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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】粘着テープの巻取体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 75/28 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
B65H75/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023531454
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016395
(87)【国際公開番号】W WO2023276391
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021110885
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100168066
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】楯 洋亮
(72)【発明者】
【氏名】澤村 翔太
(72)【発明者】
【氏名】三浦 学
(72)【発明者】
【氏名】吉村 大輔
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/065275(WO,A1)
【文献】特開2015-151447(JP,A)
【文献】特開2008-106242(JP,A)
【文献】特開平11-116917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 75/00-75/32
C09J 7/00-7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材層と、前記基材層上に設けられた粘着層と、を含む粘着テープが、長手方向において前記粘着層を内側にして巻き取られた粘着テープの巻取体であって、
前記粘着層上であって、前記粘着テープの長手方向先端から所定距離離間した位置を起点として、前記粘着テープの引出方向とは反対側に、1つのみの剥離層が積層されていることを特徴とする粘着テープの巻取体。
【請求項2】
前記粘着テープの長手方向先端から1~5mm離間した位置を起点として、前記剥離層が積層されている請求項1に記載の粘着テープの巻取体。
【請求項3】
前記粘着テープの長手方向における前記剥離層の長さが5~20mmである請求項1又は2に記載の粘着テープの巻取体。
【請求項4】
前記剥離層の引張弾性率が10~300MPaである請求項1から3のいずれか一項に記載の粘着テープの巻取体。
【請求項5】
前記粘着テープの120℃における重ね合わせ粘着力が0.5~2.5N/cmである請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着テープの巻取体。
【請求項6】
ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材層と、前記基材層上に設けられた粘着層と、を含む粘着テープを、該粘着テープの長手方向において前記粘着層を内側にして巻き取り、巻取体を形成する工程と、
前記粘着層上であって、前記粘着テープの長手方向先端から所定距離離間した位置を起点として、前記先端とは反対側に、1つのみの剥離層を積層する工程と、
前記巻取体を100~130℃で加熱する工程と、
を含むことを特徴とする粘着テープの巻取体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着テープの巻取体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道、航空機、船舶、家屋、工場等における各種の電気機器に用いられる絶縁テープ等の粘着テープとしては、適度な柔軟性と伸長性を有し、難燃性、機械的強度、耐熱変形性、電気絶縁性及び成形加工性等に優れ、比較的安価である理由から、ポリ塩化ビニル系樹脂を含有する基材層上に粘着剤が塗布された粘着テープが使用されている。
【0003】
例えば特許文献1には、所定量のポリ塩化ビニル、フタル酸エステル系可塑剤、カルシウム-亜鉛系複合安定剤、脂肪酸エステルワックスを含むポリ塩化ビニル系フィルムと、該フィルムの一方の面に積層された粘着剤とを有する粘着テープが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-263952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、粘着テープは、長手方向において粘着層を内側にして巻き取ることで巻取体を形成し、巻取体として販売される。巻取体の粘着テープ先端の粘着層上には、使用者が使用時に剥がしやすいように、口取紙等の剥離層が積層されている。
【0006】
しかしながら、ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材層と、粘着層とを含む粘着テープは、長手方向において粘着層を内側にして巻き取り、巻取体とすると、巻取体側面において、残留応力により経時と共に巻取体内側の粘着テープが外側へせり出す現象(以下、せり出し現象ともいう。)が生じる場合がある。当該現象を抑制するため、前記残留応力を取り除く観点から、巻取体をアニール処理(加熱処理)することが考えられる。しかしながら、巻取体をアニール処理すると、長手方向において粘着テープが収縮し、剥離層近傍において粘着テープが一部剥離し、しわが発生する場合がある。
【0007】
本発明は、経時と共に巻取体内側の粘着テープが外側へせり出す現象が抑制され、かつ、剥離層近傍にしわを有さない粘着テープの巻取体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を含む。
【0009】
[1]ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材層と、前記基材層上に設けられた粘着層と、を含む粘着テープが、長手方向において前記粘着層を内側にして巻き取られた粘着テープの巻取体であって、
前記粘着層上であって、前記粘着テープの長手方向先端から所定距離離間した位置を起点として、前記粘着テープの引出方向とは反対側に、剥離層が積層されていることを特徴とする粘着テープの巻取体。
【0010】
[2]前記粘着テープの長手方向先端から1~5mm離間した位置を起点として、前記剥離層が積層されている[1]に記載の粘着テープの巻取体。
【0011】
[3]前記粘着テープの長手方向における前記剥離層の長さが5~20mmである[1]又は[2]に記載の粘着テープの巻取体。
【0012】
[4]前記剥離層の引張弾性率が10~300MPaである[1]から[3]のいずれかに記載の粘着テープの巻取体。
【0013】
[5]前記粘着テープの120℃における重ね合わせ粘着力が0.5~2.5N/cmである[1]から[4]のいずれかに記載の粘着テープの巻取体。
【0014】
[6]ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材層と、前記基材層上に設けられた粘着層と、を含む粘着テープを、該粘着テープの長手方向において前記粘着層を内側にして巻き取り、巻取体を形成する工程と、
前記粘着層上であって、前記粘着テープの長手方向先端から所定距離離間した位置を起点として、前記先端とは反対側に、剥離層を積層する工程と、
前記巻取体を100~130℃で加熱する工程と、
を含むことを特徴とする粘着テープの巻取体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、経時と共に巻取体内側の粘着テープが外側へせり出す現象が抑制され、かつ、剥離層近傍にしわを有さない粘着テープの巻取体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来の巻取体の一例を示す模式図である。
図2】本発明に係る巻取体の一例を示す模式図である。
図3】本発明に係る巻取体の製造方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[粘着テープの巻取体]
本発明に係る粘着テープの巻取体は、ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材層と、前記基材層上に設けられた粘着層と、を含む粘着テープが、長手方向において前記粘着層を内側にして巻き取られたものである。ここで、前記巻取体では、前記粘着層上であって、前記粘着テープの長手方向先端から所定距離離間した位置を起点として、前記粘着テープの引出方向とは反対側に、剥離層が積層されている。該剥離層は前記粘着層と接着しているが、巻取体(すなわち対向する基材層)とは接着しておらず、剥離可能である。
【0018】
従来の巻取体の一例を図1に示す。図1(a)は巻取体1を示す斜視図、図1(b)は図1(a)の巻取体1の粘着テープ2を引き出した斜視図、図1(c)は図1(b)のA部分における側面図、図1(d)は図1(a)の巻取体1をアニール処理した後の斜視図である。図1(a)~(c)に示されるように、巻取体1は、基材層5と、基材層5上に積層された粘着層6と、を有する粘着テープ2が、粘着層6を内側にして巻き取られて形成されており、粘着テープ2の先端4には剥離層3が設けられている。剥離層3は、粘着テープ2の長手方向の先端4、すなわち粘着テープ2の引出側の端部に設けられている。そのため、図1(a)の巻取体1において、粘着テープ2の長手方向の先端4は巻取体1から剥離している。本発明者らは、前述したせり出し現象を抑制するために図1(a)の巻取体1をアニール処理すると、長手方向に粘着テープ2が収縮するため、剥離層3が積層された剥離部と剥離層3が積層されていない接着部との境界から、該接着部へ向けて粘着テープ2が一部剥離し、図1(d)に示されるように、剥離層3近傍にしわ7が発生することを見出した。
【0019】
しわの発生を抑制するため鋭意検討した結果、本発明者らは、粘着テープの長手方向先端から所定距離離間した位置を起点として、前記粘着テープの引出方向とは反対側に剥離層を配置することで、アニール処理を行ってもしわの発生が抑制されることを見出した。本発明に係る巻取体の一例を図2に示す。図2(a)は巻取体1を示す斜視図、図2(b)は図2(a)の巻取体1の粘着テープ2を引き出した斜視図、図2(c)は図2(b)のA部分における側面図である。図2に示される巻取体1では、粘着テープ2の長手方向先端4から所定距離(w)離間した位置を起点として、粘着テープ2の引出方向とは反対側に剥離層3が設けられている。すなわち、粘着テープ2の長手方向先端4には剥離層3が設けられておらず、先端4から所定距離(w)離間した位置から、粘着テープ2の引出方向とは反対側(巻取側)へ向けて剥離層3が設けられている。そのため、図2(a)に示されるように、巻取体1の粘着テープ2の長手方向先端4付近には、所定の幅を有する先端接着部10が存在し、先端4は巻取体1と接着している。これにより、巻取体1をアニール処理し、長手方向に粘着テープ2が収縮した場合にも、その影響は小さく、剥離層3近傍における粘着テープ2の剥離が抑制され、結果としてしわの発生が抑制される。なお、アニール処理時に先端接着部10が存在していればよいため、アニール処理後に先端接着部10を剥がし、使用者が粘着テープ2を剥がしやすいようにしてもよい。すなわち、本発明に係る巻取体では、粘着テープの長手方向先端から所定距離離間した位置を起点として、前記粘着テープの引出方向とは反対側に剥離層が配置されていれば、粘着テープの長手方向先端は巻取体から剥離していてもよい。なお、図1(a)、(b)、(d)、図2(a)、(b)では、理解のしやすさの観点から剥離層3を表示しているが、実際には図1(c)、図2(c)に示されるように剥離層3は粘着層6上であって、粘着層6より内側に配置されているため、巻取体1の表面側からは見えない。以下、本発明の詳細について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0020】
(粘着テープ)
本発明に係る巻取体を構成する粘着テープは、基材層と、該基材層上に設けられた粘着層と、を含む。例えば、図2(c)に示されるように、粘着テープ2は、基材層5と、基材層5上に積層された粘着層6と、を有することができる。なお、前記粘着テープは、基材層及び粘着層以外にも他の層を有してもよい。例えば、基材層と粘着層との間に下塗剤を含む下塗層が設けられていてもよい。粘着テープの全体の厚みは、0.04~1.11mmであることが好ましく、0.06~0.45mmであることがより好ましい。
【0021】
<基材層>
本発明に係る巻取体において、基材層は主成分としてポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む。ポリ塩化ビニル系樹脂は、基材層に絶縁性や難燃性、強度を付与することができるベース樹脂である。可塑剤は基材へ柔軟性を付与する。ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材層は加熱により収縮する特性を有するが、前述したように本発明に係る巻取体の構成によりアニール処理してもしわの発生が抑制される。なお、セロハンやポリプロピレン等を主成分として含む基材層では加熱による収縮は生じない。本発明に係る巻取体の基材層は、ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤以外にも他の成分を含み得る。しかし、該基材層中のポリ塩化ビニル系樹脂と可塑剤の合計の含有量は、80質量%以上であることが好ましい。
【0022】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えばポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル・塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル・MBS(メチルメタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレン)系樹脂、ポリ塩化ビニル・NBR(ニトリルゴム・アクリルニトリル-ブタジエン共重合体)系樹脂等が挙げられる。これらのポリ塩化ビニル系樹脂は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。基材層中のポリ塩化ビニル系樹脂の含有量は、44~75質量%が好ましく、50~70質量%がより好ましい。
【0023】
可塑剤としては例えばトリメリット酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤等が挙げられる。トリメリット酸エステル系可塑剤としては、例えばトリオクチルトリメリテート(TOTM)、トリノルマルオクチルトリメリテート(TnOTM)等が挙げられる。フタル酸エステルとしては、例えばジオクチルフタレート(DOP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジウンデシルフタレート(DUP)等が挙げられる。ポリエステル系可塑剤としては、例えばアジピン酸系ポリエステル等が挙げられる。エポキシ系可塑剤としては、例えばエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等が挙げられる。これらの可塑剤は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。基材層中の可塑剤の含有量は、25~36質量%が好ましく、28~33質量%がより好ましい。
【0024】
前記基材層は、さらに充填剤、安定剤、滑剤、改質剤、顔料、老化防止剤等を含んでもよい。充填剤としては、無機充填剤が挙げられ、例えば炭酸カルシウム、タルク、シリカ、焼成クレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、トリフェニルホスフェイト、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、酸化ジリコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化モリブデン、リン酸グアニジン、ハイドロタルサイト、スネークタイト、硼酸亜鉛、無水硼酸亜鉛、メタ硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウム、酸化アンチモン、五酸化アンチモン、赤燐、アルミナ、ベーマイト、ベントナイト、珪酸ソーダ、珪酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。安定剤としては、例えば脂肪酸亜鉛、カルシウム-マンガン-亜鉛系複合安定剤等が挙げられる。滑剤としては、例えばステアリン酸等の脂肪酸、エステルワックス等の脂肪酸エステル等が挙げられる。改質剤としては、例えばホスファイト、有機亜リン酸エステル、熱可塑性ポリウレタン、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。顔料としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン、二酸化チタン等が挙げられる。老化防止剤としては、例えばアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0025】
前記基材層の厚みは、使用目的や用途等に応じて様々であるが、電線への巻き付けやすさの観点から、0.03~1mmであることが好ましく、0.05~0.4mmであることがより好ましい。
【0026】
<粘着層>
本発明に係る巻取体における粘着層は、粘着性を有する層であれば特に限定されないが、粘着剤を含むことができる。粘着剤は、例えばエラストマーと、粘着付与樹脂とを含むことができる。
【0027】
エラストマーとしては、例えば天然ゴム、天然ゴムにメチルメタアクリレート(MMA)をグラフト共重合させたグラフト重合物、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、メチルメタクリレート・ブタジエンゴム(MBR)、アクリルゴム等の合成ゴム等が挙げられる。これらのエラストマーは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0028】
粘着付与樹脂としては、例えばロジン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、クロマン系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂等を使用できる。これらの粘着付与樹脂は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0029】
前記粘着層は、さらに安定剤、老化防止剤、滑剤、難燃剤、充填剤、可塑剤、改質剤、顔料等を含んでもよい。
【0030】
前記粘着層の厚みは、せり出し現象を抑制する観点から、10~100μmであることが好ましく、15~40μmであることがより好ましい。
【0031】
<下塗層>
本発明に係る巻取体における粘着テープは、基材層と粘着層の密着性向上の観点から、基材層と粘着層との間に下塗剤を含む下塗層が設けられていてもよい。下塗剤としては、例えば天然ゴムにメチルメタクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用することが好ましい。下塗層の厚みは特に限定されないが、例えば0.1~1μmであることができる。
【0032】
(剥離層)
本発明に係る巻取体において、剥離層は、粘着層上であって、粘着テープの長手方向先端から所定距離(w)離間した位置を起点として、粘着テープの引出方向とは反対側に積層されている。該剥離層は粘着層と接着しているが、巻取体とは接着していない。
【0033】
前記所定距離(w)は特に限定されないが、1~5mmであることが好ましく、2~4mmであることがより好ましい。wが1mm以上であることにより、粘着テープの長手方向先端が巻取体と十分に接着することができ、巻取体をアニール処理した場合にもしわの発生をより抑制できる。また、wが5mm以下であることにより、前記先端接着部の幅が狭くなるため、アニール処理後に前記先端接着部をより容易に剥離することができる。
【0034】
粘着テープの長手方向における剥離層の長さ(w)は、5~20mmであることが好ましく、8~12mmであることがより好ましい。wが5mm以上であることにより、アニール処理後に先端接着部をより容易に剥離することができる。また、wが20mm以下であることにより、アニール処理によるしわの発生をより抑制できる。粘着テープの短手方向における剥離層の長さは、例えば図2(a)、(b)に示されるように、粘着テープの短手方向の長さと同じであることができる。すなわち、剥離層は粘着テープの短手方向全体にわたって積層されていることができる。
【0035】
剥離層としては、粘着層と接着でき、対向する基材層とは接着しないものであれば特に限定されない。しかしながら、剥離層の引張弾性率は10~300MPaであることが好ましい。剥離層の引張弾性率が10MPa以上であることにより、アニール処理による加熱収縮に対して変形しづらく、しわの発生をより抑制できる。また剥離層の引張弾性率が300MPa以下であることにより、剥離層と基材層の柔軟性の乖離が小さく、アニール処理により粘着テープが収縮した場合にも、剥離層の粘着テープに対して適度に追従するため、しわの発生がより抑制される。剥離層の引張弾性率は50~280MPaであることがより好ましく、100~250MPaであることがさらに好ましい。本発明において引張弾性率は、JIS C 2107及びISO 527-3に従って測定される値であり、具体的には後述する方法により測定される値である。
【0036】
剥離層の材料は、粘着層と接着でき、巻取体(すなわち対向する基材層)とは接着しない材料であれば特に限定されず、例えば剥離紙(口取紙)、剥離フィルム等であることができる。しかしながら、前述したように、剥離層の材料としては剥離層の引張弾性率が10~300MPaとなる材料を選択することが好ましい。このような材料としては、例えば軟質ポリ塩化ビニルフィルム、和紙、不織布等が挙げられる。これらの材料は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0037】
剥離層の厚みは、50~130μmであることが好ましく、70~110μmであることがより好ましい。前記厚みが50μm以上であることにより、剥離層を貼り付ける際にしわが発生しづらい。また、前記厚みが130μm以下であることにより、剥離層と基材層の段差を抑えてwの接着面積を確保でき、アニール処理によるしわの発生を抑制できる。
【0038】
(巻取体)
本発明に係る巻取体の、粘着テープの長手方向における長さは特に限定されないが、例えば5~40mであることができる。前記巻取体の、粘着テープの短手方向における長さ(巻取体の太さ)は特に限定されないが、例えば100~3000mmであることができる。前記巻取体の直径は特に限定されないが、例えば39~100mmであることができる。前記巻取体は、例えば図2(a)、(b)に示されるように中心部に芯を有していてもよく、芯を有さなくてもよい。
【0039】
本発明に係る巻取体において、粘着テープの120℃における重ね合わせ粘着力(以下、高温重ね合わせ粘着力ともいう。)は0.5~2.5N/cmであることが好ましい。前記高温重ね合わせ粘着力が0.5N/cm以上であることにより、アニール処理時における粘着テープのずれや剥離がより抑制される。また、前記高温重ね合わせ粘着力が2.5N/cm以下であることにより、アニール処理後に先端接着部をより容易に剥離することができる。前記高温重ね合わせ粘着力は0.6~2.2N/cmであることがより好ましく、0.7~1.9N/cmであることがさらに好ましい。なお、前記高温重ね合わせ粘着力は、具体的には後述する方法により測定される値である。
【0040】
[粘着テープの巻取体の製造方法]
本発明に係る粘着テープの巻取体の製造方法は、以下の工程を含む。ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材層と、前記基材層上に設けられた粘着層と、を含む粘着テープを、該粘着テープの長手方向において前記粘着層を内側にして巻き取り、巻取体を形成する工程(以下、巻取体形成工程ともいう。);前記粘着層上であって、前記粘着テープの長手方向先端から所定距離離間した位置を起点として、前記先端とは反対側に、剥離層を積層する工程(以下、剥離層積層工程ともいう。);前記巻取体を100~130℃で加熱する工程(以下、アニール処理工程ともいう。)。前記製造方法によれば、本発明に係る粘着テープを簡便に製造することができる。以下、図面を用いて本発明に係る製造方法の一例の説明を行うが、本発明に係る製造方法はこれらに限定されない。
【0041】
(巻取体形成工程)
本工程では、まず、ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材層と、前記基材層上に設けられた粘着層と、を含む粘着テープを準備することができる。基材層及び粘着層の材料や厚みは、前述した本発明に係る粘着テープの巻取体と同様であることができる。基材層上への粘着層の形成は公知の方法で行うことができ、例えば粘着剤を基材層上へ塗布し、乾燥することで形成することができる。準備する粘着テープの短手方向の長さは、製造される巻取体の粘着テープの短手方向の長さよりも十分に長いことが生産性の観点から好ましい。粘着テープの短手方向の長さが十分に長いことにより、巻取、剥離層の積層、アニール処理をまとめて行うことができ、最後に幅広の巻取体を目的の幅に切断することで、複数の巻取体を一度に製造することができるためである。
【0042】
次に、粘着テープの長手方向において粘着層を内側にして巻き取り、巻取体を形成する。例えば図3(a)に示されるように、円筒状の芯8に粘着テープ2を巻き取ることができる。図3(a)に示される粘着テープ2は、短手方向の長さが十分に長く、幅広の巻取体が得られる。なお、後述するように、本工程では粘着テープの長手方向先端部分のみを残して巻き取ってもよい。
【0043】
(剥離層積層工程)
本工程では、前記巻取体において、粘着層上であって、粘着テープの長手方向先端から所定距離離間した位置を起点として、前記先端とは反対側に、剥離層を積層する。剥離層の材料や厚みは、前述した本発明に係る粘着テープの巻取体と同様であることができる。剥離層は、粘着テープの長手方向先端から所定距離(w)離間した位置を起点として、前記先端とは反対側に積層する。すなわち、剥離層は、粘着テープの長手方向先端から所定距離(w)離間した位置から、粘着テープの引出方向とは反対側へ向けて積層する。前記所定距離(w)は特に限定されないが、1~5mmであることが好ましく、2~4mmであることがより好ましい。粘着テープの長手方向における剥離層の長さ(w)は、5~20mmであることが好ましく、8~12mmであることがより好ましい。また、剥離層は、粘着テープの短手方向全体にわたって積層することができる。なお、本発明に係る粘着テープの巻取体の製造方法には、前記巻取体形成工程において粘着テープの長手方向先端部分のみを残して巻き取り、該先端部分において本工程と同様に剥離層を積層した後に、該先端部分まで巻き取りきる方法も含まれる。
【0044】
(アニール処理工程)
本工程では、得られた剥離層を含む巻取体を100~130℃で加熱するアニール処理を行う。巻取体を100℃以上で加熱することにより、粘着テープの残留応力を十分に低減でき、また基材層から粘着層への可塑剤移行が平衡状態となり粘着力が高くなり、せり出し現象を抑制できる。また、巻取体を130℃以下で加熱することにより、粘着テープの熱劣化を防止することができる。加熱温度は110~120℃が好ましい。加熱時間は加熱温度にもよるが、30~180分間が好ましく、60~120分間がより好ましい。本工程では加熱により粘着テープの長手方向に収縮が生じるが、前記先端接着部の存在によりその影響が最小限に抑えられ、結果として剥離層近傍におけるしわの発生が抑制される。
【0045】
図3(a)に示されるような幅広の巻取体を製造した場合には、アニール処理後に図3(b)に示されるように、例えばカッター9を用いて巻取体1を所望の幅に切断することができる。また、使用者の利便性の観点から、アニール処理後に先端接着部を剥離してもよい。
【実施例
【0046】
[実施例1]
ポリ塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ株式会社製、TH-1300、平均重合度1300)100質量部、可塑剤としてトリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル(DIC株式会社製、TOTM)56質量部、三酸化アンチモン(株式会社鈴裕化学社製、ファイヤーカットTOP-5)11質量部をバンバリーミキサーで均一に分散するように溶融混錬したのち、カレンダー成形機により、ロール温度165℃にて成形して100μm厚の基材を作製した。
【0047】
ポリ塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ株式会社製、TH-1000、平均重合度1000)100質量部、可塑剤としてフタル酸ジイソノニル(株式会社ジェイ・プラス製、DINP)25質量部をバンバリーミキサーで均一に分散するように溶融混錬したのち、カレンダー成形機により、ロール温度165℃にて成形して100μm厚のフィルムを作製し、ログ切断機にて幅10mmに切断して剥離層を作製した。
【0048】
作製した基材の片面に、グラビア方式により下塗剤として、天然ゴムにメチルメタクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体ラテックスとアクリロニトリルブタジエン共重合体エマルジョンの混合物エマルジョン(株式会社イーテック社製、KT4612A)を塗工し、乾燥して下塗層を形成した。その後、該下塗層上に、コンマ方式により粘着剤として、天然ゴムラテックス(株式会社レヂテックス社製、HA LATEX)60質量部(固形分)と、天然ゴムにメチルメタクリレートをグラフト重合させたグラフト重合体ラテックス(株式会社レヂテックス社製、MG-40S)40質量部(固形分)と、石油樹脂系エマルジョン粘着付与剤(荒川化学工業株式会社社製、AP-1100-NT)135質量部(固形分)とを含有する粘着剤を塗工し、乾燥して粘着層を形成し、粘着テープを得た。得られた粘着テープを図2(a)に示されるようなテープログ形状に巻き取り、粘着テープの長手方向先端から3mm離間した位置を起点として、粘着テープの引出方向とは反対側に剥離層を貼り合わせ、120℃で120分間アニール処理を行い、粘着テープの巻取体を得た。該巻取体について、以下の手順に沿って剥離層の引張弾性率、高温重ね合わせ粘着力、経時による巻取体内側のせり出し、しわの有無、及び端部剥がしやすさの評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
<剥離層の引張弾性率>
JIS C 2107に従い、剥離層から幅10mm、長さ200mmの試験片を切り出し、引張試験機の試料チャック部にチャック間距離100mmになるように試験片両端をチャックして固定し、温度23℃、湿度50%RHの条件にて試験速度300mm/minで引っ張り、伸びと荷重を測定した。ISO 527-3に従い、歪0.0005~0.0025における応力-歪曲線の傾きを算出し、引張弾性率を求めた。
【0050】
<高温重ね合わせ粘着力>
巻取体から剥がした粘着テープから幅10mm×長さ150mmの試験片を2枚切り出し、重なりが幅10mm×長さ20mmになるように、片方の試験片の背面(基材層)にもう一方の試験片の粘着面(粘着層)を貼り合わせ、重ねた試験片を質量2kgの圧着ローラーで10mm/minの速さで圧着した。恒温槽付き引張試験機の試料チャック部にチャック間距離100mmになるように試験片両端をチャックして固定し、温度120℃で5分間静置後に試験速度300mm/minで引っ張り、荷重を測定した。
【0051】
<経時による巻取体内側のせり出しの評価>
アニール処理後の巻取体を2日間室温にて静置後、巻取体内側の粘着テープが外側へせり出した距離を測定した。
【0052】
<しわの有無の評価>
アニール処理後の巻取体の表面を観察し、しわの有無を目視により確認した。
(評価基準)
A:しわが全くない。
B:しわが端末付近にわずかにみられる。
C:しわが広範囲にわたってみられる。
【0053】
<端部剥がしやすさの評価>
巻取体を幅19mmにカットし、作業者5名にて該巻取体から粘着テープを引き出すため端末を剥がすのに要する作業時間を測定した。なお、前記5名の作業者は、巻取体から粘着テープを引き出すため端末を剥がす作業について訓練が十分に行われており、その評価にばらつきがないことが確認されている。
(評価基準)
A:5名全員が1秒以内に端部を剥がせる。
B:5名中3名以上が1秒以内に端部を剥がせる。
C:5名中3名以上が1秒以内に端部を剥がせない。
【0054】
[実施例2~9、比較例1]
先端からの離間距離w、剥離層の長さw、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)と可塑剤の配合量、及び粘着層の厚みを表1の通りとした以外は、実施例1と同様の方法にて粘着テープの巻取体を作製した。また各例の巻取体について実施例1と同様の方法で剥離層の引張弾性率、高温重ね合わせ粘着力、経時による巻取体内側のせり出し、しわの有無、及び端部剥がしやすさの評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示す通り、本発明の構成を満たす実施例1~9の粘着テープの巻取体では、経時と共に巻取体内側の粘着テープが外側へせり出す現象が抑制され、アニール処理後のしわが抑制され、かつ粘着テープを引き出すための端部剥がしやすさも良好であった。一方、剥離層が粘着テープ端末から所定距離離れていない比較例1の粘着テープの巻取体では、せり出し現象が抑制され、端部剥がしやすさは良好であったものの、しわが広範囲にわたって見られた。以上の結果から、本発明に係る粘着テープの巻取体は、経時と共に巻取体内側の粘着テープが外側へせり出す現象が抑制され、アニール処理後のしわが抑制され、かつ粘着テープを引き出すための端部剥がしやすさが良好であることが確認された。
【符号の説明】
【0057】
1 巻取体
2 粘着テープ
3 剥離層
4 先端
5 基材層
6 粘着層
7 しわ
8 芯
9 カッター
10 先端接着部
図1
図2
図3