(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】固体電解質含有繊維製品の製造方法及び固体電解質被覆繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/53 20060101AFI20240826BHJP
D06M 11/13 20060101ALI20240826BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240826BHJP
H01M 10/0562 20100101ALN20240826BHJP
D06M 101/00 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
D06M11/53
D06M11/13
H01B1/06 A
H01M10/0562
D06M101:00
(21)【出願番号】P 2020095001
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】322003570
【氏名又は名称】エンテックアジア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100160314
【氏名又は名称】西村 公芳
(74)【代理人】
【識別番号】100134038
【氏名又は名称】野田 薫央
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】小原 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康史
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚範
(72)【発明者】
【氏名】引間 和浩
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-115069(JP,A)
【文献】特開平02-291607(JP,A)
【文献】特開2013-127982(JP,A)
【文献】特開2014-096311(JP,A)
【文献】特開2015-153460(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133388(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00-11/84、16/00、19/00-23/18、
H01B1/00-1/24、
H01M10/05-10/0587、10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の表面の少なくとも一部に固体電解質が密着して該部分を被覆している固体電解質被覆繊維を含む固体電解質含有繊維製品を製造する方法であって、
容器に、前記繊維を含む繊維集合体と、固体電解質形成原料と、有機溶剤とを入れ、該有機溶剤の中で、前記固体電解質形成原料を反応させて
前記繊維の表面の少なくとも一部に前記固体電解質を形成させ、前記固体電解質含有繊維製品を得る反応工程を備え、
前記容器は、該容器の内表面における前記有機溶剤の接触角が、前記繊維集合体に含まれる少なくとも1種の前記繊維における前記有機溶剤の接触角より5度以上高いことを特徴とする、固体電解質含有繊維製品の製造方法。
【請求項2】
前記繊維がガラス繊維を含む請求項1に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
【請求項3】
前記固体電解質が硫化物系固体電解質である請求項1又は2に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
【請求項4】
前記固体電解質形成原料が、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムのうち、少なくとも前記硫化リチウム及び前記五硫化二リンを含む請求項1乃至3のいずれか一項に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶剤が、飽和脂肪酸エステル及びジアルキルカーボネートから選ばれた少なくとも1種を含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
【請求項6】
前記繊維集合体の空隙率が50~95%である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
【請求項7】
前記反応工程は、第1工程及び第2工程の2段階からなり、
前記第1工程が、前記容器の中で、前記固体電解質形成原料の少なくとも一部の成分を前記有機溶剤に溶解させてなる溶液と、前記繊維集合体とを接触させ、前記成分を含む核を、前記繊維集合体に含まれる前記繊維の表面の少なくとも一部に形成し、核付着繊維集合体を得る工程であり、
前記第2工程が、前記容器の中で、前記固体電解質形成原料の残部を前記有機溶剤に溶解させてなる溶液と、前記核付着繊維集合体とを接触させる工程である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
【請求項8】
更に、前記反応工程の後、前記容器に含まれる複合物を回収する回収工程を備える請求項1乃至7のいずれか一項に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
【請求項9】
更に、前記回収工程により得られた前記複合物を熱処理する熱処理工程を備える請求項8に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
【請求項10】
更に、前記回収工程の後に、プレス工程を備える請求項8に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
【請求項11】
無機繊維の表面の少なくとも一部に固体電解質が密着して該部分を被覆している固体電解質被覆繊維を製造する方法であって、
容器に、前記無機繊維と、固体電解質形成原料と、有機溶剤とを入れ、該有機溶剤の中で、前記固体電解質形成原料を反応させて
前記無機繊維の表面の少なくとも一部に前記固体電解質を形成させ、前記固体電解質被覆繊維を得る反応工程を備え、
前記容器は、該容器の内表面における前記有機溶剤の接触角が、少なくとも1種の前記無機繊維における前記有機溶剤の接触角より5度以上高いことを特徴とする、固体電解質被覆繊維の製造方法。
【請求項12】
前記無機繊維がガラス繊維を含む請求項11に記載の固体電解質被覆繊維の製造方法。
【請求項13】
前記固体電解質が硫化物系固体電解質である請求項11又は12に記載の固体電解質被覆繊維の製造方法。
【請求項14】
前記有機溶剤が、飽和脂肪酸エステル及びジアルキルカーボネートから選ばれた少なくとも1種を含む請求項11乃至13のいずれか一項に記載の固体電解質被覆繊維の製造方法。
【請求項15】
前記反応工程は、第1工程及び第2工程の2段階からなり、
前記第1工程が、前記容器の中で、前記固体電解質形成原料の少なくとも一部の成分を前記有機溶剤に溶解させてなる溶液と、前記無機繊維とを接触させ、前記成分を含む核を、前記無機繊維の表面の少なくとも一部に形成し、核付着繊維を得る工程であり、
前記第2工程が、前記容器の中で、前記固体電解質形成原料の残部を前記有機溶剤に溶解させてなる溶液と、前記核付着繊維とを接触させる工程である請求項11乃至14のいずれか一項に記載の固体電解質被覆繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池を構成する電解質層の形成に好適な固体電解質含有繊維製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、充電時には正極からリチウムがイオンとして脱離して負極へ移動して吸蔵され、放電時には負極から正極へリチウムイオンが挿入されて戻る構造の二次電池である。このリチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、長寿命である等の特徴を有しているため、従来、パーソナルコンピューター、カメラ等の家電製品や、携帯電話機等の携帯型電子機器又は通信機器、パワーツール等の電動工具等の電源として広く用いられており、最近では、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等に搭載される大型電池にも応用されている。このようなリチウムイオン電池において、可燃性の有機溶剤を含む電解液に代えて固体電解質を用いると、安全装置の簡素化が図られるだけでなく、製造コスト、生産性等にも優れることから、各種材料、特に、導電率(リチウムイオン伝導度)が高い硫化物固体電解質の研究が盛んに進められている。
【0003】
リチウムイオン電池の製造に用いる硫化物固体電解質は、通常、粉末である。リチウムイオン電池の製造の際には、取り扱いの便宜上、電解質をシート状とすることが求められているが、固体電解質粉末のみを用いて単一層の薄膜シートを形成することが困難であることが多い。そこで、電子絶縁性無機繊維等の繊維に固体電解質を接着させてなる固体電解質シートが提案されている。例えば、特許文献1には、固体電解質及び複数の開口を有する支持体を含み、固体電解質が支持体の開口に充填されており、支持体がガラス(ガラス繊維織物)からなり、支持体の開口率が40~90%であり、固体電解質が硫化リチウムと五硫化二リンを原料とし、硫化リチウムと五硫化二リンのモル比が68:32~80:20であり、固体電解質を溶媒(脱水トルエン)に溶かしたスラリーを支持体に塗布した後、これを乾燥する、リチウム電池用固体電解質シートの製造方法が開示されている。特許文献2には、リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラス固体電解質と電子絶縁性の無機繊維からなる支持体(不織布)を含む積層体又は複合体を150℃~360℃でホットプレスする工程を含む固体電解質シート製造方法が開示されている。また、特許文献3には、シート状の多孔性基材の少なくとも一方の面に、粘着剤層を形成する工程と、上記粘着剤層上に無機固体電解質材料を付着させることにより無機固体電解質材料層を形成し、上記多孔性基材、上記粘着剤層、および上記無機固体電解質材料層がこの順番に積層された積層体を得る工程と、得られた上記積層体を加圧することにより、上記粘着剤層を構成する粘着剤を上記多孔性基材の空隙を囲む骨格部表面に付着させるとともに、上記多孔性基材の上記空隙内に上記無機固体電解質材料層を構成する上記無機固体電解質材料を充填する工程とを含む固体電解質シートの製造方法、並びに、シート状の多孔性基材及び粘着剤を準備する工程と、上記多孔性基材の空隙を囲む骨格部表面に、上記粘着剤をコーティングする工程と、上記多孔性基材の上記空隙内に無機固体電解質材料を充填する工程とを含む固体電解質シートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-127982号公報
【文献】特開2014-96311号公報
【文献】特開2015-153460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、固体電解質シートには、電気絶縁性の繊維又は網状物を補強材として内在させ、自立できる程度の強度を有するシートとすることが求められている。更に、繊維どうしの間の空隙を固体電解質粒子で満たす製造方法では、その後のハンドリングにより固体電解質が脱離し、結果としてシートにおいて固体電解質が偏在することによりイオン伝導性が低下してしまう不具合をまねき、これを解決することも求められていた。
本発明者らは、容器の中に、補強材としての繊維製品、有機溶剤、及び複数の固体電解質形成原料を入れ、固体電解質形成原料を反応させて、繊維の表面に固体電解質を密着形成させる技術において、容器の内表面を構成する材料、及び、有機溶剤の組み合わせによっては、繊維を被覆している固体電解質が容器の内表面に固着して、容器からの回収が困難となる場合があった。
本発明の課題は、容器の中で、繊維の表面に固体電解質が密着しつつ被覆している固体電解質皮膜繊維又はその集合体からなる固体電解質含有繊維製品を製造する方法において、繊維を被覆する固体電解質が容器の内表面に固着することなく、また、固体電解質が繊維から脱離することなく、固体電解質被覆繊維又は固体電解質含有繊維製品を効率よく製造及び回収が可能であり、固体電解質が断面方向に均一に分布しており、良好なイオン伝導性を発揮する固体電解質含有繊維製品を得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示される。
1.繊維の表面の少なくとも一部に固体電解質が密着して該部分を被覆している固体電解質被覆繊維を含む固体電解質含有繊維製品を製造する方法であって、
容器に、上記繊維を含む繊維集合体と、固体電解質形成原料と、有機溶剤とを入れ、該有機溶剤の中で、上記固体電解質形成原料を反応させて上記固体電解質含有繊維製品を得る反応工程を備え、
上記容器は、該容器の内表面における上記有機溶剤の接触角が、上記繊維集合体に含まれる少なくとも1種の上記繊維における上記有機溶剤の接触角より5度以上高いことを特徴とする、固体電解質含有繊維製品の製造方法。
2.上記繊維がガラス繊維を含む上記項1に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
3.上記固体電解質が硫化物系固体電解質である上記項1又は2に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
4.上記固体電解質形成原料が、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムのうち、少なくとも上記硫化リチウム及び上記五硫化二リンを含む上記項1乃至3のいずれか一項に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
5.上記有機溶剤が、飽和脂肪酸エステル及びジアルキルカーボネートから選ばれた少なくとも1種を含む上記項1乃至4のいずれか一項に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
6.上記繊維集合体の空隙率が50~95%である上記項1乃至5のいずれか一項に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
7.上記反応工程は、第1工程及び第2工程の2段階からなり、
上記第1工程が、上記容器の中で、上記固体電解質形成原料の少なくとも一部の成分を上記有機溶剤に溶解させてなる溶液と、上記繊維集合体とを接触させ、上記成分を含む核を、上記繊維集合体に含まれる上記繊維の表面の少なくとも一部に形成し、核付着繊維集合体を得る工程であり、
上記第2工程が、上記容器の中で、上記固体電解質形成原料の残部を上記有機溶剤に溶解させてなる溶液と、上記核付着繊維集合体とを接触させる工程である上記項1乃至6のいずれか一項に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
8.更に、上記反応工程の後、上記容器に含まれる複合物を回収する回収工程を備える上記項1乃至7のいずれか一項に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
9.更に、上記回収工程により得られた上記複合物を熱処理する熱処理工程を備える上記項8に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
10.更に、上記回収工程又は上記熱処理工程の後に、プレス工程を備える上記項8又は9に記載の固体電解質含有繊維製品の製造方法。
11.無機繊維の表面の少なくとも一部に固体電解質が密着して該部分を被覆している固体電解質被覆繊維を製造する方法であって、
容器に、上記無機繊維と、固体電解質形成原料と、有機溶剤とを入れ、該有機溶剤の中で、上記固体電解質形成原料を反応させて上記固体電解質被覆繊維を得る反応工程を備え、
上記容器は、該容器の内表面における上記有機溶剤の接触角が、少なくとも1種の上記無機繊維における上記有機溶剤の接触角より5度以上高いことを特徴とする、固体電解質被覆繊維の製造方法。
12.上記無機繊維がガラス繊維を含む上記項11に記載の固体電解質被覆繊維の製造方法。
13.上記固体電解質が硫化物系固体電解質である上記項11又は12に記載の固体電解質被覆繊維の製造方法。
14.上記有機溶剤が、飽和脂肪酸エステル及びジアルキルカーボネートから選ばれた少なくとも1種を含む上記項11乃至13のいずれか一項に記載の固体電解質被覆繊維の製造方法。
15.上記反応工程は、第1工程及び第2工程の2段階からなり、
上記第1工程が、上記容器の中で、上記固体電解質形成原料の少なくとも一部の成分を上記有機溶剤に溶解させてなる溶液と、上記無機繊維とを接触させ、上記成分を含む核を、上記無機繊維の表面の少なくとも一部に形成し、核付着繊維を得る工程であり、
上記第2工程が、上記容器の中で、上記固体電解質形成原料の残部を上記有機溶剤に溶解させてなる溶液と、上記核付着繊維とを接触させる工程である上記項11乃至14のいずれか一項に記載の固体電解質被覆繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、繊維を被覆する固体電解質が容器の内表面に固着することなく、また、固体電解質が繊維から脱離することなく、固体電解質被覆繊維又は固体電解質含有繊維製品を効率よく製造することができる。また、固体電解質被覆繊維の集合体である固体電解質含有繊維製品は、その内部において固体電解質が均一に分布しており、例えば、シート状であれば、厚さ方向に良好なイオン伝導性を発揮する。
上記固体電解質形成原料が、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムのうち、少なくとも上記硫化リチウム及び上記五硫化二リンを含む場合には、良好なイオン伝導性を発揮する硫化物系固体電解質含有繊維製品又は硫化物系固体電解質被覆繊維を製造することができる。
上記有機溶剤が、飽和脂肪酸エステル及びジアルキルカーボネートから選ばれた少なくとも1種を含む場合には、固体電解質を、特にガラス繊維に効率よく密着させることができる。
本発明が熱処理工程を備える場合には、その温度により、固体電解質を結晶質化又は非晶質化することができる。
熱処理工程の後に、固体電解質含有繊維製品の厚さを調節する等の目的でプレス工程を備えることができる。この固体電解質含有繊維製品は、リチウムイオン電池の電解質層形成材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明により得られる固体電解質被覆繊維を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の固体電解質含有繊維製品の製造方法(以下、「固体電解質含有繊維製品製造方法」という。)は、繊維の表面の少なくとも一部に固体電解質が密着して該部分を被覆している固体電解質被覆繊維を含む固体電解質含有繊維製品を製造する方法であって、容器に、繊維を含む繊維集合体と、固体電解質形成原料と、有機溶剤とを入れ、該有機溶剤の中で、固体電解質形成原料を反応させて固体電解質含有繊維製品を得る反応工程を備え、容器は、該容器の内表面における有機溶剤の接触角が、繊維集合体に含まれる少なくとも1種の繊維における有機溶剤の接触角より5度以上高いことを特徴とする。本発明の固体電解質含有繊維製品製造方法は、反応工程の後、更に、回収工程、熱処理工程等を備えることができる(後述)。
【0010】
上記繊維集合体は、特に限定されず、繊維堆積物、不織布、織布、織物等のいずれでもよい。繊維としては、無機繊維、有機繊維、有機・無機複合繊維、天然繊維等を含むことができる。上記繊維集合体は、同一材料の繊維のみからなるものであってよいし、2種以上の異なる材料からなる繊維を含んでもよい。また、上記繊維集合体は、複数の繊維が接着剤により結着されたものであってもよい。
【0011】
無機繊維の構成材料は、特に限定されないが、本発明により得られる固体電解質含有繊維製品に機械的強度を付与可能であることから、好ましくは、酸化物、窒化物、炭酸塩、チタン酸塩等の無機化合物である。具体的な無機繊維としては、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ・アルミナ繊維、シリカ・アルミナ・マグネシア繊維、シリカ・アルミナ・ジルコニア繊維、シリカ・マグネシア・カルシア繊維、ロックウール、スラグウール、チタン酸カリウムウイスカー、炭酸カルシウムウイスカー、バサルト繊維、セピライト、アパラルジャイト等の鉱物繊維、セルロースナノファイバー等の炭素系繊維等が挙げられる。これらのうち、ガラス繊維が好ましい。
ガラス繊維を構成するガラスは、特に限定されないが、本発明により得られる固体電解質含有繊維製品をリチウムイオン電池の電解質層形成に用いると、耐薬品性に優れることから、Cガラス、Bガラス、Eガラス等が好ましい。
【0012】
有機繊維としては、樹脂繊維が好ましい。樹脂繊維の構成材料としては、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート等)、脂肪族ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、セルロース等が挙げられる。樹脂繊維は、樹脂1種のみ又は複数種の樹脂を含む単一相からなる繊維、又は、低融点樹脂部及び高融点樹脂部を備える複相構造の繊維(以下、「複合樹脂繊維」という)等とすることができる。複合樹脂繊維の場合、例えば、芯鞘型繊維、サイドバイサイド型繊維等とすることができる。複合樹脂繊維の場合の樹脂の組み合わせとしては、例えば、PET/低融点共重合ポリエステル、PET/PE、PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)、PP/低融点共重合PP等が挙げられる。ここで、低融点共重合ポリエステルとしては、PET、PPT(ポリプロピレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等を基本骨格とした変性樹脂、即ち、これらのポリエステルと、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、及び/又は、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸と、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の脂肪族多価アルコール等との変性共重合体が挙げられる。
【0013】
上記有機・無機複合繊維としては、樹脂繊維の表面の少なくとも一部に無機材料を含む膜又は粒状の部分を有する繊維が挙げられる。
上記天然繊維としては、植物繊維、動物繊維等が挙げられる。
【0014】
上記繊維集合体は、無機繊維を含むことが好ましい。無機繊維の含有割合は、特に限定されないが、本発明により得られる固体電解質含有繊維製品に機械的強度を付与可能であることから、上記繊維集合体に含まれる繊維の全量に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。上記繊維集合体は、好ましくは、無機繊維のみからなるもの、又は、無機繊維と、樹脂繊維(複合樹脂繊維に由来するものを含む)等の他の繊維とからなるものである。
また、上記のように、無機繊維としてガラス繊維を含む繊維集合体を用いることにより、リチウムイオン電池の電解質層形成材料として好適な固体電解質含有繊維製品を得ることができる。
【0015】
上記繊維集合体に含まれる繊維の繊維径は、特に限定されないが、本発明により得られる固体電解質含有繊維製品の機械的強度の観点から、好ましくは0.01~50μm、より好ましくは0.1~10μmの範囲にある。また、繊維長は、特に限定されないが、好ましくは0.1μm~50mm、より好ましくは1μm~10mmの範囲にある。上記繊維集合体は、複数の繊維からなるものであり、本発明においては、同じ材料を含む繊維どうしの間で、各繊維のサイズ(径又は長さ)は、均一及び不均一のいずれでもよい。また、構成材料が互いに異なる複数種の繊維を含む場合、1の材料からなる繊維と、他の材料からなる繊維との間で径又は長さは、均一及び不均一のいずれでもよい。
【0016】
本発明において、上記繊維集合体の空隙率及び坪量は、特に限定されない。空隙率は、好ましくは50~95%、より好ましくは60~90%である。また、坪量は、好ましくは1~100g/m2、より好ましくは1~20g/m2である。
【0017】
本発明において、上記繊維集合体は、好ましくはシート状であり、より好ましくは不織布である。不織布は、繊維どうしが単に絡み合った状態にあるもの、及び、繊維どうしが絡み合っており且つ繊維どうしが接合された状態にあるもののいずれでもよい。後者の不織布の場合、繊維どうしの接触点において接着剤により接合状態にあることが好ましい。
繊維どうしを接合する接着剤は、特に限定されず、熱可塑性樹脂接着剤(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体等を含むもの)、硬化性樹脂接着剤(ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型ポリエステル等を含むもの)、水性樹脂接着剤(アクリル樹脂エマルション等を含むもの)、無機接着剤(コロイダルシリカ、水ガラス、珪酸カルシウム、シリカゾル、アルミナゾル等)等とすることができ、これらを用いた場合の接合部は、通常、熱可塑性樹脂、硬化樹脂等からなる。
また、接着剤は、複合樹脂繊維である、芯鞘型繊維、サイドバイサイド型繊維等に由来するものであってもよい。
【0018】
上記不織布が接着剤により結着された繊維を含む場合、不織布全体に対する接着剤の含有割合は、本発明により得られる固体電解質含有繊維製品を導電性に優れたものとするために、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下である。
【0019】
上記不織布の厚さは、通常、20μm以上であるが、本発明により得られる固体電解質含有繊維製品を、優れた性能のリチウムイオン電池を与える電解質層形成材料として用いることができることから、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~75μmである。
【0020】
本発明に係る反応工程は、固体電解質含有繊維製品を容器の中で製造する工程である。即ち、容器の中に、繊維集合体と、固体電解質形成原料と、有機溶剤とを入れ、有機溶剤の中で、固体電解質形成原料を反応させる。
【0021】
上記固体電解質形成原料は、通常、複数種の化合物からなる。本発明においては、有機溶剤の中で、複数種の化合物を接触反応させて、固体電解質を形成させる。そして、この固体電解質は、リチウムイオン電池の構成材料として好適であることから、Li3PS4、Li7P2S8X、Li7P3S11、Li2P2S5、Li6PS5X、Li9.6P3S12等の硫化物系固体電解質であることが好ましい。尚、XはCl、Br又はIである。
【0022】
硫化物系固体電解質を形成する原料としては、硫化リチウム、硫化リン、ハロゲン化リチウム等が挙げられる。硫化リンとしては、五硫化二リン(P2S5)、三硫化四リン(P4S3)、七硫化四リン(P4S7)、五硫化四リン(P4S5)等が挙げられる。これらのうち、五硫化二リンが好ましい。ハロゲン化リチウムとしては、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられる。これらのうち、ヨウ化リチウムが好ましい。
上記固体電解質形成原料は、硫化リチウム及び五硫化二リンを含むことが好ましく、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムを含むことも好ましい態様である。
【0023】
上記有機溶剤としては、アルコール(脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコール等)、カルボン酸、カルボン酸エステル(飽和脂肪酸エステル等)、エーテル(環状エーテルを含む)、アルデヒド、ケトン、炭酸エステル(ジアルキルカーボネート等)、ニトリル、アミド、ニトロ、リン酸エステル、ハロゲン化炭化水素等が挙げられる。これらのうち、アルコール、カルボン酸エステル及び炭酸エステルが好ましく、カルボン酸エステル及び炭酸エステルが特に好ましい。反応工程では、これらの有機溶剤を、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
反応工程で用いる容器は、内表面の構成材料を特定の条件とする以外は、特に限定されず、例えば、形状及びサイズは、繊維集合体のサイズ等により、適宜、選択される。
本発明では、容器の内表面における有機溶剤の接触角が、繊維集合体を構成する少なくとも1種の繊維における有機溶剤の接触角より5度以上高いことが必要である。繊維集合体が複数種の材料からなる繊維を含む場合には、少なくとも1種の材料からなる繊維に対する接触角が、容器の内表面に対する接触角より5度以上低ければよい。本発明においてこのような容器を用いることにより、繊維を被覆する固体電解質が容器の内表面に固着することなく、繊維の表面の少なくとも一部に固体電解質が密着して該部分を被覆している固体電解質被覆繊維及びそれを含む固体電解質含有繊維製品を効率よく製造することができる。
接触角の差は、好ましくは7度以上、より好ましくは10度以上である。尚、上限は、通常、180度である。尚、この接触角は、〔実施例〕に記載の方法により測定することができる。
【0025】
反応工程においては、通常、容器の内表面には、繊維集合体、固体電解質形成原料及び有機溶剤のうちの少なくとも有機溶剤が接触するため、その内表面を構成する材料としては、フッ素樹脂;シリコーン樹脂等が好ましい。これらのうち、フッ素樹脂が好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」ということがある。)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロエチレン・プロピレン共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。尚、上記容器は、これらの材料からなるものであってよいし、これらの材料からなるフィルム又はシートを容器状に加工し、他の材料からなる容器の内表面に配設したものであってもよい。また、他の材料からなる容器の内表面にこれらの材料からなる皮膜を有するものであってもよい。
【0026】
本発明に係る反応工程として、好ましい態様は、複数種の化合物からなる固体電解質形成材料を有機溶剤に溶解した状態で接触反応させて、固体電解質を、繊維集合体を構成する一部又は全ての繊維の表面に密着させるものである。容器の内表面を構成する材料と、繊維集合体に含まれる繊維を構成する材料との間で、接触角に係る特定の関係を有するため、形成される固体電解質を有機溶剤の中で単独で浮遊させることなく、繊維表面に密着させることができる。従って、固体電解質形成材料を有効活用することができる。
【0027】
固体電解質被覆繊維を含む固体電解質含有繊維製品を製造する場合、容器に入れる繊維集合体及び固体電解質形成原料の質量比は、好ましくは1:1~9、より好ましくは1:3~7である。また、固体電解質形成原料及び有機溶剤の質量比は、好ましくは1:10~22、より好ましくは1:14~18である。
【0028】
上記反応工程における反応条件は、特に限定されない。反応温度は、形成する固体電解質の種類により、適宜、選択されるが、好ましくは20℃~200℃、より好ましくは120℃~180℃である。また、容器内の雰囲気は、アルゴン雰囲気下、露点:-30℃以下等とすることができる。
【0029】
本発明において、硫化物系固体電解質により被覆された繊維を含む固体電解質含有繊維製品を効率よく製造するために、上記反応工程を2段階で行うことができる。この場合、上記容器の中で、固体電解質形成原料の少なくとも一部の成分(以下、「核形成成分」という。)を上記有機溶剤に溶解させてなる溶液(以下、「核形成溶液」という。)と、繊維集合体とを接触させ、上記核形成成分を含む核を、繊維の表面の少なくとも一部に形成し、核付着繊維集合体を得る第1工程と、上記容器の中で、固体電解質形成原料の残部を有機溶剤に溶解させてなる溶液(以下、「固体電解質形成溶液」という。)と、核付着繊維集合体とを接触させる第2工程とを備える製造方法とすることができる。
【0030】
上記第1工程は、繊維集合体及び核形成溶液を用いて、核付着繊維の集合体を得る工程である。上記核形成溶液に含まれる核形成成分は、固体電解質形成原料の少なくとも一部であり、これは、(1)複数種の原料化合物のうちの1種の全量、(2)複数種の原料化合物のうちの1種の一部、(3)複数種の原料化合物のうちの2種又はそれ以上から取り出した一部、等とすることができる。また、上記核形成成分は、単一化合物からなることが好ましく、固体電解質形成原料として例示した硫黄化合物であることが特に好ましい。本発明においては、第2工程の後、硫化物系固体電解質により被覆された繊維が効率よく得られることから、上記核形成成分は、硫化リチウムであることが特に好ましい。
【0031】
上記核形成溶液は、核形成成分が有機溶剤に溶解されてなる有機溶液である。繊維集合体を構成する繊維への核付着性を向上させるために、上記有機溶剤は、核形成成分の有機溶剤への溶解性や、該繊維における接触角及び容器の内表面における接触角を考慮して適切に選択される。核形成成分が硫化リチウムである場合、好ましくはアルコールである。
上記核形成溶液における核形成成分の濃度は、特に限定されないが、核付着繊維の生産性の観点から、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%である。このような核形成溶液を用いると、特に、繊維集合体が無機繊維を含む場合に、該無機繊維の表面の少なくとも一部に核が形成された核付着繊維を効率よく得ることができる。
【0032】
第1工程において、核形成溶液と繊維集合体とを接触させる方法は、特に限定されないが、通常、繊維集合体を核形成溶液に浸漬する方法が適用される。核形成溶液の温度、核形成溶液と繊維集合体との接触時間等は、特に限定されない。核形成溶液の温度は、好ましくは20℃~100℃、より好ましくは40℃~60℃である。また、繊維集合体の浸漬時間(接触時間)は、核形成溶液における核形成成分の濃度、繊維集合体のサイズ等により、適宜、選択されるが、通常、1秒間~2時間である。核形成溶液と繊維集合体とを接触させる他の方法としては、容器内に収容した繊維集合体に核形成溶液を噴霧する方法が挙げられる。上記第1工程において、核形成溶液と繊維集合体との接触回数は特に限定されず、1回のみでも、複数回でもよい。
【0033】
第1工程において、核形成溶液と繊維集合体とを、上記好ましい時間で接触させることにより、核付着繊維集合体を得ることができる。容器から取り出した核付着繊維集合体には、通常、核形成溶液に含まれた有機溶剤が付着しているので、自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥等により、有機溶剤を脱揮することが好ましい。尚、第1工程及び第2工程で同じ有機溶剤を用いる場合にも、脱揮することが好ましい。
【0034】
第1工程で得られた核付着繊維集合体において、核の付着量は、好ましくは30~70質量%、より好ましくは40~60質量%である。尚、核付着繊維は、通常、原料繊維の表面の一部を露出したまま、核が表面の一部に付着したものであるが、核が繊維の全面に付着したものであってもよい。また、繊維集合体が複数種の繊維からなる場合、核は、全ての繊維に付着していてよいし、特定の繊維のみに付着していてもよい。
【0035】
第2工程は、上記で得られた核付着繊維集合体と、固体電解質形成溶液とを接触させて固体電解質含有繊維製品を得る工程である。
上記固体電解質形成溶液は、残りの固体電解質形成原料を有機溶剤に溶解させてなる溶液である。核付着繊維集合体における核と、残りの固体電解質形成原料との反応性を向上させるために、上記有機溶剤は、残りの固体電解質形成原料の有機溶剤への溶解性や、第1工程で得られた核付着繊維が、表面の一部のみに核が付着している場合に、繊維露出部における接触角及び容器の内表面における接触角を考慮して適切に選択される。本発明において、第2工程で用いる有機溶剤は、好ましくはカルボン酸エステル及び炭酸エステルである。
【0036】
上記固体電解質形成溶液における固体電解質形成成分の濃度は、特に限定されないが、固体電解質被覆繊維の生産性の観点から、好ましくは1~20質量%、より好ましくは5~10質量%である。
【0037】
第2工程において、固体電解質形成溶液と核付着繊維集合体とを接触させる方法は、特に限定されないが、通常、核付着繊維集合体を固体電解質形成溶液に浸漬する方法が適用される。尚、固体電解質形成溶液の温度、固体電解質形成溶液と核付着繊維集合体との接触時間等は、特に限定されない。固体電解質形成溶液の温度は、好ましくは20℃~100℃、より好ましくは40℃~60℃である。また、核付着繊維集合体の浸漬時間(接触時間)は、好ましくは2~10時間、より好ましくは4~8時間である。上記第2工程において、固体電解質形成溶液と核付着繊維集合体との接触回数は特に限定されず、1回のみでも、複数回でもよい。
【0038】
第2工程において、固体電解質形成溶液と核付着繊維集合体とを、上記好ましい時間で接触させることにより、固体電解質被覆繊維を含む固体電解質含有製品を得ることができる。
【0039】
第2工程で得られた固体電解質含有繊維製品において、固体電解質の付着量は、好ましくは50~90質量%、より好ましくは75~88質量%である。尚、含まれる固体電解質被覆繊維の構造は、第1工程及び第2工程における製造条件に依存し、
図1に示すように、原料繊維の表面を露出したまま、固体電解質が表面の一部を被覆した構造を有することもあれば、固体電解質が繊維の全面を被覆した構造を有することもある。また、繊維集合体が複数種の繊維からなる場合、固体電解質は、全ての繊維を被覆していてよいし、特定の繊維のみに付着していてもよい。
【0040】
上記の第1工程及び第2工程を備える製造方法では、必要に応じて、第1工程及び第2工程を繰り返してもよい。
【0041】
反応工程により得られた固体電解質含有繊維製品は、繊維と、該繊維の表面の少なくとも一部に固体電解質が密着して該部分を被覆している固体電解質被覆繊維を含む複合体である。この複合体を、そのまま、リチウムイオン電池の電解質層形成に用いることができるが、反応工程における製造条件により、形成される固体電解質が同一化合物であっても、結晶性等において異なる性質を有する場合がある。そのため、本発明は、反応工程の後、容器に含まれる複合物を回収する回収工程、該回収工程により得られた複合物を熱処理する熱処理工程、複合物を圧縮するプレス工程、裁断等により所定のサイズとするサイズ調整工程等を、更に備えることができる。
【0042】
反応工程の後、容器から回収した複合物には、通常、有機溶剤が付着しているので、自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥等により、有機溶剤を脱揮することが好ましい。
【0043】
熱処理工程は、繊維及び固体電解質を分解、変質させない範囲で複合物を加熱する工程であり、繊維の種類、固体電解質の種類等により、温度、時間、雰囲気等を選択して、複合物を加熱する。これにより、固体電解質を結晶化又は非結晶化させることができる。繊維が無機繊維及び有機繊維を含む場合、加熱温度の上限は、好ましくは250℃である。また、繊維が無機繊維からなる場合、加熱温度の上限は、好ましくは600℃である。尚、加熱の際の雰囲気は、特に限定されないが、好ましくはアルゴン雰囲気下、露点:-30℃以下である。
【0044】
プレス工程は、回収工程の後、及び、熱処理工程の後のいずれに備えるものでよく、熱処理工程と同時でもよい。このプレス工程では、複合物の厚さをもとに、リチウムイオン電池における電解質層の所望の形状及び厚さに成形される。
本発明の固体電解質含有繊維製品に含まれる固体電解質被覆繊維において、繊維の表面に対する固体電解質の密着性が高いため、固体電解質含有繊維製品において、固体電解質が脱離することがない。
【0045】
リチウムイオン電池の電解質層形成に用いる固体電解質含有繊維製品は、通常、薄肉体であり、優れた導電性を有する。例えば、硫化物系固体電解質を含む固体電解質含有繊維製品の交流インピーダンス法により25℃で測定される導電率を10-4S/cm以上とすることができる。
【0046】
本発明を利用して、長尺の繊維集合体シートを、固体電解質形成原料及び有機溶剤を含む槽の中を搬送させることにより、槽内で固体電解質形成原料を反応させて繊維の表面に密着形成された、例えば、ロール状の固体電解質含有繊維製品を得ることができる。ここでは、その内表面における有機溶剤の接触角が、繊維集合体に含まれる少なくとも1種の繊維における有機溶剤の接触角より5度以上高い槽を用いる。反応工程を、上記のように第1工程及び第2工程によるものとする場合も同様に、第1工程用の槽と、第2工程用の槽とを用いて、固体電解質含有繊維製品を得ることができる。ロール状の固体電解質含有繊維製品を得る場合には、第2工程において、十分な固体電解質形成時間を確保することが好ましい。例えば、第2工程において、固体電解質形成溶液を核付着繊維集合体シートに噴霧する方法、核付着繊維集合体シートを固体電解質形成溶液の中に浸漬する方法等により、固体電解質形成溶液と核付着繊維集合体シートとを接触させ、次いで、この溶液付着シートを、本発明に係る特定の容器の内表面の構成材料からなる2枚のシートに挟んだ状態で、巻き上げて、所定の時間に渡って、この状態を保持することが好ましい。その後、所望の固体電解質が形成されたところで、2枚のシートを排除すればよい。これらのシートを排除した後に脱揮したり、熱処理したりする等は、上記の通りである。
【0047】
次に、本発明の固体電解質被覆繊維の製造方法(以下、「固体電解質被覆繊維製造方法」という。)は、無機繊維の表面の少なくとも一部に固体電解質が密着して該部分を被覆している固体電解質被覆繊維を製造する方法であって、容器の中に、無機繊維と、固体電解質形成原料と、有機溶剤とを入れ、該有機溶剤の中で、固体電解質形成原料を反応させて固体電解質被覆繊維を得る反応工程を備え、容器は、該容器の内表面における有機溶剤の接触角が、少なくとも1種の繊維における有機溶剤の接触角より高いことを特徴とする。この固体電解質被覆繊維製造方法は、固体電解質含有繊維製品製造方法で用いた繊維集合体に代えて無機繊維を用いるものであり、反応工程、他の工程等は、固体電解質含有繊維製品製造方法におけるものと同様であり、記載を省略する。尚、無機繊維としては、固体電解質含有繊維製品製造方法で用いた繊維集合体に含んでもよいガラス繊維が好ましく用いられる。
【0048】
本発明により得られた固体電解質被覆繊維を、従来、公知の不織布製造工程等に供することにより、固体電解質被覆繊維含有不織布を製造することができる。得られた固体電解質被覆繊維含有不織布を、更に、熱処理工程、プレス工程等に供することができる。
【0049】
尚、本発明により得られる固体電解質含有繊維製品及び固体電解質被覆繊維は、電解質層のみならず、電極層の形成にも適用可能である。この場合、繊維集合体又は繊維に、予め、電極活物質を担持させておいてもよいし、反応工程において電解質とともに電極活物質を添加してもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の実施形態を更に具体的に説明する。
【0051】
1.繊維集合体
無機繊維として、Bガラスを火炎法により製造したガラス繊維(繊維径:0.3μm、繊維長:0.1~1mm程度)を、有機繊維として、ポリエステル樹脂繊維(繊維径:2μm、繊維長:3mm)を用いて湿式抄造した後、バインダーとして、スチレン・ブタジエンゴムをディップコートすることにより、表1に示す不織布(N1)及び(N2)を得た。また、上記ガラス繊維のみを湿式抄造して、表1に示す不織布(N3)を得た。以下の実施例及び比較例において、これらの不織布(N1)、(N2)及び(N3)を、繊維集合体として用いた。尚、サイズは、いずれも、φ30mmである。
【表1】
【0052】
2.固体電解質含有繊維製品の製造及び評価
実施例1
アルゴン雰囲気下、Li2S粉末を5mlのエタノールに投入、撹拌し、Li2S溶液を得た。次いで、ポリテトラフルオロエチレン製シャーレ内に、このLi2S溶液と不織布(N1)とを入れ、25℃で30分間静置した後、真空乾燥(150℃、1時間)を行った。これにより、不織布(N1)の繊維の表面にLi2Sが添着された核付着不織布(NA1)を得た。そして、Li2Sの添着量を測定した。尚、真空乾燥の後において、シャーレからこの核付着不織布(NA1)を円滑に回収することができた。
次に、Li2S粉末とP2S5粉末とを、1:1(モル比)で、且つ、このP2S5粉末が上記の核付着不織布(NA1)に添着されたLi2Sと、上記Li2S粉末とからなる全Li2Sに対して1/3のモル比になるように、それぞれ、秤量、混合した。そして、混合粉末と10mlのプロピオン酸エチルとを、超音波を照射しながら撹拌して、Li2S粉末及びP2S5粉末を溶解させた。
その後、得られた溶液を、ポリテトラフルオロエチレン製シャーレに入れ、続いて、上記核付着不織布(NA1)を入れ、常温で6時間静置した。そして、真空乾燥(170℃、2時間)を行った。これにより、不織布(N1)の繊維の表面にLi3PS4からなる皮膜が形成された固体電解質被覆繊維の集積体からなる固体電解質含有繊維シート(S1)を得た(表2参照)。尚、真空乾燥の後において、ポリテトラフルオロエチレン製シャーレからこの固体電解質含有繊維シート(S1)を円滑に回収することができた。また、固体電解質含有繊維シート(S1)における不織布(N1)及び被覆された固体電解質の体積比を不織布の各材料の密度と構成比、電解質の密度と付着質量より計算して求めたところ、27:73であった。
以下、不織布の繊維をLi3PS4により被覆する方法を「製法1」という。
【0053】
表2には、以下の方法で、共和界面科学社製接触角計「PCA-11」(型式名)により測定した、不織布に含まれるガラス繊維及び容器に対する、エタノール及びプロピオン酸エチルの接触角を記載した。
(接触角測定方法)
はじめに、測定試料の表面を無水エタノールで洗浄し、自然乾燥させた。その後、測定試料の表面に、2μlの無水エタノール又はプロピオン酸エチルを滴下し、1秒後の接触角を測定した。測定値が安定しない場合は、0.5~2.0秒の間で調整した。表2に記載のデータは、各測定試料に対して5~10回の測定を行ったときの平均値である。
【0054】
また、固体電解質含有繊維シート(S1)について、下記評価を行った。その結果を表2に併記した。
(1)導電性試験
固体電解質含有繊維シート(S1)をポンチにてφ10mmに打ち抜いた試験片を、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製の筒状体(内径10mm)の内部に充填した後、直径10mmの平坦な面を先端に有するステンレス製ピンを筒状体の両側から挿入して試験片を挟み、油圧式プレス機により250MPaでプレスすることにより、導電率測定用試験片とした後、アルゴンガス雰囲気下、測定用ユニット(ステンレス製ピンを両側から挿入したPEEK製筒状体)に入れた状態で、SOLATRON社製IMPEDANCE ANALYZER「S1260」(型式名)を用いて、25℃における導電率を測定した。
【0055】
実施例2
不織布(N1)に代えて、不織布(N2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、核付着不織布(NA2)を製造し、次いで、この核付着不織布(NA2)を用いて、固体電解質含有繊維シート(S2)を得た。その後、各種評価を行った(表2参照)。得られた固体電解質含有繊維シート(S2)は、実施例1で得られた固体電解質含有繊維シート(S1)と同様に、不織布の空隙が固体電解質で満たされた固体電解質含有繊維シートであった。
【0056】
実施例3
不織布(N1)に代えて、不織布(N3)を用いた以外は、実施例1と同様にして、核付着不織布(NA3)を製造し、次いで、この核付着不織布(NA3)を用いて、固体電解質含有繊維シート(S3)を得た。その後、各種評価を行った(表2参照)。得られた固体電解質含有繊維シート(S3)は、実施例1で得られた固体電解質含有繊維シート(S1)と同様に、不織布の空隙が固体電解質で満たされた固体電解質含有繊維シートであった。
【0057】
実施例4
実施例1で得られた核付着不織布(NA1)を用いた。
Li2S粉末とP2S5粉末とLiI粉末とを、1:1:1(モル比)で、且つ、このP2S5粉末が上記の核付着不織布(NA1)に添着されたLi2Sと、上記Li2S粉末とからなる全Li2Sに対して1/3のモル比になるように、それぞれ、秤量、混合した。そして、混合粉末と10mlのプロピオン酸エチルとを、超音波を照射しながら撹拌して、Li2S粉末、P2S5粉末及びLiI粉末を溶解させた。
次いで、得られた溶液を、ポリテトラフルオロエチレン製シャーレに入れ、続いて、上記核付着不織布(NA1)を入れ、常温で6時間静置した。そして、真空乾燥(170℃、2時間)を行った。これにより、不織布(N1)の繊維の表面にLi7P2S8Iからなる皮膜が形成された固体電解質被覆繊維の集積体からなる固体電解質含有繊維シート(S4)を得た(表2参照)。その後、上記と同様にして、各種評価を行った(表2参照)。また、得られた固体電解質含有繊維シート(S4)は、実施例1で得られた固体電解質含有繊維シート(S1)と同様に、不織布の空隙が固体電解質で満たされた固体電解質含有繊維シートであった。
以下、不織布の繊維をLi7P2S8Iにより被覆する方法を「製法2」という。
【0058】
実施例5
不織布(N1)に代えて、不織布(N2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、核付着不織布(NA2)を製造し、次いで、この核付着不織布(NA2)を用いて、実施例4と同様にして、固体電解質含有繊維シート(S5)を得た。その後、各種評価を行った(表2参照)。得られた固体電解質含有繊維シート(S5)は、実施例1で得られた固体電解質含有繊維シート(S1)と同様に、不織布の空隙が固体電解質で満たされた固体電解質含有繊維シートであった。
【0059】
実施例6
不織布(N1)に代えて、不織布(N3)を用いた以外は、実施例1と同様にして、核付着不織布(NA3)を製造し、次いで、この核付着不織布(NA3)を用いて、実施例4と同様にして、固体電解質含有繊維シート(S6)を得た。その後、各種評価を行った(表2参照)。得られた固体電解質含有繊維シート(S6)は、実施例1で得られた固体電解質含有繊維シート(S1)と同様に、不織布の空隙が固体電解質で満たされた固体電解質含有繊維シートであった。
【0060】
比較例1
ポリテトラフルオロエチレン製シャーレに代えて、金属アルミニウム製容器を用いた以外は、実施例1と同様にして、核付着不織布(NA4)を製造し、次いで、この核付着不織布(NA4)と金属アルミニウム製容器とを用いて、実施例1と同様にして、固体電解質含有繊維シート(S7)を得た。尚、真空乾燥の前において、金属アルミニウム製容器の内表面にこの固体電解質含有繊維シート(S7)の固体電解質部が張り付いていた。その後、各種評価を行った(表2参照)。表2に示すように、固体電解質含有繊維シート(S7)に含まれる固体電解質は少量であった。
【0061】
比較例2
ポリテトラフルオロエチレン製シャーレに代えて、金属アルミニウム製容器を用いた以外は、実施例2と同様にして、核付着不織布(NA5)を製造し、次いで、この核付着不織布(NA5)と金属アルミニウム製容器とを用いて、実施例1と同様にして、固体電解質含有繊維シート(S8)を得た。尚、真空乾燥の前において、金属アルミニウム製容器の内表面にこの固体電解質含有繊維シート(S8)の固体電解質部が張り付いていた。その後、各種評価を行った(表2参照)。表2に示すように、固体電解質含有繊維シート(S8)に含まれる固体電解質は少量であった。
【0062】
比較例3
ポリテトラフルオロエチレン製シャーレに代えて、ガラス容器を用いた以外は、実施例1と同様にして、核付着不織布(NA6)を製造し、次いで、この核付着不織布(NA6)とガラス容器とを用いて、実施例1と同様にして、固体電解質含有繊維シート(S9)を得た。尚、真空乾燥の前において、ガラス容器の内表面にこの固体電解質含有繊維シート(S9)の固体電解質部が固着し、固体電解質含有繊維シート(S9)を回収することができず、剥離により割れてしまった。そのため、導電性試験を行っても、抵抗値が高く、リチウムイオン伝導性を測定することができなかった(表2参照)。
【0063】
比較例4
ポリテトラフルオロエチレン製シャーレに代えて、ガラス容器を用いた以外は、実施例2と同様にして、核付着不織布(NA7)を製造し、次いで、この核付着不織布(NA7)とガラス容器とを用いて、実施例1と同様にして、固体電解質含有繊維シート(S10)を得た。尚、真空乾燥の前において、ガラス容器の内表面にこの固体電解質含有繊維シート(S10)の固体電解質部が固着し、固体電解質含有繊維シート(S10)を回収することができず、剥離により割れてしまった。そのため、導電性試験を行っても、抵抗値が高く、リチウムイオン伝導性を測定することができなかった(表2参照)。
【0064】
【0065】
表2から明らかなように、実施例1~6において、不織布を構成する複数種の繊維のうち、ガラス繊維における有機溶剤(エタノール及びプロピオン酸エチル)の接触角が、シャーレの内表面における該有機溶剤の接触角より低い例であり、固体電解質被覆繊維を含むシートを効率よく製造することができた。また、固体電解質の含有割合が高く、リチウムイオン伝導性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により得られる固体電解質含有繊維製品は、パーソナルコンピューター、カメラ等の家電製品、電力貯蔵装置、携帯電話機等の携帯型電子機器又は通信機器、パワーツール等の電動工具、電動自転車、電気自動車等の乗用車、風力発電、太陽電池装置の定置用蓄電池、安全性の高さを生かした腕時計、眼鏡、ウエアラブル端末、ドローン、飛行体、ロボットの構造体等を構成するリチウムイオン電池用電解質層の形成に好適である。
【符号の説明】
【0067】
1:固体電解質被覆繊維
3:繊維
5:固体電解質