IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本冶金工業株式会社の特許一覧

特許7542763内部品質に優れたニッケル合金、合金板およびその製造方法
<>
  • 特許-内部品質に優れたニッケル合金、合金板およびその製造方法 図1
  • 特許-内部品質に優れたニッケル合金、合金板およびその製造方法 図2
  • 特許-内部品質に優れたニッケル合金、合金板およびその製造方法 図3
  • 特許-内部品質に優れたニッケル合金、合金板およびその製造方法 図4
  • 特許-内部品質に優れたニッケル合金、合金板およびその製造方法 図5
  • 特許-内部品質に優れたニッケル合金、合金板およびその製造方法 図6
  • 特許-内部品質に優れたニッケル合金、合金板およびその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】内部品質に優れたニッケル合金、合金板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/03 20060101AFI20240823BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20240823BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20240823BHJP
   B22D 11/108 20060101ALI20240823BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
C22C19/03 Z
C22F1/10 A
C22B23/02
B22D11/108 F
C22F1/00 623
C22F1/00 630M
C22F1/00 630K
C22F1/00 630J
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 694A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024001361
(22)【出願日】2024-01-09
【審査請求日】2024-02-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232793
【氏名又は名称】日本冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】桐原 史明
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-132934(JP,A)
【文献】特開2023-057398(JP,A)
【文献】特開2011-012330(JP,A)
【文献】特開2009-024241(JP,A)
【文献】特開2004-285371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/03
C22F 1/10
C22B 23/02
B22D 11/108
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni:99.00mass%以上、C:0.001~0.020mass%、Si:0.01~0.30mass%、Mn:0.01~0.30mass%、P:0.001~0.015mass%、S:0.0001~0.0030mass%、Al:0.001~0.130mass%、Fe:0.40mass%以下、O:0.0003~0.0050mass%、Mg:0.003~0.030mass%、B:0.0001~0.0050mass%、H:0.0030mass%以下であり、残部が不可避的不純物から成ることを特徴とする内部品質に優れるニッケル合金。
【請求項2】
前記ニッケル合金中のH、P、S、Mgの化学成分(mass%)から計算される式1および式2で示される下記関係式のうち、いずれか少なくとも一方を満たしていることを特徴とする請求項1に記載の内部品質に優れるニッケル合金。
(20×H)×(2×P+10×S+3×Mg)×10≦15.0 …(式1)
(25×S+3×Mg)÷H≧28.0 …(式2)
【請求項3】
前記関係式のうち、前記式1および前記式2の両方を満たしていることを特徴とする請求項2に記載の内部品質に優れるニッケル合金。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のニッケル合金からなる内部品質に優れるニッケル合金板の製造方法であって、連続鋳造機により鋳造されたニッケル合金のスラブの鋳造方向と垂直な断面において、厚み中心から1/5厚みの範囲に存在するポロシティーのサイズが円相当直径にて、いずれも5.0mm以下であり、かつ円相当直径にて0.5mm以上のポロシティーの合計面積率(=ポロシティー面積合計/検査面積×100)が、0.60%以下であることを特徴とするスラブを製造し、続けて熱間圧延または熱間圧延および冷間圧延を実施し、連続鋳造機により鋳造したスラブの厚みと、前記スラブを熱間圧延後のニッケル合金板の厚みから計算される圧下率(=(スラブの厚み―ニッケル合金板の厚み)/スラブの厚み×100)が97.0%以上であることを特徴とする内部品質に優れるニッケル合金板の製造方法
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のニッケル合金の製造方法であって、電気炉にて原料を溶解し、次いで、電気炉および/またはAODおよび/またはVODにおいて脱炭し、水分量を0.20mass%以下に乾燥した石灰および蛍石を投入し、CaO-SiO-Al-MgO-F系スラグを作製し、さらに、Siおよび/またはAlを投入し、脱酸、脱硫を行い、LFにてAr攪拌による介在物浮上を促しながら温度および成分調整をした後、水分量0.20mass%以下の連続鋳造用モールドパウダーを使用し連続鋳造でスラブを製造することを特徴とする内部品質に優れニッケル合金の製造方法。
【請求項6】
電気炉にて原料を溶解し、次いで、電気炉および/またはAODおよび/またはVODにおいて脱炭し、水分量を0.20mass%以下に乾燥した石灰および蛍石を投入し、CaO-SiO-Al-MgO-F系スラグを作製し、さらに、Siおよび/またはAlを投入し、脱酸、脱硫を行い、LFにてAr攪拌による介在物浮上を促しながら温度および成分調整をした後、水分量0.20mass%以下の連続鋳造用モールドパウダーを使用し連続鋳造でスラブを製造し、続けて熱間圧延または熱間圧延および冷間圧延を実施することを特徴とする請求項4に記載の内部品質に優れニッケル合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、Ni含有量が99.00mass%以上含有するニッケル合金およびこれを用いたニッケル合金板に関するものであり、ニッケル合金の微量成分であるP、Mg、S、Hなどを精緻に制御し、連続鋳造で鋳造したニッケル合金スラブの断面におけるポロシティー量を低減した内部品質に優れたニッケル合金、ニッケル合金板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Niを99.00mass%以上含有するニッケル合金は、優れた耐食性を有しており、また耐熱性も有していることから、化学工業や電子部品材料、航空宇宙産業など、幅広い分野に使用されている合金である。ここで、ニッケル合金の主要成分を占めるニッケルは、鉄と比較すると、非常に高価な金属であるため、歩留を向上させることは、製造コストを抑えるうえで非常に重要である。連続鋳造工程において、不可避的に発生するセンターポロシティーを起因とする空隙欠陥は、打ち抜き加工や切削加工、溶接加工などを行う場合、加工時に割れの起点になるなど、最終の製品品質および歩留に大きな影響を与える場合がある。
【0003】
ここで、高い歩留を有するニッケル合金の製造方法はいくつか開示されている。
特許文献1では、ホウ素を4~100ppm含有させ、さらに冷間圧延にて、各パスの平均圧力を制御することにより高い生産性と歩留を有したニッケル冷間圧延コイルを得る技術が記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、非金属介在物組成を制御し、MgO・Al介在物の個数を抑制することにより、表面品質に優れたニッケル合金板を製造する技術が公開されている。
【0005】
しかしながら、上記技術はいずれも表面品質に着目したものであり、特に内部品質が重要な用途に対しては適していない。
【0006】
また、内部品質、特に空隙欠陥を改善する技術も開示されている。特許文献3では、C≦0.18%の溶鋼を連続鋳造する際、鋳片の中心部の固相率が90~98%の部分を、圧下ロールにて、2~5%の圧下加工率で1回圧下することにより、内部品質に優れた連続鋳造鋳片の製造方法を開示している。
【0007】
特許文献4は、クロム含有溶鋼を連続鋳造する際、鋳片の表面温度およびロール反力から、鋳片の圧下を開始する位置を決定し、適切に圧下することにより、内部品質に優れた溶鋼クロム含有溶鋼を製造する技術である。
【0008】
しかしながら、上記技術はFeを主成分とするFe基合金に関するものであるため、本願が対象としているNiを99.00mass%以上含有するニッケル合金には適用できない。また、これらのFe基合金は、Fe以外にも他成分を多く含有しているのに対し、Niを99.00mass%以上含有しているニッケル合金においては、凝固や偏析の挙動が大きく異なり、センターポロシティー起因の空隙欠陥の生成および圧着挙動に大きな影響を及ぼす。すなわち、ニッケル合金における内部品質に関する問題は、まだ残ったままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5246547号公報
【文献】特許第7015410号公報
【文献】特開平7-80615号公報
【文献】特開平11-123517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の問題に鑑み、本願発明では、内部品質に影響を及ぼすポロシティーすなわち空隙欠陥を無害化し、内部品質の優れたニッケル合金を製造する方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた。まず、本願発明者らは、Niを99.00mass%以上含有するニッケル合金スラブおよびニッケル合金板の内部品質を評価した。図1に示すように、本願発明者らは、連続鋳造で造塊した200mmt厚みのニッケル合金スラブ1を切断しサンプルを採取し、鋳込み方向垂直のスラブ断面(内部品質調査面2)のサンプルを鏡面研磨した。粒子解析機能を有するSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて200倍の倍率でサンプルの鏡面研磨した全面に存在するポロシティーの円相当直径、個数、面積を測定した。同時にEDS(エネルギー分散型X線分光法)による元素分析を行い非金属介在物とポロシティーの区別も行った。ここで円相当直径とは不定形なポロシティーの面積から計算した同じ面積を持つ円相当の直径のことである。
【0012】
さらに、これらのニッケル合金スラブを熱間圧延および冷間圧延を実施し、厚み1mmtのニッケル合金板を製造し、超音波探傷試験(UT)を実施し、内部欠陥の発生量も調査した。そして、内部欠陥部のサンプルを採取し、断面をSEMおよびEDSにより内部欠陥の形状、異物の有無を調査した。さらにSIMS(二次イオン質量分析装置)を用いて水素のような軽元素が内部欠陥周辺に存在していないかも調査した。また、内部欠陥部のサンプルの表面から直径が1mmφのドリルで穴を開け、内部欠陥から放出されたガスを回収し、ガス成分の分析も実施した。
【0013】
調査の結果、スラブ断面の厚み中心から1/5厚みの範囲にはポロシティーが存在し、厚み1mmtのニッケル合金板の超音波探傷試験で検出された内部欠陥は、いずれもポロシティーを起因とした欠陥であり、空隙部には水素を主とするガスが存在していることが明らかとなった。この欠陥の一例を図2に示す。図2に示すように、ニッケル合金板のポロシティーは厚さ1μm程度の隙間があり、ポロシティーのごく近傍の領域にて、Mg、P、S、Hが濃化している様相が観察された。ここで、ニッケル合金板にはCaO-SiO-Al-MgO-MnO系、CaO-Al系、MgO系、CaO系の非金属介在物も検出されたが、数μm程度の微細な大きさでかつ数も少ないため、ニッケル合金板の打ち抜き加工、切削加工、溶接加工などに影響を与えるものではない。後述するが、Alすなわちアルミナ系介在物は、クラスター化し粗大になり、コイル表面でヘゲ疵を生じさせるため、避けるべき酸化物系介在物である。
【0014】
上記の結果より、超音波探傷試験で検出されるニッケル合金板の内部欠陥の生成機構を以下のように考察した。図3、4に示すように、ニッケル溶湯を連続鋳造機で鋳造時にスラブ1の厚み中心部付近の最終凝固位置3で発生する引け巣(ポロシティー)4は凝固収縮によって負圧の状態になっており、凝固直後のニッケル合金に溶存している不純物成分であるHが、ガスとなり引け巣(ポロシティー)4の内部に放出され充満する。ここで、ニッケル溶湯の液相線温度の約1450℃で高い蒸気圧を持つMg、P、Sは、Hと同様に、凝固直後(図4(a))のニッケル合金に溶存している状態(図中、元素のアンダーバーは溶存状態を表す)からポロシティー4内部にガスとして放出される。さらに、常温までスラブが冷却されると(図4(b))、Mg、P、Sは固相が安定な状態となる為、ポロシティー内面に付着することになる。
【0015】
その後、図5、6に示すように、熱間圧延時にスラブ内部のポロシティー4はニッケル合金とともに厚み方向につぶされる。図5に示すようにポロシティー内面にMg、P、Sの偏析元素が存在しない場合、ポロシティーの内圧が高まるにつれて水素ガスはニッケル合金中に拡散していき、最終的にはニッケル合金が完全に圧着し、ポロシティーが消滅する。しかしながら、図6に示すようにポロシティー内面にMg、P、Sの偏析元素が存在している場合、Mg、P、SはHより原子半径の大きい元素のため、ニッケル合金中へ拡散しづらく、水素ガスのニッケル合金中への拡散の障壁となり、結果として、厚みが1μm程度の水素ガスのポロシティー4がNi合金板に存在したままになり、ポロシティー4の周りにMg、P、Sの偏析5が検出されることになる。
【0016】
さらに本願発明者らは、微量なMgが、ニッケル合金中でMgHまたはMgNiHの形態でHと微細な化合物を形成し 、Hを固着することによりスラブ厚み中心部付近へ偏析するHを減少させる効果があることも発見した。
【0017】
さらに本願発明者らは、図7に示すように、微量なSが、スラブ厚み中心部付近の最終凝固位置3で発生する引け巣(ポロシティー)4の粗大化を抑制する効果を発見した。Sはニッケル溶湯の凝固過程(半溶融の約1450℃)で固相側から液相側に放出されやすく、デンドライト樹幹や粒界で濃化し、熱間加工性を悪化させる元素である。スラブ厚み中心部付近の最終凝固位置3は凝固収縮によって負圧の状態により、引け巣(ポロシティー)4を生成するが、Sはニッケル溶湯の表面張力を低下させる効果があり、凝固しかけた半溶融のニッケル溶湯の流動性を上げ、引け巣に流れ込むことにより、引け巣(ポロシティー)4の粗大化を抑制する効果があることを発見した。結果として、微細な引け巣(ポロシティー)の数は増加するが、ポロシティーの粗大化を抑制する効果がある。この現象は、上述したHなどのガス成分が引け巣(ポロシティー)の内部に放出され充満する前の出来事である。
【0018】
本願発明者らは、さまざまな成分および様々な操業条件で製造したニッケル合金スラブ、ニッケル合金板の内部品質を調査し、多量のデータの解析を行い、超音波探傷試験で内部欠陥が検出されないニッケル合金板すなわちポロシティー量を低減した内部品質に優れたニッケル合金板を得るための各成分および各種操業条件との関連について発見し、上述の鋭意研究から得られた知見も加味し本願発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明の内部品質に優れるニッケル合金は、Ni:99.00mass%以上、C:0.001~0.020mass%、Si:0.01~0.30mass%、Mn:0.01~0.30mass%、P:0.001~0.015mass%、S:0.0001~0.0030mass%、Al:0.001~0.130mass%、Fe:0.40mass%以下、O:0.0003~0.0050mass%、Mg:0.003~0.030mass%、B:0.0001~0.0050mass%、H:0.0030mass%以下であり、残部が不可避的不純物から成ることを特徴とする。
【0020】
本発明のニッケル合金においては、ニッケル合金中のH、P、S、Mgの化学成分(mass%)から計算される式1および式2で示される下記関係式のうち、いずれか少なくとも一方を満たしていることを好ましい態様とする。
(20×H)×(2×P+10×S+3×Mg)×10≦15.0 …(式1)
(25×S+3×Mg)÷H≧28.0 …(式2)
【0021】
本発明のニッケル合金においては、前記関係式のうち、前記式1および前記式2の両方を満たしていることを好ましい態様とする。
【0022】
本発明の内部品質に優れるニッケル合金板の製造方法は、前記ニッケル合金からなるニッケル合金板の製造方法であって、連続鋳造機により鋳造されたニッケル合金のスラブの鋳造方向と垂直な断面において、厚み中心から1/5厚みの範囲に存在するポロシティーのサイズが円相当直径にて、いずれも5.0mm以下であり、かつ円相当直径にて0.5mm以上のポロシティーの合計面積率(=ポロシティー面積合計/検査面積×100)が、0.60%以下であることを特徴とするスラブを製造し、続けて熱間圧延または熱間圧延および冷間圧延を実施し、連続鋳造機により鋳造したスラブの厚みと、前記スラブを熱間圧延後のニッケル合金板の厚みから計算される圧下率(=(スラブの厚み―ニッケル合金板の厚み)/スラブの厚み×100)が97.0%以上であることを特徴とする。
【0024】
また、前記記載の本発明の内部品質に優れるニッケル合金の製造方法は、電気炉にて原料を溶解し、次いで、電気炉および/またはAODおよび/またはVODにおいて脱炭し、水分量を0.20mass%以下に乾燥した石灰および蛍石を投入し、CaO-SiO-Al-MgO-F系スラグを作製し、さらに、Siおよび/またはAlを投入し、脱酸、脱硫を行い、LFにてAr攪拌による介在物浮上を促しながら温度および成分調整をした後、水分量0.20mass%以下の連続鋳造用モールドパウダーを使用し連続鋳造でスラブを製造することを特徴とする。
【0025】
また、前記記載の本発明の内部品質に優れるニッケル合金板の製造方法は、電気炉にて原料を溶解し、次いで、電気炉および/またはAODおよび/またはVODにおいて脱炭し、水分量を0.20mass%以下に乾燥した石灰および蛍石を投入し、CaO-SiO-Al-MgO-F系スラグを作製し、さらに、Siおよび/またはAlを投入し、脱酸、脱硫を行い、LFにてAr攪拌による介在物浮上を促しながら温度および成分調整をした後、水分量0.20mass%以下の連続鋳造用モールドパウダーを使用し連続鋳造でスラブを製造し、続けて熱間圧延または熱間圧延および冷間圧延を実施することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明のニッケル合金スラブの内部品質調査面を示す模式断面図である。
図2】ニッケル合金板の超音波探傷で検出された内部欠陥の画像である。
図3】本発明のニッケル合金スラブにおける最終凝固位置を示す模式断面図である。
図4】最終凝固位置における引け巣(ポロシティ―)の模式断面図であり、(a)は凝固直後、(b)は冷却後を示す。
図5】Mg、P、Sの偏析が無い場合における引け巣(ポロシティ―)の圧延に伴う機構(ポロシティー圧着)を示す模式断面図である。
図6】Mg、P、Sの偏析がある場合における引け巣(ポロシティ―)の圧延に伴う機構(ポロシティー残存)を示す模式断面図である。
図7】Sの偏析による引け巣(ポロシティー)粗大化抑制機構を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
まず、本願発明のニッケル合金板の化学成分限定理由を示す。
Ni:99.00mass%以上
ニッケル合金の主要成分であり、耐海水性や耐アルカリ性、特に苛性ソーダおよび塩素ガスに対する耐食性を発現する上で必要不可欠である。そのため、本願発明では99.00mass%以上とした。好ましくは99.10mass%以上であり、より好ましくは99.20mass%以上である。
【0029】
C:0.001~0.020mass%
Cは、過剰に存在していると、430~650℃の温度範囲で黒鉛として粒界に析出し、脆化の原因となるため、0.020mass%以下に制御する必要がある。逆にCは強度を向上させる効果があり、ニッケル合金板としての引張り強度および耐力を確保するためには、0.001mass%以上必要である。そこで、本願発明では、Cの含有量を0.001~0.020mass%とした。好ましくは、0.003~0.018mass%であり、より好ましくは、0.005~0.015mass%である。
【0030】
Si:0.01~0.30mass%
Siは、脱酸に有効な元素であり、Siを0.01mass%以上含有すると、脱酸効果を得ることができる。一方、Siの含有量が0.30mass%超だと、Ni:99.00%以上を確保するのが困難となる。そこで、本願発明では、Siの含有量を0.01~0.30mass%と定めた。この範囲内で好ましくは、0.03~ 0.25mass%である。より好ましくは、0.05~0.20mass%である。
【0031】
Mn:0.01~0.30mass%
Mnは、Siと同様に脱酸に有効な元素であり、Mnの量が0.01mass%以上含有すると、脱酸効果を得ることができる。一方、0.30mass%超だと、Ni:99.00%以上を確保するのが困難となる。そこで、本願発明では、Mnの含有量を0.01~0.30mass%と定めた。好ましくは、0.02~0.28mass%である。より好ましくは、0.03~0.25mass%である。
【0032】
P:0.001~0.015mass%
Pは、ニッケル溶湯の凝固時に偏析しやすい元素であり、0.015mass%を超えるとスラブ厚み中心に濃化したPが、水素ガスの拡散の障壁となり、ポロシティーの圧着を阻害し、さらに熱間加工性も悪化させる。ここで、本願対象のNiを99.00mass%以上含有しているニッケル合金は高温での延性が優れる合金であり、逆に言えば高温でのせん断加工性が乏しい合金でもあるため、熱間圧延の仕上げ圧延時前に、先後端のクロップをシャーリングマシンにて切断する時の切り残しが発生し、熱間圧延の継続が困難となる。本願発明者らは、Pを0.001mass%以上含有することで、99.00mass%以上含有しているニッケル合金でも熱間圧延時のせん断加工性が確保されることを見出した。このため、Pの含有量を0.001~0.015mass%とした。好ましくは、0.002~0.012mass%であり、より好ましくは0.003~0.010mass%である。
【0033】
S:0.0001~0.0030mass%
Sは、粒界に偏析し、熱間加工性を悪化させ、熱間圧延時の割れを引き起こす要因となるため、0.0030mass%以下に制御する必要がある。さらにSはニッケル溶湯の凝固時に偏析しやすい元素であり、0.0030mass%を超えると板厚中心に濃化したSが、水素ガスの拡散の障壁となり、ポロシティーの圧着を阻害する。また、Sは上述の通り、ポロシティー粗大するのを防止する効果があり、その効果を得るためには、Sが0.0001mass%以上が必要となる。このため、Sの含有量は0.0001~0.0030mass%と定めた。好ましくは0.0002~0.0020mass%であり、より好ましくは、0.0003~0.0010mass%である。
【0034】
Al:0.001~0.130mass%
Alは、脱酸元素であり、Alの含有量が0.001mass%未満では、脱酸が十分に働かず、O濃度が0.0050mass%を超えて高くなり、酸化物系介在物の個数が多くなり、表面欠陥の原因となる。一方、0.130mass%を超えると、Ni:99.00%以上を確保するのが困難となるだけでなく、酸化物系介在物が粗大なアルミナクラスターとなり表面欠陥の原因となる。そのため、Al含有量は0.001~0.130mass%と定めた。好ましくは、0.005~0.100mass%、より好ましくは、0.010~0.080mass%である。
【0035】
Fe:0.40mass%以下
Feは、不可避的に混入する成分であり、ニッケル合金において不純物であり、極力低いことが望ましい。そのため、0.40mass%以下と定めた。好ましくは0.35mass%以下であり、より好ましくは0.30mass%以下である。
【0036】
Mg:0.003~0.030mass%
Mgは、ニッケル合金中でMgHまたはMgNiHの形態でHと化合物を形成し、Hを固着することで、スラブ厚み中心部付近へ偏析するHを減少させる効果がある。0.003mass%以上であるならば、これらの効果は発現される。一方で、上述したとおり、Mgはニッケル溶湯の凝固時に偏析しやすい元素であり、0.030mass%を超えると板厚中心に濃化したMgが、水素ガスの拡散の障壁となり、スラブ厚み中心部付近のポロシティーの圧着を阻害する。そのため、Mg含有量は、0.003~0.030mass%と規定した。好ましくは、0.005~0.025mass%である。より好ましくは、0.007~0.020mass%である。
【0037】
O:0.0003~0.0050mass%
Oは、ニッケル合金中に0.0050mass%を超えて存在すると、酸化物系介在物の量が多くなり、表面性状に悪影響を及ぼすだけでなく、ニッケル合金板の加工時の割れの起点にもなる。さらに、脱硫を阻害し、ニッケル溶湯中のS濃度が0.0030mass%を超えてしまう。逆に、0.0003%未満と低くなると、脱酸元素であるAlが0.130mass%を超える制御となり、酸化物系介在物が粗大なアルミナクラスターとなり表面欠陥の原因となる。そのため、O含有量は、0.0003~0.0050mass%と規定した。好ましくは0.0004~0.0040mass%であり、より好ましくは0.0005~0.0030mass%である。
【0038】
B:0.0001~0.0050mass%
Bは熱間加工性を向上させる成分である。0.0001mass%未満では効果を発揮せず、逆に0.0050mass%を超えるとホウ素化合物(ボライド)を形成し、耐食性や加工性の悪化を引き起こす。そのため、0.0001~0.0050mass%とした。好ましくは0.0003~0.0040mass%であり、より好ましくは0.0005~0.0030mass%である。
【0039】
H:0.0030mass%以下
Hは、ニッケル合金板のポロシティー内部に存在するガス成分であり、製鋼工程で使用する石灰などの副資材中の水分および大気中の水分より混入する。上述の通り、ニッケル溶湯を連続鋳造機で鋳造時にスラブ厚み中心部付近の最終凝固位置で発生する引け巣(ポロシティー)は凝固収縮によって負圧の状態になっており、ニッケル溶湯中に溶存している水素が、ガスとなり引け巣(ポロシティー)の内部に放出され充満する。Hが0.0030mass%を超えると、大型のポロシティーが生成しやすくなり、さらにポロシティーの数も増加し、熱間圧延または熱間圧延および冷間圧延にて製造さられるニッケル合金板の内部にポロシティーが残存する。そのため、本願発明では、0.0030mass%以下とした。好ましくは0.0020mass%であり、より好ましくは0.0010mass%以下である。いかにして、H:0.0030mass%以下を達成するかを以下に記述する。精錬工程で使用する石灰および蛍石は水分量0.2mass%以下を使用することが好ましい。さらに、真空脱ガス工程でHを0.0010mass%以下に低下させ、さらに、連続鋳造時のタンディッシュは水分濃度が1vol.ppm以下のArまたはNガスでシールし、大気と溶融ニッケル合金が接触すること防ぎ、さらに連続鋳造で使用するモールドパウダーは水分量0.2mass%以下のパウダーを使用し溶融ニッケル合金のHの増加を防止することが、好ましい。
【0040】
(20×H)×(2×P+10×S+3×Mg)×10 ≦15.0 …(式1)
(25×S+3×Mg)÷H≧28.0 …(式2)
上述のようにHは、ニッケル合金板のポロシティー内部に存在するガス成分であり、ニッケル合金板の内部品質に最も影響する成分である。また、P、S、Mgはポロシティー内部に存在する水素ガスの拡散の障壁となる。しかしながら、微量のS、Mgはポロシティーが粗大するのを防止する効果およびHを固着することで、スラブ厚み中心部付近へ偏析するHを減少させる効果がある。本願発明者らは、Ni合金中のH、P、S、Mgの内部品質への影響度合いを係数で考慮し、多数のニッケル合金板の内部品質と照らし合わせることで、本願発明のニッケル合金板の化学成分範囲内において、Ni合金中のH、P、S、Mgの化学成分(mass%)から計算される式1および式2の左辺が、式1または/および式2の右辺の条件を満たしていることが、ニッケル合金板の内部品質に好ましい範囲であることを導き出した。
(20×H)×(2×P+10×S+3×Mg)×10≦15.0 …(式1)
(25×S+3×Mg)÷H≧28.0 …(式2)
【0041】
スラブ断面におけるポロシティー
本願発明では、連続鋳造機により鋳造されたスラブの鋳造方向と垂直な断面において、厚み中心から1/5厚みの範囲に存在するポロシティーのサイズが円相当直径にて、いずれも5.0mm以下であり、かつ円相当直径にて0.5mm以上のポロシティーの合計面積率(=ポロシティー面積合計/検査面積×100)が、0.60%以下であることを特徴とするスラブを製造し、続けて熱間圧延または熱間圧延および冷間圧延を実施することを好ましい様態としている。以下、その制限理由の根拠を示す。
【0042】
スラブ厚み中心から1/5厚みの範囲に存在するポロシティーのサイズが円相当直径にて5.0mm以下
連続鋳造の最終凝固位置において不可避的に発生するポロシティーは、そのまま残存すると最終製品における内部欠陥の原因となる。このポロシティーは、熱間圧延工程にてニッケル合金が圧延されるにつれてポロシティー厚みも小さくなり圧着が進行するが、スラブ時点のポロシティーが粗大であると圧着しきれず、最終製品での欠陥として残存する。本願発明者らは、多数のスラブの断面に存在するポロシティーと熱間圧延または熱間圧延および冷間圧延を実施したニッケル合金板の超音波探傷での内部欠陥の調査から、スラブ時点にて、検出されるポロシティーのサイズが円相当径にて、5.0mmより大きいものは、熱間圧延で圧着せず、最終製品にて、欠陥となることを見出した。そのため本願では、スラブ時点で検出される欠陥のサイズを、円相当径にて5.0mm以下とした。より好ましくは、3.0mm以下であり、より好ましくは1.0mm以下である。ここで、スラブ厚み中心から1/5と限定した理由は、ポロシティーは、最終凝固位置付近すなわち、スラブ厚み中心付近に生成するためである。
【0043】
スラブ厚み中心から1/5厚みの範囲に存在するポロシティーのサイズが円相当直径にて0.5mm以上のポロシティーの合計面積率(=ポロシティー面積合計/検査面積×100)が0.60%以下
上述のとおり、連続鋳造の最終凝固位置において不可避的に発生するポロシティーは、そのまま残存すると最終製品における内部欠陥の原因となるが、小さなポロシティーは熱間圧延工程にてニッケル合金が圧延されるにつれてポロシティー厚みも小さくなり容易に圧着が進行し、最終製品では無害となる。しかしながら、スラブ時点のポロシティーのサイズが円相当直径にて0.5mm以上のポロシティーの合計面積率(=ポロシティー面積合計/検査面積×100)が0.60%を超えると、一部のポロシティーは未圧着で最終製品での欠陥として残存することを本願発明者らは見出した。熱間圧延時には、ポロシティーの内圧が高まるにつれて水素ガスはニッケル合金中に拡散していき、最終的にはニッケル合金が完全に圧着し、ポロシティーは消滅するが、スラブ厚み中心から1/5厚みの範囲のポロシティー面積率が0.60%を超えてポロシティー面積が多い場合、熱間圧延時にニッケル合金厚み中心の溶存H濃度が上昇し、ポロシティー内部の水素ガスがニッケル合金への拡散を阻害される。そのため、本願ではポロシティーの合計面積率にて0.60%以下と規定した。好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.40%以下である。ここで、スラブ厚み中心から1/5と限定した理由は、ポロシティーは、最終凝固位置付近すなわち、スラブ厚み中心付近に生成するためである。
【0044】
熱間圧延時の圧下率
連続鋳造機にて製造したニッケル合金スラブを1000℃~1100℃で加熱後、熱間圧延機で圧延を行うにあたり、連続鋳造機により鋳造したスラブの厚みと熱間圧延後のニッケル合金板の厚みから計算される圧下率(=(スラブの厚み―ニッケル合金板の厚み)/スラブの厚み×100)が97.0%以上であることが好ましい様態としている。
【0045】
これは、圧下率が97.0%以上であればニッケル合金スラブ内に存在するポロシティーが圧着し、ポロシティーが消滅することにより内部品質に優れたニッケル合金板を製造できるためである。ここで、冷間圧延の圧下率を規定しない理由は、常温で行われる冷間圧延の圧下では、ポロシティー内部の水素のニッケル合金への拡散は期待できない為、すなわち、ポロシティーの圧着の効果が無いため、本願では1000℃~1100℃で行われる熱間圧延の圧下率のみ規定した。
【0046】
スラブの製造方法
まず、電気炉にて原料を溶解し、次いで、電気炉および/またはAODおよび/またはVODにおいて脱炭し、水分量を0.20mass%以下に乾燥した石灰および蛍石を投入し、CaO-SiO-Al-MgO-F系スラグを作製し、さらに、Siおよび/またはAlを投入し、脱酸、脱硫を行い、LFにてAr攪拌による介在物浮上を促しながら温度および成分調整をした後、水分量0.20mass%以下の連続鋳造用モールドパウダーを使用し連続鋳造でスラブを製造することを特徴とする内部品質に優れたニッケル合金の製造方法、およびそのニッケル合金を用いたニッケル合金の製造方法について、詳細を説明する。
【0047】
石灰および蛍石は水分量0.20mass%以下
精錬工程でニッケル溶湯にHが溶解する主な原因は、石灰および蛍石の水分からであることを本願発明者らは、多数の操業条件および石灰および蛍石の水分量から突き止めた。H:0.0030mass%以下を達成するためには、水分量0.20mass%以下に乾燥した石灰および蛍石を使用する必要がある。
【0048】
連続鋳造用モールドパウダーの水分量0.20mass%以下
連続鋳造時モールドパウダーは、鋳型内での湯面の保温、鋳型とスラブの潤滑、非金属介在物吸収の役割をはたす粉末状の酸化物だが、スラブ断面のポロシティー発生を軽減させるためには、モールドパウダーは水分量0.20mass%以下のパウダーを使用することが好ましいことを本願発明者らは突き止めた。
【実施例
【0049】
次に実施例を提示して、本願発明の構成および作用効果をより、明らかにするが、本願発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0050】
容量30tonまたは60tonの電気炉により、純ニッケルおよび純ニッケル屑などを原料として、溶解した。その後、電気炉および/またはAODおよび/またはVODにおいてCを除去するための酸素吹精(酸化精錬)を行い、石灰石および蛍石を投入し、CaO-SiO-Al-MgO-F系スラグを生成させ、さらに、純Siおよび/またはAlを投入し、NiOの還元を行い、次いで脱酸した。その後、さらにAr撹拌して脱硫を進めた。AOD、VODではマグクロレンガをライニングした。その後、取鍋に出湯して、LFにて温度調整ならびに成分調整を行い、連続鋳造機にて、板厚200mmのスラブを製造した。
【0051】
製造したスラブより、鋳造方向と垂直な断面サンプルを採取し、この断面サンプルに対して、200mmt厚みのニッケル合金スラブを切断しサンプルを採取し、鋳込み方向垂直のスラブ断面のサンプルを鏡面研磨した。粒子解析機能を有するSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて200倍の倍率でサンプルの鏡面研磨したスラブ厚み中心から1/5に存在するポロシティーの円相当直径、個数、面積を測定した。同時にEDS(エネルギー分散型X線分光法)による元素分析を行い非金属介在物とポロシティーの区別も行った。また製造したスラブの表面を研削し、1050℃で加熱して熱間圧延を実施し、厚み3.0~6.8mmの熱帯を製造した。その後、焼鈍、酸洗を行い、表面のスケールを除去した。最終的に冷間圧延を施し、1000mm幅の1mmtの厚みを有するニッケル合金薄板を製造した。
【0052】
表1に得られたニッケル合金の化学成分およびNi合金中のH、P、S、Mgの化学成分(mass%)から計算される式1および式2の左辺の値、スラブの鋳造方向と垂直な断面の厚み中心から1/5厚みの範囲に存在するポロシティーの最大円相当直径および、円相当直径にて0.5mm以上のポロシティーの合計面積率、水分量、熱間圧延時の圧下率、1mmtニッケル薄板の超音波探傷試験による内部品質評価の結果を示す。これらの測定方法、評価方法は下記の通りである。
【0053】
1)ニッケル合金の化学成分
ニッケル合金板からサンプルを採取し、蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行い、酸素濃度および水素濃度は不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法で定量分析を行った。表1に示した各実施例の化学成分の合計が100mass%未満なのは、Cr、Mo、Cu、Ti、W、Co、Pb、Sn、N、Se、Vなどの不可避的不純物が存在しているためである。
【0054】
2)ポロシティーの最大円相当直径および円相当直径0.5mm以上のポロシティー面積率
鋳込み方向垂直のスラブ断面のサンプルを鏡面研磨し、粒子解析機能を有するSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて200倍の倍率でサンプルの鏡面研磨したスラブ厚み中心から1/5に存在するポロシティーの円相当直径、個数、面積から測定し、それらの値より算出した。
【0055】
3)熱間圧延時の圧下率
連続鋳造機により鋳造したスラブの厚みと熱間圧延後のニッケル合金板の厚みから、次式にて計算した。
圧下率=(スラブの厚み-ニッケル合金板の厚み)/スラブの厚み×100
【0056】
4)水分量
精錬工程で使用する石灰,蛍石および連続鋳造時に使用するモールドパウダーの水分量の測定は、使用前に測定用の試料採取し、105℃で5時間加熱後、乾燥前後の重量の減量を水分量として定量する乾燥減量法で測定した。
【0057】
5)内部品質評価
製品厚まで圧延した1000mm幅で1mmt厚みコイルに対して、超音波探傷試験を実施した。最小で、幅50μm×長さ100μm×厚み1μmのポロシティー(空隙)を検出できる感度で探傷した。探傷面積100mあたり、検出された欠陥が0.10個以下ならば◎、0.11~0.20個ならば○、0.21~0.30個ならば□、0.31~0.40個ならば△、0.41個以上ならば×評価とした。
また、表面にヘゲ疵が多数あり屑化処理となり、内部品質の評価を行えなかった場合、および、熱間圧延時のクロップ切断で切り残しが発生し屑化処理となり、内部品質の評価が行えなかった場合も×評価とした。
【0058】
ここで、最終の内部品質評価である1mmtニッケル薄板の超音波探傷試験の前に、表面にヘゲ疵が多数あり屑化処理となったコイル、および、熱間圧延の仕上げ圧延時前に、先後端のクロップをシャーリングマシンにて切断する時の切り残しが発生し屑化処理となったコイルは、内部品質の評価を行えず、×評価とした。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
発明例の1~16は、本願発明の範囲を満足していたために、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が少なく、良好な品質を得ることが出来た。
【0062】
発明例8は、熱間圧延後の厚みが厚いため熱間圧延時の圧下率が96.6%と低く、スラブ厚み中心付近のポロシティーが圧着しきれず、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が0.12個/100mとなり、内部品質評価は〇となった。
【0063】
発明例9~12は、Ni合金中のH、P、S、Mgの化学成分(mass%)から計算される式1および式2の左辺が、式1または式2の右辺の条件のいずれかを満たしていないため、内部品質評価は○となった。
【0064】
発明例13~14は、Ni合金中のH、P、S、Mgの化学成分(mass%)から計算される式1および式2の左辺が、式1および式2の右辺の条件を両方とも満たしていないため、内部品質評価は□となった。
【0065】
発明例15は、精錬工程で使用する石灰および蛍石の水分量0.24mass%と高めであり、H濃度も0.0029mass%と範囲内で高めになり、スラブ断面の最大ポロシティー円相当直径も4.4mmと範囲内で大きめで、ポロシティーの面積率も0.61%と高くなり、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が0.37個/100mとなり、内部品質評価は△となった。
【0066】
発明例16は、連続鋳造時に使用するモールドパウダーの水分量が0.22mass%と高く、連続鋳造時にニッケル溶湯へHが混入し、スラブ断面の最大ポロシティー円相当直径も5.2mmと大きく、ポロシティーの面積率も0.58%と範囲内で高めとなり、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が0.31個/100mとなり、内部品質評価は△となった。
【0067】
一方、比較例17~26は本願発明の範囲を逸脱したものである。以下に各例について説明する。
【0068】
比較例17~26は本願発明のニッケル合金板の化学成分範囲を逸脱しているため、Ni合金中のH、P、S、Mgの化学成分(mass%)から計算される式1、式2の左辺の数値は、表1では括弧書きで記載している。
【0069】
比較例17は、精錬工程で使用する石灰および蛍石の水分量0.36mass%と高いものを使用したため、Hが0.0036mass%と高くなり、スラブ断面の最大ポロシティー円相当直径も5.3mmと大きく、ポロシティーの面積率も0.76%と高く、ポロシティーが製品厚でも多数残存し、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が0.71個/100mとなり、内部品質評価は×となった。
【0070】
比較例18は、LFでの添加すべきMgを添加せず、Mgが0.001mass%と低く、MgによるHの固着効果を得ることができず、スラブ断面の最大ポロシティー円相当直径も5.1mmと大きく、ポロシティーの面積率も0.51%と範囲内で高めであり、ポロシティーが製品厚でも残存し、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が0.45個/100mとなり、内部品質評価は×となった。
【0071】
比較例19は、LFでの添加すべきSを添加せず、Sが0.00003mass%と低く、Sによるポロシティー粗大化防止効果が得られず、スラブ断面の最大ポロシティー円相当直径も5.2mmと大きく、ポロシティーが製品厚でも残存し、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が0.43個/100mとなり、内部品質評価は×となった。
【0072】
比較例20は、電気炉の装入する原料の不純物からのPが混入し、Pが0.018mass%と高くなり、板厚中心に濃化したPが、水素ガスの拡散の障壁となり、ポロシティーの圧着を阻害し、スラブ断面の最大ポロシティー円相当直径は4.5mmと範囲内で大きめであり、ポロシティーの面積率も0.52%と範囲内で高めであり、ポロシティーが製品厚でも多数残存し、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が0.58個/100mとなり、内部品質評価は×となった。さらに熱間加工性も悪化し、熱間圧延後コイルの両サイドに耳割れも発生した。
【0073】
比較例21は、精錬工程でのAlの添加量が少なく、Alが0.0003mass%と低く、脱酸、脱硫が十分に行われず、Sが0.0039mass%高くなり、板厚中心に濃化したSが、水素ガスの拡散の障壁となり、ポロシティーの圧着を阻害し、スラブ断面の最大ポロシティー円相当直径は4.4mmと範囲内で大きめであり、ポロシティーの面積率も0.50%と範囲内で高めであり、ポロシティーが製品厚でも多数残存し、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が0.56個/100mとなり、内部品質評価は×となった。さらに熱間加工性も悪化し、熱間圧延後コイルの両サイドに耳割れも発生し、酸化物系介在物も多く、コイル表面にヘゲ疵も観察された。
【0074】
比較例22は、LFでの添加すべきMgを余分に添加し、Mgが0.033mass%と高くなり、板厚中心に濃化したMgが、水素ガスの拡散の障壁となり、ポロシティーの圧着を阻害し、スラブ断面の最大ポロシティー円相当直径は4.8mmと範囲内で大きめであり、ポロシティーの面積率も0.53%と範囲内で高めであり、ポロシティーが製品厚でも多数残存し、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が0.65個/100m2となり、内部品質評価は×となった。
【0075】
比較例23は、Pが0.018mass%と高く、Sが0.0034mass%と高く、Mgが0.035mass%と高くなり、板厚中心に濃化したP、S、Mgが、水素ガスの拡散の障壁となり、ポロシティーの圧着を阻害し、ポロシティーが製品厚でも多数残存し、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が0.77個/100mとなり、内部品質評価は×となった。
【0076】
比較例24は、Hが0.0033mass%と高く、さらに、Pが0.017mass%と高く、Sが0.0033mass%と高く、Mgが0.034mass%と高くなり、板厚中心に濃化したP、S、Mgが、水素ガスの拡散の障壁となり、ポロシティーの圧着を阻害し、スラブ断面の最大ポロシティー円相当直径は7.2mmと大きく、ポロシティーの面積率も0.88%と高く、ポロシティーが製品厚でも多数残存し、製品厚にて超音波探傷試験にて検出された欠陥数が1.13個/100mとなり、内部品質評価は×となった。
【0077】
比較例25はLFでのAlの添加量が多く、Alが0.152mass%と高くなり、ニッケル溶湯内でアルミ介在物が生成、さらに粗大なアルミナクラスターとなった為、コイルの表面にヘゲ疵欠陥が多数発生し、最終の内部品質評価である1mmtニッケル薄板の超音波探傷試験の前に、表面にヘゲ疵が多数あり屑化処理となった為、内部品質の評価を行えず×評価とした。
【0078】
比較例26は、LFでの添加すべきPを添加せず、Pが0.0003mass%と低く、熱間圧延の仕上げ圧延時前に、先後端のクロップをシャーリングマシンにて切断する時の切り残しが発生し屑化処理となり、最終の内部品質評価である1mmtニッケル薄板の超音波探傷試験の評価を行えず×評価とした。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本願発明の技術は、ニッケル合金の微量成分であるP、Mg、S、Hなどを精緻に制御し、連続鋳造で鋳造したニッケル合金スラブの断面におけるポロシティー量を低減した内部品質に優れたニッケル合金板を供給することができる。
【符号の説明】
【0080】
1:ニッケル合金スラブ、2:内部品質調査面、3:最終凝固位置、4:引け巣(ポロシティー)、5:引け巣表面のMg、P、S偏析部、6:微量のSが偏析したNi溶湯、EF:電気炉、AOD:Argon Oxygen Decarburization(アルゴン酸素脱炭装置)、VOD:Vacuum Oxygen Decarburization(真空酸素脱炭装置)、LF:Ladle Furnace(取鍋精錬装置)、CC:Continuous casting(連続鋳造)

【要約】      (修正有)
【課題】内部品質に影響を及ぼす空隙欠陥を無害化し、内部品質の優れたニッケル合金を提供する。
【解決手段】以下mass%で、Ni:99.00%以上、C:0.001~0.020%、Si:0.01~0.30%、Mn:0.01~0.30%、P:0.001~0.015%、S:0.0001~0.0030%、Al:0.001~0.130%、Fe:0.40%以下、O:0.0003~0.0050%、Mg:0.003~0.030%、B:0.0001~0.0050%、H:0.0030%以下で、残部が不可避的不純物から成る内部品質に優れるニッケル合金。合金中のH、P、S、Mgのmass%から計算される式1および式2のうち、いずれか一方あるいは両方を満たしていると好ましい。
(20×H)×(2×P+10×S+3×Mg)×10≦15.0…(式1)
(25×S+3×Mg)÷H≧28.0…(式2)
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7