(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】妊娠中の母子の健康状態改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/40 20060101AFI20240826BHJP
A23L 33/19 20160101ALI20240826BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240826BHJP
A61P 3/08 20060101ALI20240826BHJP
A61P 15/06 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
A61K38/40
A23L33/19
A61P3/04
A61P3/08
A61P15/06
(21)【出願番号】P 2018013395
(22)【出願日】2018-01-30
【審査請求日】2020-11-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2017155941
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「第19回応用薬理シンポジウム-新規疾患治療戦略を志向した薬理学の新たな展開-プログラム・要旨集」、第23頁、S6-2、応用薬理研究会 発送開始日:平成29年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】599012167
【氏名又は名称】株式会社NRLファーマ
(73)【特許権者】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(74)【代理人】
【識別番号】100113402
【氏名又は名称】前 直美
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 伸治
(72)【発明者】
【氏名】河野 菜摘子
(72)【発明者】
【氏名】星野 達雄
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】前田 佳与子
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105192072(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103040797(CN,A)
【文献】特表2008-530034(JP,A)
【文献】特表2012-526527(JP,A)
【文献】特表2008-100935(JP,A)
【文献】Process Biochemistry,2010年,Vol.45,p.1406-1414
【文献】Journal of Functional Food,2016年,Vol.22,p.189-200
【文献】臨床と研究,2011年,Vol.7,p.74-79
【文献】薬局,2015年,Vol.66,No.1,p.96-101
【文献】糖尿病ケア,2016年,Vol.13,No.11,p.1027-1029
【文献】日本周産期・新生児医学会雑誌,平成16年(2004年),第40巻 第4号,p.759-762
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAPLUS/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製、分画、単離又は抽出されたラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする、
経口投与によって、妊娠中の母体及び胎児の
過剰な体重増加を抑制するための剤。
【請求項2】
精製、分画、単離又は抽出されたラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする、
経口投与によって、妊娠中の母体及び胎児の高血糖
を予防するための剤。
【請求項3】
精製、分画、単離又は抽出されたラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする、
経口投与によって、妊娠中の母体及び胎児の過剰な体重増加による流産を予防するための剤
(ただし、ラクトフェリンと共に葉酸及び鉄を添加されているものを除く)。
【請求項4】
医薬組成物又は飲食物である、請求項1~3のいずれか1項記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妊娠中の母体の健康状態及び胎児ないし新生児の健康状態の改善に有効な剤に関する。
【背景技術】
【0002】
女性が妊娠時に最も心配する事柄のひとつに体重変動がある。妊娠することにより女性の体は物理的・内分泌的に大きく変化し、食欲不振・つわりによる体重減少、又は食べづわり・運動不足などによる過剰な体重増加が起こるため、基準のBMI範囲を逸脱するケースは多い。
【0003】
妊娠成立前の妊婦の体型は、生まれてくる新生児の成長に大きく影響を与える。女性の肥満は、妊娠率の低下をもたらす。妊娠成立を目的とした減量は、妊娠率の向上をもたらさないことも報告されている。
また、妊婦が肥満や糖尿病を有する場合、胎児のサイズは妊娠6か月時点で既に大きくなっており、BMI≧30である肥満女性が妊娠した場合、胎児が巨大になることによる難産、妊婦の高血圧症候群や糖尿病の発症、胎児の神経管閉鎖障害、死産などのリスクが高くなる傾向が統計学的にも示されている。さらに、そのような母親から生まれる新生児は、過大に育ちがちで、巨大児になることも報告されている。
【0004】
妊娠糖尿病については、高血糖が胎盤を通して胎児に伝わり、周産期合併症としては、胎児仮死・死亡、先天奇形、肥大型心筋症など、成長期合併症としては、肥満、耐糖能異常、糖尿病などが生じやすくなるほか、早産、死産などのリスクも増加することが知られている。なお、妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて発見又は発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常と定義され、妊娠前に診断された明らかな糖尿病は含めないとされている。
【0005】
しかし、妊娠中の体重コントロールは非常に困難であり、多くの人を悩ませる原因となっている。妊娠時の肥満、糖尿病の改善を目的として、運動・食事療法などが行われ、治療薬としてインスリン様薬が処方される。しかし、インスリンは胎盤を通過できず、胎児への改善は見られにくい。
【0006】
糖尿病を発症していない妊婦及び妊娠成立前の女性は、肥満や食生活による高血糖を制御することが重要であるが、このような時期にはインスリンを投与することは不可能である。したがって、未病状態の女性又は妊婦においても使用可能な、高血糖を制御する物質や方法の開発が必要である。
【0007】
特許文献1には、タンパク源、炭水化物系、脂質源を含み、タンパク源として乳清タンパク質単離物を含有する妊婦向けの栄養組成物が記載されている。この組成物は妊娠期間及び授乳期間の血糖症及びインスリン血症を改善し後年の耐糖能異常を防止又は低減すると記載されているが、この組成物の効果及び有効成分は具体的に特定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」、南江堂、217~232頁(2013)
【文献】伊東宏晃他、産婦人科診療ガイドライン解説、日産婦誌63巻12号、N-315~N-320(2011)
【文献】Mutsaerts, et al., Engl. J. Med. 374; 20 pp. 1942-53 (2016)
【文献】Wassef and Quadro, J. Biol. Chem., 286(37), pp.32198-32207 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、妊娠前から使用可能な、妊娠中の母体の肥満及び高血糖の予防及び改善、妊娠及び出産の異常を低減又は防止するための剤及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ラクトフェリン(LF)がLRP-1を受容体とし、血液脳関門(BBB)を通過すること、胎盤にはLRP-1が発現されていることが報告されている。本発明者らは、胎盤LRP-1と胎児の成育に着目し、ラクトフェリンは母体から胎児へ移行できるものと推察して鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、
〔1〕 アスタキサンチン及び/又はラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする、妊娠中の母体及び胎児の健康状態改善用剤;
〔2〕 医薬組成物又は飲食物である、前記〔1〕又は〔2〕記載の剤;
〔3〕 健康状態改善が、体重増加抑制、血糖値制御、流産率低下又は胎児体重正常化を含む、前記〔1〕又は〔2〕記載の剤;
〔4〕 妊娠中の母体及び胎児の健康状態改善用剤を製造するための、アスタキサンチン及び/又はラクトフェリンの使用;
〔5〕 アスタキサンチン及び/又はラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする、妊娠中の母体及び胎児の体重増加抑制又は体重正常化用剤;
〔6〕 アスタキサンチン及び/又はラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする、妊娠中の母体及び胎児の血糖値制御用剤;
〔7〕 アスタキサンチン及び/又はラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする、流産予防用剤
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、妊娠中の母体の健康状態、特に体重増加や高血糖などを改善し、肥満状態の母体において生じる胎児異常を抑制することで、正常出産率を向上し、健康な新生児を出産できるようにすることに有効な剤、組成物、たとえば医薬組成物及び飲食物が提供される。また、本発明により、妊娠前及び妊娠中の母体及び胎児の健康状態の改善方法が提供される。
【0014】
本発明の剤は、未病の状態、たとえば高血糖や肥満を発症する前又は妊娠前から使用可能であり、食品やサプリメントとして簡便に摂取することも可能である。
【0015】
本発明の剤の有効成分であるラクトフェリンは、いろいろな哺乳動物の乳汁中に含まれていると共に、ヒトでは、母乳、涙、鼻汁、唾液などの外分泌液や、血漿、尿、子宮内液、羊水などの体液にも含まれている蛋白質である。また、アスタキサンチンは抗酸化作用を有することが知られ、主にエビ・カニなど甲殻類、サケ・マスの身、タイ・コイの表皮などに含まれるカロテノイドの一種で、長年の食経験がある食品に含有される成分である。したがって、本発明の剤は、安全性が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の効果を調べるための実験方法の概略を示す図である。
【
図2】親マウスの体重に対するラクトフェリン又はアスタキサンチンの摂取の効果を表す図である。横軸は上段が飲み水、下段が飼料の種類であり、N=水道水又は通常飼料、LF=ラクトフェリン添加水、AS=アスタキサンチン添加水、HF=高脂肪飼料を表す(
図2~9まで共通)。
【
図3】親マウスの餌摂取量に対するラクトフェリン又はアスタキサンチンの摂取の効果を表す図である。
【
図4】親マウスの水摂取量に対するラクトフェリン又はアスタキサンチンの摂取の効果を表す図である。
【
図5】親マウスの血中グルコース濃度に対するラクトフェリン又はアスタキサンチンの摂取の効果を表す図である。
【
図6】仔マウスの体重に対するラクトフェリン又はアスタキサンチンの摂取の効果を表す図である。
【
図7】親マウスの体重(横軸)と仔マウスの体重(縦軸)との相関関係を表す図である。
【
図8】親マウスの流産率に対するラクトフェリン又はアスタキサンチンの摂取の効果を表す図である。
【
図9】親マウスの産仔数に対するラクトフェリン又はアスタキサンチンの摂取の効果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の剤の有効成分は、精製、分画、単離又は抽出されたラクトフェリン又はアスタキサンチンである。本発明において使用されるラクトフェリンは、ラクトフェリンの生物活性があるものであればよい。その例を挙げると、ヒトを初めとする各種哺乳動物(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダなど)から得られる天然のラクトフェリン(例えば、ウシの乳に含まれるウシラクトフェリン)、ラクトフェリンから常法によって鉄を除去したアポラクトフェリン、アポラクトフェリンに金属(鉄、銅、亜鉛、マンガンなど)イオンをキレートさせた金属飽和又は非飽和ラクトフェリン、遺伝子工学技術により生産されるラクトフェリン、これらのラクトフェリンにポリエチレングリコール鎖を結合させたものなどがある。なお、遺伝子工学技術により生産されるラクトフェリンには、改変されたラクトフェリン遺伝子に基づいて産生される組換え型ラクトフェリンのほか、トランスジェニック動植物が生産するラクトフェリン、ラクトフェリンの活性フラグメントなどの機能的等価物も包含される。本発明に関してラクトフェリンという場合、インタクトなラクトフェリンのほか、上記のような種々のラクトフェリンの誘導体、改変物などの機能的等価物を含む。
【0018】
ラクトフェリンは公知の物質であるので、市販品を用いることができる。また、ラクトフェリンを含有する乳などから、公知の方法、例えばスルホン化担体を用いてラクトフェリンを精製する方法(特開平3-109400号公報)によって精製したラクトフェリンを使用することができる。さらに、用途によっては、乳などからの分画物であってラクトフェリンを高濃度で含有するもの(例えば、乳から糖類を除去した分画物)を使用することもできる。
【0019】
本発明において使用されるアスタキサンチンは、天然由来のものであっても合成されたものであってもよく、供給源や抽出又は製造方法を問わない。例えば、本発明に用いられるアスタキサンチンは、サケ、マス、甲殻類、ヘマトコッカス藻類、真菌等の天然物由来のものであってもよい。本発明に用いられるアスタキサンチンは、誘導体であってもよく、例えばエステル化された形態のアスタキサンチン等であってもよい。アスタキサンチンは公知の物質であるので、市販品を用いることができる。本発明に関してアスタキサンチンという場合、インタクトなアスタキサンチンのほか、上記のような種々のアスタキサンチンの誘導体、改変物などの機能的等価物を含む。
【0020】
本発明では、上記のようなラクトフェリン又はアスタキサンチンの中から、1種又は2種以上の組合せを適宜選択して用いることができる。
【0021】
本発明の剤は、ラクトフェリン又はアスタキサンチンを唯一の必須成分とするが、所望により、製薬又は食品業界で公知の種々の成分や添加剤であって、ラクトフェリン又はアスタキサンチンと配合禁忌ではない成分や添加剤を含んでいてもよい。したがって、本発明の剤は、医薬組成物、飲食物等の組成物であることができる。ここで、「飲食物」は、ヒト用に限定されず、ペットや家畜として飼育されている犬や猫などの哺乳動物用の飼料を含む。また、「飲食物」の概念には、通常の飲料や食品の他、いわゆるサプリメントや健康食品、経腸栄養食品、特別用途食品、栄養機能食品、特定保健用食品などが包含される。「飲料」の概念には、液体のみならず、摂取直前に水などの液体に混合又は溶解されて摂取される、粉末、顆粒、錠剤などの形態のものも包含される。
【0022】
本発明の剤が含んでいてもよい添加剤としては、製薬又は食品業界で日常的に使用されている賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、流動性促進剤、着色剤、香料などを挙げることができる。これらの添加剤は、所望の剤型に応じて、適宜選択される。
【0023】
本発明の剤の形態は、特に限定されない。したがって、本発明の剤が、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの経口組成物形態である場合には、ラクトフェリン及び/又はアスタキサンチンと共に、一般的には澱粉、スクロース、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類などの賦形剤を使用する。また、必要に応じ、前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、着色料、香料などを適宜使用することができる。より具体的には、結合剤としては、例えば、澱粉、デキストリン、アラビアガム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。また、崩壊剤としては、例えば、澱粉、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。界面活性剤としては、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステルなどが、滑沢剤としては、タルク、ロウ、蔗糖脂肪酸エステル、水素添加植物油、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどが、流動性促進剤としては、無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどが、それぞれ挙げられる。
【0024】
本発明の剤の投与経路は、例えば、経口、経皮、注射、経腸、直腸内投与などである。本発明の剤の好ましい投与経路は経口投与又は注射である。
【0025】
また、本発明は、ラクトフェリン又はアスタキサンチンを摂取させることを含む、妊娠前又は妊娠中の母体及び胎児の健康状態の改善方法に関する。ラクトフェリン又はアスタキサンチンを摂取させる、すなわち投与の対象は、哺乳動物、特にペットや家畜として飼育されている犬や猫などの哺乳動物(ヒトを除く)である。ラクトフェリン又はアスタキサンチンは、例えば上記のような任意の医薬組成物、飲食物等の形態で投与又は摂取させることができる。
【0026】
妊娠前又は妊娠中の母体の健康状態の改善に有効なラクトフェリンの1日あたりの投与又は摂取量は、その製剤形態、投与方法、対象の体重などによって異なるが、ヒトでは、好ましくは10mg乃至15,000mg/日であり、より好ましくは50mg乃至6,000mg/日である。また、ペット等の哺乳動物(ヒトを除く)では、好ましくは0.2mg乃至300mg/kg体重/日である。妊娠前又は妊娠中の母体の健康状態の改善に有効なアスタキサンチンの1日あたりの投与又は摂取量は、その製剤形態、投与方法、対象の体重などによって異なるが、ヒトでは、好ましくは10mg乃至15,000mg/日であり、より好ましくは50mg乃至6,000mg/日である。また、ペット等の哺乳動物(ヒトを除く)では、好ましくは0.2mg乃至300mg/kg体重/日である。
【0027】
以下に、本発明の実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。
【0028】
[実施例1] ラクトフェリン錠の製造
牛乳から抽出したラクトフェリン原末(蛋白質として純度95%以上;蛋白質中のラクトフェリンは90%以上)20kgに、乳糖45.6kg、結晶セルロース(商品名:アビセル)16kg、カルボキシメチルセルロース・カルシウム塩1.6kg、ショ糖脂肪酸エステル0.8kgを加え、得られた混合物をミキサーで粉砕し、100メッシュを通過する粉末とした。この混合粉末を打錠機により打錠して、長径8.5mm、重量210mgの錠剤とした。1錠中には、ラクトフェリン原末50mgが含有されている。
【0029】
[実施例2] 腸溶性ラクトフェリン錠の製造
コーティング機(フロイント産業(株)製、ハイコーターHCT-48N)に、実施例1で製造した錠剤を入れた。この錠剤に、シェラック9.6質量%、L-アルギニン1.5質量%、ソルビトール1.9質量%、ショ糖脂肪酸エステル2.4質量%、エタノール4.8質量%、精製水79.8%よりなる腸溶性コーティング液を噴霧し、対錠剤比で8~9質量%の腸溶性コーティングを施して製品とした。
【0030】
[実施例3]
<マウスの飼育方法>
4週齢のICRメスマウスを30匹購入し、体重のばらつきが均等になるように4群に分けた。動物飼育環境は、温度23.5±2℃、湿度50±10%、12時間照明(明期6:00-18:00、暗期18:00-6:00)に制御した。
【0031】
各群に対し、それぞれ、飼料は通常の飼料(日本クレア、CE-2)又は高脂肪飼料(日本クレア、HFD32)のいずれか、水は水道水、8%(w/v)ラクトフェリン(Tatura-Bio Lactoferrin Powder 500201)添加水、4mg/l(v/v)アスタキサンチンAS(富士化学工業、アスタリール(登録商標)10WS液)添加水のいずれかの組み合わせを与えた。自由摂取・飲水とした。
【0032】
上記の処理群で4週間飼育した後、ICRオスマウスと同居させて妊娠させた。妊娠19.5日後に産仔数および産仔の体重を測定し、産後1週間で母マウスを麻酔条件下で放血し安楽死させた。実験のアウトラインを
図1に示す。
【0033】
<体重測定>
4週齢から15週齢までの間、週に一度の頻度で体重を測定し、餌・水の種類による体重増加を調べた。また産仔の体重は、産後1日目に測定し、出生時体重とした。
【0034】
<水及び餌の摂取量の測定>
4週齢から15週齢までの間、餌の摂取量は週に2回、水の摂取量は週に3回、消費量を測定した。測定値をケージ内のマウス匹数で割り算をし、1匹あたりの1日摂取量を算出した。
【0035】
<血中グルコース濃度の測定>
出産1週間後のマウスを安楽死させる際、血液を採取した。その血液の一部を実験動物用グルコース測定装置(LAB Gluco、4239R1001、LG用センサー、4239R1002、株式会社フォラケアジャパン)で測定し、血中グルコース濃度を調べた。
【0036】
<マウスの解剖>
出産1週間後のマウスを安楽死させた後、子宮を観察して着床痕の数を調べた。実際に生んだ数を着床痕の数で割った値(%)を出産率とし、100%から出産率を引いた値を流産率とした。
【0037】
<結果>
結果を
図2~9に示す。
高脂肪飼料を与えた群(N-HF)は、通常飼料を与えた群(N-N)と比較して、有意に体重が増加した(p<0.01)。それに対し、高脂肪飼料とラクトフェリンを同時摂取させると(LF-HF)、高脂肪飼料のみを与えた群(N-HF)に比べて体重が減少し、通常飼料群(N-N)に近くなる傾向となった(
図2)。
【0038】
飼料摂取量については、高脂肪飼料を与えた場合は通常飼料を与えた場合よりも少なくなったが、高脂肪飼料を与えた群同士での比較では、ラクトフェリン又はアスタキサンチンの摂取の有無にかかわらず、摂取量に変化がなかった(
図3)。同様に、水摂取量についても、高脂肪飼料を与えた場合は通常飼料を与えた場合よりも少なくなったが、高脂肪飼料を与えた群同士での比較では、ラクトフェリン又はアスタキサンチンの摂取の有無にかかわらず、摂取量に変化がなかった(
図4)。
【0039】
体重の場合と同様に、高脂肪飼料を与えた群(N-HF)は、通常飼料群(N-N)と比べて血中グルコース濃度が有意に高くなっていたが(p<0.05)、高脂肪飼料とラクトフェリンを同時摂取させると(LF-HF)、母親の血中グルコース濃度は有意に減少しており正常値の範囲まで回復していた(
図5)。
【0040】
また、通常飼料を与えた群(N-N)と比べて高脂肪飼料を与えた親(N-HF)から生まれた産仔は巨大児となったが(p<0.001)、高脂肪飼料と同時にラクトフェリンを摂取させることで(LF-HF)正常な体重の産仔を得ることができた(
図6)。
【0041】
図7に、親の体重と産仔の体重との相関関係を示す。
図7においては、X軸は母の体重、Y軸は産仔の平均体重を表す。通常飼料と水道水を与えた群(N-N)では、母親の体重が重くなると、子供の体重は低下する(相関係数-0.349)が、高脂肪飼料と水道水を与えた群(N-HF)では、逆に、母親の体重が重くなると子供の体重も重くなる傾向が見られた(相関係数0.528)。これに対し、高脂肪飼料とともにラクトフェリンを与えた群(LF-HF)では、N-Nと同じ傾向を示すことが分かる。
【0042】
高脂肪飼料を与えた群(N-HF)は、通常飼料を与えた群(N-N)と比較して、有意に流産率が増加した(p<0.001)。それに対し、高脂肪飼料とラクトフェリン(LF-HF)又はアスタキサンチン(AS-HF)を同時摂取させると、高脂肪飼料のみを与えたマウスに比べて流産率が低減し、通常飼料群(N-N)に近くなった(
図8)。なお、試験した投与量では、マウスの妊娠率(オスと交配したマウスのうち妊娠した個体の割合)・出産率(妊娠したマウスのうち出産した個体の割合)には、ラクトフェリン又はアスタキサンチンの影響は見られなかった。
【0043】
さらに、高脂肪飼料を与えた群(N-HF)は、通常飼料を与えた群(N-N)と比較して、産仔数が減少する傾向があったが、この実験では有意差はなかったものの、高脂肪飼料とラクトフェリン(LF-HF)又はアスタキサンチン(AS-HF)を同時摂取させると、産仔数が増加する傾向が見られた(
図9)。
【0044】
以上の結果から、本発明の剤は、妊娠成立前及び/又は妊娠中に摂取させることによって、妊娠中の母体の健康状態及び胎児ないし新生児の健康状態を改善すること、さらに具体的には、妊娠中の母体の肥満又は糖代謝に関連する母子の異常を予防又は低減することが示された。特に、母体の体重の増加を抑制する効果、高血糖を改善する効果、流産(特に肥満関連の流産)を予防又は低減する効果、及び胎児ないし新生児の巨大化を抑制し、正常体重を維持する効果を有することが示された。