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特許7542794ターゲット容器、成膜方法、及び、ターゲット容器製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】ターゲット容器、成膜方法、及び、ターゲット容器製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20240826BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C23C14/34 C
C23C14/34 B
H01L21/203 S
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020008636
(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公開番号】P2021116437
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-01-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼ 発行日:平成31年2月25日 刊行物:2019年第66回応用物理学会春季学術講演会 予稿集 公益社団法人 応用物理学会 公開者:仲嶋徹、齋藤佑樹、宮本卓哉、黒田寛、佐藤祐喜、大鉢忠、吉門進三、竹本菊郎、宇野裕行、木村直人、高崎正規 ▲2▼ 開催日:平成31年3月11日 集会名:2019年第66回応用物理学会春季学術講演会 開催場所:東京工業大学 大岡山キャンパス(東京都目黒区大岡山2―12―1) 公開者:仲嶋徹、齋藤佑樹、宮本卓哉、黒田寛、佐藤祐喜、大鉢忠、吉門進三、竹本菊郎、宇野裕行、木村直人、高崎正規
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(73)【特許権者】
【識別番号】516088190
【氏名又は名称】大鉢 忠
(73)【特許権者】
【識別番号】502265367
【氏名又は名称】ヤマナカヒューテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】吉門 進三
(72)【発明者】
【氏名】大鉢 忠
(72)【発明者】
【氏名】竹本 菊郎
(72)【発明者】
【氏名】宇野 裕行
(72)【発明者】
【氏名】木村 直人
(72)【発明者】
【氏名】高崎 正規
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-146272(JP,A)
【文献】特開2019-056138(JP,A)
【文献】特開平10-306369(JP,A)
【文献】特開2008-121109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 21/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングターゲットである粉体材料が配置され凹部と、
前記凹部が形成された本体部と
を備え、
前記凹部は、
凹部本体と、
前記凹部本体を覆い、前記粉体材料に接触することの可能な第1コーティング層と
を含み、
前記凹部本体は、前記第1コーティング層と異なる成分を有し、
前記第1コーティング層は、前記粉体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分と気体との化合物からなるか、又は、前記粉体材料と同じ成分と気体との化合物からなる、ターゲット容器。
【請求項2】
前記本体部は、前記凹部本体の開口縁から前記凹部本体の外方に向かって延びる縁面を有し、
前記第1コーティング層に連続しており、前記縁面を覆う第2コーティング層をさらに備え、
前記第2コーティング層は、前記第1コーティング層と同じ成分からなる、請求項1に記載のターゲット容器。
【請求項3】
前記粉体材料は、レアメタル又はレアメタル化合物である、請求項1又は請求項2に記載のターゲット容器。
【請求項4】
スパッタリングターゲットである粉体材料が配置されることの可能な凹部と、前記凹部が形成された本体部とを備えるターゲット容器の前記凹部に前記粉体材料を配置する工程と、
スパッタリングにより、前記粉体材料によって基板の表面に膜を形成する工程と
を含
前記凹部は、
凹部本体と、
前記凹部本体を覆い、前記粉体材料に接触することの可能な第1コーティング層と
を含み、
前記凹部本体は、前記第1コーティング層と異なる成分を有し、
前記第1コーティング層は、前記粉体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分と気体との化合物からなるか、又は、前記粉体材料と同じ成分と気体との化合物からなる、成膜方法。
【請求項5】
スパッタリングターゲットである粉体材料が配置されることの可能なターゲット容器を製造するターゲット容器製造方法であって、
凹所を有する容器を用意する工程と、
エアロゾルデポジッション法によって、所定材料を用いて、前記凹所にコーティング層を形成する工程と
を含み、
前記所定材料は、前記粉体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分と気体との化合物からなるか、又は、前記粉体材料と同じ成分と気体との化合物からなる、ターゲット容器製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット容器、成膜方法、ターゲット容器製造方法、及び、圧力センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されたスパッタリングターゲット組立品は、容器型のバッキングプレートと、圧粉体のスパッタリングターゲットとを備える。バッキングプレートは充填部を備える。充填部は、内底面と、内底面から起立する内側面と、内側面の上端形状によって画定される開口面とを有する。充填部には、スパッタリングターゲットが充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-56138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたスパッタリングターゲット組立品では、スパッタリング実行時に、スパッタリングターゲットにクラックが発生する場合がある。この場合、バッキングプレートもスパッタリングされて、バッキングプレートの材料がスパッタ粒子として基板に付着する場合がある。この場合、基板に形成される膜には、スパッタリングターゲットの材料だけでなく、バッキングプレートの材料が混入する。つまり、基板に形成される膜に不純物が混入する。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、基板に形成される膜に不純物が混入することを効果的に抑制できるターゲット容器、成膜方法、ターゲット容器製造方法、及び、圧力センサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面によれば、ターゲット容器は、凹部と、本体部とを備える。凹部には、スパッタリングターゲットである粉体材料が配置されることが可能である。本体部には、前記凹部が形成される。前記凹部は、凹部本体と、第1コーティング層とを含む。第1コーティング層は、前記凹部本体を覆い、前記粉体材料に接触することが可能である。前記凹部本体は、前記第1コーティング層と異なる成分を有する。前記第1コーティング層は、前記粉体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分と気体との化合物からなるか、又は、前記粉体材料と同じ成分と気体との化合物からなる。
【0007】
本発明のターゲット容器において、前記本体部は、縁面を有することが好ましい。縁面は、前記凹部本体の開口縁から前記凹部本体の外方に向かって延びることが好ましい。ターゲット容器は、第2コーティング層をさらに備えることが好ましい。第2コーティング層は、前記第1コーティング層に連続しており、前記縁面を覆うことが好ましい。前記第2コーティング層は、前記第1コーティング層と同じ成分からなることが好ましい。
【0008】
本発明のターゲット容器において、前記粉体材料は、レアメタル又はレアメタル化合物であることが好ましい。
【0009】
本発明の他の局面によれば、ターゲット容器は、凹部と、本体部とを備える。凹部には、スパッタリングターゲットである粉体材料が配置されることが可能である。本体部には、前記凹部が形成される。前記凹部と前記本体部とは、単一の部材の部分を構成している。前記凹部及び前記本体部は、前記粉体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分と気体との化合物からなるか、又は、前記粉体材料と同じ成分と気体との化合物からなる。前記粉体材料は、レアメタル又はレアメタル化合物である。前記レアメタルは、チタンを含まない。
【0010】
本発明の更に他の局面によれば、成膜方法は、上記ターゲット容器の前記凹部に前記粉体材料を配置する工程と、スパッタリングにより、前記粉体材料によって基板の表面に膜を形成する工程とを含む。
【0011】
本発明の更に他の局面によれば、ターゲット容器製造方法は、スパッタリングターゲットである粉体材料が配置されることの可能なターゲット容器を製造する。ターゲット容器製造方法は、凹所を有する容器を用意する工程と、エアロゾルデポジッション法によって、所定材料を用いて、前記凹所にコーティング層を形成する工程とを含む。前記所定材料は、前記粉体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分からなるか、前記粉体材料に含まれる固体材料と同じ成分と気体との化合物からなるか、又は、前記粉体材料と同じ成分と気体との化合物からなる。
【0012】
本発明の更に他の局面によれば、成膜方法は、スパッタガスの圧力と、前記スパッタガスの組成と、成膜対象である窒化ガリウム膜が形成される基板の温度とを決定して、前記窒化ガリウム膜に生成する窒素欠損の程度を決定する工程と、スパッタリングターゲットである窒化ガリウムの粉体又はガリウムの粉体をターゲット容器に配置する工程と、前記窒素欠損の程度を決定する前記工程で決定された前記スパッタガスの圧力と前記スパッタガスの組成と前記基板の温度とに基づいてスパッタリングを実行して、前記粉体によって、前記窒化ガリウム膜を前記基板の表面に形成する工程とを含む。
【0013】
本発明の更に他の局面によれば、圧力センサーは、窒化ガリウム膜を備える。前記窒化ガリウム膜の電気抵抗は、前記窒化ガリウム膜に加わる圧力に応じて変化する。
【0014】
本発明の圧力センサーにおいて、前記圧力に応じた前記窒化ガリウム膜の前記電気抵抗の変化は、前記窒化ガリウム膜に前記圧力を加える気体の種類に応じて異なることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板に形成される膜に不純物が混入することを効果的に抑制できるターゲット容器、成膜方法、ターゲット容器製造方法、及び、圧力センサーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態1に係るターゲット容器を示す斜視図である。
図2図1のII-II線に沿った断面図である。
図3】実施形態1に係るターゲット容器にスパッタリングターゲットが配置された状態を示す断面図である。
図4】実施形態1に係るターゲット容器から第1コーティング層及び第2コーティング層を省略した状態を示す斜視図である。
図5】実施形態1に係るエアロゾルデポジション装置を示す図である。
図6】実施形態1に係るターゲット容器製造方法を示すフローチャートである。
図7】実施形態1に係る高周波マグネトロンスパッタリング装置を示す図である。
図8】実施形態1に係る成膜方法を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施形態2に係るターゲット容器を示す斜視図である。
図10図9のX-X線に沿った断面図である。
図11】実施形態2に係るターゲット容器にスパッタリングターゲットが配置された状態を示す断面図である。
図12】本発明の実施形態3に係る成膜方法を示すフローチャートである。
図13】(a)は、本発明の実施例1に係る窒化ガリウム膜を示す写真である。(b)は、本発明の実施例2に係る窒化ガリウム膜を示す写真である。
図14】本発明の実施例3に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである(窒素ガス雰囲気:30℃、50℃、100℃、150℃、200℃)。
図15】本発明の実施例4に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである(窒素ガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気:50℃)。
図16】本発明の実施例5に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである(窒素ガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気:100℃)。
図17】本発明の実施例6に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである(窒素ガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気:150℃)。
図18】本発明の実施例7に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである(ヘリウムガス雰囲気:200℃)。
図19】本発明の実施例8に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである(窒素ガス、ヘリウムガス雰囲気:200℃)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一または相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0018】
(実施形態1)
図1図8を参照して、本発明の実施形態1に係るターゲット容器100、ターゲット容器製造方法、及び、成膜方法を説明する。
【0019】
まず、図1図4を参照して、実施形態1に係るターゲット容器100を説明する。図1は、ターゲット容器100を示す斜視図である。図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。図3は、ターゲット容器100にスパッタリングターゲットTA(以下、「ターゲットTA」と記載する。)が配置された状態を示す断面図である。図4は、ターゲット容器100から第1コーティング層31及び第2コーティング層32を省略した状態を示す視図である。
【0020】
図1に示すターゲット容器100は、スパッタリング装置に配置される。スパッタリング装置は、例えば、スパッタガスをチャンバーに導入し、かつ、ターゲットTAと基板(以下、「基板SB」と記載する。)との間に高電圧を印加して放電させて、スパッタガスのイオンをターゲットTAに衝突させることにより、ターゲットTAから飛散したターゲット粒子を基板SBに堆積させる。その結果、基板SBには、ターゲット粒子によって膜(例えば薄膜)が形成される。スパッタガスは、例えば、不活性ガスである。不活性ガスは、例えば、窒素、アルゴン、又は、ヘリウムである。
【0021】
本明細書において、スパッタリング装置の種類は特に限定されない。スパッタリング装置は、例えば、直流スパッタリング装置、高周波スパッタリング装置、又は、マグネトロンスパッタリング装置である。直流スパッタリング装置は、ターゲットTAが導電体である場合に使用される。高周波スパッタリング装置は、ターゲットTAが絶縁体である場合に使用される。マグネトロンスパッタリング装置では、マグネットを用いて磁場の中に電子を囲い込むことで濃いプラズマ領域を形成して、スパッタガスのイオンがターゲットTAに衝突する確率を高める。その結果、基板SBにターゲット粒子が堆積する速度を向上できる。なお、スパッタリング装置は、例えば、イオンビームスパッタリング装置であってもよい。イオンビームスパッタリング装置では、放電でプラズマを形成することが要求されない。
【0022】
また、スパッタリング装置が実行するスパッタリングは、反応性スパッタリングであってもよい。反応性スパッタリングとは、反応性ガス(例えば、窒素又は酸素)を含む雰囲気中でスパッタリングを実行して、反応性ガスとターゲット粒子とが化合した化合物膜(例えば、窒化物膜又は酸化物膜)を基板SBに形成するスパッタリングのことである。本明細書において、スパッタガスは、例えば、不活性ガスだけからなるガスであってもよいし、反応性ガスだけからなるガスであってもよいし、不活性ガスと反応性ガスとを混合したガスであってもよい。
【0023】
図1及び図2に示すように、ターゲット容器100は、本体部1と、凹部3とを備える。本体部1には凹部3が形成されている。本体部1は、図1の例では、略円板形状又は略円柱形状を有する。なお、本体部1に凹部3を形成できる限りにおいては、本体部1の形状は、特に限定されず、例えば、略直方体形状であってもよい。
【0024】
本体部1は、底面11と、壁面13とを有する。底面11は略平坦である。底面11は主面11と記載することができる。壁面13は、本体部1の外周面であり、凹部3の周りに位置している。壁面13は、底面11の外縁から起立している。
【0025】
凹部3は、本体部1の凹所であり、本体部1の底面11に向かって凹んでいる。凹部3は、開口34を有している。
【0026】
図3に示すように、凹部3には、ターゲットTAである粉体材料MTが配置されることが可能である。従って、ターゲットTAを運搬する際又はスパッタリングを実行する際には、凹部3には、粉体材料MTが配置される。
【0027】
具体的には、凹部3には、ターゲットTAである粉体材料MTが充填されることが可能である。従って、ターゲットTAを運搬する際又はスパッタリングを実行する際には、凹部3には、粉体材料MTが充填される。
【0028】
更に具体的には、凹部3には、ターゲットTAである粉体材料MTが圧入されることが可能である。従って、ターゲットTAを運搬する際又はスパッタリングを実行する際には、凹部3には、粉体材料MTが圧入される。ターゲット容器100とターゲットTAとは、ターゲット物体10を構成している。実施形態1では、ターゲットTAは、焼結されておらず、かつ、ターゲット容器100のボンディングされていない。ターゲットTAへの不純物の混入を抑制するためである。
【0029】
図1図3に示すように、凹部3は、第1コーティング層31と、凹部本体33とを含む。凹部本体33は、ターゲット容器100の本体部1の表面の一部である。図4に示すように、凹部本体33は、底面331と、壁面332と、開口333とを有している。底面331は略平坦である。底面331は主面331と記載することができる。壁面332は、凹部本体33の内周面であり、底面331の外縁から起立している。
【0030】
図1図3に示すように、第1コーティング層31は、凹部本体33を覆っている。凹部本体33は、第1コーティング層31と異なる成分を有している。つまり、凹部本体33の材料は、第1コーティング層31の材料と異なる。第1コーティング層31は、底面層311と、壁面層312とを有する。底面層311は略平坦であり、凹部本体33の底面331を覆っている。壁面層312は、凹部本体33の壁面332を覆っている。
【0031】
第1コーティング層31は、粉体材料MTに接触することが可能である。従って、ターゲットTAを運搬する際又はスパッタリングを実行する際には、第1コーティング層31には、粉体材料MTが接触している。
【0032】
凹部本体33が第1コーティング層31に覆われているため、ターゲットTAをスパッタリングする時にターゲットTAにクラックが発生した場合は、凹部本体33及び本体部1ではなく、第1コーティング層31に含有される固体材料がスパッタ粒子として基板SBに付着又は堆積する。
【0033】
一方、第1コーティング層31は、ターゲットTAである粉体材料MTと同じ成分からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分と気体との化合物からなるか、又は、粉体材料MTと同じ成分と気体との化合物からなる。
【0034】
従って、実施形態1によれば、第1コーティング層31に含有される固体材料がスパッタ粒子として基板SBに付着又は堆積した場合でも、ターゲットTAのスパッタリングによるスパッタ粒子によって基板SBに形成される膜にとって、第1コーティング層31に含有される固体材料は不純物にはならない。つまり、実施形態1では、第1コーティング層31を有するターゲット容器100に粉体材料MTを配置することで、基板SBに形成される膜に不純物が混入することを効果的に抑制できる。
【0035】
また、スパッタリングを終了して、凹部3に配置された粉体材料MTを回収する場合に、回収された粉体材料MTに不純物が混入することを抑制できる。例えば、道具で凹部3から粉体材料MTを回収する場合、道具は、凹部本体33及び本体部1ではなく、第1コーティング層31に接触又は当接するからである。
【0036】
特に、実施形態1では、第1コーティング層31は、ターゲットTAである粉体材料MTと同じ成分からなるか、又は、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分からなることが更に好ましい。第1コーティング層31にスパッタガスのイオンが衝突した場合でも、ターゲットTAのスパッタリングによるスパッタ粒子によって基板SBに形成される膜の成分と異なる成分(以下、「相違成分CM」と記載する。)が、発生しないからである。この好ましい例によれば、ターゲットTAのスパッタリングによるスパッタ粒子によって基板SBに形成される膜に対して、相違成分CMが影響を与えることを抑制できる。
【0037】
また、実施形態1では、図4に示すように、本体部1は、縁面15をさらに有する。縁面15は、凹部本体33の開口縁334に沿った略環形状を有している。縁面15は、略平坦である。縁面15は、凹部本体33の開口縁334から凹部本体33の外方に向かって延びる。
【0038】
そして、図1図3に示すように、ターゲット容器100は、第2コーティング層32をさらに備えることが好ましい。第2コーティング層32は、本体部1の縁面15を覆う。第2コーティング層32は、第1コーティング層31に連続している。実施形態1では、第1コーティング層31と第2コーティング層32とは、単一のコーティング層の部分である。
【0039】
本体部1の縁面15が第2コーティング層32に覆われているため、ターゲットTAをスパッタリングする時に、スパッタガスのイオンが第2コーティング層32に衝突した場合、本体部1の縁面15ではなく、第2コーティング層32に含有される固体材料がスパッタ粒子として基板SBに付着又は堆積する。
【0040】
一方、第2コーティング層32は、第1コーティング層31と同じ成分からなる。従って、実施形態1によれば、第2コーティング層32に含有される固体材料がスパッタ粒子として基板SBに付着又は堆積した場合でも、ターゲットTAのスパッタリングによるスパッタ粒子によって基板SBに形成される膜にとって、第2コーティング層32に含有される固体材料は不純物にはならない。つまり、実施形態1では、第1コーティング層31に加えて第2コーティング層32を有するターゲット容器100に粉体材料MTを配置することで、基板SBに形成される膜に不純物が混入することを更に効果的に抑制できる。
【0041】
次に、ターゲットTAである粉体材料MTについて説明する。粉体材料MTは、例えば、[1]レアメタル、[2]レアメタル化合物、[3]化合物半導体、及び、[4]化合物半導体を構成する固体材料、である。
【0042】
[1]レアメタル
レアメタルは、ベースメタル(鉄、銅、亜鉛、及び、アルミニウム等)及び貴金属(金、及び、銀等)以外で、産業に利用されている非鉄金属を示す。レアメタルは、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、希土類元素(レアアース)、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、白金、タリウム、及び、ビスマスである。希土類元素(レアアース)は、例えば、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及び、ルテチウムである。
【0043】
[2]レアメタル化合物
レアメタル化合物は、レアメタルと他の元素(例えば気体)との化合物である。レアメタル化合物は、例えば、レアメタルの窒化物(例えば、窒化ガリウム)、レアメタルの酸化物(例えば、酸化ガリウム(III))、レアメタルのフッ化物(例えば、フッ化ガリウム)、及び、レアメタルのリン化物(例えば、リン化インジウム)である。レアメタル化合物は、例えば、ガリウム化合物である。ガリウム化合物は、ガリウムと他の元素との化合物である。ガリウム化合物は、例えば、窒化ガリウム、酸化ガリウム(III)、及び、フッ化ガリウムである。
【0044】
[3]化合物半導体
化合物半導体は、III-V族半導体、及び、II-VI族半導体である。III-V族半導体は、III族元素とV族元素とを用いた半導体である。III族元素は、例えば、アルミニウム、ガリウム、及び、インジウムである。V族元素は、例えば、窒素、リン、ヒ素、及び、アンチモンである。その他、III-V族半導体を構成する元素としては、例えば、ホウ素、タリウム、及び、ビスマスがある。III-V族半導体は、例えば、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウム、ガリウムヒ素、及び、リン化インジウムである。
【0045】
II-VI族半導体は、II族元素とVI族元素とを用いた半導体である。II族元素(第2族元素及び第12族元素)は、例えば、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、及び、水銀である。VI族元素(第16族元素)は、例えば、酸素、硫黄、セレン、及び、テルルである。II-VI族半導体は、例えば、酸化亜鉛、テルル化カドミウム、及び、セレン化亜鉛である。
【0046】
[4]化合物半導体を構成する固体材料
化合物半導体を構成する固体材料は、例えば、III族元素、V族元素、II族元素、及び、VI族元素である。
【0047】
特に、レアメタル、及び、化合物半導体を構成する固体材料は、希少及び/又は高価であることが多い。従って、レアメタル、及び、化合物半導体を構成する固体材料を、ターゲットTAに含有させる場合には、ターゲットTAの厚みを薄くせざるを得ない場合がある。この場合、ターゲットTAにクラックが発生し易い。従って、少なくとも第1コーティング層31を有するターゲット容器100を使用することで、スパッタ粒子にターゲット容器100の本体部1の材料が含まれることを抑制できる。その結果、成膜した膜に不純物が混入することを効果的に抑制できる。このように、実施形態1では、ターゲットTAが、レアメタル、又は、化合物半導体を構成する固体材料を含む場合に、特に有効である。
【0048】
また、実施形態1では、ターゲット容器100の全体ではなく、少なくとも第1コーティング層31が、ターゲットTAである粉体材料MTと同じ成分からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分と気体との化合物からなるか、又は、粉体材料MTと同じ成分と気体との化合物からなるだけである。従って、ターゲットTAが、レアメタル、又は、化合物半導体を構成する固体材料を含む場合に、ターゲット容器100のコストを低減できる。
【0049】
次に、ガリウムを例に挙げて、図1に示す第1コーティング層31及び第2コーティング層32を説明する。
【0050】
スパッタリングにより、窒化ガリウムを成膜する場合、ターゲットTAである粉体材料MTは、窒化ガリウム又はガリウムである。この場合、第1コーティング層31及び第2コーティング層32は、粉体材料MTと同じ成分(窒化ガリウム又はガリウム)からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料(ガリウム)と同じ成分(ガリウム)からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分(ガリウム)と気体(例えば酸素)との化合物(例えば酸化ガリウム)からなるか、又は、粉体材料MTと同じ成分(窒化ガリウム又はガリウム)と気体(例えば酸素)との化合物(例えば酸化ガリウム)からなる。
【0051】
スパッタリングにより、酸化ガリウムを成膜する場合、ターゲットTAである粉体材料MTは、酸化ガリウム又はガリウムである。この場合、第1コーティング層31及び第2コーティング層32は、粉体材料MTと同じ成分(酸化ガリウム又はガリウム)からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料(ガリウム)と同じ成分(ガリウム)からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分(ガリウム)と気体(例えば窒素)との化合物(例えば窒化ガリウム)からなるか、又は、粉体材料MTと同じ成分(酸化ガリウム又はガリウム)と気体(例えば窒素)との化合物(例えば窒化ガリウム)からなる。
【0052】
次に、図4を参照して、ターゲット容器100の本体部1の材料を説明する。図4に示す本体部1は、第1コーティング層31及び第2コーティング層32と異なる成分を有する。つまり、本体部1の材料は、第1コーティング層31の材料及び第2コーティング層32の材料と異なる。
【0053】
本体部1の材料は、例えば、銅(例えば無酸素銅)、銅合金、銀、銀合金、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、及び、鉄合金がある。本体部1の材料は、導電性及び熱伝導性の高い材料であることが好ましい。
【0054】
次に、図2及び図4図6を参照して、実施形態1に係るターゲット容器製造方法を説明する。ターゲット容器製造方法では、ターゲットTAである粉体材料MTが配置されることの可能なターゲット容器100を製造する。ターゲット容器製造方法では、例えば、スパッタリング法、化学気相成長法(CVD法:Chemical Vapor Deposition法)、又は、エアロゾルデポジッション法(以下、「AD法」と記載する。)によって、第1コーティング層31及び第2コーティング層32を形成する。以下、好適な例として、AD法を説明する。
【0055】
AD法は、エアロゾル化した微粒子を原料として膜(例えば薄膜)を形成する技術である。AD法では、高温の熱処理を伴わず、原料微粒子を固体状態のまま常温で基板に衝突させ緻密な膜を形成する。AD法では、原料微粒子をガスと混合してエアロゾル化し、ノズルを通じて加速された原料微粒子は基板に吹き付けられる。そして、原料微粒子が衝突及び/又は粉砕して基板上に堆積する。衝突及び/又は粉砕した原料微粒子が常温で膜を形成する現象は、常温衝撃固化現象(RTIC : Room Temperature Impact Consolidation)と呼ばれている。AD法の主な特徴は、下記(1)~(8)の通りである。
【0056】
(1)AD法では、不純物が混入する過程が、ほとんど無いか、又は、全く無いため、高純度の膜の成膜(膜を形成すること)が可能である。具体的には、AD法は、常温で実行され、熱を加える工程を含まない。従って、熱に基づく拡散現象が発生しない。その結果、基板から、成膜した膜に、基板の成分が拡散することが防止されて、膜に不純物が混入することが防止される。
【0057】
(2)AD法では、常温で成膜が可能である。
【0058】
(3)AD法では、成膜される膜は原料微粒子と同じ結晶構造を維持する。
【0059】
(4)AD法では、成膜される膜と基板との間にバインダーが不要である。
【0060】
(5)AD法では、エアロゾルの供給量が一定であれば成膜速度も一定となり、膜厚の制御を容易に行うことができる。
【0061】
(6)AD法では、基板又はノズルを走査することにより成膜範囲の制御が容易に行える。
【0062】
(7)AD法では、スパッタリング法等の他の成膜法と比べて成膜速度が速く、例えば、数百nm以上数十μm以下の膜厚の膜の形成が容易である。
【0063】
(8)AD法では、成膜段階で加熱を必要としないので、プラスチック等の熱可塑性を持つ基板上への膜の形成が可能である。
【0064】
ここで、AD法は、エアロゾルデポジッション装置200(以下、「AD装置200」と記載する。)によって実行される。
【0065】
図5は、実施形態1に係るAD装置200を示す図である。図5に示すように、AD装置200は、ガスボンベ61と、圧力調整器62と、マスフローコントローラー63、65と、エアロゾルチャンバー67と、エアー駆動振動装置69と、エアーコンプレッサー71と、成膜チャンバー73と、保持部75と、ノズル77と、バルブ79と、メカニカルブースターポンプ81と、油封止回転真空ポンプ83と、チューブP1~P4とを備える。
【0066】
チューブP1は、圧力調整器62を介してガスボンベ61に接続される。チューブP2、P3は、チューブP1から分岐している。チューブP2は、マスフローコントローラー63を介して、エアロゾルチャンバー67に接続される。チューブP2は、エアロゾル巻き上げ用である。チューブP3は、マスフローコントローラー65を介して、エアロゾルチャンバー67に接続される。チューブP3は、エアロゾル搬送用である。チューブP4は、エアロゾルチャンバー67からノズル77まで延びる。ノズル77は、チューブP4の先端に取り付けられる。ノズル77及び保持部75は、成膜チャンバー73の内部に配置される。成膜チャンバー73には、バルブ79を介して、メカニカルブースターポンプ81及び油封止回転真空ポンプ83が接続される。
【0067】
エアロゾルチャンバー67には、乾燥した原料微粒子MTAが封入される。原料微粒子MTAを「所定材料MTA」と記載する場合がある。原料微粒子MTAは、実施形態1では、図1に示す第1コーティング層31及び第2コーティング層32の原料である。
【0068】
エアロゾルチャンバー67は、容器と、蓋又はフランジとを含む。容器と、蓋又はフランジとは、例えば、スクリュー又はクランプで固定される。容器は、例えば、ソーダ石灰ガラス又はホウケイ酸ガラスによって形成されている。蓋又はフランジには、チューブP2~P4が通っている。チューブP1~P4は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンによって形成される。チューブP1~P4の外径は、例えば、1/4インチである。
【0069】
ガスボンベ61にはガスが収容されている。ガスは、例えば、不活性ガス(例えば窒素ガス)である。マスフローコントローラー63、65は、バルブを含み、バルブの開閉を調整して、ガスの流量を調整する。マスフローコントローラー63、65は、手動調整又は電子制御される。マスフローコントローラー63、65によって、例えば、0.00L/min以上10.00L/min以下の範囲で、ガスの流量を調整できる。チューブP2は、エアロゾルを巻き上げるためのガスをエアロゾルチャンバー67に供給する。チューブP3は、エアロゾルを搬送するためのガスをエアロゾルチャンバー67に供給する。
【0070】
ガスがエアロゾルチャンバー67に供給されている期間において、エアー駆動振動装置69は、エアーコンプレッサー71によって駆動されて、エアロゾルチャンバー67に振動を与えることで、凝集した原料微粒子MTAを攪拌し、ガスと原料微粒子MTAとを混合する。その結果、原料微粒子MTAがエアロゾル化される。
【0071】
メカニカルブースターポンプ81及び油封止回転真空ポンプ83は、エアロゾルチャンバー67及び成膜チャンバー73を例えば数Pa程度まで排気する。メカニカルブースターポンプ81は、オイルレスで高排気速度を有する真空ポンプである。成膜チャンバー73と排気系との間にはダストフィルター(不図示)が備えられている。ダストフィルターは、排気に含まれる微粒子を除去する。
【0072】
エアロゾルチャンバー67及び成膜チャンバー73の排気の後、チューブP4によって、エアロゾルチャンバー67から成膜チャンバー73にエアロゾル化された原料微粒子MTAが供給される。エアロゾル化した原料微粒子MTAは、スリット状のノズル77を通過することで音速程度に加速され、保持部75に保持された成膜対象物300に吹きつけられる。その結果、成膜対象物300に、原料微粒子MTAからなる膜(例えば薄膜)が形成される。ノズル77の開口部のサイズは、例えば、0.3mm×5mmである。
【0073】
ノズル77の開口部から一定距離(例えば、約10mm~20mm)の位置に成膜対象物300が設置されている。成膜対象物300は、保持部75に固定され、成膜中は静止している。保持部75は、ステッピングモーターにより、エアロゾル化された原料微粒子MTAが噴出する方向に対して垂直な平面内を縦横に移動可能である。保持部75は、例えば、X-Yステージ又はX-Y-Zステージを含む。成膜対象物300に対する成膜範囲と膜厚とは、保持部75の位置を制御するコンピュータープログラムを調整することで任意に設定できる。
【0074】
なお、シャッター(不図示)が、ノズル77と保持部75との間に配置されてもよい。シャッターは、任意のタイミングで開閉が可能であり、成膜と非成膜とを制御可能である。
【0075】
実施形態1では、成膜対象物300は、ターゲット容器100(図1)の元になる容器40(図4)である。また、原料微粒子MTAは、第1コーティング層31及び第2コーティング層32の原料である。従って、ノズル77が容器40にエアロゾル化した原料微粒子MTAを吹き付けることによって、容器40の表面に第1コーティング層31及び第2コーティング層32が形成される。その結果、ターゲット容器100が製造される。
【0076】
図6は、実施形態1に係るターゲット容器製造方法を示すフローチャートである。図6に示すように、ターゲット容器製造方法は、工程S1と、工程S2とを含む。
【0077】
工程S1において、成膜対象物300である容器40(図4)を用意する。具体的には、図5に示すように、AD装置200の成膜チャンバー73に、容器40が設置される。更に具体的には、保持部75が、容器40を保持する。容器40は、図4に示すように、ターゲット容器100(図1)の元になる物である。つまり、容器40は、ターゲット容器100の本体部1に相当する。従って、容器40の材料は、ターゲット容器100の本体部1の材料と同じである。
【0078】
具体的には、容器40は、容器本体部41と、凹所43とを有する。凹所43は、容器本体部41に形成されており、凹んでいる部分である。凹所43は、ターゲット容器100の凹部本体33に相当する。容器本体部41は、ターゲット容器100の本体部1に相当する。容器本体部41は縁面45を有する。縁面45は、略環形状を有し、凹所43の開口縁47から凹所43の外方に向かって延びる。縁面45は、ターゲット容器100の縁面15に相当する。
【0079】
特に、工程S1では、図5に示す保持部75は、容器40の凹所43がノズル77の配置される側を向くように、容器40を略水平に保持する。
【0080】
工程S2において、AD法によって、所定材料MTAを用いて、容器40の凹所43に第1コーティング層31を形成する。第1コーティング層31は「コーティング層」の一例に相当する。実施形態1では、AD法によって、所定材料MTAを用いて、凹所43に第1コーティング層31を形成するとともに、縁面45に第2コーティング層32を形成する。
【0081】
具体的には、図5に示すように、ノズル77が、エアロゾル化された所定材料MTAを凹所43に吐出して、凹所43に第1コーティング層31を形成する。実施形態1では、ノズル77が、エアロゾル化された所定材料MTAを凹所43に吐出して、凹所43に第1コーティング層31を形成するとともに、エアロゾル化された所定材料MTAを縁面45に吐出して、縁面45に第2コーティング層32を形成する。
【0082】
所定材料MTAは、ターゲットTAである粉体材料MT(図3)と同じ成分からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分と気体との化合物からなるか、又は、粉体材料MTと同じ成分と気体との化合物からなる。
【0083】
従って、第1コーティング層31及び第2コーティング層32は、ターゲットTAである粉体材料MT(図3)と同じ成分からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分と気体との化合物からなるか、又は、粉体材料MTと同じ成分と気体との化合物からなる。
【0084】
すなわち、工程S2を終了することで、ターゲット容器100が製造される。つまり、AD装置200がAD法によってターゲット容器100を製造する。
【0085】
特に、AD法では、不純物が混入する過程が、ほとんど無いか、又は、全く無いため、高純度の第1コーティング層31及び高純度の第2コーティング層32の形成が可能である。従って、実施形態1によれば、スパッタリング装置によるスパッタリングの実行時にターゲットTAにクラックが発生して第1コーティング層31に含有される固体材料がスパッタ粒子として基板SBに付着又は堆積した場合でも、ターゲットTAのスパッタリングによるスパッタ粒子によって基板SBに形成される膜の純度の低下を抑制できる。
【0086】
また、実施形態1によれば、スパッタリング装置によるスパッタリングの実行時に第2コーティング層32に含有される固体材料がスパッタ粒子として基板SBに付着又は堆積した場合でも、ターゲットTAのスパッタリングによるスパッタ粒子によって基板SBに形成される膜の純度の低下を抑制できる。
【0087】
次に、図7及び図8を参照して、実施形態1に係る成膜方法を説明する。図7及び図8の例では、成膜方法を実行するスパッタリング装置として、高周波マグネトロンスパッタリング装置400(以下、「RFマグネトロンスパッタリング装置400」と記載する。)を説明する。
【0088】
図7は、実施形態1に係るRFマグネトロンスパッタリング装置400を示す図である。図7に示すように、RFマグネトロンスパッタリング装置400は、チャンバー91と、スパッタガス導入口93と、排気口95と、高周波電源97と、マグネット99とを有する。チャンバー91の内部に、基板SB、図3に示すターゲット物体10、及び、マグネット99が設置される。基板SBとターゲット物体10とは、互いに対向する。ターゲット物体10を構成するターゲット容器100の底面11に対向してマグネット99が配置される。ターゲット容器100にはターゲットTAである粉体材料MTが配置(具体的には、充填又は圧入)されている。
【0089】
RFマグネトロンスパッタリング装置400は、排気口95を通してチャンバー91から真空排気を実行しつつ、スパッタガス導入口93からチャンバー91にスパッタガスを導入する。そして、RFマグネトロンスパッタリング装置400は、基板SBとターゲットTAとの間に高周波電源97によって交流電圧を印加して、基板SBとターゲットTAとの間にプラズマを発生させる。プラズマにはスパッタガスのイオン500が含まれる。一方、RFマグネトロンスパッタリング装置400は、ターゲットTAをマグネット99による磁場中に配置し、磁場の作用でターゲットTAの表面にプラズマを集中させる。その結果、プラズマ中のスパッタガスのイオン500がターゲットTAに衝突する確率を高まる。
【0090】
RFマグネトロンスパッタリング装置400は、スパッタガスのイオン500をターゲットTAに衝突させることにより、ターゲットTAから飛散したターゲット粒子600を基板SBに付着及び堆積させる。ターゲット粒子600は、粉体材料MTからなる。その結果、基板SBには、ターゲット粒子600である粉体材料MTによって膜TF(例えば、薄膜)が形成される。
【0091】
なお、RFマグネトロンスパッタリング装置400は、反応性スパッタリングを実行してもよい。この場合は、ターゲット粒子600である粉体材料MTと反応性ガスとが化合した化合物膜TF(例えば、窒化物膜又は酸化物膜)が基板SBに形成される。また、RFマグネトロンスパッタリング装置400は、ヒーター(不図示)を備えており、ヒーターによって基板SBの温度を調節することができる。
【0092】
図8は、実施形態1に係る成膜方法を示すフローチャートである。図8に示すように、成膜方法は、工程S11と、工程S12とを含む。
【0093】
工程S11において、配置装置(不図示)によって、図1及び図2を参照して説明したターゲット容器100の凹部3に粉体材料MTを配置する。具体的には、充填装置(不図示)によって、ターゲット容器100の凹部3に粉体材料MTが充填される。更に具体的には、圧入装置(不図示)によって、ターゲット容器100の凹部3に粉体材料MTが圧入される。
【0094】
工程S12において、RFマグネトロンスパッタリング装置400は、マグネトロンスパッタリングにより、ターゲット粒子600である粉体材料MTによって基板SBの表面に膜TFを形成する。マグネトロンスパッタリングは、「スパッタリング」の一例に相当する。
【0095】
すなわち、工程S12を終了することで、膜TFが形成される。つまり、RFマグネトロンスパッタリング装置400が膜TFを形成する。
【0096】
特に、実施形態1に係る成膜方法では、図1及び図2を参照して説明したターゲット容器100を使用しているため、基板SBに形成される膜TFに不純物が混入することを効果的に抑制できる。
【0097】
(実施形態2)
図9図11を参照して、本発明の実施形態2に係るターゲット容器100Aを説明する。実施形態2に係るターゲット容器100の全体がターゲットTAである粉体材料MTと同じ成分からなる点で、実施形態2は実施形態1と主に異なる。以下、実施形態2が実施形態1と異なる点を主に説明する。
【0098】
図9は、実施形態2に係るターゲット容器100Aを示す斜視図である。図10は、図9のX-X線に沿った断面図である。図11は、ターゲット容器100AにターゲットTAが配置された状態を示す断面図である。
【0099】
図9及び図10に示すように、ターゲット容器100Aは、本体部1Aと、凹部3Aとを備える。本体部1Aには凹部3Aが形成されている。
【0100】
本体部1Aは、図9及び図10の例では、略円板形状又は略円柱形状を有する。なお、本体部1Aに凹部3Aを形成できる限りにおいては、本体部1Aの形状は、特に限定されず、例えば、略直方体形状であってもよい。
【0101】
本体部1Aは、底面11Aと、壁面13Aと、縁面32Aとを有する。底面11Aは略平坦である。底面11Aは主面11Aと記載することができる。壁面13Aは、本体部1Aの外周面であり、凹部3Aの周りに位置している。壁面13Aは、底面11Aの外縁から起立している。縁面32Aは、略平坦である。
【0102】
凹部3Aは、開口333Aを有している。そして、縁面32Aは、凹部3Aの開口縁334Aに沿った略環形状を有している。また、縁面32Aは、凹部3Aの開口縁334Aから凹部3Aの外方に向かって延びる。
【0103】
凹部3Aは、本体部1Aの凹所であり、本体部1Aの底面11Aに向かって凹んでいる。凹部3Aは、本体部1Aの表面の一部である。凹部3Aは、底面311Aと、壁面312Aとを有する。底面311Aは略平坦である。底面311Aは主面311Aと記載することができる。壁面312Aは、凹部3Aの内周面であり、底面311Aの外縁から起立している。
【0104】
図11に示すように、凹部3Aには、ターゲットTAである粉体材料MTが配置されることが可能である。従って、凹部3Aには、粉体材料MTが配置される。具体的には、凹部3Aには、粉体材料MTが充填されることが可能である。従って、凹部3Aには、粉体材料MTが充填される。更に具体的には、凹部3Aには、粉体材料MTが圧入されることが可能である。従って、凹部3Aには、粉体材料MTが圧入される。ターゲット容器100AとターゲットTAとは、ターゲット物体10Aを構成している。
【0105】
凹部3Aは、粉体材料MTに接触することが可能である。従って、ターゲットTAを運搬する際又はスパッタリングを実行する際には、凹部3Aには、ターゲットTAである粉体材料MTが接触している。
【0106】
ターゲットTAをスパッタリングする時にターゲットTAにクラックが発生した場合は、凹部3Aに含有される固体材料がスパッタ粒子として基板SBに付着又は堆積する。また、ターゲットTAをスパッタリングする時に、スパッタガスのイオンが本体部1Aの縁面32Aに衝突した場合、本体部1Aに含有される固体材料がスパッタ粒子として基板SBに付着又は堆積する。
【0107】
一方、凹部3Aと本体部1Aとは、単一の部材の部分を構成している。つまり、凹部3Aと本体部1Aとは、一体成形品である。そして、凹部3A及び本体部1Aは、ターゲットTAである粉体材料MTと同じ成分からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分からなるか、粉体材料MTに含まれる固体材料と同じ成分と気体との化合物からなるか、又は、粉体材料MTと同じ成分と気体との化合物からなる。
【0108】
従って、実施形態2によれば、凹部3A及び/又は本体部1Aの縁面32Aに含有される固体材料がスパッタ粒子として基板SBに付着又は堆積した場合でも、ターゲットTAのスパッタリングによるスパッタ粒子によって基板SBに形成される膜にとって、凹部3A及び本体部1Aの縁面32Aに含有される固体材料は不純物にはならない。つまり、実施形態2では、凹部3A及び本体部1Aからなるターゲット容器100Aに粉体材料MTを配置することで、基板SBに形成される膜に不純物が混入することを効果的に抑制できる。
【0109】
特に、実施形態2では、凹部3A及び本体部1Aは、ターゲットTAである粉体材料MTと同じ成分からなるか、又は、粉体材料MTに含有される固体材料と同じ成分からなることが更に好ましい。凹部3A及び/又は本体部1Aの縁面32Aにスパッタガスのイオンが衝突した場合でも、ターゲットTAのスパッタリングによるスパッタ粒子によって基板SBに形成される膜の成分と異なる相違成分CMが、発生しないからである。この好ましい例によれば、ターゲットTAのスパッタリングによるスパッタ粒子によって基板SBに形成される膜に対して、相違成分CMが影響を与えることを抑制できる。
【0110】
また、実施形態2では、実施形態1と同様に、スパッタリングを終了して、凹部3Aに配置された粉体材料MTを回収する場合に、回収された粉体材料MTに不純物が混入することを抑制できる。
【0111】
なお、図7及び図8を参照して説明したRFマグネトロンスパッタリング装置400及び成膜方法において、実施形態2に係るターゲット容器100Aを使用できる。
【0112】
(実施形態3)
図7及び図12を参照して、本発明の実施形態3に係る成膜方法を説明する。実施形態3に係る成膜方法では、窒化ガリウム膜の窒素欠損を制御する。
【0113】
窒化ガリウムは、ワイドギャップ半導体であり、ダイヤモンドと同程度の電気絶縁性を有する。従って、窒化ガリウムを「電気に関する物理量を取り出す素子」として使用するためには、窒化ガリウムの電気抵抗を低下させる必要がある。「電気に関する物理量を取り出す素子」は、例えば、圧力に応じて変化する電気抵抗を有する圧力センサーである。
【0114】
そこで、窒化ガリウムの純度を低下させることによって、窒化ガリウムの電気抵抗を低下させることができる。この場合、窒化ガリウムに不純物を導入して窒化ガリウムの純度を低下させることで、窒化ガリウムの電気抵抗を低下させることができる。この場合の不純物は、窒素及びガリウム以外の原子又は分子である。しかしながら、不純物を窒化ガリウムに導入すると、「電気に関する物理量を取り出す素子」としての精度及び性能が低下する場合がある。従って、不純物を窒化ガリウムに導入することなく、窒化ガリウムの電気抵抗を低下させることが要望される。
【0115】
そこで、実施形態3では、窒化ガリウム膜に生成する窒素欠損の程度を調節して、窒化ガリウム膜の電気抵抗(具体的には電気抵抗率)を低下させ、かつ、窒化ガリウム膜の電気抵抗を所望の値に設定する。窒素欠損の程度は、例えば、単位体積当たりの窒素欠損量によって示される。窒化ガリウム膜に生成された窒素欠損の程度が大きい程、窒化ガリウム膜の電気抵抗が低下する。
【0116】
次に、図12を参照して、実施形態3に係る成膜方法を説明する。実施形態3では、好適な例として、図7を参照して説明したRFマグネトロンスパッタリング装置400を使用する。
【0117】
図12は、実施形態3に係る成膜方法を示すフローチャートである。図12に示すように、成膜方法は、工程S21~工程S23を含む。
【0118】
工程S21において、スパッタガスの圧力と、スパッタガスの組成と、成膜対象である窒化ガリウム膜が形成される基板SBの温度とを決定して、窒化ガリウム膜に生成する窒素欠損の程度を決定する。
【0119】
スパッタガスの圧力とは、チャンバー91内における「スパッタガスを含むガス」の全圧を示す。ターゲットTAである粉体材料MTが窒化ガリウムの場合は、スパッタガスは、例えば、窒素だけからなるガスであってもよいし、アルゴン等の不活性ガスと窒素ガスとの混合ガスであってもよいし、アルゴン等の不活性ガスだけからなるガスであってもよい。ターゲットTAである粉体材料MTがガリウムの場合は、スパッタガスは、例えば、窒素だけからなるガスであってもよいし、アルゴン等の不活性ガスと窒素ガスとの混合ガスであってもよい。
【0120】
スパッタガスの組成に関しては、スパッタガスに占めるアルゴン等の不活性ガスの割合が大きくなる程、窒化ガリウム膜の窒素欠損の程度が大きくなって、窒化ガリウム膜の電気抵抗が低下する。
【0121】
基板SBの温度に関しては、基板SBの温度が高い程、窒化ガリウム膜の窒素欠損の程度が大きくなって、窒化ガリウム膜の電気抵抗が低下する。
【0122】
工程S22において、配置装置(不図示)によって、ターゲット容器100の凹部3に、窒化ガリウムの粉体(粉体材料MT)又はガリウムの粉体(粉体材料MT)を配置する。具体的には、充填装置(不図示)によって、ターゲット容器100の凹部3に、窒化ガリウムの粉体又はガリウムの粉体が充填される。更に具体的には、圧入装置(不図示)によって、ターゲット容器100の凹部3に、窒化ガリウムの粉体又はガリウムの粉体が圧入される。
【0123】
工程S23において、RFマグネトロンスパッタリング装置400は、工程S21で決定されたスパッタガスの圧力とスパッタガスの組成と基板SBの温度とに基づいてマグネトロンスパッタリングを実行して、ターゲットTAである窒化ガリウムの粉体又はガリウムの粉体によって、窒化ガリウム膜を基板SBの表面に形成する。マグネトロンスパッタリングは、「スパッタリング」の一例に相当する。
【0124】
具体的には、RFマグネトロンスパッタリング装置400において、スパッタガスの圧力を、工程S21で決定されたスパッタガスの圧力に設定する。加えて、RFマグネトロンスパッタリング装置400において、スパッタガスの組成を、工程S21で決定されたスパッタガスの組成に設定する。加えて、RFマグネトロンスパッタリング装置400において、基板SBの温度を、工程S21で決定された基板SBの温度に設定する。そして、RFマグネトロンスパッタリング装置400は、マグネトロンスパッタリングを実行して、基板SBに窒化ガリウム膜を形成する。
【0125】
すなわち、工程S23を終了することで、窒化ガリウム膜が形成される。つまり、RFマグネトロンスパッタリング装置400が窒化ガリウム膜を形成する。
【0126】
特に、実施形態3では、工程S21において窒素欠損の程度を決定することで、窒素欠損の程度に応じて窒化ガリウムの電気抵抗を低下させて、窒化ガリウムの電気抵抗を所望の電気抵抗に設定できる。また、電気抵抗を低下させる際に窒化ガリウムへ不純物を導入していないため、窒化ガリウム膜に関し、「電気に関する物理量を取り出す素子」としての精度及び性能を向上できる。
【0127】
さらに、実施形態3に係る成膜方法では、図1及び図2を参照して説明したターゲット容器100を使用しているため、基板SBに形成される窒化ガリウム膜に不純物が混入することを効果的に抑制できる。従って、窒化ガリウム膜の窒素欠損だけを調節することによって、窒化ガリウム膜の電気抵抗を所望の値に容易に設定できる。なお、窒化ガリウム膜に不純物が混入していると、窒化ガリウム膜の電気抵抗を変化させるパラメーター(窒素欠損+不純物)が増えるため、窒化ガリウム膜の電気抵抗の調節が複雑になる可能性がある。
【0128】
なお、実施形態3において、図9を参照して説明したターゲット容器100Aを使用してもよい。また、実施形態3に係る成膜方法において、工程S21が実行される限りにおいては、図1のターゲット容器100及び図9のターゲット容器100Aが使用されなくてもよい。また、実施形態3に係る成膜方法において、工程S21が実行される限りにおいては、図7のRFマグネトロンスパッタリング装置400を使用しなくてもよく、他のスパッタリング装置を使用してもよい。さらに、工程S21と工程S22との順番は逆でもよい。
【0129】
(実施形態4)
本発明の実施形態4に係る圧力センサー(以下、「圧力センサーSN」と記載する。)を説明する。圧力センサーSNは、圧力を検出する。つまり、圧力センサーSNは、圧力を測定する。圧力センサーSNは、実施形態3に係る成膜方法によって形成された窒化ガリウム膜を備えている。窒化ガリウム膜の電気抵抗(具体的には電気抵抗率)は、窒化ガリウム膜に加わる圧力に応じて変化する。従って、実施形態4では、窒化ガリウム膜の電気抵抗を測定することで、窒化ガリウム膜に加わる圧力を検出できる。つまり、窒化ガリウム膜を圧力センサーSNの検知素子として効果的に機能させることができる。特に、実施形態4では、圧力センサーSNを絶対圧力センサーとして機能させることができる。絶対圧力センサーは、完全真空状態をゼロの基準とする絶対圧力を測定するセンサーである。
【0130】
具体的には、窒化ガリウム膜の電気抵抗と圧力との関係を予め測定して記憶装置に記憶しておくことで、窒化ガリウム膜の電気抵抗を圧力に容易に変換できる。
【0131】
特に、本願の発明者は、例えば後述する実施例3~実施例8によって実証されたように、窒化ガリウムの未知の属性を発見し、発見した未知の属性により、窒化ガリウムが新たな用途である圧力センサーSNに適することを見出した。窒化ガリウムの未知の属性とは、窒化ガリウムの電気抵抗が、窒化ガリウムに加わる圧力に応じて変化することである。
【0132】
また、一般的な圧力センサーでは、例えば、ダイアフラムゲージが、ダイアフラムに加わる圧力をダイアフラムの撓みとして検出する。つまり、一般的な圧力センサーでは、素子の撓みを伴う。しかしながら、実施形態4に係る圧力センサーSNでは、窒化ガリウム膜の撓みを伴わないので、圧力センサーSNの耐久性を向上できる。
【0133】
さらに、実施形態4に係る窒化ガリウム膜は、実施形態3に係る成膜方法によって形成されているため、高純度である。従って、圧力の検知素子としての窒化ガリウム膜を備える圧力センサーSNの精度及び性能を向上できる。
【0134】
さらに、スパッタリングによって窒化ガリウム膜(図7の膜TFに相当)を形成する時の基板SB(図7)の温度が高い程、窒化ガリウム膜の電気抵抗(具体的には電気抵抗率)は低くなり、かつ、圧力を検知可能レンジが広くなる。この点は、例えば後述する実施例8によって実証された。
【0135】
さらに、実施形態4では、圧力センサーSNにおいて、圧力に応じた窒化ガリウム膜の電気抵抗(具体的には電気抵抗率)の変化は、窒化ガリウム膜に圧力を加える気体の種類に応じて異なる。従って、実施形態4によれば、窒化ガリウム膜の電気抵抗の変化を測定することで、気体の種類を特定できる。つまり、窒化ガリウム膜を備える圧力センサーSNを、気体の種類を検知するセンサーとして効果的に機能させることができる。この点は、例えば後述する実施例4及び実施例7によって実証された。
【0136】
具体的には、各種気体について、圧力の変化に応じた窒化ガリウム膜の電気抵抗の変化を予め測定して、気体の種類ごとに抵抗プロファイルを記憶装置に記憶しておくことで、抵抗プロファイルを参照して気体の種類を容易に特定できる。抵抗プロファイルは、圧力の変化に対する窒化ガリウム膜の電気抵抗の変化を表す情報である。
【0137】
特に、本願の発明者は、例えば後述する実施例4及び実施例7から実証されたように、窒化ガリウムの未知の属性を発見し、発見した未知の属性により、窒化ガリウムが新たな用途である「気体の種類を検知するセンサー」に適することを見出した。窒化ガリウムの未知の属性とは、圧力に応じた窒化ガリウムの電気抵抗の変化が、窒化ガリウムに圧力を加える気体の種類に応じて異なることである。
【0138】
なお、圧力センサーSNが備える窒化ガリウム膜の成膜方法は、特に限定されない。例えば、圧力センサーSNは、実施形態1に係る成膜方法(図8)によって形成された窒化ガリウム膜を備えていてもよいし、実施形態2に係るターゲット容器100Aを使用して形成された窒化ガリウム膜であってもよい。
【0139】
次に、本発明が実施例に基づき具体的に説明されるが、本発明は以下の実施例によって限定されない。
【実施例
【0140】
(実施例1及び実施例2)
図5図6図13(a)、及び、図13(b)を参照して、本発明の実施例1及び実施例2を説明する。実施例1及び実施例2では、図5及び図6を参照して説明したAD装置200及びターゲット容器製造方法を使用して、窒化ガリウム膜を成膜した。
【0141】
実施例1では、銅板SB1に対して窒化ガリウム膜を成膜した。従って、実施例1では、成膜対象物300(図5)が銅板SB1であった。銅板SB1を使用した理由は、ターゲット容器100(図1)の元になる容器40(図4)の材料として、高熱伝導性を有する銅が好ましかったからである。銅板SB1の厚みは0.5mmであった。銅板SB1のサイズは、25mm×25mmであった。
【0142】
図13(a)は、実施例1に係る窒化ガリウム膜700を示す写真である。図13(a)に示すように、AD法によって、銅板SB1の表面に窒化ガリウム膜700を形成できたことを確認できた。よって、AD法によって、第1コーティング層31及び第2コーティング層32としての窒化ガリウム膜700を、ターゲット容器100の元になる容器40に形成できることが推測できた。
【0143】
実施例2では、銀板SB2に対して窒化ガリウムを成膜した。従って、実施例2では、成膜対象物300が銀板SB2であった。銀板SB2を使用した理由は、ターゲット容器100(図1)の元になる容器40(図4)の材料として、高熱伝導性を有する銀が好ましかったからである。銀板SB2の厚み及びサイズは、それぞれ、実施例1の銅板SB1の厚み及びサイズと同じであった。
【0144】
図13(b)は、実施例2に係る窒化ガリウム膜700を示す写真である。図13(b)に示すように、AD法によって、銀板SB2の表面に窒化ガリウム膜700を形成できたことを確認できた。よって、AD法によって、第1コーティング層31及び第2コーティング層32としての窒化ガリウム膜700を、ターゲット容器100の元になる容器40に形成できることが推測できた。
【0145】
次に、実施例1及び実施例2での実験条件を説明する。銅板SB1又は銀板SB2を洗浄後、銅板SB1又は銀板SB2を成膜チャンバー73内の保持部75にポリイミド製の両面テープで貼り付けて設置した。エアロゾルチャンバー67の容器は、ソーダ石灰ガラスで形成されていた。エアロゾルチャンバー67の容器の容積は、約450mLであった。エアロゾルチャンバー67の容器内に、10g~20gの窒化ガリウム微粒子(原料微粒子MTAに相当)と、攪拌・分散用の直径1mmのイットリウム安定化ジルコニアボール(YSZボール)とを投入し、ガス流入・流出口を有する真空シール用のオーリングの付いた蓋で容器を密封した。
【0146】
その後、メカニカルブースターポンプ81(PMB003CM:ULVAC製)と油封止回転真空ポンプ83(VD301:ULVAC製)とによって、エアロゾルチャンバー67及び成膜チャンバー73を2Pa程度まで排気した。また、ガスボンベ61から、エアロゾル巻き上げ用のチューブP2及び流入口を通して、窒素ガスをエアロゾルチャンバー67に流入させた。そして、窒素ガスをエアロゾルチャンバー67の底部から流出させて、窒化ガリウム微粒子及びYSZボールに窒素ガスを吹き付けて竜巻のような運動をさせた。
【0147】
さらに、エアロゾルチャンバー67外に取り付けた空気駆動のエアー駆動振動装置69に対して、エアーコンプレッサー71から数気圧の空気を供給して、エアー駆動振動装置69によってエアロゾルチャンバー67を振動させて、窒化ガリウム微粒子の分散性の向上を図った。
【0148】
エアロゾルチャンバー67内に、レーザ光を照射して、チンダル現象を観察することにより、成膜に必要なエアロゾル(つまり、エアロゾル化した窒化ガリウム微粒子)が発生していることを確認した後、エアロゾルチャンバー67の蓋に取り付けられた流出口のバルブを開くことにより、エアロゾルチャンバー67内のエアロゾルを成膜チャンバー73に供給することにより成膜を開始した。
【0149】
窒素ガスの流量を変化させて、成膜の最適流量を調査した。銅板SB1と銀板SB2とでは、最適流量は異なった。実施例1の銅板SB1では、窒素ガスの流量は、約3.5L/minが最適であった。実施例2の銀板SB2では、窒素ガスの流量は、約2.0L/minが最適であった。
【0150】
銅板SB1及び銀板SB2の各々に対して、5回走査して成膜を行った。成膜後、成膜チャンバー73から、窒化ガリウム膜700が成膜された銅板SB1又は窒化ガリウム膜700が成膜された銀板SB2を取り出して、ビーカー内の水中に投入して、超音波洗浄機により超音波を照射して窒化ガリウム膜700の付着力を検証した。このような処理を行った窒化ガリウム膜700の写真を図13(a)及び図13(b)に示した。検証の結果、十分な付着力を有する窒化ガリウム膜700を成膜可能であることが確認できた。
【0151】
また、X線回折装置を用いて窒化ガリウム膜700の結晶構造解析を行った結果、窒化ガリウム膜700が原料微粒子MTAと同じ結晶構造を有することが確認できた。
【0152】
以上の結果、ターゲット容器100の元になる容器40(図4)を銅又は銀で作製して、容器40を成膜チャンバー73の保持部75に保持させて、保持部75を駆動するステッピングモーターで制御し、さらに、エアロゾル化された窒化ガリウム微粒子のノズル77による吐出によって、容器40の凹所43及び縁面45に均一に窒化ガリウム膜を成膜できることが推測できた。
【0153】
(実施例3~実施例8)
本発明の実施例3~実施例8では、窒化ガリウム膜に加わる圧力を変化させながら、窒化ガリウム膜の電気抵抗を測定した。まず、実施例3~実施例8に共通する実験条件を説明する。
【0154】
窒化ガリウム膜は、図7に示すRFマグネトロンスパッタリング装置400によって形成された。成膜条件は、高周波電源97による放電電力が200Wであり、成膜時間が2時間であり、スパッタガスが窒素ガスであり、スパッタガスの圧力が0.6Paであった。成膜条件において、実施例3~実施例6では、成膜時の基板SBの温度が600℃であった。実施例7での基板SBの温度については後述する。成膜条件において、実施例8では、成膜時の基板SBの温度が200℃であった。
【0155】
実施例3では、電気抵抗を測定した時の窒化ガリウム膜の雰囲気ガスの圧力は、マノメータ(絶対圧力計、日本エム・ケー・エス株式会社製、バラトロン237)により測定した。実施例4~実施例8では、電気抵抗を測定した時の窒化ガリウム膜の雰囲気ガスの圧力は、マノメータ(絶対圧力計、日本エム・ケー・エス株式会社製、バラトロン237、バラトロン622)により測定した。実施例3~実施例8において、圧力変化については、バリアブルリークバルブを使用して、圧力の低いほうから高いほうへ変化させた。
【0156】
(実施例3)
図14を参照して、本発明の実施例3に係る窒化ガリウム膜を説明する。実施例3では、電気抵抗を測定した時の窒化ガリウム膜の雰囲気ガスは、空気であった。
【0157】
図14は、実施例3に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである。横軸は、窒化ガリウム膜に加わる圧力(Pa)を示し、縦軸は、窒化ガリウム膜の正規化した電気抵抗を示す。
【0158】
図14に示すように、曲線A1は、窒化ガリウム膜の雰囲気の温度が30℃であったときの窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す。曲線A2は、窒化ガリウム膜の雰囲気の温度が50℃であったときの窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す。曲線A3は、窒化ガリウム膜の雰囲気の温度が100℃であったときの窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す。曲線A4は、窒化ガリウム膜の雰囲気の温度が150℃であったときの窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す。曲線A5は、窒化ガリウム膜の雰囲気の温度が200℃であったときの窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す。
【0159】
図14の曲線A1~曲線A5に示されるように、窒化ガリウム膜の電気抵抗は、圧力の増加にともなって低下した。また、窒化ガリウム膜の電気抵抗は、温度に依存することが確認できた。例えば、圧力が103Paでは、温度が高い程、窒化ガリウム膜の電気抵抗が低くなった。
【0160】
以上、図14を参照して説明したように、窒化ガリウム膜の電気抵抗が圧力依存性を有するため、おおむね50℃以上では、窒化ガリウム膜を圧力センサーとして効果的に利用できることが推測できた。
【0161】
(実施例4~実施例7)
図15図18を参照して、本発明の実施例4~実施例7に係る窒化ガリウム膜を説明する。実施例4~実施例6の各々において、3種類の雰囲気ガス(窒素ガス、ヘリウムガス、及び、アルゴンガス)中で、窒化ガリウムの電気抵抗を測定した。実施例7では、雰囲気ガスはヘリウムガスであった。
【0162】
図15図17において、曲線B1は、窒素ガス雰囲気において測定された窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す。曲線B2は、ヘリウムガス雰囲気において測定された窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す。曲線B3は、アルゴンガス雰囲気において測定された窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す。また、横軸は、窒化ガリウム膜に加わる圧力(Pa)を示し、縦軸は、窒化ガリウム膜の電気抵抗(Ω)を示す。
【0163】
まず、図15を参照して実施例4を説明する。実施例4では、窒化ガリウム膜の雰囲気の温度が50℃であったときの窒化ガリウム膜の電気抵抗を測定した。
【0164】
図15は、実施例4に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである。図15の曲線B1~曲線B3に示されるように、窒化ガリウム膜の電気抵抗は、圧力の変化に応じて変化した。特に、圧力が概ね3Paよりも大きい範囲では、窒化ガリウム膜の電気抵抗は、圧力の増加にともなって低下した。
【0165】
次に、図16を参照して実施例5を説明する。実施例5では、窒化ガリウム膜の雰囲気の温度が100℃であったときの窒化ガリウム膜の電気抵抗を測定した。
【0166】
図16は、実施例5に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである。図16の曲線B1~曲線B3に示されるように、窒化ガリウム膜の電気抵抗は、圧力の変化に応じて変化した。特に、圧力が概ね1Paよりも大きい範囲では、窒化ガリウム膜の電気抵抗は、圧力の増加にともなって低下した。
【0167】
次に、図17を参照して実施例6を説明する。実施例6では、窒化ガリウム膜の雰囲気の温度が150℃であったときの窒化ガリウム膜の電気抵抗を測定した。
【0168】
図17は、実施例6に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである。図17の曲線B1~曲線B3に示されるように、窒化ガリウム膜の電気抵抗は、圧力の変化に応じて変化した。特に、圧力が概ね3Paよりも大きい範囲では、窒化ガリウム膜の電気抵抗は、圧力の増加にともなって低下した。
【0169】
以上、図15図17を参照して説明したように、窒化ガリウム膜の電気抵抗が圧力依存性を有するため、窒化ガリウム膜を圧力センサーとして利用できることが推測できた。
【0170】
特に、図15に示す実施例4では、圧力が概ね3Pa~102Paの範囲において、雰囲気ガスの種類ごとに、窒化ガリウム膜の電気抵抗が異なっていた。従って、窒化ガリウム膜を、気体の種類を検知するセンサーとして利用できることが推測できた。具体的には、ヘリウムガス雰囲気(曲線B2)の窒化ガリウムの電気抵抗が最も高く、次に、アルゴンガス雰囲気(曲線B3)の窒化ガリウムの電気抵抗が高く、窒素ガス雰囲気(曲線B1)の窒化ガリウムの電気抵抗が最も低かった。
【0171】
次に、図18を参照して実施例7を説明する。実施例7では、ヘリウムガス雰囲気において、窒化ガリウム膜の雰囲気の温度が200℃であったときの窒化ガリウム膜の電気抵抗を測定した。
【0172】
図18は、実施例7に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである。図18において、曲線B21及び曲線B22は、ヘリウムガス雰囲気において測定された窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す。成膜条件において、曲線B21によって示される窒化ガリウム膜については、成膜時の基板SBの温度が200℃であった。成膜条件において、曲線B22によって示される窒化ガリウム膜については、成膜時の基板SBの温度が600℃であった。横軸は、窒化ガリウム膜に加わる圧力(Pa)を示す。左縦軸は、曲線B21に対応し、成膜条件としての基板SBの温度が200℃のときの窒化ガリウム膜の電気抵抗(Ω)を示す。右縦軸は、曲線B22に対応し、成膜条件としての基板SBの温度が600℃のときの窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す(Ω)。曲線B21及び曲線B22に示されるように、ヘリウムガス雰囲気(200℃)において、窒化ガリウム膜の電気抵抗は、0.1Paの圧力から2Paの圧力までは緩やかに増加し、2Paの圧力から圧力の増大にともなって低下した。0.1Paの圧力から2Paの圧力までの電気抵抗の増加は、曲線B21の方が曲線B22よりも急であった。従って、窒化ガリウム膜のヘリウムガスセンサーとしての感度は、曲線B21によって示される窒化ガリウム膜の方が、曲線B22によって示される窒化ガリウム膜よりも高くなることが推測された。つまり、成膜条件としての基板SBの温度が低い程、窒化ガリウム膜のヘリウムガスセンサーとしての感度が高くなると推測できた。
【0173】
図18の実施例7と、図15図17の実施例4~実施例6とを比較すると、ヘリウムガス雰囲気(200℃)での窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性は、窒素ガス雰囲気及びアルゴンガス雰囲気での窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性とは異なっていた。
【0174】
特に、図18に示すように、実施例7では、概ね1Pa~10Paの範囲において、窒化ガリウム膜の電気抵抗が緩やかに上昇した後に急に下降する特異な圧力依存性を示した。つまり、概ね1Pa~10Paの範囲において、ヘリウムガス雰囲気での窒化ガリウム膜の抵抗プロファイルは、窒素ガス雰囲気及びアルゴンガス雰囲気での窒化ガリウム膜の抵抗プロファイルと異なっていた。従って、窒化ガリウム膜を、ヘリウムガスを検出するセンサーとして利用できることが推測できた。
【0175】
(実施例8)
図19を参照して、本発明の実施例8に係る窒化ガリウム膜を説明する。実施例8では、2種類の雰囲気ガス(窒素ガス及びヘリウムガス)中で、窒化ガリウムの電気抵抗を測定した。また、実施例8では、窒化ガリウム膜の雰囲気の温度が200℃であったときの窒化ガリウム膜の電気抵抗を測定した。
【0176】
図19は、実施例8に係る窒化ガリウム膜の電気抵抗の圧力依存性を示すグラフである。横軸は、窒化ガリウム膜に加わる圧力(Pa)を示し、縦軸は、窒化ガリウム膜の電気抵抗(Ω)を示す。
【0177】
図19に示すように、曲線B1は、窒素ガス雰囲気において測定された窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す。曲線B2は、ヘリウムガス雰囲気において測定された窒化ガリウム膜の電気抵抗を示す。
【0178】
曲線B1と曲線B2との比較結果から、ヘリウムガス雰囲気での窒化ガリウム膜による圧力の検知可能レンジR1が、窒素ガス雰囲気での窒化ガリウム膜による圧力の検知可能レンジR2よりも広くなった。
【0179】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について説明した。ただし、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施できる。また、上記の実施形態に開示される複数の構成要素は適宜改変可能である。例えば、ある実施形態に示される全構成要素のうちのある構成要素を別の実施形態の構成要素に追加してもよく、または、ある実施形態に示される全構成要素のうちのいくつかの構成要素を実施形態から削除してもよい。
【0180】
また、図面は、発明の理解を容易にするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚さ、長さ、個数、間隔等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素の構成は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明は、ターゲット容器、成膜方法、ターゲット容器製造方法、及び、圧力センサーを提供するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0182】
1、1A 本体部
3、3A 凹部
15 縁面
31 第1コーティング層
32 第2コーティング層
100、100A ターゲット容器
200 アエロゾルデポジッション装置
400 高周波マグネトロンスパッタリング装置
TA スパッタリングターゲット
MT 粉体材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19