(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/233 20060101AFI20240823BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20240823BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20240823BHJP
B60N 2/80 20180101ALI20240823BHJP
【FI】
B60R21/233
B60R21/207
B60N2/42
B60N2/80
(21)【出願番号】P 2022555440
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2021036420
(87)【国際公開番号】W WO2022075216
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2020171022
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴之
(72)【発明者】
【氏名】中島 敦
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-207661(JP,A)
【文献】特開2019-018593(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0291678(US,A1)
【文献】特開2013-220714(JP,A)
【文献】特開2017-030585(JP,A)
【文献】特開2017-030586(JP,A)
【文献】国際公開第2020/080374(WO,A1)
【文献】特開昭61-011008(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03536563(EP,A1)
【文献】国際公開第2016/174785(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60R 21/233
B60N 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、前記第1サイドクッションと前記第2サイドクッションとを接続する接続部材とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、
前記エアバッグの膨張展開が完了した膨張完了状態では、前記接続部材が、前記座席の上部の高さ範囲における前記乗員の頭頂部よりも下側の高さに位置して、前記座席の幅方向に延びる状態とな
り、
前記膨張完了状態で、前記第1サイドクッション及び前記第2サイドクッションの一方に、前記座席に着座する乗員が衝突すると、他方のサイドクッションが、前記接続部材を介して前記一方のサイドクッションによって引っ張られて、前記座席のヘッドレストの側面に衝突する、エアバッグ装置。
【請求項2】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、前記第1サイドクッションと前記第2サイドクッションとを接続する接続部材とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、
前記エアバッグの膨張展開が完了した膨張完了状態では、前記接続部材が、前記座席の上部の高さ範囲における前記乗員の頭頂部よりも下側の高さに位置して、前記座席の幅方向に延びる状態となり、
未膨張のエアバッグを広げて平坦面に平置きにした平置き状態において、前記エアバッグの左右方向に直交する方向において、前記座席に固定される側を後ろ側、その反対側を前側として、
前記平置き状態では、前記エアバッグの左右方向に延びる前記接続部材の一端に前記第1サイドクッションが、他端に前記第2サイドクッションが接続され、前記接続部材の前端が、前記第1サイドクッション及び前記第2サイドクッションの各々の前端より後ろ側に位置する、エアバッグ装置。
【請求項3】
前記平置き状態における前記第1サイドクッションと前記第2サイドクッションの各々は、前記エアバッグの左右方向において前記接続部材の外側に位置して前記接続部材の前端よりも前側に延び出た外側クッション部と、前記外側クッション部のうち前記前側に延び出た部分から内側に延びる内側クッション部とを有する、請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記平置き状態では、前記第1サイドクッションの内側クッション部と、前記第2サイドクッションの内側クッション部とが、互いに重なり合う、請求項3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記エアバッグが前記座席に収納される時の収納形態では、前記第1サイドクッションと第2サイドクッションの各々において、前記内側クッション部が前記外側クッション部に向かってロール状に巻かれている、前記外側クッション部の内部に前記内側クッション部が押し込まれている、又は、前記外側クッション部の外面に重なるように前記内側クッション部がロール状に巻かれている或いは折り畳まれている、請求項3又は4に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、前記第1サイドクッションと前記第2サイドクッションとを接続する接続部材とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、
前記エアバッグの膨張展開が完了した膨張完了状態では、前記接続部材が、前記座席の上部の高さ範囲における前記乗員の頭頂部よりも下側の高さに位置して、前記座席の幅方向に延びる状態となり、
前記エアバッグは、前記第1サイドクッションを有する第1バッグ部と、前記第2サイドクッションを有する第2バッグ部とが、互いに連結されることにより構成されている、エアバッグ装置。
【請求項7】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、前記第1サイドクッションと前記第2サイドクッションとを接続する接続部材とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、
前記エアバッグの膨張展開が完了した膨張完了状態では、前記接続部材が、前記座席の上部の高さ範囲における前記乗員の頭頂部よりも下側の高さに位置して、前記座席の幅方向に延びる状態となり、
前記エアバッグでは、前記第1サイドクッション及び前記第2サイドクッションの一方に前記座席への固定部が設けられ、他方に前記インフレータの収納部が設けられ、
前記エアバッグは、前記固定部と前記インフレータの収納部とで、前記座席に固定される、エアバッグ装置。
【請求項8】
前記エアバッグでは、前記接続部材にも、座席への固定部が設けられている、請求項7に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、前記第1サイドクッションと前記第2サイドクッションとを接続する接続部材とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、
前記エアバッグの膨張展開が完了した膨張完了状態では、前記接続部材が、前記座席の上部の高さ範囲における前記乗員の頭頂部よりも下側の高さに位置して、前記座席の幅方向に延びる状態となり、
前記座席が、背もたれ部にヘッドレストが取り付けられたものであり、
前記膨張完了状態では、前記接続部材が、前記背もたれ部と前記ヘッドレストとの隙間の前方又は後方に位置する、エアバッグ装置。
【請求項10】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、前記第1サイドクッションと前記第2サイドクッションとを接続する接続部材とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、
前記エアバッグの膨張展開が完了した膨張完了状態では、前記接続部材が、前記座席の上部の高さ範囲における前記乗員の頭頂部よりも下側の高さに位置して、前記座席の幅方向に延びる状態となり、
前記膨張完了状態において、前記第1サイドクッション及び前記第2サイドクッションの一方の後端部が、前記座席の背もたれ部のシートフレームのうち前記一方のサイドクッション側の側面より内側の位置で前記シートフレームに固定されることで、前記一方のサイドクッションが前記座席の外側に押された場合に、前記一方のサイドクッションの後部が前記座席の側部に押し付けられる、エアバッグ装置。
【請求項11】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、前記第1サイドクッションと前記第2サイドクッションとを接続する接続部材とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、
前記エアバッグの膨張展開が完了した膨張完了状態では、前記接続部材が、前記座席の上部の高さ範囲における前記乗員の頭頂部よりも下側の高さに位置して、前記座席の幅方向に延びる状態となり、
前記座席に着座する乗員の胴体には、シートベルトが、前記第1サイドクッション側から前記第2サイドクッション側に斜め下向きに掛け渡される場合に、前記膨張完了状態では、前記第1サイドクッションが、前記シートベルトと前記乗員の間に介在する、エアバッグ装置。
【請求項12】
前記接続部材は、ガスが内部を流通可能なダクトであり、
前記インフレータは、前記第1サイドクッションに取り付けられ、
前記インフレータから前記第1サイドクッションに噴射されたガスの一部が、前記ダクトを通じて前記第2サイドクッションに供給される、請求項1乃至4および6乃至11の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項13】
前記第1サイドクッションは、前記座席用のドアに近いニアサイドに設けられ、
前記第2サイドクッションは、前記座席用のドアから遠いファーサイドに設けられる、請求項1乃至4および6乃至11の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項14】
前記第1サイドクッションは、前記乗員の頭部における一方の側部を覆うように膨張展開する第1頭部用クッション部と、前記乗員の胴体における一方の側部を覆うように膨張展開する第1胴体用クッション部とを有し、
前記第2サイドクッションは、前記頭部における他方の側部を覆うように膨張展開する第2頭部用クッション部を有する、請求項1乃至4および6乃至11の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項15】
前記第1サイドクッションは、前記乗員の頭部における一方の側部を覆うように膨張展開する第1頭部用クッション部と、前記乗員の胴体における一方の側部を覆うように膨張展開する第1胴体用クッション部とを有し、
前記第2サイドクッションは、前記頭部における他方の側部を覆うように膨張展開する第2頭部用クッション部と、前記胴体における他方の側部を覆うように膨張展開する第2胴体用クッション部を有する、請求項1乃至4および6乃至11の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の側部を保護するエアバッグ装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の側面衝突や横転時に乗員を保護するためのエアバッグ装置が知られている。この種のエアバッグ装置では、座席に着座した乗員の側部を覆うように、エアバッグが膨張展開する。
【0003】
特許文献1には、この種のエアバッグ装置として、乗員に対してニアサイドからの衝撃に対してもファーサイドからの衝撃に対しても保護することができる乗員拘束装置が記載されている。この乗員拘束装置は、ニアサイドからの衝撃に対して乗員をケアするエアバッグと、ファーサイドからの衝撃に対して乗員をケアする上胴部拘束部材とを備えている。上胴部拘束部材は、乗員の肩部又は胸部に車両前側から当接して、乗員を座席に拘束する。特許文献1の
図6には、上胴部拘束部材としてエアバッグが用いる形態が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の側面衝突が生じると、乗員は、衝突初期に慣性力により、衝突を受けた側に向かって移動し、その後、衝突による衝撃力により、その反対側に向かって移動する。しかし、従来のエアバッグ装置では、ニアサイド側のエアバッグとファーサイド側のエアバッグとが互いに独立しており、上述したように移動する乗員の拘束を効果的に行うことができない虞がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車両の側面衝突時などに、座席の両サイドに膨張展開するサイドクッションが一体的に挙動するエアバッグ装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエアバッグ装置は、車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッションと、乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、第1サイドクッションと第2サイドクッションとを接続する接続部材とを有するエアバッグと、エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、エアバッグの膨張展開が完了した膨張完了状態では、接続部材が、座席の上部の高さ範囲における乗員の頭頂部よりも下側の高さに位置して、座席の幅方向に延びる状態となる、エアバッグ装置である。
【0008】
本発明は、接続部材は、ガスが内部を流通可能なダクトであり、インフレータは、第1サイドクッションに取り付けられ、インフレータから第1サイドクッションに噴射されたガスの一部が、ダクトを通じて第2サイドクッションに供給されるようにしてもよい。
【0009】
本発明は、第1サイドクッションは、座席用のドアに近いニアサイドに設けられ、第2サイドクッションは、座席用のドアから遠いファーサイドに設けられるようにしてもよい。
【0010】
本発明は、第1サイドクッションは、乗員の頭部における一方の側部を覆うように膨張展開する第1頭部用クッション部と、乗員の胴体における一方の側部を覆うように膨張展開する第1胴体用クッション部とを有し、第2サイドクッションは、頭部における他方の側部を覆うように膨張展開する第2頭部用クッション部を有するようにしてもよい。
【0011】
本発明は、第1サイドクッションは、乗員の頭部における一方の側部を覆うように膨張展開する第1頭部用クッション部と、乗員の胴体における一方の側部を覆うように膨張展開する第1胴体用クッション部とを有し、第2サイドクッションは、頭部における他方の側部を覆うように膨張展開する第2頭部用クッション部と、胴体における他方の側部を覆うように膨張展開する第2胴体用クッション部を有するようにしてもよい。
【0012】
本発明は、膨張完了状態で、第1サイドクッション及び第2サイドクッションの一方に、座席に着座する乗員が衝突すると、他方のサイドクッションが、接続部材を介して一方のサイドクッションによって引っ張られて、座席のヘッドレストの側面に衝突するようにしてもよい。
【0013】
本発明は、未膨張のエアバッグを広げて平坦面に平置きにした平置き状態において、エアバッグの左右方向に直交する方向おいて、座席に固定される側を後ろ側、その反対側を前側として、平置き状態では、エアバッグの左右方向に延びる接続部材の一端に第1サイドクッションが、他端に第2サイドクッションが接続され、接続部材の前端が、第1サイドクッション及び第2サイドクッションの各々の前端より後ろ側に位置するようにしてもよい。
【0014】
本発明は、平置き状態における第1サイドクッションと第2サイドクッションの各々は、エアバッグの左右方向において接続部材の外側に位置して接続部材の前端よりも前側に延び出た外側クッション部と、外側クッション部のうち前側に延び出た部分から内側に延びる内側クッション部とを有するようにしてもよい。
【0015】
本発明は、平置き状態では、第1サイドクッションの内側クッション部と、第2サイドクッションの内側クッション部とが、互いに重なり合うようにしてもよい。
【0016】
本発明は、エアバッグが座席に収納される時の収納形態では、第1サイドクッションと第2サイドクッションの各々において、内側クッション部が外側クッション部に向かってロール状に巻かれている、外側クッション部の内部に内側クッション部が押し込まれている、又は、外側クッション部の外面に重なるように内側クッション部がロール状に巻かれている或いは折り畳まれていてもよい。
【0017】
本発明は、エアバッグは、第1サイドクッションを有する第1バッグ部と、第2サイドクッションを有する第2バッグ部とが、互いに連結されることにより構成されていてもよい。
【0018】
本発明は、エアバッグでは、第1サイドクッション及び第2サイドクッションの一方に座席への固定部が設けられ、他方にインフレータの収納部が設けられ、エアバッグは、固定部とインフレータの収納部とで、座席に固定されるようにしてもよい。
【0019】
本発明は、エアバッグでは、接続部材にも、座席への固定部が設けられていてもよい。
【0020】
本発明は、座席が、背もたれ部にヘッドレストが取り付けられたものであり、膨張完了状態では、接続部材が、背もたれ部とヘッドレストとの隙間の前方又は後方に位置するようにしてもよい。
【0021】
本発明は、膨張完了状態において、第1サイドクッション及び第2サイドクッションの一方の後端部が、座席の背もたれ部のシートフレームのうち一方のサイドクッション側の側面より内側の位置でシートフレームに固定されることで、一方のサイドクッションが座席の外側に押された場合に、一方のサイドクッションの後部が座席の側部に押し付けられるようにしてもよい。
【0022】
本発明は、座席に着座する乗員の胴体には、シートベルトが、第1サイドクッション側から第2サイドクッション側に斜め下向きに掛け渡される場合に、膨張完了状態では、第1サイドクッションが、シートベルトと乗員の間に介在するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、膨張完了状態で、第1サイドクッションと第2サイドクッションとを接続する接続部材が、座席の上部の高さ範囲において、乗員の頭頂部よりも下側に位置する。ここで、車両の側面衝突が生じると、座席に着座する乗員は、肩部から上側が大きく横方向に移動し、一方のサイドクッションに衝突する。この時、その一方のサイドクッションは、乗員の肩部から上側の範囲に対応する座席の上部の高さ範囲で、乗員の衝突荷重を受けて外側に移動する。そして、その移動に伴って、他方のサイドクッションが、接続部材を介して横方向に引っ張られて乗員側に移動する。乗員が衝突初期とは反対側に向かって移動する場合、乗員は他方のサイドクッションに衝突する。
【0024】
本発明では、乗員が最初に衝突する高さ範囲に、接続部材が位置する。そのため、接続部材には、横方向の荷重が直接的に作用する。従って、例えば乗員の頭部の上方で両サイドクッションが繋がるエアバッグに比べて、両サイドクッションは一体的に横方向に移動する。これにより、衝突初期とは反対側に移動する乗員が、他方のサイドクッションに衝突するまでの移動距離が短くなり、乗員を早期に拘束することができる。本発明によれば、側面衝突時などに、座席の両サイドのサイドクッションが一体的に挙動するエアバッグ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】
図1Aは、実施形態に係るエアバッグの膨張展開が完了した状態を示す図であり、乗員が着座した座席を前方から見た図である。
【
図1B】
図1Bは、エアバッグの膨張展開が完了した状態を示す図であり、乗員が不在の座席を前方から見た図である。
【
図1C】
図1Cは、エアバッグの膨張展開が完了した状態を示す図であり、乗員が不在の座席を第1サイドクッション側から見た図である。
【
図1D】
図1Dは、エアバッグの膨張展開が完了した状態を示す図であり、乗員が不在の座席を第2サイドクッション側から見た図である。
【
図2】
図2は、エアバッグの平置き状態における平面図である。
【
図3A】
図3A(a)は、エアバッグの第1の折り方法を説明するためのエアバッグの平面図であり、
図3A(b)は、
図3A(a)におけるA-A断面図である。
【
図3B】
図3Bは、エアバッグの第2の折り方法を説明するためのエアバッグの平面図である。
【
図3C】
図3C(a)~(c)は、エアバッグの第3の折り方法を説明するためのエアバッグの平面図である。
【
図3D】
図3D(a)~(c)は、エアバッグの折り方法について他の方法を説明するためのエアバッグの平面図である。
【
図4】
図4は、エアバッグが収納された状態における座席の正面図である。
【
図5】
図5は、第2サイドクッションに乗員が衝突した時の第1サイドクッションの挙動を説明するための図である。
【
図6】
図6(a)~(b)は、第1サイドクッションがシートベルトと乗員の間に介在する状態を説明するための図である。
【
図7A】
図7A(a)~(b)は、ガスダクトがヘッドレストの支持部材の前側近傍にある状態を説明するための図である。
【
図7B】
図7B(a)~(b)は、ガスダクトがヘッドレストの支持部材の前方で、支持部材から少し離れた位置にある状態を説明するための図である。
【
図7C】
図7C(a)~(b)は、ガスダクトがヘッドレストの支持部材の後側近傍にある状態を説明するための図である。
【
図8】
図8(a)は、実施形態の第1変形例に係るエアバッグの平面図であり、
図8(b)は、エアバッグの中間製造物、及び、その中間製造物に連結される袋体の平面図である。
【
図9】
図9は、実施形態の第2変形例に係るエアバッグの中間製造物である、第1バッグ部及び第2バッグ部の平面図である。
【
図10】
図10は、実施形態の第3変形例に係るエアバッグの平置き状態における平面図である。
【
図11】
図11は、実施形態の第4変形例に係るエアバッグの膨張完了状態における、座席の正面図である。
【
図12】
図12は、実施形態の第4変形例に係るエアバッグの膨張完了状態において、ファーサイドの斜め後方から座席を見た斜視図である。
【
図13】
図13は、実施形態の第5変形例に係るエアバッグの膨張展開が完了した状態を示す図であり、乗員が着座した座席を前方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0027】
本発明において「乗員」とは、前面衝突試験用のダミー(Hybrid III AM50 / NHTSA [National Highway Traffic Safety Administration:米国高速道路交通安全協会]の規格[49CFR Part572 Subpart E 及びO] にて決められた前面衝突試験用人体ダミー)に準拠した、米国における平均的な男性に相当する体格を有するものをいい、概略サイズは、身長175cm、座高88cm、体重78kgである。
【0028】
また、本明細書において、「上」「上側」とは車両に設けられた座席1の正規の位置に着座した乗員5の頭部方向を、「下」「下側」とはその乗員5の足元方向を意味する場合がある。また、「前」「前側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の正面方向を、「後」「後側」とはその乗員5の背面方向を意味する場合がある。また「左」「左側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の左手方向を、「右」「右側」とはその乗員5の右手方向を意味する場合がある。なお、「正規の位置」とは、座席1におけるシートクッション2の左右方向の中心位置で、その座席1の背もたれ部(シートバック)3に乗員5の背中が上下に亘って接する位置をいう。以下、「正規の位置」を「正規の着座位置」と言う場合がある。
【0029】
本実施形態は、乗用車などの車両の側面衝突又は横転時などに、車両内の座席1の両サイドに設けられたサイドクッション21,22が一体的に挙動するように構成されたエアバッグ装置10である。エアバッグ装置10では、両サイドのサイドクッション21,22が1つのエアバッグ11に集約されている。以下では、エアバッグ装置10について説明を行う前に、エアバッグ装置10が搭載される座席1について説明を行う。
【0030】
[座席の概略構成について]
座席1は、
図1A~
図1Dに示すように、シートクッション2と、背もたれ部3とを備えている。背もたれ部3の上端部には、棒状の支持部材6を介して、ヘッドレスト4が取り付けられている。なお、座席1は、背もたれ部3とヘッドレスト4とが一体形成されたものであってもよい。
【0031】
[エアバッグ装置の構成について]
エアバッグ装置10は、エアバッグ11と、インフレータ12(
図1C参照)とを備えている。エアバッグ11は、布製の袋体である。インフレータ12は、エアバッグ11を膨張させるガスを噴射する装置である。以下では、左右に隣り合う運転席又は助手席の座席1に設けられるエアバッグ装置10を例にして説明を行う。以下では、座席1用のドアに近い側を「ニアサイド」、座席1用のドアから遠い側を「ファーサイド」と言う場合がある。
【0032】
[膨張完了状態のエアバッグについて]
まず、膨張展開が完了した状態(以下、「膨張完了状態」と言う。)のエアバッグ11について、
図1を参照しながら説明を行う。
【0033】
エアバッグ11は、
図1A及び
図1Bに示すように、正規の着座位置の乗員5の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッション21と、正規の着座位置の乗員5の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッション22と、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを連通するガスダクト23とを備えている。ガスダクト23は、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを接続する接続部材に相当する。
【0034】
第1サイドクッション21は、座席1のニアサイドに設けられている。第1サイドクッション21の後ろ側は、座席1のニアサイドに固定されている。第1サイドクッション21は、
図1Cに示すように、座席1への固定箇所から前方に延びている。第1サイドクッション21は、正規の着座位置の乗員5の頭部における一方の側部を覆うように膨張展開する第1頭部用クッション部31と、正規の着座位置の乗員5の胴体(肩部から腹部)における一方の側部を覆うように膨張展開する第1胴体用クッション部41とを備えている。第1頭部用クッション部31は、第1胴体用クッション部41の前側部分から、後ろ向きの斜め上方に立設されている。
【0035】
第2サイドクッション22は、座席1のファーサイドに設けられている。第2サイドクッション22の後ろ側は、座席1のファーサイドに固定されている。第2サイドクッション22は、
図1Dに示すように、座席1への固定箇所から前方に延びている。第2サイドクッション22は、正規の着座位置の乗員5の頭部における他方の側部を覆うように膨張展開する第2頭部用クッション部32と、正規の着座位置の乗員5の胴体(肩部)における他方の側部を覆うように膨張展開する第2胴体用クッション部42とを備えている。第2頭部用クッション部32は、第2胴体用クッション部42の前側部分から、後ろ向きの斜め上方に立設されている。
【0036】
ガスダクト23は、管状に形成され、
図1Bに示すように、背もたれ部3の上端面に沿って座席1の幅方向に延びている。ガスダクト23の一端は第1サイドクッション21内に開口し、ガスダクト23の他端は第2サイドクッション22内に開口している。
【0037】
ガスダクト23は、座席1の上部の高さ範囲における、正規の着座位置の乗員5の頭頂部より下側の範囲X(
図1A参照)に位置する。本実施形態では、ガスダクト23が、背もたれ部3とヘッドレスト4との隙間の前方に位置する。ガスダクト23は、背もたれ部3の上端部からヘッドレスト4の下端部までの範囲を覆う程度の太さを有する。なお、「座席1の上部の高さ範囲」とは、上下方向における背もたれ部3の真ん中よりも上側の範囲を言う。
【0038】
[平置き状態のエアバッグについて]
次に、未膨張のエアバッグ11を広げて平坦面に平置きした状態(以下、「平置き状態」と言う。)におけるエアバッグ11の構成について、
図2を参照しながら説明を行う。
【0039】
エアバッグ11は、同じ形状で同じ大きさの2枚の基布を重ねた状態で、外周部など所定の箇所を縫製することにより構成された袋体である。
図2では、太線の破線により縫製箇所を表す。エアバッグ11は、
図2に示すように、横長の略長方形状を呈する。平置き状態のエアバッグ11の説明では、エアバッグ11の長手方向を「左右方向」、短手方向を「前後方向」と言い、エアバッグ11の前後方向において、座席1に固定される側(
図2において上側)を「後ろ側」、その反対側を「前側」と言う。なお、
図2に示すエアバッグの上側は、膨張完了状態でも後ろ側となる。
【0040】
エアバッグ11は、左右方向に延びるガスダクト23と、ガスダクト23の一端に接続された第1サイドクッション21と、ガスダクト23の他端に接続された第2サイドクッション22とを備えている。
【0041】
ガスダクト23は、横長の略長方形状を呈する。ガスダクト23は、エアバッグ11の後ろ側に設けられている。ガスダクト23の前端(
図2において、横スリット35の位置)は、第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22の各々の前端より後ろ側に位置している。ガスダクト23の前後方向の寸法(太さ)は、各サイドクッション21,22の前後方向の寸法の半分以下である。
【0042】
第1サイドクッション21は、左右方向においてガスダクト23の外側に位置する第1胴体用クッション部41と、ガスダクト23の前側に位置する第1頭部用クッション部31とを有する。第1胴体用クッション部41は、ガスダクト23の前端よりも前側に延び出ている。第1頭部用クッション部31は、第1胴体用クッション部41のうち前側に延び出た部分から、左右方向の内側(
図2において左側)に延びている。第1胴体用クッション部41は外側クッション部に相当し、第1頭部用クッション部31は内側クッション部に相当する。
【0043】
第1頭部用クッション部31は、略長方形状(又は略正方形状)を呈する。第1頭部用クッション部31は、左右方向に延びる横スリット35を介して、ガスダクト23に隣り合う。また、第1胴体用クッション部41は、横長の略長方形状を呈する。厳密には、第1胴体用クッション部41は、左右方向における外側部分で、前後方向の寸法が外端に近づくに従って徐々に短くなっている。第1胴体用クッション部41におけるガスダクト23側の部分は、乗員5の肩部の側部を保護するための上側クッション部41aを構成している。第1胴体用クッション部41におけるガスダクト23とは反対側の部分は、乗員5の胸部及び腹部の側部を保護するための下側クッション部41bを構成している。
【0044】
第1胴体用クッション部41の後ろ側には、インフレータ12の収納部45が形成されている。収納部45内には、ガスガイド18が設けられている。ガスガイド18は、インフレータ12から噴射されたガスの出口として、上側クッション部41aに開口する第1出口18aと、下側クッション部41bに開口する第2出口18bを有する。
【0045】
第2サイドクッション22は、左右方向においてガスダクト23の外側に位置する第2胴体用クッション部42と、ガスダクト23の前側に位置する第2頭部用クッション部32とを有する。第2胴体用クッション部42は、ガスダクト23の前端よりも前側に延び出ている。第2頭部用クッション部32は、第2胴体用クッション部42のうち前側に延び出た部分から、左右方向の内側(
図2において右側)に延びている。第2胴体用クッション部42は外側クッション部に相当し、第2頭部用クッション部32は内側クッション部に相当する。
【0046】
第2頭部用クッション部32は、略長方形状(又は略正方形状)を呈する。第2頭部用クッション部32は、上述の横スリット35を介して、ガスダクト23に隣り合う。また、第2胴体用クッション部42は、やや縦長の略長方形状を呈する。第2胴体用クッション部42は、乗員5の肩部の側部を保護するための部分である。
【0047】
第1頭部用クッション部31と第2頭部用クッション部32とは、前後方向に延びる縦スリット36を介して、互いの先端が隣り合う。第1頭部用クッション部31と第2頭部用クッション部32は、縦スリット36を挟んで左右対称に形成されている。縦スリット36は、エアバッグ11の前端から前後方向に延びる切れ込みであり、後ろ側で横スリット35の中心位置に繋がる。横スリット35は、縦スリット36の後ろ端の位置から、左右にそれぞれ延びている。横スリット35及び縦スリット36を合わせると、略T字状の切れ込みとなる。なお、横スリット35の長さは、シートフレーム1aの上端部の幅に合わせて調整することができる。また、本実施形態では、各スリット35,36は、隙間がほとんどない切れ込みであるが、ある程度の隙間がある切れ込みであってもよい。
【0048】
エアバッグ11の後端には、座席1のシートフレーム1aにエアバッグ11を固定するための固定部として、複数のタブ16a~16dが設けられている(
図2参照)。具体的に、エアバッグ11には、左右方向において、第1サイドクッション21の外端部(
図2において右端部)に位置する第1タブ16aと、ガスダクト23における第1サイドクッション21側の端部(
図2において右端部)に位置する第2タブ16bと、ガスダクト23における第2サイドクッション22側の端部(
図2において左端部)に位置する第3タブ16cと、第2サイドクッション22の外端部(
図2において左端部)に位置する第4タブ16dとが設けられている。
【0049】
[エアバッグの折り方法等について]
続いて、座席1にエアバッグ11を収納するための折り方法、エアバッグ11が折られた収納形態、及び、座席1へのエアバッグ11の設置状態について、
図3及び
図4を参照しながら説明を行う。
【0050】
エアバッグ11は、平置き状態において、前側から後ろ側に向かってロール状に巻く、又は、前側から後ろ側に向かって蛇腹状に折り畳むことにより、前後方向の寸法が短くなり、座席1に収納される時の収納形態となる。ロール状に巻く方法としては、
図2の表側又は裏側にエアバッグ11を巻いてもよい。また、エアバッグ11の略全体をロール状に巻いてもよいし、前後方向の途中までをロール状に巻いてもよい。
【0051】
また、エアバッグ11を前側から後ろ側に向かってロール状に巻く、又は、蛇腹状に折り畳む前に、
図3Aに示すように、各胴体用クッション部41,42の内部に各頭部用クッション部31,32を押し込んでもよい(第1の折り方法)。また、エアバッグ11を前側から後ろ側に向かってロール状に巻く、又は、蛇腹状に折り畳む前に、
図3Bに示すように、各胴体用クッション部41,42の外面に重なる位置で各頭部用クッション部31,32を蛇腹状に折り畳んでもよい(第2の折り方法)。また、エアバッグ11を前側から後ろ側に向かってロール状に巻く、又は、蛇腹状に折り畳む途中(
図3C(b)参照)に、
図3C(c)に示すように、各胴体用クッション部41,42の外面に重なるように、各頭部用クッション部31,32を付け根(又は付け根の近傍)で折り曲げてもよい(第3の折り方法)。
【0052】
また、その他の折り方法として、
図3D(a)~(c)に示すように、頭部用クッション部31,32を内側から外側に折り畳む位置が、
図3Bよりも内側であってもよい。具体的に、頭部用クッション部31,32を最初に折る位置(
図3D(a)の二点鎖線の位置)が、頭部用クッション部31,32の付け根から少し離れていてもよい。そして、
図3D(c)に示すように、両方の頭部用クッション部31,32とも胴体用クッション部41,42の外面に重なっていなくてもよい。また、図示しないが、片方の頭部用クッション部31,32が胴体用クッション部41,42の外面に重なっていなくてもよい。
【0053】
図3Aの折り方法を使用した場合、エアバッグ11の収納形態では、各胴体用クッション部41,42の内部に各頭部用クッション部31,32が押し込まれた状態となる。また、
図3B又は
図3Cの折り方法を使用した場合、エアバッグ1の収納形態では、各胴体用クッション部41,42の外面に重なるように各頭部用クッション部31,32が折り畳まれた状態となる。何れかの収納形態でも、エアバッグ11は、平置き状態における頭部用クッション部31,32の付け根の位置よりも外側に、頭部用クッション部31,32の全体又は大部分を移動させており、ガスダクト23の部分が他の部分よりも細くなる。また、
図3Dの折り方法を使用した場合、エアバッグ1の収納形態では、一方の胴体用クッション部41の外面に重なるように頭部用クッション部31が折り畳まれた状態となる。この場合も、ガスダクト23の部分のうち、ヘッドレスト4の支持部材6間に対応する部分が、他の部分よりも細くなる。
【0054】
収納形態のエアバッグ11は、
図4に示すように、シートフレーム1aに沿って折り曲げられた状態で座席1に収納される。エアバッグ11は、ガスダクト23が背もたれ部3の上端部に収納され、第1サイドクッション21が座席1のニアサイドに収納され、第2サイドクッション22が座席1のファーサイドに収納される。
【0055】
ここで、背もたれ部3の上端部には、ヘッドレスト4を支持する一対の支持部材6が設けられている。背もたれ部3の上端部では、一対の支持部材6間の前側又は後ろ側に、エアバッグ11の収納部を確保できる。しかし、一対の支持部材6及びその取付構造が設けられているため、エアバッグ11の収納部として確保できる幅は狭くなる。本実施形態では、エアバッグ11の収納形態においてガスダクト23の部分が他の部分よりも細くなるため、背もたれ部3の上端部にガスダクト23を容易に収納することができる。なお、折り方法としては、一対の支持部材6よりも外側に各頭部用クッション部31,32の略全体が位置するように、各頭部用クッション部31,32を折ればよい。
【0056】
また、座席1に収納された設置状態のエアバッグ11は、4つのタブ16a~16dと、インフレータ12の収納部45との5箇所で、座席1のシートフレーム1aに固定される。インフレータ12の収納部45では、スタッドボルト(図示省略)によりインフレータ12がシートフレーム1aに固定される。この固定では、収納部45の挿通孔にスタッドボルトが通されることで、収納部45もシートフレーム1aに固定される。
【0057】
また、設置状態のエアバッグ11では、ガスダクト23が、第2及び第3タブ16b,16cにより、ヘッドレスト4の左右両側で、シートフレーム1aの上端部に固定される。ガスダクト23は、入口側及び出口側がそれぞれ固定される。そのため、インフレータ12から噴射されたガスが流通する際に、ガスダクト23の形態が比較的安定するため、ガスダクト23におけるガスの流通がスムーズである。なお、ガスダクト23は入口側及び出口側のうち入口側(第1サイドクッション21側)を固定すれば、ある程度スムーズにガスが流れるため、第3タブ16cを省略してもよい。一方で、第3タブ16cは、乗員5の衝突荷重を受けた第2サイドクッション22の外側への移動量を抑制できるため、この点を優先する場合、第2タブ16bを省略してもよい。
【0058】
また、設置状態のエアバッグ11では、平置き状態における各胴体用クッション部41,42の左右方向の外側が下側になる。各胴体用クッション部41,42は、第1タブ16a及び第4タブ16dにより、平置き状態の左右方向の外端部がシートフレーム1aに固定される。また、平置き状態のエアバッグ11では、頭部用クッション部31,32の間に縦スリット36が設けられている。そのため、各胴体用クッション部41,42が前方に膨張展開をする際に、頭部用クッション部31,32が上側に立ち上がる。
【0059】
[本実施形態の効果等]
本実施形態に係るエアバッグ装置10は、例えば側面衝突や横転などによって車両に衝撃が加わると、センサーからの信号を受けたインフレータ12が、第1サイドクッション21内にガスを噴射する。これにより、第1サイドクッション21が膨張展開する。また、インフレータ12から第1サイドクッション21に噴射されたガスの一部は、ガスダクト23を通じて第2サイドクッション22に供給される。これにより、第2サイドクッション22が膨張展開する。そして、膨張完了状態では、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを接続するガスダクト23が、座席1の上部の高さ範囲において、乗員5の頭頂部よりも下側の範囲Xに位置する。また、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とは、乗員5を挟んで互いに対向する。
【0060】
ここで、ファーサイドの側面衝突の直後、座席1に着座する乗員5は、胴体の肩部から上側が大きく横方向に移動し、第2サイドクッション22に衝突する。この時、第2サイドクッション22は、乗員5の肩部から上側の範囲に対応する座席1の上部の高さ範囲で、乗員5の衝突荷重を受けて外側に移動する。そして、その移動に伴って、第1サイドクッション21が、ガスダクト23を介して横方向に引っ張られて乗員5側に移動する。乗員5が衝突初期とは反対側に向かって移動する場合、乗員5は第1サイドクッション21に衝突する。一方、ニアサイドの側面衝突の直後は、第1サイドクッション21が、乗員5の衝突荷重を受けて外側に移動し、その移動に伴って、第2サイドクッション22が、ガスダクト23を介して横方向に引っ張られて乗員5側に移動する。
【0061】
本実施形態では、乗員5が最初に衝突する高さ範囲に、ガスダクト23が位置する。そのため、ガスダクト23には、横方向の荷重が直接的に作用する。従って、例えば乗員の頭部の上方で両サイドクッションが繋がるエアバッグに比べて、両サイドクッション21,22は一体的に横方向に移動する。これにより、衝突初期とは反対側に移動する乗員5が、サイドクッション21,22に衝突するまでの移動距離が短くなり、乗員5を早期に拘束することができる。また、乗員5が最初に衝突するサイドクッション21,22は、ガスダクト23によりある程度引き止められるため、そのサイドクッション21,22の外側への移動量も抑制され、側面衝突の発生側の拘束性能が向上する。本実施形態によれば、側面衝突時に、座席1の両サイドのサイドクッション21,22が一体的に挙動するエアバッグ装置10を実現することができる。
【0062】
なお、車両が横転する場合、車両の回転に応じて乗員5は左右に移動する。この場合においても、本実施形態に係るエアバッグ装置10は、両サイドのサイドクッション21,22が一体的に挙動するため、乗員5を早期に拘束することができる。
【0063】
ところで、従来、側面衝突に対して乗員を保護するために、ニアサイド衝突時に乗員の頭部を保護するカーテンエアバッグ、ニアサイド衝突時に乗員の肩部から腰部までの範囲を保護するニアサイドエアバッグ、及び、ファーサイド衝突時に頭部を保護するファーサイドエアバッグをそれぞれ設ける場合がある。一方、今後、自動運転に対応できるエアバッグ装置が求められるようになる。自動運転では、乗員が座席の背もたれ部を後方に倒して安楽姿勢をとったり、乗員が座席の向きを車両の前方と後方で切り替えたりすることが想定される。しかし、上述の従来のエアバッグの構成では、自動運転に対応できるようにするためには、各エアバッグの保護範囲を拡張する必要があり、コスト面及び意匠面で課題が生じる。
【0064】
それに対し、本実施形態では、乗員5を早期に拘束することができるため、各サイドクッション21,22のサイズが大型化することを抑制することができるし、各サイドクッション21,22を適度なサイズにすることができるため、意匠性が良好なエアバッグ11を構成することができる。また、各頭部用クッション部31,32が頭部側に少し倒れているため、頭部に対する拘束位置が乗員5に近づき、拘束性能を向上させることができる。さらに、第1サイドクッション21が乗員5の頭部から腹部までを保護範囲としているため、カーテンエアバッグを省略することができる。これにより、車両のルーフにエアバッグを搭載する必要がなくなり、車両レイアウトの自由度が向上する。また、本実施形態によれば、座席1の両サイドに別々のサイドエアバッグを設ける場合に比べて、コスト及び重量を低減させることが可能である。
【0065】
なお、エアバッグ装置10は、車両のフロントシートとリアシートの何れにも設置することができるし、1人乗りの車両の座席にも設置することができる。また、エアバッグ装置10は、車両レイアウトに依存したものとはならないため、エアバッグ装置10の一部又は全部について、複数車種に適用できるようにモジュール化が可能である。
【0066】
また、本実施形態では、1つのインフレータ12によりエアバッグ11全体を膨張させることができるため、エアバッグ装置10の部品点数の増加を抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態では、エアバッグ11が、膨張完了状態で、第1頭部用クッション部31の後部と第2頭部用クッション部32の後部とが、座席1のヘッドレスト4を挟んで対面する(
図1C、
図1D参照)。側面衝突時に、乗員5が第2サイドクッション22に衝突すると、第2サイドクッション22が、その後端部における上下方向の軸を中心に回転し、座席1の外側に向かって移動する。そうすると、
図5に示すように、第1サイドクッション21の第1頭部用クッション部31が、ガスダクト23を介して第2サイドクッション22によって引っ張られて、ヘッドレスト4の側面に衝突する。この衝突により、エアバッグ11がヘッドレスト4から反力を受けるため、エアバッグ11の揺動を抑制することができ、エアバッグ11による乗員5の拘束性能が向上する。なお、
図5は、膨張完了状態のエアバッグ11をヘッドレスト4の後方斜め上側から見た図である。
【0068】
また、本実施形態では、インフレータ12が取り付けられた第1サイドクッション21が、座席1のニアサイドに設けられている。また、ニアサイドでは、ガスガイド18の2つ出口18a,18bが、上側クッション部41a及び下側クッション部41bに開口している。そのため、ニアサイドの衝突時に、衝突から乗員5を保護するまでに時間の猶予の少ない第1胴体用クッション部41を、他のクッション部に先んじて膨張展開させることができる。
【0069】
また、本実施形態では、座席1に着座する乗員5の胴体には、シートベルト7が、第1サイドクッション21側から第2サイドクッション22側に斜め下向きに掛け渡される場合に、膨張完了状態では、
図6に示すように、第1サイドクッション21が、シートベルト7と乗員5の間に介在する。第1サイドクッション21の前部は、シートベルト7により受け止められた状態となる。そのため、第1サイドクッション21から乗員5への反力が早期に作用し、側方及び前方での乗員5の拘束を早期に行うことができる。この効果は、シートベルト7の上側アンカー7aの設置位置(B-ピラー、座席など)に依存せず得られる。
【0070】
本実施形態では、膨張完了状態のガスダクト23が、
図7Aに示すように、支持部材6の前側近傍に位置している。この場合、ガスダクト23は、背もたれ部3の上端部における支持部材6の前側に収納され、例えばガスダクト23に設けた各タブ16b,16cは、シートフレーム1aの上端部の上面部分に固定される。なお、膨張完了状態のガスダクト23の前後方向の位置は、
図7Bに示すように、
図7Aの位置よりさらに前方であってもよい。
図7Bの場合、各タブ16b,16cは、シートフレーム1aの上端部の前面側に固定される。ガスダクト23が前方にあるほど、各サイドクッション21,22が前方に押されて、各サイドクッション21,22の後ろ側への動きを抑制することができる。また、膨張完了状態のガスダクト23の前後方向の位置は、
図7Cに示すように、支持部材6の後方であってもよい。この場合、ガスダクト23は、背もたれ部3の上端部における支持部材6の後ろ側に収納される。各タブ16b,16cは、シートフレーム1aの上端部の後面側に固定される。ガスダクト23が支持部材6の後方にある場合は、ガスダクト23が乗員5の首に接触しない。そのため、乗員5の首との接触により膨張展開時にガスダクト23が潰されることを回避できる。なお、
図7A~C(b)では、ガスダクト23を黒塗りで表している。
【0071】
[実施形態の第1変形例]
本変形例では、エアバッグ11の平置き状態において、
図8(a)に示すように、第1頭部用クッション部31と第2頭部用クッション部32とが、互いに重なり合う。各頭部用クッション部31,32は、上述の実施形態に比べて、平置き状態における左右方向の長さが長い。
【0072】
本変形例に係るエアバッグ11の製造においては、2枚の基布を重ねた状態で外周部など所定の箇所を縫製する縫製工程を行うことにより、各頭部用クッション部31,32のうち先端側部分が設けられていない中間製造物50を作成する。
図8(b)に示すように、中間製造物50では、各頭部用クッション部31,32は、付け根側部分51,52だけしか設けられていない。付け根側部分51,52の先端側は、縫製されておらず、開口している。また、各頭部用クッション部31,32の先端側部分に相当する一対の袋体55,56を別途に準備する。各袋体55,56は、略長方形状又は略正方形状であり、1辺を残して外周部が縫製されている。
【0073】
そして、縫製工程後の連結工程では、中間製造物50における各頭部用クッション部31,32の付け根側部分51,52の先端側に、袋体55,56がそれぞれ連結される。これにより、各頭部用クッション部31,32及びエアバッグ11が完成する。
【0074】
本変形例によれば、膨張完了状態での各頭部用クッション部31,32の高さを大きくすることができ、乗員5の頭部に対する保護範囲を拡大することができる。
【0075】
[実施形態の第2変形例]
本変形例に係るエアバッグ11は、第1サイドクッション21を有する第1バッグ部71と、第2サイドクッション22を有する第2バッグ部72とが、例えば縫製により、互いに連結されることにより構成されている。
図9に示すように、第1バッグ部71は、ガスダクト23の一部(
図2における右側部分)23aを有する。第2バッグ部72は、ガスダクト23の残りの部分(
図2における左側部分)23bを有する。第1バッグ部71第2バッグ部72とは、ガスダクト23の右側部分23aの内部と、ガスダクト23の左側部分23bの内部とが繋がるように、これらの部分23a、23bの先端部が、例えば縫製により互いに連結される。これにより、
図8と同様に、第1頭部用クッション部31と第2頭部用クッション部32とが互いに重なり合うエアバッグ11が製造される。
【0076】
[実施形態の第3変形例]
本変形例に係るエアバッグ11は、
図10に示すように、座席1への固定部として用いるタブが、
図2における第4タブ16dの1つだけである。エアバッグ11は、第4タブ16dとインフレータ12の収納部45との2箇所だけで、座席1に固定される。本変形例によれば、シートフレーム1aにおけるタブ16の取付箇所の数が少ないため、エアバッグ11に合わせたシートフレームの改造が容易である。
【0077】
[実施形態の第4変形例]
本変形例に係るエアバッグ11は、第2サイドクッション22の後端部が、背もたれ部3のシートフレーム1aのうち第2サイドクッション22側の側面1bよりも内側の位置でシートフレーム1aに固定される。
図11では、第4タブ16dが、シートフレーム1aの側面1bよりも内側に固定される。この場合、座席1の正面視において、第2サイドクッション22の後部22aの大部分は、シートフレーム1aの側面1bよりも内側に位置する。そのため、第2サイドクッション22が座席1の外側に押された場合に、
図12に示すように、第2サイドクッション22の後部22aが座席1の側部に押し付けられる。本変形例によれば、エアバッグ11によるファーサイドの拘束性能を向上させることができる。なお、第1サイドクッション21についても同様の固定位置を適用してもよい。つまり、シートフレーム1aのうち第1サイドクッション21側の側面よりも内側の位置で、第1サイドクッション21の後端部をシートフレーム1aに固定してもよい。
【0078】
[実施形態の第5変形例]
本変形例に係るエアバッグ11は、
図13に示すように、第2サイドクッション22の第2胴体用クッション部42の高さ方向の保護範囲が、第1胴体用クッション部41と同等である。第2胴体用クッション部42は、正規の着座位置の乗員5の肩部から腹部の範囲を側方から覆うように膨張展開する。このようなエアバッグ11は、単座式の超小型モビリティなどで利用可能である。なお、
図13では、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22を左右対称としているが、左右対称としなくてもよい。
【0079】
[その他の変形例]
上述の実施形態において、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを接続する接続部材23が、ガスが内部を流通不能な部材であってもよい。接続部材23には、1枚の基布を用いた帯状部材を用いることができる。この場合、第2サイドクッション22に第2のインフレータを取り付けてもよいし、二又に分岐する管路を用いて、1つのインフレータから両方のサイドクッション21,22にガスが供給されるようにエアバッグ装置10を構成してもよい。
【0080】
上述の実施形態において、膨張完了状態の接続部材23は、座席1の上部の高さ範囲における乗員5の頭頂部よりも下側の範囲Xに位置していればよく、例えば乗員5の胸部に対応する高さに位置していてもよい。膨張完了状態の接続部材23は、背もたれ部3の表面に沿って座席1の幅方向に延びている。
【0081】
上述の実施形態において、第1サイドクッション21の保護範囲が、乗員5の頭部から腰部までとなるように、エアバッグ11を構成してもよい。
【0082】
上述の実施形態において、第2サイドクッション22の保護範囲が頭部だけとなるように、エアバッグ11を構成してもよいし、保護範囲が腹部又は腰部までとなるようにエアバッグ11を構成してもよい。また、車両のセンターコンソールが大型の場合、第2サイドクッション22が膨張展開できる空間が狭くなるが、この場合に、第2サイドクッション22が、センターコンソールの上面に沿って膨張展開するようにしてもよい。
【0083】
上述の実施形態において、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22の一方だけに頭部用クッション部31,32を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、乗員の側部を保護するエアバッグ装置等に適用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 座席
3 背もたれ部
4 ヘッドレスト
5 乗員
10 エアバッグ装置
11 エアバッグ
12 インフレータ
16a~16d タブ(固定部)
21 第1サイドクッション
22 第2サイドクッション
23 ガスダクト(接続部材)
31 第1頭部用クッション部(内側クッション部)
32 第2頭部用クッション部(内側クッション部)
41 第1胴体用クッション部(外側クッション部)
42 第2胴体用クッション部(外側クッション部)