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特許7542645車室暖房用ヒーターエレメント、車室暖房用ヒーターユニット及び車室暖房用ヒーターシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】車室暖房用ヒーターエレメント、車室暖房用ヒーターユニット及び車室暖房用ヒーターシステム
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/14 20060101AFI20240823BHJP
   H05B 3/02 20060101ALI20240823BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20240823BHJP
   B60H 1/03 20060101ALI20240823BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H05B3/14 A
H05B3/02 A
B60H1/00 102Q
B60H1/03 C
B60H1/22 611C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022558931
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035411
(87)【国際公開番号】W WO2022091668
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2020179951
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】桝田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩文
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 徹
(72)【発明者】
【氏名】長岡 宏幸
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/036067(WO,A1)
【文献】特開平04-341787(JP,A)
【文献】特開平08-150323(JP,A)
【文献】特開2014-054934(JP,A)
【文献】実開昭57-002287(JP,U)
【文献】国際公開第2008/071349(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208659(WO,A1)
【文献】特開平05-010596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00 - 3/86
B60H 1/00 - 1/34
F24H 3/00 - 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有し、前記外周壁及び前記隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、
前記第1端面及び前記第2端面に設けられた一対の電極と
を備える車室暖房用ヒーターエレメントであって、
前記ハニカム構造体は、前記第1端面及び前記第2端面が矩形状であり、
前記一対の電極が、前記第1端面及び前記第2端面のそれぞれの、一方の短辺側から外部に向かって同方向に伸びる延伸部を有し、前記延伸部の前記ハニカム構造体側の表面に接続された一対のコネクタを更に備える、車室暖房用ヒーターエレメント。
【請求項2】
前記第1端面及び前記第2端面は、短辺の長さと長辺の長さとの比が1:2~1:10である、請求項1に記載の車室暖房用ヒーターエレメント。
【請求項3】
前記ハニカム構造体は、複数のハニカムセグメントと、前記複数のハニカムセグメントの間を接合する接合層とを有するハニカム接合体である、請求項1又は2に記載の車室暖房用ヒーターエレメント。
【請求項4】
前記ハニカム構造体は、前記隔壁の厚さが0.125mm以下、セル密度が93セル/cm2以下、セルピッチが1.0mm以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の車室暖房用ヒーターエレメント。
【請求項5】
前記外周壁及び前記隔壁はチタン酸バリウムを主成分とし、鉛を実質的に含まない材料で構成されている、請求項1~のいずれか一項に記載の車室暖房用ヒーターエレメント。
【請求項6】
前記一対の電極は、前記第1端面及び前記第2端面上に設けられた電極層と、前記電極層上に設けられた電極板を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の車室暖房用ヒーターエレメント。
【請求項7】
前記電極板は、前記第1端面及び前記第2端面のそれぞれの、一方の短辺側から外部に向かって同方向に伸びる延伸部を有し、前記延伸部が前記コネクタと接続されている、請求項に記載の車室暖房用ヒーターエレメント。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の車室暖房用ヒーターエレメントを2個以上含む車室暖房用ヒーターユニットであって、
前記第1端面及び前記第2端面の長辺を含む、前記ハニカム構造体の前記外周壁の表面同士が対向するように前記車室暖房用ヒーターエレメントが積層配列されている車室暖房用ヒーターユニット。
【請求項9】
積層配列される前記車室暖房用ヒーターエレメントの間に絶縁材が配置されている、請求項に記載の車室暖房用ヒーターユニット。
【請求項10】
請求項又はに記載の車室暖房用ヒーターユニット、
外気導入部又は車室と前記車室暖房用ヒーターユニットの流入口とを連通する流入配管、
前記車室暖房用ヒーターユニットに電圧を印加するためのバッテリー、及び
前記車室暖房用ヒーターユニットの流出口と前記車室とを連通する流出配管
を備える車室暖房用ヒーターシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室暖房用ヒーターエレメント、車室暖房用ヒーターユニット及び車室暖房用ヒーターシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の車室暖房用ヒーターシステムとして、蒸気圧縮ヒートポンプを主たるヒーターとして使用しつつ、車両始動時の急速加熱が必要なときや外気温が非常に低い時に、ジュール熱を利用したヒーターを補助的に使用するヒーターシステムが採用されてきた。
このヒーターシステムで用いられるジュール熱を利用したヒーターとして、特許文献1には、PTC素子をアルミニウムフィンと一体化したヒーターエレメントが積層配列されたヒーターユニットが提案されている。
しかしながら、このヒーターエレメントは、PTC素子及びアルミニウムフィン以外にも絶縁板や導電板などの多くの部品を備えているため、複雑な構造を有するとともに、組立コストがかかり、高価であるという課題がある。
【0003】
そこで、特許文献2には、コンパクトで体積当たりの熱伝達面積を大きくすることが可能なハニカム構造体を用いたヒーターエレメントが提案されている。このハニカム構造体を用いたヒーターエレメントは、上述のヒーターエレメントに比べて単純な構造であるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-157528号公報
【文献】国際公開第2020/036067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献2に記載のヒーターエレメントを既存のヒーターユニットに用いる場合、既存のヒーターユニットの配線や保持具などの部品を設計変更する必要がある。それによってヒーターユニットが大型化してしまい、コンパクトなヒーターエレメントの利点を損なうため、改善の必要があるものであった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、既存のヒーターエレメントよりも単純な構造を有するとともに、既存のヒーターユニットの配線や保持具などの部品の設計変更によってヒーターユニットが大型化することを抑制可能な車室暖房用ヒーターエレメントを提供することを目的とする。また、本発明は、この車室暖房用ヒーターエレメントを用いた車室暖房用ヒーターユニット及び車室暖房用ヒーターシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、以下の本発明によって解決されるものであり、本発明は以下のように特定される。
【0008】
すなわち、本発明は、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有し、前記外周壁及び前記隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、
前記第1端面及び前記第2端面に設けられた一対の電極と
を備える車室暖房用ヒーターエレメントであって、
前記ハニカム構造体は、前記第1端面及び前記第2端面が矩形状であり、
前記一対の電極が、前記第1端面及び前記第2端面のそれぞれの、一方の短辺側から外部に向かって同方向に伸びる延伸部を有し、前記延伸部の前記ハニカム構造体側の表面に接続された一対のコネクタを更に備える、車室暖房用ヒーターエレメントである。
【0009】
また、本発明は、前記車室暖房用ヒーターエレメントを2個以上含む車室暖房用ヒーターユニットであって、
前記第1端面及び前記第2端面の長辺を含む、前記ハニカム構造体の前記外周壁の表面同士が対向するように前記車室暖房用ヒーターエレメントが積層配列されている車室暖房用ヒーターユニットである。
【0010】
さらに、本発明は、前記車室暖房用ヒーターユニット、
外気導入部又は車室と前記車室暖房用ヒーターユニットの流入口とを連通する流入配管、
前記車室暖房用ヒーターユニットに電圧を印加するためのバッテリー、及び
前記車室暖房用ヒーターユニットの流出口と前記車室とを連通する流出配管
を備える車室暖房用ヒーターシステムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、既存のヒーターエレメントよりも単純な構造を有するとともに、既存のヒーターユニットの配線や保持具などの部品の設計変更によってヒーターユニットが大型化することを抑制可能な車室暖房用ヒーターエレメントを提供することができる。また、本発明によれば、この車室暖房用ヒーターエレメントを用いた車室暖房用ヒーターユニット及び車室暖房用ヒーターシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るヒーターエレメントの模式的な斜視図である。
図2図1のA方向からみたヒーターエレメントの模式的な側面図である。
図3図1のヒーターエレメントを構成するハニカム構造体の模式的な斜視図である。
図4】5個のハニカムセグメントを有するハニカム接合体の模式的な端面図である。
図5】ヒーターエレメントの第1端面側からみた本発明の実施形態に係るヒーターユニットの模式的な正面図である。
図6】本発明の実施形態に係るヒーターシステムの構成例を示す模式図である。
図7】比較例で準備したヒーターエレメントの模式的な平面図である。
図8】実施例1及び比較例1の通電試験結果を比較したグラフである。
図9】実施例1及び実施例2の通電試験結果を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0014】
(1.ヒーターエレメント)
本発明の実施形態に係るヒーターエレメントは、車両の車室暖房用のヒーターエレメントとして好適に利用可能である。車両としては、特に限定されないが、自動車及び電車が挙げられる。自動車としては、特に限定されないが、ガソリン車、ディーゼル車、CNG(圧縮天然ガス)やLNG(液化天然ガス)などを用いるガス燃料車、燃料電池自動車、電気自動車及びプラグインハイブリッド自動車が挙げられる。本発明の実施形態に係るヒーターエレメントは、特に電気自動車及び電車のような内燃機関を持たない車両に好適に利用可能である。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るヒーターエレメントの模式的な斜視図である。図2は、図1のA方向からみたヒーターエレメントの模式的な側面図である。図3は、図1のヒーターエレメントを構成するハニカム構造体の模式的な斜視図である。
本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第1端面13aから第2端面13bまで流路を形成する複数のセル14を区画形成する隔壁12とを有するハニカム構造体10と、第1端面13a及び第2端面13bに設けられた一対の電極20とを備える。そして、ハニカム構造体10の端面(第1端面13a及び第2端面13b)は矩形状である。また、ヒーターエレメント100は、第1端面13a及び第2端面13bのそれぞれの、一方の短辺15側から電極20に接続された一対のコネクタ30を更に備える。このように、ハニカム構造体10の端面が矩形状であり、上記のようにハニカム構造体10の端面に接続された一対のコネクタ30を有することにより、既存のヒーターユニットの配線や保持具などの部品の設計変更によってヒーターユニットが大型化することを抑制し、コンパクトなヒーターユニットとすることができる。
【0016】
(1-1.ハニカム構造体10)
ハニカム構造体10は、端面(第1端面13a及び第2端面13b)が矩形状である。すなわち、ハニカム構造体10の端面は、短辺15と長辺16とを有する矩形状である。
短辺15の長さと長辺16の長さとの比は、特に限定されないが、好ましくは1:2~1:10、より好ましくは1:3~1:8である。このような範囲の比に制御することにより、既存のヒーターユニットに用いられるヒーターエレメントのサイズに適合させることができる。
【0017】
セル14の流路方向に直交する断面におけるセル14の形状は、特に限定されないが、四角形(長方形、正方形)、六角形、八角形、又はこれらの二種以上の組み合わせであることが好ましい。これらの中でも、四角形及び六角形が好ましい。セル14の形状をこのような形状にすることにより、ハニカム構造体10にガスを流したときの圧力損失を小さくすることができる。なお、図1に示すヒーターエレメント100におけるハニカム構造体10は、セル14の流路方向に直交する断面におけるセル14の形状が正方形の例である。
【0018】
ハニカム構造体10は、複数のハニカムセグメントと、複数のハニカムセグメントの間を接合する接合層とを有するハニカム接合体であってもよい。ハニカム接合体を用いることにより、クラックの発生を抑えながらガスの流量確保に重要なセル14の総断面積を増やすことが可能となる。
ここで、一例として、5個のハニカムセグメントを有するハニカム接合体の模式的な端面図を図4に示す。
図4に示されるように、ハニカム接合体17は、5個のハニカムセグメント18と、ハニカムセグメント18の間を接合する接合層19とを有する。各ハニカムセグメント18は、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第1端面13aから第2端面13bまで流路を形成する複数のセル14を区画形成する隔壁12とを有する。
【0019】
接合層19は、接合材を用いて形成することができる。接合材としては、特に限定されないが、セラミックス材料に、水などの溶媒を加えてペースト状にしたものを用いることができる。接合材は、PTC特性を有するセラミックスを含有してもよく、外周壁11及び隔壁12と同一のセラミックスを含有してもよい。接合材は、ハニカムセグメント18同士を接合する役割に加えて、ハニカムセグメント18を接合した後の外周コート材として用いることも可能である。
【0020】
ガス流量を確保するという観点から、ハニカム構造体10の各端面の面積は、好ましくは20cm2以上、より好ましくは50cm2以上、更に好ましくは70cm2以上である。ヒーターエレメント100をコンパクトにするという観点から、ハニカム構造体10の各端面の面積は、好ましくは500cm2以下、より好ましくは300cm2以下、更に好ましくは200cm2以下である。ハニカム構造体10の各端面の面積は、例えば20~500cm2とすることができる。
【0021】
ヒーターエレメント100をコンパクトにするという観点から、ハニカム構造体10の長さ(各セル14の流路長さ)は、好ましくは40mm以下、より好ましくは30mm以下、更に好ましくは20mm以下、更により好ましくは10mm以下である。加熱性能及び強度を確保するという観点からは、ハニカム構造体10の長さ(各セル14の流路長さ)は、好ましくは3mm以上である。ハニカム構造体10の長さ(各セル14の流路長さ)は、例えば3~40mmとすることができる。
【0022】
(1-1-1.ハニカム構造体10の材質)
ハニカム構造体10の外周壁11及び隔壁12は、通電によって発熱可能な材料から形成されている。したがって、外気又は車室内空気のようなガスが、第1端面13aから流入してから、複数のセル14を通過し、第2端面13bから流出するまでに、当該ガスは発熱する外周壁11及び隔壁12からの伝熱によって加熱されることが可能である。
【0023】
また、外周壁11及び隔壁12は、PTC(Positive Temperature Coefficient)特性を有する材料で構成されている。つまり、外周壁11及び隔壁12は、温度が上昇してキュリー点を超えると、急激に抵抗値が上昇して電気が流れ難くなるという特性を有する。外周壁11及び隔壁12がPTC特性を有することによって、ヒーターエレメント100が高温になったときに、これらに流れる電流が制限されるので、ヒーターエレメント100の過剰な発熱が抑制される。
【0024】
通電発熱可能であり且つPTC特性を有するという観点から、外周壁11及び隔壁12は、チタン酸バリウムを主成分とする材料で構成されるセラミックスであることが好ましく、チタン酸バリウムを70質量%以上含有する材料で構成されるセラミックスであることがより好ましく、チタン酸バリウムを90質量%以上含有する材料で構成されるセラミックスであることが更に好ましい。なお、本明細書において「主成分」とは、成分全体に占める割合が50質量%を超える成分のことを意味する。チタン酸バリウムの含有量は、例えば、蛍光X線分析、EDAX(エネルギー分散型X線)分析などにより求めることができる。
当該セラミックスは、希土類元素などの添加物を一種以上含有することが所望のPTC特性を得る上で好ましい。添加物としては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Sc及びLuのような半導体化剤、Sr、Sn及びZrのような低温側のシフター、(Bi-Na)、(Bi-K)のような高温側のシフター、Mnのような特性改善剤、酸化バナジウム及び酸化イットリウムのような金属酸化物(特に希土類元素の酸化物)、並びにカーボンブラック及びニッケルのような導電体粉末が挙げられる。このほかのPTC材料として、クリストバライト相SiO2を母材とし導電フィラーを含む複合材がある。クリストバライト相SiO2母材の代替にトリジマイト相SiO2、クリストバライト相AlPO4、トリジマイト相AlPO4を用いることもできる。
【0025】
また、廃棄物の環境影響の観点から、外周壁11及び隔壁12は、鉛を実質的に含まない材料で構成されるセラミックスであることが好ましく、鉛の含有量が0.001質量%以下の材料で構成されるセラミックスであることがより好ましい。なお、本明細書において「実質的に含まない」とは、成分全体に占める割合が0.01質量%以下であることを意味する。鉛の含有量は、例えば、蛍光X線分析、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)などにより求めることができる。
【0026】
外周壁11及び隔壁12を構成する材料のキュリー点は、暖房用に空気を効率良く加熱する観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは125℃以上である。また、キュリー点の上限については、車室又は車室近傍に置かれる部品としての安全性の観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは225℃以下、更に好ましくは200℃以下、更により好ましくは150℃以下である。
【0027】
外周壁11及び隔壁12を構成する材料のキュリー点は、シフターの種類及び添加量によって調整可能である。例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のキュリー点は約120℃であるが、Ba及びTiの一部をSr、Sn及びZrの一種以上で置換することにより、キュリー点を低温側にシフトさせることができる。
【0028】
本発明において、キュリー点は以下の方法により測定される。試料を測定用の試料ホルダーに取りつけ、測定槽(例:MINI-SUBZERO MC-810P タバイ エスペック社製)内に装着して、10℃から昇温したときの温度変化に対する試料の電気抵抗の変化を、直流抵抗計(例:マルチメーター3478A YHP製)を用いて測定する。測定により得られた電気抵抗-温度プロットにより、抵抗値が室温(20℃)における抵抗値の2倍になるときの温度をキュリー点とする。
【0029】
(1-1-2.ハニカム構造体10の隔壁12の厚さ)
初期電流を抑えるという観点からは、電流通路を小さくして電気抵抗を大きくすることが有利である。したがって、ハニカム構造体における隔壁12の厚さは、好ましくは0.125mm以下、より好ましくは0.075mm以下である。但し、ハニカム構造体10の強度を確保するという観点からは、隔壁12の厚さは、好ましくは0.020mm以上、より好ましくは0.040mm以上、更に好ましくは0.060mm以上である。隔壁12の厚さとは、セル14の流路方向に直交する断面において、隣接するセル14の重心同士を線分で結んだときに当該線分が隔壁12を横切る長さを指す。隔壁12の厚さは、全ての隔壁12の厚さの平均値を指す。
【0030】
ハニカム構造体10を補強するという観点からは、外周壁11の厚さは、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.06mm以上、更に好ましくは0.08mm以上である。ただし、電気抵抗を大きくし、初期電流を抑える観点、及びガス通過時の圧力損失を低減する観点からは、外周壁11の厚さは、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.5mm以下、更に好ましくは0.4mm以下、更により好ましくは0.3mm以下である。外周壁11の厚さは、セル14の流路に直交する断面において、外周壁11と最も外周側のセル14又は隔壁12との境界からハニカム構造体の側面までの、当該側面の法線方向の長さを指す。
【0031】
(1-1-3.ハニカム構造体10のセル密度及びセルピッチ)
ハニカム構造体10のセル密度は、好ましくは93セル/cm2以下、より好ましくは62セル/cm2以下である。また、ハニカム構造体10のセルピッチは、好ましくは1.0mm以上、より好ましくは1.3mm以上である。このような範囲にセル密度又はセルピッチを制御することにより、通風抵抗を抑えて送風機の出力を抑制することができる。
なお、ハニカム構造体10のセル密度の下限は、特に限定されないが、好ましくは10セル/cm2以上、より好ましくは20セル/cm2以上である。また、ハニカム構造体10のセルピッチの上限も、特に限定されないが、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下である。ハニカム構造体10のセル密度は、ハニカム構造体10の各端面の面積でセル数を除して得られる値である。また、ハニカム構造体10のセルピッチは、ハニカム構造体10の各端面において、隣接する2つのセル14の重心同士を結ぶ線分の長さを指す。
【0032】
(1-2.電極20)
本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、第1端面13a及び第2端面13bに一対の電極20を備える。一対の電極20によって電圧を印加することにより、通電してジュール熱によりハニカム構造体10を発熱させることが可能となる。
電極20としては、特に限定されないが、第1端面13a及び第2端面13bのそれぞれの、一方の短辺15側から外部に向かって同方向に伸びる延伸部を有し、延伸部とコネクタ30とが接続されていることが好ましい。延伸部を設けることにより、コネクタ30との接続が容易になる。
【0033】
電極20は、単一の部材から構成されていてもよいし、複数の部材から構成されていてもよい。
電極20を単一の部材から構成する場合、例えば、電極20は、第1端面13a及び第2端面13b上に設けられた電極層21とすることができる。この場合、電極層21は、第1端面13a及び第2端面13bにおける外周壁11及び隔壁12の表面に設けられ、第1端面13a及び第2端面13bのそれぞれの、一方の短辺15側から外部に向かって同方向に伸びる延伸部を有する。
電極20を複数の部材から構成する場合、例えば、図1及び2に示されるように、電極20は、第1端面13a及び第2端面13b上に設けられた電極層21と、電極層21上に設けられた電極板22を含むことができる。この場合、電極層21は、第1端面13a及び第2端面13bにおける外周壁11及び隔壁12の表面に設けられ、電極板22は、電極層21が設けられた外周壁11上に電極層21を介して設けられる。電極板22は、電極層21が設けられた外周壁11以外の部分(電極層21が設けられた隔壁12の表面やセル14)を塞がないように開口部が形成される。また、電極板22は、第1端面13a及び第2端面13bのそれぞれの、一方の短辺15側から外部に向かって同方向に伸びる延伸部を有する。
電極層21と電極板22との接続方法としては、特に限定されず、拡散接合、機械的な加圧機構、溶接などを用いることができる。
電極層21と電極板22との間には、両者の接触を向上させる観点から、必要に応じてカーボンシートを設けてもよい。
【0034】
電極層21としては、特に限定されないが、例えば、Cu、Ag、Al、Ni及びSiから選択される少なくとも一種を含有する金属又は合金を使用することができる。また、PTC特性を有する外周壁11及び/又は隔壁12とオーミック接触が可能なオーミック電極層を使用することもできる。オーミック電極層は、例えば、ベース金属としてAu、Ag及びInから選択される少なくとも一種を含有し、ドーパントとしてn型半導体用のNi、Si、Ge、Sn、Se及びTeから選択される少なくとも一種を含有するオーミック電極層を使用することができる。また、電極層21は、1層であっても、2層以上であってもよい。電極層21が2層以上である場合、それぞれの層の材質は、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0035】
電極板22としては、特に限定されないが、板状であり、導電性に優れる材料から形成することができる。電極板22は、例えば、銅板、ステンレス板などの金属板とすることができる。
【0036】
(1-3.コネクタ30)
本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、ハニカム構造体10の第1端面13a及び第2端面13bの、一方の短辺15側から電極20に接続される一対のコネクタ30を備える。コネクタ30は、電源に電気的に接続可能な端子である。このような位置に一対のコネクタ30を設けることにより、既存のヒーターエレメントの代わりに用いることが可能であり、既存のヒーターユニットの配線などの部品の設計変更によってヒーターユニットが大型化することが抑制される。
【0037】
コネクタ30は、電極20の延伸部のハニカム構造体10側の表面に接続されていることが好ましい。このような構成とすることにより、ヒーターエレメント100のコンパクト化が可能となるため、既存のヒーターユニットに適用し易くなる。
電極20とコネクタ30との接続方法は、電気的に接続されていれば特に限定されず、例えば、拡散接合、機械的な加圧機構、溶接などによって接続することができる。
【0038】
コネクタ30の材質としては、特に限定されないが、例えば、金属とすることができる。金属としては、単体金属及び合金などを採用することもできるが、耐食性、電気抵抗率及び線膨張率の観点から、例えば、Cr、Fe、Co、Ni、Cu及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金とすることが好ましく、ステンレス鋼及びFe-Ni合金、リン青銅がより好ましい。
コネクタ30の形状及び大きさは、特に限定されず、既存のヒーターユニットの構造に応じて適宜調整すればよい。
【0039】
(1-4.ヒーターエレメント100の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100を製造する方法について例示的に説明する。まず、セラミックス原料に、分散媒及びバインダを含有する原料組成物を混ぜ合わせ、混練して坏土を調製した後、坏土を押出成形してハニカム成形体を作製する。原料組成物中には分散剤、可塑剤、半導体化剤、シフター、金属酸化物、特性改善剤、導電体粉末などの添加剤を必要に応じて配合することができる。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度などを有する口金を用いることができる。
【0040】
セラミックス原料は、例えば粉末の形態で提供することができる。セラミックス原料としては、チタン酸バリウムの主成分となるTiO2やBaCO3などの酸化物や炭酸塩原料が使用可能である。また、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Sc及びLuのような半導体化剤、Sr、Sn及びZrのような低温側のシフター、(Bi-Na)、(Bi-K)のような高温側のシフター、Mnのような特性改善剤などとして、これらの酸化物や炭酸塩、あるいは焼成後に酸化物になるシュウ酸塩を用いてもよい。導電率を制御するため、カーボンブラック及びニッケルのような導電体粉末を添加してもよい。NaやKのアルカリ金属元素の添加は、アルカリ金属元素を含むバインダの形態で用いることもできる。
【0041】
また、例えば、TiO2やBaCO3などの原料粉末に、La(NO33・6H2Oを加えた後、分散剤及びバインダを更に加え、焼成体としてBaO(50.3mol%)、TiO2(49.6mol%)、La23(0.05mol%)、K2O(0.033mol%)、Na2O(0.002mol%)になるように配合することで、鉛を実質的に含まない(すなわち、鉛フリーの)ハニカム構造体を得ることができる。ただし、この組成に限らず、組成式が下記式で表されるセラミックスが90質量%以上を占めるように配合することで、希土類元素とアルカリ金属元素を含み、鉛を用いないハニカム構造体とすることができる。
(Ba1-x-yA1xA2y)TiO3
式中、A1は一種又は二種以上の希土類元素を表し、A2は一種又は二種以上のアルカリ金属元素を表し、0.001≦x≦0.01、0.001≦y≦0.01、0.002≦x+y≦0.02である。
【0042】
分散媒としては、水、又は水とアルコールなどの有機溶媒との混合溶媒などを挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0043】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどの有機バインダを例示することができる。特に、メチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルセルロースを併用することが好適である。また、バインダの含有量は、ハニカム成形体の強度を高めるとともに、焼成工程での異常発熱によるキレ発生を抑制する観点から、セラミックス原料100質量部に対して4~9質量部であることが好ましい。バインダは、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0044】
分散剤には、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール、有機リン化合物などの界面活性剤を用いることができる。分散剤は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。分散剤の含有量は、セラミックス原料100質量部に対して0~2質量部であることが好ましい。
【0045】
次いで、得られたハニカム成形体を乾燥する。乾燥工程においては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの従来公知の乾燥方法を用いることができる。なかでも、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0046】
次いで、乾燥後のハニカム成形体に対して焼成を行うことで柱状のハニカム構造体を製造可能である。焼成の前にバインダを除去するための脱脂工程を行うこともできる。例えば、ハニカム成形体の材質がチタン酸バリウムを主成分とする場合、焼成温度は、1100~1400℃が好ましい。また、焼成時間は、1~4時間程度とすることが好ましい。
【0047】
脱脂工程を実施する際の雰囲気としては、例えば大気雰囲気、不活性雰囲気、減圧雰囲気とすることができる。これらの中でも、不活性雰囲気かつ減圧雰囲気とすることが好ましい。焼成炉としては、特に限定されないが、電気炉、ガス炉などを用いることができる。
【0048】
このようにして得られたハニカム構造体の第1端面13a及び第2端面13bに、電極20を形成する。例えば、電極20の電極層21は、スパッタリング、蒸着、電解析出、化学析出のような金属析出法によって形成することができる。また、電極層21は、電極ペーストを塗布した後、焼き付けることによって形成することもできる。さらに、電極層21は、溶射によって形成することもできる。電極層21は単層であってよいが、組成の異なる複数層であってもよい。上記の方法で電極層21を形成するとき、電極層21の厚みが過度に大きくならないように設定すれば、セル14を塞がないようにすることができる。例えば、電極層21の厚みは、ペーストの焼付けでは5~30μm程度、スパッタリング及び蒸着のような乾式めっきでは100~1000nm程度、溶射では10~100μm程度、電解析出及び化学析出のような湿式めっきでは5~30μm程度とすることが好ましい。
【0049】
電極層21上に電極板22を設ける場合、電極層21上に電極板22を配置して接続する。電極層21と電極板22との接続方法としては、上述の方法を用いることができる。
【0050】
次に、電極20にコネクタ30を接続する。電極20とコネクタ30との接続方法としては、上述の方法を用いることができる。
【0051】
(1-5.ヒーターエレメント100の使用方法)
本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、例えば、コネクタ30から一対の電極20を介して電圧を印加することでハニカム構造体10を発熱させることができる。印加電圧としては、急速加熱の観点から、200V以上の電圧を印加することが好ましく、250V以上の電圧を印加することがより好ましい。
【0052】
ヒーターエレメント100が、電圧の印加によって発熱しているときに、セル14にガスを流すことで、ガスを加熱することができる。セル14に流入するガスの温度としては、例えば-60℃~20℃とすることができ、典型的には-10℃~20℃とすることができる。
【0053】
本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、PTC素子をアルミニウムフィンと一体化した既存のヒーターエレメントよりも単純な構造を有するとともに、既存のヒーターユニットの配線や保持具などの部品の設計変更によってヒーターユニットが大型化することを抑制可能である。また、既存のヒーターエレメントは、PTC素子がガスと直接接しないため、ガスの昇温速度(昇温時間)が十分でないが、本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、外周壁11及び隔壁12がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体10がガスと直接接するため、ガスの昇温速度を高めることができる。さらに、本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100は、既存のヒーターエレメントに比べて電力消費量も少ない。
【0054】
(2.ヒーターユニット)
本発明の実施形態に係るヒーターユニットは、車両の車室暖房用のヒーターユニットとして好適に利用可能である。特に、本発明の実施形態に係るヒーターユニットでは、既存のヒーターユニットの配線や保持具などの部品の設計変更によってヒーターユニットが大型化することを抑制可能である。したがって、既存のヒーターエレメントの代わりに上述のヒーターエレメント100を用いることができる。
【0055】
図5は、ヒーターエレメントの第1端面側からみた本発明の実施形態に係るヒーターユニットの模式的な正面図である。
図5に示されるように、本発明の実施形態に係るヒーターユニット200は、ヒーターエレメント100を2個以上含む。また、このヒーターユニット200では、第1端面13a及び第2端面13bの長辺を含む、ハニカム構造体10の外周壁11の表面同士が対向するようにヒーターエレメント100が積層配列されている。このような構成とすることにより、既存のヒーターユニットの配線や保持具など部品の設計を大幅に変更することなく、ヒーターユニット200を作製することができる。
【0056】
本発明の実施形態に係るヒーターユニット200は、筐体(ハウジング部材)110を更に備えることができる。
筐体110の材質としては、特に限定されず、金属、樹脂などが挙げられる。その中でも筐体110の材質は樹脂であることが好ましい。樹脂製の筐体とすることにより、接地しなくても感電を抑制することができる。
筐体110の形状及びサイズとしては、特に限定されず、既存のヒーターユニットと同様にすることができる。
【0057】
本発明の実施形態に係るヒーターユニット200は、積層配列されるヒーターエレメント100の間に配置される絶縁材120を更に備えることができる。このような構成とすることにより、複数のヒーターエレメント100の間の電気的なショートを抑制することができる。
絶縁材120としては、アルミナやセラミックスなどの絶縁材料から形成された板材、マットやクロスなどを用いることができる。
【0058】
(3.ヒーターシステム)
本発明の実施形態に係るヒーターシステムは、車両の車室暖房用のヒーターシステムとして好適に利用可能である。特に、本発明の実施形態に係るヒーターシステムでは、既存のヒーターユニットの配線や保持具などの部品の設計変更によってヒーターユニットが大型化することを抑制可能である。
【0059】
図6は、本発明の実施形態に係るヒーターシステムの構成例を示す模式図である。
図6に示されるように、本発明の実施形態に係るヒーターシステム300は、本発明の実施形態に係るヒーターユニット200、外気導入部又は車室310とヒーターユニット200の流入口301とを連通する流入配管320a,320b、ヒーターユニット200に電圧を印加するためのバッテリー330、及びヒーターユニット200の流出口302と車室310とを連通する流出配管325を備える。
【0060】
ヒーターユニット200は、例えば、バッテリー330と電線340で接続し、その途中の電源スイッチをONにすることでヒーターユニット200を通電発熱するように構成することが可能である。
【0061】
ヒーターユニット200の上流側には蒸気圧縮ヒートポンプ350を設置することができる。ヒーターシステム300において、蒸気圧縮ヒートポンプ350が主暖房装置として構成されており、ヒーターユニット200が補助ヒーターとして構成されている。蒸気圧縮ヒートポンプ350は、冷房時に外部から熱を吸収して冷媒を蒸発させる働きをする蒸発器351、及び暖房時に冷媒ガスを液化させて熱を外部へ放出する働きをする凝縮器352を含む熱交換器を備えることができる。なお、蒸気圧縮ヒートポンプ350としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。
【0062】
ヒーターユニット200の上流側及び/又は下流側には送風機360を設置することができる。高電圧の部品をできるだけ車室310から離して配置して安全を確保する観点から、送風機360はヒーターユニット200の上流側に設置することが好ましい。送風機360を駆動すると、車室310内又は車室310外から空気が流入配管320a,320bを通ってヒーターユニット200に流入する。発熱中のヒーターユニット200を通過する間に空気は加熱される。加熱された空気は、ヒーターユニット200から流出し、流出配管325を通って車室310内に送られる。流出配管325の出口は車室310内でも特に暖房効果が高くなるよう乗員の足元近傍に配置してもよいし、座席シート内へ配管出口を配置して座席シートを内側から温めるようにしてもよいし、ウィンドウ近傍に配置してウィンドウの曇りを抑制する効果を合わせ持たせてもよい。
【0063】
流入配管320aと流入配管320bとは途中で合流する。流入配管320a及び流入配管320bには、合流地点よりも上流側において、バルブ321a,321bをそれぞれ設置することができる。バルブ321a,321bの開閉を制御することで、外気をヒーターユニット200に導入するモードと、車室310内の空気をヒーターユニット200に導入するモードの間で切り替えることができる。例えば、バルブ321aを開き、バルブ321bを閉じると、外気をヒーターユニット200に導入するモードとなる。バルブ321a及びバルブ321bの両者を開いて、外気及び車室310内の空気を同時にヒーターユニット200に導入することも可能である。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
セラミックス原料に、バインダ、分散剤、可塑剤及び水を加えて混ぜ合わせ、混錬して坏土を調製した。セラミックス原料としては、焼成後に、Baに対してLaが0.1%置換されたチタン酸バリウムとなるように、BaCO3粉末、TiO2粉末及びLa(NO33・6H2O粉末を混合したものを用いた。バインダとしてはメチルセルロースを用い、セラミックス原料100質量部に対して6質量部配合した。分散剤としてはカリウム含有アルキルホスフェートを用い、セラミックス原料100質量部に対して0.5質量部配合した。可塑剤としてはエーテルエステル化合物及びアルカンジオールを用い、エーテルエステル化合物はセラミックス原料100質量部に対して0.5質量部、アルカンジオールはセラミックス原料100質量部に対して1質量部それぞれ配合した。
次に、焼成後に隔壁厚みが0.100mm、セル密度が62セル/cm2及びセルピッチが1.27mmとなり、セルが延びる方向に直交する断面が30mm×34mmの矩形状であり且つセルが延びる方向の長さが14mmの角柱状のハニカムセグメントとなるように押出成形を行ってハニカム成形体を得た。
次に、ハニカム成形体を乾燥させ、脱脂処理後に、大気中、1400℃で2時間焼成することにより、ハニカムセグメントを得た。
【0066】
次に、上記のハニカムセグメントを5個準備し、ハニカムセグメントの側面に接合材を塗布して接合することにより、図4に示されるようなハニカム接合体を得た。ハニカム接合体は、セルが延びる方向に直交する断面が30mm×175mmの矩形状であり且つセルが延びる方向の長さが14mmとした。接合材としては、セラミックス材料に、水などの溶媒を加えてペースト状にしたものを用いた。このハニカム接合体の端面の面積は、52.5cm2であった。
次に、ハニカム接合体の第1端面及び第2端面上にAl-Ni電極用ペーストを塗布した後、銀電極用ペーストを塗布して700℃で焼き付けることにより、Al-Ni電極層及び銀電極層を形成した。
次に、ハニカム接合体の外周側の外周壁の表面に形成された銀電極層上に、カーボンシート及び銅電極板を順次配置して接合した。銅電極板は、図1及び2に示される構造と同様に、各電極層が設けられた外周壁以外の部分(各電極層が設けられた隔壁の表面やセル)を塞がないような開口部を形成し、ハニカム接合体の第1端面及び第2端面の、一方の短辺側から外部に向かって同方向に伸びる延伸部を設けた。また、カーボンシートは、銀電極層と銅電極板との間に配置した。
次に、図1及び2に示される構造と同様に、銅電極板の延伸部にリン青銅製のコネクタを接続し、ヒーターエレメントを得た。
次に、図5に示される構造と同様に、上記のヒーターエレメントを4個積層配列し、筐体に収容してヒーターユニットを得た。積層配列したヒーターエレメントの間には、アルミナファイバ製マット(絶縁材)を配置した。
【0067】
上記のヒーターユニットを市販車のHVAC(Heating Ventilation and Air Conditioning)に組み込み、200Vの一定電圧制御で、30A以下の電流に制限し、6m/秒のガス流速下でヒーターユニットの通電加熱試験を行った。
その結果、HVACの吹出口のガス温度は、通電加熱してから6秒で50℃に達し、60秒後には88℃まで上昇した。このときの電力は2.8kWであった。また、通電開始から30秒後の消費エネルギーは90kJであった。
【0068】
(実施例2)
実施例1と同様の坏土を用い、焼成後に隔壁厚みが0.125mm、セル密度が62セル/cm2及びセルピッチが1.27mmとなり、セルが延びる方向に直交する断面が30mm×175mmの矩形状であり且つセルが延びる方向の長さが14mmの角柱状となるように押出成形を行ってハニカム成形体を得た。
次に、ハニカム成形体を乾燥させ、脱脂処理後に、大気中、1400℃で2時間焼成することにより、ハニカム構造体を得た。このハニカム構造体の端面の面積は、52.5cm2であった。
次に、実施例1と同様の条件で、ハニカム構造体の第1端面及び第2端面上にAl-Ni電極層及び銀電極層を形成した後、銀電極層上にカーボンシート及び銅電極板を順次配置して接合し、銅電極板の延伸部にコネクタを接続してヒーターエレメントを得た。
次に、実施例1と同様の条件で、上記のヒーターエレメントを4個積層配列し、筐体に収容してヒーターユニットを得た。
【0069】
上記のヒーターユニットを市販車のHVACに組み込み、250Vの一定電圧制御で、30A以下に電流を制限し、6m/秒のガス流速下でヒーターユニットの通電加熱試験を行った。
その結果、HVACの吹出口のガス温度は、通電加熱してから8秒で60℃に達し、60秒後には100℃まで上昇した。このときの電力は3.4kWであった。また、通電開始から30秒後の消費エネルギーは108kJであった。
【0070】
(比較例1)
図7に示されるような、PTC素子500をアルミニウムフィン510と一体化したヒーターエレメントが積層配列された従来のヒーターユニットを準備した。なお、図7は、ヒーターエレメントの模式的な平面図である。
PTC素子500は、29mm×8mm×2mmのサイズとし、6個を一列に配置するとともに、フレーム、絶縁板、導電板などの部材と組み合わせることにより、ヒーター本体520の内部に収容した。また、ヒーター本体520にはコネクタ30を設けた。さらに、8個のヒーター本体520は、筐体110内に収容し、各ヒーター本体520の間にアルミニウムフィン510が配置されるように構成した。
なお、PTC素子500は、49mol%のTiO2、32mol%のBaO、9mol%のPbO、8mol%のCaO、1mol%のSrO及び1mol%のSiO2を含む材料から構成した。
【0071】
上記の従来のヒーターユニットを市販車のHVACに組み込み、300Vの一定電圧制御で、30A以下に電流を制限し、6m/秒のガス流速でヒーターユニットの通電加熱試験を行った。
その結果、HVACの吹出口のガス温度は、通電加熱してから11秒で50℃に達し、60秒後には88℃まで上昇した。このときの電力は2.8kWであった。また、通電開始から30秒後の消費エネルギーは123kJであった。
【0072】
ここで、実施例1及び比較例1の通電試験結果を比較したグラフを図8に示す。また、実施例1及び実施例2の通電試験結果を比較したグラフを図9に示す。図8及び9において、L1は実施例1の吹出口のガス温度、L2は実施例1の電力、L3は比較例1の吹出口のガス温度、L4は比較例1の電力、L5は実施例2の吹出口のガス温度、L6は実施例2の電力を表す。
図8に示されるように、実施例1のヒーターユニットは、比較例1のヒーターユニットに比べて、ガス温度の昇温時間を短縮することができた(L1とL3との比較)。例えば、通電開始から50℃のガス温度となるまでの時間は、実施例1が6秒であったのに対して比較例1が11秒であり、ガス温度の昇温時間を40%短縮することができた。また、実施例1のヒーターユニットは、比較例1のヒーターユニットに比べて、通電中の最大電力を低減することができた(L2とL4との比較)。例えば、通電中の最大電力は、実施例1が5.8kWであったのに対して比較例1が7.6kWであり、最大電力を25%低減することができた。
図9に示されるように、実施例2のヒーターユニットは、実施例1のヒーターユニットに比べて、ガス温度の昇温時間を更に短縮することができるとともに、60秒後のガスの到達温度も高かった(L1とL5との比較)。その一方で、通電中の最大電力は、実施例2のヒーターユニットに比べて実施例1のヒーターユニットの方が低かった(L2とL6との比較)。
【0073】
以上の結果から、本発明によれば、既存のヒーターエレメントよりも単純な構造を有するとともに、既存のヒーターユニットの配線や保持具などの部品の設計変更によってヒーターユニットが大型化することを抑制可能な車室暖房用ヒーターエレメントを提供することができる。また、本発明によれば、この車室暖房用ヒーターエレメントを用いた車室暖房用ヒーターユニット及び車室暖房用ヒーターシステムを提供することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 ハニカム構造体
11 外周壁
12 隔壁
13a 第1端面
13b 第2端面
14 セル
15 短辺
16 長辺
17 ハニカム接合体
18 ハニカムセグメント
19 接合層
20 電極
30 コネクタ
100 ヒーターエレメント
110 筐体
120 絶縁材
200 ヒーターユニット
300 ヒーターシステム
301 流入口
302 流出口
310 車室
320a,320b 流入配管
325 流出配管
330 バッテリー
340 電線
350 蒸気圧縮ヒートポンプ
351 蒸発器
352 凝縮器
360 送風機
500 PTC素子
510 アルミニウムフィン
520 ヒーター本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9