(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールを有効成分とするリナロール含有製品用香料組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 27/20 20160101AFI20240823BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20240823BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20240823BHJP
A23F 3/16 20060101ALN20240823BHJP
A23F 5/24 20060101ALN20240823BHJP
A23G 3/36 20060101ALN20240823BHJP
A23L 2/00 20060101ALN20240823BHJP
A23L 2/56 20060101ALN20240823BHJP
A23L 27/60 20160101ALN20240823BHJP
C12G 3/06 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
A23L27/20 G
A23L27/00 C
A23L27/20 D
C11B9/00 C
C11B9/00 W
A23F3/16
A23F5/24
A23G3/36
A23L2/00 B
A23L2/56
A23L27/60 A
C12G3/06
(21)【出願番号】P 2023197978
(22)【出願日】2023-11-22
【審査請求日】2023-11-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優理
(72)【発明者】
【氏名】馬場 良子
(72)【発明者】
【氏名】庄司 靖隆
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 賢二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠子
(72)【発明者】
【氏名】松尾 和輝
(72)【発明者】
【氏名】長沢 祐一
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/157153(WO,A1)
【文献】R. J. Cannon et al.,Journal of Agricultural and Food Chemistry ,2015年,63,pp.1915-1931,doi: 10.1021/jf505177r
【文献】6.検出器:分析計測機器(分析装置)島津製作所ホームページ,https://www.an.shimadzu.co.jp/service-support/technical-support/analysis-basics/gc/fundamentals/detector/index.html,検索日:2024/01/29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A23L
A61K
C11B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールを有効成分とするリナロール含有製品用香料組成物(ただし、レモンの皮のエキスそのものを除く)。
【請求項2】
2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールとリナロールとを含有することを特徴とする香料組成物(ただし、レモンの皮のエキスそのものを除く)。
【請求項3】
2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールを有効成分とするリナロール含有飲食品またはリナロール含有口腔用香料組成物。
【請求項4】
2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールとリナロールとを含有することを特徴とする飲食品または口腔用香料組成物。
【請求項5】
2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールのそれぞれの濃度が10ppb~10,000ppmである請求項1または2に記載の香料組成物。
【請求項6】
2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールのそれぞれの濃度が10ppb~10,000ppmである請求項3または4に記載の香料組成物。
【請求項7】
リナロールの含有量が0を超えて10%以下である請求項2または請求項2を引用する請求項5のいずれかに記載の香料組成物。
【請求項8】
リナロールの含有量が0を超えて10%以下である請求項4または請求項4を引用する請求項6のいずれかに記載の香料組成物。
【請求項9】
0を超えて100ppm以下のリナロールと2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールとを含有するリナロール含有飲食品またはリナロール含有口腔用製品。
【請求項10】
リナロール含有
飲食品であって、0を超えて100ppm以下のリナロールと2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールとを含有し、酸性を呈する飲食品であることを特徴とする、
前記リナロール含有飲食
品。
【請求項11】
2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールのそれぞれの濃度が10ppt~10ppmであることを特徴とする、請求項
9に記載のリナロール含有飲食品またはリナロール含有口腔用製品
、または請求項10に記載のリナロール含有飲食品。
【請求項12】
0を超えて100ppm以下のリナロールを含有するリナロール含有製品に、2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールをそれぞれの濃度が10ppt~10ppmになるように添加することを特徴とする、リナロール含有飲食品またはリナロール含有口腔用製品の製造方法。
【請求項13】
0を超えて100ppm以下のリナロールを含有するリナロール含有製品に、2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールをそれぞれの濃度が10ppt~10ppmになるように添加することを特徴とする、リナロール含有飲食品またはリナロール含有口腔用製品の知覚改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リナロールを含有する飲食品及び口腔用組成物、並びに、これら飲食品及び口腔用組成物用の香料組成物に関する。
より詳しくは、本発明に関する飲食品及び口腔用組成物、並びにこれらに使用する香料組成物は、2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテート(2-(5-Isopropyl-2-methyltetrahydrothiophen-2-yl)ethyl acetate;IMTTA)および/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノール(2-(5-Isopropyl-2-methyltetrahydrothiophen-2-yl)ethanol;IMTTE)またはIMTTAおよび/またはIMTTEとリナロールとを含有し、リナロールに起因する経時的な香味・香調変化が抑えられた飲食品及び口腔用組成物、および、香味変化を抑えるための香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リナロールはフローラルな香りを有する成分で、シトラス(オレンジ、グレープフルーツ、レモンなど)、アップル、ピーチ、グレープなどのフルーツ類や、クローブ、マジョラム、ミント(ぺパ―ミント、スペアミントなど)、ジンジャーなどのハーブ類、コーヒー、茶(緑茶、紅茶など)、チーズ、ビールなどの様々な飲食品に含まれ、それぞれの特徴的な香りを構成する重要な香気成分である。
しかし、このリナロールは光や熱により劣化、変質されやすく、劣化、変質されることで特徴的な香りが変調すること、それに伴って、リナロールを含有する製品の商品価値を減じてしまうという問題があった。
リナロールの劣化、変質に伴う問題に対処するために、各種の方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、グルコサミンの重合物であるキトサンを添加することでリナロールの熱、光による劣化を抑制する方法が記載されている。しかし、キトサンはカニなどの甲殻類のキチンを酵素分解した多糖類であるため、アレルギー反応を誘発する可能性があり、飲食品への使用に際して起源物質を明記するなどの注意が必要になる。
【0004】
特許文献2には、カフェインがリナロール含有飲料の光劣化により発生する異臭を抑制する方法が記載されている。しかし、カフェインを多量に使用するとカフェインの苦味が飲料の嗜好性を低下させるため、この技術はカフェインとリナロールが混在する茶風味飲料で有効であるが、汎用性に欠ける。
【0005】
特許文献3には、柑橘類由来のフラバノン類であるエリオシトリンが、直射日光下で14日間放置したリナロールの分解劣化抑制効果があることが記載されている。しかし、エリオシトリンは黄色色素であるため、場合によっては飲食品の製品特徴を損なうことがある。
【0006】
特許文献4には、ビールテイスト発酵飲料の保存中に生じる香味の劣化を防止又は緩和する目的でリナロールの含有量を特定の範囲に調整することが記載されている。しかし、リナロールは重要な香気成分であるため、最適な香味設計を実現するためにはリナロール濃度を特定の範囲に調整することができないこともある。
【0007】
このようにリナロールの劣化、変質による香味・香調変化の防止に関して多くの技術が提案されているにもかかわらず、改善の余地が残っており、また、汎用性のあるものでは
なく、より簡単で汎用性の高いリナロールの香味・香調の劣化抑制方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2020-156381号公報
【文献】特開2020-110055号公報
【文献】特開2001-061461号公報
【文献】特開2015-139429号公報
【文献】国際特許2015/157153号
【非特許文献】
【0009】
【文献】J. Agric. Food Chem.:63, 1915-1931(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、リナロールを含有する飲食品及び口腔用組成物、およびこれら飲食品及び口腔用組成物に使用する香料組成物に関する。
リナロールは、3級アルコールという構造上、脱水反応や異性化反応を起こしやすい。そのため、特に酸性を呈するリナロールを含有する飲食品及び口腔用組成物の場合には、酸性条件下での脱水、異性化による、その香味・香調の変化が問題となることが指摘されている。
本発明は、リナロールの劣化、変質に起因する好ましくない劣化臭(オフフレーバー)の知覚を抑制し、リナロールの香り全体のバランスが良好に保持された飲食品および口腔用組成物、並びに、これら飲食品及び口腔用組成物に最適な香料組成物を提供するものである。特に、酸性条件下でもリナロールの劣化、変質に起因する香味・香調の低下が有意に改善されたリナロール含有飲食品を提供する。
なお、リナロールの変化(劣化、変質)の要因として、前記したように、熱履歴や光(紫外線)照射による影響が大きいと考えられるが、それらによりリナロールがどのような変化(劣化、変質)を引き起こすかは明確になっていない。
したがって、リナロールの変化を抑制する効果を検証する方法は試行錯誤によることが多く、日々、より有効な抑制方法、抑制剤が研究開発されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、IMTTAおよび/またはIMTTEが、リナロールを含有する飲食品及び口腔用組成物のオフフレーバーの知覚を抑制することを見出し、本発明に至った。
本発明に従えば、リナロール含有製品の保管時の味・香りの変質を抑制し、香り全体のバランスを良好に保持することができる。
また、リナロール含有製品にIMTTAおよび/またはIMTTEを配合しても、リナロール含有製品が有する本来の香味・香調を損なうことなく、リナロール含有製品のフローラル感、および柑橘系果実の本物感を向上させることができる。
【0012】
より具体的には、本発明は以下の点を特徴とする。
[1]2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールを有効成分とするリナロール含有製品用香料組成物。
[2]2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールとリナロールとを含有することを特徴とする香料組成物。
[3]2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチル
アセテートおよび2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールのそれぞれの濃度が10ppb~10,000ppmである上記[1]または[2]に記載の香料組成物。
[4]リナロールの含有量が0を超えて10%以下である上記[2]または上記[2]を引用する上記[3]のいずれかに記載の香料組成物。
[5]0を超えて100ppm以下のリナロールと2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールとを含有するリナロール含有製品。
[6]リナロール含有製品が、酸性を呈する飲食品であることを特徴とする、上記[5]に記載のリナロール含有製品。
[7]2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールのそれぞれの濃度が10ppt~10ppmであることを特徴とする、上記[5]または[6]に記載のリナロール含有製品。
[8]0を超えて100ppm以下のリナロールを含有するリナロール含有製品に、2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールをそれぞれの濃度が10ppt~10ppmになるように添加することを特徴とする、リナロール含有製品の製造方法。
[9]0を超えて100ppm以下のリナロールを含有するリナロール含有製品に、2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールをそれぞれの濃度が10ppt~10ppmになるように添加することを特徴とする、リナロール含有製品の知覚改善方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リナロールを含有する飲食品及び口腔用組成物の好ましくないオフフレーバーの知覚を抑制することができる。また、リナロール含有製品のフローラル感、および柑橘系果実の本物感を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のリナロール含有製品、香料製品および関連する方法について、特に断りがない限り、いずれも質量単位で、%は質量%、ppmは質量ppmを意味する。
【0015】
本発明の飲食品および口腔用組成物は、特定量のIMTTAおよび/またはIMTTEとリナロールとを含有する。さらに、IMTTAおよび/またはIMTTEを含有する香料組成物は、リナロールを含有する飲食品や口腔用組成物に添加されるために用いることができる。
【0016】
(リナロール)
本発明に係る飲食品や口腔用組成物、並びに、これら飲食品及び口腔用組成物用の香料組成物は、リナロールを含有する。
リナロールはスズランを想起させる芳香を有する無色の液体で、リンゴ、柑橘果実果皮、柑橘果汁、ベリー類、グレープ類、豆類、トマト、シナモン、クローブ、ジンジャー、ホップ、ミント、ペッパー、チーズ、バター、ミルク、茶、オリーブなど280種類以上の天然精油に存在することが知られている。また、香料素材としても各種飲料、菓子、調理食品等に幅広く用いられている。
リナロールには2種類の光学異性体が存在するが、本発明において使用されるリナロールはいずれの構造であってもよく、一の異性体のみが存在していても、また、両方の光学
異性体が存在していてもよい。本発明の飲料におけるリナロールの濃度は、それらの光学異性体の総量を表す。
【0017】
本発明の飲料に含有されるリナロールの由来は限定されず、植物などの天然原料に由来するものでもよいし、合成品であってもよい。例えば、リナロールは、柑橘系果実の他に、アップル、ピーチ、グレープ、コーヒー、茶、アニス、スターアニス、カモミール、カルダモン、キャラウェイ、クローブ、コリアンダー、ジンジャー、タイム、ペッパー、フェンネル、ホップ、ミント、ローズマリーなどのスパイスやハーブに広く存在する。
【0018】
(IMTTA)
本発明に係る飲食品や口腔用組成物、並びに、これら飲食品及び口腔用組成物用の香料組成物は、以下の式1で示されるIMTTAを含有する。
IMTTAには複数の異性体が存在するが、本発明において使用されるIMTTAはいずれの構造であってもよく、一の異性体のみが存在していても、また、複数あるいはすべての異性体が存在していてもよい。本発明のIMMTAの濃度は、それらの異性体の総量を表す。
【化1】
IMTTAは、レモン果皮に存在することは知られているが、レモン果皮中の含有濃度は「トレース」、すなわち、0.00%以下で検出される程度の極めて微量でしかない(非特許文献1)。
IMTTAは、柑橘様、トロピカル、スイートの香味を有している。
なお、本発明の実施例で用いたIMTTAは、特許文献5の記載に準じて調整したものを使用した。
【0019】
(IMTTE)
本発明に係る飲食品や口腔用組成物、並びに、これら飲食品及び口腔用組成物用の香料組成物は、以下の式2で示されるIMTTEを含有する。
IMTTEには複数の異性体が存在するが、本発明において使用されるIMTTEはいずれの構造であってもよく、一の異性体のみが存在していても、また、複数あるいはすべての異性体が存在していてもよい。本発明のIMMTEの濃度は、それらの異性体の総量を表す。
【化2】
IMTTEも、IMTTAと同様に、レモン果皮に存在することは知られているが、レモン果皮中の含有濃度は「トレース」、すなわち、0.00%以下で検出される程度の極めて微量でしかない(非特許文献1)。
IMTTEは、ライム、トロピカル、グリーンの香味を有している。
本発明の実施例で用いたIMTTEも、特許文献5の記載に準じて調整したものを使用した。
【0020】
本発明のリナロール含有製品用香料組成物は、極めて汎用性が高く、多くの食品で利用することができる。食品として、たとえば、飲料類、冷菓類、デザート類、菓子類、調味料類等を挙げることができる
【0021】
飲料類としては、例えば果汁飲料、ハチミツ飲料、野菜飲料等の果実飲料類、コーラ飲料、炭酸飲料、果汁入炭酸飲料、スポーツドリンク、豆乳、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養、滋養ドリンク等の飲料類、乳類入炭酸飲料等の炭酸飲料類、乳酸菌飲料等の乳飲料類、緑茶、レモンティー、ハーブティー、コーヒー飲料等の嗜好飲料類、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒等のアルコール飲料類を挙げることができる。
冷菓類としては、例えばアイスキャンディー、シャーベット、フローズンヨーグルト、アイスクリーム等を挙げることができる。
デザート類としては、例えばゼリー、ヨーグルト、ババロア、ムース、プリン、デザートベース、ケーキ類、パイ類、和風デザート、しるこ・ぜんざい、ういろう等を挙げることができる。
菓子類としては、例えばキャンディー、ドロップ、ヌガー、錠菓等の飴類、チューインガム、ドーナッツ、ワッフル、ウエハース、クラッカー、サブレ、スナック菓子、ビスケット、クッキー、キャラメル、マシュマロ、チョコレート、中華菓子(げっぺい・中華風クッキー・中華まん等)、生菓子、ベーカリー、和風菓子(かりんとう、甘納豆等)等を挙げることができる。
調味料類としては、例えばサラダドレッシング、タルタルソース等の半固体状ドレッシング類、サウザンアイランドドレッシング等の乳化液状ドレッシング類、フレンチドレッシング、イタリアンドレッシング等の分離液状ドレッシング類、ポン酢、ポン酢醤油、冷やし中華のたれ、そばつゆのたれ、焼き肉のたれ等、その他、バター、マーガリン、ジャムなどのスプレッド製品、畜肉、魚肉練製品、調理済食品、缶詰、レトルトパウチ製品、冷凍食品、麺製品などを挙げることができる。
いずれにおいても、製品は酸性を呈していてもよい。
【0022】
本発明のリナロール含有製品用香料組成物は、口腔用組成物でも利用することができる。本発明のリナロール含有製品用香料組成物が配合される口腔用組成物は、格別限定されないが、例えば練歯磨、潤製歯磨、粉歯磨、液状歯磨などの歯磨類、マウスウォッシュなどの洗口剤、トローチなどの口中清涼剤、うがい用などを例示することができる。
これらの製品も、酸性を呈していてもよい。
【0023】
リナロール含有製品で感じる知覚には、リナロールが本来有するフローラルな香りと、リナロールの劣化に伴う劣化臭(オフフレーバー)とがある。
本発明のリナロール含有製品の知覚改善とは、リナロールの劣化、変質に起因する劣化臭(オフフレーバー)の知覚を抑制し、リナロールが本来有する香りを知覚できることを意味している。
なお、IMTTAおよび/またはIMTTEを使用することによって、リナロールの劣化臭の知覚が抑制されるメカニズムは不明だが、劣化臭の原因物質の低減や生成の抑制、劣化臭のマスキングによるものと考えられる。
【0024】
リナノール含有製品におけるIMTTAおよび/またはIMTTEのそれぞれの濃度は、10ppt~10ppmであることができる。また、100ppt~1ppmであることもできるし、100ppt~100ppbであることもできる。
また、リナノール含有製品におけるリナノールの濃度は、特に限定されるものではない。たとえば、100ppm以下であることができる。
【0025】
香料組成物の観点からは、香料組成物におけるIMTTA、IMTTEのそれぞれ濃度は、10ppb~10000ppmであることが好ましい。また、100ppb~10000ppmであることがより好ましく、100ppb~5000ppmであることがさらに好ましい。
また、リナノール含有香料組成物中のリナノールの濃度は、特に限定されるものではない。しかしながら、10%以下であることが好ましい。リナノール含有製品中のリナノールの濃度は、1%以下であることもできるし、また、100ppm以下であることもできる。
【0026】
本発明の香料組成物は、各種食品や口腔用組成物などの最終製品に所望の濃度で配合することができる。たとえば、1%となるように配合することもできるし、また、0.5%、0.1%あるいは0.05%となるように配合することもできる。
【0027】
リナノール含有製品は、酸性を呈する飲食品であることができる。
本発明における酸性とはpHが弱酸性のpH6.0以下をいい、pH5.0以下が好ましく、pH4.0がさらに好ましく、pH3.5以下が特に好ましい。
【実施例】
【0028】
以下に実施例、調製例を示すが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0029】
<1> 保管中に発生する異味異臭の抑制効果
[試験例1] レモン風味の清涼飲料(飲料中のリナロール濃度:100ppm)
飲料中のリナロール濃度が100ppmになるように表1の処方でレモン風味酸性飲料(pH3.5)を作成した。
表2の量になるようIMTTA、IMTTEを加えた後、スチール製の缶容器に充填し、70℃で10分間殺菌処理を行った。それらを、40℃7日間の保管(常温で半年間保管に相当)を行ったのちに、IMTTA、IMTTEのいずれも無添加の試料をコントロールとして、習熟した11名のパネルによりIMTTA、IMTTEの添加効果を評価した。
異味異臭の評価基準は、下記に記載したとおりである。11名のパネリストの評価結果の平均値を異味異臭の評価として表に記載した。
【0030】
【0031】
【0032】
上記表2から明らかなように、レモン風味の清涼飲料水にIMTTAまたはIMTTEを10ppt~10ppm、好ましくは100ppt~1ppm、より好ましくは100ppt~100ppbになるように添加することにより、保管に伴う異味異臭を感じず、さらに自然なレモンの果汁・果皮感を付与できる効果がみられた。また、IMTTAとIMTTEを併用することで、それぞれを単独で添加するよりも高い効果が得られた。
【0033】
[試験例2] パイナップル風味の清涼飲料(飲料中のリナロール濃度:1ppb)
飲料中のリナロール濃度が1ppbになるように表3の処方でパイナップル風味の飲料(pH3.5)を作成した。
表4の量になるようIMTTA、IMTTEを加えた後、スチール製の缶容器に充填し
、70℃で10分間殺菌処理を行った。それらを、40℃7日間の保管(常温で半年間保管)を行ったのちに、IMTTA、IMTTEのいずれも無添加の試料をコントロールとして、習熟した11名のパネルによりIMTTA、IMTTEの添加効果を評価した。評価手法は、試験例1と同じである。
【0034】
【0035】
【0036】
上記表4から明らかなように、パイナップル風味の清涼飲料水にIMTTAまたはIMTTEを10ppt~10ppm、好ましくは100ppt~1ppm、より好ましくは100ppt~100ppbになるように添加することにより、保存に伴う異味異臭を感じず、さらに自然なパイナップル感を付与できる効果がみられた。また、IMTTAとI
MTTEを併用することで、それぞれを単独で添加するよりも高い効果が得られた。
【0037】
飲料中のリナロール濃度を100ppb、10ppmに変えて試験例1と2と同様の試験を行っても、IMTTAとIMTTEによる異味異臭の抑制効果が確認できた。
【0038】
<2>光による異味異臭の発生抑制効果
[試験例3] レモン風味の清涼飲料(飲料中のリナロール濃度:100ppm)
試験例1で作成したものと同じ、飲料中のリナロール濃度が100ppmになるように調製したレモン風味酸性飲料に、表5の量になるようIMTTA、IMTTEを加えた。その後、ペットボトルに充填し、10℃で15,000luxの光を10日間照射した。それらを、IMTTA、IMTTEのいずれも無添加の試料をコントロールとして、IMTTA、MTTEの添加効果を評価した。
評価は習熟した11名のパネルによりIMTTA、IMTTEの添加効果を評価した。評価手法は、試験例1と同じである。
【0039】
【0040】
上記表5から明らかなように、レモン風味の清涼飲料にIMTTAまたはIMTTEを10ppt~10ppm、好ましくは100ppt~1ppm、より好ましくは100p
pt~100ppbになるように添加することにより、光暴露による異味異臭を感じず、さらに自然なレモンの果汁・果皮感を付与できる効果がみられた。また、IMTTAとIMTTEを併用することで、それぞれを単独で添加するよりも高い効果が得られた。
【0041】
[試験例4] パイナップル風味の清涼飲料(飲料中のリナロール濃度:1ppb)
試験例2で作成したものと同じ、飲料中のリナロール濃度が1ppbになるように調製したパイナップル風味の酸性飲料に、下表6の量になるようIMTTA、IMTTEを加えた後、ペットボトルに充填し、10℃で15,000luxの光を10日間照射した。それらを、IMTTA、IMTTEのいずれも無添加の試料をコントロールとして、IMTTA、IMTTEの添加効果を評価した。
評価は習熟した11名のパネルによりIMTTA、IMTTEの添加効果を評価した。評価手法は、試験例1と同じである。
【0042】
【0043】
上記表6から明らかなように、パイナップル風味の清涼飲料にIMTTAまたはIMTTEを10ppt~10ppm、好ましくは100ppt~1ppm、より好ましくは1
00ppt~100ppbになるように添加することにより、光暴露による異味異臭を感じず、さらに自然なパイナップル感を付与できる効果がみられた。また、IMTTAとIMTTEを併用することで、それぞれを単独で添加するよりも高い効果が得られた。
【0044】
飲料中のリナロール濃度を100ppb、10ppmに変えて試験例3と4と同様の試験を行っても、IMTTAとIMTTEによる異味異臭の抑制効果が確認できた。
【0045】
<3>香料組成物の効果
リナロールとIMTTAおよびIMTTEの濃度が処方例1~18になるように、エタノール溶媒に各成分を配合した香料組成物を調整した。
【0046】
【0047】
これらの香料組成物を、市販の柑橘系清涼飲料水(リナロール含量800ppb)、柑橘系炭酸飲料(同500ppb)、柑橘系炭酸アルコール飲料(同1800ppb)に、それぞれ0.08%になるように添加し、官能評価を行った。
いずれの香料組成物を添加しても、添加された柑橘系清涼飲料水、柑橘系炭酸飲料、柑橘系炭酸アルコール飲料が有するフローラル感や柑橘系果実の本物感を損なうことなく、フローラル感、および柑橘系果実の本物感が向上することが確認できた。
香料組成物中のリナロール濃度が1ppm~10%の範囲において、IMTTAまたはIMTTEを10ppb~10000ppm、好ましくは100ppb~10000ppm、より好ましくは100ppb~5000ppmになるように配合することにより、最終製品において、上記の香気付与効果を確認できた。
【0048】
<4> 各種香料組成物の調製
リナロールを含有する各種香料組成物(小川香料社製)に、IMTTA、IMTTEを有効成分として加え、表8の処方例21~45の本発明の各種香料組成物を調製した。それぞれの成分の濃度は、表8に記載のとおりである。
【0049】
【0050】
<5> 各種飲食品に対する効果
表8に記載の香料組成物を加えて調整した調製例5-1~5-8の飲食品を調整し、本発明の効果を検証した。比較対照として、表8に記載の香料組成物からIMTTAおよびIMTTEだけを除いた香料組成物を加えて同様に調製した各種飲食品を用いた。
【0051】
〔調製例5-1〕アルコール飲料
ホワイトリカー(アルコール35度)200g、グラニュー糖25g、クエン酸0.6g、クエン酸ナトリウム適量、水70g、表9に記載の通り処方例21~31の香料組成物各1gを混合した後、合計が1000gとなるよう炭酸水を加え、65℃×10分間殺菌しアルコール飲料(pH3.0)を調製した。
【0052】
【0053】
官能評価の結果、比較対照に比べ、柑橘系果実の本物感と嗜好性が向上することを確認できた。
【0054】
〔調製例5-2〕炭酸飲料
果糖ぶどう糖液糖135g、クエン酸1.0g、リンゴ酸0.8g、クエン酸ナトリウム適量、ビタミンC0.5g、表10に記載の通り処方例21~31の香料組成物各1gを混合した後、合計が1000gとなるよう炭酸水を加え、炭酸飲料(pH2.6)を調製した。
【0055】
【0056】
官能評価の結果、比較対象に比べ、柑橘系果実の本物感と嗜好性が向上することを確認した。
【0057】
〔調製例5-3〕ノンオイルドレッシング
表11の処方に記載の原料のうち、増粘剤(キサンタンガム)と99%エタノール以外の原料を混合して、ハンドブレンダー(バーミックス社製で30秒間攪拌した。その後、99%エタノールに分散させた増粘剤(キサンタンガム)を添加し、処方例26、または同28、または同31の香料組成物を加え、前記ハンドブレンダーで1分間攪拌した。得られた混合物を容器に充填し、70℃の湯浴中で10分間加熱殺菌し、ノンオイルドレッシングを調製した(処方例26、28,31以外の配合原料由来のリナロール濃度は1ppm)。
【0058】
【0059】
【0060】
官能評価の結果、比較対象に比べ各種柑橘の本物らしさと、嗜好性が向上することを確認した。
【0061】
〔調製例5-4〕グミ
グラニュー糖25g、水飴40g、ソルビトール10g、水10gを計り取り、Bx80まで炊き上げた。これに、別の容器で水12gに溶解させておいたゼラチン8gを加えた。ここにクエン酸50%水溶液2gと表に記載の通り処方例32~39の香料組成物1gを手早く加え均一にした後、スターチモールドに流し込み一晩静置しグミを作成した。
【0062】
【0063】
官能評価の結果、比較対象に比べ、各フルーツの本物らしさと嗜好性が向上することを確認した。
【0064】
〔調製例5-5〕ブラックコーヒー
粉砕したコーヒー豆を10倍量の湯(90~95℃)でドリップしてコーヒー抽出液を得,イオン交換水を加えてBx1.3に調整した(リナロール含量10ppb)。その後、処方例40または同41の香料組成物をそれぞれ0.1%になるように加え121℃×10分間殺菌し、調製例5-5-1、5-5-2のブラックコーヒーを得た。
【0065】
【0066】
官能評価の結果、比較対象に比べ、コーヒーの本物らしい風味と嗜好性が向上することを確認した。
【0067】
〔調製例5-6〕抹茶(乳飲料)
市販の抹茶ラテ飲料(リナロール含量:100ppb)に処方例42のグリーンティーフレーバーを0.1%になるように加え、調製例5-6の抹茶ラテ飲料を調製した。
官能評価の結果、比較対象に比べ、抹茶らしい呈味の厚み、茶葉の渋みが増し、嗜好性が向上することを確認した。
【0068】
〔調製例5-7〕紅茶
茶葉7.5gに250gの湯 (70℃)をそそぎ、5分間抽出し、茶葉を濾別し粗抽出液を得、20℃まで冷却した。アスコルビン酸ナトリウム0.5g、重曹0.03gを
加えたのちイオン交換水を加え総量1000gとした(リナロール含量:20ppb)。処方例43のブラックティーフレーバーを1g添加し、121℃にて10分間殺菌し、調製例5-7の紅茶飲料を調製した。
【0069】
官能評価の結果、比較対象に比べ、紅茶らしいトップの華やかな風味と茶葉を想起させる渋みが増し、嗜好性が向上することを確認した。
【0070】
〔調製例5-8〕ノンアルコールビール
市販のノンアルコールビール飲料(リナロール含量:100ppb)に処方例44または処方例45の香料組成物を0.1%になるように添加し、ノンアルコールビールを調製した。
【0071】
【0072】
官能評価の結果、比較対象に比べ、ビールの風味と嗜好性が向上することを確認した。
【0073】
<6>口腔用組成物に対する効果
市販の柑橘風味の口腔組成物に処方例34のアップル風味の香料を0.1%になるように配合し、口腔用組成物を調整した。
官能評価の結果、口腔組成物のフレッシュ感がアップすることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、リナロールを含有する飲食品や口腔用組成物の、リナロールの劣化した香味・香調の知覚を抑制し、リナロール本来の香味・香調に影響を及ぼさずに、逆にリナロール本来の香味・香調を増強することができ、リナロール含有製品の果実の本物感、フレッシュ感、嗜好性を向上させ、かつ、優れた品質を長期間維持することができるため、産業上の貢献が大きく、有用な技術である。
【要約】
【課題】 香気成分であるリナロールは、光や熱により変質されやすく、変質されることでその特徴的な香気が変調する問題があった。
【解決手段】 2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エチルアセテートおよび/または2-(5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロチオフェン-2-イル)エタノールの使用により、リナロール含有製品が有する本来の香味・香調に影響を及ぼすことなく、リナロールの変質に起因する香気変調を抑えることができる。
【選択図】なし