対称性を有する形態が使用され、ブレーキ本体10がディスク型またはドラム型であることが好ましい。
【0030】
図1は、ディスク型のブレーキ本体10であるブレーキディスクを含む制動装置の外観を示す図であり、
図2は、本発明の一側面によるブレーキ本体10を示す図である。
【0031】
ブレーキ本体10の一例示として、ブレーキディスクは、自動車、原動機、及びその他の機械装置のように、駆動軸または車軸(回転軸)を含んで作動する機械や車両に備えられる。
【0032】
ブレーキ本体10は、回転する駆動軸または車軸と共に回転するのであり、制動装置の作動時に回転するブレーキ本体10は、制動装置の摩擦手段20と、表面で摩擦しうる。この際、ブレーキ本体10は摩擦による抵抗を受けて回転運動エネルギーを失い、その回転速度が減少して制動が行われる。
【0033】
ブレーキ本体10の結合部200は、ハブとも呼ばれ、ホイール(wheel)の駆動軸または車軸に連結されて、ブレーキ本体10を回転させる部分である。結合部200が駆動軸または車軸に結合・連結されることにより、自動車にて、エンジンによって発生してホイールに伝達される回転運動エネルギーが、ブレーキ本体10に伝達されうる。
【0034】
結合部200は、駆動軸または車軸との結合のために、ねじといった締結手段が結合可能な締結孔が備えられる本体と、上記本体に連結されて一側面に突出する形態のハット部(hat-part)を含むことができる。
【0035】
ブレーキ本体10の結合部200は円形の外周面を有し、結合部200の大きさは限定されず、制動装置が使用される装置または車両や、制動装置の大きさに応じて、結合部200のサイズが異なりうる。
【0036】
ブレーキ本体10において、結合部200の外周面に結合する制動部100は、結合部200の外周面に連結されて駆動軸または車軸とともに回転されるロータ(Rotor)と、ロータ120の表面に備えられるコーティング層110とを含んでなることがよい。
【0037】
ここで、ロータ120は、駆動軸または車軸からブレーキ本体10に伝達される回転運動エネルギーを受けて回転する構成要素であって、一般的にはブレーキ本体10の外観を構成するのであり、内部に貫通孔を備えるリング状や、内部に貫通孔を含む円筒状のドラム型であってもよい。
【0038】
本発明の一実施例に係るブレーキ本体10は、
図2に示すように、ディスク型のブレーキ本体10であって、ロータは内部に貫通孔を備えるリング状の板材であり、ロータの中央に位置する貫通孔は、円形の内周面が前述の結合部200の外周面と結合しうる。
【0039】
図面に具体的に示されてはいないが、制動部100のロータ120において、ロータ120の内周面と、結合部200の外周面とは一体に連結されうる。また、ロータと結合部は、一つ以上の柱(strut)構造を備えることで連結されうるのであり、陰刻部または孔が、結合部の外周面とロータの内周面との間で形成される構造を形成することで連結されうる。
【0040】
制動部100は、ディスクまたはドラムの形態を有するロータ120と、ロータ120の表面に備えられるコーティング層110とを含むことができ、
図2に示すように、ディスク型のロータ120の表面にコーティング層110が備えられることがよい。
【0041】
ここで、ロータ120の素材は特に限定されないが、一般的に低いコストで製造できる鉄系合金、アルミニウム合金またはセラミック素材などからなりうるのであり、好ましくは、鋳鉄やねずみ鋳鉄(Gray Cast Iron)といった鉄系金属が使用されることが好ましい。鉄系合金を含むロータ120は、価格競争力において有利であり、ブレーキ本体10の振れ(Run-out)及び厚み変動(DTV; Disc Thickness Variation)の仕様を含み、一般的に制動装置に使用されるために求められる基準や規格を満たすように製造される。
【0042】
制動部100がロータ120の表面に備えられるコーティング層110を含むことにより、ブレーキ本体10の性能は、制動部100の表面に形成されたコーティング層110の表面特性、及び、制動部100とコーティング層110の素材との間の関係から、大きな影響を受けうる。具体的に、コーティング層110の表面摩擦係数、粗さに応じて、制動装置の性能や微細粉塵の発生の程度が異なりうるのであり、コーティング層110と制動部100の熱伝導度、熱膨張係数、接合強度の関係などに応じて制動装置の寿命などが異なる場合がある。
【0043】
本発明の一例示に係るブレーキ本体は、制動装置の構造及び形態、制動方式によって摩擦が主に起こる部分が異なりうるのであり、制動部100の少なくとも一部の面にて、または制動部100の一部の面と、結合部200の一部の面とにて、制動時に摩擦が起こる構造のブレーキが、本発明のブレーキ本体に含まれうる。
【0044】
以下では、制動部100にて摩擦による制動が行われるブレーキディスクについて例を挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、結合部200の一部の面にコーティング層110が備えられるか、制動時に結合部200の一部の面にて摩擦が行われるブレーキ本体10も、本発明の範囲に含まれうる。
【0045】
制動部100のロータ120は、ブレーキの温度が高くなる場合に、ブレーキ液が沸騰して気泡が生じるベーパーロック現象を防止するために、ロータの両側の面の間に冷却のための穴または凹凸をさらに含んでなりうるのであり、例えば、ロータ120がディスク型であり、ロータ120に備えられて両側の面を貫通する複数個の穴を含むベンチレーテッド(打ち抜き)ディスクをロータ120として使用することができる。
【0046】
ロータ120の表面に備えられるコーティング層110は、ブレーキ本体10の制動部100の表面特性を向上させることができ、さらに詳しくは、制動部100の表面にて硬度が増加し、耐摩耗性及び耐腐食性とブレーキディスクの寿命が向上するのであり、表面にて摩擦係数を下げて制動時に発生する粉塵及び微細粉塵の量が低減できることから、粉塵及び微細粉塵の排出の面から利点を有する。
【0047】
コーティング層110は、制動部100のロータ120の一側の表面または両側の表面に備えられうるのであり、制動装置の形態及び作動方式に応じて、ロータ120におけるコーティング層110が備えられる面の位置及び数、コーティング層110が備えられるコーティングの面積が異なりうる。
【0048】
ロータ120がディスク型からなる場合、コーティング層110はディスク型ロータの少なくとも一側の表面に備えられることがよく、ロータ120が円筒状のドラム型からなる場合、コーティング層110は、ドラム型のロータ内周面の少なくとも一領域に備えられることがよい。
【0049】
これは、ディスク型のロータ120を有するブレーキ本体10に対して、制動装置の摩擦手段20が、ブレーキ本体10の外部における一側または両側の表面に備えられることがよく、ドラム型のロータ120を有するブレーキ本体10に対して、制動装置の摩擦手段20がドラム型のロータ120の内部に備えられることがよいためである。
【0050】
コーティング層110の厚さは、コーティング層110の成分及びコーティングの条件に応じて異なるように形成することができるが、50μm~400μmの厚さに形成されてもよく、好ましくは100μm~300μmであってもよい。
【0051】
コーティング層110が当該範囲よりも薄く形成される場合、コーティング層110の形成効果が不十分であるか、寿命が短くなる可能性があり、当該範囲よりも厚いコーティング層110が形成される場合は、経済性が低下するという問題点が生じる可能性がある。
【0052】
コーティング層110は、非晶質相を有する非晶質合金が含まれる非晶質合金コーティング層110であることがよい。非晶質合金コーティング層110をなす非晶質合金は、Feを含む鉄系非晶質合金であることが好ましい。
【0053】
鉄系非晶質合金の組成としては、Feを主成分として含み、Cr、Co及びMoからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第1成分と、B、C、Si及びNbからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第2成分を含むのであり、好ましくは、第2成分が、B、C、Si及びNbのうちの少なくとも2つ以上であってもよい。
【0054】
より具体的には、合金に含まれるFe100重量部に対して、鉄系合金は、第1成分を30~140重量部、好ましくは35~100重量部、さらに好ましくは40~92重量部で含むことがよい。
【0055】
第1成分として含まれ得るCr、Mo及びCoのうちで、鉄系合金は、第1成分としてCrを必須に含むことがよく、Moを、Fe100重量部に対して18.0重量部以下、好ましくは10.0重量部以下で含むことがよい。
【0056】
また、Fe系合金がCrを含む場合、Crの含量は、Moの含量の3倍以上、好ましくは4倍以上であることがよく、これは、Moが第1成分として含まれない場合までを含む。
【0057】
鉄系合金におけるMoの含量が当該重量部の範囲を満たし、CrとMoの含量が前述の割合を満たす場合、鉄系合金の非晶質形成能が向上し、非晶質相を主に含む合金コーティング層110を形成することができ、コーティング層110の耐摩耗特性が向上するという有利な効果がある。
【0058】
鉄系合金は、Fe100重量部に対して、第2成分を4~20重量部、好ましくは5~19重量部で含むことがよい。このとき、鉄系合金は、第2成分としてB、C、Si及びNbのうちの少なくとも2つ以上を含むことができ、好ましくは第2成分としてSi、Nb、またはSi及びNbの両方を含むことができる。すなわち、Si及び/またはNbを含むことができる。鉄系合金が第2成分としてSi、NbまたはSiとNbの両方を含む場合、SiまたはNbは、それぞれ9重量部以下、好ましくは1.5~8.0重量部、さらに好ましくは2.0~6.0重量部で含まれることがよい。
【0059】
鉄系合金の第2成分として、Si、NbまたはSiとNbとの両方を含み、含まれるSiまたはNbが、それぞれ前述の重量部の範囲に含まれる場合、鉄系合金の非晶質形成能が向上し、非晶質相を主に含む合金コーティング層110を形成することができ、コーティング層の耐摩耗特性が向上するという有利な効果がある。
【0060】
また、本発明は、W、Y、Mn、Al、Zr、Ni、Sc及びPからなる群から選択される少なくともいずれか一つ以上である第3成分をさらに含むことができる。このとき、Fe100重量部に対して、追加される第3成分の総和は、1.125重量部未満、好ましくは1.0重量部以下、さらに好ましくは0.083重量部以下で含まれることがよい。
【0061】
また、第3成分は、Fe100重量部に対して、それぞれ0.9重量部以下、0.05重量部以下で含まれることが好ましく、当該範囲より高い含量で含まれると、非晶質形成能が著しく減少するという問題が発生する可能性がある。
【0062】
鉄系合金が第1成分及び第2成分を該当範囲で含むか、又は第1成分~第3成分を該当範囲で含むとともに非晶質形成能に優れた組成を有する場合、当該組成の鉄系合金が本発明の非晶質合金として使用されうるのであり、第1~第3成分の重量部の範囲が前述の範囲を外れる場合、非晶質形成能が低下し、表面における機械的特性が低下したり、摩擦係数が増加したりするという問題が発生する可能性がある。
【0063】
このような非晶質形成能は、それぞれの元素の原子サイズ(atomic size)の差、パッキング比(packing ratio)、深共晶(deep eutectic)及び反応エントロピー(entropy)の差に起因して有するものと判断される。
【0064】
非晶質合金コーティング層110をなす非晶質合金において、主成分として含まれる鉄(Fe)は、非晶質合金コーティング層110が備えられるロータ120を構成する素材にも含まれうる。具体的に、Feを高い割合で含む鋳鉄または鉄系合金が、ロータ120の素材として使用される場合、ロータ120と非晶質合金コーティング層110の熱膨張係数が類似の値を有しうるため、制動装置の作動時、摩擦による大きな温度変化にも、母材から非晶質合金コーティング層110が剥離したり、界面での損傷が発生したりすることがない。
【0065】
ここで、非晶質合金コーティング層110に含まれる非晶質合金の熱膨張係数(A)は、制動部100のロータ120の熱膨張係数(B)と類似しており、その割合(A/B)は、1.0倍~1.4倍であってもよく、好ましくは1.0倍~1.3倍であってもよく、さらに好ましくは1.2~1.25倍であってもよい。
【0066】
熱膨張係数の割合が当該範囲より小さいか大きい場合、制動部100とコーティング層110との熱膨張係数の差が大きくなり、制動時に発生する摩擦熱による、頻繁な温度変化の条件にて、母材とコーティング層110との間の結合が弱くなったり、コーティング層110の寿命が低下したりするという問題が発生する可能性がある。
【0067】
制動部100とコーティング層110との熱膨張係数の差が小さいという特徴により、ブレーキ本体10は、コーティング層110の形成時に、ロータとコーティング層との間に、ボンディング層(bonding layer)または中間層(intermediate layer)を含まなくてもよく、コーティング層110の形成時に熱処理工程を含まない場合でも、均一な厚さと性質のコーティング層110が、ブレーキ本体10のロータ120の表面に直接形成されうる。
【0068】
このような特徴により、ブレーキ本体10のロータ120にコーティング層110を形成する場合に、別途のボンディング層またはプライマー層を必須とせずに、制動部100上に直接コーティング層110を形成することが可能であり、コーティング及び生産の工程が簡素化され、製造コストが節減されるという利点を有する。
【0069】
一方、コーティング層110の表面では、制動時に、摩擦による制動力が発生しうる。ブレーキ本体10の回転運動エネルギーは、制動時に、摩擦により熱エネルギーに転換され、制動力を提供することができる。
【0070】
ここで、コーティング層110の表面摩擦係数は、100Nの荷重で0.001μ~0.08μ、好ましくは0.001~0.05μであり、1,000Nの荷重で0.06μ~0.12μ、好ましくは0.06~0.10μでありうる。
【0071】
コーティング層110の表面摩擦係数が当該範囲より大きい場合、制動時に、摩擦による微細粉塵の発生及び発熱量の増加という問題が生じる可能性があり、表面摩擦係数が当該範囲より小さい場合、制動装置の制動性能が悪くなるという問題が生じる可能性がある。
【0072】
なお、コーティング層110の表面粗さは、制動装置と共に用いられる摩擦手段20、例えば、ブレーキパッド等の素材及び性能に応じて異なりうるが、算術平均粗さ(Ra)値が、0.03~0.5の範囲であってもよく、好ましくは0.3~0.4であることがよい。
【0073】
コーティング層110の算術平均粗さ(以下、粗さ)が該当範囲より低い場合、表面における摩擦係数が低くなるか、摩擦力が十分に発生しないという可能性があり、粗さが当該範囲より高い場合は、表面摩耗及び微細粉塵の発生が増加するという問題が生じる可能性がある。
【0074】
鉄系非晶質合金からなるコーティング層110を形成する際、コーティング層110の形成方法は限定されないが、当該合金の組成範囲からなる非晶質合金粉末を使用するコーティング方法によりコーティング層を形成することができる。
【0075】
また、本発明の一実施例によると、コーティング層110は、ショットピーニング(shot peening)工程によりその表面が加工され、摩擦係数や粗さが適切な範囲に制御されうるのであり、圧縮応力による耐摩耗性、疲労靭性などが向上されうる。
【0076】
溶射コーティング方式によりコーティング層110を形成する場合には、鉄系非晶質合金粉末が使用されうる。非晶質合金粉末は、アトマイジング方法により合金を粉末状に製造するとき、非晶質相の割合が90%以上、好ましくは95%以上、97%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100%含まれる非晶質相の割合が高い粉末である。すなわち、冷却速度に応じて、前述したような高い割合の非晶質相を有する鉄系非晶質合金粉末が製造される。
【0077】
鉄系非晶質合金コーティングのための合金材料は、様々な形状に製造することができるが、粉末状に製造されることがよく、非晶質合金粉末としては球形度の高い粉末が使用されることが好ましい。
【0078】
鉄系非晶質合金粉末は、前述のコーティング層110と同じ組成をターゲット組成として製造することがよく、前述のコーティング層110の合金の組成と同じ組成を有する合金粉末を使用することができる。合金粉末の製造時に、ターゲット組成で計算された重量の原料を投入して溶融させて組成物を製造するのであるが、この際、投入される原料の純度や、溶融時に一部の元素が気化する現象などによって、ターゲット組成と実際の組成とが一部異なりうるのであり、ターゲット組成または実際の組成が、本明細書の合金組成に含まれる場合、本発明のコーティング層110または合金粉末と同じ組成であると見ることができる。
【0079】
本発明の実施例に係る鉄系非晶質合金粉末は、高い非晶質相の割合に起因して、それ自体でも、密度、強度、耐摩耗性、耐摩擦性及び耐食性等の特性に優れる。
【0080】
本発明の実施例によって製造される鉄系非晶質合金粉末は、平均粒度が1μm~150μmの範囲内であってもよいが、これに限定されるものではなく、用途に応じて、ふるい分け(Sieving;シービング)処理により粉末サイズを調節することができる。
【0081】
一例として、溶射コーティングを行う場合、対象鉄系非晶質合金粉末は、ふるい分け(シービング)処理により粉末サイズを15μm~45μmの範囲に調節して使用することができ、MIM(粉末射出)を行う場合は、対象鉄系非晶質合金粉末は、ふるい分け処理により、粉末サイズを20μm以下に調節して使用することができる。
【0082】
鉄系非晶質合金粉末は、再溶融または高温に露出した後に再び冷却されて固化しても、前述の非晶質割合を維持する。ここで、アトマイジング法により製造された鉄系非晶質合金粉末内における非晶質の割合(a)と、鉄系非晶質合金粉末をその合金の溶融点以上に溶融した後、再冷却して作られた合金における割合(b)とは、次式を満たす。
【0083】
(式1)
0.9≦b/a≦1
【0084】
ここで、上記(b)を導出するために、鉄系非晶質合金粉末をその合金の溶融点以上に溶融した後、再冷却して合金を製造する方式としては、一例として、溶射コーティング、3Dプリンティング、冶金などを含む、通常の鋳造方式が挙げられる。また、上記(式1)のb/aの割合は、好ましくは0.95~1であってもよく、より好ましくは0.98~1であってもよく、さらに好ましくは0.99~1であってもよい。
【0085】
一方、コーティング層110を形成する際、ブレーキ本体10のロータ120を表面処理した後、コーティング層110を形成する段階を、コーティング層の形成前に行うことができ、表面処理によりロータの表面を整えるか、コーティング層とロータとの結合を均一に形成することができる。
【0086】
コーティング層のコーティング方法としては、溶射コーティングまたはレーザークラッディングを含め、通常の技術者が同じ組成と厚さを有する非晶質合金コーティング層110を形成するために使用できるコーティング方法を全て使用することができる。一例として、鉄系非晶質合金粉末は、溶射コーティング工程に適用されてロータ120上に非晶質コーティング層110を形成することができる。
【0087】
溶射(spray)は、金属や金属化合物を加熱して微細な溶滴形状に形成させて加工物の表面に噴霧、密着させる方法であって、超高速火炎溶射コーティング(HVOF)、プラズマコーティング、レーザークラッディングコーティング、一般火炎溶射コーティング、ディフュージョンコーティング及びコールドスプレーコーティング、真空プラズマコーティング(VPS、vacuum plasma spray)、低圧プラズマコーティング(LPPS、low-pressure plasma spray)等がこれに属する。
【0088】
本発明の実施例に係る鉄系非晶質合金粉末は、非常に高い冷却速度を確保しなくても、非晶質を形成する非晶質形成能に優れるため、前述したコーティング層110を形成する工程を使用しても、コーティング層110における非晶質の割合が低くならない。
【0089】
すなわち、非晶質相の割合が90%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100%含まれる高い粉末である本発明の鉄系非晶質合金粉末が溶射の材料として使用される場合、コーティング層は、非晶質相を全構造に対して90%以上、95%以上、97%以上、99%以上、99.9%以上、または実質的に100体積%含むため、物性に非常に優れている。特に、本発明の合金粉末でもって超高速フレーム溶射(High Velocity Oxy-Fuel thermal spraying:HVOF溶射)コーティングを行う場合には、非晶質の割合が実質的にそのまま維持されるため、物性向上の程度が極大化する。
【0090】
また、本発明の実施例に係る鉄系非晶質合金粉末は、測定時の密度(coating density)が98~99.9%と非常に高く、気孔を通じての腐食物の浸透が抑制される。
【0091】
溶射コーティング用に使用される合金粉末の粒度は、10μm~100μm、好ましくは15μm~55μmであって、上記合金粉末の粒度が10μm未満の場合、溶射コーティング工程上、小さい粒子が溶射コーティングガン(gun)に付着して作業効率性が低下するおそれがあり、100μmを超える場合には、完全に溶解されず、母材にぶつかって(すなわち、コーティング層を形成できずに、床面・底面に落ちて)コーティング生産性及び効率が低下するという問題が発生する可能性がある。
【0092】
一方、本発明の実施例に係る鉄系非晶質合金粉末を含むコーティング層110のビッカース硬度は、700~1,200Hv(0.2)、好ましくは800~1,000Hv(0.2)であり、摩擦係数(耐摩擦性)は、100Nの荷重で0.001μm~0.08μm、好ましくは0.05μm以下であり、1,000Nの荷重で0.06μm~0.12μm、好ましくは0.10μm以下である。
【0093】
特に、超高速フレーム溶射によるコーティング層110の場合、既存とは異なり、断面積(cross section)に気孔がほとんど存在せず、最大密度(full density)を示し、気孔が存在してもその気孔率が約0.1%~1.0%に過ぎないという利点がある。
【0094】
超高速火炎溶射コーティングが行われると、複数回のパス(path)が積み重なる構造が母材上に形成されるのであり、具体的には、各層に、主に黒色を有する酸化物が積み重ねられ、波のような形状に多数の層が積層される。通常の場合、これによりコーティング層110の性質が低下し、脆弱になるが、本発明の場合には、コーティング層110に気孔及び酸化膜が少なく超高密度を示すようになり、コーティング層110の性能向上がなされる。
【0095】
溶射コーティング方式でコーティング層110の形成時に、制動部100のロータ120とコーティング層110との接着力が優れるように形成されるため、更なる熱処理などの工程を含まなくても、優れた接着力を有するコーティング層110を形成することができる。
【0096】
本発明の一実施例であるブレーキ本体10は、制動部100のロータ120の表面にボンディング層または中間層を形成することなく、直接に非晶質合金コーティング層110が形成されるため、コーティング層110を形成する工程の前にボンディング層または中間層を形成する更なる工程を必要とせず、一つの段階でロータ120の表面にコーティング層110が備えられた制動部100を得ることができるのであり、このような特徴により生産性及び価格競争力において有利であるという効果を有する。
【0097】
また、ロータ120の表面にコーティング層110を形成する際、ブレーキ本体10は、図示してはいないが、ロータ120の表面に直接形成される第1コーティング層と、第1コーティング層の表面に形成される第2コーティング層とをさらに含むことも可能である。
【0098】
第2コーティング層は、第1コーティング層と互いに同じ組成の非晶質合金からなりうるのであり、互いに異なるコーティング方法によって形成され、非晶質相の割合または気孔率が異なるコーティング層を含むことができる。
【0099】
第1及び第2コーティング層の非晶質相の割合が互いに異なる場合、外部の環境に露出する第2コーティング層の非晶質相の割合が、第1コーティング層の非晶質相の割合より高いことがよい。コーティング層の気孔率は、コーティング方式によって異なり得るが、気孔率が小さく形成されることが好ましく、第2コーティング層の気孔率が第1コーティング層の気孔率より小さいか同じであることがよい。
【0100】
さらに、本発明のコーティング層110は、ブレーキ本体10の表面の一部の領域で形成されうる。コーティング層110は、ブレーキ本体10のロータ120のうち、回転して摩擦手段20と接触する領域の少なくとも一部の面に形成されることがよく、後述する制動装置の摩擦手段20と接触する領域に対して、少なくとも一部の領域に備えられうる。
【0101】
例えば、ブレーキ本体10のロータ120の表面のうち、コーティング層110が一部の領域に備えられる場合、コーティング層110の形成の有無に伴い、制動部100の表面が滑らかでないように得られうる。
【0102】
制動部100の全体の表面を平坦に構成するために、ロータ120の製造時にコーティング層110が形成される必要のある領域は、コーティング層110が形成されていない領域よりも陥没しているか、または窪んだ状態となるように、予めロータ120の形態を異なるようにするか、又はパターンを有するようにロータ120を製造することができる。
【0103】
また、コーティング層110の厚さを調節して制動部100の表面が、コーティング層110の形態に応じて、表面における凹凸を有するようにブレーキ本体10を製造することができる。コーティング層110がロータ120の一部の表面において特定のパターンを有するように備えられる場合、表面における凹凸等が発生する可能性があり、このような凹凸により表面から摩擦熱が効率的に放出されうるため、ブレーキ本体10の寿命が向上する効果が期待できる。
【0104】
例示としては、コーティング層110は、中心のまわりに延びる内周面と外周面が、ブレーキ本体10の回転軸に対して同心円の形態を有する環状の領域をなすようにパターニングされたコーティング層110がロータ120の表面に備えられうるのであり、パターニングされたコーティング層110は、連結されていない一つ以上の領域で備えられうる。
【0105】
コーティング層110パターンの他の例示としては、ブレーキ本体10の回転軸から放射される方向に形成された図形が、複数個繰り返されて回転対称に配置される形態で形成されうる。このとき、各図形の形態は限定されないが、互いに同一であることが好ましく、各図形間の間隔が同一であることがよく、放射状、または螺旋状に放射されるスパイラルの形態であってもよい。
【0106】
コーティング層110がロータ120の表面の一部の領域に備えられる場合、回転するブレーキ本体10に対して、コーティング層110が形成された領域と、形成されていない領域とで、同時に摩擦が発生しうるのであり、コーティング層110の厚さと、ブレーキ本体10のロータ120の表面構造とにより、表面の面に凹凸が形成されるか、又は表面粗さが増加する効果が得られるため、様々な表面構造を有するロータ120とコーティング層110のパターンとが使用されうる。
【発明を実施するための形態】
【0107】
本発明の他の側面は、前述したブレーキ本体10を含み、駆動軸を含んで駆動される機械等を制動する制動装置である。
図1に示すように、制動装置は、ブレーキ本体10及び摩擦手段20を含んでなる。
【0108】
摩擦手段20は、制動時に力や信号が伝達されてブレーキ本体10に向かって変位する。このとき、摩擦手段20の変位により、回転するブレーキ本体10の制動部100の表面と摩擦手段20とが互いに接触し、摩擦が起きて駆動する機械に制動力を提供する。
【0109】
制動装置において摩擦手段20は、一つまたは2つ以上が備えられることができ、摩擦手段20は、ブレーキ本体10の一側の面または両側の面で接触することができる。例えば、摩擦手段20は、ブレーキ本体10の両側面に一つずつ備えられ、ブレーキ本体10の方向に、同時に変位してブレーキ本体10の制動部100と接触することができる。
【0110】
摩擦手段20は、変位によってブレーキ本体10の制動部100の少なくとも一面で摩擦し、この際、ブレーキ本体10の回転運動エネルギーが、摩擦による熱エネルギーに変換されて制動が行われる。
【0111】
摩擦手段20は、制動装置の種類及び形態に応じて、形態と構造、個数が異なりうるのであり、例えば、ディスクブレーキの場合、摩擦手段20として一つまたは2つ以上のブレーキパッドが使用されうる。
【0112】
ここで、ブレーキパッドは、スライド方式で移動可能な一対のバックプレートにそれぞれ結合して構成されうるのであり、一対のブレーキパッドは、互いに対向し、これらの間にブレーキディスクが位置するように備えられうる。
【0113】
ブレーキパッドの素材は限定されず、石綿系素材を使用しない有機質(Organic)、ノンスチール系(Non-steel)、ロースチール系(Low steel)、スチール系、セラミック、レジンまたはセミメタリック(semi-metalic)素材などが使用されうる。
【0114】
制動装置は、ブレーキ本体10及び摩擦手段20以外にも、他の構成要素を含んでなるが、本明細書では、ブレーキ本体10及び摩擦手段20以外の構成要素に関する説明は省略しており、通常の技術レベルによって類推できる一般的な制動装置の構成要素が、本側面の制動装置に含まれうる。
【0115】
実施例
実施例1~実施例8:鉄系非晶質合金粉末を用いたブレーキ本体の製造
下記表1のような成分と重量比(weight ratio)の組成で、窒素ガス雰囲気下のアトマイザー内に供給した後、溶融状態でアトマイズさせ、下記表1に記載の冷却速度で冷却して実施例1~実施例8の鉄系非晶質合金粉末を製造した。
【0116】
その後、実施例1~8の鉄系非晶質合金粉末を使用して、装備名「Oerlikon Metco Diamond Jet series HVOF gas fuel spray system」でもって、燃料には酸素とプロパンガスを使用し、スプレー距離は30cmとして、超高速フレーム溶射(HVOF、High Velocity Oxygen Fuel)で、0.3mm厚さのコーティング層110を鋳鉄素材のブレーキディスクの表面に形成した。この際、使用された装置及び具体的な条件は以下の通りである。
【0117】
DJ Gun HVOF
[条件]Gun type:Hybrid、エアキャップ:2701、LPG流量(LPG Flow)160 SCFH、LPG圧(LPG Pressure)90 PSI、酸素流量(Oxygen flow)550 SCFH、酸素圧(Oxygen Pressure)150 PSI、気流量(Air flow)900 SCFH、気流圧(Air Pressure)100 PSI、窒素流量(Nitrogen flow)28 SCFH、窒素圧(Nitrogen Pressure)150 PSI、Gun speed:100m/min、ガンピッチ(Gun pitch):3.0mm、フィーダ速度(Feeder rate)45g/min、隔離距離(Stand-off distance):250mm
【0118】
【0119】
比較例
比較例1~比較例7:鉄系合金粉末を用いたブレーキ本体の製造
下記表2のような成分及び重量比の組成で、窒素ガス雰囲気下のアトマイザー内に供給した後、溶融状態でアトマイズさせ、表2に示す冷却速度で冷却して比較例1~比較例7の鉄系合金粉末を製造した。
【0120】
その後、製造された合金粉末を使用して実施例と同様の方法でコーティング層110を形成した。製造されたコーティング層110は、一部の非晶質相が結晶質相と共に存在するか、または、結晶質相が大部分である結晶性コーティング層110であることが示された。
【0121】
【0122】
実験例
実験例1:コーティング層の硬度評価
実施例3、4、6、7及び8と比較例1~4について、HVS-10デジタル低負荷ビッカース硬度試験機(HVS-10 digital low load Vickers Hardness Tester Machine)を用いて、コーティング層試片の断面に対する微小硬度(Miro-hardness)試験を行い、その結果を下記表3に示した。
【0123】
【0124】
上記表3に示すように、断面にて実施例6の合金粉末を適用した試片の平均硬度が最も優れており、残りの実施例の場合は、比較例と類似した硬度値を示した。
【0125】
実験例2:コーティング層及び制動部の熱膨張係数の評価
実施例6~8及び比較例1~3の組成と同じ組成の非晶質合金試料を製造して熱膨張係数を測定し、制動部の素材としては、一般的に多数使用される鋳鉄を基準として、コーティング層と制動部との熱膨張係数を比較し、鋳鉄の熱膨張係数は10.2ppm/℃を基準とした。
【0126】
【0127】
実験例3:合金粉末を用いたコーティング層の摩擦力、耐摩耗特性の評価
摩擦力(摩擦係数)を評価するために、上記実施例1、4、5、7、8及び比較例1~3と同じ合金組成で形成されたコーティング層について、潤滑油条件下の金属リング-ランプ(ring-lump)テストを通じて摩耗幅(wear width)を得たのであり、具体的に、リング-ランプテストは、L-MM46抵抗摩擦ハイドロマティック(hydromantic)の潤滑油のあるMR-H3A高速リング-ランプ摩耗機械を用いたのであり、テスト媒介変数(parameters)は50N、5min→100N、25min→1000N、55minの順に進行した。得られた摩擦係数及び摩耗幅を下記表5及び表6にまとめた。
【0128】
【0129】
【0130】
実験例4:コーティング層の耐食性評価
図3は、本発明に係る実施例2、5、7の鉄系非晶質合金粉末を用いた溶射コーティング層試片の非腐食/腐食した断面を光学顕微鏡で観察したイメージであって、(a)~(c)はそれぞれ実施例2、5、7試片の観察イメージであり、
図4は、比較例5、6、7の合金粉末を用いた溶射コーティング層試片の非腐食/腐食した断面を光学顕微鏡で観察したイメージであって、(a)~(c)はそれぞれ比較例5、6、7試片の観察イメージである。
【0131】
具体的に、それぞれの溶射コーティング層の試片を室温下で濃度95~98%の硫酸(H
2SO
4)溶液に5分間浸漬した後、光学顕微鏡(Leica DM4 M)を用いて、腐食していないコーティング層試片と腐食したコーティング層試片との断面(cross-section)及び表面(surface)を観察したのであり、
図3及び
図4において、左側は非腐食物を、右側は腐食物を示した。
【0132】
観察結果、実施例2、5、7のコーティング層試片を用いた場合、
図3に示すように、硫酸に浸漬した前後の様子に特別な差はなく、耐食性に最も優れていることが確認できた。これに対し、比較例5、6、7のコーティング層試片を用いた場合、
図4に示すように、腐食が強く進行し、極めて良くない耐食性を示した。
【0133】
これはコーティング層の非晶質の有無に起因したものであって、実施例の場合には、コーティング層が強酸性の腐食物に全く反応しなかったのに対し、結晶質を含む比較例の場合には、コーティング層が腐食物に反応して腐食することにより、良くない耐食性を示すようになる。
【0134】
前述した各実施例で例示された特徴、構造、効果等は、実施例が属する分野における通常の知識を有する者によって、他の実施例に対しても組み合わせ又は変形して実施可能である。したがって、このような組み合わせ及び変形に関する内容は、本発明の範囲に含まれるものとして解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0135】
10:ブレーキ本体
20:摩擦手段
100:制動部
110:コーティング層
120:ロータ
200:結合部