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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】GNRH誘導体を含む注射用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20240823BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240823BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240823BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240823BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240823BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240823BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20240823BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 5/24 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 15/18 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240823BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
A61K38/22
A61K9/08
A61K47/14
A61K47/24
A61K47/04
A61K47/22
A61K47/28
A61K47/08
A61P5/24
A61P15/18
A61P35/00
A61P15/00
A61P17/00
A61P11/00
A61P1/00
A61P13/08
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2022581316
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 KR2021008187
(87)【国際公開番号】W WO2022005169
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】10-2020-0080621
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514052597
【氏名又は名称】チョン クン ダン ファーマシューティカル コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コ,チンヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ソンポム
(72)【発明者】
【氏名】ノ,サンミョン
(72)【発明者】
【氏名】リン,ジョンレ
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/066199(WO,A1)
【文献】特表2014-527545(JP,A)
【文献】特表2016-504353(JP,A)
【文献】Drug Des. Devel. Ther.,2020年06月09日,Vol.14,pp.2237-2247
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)極性ヘッド基に-OH(hydroxyl)基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid
ester)、
b)リン脂質(phospholipid)、
c)トリグリセリド(triglyceride)、パルミチン酸レチニル(retinyl palmitate)、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)、安息香酸ベンジル(benzyl benzoate)、ユビキノン(ubiquinone)、およびこれらの混合物からなる群から選択される液晶硬化剤(liquid crystal hardener)、
d)0.5~10.5重量%または25~37.5重量%の水(water)、および
e)薬理学的活性物質としてGnRH(gonadotropin-releasing hormone)誘導体を含み、注射前は液相として存在し、注射後には液晶(liquid crystal)を形成する注射用組成物。
【請求項2】
前記ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)は、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan
monooleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan monopalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)、セスキリノール酸ソルビタン(sorbitan sesquilinoleate)、セスキパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquipalmitoleate)、セスキミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquimyristoleate)、ジオレイン酸ソルビタン(sorbitan dioleate)、ジリノール酸ソルビタン(sorbitan dilinoleate)、ジパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan dipalmitoleate)、ジミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan dimyristoleate)、およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求
項1に記載の注射用組成物。
【請求項3】
前記ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)は、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan
monooleate)、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan monopalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)、およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項4】
前記リン脂質(phospholipid)は、飽和または不飽和された炭素数4~30のホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine)、ホスファチジルグリセリン(phosphatidylglycerine)、ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)、ホスファチジン酸(phosphatidic acid)、スフィンゴミエリン(sphingomyelin)、およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項5】
前記リン脂質(phospholipid)は、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)である、請求項4に記載の注射用組成物。
【請求項6】
前記液晶硬化剤は、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)、およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項7】
前記水は、注射用水、蒸留水、および緩衝液からなる群から選択される少なくともいずれか一つとして添加されるものである、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項8】
前記GnRH誘導体は、GnRH作用薬(agonist)またはGnRH拮抗薬(antagonist)である、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項9】
前記GnRH作用薬(agonist)は、ロイプロリド(leuprolide)、ゴセレリン(goserelin)、トリプトレリン(triptorelin)、ナファレリン(nafarelin)、ブセレリン(buserelin)、ヒストレリン(histrelin)、デスロレリン(deslorelin)、メテレリン(meterelin)、ゴナドレリン(gonadrelin)、これらの薬剤学的に許容される塩、およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項8に記載の注射用組成物。
【請求項10】
前記GnRH拮抗薬(antagonist)は、デガレリクス(degarelix)、アバレリクス(abarelix)、ガニレリクス(ganirelix)、セトロレリクス(cetrorelix)、これらの薬剤学的に許容される塩、およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項に記載の注射用組成物。
【請求項11】
前記GnRH誘導体は、ロイプロリド(leuprolide)、ゴセレリン(goserelin)、トリプトレリン(triptorelin)、デガレリクス(degarelix)、アバレリクス(abarelix)、これらの薬剤学的に許容される塩、
およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項12】
前記GnRH誘導体は、ロイプロリド(leuprolide)またはその薬剤学的に許容される塩である、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項13】
性ホルモン依存性疾患の予防もしくは治療のために、または避妊薬として用いられる、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項14】
前記性ホルモン依存性疾患は、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、子宮内膜症、子宮類線維症、多嚢胞性卵巣症、早発思春期、多毛症、性線刺戟脳下垂体腫瘍、睡眠時無呼吸症、過敏性腸症候群、月経前症候群、陽性前立腺肥大症、および不妊である、請求項13に記載の注射用組成物。
【請求項15】
成分a)と成分b)との重量比が、10:1~1:10である、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項16】
成分a)+b)と成分c)との重量比が、1000:1~1:1である、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項17】
成分a)+b)+c)と成分d)との重量比が、99:1~1:1である、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項18】
成分a)+b)+c)+d)と成分e)との重量比が、10000:1~1:1である、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項19】
a)極性ヘッド基に-OH(hydroxyl)基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid
ester)を9~90重量%、
b)リン脂質(phospholipid)を9~90重量%、
c)トリグリセリド(triglyceride)、パルミチン酸レチニル(retinyl palmitate)、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)、安息香酸ベンジル(benzyl benzoate)、ユビキノン(ubiquinone)、およびこれらの混合物からなる群から選択される液晶硬化剤(liquid crystal hardener)を0.1~50重量%、
d)水(water)を0.5~10.5重量%または25~37.5重量%、および
e)GnRH(gonadotropin-releasing hormone)誘導体を0.01~50重量%含む、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項20】
a)極性ヘッド基に-OH(hydroxyl)基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid
ester)を9~50重量%、
b)リン脂質(phospholipid)を18~60重量%、
c)トリグリセリド(triglyceride)、パルミチン酸レチニル(retinyl palmitate)、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)、安息香酸ベンジル(benzyl benzoate)、ユビキノン(ubiquinone)、およびこれらの混合物からなる群から選択される液晶硬化剤(liquid crystal hardener)を1~36重量%、
d)水(water)を0.5~10.5重量%または25~37.5重量%、および
e)ロイプロリド(leuprolide)またはその薬剤学的に許容される塩を0.1~45重量%含む、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項21】
a)極性ヘッド基に-OH(hydroxyl)基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid
ester)を9~50重量%、
b)リン脂質(phospholipid)を18~60重量%、
c)トリグリセリド(triglyceride)、パルミチン酸レチニル(retinyl palmitate)、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)、安息香酸ベンジル(benzyl benzoate)、ユビキノン(ubiquinone)、およびこれらの混合物からなる群から選択される液晶硬化剤(liquid crystal hardener)を1~36重量%、
d)水(water)を0.5~10.5重量%または25~37.5重量%、および
e)ゴセレリン(goserelin)またはその薬剤学的に許容される塩を0.1~45重量%含む、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項22】
a)極性ヘッド基に-OH(hydroxyl)基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid
ester)を9~50重量%、
b)リン脂質(phospholipid)を18~60重量%、
c)トリグリセリド(triglyceride)、パルミチン酸レチニル(retinyl palmitate)、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)、安息香酸ベンジル(benzyl benzoate)、ユビキノン(ubiquinone)、およびこれらの混合物からなる群から選択される液晶硬化剤(liquid crystal hardener)を1~36重量%、
d)水(water)を0.5~10.5重量%または25~37.5重量%、および
e)デガレリクス(degarelix)またはその薬剤学的に許容される塩を0.1~45重量%含む、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項23】
性ホルモン依存性疾患の予防もしくは治療または避妊のための薬剤を製造するための請求項1に記載の注射用組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬理学的活性物質としてGnRH誘導体を含む徐放性デポ製剤およびこれを含む注射用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
徐放性製剤(sustained-release formulation)は、単回の投与で薬理学的活性物質を持続的に放出することにより、反復投与により引き起こされる副作用を防止し、一定の時間または一定の期間以上薬理学的活性物質の有効濃度範囲を維持する製剤である。
【0003】
薬理学的活性物質の治療機序および物理化学的特性を考慮したとき、徐放性製剤の形態として設計されなければならない代表的な薬理学的活性物質としては、GnRH誘導体が挙げられる。
【0004】
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin-releasing h
ormone;GnRH)または黄体形成ホルモン放出ホルモン(luteinizing Hormone Releasing Hormone;LHRH)は、視床下部の神
経血管末端で合成される神経内分泌(neuroendocrine)ペプチドである。GnRHは、視床下部から分泌されて脳下垂体前葉性性線刺戟細胞(anterior
pituitary gonadotroph cell)の膜における特異的受容体に選択的に結合し、黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の生合成および分泌を促す。生成された卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体形成ホルモン(LH)は、男性および女性の生殖腺の性ステロイドの生成を調節する役割を果たす。このようなGnRHの生物学的な機能によって、GnRH誘導体は、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、子宮内膜症、子宮類線維症、多嚢胞性卵巣症、多毛症、早発思春期、性線刺戟脳下垂体腫瘍、睡眠時無呼吸症、過敏性腸症候群、月経前症候群、陽性前立腺肥大症または不妊などの性ホルモン依存性疾患の治療に用いられる。
【0005】
広く市販されている製品のうち、GnRH誘導体を徐放化した製品としては、酢酸ロイプロリド(leuprolide acetate)を薬理学的活性物質として含むLu
pron(登録商標) Depotが挙げられる。Lupron(登録商標) Depotは、生分解性を有するPLGA[poly(lactic-co-glycolic ac
id)]微粒球を徐放基材として用いた筋肉および皮下内注射剤として広く用いられている。一般に、PLGA微粒球は、生体内で一定の期間留まりながら乳酸およびグリコール酸に分解されて封入された薬理学的活性物質を持続的に放出して徐放効果を示す(米国登録特許第5,480,656号)。しかしながら、PLGA微粒球の製造工程は、複雑かつ難しいうえに、薬理学的活性物質の封入効率も著しく低いという欠点がある。また、PLGA微粒子は、濾過が難しく、40℃以上の温度では溶融されるため、無菌処理のために用いられる通常の方法を適用できず、高度の無菌状態の条件下で工程を行わなければならない。また、理想的な徐放出様相を作るためには、互いに異なる2種類以上の微粒球を製造して混合するという複雑な工程をさらに行わなければならず(国際公開特許WO2005/074896号)、非効率的な工程によってコストが増加してしまう。なお、PLGA微粒球に起因する酢酸不純物および酸性分解物質は、炎症反応、細胞増殖率の減少などをもたらし(K.Athanasiou,G.G.Niederauer,and C
.M.Agrawal,Biomaterials,17,93(1996))、10~100μm程度の微粒球を水相溶液に懸濁させて筋肉および皮下に多量投与しなければならない製品の特性からみて、注射部位に疼痛や組織損傷を伴うという問題がある。PLG
A微粒球徐放製剤の欠点を補うために紹介されたGnRH誘導体(leuprolide
acetate)徐放注射剤としては、エリガード注(登録商標)が挙げられる。エリガ
ード注は、保護されたカルボキシ末端基を有するpoly(DL-lactide-co-glycolide)およびGnRH誘導体(leuprolide acetate
)をN-methyl-2-pyrrolidone(NMP)に溶解して用いる皮下注射剤として広く市販されている。エリガード注(登録商標)は、生分解性高分子を極性非プロトン溶液に溶解して流動性組成物を製造した後に皮下投与することにより、固体PLGA微粒球製剤が有する欠点を一部改善した(米国登録特許第6,773,714号)。しかしながら、前記製品は、完全なプレフィルド型注射装置を提供しないため、使い勝手が悪く、混合製造された溶液状における薬物安定性が低いという欠点がある。前記製品が提供するキットは、2つの連結可能な注射器と、混合、製造および注射のための装置で構成されている。最終的な混合溶液を製造するに当たって、細部的には約10段階以上の複雑な工程が必要であり、30分以内に製造を終えて投与しなければならないという難点がある。また、前記製品は、保管条件からみて、別途の冷蔵保管装置を必要とし、最終的な混合溶液を冷蔵保管しない場合に5日以上使用できないという欠点がある。さらに、前記製剤は、PLGA製剤が一般的に有する欠点である高い初期薬物放出現象を改善することができず、むしろPLGA微粒子製剤であるLupron(登録商標) Depotよりも高
い初期薬物濃度を示した(米国登録特許第6,773,714号)。薬物機能の範囲を大幅に上回る初期薬物濃度は、機能的にも毒性学的にも好ましくない。特に、GnRH誘導体は、投与の初期には性ホルモンの分泌が一時的に増加していて一定の時点が経過してから下向きに調節される機序であることを考慮するとき、過度な初期薬物放出は必ず止揚すべき要素である。
【0006】
これらのPLGA製剤の問題を克服するための一つの代案として、国際公開特許第WO2005/117830号は、少なくとも一つの中性ジアシル脂質および/またはトコフェロール、少なくとも一つのリン脂質、少なくとも一つの生体適合性、酸素含有、低粘度の有機溶媒を含む初期製剤を開示しており、国際公開特許第WO2006/075125号は、少なくとも一つのジアシルグリセリド、少なくとも一つのホスファチジルコリン、少なくとも一つの酸素含有有機溶媒、そして少なくとも一つのGnRH誘導体を含む初期製剤を開示している。これらの製剤は、高分子システムの乳酸またはグリコール酸分解産物を生成しないため、注射部位に疼痛や炎症を伴わず、薬理学的活性物質を生体内(in
vivo)で約4週間持続的に放出した。しかしながら、前記製剤組成物の核心的な構
成成分であるジアシル脂質は、一般に、医薬品の賦形剤として用いられず、安全性が十分に確保されていない物質であり、一部の薬理学的活性物質の活性低下を引き起こす有機溶媒を使用しなければならないという問題がある(H.Ljusberg-Wahre,F.S.Nielse,298,328-332(2005);H.Sah,Y.bahl,Journal of Controlled Release 106,51-61(2005))。
【0007】
そこで、本発明者らは、a)ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan u
nsaturated fatty acid ester)、b)リン脂質(phosp
holipid)、c)液晶硬化剤、およびd)薬理学的活性物質としてGnRH誘導体を含み、水性流体の不在下で脂質液相として存在し、水性流体上で液晶を形成する薬剤学的組成物を発明している(大韓民国出願第10-2012-0157583号)。前記発明による徐放性脂質初期製剤は、動物試験(in vivo)で安全性および生分解性が
既存の初期製剤に比べて同等であるか、あるいは、既存の初期製剤よりも優れており、薬理学的活性物質を含む薬剤学的組成物は、薬物を徐放することが確認された。しかしながら、前記発明の徐放性脂質初期製剤は、臨床(Human)において、予想に反して2週以内に薬物放出が終了した。これは、水分量が少なく密度の高い皮下脂肪の発達している人体では、徐放性脂質初期製剤が皮下脂肪や組織に広がり、液晶ゲル(Liquid c
rystal gel)が広がったり断片化して生成されたりするため、薬物の放出が早めに終わってしまったものと思われる。
【0008】
そこで、本発明者らは、研究を重ね、前記GnRH誘導体を含む徐放性脂質初期製剤に予め水を添加することで、液状注射剤が投与直後に液晶ゲルを形成するようにし、初期放出率および薬物の徐放性を著しく改善した徐放性デポ製剤の発明を完成した。
以下、本発明に関連する先行技術を検討する。
【0009】
米国登録特許第7,731,947号は、インターフェロン、スクロース、メチオニン、およびクエン酸緩衝液からなる固体粒子が安息香酸ベンジルなどの有機溶媒に分散した組成物を開示しており、適用可能な薬物としてGnRH誘導体が挙げられると説明している。また、一部の実施形態において、ホスファチジルコリンをビタミンE(トコフェロール)と共に有機溶媒に溶解し、固体粒子の分散液として使用できることを説明している。ところが、前記特許の組成物は、液晶が形成されないうえ、これらを固体粒子分散用途に使用するという点で、本発明とは異なる。
【0010】
米国登録特許第7,871,642号は、リン脂質、ポリオキシエチレンを有する界面活性剤、トリグリセリド、およびエタノールの混合物を水に分散し、ホルモン製剤を含む薬理学的活性物質を伝達する分散体を製造する方法を開示しており、ここで、ポリオキシエチレンを有する界面活性剤の一つとしてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート、polysorbate)とポリオキシエチレンビタミンE誘導体が使用できることを説明している。ところが、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとポリオキシエチレンビタミンE誘導体は、ソルビタン脂肪酸エステルとビタミンEのそれぞれに親水性ポリマーであるポリオキシエチレンが結合した物質であって、元来のソルビタン脂肪酸エステルおよびビタミンEとは構造が全く異なり、ポリオキシエチレンの特性を用いた親水性界面活性剤として使用される物質であるという点で、本発明の構成成分とは異なる。
【0011】
米国登録特許第5,888,533号は、インプラントを形成する流体組成物であって、非ポリマー性、水不溶性、および生分解性を有する物質と、該物質を少なくとも部分的に溶解し、水または生体液に混和または分散可能な溶媒とからなり、人体への適用の際に該溶媒が生体液に拡散しながら抜け出て非ポリマー性、水不溶性、および生分解性を有する物質が凝集または沈殿することによりインプラントが形成され、ロイプロリドを含む薬理学的活性物質の徐放性を提供する組成物を開示している。ここで、非ポリマー性、水不溶性、および生分解性を有する物質としては、ステロール、コレステリルエステル、脂肪酸、脂肪酸グリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪アルコール、脂肪アルコールと脂肪酸のエステル結合物、脂肪酸の脱水物、リン脂質、ラノリン、ラノリンアルコールなどを使用できると説明し、溶媒としてエタノールなどが挙げられると説明している。ところが、前記特許は、液晶を形成することができないうえ、単なる凝集または沈殿によってインプラントを形成する組成物であるという点、そして多量の有機溶媒を必須的に使用しなければならないという点で、本発明とは異なる。
【0012】
国際公開特許公報WO2012/160212号は、20~80%の少なくとも1つのジアシル脂質および/またはトコフェロール、20~80%の少なくとも1つのリン脂質、5~35%の生体に適した少なくとも1つの有機アルコール溶媒、20%以下の水溶液、および少なくとも1つのDual amylin receptor/GLP-1 receptor agonist薬物を含む初期製剤を開示しており、米国公開特許US20070265190は、少なくとも1つのジアシル脂質および/またはトコフェロール、少なくとも1つのリン脂質、少なくとも1つの酸素を含有する低粘度の有機溶媒、および少なくとも1つのオピオイド薬物を含む初期製剤を開示している。これらの製剤は、
高分子システムの乳酸またはグリコール酸分解産物を生成しないため、注射部位に疼痛や炎症を伴わず、薬理学的活性物質を生体内(in vivo)で持続的に放出した。しか
しながら、前記製剤組成物の核心的な構成成分であるジアシル脂質は、一般に、医薬品の賦形剤として用いられず、安全性が十分に確保されていない物質であり、皮下脂肪の発達している人体のような条件においては、水分による薬物放出挙動を立証することはできていない。また、本発明の薬物と全く異なる薬物の徐放性を有する組成物であるという点で、本発明とは異なる。
【0013】
国際公開特許公報WO2005/074896は、水相溶液を含むPLGAマイクロカプセルにGnRH作用薬またはその塩を含めることにより、長期間薬物を放出する組成物を開示している。また、初期薬物放出現象が現れることなく、ゼロ次放出(Zero order-release)により薬物放出に対する少ない副作用および安定した徐放性を維持することを説明している。ところが、前記特許の組成は、PLGAマイクロ粒子製剤であって、本発明とは全く異なる徐放性製剤であり、PLGAマイクロ粒子内部の水チャネルは水溶性薬物を含有する用途で使用するという点で、本発明とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開特許公報WO2005/074896号
【文献】国際公開特許公報WO2005/117830号
【文献】国際公開特許公報WO2006/075125号
【文献】国際公開特許公報WO2012/160212号
【文献】米国登録特許公報第5,480,656号
【文献】米国登録特許公報第6,773,714号
【文献】米国登録特許公報第7,731,947号
【文献】米国登録特許公報第7,871,642号
【文献】米国登録特許公報第5,888,533号
【文献】米国公開特許US20070265190号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、極性ヘッド基に-OH(ヒドロキシ基)が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステルを組成物として安全性を著しく向上させ、水性流体の不在下で液相として存在するため、投薬形態の医薬品製剤に適用が容易であり、水性流体上で液晶(liquid crystal)を形成して生体内で薬理学的活性物質として用いられるGnRH誘導体の徐放性を増加させる注射用組成物を提供することにある。
【0016】
本発明の目的は、極性ヘッド基に-OH(ヒドロキシ基)が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステルを組成物として安全性を著しく向上させ、水性流体の不在下で液相として存在するため、投薬形態の医薬品製剤に適用が容易であり、水性流体上で液晶(liquid crystal)を形成して生体内で薬理学的活性物質として用いられるGnRH誘導体の徐放性を増加させる注射用組成物を提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、液相のまま注射可能であるため、従来の徐放製剤が克服できなかった注射時の疼痛、炎症および高い初期放出濃度などを改善することのできる注射用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、a)極性ヘッド基に-OH(hydroxyl)基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty
acid ester)、b)リン脂質(phospholipid)、c)イオン化基を有せず、疎水性部分が、炭素数15~40のトリアシル基または炭素環構造を有する液晶硬化剤(liquid crystal hardener)、d)水(water)、およびe)薬理学的活性物質としてGnRH(gonadotropin-releasing hormone)誘導体を含み、注射前は液相として存在し、注射後には液晶(liquid crystal)を形成する注射用組成物を提供する。
以下、各構成成分について詳しく説明する。
【0019】
a)ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)
本発明の液晶形成剤であるソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)は、極性ヘッド基に-OH(hydroxyl)が2つ以上存在する[化学式I]の化合物を意味し、ここで、ソルビタンモノエステル(sorbitan monoester)は、R=R=OH、R=Rであり、ソルビタンジエステル(sorbitan diester)は、R=OH、R=R=Rであるか、またはR=OH、R=R=Rである。ここで、Rは、炭素数が4~30であり、二重結合を1つ以上含むアルキルエステル基(alkyl
ester group)を意味する。
【0020】
【化1】
【0021】
これは、従来の技術において、液晶化現象が、[化学式II]に示されるオレイルグリセラート(oleyl glycerate、OG)、フィタニルグリセラート(phyta
nyl glycerate、PG)、モノオレイン酸グリセリン(glycerine monooleate、GMO)、およびジオレイン酸グリセリン(glycerine
dioleate、GDO)によって特異的に引き起こされると知られていることとは
異なる。すなわち、従来より知られている液晶を形成する物質の構造的な共通点は、いずれもグリセリン(glycerine)またはグリセリン酸(glyceric aci
d)からなる極性ヘッド部(polar head)を有し、ここに脂肪アルコールまた
は脂肪酸形態に由来する非極性テール(nonpolar tail)が結合した構造を
有する。
【0022】
【化2】
【0023】
しかしながら、従来の液晶形成物質は、それぞれが有する次のような欠点から医薬品の開発には適用が難しい。オレイルグリセラート(OG)およびフィタニルグリセラート(PG)は、液晶は形成されやすいが、相対的に毒性が高いため、医薬品の賦形剤として用いられておらず、一方、モノオレイン酸グリセリン(GMO)は、医薬品の賦形剤として使用可能であるが、液晶形成能が低いため、医薬品に求められる徐放性の液晶を形成できないという欠点がある。
【0024】
また、上述した国際公開特許WO2005/117830号のジオレイン酸グリセリン(GDO)は、ジアシル基を有するグリセリドの形態であり、グリセリンを極性ヘッド部に用いるが、一般に、医薬品の賦形剤として用いられず、安全性が十分に確保されていない物質であるという問題がある。
【0025】
本発明者らは、既存のグリセリンやグリセリン酸誘導体とは異なり、ソルビタン不飽和脂肪酸エステルによって形成される液晶が活性物質の徐放化に非常に有利であるだけでなく、従来の液晶形成物質に比べてより安全性に優れているため、従来の技術の欠点を克服し、医薬品の開発に活用可能であるということを見出した。医薬組成物として用いられるためには、安全性の確保はもちろん、生分解性が必須要素である。ましてや、生体内に注入されて徐放性を示す物質において、生分解性が非常に重要な要素であることは言うまでもない。従来の徐放性注射剤として用いられるPLGAも、1週間徐放効果を示す場合、理想的には1週間後には注入されたPLGAが生体内で分解されて消失されることが好ましいが、実際には徐放機能を終了した後にも1ヶ月から数ヶ月に至るまで分解されずに残存するという問題がある。よって、徐放性に優れており、安全性が確保される他、生分解性が卓越している本発明のソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、産業的にも非常に高い価値を有する新規な液晶形成物質であることが明らかである。
【0026】
具体的には、本発明のソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、植物性油(例えば、ヤシ油、ヒマシ油、オリーブ油、ピーナッツ油、菜種油、トウモロコシ油、胡麻油、綿実油、大豆油、ひまわり油、 紅花油、亜麻仁油など)、動物性脂肪および油(例えば、乳脂肪、豚脂および牛脂など)だけでなく、鯨油および魚油から得られる脂肪酸に由来するソルビタンモノエステル(sorbitan monoester)、ソルビタンセスキエステル(sorbitan sesquiester)、ソルビタンジエステル(sorbitan diester)、およびこれらの混合物から1種以上選択されてもよい。
【0027】
前記ソルビタンモノエステル(sorbitan monoester)は、ソルビタンに1つの脂肪酸基がエステル結合したものであり、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan monooleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan
monopalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)、およびこれらの混合物から1種以上選択されてもよい。
【0028】
前記ソルビタンセスキエステル(sorbitan sesquiester)は、ソルビタンに平均1.5個の脂肪酸基がエステル結合したものであり、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)、セスキリノール酸ソルビタン(sorbitan sesquilinoleate)、セスキパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquipalmitoleate)、セスキミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquimyristoleate)、およびこれらの混合物から1種以上選択されてもよい。
【0029】
前記ソルビタンジエステル(sorbitan diester)は、ソルビタンに2つの脂肪酸基がエステル結合したものであり、ジオレイン酸ソルビタン(sorbitan dioleate)、ジリノール酸ソルビタン(sorbitan dilinoleate)、ジパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan dipalmitoleate)、ジミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan dimyristoleate)、およびこれらの混合物から選択されてもよい。
【0030】
本発明によるソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan monooleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan monopalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)、およびこれらの混合物から選択して用いることが好ましい。
【0031】
b)リン脂質
本発明のリン脂質(phospholipid)は、従来よりリポソーム(liposome)などの層状構造(lamellar structure)の製造に必須的に使用されてきた物質であるが、単独では非層状構造(non-lamellar phase structure)の液晶を形成することができない。しかし、本発明の液晶形成剤であるソルビタン不飽和脂肪酸エステルによって触発される非層状構造に参加し、液晶を安定化させる役割を果たす。
【0032】
本発明のリン脂質は、植物または動物に由来する形態であり、具体的には、飽和または不飽和された炭素数4~30のアルキルエステル基を有し、極性ヘッド部の構造に応じてホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine)、ホスファチジルグリセリン(phosphatidylglycerine)、ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)、ホスファチジン酸(phosphatidic acid)、スフィンゴミエリン(sphingomyelin)、およびこれらの混合物から1種以上選択されてもよい。
【0033】
そして、リン脂質は、豆や卵などの植物または動物に由来する形態であり、リン脂質に結合されるアルキルエステル基としては、モノおよびジパルミトイル(mono- and dipalmitoyl)、モノおよびジミリストイル(mono- and dimyristoyl)、モノおよびジラウリル(mono- and dilauryl)、モノおよびジステアリル(mono- and distearyl)などの飽和脂
肪酸エステルやモノおよびジリノレイル(mono- and dilinoleyl)、モノおよびジオレイル(mono- and dioleyl)、モノおよびジパルミトレイル(mono- and dipalmitoleyl)、モノおよびジミリストレイル(mono- and dimyristoleyl)などの不飽和脂肪酸エステルが挙げられ、飽和脂肪酸エステルおよび不飽和脂肪酸エステルが共存する形態であってもよい。
【0034】
c)液晶硬化剤
本発明の液晶硬化剤(liquid crystal hardener)は、単独では液晶形成剤のように非層状構造を形成することができず、リン脂質のようにリポソームなどの層状構造を形成することもできない。しかし、本発明の液晶硬化剤は、液晶形成剤によって触発される非層状構造に参加して非層状構造の曲率(curvature、ねじれ)を高め、油水(oil、water)の規則的な混在程度をさらに高める結果をもたらす。このような液晶硬化剤としての機能を有するためには、分子構造の内部に極性が非常に制限的に存在し、かつ、非極性を示す部位の体積が大きい(bulky)ことが求められる。
【0035】
しかしながら、本発明の液晶硬化剤は、実際には、非常に特異的に、直接かつ反復的な実験によってのみ人体に投与可能で生体に適した物質が選択され、その結果、本発明の組成物に適した液晶硬化剤は、それぞれが異なる分子構造を有しており、1つの構造で説明することはできなかった。但し、本発明の組成物に適した液晶硬化剤を解明した後、これらの構造を観察してみたところ、カルボキシル基やアミン基などのイオン化基を有せず、疎水性部分が、全体炭素数15~40の体積の大きい(bulky)トリアシル基または炭素環構造を有する物質であることを確認することができた。好ましくは、カルボキシル基やアミン基などのイオン化基を有せず、弱い極性部分として水酸化基およびエステル構造を最大1つ有し、相対的に疎水性部分は全体炭素数20~40の体積の大きい(bulky)トリアシル基または炭素環構造を有する物質である。よって、具体的には、本発明の液晶硬化剤は、トリグリセリド(triglyceride)、パルミチン酸レチニル(retinyl palmitate)、酢酸トコフェロール(tocopherol
acetate)、コレステロール(cholesterol)、安息香酸ベンジル(benzyl benzoate)、ユビキノン(ubiquinone)、およびこれらの混合物から1種以上選択されてもよいが、これに限定されるものではない。好ましくは、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)、またはこれらの混合物が本発明の液晶硬化剤となり得る。
【0036】
d)水(water)
本発明の水は、液状注射剤が投与直後に素早く液晶ゲルを形成させるための役割を果たす。水を含まない脂質初期製剤は、注射後に生体内の水分を引き付けながら非常にゆっくりと液晶ゲルを形成する。遅い速度で液晶ゲルを形成するため、注射部位に広がってそのまま液晶ゲルを形成し、表面積の広いゲルまたは断片化したゲルを形成することになる。表面積の広いまたは断片化した液晶ゲルは、投与の初期に薬物放出現象を招き、これにより徐放期間の後期段階で薬物放出量が不足してしまい、長期間安定した徐放性を維持することが難しい。一方、本発明は、脂質初期製剤が水を含んでおり、組織への投与直後に素早くゲルを形成して薬物初期放出率を下げることにより、安定した薬物徐放出を提供する。
【0037】
本発明において、水は、注射用水、蒸留水、緩衝液、またはこれらのうちから選択された2つ以上の混合物として添加してもよい。
【0038】
e)GnRH誘導体
GnRH誘導体(GnRH analogues)は、GnRHと構造的には類似して
いるが、体内で別の方法で作用する。一般に、GnRHは、拍動性分泌を通じて体内性ステロイドの生成を誘導する生物学的機能を行うが、GnRH誘導体は、体内性ステロイドの生成を一定の期間強く抑えるために用いられる。
【0039】
このようなGnRH誘導体は、作用する機序に応じて、作用薬(agonist)または拮抗薬(antagonist)に分類される。治療用量のGnRH作用薬を体内に投与すれば、初期にはGnRH作用薬が脳下垂体ゴナドトロピンのGnRH受容体に結合しながら卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体ホルモン(LH)の生合成および分泌を促す。しかしながら、GnRH作用薬の持続的な投与はゴナドトロピンを枯渇させる一方で、GnRH受容体を下向きに調節することにより、卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体ホルモン(LH)の生合成および分泌を抑える機能を有する。このようなGnRHの生物学的機能によって、GnRH誘導体は、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、子宮内膜症、子宮類線維症、多嚢胞性卵巣症、多毛症、早発思春期、性線刺戟脳下垂体腫瘍、睡眠時無呼吸症、過敏性腸症候群、月経前症候群、陽性前立腺肥大症または不妊などの性ホルモン依存性疾患の予防または治療に用いられ、避妊薬としても用いられる。
【0040】
本発明の薬理学的活性物質として使用可能なGnRH作用薬(agonist)は、ロイプロリド(leuprolide)、ゴセレリン(goserelin)、トリプトレリン(triptorelin)、ナファレリン(nafarelin)、ブセレリン(buserelin)、ヒストレリン(histrelin)、デスロレリン(deslorelin)、メテレリン(meterelin)、ゴナドレリン(gonadrelin)、またはこれらの薬理学的に許容される塩の中から選択されてもよい。好ましくは、ロイプロリド(leuprolide)、ゴセレリン(goserelin)、およびこれらの薬理学的に許容される塩から1種以上選択されてもよい。
【0041】
一方、GnRH拮抗薬(antagonist)は、脳下垂体ゴナドトロピンのGnRH受容体に競争的に反応して体内GnRHが結合することを遮断することにより、卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体ホルモン(LH)の生合成および分泌を抑える機能を有している。本発明の薬理学的活性物質として使用可能なGnRH拮抗薬(antagonist)は、デガレリクス(degarelix)、アバレリクス(abarelix)、ガニレリクス(ganirelix)、セトロレリクス(cetrorelix)、およびこれらの薬理学的に許容される塩から選択されてもよい。好ましくは、デガレリクス(degarelix)およびこれらの薬理学的に許容される塩から1種以上選択されてもよい。
【0042】
一方、本発明の注射用組成物は、a)~e)の他にさらに溶媒を含んでもよい。前記溶媒としては、例えば、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、メチルピロリドンまたはプロピレングリコールなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2以上混合して用いてもよい。
【0043】
本発明の注射用組成物が目的とする液晶に適した成分a)と成分b)との重量比は、10:1~1:10であり、具体的には、5:1~1:5であってもよい。成分a)+b)と成分c)との重量比は、100:1~1:1であり、例えば、50:1~2:1であってもよい。前記範囲内において、本発明が目的とする液晶による徐放性効果が良好に発現でき、これらの割合を調節して徐放出様相を調節することができる。
【0044】
また、本発明の注射用組成物が目的とする液晶に適した成分a)+b)+c)と成分d)との重量比は、99:1~1:1であり、例えば、99:1~90:10または75:25~62.5:37.5である。
【0045】
また、本発明の注射用組成物が目的とする液晶に適した成分a)+b)+c)+d)と成分e)との重量比は、10000:1~1:1であり、例えば、1000:1~1:1である。
【0046】
本発明において、一成分の含有量を「重量%」で示したものは、注射用組成物の全重量を100%としたときの当該成分の重量が占めるパーセンテージを意味する。本発明の注射用組成物は、a)~e)成分と共にさらに溶媒を含んでもよい。
【0047】
本発明の注射用組成物は、a)を9~90重量%、b)を9~90重量%、c)を0.1~50重量%、d)を0.5~50重量%、およびe)を0.01~50重量%含んでもよい。
【0048】
一実施形態において、本発明の注射用組成物は、a)を9~50重量%、b)を18~60重量%、c)を1~36重量%、d)を0.5~50重量%、およびe)を0.1~45重量%含んでもよい。
【0049】
一実施形態において、本発明の注射用組成物は、a)を9~50重量%、b)を18~60重量%、c)を1~36重量%、d)を0.5~10.5重量%、およびe)を0.1~45重量%含んでもよい。
【0050】
一実施形態において、本発明の注射用組成物は、a)を9~50重量%、b)を18~60重量%、c)を1~36重量%、d)を2.5~10.5重量%、およびe)を0.1~45重量%含んでもよい。
【0051】
一実施形態において、本発明の注射用組成物は、a)を9~50重量%、b)を18~60重量%、c)を1~36重量%、d)を25~37.5重量%、およびe)を0.1~45重量%含んでもよい。
【0052】
本発明の一具体例において、薬理学的活性物質がロイプロリド(leuprolide)である場合、本発明の注射用組成物は、a)を9~50重量%、b)を18~60重量%、c)を1~36重量%、d)を0.5~10.5重量%または25~37.5重量%、およびe)ロイプロリド(leuprolide)またはその薬剤学的に許容される塩を0.1~45重量%含んでもよい。
【0053】
本発明の一具体例において、薬理学的活性物質がゴセレリン(goserelin)である場合、本発明の注射用組成物は、a)を9~50重量%、b)を18~60重量%、c)を1~36重量%、d)を0.5~10.5重量%または25~37.5重量%、およびe)ゴセレリン(goserelin)またはその注射用として許容される塩を0.1~45重量%含んでもよい。
【0054】
本発明の一具体例において、薬理学的活性物質がデガレリクス(degarelix)である場合、本発明の注射用組成物は、a)を9~50重量%、b)を18~60重量%、c)を1~36重量%、d)を0.5~10.5重量%または25~37.5重量%、およびe)デガレリックス(degarelix)またはその薬剤学的に許容される塩を0.1~45重量%含んでもよい。
【0055】
本発明の注射用組成物は、前記含有量でa)~e)成分を含むときに、それぞれの薬理学的活性物質の徐放性放出効果に優れている。。
【0056】
本発明において、液晶は、非常に制限された条件で油水(oil、water)が規則的に混在し、配列されて内相と外相が区分できない状態の非層状構造を有し、このような非層状構造は、特異的に油水の規則的な配列により液相(liquid phase)と
固相(solid phase)の中間相(mesophase)の性質を有する。これ
は、従来、注射用製剤の設計に広く使用されてきたミセル(micelle)、エマルジョン(emulsion)、マイクロエマルジョン(microemulsion)、リポソーム(liposome)、二重脂質膜(lipid bilayer)などが、い
ずれも共通して層状構造の特徴を有し、これらの層状構造は、油中水(o/w、oil
in water)または水中油(w/o、water in oil)の形で内相(in
ner phase)と外相(out phase)が区分されることによって形成されるが、それとは異なる構造を有する。
【0057】
本発明において、「液晶」を示す液晶化現象は、上述したような初期製剤から過量の水性油体に晒されることにより、非層状構造(non-lamellar phase structure)の液晶(liquid crystal)が形成される現象を意味する。液晶化現象を起こす水性流体の「過量」とは、本発明の注射用組成物の全重量または体積に対して少なくとも1倍以上の量を意味するものであり得る。
【0058】
本発明の注射用組成物は、a)ソルビタン不飽和脂肪酸エステルから選択された1種以上、b)リン脂質から選択された1種以上、c)液晶硬化剤から選択された1種以上、d)注射用水、蒸留水、および緩衝液から選択された1種以上、およびe)GnRH誘導体から選択された1種以上を添加して室温で製造してもよく、必要に応じて、熱を加えたりホモジナイザーを用いたりして製造してもよい。ここで、ホモジナイザーは、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、破砕ホモジナイザーなどから選択して用いてもよい。
【0059】
本発明の注射用組成物は、注射剤の投与経路として皮下注射、筋肉注射のいずれの投与形態も採用可能であり、投与形態は、それぞれの薬理活性物質の特性によって選択してもよい。
【0060】
本発明の注射用組成物は、本発明の初期製剤に薬理学的活性物質を室温で添加して製造してもよく、必要に応じて、熱を加えたりホモジナイザーを用いたりして製造してもよいが、これに限定されるものではない。
【0061】
さらに、本発明は、本発明の注射用組成物を治療的に有効な量で対象に投与することを含む、性ホルモン依存性疾患の予防もしくは治療または避妊方法を提供する。
【0062】
本発明において「対象」とは、ヒトを含む哺乳動物を意味し、用語「投与」とは、任意の適切な方法によって対象に所定の物質を提供することを意味する。
【0063】
本発明において、注射用組成物の「治療的に有効な量」とは、研究者、獣医師、医師またはその他臨床医によって判断される動物またはヒトにおいて生物学的または医学的反応を誘導する活性成分または薬剤学的組成物の量を意味し、これは、治療する疾患または障害の症状の軽減を誘導する量を含み、使用された薬理学的活性物質の公知の投与量と同量であり、患者の疾患の種類、重症度、年齢、性別などに応じて異なり、薬理学的活性物質および薬剤の特性によって皮下注射、筋肉注射のいずれの投与形態も採用可能である。本発明は、性ホルモン依存性疾患の予防もしくは治療または避妊のための本発明による注射用組成物の用途を提供する。
【0064】
本発明は、性ホルモン依存性疾患の予防もしくは治療または避妊のための薬剤を製造するための本発明による注射用組成物の用途を提供する。
【0065】
本発明の注射用組成物、その用途、治療方法、および薬理学的活性物質の徐放性放出方法において言及された事項は、互いに矛盾しない限り同様に適用される。
【発明の効果】
【0066】
本発明の注射用組成物は、極性ヘッド基に-OH(ヒドロキシ基)が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステルを組成物として安全性を著しく向上させ、水性流体の不在下で液相として存在するため、投薬形態の医薬品製剤に適用が容易であり、水性流体上で液晶(liquid crystal)を形成して生体内で薬理学的活性物質として用いられるGnRH誘導体の徐放性効果を示す。また、本発明の注射用組成物は、GnRH誘導体を含む徐放性脂質初期製剤に予め水を添加することで、液状注射剤が投与直後に液晶ゲルを形成し、初期放出率を下げ、薬物の徐放性を著しく増加させる効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1図1は、実験例1~18による組成物の性状確認試験の結果を示す写真である。
図2図2は、比較例1および実施例4の組成物をそれぞれ注射したブタの皮下脂肪(Ex-vivo)におけるSol-gel転換を経時的に確認した写真である。
図3図3は、比較例2および実施例10の組成物をそれぞれ注射したMini pigの皮下(in vivo)におけるgelの性状を確認した写真である。
図4図4は、比較例3および実施例13の組成物をそれぞれ注入したGuinea pigにおける7日間のPK変化を示すグラフである。
図5図5は、比較例3および実施例13の組成物をそれぞれ注射したGuinea pigにおける28日間のPK変化を示すグラフである。
図6図6は、実施例19の組成物を注射したGuinea pigにおける薬物初期放出率を示すPK変化グラフである。
図7図7は、実施例19の組成物を注射したGuinea pigにおける28日間のPK変化を示すグラフである。
図8図8は、比較例3および実施例13の組成物をそれぞれ注射したHumanにおける7日間のPK変化を示すグラフである。
図9図9は、比較例3および実施例13の組成物をそれぞれ注射したHumanにおける28日間のPK変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下、実施例および実験例によって本発明を詳しく説明する。但し、これらの実施例および実験例は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0069】
本発明における添加剤は、薬局方規格の賦形剤およびAldrich、Lipoid、Croda、Seppic社から購入した試薬を使用した。
【0070】
[実施例1~18]本発明の注射用組成物の製造
下記[表1]に示す重量で、ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)、リン脂質、液晶硬化剤、水、および薬理学的活性物質を添加した。
【0071】
実施例1~18は、以下の通りに準備した。まず、酢酸ロイプロリド、モノオレイン酸ソルビタン、ホスファチジルコリン、酢酸トコフェロール、DMSO、およびエタノールを室温でホモジナイザー(PowerGenmodel125.Fisher)で1,000~3,000rpmの条件下で0.5時間混合し、均質化して脂質溶液を準備した。
そして、製造した脂質溶液に対応量の水をそれぞれ添加し、ホモジナイザーで約5~30分間約1,000~3,000rpmの条件下で均質化し、溶液状の注射用組成物を製造した。
【0072】
【表1】
【0073】
[実施例19]本発明の注射用組成物の製造
実施例19は、酢酸ロイプロリド292mg、DMSO430mg、モノオレイン酸ソルビタン1,034mg、ホスファチジルコリン2,195mg、酢酸トコフェロール697mg、および無水エタノール452mgをガラスバイアルに入れ、室温で攪拌して透明な脂質溶液を製造した。製造した脂質溶液は、PVDF Capsule Filter 0.2μmで濾過した後、重量を測定した。測定した脂質溶液に水を注入して透明な溶液を得、ここで、水の含有量は、水を注入して得た前記透明な溶液100重量%中、10.5%(w/w)となるようにし、さらに室温で撹拌して透明な溶液を確認した後、最終的にPVDF Capsule Filter 0.2μmで濾過して注射可能な液状の注射剤を製造した。
【0074】
[比較例1~3]
下記[表2]に示す重量で、ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)、リン脂質、液晶硬化剤、
および薬理学的活性物質を添加した。
【0075】
比較例1~3は、酢酸ロイプロリド、モノオレイン酸ソルビタン、ホスファチジルコリン、酢酸トコフェロール、DMSO、およびエタノールを室温でホモジナイザー(PowerGenmodel125.Fisher)で1,000~3,000rpmの条件下で0.5時間混合し、均質化した。
【0076】
【表2】
【0077】
[実験例1]性状確認試験
本発明の実施例1~18により製造された製剤の性状を確認した。水の含有量が、全組成物100重量%中、0.5~10重量%の範囲内である実施例1~4において、性状が透明であることが確認できる。また、水の含有量が25~37.5重量%である実施例10~15において、性状が透明であることが確認できる。これは、脂質とは異なる物性を有する水が脂質液中で分離または懸濁せずに安定して溶解されている区間である。
【0078】
[実験例2]ブタの皮下脂肪(Ex-vivo)におけるSol-gel転換試験
本発明の比較例1および実施例4の組成物を用いて、以下のようにブタの皮下脂肪組織におけるSol-gel転換試験を行った。
【0079】
比較例1と実施例4の組成物100μLをブタの皮下脂肪にゆっくりと注射した後、注射後の1、6、24、72および168時間目に注射部位を切断し、断面を観察した。その結果を図2に示した。
【0080】
図2を参照すると、ブタの皮下脂肪組織において、水を添加していない比較例1では、液状製剤で組織の水分を吸い込み、非常にゆっくりとgelに転換され、水を含んでいる実施例4では、液状製剤がすでに水を含んでいたため、投与直後に素早くgelに転換されることが確認できた。
【0081】
比較例1のように体内でSol状であるときは、薬物が急速に放出され、本発明による実施例では、液晶(Liquid crystal)構造のgelに変換された後は、薬物が数多くの脂質格子構造の間を通過して放出されるため、非常にゆっくりと放出される。
【0082】
[実験例3]Mini pigの皮下(in vivo)におけるgelの性状確認試験
本発明の比較例2および実施例10について、Mini pigの皮下組織におけるgel性状を確認した。実験は、使い捨てシリンジを用いて比較例2および実施例10の組成物を約15kgのMini pig(雄性)の背に0.3mLずつ皮下投与することに
よって行った。投与後7日が経過した後に投与部位を摘出し、ゲル性状を比較観察した。その結果を図3に示した。
【0083】
図3を参照すると、比較例2の組成物は、水を添加しない脂質液相製剤であり、solからgelに転換されるとき、組織内の体液をゆっくりと引き付けながら非常に遅い速度でgelに転換される。非常にゆっくりとgelに転換されるため、gelに転換されないsolは皮下脂肪の間に染み込んで断片化した状態でゲルを形成する。gelが固まらずに断片化した状態で形成されたときには、ゲルの表面積が広くなっていることが確認できる。これは、薬物の高い初期放出率の原因となり得る。
【0084】
一方、本発明による実施例10の組成物は、既に製剤が水を含有しているため、組織中で素早くgelに転換され、固まってgelが形成されないことが確認できる。これにより、本発明による実施例10の組成物は、薬物の低い初期放出率を提供できることが分かる。
【0085】
[実験例4]Guinea pigにおける注射用組成物のPK確認
[実験例4-1]Guinea pigにおける実施例13および比較例3の注射用組成物のPK確認
以下の実験により、Guinea pigにおける本発明の組成物の薬物放出挙動を確認した。ロイプロリドの投与重量が3.75mg/head(ヒト用量として1ヶ月に相当する量)となるようにし、使い捨てシリンジを用いて比較例3および実施例13の組成物を平均500gの6週齢の Guinea pig (雄性)4匹の背に皮下注射した。
Guinea pig は、ヒト同様に皮下脂肪の発達した動物であり、脂肪の多い組織におけるPKプロファイル(pharmacokinetic profile)を確認しようとした。
Guinea pigの血漿サンプルにおけるロイプロリドの濃度を確認するため、LC
-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)を用いて28日間のPKプロファイル(pharmacokinetic profile)を分析した。図4および図5の結果は、実験に供された4匹のGuinea pigに対する平均値を示したものであり、図4は、薬物の初期放出率差を確認するためのものであり、図5は、後半部のGuinea
pigにおける薬物の血中濃度差を確認するためにログ変換して示したものである。
【0086】
図4を参照すると、水を含む実施例13の組成物において、生体内(in vivo)で液状製剤がゲルに素早く転換され、初期放出率を著しく低下させることを確認した。比較例3の組成物は、3日までのAUC(Area Under The Curve)は7864μg hr/mLであったが、実施例13の組成物における3日までのAUCは5
528μg hr/mLであり、比較例3に比べて約30%減少したことを確認することが
できた。
【0087】
図5を参照すると、実施例13の組成物は、初期薬物放出現象が低くなり、gel製剤中に薬物が残留し、1ヶ月間比較例3の組成物より高い薬物血中濃度を維持していることを確認することができる。
【0088】
[実験例4-2]Guinea pigにおける実施例19の注射用組成物のPK確認
本発明による実施例19で製造された液状注射製剤を用いて、Guinea pigにおける薬物放出挙動を確認した。ロイプロリドの投与重量が3.75mg/head(ヒト用量として1ヶ月に相当する量)になるようにし、使い捨てシリンジを用いて実施例19の組成物を平均500gの6週齢の Guinea pig (雄性)4匹の背に皮下注射した。ここで、 Guinea pig は、ヒト同様に皮下脂肪の発達した動物であり、脂肪の多い組織におけるPKプロファイル(pharmacokinetic pro
file)を確認しようとした。
【0089】
Guinea pigの血漿サンプルにおけるロイプロリドの濃度を確認するため、LC-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)を用いて28日間のPKプロファイルを分析した。図6および図7の結果は、実験に供されたGuinea pig4匹に対する平均値を示したものであり、図6は、薬物の初期放出率差を確認するためのものであり、図7は、後半部のGuinea pigにおける薬物の血中濃度差を確認するためにログ変換して示したものである。
【0090】
図6および図7の結果は、実施例19において10.5%の水を含む液状製剤のGuinea PigにおけるPK結果を示し、実験例4-1の比較例3のPK結果値に比べて薬物の初期放出が低いことを確認しており、28日目以降の結果においても薬物濃度が比較例3に比べて高く維持されることを確認した。
【0091】
前記実験例4-1および4-2から、実施例19および実施例13の水を含む液状注射製剤は、水を含まない比較例3の製剤よりも初期の薬物濃度が低く、安全性においてより有利であると思われ、28日目以降においても比較例3の組成物より薬物濃度を高く維持されており、薬物の徐放性が改善されたことを確認した。
【0092】
[実験例5]Humanにおける注射用組成物のPK確認
比較例3および実施例13の組成物それぞれにおいて、Humanにおける薬物放出挙動を確認した。健康な閉経期女性を対象に1試験群当たり6人ずつ、比較例3および実施例13をロイプロリドとして3.75mg腹部に皮下投与した。Humanの血漿サンプルにおけるロイプロリドの濃度を確認するため、LC-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)を用いて28日間のPKプロファイルを分析した。Humanにおける比較例3および実施例13のPKプロファイルは、図8および図9の通りである。図8は、薬物の初期放出率差を確認するためのものであり、図9は、後半部のロイプロリド薬物の血中濃度差を確認するためにログ変換して示したものである。
【0093】
図8を参照すると、HumanにおいてもGuinea pigにおけるPKプロファイル同様に投与直後の薬物放出現象が比較例3の組成物に比べて実施例13の組成物において著しく低くなることを確認した。
【0094】
比較例3の組成物は、投与後3日までのAUC(Area Under The Curve)は276μghr/mLであったが、実施例13の3日までのAUCは209μghr/mLであり、比較例3の組成物よりも約25%減少された。
【0095】
図9を参照すると、実施例13の組成物は、初期薬物放出現象が低くなり、gel製剤中
に薬物が残留し、1ヶ月間比較例3の組成物よりも高い薬物血中濃度を維持した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9