(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】走行ユニット及び走行体
(51)【国際特許分類】
B60B 33/00 20060101AFI20240823BHJP
B60B 19/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B60B33/00 X
B60B19/00 D
B60B19/00 H
(21)【出願番号】P 2023172937
(22)【出願日】2023-10-04
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】523379236
【氏名又は名称】柳井 瑞貴
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】柳井 瑞貴
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-093363(JP,A)
【文献】登録実用新案第3161254(JP,U)
【文献】特開2022-035183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 19/00
33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体に接続され車輪を支持する走行ユニットであって、
前記走行ユニットは、支持本体と、前記車輪を支持本体に対し上下方向に移動可能に軸支する車輪支持部材と、前記車輪の進行方向前方に配置される障害物検知部材と、前記障害物検知部材と連動して前記車輪の上下方向への移動の許容・阻止を選択する上下動制御機構とを有
し、
前記車輪支持部材は、前記支持本体に揺動可能に接続され、
前記障害物検知部材は、前記車輪支持部材に揺動可能に接続され、
前記上下動制御機構は、前記支持本体に設けられた係止部と、前記障害物検知部材の揺動と連動するロック部材とを有し、前記障害物検知部材が障害物に接触して前記車輪側に揺動した際に、前記係止部に係止したロック部材を解除方向に移動させて前記車輪支持部材の揺動を許容するように構成されたことを特徴とする走行ユニット。
【請求項2】
前記係止部は、前記支持本体に設けられた扇形の係止板に設けられていることを特徴とする
請求項1に記載の走行ユニット。
【請求項3】
前記車輪支持部材は、前記車輪を駆動する駆動ユニットを有することを特徴とする請求項1に記載の走行ユニット。
【請求項4】
複数の車輪を有する走行体であって、
前記車輪が請求項1乃至
請求項3のいずれかに記載の走行ユニットにより支持されていることを特徴とする走行体。
【請求項5】
前記走行体は、6つの前記車輪を有することを特徴とする
請求項4に記載の走行体。
【請求項6】
前記車輪は、前後方向に4列に配置され、
最前列及び最後列を除く中間の列は、前記車輪が左右に配置されるとともに、前記車輪を駆動する駆動ユニットを有することを特徴とする
請求項5に記載の走行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走行体に接続され車輪を支持する走行ユニット及び複数の車輪を有する走行体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行体に接続され車輪を支持する走行ユニット及び複数の車輪を有する走行体は周知である。
このような周知の走行体は、凸部や障害物を有した面を走行する際、凸部や障害物が車輪の直径に対して大きい場合、乗り越えが困難となり走行不能となることがあり、また、乗り越える際に複数の車輪がそれぞれ異なる高さとなることから走行体全体の姿勢が大きく変化することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で公知の機構では、車輪の進行方向前方に揺動可能なアシスト板を配置し、アシスト板が揺動することで走行体(移動器具)が車輪とともに持ち上がり、アシスト板が車輪の半径より大きな揺動半径を持つことで、車輪のみで凸部や障害物(段差)を乗り越えるよりも円滑に乗り越えるように構成されている。
しかしながら、車輪は凸部や障害物(段差)の高さ分だけ上方に移動し走行体(移動器具)も車輪とともに持ち上がることから、高さの異なる面への段差ではなく平坦な面の一部にだけ凸部や障害物がある場合でも、本来必要のない走行体全体の姿勢の変化を伴うとともに、走行方向の駆動抵抗の増大も多少は軽減されるものの必ず生じるという問題があった。
【0005】
本発明は、凸部や障害物の乗り越えが容易で、走行抵抗の増大を抑制し円滑に凸部や障害物を乗り越えることが可能であり、走行体全体の姿勢の変化も抑制可能な走行ユニット及び走行体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の走行ユニットは、走行体に接続され車輪を支持する走行ユニットであって、前記走行ユニットは、支持本体と、前記車輪を支持本体に対し上下方向に移動可能に軸支する車輪支持部材と、前記車輪の進行方向前方に配置される障害物検知部材と、前記障害物検知部材と連動して前記車輪の上下方向への移動の許容・阻止を選択する上下動制御機構とを有し、前記車輪支持部材は、前記支持本体に揺動可能に接続され、前記障害物検知部材は、前記車輪支持部材に揺動可能に接続され、前記上下動制御機構は、前記支持本体に設けられた係止部と、前記障害物検知部材の揺動と連動するロック部材とを有し、前記障害物検知部材が障害物に接触して前記車輪側に揺動した際に、前記係止部に係止したロック部材を解除方向に移動させて前記車輪支持部材の揺動を許容するように構成されることにより、前記課題を解決するものである。
また、本発明の走行体は、複数の車輪を有する走行体であって、前記車輪が前記走行ユニットにより支持されていることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明の走行ユニット及び請求項4に係る走行体によれば、障害物検知部材と連動して車輪の上下方向への移動の許容・阻止を選択する上下動制御機構とを有することにより、通常は車輪が上下方向に固定され凸部や障害物の乗り越えの際に車輪が上方に避けることが可能となり、凸部や障害物の乗り越えが容易になるとともに、車輪のみが上下動することで走行体全体の姿勢の変化を抑制することができる。
【0008】
また、障害物検知部材が障害物に接触して車輪側に揺動した際に、係止部に係止したロック部材を解除方向に移動させて車輪支持部材の揺動を許容するように構成されていることで、凸部や障害物からの小さな力の入力で車輪の退避動作が可能となり、さらに、走行抵抗の増大を抑制することが可能となる。
請求項2に記載の構成によれば、係止部が支持本体に設けられた扇形の係止板に設けられていることにより、車輪支持部材の揺動時にロック部材が扇形の係止板の円弧部に沿って移動するため、車輪支持部材の揺動中は障害物検知部材及びロック部材の車輪支持部材の位置関係が維持され、円滑に車輪支持部材が固定位置に復帰することができる。
請求項3に記載の構成によれば、車輪支持部材は、車輪を駆動する駆動ユニットを有することにより、自走する走行体の駆動走行ユニットとして使用することが可能となる。
また、駆動ユニットが車輪支持部材に支持されて車輪とともに揺動するため複雑な伝動機構を必要とせず走行ユニットを簡素化、小型化することができる。
【0009】
請求項5に記載の構成によれば、6つの車輪を有することにより、凸部や障害物の乗り越えの際の走行体全体の姿勢の変化をさらに抑制することができる。
請求項6に記載の構成によれば、車輪は、前後方向に4列に配置され、最前列及び最後列を除く中間の列は車輪が左右に配置されるとともに車輪を駆動する駆動ユニットを有することにより、走行方向と直行する方向に凸部や障害物あっても、走行体全体の姿勢の変化を抑制することができるとともに、すべての駆動ユニットを有する車輪が揺動して駆動力を失う可能性が極めて低く、安定して走行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である走行体の斜め上方から見た斜視図。
【
図2】本発明の一実施形態である走行体の斜め下方から見た斜視図。
【
図3】本発明の第1実施形態である走行ユニットの斜め前方から見た斜視図。
【
図4】本発明の第1実施形態である走行ユニットの斜め後方から見た斜視図。
【
図5】本発明の第1実施形態である走行ユニットの左側面図。
【
図6】本発明の第1実施形態である走行ユニットの正面図。
【
図7】本発明の第1実施形態である走行ユニットの右側面図。
【
図8】本発明の第1実施形態である走行ユニットの背面図。
【
図9】本発明の第1実施形態である走行ユニットの平面図。
【
図10】本発明の第1実施形態である走行ユニットの底面図。
【
図11】本発明の第2実施形態である走行ユニットの斜め前方から見た斜視図。
【
図12】本発明の第2実施形態である走行ユニットの斜め後方から見た斜視図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0011】
本発明の一実施形態に係る走行体100は、
図1、
図2に示すように、それぞれ車輪140を有する6つの走行ユニット102、103が走行体フレーム101に支持されている。
車輪140、140bは前後方向に4列に配置されており、最前列及び最後列の車輪140bは従動型の走行ユニット103に設けられ、中間の2列の車輪140は駆動型の走行ユニット102に設けられるとともに左右に配置されている。
なお、車体等を含む走行体全体の図示は省略している。
走行体フレーム101は様々な形状が使用可能であり、走行ユニット102、103の構成・配置も必要に応じて適宜設計可能である。
また、独立した走行体フレーム101を省略し、車体等を走行体フレームとして走行ユニット102、103が設けられてもよい。
【0012】
本発明の第1実施形態に係る走行ユニット102は、
図3乃至
図10に示すように、支持本体110と、車輪140を支持本体110に対し上下方向に移動可能に軸支する車輪支持部材120a-eと、車輪140の進行方向前方に配置される障害物検知部材と、障害物検知部材と連動して車輪140の上下方向への移動の許容・阻止を選択する上下動制御機構とを有している。
【0013】
車輪支持部材120a-eは、左右に設けられ前述の走行体フレーム101に固定される支持本体110に対しして支持部材揺動軸121を介して揺動可能に接続されて、障害物検知部材である接触アーム131は、車輪支持部材120a-eに検知部材揺動軸132を介して揺動可能に接続されている。
上下動制御機構は、支持本体110に固定された扇形の係止板111に設けられた係止部112と、接触アーム131の揺動と連動するロック部材133とを有し、接触アーム131が障害物に接触して車輪140側に揺動した際に、係止部112に係止したロック部材133を解除方向に移動させて車輪支持部材120q-eの揺動を許容するように構成されている。
【0014】
本実施形態では、車輪支持部材120a-eは、支持部材揺動軸121、検知部材揺動軸132及び車輪軸141と直行する方向に伸びる縦方向の車輪支持部材120a-cと、車輪支持部材120a、cを接続固定する横方向の車輪支持部材120d、eとで構成されている。
また、横方向の車輪支持部材120eには、駆動ユニット123が固定され、電動ギヤ124を介して車輪140を回転させるように構成されている。
【0015】
以上のように構成された走行ユニット102の動作について説明する。
通常の平坦面を走行する際には、
図3乃至
図10に示されるように、接触アーム131が車輪140の前方に最も離れた状態であり、ロック部材133が係止板111に設けられた係止部112に係合している。
この状態で、車輪支持部材120a-eが揺動しようとしても、ロック部材133は支持部材揺動軸121を中心とした円周方向に力を受けるため、係止部112によってロック部材133の移動が阻止され、車輪支持部材120a-eの揺動は阻止される。
【0016】
接触アーム131が凸部や障害物に接触しそのまま走行すると、接触アーム131が検知部材揺動軸132を軸に車輪140側に揺動する力を受ける。
この力により、ロック部材133もが検知部材揺動軸132を中心とする円周方向である係止部112から抜ける方向に移動する。
ロック部材133が完全に係止部112から抜けると、ロック部材133による車輪支持部材120a-eの揺動の阻止が解除され、接触アーム131、ロック部材133及び車輪支持部材120a-eが一体となって支持部材揺動軸121を中心として揺動し、車輪140が上方に移動して凸部や障害物を乗り越える。
この時、車輪140は支持本体110を持ち上げることなく自由に上昇することが可能となるため、走行体全体は他の車輪により姿勢を維持したまま走行することが可能となる。
【0017】
車輪140は凸部や障害物を乗り越えた後、支持部材揺動軸121を中心として揺動して元の平坦面まで下降し、ロック部材133が再び係止部112の位置まで移動して係止部112に進入し、車輪支持部材120a-eの揺動が阻止された状態に復帰する。
この復帰に際しては、ロック部材133は扇形の係止板110の円弧部に沿って移動するため、車輪支持部材120a-eの揺動中は接触アーム131、ロック部材133及び車輪支持部材120a-eの位置関係が大きく変化することなく、円滑に車輪支持部材120a-eが固定位置に復帰することができる。
なお、接触アーム131の構成や形状によって、ロック部材133が係止部112から抜ける方向に揺動し易い場合や、固定位置でロック部材133が係止部112に復帰しにくい場合は、弾性部材や錘等を適宜配置して接触アーム131が走行方向前方に揺動する方向にように付勢してもよい。
【0018】
本発明の第2実施形態に係る走行ユニット103は、
図11、
図12に示すように、駆動ユニットが設けられておらず、車輪支持部材120f-hは、支持部材揺動軸121、検知部材揺動軸132及び車輪軸141と直行する方向に伸びる縦方向の車輪支持部材120f、gと、車輪支持部材120f、gを接続固定する横方向の車輪支持部材120hとで構成されている。
また、車輪140bは、その円周上に車輪140bの円周の接線方向の回転軸を中心に回転可能な複数の接地ローラ142が配置されており、車輪140bを操舵することなく車輪140bの回転面と交差する方向に円滑に移動可能に構成されている。
その他の構成及び動作は、前述の第1実施形態と同様である。
【0019】
本発明の一実施形態に係る走行体100は、
図1、
図2に示すように、車輪140、140bは前後方向に4列に配置されており、最前列及び最後列の車輪140bは第2実施形態の走行ユニット103に設けられ、中間の2列の車輪140は第1実施形態の走行ユニット102に設けられるとともに左右に配置されている。
このように構成することで、4つの走行ユニット102の駆動速度を調整して走行方向を変更することが可能であり、その際に大きく曲線を描く最前列及び最後列の車輪140bが円周上に接地ローラ142が配置されていることで円滑に走行方向の変更が可能となる。
【0020】
また、走行方向と直行する方向に走行体100の幅以上の凸部や障害物があっても、同時に揺動する車輪は2つであり、残り4輪の車輪により走行体100の姿勢は維持され、姿勢の変化を抑制することができるとともに、すべての駆動ユニットを有する車輪140が同時に揺動して駆動力を失う可能性が極めて低く、安定して走行することが可能となる。
なお、走行ユニット102の車輪も円周上に接地ローラ142が配置されている車輪140bとしてもよく、大きく走行方向を変更する必要がない場合は、走行ユニット103の車輪も接地ローラ142を有さない車輪140としてもよい。
【0021】
以上、本発明の走行ユニットの実施形態を説明したが、これらに限定されるものではなく、走行ユニットは、支持本体と、車輪を支持本体に対し上下方向に移動可能に軸支する車輪支持部材と、車輪の進行方向前方に配置される障害物検知部材と、障害物検知部材と連動して車輪の上下方向への移動の許容・阻止を選択する上下動制御機構とを有するものであれば、いかなるものであってもよい。
例えば、上記実施形態では、車輪支持部材が支持本体に対して揺動するものであるが、上下方向あるいは斜め上下方向に直線的あるいは曲線的にスライドする構成であってもよい。
【0022】
障害物検知部材も上記実施形態では揺動する接触アームとしたが、走行方向にスライドするように設けてもよい。
上下動制御機構も上記実施形態では係止部に係止するロック部材を接触アームと一体に揺動するように設けたが、リンク機構等により動作を伝達するものであってもよく、係止部及びロック部材もいかなる形状であってもよい。
さらに、障害物検知部材と電気的に連動して上下動制御機構が作動するように構成されていてもよい。
また、本発明の走行体も、車輪が本発明の走行ユニットにより支持されるものであれば、全体の形状、車輪の数、車輪の配置はいかなるものであってもよく、本発明の走行ユニット以外の支持形態の車輪を含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0023】
100 ・・・ 走行体
101 ・・・ 走行体フレーム
102 ・・・ 走行ユニット(駆動型)
103 ・・・ 走行ユニット(従動型)
110 ・・・ 支持本体
111 ・・・ 係止板
112 ・・・ 係止部
120 ・・・ 車輪支持部材
121 ・・・ 支持部材揺動軸
123 ・・・ 駆動ユニット
124 ・・・ 伝達ギヤ
131 ・・・ 接触アーム
132 ・・・ 検知部材揺動軸
133 ・・・ ロック部材
140 ・・・ 車輪
141 ・・・ 車輪軸
142 ・・・ 接地ローラ