(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】電磁鋼帯、電磁鋼帯の使用、および電磁鋼帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 3/04 20060101AFI20240823BHJP
H01F 27/245 20060101ALI20240823BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240823BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240823BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H01F3/04
H01F27/245 150
H01F41/02 B
C21D9/46 501Z
C21D9/00 Z
(21)【出願番号】P 2023566776
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 EP2022061304
(87)【国際公開番号】W WO2022229305
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-12-25
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506004447
【氏名又は名称】ヴィッケダー ヴェストファーレンシュタール ゲー エム ベー ハー
【氏名又は名称原語表記】WICKEDER WESTFALENSTAHL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】カリーナ フランケン
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン プラッテ
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-248125(JP,A)
【文献】特開2010-136529(JP,A)
【文献】特表2020-511005(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0271053(US,A1)
【文献】米国特許第03682606(US,A)
【文献】特開2015-196178(JP,A)
【文献】国際公開第2018/145780(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 3/04
H01F 27/245
H01F 41/02
C21D 9/46
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼帯であって、
- 少なくとも部分的に強磁性材料から成る少なくとも1つの機能層(4)と、
- 少なくとも部分的に非着磁性材料から成る少なくとも1つの付加層(8)と、
を有し、
- 前記少なくとも1つの付加層(8)と前記少なくとも1つの機能層(4)とは互いに接続され、
- 少なくとも1つの機能層(4)の厚さが2~100μm、好ましくは2~60μm、の範囲内である、電磁鋼帯において、
- 前記少なくとも1つの付加層(8)と前記少なくとも1つの機能層(4)とは、原子拡散(14)による接着接合(12)によって互いに接合されている、
ことを特徴とする電磁鋼帯。
【請求項2】
前記少なくとも1つの付加層(8)の厚さが2~100μm、好ましくは2~60μm、の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の電磁鋼帯。
【請求項3】
前記少なくとも1つの付加層(8)は、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、金属材料から成ることを特徴とする、請求項1または2に記載の電磁鋼帯。
【請求項4】
前記少なくとも1つの付加層(8)は、銅(Cu)、好ましくは質量分率が1~15%の範囲内の銅含有量、を有することを特徴とする、請求項1に記載の電磁鋼帯。
【請求項5】
前記少なくとも1つの付加層(8)は、アルミニウム(Al)、好ましくは質量分率が1~15%の範囲内、特に3~15%の範囲内、であるアルミニウム含有量、を有することを特徴とする、請求項1に記載の電磁鋼帯。
【請求項6】
前記少なくとも1つの付加層(8)は、前記少なくとも1つの機能層(4)の比熱伝導率に少なくとも等しい、好ましくはそれより大きい、比熱伝導率を有することを特徴とする、請求項1に記載の電磁鋼帯。
【請求項7】
前記少なくとも1つの付加層(8)は、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、オーステナイト合金またはオーステナイト鋼から成ることを特徴とする、請求項1に記載の電磁鋼帯。
【請求項8】
前記少なくとも1つの付加層(8)は、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、非金属材料、好ましくは炭素(C)含有材料、特に好ましくはグラフェンまたはグラファイト、から成ることを特徴とする、請求項1に記載の電磁鋼帯。
【請求項9】
- 少なくとも2つの機能層(4)がそれぞれ異なる強磁性材料を有すること、および/または、
- いくつかの付加層(8)が使用される場合、少なくとも2つの付加層(8)がそれぞれ異なる非着磁性材料を有すること、
を特徴とする、請求項1に記載の電磁鋼帯。
【請求項10】
前記材料特性は、前記少なくとも1つの機能層において、および/または前記少なくとも1つの付加層において、変化することを特徴とする、請求項1に記載の電磁鋼帯。
【請求項11】
請求項1に記載の
少なくとも2つの電磁鋼帯、特に電磁鋼板、
を含む製品であって、
-
前記少なくとも2つの電磁鋼帯が1つのスタックに配置されることと、
-
前記少なくとも2つの電磁鋼帯の間に分離層が設けられることと、
を特徴とする
製品。
【請求項12】
請求項1に記載の電磁鋼帯の鉄心としての使用。
【請求項13】
請求項1に記載の、電磁鋼帯、特に電磁鋼板、の製造方法であって、
- 少なくとも1つの機能層(4)を用意し、
- 前記少なくとも1つの機能層(4)は、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、強磁性材料から成り、
- 少なくとも1つの付加層(8)を用意し、
- 前記少なくとも1つの付加層(8)は、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、非着磁性材料から成り、
- 前記少なくとも1つの機能層(8)と前記少なくとも1つの付加層とを互いに隣接させて配置し、
- 前記少なくとも1つの機能層(4)と前記少なくとも1つの付加層(8)との間に原子拡散(14)による接着接合(12)を加圧によって生じさせ、
- 少なくとも1つの機能層(8)の厚さが2~100μm、好ましくは2~60μm、の範囲内である、
方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの機能層(4)のうちの少なくとも1つ、および/または前記少なくとも1つの付加層(8)のうちの少なくとも1つ、を熱処理する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの機能層(4)と前記少なくとも1つの付加層(8)とを、冷間圧延貼り合わせによって、または熱間貼り合わせによって、互いに接合する、請求項13または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも部分的に強磁性材料から成る少なくとも1つの機能層と、少なくとも部分的に非着磁性材料から成る少なくとも1つの付加層と、を有する電磁鋼帯に関する。本発明は、更に、電磁鋼帯の使用および電磁鋼帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板および電磁鋼帯は、あらゆる種類の電気システムにおいて広く使用されている。例えば、発電機における発電のために、変圧器における送配電に、モータおよび他の電気機械におけるエネルギー回収に、および電気工学分野における他の用途に、使用されている。
【0003】
電磁鋼帯は、電気機械または変圧器の磁心など、特に誘導性部品として加工されている。電磁鋼帯は、通常、磁性材料製の、例えば鉄珪素合金製の、圧延金属帯であると理解されている。例えば、鋼の製造、熱間鋼帯処理または冷間鋼帯処理、更に、必要であれば、熱処理および鋼帯被覆、ならびに精整ラインにおける鋼帯のスキンパス加工および矯正(引張-曲がり矯正)を含む、多段製造工程の後、電磁鋼帯は、使用幅に長手方向に切断され、打ち抜き、エッチング、放電加工、ワイヤ放電加工、切断、ウォータージェット切断、またはレーザ切断によって、電磁鋼板に、すなわち電磁鋼帯の個々の部分に、加工される。
【0004】
その後、電磁鋼板は、電磁部品、特に鋼板積層体、を形成するために、更なる方法ステップにおいて積層、パッケージ化、および固定される。これら電磁部品は、磁心としてステータ、ロータ、変圧器の形態で、発電機、変圧器、電気モータ、および他の磁気用途などの電気システムに使用されており、更には他の磁心として、リレー、スイッチ、接触子、チョーク、点火コイル、電力量計、および制御可能な偏向磁石に、使用されている。
【0005】
その幾何学的、機械的-技術的、および他の材料特性など、多数の特性が関連する適用分野における電磁鋼板の適切な使用のために極めて重要である。ただし、それぞれの構成要素の機能のためには、電磁場におけるその挙動が特に重要である。電磁鋼板は、通常、所謂軟磁性材料、すなわち、外部磁場において特に着磁し易い、ひいては電気システムでの使用時にエネルギーを最適に利用する、材料、で作られている。
【0006】
材料の着磁性は、材料依存の絶対透磁率μによって記述される。磁性材料に作用する磁場強度HとこのHによって磁性材料に生じる磁束密度との間の関係は、B=μHである。真空においてB=μ0Hである。式中、μ0は、所謂磁気定数である。透磁率数または比透磁率と称される無次元量μγ=μ/μ0は、材料の磁気挙動を特徴付ける。強磁性材料は、μγ>>1が当てはまる、したがって材料内の外部磁場を増幅する、材料である。電気機械の構成のためには、その磁場増幅効果の故に、主に強磁性材料が重要である。
【0007】
強磁性材料の着磁性は、B-H曲線のコースによって記述される。変化する磁場強度Hは、磁区、すなわち、強磁性材料内で個々の原子または分子磁性粒子が同じように配向している強磁性材料内の微小領域、の移動および成長プロセスをもたらす。これらのプロセスが磁性材料内で起こる故に、磁場強度Hが増大するB-Hコースがもたらされる。これは、磁場強度が低下するB-Hコースとは異なる。この偏差曲線は、ヒステリシスと称される。
【0008】
電磁鋼帯の種類は、特性曲線B-Hのコースによって決定される。特性曲線の上昇分岐、磁場強度Hが増大するBのコース、と特性曲線の下降分岐、磁場強度が減少するBのコース、とが終点においてマージすることによって、ヒステリシスループが形成される。ヒステリシスループの面積は、磁性材料の再磁化に必要なエネルギーを記述する。
【0009】
外部磁場Hがオフに切り換えられると、磁性材料によって引き起こされた磁束密度Bの部分の磁気分極Jの特定の値がそのままになる。この値は、残留磁気Brと呼ばれている。ヒステリシスの幅は、保磁力Hc、磁束密度をゼロにするために必要な磁場強度、によって決定される。再磁化中、材料状態は閉じたヒステリシスループを通過する。その面積は、再磁化サイクル当たりに環境に放出される材料体積当たりのエネルギー(熱)量を表す。
【0010】
したがって、電気システム内の構成要素の磁気挙動は、その効率ひいてはエネルギー消費量に決定的影響を及ぼす。特に電磁鋼板の磁気特性に関する、ここでは特に再磁化損失に関する、用途関連の最適化によって、効率向上ひいてはエネルギー変換の向上が実現される。再磁化損失または鉄損は、磁化の変化の故に交番磁界において発生する磁性材料内の熱損失を記述するために使用される用語である。磁化の変化は、交流電流によって、あるいは磁場または磁性材料製の構成要素の移動によって、引き起こされ得る。例えば、直流機のロータも交番磁界にさらされる。
【0011】
これまで、電磁鋼帯は、1mm~0.5mmの範囲内、場合によっては最小0.1mm、の厚さで製作されていた。磁束が如何なる特定の方向にも固定されない電気工学上の用途には、最大可能な等方性を有する電磁鋼帯が使用されている。このような無方向性(NO)電磁鋼帯のためには、粒径が20μmと200μmの間である多結晶構造が理想的な構造である。特に低い再磁化損失が重要であり、透磁率または分極化に対する要求が特に高い用途の場合は、方向性(GO)電磁鋼帯と称される、結晶組織の方向が一様な電磁鋼帯が通常使用されている。
【0012】
再磁化損失の場合、渦電流損失とヒステリシス損失とが基本的に区別される。ヒステリシス損失は、磁性材料の再磁化中に磁区をシフトさせるために必要な仕事を記述する損失を指す。この損失は、B-H曲線が描くヒステリシスループの面積に比例し、Physt=(kH4HCBmaxf)/ρによって記述される。式中、kHはフォームファクタを記述する。これは、材料の形状と、加工(例えば打ち抜き、曲げ、引き抜き)中の応力の影響とに依存する。更に、Hcは、保磁力を示し、Bmaxは、材料中の磁気誘導の大きさを示し、fは、再磁化周波数を示し、ρは、材料の材料密度を示す。
【0013】
変化する磁場に導電体がさらされると、電圧が誘導され、これにより、電流が引き起こされる。この電流が発生させた電流熱損失は、渦電流損失と呼ばれ、Peddie=keddie(Bmaxfπ)2に従って算出される。材料依存量keddie=κd2/(6ρ)は渦電流損失係数とも呼ばれる。式中、κは、材料の比電導度(導電率)を表し、dは、電磁鋼板の厚さを表し、ρは、電磁鋼板の材料の材料密度を表す。
【0014】
したがって、電磁鋼板の磁気特性、特に再磁化損失、は、基本的に材料固有のパラメータならびに電磁鋼板の厚さによって決定される。中実材料製の鉄心は、高い渦電流損失の故に、殆ど使用不能である。加えて、この鉄心は、周波数の増加に伴い、渦電流の故に、熱くなる。これを回避するために、および再磁化損失を低減するために、電気機械のための鉄心は、パッケージ状に積層された、すなわち積み重ねられた、且つ絶縁された、複数の電磁鋼板として、または切断されて巻かれた帯状鉄心として、設計される。
【0015】
渦電流の形成を効果的に抑制するために、電磁鋼板の積層に、例えばラッカー製の、絶縁被覆が設けられる。このような絶縁層の厚さは、数μmの範囲内であり、一般に個々の鋼板は、各側が1~2μm厚の絶縁ラッカー層で被覆され、且つ或る粗さを有する。ここで複数の電磁鋼板が積み重ねられて接続されている場合、スタックは主に電磁鋼板で、しかし更にラッカーおよびエアポケットで、構成されている。したがって、パッケージとも呼ばれる、スタックの全容積は、磁性材料の材料で完全には充填されていない。
【0016】
電磁鋼板の薄厚化に伴い、発生する渦電流損失も減少する。ただし、薄い電磁鋼帯の製作は、製造工程に対する要求を増やす。加えて、電磁鋼板が極めて薄いと、電磁鋼板の着磁性材料と被覆の非着磁性材料との間の比率が不利に発達することに注目されたい。すなわち、電磁鋼板の厚さに対して、その表面に存在する被覆が厚いほど、或る高さの鋼板パッケージに含まれる鉄が少なくなる。この比率は、電磁鋼帯が薄いほど悪くなる。塗膜厚に対する板金の比率は、ますます小さくなり、或る点より上で、特に薄厚の電磁鋼帯を使用するプラス効果が下がる。
【0017】
したがって、電磁鋼帯は、市場の要求の故に、さまざまな厚さで製造され、その後に電磁鋼板に更に加工される。電磁鋼帯の薄板を積層して鉄心を形成することによって、鋼板または鋼帯の厚さに関して、特に大きな鉄心高さについて、極めて厳しい公差が要求される。無方向性電磁鋼帯は、主に0.50mmおよび0.65mmの厚さで製作されるが、0.35mmおよび1.00mmも一般的である。方向性電磁鋼帯の場合、一般的な厚さは、0.35mm、0.30mm、0.27mm、および0.23mmである。更に、公称厚0.1mmの電磁鋼帯が公知である。
【0018】
再磁化損失を減らすための別の重要な方法は、適合化された合金の使用である。例えば、珪素の追加によって再磁化損失を減らすことができる。その理由は、珪素含有量の増加に伴い、磁性材料の比電気抵抗が上昇し、ひいては導電率が下がるからである。ただし、珪素含有量の増加は、電磁鋼帯の冷間成形性にとって有害であり、市販の電磁鋼帯は、通常、冷間圧延されるので、これは、製造および製作工程の要件を増加させる。したがって、通常、質量分率3.5%の珪素含有量を超えない。
【0019】
鋼板の薄厚化と適合化された合金の使用とに加え、電磁鋼板の材料特性を向上させるための他の適した方策は、特に粒径および結晶組織に関する、好適な微細構造特性の調整である。ただし、この調整は、多くの場合、電磁鋼板の機械的特性ひいては加工性に悪影響を及ぼす。
国際公開第2018/157946(A1)号は、層厚が50~1500μmの方向性電磁鋼帯層を2つ有する複合材料を記載している。この複合材料は、電磁鋼帯層を高分子剤で被覆し、その後に2つの電磁鋼帯層を積層することによって製造されている。
国際公開第2018/019602(A1)号は、絶縁層を有する無方向性電磁鋼板を製造するための電磁鋼帯を記載している。その最終厚は少なくとも100μmである。
米国特許第3,682,606(A)号は、アルミニウム鋼複合材料を開示している。この複合材料は、軽量の車両構造またはその装甲の構成のために記載されている。
欧州特許出願公開第3 127 647(A1)号は、ロール圧着によって2枚の板を接合する、複数の異なる材料から成る金属積層材料の製作を記載している。
独国特許出願公開第10 2018 102422(A1)号は、電場および磁場に対する遮蔽のための複合材料の使用を開示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明は、従来技術について記載の諸欠点を改善し、特に、誘導性部品としての用途においてエネルギー変換効率を高める、冒頭で言及した種類の電磁鋼帯ならびに電磁鋼帯の製造方法を提供するという目的に基づく。
【0021】
第1の教示によると、上記の目的は、請求項1に記載の諸特徴を有する電磁鋼帯によって達成される。
【0022】
以下において、電磁鋼帯とは、例えば、少なくとも2層から成る電磁鋼帯、またはこの電磁鋼帯から切断された少なくとも2層の電磁鋼板、であると理解されたい。電磁鋼帯を電磁鋼板とすることもできる。それぞれの強磁性の故に、規定された種類の電磁鋼帯または電磁鋼板は、電気機械の、あるいは変圧器または変圧用途の、誘導性部品として使用される。
【0023】
原則として、後述の電磁鋼帯の諸特性は、言及した少数の層によって既にもたらされている。例えば、1つの付加層をその間に有する2つの機能層が好適である。更に、3~10の機能層の間に、2~9の付加層を配置できる。以下に説明するように、2つの機能層を互いに隣接させることもできる。この場合、これらの機能層は、付加層によって、他の機能層から隔てられる。
【0024】
更に、電磁鋼帯は、互いに隣接して、好ましくは交互に、配置された複数の機能層と複数の付加層とから成ることが好ましい。一般に、1つのスタックには、10~100の機能層と対応する数の付加層とが存在可能である。ただし、層の数は、製作が可能であれば、原則として無制限である。
【0025】
本発明の範囲において、原子拡散による接着接合による少なくとも1つの機能層と少なくとも1つの付加層との複合体によって、材料特性が改善された、特に磁気特性が改善された、電磁鋼帯を提供できることが認識された。このような接合によって、関与する接合相手間の遷移部における、ひいては電磁鋼帯または電磁鋼板の内部における、内部応力を低減できる。
【0026】
原子拡散による接着接合による接合とは、2つの接合相手の間の接合であると理解されたい。両接合相手の材料の原子拡散による接合ゾーンとして遷移層が形成され、この遷移層を介して、材料特性の連続的な調整が行われる。したがって、原子拡散による接着接合は、層間の遷移層の形成によって生じる。
【0027】
遷移層において、両接合相手の原子が徐々に混合し、接合ゾーンとも呼ばれる、遷移層における空間変化プロセス(拡散)によって、接合が形成される。この遷移層は、内部張力を低減させる。遷移ゾーンの規模は、使用されるそれぞれの接合相手、特に関与する材料の拡散性、に依存する。
【0028】
原子拡散による接着接合、すなわち遷移層における接着接合の接合ゾーン、および特性、を特徴付けるために、さまざまな方法を使用して分析を行うことができる。これらの方法として、光学顕微鏡検査、透過型電子顕微鏡検査(TEM)、走査電子顕微鏡検査(SEM)、エネルギー分散型X線分光法(EDS)、二次イオン質量分析法(SIMS)、および微小硬度プロファイルの分析、が挙げられる。
【0029】
このような複合体は、例えば、貼り合わせ複合体と称され得る。2つの接合相手は金属材料であり、貼り合わせ複合体は、2つの接合相手または貼り合わせ相手の金属接続を表すことが好ましい。ただし、金属材料と非金属材料、例えば炭素含有材料、との間の、または非金属接合相手間、例えばプラスチック間の、複合体も可能である。複合体の接合相手は、主に、互いに隣接する層として配置される。貼り合わせ複合体における接合相手同士の接合は、貼り合わせによって行うことができる。この目的のために、この貼り合わせは、冷間圧延貼り合わせまたは熱間貼り合わせによって行える。
【0030】
あるいは、複数の金属パッケージを溶接、特に拡散溶接または電気溶接、することによって、またはパッケージ化と部分溶接とによって、接合相手同士を接合することもできる。更に、焼結または熱間等方圧加圧法(HIP)による製作が可能である。
【0031】
本発明によると、少なくとも1つの機能層は、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、強磁性材料、特に鉄、ニッケル、コバルト、他の強磁性材料、これらの合金で、またはこれら材料の2つ以上の貼り合わせで、構成される。例えば銅などの、基本的に常磁性の材料の場合でも、金属の適切な処理によって強磁性を引き起こせることが知られている。この場合、このような材料は、機能層の製作にも適している。
【0032】
この点に関して、連続層としての機能層の設計は、機能層の特性を最良可能な方法で実現するために、望ましく、且つ好適である。ただし、機能層の連続性は製作時に完全には保証され得ないので、機能層を非連続層として設計することもできる。他方、使用される材料によっては、付加層の材料が機能層の材料を少なくとも部分的に貫通するように、非連続層として設計される機能層の製作を目的とすることもできる。これにより、導電率または耐久性など、複合体の更なる特性を改善できる。機能層の材料は、他の非強磁性構成要素および介在物を更に有し得る。
【0033】
同様に、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、非着磁性材料から成る少なくとも1つの付加層は、連続層または非連続層として形成された層であると理解されたい。ここでも当てはまるのは、付加層の特性を最良可能な方法で実現するには、連続層が望ましく、この点に関して好適であることである。少なくとも1つの付加層は、非着磁性材料に加え、他の材料を含有することもできる。特に、少なくとも1つの機能層および少なくとも1つの付加層の両方は、開いた、または閉じた、細孔、例えば気孔、を含むことができる。
【0034】
少なくとも1つの付加層は、それ自体が1つの層または少なくとも2つの層で構成され得る。少なくとも1つの付加層は、貼り合わせ材または多層複合材であることが好ましい。少なくとも1つの付加層は、銅またはアルミニウム製の金属層の上にマイカ層またはグラフェン層を備えることが特に好ましい。少なくとも1つの付加層の材料として、繊維複合材料、セラミック材料、または層状ケイ酸塩(マイカ)も使用できる。これにより、特に、電気的絶縁を電磁鋼帯または電磁鋼板の複合体に導入できる。
【0035】
特に、付加層が非連続的な付加層として設計されている場合は、このような付加層を少なくとも1つ設けることによって、電磁鋼帯の磁気特性などの材料特性にも有利に影響を及ぼすことができる。非連続的な付加層は、少なくとも1つの付加層の両側に配置された機能層同士の接触を可能にする。
【0036】
あるいは、少なくとも1つの付加層の両側に配置された機能層同士の接触が防止されるように、少なくとも1つの付加層は、連続層として形成されることが好ましい。連続的に形成された少なくとも1つの付加層を設け、更には非連続的に形成された少なくとも1つの付加層を設けると、材料特性、特に電磁鋼帯の磁気特性、に特に良好な影響を及ぼすことができる。特に、電磁鋼帯の再磁化損失を低減できる。
【0037】
少なくとも1つの機能層の材料は、鉄珪素合金を含み得る。このような合金は、電磁鋼帯のために、特に電磁鋼板のために、特に再磁化損失に関して、有利な材料であることが証明されている。機能層は、方向性微細構造または無方向性微細構造を有し得る。加えて、少なくとも1つの機能層の材料は、他の鉄(Fe)合金、ならびにコバルト(Co)、アルミニウム(Al)、および/またはニッケル(Ni)、の合金、を有することもできる。
【0038】
好適には、機能層の製作は、できる限り大きな粒子、好ましくは層厚のサイズの粒径までの粒子、を生成することを目的とする。加えて、付加層の材料によっては、機能層の材料の結晶格子への元素の拡散とその導入が可能である。
【0039】
上記の複合体によって、それぞれ異なる材料製の機能層および/または付加層を備えた、好ましくは異なる強磁性材料製の機能層と非着磁性材料製の付加層とを備えた、電磁鋼帯を提供できる。これら異なる材料は、特に、それぞれ異なる材料特性、例えば、導電率または熱伝導率、ならびに材料密度に関してそれぞれ異なる特性、を有し得る。これにより、材料特性の適切な選択が可能である。材料特性が有利に選択されて組み合わされると、特に、電磁鋼帯の磁気特性を改善できる。
【0040】
本発明の範囲において、本発明による複合体では、原子拡散による接着接合によって、再磁化損失、特にヒステリシス損失および渦電流損失、の低減が可能であることが特に認識された。好ましくは、付加層の導入は、電磁鋼帯にとって有意な、渦電流損失およびヒステリシス損失に関する材料固有の特性数、特にρおよびκ、を減らす。渦電流損失については、以下の式によって与えられる。
【0041】
【0042】
ヒステリシス損失については、以下の式によって与えられる。
【0043】
電磁鋼帯の
【0044】
【0045】
これにより、再磁化損失が全体として低減される。1kHz~10kHzの範囲内の周波数において、再磁化損失、特にヒステリシス損失および渦電流損失の両方、の低減が観察された。可能な周波数範囲は、機能層および/または付加層の固有の材料に依存する。
【0046】
特に少なくとも1つの機能層と少なくとも1つの付加層とを有する本発明による複合体のB-H曲線が描くヒステリシスループの面積の低減によって、付加層がない比較的厚い電磁鋼板の測定値に比べ、ヒステリシス損失の低減を観察できた。更に、原子拡散によって原子接着接合された複合体によって、保磁力に影響を及ぼすことができる。渦電流損失の低減に関して渦電流損失係数keddie=κd2/(6ρ)の低減が観察された。
【0047】
更に、非着磁性材料製の付加層を少なくとも1つ設けることによって、磁気特性に加え、電磁鋼帯の他の材料特性に適切に影響を及ぼすことができる。例えば、機能層の材料の材料密度ρより低い材料密度ρを有する付加層を少なくとも1つ使用することによって、電磁鋼帯の軽量化の実現が可能である。電磁鋼板として可動部品に使用される場合は特に、電磁鋼帯の軽量化が電磁鋼帯のエネルギー効率の更なる向上をもたらすので有利である。
【0048】
加えて、付加層を少なくとも1つ設けることによって、電磁鋼帯の熱伝導率に適切に影響を及ぼすことができる。例えば、少なくとも1つの付加層のために使用される材料は、少なくとも1つの機能層のために使用される材料より高い熱伝導率を有することができる。これにより、電磁鋼帯の熱伝導率を向上できる。これにより、少なくとも1つの付加層がない電磁鋼板に比べ、より高い熱負荷での作動が可能になる。
【0049】
更に、原子拡散による接着接合による本発明による接合は、電磁鋼帯の磁気的に有効な機能層の薄厚化を可能にする。電磁鋼帯の個々の機能層の厚さdに対する渦電流損失係数の二次依存性の故に、これは、より低い再磁化損失の実現のために特に有利である。
【0052】
2~100μm、好ましくは2~60μm、の範囲内の厚さを有する機能層を少なくとも1つ有する、このような電磁鋼帯によって、再磁化損失を著しく低減できることが認識された。特に、機能層の前記厚さによって渦電流損失の著しい低減が達成される。渦電流損失係数kvortex=κ*d2/(6*ρ)は、個々の機能層の厚さdに二次的に依存する。前記厚さを有する、部分的に、好ましくは全体が、磁化可能材料から成る少なくとも1つの機能層と、非着磁性材料製の少なくとも1つの付加層とを設けることによって、渦電流損失をもたらす電磁鋼帯のそれぞれの機能層の厚さが低減される。ただし、この場合、機能層の総厚を従来の電磁鋼板に基本的に対応させることができる。したがって、記載の電磁鋼板は、従来の電磁鋼帯としての誘導性部品と同じ磁気効果を有することができるが、エネルギー損失はより低い。これは、渦電流損失係数ひいては渦電流損失を著しく低減できることによる。これは、特に効率的なエネルギー変換を可能にする。
【0053】
更に、上記の厚さを有する機能層を少なくとも1つ設けることによって、特に保磁力にも影響を及ぼすことができ、ヒステリシス損失を低減できることが認識された。特に、電磁鋼帯の総厚が固定されている場合、上記の薄厚の機能層を少なくとも1つ設けることによって、磁気的に有効な層を分離できるので、渦電流の伝搬を空間的に制限できる。
【0054】
少なくとも1つの付加層と少なくとも1つの機能層とは、原子拡散による接着接合によって互いに接合されている。これにより、原子拡散による接着接合による接合と、少なくとも1つの機能層の前記薄い厚さと、に帰せられる諸利点が組み合わされた電磁鋼帯を提供できる。これにより、再磁化損失の特に著しい低減が有利にもたらされる。特に、磁気特性に加え、改善された材料特性も上記の複合体によって実現可能である。例えば、内部応力の低減と個々の層の間の接着強度の向上とが接着接合によって実現される。
【0055】
電磁鋼帯の更なる一実施形態において、少なくとも1つの付加層は、2μm~100μmの範囲内、好ましくは2~60μmの範囲内、の厚さを有する。このような薄い厚さの付加層を少なくとも1つ、好ましくはいくつか、導入することによって、複合材料の材料特性に適切に影響を及ぼすことができる。特に、記載の少なくとも1つの付加層またはいくつかの付加層を設けると、機能層の材料が付加層を通って拡散可能になる。例えば、付加層が電気絶縁性材料を有する場合、機能層の材料が付加層を通って拡散することによって、機能層の相互間の電気的絶縁を排除できる。この拡散によって、層間の熱伝導も向上させることができる。
【0056】
機能層および付加層の設計時、目標は、これらの層がそれぞれ連続層を形成することである。ただし、連続層として形成されていない少なくとも1つの付加層によって、またはいくつかのこのような付加層によって、磁気特性を向上させることもでき、特に、従来の電磁鋼帯に比べ、再磁化損失、とりわけヒステリシス損失および渦電流損失、を低減できる。更に、機能層同士の相互接触、例えば電気的接触、の適切な実現が可能であり得る。これにより、可変厚と良好な導電率とを有する複合材料が必要とされる電磁鋼帯の用途においては特に、この電磁鋼帯から作られた構成要素の特定の形状によって特に、電磁鋼帯の電磁特性に更に良い影響をもたらすことができる。
【0057】
電磁鋼帯の更なる一実施形態によると、少なくとも1つの付加層は、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、金属材料から成る。少なくとも1つの付加層の材料のために金属製の、しかし非着磁性の、材料を使用することによって、特に接着性の高い金属接着接合を原子拡散によって実現できる。これにより、電磁鋼帯の抵抗力の向上、ひいては電磁鋼帯の長寿命化、がもたらされる。したがって、全体として、特に省資源の電磁鋼帯が規定される。金属は主に良好な導電率ならびに良好な熱伝導率を有するので、これにより、使用される金属材料によっては、電磁鋼帯の導電率および/または熱伝導率を向上させることもできる。
【0058】
更なる一実施形態において、少なくとも1つの付加層は、銅(Cu)、好ましくは1~15%の範囲内の質量分率の銅含有量、を有する。銅は、その高い熱伝導率を特徴とするので、これにより、熱伝導率が向上した電磁鋼帯が規定される。
【0059】
電磁鋼帯の更なる一実施形態において、少なくとも1つの付加層は、アルミニウム(Al)、好ましくは質量分率1~15%の範囲内、特に3~15%の範囲内、のアルミニウム含有量、を有する。アルミニウムは熱伝導率も高いので、これにより、熱伝導率が向上した電磁鋼帯も規定される。
【0060】
熱伝導率が向上した電磁鋼帯は、熱、例えば誘導による渦電流が発生させた熱、の放散の向上を可能にする。したがって、再磁化損失の故に電磁鋼帯が発生させた熱を全体としてより効率的に放散できる。また、電磁鋼帯が電磁鋼板として使用されている電気部品内で熱をより良好に分散できる。電気機械の高速化および周波数の増加に伴い、熱損失が増加するので、高い周波数および速度を必要とする用途のために、電磁鋼帯またはこの電磁鋼帯から作られた電磁鋼板を特に有利に使用できる。
【0061】
更に、アルミニウムは、他の金属材料に比べ、材料密度が低いので、少なくとも1つの付加層に一定の割合でアルミニウムを含めると有利である。したがって、少なくとも1つの付加層に一定の割合でアルミニウムを含めると、電磁鋼帯が軽量化される。軽量化は、電気部品または電子部品における電磁鋼帯または電磁鋼板の用途の融通性を向上できる。これが特に有利であるのは、可動電気または電子要素に電磁鋼帯を使用する場合である。これら要素を動かすためのエネルギーを節約できるからである。
【0062】
電磁鋼帯の別の実施形態において、少なくとも1つの付加層は、ジルコニウム(Zr)を含む。ジルコニウムは、高い熱伝導率ばかりでなく、良好な耐食性も特徴とする。これにより、電磁鋼帯の耐久性および熱伝導率の両方を向上させることができる。更に、ジルコニウムが相対的に軟質で可撓性であるという事実は、少なくとも1つの付加層および/または電磁鋼帯の、例えば圧延、鍛造、および鍛錬による、加工をより容易に、且つより効率的にする。
【0063】
更に、少なくとも1つの付加層は、少なくとも1つの機能層の比熱伝導率に少なくとも等しい、好ましくはこれより大きい、比熱伝導率を有し得る。これにより、電磁鋼帯の熱伝導率が全体的に向上し、上記の諸利点がもたらされる。
【0064】
更なる一実施形態において、少なくとも1つの付加層は、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、オーステナイトと略称される、オーステナイト合金またはオーステナイト鋼から成る。オーステナイト製の付加層を少なくとも1つ設けることによって、再磁化損失、特にヒステリシス損失および渦電流損失、の低減を実現できる。この常磁性材製の付加層を少なくとも1つ設けることによって、この付加層が間に配置された、電磁鋼帯の2つの機能層を磁気的に互いに隔てる、すなわち隔離する、ことができる。これは、特に、電磁誘導によって引き起こされる渦電流を低減させる。
【0065】
更に、オーステナイトは、有利な機械的特性、例えば高い成形性、を有し、したがって加工が容易であるので、オーステナイト製の付加層を少なくとも1つ設けると、有利である。これは、電磁鋼帯の製作を簡素化し、諸用途のために融通性の向上を提供する。オーステナイト鋼またはオーステナイト合金は、更に、攻撃的な環境条件に対して、特に腐食に対して、高い抵抗力を有する。したがって、電磁鋼帯の抵抗力を向上させ、寿命を伸ばすことができる。
【0066】
特に、650~1000℃の範囲内の、好ましくは670℃からの、または1000℃からの、温度で熱処理にかけられたオーステナイト製の付加層を少なくとも1つ設けると有利であることが証明されている。
【0067】
更なる一実施形態において、少なくとも1つの付加層は、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、ダマスク鋼とも称される、ダマスカス鋼から成る。ダマスク鋼を使用すると、利点がそれぞれ異なる複数の異なる鋼を1つの材料に組み合わせることができる。したがって、例えば、可撓性と切断特性の両方を有する材料で少なくとも1つの付加層を製作できる。これは、電磁鋼帯の加工のために、更にはその後の用途のために、有利である。
【0068】
更に、少なくとも1つの付加層を少なくとも部分的に、好ましくは全体を、非金属材料、好ましくは炭素(C)含有材料、特に好ましくはグラフェンまたはグラファイト、で構成できる。非金属材料の導電率は一般に無視できるほど極めて低いので、そのような材料は、少なくとも1つの機能層を絶縁するための少なくとも1つの付加層として極めて適している。非金属材料の使用は、電磁鋼帯の他の材料特性にもプラス効果をもたらすことができる。
【0069】
グラフェンまたはグラファイトに固有の高い熱伝導率の故に、1つの実施形態によると、熱伝導率が向上した電磁鋼帯が設けられるので、例えば損失プロセスによって、電磁鋼帯に発生する熱をより迅速に放散できる。加えて、グラフェンまたはグラファイトは、可撓性、柔軟性、透明性が極めて高く、極めて伸張性のある材料であるので、少なくとも1つの機能層と少なくとも1つの付加層とを有する複合材料の機械的特性、特に加工性、が改良される。
【0070】
別の実施形態においては、少なくとも2つの機能層が、それぞれ異なる強磁性材料を有する、および/または少なくとも2つの付加層がそれぞれ異なる非着磁性材料を有する。これにより、複数の異なる用途に関して、複数の異なる材料の組み合わせが極めて柔軟な、ひいては最適化の可能性が向上した、電磁鋼帯の提供が可能である。例えば、電磁鋼帯の外層の耐食性の向上に寄与する特定の合金元素をより高い割合で外層に設けることが可能である。
【0071】
更に、少なくとも1つの機能層において、および/または少なくとも1つの付加層において、材料特性が変化することが好ましい。したがって、複数の異なる強磁性または複数の異なる導電率または熱伝導率をこれらの層の表面に設定および実現できる。この目的のために、接合後、特に貼り合わせ後、互いに接合されている層の一方に部分的に、複数の異なる材料が接合前に配置される。したがって、例えば、特定の電気モータの設計のために、ステータを製作できる。この場合、生じた熱エネルギーを放散するために、銅を含有する少なくとも1つの付加層による高い熱伝導率をモータの内側にもたらし、軽量化のためにアルミニウムを含有する少なくとも1つの付加層をモータの外側に設ける。
【0072】
拡散性がそれぞれ異なる複数の合金元素の割合をそれぞれの層内で、例えば、複数の異なる付加層および/または複数の異なる機能層内で、変化させることも可能である。外部からの入熱の場合は、材料の内部に向かって徐々に弱まるので、電磁鋼帯の厚さ全体にわたって一様な熱拡散の実現が可能である。拡散バリアとして機能する合金元素を個々の層に導入することもできる。これにより、特に電磁鋼帯の製作中、電磁鋼帯の複数の異なる領域のそれぞれの電気的特性に適切に影響を及ぼすことができる。
【0073】
電磁鋼帯の三次元構造の複数の異なる領域がそれぞれ異なる材料特性、特にそれぞれ異なる磁気特性、を有することが好ましい。これにより、電磁鋼帯内の複数の導電性領域および/または磁気的に接続された複数の領域から成るパターンの製作が可能になる。更に、微細構造に適切に影響を及ぼすために、例えば、粒子境界で不純物を接合するために、合金元素の導入が可能である。これにより、より純粋な材料、特により純粋な機能層、は、電磁鋼帯の再磁化損失を更に低減できる。特に、異方性微細構造を設けることによって、層平面に平行な方向に、および層平面に直交する平面に、複数の異なる材料特性を実現できる。
【0074】
更に、いくつかの機能層の使用時、少なくとも2つの機能層またはいくつかの機能層の厚さをそれぞれ違えることが可能である。同様に、いくつかの付加層の使用時、これら付加層の厚さをそれぞれ違えることができる。これにより、それぞれの用途において利用可能な設置スペースに適切に適合化させるために、幾何学的融通性が高い電磁鋼帯が規定される。したがって、電磁鋼帯の最適化された材料特性の特に微細な調整が可能である。
【0075】
上記の目的を達成するための更なる好適な一実施形態によると、電磁鋼帯の、特に電磁鋼板の、配置が与えられる。この実施形態においては、少なくとも2つの電磁鋼帯が1つのスタックに配置され、分離層、特にラッカー層、が少なくとも2つの電磁鋼帯の間に設けられる。これら電磁鋼帯は、前述の実施形態のうちの1つに従って形成されている。
【0076】
このような配置またはスタックは、積層スタックとも呼ばれ、例えば、電気モータのステータおよび/またはロータの一部として、使用可能である。個々の電磁鋼帯の、特に再磁化損失に関した、改善された諸特性の故に、磁場の伝導時および増幅時の電力伝達を薄板スタックによって向上させることができる。分離層は、個々の電磁鋼帯の相互間の絶縁に役立つばかりでなく、再磁化損失の低減によって積層スタックの効率を最適化する。
【0077】
更なる一教示によると、上記の目的は、電磁鋼帯、特に電磁鋼板、を鉄心として使用することによっても達成される。この電磁鋼帯は、上で説明した例および変形例に従って形成されている。特に、電磁鋼板は、電磁石、特に変圧器、の鉄心として、または電気モータに、あるいはリレー、スイッチ、接触器、チョークコイル、点火コイル、電流計、および制御可能な偏向磁石のために、使用されている。
【0078】
磁心とも呼ばれる、鉄心とは、インダクタとも呼ばれる、電気部品または電子部品を、電気導体および機械部品と共に、製造できる構成要素であると理解されたい。電磁鋼板製の鉄心は、とりわけ、スケーラブルなサイズを特徴とし、マッチ箱サイズの小型の幹線変圧器から、変圧器および電気モータ、更には発電所発電機まで、広範囲の用途に使用されている。
【0079】
前に説明した鉄心としての例および変形例のうちの1つによる電磁鋼帯の使用により、電気部品または電子部品のサイズに関して大きな融通性が可能になると同時に、エネルギー変換が最適化される。特に、上記の薄厚の機能層を少なくとも1つ使用することによって、電磁鋼帯の厚さを柔軟に設計できる、特に薄くできる。更に、前に説明した鉄心としての例および変形例のうちの1つによる電磁鋼帯を使用することによって、再磁化損失、特に鉄心のヒステリシス損失および渦電流損失、を低減できることが認識された。上記の少なくとも1つの機能層と上記の少なくとも1つの付加層とを備えた複合材料として電磁鋼帯を構成することによって、電磁誘導によって引き起こされる渦電流が少なくとも1つの機能層に空間的に制限されるので、渦電流損失を低減できる。
【0080】
いくつかの電磁鋼帯を使用すると、これら電磁鋼帯を互いに上下に、例えば鉄心として、1つのスタックに配置できるので、特に有利である。このスタックのいくつかの電磁鋼帯を一緒に接着できる、または剥離層、特にラッカー層、によって別様に接続できる。
【0081】
原子拡散によって形成される上記の接着接合を特徴とする電磁鋼帯によって、鉄心の設計パラメータに対して決定的影響を有する材料特性に適切に影響を及ぼすことができる。例えば、材料密度が少なくとも1つの機能層より低い付加層を少なくとも1つ設けることによって、鉄心を軽量化できる。また、少なくとも1つの付加層の適切な材料選択によって、および記載の複合体によって、熱伝導率が向上した電磁鋼帯ひいては鉄心を実現できる。これは、鉄心の過熱を急速にもたらし得る高い出力密度のために特に有利である。したがって、記載の電磁鋼帯の使用により、より高温での電気部品または電子部品を作動も可能になる。したがって、記載の電磁鋼帯を鉄心として使用することによって、エネルギー変換を全体としてより効率化できる。
【0082】
低周波数(数kHzまでの幹線周波数)用の磁心として、およびメガワット範囲までの極めて大きな電力のために、記載の電磁鋼帯を鉄心として使用すると有利である。特に、上記の電磁鋼帯は、ステータまたは変圧器の鉄心として、および電気機械全般のために、有利に使用可能である。適切な材料選択によって、抗張力など、鉄心の他の特性に影響を及ぼすことができる。
【0083】
本発明によると、上記の目的は、電磁鋼帯の製作方法によっても達成される。本方法では、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、強磁性材料から成る少なくとも1つの機能層を用意し、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、非着磁性材料から成る少なくとも1つの付加層を用意し、少なくとも1つの機能層と少なくとも1つの付加層とを互いに隣接させて配置し、少なくとも1つの機能層と少なくとも1つの付加層との間に原子拡散による接着接合を加圧によって生じさせる。
【0084】
本方法は、それぞれ異なる材料の複数の層から成る個々の複合構造、ならびに層相互間の高い接着性による個々の層の層厚の変化、を可能にする。特に、少なくとも1つの機能層と少なくとも1つの付加層とは互いに接合されて複合材料を形成する。したがって、さまざまな種類の用途への電磁鋼帯の特性の適切な適合化が全体として可能になる。特に、これらの層のための適切な材料選択によって電磁鋼帯の磁気特性にプラスの影響を及ぼすことができ、再磁化損失、特に渦電流損失およびヒステリシス損失、を低減できる。更に、熱膨張がそれぞれ異なる複数の材料を選択することによって、所謂層間の相互作用と、その結果としての負荷とにプラスの影響を及ぼすことができる。例えば、各層の熱膨張を相互間で均衡化することによって、電磁鋼帯の全体的な熱膨張を低減できる。これにより、電磁鋼帯が電磁鋼板として使用されている構成要素、例えばモータ、の最適化設計が可能になる。
【0085】
本方法においては、少なくとも1つの付加層の材料と異なる材料が少なくとも1つの機能層のために使用される。したがって、それぞれの接合相手の材料固有の特性の極限値間の特性を有する複合材料が製作される。上記の方法によって個々の層の層厚を変化させることも可能であるので、電磁鋼帯の所望の特性に更に適切に影響を及ぼすことができる。
【0086】
少なくとも1つの機能層は、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、強磁性材料、特に上記の強磁性材料のうちの1つ、から成ることが好ましい。少なくとも1つの付加層は、少なくとも部分的に、好ましくは全体が、非着磁性材料、特に上記の材料のうちの1つ、から成ることが更に好ましい。複数の材料、例えば金属材料または炭素含有材料、特にグラフェン、の他の組み合わせも可能である。
【0087】
本方法は、いくつかの機能層ならびにいくつかの付加層を有し、これら機能層および付加層が好ましくは交互に配置されている、電磁鋼帯の製作も可能にする。例えば、絶縁性の付加層を有する複合材料の製作が可能である。1つの付加層と1つの機能層との間に、原子拡散による接着接合が加圧によって生じることが好ましい。
【0088】
あるいは、いくつかの機能層またはいくつかの付加層を互いに隣接配置できるので、層厚が一様な複数の層の使用によって、同様の複数の層から成る層の厚さを、このような配置によって、変化させることができる。例えば、複数の機能層を互いに上下に配置することによって、単一の機能層の厚さの倍数である可変厚を有する機能層を形成できる。また、いくつかの付加層を上下に配置することによって、付加層に隣接する機能層に対する絶縁効果を向上できる。
【0089】
この場合、上記の方法においては、それぞれの接合相手、この場合、少なくとも1つの機能層および少なくとも1つの付加層、を互いに隣接配置し、互いに密接に接触、特に原子間距離まで接近、させる。複数の層を重ね合わせる前に、洗浄工程を実施できる。この工程では、接触させる複数の表面から、例えば、吸収されたガス、酸化物層、またはオイル残渣などの不純物が除去される。
【0090】
洗浄工程、特に酸化物層の除去、は各接合相手の表面の接合能を高める。表面反応性を高めるために、更なる工程、例えば成形工程、によって、それぞれの接合相手の酸化物層および表面層全般をギザギザにする、または粗面化する、ことも可能である。結合相手の表面近くの領域を凝固させるために、更には高活性面を形成するために、圧延または延伸など、他の工程も使用される。
【0091】
加圧によって、接合される表面同士を大きな面積にわたって互いに密接に接触させる。これにより、他の工程、例えば成形工程、と同時に圧力を加えることもできる。接合は、原子拡散による混合によって接合相手間を接着接合させることによって形成される。これにより、遷移層が形成され、その全体にわたって材料特性の連続的な調整が行われる。加えて、原子拡散を強化できる更なるエネルギーを熱の形態で導入可能である。ただし、熱の追加導入なしに、原子拡散による接着接合を形成することもできる。例えば接合相手同士の押圧による、圧力の導入、および、例えば熱の形態の、更なるエネルギーの導入、を同時に、または複数の異なる時点において、行うことができる。
【0092】
更なるエネルギーの導入によって、遷移層の膨張にも影響を及ぼすことができる。遷移層の膨張は、通常、各接合相手のそれぞれの材料に依存する。電磁鋼帯の材料特性に適切に影響を及ぼすために、膨張ゾーンの拡大および原子拡散の増強を使用できる。例えば、膨張ゾーンの拡大および原子拡散の増強は、複合材料の混合を高めるので、電磁鋼帯の導電率の向上および/または熱伝導率の向上、および寸法安定性の向上を促進できる。
【0093】
加えて、エネルギーおよび熱の導入は、複合材料の微細構造に適切に影響を及ぼすことができる。例えば、例えば少なくとも1つの機能層および/または少なくとも1つの付加層の、材料を再結晶させることができる。例えば少なくとも1つの機能層および/または少なくとも1つの付加層の、材料の凝固度に影響を及ぼすこともできる。
【0094】
上記のプロセスは、例えば、貼り合わせであると理解できる。このようなプロセスを記述するために英語では用語「cladding」を主に使用できる。主に、上記のプロセスは、2つの接合相手の金属結合を一度に形成できる。金属材料と非金属材料、例えば炭素含有材料、との、または非金属材料間の、原子拡散による接着接合も可能である。
【0095】
本方法の好適な一実施形態によると、少なくとも1つの機能層のうちの少なくとも1つ、および/または少なくとも1つの付加層のうちの少なくとも1つ、が熱処理される。熱処理によって、材料特性、特に微細構造、に適切に影響を及ぼすことができる。接合前に、個々のまたはいくつかの層を個別に熱処理できる。または、接合中または接合後に、いくつかの層を一緒に熱処理できる。
【0096】
接合前の個々の層の熱処理は、電磁鋼帯の複数の層のうちの一部、例えば外側に配置される層、のみの材料特性に適切に影響を及ぼす可能性を提供する。したがって、個々の層の微細構造と得られた電磁特性とを適切に変化させることができる。例えば、熱処理は、粒子の更なる成長、または個々の元素、特に合金元素、の析出の形成、をもたらし得る。
【0097】
接合中のいくつかの層の熱処理は、層間の原子拡散を増加させることができるので、接合される各層の接着強度を高めることができる。接合後の熱処理によって、特に微細構造の、更なる調整を行うことができ、これにより、接着強度も更に高めることができる。
【0098】
本方法の更なる好適な一実施形態では、少なくとも1つの機能層と少なくとも1つの付加層とを冷間圧延貼り合わせによって互いに接合する。これにより、電磁鋼帯の製作中、成形プロセスと拡散プロセスの分離が可能である。また、冷間圧延貼り合わせによる複合体を冷間圧延によって均質材のように更に加工できる。
【0099】
冷間圧延貼り合わせ工程では、各接合相手、例えば少なくとも1つの機能層および少なくとも1つの付加層、を最初に前処理できる。ここで、貼り合わされる各材料は、脱脂され、貼り合わせ工程の直前に、一般には鋼線ブラシによるマット仕上げによって、活性化される。材料によっては、活性化が不要であり得る。次のステップでは、接合する複数の層を一緒に冷間圧延する。これにより、材料組み合わせの著しい薄厚化と大幅な伸長とを同時に実現できる。
【0100】
冷間圧延貼り合わせの実施前および/または実施中、少なくとも1つの層が加熱されると、有利であり得る。この場合、50~500℃の温度が好適である。冷間圧延貼り合わせを行う装置を加熱することによる材料の間接加熱によって、予熱を行うこともできる。予熱は、熱間圧延貼り合わせには対応しない。ここで、融点の範囲内の温度が選択されるからである。この予熱温度は、各層の表面の反応性を向上させるので、これらの層は互いにより良好に接合される。この場合、その後に材料の延伸および表面のギザギザ化の故に、冷間圧延中に生じる温度は、例えば最大400℃の範囲内である。冷間圧延中、比圧延材の再結晶温度未満の温度で追加熱することもできる。
【0101】
圧延中に高圧を加えることによって、空気遮断下で接合される層の間に新しい高活性面を形成でき、これらの層を互いに密接に接触させることができる。接着力、機械的連動、および或る時点で既に開始されている接合、によって、被接合層の初期接着を実現できる。
【0102】
貼り合わせ工程の直後、接着焼鈍または拡散焼鈍を実施できる。これにより、熱処理によって原子レベルでの再配置プロセスが活性化または強化され、依然として接着が不完全な層を接合部に変換できる。ただし、材料の組み合わせによっては、貼り合わせ中に生じる接着で既に十分であるので、接着焼鈍を省くことができる。熱処理の場合、発生し得るあらゆる金属間化合物層を回避または極力抑制するために、プロセスパラメータを最適化できる。加えて、貼り合わせ工程によって強く歪み硬化されている可能性がある材料を再結晶させることができる。したがって、材料の更なる加工のために必要な再成形ポテンシャルが回復される。
【0103】
更なる一ステップでは、複合材料を殆どその最終厚まで圧延できる。電磁鋼帯の強度および微細構造を調整するために、更なる熱処理も行われ得る。最終寸法が極薄の場合、全体の変形が大きい故に、いくつかの圧延および/または焼鈍サイクルの実施が必要であり得る。他方、特に最終寸法がより厚い場合は、そのまま貼り合わせて最終厚にし、以降の圧延工程を省くことも可能である。
【0104】
この後に、スキンパス、低度の変形を伴う仕上げ圧延、ならびにストレッチベンディング工程を続けることができる。これにより、軟化焼鈍状態で発生し得る材料複合体のあらゆる限界伸びを除去できる。複数の異なるローラ粗さによって、例えば、表面のレーザ微細構造化(エッチング)によって、または、使用されるローラのレーザ微細構造化(エッチング)によって間接的に、粗面から光輝面まで、または更に等方性表面または構造化表面まで、適切な表面仕上げを同時に設定できる。特に、特定の表面仕上げが重要でない場合は、スキンパスカットを省くこともできる。
【0105】
更に、特に最終工程ステップとして、スリッティングを設けることができる。スリッティングでは、材料が最終幅に条切りされる、および/または縁端部をトリミングされる。
【0106】
本方法の一代替実施形態によると、少なくとも1つの機能層と少なくとも1つの付加層とは、熱間圧延貼り合わせによって互いに接合される。熱間圧延貼り合わせでは、熱延プロセス中に層同士が再結晶閾値より高い温度で接合される。この目的のために、接合される複数の層は、一般に、圧延前に互いに結合されてパッケージを形成し、完全な一単位として熱間圧延される。この接合は、特定の活性化温度を必要とする複数の拡散プロセスによって同時に行うことができる。
【0107】
本方法の別の代替実施形態によると、少なくとも1つの機能層と少なくとも1つの付加層とは、爆発圧着によって互いに接合される。爆発圧着による製造によって、貼り合わせ工程中に熱エネルギーが導入されない。したがって、脆い金属間相の形成を防止できる。
【0108】
上記の方法のそれぞれの実施形態に拘わらず、接合後の電磁鋼帯は、通常、帯状の形態である。本発明による方法の実施後、特に貼り合わせ後、帯状形態の電磁鋼帯を更に加工し、例えば成形し、所定寸法に切断し、接合できる。良好な接着性の故に、均質材のような電磁鋼帯の形成が可能である。一般に、使用される成形工程は、圧延、曲げ、深絞り、ストレッチドローイング、ハイドロフォーミング、またはロールフォーミングである。
【0109】
更に、切断または打ち抜きなどの機械的分離を行える。熱切断プロセスおよびレーザ加工も可能である。更に、化学エッチング、ワイヤ放電加工、またはウォータージェット切断を使用できる。これらプロセスは、再磁化損失の計算におけるkフォームファクタの増加が皆無か微小であるので有利である。特に非着磁性材料、好ましくはアルミニウム含有材料、を備えた付加層を設けると、分離プロセスによって影響される材料特性に関する諸利点を提供することもできる。例えば、アルミニウムまたは他の反応性合金元素を含有する材料など、耐食性材料を備えた付加層を設けると、特に電磁鋼板の切断縁における、腐食を遅らせることができる。
【0110】
個々の電磁鋼帯を結合してパッケージを形成できる。これは、通常、パッケージングと称される。少なくとも部分的に、好ましくは全体が、少なくとも1つの本発明による電磁鋼帯から成るパッケージは、公知の標準化された諸工程における更なる加工をほぼそのまま可能にするので、本発明による方法におそらく従った更なる工程ステップの適合化は不要である。
【0111】
パンチパッキングとして公知の一段工程を設けることもできる。この工程では、電磁鋼帯が打ち抜かれ、スタック上に載置され、スタックに結合される。
【0112】
本発明の更なる諸特徴および諸利点が添付の図面を参照した複数の実施形態例の以下の説明から明らかになるであろう。
【0113】
図面は以下の図を示している。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【
図1A】電磁鋼板の形態の本発明による電磁鋼帯の一実施形態である。
【
図1B】電磁鋼板の形態の本発明による電磁鋼帯の別の実施形態である。
【
図1C】電磁鋼板の形態の本発明による電磁鋼帯の別の実施形態である。
【
図1D】電磁鋼板の形態の本発明による電磁鋼帯の別の実施形態である。
【
図2A】電磁鋼板の形態の電磁鋼帯を製造するための本発明による方法の一実施形態例の複数ステップの概略表現である。
【
図2B】電磁鋼板の形態の電磁鋼帯を製造するための本発明による方法の一実施形態例の複数ステップの概略表現である。
【
図3A】電磁鋼板の形態のさまざまな電磁鋼帯に対する試験結果である。
【
図3B】電磁鋼板の形態のさまざまな電磁鋼帯に対する試験結果である。
【
図4A】電磁鋼板の形態のさまざまな電磁鋼帯についてのヒステリシス測定値である。
【
図4B】電磁鋼板の形態のさまざまな電磁鋼帯についてのヒステリシス測定値である。
【発明を実施するための形態】
【0115】
本発明によるさまざまな実施形態の以下の説明において、同じ機能および同じ動作モードを有する構成要素および要素は、これら構成要素および要素がさまざまな実施形態において寸法または形状が異なっていても、同じ参照符号が付されている。
【0116】
これら実施形態は、電磁鋼板に関する。電磁鋼板は、電磁鋼帯の例として説明されている。
【0117】
最初に、
図1A~
図1Dは、本発明による電磁鋼板2のさまざまな実施形態を示している。
【0118】
図1Aは、強磁性材料製のいくつかの機能層4といくつかの付加層8とが互いに上下に配置された電磁鋼板2の構造を顕微鏡写真の断面図の形態で示している。各機能層4と各付加層8とは、互いに交互に配置されている。
【0119】
機能層4は、鋼種DD11(1.0332)の強磁性熱延鋼で作られている。機能層4の強磁性材料の粒状構造は、粒径が100μm未満であることを特徴とする。多くの粒径は20~50μmの範囲内である。
【0120】
この例において、付加層8は、連続層として設計されており、各機能層4を互いに隔てている。付加層8の非着磁性材料は、銅(Cu)である。
【0121】
ほぼ一定の厚さ(層厚)d1iを有する機能層4を複数備えた電磁鋼板2が示されている。ここで、iは、それぞれの機能層4を示し、1~nの値を取る。nは、存在する機能層4の合計数である。ここで、d11=d12=d13=...=d1nであり、厚さがほぼ一定であるが、製造工程の故に、図の幅にわたって変化している。
【0122】
あるいは、各機能層4を厚さd1iで形成できる。この場合、d11≠d12≠d13≠...≠d1nであり、それぞれ異なる厚さd1iを有する。また、一部の機能層4のみを異なる厚さd1iにできる。他の機能層4をほぼ一定の厚さd1iにできる。同じことは、付加層8の厚さd2iにも当てはまる。
【0123】
図1Aのスケールから分かるように、100μmより大幅に小さい、特に60μm未満の、層厚d
1iおよびd
2iが全体にわたって実現されている。
【0124】
図1Bも、いくつかの機能層4といくつかの付加層8とが同じく互いに上下に配置された電磁鋼板2の構造を顕微鏡写真の断面図によって示している。各機能層4と各付加層8とは互いに交互に配置されている。機能層4もDD11鋼から成る。この例において、付加層8は、非連続層として形成されているので、機能層4間の接触が可能である。特に、この例では、付加層8および機能層4の不規則な形状が明らかに見える。この例の付加層8は、非着磁性材料であるアルミニウム(Al)を有する。強磁性材料の構造は、特に粒子が細かく、機能層4の厚さは、25μm未満であり、付加層の厚さは数μmである。
【0125】
図1Cおよび
図1Dも、いくつかの機能層4といくつかの付加層8とが互いに上下に配置された電磁鋼板2の構造を顕微鏡写真の断面図の形態で示している。各機能層4および各付加層8は互いに交互に配置されている。機能層4は、同じくDD11鋼から成る。この例において、付加層8は特に薄い、且つ部分的に不連続な、層として設計されているので、この例でも機能層4同士の接触が何箇所かで可能である。この図は、機能層4の不均質材料の存在も明らかに見える。個々の機能層4におけるさまざまな階調の灰色は、強磁性材料の組成の変化を示している。
【0126】
機能層4の厚さは、平均で75μm未満である。
図1Cおよび
図1Dに示されている例において、付加層8の非着磁性材料はオーステナイト鋼である。各付加層8は、その厚さが10μm未満と極めて薄いので、選択された解像度の顕微鏡写真では不連続層と見えるかもしれないが、各機能層4の完全な隔離を依然として可能にする。
【0127】
図1A~
図1Dに示されている電磁鋼板2の実施形態の機能層4と付加層8とは、原子拡散による接着接合によって互いに接合されている。特に、
図1Bは、機能層4および付加層8の異種材料の相互拡散を顕微鏡レベルで示している。
【0128】
図2Aおよび
図2Bには、電磁鋼板2を製造するための本発明による方法の一実施形態例の複数のステップが概略表現で示されている。
【0129】
最初に、
図2Aは、冷間圧延貼り合わせ装置18による工程順序を示している。この装置18では、製作される電磁鋼帯2がさまざまな工程ステップによって製造される。これは、例えば、
図1A~
図1Dに示されている実施形態による電磁鋼板2とすることができる。
【0130】
第1の方法ステップ20において、各接合相手が最初に前処理される。ここには、付加層8の材料の前処理が示されている。この第1の方法ステップ20において、表面の脱脂を含む、予洗浄20a、ならびに活性化20bが実施される。活性化20bにおいては、表面が機械的にギザギザにされる。図示の例において、機能層4のために使用される、上方および下方から供給される材料は、活性化されていない。ただし、機能層4のために選択された材料によっては、これを付加的にも行うこともできる。
【0131】
更に、接合される層4、8は、一緒に冷間圧延されることで、大幅に薄厚化される。ここには、材料の1つの付加層8と材料の2つの機能層4との接合が示されている。20cに示されている複数のロールは、接合される層4、8に圧力を加え、層4、8を原子レベルで密接に接触させる。
【0132】
方法ステップ20に示されている各前処理ステップ、すなわち、予洗浄および活性化、を付加的に実施することも、あるいは、選択された材料によっては、機能層4の材料および付加層8の材料にのみ、層4、8の接合前に、前処理しないことも可能である。したがって、
図2Aに示されている方法ステップ20のために、付加層8の材料を機能層4の材料に置き換え、この材料の付加層8との接合前に、この材料の機能層4に前処理を実施する方法を提供することもできる。
【0133】
図2Bは、原子拡散14による接着接合12によって形成された電磁鋼帯2の拡大断面図を示す。接合される機能層4および付加層8のそれぞれの材料の接着接合12は、第1の方法ステップ20において既に開始されている。材料の組み合わせによっては、電磁鋼帯2にはこの接着接合12で既に十分である。
【0134】
図2Aによると、更なる方法ステップ22は、拡散焼鈍としても公知の、接着焼鈍を伴う。接着焼鈍においては、熱処理によって更なる再配置プロセス14が原子レベルで活性化または強化されるので、依然として接着が不完全な層4、8を接合部に変換できる。ただし、材料の組み合わせによっては、貼り合わせ中に生じる接着で既に十分であるので、接着焼鈍を省くことができる。これは、冷間圧延または熱間圧延のどちらが使用されたかに拘わらず、貼り合わせ中に拡散接合が既に生じていることによる。
【0135】
接着焼鈍後、次のステップ24で電磁鋼帯2の更なる圧延が行われ、電磁鋼帯2はほぼ最終厚まで圧延される。加えて、電磁鋼板2の強度および構造特性を調整するために、ベル焼鈍とも称される、更なる熱処理を以降のステップ26で行うことができる。特に、最終寸法が極めて薄い場合は、方法ステップ24、26を数回行うことができる。ただし、特に、最終寸法がより厚い場合は、1回の圧延/焼鈍サイクル24、26で十分であり得る。
【0136】
図2Aは、更なる方法ステップ28、すなわちスキンパス圧延、を示している。これは、低度の変形による仕上げ圧延を意味し、軟化焼鈍状態において発生し得る降伏点の如何なる延伸も複合材料32から除去できる。このステップ28では、複数の異なるロール粗度による圧延によって、電磁鋼板2の適切な表面仕上げを同時に設定できる。この図に示されている最後の方法ステップ30はスリッティングであり、複合材料32はその最終幅に細長く切断される。
【0137】
図3Aおよび
図3Bは、さまざまな電磁鋼板についての試験結果を表の形態で示している。これらの表では、本発明による電磁鋼板2の複数の実施形態が従来技術の基準鋼板と比較されている。基準鋼板R1、R2は、DD11鋼製である。基準鋼板R1は、製造後、約670℃で熱処理されている。基準鋼板R2は、製造後、約1000℃で熱処理されている。
【0138】
図3Aの表では、本発明による電磁鋼板E1、E2、オーステナイト1、およびオーステナイト2の実施形態および基準R1について、材料パラメータ、導電率κ、材料密度ρ、および電磁鋼板のそれぞれの組成、が最初に与えられている。これらから、個々の層にわたる算術平均として材料パラメータが計算される。
【0139】
基準は、板厚0.5mmの単一の機能層から成るが、電磁鋼板E1、E2、オーステナイト1、およびオーステナイト2は、それぞれ16層から成る。すなわち、各10μm厚の8つの付加層と各53μm厚の8つの機能層とから成る。E1で示されている電磁鋼板は、
図1Aに示されているような構造と組成とを有する。電磁鋼板E2、オーステナイト1、およびオーステナイト2は、
図1B、
図1C、および
図1Dにそれぞれ対応する。列挙されている全ての電磁鋼板は、列5に示されているように、総厚または板厚が0.5mmである。
【0140】
各機能層は、基準R1、R2との比較可能性を保証するために、上記のようにDD11鋼製である。
【0141】
更に、
図3Aの表は、本発明による電磁鋼板2の各実施形態によって渦電流損失の低減を示すために役立つ。
図3Aの表の列6には、それぞれの電磁鋼板2について算出された渦電流損失係数k
eddie=κ
*d
2/(6
*ρ)が示されている。これは、P
eddie=k
eddie(B
maxfπ)
2による材料固有の渦電流損失を示している。特に、この表の列7には、実現された電磁鋼板E1、E2、オーステナイト1、およびオーステナイト2の渦電流損失の低減が基準R1と比較して示されている。これら電磁鋼板は、渦電流損失を大幅に、平均で90%、低減できることが明らかである。この低減は、特に、60μm未満という個々の機能層の厚さの薄さに帰することができる。
【0142】
図3Bの表は、本発明による電磁鋼板E1、E2の実施形態、オーステナイト1、およびオーステナイト2、によって実現されたヒステリシス損失を、基準材料R1、R2製の電磁鋼板によって実現されたヒステリシス損失と比較している。この表は、材料固有の数量である、材料密度ρ、測定された保磁力H
c、およびそれぞれの電磁鋼板の周波数1kHzおよび10kHzで測定されたヒステリシス損失を比較している。
【0143】
この表の列7および列8は、周波数1kHzにおける基準R1に対する、および10kHzにおける基準R2に対する、電磁鋼板E1、E2、オーステナイト1、およびオーステナイト2によって実現されたヒステリシス損失の低減を示している。電磁鋼板E1、E2、オーステナイト1、およびオーステナイト2の各々について、ヒステリシス損失が低減されている。周波数1kHzでは、少なくとも14%から最大34%の低減を実現でき、周波数10kHzにおいては、1%から最大43%の低減を実現できている。
【0144】
ヒステリシス損失を低減するには、Physt=(kH4HCBmaxf)/ρによると有利である。保磁力Hcを低減し、材料密度ρを高めることが有利である。本実験において分かったことは、原子拡散14による接着接合12によって層間が接続された本発明による電磁鋼板2を使用することによって、および本発明による付加層8を設けることによって、一方では、ここでE2、オーステナイト1、およびオーステナイト2について示されている、保磁力Hcの低減によって、ヒステリシス損失を低減できる。加えて、ここでE1に示されている保磁力Hcが基準値より上昇しているにも拘わらず、ヒステリシス損失を大幅に低減できている。この低減は、材料密度ρの算術平均の増加だけによるものではない。
【0145】
機能層4と付加層8とが原子拡散14による接着接合12によって接続された本発明による電磁鋼板2によって、および本発明による機能層4の厚さが薄い個々の機能層4を分離するために本発明による付加層8を設けることによって、複合材料の内部の構造プロセスの故のヒステリシス損失を低減する効果も実現可能である。例えば、複数の内部基本構造、すなわち複数の磁区、の変化したアライメントのために必要なエネルギーが低減される。この効果は、電磁的に関連する再磁化効果において有効な材料密度の上昇として見ることができる。
【0146】
図4Aおよび
図4Bは、さまざまな電磁鋼板についてのヒステリシス測定を示している。
図4Aは、上で説明した本発明による電磁鋼板2の実施形態E1、E2で測定されたヒステリシスループ34、36をDD11鋼製の単層基準鋼板R3、R4について測定されたヒステリシスループ38、40と比較している。基準鋼板R3は、約600℃で熱処理されており、基準鋼板R4は、ミルハードン材であり、熱処理されていない。両基準鋼板も板厚は0.5mmである。
【0147】
図4Bでは、上で説明したような、本発明による電磁鋼板2のオーステナイト1およびオーステナイト2の実施形態で測定されたヒステリシスループ42、44が、上で説明した基準鋼板R1について測定されたヒステリシスループ46と比較されている。
【0148】
図4Aおよび
図4Bに示されている全てのヒステリシスループ34、36、38、40、42、44、46は、周波数1kHzで測定された。
【0149】
ヒステリシス損失は、描かれたそれぞれのヒステリシスループの面積に比例するので、本発明による電磁鋼板E1、E2、オーステナイト1、およびオーステナイト2の実施形態についてのそれぞれのグラフで測定されたヒステリシス損失が基準電磁鋼板R1、R3、R4より低いことが、これらの図から分かる。
【0150】
特に、値がPhyst=1647W/kgであるE2について測定されたヒステリシス損失は、他の全ての測定値に比べ、著しく低減可能である。E1について測定されヒステリシス損失Physt=2280W/kg、オーステナイト1について測定されたPhyst=2121W/kg、およびオーステナイト2について測定されたPhyst=2131W/kgも、基準材料R1の測定値Physt=2556W/kg、R3の測定値Physt=2436W/kg、およびR4の測定値Physt=2732W/kgより低い。
【0151】
示されている全ての測定値は、上記の本発明の実施形態による電磁鋼板2によってヒステリシス損失および渦電流損失の両方の低減が実現されることを明らかにしている。本発明による電磁鋼板2を電磁部品に使用すると、一方では機能層4および付加層8の適切な材料選択によって、他方では適切な材料設計によって、特に機能層4の薄厚化によって、再磁化損失が全体として著しく低減される。これは、特に可変に組み合わせ可能な層厚と可変な材料選択とによって、電磁部品のエネルギー変換の最適化を可能にし、電磁部品のより融通性の高い設計を可能にする。
【0152】
図4Aおよび
図4Bに示されているヒステリシス曲線の絶対値は、例として理解されたい。複数の異なる強磁性を有する鋼鉄が基準材料および本発明による電磁鋼板の機能層に使用される場合、他の絶対着磁値がもたらされ得るが、ヒステリシス曲線の相対コースおよび説明した諸改良点が他の鋼鉄でも同様に生じる。