IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 津田駒工業株式会社の特許一覧

特許7542700プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法
<>
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図1
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図2
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図3
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図4
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図5
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図6
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図7
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図8
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図9
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図10
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図11
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図12
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図13
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図14
  • 特許-プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
B29C70/54
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023146592
(22)【出願日】2023-09-11
(62)【分割の表示】P 2019159135の分割
【原出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2023158195
(43)【公開日】2023-10-26
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000215109
【氏名又は名称】津田駒工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関根 尚之
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄太
(72)【発明者】
【氏名】西村 勲
【審査官】浅野 弘一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-001298(JP,A)
【文献】特表2011-513085(JP,A)
【文献】特開平06-335934(JP,A)
【文献】国際公開第2007/119371(WO,A1)
【文献】特開2009-161886(JP,A)
【文献】国際公開第2020/136926(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03321055(EP,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012104044(DE,A1)
【文献】米国特許第03115678(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ、前記ウェブの片面側に折り曲げた形状を有する少なくとも1つのフランジ、及び前記ウェブと前記フランジとの間にR面取り及びC面取りの少なくとも一方からなる面取り部分を有するプリフォームを、複数の型で繊維シートの積層体をプレスすることにより製作するプリフォーム賦形装置であって、
前記ウェブの一方の表面、前記面取り部分の内面及び前記フランジの一方の表面のそれぞれにフィットする表面を有する第1の型と、
前記ウェブの他方の表面にフィットする表面を有する第2の型と、
前記フランジの他方の表面及び前記面取り部分の外面のそれぞれにフィットする表面を有する第3の型とを備えるプリフォーム賦形装置において、
前記第1の型と前記第2の型との間の第1の距離が前記ウェブの厚さよりも長い距離となる第1の退避位置と前記第1の距離が前記ウェブの厚さとなる第1のプレス位置との間で前記第1の型及び前記第2の型の少なくとも一方を鉛直方向に昇降駆動する第1の昇降装置と、前記第1の型と前記第3の型との間における第2の距離が前記少なくとも1つのフランジ及び前記面取り部分の厚さよりも長い距離となる第2の退避位置と前記第2の距離が前記フランジ及び前記面取り部分の厚さとなる第2のプレス位置との間で前記第3の型を水平方向に水平移動駆動するスライド装置及び前記第3の型を鉛直方向に昇降駆動する第2の昇降装置を備えた駆動機構とを有し、
前記駆動機構は、前記第1の昇降装置が前記第1の型及び前記第2の型の少なくとも一方を昇降駆動して前記第1の型と前記第2の型とによるプレスが完了した後において、前記第1の型との間で前記第3の型による前記積層体の前記フランジに対応する部分のプレスが開始された後に前記積層体の前記面取り部分に対応する部分のプレスが開始されるように、前記スライド装置による水平移動駆動及び前記第2の昇降装置による昇降駆動が実行されるように構成されている、
ことを特徴とするプリフォーム賦形装置
【請求項2】
ウェブ、前記ウェブの片面側に折り曲げた形状を有する少なくとも1つのフランジ、及び前記ウェブと前記フランジとの間にR面取り及びC面取りの少なくとも一方からなる面取り部分を有するプリフォームを、複数の型で繊維シートの積層体をプレスすることにより製作するプリフォームの賦形方法であって、
前記ウェブの一方の側の表面、前記面取り部分の内面、及び前記フランジの一方の表面のそれぞれにフィットする表面を有する第1の型と、前記ウェブの他方の表面にフィットする表面を有する第2の型とで、前記積層体における前記ウェブに対応する第1の部分をプレスする第1のステップと、
前記フランジの他方の表面及び前記面取り部分の外面のそれぞれにフィットする形状を有する第3の型を水平移動させることで、前記第1のステップの後に、前記第3の型と前記第1の型とによる前記積層体における前記フランジに対応する第2の部分のプレスを開始する第2のステップと、
前記第3の型を鉛直方向に移動させることで、前記第2のステップの後に、前記第1の型と前記第3の型とによる前記積層体における前記面取り部分に対応する部分のプレスを開始する第3のステップとを含む
ことを特徴とするプリフォーム賦形方法。
【請求項3】
前記フランジの部分をプレスするための前記第3の型を、前記フランジの長さ方向に異なる位置に配置される複数の型で構成し、
前記複数の型の移動を異なるタイミングで開始することによって、前記フランジの曲率が一定である場合には前記フランジの中央から両側に向かって順次プレスする一方、前記フランジの曲率が一定でない場合には前記フランジの曲率が大きい部分から両側又は一方向に向かって順次プレスする
ことを特徴とする請求項2に記載のプリフォーム賦形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の樹脂を繊維で強化した複合材と呼ばれる繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)の成形方法の1つとしてRTM(Resin Transfer Molding)法が知られている。
【0003】
RTM法は、シート状の繊維を積層した後に熱硬化性樹脂を含浸させて加熱硬化する複合材の成形方法である。RTM法のうち、真空引きを行って繊維に樹脂を含浸させる方法は、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)法と呼ばれ、金型を利用して樹脂を含浸させる方法は、マッチドダイ(Matched-die)RTM法と呼ばれる。
【0004】
RTM法で複合材を成形する場合には、樹脂の含浸に先立ってドライプリフォームが製作される。ドライプリフォームはシート状の繊維の積層体を、成形後における複合材の形状に合わせて賦形したものである。ドライプリフォームは、シート状の繊維を積層して製作されるが、熱可塑性のバインダを介在させて繊維がほぐれないように仮留めする場合が多い。
【0005】
テープ状の繊維基材はドライテープ材と呼ばれる。また、熱可塑性の不織布を重ねたドライテープ材や熱可塑性の微粒子を付着させたドライテープ材が市販されている。そして、熱可塑性のバインダを含むドライテープ材を積層する際、専用の加熱装置を用いて一定間隔でスポット状にバインダを熱融着することによって、ドライテープ材を隣接するドライテープ材に仮留めすることができる。これにより、積層したドライテープ材がずれたり、剥がれ落ちたりすることを防ぐことができる。
【0006】
ドライプリフォームの賦形法としては様々な方法が知られているが、平面状の治具の上にドライテープ材を積層した後、加熱しながら金型でプレスすることによって成形後における複合材の形状に賦形する方法が知られている。特に、フランジとウェブとの間に内側に凹むように折り曲げられた境界部を有する複雑なプリフォームを賦形するために、繊維を引き伸ばしながら押し付けることができるように複数の金型を押し付けることによってプリフォームを賦形する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-119701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金型でシート状の繊維の積層体をプレスすることによりウェブとフランジを有する複雑な形状を有するドライプリフォームを賦形する場合、繊維に皺や裂けが発生してしまうことがある。
【0009】
そこで本発明は、金型でシート状の繊維の積層体をプレスすることによりウェブとフランジを有するドライプリフォームを製作する場合において、繊維に皺や裂けが発生しないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるプリフォーム賦形装置は、ウェブ、前記ウェブの片面側に折り曲げた形状を有する少なくとも1つのフランジ、及び前記ウェブと前記フランジとの間にR面取り及びC面取りの少なくとも一方からなる面取り部分を有するプリフォームを、複数の型で繊維シートの積層体をプレスすることにより製作するプリフォーム賦形装置であって、前記ウェブの一方の表面、前記面取り部分の内面及び前記フランジの一方の表面のそれぞれにフィットする表面を有する第1の型と、前記ウェブの他方の表面にフィットする表面を有する第2の型と、前記フランジの他方の表面及び前記面取り部分の外側の表面のそれぞれにフィットする表面を有する第3の型とを備えるプリフォーム賦形装置を前提とする。
【0011】
その上で、本発明によるプリフォーム賦形装置は、前記第1の型と前記第2の型との間の第1の距離が前記ウェブの厚さよりも長い距離となる第1の退避位置と前記第1の距離が前記ウェブの厚さとなる第1のプレス位置との間で前記第1の型及び前記第2の型の少なくとも一方を鉛直方向に昇降駆動する第1の昇降装置と、前記第1の型と前記第3の型との間における第2の距離が前記少なくとも1つのフランジ及び前記面取り部分の厚さよりも長い距離となる第2の退避位置と前記第2の距離が前記フランジ及び前記面取り部分の厚さとなる第2のプレス位置との間で前記第3の型を水平方向に水平移動駆動するスライド装置及び前記第3の型を鉛直方向に昇降駆動する第2の昇降装置を備えた駆動機構とを有し、前記駆動機構は、前記第1の昇降装置が前記第1の型及び前記第2の型の少なくとも一方を昇降駆動して前記第1の型と前記第2の型とによるプレスが完了した後において、前記第1の型との間で前記第3の型による前記積層体の前記フランジに対応する部分のプレスが開始された後に前記積層体の前記面取り部分に対応する部分のプレスが開始されるように、前記スライド装置による水平移動駆動及び前記第2の昇降装置による昇降駆動が実行されるように構成されている、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明よるプリフォーム賦形方法は、ウェブ、前記ウェブの片面側に折り曲げた形状を有する少なくとも1つのフランジ、及び前記ウェブと前記フランジとの間にR面取り及びC面取りの少なくとも一方からなる面取り部分を有するプリフォームを、複数の型で繊維シートの積層体をプレスすることにより製作する賦形方法を前提とする。
【0013】
その上で、本発明によるプリフォーム賦形方法は、前記ウェブの一方の側の表面、前記面取り部分の内側の表面、及び前記フランジの一方の表面のそれぞれにフィットする表面を有する第1の型と、前記ウェブの他方の表面にフィットする表面を有する第2の型とで、前記積層体における前記ウェブに対応する第1の部分をプレスする第1のステップと、前記フランジの他方の表面及び前記面取り部分の外側の表面のそれぞれにフィットする形状を有する第3の型を水平移動させることで、前記第1のステップの後に、前記第3の型と前記第1の型とによる前記積層体における前記フランジに対応する第2の部分のプレスを開始する第2のステップと、前記第3の型を鉛直方向に移動させることで、前記第2のステップの後に、前記第1の型と前記第3の型とによる前記積層体における前記面取り部分に対応する部分のプレスを開始する第3のステップとを含む、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係るプリフォーム賦形装置の構成図。
図2図1に示すプリフォーム賦形装置で製作されるドライプリフォームの形状例を示す斜視図。
図3図1に示すフランジ型を複数の分割型で構成した例を示すフランジ型の上面図。
図4】熱可塑性バインダとして熱可塑性樹脂の微粒子を繊維に付着させたシート状の繊維の構造を示す斜視図。
図5】熱可塑性バインダとして熱可塑性の不織布を繊維に付着させたシート状の繊維の構造を示す斜視図。
図6図1に示すプリフォーム賦形装置でドライプリフォームを製作する流れを示すフローチャート。
図7】(A)及び(B)は、図3に示す複数の分割型を上型に向かって水平方向に移動させる順序の例を示す図。
図8】VaRTM法で複合材を成形する場合の例を示す図。
図9】マッチドダイRTM法で複合材を成形する場合の例を示す図。
図10】本発明の第1の実施形態に係るプリフォーム賦形装置の変形例を示す構成図。
図11図10に示すプリフォーム賦形装置で製作されるドライプリフォームの形状例を示す斜視図。
図12】本発明の第2の実施形態に係るプリフォーム賦形装置の構成図。
図13図12に示すシートの上面図。
図14】本発明の第3の実施形態に係るプリフォーム賦形装置の構成図。
図15】本発明の第4の実施形態に係るプリフォーム賦形装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係るプリフォーム賦形装置、及びプリフォーム賦形方法について添付図面を参照して説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
(プリフォーム賦形装置の構成及び機能)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るプリフォーム賦形装置の構成図であり、図2は、図1に示すプリフォーム賦形装置で製作されるドライプリフォームの形状例を示す斜視図である。
【0017】
プリフォーム賦形装置1は、素材であるシート状の繊維の積層体(以下、単に「積層体」と言う。)2を賦形することにより、樹脂を含浸させる前のプリフォーム、すなわちドライプリフォーム3を製作するためのプレス装置である。
【0018】
プリフォーム賦形装置1によって製作対象となるドライプリフォーム3は、例えば図2に例示されるように、ウェブ4と、ウェブ4の片面側に折り曲げた形状を有する少なくとも1つのフランジ5を有するドライプリフォーム3とされる。図2には、2つのフランジ5をウェブ4の片面側に形成したドライプリフォーム3が例示されているが、1つのフランジ5をウェブ4の一方の面の一端に形成したドライプリフォーム3や、内側に閉曲面を形成する1つのフランジ5をウェブ4の片面側に形成したドライプリフォーム3をプリフォーム賦形装置1による賦形対象としても良い。
【0019】
フランジ5は、ウェブ4の両面側に形成されず、ウェブ4の片面側に折り曲げた形状を有する。また、ウェブ4とフランジ5との間には、R面取り及びC面取りの少なくとも一方からなる凸状の面取り部分6が形成される。フランジ5は、平面を形成するフランジ5に限らず、凸曲面、凹曲面又は凸曲面と凹曲面の双方を形成するフランジ5であっても良い。すなわち、フランジ5は、湾曲していても良い。
【0020】
プリフォーム賦形装置1は、第1の型としての上型7、第2の型としての下型8、第3の型としてのフランジ型9、駆動機構10、固定治具11及び加熱装置12で構成することができる。上型7、下型8及びフランジ型9は、駆動機構10と連結されている。
【0021】
上型7は、ドライプリフォーム3の内面をプレスするための剛体の型である。具体的には、上型7は、フランジ5が折り曲げられて内面となるウェブ4の一方の表面、面取り部分6の内面及びフランジ5の内面をプレスするための型である。このため、その上型7におけるプレスのための表面は、ウェブ4の一方の表面、面取り部分6の内面及びフランジ5の一方の表面にフィットする形状に形成されている。なお、そのウェブ4の表面は、平面に限らず、曲面であっても良い。
【0022】
下型8は、上型7との間でウェブ4の部分をプレスするための剛体の型である。具体的には、下型8は、フランジ5が折り曲げられて外面となるウェブ4の他方の表面をプレスするための型である。このため、その下型8におけるプレスのための表面は、ウェブ4の他方の表面にフィットする形状に形成されている。
【0023】
フランジ型9は、上型7との間でフランジ5の部分をプレスするための剛体の型である。具体的には、フランジ型9は、フランジ5が折り曲げられて外面となるフランジ5の他方の表面及び面取り部分6の外面をプレスするための型である。このため、そのフランジ型9におけるプレスのための表面は、フランジ5の他方の表面及び面取り部分6の外面にフィットする形状に形成されている。
【0024】
フランジ型9を下型8と別に設けると、ウェブ4の部分とフランジ5の部分を異なるタイミングで別々にプレスすることが可能となる。このため、積層体2に皺や裂けが生じないようにウェブ4の部分をプレスした後、フランジ5の部分をプレスすることができる。
【0025】
フランジ5の部分をプレスするためのフランジ型9は、必要に応じてフランジ5の長さ方向に分割配置することができる。その場合、フランジ5の長さ方向にもフランジ5の部分を異なるタイミングで別々にプレスすることが可能となる。
【0026】
図3は、図1に示すフランジ型9を複数の分割型9Aで構成した例を示すフランジ型9の上面図である。なお、図2に例示されるドライプリフォーム3の形状と、図3に例示されるフランジ型9で賦形されるドライプリフォーム3の形状とは、互いに異なっている。
【0027】
図3に例示されるように、フランジ型9は、フランジ5の長さ方向に異なる位置に配置される複数の分割型9Aで構成することができる。そして、複数の分割型9Aを異なるタイミングで積層体2に押し当てることにより、フランジ5の部分を異なるタイミングで順次プレスすることが可能となる。
【0028】
複数の分割型9Aは、積層体2にできるだけ皺や裂けが生じないような順序で、フランジ5の部分を順次プレスできるように配置することが望ましい。例えば、フランジ5の曲率が一定である場合には、フランジ5の中央から両側に向かって段階的に異なるタイミングで順次プレスすることが、繊維に皺や裂けが生じるリスクの低減に繋がる。このため、フランジ5の曲率が一定である場合には、フランジ5の中央から両側に向かって複数回に分けてプレスできるように複数の分割型9Aを配置することが望ましい。
【0029】
一方、フランジ5の曲率が一定でない場合には、フランジ5の曲率が大きい部分から両側又は一方の側に向かって段階的に異なるタイミングで順次プレスすることが、繊維に皺や裂けが生じるリスクの低減に繋がる。このため、フランジ5の曲率が一定でない場合には、フランジ5の曲率が大きい部分から両側又は一方の側に向かって複数回に分けてプレスできるように複数の分割型9Aを配置することが望ましい。
【0030】
また、フランジ5に凸状に湾曲する部分及び凹状に湾曲する部分が存在する場合において、フランジ5がそのような形状となるように積層体2をプレスすると、フランジ5の凹面では繊維が弛む一方、フランジ5の凸面では繊維が引っ張られて張力が生じることになる。このため、フランジ5を形成するためにシート状の繊維が引っ張られる部分と、シート状の繊維が弛む部分とを、異なるタイミングで順次プレスすることが、繊維に皺や裂けが生じるリスクの低減に繋がる。したがって、フランジ5に凸状に湾曲する部分及び凹状に湾曲する部分が存在する場合には、シート状の繊維が引っ張られる凸状に湾曲する部分と、シート状の繊維が弛む凹状に湾曲する部分とを、異なるタイミングで別々にプレスできるように複数の分割型9Aを配置することが望ましい。
【0031】
このように、フランジ5、ウェブ4及び面取り部分6の内面は単一の上型7でプレスされる一方、フランジ5、ウェブ4及び面取り部分6の外面は、下型8と単一又は複数の分割型9Aからなるフランジ型9でプレスされるようになっている。
【0032】
駆動機構10は、上型7、下型8及びフランジ型9の相対的な位置決めを行う装置である。具体的には、駆動機構10は、上型7、下型8及びフランジ型9を、積層体2がセットされるときの退避位置と、積層体2に圧力を負荷するプレス位置との間で移動させる装置である。
【0033】
上型7、下型8及びフランジ型9の退避位置は、賦形前における積層体2を上型7、下型8及びフランジ型9の間に形成される空間に配置できるように決定される。したがって、上型7及び下型8の退避位置である第1の退避位置は、上型7と下型8との間の距離がウェブ4の厚さよりも長い距離となるような位置となっている。また、フランジ型の退避位置である第2の退避位置は、上型7とフランジ型9との間の距離がフランジ5及び面取り部分6の厚さよりも長い距離となるような位置となっている。
【0034】
一方、上型7、下型8及びフランジ型9のプレス位置は、上型7、下型8及びフランジ型9の間に形成される空隙が、ドライプリフォーム3の形状となるように決定される。したがって、上型7及び下型8のプレス位置である第1のプレス位置は、上型7と下型8との間の距離がウェブ4の厚さとなるような位置となっている。また、フランジ型9のプレス位置である第2のプレス位置は、上型7とフランジ型9との間の距離がフランジ5及び面取り部分6の厚さとなるような位置となっている
【0035】
上述したようにウェブ4の部分をプレスした後に、フランジ5の部分をプレスすることが、繊維に皺や裂けが生じるリスクを低減する観点から好適なプレス条件である。そこで、駆動機構10には、上型7と下型8とで積層体2を挟み込んでウェブ4の部分をプレスした後に、上型7とフランジ型9とで積層体2を挟み込んでフランジ5の部分がプレスされるように、上型7、下型8及びフランジ型9を相対移動させる機能が備えられる。
【0036】
より具体的には、駆動機構10は、上型7と下型8との間の距離がウェブ4の厚さよりも長い距離からウェブ4の厚さに変化した後、上型7とフランジ型9との間の距離がフランジ5及び面取り部分6の厚さよりも長い距離からフランジ5及び面取り部分6の厚さに変化するように、上型7、下型8及びフランジ型9を相対移動させるように構成される。
【0037】
駆動機構10は、電気式、油圧式又は空気圧式等の所望の駆動方式を有するジャッキやアクチュエータ等の所望の装置を用いて構成することができる。すなわち、ピストンが移動するシリンダ機構、ラック・アンド・ピニオン、ボールねじ、レールに沿って車輪が移動する走行機構、クローラ(無限軌道)等の所望の機構を用いて駆動機構10を構成することができる。
【0038】
図1に示す例では駆動機構10が、上型7と下型8との間における鉛直方向の距離を変化させることによって繊維の積層体2を挟み込んでウェブ4の部分をプレスする一方、上型7及び下型8とフランジ型9との間における鉛直方向及び水平方向の距離を変化させることによって繊維の積層体2を挟み込んでフランジ5の部分をプレスするように構成されている。
より具体的には、図1に示す例では、駆動機構10は、上型7を鉛直方向に昇降させる門型の第1の昇降装置10A、伸縮機構でフランジ型9を水平方向に移動させるスライド装置10B及び伸縮機構でフランジ型9を鉛直方向に昇降させる第2の昇降装置10Cで構成されている。他方、下型8が固定されている。そして、第1の昇降装置10Aで上型7を第1の退避位置から第1のプレス位置に移動させ、かつスライド装置10B及び第2の昇降装置10Cでフランジ型9を第2の退避位置から第2のプレス位置に移動させると、フランジ5をウェブ4の上方に設けたドライプリフォーム3を賦形することができる。
【0039】
一例として、フランジ型9には、第2の昇降装置10Cに対して水平方向にスライドできるようにローラ等で構成される走行装置を設けることができる。或いは、フランジ型9を第2の昇降装置10Cに固定し、第2の昇降装置10Cを水平方向に移動させる走行装置を第2の昇降装置10Cに設けても良い。他方、フランジ型9をスライド装置10Bに対して鉛直方向にスライドできるように構成するか、或いは、フランジ型9をスライド装置10Bに固定してスライド装置10Bを駆動機構10の支柱に対して鉛直方向にスライドできるように構成しても良い。それにより、スライド装置10Bによるフランジ型9の水平移動と、第2の昇降装置10Cによるフランジ型9の鉛直移動をそれぞれ独立して行うことが可能となる。
【0040】
なお、第1の昇降装置は、上型7を固定し、下型8を昇降させるように構成されていても良い。また、上型7、下型8及びフランジ型9の配置を鉛直方向に反転させ、フランジ5をウェブ4の下方に設けたドライプリフォーム3を賦形するようにしても良い。
【0041】
ドライプリフォーム3のウェブ4は、上型7及び下型8の少なくとも一方を鉛直方向に移動させる1軸制御でプレスすることができる。すなわち、上型7及び下型8の少なくとも一方の駆動軸を1軸とすることができる。これに対して、フランジ5については、フランジ型9を鉛直方向及び水平方向の双方に相対移動させる2軸制御でプレスされる。これは、フランジ型9を水平方向又は鉛直方向のみに移動させる1軸制御とすると、繊維に生じる皺の抑制効果が十分に得られないことが確認されたためである。
【0042】
逆に、フランジ型9を水平方向に移動させて積層体2を上型7のウェブ4側における一部に押し付けた後、フランジ型9を鉛直方向に移動させて積層体2をフランジ型9と上型7との間で挟み込むことが、面取り部分6における皺の発生を最も抑制できることが確認された。
【0043】
但し、賦形時間を短縮するために、フランジ型9が水平方向に移動している最中に鉛直方向への移動を開始するようにしても良い。すなわち、フランジ型9を斜め方向に移動させても良い。その場合においても、フランジ型9の水平方向への移動を、鉛直方向への移動よりも先に行うことが、繊維に生じ得る皺を抑制する観点から肝要であることが確認された。
【0044】
したがって、フランジ型9の第2の退避位置は、鉛直方向への移動が可能となるように、フランジ5の一方の表面にフィットする上型7の第1の表面7A及びウェブ4の一方の表面にフィットする上型7の第2の表面7Bの双方から離れた位置に決定される。例えば、図1に示すように、フランジ型9を上型7の下方に配置する場合であれば、フランジ型9の第2の退避位置第2のプレス位置よりも水平方向に上型7から離れ、かつ第2のプレス位置よりも下方の位置に決定される。
【0045】
そして、駆動機構10は、フランジ型9を第2の退避位置から上型7の第1の表面7Aに接近させる移動を開始又は完了した後に、フランジ型9を上型7の第2の表面7Bに接近させる移動を開始するように構成される。具体的には、図1に示すように、フランジ型9を上型7の下方に配置する場合であれば、駆動機構10は、スライド装置10Bでフランジ型9を第2の退避位置から上型7の第1の表面7Aに接近させる水平移動を開始又は完了した後に、第2の昇降装置10Cでフランジ型9を上型7の第2の表面7Bに接近させる上昇移動を開始するように構成される。
【0046】
このようなフランジ型9の2軸制御によって、フランジ5の水平方向へのプレスが開始された後又は水平方向へのプレスが完了した後、鉛直方向へのプレスを開始されるようにすることができる。その結果、フランジ5をウェブ4側から徐々に端部に向かってプレスすることができる。それにより、フランジ5を上型7に沿ってウェブ4の厚さ方向に徐々に馴染ませ、繊維の皺や裂けの発生を抑制することができる。
【0047】
図3に例示されるように、フランジ型9をフランジ5の長さ方向に異なる位置に配置される複数の分割型9Aで構成する場合には、駆動機構10が複数の分割型9Aの移動を異なるタイミングで開始させる制御を行う。具体的には、フランジ5の曲率が一定である場合には、上述したようにフランジ5の中央から両側に向かって順次プレスが行われるように中央に配置した分割型9Aから両側に配置された分割型9Aに向かって順次移動が行われる。一方、フランジ5の曲率が一定でない場合には、フランジ5の曲率が大きい部分から両側又は一方の側に向かって順次プレスが行われるように曲率が大きい部分に配置された分割型9Aから移動が行われる。このような分割型9Aに移動制御により、繊維に皺が発生するリスクを低減することができる。
【0048】
固定治具11は、上型7と下型8との間における距離を徐々に狭くすることによってウェブ4の部分をプレスする際に、重力で垂れ下がる積層体2の端部を固定するためのクランプである。したがって、固定治具11がフランジ型9と干渉する場合には、フランジ5のプレスが開始される前に除去される。固定治具11は、例えば、積層体2の端部を挟む部材と部材を固定するボルト等で構成することができる。
【0049】
重力で垂れ下がる積層体2の端部を上方において固定治具11で固定した状態で、上型7及び下型8の少なくとも一方を鉛直方向に移動させてウェブ4の面をプレスすると、積層体2が上方に引っ張られた状態でウェブ4の部分をプレスすることができる。すなわち、積層体2に常に張力が生じた状態で、ウェブ4の部分をプレスすることができる。その結果、積層体2に生じ得る弛みを減少させ、プレス後の繊維の積層体2に皺が発生するリスクを低減することができる。
【0050】
加熱装置12は、ドライプリフォーム3の素材として用いられる積層体2にバインダが含まれている場合に、上型7及び下型8の少なくとも一方の表面を加熱する装置である。したがって、バインダが含まれていない積層体2のみを素材とする場合には、加熱装置12を省略しても良い。
【0051】
図4は、熱可塑性バインダとして熱可塑性樹脂の微粒子を繊維に付着させたシート状の繊維の構造を示す斜視図であり、図5は、熱可塑性バインダとして熱可塑性の不織布を繊維に付着させたシート状の繊維の構造を示す斜視図である。
【0052】
図4に示すような、シート状に束ねた繊維束20に熱可塑性バインダとして熱可塑性樹脂の微粒子21を塗したドライテープ材22が市販されている。また、図5に示すような、シート状に束ねた繊維束20に熱可塑性バインダとして熱可塑性の不織布23を重ねたドライテープ材24も市販されている。他に、粉末状又は液状の熱硬化性バインダを付着させたシート状の繊維や、エラストマ等の樹脂をバインダとして付着させたシート状の繊維も知られている。
【0053】
バインダを含む積層体2を賦形する場合には、バインダを加熱して熱融着させることによって、シート状の繊維を仮留めしたり、賦形後の形状を保持することができる。また、複合材の成形後において、破壊じん性を向上させるためにバインダが用いられる場合もある。
【0054】
加熱装置12で上型7及び下型8の一方又は双方の表面を加熱すると、賦形後における積層体2に含まれるバインダを利用してドライプリフォーム3の形状を保持することができる。すなわち、バインダが熱可塑性樹脂である場合には、上型7、下型8及びフランジ型9をプレス位置に位置決めした状態で積層体2を加熱することにより、積層体2に含まれる熱可塑性バインダを溶融することができる。その後、賦形後の積層体2を空冷等によって冷却すれば熱可塑性バインダが固まり、形状が安定したドライプリフォーム3を製作することができる。
【0055】
また、バインダが熱硬化性樹脂である場合には、上型7、下型8及びフランジ型9をプレス位置に位置決めした状態で積層体2を加熱することにより、積層体2に含まれる熱硬化性バインダを硬化することができる。これにより、形状が安定したドライプリフォーム3を製作することができる。
【0056】
加熱装置12としては、必要な熱を積層体2に含まれるバインダに付与できる所望の装置を用いられる。例えば、加熱媒体の配管や抵抗発熱体を上型7及び下型8の内部に内蔵して加熱装置12を構成しても良いし、電磁誘導や電流を流すことによって上型7及び下型8の表面を加熱する加熱装置12を設けても良い。もちろん、フランジ型9を加熱装置12で加熱するようにしても良い。
【0057】
(プリフォーム賦形方法及び複合材成形方法)
次に、プリフォーム賦形装置1でドライプリフォーム3を製作するプリフォーム賦形方法並びにプリフォーム賦形方法で製作されたドライプリフォーム3を素材として複合材を製作する複合材成形方法について説明する。
【0058】
図6は、図1に示すプリフォーム賦形装置1でドライプリフォーム3を製作する流れを示すフローチャートである。なお、図6では、上型7、下型8及びフランジ型9の相対位置でドライプリフォーム3を製作する流れを説明する。
【0059】
まずステップS1において、上型7及びフランジ型9が、駆動機構10によって退避位置に位置決めされる。すなわち、上型7が第1の退避位置に配置されると共に、フランジ型9が第2の退避位置に配置される。なお、下型8は、前述の通り、固定的に配置されている。そして、上型7、下型8及びフランジ型9で囲まれた空間にドライプリフォーム3の素材となる積層体2がセットされる。また、積層体2の端部は、フランジ型9等の所望の対象に固定治具11で固定される。
【0060】
次に、ステップS2において、駆動機構10における第1の昇降装置10Aが、上型7を第1の退避位置から下降させる。そして、上型7が第1のプレス位置に達することにより、上型7の第2の表面7Bと下型8の表面とで、積層体2を挟み込んでウェブ4の部分のプレスが行われる。このとき、積層体2の端部は固定治具11で固定されているため、常に張力が生じた状態となる。このため、繊維の皺や裂けの発生を抑制することができる。ウェブ4の部分のプレスが完了すると、必要に応じて固定治具11が取り外される。
【0061】
次に、ステップS3において、駆動機構10のスライド装置10Bが、フランジ型9を第2の退避位置から上型7に向かって水平方向にスライドさせる。それにより、積層体2の端部が上型7の第1の表面7Aに押し付けられ、フランジ5になる部分が立ち上がる。
【0062】
フランジ型9が複数の分割型9Aで構成される場合には、適切な順序で分割型9Aが順次水平方向に移動し、上型7の第1の表面7Aに押し付けられる。図7(A)及び(B)は、図3に示す複数の分割型9Aを上型7に向かって水平方向に移動させる順序の例を示す図である。
【0063】
例えば、図7(A)に示すように、曲率が一定であるフランジ5Aについては、フランジ5Aの中央に配置した分割型9Aを先に水平方向にスライドさせる。他方、曲率が一定でないフランジ5Bについては、フランジ5Bの曲率が大きい部分に配置した分割型9Aを先に水平方向にスライドさせる。
【0064】
次に、図7(B)に示すように、曲率が一定であるフランジ5Aについては、フランジ5Aの中央に配置した分割型9Aの両側に配置された2つの分割型9Aを水平方向にスライドさせる。他方、曲率が一定でないフランジ5Bについては、フランジ5Bの曲率が大きい部分に隣接配置した分割型9Aを水平方向にスライドさせ、その後、同様に外側に向かって残りの分割型9Aを水平方向にスライドさせる。
【0065】
なお、先に水平移動を開始した分割型9Aの移動が完了する前に、次の分割型9Aの水平移動を開始するようにしても良い。すなわち、移動開始タイミングを変えつつ、複数の分割型9Aを同時に水平移動させても良いし、逆に、先に水平移動を開始した分割型9Aの移動が完了した後に、隣接する次の分割型9Aの水平移動を開始するようにしても良い。このような分割型9Aの段階的な移動によって、繊維に皺が発生するリスクを低減することができる。
【0066】
次に、ステップS4において、駆動機構10における第2の昇降装置10Cがフランジ型9を上昇させる。これにより、フランジ型9が第2のプレス位置に位置した状態となり、積層体2のフランジ5となる部分がフランジ型9と上型7で挟み込まれてプレスされる。なお、上型7の第1の表面7A及び第2の表面7Bから離れた第2の退避位置からのフランジ型9の移動は、第1の表面7Aに接近させる移動を完了した後に、第2の表面7Bに接近させる移動を開始するようにしても良い。或いは、その移動は、第1の表面7Aに接近させる移動を開始した後に、第2の表面7Bに接近させる移動を開始するようにしても良い。すなわち、フランジ型9を水平方向にスライドさせるスライド装置10Bの動作とフランジ型9を鉛直方向に上昇させる第2の昇降装置10Cの動作とを、時間的にオーバーラップさせても良い。その場合には、フランジ型9が斜め上方に移動することになる。
【0067】
フランジ型9が複数の分割型9Aで構成される場合には、繊維に皺が発生し難い順序で順番に上昇させることもできる。すなわち、水平移動のみならず、鉛直移動についても分割型9Aの移動開始タイミングを変えることができる。但し、分割型9Aの水平移動が完了した後に、分割型9Aの鉛直移動を開始する場合には、既に、繊維の積層体2は分割型9Aと上型7の第1の表面7Aとの間に挟み込まれているため、分割型9Aの上昇については同時に行っても良い。分割型9Aの上昇順序については、実際に試験を行って適切に決定することができる。
【0068】
積層体2の端部がフランジ型9と上型7で挟み込まれてフランジ5の部分がプレスされると、積層体2の形状は、ドライプリフォーム3の形状となる。なお、積層体2にバインダが含まれる場合には、加熱装置12により上型7及び下型8の少なくとも一方の表面が加熱される。それにより、バインダで形状が保持されたドライプリフォーム3を製作することができる。
【0069】
このようにして製作されたドライプリフォーム3を用いて複合材を製作する場合には、ドライプリフォーム3に熱硬化性樹脂を含浸させて加熱硬化する工程が実施される。ドライプリフォーム3に熱硬化性樹脂を含浸させて加熱硬化する工程は、ドライプリフォーム3を複合材成形用の別の治具に載せ換えて実行することが実用的である。
【0070】
図8は、VaRTM法で複合材を成形する場合の例を示す図であり、図9は、マッチドダイRTM法で複合材を成形する場合の例を示す図である。
【0071】
VaRTM法で複合材を成形する場合には、図8に示すように、下型30の上にドライプリフォーム3が載置される。そして、ドライプリフォーム3がバギングフィルム31で覆われ、バギングフィルム31の縁がシーラント32で下型30に貼着される。一方、マッチドダイRTM法で複合材を成形する場合には、下型30と上型33との間に形成される空隙にドライプリフォーム3がセットされる。
【0072】
そして、真空装置34でドライプリフォーム3がセットされた空間の真空引きを行った状態で、ドライプリフォーム3がセットされた空間に樹脂注入装置35から流動性が得られる程度まで加熱された熱硬化性樹脂が注入される。それにより、ドライプリフォーム3に熱硬化性樹脂を含浸させることができる。
【0073】
続いて、オーブン等の加熱装置36で熱硬化性樹脂の温度が硬化温度まで上昇するように熱硬化性樹脂が加熱される。それにより、熱硬化性樹脂が硬化し、ウェブ4とフランジ5を有するドライプリフォーム3の形状に対応する形状を有する複合材を成形することができる。
【0074】
なお、ドライプリフォーム3を複合材成形用の別の治具に載せ換えずに、ドライプリフォーム3の賦形用の上型7、下型8及びフランジ型9を用いて引続き複合材成形を行う場合には、上型7、下型8及びフランジ型9の間に形成される隙間をパッキン等でシールし、真空引きを行いつつ液状の樹脂を注入しても漏れ出ないようにすることが必要である。
【0075】
(効果)
以上のようなプリフォーム賦形装置1、プリフォーム賦形方法及び複合材成形方法は、ウェブ4とフランジ5を有するドライプリフォーム3を賦形する場合において、上型7と下型8とでウェブ4をプレスした後に、フランジ型9を2方向に移動させてフランジ5をプレスするようにしたものである。それにより、プリフォーム賦形装置1、プリフォーム賦形方法及び複合材成形方法によれば、ウェブ4とフランジ5を有するドライプリフォーム3に皺や裂けが発生することを防止することができる。
【0076】
従来の上型と下型とからなる一対の金型を1軸方向に相対移動させてプレスする単純な賦形方法では、ウェブ面、繊維に張力が生じるフランジ面及び繊維が弛むフランジ面を含むあらゆる箇所に繊維の皺や裂けが発生していた。これに対して、上述したプリフォーム賦形装置1、プリフォーム賦形方法及び複合材成形方法によれば、ウェブ4の表面、繊維に張力が生じるフランジ5の表面及び繊維に弛みが生じるフランジ5の表面のいずれにおいても、繊維に皺及び裂けを発生させずに高品質なドライプリフォーム3を賦形することが可能である。
【0077】
(変形例)
図10は、本発明の第1の実施形態に係るプリフォーム賦形装置の変形例を示す構成図であり、図11は、図10に示すプリフォーム賦形装置で製作されるドライプリフォームの形状例を示す斜視図である。
【0078】
図10に示すように、一方のフランジ型9を下型8側の退避位置から上昇させて上型7に接近させ、その一方のフランジ型9と上型7との間で一方のフランジ5をプレスし、他方のフランジ型9を上型7側の退避位置から下降させて下型8に接近させ、その他方のフランジ型9と下型8との間で他方のフランジ5をプレスすることもできる。
【0079】
なお、図10に示す例では、フランジ型9を上型7側の退避位置から下降させる第2の昇降装置10Cが、水平方向の支柱に沿って水平方向にスライドし、かつフランジ型9を吊り下げる懸垂式の装置となっている。但し、その第2の昇降装置は、フランジ型9を下方から支える装置であっても良い。また、上述したようにフランジ型9をその第2の昇降装置10Cに対して水平方向にスライドさせるようにしても良いし、懸垂式の第2の昇降装置10Cをスライド装置10Bで水平方向にスライドさせるようにしても良い。
【0080】
図10に示すプリフォーム賦形装置1で繊維の積層体2を賦形すると、図11に例示されるように2つのフランジ5をそれぞれ逆方向にウェブ4の片面側に折り曲げた形状を有するドライプリフォーム3を製作することができる。
【0081】
(第2の実施形態)
図12は、本発明の第2の実施形態に係るプリフォーム賦形装置の構成図である。
【0082】
図12に示された第2の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1Aは、ドライプリフォーム3の素材となる積層体2と、上型7及び下型8の少なくとも一方との間に断熱性及び耐熱性を有するシート40を配置した点が第1の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1と相違する。第2の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1Aの他の構成及び作用については、第1の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1と実質的に異ならないため、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0083】
加熱装置12で上型7及び下型8の一方又は双方の表面を加熱する場合には、図12に示すように、積層体2と、加熱装置12で加熱される上型7及び下型8の少なくとも一方の表面との間に断熱性及び耐熱性を有するシート40を配置することができる。
【0084】
図13は、図12に示すシート40の上面図である。断熱性及び耐熱性を有するシート40には、複数の孔41が形成される。それにより、ドライプリフォーム3の賦形時に加熱装置12で加熱された上型7及び下型8の少なくとも一方の表面から積層体2への熱伝導が、シート40に孔41が形成された部分に限定される。その結果、積層体2の全面が加熱されずに、局所的に加熱される。そのため、積層体2がバインダで局所的に熱融着し、シート状の繊維層の間に熱融着されない部分を形成した状態でシート状の繊維層を仮留めすることができる。
【0085】
すなわち、バインダを含む積層体2と、加熱装置12で表面が加熱される上型7及び下型8の少なくとも一方との間に孔41を形成した断熱性及び耐熱性を有するシート40を配置した状態で、積層体2を上型7、下型8及びフランジ型9でプレスし、上型7及び下型8の少なくとも一方の表面を加熱装置12で加熱することで、バインダで積層体2を部分的に仮留めすることができる。それにより、シート状の繊維層の全面をバインダで熱融着させる場合に比べて、ドライプリフォーム3に樹脂を含浸させる際に、樹脂の含浸性を向上させることができる。すなわち、繊維層間において熱融着されない部分を利用して樹脂を浸透させることができる。つまり、繊維層の全面をバインダで熱融着させると樹脂が含浸し難くなってしまうが、熱融着を部分的に引起すことによって、複合材成形時に樹脂の含浸性を向上させることが可能となる。
【0086】
(第3の実施形態)
図14は、本発明の第3の実施形態に係るプリフォーム賦形装置の構成図である。
【0087】
図14に示された第3の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1Bは、上型7及び下型8の少なくとも一方の表面に熱伝導性を有するピン又は針等からなる複数の棒状構造物50を配置した点が第1の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1と相違する。第3の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1Bの他の構成及び作用については、第1の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1と実質的に異ならないため、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0088】
第3の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1Bでは、熱伝導性を有する複数の棒状構造物50が上型7及び下型8の少なくとも一方の表面から突出した状態で配置される。そして、加熱装置12は、複数の棒状構造物50を加熱できるように構成されている。具体例として、複数の棒状構造物50を電導性を有する金属等で構成し、電流を流すことによって加熱することができる。
【0089】
このため、積層体2に複数の棒状構造物50を差し込んで積層体2の滑りを防止しつつ、加熱装置12で加熱された複数の棒状構造物50で積層体2を局所加熱することによって積層体2を仮留めすることができる。なお、複数の棒状構造物50を鉛直方向にスライドできるようにし、上型7又は下型8に収納できるようにしても良い。
【0090】
(第4の実施形態)
図15は、本発明の第4の実施形態に係るプリフォーム賦形装置の構成図である。
【0091】
図15に示された第4の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1Cは、複数の棒状構造物50を上型7及び下型8の少なくとも一方の表面から突出しないように配置した点が第3の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1Bと相違する。第4の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1Cの他の構成及び作用については、第3の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1Bと実質的に異ならないため、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0092】
第4の実施形態におけるプリフォーム賦形装置1Cでは、加熱装置12で加熱される複数の棒状構造物50が上型7及び下型8の少なくとも一方に内蔵される。このため、複数の棒状構造物50で上型7及び下型8の少なくとも一方の表面を局所的に加熱することができる。
【0093】
なお、複数の棒状構造物50で上型7及び下型8の表面全体が加熱されないように複数の棒状構造物50を上型7又は下型8の内面から退避できるようにしても良い。すなわち、複数の棒状構造物50を上型7又は下型8の内面に瞬間的に接触させて、局所的かつ瞬間的に上型7又は下型8の表面を加熱できるようにしても良い。もちろん、棒状構造物50の加熱期間の制御によって、上型7又は下型8の表面全体が加熱されないようにしても良い。
【0094】
複数の棒状構造物50を上型7又は下型8に内蔵する場合には、プレス位置に位置決めされた上型7、下型8及びフランジ型9の間に形成される隙間をシールすれば、真空引き、熱硬化性樹脂の注入及び熱硬化性樹脂の加熱硬化を行うことによって複合材を成形することができる。そこで、繊維の仮留めを行う場合には、加熱装置12による通電加熱等によって複数の棒状構造物50を加熱する一方、熱硬化性樹脂の加熱硬化を行う場合には、加熱装置12による電磁誘導等によって上型7及び下型8の少なくとも一方の表面全体を加熱するようにしても良い。
【0095】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0096】
例えば、上述した例では、複合材を構成する樹脂が熱硬化性樹脂である場合について説明したが、熱可塑性樹脂で複合材を構成しても良い。熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂と非晶性樹脂に大別される。結晶性樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂等が挙げられる。一方、非晶性樹脂の具体例としては、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン及びスチレン の共重合合成樹脂)及びポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0097】
熱可塑性樹脂を使用して複合材を成型する場合には、加熱溶融によって流動性が付与された熱可塑性樹脂がドライプリフォーム3に含侵される。そして、含侵させた熱可塑性樹を冷却することによって熱可塑性樹脂を硬化することができる。したがって、熱硬化性樹脂を加熱硬化するための加熱装置12に代えて、熱可塑性樹脂を冷却硬化するための冷却装置を設けることができる。或いは、冷却装置を設けずに空冷によって熱可塑性樹脂を硬化しても良い。
【符号の説明】
【0098】
1、1A、1B、1C プリフォーム賦形装置
2 シート状の繊維の積層体
3 ドライプリフォーム
4 ウェブ
5、5A、5B フランジ
6 面取り部分
7 上型
7A 第1の表面
7B 第2の表面
8 下型
9 フランジ型
9A 分割型
10 駆動機構
10A 昇降装置
10B スライド装置
10C 昇降装置
11 固定治具
12 加熱装置
20 繊維束
21 熱可塑性樹脂の微粒子
22 ドライテープ材
23 熱可塑性の不織布
24 ドライテープ材
30 下型
31 バギングフィルム
32 シーラント
33 上型
34 真空装置
35 樹脂注入装置
36 加熱装置
40 断熱性及び耐熱性を有するシート
41 孔
50 棒状構造物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15