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特許7542717回転子構造、モーター及び回転子加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】回転子構造、モーター及び回転子加工方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 19/14 20060101AFI20240823BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H02K19/14 A
H02K1/22 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023503213
(86)(22)【出願日】2021-07-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-08
(86)【国際出願番号】 CN2021107838
(87)【国際公開番号】W WO2022127110
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】202011503752.1
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512306405
【氏名又は名称】グリー エレクトリック アプライアンシーズ インク オブ ズーハイ
【氏名又は名称原語表記】GREE ELECTRIC APPLIANCES, INC. OF ZHUHAI
【住所又は居所原語表記】Qianshan Jinji West Road,Zhuhai, Guangdong, 519070, P.R. CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】胡 余生
(72)【発明者】
【氏名】陳 彬
(72)【発明者】
【氏名】肖 勇
(72)【発明者】
【氏名】史 進飛
(72)【発明者】
【氏名】李 霞
(72)【発明者】
【氏名】張 志東
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-163645(JP,A)
【文献】特表2015-513297(JP,A)
【文献】特開2010-022195(JP,A)
【文献】特表2016-507207(JP,A)
【文献】特開2003-289656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 19/14
H02K 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転子構造の軸方向に順次積層される複数の回転子シート(100)であって、各前記回転子シート(100)には、軸孔(20)、第1スリット溝(111)、及び前記第1スリット溝(111)の両端に位置する第1充填溝(121)が設けられ、前記第1スリット溝(111)は前記回転子構造の直軸(3)の方向に沿って延伸し、前記軸孔(20)の対向する両側に位置するスリット溝セグメント(1110)を備える複数の回転子シート(100)と、
前記複数の回転子シート(100)の軸孔(20)を貫通する回転軸と、を備える回転子構造であって、
前記第1スリット溝(111)、前記第1充填溝(121)及び前記回転軸は第1磁気バリア層(101)を形成し、
前記第1磁気バリア層(101)の対向する両側にはいずれも1組の第2磁気バリア層(102)が設けられ、各組の前記第2磁気バリア層(102)には前記回転子構造の横軸(4)の方向に沿って配置される複数の前記第2磁気バリア層(102)が含まれ、前記第2磁気バリア層(102)は第2スリット溝(112)と、前記第2スリット溝(112)の両端に設けられる第2充填溝(122)とを備え、
各前記第2スリット溝(112)の幅は前記横軸(4)から前記第2スリット溝(112)の両端への方向において徐々に増加する、ことを特徴とする回転子構造。
【請求項2】
前記回転子構造は対をなして設けられる2つの回転子磁極(10)を備え、及び/又は
前記回転軸は非磁性材料で製造され、及び/又は
前記回転軸の外周面は円筒状であるか、又は前記回転軸の外周面は部分的な円筒面を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の回転子構造。
【請求項3】
前記スリット溝セグメント(1110)と前記軸孔(20)との最小距離L1の値の範囲はσ≦L1≦5σであり、及び/又は
前記スリット溝セグメント(1110)とそれに隣接する前記第1充填溝(121)との最小距離L2の値の範囲は0.8σ≦L2≦2σ、又はL2=0であり、
σは前記回転子構造で形成されたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅である、ことを特徴とする請求項1に記載の回転子構造。
【請求項4】
前記スリット溝セグメント(1110)と前記第1充填溝(121)内に同じ材料が充填されるか、又は
前記スリット溝セグメント(1110)は空気溝である、ことを特徴とする請求項1に記載の回転子構造。
【請求項5】
前記スリット溝セグメント(1110)は矩形であり、及び/又は
前記スリット溝セグメント(1110)の最小幅h1の値の範囲は0.9h2≦h1≦1.1h2であり、h2は該スリット溝セグメント(1110)に隣接する第1充填溝(121)の幅である、ことを特徴とする請求項1に記載の回転子構造。
【請求項6】
前記スリット溝セグメント(1110)の最小幅h1の値の範囲は、
【数7】
であり、L6は各組の前記第2磁気バリア層(102)のうち前記直軸(3)に最も近い第2磁気バリア層(102)の第2スリット溝(112)と前記直軸(3)との前記横軸(4)の方向に沿った最小垂直距離であり、及び/又は
各組の前記第2磁気バリア層(102)のうち前記直軸(3)に最も近い第2磁気バリア層(102)の第2スリット溝(112)と前記第1スリット溝(111)との前記横軸(4)の方向に沿った最小距離h4の値の範囲はL7≦h4≦1.65L7であり、L7は前記軸孔(20)と前記直軸(3)に最も近い第2磁気バリア層(102)との前記横軸(4)の方向に沿った最小距離である、ことを特徴とする請求項に記載の回転子構造。
【請求項7】
同一の前記第2磁気バリア層(102)において、前記第2スリット溝(112)と前記第2充填溝(122)は間隔をあけて設けられ、間隔幅L3の値の範囲は0.8σ≦L3≦2σであり、σは前記回転子構造で形成されたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅であり、及び/又は
同一の前記第2磁気バリア層(102)において、前記第2充填溝(122)の最大幅と前記第2スリット溝(112)の最大幅との差は前記第2スリット溝(112)の最大幅の10%以内である、ことを特徴とする請求項に記載の回転子構造。
【請求項8】
各組の前記第2磁気バリア層(102)において、隣接する2つの前記第2磁気バリア層(102)間の最小距離L5は1.8h3よりも大きく、h3は隣接する2つの前記第2磁気バリア層(102)のうち寸法が小さい第2磁気バリア層(102)の第2スリット溝(112)の前記横軸(4)の方向に沿った最小幅である、ことを特徴とする請求項に記載の回転子構造。
【請求項9】
各組の前記第2磁気バリア層(102)の前記第1磁気バリア層(101)から離れる側に第3磁気バリア層(103)が設けられ、前記第3磁気バリア層(103)は第3充填溝(123)から構成され、
前記第3充填溝(123)が前記回転子構造の中心軸線(2)に対して占める角度αの値の範囲は0.05τ≦α≦0.3τであり、τ=180°/pであり、pは前記回転子構造の極対数である、ことを特徴とする請求項に記載の回転子構造。
【請求項10】
各組の第2磁気バリア層(102)において、前記第2磁気バリア層(102)の第2スリット溝(112)の幅の和と前記軸孔(20)から前記回転子構造の外周面までの幅との比は0.3~0.5である、ことを特徴とする請求項に記載の回転子構造。
【請求項11】
前記第1充填溝(121)及び前記第2充填溝(122)はいずれも前記回転子構造の外周面に延伸しており、及び/又は
前記第1充填溝(121)及び前記第2充填溝(122)内にいずれもアルミニウム又はアルミニウム合金が充填される、ことを特徴とする請求項に記載の回転子構造。
【請求項12】
前記第1充填溝(121)及び前記第2充填溝(122)の溝口はその端部のそれに隣接する前記直軸(3)に近い側に位置するか、又は前記第1充填溝(121)及び前記第2充填溝(122)の溝口はその端部の中央部に位置し、
前記第1充填溝(121)及び前記第2充填溝(122)の端部のそれに近い前記直軸(3)から離れる側又は前記第1充填溝(121)及び前記第2充填溝(122)の端部の両側に斜め切り面(120)が設けられ、前記斜め切り面(120)は対応する前記第1充填溝(121)又は前記第2充填溝(122)の溝口縁に接続され、
前記斜め切り面(120)と前記第1充填溝(121)又は前記第2充填溝(122)の該斜め切り面(120)に接続される溝壁面との夾角はβであり、125°≦β≦165°であり、
前記第1充填溝(121)及び/又は前記第2充填溝(122)の溝口幅はL4であり、
0.5σ≦L4≦4σであり、σは前記回転子構造で形成されたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅であり、及び/又は
前記第1充填溝(121)及び/又は前記第2充填溝(122)の溝口幅L4は該第1充填溝(121)又は第2充填溝(122)の最大厚さwよりも小さく、
前記溝口幅L4の値の範囲は0.1w≦L4≦0.7wである、ことを特徴とする請求項に記載の回転子構造。
【請求項13】
固定子と、請求項1に記載の回転子構造と、を備える、ことを特徴とするモーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はモーターの分野に関し、具体的には、回転子構造、モーター及び回転子加工方法に関する。
【0002】
本開示は、出願番号が202011503752.1、出願日が2020年12月17日の中国出願をもとにその優先権を主張し、ここでは該中国出願の開示内容は全体として本開示に組み込まれている。
【背景技術】
【0003】
自己始動同期リラクタンスモーターは、同期リラクタンスモーターをもとに、非同期モーターの利点と組み合わせ、回転子バーで発生する非同期トルクによって自己始動を実現する。同期リラクタンスモーターと比較して、自己始動同期リラクタンスモーターは周波数変換器による駆動が不要になり、モーターシステムの損失が低減され、モーターの効率が向上する。非同期モーターと比較して、自己始動同期リラクタンスモーターは、定速動作を実現でき、回転子損失が低く、動作時の効率が高い。非同期始動永久磁石同期モーターと比較して、自己始動同期リラクタンスモーターは永久磁石材料を使用せず、モーターのコストが低く、永久磁石の消磁問題がない。
【0004】
発明者に知られている技術では、自己始動型同期誘導電動機のスリット部は直線形状であり、回転子の中心に軸孔があり、d軸回転子の内部空間が非常に大きく、その結果、回転子の空間利用率が低く、回転子部分の飽和度が高く、モーターの効率が低くなる。
【発明の概要】
【0005】
本開示の主な目的は、従来技術におけるモーターの効率が低い問題を解決するために、回転子構造、モーター及び回転子加工方法を提供することである。
【0006】
本開示の第1態様によれば、
回転子構造の軸方向に順次積層される複数の回転子シートであって、各回転子シートには、軸孔、第1スリット溝、及び第1スリット溝の両端に位置する第1充填溝が設けられ、第1スリット溝は回転子構造の直軸の方向に沿って延伸しており、軸孔の対向する両側に位置するスリット溝セグメントを備える複数の回転子シートと、
複数の回転子シートの軸孔を貫通する回転軸と、を備え、
第1スリット溝、第1充填溝及び回転軸は第1磁気バリア層を形成する、回転子構造を提供する。
【0007】
いくつかの実施例では、回転子構造は対をなして設けられる2つの回転子磁極を備え、及び/又は回転軸は非磁性材料で製造され、及び/又は回転軸の外周面は円筒状であるか、又は回転軸の外周面は部分的な円筒面を含む。
【0008】
いくつかの実施例では、スリット溝セグメントと軸孔との最小距離L1の値の範囲はσ≦L1≦5σであり、及び/又はスリット溝セグメントとそれに隣接する第1充填溝との最小距離L2の値の範囲は0.8σ≦L2≦2σ、又はL2=0であり、σは回転子構造で形成されたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅である。
【0009】
いくつかの実施例では、スリット溝セグメントと第1充填溝内に同じ材料が充填されるか、又はスリット溝セグメントは空気溝である。
【0010】
いくつかの実施例では、スリット溝セグメントは矩形であり、及び/又はスリット溝セグメントの最小幅h1の値の範囲は0.9h2≦h1≦1.1h2であり、h2は該スリット溝セグメントに隣接する第1充填溝の幅である。
【0011】
いくつかの実施例では、第1磁気バリア層の対向する両側にはいずれも1組の第2磁気バリア層が設けられ、各組の第2磁気バリア層には回転子構造の横軸の方向に沿って配置される複数の第2磁気バリア層が含まれ、第2磁気バリア層は第2スリット溝と、第2スリット溝の両端に設けられる第2充填溝とを備える。
【0012】
いくつかの実施例では、スリット溝セグメントの最小幅h1の値の範囲は
【数1】
であり、L6は各組の第2磁気バリア層のうち直軸に最も近い第2磁気バリア層の第2スリット溝と直軸との横軸の方向に沿った最小垂直距離であり、及び/又は各組の第2磁気バリア層のうち直軸に最も近い第2磁気バリア層の第2スリット溝と第1スリット溝との横軸の方向に沿った最小距離h4の値の範囲はL7≦h4≦1.65L7であり、L7は軸孔と直軸に最も近い第2磁気バリア層との横軸の方向に沿った最小距離である。
【0013】
いくつかの実施例では、同一の第2磁気バリア層において、第2スリット溝と第2充填溝は間隔をあけて設けられ、間隔幅L3の値の範囲は0.8σ≦L3≦2σであり、σは回転子構造で形成されたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅であり、及び/又は同一の第2磁気バリア層において、第2充填溝の最大幅と第2スリット溝の最大幅との差は第2スリット溝の最大幅の10%以内である。
【0014】
いくつかの実施例では、各組の第2磁気バリア層において、隣接する2つの第2磁気バリア層間の最小距離L5は1.8h3よりも大きく、h3は隣接する2つの第2磁気バリア層のうち寸法が小さい第2磁気バリア層の第2スリット溝の横軸の方向に沿った最小幅である。
【0015】
いくつかの実施例では、各第2スリット溝の幅は横軸から第2スリット溝の両端への方向において徐々に増加する。
【0016】
いくつかの実施例では、各組の第2磁気バリア層の第1磁気バリア層から離れる側に第3磁気バリア層が設けられ、第3磁気バリア層は第3充填溝から構成される。
【0017】
いくつかの実施例では、第3充填溝が回転子構造の中心軸線に対して占める角度αの値の範囲は0.05τ≦α≦0.3τであり、τ=180°/pであり、pは回転子構造の極対数である。
【0018】
いくつかの実施例では、各組の第2磁気バリア層において、第2磁気バリア層の第2スリット溝の幅の和と軸孔から回転子構造の外周面までの幅との比は0.3~0.5である。
【0019】
いくつかの実施例では、第1充填溝及び第2充填溝はいずれも回転子構造の外周面に延伸しており、及び/又は第1充填溝及び第2充填溝内にいずれもアルミニウム又はアルミニウム合金が充填される。
【0020】
いくつかの実施例では、第1充填溝及び第2充填溝の溝口はその端部のそれに隣接する直軸に近い側に位置するか、又は第1充填溝及び第2充填溝の溝口はその端部の中央部に位置する。
【0021】
いくつかの実施例では、第1充填溝及び第2充填溝の端部のそれに近い直軸から離れる側又は第1充填溝及び第2充填溝の端部の両側に斜め切り面が設けられ、斜め切り面は対応する第1充填溝又は第2充填溝の溝口縁に接続される。
【0022】
いくつかの実施例では、斜め切り面と第1充填溝又は第2充填溝の該斜め切り面に接続される溝壁面との夾角はβであり、125°≦β≦165°である。
【0023】
いくつかの実施例では、第1充填溝及び/又は第2充填溝の溝口幅はL4であり、0.5σ≦L4≦4σであり、σは回転子構造で形成されたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅であり、及び/又は第1充填溝及び/又は第2充填溝の溝口幅L4は該第1充填溝又は第2充填溝の最大厚さwよりも小さい。
【0024】
いくつかの実施例では、第1充填溝及び/又は第2充填溝の溝口幅L4の値の範囲は0.1w≦L4≦0.7wであり、wは該第1充填溝又は第2充填溝の最大厚さである。
【0025】
いくつかの実施例では、同一の第2磁気バリア層において、回転子シートの端面における該第2磁気バリア層の第2スリット溝及び第2充填溝の面積の和に対する回転子シートの端面における第2充填溝の面積の割合は40%よりも大きい。
【0026】
いくつかの実施例では、同一の第1磁気バリア層において、回転子シートの端面における該第1磁気バリア層の第1スリット溝及び第1充填溝の面積の和に対する回転子シートの端面における第1充填溝の面積の割合は30%よりも大きい。
【0027】
本開示の第2態様によれば、固定子と、前記回転子構造とを備えるモーターを提供する。
【0028】
本開示の第3態様によれば、前記回転子構造を加工するための回転子加工方法を提供し、回転子加工方法は、回転子構造の外周面よりも大きい外周面を有する回転子鉄心を用意し、回転子構造の充填溝の溝口と回転子鉄心の外周面との間に一時リブを形成するステップと、充填溝内に被充填材を充填し、端絡環を取り付けるステップと、一時リブを除去して回転子構造を形成するステップと、を含む。
【0029】
本開示の技術的解決手段によれば、本開示の回転子構造は自己始動同期リラクタンスモーターの回転子構造であり、回転子構造は順次積層される複数の回転子シートを備え、回転子シートに、第1スリット溝、第1充填溝及び軸孔が設けられる。第1スリット溝は回転子構造の直軸の方向に沿って延伸しており、2つの第1充填溝は第1スリット溝の延伸方向に沿った両端に位置し、第1スリット溝、第1充填溝、及び軸孔内に穿設される回転軸は第1磁気バリア層を形成する。本開示の回転子構造はモーターの突極差を増加させ、モーターの出力トルクを向上させ、モーターの効率を向上させることができ、従来技術におけるモーターの効率が低い問題を解決するだけでなく、回転子構造を加工するための回転子鉄心の空間利用率を高め、モーターの始動能力を向上させることができる。
【0030】
本願の一部を構成する明細書の図面は本開示のさらなる理解を提供するためのものであり、本開示の例示的な実施例及びその説明は本開示を解釈することに用いられるが、本開示に対する不適切な限定を構成しない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本開示に係る回転子構造の第1実施例の構造模式図を示す。
図2】本開示に係る回転子構造の回転子シートの第1実施例の構造模式図を示す。
図3】本開示に係る回転子構造の回転子シートの第2実施例の構造模式図を示す。
図4】本開示の回転子構造を備えたモーターの出力トルクと関連技術の回転子構造を備えたモーターの出力トルクとの経時的変化の比較図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
なお、矛盾しない限り、本願の実施例及び実施例の特徴を互いに組み合わせることができる。以下、図面及び実施例を参照して本開示を詳細に説明する。
【0033】
図1図3に示すように、本開示は回転子構造を提供し、回転子構造は、回転軸と、回転子構造の軸方向に順次積層される複数の回転子シート100とを備え、各回転子シートには回転軸が貫通する軸孔20が設けられ、回転子シート100には、第1スリット溝111、及び第1スリット溝111の両端に位置する第1充填溝121が設けられ、第1スリット溝111は軸孔20の対向する両側に位置するスリット溝セグメント1110を備え、第1スリット溝111、第1充填溝121、及び軸孔20内に穿設される回転軸は第1磁気バリア層101を形成し、第1スリット溝111は回転子構造の直軸3の方向に沿って延伸している。
【0034】
本開示の回転子構造は自己始動同期リラクタンスモーターの回転子構造であり、回転子構造は順次積層される複数の回転子シート100を備え、回転子シート100に第1スリット溝111、第1充填溝121及び軸孔20が設けられる。第1スリット溝111は回転子構造の直軸3の方向に沿って延伸しており、2つの第1充填溝121は第1スリット溝111の延伸方向に沿った両端に位置し、第1スリット溝111、第1充填溝121、及び軸孔20内に穿設される回転軸は第1磁気バリア層101を形成し、軸孔20は第1磁気バリア層101をセグメント化された2つの部分に分割する。本開示の回転子構造はモーターの突極差を増加させ、モーターの出力トルクを向上させ、モーターの効率を向上させることができ、従来技術におけるモーターの効率が低い問題を解決するだけでなく、回転子構造を加工するための回転子鉄心の空間利用率を高め、モーターの始動能力を向上させることができる。
【0035】
自己始動同期リラクタンスモーターでは、回転子の磁場方向は直軸3であり、d軸とも呼ばれ、横軸4は直軸3に対して90°の電気角をなし、q軸とも呼ばれる。
【0036】
磁気バリアは磁束バリアであり、磁力線の通過を阻止する構造であり、同一の回転子磁極10において隣接する2つの磁束バリアの間に磁気チャンネルが形成され、磁束バリアは中空の空気溝又はほかの非磁性材料を溝内に充填することによって構成される。
【0037】
具体的には、回転子構造は対をなして設けられる2つの回転子磁極10から構成され、及び/又は回転軸は非磁性材料で製造され、及び/又は回転軸の外周面は円筒状であるか、又は回転軸の外周面の一部の表面は円筒面から部分的に構成される。
【0038】
本開示の回転子構造は2つの対称な回転子磁極10を備え、回転子構造の軸孔20内に穿設される回転軸は非磁性材料で製造され、回転軸の外周面の少なくとも一部の表面は円筒状であり、上記形状の回転軸によって第1磁気バリア層101と軸孔20に最も近い第2磁気バリア層102との間の磁気チャンネルの幅を増加させることができる。
【0039】
図2に示すように、スリット溝セグメント1110と軸孔20との最小距離L1の値の範囲はσ≦L1≦5σであり、及び/又はスリット溝セグメント1110とそれに隣接する第1充填溝121との最小距離L2の値の範囲は0.8σ≦L2≦2σ、又はL2=0であり、σは回転子構造で形成されたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅である。
【0040】
スリット溝セグメント1110は軸孔20の両側に位置し、スリット溝セグメント1110と軸孔20との接続部位における接続リブの機械的強度を確保するとともに、回転子鉄心の空間を最大限に利用するために、スリット溝セグメント1110と回転軸との最小距離はL1であり、L1はσ≦L1≦5σを満たす必要があり、σは回転子構造を備えたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅である。
【0041】
スリット溝セグメント1110とそれに隣接する第1充填溝121との最小距離はL2であり、L2は0.8σ≦L2≦2σ又はL2=0を満たす必要があり、即ち、スリット溝セグメント1110とそれに隣接する第1充填溝121は互いに間隔をあけるか又は互いに接続されるようにしてもよい。
【0042】
いくつかの実施例では、スリット溝セグメント1110と第1充填溝121内に同じ材料が充填されるか、又はスリット溝セグメント1110は空気溝である。
【0043】
スリット溝セグメント1110が空気溝である場合、スリット溝セグメント1110とそれに隣接する第1充填溝121は互いに間隔をあけており、スリット溝セグメント1110と第1充填溝121との距離L2を制御することで、回転子鉄心の機械的強度を確保し、スリット溝セグメント1110と第1充填溝121との間の磁気漏れを低減させることができる。
【0044】
スリット溝セグメント1110、第1充填溝121及び非磁性回転軸から構成される第1磁気バリア層101はセグメント化された磁気バリア層であり、スリット溝セグメント1110と第1充填溝121内に同じ充填材が充填される場合、スリット溝セグメント1110と第1充填溝121が互いに接続され、第1磁気バリア層101はモーターの突極差を増加させることができ、以下の式(1)に示す通りであり、突極差はモーターのd軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとの差であり、大きな突極差によってモーターのトルク出力能力を向上させることができる。
【0045】
【数2】
式(1)では、Temは電磁トルク、pはモーターの極対数、Ldはモーターのd軸インダクタンス、Lqはモーターのq軸インダクタンス、isは固定子電流、idはモーターのd軸電流、iqはモーターのq軸電流、βは電流角である。
【0046】
また、第1磁気バリア層101のスリット溝セグメント1110に第1充填溝121内のものと同じ充填材を充填できる場合、d軸充填溝の面積を増加させ、d軸抵抗を低減させることができる。以下の式(2)に示す通りである。
【0047】
【数3】
式(2)では、Te-aveは平均電磁トルク、Pはモーターの磁極対数、SSYNCはスリップ率、ωはモーターの電気角速度、VSは入力側電圧実効値であり、Rrd、Rrqはそれぞれ回転子d軸抵抗及びq軸抵抗であり、Lmd、Lmqはそれぞれ固定子のd軸励磁インダクタンス及びq軸励磁インダクタンスであり、Lds、Lqsはそれぞれ固定子のd軸漏れインダクタンス及びq軸漏れインダクタンスである。
【0048】
固定子のd軸漏れインダクタンスLdsと固定子のq軸漏れインダクタンスLqsが近いが、固定子のd軸励磁インダクタンスLmdが固定子のq軸励磁インダクタンスLmqよりもはるかに大きいため、
【数4】
である。従って、d軸抵抗Rrdを低減させることはモーターの始動時の平均電磁トルクTe-aveをより効果的に向上させる方法である。第1磁気バリア層101のスリット溝セグメント1110に第1充填溝121内のものと同じ充填材を充填することで、d軸充填溝の面積を増加させ、d軸抵抗を低減させることができ、それによってモーターの始動中の平均電磁トルクTe-aveを増加させ、モーターの始動能力を向上させる。
【0049】
図2に示すように、スリット溝セグメント1110は矩形であり、及び/又はスリット溝セグメント1110の最小幅h1の値の範囲は0.9h2≦h1≦1.1h2であり、h2は該スリット溝セグメント1110に隣接する第1充填溝121の幅である。
【0050】
いくつかの実施例では、スリット溝セグメント1110の形状は矩形又はほかの形状である。
【0051】
具体的には、スリット溝セグメント1110の幅の最小値はh1であり、スリット溝セグメント1110に隣接する第1充填溝121の最大幅はh2であり、h1とh2は0.9h2≦h1≦1.1h2を満たす必要があり、それによって直軸3の方向に沿って延伸し且つスリット溝セグメント1110に近い透磁チャンネルの面積を増加させ、回転子構造の磁路のリラクタンスを低減させ、回転子部分の磁路をより滑らかにする。
【0052】
図2に示すように、第1磁気バリア層101の対向する両側にはいずれも1組の第2磁気バリア層102が設けられ、各組の第2磁気バリア層102には回転子構造の横軸4の方向に沿って配置される複数の第2磁気バリア層102が含まれ、第2磁気バリア層102は第2スリット溝112と、第2スリット溝112の両端に設けられる第2充填溝122とを備える。
【0053】
第1磁気バリア層101はセグメント化された磁気バリア層であり、即ち、第1磁気バリア層101の第1スリット溝111は軸孔20によって直軸の方向に沿う2つのスリット溝セグメント1110に分けられ、複数の第2磁気バリア層102はいずれも連続式磁気バリア層であり、即ち、第2磁気バリア層102の第2スリット溝112は連続したものであり、複数の第2磁気バリア層102はそれぞれ軸孔20の両側に位置し、且つ横軸4の方向に分布している。
【0054】
いくつかの実施例では、スリット溝セグメント1110の最小幅h1の値の範囲は
【数5】
であり、L6は各組の第2磁気バリア層102のうち直軸3に最も近い第2磁気バリア層102の第2スリット溝112と直軸3との横軸4の方向に沿った最小垂直距離であり、及び/又は各組の第2磁気バリア層102のうち直軸3に最も近い第2磁気バリア層102の第2スリット溝112と第1スリット溝111との横軸4の方向に沿った最小値h4の値の範囲はL7≦h4≦1.65L7であり、L7は軸孔20と直軸3に最も近い第2磁気バリア層102との横軸4の方向に沿った最小距離である。
【0055】
スリット溝セグメント1110の幅の最小値h1はさらに
【数6】
を満たす必要があり、L6は軸孔20に最も近い第2磁気バリア層102と直軸3との横軸4の方向に沿った最小垂直距離である。このように、直軸3の方向に沿って延伸し且つスリット溝セグメント1110に近い磁気チャンネルの面積を確保でき、それによって回転子構造の直軸3の方向に沿った磁路が滑らかであることを確保し、回転子構造の磁束密度の飽和度を低減させ、回転子構造の磁束密度分布をより均一にする。
【0056】
複数の第2磁気バリア層102のうち軸孔20に最も近い第2磁気バリア層102の第2スリット溝112と第1磁気バリア層101のスリット溝セグメント1110との横軸4の方向に沿った最小距離はh4であり、軸孔20と軸孔20に最も近い第2磁気バリア層102との横軸4の方向に沿った最小距離はL7であり、h4はL7≦h4≦1.65L7を満たす必要があり、このように、軸孔20に最も近い第2磁気バリア層102と第1磁気バリア層101との間の磁気チャンネルが滑らかであることを確保できる。
【0057】
いくつかの実施例では、同一の第2磁気バリア層102において、第2スリット溝112と第2充填溝122は間隔をあけて設けられ、間隔幅L3の値の範囲は0.8σ≦L3≦2σであり、σは回転子構造で形成されたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅であり、及び/又は同一の第2磁気バリア層102において、第2充填溝122の最大幅と第2スリット溝112の最大幅との差は第2スリット溝112の最大幅の10%以内である。
【0058】
各第2スリット溝112と対応する第2充填溝122はともに回転子構造の各第2磁気バリア層102を構成し、各第2磁気バリア層102の第2スリット溝112と対応する第2充填溝122はいずれも間隔をあけて設けられ、該間隔の幅L3は0.8σ≦L3≦2σを満たす必要があり、σは回転子構造を備えたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅であり、第2スリット溝112と第2充填溝122は滑らかに接続され、各第2磁気バリア層102において第2スリット溝112の最大幅と第2充填溝122の最大幅との差は第2スリット溝112の最大幅の10%以内であり、第2スリット溝112の最大幅とは、第2スリット溝112の横軸4の方向に沿った最大寸法であり、第2充填溝122の最大幅とは、第2充填溝122の横軸4の方向に沿った最大寸法である。
【0059】
このように、一方では、回転子構造の機械的強度を確保し、第2スリット溝112と対応する第2充填溝122との間の磁気漏れを低減させることができ、他方では、第2スリット溝112と対応する第2充填溝122との間の幅を制御することで回転子構造の磁路のリラクタンスを低減させ、回転子構造の磁気チャンネルをより滑らかにすることができる。
【0060】
いくつかの実施例では、各組の第2磁気バリア層102において、隣接する2つの第2磁気バリア層102間の最小距離L5は1.8h3よりも大きく、h3は隣接する2つの第2磁気バリア層102のうち寸法が小さい第2磁気バリア層102の第2スリット溝112の横軸4の方向に沿った最小幅である。
【0061】
1つの回転子磁極10において隣接する2つの第2磁気バリア層102間の最小距離はL5であり、隣接する2つの第2磁気バリア層102のうち寸法が小さい第2磁気バリア層102の横軸4の方向に沿った最小幅はh3であり、L5は1.8h3よりも大きい必要がある。
【0062】
このように、一方では、回転子構造の加工の困難性を低減させることができ、他方では回転子構造の磁束密度分布の均一度を確保し、回転子の磁束密度の飽和度を低減させることもできる。
【0063】
いくつかの実施例では、各第2スリット溝112の幅は横軸4から第2スリット溝112の両端への方向において徐々に増加する。
【0064】
各第2磁気バリア層102において第2スリット溝112の幅は第2スリット溝112の中間(即ち、横軸4)からその両端へ徐々に増加し、第2スリット溝112の幅とは、第2スリット溝112の横軸4の方向に沿った寸法である。
【0065】
図2及び図3に示すように、各組の第2磁気バリア層102の第1磁気バリア層101から離れる側に第3磁気バリア層103が設けられ、第3磁気バリア層103は第3充填溝123から構成される。
【0066】
1つの回転子磁極10は第3磁気バリア層103をさらに備え、第3磁気バリア層103も連続式磁気バリア層であり、第3磁気バリア層103は各組の第2磁気バリア層102の第1磁気バリア層101から離れる側に位置し、第3磁気バリア層103は第3充填溝123を備える。
【0067】
具体的には、第3充填溝123が回転子構造の中心軸線2に対して占める角度αの値の範囲は0.05τ≦α≦0.3τであり、τ=180°/pであり、pは回転子構造の極対数である。
【0068】
第3磁気バリア層103の第3充填溝123は独立した充填溝であり、第3充填溝123が回転子構造の中心軸線2に対して占める角度はαであり、αは0.05τ≦α≦0.3τを満たす必要があり、いくつかの実施例では、αは0.15τ≦α≦0.26τを満たし、τは極距離角であり、即ち、τ=180°/pであり、pは回転子の極対数である。
【0069】
第3充填溝123は第3磁気バリア層103の一部としてモーターの突極比を高めることができるだけでなく、モーターの回転子構造の充填溝の面積を増加させ、モーターの始動能力を向上させることができる一方、第3充填溝123が占める角度αが大きすぎると、モーターの非同期トルクが低減され、モーターの始動能力が低下してしまう。
【0070】
いくつかの実施例では、各組の第2磁気バリア層102において、第2磁気バリア層102の第2スリット溝112の幅の和と軸孔20から回転子構造の外周面までの幅との比は0.3~0.5である。
【0071】
図2に示すように、本開示の回転子構造において、1つの回転子磁極10は4つの第2磁気バリア層102と1つの第3磁気バリア層103とを備え、回転子構造の直軸3から離れる方向に沿って、4つの第2磁気バリア層102の第2スリット溝112と1つの第3磁気バリア層103の第3充填溝123の幅は順にm1、m2、m3、m4及びm5であり、複数の第2磁気バリア層102と第3磁気バリア層103の回転子シート100の径方向に沿った最小寸法の和は(m1+m2+m3+m4+m5)であり、回転子シート100の軸孔20から回転子シート100の外周面までの幅とは、回転子シート100の軸孔20から回転子シート100の外周面までの最短距離m6であり、(m1+m2+m3+m4+m5)/m6=0.3~0.5である。
【0072】
磁気バリア層1別に適切な割合を選択することで、十分な磁気バリア層1の幅を確保し、横軸磁束を効果的に阻止することができるだけでなく、適切な磁気チャンネルを確保し、磁路の過飽和を防止し、直軸磁束を増加させ、モーターの突極比を増加させることができる。
【0073】
具体的には、第1充填溝121及び第2充填溝122はいずれも回転子構造の外周面に延伸しており、及び/又は第1充填溝121及び第2充填溝122内にいずれもアルミニウム又はアルミニウム合金が充填される。
【0074】
回転子構造の複数の充填溝のうち第1充填溝121及び第2充填溝122は開溝であり、即ち、第1充填溝121及び第2充填溝122の溝口は回転子シート100の外周面に設けられ、第3充填溝123は閉溝である。
【0075】
充填溝は第1充填溝121、第2充填溝122及び第3充填溝123を備え、内部には、好ましくはアルミニウム又はアルミニウム合金のような導電性非磁性材料が充填され、充填溝内の充填材は回転子構造の両端に位置する端絡環200によって自己短絡接続を形成し、かつかご形構造を構成し、端絡環200の材料は充填溝内の充填材と同じである。このように、該構造はモーター始動段階では非同期トルクを提供でき、それによって自己始動同期リラクタンスモーターの自己始動を実現する。
【0076】
いくつかの実施例では、第1充填溝121及び第2充填溝122の溝口はその端部のそれに隣接する直軸3に近い側に位置するか、又は第1充填溝121及び第2充填溝122の溝口はその端部の中央部に位置する。
【0077】
図2及び図3に示すように、第1充填溝121及び第2充填溝122の溝口の幅は対応する第1充填溝121又は第2充填溝122の幅よりも小さい。第1充填溝121及び第2充填溝122の溝口は対応する第1充填溝121又は第2充填溝122の回転子シート100の外周面に近い端部に位置し、且つ対応する第1充填溝121又は第2充填溝122のそれに隣接する直軸3に近い側に位置するか、又は第1充填溝121及び第2充填溝122の溝口は対応する第1充填溝121又は第2充填溝122の回転子シート100の外周面に近い端部に位置し、且つ該端部の中央部に位置する。
【0078】
いくつかの実施例では、第1充填溝121及び第2充填溝122の端部のそれに近い直軸3から離れる側又は第1充填溝121及び第2充填溝122の端部の両側に斜め切り面120が設けられ、斜め切り面120は対応する第1充填溝121又は第2充填溝122の溝口縁に接続される。
【0079】
具体的には、第1充填溝121及び第2充填溝122の端部の直軸3から離れる側又は第1充填溝121及び第2充填溝122の端部の中央部の両側に斜め切り面120が設けられ、斜め切り面120は対応する第1充填溝121又は第2充填溝122の溝口に接続され、第1充填溝121又は第2充填溝122との半開溝構造を形成する。斜め切り面120が設けられることで、回転子構造の外周面に近い第1充填溝121又は第2充填溝122間の磁気チャンネルを広くし、直軸磁束は斜め切り面120を経由して固定子にスムーズに入ることができ、直軸磁束に対する第1充填溝121及び第2充填溝122の溝口の影響を低減させ、直軸インダクタンスを確保し、また、斜め切り面120はさらに磁束分布を改善し、磁束変化を遅くし、固定子スロットとの相互作用によるトルク脈動を低減させ、モーターの振動ノイズを低減させることができる。また、溝口が設けられることで、横軸磁束の流れを効果的に阻止し、横軸インダクタンスを低減させ、直軸と横軸とのインダクタンス差を増加させ、モーターの出力トルク及び効率を向上させることができる。
【0080】
いくつかの実施例では、斜め切り面120と第1充填溝121又は第2充填溝122の該斜め切り面120に接続される溝壁面との夾角はβであり、125°≦β≦165°である。斜め切り面120は直軸インダクタンスに対する対応する第1充填溝121又は第2充填溝122の溝口の影響を低減させ、直軸磁力線が固定子にスムーズに入ってトルクを発生させることを可能にし、また、斜め切り面120はモーターのインダクタンスの急変を低減させ、リラクタンストルク脈動を低減させることができる。
【0081】
図2に示すように、第1充填溝121及び/又は第2充填溝122の溝口幅はL4であり、0.5σ≦L4≦4σであり、σは回転子構造で形成されたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅であり、及び/又は第1充填溝121及び/又は第2充填溝122の溝口幅L4は該第1充填溝121又は第2充填溝122の最大厚さwよりも小さい。
【0082】
第1充填溝121及び/又は第2充填溝122の溝口幅はL4であり、L4は0.5σ≦L4≦4σを満たし、σは回転子構造を備えたモーターの固定子内径と回転子外径の間の空隙幅であり、いくつかの実施例では、第1充填溝121及び/又は第2充填溝122の溝口幅L4は1.5σ≦L4≦3σを満たす。
【0083】
いくつかの実施例では、第1充填溝121及び/又は第2充填溝122の溝口幅L4の値の範囲は0.1w≦L4≦0.7wであり、wは該第1充填溝121又は第2充填溝122の最大厚さである。このように、第1充填溝121及び/又は第2充填溝122の適切な溝口幅を選択することで、モーターの最適なインダクタンス差を得ることに寄与して、モーターの動作効率を高める。
【0084】
具体的には、同一の第2磁気バリア層102において、回転子シート100の端面における該第2磁気バリア層102の第2スリット溝112及び第2充填溝122の面積の和に対する回転子シート100の端面における第2充填溝122の面積の割合は40%よりも大きい。
【0085】
同一の第2磁気バリア層102において、第2充填溝122の面積と対応する第2磁気バリア層102の面積との比は40%よりも大きく、いくつかの実施例では、第2充填溝122の面積と対応する第2磁気バリア層102の面積との比の範囲は40%~60%であり、それによってモーターの十分な自己始動能力を確保する。
【0086】
具体的には、同一の第1磁気バリア層101において、回転子シート100の端面における該第1磁気バリア層101の第1スリット溝111及び第1充填溝121の面積の和に対する回転子シート100の端面における第1充填溝121の面積の割合は30%よりも大きい。
【0087】
同一の第1磁気バリア層101において、第充填溝121の面積と対応する第1磁気バリア層101の面積との比は30%よりも大きく、いくつかの実施例では、第充填溝121の面積と対応する第1磁気バリア層101の面積との比の範囲は30%~100%であり、それによってモーターの負荷始動能力を向上させる。
【0088】
本開示の第2態様によれば、モーターを提供し、固定子と、回転子とを備え、回転子は上記回転子構造である。
【0089】
本開示の第3態様によれば、上記回転子構造を加工するための回転子加工方法を提供し、回転子加工方法は、回転子構造の外周面よりも大きい外周面を有する回転子鉄心を用意し、回転子構造の充填溝の溝口と回転子鉄心の外周面との間に一時リブを形成するステップと、充填溝内に被充填材を充填し、端絡環200を取り付けるステップと、一時リブを除去して回転子構造を形成するステップと、を含む。
【0090】
本開示の回転子加工方法は具体的には以下の通りである。
【0091】
まず、上記回転子シート100の外周面の直径よりもやや大きい回転子鉄心を製造し、このとき、充填溝の溝口が密閉し、充填溝の溝口に対応する位置には充填溝と回転子鉄心の外周面とを隔てる一時リブがある。
【0092】
その後、充填溝内に材料を充填し、充填した材料を回転子鉄心の軸方向の両側に位置する端絡環200と溶接してかご形構造を形成する。
【0093】
最後に、旋削等の加工方法によって一時リブを除去して充填溝溝口の半開放構造を形成し、それによって図1に示す回転子構造を製造する。
【0094】
図4に示すように、本開示の回転子構造を備えたモーターの出力トルクと従来技術の回転子構造を備えたモーターの出力トルクとの経時的変化の比較図からわかるように、本開示の回転子構造を備えたモーターの出力トルクは従来技術の回転子構造を備えたモーターの出力トルクよりも大幅に増加し、本開示の回転子構造はモーターの出力トルクを増加させることができる。
【0095】
本開示の特定実施形態では、スリット溝セグメント1110とそれに隣接する第1充填溝121は互いに間隔をあけるか又は接続され、第3磁気バリア層103は独立した充填溝であってもよいし、充填溝とスリット溝との組合せであってもよく、スリット溝セグメント1110の形状は矩形又はほかの規則的や不規則的な形状であってもよく、軸孔20の形状はすべて円形であるか又は部分的に円形であってもよく、第1充填溝121及び第2充填溝122は開溝であってもよいし、閉溝であってもよく、第1充填溝121及び第2充填溝122が開溝である場合、溝口の位置は対応する充填溝の端部のそれに隣接する直軸3に近い側又は対応する充填溝の端部の中間位置又は両方にあってもよい。
【0096】
以上の説明からわかるように、本開示の上記実施例は以下の技術的効果を実現する。
【0097】
(1)回転子構造の直軸3の方向にセグメント化された第1磁気バリア層101が設けられることで、モーターの突極差を増加させ、モーターのトルク出力能力を向上させることができる。
【0098】
(2)スリット溝セグメント1110内に第1充填溝121内のものと同じ充填材を充填することで、直軸充填溝の面積を増加させ、直軸抵抗を低減させ、モーターの始動中の平均トルクを増加させ、モーターの始動能力を向上させ、回転子鉄心の空間利用率を増加させることができる。
【0099】
(3)回転子バー(即ち、充填溝内の充填材で形成されたバー構造)が提供する非同期トルクによってモーターの自己始動を実現し、同期リラクタンスモーターが周波数変換器による駆動を必要とするという問題を解決するとともに、モーターの損失を低減させ、モーターの効率を向上させ、従来技術におけるモーターの効率が低い問題を解決する。
【0100】
以上は本開示の好ましい実施例に過ぎず、本開示を限定するためのものではなく、当業者であれば、本開示に対して種々の変更や変化を行うことができる。本開示の趣旨及び原則を逸脱せずに行われるいかなる変更、同等置換、改良等はいずれも本開示の保護範囲に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0101】
100、回転子シート
10、回転子磁極
101、第1磁気バリア層
102、第2磁気バリア層
103、第3磁気バリア層
111、第1スリット溝
1110、スリット溝セグメント
112、第2スリット溝
121、第1充填溝
122、第2充填溝
123、第3充填溝
120、斜め切り面
20、軸孔
2、中心軸線
3、直軸
4、横軸
200、端絡環
図1
図2
図3
図4