(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】睡眠推定システム、及び睡眠推定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20240826BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240826BHJP
A61B 5/0285 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
A61B5/16 130
A61B5/11 200
A61B5/0285 H
(21)【出願番号】P 2022541751
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2021029351
(87)【国際公開番号】W WO2022030623
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2020133828
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】阿部 高志
(72)【発明者】
【氏名】範 志偉
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 孝浩
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-118524(JP,A)
【文献】特開2013-165828(JP,A)
【文献】特表2014-530642(JP,A)
【文献】特開2018-027184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/16-5/18
A61B 5/02-5/03
A61B 5/11
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の血流を示す血流データを取得する第1取得部と、
前記血流データに対して周波数解析処理を実行することにより、前記血流データの周波数スペクトルを生成する生成部と、
前記周波数スペクトルに基づき、前記被検体の睡眠段階を判定する第1判定部と、を備え、
ノンレム睡眠における睡眠段階を、眠りの浅い睡眠段階から順にステージ1、2及び3とするとき、
前記第1判定部は、前記周波数スペクトル
として、
0.2Hz以上かつ0.3Hz以下の周波数帯域
を含む領域のうちの一部の第1範囲における
最大強度である第1強度が
、前記第1範囲以外の
前記領域の一部の第2範囲における第2強度よりも大きい
周波数スペクトルが生成されている場合に、前記被検体の睡眠段階が前記ステージ1から前記ステージ2又は3へ遷移したと判定する、睡眠推定
システム。
【請求項2】
前記第1判定部により前記ステージ1から前記ステージ2又は3へ遷移したと判定されたとき、又は、前記ステージ1から前記ステージ2又は3へ遷移したと判定されてから所定時間経過後に、第1通知処理を実行する第1通知部を備える、請求項1に記載の睡眠推定
システム。
【請求項3】
前記第1判定部により前記被検体の睡眠段階が前記ステージ1から前記ステージ2又は3へ遷移したと判定される場合に前記生成部により生成されている前記周波数スペクトルは、前記周波数帯域において前記第1強度を中心とした上に凸のブロードな波形を含む、請求項1または2に記載の睡眠推定
システム。
【請求項4】
被検体の血流を示す血流データを取得する第1取得部と、
前記血流データに対して周波数解析処理を実行することにより、前記血流データの周波数スペクトルを生成する生成部と、
前記周波数スペクトルに基づき、前記被検体の睡眠段階を判定する第1判定部と、を備え、
ノンレム睡眠における睡眠段階を、眠りの浅い睡眠段階から順にステージ1、2及び3とするとき、
前記生成部は、前記周波数解析処理として時間周波数解析処理を実行することにより、前記周波数スペクトルとして、所定時間内の各周波数帯域での強度の経時的な変化を示す強度変化データを生成し、
前記第1判定部は、
前記血流データとは異なる生体情報に基づいて前記ステージ2又は3に対応する
ものとして特定された、0.2Hz以上かつ0.3Hz以下の周波数帯域において所定の形状を有する周波数スペクトルを含む前記強度変化データ
を教師データ
として用いて学習させた学習済モデルに対し、前記生成部により生成された
、前記所定の形状を有する周波数スペクトルを含む前記強度変化データを与え
た場合に、前記被検体の睡眠段階が前記ステージ1から前記ステージ2又は3へ遷移したと判定する、睡眠推定
システム。
【請求項5】
被検体の血流を示す血流データを取得する第1取得部と、
前記血流データに対して周波数解析処理を実行することにより、前記血流データの周波数スペクトルを生成する生成部と、
ノンレム睡眠における睡眠段階を、眠りの浅い睡眠段階から順にステージ1、2及び3とするとき、前記周波数スペクトル
が0.2Hz以上かつ0.3Hz以下の周波数帯域において所定の形状を有すると判定した場合に、前記被検体の睡眠段階
が前記ステージ1から前記ステージ2又は3へ遷移したと判定する第1判定部と、
被検体の動きにより生じる加速度を示す加速度データを取得する第2取得部と、
前記加速度データに基づき、前記被検体が静止しているか否かを判定する第2判定部と、を備え、
前記生成部は、前記第2判定部により前記被検体が静止していると判定された場合に、前記周波数解析処理を実行する、睡眠推定
システム。
【請求項6】
被検体の血流を示す血流データを取得する取得部と、
前記血流データに対して、
0.2Hz以上かつ0.3Hz以下の周波数帯域における強度を他の周波数帯域よりも相対的に強調する処理を実行することにより、前記血流データの時間周波数解析処理の結果を示す処理データを生成する生成部と、
前記処理データに基づき、前記被検体の睡眠段階を判定する判定部と、を備え、
前記生成部は、前記処理データとして、所定時間内の各周波数帯域での強度の経時的な変化を示す強度変化データを生成し、
ノンレム睡眠における睡眠段階を、眠りの浅い睡眠段階から順にステージ1、2及び3とするとき、
前記判定部は、
前記血流データとは異なる生体情報に基づいて前記ステージ2又は3に対応する
ものとして特定された、0.2Hz以上かつ0.3Hz以下の周波数帯域において所定の形状を有する周波数スペクトルを含む前記強度変化データ
を教師データ
として用いて学習させた学習済モデルに対し、前記生成部により生成された
、前記所定の形状を有する前記強度変化データを与え
た場合に、前記被検体の睡眠段階が前記ステージ1から前記ステージ2又は3へ遷移したと判定する、睡眠推定
システム。
【請求項7】
前記生成部は、前記強調する処理として、ウェーブレット変換処理又は短時間フーリエ変換処理を実行することにより、前記処理データを生成する、請求項6に記載の睡眠推定
システム。
【請求項8】
前記生体情報は、脳波計により検出される脳波データである、請求項4、6または7に記載の睡眠推定システム。
【請求項9】
前記所定の形状は、上に凸のブロードな波形である、請求項4~8の何れか1項に記載の睡眠推定システム。
【請求項10】
前記被検体の血管に光を照射することにより発生する散乱光を受光することにより、前記血流データを検出する血流
計を備える、
請求項1~9の何れか1項に記載の睡眠推定システム。
【請求項11】
前記被検体の血管に光を照射することにより発生する散乱光を受光することにより、前記血流データを検出する血流
計を備え
るウェアラブル機器
を備える、請求項1~9の何れか1項に記載の睡眠推定システム。
【請求項12】
被検体の血流を示す血流データを取得する第1取得工程と、
前記血流データに対して周波数解析処理を実行することにより、前記血流データの周波数スペクトルを生成する生成工程と、
前記周波数スペクトルに基づき、前記被検体の睡眠段階を判定する第1判定工程と、を含み、
ノンレム睡眠における睡眠段階を、眠りの浅い睡眠段階から順にステージ1、2及び3とするとき、
前記第1判定工程では、前記周波数スペクトル
として、
0.2Hz以上かつ0.3Hz以下の周波数帯域
を含む領域のうちの一部の第1範囲における
最大強度である第1強度が
、前記第1範囲以外の
前記領域の一部の第2範囲における第2強度よりも大きい
周波数スペクトルが生成されている場合に、前記被検体の睡眠段階が前記ステージ1から前記ステージ2又は3へ遷移したと判定する、睡眠推定方法。
【請求項13】
被検体の血流を示す血流データを取得する取得工程と、
前記血流データに対して、
0.2Hz以上かつ0.3Hz以下の周波数帯域における強度を他の周波数帯域よりも相対的に強調する処理を実行することにより、前記血流データの時間周波数解析処理の結果を示す処理データを生成する生成工程と、
前記処理データに基づき、前記被検体の睡眠段階を判定する判定工程と、を含み、
前記生成工程では、前記処理データとして、所定時間内の各周波数帯域での強度の経時的な変化を示す強度変化データを生成し、
ノンレム睡眠における睡眠段階を、眠りの浅い睡眠段階から順にステージ1、2及び3とするとき、
前記判定工程では、
前記血流データとは異なる生体情報に基づいて前記ステージ2又は3に対応する
ものとして特定された、0.2~0.3Hzの周波数帯域において所定の形状を有する周波数スペクトルを含む前記強度変化データ
を教師データ
として用いて学習させた学習済モデルに対し、前記生成工程により生成された
、前記所定の形状を有する前記強度変化データを与え
た場合に、前記被検体の睡眠段階が前記ステージ1から前記ステージ2又は3へ遷移したと判定する、睡眠推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検体の睡眠段階の推定に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、睡眠段階を検出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る睡眠推定装置は、被検体の血流を示す血流データを取得する第1取得部と、前記血流データに対して周波数解析処理を実行することにより、前記血流データの周波数スペクトルを生成する生成部と、前記周波数スペクトルに基づき、前記被検体の睡眠段階を判定する第1判定部と、を備える。
【0005】
更に、本開示の一態様に係る睡眠推定装置は、被検体の血流を示す血流データを取得する取得部と、前記血流データに対して、所定の周波数帯域における強度が他の周波数帯域よりも相対的に強調されるウェーブレット変換処理又は短時間フーリエ変換処理を実行することにより、前記血流データの時間周波数解析処理の結果を示す処理データを生成する生成部と、前記処理データに基づき、前記被検体の睡眠段階を判定する判定部と、を備える。
【0006】
更に、本開示の一態様に係る睡眠推定方法は、被検体の血流を示す血流データを取得する第1取得工程と、前記血流データに対して周波数解析処理を実行することにより、前記血流データの周波数スペクトルを生成する生成工程と、前記周波数スペクトルに基づき、前記被検体の睡眠段階を判定する第1判定工程と、を含む。
【0007】
更に、本開示の一態様に係る睡眠推定方法は、被検体の血流を示す血流データを取得する取得工程と、前記血流データに対して、所定の周波数帯域における強度が他の周波数帯域よりも相対的に強調されるウェーブレット変換処理又は短時間フーリエ変換処理を実行することにより、前記血流データの時間周波数解析処理の結果を示す処理データを生成する生成工程と、前記処理データに基づき、前記被検体の睡眠段階を判定する判定工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1の睡眠推定システムの概略的な構成例を示すブロック図である。
【
図2】血流計が検出する血流波形データの一例を示すグラフである。
【
図3】血流波形データに対してフーリエ変換処理を実行することにより生成された周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図4】心電計が検出する心電波形データの一例を示すグラフである。
【
図5】心電波形データに対してフーリエ変換処理を実行することにより生成された周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図6】血流波形データに対するウェーブレット変換処理の結果の一例を示す画像である。
【
図7】実施形態1の睡眠推定装置による処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】実施形態2の睡眠推定システムの概略的な構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る被検体の睡眠段階の判定(推定)について説明する。まず、本開示に係る被検体の睡眠段階の判定の元となる原理について説明する。本明細書において「A~B」と記載した場合、「A以上、かつB以下」を示すことに留意されたい。また、本明細書では、睡眠段階の判定に用いられる血流データの一例として、血流波形データを挙げて説明する。
【0010】
〔原理〕
図2は、血流計が検出する血流波形データの一例を示すグラフである。
図2において、縦軸は、時間当たりの血流量に比例する値[単位:無次元]を示し、横軸は、測定時間[単位:min]を示す。血流計は、血流波形データとして、
図2に示すような生波形データW1及び加工波形データW2を取得できる。加工波形データW2は、生波形データW1を、R波のピークを取得しやすいように加工した波形データである。加工波形データW2は、例えば、生波形データW1に平滑化処理を実行することにより生成される。加工波形データW2において、隣接するピーク(図中の逆三角形状が示す位置での血流量)間の時間間隔は、心拍間隔(RRI:R-R Interval)を示す。
図4に示す心拍の生波形データW12においても同様に、隣接するピーク(図中の逆三角形状が示す位置での血流量)間の時間間隔は、心拍間隔(RRI)を示す。
【0011】
血流波形データを検出する血流計は、被検体の血管に光を照射することにより発生する散乱光を受光することにより、被検体の血流を示す血流波形データを検出できるセンサである。血流計は、被検体の血管に光を照射する発光部と、上記散乱光を受光する受光する受光部と、を備えてよい。
【0012】
一般に、レーザ光を流体に照射すると、(i)流体に含まれ当該流体と共に移動する散乱体、及び、(ii)流体を流すための管などの静止物によって、照射されたレーザ光が散乱され、散乱光が発生する。一般的に、散乱体は、流体において複素屈折率の不均一をもたらす。
【0013】
流体とともに移動する散乱体により発生した散乱光には、散乱体の流速に応じたドップラー効果により、波長シフトがもたらされる。一方、静止物により発生した散乱光には、波長シフトはもたらされない。これらの散乱光は光の干渉を起こすため、光ビート(うなり)が観測される。
【0014】
血流計は、この現象を利用したセンサであってよい。つまり、血流計は、被検体の血管にレーザ光を照射することにより、流体としての血液において発生した散乱光にもたらされる光ビートを、血流波形データとして検出するレーザドップラー血流計であってよい。
【0015】
より具体的には、血流計が備えるプロセッサによって、取得した受光信号を解析し、該受光信号の周波数毎の信号強度を示す周波数解析データを算出してもよい。一例として、プロセッサは、取得した受光信号に対してFFT(Fast Fourier Transformation:高速フーリエ変換)等の手法を用いて解析を行ってもよい。
【0016】
プロセッサは、さらに周波数解析データに基づいて、被検体の血流量の変動パターンを示す血流波形データを生成してもよい。一例として、プロセッサは、血流波形データとして、取得した周波数解析データの一次モーメント和Xを算出してもよい。より具体的には、プロセッサは、取得した周波数解析データの一次モーメント和Xを下記の数式を用いて算出してもよい。プロセッサは、下記の数式を用いて、一部(例えば、1~20kHz)の周波数帯域における一次モーメント和X
X=Σfx×P(fx)
を算出してもよい。ここで、「fx」は、周波数であり、「P(fx)」は、周波数fxにおける信号強度の値である。
【0017】
周波数解析データに基づいてプロセッサが算出する一次モーメント和Xは、被検体の血流量に比例する値となり得る。プロセッサは、複数の周波数解析データ毎の一次モーメント和Xを算出することによって、被検体の時間ごとの血流量の変動パターンを示すパターンデータを生成してもよい。また、プロセッサは、周波数解析データに含まれるデータのうち、一部の周波数帯域に含まれるデータを用いて血流波形データを生成してもよい。プロセッサは、生成した血流波形データを出力することができる。
【0018】
血流波形データは、血流量の他、例えば、心拍出量及び血管運動(バソモーション)の変動係数の少なくとも1つに関するデータを含むものであってよい。心拍出量は、一回の心臓の拍動によって送り出される血液の量である。バソモーションは、自然発生的かつ律動的な血管の収縮拡張運動である。バソモーションの変動係数は、バソモーションに基づいて生じた血流量の変動をバラつきとして示した値である。
【0019】
また、血流波形データは、脈波を含んでいてもよい。
【0020】
図3は、
図2に示すような血流波形データに対してフーリエ変換処理を実行することにより生成された周波数スペクトルの一例を示すグラフである。縦軸は、周波数スペクトルの強度[単位:dB]を示し、横軸は、周波数[単位:Hz]を示す。フーリエ変換処理は、周波数解析処理の一例であり、時間的変化を含まない、波形データの周波数スペクトルを生成する処理である。
【0021】
図3には、各睡眠段階に対応する周波数スペクトルFW1及びFW2が示されている。周波数スペクトルFW1は、生波形データW1に対してフーリエ変換処理を実行した結果生成された周波数スペクトルである。周波数スペクトルFW2は、加工波形データW2の心拍間隔(RRI)に対してフーリエ変換処理を実行した結果生成された周波数スペクトルである。
【0022】
上記睡眠段階は、覚醒、レム睡眠、及びノンレム睡眠の3段階に分類できる。ノンレム睡眠は、更に、眠りの浅い睡眠段階から順に、ステージ1(N1)、ステージ2(N2)、及びステージ3(N3)に分類できる。レム睡眠は、急速眼球運動(Rapid Eye Movement:REM)を伴う睡眠である。ノンレム睡眠は、急速眼球運動を伴わない睡眠である。
【0023】
この分類は、被検体に装着した脳波計が検出する脳波データに基づき行われる。脳波は、波長が長いものから順に、β波、α波、θ波及びδ波の4つに区分される。β波は、例えば38~14Hz程度の周波数の脳波である。α波は、例えば14~8Hz程度の周波数の脳波である。θ波は、例えば8~4Hz程度の周波数の脳波である。δ波は、例えば4~0.5Hz程度の周波数の脳波である。
【0024】
θ波およびδ波が、β波及びα波と比べて優位である場合に、人は眠っている。ここで、「優位である」とは、測定された脳波においてある波の割合が多くなることをいう。優位となる脳波は、睡眠時に、θ波及びδ波の範囲で周期的に変化することが知られている。また、脳波に含まれるθ波の割合が所定未満の場合には、人はレム睡眠の状態にあり、θ波の割合が所定以上の場合、及びδ波が優位な場合には、人はノンレム睡眠の状態にある。ステージ1は、例えば、α波が50%以下であり、低振幅の種々の周波数が混在した状態である。ステージ2は、例えば、不規則に低振幅のθ波及びδ波が現れるが、高振幅の徐波が無い状態である。ステージ3は、例えば、2Hz以下で、かつ75μVの徐波が20%以上である状態である。2Hz以下で、かつ75μVの徐波が50%以上である状態をステージ4と称してもよい。
【0025】
図3では、睡眠段階として、覚醒を「WK」、レム睡眠を「RM」、ノンレム睡眠のステージ1を「N1」、ノンレム睡眠のステージ2を「N2」、ノンレム睡眠のステージ3を「N3」と示している。
【0026】
図3の周波数スペクトルFW1及びFW2に示すように、ステージ2及び3の睡眠段階にある被検体から得られた周波数スペクトルにおいては、0.2~0.3Hzの周波数帯域(所定の周波数帯域)において有意な強度変化が認められる。換言すれば、当該周波数スペクトルにおいて、0.2~0.3Hzの周波数帯域のうちの一部の第1範囲R1における強度が、第1範囲R1以外の第2範囲R2における強度よりも所定値以上大きくなっている。以下、第1範囲R1における強度を第1強度と称し、第2範囲R2における強度を第2強度と称する。
【0027】
第1強度は、例えば、0.2~0.3Hzの周波数帯域における最大強度であってよい。第2強度は、例えば、この最大強度を含む第1範囲R1(例:最大強度を中心として±0.02Hz程度、但し0.2~0.3Hzの周波数帯域内)以外の第2範囲R2における最大強度であってよい。所定値は、例えば実験より、0.2~0.3Hzの周波数帯域において、隣接する周波数帯域には無い特徴的な波形Shが含まれるときに、当該波形Shが含まれることを特定できる程度の大きさに設定されていればよい。特徴的な波形Shは、例えば、上に凸の形状であって、かつある程度ブロードな波形(例:全半値幅が0.03Hz以上の波形)であればよい。
図3では、ステージ3に対応する周波数スペクトルFW1及びFW2における第1範囲R1及び第2範囲R2の例を示している。
【0028】
一方、覚醒、レム睡眠、及び、ステージ1の睡眠段階にある被検体から得られた周波数スペクトルにおいては、0.2~0.3Hzの周波数帯域において有意な強度変化が認められず、また上記のような特徴的な波形Shも認められない。
【0029】
鋭意研究の末、発明者は、0.2~0.3Hzの周波数帯域において有意な強度変化(特徴的な波形Sh)が認められる周波数スペクトルが得られたときに、被検体がステージ2又は3の睡眠段階にある可能性が高いことを見出した。つまり、発明者は、特徴的な波形Shを有する周波数スペクトルが得られたときに、被検体がステージ2又は3の睡眠段階にある可能性が高いことを見出した。また、発明者は、特に上述した血流計(例:レーザドップラー血流計)が検出する血流波形データの周波数スペクトルにおいて、0.2~0.3Hzの周波数帯域において有意な強度変化が認められることを見出した。発明者は、これらの知見を得て、被検体の睡眠段階の判定精度を向上可能な睡眠推定装置を開発するに至った。
【0030】
(心電波形データとの比較)
また、心電計が検出した心電波形データ(心電図)と、血流計が検出した血流波形データと、の間には、以下に説明する相違がある。
【0031】
図4は、心電計が検出する心電波形データの一例を示すグラフである。
図4において、縦軸は、心拍の強度[単位:dB]を示し、横軸は、測定時間[単位:min]を示す。
図4には、心電波形データとして、心拍の生波形データW11及びW12が示されている。
【0032】
図5は、心電波形データに対してフーリエ変換処理を実行することにより生成された周波数スペクトルの一例を示すグラフである。縦軸は、周波数スペクトルの強度[単位:dB]を示し、横軸は、周波数[単位:Hz]を示す。
【0033】
図5には、各睡眠段階に対応する周波数スペクトルFW11及びFW12が示されている。周波数スペクトルFW11は、生波形データW11に対してフーリエ変換処理を実行した結果生成された周波数スペクトルである。周波数スペクトルFW12は、心拍間隔(RRI)に対してフーリエ変換処理を実行した結果生成された周波数スペクトルである。周波数スペクトルFW11及びFW12に対応する睡眠段階は、被検体に装着した脳波計から取得した脳波データに基づき特定されている。
【0034】
図5に示すように、ステージ2及び3の睡眠段階にある被検体から検出した心電波形データを変換した周波数スペクトルFW11及びFW12において、0.2~0.3Hzの周波数帯域に有意な強度変化(特徴的な波形Sh)は認められない。ステージ2及び3の睡眠段階に対応する周波数スペクトルFW12については、0.2~0.3Hzの周波数帯域において上に凸の形状となっている。しかし、ステージ1の睡眠段階に対応する周波数スペクトルFW12についても、ステージ2及び3に対応する周波数スペクトルFW12と同様の形状となっている。従って、ステージ2及び3に対応する周波数スペクトルFW12が、0.2~0.3Hzの周波数帯域において有意な強度変化を有しているとは認められない。
【0035】
鋭意研究の末、発明者は、0.2~0.3Hzの周波数帯域において有意な強度変化が認められるのは、血流波形データの周波数スペクトルに特有の事象であることを見出した。これにより、発明者は、心電波形データではなく血流波形データから変換した周波数スペクトルを用いて被検体の睡眠段階を判定することにより、特に被検体がステージ2又は3の睡眠段階にあることを精度よく判定できる可能性が高いことを見出した。
【0036】
(周波数帯域について)
使用される血流計、及び被検体の個人差等によって、上記有意な強度変化が認められる周波数帯域には若干の広がりが生じる可能性がある。この点を考慮すれば、ステージ2又は3に対応する周波数スペクトルFW1及びFW2の、例えば0.15~0.4Hzの周波数帯域において、心電波形データには認められない有意な強度変化が認められる可能性は十分にある。以下の説明においては、上記有意な強度変化が認められる周波数帯域が0.2~0.3Hzであるものとして説明する。
【0037】
〔ウェーブレット変換処理〕
上述の原理では、周波数解析処理としてフーリエ変換処理を実行することにより得られた周波数スペクトルを用いて説明を行った。しかし、被検体の睡眠段階は、周波数解析処理としてウェーブレット変換処理を実行することにより得られた周波数スペクトルに基づき判定されてよい。ウェーブレット変換処理は、時間周波数解析処理の一例である。時間周波数解析処理は、時間的変化を含む、波形データの周波数スペクトルを生成する処理である。ウェーブレット変換処理は、任意の基準波形であるマザーウェーブレットを用いて、波形データの周波数スペクトルを生成する処理である。
【0038】
ウェーブレット変換処理において用いられるマザーウェーブレットは、以下のように定義される。以下の式において、「t」は時間変数、「a」はスケールパラメータ(マザーウェーブレットを時間軸方向に拡大又は縮小させるパラメータ)、「b」はトランスレートパラメータ(マザーウェーブレットを時間軸方向に平行移動させるパラメータ)を示す。
【0039】
【0040】
また、ウェーブレット変換処理を行うための関数は、以下のように定義される。以下の式において、「f(t)」は波形データ、「*」は共役複素数を示す。上記「a」及び「b」の値を調整したマザーウェーブレットを以下の式に代入することにより、波形データの周波数スペクトルを生成できる。
【0041】
【0042】
ウェーブレット変換処理を用いることにより、0.2~0.3Hzの周波数帯域における強度(以下、対象強度と称する)を他の周波数帯域よりも相対的に強調できる。上述の原理において説明したように、0.2~0.3Hzの周波数帯域において特徴的な波形Shを有する周波数スペクトルが得られたときに、被検体がステージ2又は3の睡眠段階にある可能性が高い。従って、ウェーブレット変換処理を用いて対象強度を強調することにより、被検体がステージ2又は3の睡眠段階にあるか否かの判定をより精度よく行う可能性を高めることができる。
【0043】
ウェーブレット変換処理においては、上記のように対象強度が強調されるように設定したマザーウェーブレットが用いられてよい。対象強度を大きくしたマザーウェーブレットは、上記「a」及び「b」の値を調整することにより設定できる。また、マザーウェーブレットとしてMorletを用いても構わない。この場合、スケールパラメータ「a」は、「ω=2π/a」という関係をもち局所的な角周波数を表す。角周波数「ω」は「ω=2πf」と表せるため、この「f(周波数)」の部分を0.2~0.3Hzとしてウェーブレット変換処理を実行してもよい。対象強度は、0.2~0.3Hzの周波数帯域全体の強度であっても、周波数帯域の一部の範囲(例:第1範囲R1)における強度であってもよい。
【0044】
また、血流波形データに対するウェーブレット変換処理の結果、所定時間内の各周波数帯域での強度の経時的な変化を示す強度変化データを生成できる。所定時間は、例えば実験により、被検体の睡眠段階の判定を精度良く行うことが可能な時間に設定されていればよい。本実施形態では、所定時間は、例えば2.5分に設定されてよい。
【0045】
ウェーブレット変換処理は、フーリエ変換処理と異なり、強度の時間的変化を含む周波数スペクトルを生成できるため、フーリエ変換処理よりもデータ数を増加できる。一般に、以下に説明する学習済モデルの生成において、データ数が多い程(学習させる特徴が多い程)、精度の良い出力データを出力できる学習済モデルを生成できる。従って、学習済モデルを生成する場合において、強度変化データを用いることは有効である。
【0046】
図6は、血流波形データに対するウェーブレット変換処理の結果の一例を示す画像である。
図6では、
図3に示すステージ3の周波数スペクトルFW1の元となる血流波形データ(生波形データW1)に対して、ウェーブレット変換処理を実行することにより生成された画像を示す。当該画像は、対象強度が強調された強度変化データの一例である。以下、強度変化データを示す画像を、ウェーブレット画像と称する。
【0047】
図6において、縦軸は、周波数[単位:Hz]を示し、横軸は、時間[単位:min]を示す。
図6のウェーブレット画像における濃淡は、強度[単位:dB]を示す。つまり、ウェーブレット画像は、周波数及び時間で規定される平面において周波数スペクトルの強度分布を示したデータである。
【0048】
本実施形態のウェーブレット画像では、周波数帯(強度)が色のグラデーションにより表現されてよい。ウェーブレット画像では、例えば、低い周波数帯を寒色系の色で表現し、高い周波数帯を暖色系の色で表現できる。具体的には、周波数帯は、低い順から、濃紺色、青色、水色、黄緑色、薄黄緑色、黄色、橙色、及び、赤色により表現されてよい。ウェーブレット画像において強度分布が視認できるのであれば、周波数帯は、他の色により表現されてもよいし、グレースケールにより表現されてもよい。
図6は、上記色で表現されたウェーブレット画像をグレースケール化した画像の一例を示している。
【0049】
図6のウェーブレット画像において、0.2Hz及びその付近において時間軸に沿って分布する第1領域AR1では、第1領域AR1に隣接する周波数帯域における強度よりも高い強度を示している。具体的には、第1領域AR1の、約0.2Hz±約0.05Hzの周波数帯域において、時間軸に沿って赤色で示す強度帯が分布しており、当該強度帯を中心として、橙色、黄色、薄黄緑色、及び黄緑色で示す強度領域が分布している。
図6において、赤色で示す強度帯の一部を符号101で示している。また、橙色、黄色、薄黄緑色、及び黄緑色で示す強度領域の一部を符号102で示している。一方、隣接する周波数帯域においては、主として、水色、青色、及び濃紺色で示す強度領域が分布しているが、赤色、橙色及び黄色で示す強度領域は分布していない。
図6において、水色、青色、及び濃紺色で示す強度領域の一部を符号103で示している。
【0050】
また、
図6に示すように、ウェーブレット画像では、0.2~0.3Hzの周波数帯域よりも高い周波数帯域において、時間軸に沿って鋸形状の強度帯が形成されている。
図6のウェーブレット画像では、第2領域AR2(約0.7Hz以上の周波数帯域)において、鋸形状の強度帯が形成されている。第2領域AR2は、約0.9~1.0Hzの周波数帯域において第1領域AR1よりも低い強度を有し、0.9Hz未満の周波数帯域及び1.0Hz以上の周波数帯域に向けて強度が徐々に低くなっている。
【0051】
上記鋸形状の強度帯は、心拍に対応する強度分布を示している。当該強度分布は、眠っている状態では時間軸に沿った帯形状となり、眠りが浅くなる程、帯形状が崩れた状態となる。心拍に対応する強度分布は、フーリエ変換処理では得られない強度分布である。以下に説明する学習済モデルの生成にウェーブレット画像を用いることにより、心拍も加味した学習済モデルを生成できる。
【0052】
図6は、対象強度が強調されたウェーブレット画像の一例を示しているが、対象強度が強調されないウェーブレット画像であっても、第1領域AR1の強度が、隣接する周波数帯域における強度よりも高い強度を示すことに留意されたい。
【0053】
〔学習済モデルの生成〕
被検体の睡眠段階の判定において、被検体の睡眠段階を判定するための学習済モデル(近似器)を用いることができる。学習済モデルは、人間の脳神経系のニューロンを模した数理モデル(入力層、隠れ層及び出力層を含むニューラルネットワーク)に対して、ユーザの睡眠段階を判定可能なように学習させたものである。数理モデルは、被検体の睡眠段階を判定可能な学習済モデルを生成できるものであればよい。数理モデルは、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)、又はLSTM(Long Short Term Memory)であってよい。
【0054】
学習とは、出力層から正しい演算結果が出力されるように、ユニット間の結合の強さ、及び結合の偏り等を調整することをいう。本実施形態では、学習を行う場合、入力層に、学習データが入力される。隠れ層において、学習データに対して演算データに基づく演算が実行され、隠れ層における演算結果が、出力層から出力データとして出力される。教師データと出力データとが対比され、誤差が小さくなるように演算データが調整される。複数の学習データのそれぞれに対して、この処理が繰り返し実行されることにより演算データを調整した学習済モデルが生成される。つまり、本実施形態では、学習済モデルは、学習データ及び教師データを用いた、いわゆる教師あり学習によって生成されてよい。後述する睡眠推定装置51は、このように生成された学習済モデルを用いることにより、被検体の睡眠段階の判定を行うことができる。
【0055】
学習データは、学習済モデルを生成するための例題となるデータである。学習データは、血流波形データから生成された周波数スペクトルであってよい。本実施形態では、ウェーブレット画像が用いられる。ウェーブレット画像としては、対象強度が強調されたものであっても、対象強度が強調されていないものであってもよい。学習データは、覚醒時と睡眠時とで挙動が異なるもの、又は睡眠の深さに応じて挙動が変化するものであってよい。学習データとして、様々な種類のデータ(例:互いに異なる波形を示す血流波形データの周波数スペクトル)であってよい。
【0056】
教師データは、学習データに対して正解ラベルが紐づけられたデータである。例えば、学習データとしての周波数スペクトルに対して、血流波形データを取得した人の睡眠段階が正解ラベルとして紐づけられたデータを、教師データとして用いてよい。上述のように、被検体の睡眠段階は、脳波計により検出される脳波データに基づき特定されてよい。正解ラベルとしては、各睡眠段階を示す符号が用いられてよい。若しくは、正解ラベルとして、ある特定の睡眠段階(例:ステージ2又は3)に正解を示す符号が用いられ、それ以外の睡眠段階に不正解を示す符号が用いられてもよい。本実施形態では、教師データの一例として、ステージ2又は3に対応することが既知のウェーブレット画像(脳波データによりステージ2又は3と特定されたウェーブレット画像)に正解ラベルとして紐付けられたデータが用いられてよい。
【0057】
演算データは、演算式、演算式の変数(例:バイアス及び重み)、及び活性化関数等のデータを含む、学習済モデルを生成するための演算に関するデータである。バイアス及び重みは、各ユニット間の結合の強さを規定するものである。バイアス及び重みが調整されることにより、学習済モデルの精度を高めることができる。演算データの調整方法としては、例えば誤差逆伝播法及び勾配降下法が採用されてよい。
【0058】
〔実施形態1〕
以下に、上記原理に基づき構築された、被検体の睡眠段階を判定可能な睡眠推定システム1の一例について説明する。本実施形態の睡眠推定システム1は、上記学習済モデルを用いて被検体の睡眠段階を判定可能なシステムであってよい。
【0059】
<睡眠段階推定システム>
図1は、実施形態1の睡眠推定システム1の概略的な構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、睡眠推定システム1は、加速度計2、血流計3、及び携帯端末5を備える。携帯端末5では、携帯端末5の各部材を統括的に制御する制御部の機能の一部として、例えば、被検体の睡眠段階を判定可能なアプリケーションを実行することにより当該睡眠段階を判定する睡眠推定装置51が構築されている。
【0060】
<加速度計>
加速度計2は、被検体の動きにより生じる加速度を検出できるセンサである。加速度計2は、無線又は有線通信より、検出した加速度を加速度データとして、睡眠推定装置51に送信してもよい。加速度計2は、例えば頭部又は指といった被検体の身体の一部に装着される。加速度計2としては、例えば周波数変化式、圧電式、ピエゾ抵抗式、又は静電容量式といった公知のセンサが用いられてよい。
【0061】
<血流計>
血流計3は、上記原理において説明した血流計であってよい。血流計3は、例えば、レーザドップラー血流計であってよい。本実施形態では、血流計3は、血流波形データとして生波形データW1を、睡眠推定装置51に送信してもよい。血流計3は、生波形データW1に代えて加工波形データW2を、睡眠推定装置51に送信してもよい。血流計3が加工波形データW2を生成せず、睡眠推定装置51が加工波形データW2を生成してもよい。血流計3は、例えば、耳、指、手首、腕、額、鼻、又は首といった被検体の身体の一部に装着される。
【0062】
<携帯端末>
携帯端末5は、少なくとも加速度計2及び血流計3とデータ通信が可能な端末であればよい。携帯端末5は、例えば、スマートフォン又はタブレットであってよい。携帯端末5には、睡眠推定装置51が構築されていると共に、記憶部52及び報知部53が備えられている。
【0063】
記憶部52は、制御部(特に睡眠推定装置51)が使用するプログラム及びデータを記憶できる。記憶部52は、例えば、上述のように生成された学習済モデル、及び、被検体が静止しているか否かを判定するための閾値を記憶できる。
【0064】
報知部53は、各種情報を、携帯端末5の周囲(例:被検体)に報知できる。本実施形態では、報知部53は、睡眠推定装置51からの通知指示に従った各種情報を報知できる。報知部53は、音を出力する音出力装置、携帯端末5を振動させる振動装置、及び、画像を表示する表示装置の少なくとも何れかであってよい。
【0065】
(睡眠推定装置)
睡眠推定装置51は、加速度計2及び血流計3が装着された被検体の睡眠段階を判定できる。睡眠推定装置51は、第2取得部11、第2判定部12、第1取得部13(取得部)、生成部14、第1判定部15(判定部)、及び通知部16を備えてよい。
【0066】
第2取得部11は、加速度計2から加速度データを取得できる。第2判定部12は、第2取得部11が取得した加速度データに基づき、被検体が静止しているか否かを判定できる。第2判定部12は、例えば、加速度データが示す加速度が、記憶部52に記憶された閾値未満である場合に、被検体が静止していると判定してもよい。第2判定部12は、判定結果データを生成部14に送信してもよい。
【0067】
第1取得部13は、血流計3から血流波形データ(生波形データW1)を取得できる。生成部14は、第1取得部13が取得した血流波形データに対して周波数解析処理を実行することにより、血流波形データの周波数スペクトルを生成できる。第1判定部15は、生成部14が生成した周波数スペクトルに基づき、被検体の睡眠段階を判定できる。換言すれば、第1判定部15は、当該周波数スペクトルに基づき、被検体の睡眠の深さの遷移を判定できる。
【0068】
本実施形態では、生成部14は、周波数解析処理として、対象強度が他の周波数帯域よりも相対的に強調されるウェーブレット変換処理を実行することにより、ウェーブレット画像を生成できる。当該ウェーブレット画像は、血流波形データの時間周波数解析処理の結果を示す処理データである。第1判定部15は、生成部14が生成したウェーブレット画像に基づき、被検体の睡眠段階を判定できる。
【0069】
本実施形態では、第1判定部15は、周波数スペクトルの0.2~0.3Hzの周波数帯域に特徴的な波形Shが含まれていると判定した場合、被検体の睡眠段階がステージ2又は3であると判定できる。この場合、第1判定部15は、被検体の睡眠段階がステージ1からステージ2又は3に遷移したと判定してよい。一方、第1判定部15は、0.2~0.3Hzの周波数帯域に特徴的な波形Shが含まれていないと判定した場合には、被検体の睡眠段階がステージ2又は3以外の睡眠段階であると判定できる。第1判定部15は、被検体がステージ2又は3の睡眠段階にあると判定した後に、0.2~0.3Hzの周波数帯域に特徴的な波形Shが含まれていないと判定した場合には、被検体の睡眠段階がステージ2又は3からステージ1に遷移したと判定してよい。上記特徴的な波形Shが含まれるか否かの判定は、例えば、第1強度が第2強度より所定値以上大きいか否かの判定により行うことも可能である。
【0070】
本実施形態では、第1判定部15は、被検体の睡眠段階の判定を、学習済モデルを用いることにより実行してもよい。この場合、第1判定部15は、生成部14が生成したウェーブレット画像を入力データとして学習済モデルの入力層に与えることにより、当該学習済モデルの出力層から被検体の睡眠段階の判定結果を出力できる。
【0071】
上述のとおり、学習済モデルは、ステージ2又は3に対応することが既知のウェーブレット画像に正解ラベルとして紐付けられたデータを教師データの一例として用いて生成される。そのため、第1判定部15は、生成部14が生成したウェーブレット画像を学習済モデルに与えることにより、被検体の睡眠段階がステージ2又は3であることも、ステージ1からステージ2又は3へ遷移したことも判定できる。第1判定部15は、特に0.2~0.3Hzの周波数帯域に特徴的な波形Shが含まれている周波数スペクトルを学習済モデルに与えた場合には、被検体の睡眠段階がステージ2又は3であることを精度よく判定できる可能性がある。
【0072】
ここで、血流波形データを用いて睡眠段階を推定する場合、血流波形データのみでは、睡眠推定装置が、被検体が入眠しているか否かを判定できない可能性がある。例えば、覚醒時であっても血流が安定している被検体の場合、覚醒時の血流波形データと睡眠時の血流波形データとの間に有意な差が認められない可能性があり、この場合、睡眠推定装置が、被検体が入眠しているか否かを判定できない可能性がある。本実施形態では、生成部14は、第2判定部12により被検体が静止していると判定された場合に、血流波形データに対して周波数解析処理を実行することにより、被検体が入眠した可能性が高い状態において、第1判定部15による判定処理を実行できる。
【0073】
通知部16は、第1判定部15の判定結果に基づく通知処理を実行できる。通知部16は、通知処理に従った通知指示を、報知部53に送信してもよい。これにより、報知部53は、通知処理に従った情報を、携帯端末5の周囲に報知できる。通知部16は、第1通知部161及び第2通知部162を備えてよい。
【0074】
第1通知部161は、上記通知処理として、第1判定部15によりステージ1からステージ2又は3への遷移が検出されてから所定時間経過後に、第1通知処理を実行できる。第1通知処理は、当該遷移の検出に伴う通知処理であり、例えば、被検体に覚醒を促すためのアラーム処理、又は当該遷移の検出を通知する処理であってよい。所定時間は、通知の目的に応じて、例えば実験により適宜設定されてよい。本実施形態では、所定時間は、例えば、ステージ1からステージ2又は3への遷移した時点から計時したときに、被検体が覚醒しやすいと推定される時間に設定されていればよい。第1通知処理により、例えば、被検体は、入眠後、良好な覚醒タイミングにおいて覚醒できる。第1通知部161は、第1判定部15によりステージ1からステージ2又は3への遷移が検出されたとき、第1通知処理を実行しても構わない。
【0075】
第2通知部162は、上記通知処理として、第1判定部15によりステージ2又は3ステージ1への遷移が検出されてから所定時間経過後に、第2通知処理を実行できる。第2通知処理は、当該遷移の検出に伴う通知処理であり、例えば、被検体に覚醒を促すためのアラーム処理、又は当該遷移の検出を通知する処理であってよい。所定時間は、通知の目的に応じて、例えば実験により適宜設定されてよい。本実施形態では、所定時間は、例えば、ステージ2又は3からステージ1への遷移した時点から計時したときに、被検体が覚醒しやすいと推定される時間に設定されていればよい。第2通知処理により、例えば、被検体は、入眠後、良好な覚醒タイミングにおいて覚醒できる。第2通知部162は、第1判定部15によりステージ2又は3からステージ1への遷移が検出されたとき、第2通知処理を実行しても構わない。
【0076】
〔処理の流れ〕
図7は、睡眠推定装置51による処理の流れ(睡眠推定方法)の一例を示すフローチャートである。睡眠推定装置51により被検体の睡眠段階を判定する場合、被検体に血流計3を装着した後、血流計3は血流波形データの検出を開始してもよい。
【0077】
図7に示すように、睡眠推定装置51では、第1取得部13は、血流計3から血流波形データを取得できる(S1:第1取得工程、取得工程)。生成部14は、血流波形データに対して周波数解析処理を実行することにより、血流波形データの周波数スペクトルを生成できる。本実施形態では、生成部14は、血流波形データに対してウェーブレット変換処理を実行することにより、対象強度が強調されたウェーブレット画像を生成できる(S2:生成工程)。第1判定部15は、周波数スペクトルに基づき、被検体の睡眠段階を判定できる。本実施形態では、第1判定部15は、対象強度が強調されたウェーブレット画像を学習済モデルに入力することにより(S3)、被検体の睡眠段階を判定できる(S4:第1判定工程、判定工程)。
【0078】
第1判定部15は、睡眠段階の判定結果に基づき、ステージ1からステージ2又は3へ遷移したか否かを判定できる(S5)。第1判定部15が、ステージ1からステージ2又は3へ遷移したと判定した場合(S5でYES)、第1通知部161は、その判定から所定時間経過したか否かを判定できる(S6)。第1通知部161は、所定時間経過したと判定した場合(S6でYES)、第1通知処理として、例えば、アラーム音を報知部53から報知させるアラーム処理を実行できる(S7)。報知部53は、第1通知部161からの通知指示を受けて、アラーム音を報知できる。
【0079】
S5でNOの場合、S1の処理に戻ってよい。S6でNOの場合、S6の処理を繰り返してよい。また、S5において、第1判定部15がステージ2又は3からステージ1へ遷移したと判定する場合には、第2通知部162が、例えば所定時間経過後、第2通知処理を実行してよい。
【0080】
〔従来技術における課題、及び本開示に係る睡眠推定装置の効果〕
特許文献1には、以下のステップ1~4を含むノンレム睡眠を検出する方法が開示されている。
・ステップ1:被検者の心臓の拍動間隔の時系列データを生成するステップ。
・ステップ2:時系列データの時間軸に沿って移動する、所定の時間長のウィンドウを設定し、時間軸上の複数の判定時点の各々について、それを含むウィンドウ内の時系列データをスペクトル解析するステップ。
・ステップ3:各ウィンドウのスペクトルから、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度を算出するステップ。
・算出した集中度に基づいて、ノンレム睡眠であるか否かを判定するステップ。
【0081】
上記方法では、ステップ1の時系列データの検出機器として、例えば、脈波計又は心電計が用いられる。
【0082】
しかし、脳波計の取扱い及び脳波の取得には高度な専門的な知識を要する。また、脳波計の取付けは煩雑である。従って、被検体は、簡便に脳波を取得することが困難であり、簡便に自己の睡眠段階を把握することが困難である。
【0083】
また、上述したように、発明者は、血流波形データの周波数スペクトルにおいて、0.2~0.3Hzの周波数帯域に有意な強度変化が認められる場合、被検体がステージ2又は3の睡眠段階にある可能性が高いことを見出した。
【0084】
本開示の睡眠推定装置51は、血流波形データを用いて被検体の睡眠段階を判定できる。血流計の取扱い及び血流波形データの取得には、脳波計と比較して高度な専門知識を要しない。また、血流計の取付けは、脳波計と比較して容易である。つまり、睡眠推定装置51は、比較的簡便に被検体の血流波形データを取得できるため、比較的簡便に被検体の睡眠段階を判定できる。また、睡眠推定装置51によれば、被検体は、自己の睡眠段階を簡便に把握できる。
【0085】
また、本開示の睡眠推定装置51は、心電波形データには認められない上記有意な強度変化を有する周波数スペクトルが得られたときに、被検体の睡眠段階がステージ2又は3であると判定できる。そのため、睡眠推定装置51は、被検体の睡眠段階がステージ2又は3であると精度よく推定できる可能性を高めることができる。
【0086】
〔実施形態2〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
図8は、実施形態2の睡眠推定システム1Aの概略的な構成例を示すブロック図である。
【0087】
実施形態1の睡眠推定システム1では、携帯端末5が、被検体に装着された血流計3から、例えば無線通信により血流波形データを取得できる。そして、携帯端末5において構築された睡眠推定装置51が、血流波形データに基づき被検体の睡眠段階を判定できる。
【0088】
一方、
図8に示すように、実施形態2の睡眠推定システム1Aでは、ウェアラブル機器20に血流計3が設けられていてよい。加えて、ウェアラブル機器20では、ウェアラブル機器20の各部材を統括的に制御する制御部の機能の一部として、睡眠推定装置51が構築されていてよい。つまり、睡眠推定システム1Aでは、睡眠推定装置51が血流計3と共にウェアラブル機器20に実装されていてよい。そのため、1つの機器にて、血流波形データの取得処理、及び血流波形データに基づく睡眠段階の判定処理を実行できる。また、2つの機器間において無線又は有線通信を行うときに必要となる各種機器又は部品等が不要となる。ウェアラブル機器20は、被検体において血流計3が装着される位置と同様の位置に装着されればよい。
【0089】
〔変形例〕
以上、本開示に係る発明について、諸図面および実施例に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【0090】
(周波数解析処理の変形例)
例えば、生成部14は、血流波形データに対してウェーブレット変換処理を実行することにより、ウェーブレット変換画像を生成できればよく、対象強度が強調されるようにウェーブレット変換処理を行う必要は必ずしもない。
【0091】
また、生成部14は、血流波形データに対してウェーブレット変換処理以外の時間周波数解析処理を実行してもよい。生成部14は、血流波形データに対して、例えば短時間フーリエ変換処理を実行してもよい。短時間フーリエ変換処理は、窓関数を用いて時間軸に沿って切り出した複数の波形データのそれぞれにフーリエ変換処理を実行するものである。この場合、生成部14は、対象強度が他の周波数帯域よりも相対的に強調される短時間フーリエ変換処理を実行することにより、ウェーブレット画像と同様の画像(強度変化データ)を、処理データとして生成してもよい。
【0092】
また、生成部14は、周波数解析処理として、時間周波数解析処理以外の処理を実行してもよい。生成部14は、例えば、フーリエ変換処理を実行してもよい。生成部14がフーリエ変換処理を実行した場合、例えば
図3に示す周波数スペクトルFW1又はFW2を生成できる。また、生成部14は、短時間フーリエ変換処理を実行することにより、
図3のような周波数スペクトル(波形)を生成してもよい。
【0093】
このように、生成部14は、各種周波数スペクトルを生成できる。従って、第1判定部15は、各種周波数スペクトルを学習済モデルに入力することにより、被検体の睡眠段階を判定できる。但し、学習済モデルは、生成部14が生成する周波数スペクトルと同種の周波数スペクトルを学習データ及び教師データとして用いて生成されている。
【0094】
(第1判定部の判定処理の変形例)
学習済モデルが、携帯端末5又はウェアラブル機器20の記憶部52に記憶されていなくてもよい。つまり、睡眠推定システム1又は1Aが学習済モデルを用いて被検体の睡眠段階の判定を行わなくてもよい。
【0095】
例えば、第1判定部15は、生成部14が生成した周波数スペクトルにおいて第1強度が第2強度より所定値以上大きいと判定した場合に、被検体の睡眠段階がステージ2又は3であると判定してよい。記憶部52には、学習済モデルに代えて、所定値が記憶されていてよい。
【0096】
また、第1判定部15は、周波数スペクトルFW1を用いて被検体の睡眠段階の判定を行う場合、0.2~0.3Hzの周波数帯域において特徴的な波形Shを抽出できたときに、被検体の睡眠段階がステージ2又は3であると判定してもよい。この場合、記憶部52には、学習済モデルに代えて、周波数スペクトルFW1において特徴的な波形Shを抽出可能な基準波形が記憶されていてよい。第1判定部15は、周波数スペクトルFW1の0.2~0.3Hzの周波数帯域において、基準波形と一致する波形が存在すると判定した場合、当該周波数帯域において特徴的な波形Shを抽出できたと判定してもよい。第1判定部15は、0.2~0.3Hzの周波数帯域に含まれる波形と、基準波形との一致度が、例えば実験により設定された閾値以上である場合に、0.2~0.3Hzの周波数帯域において、基準波形と一致する波形が存在すると判定してよい。また、第1判定部15は、その他の指標(例:波形の傾きの変化度合い)によって、0.2~0.3Hzの周波数帯域に特徴的な波形Shが含まれるか否かを判定してもよい。更に、周波数スペクトルFW2についても周波数スペクトルFW1と同様の判定が行われてよい。
【0097】
(睡眠推定システム1又は1Aの変形例)
加速度計2により被検体の動きにより生じる加速度を検出し、睡眠推定装置51が、当該加速度により被検体の入眠状態の判定を行わなくても構わない。この場合、睡眠推定システム1又は1Aが加速度計2を備えておらず、睡眠推定装置51が第2取得部11及び第2判定部12を備えていなくてよい。
【0098】
〔ソフトウェアによる実現例〕
睡眠推定装置51の制御ブロックは、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0099】
後者の場合、睡眠推定装置51は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本開示の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本開示の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【符号の説明】
【0100】
1、1A 睡眠推定システム
3 血流計
11 第2取得部
12 第2判定部
13 第1取得部(取得部)
14 生成部
15 第1判定部(判定部)
20 ウェアラブル機器
51 睡眠推定装置
161 第1通知部
162 第2通知部