(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】固体ポリマー電解質の重合性組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20240823BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20240823BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240823BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240823BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240823BHJP
C08L 39/00 20060101ALI20240823BHJP
C08L 33/04 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
C08L101/02
H01M10/0565
H01M10/052
H01M10/054
H01B1/06 A
C08L39/00
C08L33/04
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023034485
(22)【出願日】2023-03-07
【審査請求日】2023-03-07
(32)【優先日】2022-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】レミ・カミッロ
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー・マリナキス
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-222939(JP,A)
【文献】特表2021-518977(JP,A)
【文献】特表2020-511742(JP,A)
【文献】特開2000-306605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
H01B 1/00- 1/24
H01M 10/05- 10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体ポリマー電解質のための重合性組成物であって、
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のカチオンを配位することができる第1の部分、及び光活性化可能及び/又は熱活性化可能である第2の部分を含む第1のポリマーと、
少なくとも2つの光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基を含むオリゴマーと、
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を含む第3の部分を含む第2のポリマーと、
溶媒と、
重合開始剤とを含み、
前記重合開始剤は、20~150℃の温度又は放射線の作用によって、前記第1のポリマーの前記第2の部分と、前記オリゴマーの前記光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基との間の重合の開始を可能に
し、
前記第3の部分は、前記第2のポリマーの鎖に組み入れられると、前記固体ポリマー電解質中のアルカリ及び/又はアルカリ土類金属の対アニオンの移動度を小さくすることを可能にする
ことを特徴とする重合性組成物。
【請求項2】
前記重合性組成物の全重量のうち、前記第1のポリマーを10~50重量%、前記オリゴマーを1~20重量%、前記第2のポリマーを1~20重量%、前記溶媒を20~60重量%、前記重合開始剤を0.01~2重量%含む
ことを特徴とする請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
さらに、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記重合性組成物の全重量のうち、前記塩を0.5~5重量%含む
ことを特徴とする請求項3に記載の重合性組成物。
【請求項5】
前記第1の部分は、ポリエチレンオキシド部分を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項6】
前記光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基のうちの少なくとも1つは、末端基である
ことを特徴とする請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項7】
前記オリゴマーの前記光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基のすべてが末端基であり、
前記オリゴマーはテレケリックオリゴマーである
ことを特徴とする請求項6に記載の重合性組成物
【請求項8】
前記第2の部分及び前記光活性化可能及び/又は熱活性化可能な基の一又は複数は、マレイミドである
ことを特徴とする請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項9】
前記オリゴマーは、モル質量が、500~5000g/mol
である
ことを特徴とする請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の重合性組成物を重合させることによって得られる固体ポリマー電解質であって、
前記重合は、20℃~150℃の温度又は放射線の作用による、前記第1のポリマーの前記第2の部分、前記オリゴマーの前記光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基、及び好ましいことに前記第2のポリマーの間の重合である
ことを特徴とする固体ポリマー電解質。
【請求項11】
前記重合は、紫外線の作用によって行われる
ことを特徴とする請求項10に記載の固体ポリマー電解質
【請求項12】
請求項10に記載の固体ポリマー電解質を含む
ことを特徴とする電池要素。
【請求項13】
さらに、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む陽極を含む
ことを特徴とする請求項12に記載の電池要素。
【請求項14】
前記アルカリ金属はリチウムである、又は前記アルカリ土類金属はマグネシウムである
ことを特徴とする請求項13に記載の電池要素。
【請求項15】
請求項12に記載の電池要素を製造する方法であって、
前記電池要素は、請求項9に記載の固体ポリマー電解質を含み、
前記方法は、
溶媒中において、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のカチオンを配位することができる第1の部分及び光活性化可能かつ/又は熱活性化可能である第2の部分を含む第1のポリマーと、少なくとも2つの光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基を含むオリゴマーと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を含む第3の部分を含む第2のポリマーと、重合開始剤とを混合して、重合性組成物を得るステップと、
20℃~150℃の温度又は放射線の作用によって前記重合性組成物を少なくとも部分的に重合するステップと、
陽極の面の少なくとも1つの部分及び/又は陰極の面の少なくとも1つの部分に、部分的に重合された前記重合性組成物を堆積させるステップと、
陽極と陰極の間に部分的に重合された重合性組成物が配置される構造を得るように、前記陽極と前記陰極をこの部分的に重合された重合性組成物を介して接触する状態にセットするステップと、
20℃~150℃の温度又は放射線の作用によって、部分的に重合された前記重合性組成物を完全に重合させて、固体ポリマー電解質を含む電池要素を得るステップとを含む
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体ポリマー電解質の重合性組成物に関する。本発明は、さらに、前記重合性組成物を含む固体ポリマー電解質と、前記電解質を含む電池要素と、前記電池要素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
何十年にもわたって、液体電解質を含む、リチウムイオン(Liイオン)タイプの電池のような伝統的な電池が知られている。しかし、例えば電池の短絡を発生させることがある金属リチウムデンドライトが発生した後に、これらの液体電解質が電池の安全性に悪影響を与えることがあることが知られている。また、電池の密封性に不良があれば、電解液漏れが発生する可能性がある。
【0003】
近年、電池の性能、特にそのパワーと容量、を改善するために、新しいタイプの電池が開発されている。この新しいタイプの電池は、陽極が、純粋な金属、具体的には純粋なアルカリ金属や純粋なアルカリ土類金属、によって作られており、例えば、陽極が金属リチウムによって作られている金属リチウムタイプの電池である。しかし、伝統的な液体電解質は、このタイプの電池には適さない。なぜなら、アルカリ金属又はアルカリ土類金属イオン(例えば、Liイオン)タイプの電池よりも金属(例えば、金属リチウム)との接触が多いためである。このように接触が多いことによって、例えば、短絡が発生しやすくなることがある。
【0004】
最近、固体電解質(SSE:solid-state electrolyte)を含む電池が開発されている。固体電解質は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属イオン(例えば、Liイオン)タイプの電池、及び純粋なアルカリ金属又は純粋なアルカリ土類金属(例えば、Li金属)によって陽極が作られているタイプの電池における液体電解質を置き換えるように意図されている。なぜなら、固体電解質は、液体電解質において発生する安全及び漏れの問題に対する解決策を提供するからである。
【0005】
一般的には、固体無機電解質、固体ポリマー電解質、及びポリマー複合電解質である、3つのタイプの固体電解質が考えられる。近年、ポリエチレンオキシド(PEO)ポリマーマトリックス中に溶けたLiN(SO2CF3)2塩を含む系のような固体ポリマー電解質がいくつか知られている。ポリエチレンオキシドは、リチウム塩と柔軟な分子鎖の解離を可能にするエーテルタイプの配位部位を有する。これは、リチウムイオン(Li+)輸送のようなイオン輸送を促進させる。固体ポリマー電解質中で現在用いられている他のポリマーとしては、とりわけ、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリニトリル(例えば、ポリアクリロニトリル)、ポリアルコール(例えば、ポリ酢酸ビニル)及びフッ素化ポリマー(例えば、ポリフッ化ビニリデン)がある。
【0006】
米国特許文献US2013157146は、2種類のモノマーを重合させることによって得られる(PEOをベースとする)(CH2-CH2-O)-セグメントを含むポリマーマトリックスと、このポリマーマトリックス中に散乱したリチウム塩とを含む固体ポリマー電解質について記載している。リチウム塩の例としては、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、二酸化コバルトリチウム(LiCoO2)、及びリン酸鉄リチウム(LiFePO4)がある。
【0007】
しかし、この固体ポリマー電解質タイプには、電池要素を寸法構成的に安定にしイオン伝導度を十分大きくすることができるほどに十分に高い機械的性質及びイオン伝導度の組み合わせが電解質にはないという短所がある。例えば、ポリエチレンオキシドをベースとするマトリックスを含む系は、PEOの融点(65℃)よりも高い温度ではイオン伝導度が良好であるが機械的安定性が低く、PEOの融点(65℃)よりも低い温度では鎖の移動度が制限されるおかげで機械的安定性が良好であるがイオン伝導度が低い。
【0008】
文献、'Single-ion BAB triblock copolymers ashighly efficient electrolytes for lithium-metal batteries', Bouchet R., MariaS., et al., Nature Materials, vol. 12, pages 452 - 457 (2013)は、硬質ブロックと軟質ブロックとの交互構成によって形成されるポリマーを用いる手法について記載している。ポリスチレン由来の硬質ブロックは、機械的強度を高くする。ポリエチレンオキシド製の軟質ブロックは、PEOの融点(65℃)よりも高い温度、例えば80℃、において良好なイオン伝導度を与える。
【0009】
文献、'UV cross-linked, lithium-conductingternary polymer electrolytes containing ionic liquids', Kim G.T., AppetecchiG.B., et al., Journal of Power Sources 195 (2010), pages 6130-6137は、リチウム塩としてのLiN(SO2CF3)2(略称LiTFSI)及びイオン性液体N-アルキル-N-メチルピロリジニウムTFSIの存在下における、ポリエチレンオキシドポリマーマトリックスの、紫外線の作用による、架橋によって得られる固体ポリマー電解質について記載している。このイオン性液体は、リチウム塩TFSI-と共通のアニオンを含む。得られた電解質は、室温で約0.33mS/cmのイオン伝導度を有する。
【0010】
しかし、架橋は制御が容易ではなく、ランダムに配置されることとなり、鎖が短くなってしまう。したがって、このことは、これらの架橋された固体ポリマー電解質のイオン伝導度をかなり制限してしまう(商業的電池要素には0.33mS/cmの値は不十分であると業界で考えられている)。また、イオン性液体を用いると、成果物が粘りっこくなり、したがって扱いにくくなってしまう。
【0011】
国際特許文献WO2014126570は、リチウム塩と、少なくとも2つの光活性末端基を含むテレケリックポリマーを架橋することによって得られる架橋ポリマーとを含む固体ポリマー電解質について記載している。このポリマーは、架橋前に、おおよそ1000~1000000ダルトンの分子量を有する。このことによって、固体ポリマー電解質の組成物の粘性が非常に高く、さらには結晶性が非常に高く、したがって、陽極や陰極などの面に対する適用性が悪くなってしまう。また、架橋には、数時間、典型的には3時間~5時間、組成物を加熱することが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来技術の問題の1つ以上を解決することを目的とする。本発明は、イオン伝導度、機械的安定性及び機械的強度の点で優れた性質を有する固体ポリマー電解質を得ることを可能にする固体ポリマー電解質のための組成物を改善することを目的とする。本発明は、さらに、従来技術の方法よりも複雑でなく継続時間が短くエネルギー消費が低いような、前記のような固体ポリマー電解質を含む電池要素を得るための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、添付の特許請求の範囲に記載された固体ポリマー電解質のための重合性組成物に関する。
【0014】
この重合性組成物は、第1の部分(moiety)及び第2の部分を含む第1のポリマーを含む。第1の部分は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のカチオンを配位することができる。好ましいことに、第1の部分は、ポリエチレンオキシド部分を含む。第2の部分は、光活性化可能かつ/又は熱活性化可能である。すなわち、第2の部分は、光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基を含む。
【0015】
本開示において用いられる用語「光活性化可能」は、紫外線、赤外線、可視光線、又はそれらの組み合わせのような放射線の作用によって活性化することができる構成要素、分子、基又は部分を含むことを意味するが、これらに限定されない。
【0016】
本開示において用いられる用語「熱活性化可能」は、温度変化の作用によって活性化することができる構成要素、分子、基又は部分を含むことを意味する。特に、前記温度変化は、加熱によるものである。好ましいことに、前記活性化温度は、20℃~150℃、好ましくは25℃~100℃である。
【0017】
熱及び/又は放射による活性化は、オリゴマー化、重合又は架橋を可能にする活性化、及び/又はオリゴマー化、重合又は架橋の開始を含む。なお、これに限定されない。
【0018】
前記重合性組成物は、さらに、少なくとも2つの光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基を含むオリゴマーを含む。好ましいことに、光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基のうちの少なくとも1つは、末端基である。前記オリゴマーの「末端基」は、オリゴマーの(鎖の)一端にある基と考えることができる。好ましいことに、前記オリゴマーの鎖の末端の少なくとも1つは、光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基を含む。
【0019】
好ましくは、オリゴマーの(鎖の)各末端は、少なくとも1つの光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基を含み、このオリゴマーはテレケリックオリゴマーである。本開示において用いる「テレケリックオリゴマー」は、オリゴマーの(鎖の)末端のそれぞれにおいて少なくとも1つの反応基が存在するために、後に重合されることができるようなオリゴマーと考えることができる。好ましくは、前記光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基のすべてが末端基である。
【0020】
好ましいことに、第1のポリマーの第2の部分及びオリゴマーの光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基の一又は複数は、マレイミドである。
【0021】
好ましいことに、前記オリゴマーは、モル質量が、500~5000g/mol、好ましくは750~4000g/molである。
【0022】
前記重合性組成物は、さらに、第2のポリマーを含む。第2のポリマーは、第3の部分を含む。第3の部分は、アルカリ金属の塩、及び/又はアルカリ土類金属の塩を含む。好ましいことに、前記アルカリ金属は、リチウムを含み又は実質的にリチウムからなり、前記塩はリチウム塩である。好ましいことに、前記アルカリ土類金属は、マグネシウムを含み又は実質的にマグネシウムからなり、前記塩はマグネシウム塩である。
【0023】
前記重合性組成物は、さらに、溶媒を含む。好ましいことに、この溶媒のおかげで、前記重合性組成物の構成要素を溶解して、液体の重合性組成物を得ることが可能になる。これによって、前記重合性組成物を面、例えば陽極や陰極などである電極の面、に容易に堆積させることができる。堆積させる重合性組成物が液体形態であることで、粘性がある又は結晶性の組成物と比べて堆積が容易になる。
【0024】
前記重合性組成物は、さらに、重合開始剤を含む。この重合開始剤のおかげで、第1のポリマーの第2の部分、オリゴマーの光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基、及び好ましいことに第2のポリマー、の間の重合を開始させることが可能になる。重合の開始及び/又は重合自体は、20℃~150℃、好ましくは25℃~100℃、の温度の作用によって、又は放射線の作用によって行われる。好ましいことに、前記放射線は、紫外線、赤外線及び可視光線(VIS)のうちの一又は複数を含む。
【0025】
好ましいことに、前記重合性組成物は、前記重合性組成物の全重量のうち、第1のポリマーを10~50重量%、オリゴマーを1~20重量%、第2のポリマーを1~20重量%、溶媒を20~60重量%、重合開始剤を0.01~2重量%含む。
【0026】
また、前記重合性組成物は、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩を含むことができる。好ましいことに、前記重合性組成物は、この重合性組成物の全重量のうち、0.5~5重量%の塩を含む。好ましいことに、前記アルカリ金属の塩は、リチウム塩を含む又は実質的にリチウム塩からなる。好ましいことに、前記アルカリ土類金属の塩は、マグネシウム塩を含む又は実質的にマグネシウム塩からなる。
【0027】
本発明の第2の態様は、添付の特許請求の範囲に記載された固体ポリマー電解質に関する。固体ポリマー電解質は、重合性組成物、好ましくは本発明の第1の態様に係る重合性組成物、を重合させることによって得られる。好ましいことに、前記重合は、第1のポリマーの第2の部分、オリゴマーの光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基のうちの1つ又は複数、及び好ましいことに第2のポリマー、の間の重合である。好ましいことに、前記重合は、20℃~150℃、好ましくは25℃~100℃の温度の作用によって、又は放射線の作用によって行われる。好ましいことに、前記放射線は、紫外線、赤外線及び可視光線(VIS)のうちの一又は複数を含む。
【0028】
好ましいことに、第1のポリマー、オリゴマー及び第2のポリマーは、固体ポリマー電解質中で重合される。すなわち、本発明に係る固体ポリマー電解質は、ポリマー網、好ましいことにポリマー線状網、を含む又はそれからなる。
【0029】
本発明の第3の態様は、添付の特許請求の範囲に記載された電池要素に関する。好ましいことに、前記電池要素は、本発明の第2の態様に係る固体ポリマー電解質を含む。したがって、前記電池要素は、固体電池要素である。
【0030】
好ましいことに、前記電池要素は、さらに、陽極及び陰極を含む。好ましいことに、前記陽極及び/又は前記陰極は、例えば1つの界面を共有して、固体ポリマー電解質と接触する。好ましいことに、前記陽極は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む。好ましいことに、前記アルカリ金属は、リチウムを含む又はリチウムからなる。好ましいことに、前記アルカリ土類金属は、マグネシウムを含む又はマグネシウムからなる。
【0031】
本発明の第4の態様は、固体ポリマー電解質を含む電池要素を製造する方法に関する。第1のステップにおいて、重合性組成物を形成する。好ましいことに、前記重合性組成物は、本発明の第1の態様に係るものである。前記重合性組成物は、第1のポリマーと、オリゴマーと、第2のポリマーと、重合開始剤とを溶媒とともに混合することによって形成され、前記第1のポリマーは、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のカチオンを配位することができる第1の部分、及び光活性可能かつ/又は熱活性可能な第2の部分を含み、前記オリゴマーは、少なくとも2つの光活性可能かつ/又は熱活性可能な基を含み、前記第2のポリマーは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を含む第3の部分を含む。
【0032】
その後に、前記重合性組成物は、陽極の面の少なくとも1つの部分、及び/又は陰極の面の少なくとも1つの部分に堆積される。例えば、前記重合性組成物は、陽極の面及び陰極の面に堆積させることができる。
【0033】
好ましいことに、前記重合性組成物は、20~150℃、好ましくは25~100℃、の温度の作用によって、又は放射線の作用によって、少なくとも部分的に重合される。好ましいことに、前記放射線は、紫外線、赤外線及び可視光線(VIS)のうちの一又は複数を含む。このようにして、部分的に重合された組成物が得られる。
【0034】
重合性組成物を少なくとも部分的に重合させた後、陽極及び陰極は、この部分的に重合された重合性組成物が陽極と陰極の間に位置する構造を得るように、この部分的に重合された重合性組成物を介して接触する状態にセットされる。したがって、好ましいことに、陽極と部分的に重合された重合性組成物の間、及び陰極と部分的に重合された重合性組成物の間の良好な接触ないし良好な界面が得られる。
【0035】
そして、部分的に重合された重合性組成物の重合が完了して、部分的に重合された重合性組成物を固体ポリマー電解質に変換して電池要素を得る。この最終的な重合は、陰極-組成物-陽極の構造を、20℃~150℃、好ましくは25℃~100℃、の温度に曝露することによって、又は放射線の作用によって行われる。好ましいことに、前記放射線は、紫外線、赤外線及び可視光線(VIS)のうちの一又は複数を含む。
【0036】
本発明に係る重合性組成物のおかげで、イオン伝導度及び機械的安定性が優れた固体ポリマー電解質を得ることが可能になる。また、本発明に係る電池要素は、電極(陽極及び陰極)と固体ポリマー電解質の間の接触(又は界面)が優れており、このことによって、従来技術の電池要素と比べて、イオン伝導度が優れており、稼働寿命が改善された、電池要素を作ることが可能になる。この優れた界面は、本発明の方法によって特に達成される。
【0037】
また、この組成物を電池要素の電極に容易に堆積させることができる。この固体ポリマー電解質及び電池要素を得る方法は、特に量産ラインにおいて、実装することができる。
【0038】
いくつかの実施形態を示している図面においても、目的、利点及び特徴を示している。なお、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】重合性組成物の構成要素の第1の部分を示している。
【
図2】重合性組成物の構成要素の第2の部分を示している。
【
図3】重合性組成物の第1の構成要素を示している。
【
図4】重合性組成物の第2の構成要素を示している。
【
図5】重合性組成物の第3の構成要素を示している。
【
図7】本発明に係る電池についての電圧に応じた電流を示している。
【
図8】何回か充放電された後の電池の比容量を示している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明に係る重合性組成物の第1のポリマーの第1の部分は、前記重合性組成物を重合させることによって得られた、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のカチオン、好ましいことに、本発明に係る固体ポリマー電解質中のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のカチオン、を配位することができる。すなわち、第1の部分は、好ましいことに、固体ポリマー電解質のイオン伝導度を確実にするように選択される。第1の部分の例としては、
図1に示しているようなポリエチレンオキシド(PEO)、及びポリエチレングリコール(PEG)部分がある。なお、これに限定されない。好ましいことに、
図1において、uは、繰り返し数を示し、20~80回、好ましくは30~70回、より好ましくは40~60回、例えば50~55回であるように選択される。
【0041】
本発明に係る重合性組成物の第1のポリマーの第2の部分は、固体ポリマー電解質を得るために重合性組成物の重合を可能にするために与えられる部分である。したがって、第2の部分は、光活性化可能かつ/又は熱活性化可能である。例えば、
図2に示しているようなマレイミド部分、アクリレート部分又はメタクリレート部分である。
【0042】
好ましいことに、第1のポリマーは、モル質量が、1000~5000g/mol、好ましくは1500~4000g/mol、例えば2000~3000g/mol、より好ましくは2250~2750g/mol、例えば2350~2600g/mol、である。
【0043】
好ましいことに、第1のポリマーは、第1のポリマー1g当たり第2の部分を0.1~0.7mEq(ミリ当量)、好ましくは0.2~0.6mEq、より好ましくは0.3~0.5mEq、例えば0.35~0.45mEq、又は0.4mEq、を含む。
【0044】
第1のポリマーの特定の例としては、
図3に示しているようなポリエチレンオキシドα-メトキシω-マレイミド、ポリエチレングリコールメタクリレート(PEGMA)、及びポリエチレングリコールα-メトキシω-マレイミドがある。
【0045】
好ましいことに、前記重合性組成物は、前記重合性組成物の全重量のうち、第1のポリマーを10~50重量%、好ましくは12~45重量%、例えば15~40重量%含む。
【0046】
好ましいことに、前記重合性組成物の部分的又は完全な重合及び/又は重合開始が温度の作用によって発生する場合、この温度は、20℃~200℃、好ましくは20℃~150℃、より好ましくは25℃~100℃、例えば30℃~80℃である。この場合、前記基及び前記部分は、熱活性化可能である。
【0047】
好ましいことに、前記重合性組成物の部分的又は完全な重合及び/又は重合開始が放射線の作用によって発生する場合、前記放射線は、紫外線、赤外線、可視光線、又はこれらの組み合わせである。この場合、前記基及び前記部分は、光活性化可能である。
【0048】
本開示において、光活性化可能な基及び部分であっても熱活性化可能であることができ、その逆も可能である。
【0049】
前記重合性組成物は、さらに、オリゴマーを含む。前記オリゴマーは、少なくとも2つの光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基を含む。これらの基は、第1のポリマーの第2の部分、及び/又は第2のポリマーの第3の部分と重合することができる。好ましくは、前記オリゴマーの前記基は、少なくとも第2のポリマーの第3の部分と重合することができる。前記光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基は、マレイミド基、アクリレート、メタクリレートであることができる。なお、これに限定されない。
【0050】
好ましいことに、オリゴマーは、光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基を、オリゴマー1g当たり、0.1~0.7mEq(ミリ当量)、好ましくは0.2~0.9mEq、より好ましくは0.3~0.8mEq、例えば0.4~0.7mEq、又は0.5~0.6mEq含む。
【0051】
オリゴマーの例としては、
図4に示しているPPG-ブロック-PEG-ブロック-PPG,α,ω-ビス(マレイミド)がある。これは、鎖の各末端にマレイミド基を含むポリエチレンポリプロピレンオキシド(PEO-PPO)からなる。好ましいことに、x+zは、2~20、好ましくは5~15、より好ましくは6~12、例えば8~9である。好ましいことに、yは、20~100、好ましくは40~80、より好ましくは50~75、例えば60~70、又は62~67である。
【0052】
オリゴマーの別の例としては、鎖の各末端にメタクリレート(MA)基を含むポリエチレングリコール(PEG)(PEG-DiMA)がある。
【0053】
好ましいことに、前記オリゴマーは、モル質量が、250~10000g/mol、好ましくは500~5000g/mol、より好ましくは750~4000g/mol、例えば1000~3750g/mol、又は2000~3600g/molである。
【0054】
好ましいことに、前記重合性組成物は、前記重合性組成物の全重量のうち、1~20重量%、好ましくは2~15重量%、例えば3~15重量%のオリゴマーを含む。
【0055】
好ましいことに、前記オリゴマーは、前記オリゴマーの鎖の各末端に少なくとも1つの光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基を含み、この場合、前記オリゴマーはテレケリックオリゴマーである。前記重合性組成物中にテレケリックオリゴマーを加えることによって、重合の制御、したがって、得られるポリマー網の構造の制御、を改善することが可能となる。好ましいことに、前記ポリマー網は、ポリマーの線状網である。また、このようにして得られた重合された組成物(したがって、固体ポリマー電解質)の2つのノードの間の鎖は、重合された組成物が十分に「疎」であり電解質が優れたイオン伝導度を有するように十分長い。
【0056】
好ましいことに、前記オリゴマーは、固体ポリマー電解質中で、可塑剤及び/又は電解質のイオン伝導度増強剤として作用することができる。
【0057】
前記重合性組成物の第2のポリマーは、第3の部分を含む。好ましいことに、前記第3の部分は、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩を含む。好ましいことに、前記アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、又はそれらの組み合わせを含む。好ましくは、前記アルカリ金属はリチウムである。好ましいことに、前記アルカリ土類金属は、マグネシウム、ベリリウム、カルシウム、又はそれらの組み合わせを含む。好ましくは、前記アルカリ土類金属はマグネシウムである。
【0058】
好ましいことに、得られた固体ポリマー電解質中で、前記第3の部分は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のカチオンを与えることができる。好ましいことに、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のカチオンは、前記固体ポリマー電解質中で、第1のポリマー及びオリゴマーとともに動くことができる。この運動は、前記固体ポリマー電解質のイオン伝導度を誘導する。また、第3の部分は、第2のポリマーの鎖に組み入れられると、電解質中のアルカリ及び/又はアルカリ土類金属の対アニオンの移動度を小さくすることを可能にし、これのおかげで、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属の移動度を大きくすることができる。
【0059】
図5は、本発明に係る重合性組成物の第2のポリマーの例を示しており、ここで、前記第3の部分は、ビス(トリフルオロメタン)スルホニミドリチウム(LiSTFSI、CAS番号210226-98-5)である。
【0060】
好ましいことに、前記重合性組成物は、前記重合性組成物の全重量のうち、第2のポリマーを、1~20重量%、好ましくは2~15重量%、例えば5~10重量%含む。
【0061】
好ましいことに、前記重合性組成物中の溶媒のおかげで、前記重合性組成物の構成要素を溶解させて液体の重合性組成物を得ることが可能になる。好ましいことに、溶媒のおかげで、面上に広がりやすい液体組成物を得ることが可能になる。したがって、少なくとも部分的に重合を開始する前に、前記重合性組成物を面に容易に堆積させることが可能となる。溶媒の例としては、プロピレンカーボネートがあるが、これに限定されない。
【0062】
好ましいことに、前記重合性組成物は、前記重合性組成物の全重量のうち、溶媒を、20~60重量%、好ましくは25~55重量%、例えば30~50重量%含む。
【0063】
前記組成物は、さらに、重合開始剤を含む。重合開始剤のおかげで、第1のポリマーの第2の部分、オリゴマーの光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基、及び第2のポリマーの第3の部分の間の重合を開始することが可能になる。重合の開始及び/又は重合自体は、20℃~200℃、好ましくは20℃~150℃、より好ましくは25℃~100℃、例えば30℃~80℃、の温度の作用によって、又は放射線の作用によって行われる。好ましいことに、前記放射線は、紫外線、赤外線及び可視光線(VIS)のうちの一又は複数を含む。
【0064】
好ましいことに、前記重合開始剤は、ラジカル実体である。本開示において、このことは、前記重合開始剤が、上述した温度又は放射線の作用によってラジカルを放出することができることを意味する。その後に、これらのラジカルは、第1のポリマー、第2のポリマー及びオリゴマーの間の重合性組成物の重合を開始させる。
【0065】
重合開始剤の例としては、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2-ヒドロキシ-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(CAS番号106797-53-9)があるが、これらに限定されない。
【0066】
好ましいことに、前記重合性組成物は、前記重合性組成物の全重量のうち、前記重合性開始剤を、0.01~2重量%、好ましくは0.1~1.5重量%、例えば0.25~1重量%含む。
【0067】
前記重合性組成物は、さらに、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩を含むことができる。好ましいことに、アルカリ金属の塩は、リチウム塩を含む又は実質的にリチウム塩を含む。好ましいことに、アルカリ土類金属の塩は、マグネシウム塩を含む又は実質的にマグネシウム塩からなる。前記塩の例としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LIFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LITFSI)がある。
【0068】
発明者らは、驚くことに、アルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩を重合性組成物中に加えることによって、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩を加えない組成物によって得られる電解質と比べて、イオン伝導度が良好である重合電解質が得られることを発見した。発明者らは、導電率が大きくなったのは、第2のポリマーの第3の部分の塩と、重合性組成物中に加えられた別個の塩との間の相乗効果のおかげであると考えている。
【0069】
好ましいことに、前記重合性組成物がアルカリ金属の塩及び/又はアルカリ土類金属の塩を含む場合、前記重合性組成物は、前記重合性組成物の総重量に基づいて、前記塩を、0.5~5重量%、好ましくは0.75~4重量%、例えば1~3重量%含む。
【0070】
固体ポリマー電解質は、本開示に係る重合性組成物を重合させることによって得られる。好ましいことに、前記重合は、第1のポリマーの第2の部分と、テレケリックオリゴマーの光活性化可能かつ/又は熱活性化可能な基の一又は複数との間の重合である。好ましいことに、前記重合は、上述のように、温度の作用によって、又は放射線の作用によって行われる。
【0071】
好ましいことに、第1のポリマー、オリゴマー及び第2のポリマーは、固体ポリマー電解質中で重合され、これによって、ポリマー網、好ましいことにポリマー線状網、を形成する。
【0072】
本開示は、さらに、本発明に係る固体ポリマー電解質を含む電池要素に関する。したがって、この電池要素は、固体電池要素である。この電池要素は、二次電池であることができる。
【0073】
図6は、電池要素1の一実施形態を示している。電池要素1は、従来技術においてCR2032型構成として知られているボタンセルタイプの構成である。
【0074】
電池要素1は、陽極2と陰極3を含む。また、電池要素1は、陽極2と陰極3の間に固体ポリマー電解質4を含む。
【0075】
好ましいことに、陽極はアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む。好ましいことに、アルカリ金属は、リチウムを含む又はリチウムからなる。好ましいことに、アルカリ土類金属は、マグネシウムを含む又はマグネシウムからなる。
【0076】
好ましいことに、電池要素1は、さらに、ボタンセルキャップ5、ボタンセルベース6、スペーサー7及びばね8を含む。スペーサー7とばね8は、電池要素1の他の構成要素2、3、4、5、6との間で良好な接触を達成する。
【0077】
本発明は、さらに、固体ポリマー電解質を含む電池要素を製造する方法に関する。好ましいことに、前記電池要素は、本開示に係る電池要素である。好ましいことに、前記固体ポリマー電解質は、本開示に係る固体ポリマー電解質である。
【0078】
まず、重合性組成物を形成する。第1の実施形態によると、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のカチオンを配位することができる第1の部分、及び光活性可能かつ/又は熱活性可能な第2の部分を含む第1のポリマーと、少なくとも2つの光活性可能かつ/又は熱活性可能な基を含むオリゴマーと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を含む第3の部分を含む第2のポリマーと、重合開始剤と、さらには場合によってアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩とが混合される。これらの構成要素の混合と同時に、又はこれらの構成要素の混合の前に、溶媒を加えることができ、又は一部又はそれ以上をこれらの構成要素の混合の後に、溶媒を加えることができる。
【0079】
別の実施形態において、下において記載する構成要素の少なくとも2つを、例えば溶媒の第1の部分と、混合することができ、これによって、第1の混合物を形成する。他の構成要素を溶媒の第2の部分、例えば残りの部分、と混合することによって、少なくとも1つ、例えば1つや2つ、の他の混合物を形成することができる。その後に、この混合物を組み合わせて又は混合して、重合性組成物を形成することができる。
【0080】
前記重合性組成物の形成は、これらの2つの実施形態に限定されるものではなく、従来技術において知られている他の形態を適用することもできる。
【0081】
このようにして得られた重合性組成物は、液体形態である。その後で、この重合性組成物は、陽極の面の少なくとも1つの部分、及び/又は陰極の面の少なくとも1つの部分に堆積される。例えば、前記重合性組成物は、陰極の全面を覆うように堆積させることができる。好ましいことに、前記重合性組成物は、陽極の面及び陰極の面に堆積される。
【0082】
このような重合性組成物の面への堆積は、従来技術にて知られている手段、例えば成型、によって行うことができる。このように、重合性組成物層が堆積される。好ましいことに、この層は、1μm~1mm、好ましくは50~750μm、より好ましくは100~500μm、例えば250~400μmの厚みを有する。液体形態の重合性組成物を堆積させることによって、粘性又は結晶性組成物と比べて堆積が容易になる。
【0083】
その後で、前記重合性組成物は、少なくとも部分的に、好ましくは部分的に、20℃~200℃、好ましくは20℃~150℃、より好ましくは25℃~100℃、例えば30℃~80℃、の温度の作用によって、又は放射線の作用によって、重合される。好ましいことに、前記放射線は、紫外線、赤外線及び可視光線(VIS)のうちの一又は複数を含む。このようにして、部分的に重合された組成物が得られる。
【0084】
好ましいことに、放射線、好ましくは紫外線、の作用による、この(少なくとも)部分的な重合ステップは、継続時間が、5秒~20分、例えば10秒~15分、好ましくは20秒~10分、より好ましくは30秒~5分、例えば4分、3分、2分、1分、又は55秒、50秒、45秒である。このような継続時間のおかげで、工業的生産ラインにおけるこの方法の実装が容易になる。
【0085】
好ましいことに、前記(少なくとも)部分的な重合が温度の作用によって行われる場合、継続時間が、1分~5時間、好ましくは5分~4時間、例えば10分~3時間、20分~2.5時間、30分~2時間である。
【0086】
発明者らは、陽極及び陰極を重合性組成物と接触状態にセットする前のこの好ましくは部分的な重合ステップのおかげで、電極どうしの短絡を防ぐことができることを発見した。前記重合性組成物は、液体であるので、機械的強度が低い。前記少なくとも部分的な重合は、前記重合性組成物の機械的強度を大きくし、これによって、電極どうしが重合性組成物を介して接触状態にセットされているときに電極どうしの短絡を避ける。
【0087】
また、発明者らは、この好ましくは部分的な重合ステップのおかげで、電極と前記部分的に重合された組成物の間の良好な接触(良好な界面)が可能になることを発見した。このことは、さらに、前記重合性組成物が陽極及び陰極に堆積される場合、前記部分的に重合された組成物の2つの層の間の良好な接触を可能にする。
【0088】
その後に、陽極と陰極は、陽極と陰極の間に配置された前記部分的に重合された重合性組成物を含む構造を得るように、前記部分的に重合された重合性組成物を介して接触する状態にセットされる。したがって、陽極と部分的に重合された重合性組成物の間、及び陰極と部分的に重合された重合性組成物の間の良好な接触ないし良好な界面を達成することができる。このことのおかげで、優れたイオン伝導度を有する電池要素を得ることができる。
【0089】
そして、部分的に重合された重合性組成物の重合が完了して、前記部分的に重合された重合性組成物を固体ポリマー電解質に変換して、電池要素を得る。最終的な重合は、陰極-組成物-陽極の構造を、20~200℃、好ましくは20~150℃、より好ましくは25~100℃、例えば30~80℃、の温度に曝露することによって、又は放射線の作用によって行われる。好ましいことに、前記放射線は、紫外線、赤外線及び可視光線(VIS)のうちの一又は複数を含む。このように、重合された組成物が得られる。
【0090】
好ましいことに、放射線、好ましくは紫外線、の作用による、この最終的な又は完全な重合工程は、継続時間が、5秒~20分、例えば10秒~15分、好ましくは20秒~10分、より好ましくは30秒~5分、例えば4分、3分、2分、1分、55秒、50秒、45秒である。このような継続時間は、工業的生産ラインにおけるこの方法の実装を容易にする。
【0091】
好ましいことに、最終的な又は完全な重合が温度の作用によって行われる場合、それは、1分~10時間、好ましくは10分~7.5時間、例えば30分~5時間、45分~4時間、又は1分~3時間を有する継続時間を有する。
【0092】
本方法の第2の実施形態において、前記重合性組成物は、まず、部分的に重合され、その後に、陽極の面の少なくとも1つの部分、及び/又は陰極の面の少なくとも1つの部分に堆積される。そして、重合が完了する。
【0093】
例
0.6gのポリエチレンオキシドα-メトキシω-マレイミド(第1のポリマー)、0.085gのPPG-ブロック-PEG-ブロック-PPG,α,ω-ビス(マレイミド)(単一テレケリックオリゴマー)、0.14gのSTFSILi(第2のポリマーの第3の部分)、0.027gのLiFSI(リチウム塩)を0.75gの炭酸プロピレン(溶媒)に加えることによって、重合性組成物を作る。その後で、この溶液を12時間撹拌した。12時間後、前記重合開始剤として0.0125gのAIBNを加え、前記重合性組成物を10分間撹拌した。
【0094】
その後で、前記重合性組成物を、チタン酸リチウム(Li2TiO3、LTOと称する)を含む陽極上、そして、リン酸リチウム鉄(LiFePO4、LFPと称する)を含む陰極上に堆積させた。その後で、前記重合性組成物で覆われた電極に対して、200Wで1分間UV照射線を照射して(OMNICURE Series 2000、波長は320nm~500nmである)、前記重合性組成物を少なくとも部分的に重合させた。
【0095】
その後で、少なくとも部分的に重合された組成物が堆積された陽極及び陰極がこれを介して接触する状態にセットされ、厚み0.8mm、直径17mmである3つのステンレス鋼ディスクを含むCR2032型ケース内にて堆積された。このケースをプレス機を用いて密封した。
【0096】
そして、全体を80℃の炉内で3時間加熱することによって重合を完了した。
【0097】
固体ポリマー電解質のイオン伝導度を様々な温度で電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって測定し、その後で、以下の式(I)に従ってイオン伝導度を測定した。
【0098】
【0099】
ここで、σは、イオン伝導度を表し、Rbは、測定された抵抗を表し、Iは、固体ポリマー電解質の厚みを表し、Sは、固体ポリマー電解質の表面積を表す。
【0100】
このように測定したイオン伝導度は、0.51mS/cmであった。この値は、イオン伝導度が十分であることを確実にする0.1mS/cmの最小値を上回っていた。
【0101】
図7は、電圧に応じた電流を示している。この電解質の電気化学的安定性ウィンドウが1.5V~4Vであることは明らかである。
【0102】
1.4~1.5Vで450サイクルよりも多く充電及び放電することによって、電池の稼働寿命を試験した。サイクル速度はC/20であった。これは0.1mAの充電に対応する。充電は、定電流を流すことによって行い、放電は、同じ電流が逆に流れるようにすることによって行った。各サイクルの間に、電池が100%充電され放電された。
【0103】
図8に、結果を示した。これは、サイクル数に応じた比容量を表しており、1サイクルは完全な充放電サイクルを意味する。
図8から、200サイクル後の比容量損失は、第1のサイクルの比容量に対して5%未満であることがわかる。したがって、この電池が優れた容量安定性を有し、したがって、充放電の繰り返しに対する耐性が優れており、稼働寿命が優れていることは明らかである。
【符号の説明】
【0104】
1 電池要素
2 陽極
3 陰極
4 固体ポリマー電解質
5 ボタンセルキャップ
6 ボタンセルベース
7 スペーサー
8 ばね