(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】ポリ共役エステルおよびその製造方法ならびに硬化性組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 63/52 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
C08G63/52
(21)【出願番号】P 2020103585
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】永井 光騎
(72)【発明者】
【氏名】安田 理恵
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】永井光騎、宮崎匠、高坂康弘,αー(クロロメチル)アクリロイル基の共役置換反応を用いた易分解性ポリエステルの合成および既存ポリエステルとのハイブリッド化,高分子学会予稿集,日本,2018年,67巻、2号,3F08
【文献】高坂泰弘,α-機能化アクリル酸エステルの共役置換による高分子の合成・分解・変換,高分子,日本,2019年,68巻、2月号,69-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、X
1
およびX
2
はハロゲン原子を示し、
R
1
およびR
2
は水素原子またはアルキル基を示す。)
で表されるジハライド化合物を含むジハライド成分と、ジオール成分とを含むモノマー成分を重合して得られるポリ共役エステルであって、下記式(3a)または(3c)
【化2】
(式中、R
3はジオール成分の残基を示し、
R
1およびR
2は前記式(1)に同じ。)
で表される結合様式で組み込まれたジオール成分由来の構成単位の総量の割合が、ジオール成分由来の構成単位全体に対して、60~100モル%であるポリ共役エステル。
【請求項2】
前記式(1)で表されるジハライド化合物由来の構成単位の割合が、前記ジハライド成分由来の構成単位全体に対して、85~100モル%である請求項
1記載のポリ共役エステル。
【請求項3】
前記ジオール成分が、下記式(2)で表される芳香族ジオール成分を含む請求項1
または2記載のポリ共役エステル。
【化3】
[式中、Z
1およびZ
2はアレーン環を示し、
R
aおよびR
bは置換基を示し、p1およびp2は0または1以上の整数を示し、
A
1およびA
2はアルキレン基を示し、q1およびq2は0または1以上の整数を示し、
Yは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、アルキレン基、シクロアルキレン基、または下記式(2a)もしくは(2b)で表される2価の基を示す
【化4】
(式中、Ar
1、Ar
2およびAr
3はアレーン環を示し、
R
c、R
dおよびR
eは置換基を示し、r1、r2およびsは0以上の整数を示す)]
【請求項4】
前記式(1)で表されるジハライド化合物を含むジハライド成分と、ジオール成分とを界面重合して、請求項1~
3のいずれか一項に記載のポリ共役エステルを製造する方法。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のポリ共役エステルを含む硬化性組成物。
【請求項6】
請求項
5記載の硬化性組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、規則性が高い一次構造を有するポリ共役エステルおよびその製造方法ならびに前記ポリ共役エステルを含む硬化性組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖中にアクリロイル骨格(またはアクリル骨格)を有するポリマーは、硬化性樹脂や高分子架橋剤としても注目されている(非特許文献1)。一方で、アクリル骨格[α-置換アクリレート骨格]を反応点として、求核剤であるチオールによりポリマーの主鎖を分解し低分子化できることも報告されている(非特許文献2)。そのため、主鎖中にα-置換アクリレート骨格を有するポリマーは、硬化性と分解性という相異なる性質を示すポリマーとして着目されている。
【0003】
前記α-置換アクリレート骨格を有するポリマーは、ハロゲン原子、アシロキシ基、フェノキシ基などの脱離基をアリル位に置換したメタクリル酸類と、求核剤との室温、空気下における共役置換反応を利用して重合できることが知られている。
【0004】
例えば、非特許文献2および特許文献1には、ビス[α-(クロロメチル)アクリル酸エステル]と、ビスフェノール、ジカルボン酸、モノアミン、ジチオールから選択される求核モノマーとの共役置換反応により重合(重縮合)できることが開示されている。
【0005】
また、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリドが共役置換反応および求核アシル置換反応(アシル置換反応)を同時に実施できることを利用して、塩基の存在下、室温でビスフェノール類と反応させて前記α-置換アクリレート骨格を有するポリマーを重合できることが知られている。非特許文献3では、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリドとビスフェノールAなどのビスフェノール類とを反応させてポリ共役エステルを重合したこと;両末端がフェノールの全芳香族ポリエステルに対してα-(クロロメチル)アクリル酸クロリドを鎖延長剤として反応させてポリ共役エステルを重合したことが開示されている。また、非特許文献4には、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリドと、ビスフェノールと、芳香族ジカルボン酸クロリドとを3元共重合させて、アクリロイル骨格を有するポリアリレートを重合したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Y.-C. Xu, W.-M. Ren, H. Zhou, G.-G. Gu, X.-B. Lu, Macromolecules, 50, 3131 (2017)
【文献】Y. Kohsaka, T. Miyazaki, K. Hagiwara, Polym. Chem. 9, 1610-1617 (2018)
【文献】高分子学会予稿集 第67回(2018年)高分子討論会、67巻2号3F08、公益社団法人高分子学会
【文献】高分子 POLYMERS、68巻2月号(2019年)、第69~70頁、公益社団法人高分子学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および非特許文献2に記載されたビス[α-(クロロメチル)アクリル酸エステル]をモノマーに用いる重合では、このモノマー自体の合成に多段階の反応を要し、合成プロセスの煩雑化や全収率の低下が課題であった。また、アクリル骨格が必ず2つずつ局在化してポリマー中に導入されるため、架橋剤として使用した際に架橋密度を自在に調整することができないという問題もあった。
【0009】
なお、非特許文献3および4では、所定のアクリル骨格を有するポリマーについて記載されているものの、その一次構造の規則性、例えば、ポリマーの化学構造におけるアクリル骨格の向き(結合の向き)や導入間隔などについては何ら記載されていない。
【0010】
従って、本発明の目的は、共役エステルを構成単位に有し、かつ規則性の高い一次構造を有するポリマーおよびその製造方法、ならびに前記ポリマーを含む硬化性組成物およびその硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、α-(ハロメチル)アクリル酸ハライドを含むジハライド成分とジオール成分とを含むモノマー成分を界面重合すると、一次構造の規則性が高いポリ共役エステルが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明のポリ共役エステル(またはポリエステル)は、下記式(1)で表されるジハライド化合物を含むジハライド成分と、ジオール成分とを含むモノマー成分を界面重合して得られる。
【0013】
【0014】
(式中、X1およびX2はハロゲン原子を示し、R1およびR2は水素原子またはアルキル基を示す)。
【0015】
また、本発明は、前記式(1)で表されるジハライド化合物を含むジハライド成分と、ジオール成分とを含むモノマー成分を重合して得られるポリ共役エステルであって、下記式(3a)または(3c)で表される結合様式で組み込まれたジオール成分由来の構成単位の総量の割合が、ジオール成分由来の構成単位全体に対して、60~100モル%程度であるポリ共役エステルを包含する。
【0016】
【0017】
(式中、R3はジオール成分の残基、すなわち、ジオール成分から2つのヒドロキシル基を除いた2価の基を示し、
R1およびR2は前記式(1)に同じ)。
【0018】
前記式(1)で表されるジハライド化合物由来の構成単位の割合は、前記ジハライド成分由来の構成単位全体に対して、85~100モル%であってもよい。
【0019】
また、前記ジハライド成分は、さらにジカルボン酸ハライドを含んでいてもよい。前記ポリ共役エステルは、下記式(4)で表される繰り返し単位を有していてもよい。
【0020】
【0021】
[式中、Aは、下記式(1a)または(1b)
【0022】
【0023】
(式中、R1およびR2は、前記式(1)に同じ)。
で表される前記式(1)で表されるジハライド化合物由来の構成単位を示し、
Bは、下記式(5)
【0024】
【0025】
(式中、R3はジオール成分の残基を示し、R4はジカルボン酸ハライド成分の残基を示し、xは14~30の整数を示す。)
で表される構成単位を示す]。
【0026】
前記ジカルボン酸ハライドは、芳香族ジカルボン酸ハライドを含んでいてもよい。前記式(1)で表されるジハライド化合物由来の構成単位と、前記ジカルボン酸ハライド由来の構成単位との割合は、前者/後者(モル比)=1/99~20/80程度であってもよい。
【0027】
前記ジオール成分は、下記式(2)で表される芳香族ジオール成分を含んでいてもよい。
【0028】
【0029】
[式中、Z1およびZ2はアレーン環を示し、
RaおよびRbは置換基を示し、p1およびp2は0または1以上の整数を示し、
A1およびA2はアルキレン基を示し、q1およびq2は0または1以上の整数を示し、
Yは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、アルキレン基、シクロアルキレン基、または下記式(2a)もしくは(2b)で表される2価の基を示す
【0030】
【0031】
(式中、Ar1、Ar2およびAr3はアレーン環を示し、
Rc、RdおよびReは置換基を示し、r1、r2およびsは0以上の整数を示す)]。
【0032】
熱重量示差熱走査熱量分析装置(TG/DTA)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で測定した前記ポリ共役エステルの硬化温度Tcure(前記ポリ共役エステルを加熱により単独で重合開始剤を添加することなく硬化させた際の硬化温度Tcure)は、260~320℃程度であってもよい。
【0033】
本発明は、前記式(1)で表されるジハライド化合物を含むジハライド成分と、ジオール成分とを界面重合して、前記ポリ共役エステルを製造する方法(またはポリ共役エステルの一次構造における規則性を向上する方法)を包含する。
【0034】
また、本発明は、前記ポリ共役エステルを含む硬化性組成物、およびその硬化物も包含する。
【0035】
なお、本発明では、従たる目的として、以下の課題を解決してもよい。すなわち、本発明の他の目的は、高い機械的特性(力学特性)を示すポリ共役エステルおよびその製造方法、ならびに前記ポリ共役エステルを含む硬化性組成物およびその硬化物を提供することにある。
【0036】
本発明のさらに他の目的は、一次構造の規則性が高いポリ共役エステルを簡便に(または効率よく)、かつ穏和な条件で製造できる方法を提供することにある。
【0037】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC1、C6、C10などで示すことがある。例えば、「C1アルキル基」は炭素数が1のアルキル基を意味し、「C6-10アリール基」は炭素数が6~10のアリール基を意味する。
【0038】
また、「芳香族ジオール」および「芳香族ジカルボン酸ハライド」は、それぞれ「芳香環を含むジオール」および「芳香環を含むジカルボン酸ハライド」を意味し、芳香環以外に脂肪族炭化水素骨格などの他の骨格や基を有していてもよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明のポリ共役エステルは、所定のモノマー成分を界面重合して調製されるため、一次構造の規則性が高い。そのため、結晶性(結晶化度)を向上することもでき、機械的特性に優れている。また、ジハライド化合物(1)とは異なるジハライド成分を含む3元以上の多元共重合体では、アクリル骨格[α-置換アクリレート骨格または(メタ)アクリロイル単位]を化学構造中に均一に分散させて(または局在化させることなく)導入できる。そのため、硬化物を形成する際には、硬化(または架橋)反応にアクリル骨格を有効に(効率よく)利用でき(硬化率を向上でき)、架橋点の集中による脆弱性(または脆性)を改善したり、物性のばらつきを有効に抑制できる。また、アクリル骨格を分解点として利用する際にも、分解点の集中による不均一な断片化を抑制して、効率よく分解できる。さらに、本発明では、モノマー成分を一括して添加しても、一次構造の規則性が高いポリ共役エステルを穏和な条件で調製できる。そのため、簡便に(または効率よく)製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、合成例1で得られたα-(クロロメチル)アクリル酸クロリド(化合物(1-1))の
1H NMRスペクトルである。
【
図2】
図2は、比較例1で得られたポリ共役エステルの
1H NMRスペクトルである。
【
図3】
図3は、比較例1で得られたポリ共役エステルの
13C NMRスペクトルである。
【
図4】
図4は、実施例1Aで得られたポリ共役エステルの
1H NMRスペクトルである。
【
図5】
図5は、実施例1Aで得られたポリ共役エステルの
13C NMRスペクトルである。
【
図6】
図6は、実施例1Bで得られたポリ共役エステルの
1H NMRスペクトルである。
【
図7】
図7は、参考例1で得られたジエステルの
1H NMRスペクトルである。
【
図8】
図8は、比較例1および実施例1Aで得られたポリ共役エステルのTG/DTAの測定結果であり、実線が比較例1、点線が実施例1AのDTA曲線である。
【
図9】
図9は、実施例2で得られたポリ共役エステルの
1H NMRスペクトルである。
【
図10】
図10は、比較例2で得られたポリ共役エステルの重合において、合成例1で得られた化合物(1-1)添加前後を比較したサイズ排除クロマトグラムである。
【
図11】
図11は、比較例2で得られたポリ共役エステルの
1H NMRスペクトルである(*はCHCl
3由来のピークを示す)。
【
図12】
図12は、比較例3で得られたポリ共役エステルの
1H NMRスペクトルである。
【
図13】
図13は、実施例3で得られたポリ共役エステルの
1H NMRスペクトルである。
【
図14】
図14は、(a)比較例2、(b)比較例3および(c)実施例3で得られたポリ共役エステルのTG/DTA曲線であり、それぞれ実線がDTA、点線がTGである。
【
図15】
図15は、(a)溶液重合および(b)界面重合で得られた4元共重合体におけるアクリル骨格の分散状態の違いを表す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
[ポリ共役エステル]
ポリ共役エステルは、前記式(1)で表される特定のジハライド化合物(単にジハライド化合物(1)または第1のジハライド化合物ともいう)を含むジハライド成分(またはハライド成分)と、ジオール成分との反応(置換反応)により重合(重縮合)され、ジハライド成分由来の構成単位(単にジハライド単位(またはハライド単位)ともいう)とジオール成分由来の構成単位(単にジオール単位ともいう)とが交互に結合されたポリエステル(重合体または重縮合体)であって、前記式(1)で表されるジハライド化合物由来の構成単位として、化学構造中にアクリル骨格[α-置換アクリレート骨格または(メタ)アクリロイル単位]を有している。本発明のポリ共役エステルは、前記アクリル骨格の結合様式(連鎖配列)や導入間隔が高度に制御された規則性の高い一次構造を備えており、ポリ共役エステルの機械的特性のみならず、分解性や硬化物における機械的特性も有効に改善できる。
【0042】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「ジハライド化合物(1)」、「ジハライド化合物」、「ジハライド成分」、「芳香族ジオール成分」、「ジオール成分」などの重合成分(またはモノマー)を表す記載は、それぞれの重合成分に由来する構成単位(対応するジハライド単位またはジオール単位)を表す場合がある。
【0043】
(ジハライド成分)
ジハライド成分は、下記式(1)で表されるジハライド化合物を少なくとも含んでいる。
【0044】
【0045】
(式中、X1およびX2はハロゲン原子を示し、
R1およびR2は水素原子またはアルキル基を示す)。
【0046】
前記式(1)において、X1およびX2で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。好ましいハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、さらに好ましくは塩素原子である。なお、X1およびX2で表されるハロゲン原子の種類は、互いに同一または異なっていてもよく、同一であるのが好ましい。
【0047】
前記式(1)において、R1およびR2は、水素原子またはアルキル基を示し、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられる。好ましいアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基であり、特にメチル基である。好ましいR1およびR2は、水素原子、直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基であり、さらに好ましくは水素原子、メチル基であり、共役置換反応(SN2’反応)の反応速度(または反応性)の観点から、立体障害が小さい水素原子が特に好ましい。なお、R1およびR2の種類は、互いに同一または異なっていてもよく、同一であるのが好ましい。
【0048】
代表的なジハライド化合物(1)としては、R1およびR2の双方が水素原子であるα-(フルオロメチル)アクリル酸フルオリド、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド、α-(ブロモメチル)アクリル酸ブロミド、α-(ヨードメチル)アクリル酸ヨージドなどのα-(ハロメチル)アクリル酸ハライド;R1およびR2のいずれか一方がメチル基またはエチル基、他方が水素原子であるα-(クロロメチル)-β-メチルアクリル酸クロリド、α-(ブロモメチル)-β-メチルアクリル酸ブロミドなどのα-(ハロメチル)-β-C1-2アルキルアクリル酸ハライド;R1およびR2の双方がメチル基であるα-(クロロメチル)-β,β-ジメチルアクリル酸クロリド、α-(ブロモメチル)-β,β-ジメチルアクリル酸ブロミドなどのα-(ハロメチル)-β,β-ジメチルアクリル酸ハライドなどが挙げられる。これらのジハライド化合物(1)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのジハライド化合物(1)のうち、α-(ハロメチル)アクリル酸ハライドが好ましく、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド、α-(ブロモメチル)アクリル酸ブロミド、α-(ヨードメチル)アクリル酸ヨージドがさらに好ましく、α-(クロロメチル)アクリル酸クロリドが最も好ましい。ジハライド化合物(1)は、慣用の方法によって合成できる。
【0049】
なお、ジハライド化合物(1)は、求核アシル置換反応および共役置換反応により、ポリ共役エステル中に下記式(1a)または(1b)で表される構成単位として導入される。なお、本明細書および特許請求の範囲では、下記式(1a)、(1b)、後述する式(1c)で表されるジハライド化合物(1)に由来する構成単位を、単にジハライド単位(1)ともいう。
【0050】
【0051】
(式中、R1およびR2は、好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0052】
ジハライド成分は、ジハライド化合物(1)に加えて、ジハライド化合物(1)とは異なる他のジハライド化合物(単に第2のジハライド化合物ともいう)を含んでいてもよい。第2のジハライド化合物としては、例えば、ジカルボン酸ハライド(ジカルボン酸ジハライド)などが挙げられる。ジハライド化合物(1)とジカルボン酸ハライドとを組み合わせることによって、ジハライド化合物(1)由来の共役エステル単位と、ジカルボン酸ハライド由来のエステル単位とが共重合した三元共重合体などの多元共重合体を製造できる。ジカルボン酸ハライド成分としては、脂肪族ジカルボン酸ハライド(脂肪族ジカルボン酸ジハライド)成分、芳香族ジカルボン酸ハライド(芳香族ジカルボン酸ジハライド)成分などが挙げられる。
【0053】
前記脂肪族ジカルボン酸ハライド成分には、鎖状脂肪族ジカルボン酸ハライド、環状脂肪族ジカルボン酸ハライドが含まれる。前記鎖状脂肪族ジカルボン酸ハライドとしては、コハク酸クロリド、アジピン酸クロリド、アジピン酸ブロミド、セバシン酸クロリド、デカンジカルボン酸クロリドなどのC2-12アルカン-ジカルボン酸ハライドなどが挙げられる。前記環状脂肪族ジカルボン酸ハライドとしては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸クロリドなどのシクロアルカンジカルボン酸ハライドなどが挙げられる。
【0054】
前記芳香族ジカルボン酸ハライド成分としては、フタル酸クロリド、テレフタル酸クロリド、テレフタル酸ブロミド、テレフタル酸ヨージド、イソフタル酸クロリド、イソフタル酸ブロミド、イソフタル酸ヨージドなどの単環式芳香族ジカルボン酸ハライド;ナフタレンジカルボン酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸ブロミドなどの縮合多環式芳香族ジカルボン酸ハライド;ビフェニルジカルボン酸クロリド、ビフェニルジカルボン酸ブロミドなどのビアリールジカルボン酸ハライド;2,7-ジクロロカルボニルフルオレンなどのフルオレンジカルボン酸ハライド;9,9-ビス(2-クロロカルボニルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-クロロカルボニルプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(ハロカルボニルC2-6アルキル)フルオレン;9-[1,2-ビス(クロロカルボニル)エチル]フルオレン;9-[2,3-ビス(クロロカルボニル)プロピル]フルオレンなどの9-[ビス(ハロカルボニル)C2-6アルキル]フルオレンなどが挙げられる。
【0055】
これらのジカルボン酸ハライドは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのジカルボン酸ハライドのうち、機械的特性や耐熱性などの観点から、芳香族ジカルボン酸ハライドが好ましく、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリドなどの単環式芳香族ジカルボン酸ハライドがさらに好ましく、テレフタル酸ハライドとイソフタル酸ハライドとを組み合わせて含むのが特に好ましい。テレフタル酸ハライドとイソフタル酸ハライドとを組み合わせて含む場合、ポリ共役エステル中に組み込まれたテレフタル酸ハライド(テレフタル酸ハライド単位)と、イソフタル酸ハライド(イソフタル酸ハライド単位)との割合は、例えば前者/後者(モル比)=10/90~90/10程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、20/80~80/20、30/70~70/30、40/60~60/40である。
【0056】
前記ジハライド化合物(1)と前記ジカルボン酸ハライドとのモル比は、目的の特性に応じ、前者/後者=100/0~1/99程度の範囲から選択できる。両者を組み合わせる場合、両者のモル比は、例えば、ジハライド化合物(1)/ジカルボン酸ハライド=90/10~3/97程度であり、好ましい範囲としては、以下段階的に、70/30~5/95、50/50~7/93、30/70~8/92、20/80~10/90であってもよいが、後述する態様(ii)に記載のジハライド単位(1)とジカルボン酸ハライド単位との割合であるのが好ましい。
【0057】
前記ジハライド化合物(1)および前記ジカルボン酸ハライドの合計割合は、全ジハライド成分中、例えば50モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。なお、この割合は、モノマーの仕込み割合であってもよいが、ポリ共役エステルに導入される構成単位の割合であるのが好ましい。
【0058】
(ジオール成分)
ジオール成分は、少なくとも芳香族ジオール成分を含むのが好ましい。芳香族ジオール成分としては、ヒドロキノンなどのジヒドロキシアレーン、下記式(2)で表されるジオール成分などが挙げられる。
【0059】
【0060】
[式中、Z1およびZ2はアレーン環を示し、
RaおよびRbは置換基を示し、p1およびp2は0または1以上の整数を示し、
A1およびA2はアルキレン基を示し、q1およびq2は0または1以上の整数を示し、
Yは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、アルキレン基、シクロアルキレン基、または下記式(2a)もしくは(2b)で表される2価の基を示す
【0061】
【0062】
(式中、Ar1、Ar2およびAr3はアレーン環を示し、
Rc、RdおよびReは置換基を示し、r1、r2およびsは0以上の整数を示す)]
【0063】
前記式(2)において、環Z1および環Z2で表されるアレーン環(芳香族炭化水素環)としては、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環、環集合アレーン環などが挙げられる。
【0064】
多環式アレーン環としては、ナフタレン環などの縮合二環式アレーン環、アントラセン環、フェナントレン環などの縮合三環式アレーン環などの縮合多環式C10-14アレーン環が挙げられ、特にナフタレン環が好ましい。
【0065】
環集合アレーン環としては、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環などのビC6-12アレーン環が挙げられ、特にビフェニル環が好ましい。
【0066】
なお、環Z1および環Z2の種類は、互いに同一または異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。
【0067】
好ましい環Z1および環Z2としては、ベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環であり、さらに好ましくはベンゼン環である。
【0068】
RaおよびRbで表される置換基としては、ハロゲン原子;アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基;アルコキシ基;アシル基;ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基などが挙げられる。
【0069】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5-8シクロアルキル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルコキシ基などが挙げられる。アシル基としては、アセチル基などのC1-6アシル基などが挙げられる。置換アミノ基としては、ジアルキルアミノ基、ジアシルアミノ基が挙げられ、ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基などのジC1-4アルキルアミノ基、ジアシルアミノ基としては、ジアセチルアミノ基などのジC1-4アシルアミノ基などが挙げられる。なお、RaおよびRbで表される置換基の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0070】
好ましいRaおよびRbは、直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基、C6-14アリール基、メトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルコキシ基、さらに好ましくはメチル基、エチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基、特にメチル基である。
【0071】
RaおよびRbの置換数p1およびp2は、例えば0~4の整数、好ましくは0~2の整数、さらに好ましくは0または1、特に0である。なお、置換数p1およびp2は、互いに同一または異なっていてもよい。置換数p1、p2が2以上である場合、環Z1、環Z2にそれぞれ置換する2以上のRa、Rbの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。RaおよびRbの置換位置は特に制限されない。
【0072】
A1、A2で表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基が挙げられる。なお、A1、A2の種類は、互いに同一または異なっていてもよく、通常、同一である。好ましいA1、A2は、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレン基、特にエチレン基である。
【0073】
オキシアルキレン基OA1およびOA2の繰り返し数(付加モル数)q1およびq2は互いに同一または異なって、0または1以上の整数であればよく、例えば0~10、好ましくは0~6、さらに好ましくは0または1、最も好ましくは0である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、「繰り返し数(付加モル数)」は、平均値(算術平均値、相加平均値)または平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、好ましい整数の範囲と同様である。また、q1、q2が2以上の場合、2以上のオキシアルキレン基OA1、OA2の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0074】
前記式(2)において、基[-O-(A1O)q1-H]および[-O-(A2O)q2-H]の置換位置は、特に限定されず、環Z1、Z2の適当な置換位置にそれぞれ置換していればよい。基[-O-(A1O)q1-H]および[-O-(A2O)q2-H]の置換位置は、環Z1、Z2がベンゼン環である場合、後述のYに結合するフェニル基の2位、3位、4位のいずれか、好ましくは3位または4位、特に4位の位置に置換しているのが好ましい。環Z1、Z2がナフタレン環である場合、Yに対して1位または2位で結合するナフチル基の5~8位のいずれかの位置に置換している場合が多く、Yに対して、ナフタレン環の1位または2位が置換し(1-ナフチルまたは2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5位、2,6位の関係で置換しているのが好ましく、2,6位で置換しているのが特に好ましい。
【0075】
前記式(2)において、Yで表されるアルキレン基(またはアルキリデン基)としては、例えば、メチレン基、1,1-エタンジイル基、エチレン基、2,2-プロパンジイル基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基が挙げられる。好ましいアルキレン基としては、メチレン基、1,1-エタンジイル基、2,2-プロパンジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基であり、さらに好ましくはメチレン基、2,2-プロパンジイル基などの分岐鎖状C2-4アルキレン基である。
【0076】
シクロアルキレン基としては、1,1-シクロペンチレン基、1,2-シクロペンチレン基、1,1-シクロヘキシレン基、1,2-シクロヘキシレン基などのC5-10シクロアルキレン基などが挙げられ、好ましくはC5-8シクロアルキレン基、さらに好ましくはC5-6シクロアルキレン基、特に1,1-シクロヘキシレン基である。
【0077】
式(2a)および(2b)において、Ar1、Ar2およびAr3で表されるアレーン環は、好ましい態様も含め、環Z1および環Z2と同様である。なお、Ar1およびAr2の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0078】
Rc、RdおよびReで表される置換基は、好ましい態様も含め、Ra、Rbと同様である。Rc、RdおよびReの置換数r1、r2およびsは、好ましい態様も含め、p1、p2と同様である。なお、RcおよびRdの種類は、互いに同一または異なっていてもよく、r1およびr2は、互いに同一または異なっていてもよい。また、r1、r2、sが2以上の場合、2以上のRc、Rd、Reは、それぞれ互いに同一または異なっていてもよい。
【0079】
これらのジオールは単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。前記式(2)で表されるジオールとしては、耐熱性や反応性などの点から、ビスフェノール類やビスナフトール類が好ましく、ビスフェノール類が特に好ましい。
【0080】
具体的なビスフェノール類としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2-ビス(3-イソプロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールG)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などの前記式(2)においてYが直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、アルキレン基またはシクロアルキレン基であるビスフェノール化合物;9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(BCF)、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)などのフルオレン骨格含有ビスフェノール化合物;フェノールフタレイン、o-クレゾールフタレイン、p-キシレノールフタレインなどのフタリド骨格含有ビスフェノール化合物などが挙げられる。
【0081】
これらの芳香族ジオール成分のうち、耐熱性や反応性などの観点から、ビスフェノールAやビスフェノールZなどの前記式(2)においてYがアルキレン基またはシクロアルキレン基であるビスフェノール化合物が好ましく、分解温度と硬化温度との差が大きく、環構造の導入によって、より耐熱性に優れる観点から、さらに好ましくはビスフェノールZなどの前記式(2)においてYがシクロアルキレン基であるビスフェノール化合物である。
【0082】
ジオール成分は、前記芳香族ジオール成分に加えて、他のジオールを含んでいてもよい。他のジオールには、鎖状脂肪族ジオール成分、環状脂肪族ジオール成分などが含まれる。鎖状脂肪族ジオール成分としては、アルカンジオール、ポリアルカンジオールなどが挙げられ、環状脂肪族ジオール成分としては、シクロアルカンジオール、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカンなどが挙げられる。
【0083】
アルカンジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2-10アルカンジオールなどが挙げられる。ポリアルカンジオールとしては、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ又はトリC2-4アルカンジオールなどが挙げられる。
【0084】
シクロアルカンジオールとしては、シクロヘキサンジオールなどのC5-8シクロアルカンジオールなどが挙げられ、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカンとしては、シクロヘキサンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1-4アルキル)C5-8シクロアルカンなどが挙げられる。
【0085】
芳香族ジオールの割合は、全ジオール成分中、例えば50モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。なお、この割合は、モノマーの仕込み割合であってもよいが、ポリ共役エステルに導入される構成単位の割合であるのが好ましい。
【0086】
[ポリ共役エステルの製法および特性]
ジハライド成分と、ジオール成分との重合は、ジハライド成分の酸ハライド基(またはハロカルボニル基)に対するジオール成分のヒドロキシル基の求核アシル置換反応、およびジハライド成分のα-(ハロメチル)アクリロイル基(またはハロゲン化アリル基)に対するジオール成分のヒドロキシル基の共役置換反応(SN2’反応)の2つの異なる置換反応により主鎖が形成されて進行する。いずれの置換反応も、塩基の存在下、室温、空気下で定量的に進行し易いため、ポリ共役エステルは穏和な条件で簡便に製造できる。
【0087】
これらの置換反応はいずれも溶媒依存性が少ないため、従来は溶液重合により合成されていたが、溶液重合では2つの異なる置換反応がランダムに生じて成長(生長)するためか、得られるポリ共役エステルは不規則な一次構造を有していることが分かった。これに対して、本発明では界面重合により合成するが、界面重合では、前記2つの置換反応の反応速度差が大きいため、規則性の高いポリ共役エステルを調製できる。
【0088】
詳しくは、界面重合では、モノマー成分を含む2つの異なる液層界面において、まず求核アシル置換反応が支配的に(迅速に)進行してジエステルやオリゴマーなどのプレポリマーが生成し、次いで共役置換反応が生じることでポリ共役エステルが生成するようである。そのため、双方の置換反応に対して2つの異なる官能基[酸ハライド基およびα-(ハロメチル)アクリロイル基]で反応するジハライド化合物(1)では、各官能基が所定の順序で置換反応して主鎖を形成することになり、結果として得られるポリ共役エステルではジハライド化合物(1)由来の構成単位が化学構造中に所定の規則性をもって導入(挿入)されるものと考えられる。
【0089】
また、ポリ共役エステル中の一次構造の規則性は、ジハライド成分中のジハライド化合物(1)の割合に応じて規則的に変化する。すなわち、(i)ジハライド成分中のジハライド化合物(1)の割合が多い場合、ポリ共役エステル中のジハライド単位(1)と、ジオール単位との結合様式(連鎖配列)が規則的に制御された共役ポリエステルが得られる。一方、(ii)ジハライド成分中のジハライド化合物(1)の割合を少なくすると(ジハライド化合物(1)とは異なる他のジハライド成分の割合を増やしていくと)、他のジハライド成分由来の構成単位がジハライド単位(1)の間に比較的均一に導入されて、アクリル骨格(ジハライド単位(1))が局在化することなく均一に分散したポリ共役エステルが得られる。この点について以下に詳述する。
【0090】
(i)ジハライド成分中のジハライド化合物(1)の割合が多い場合
ポリ共役エステルはジハライド単位とジオール単位とが交互に繰り返される化学構造を有しているため、ジハライド化合物(1)の割合が多い場合、必然的にジオール単位の両側にジハライド単位(1)が結合した配列の割合が多くなる。ここで、ジハライド化合物(1)は2つの異なる官能基を有する非対称構造のモノマーであり、重合過程で求核アシル置換反応によりエステル結合を形成する一方で、共役置換反応によりエーテル結合を形成して成長するため、ジハライド単位(1)とジオール単位との結合には向きが存在する。本発明のポリ共役エステルでは、この結合の向き(結合様式)が規則的に制御されている。
【0091】
詳しくは、3つの連続する構成単位[-ジハライド単位(1)-ジオール単位-ジハライド単位(1)-]の結合様式(配列)を考えた場合、下記式(3a)、(3b)および(3c)に示すように3通りの並び方が存在する。
【0092】
【0093】
(式中、R3はジオール成分の残基を示し、
R1およびR2は好ましい態様を含めて前記式(1)に同じである)。
【0094】
本明細書および特許請求の範囲において、「ジオール成分の残基」または「ジオール残基」は、対応するジオール成分から2つのヒドロキシル基を除いた2価の基を意味する。
【0095】
前記式(3a)~(3c)で表される各結合様式において、ジオール残基R3としては、例えば、前記(ジオール成分)の項に記載のジオール成分に対応する残基が挙げられ、好ましい態様も対応して同様である。また、ジオール残基R3はポリ共役エステル中に含まれるジオール単位の種類に対応するため、ポリ共役エステルは、単独または2種以上のジオール残基R3に対応する各結合様式を有していてもよく、前記式(3a)~(3c)におけるジオール残基R3の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0096】
式(3a)では、ジオール単位の両端でエステル結合を形成した配列(単に、SS、またはSS連鎖ともいう)を示し;式(3b)では、ジオール単位の一端でエステル結合、他端でエーテル結合を形成した配列(単に、ST、またはST連鎖ともいう)を示し;式(3c)では、ジオール単位の両端でエーテル結合を形成した配列(単に、TT、またはTT連鎖ともいう)を示す。なお、本明細書および特許請求の範囲では、下記式(3d)で表される結合様式は、前記式(3b)と等価なため、ST連鎖として取り扱う。
【0097】
【0098】
(式中、R3はジオール成分の残基を示し、
R1およびR2は好ましい態様を含めて前記式(1)に同じである)。
【0099】
界面重合により合成したポリ共役エステルでは、前述したように、まず界面において求核アシル置換反応が支配的に進行するため、SS連鎖が優先的に形成され、対応するジエステル(ジオール成分1分子に対して、2分子のジハライド化合物(1)が求核アシル置換反応したジエステル)が主として生成する。次いで、得られたSS連鎖に対応するジエステルとジオール成分とが有機層で共役置換反応により結合することでTT連鎖が形成される。そのため、得られるポリ共役エステルでは、SS連鎖とTT連鎖の割合が多い一次構造(SS連鎖で組み込まれたジオール単位とTT連鎖で組み込まれたジオール単位とが高い確率で交互にあらわれる一次構造)を備えている。このように、本発明のポリ共役エステルではジハライド単位(1)とジオール単位との結合様式(連鎖配列)が規則的に制御されているため、結晶性が高く機械的特性に優れている。
【0100】
ポリ共役エステル中にSS連鎖またはTT連鎖で組み込まれたジオール単位の総量の割合は、ジオール単位全体に対して、例えば55モル%以上であり、好ましい範囲としては、以下段階的に、60~100モル%、70~100モル%、75~99モル%、80~97モル%であり、さらに好ましくは85~95モル%である。SS連鎖またはTT連鎖で組み込まれたジオール単位の総量の割合が少なすぎると、ポリ共役エステルの結晶性が低下して、機械的特性を向上できないおそれがある。
【0101】
また、ポリ共役エステル中にST連鎖で組み込まれたジオール単位の割合は、ジオール単位全体に対して、例えば45モル%以下であり、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~40モル%、0~30モル%、1~25モル%、3~20モル%であり、さらに好ましくは5~15モル%である。ST連鎖で組み込まれたジオール単位の総量の割合が多すぎると、ポリ共役エステルの結晶性が低下して、機械的特性を向上できないおそれがある。
【0102】
一方、従来の溶液重合では、求核アシル置換反応と共役置換反応とがランダムに生じるためか、ポリ共役エステル中のSS連鎖、ST連鎖およびTT連鎖で組み込まれたジオール単位の割合(SS/ST/TT)は、SS/ST/TT(モル比)=25/50/25程度となる。
【0103】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、SS連鎖、TT連鎖およびST連鎖の割合は、13C NMRスペクトルなどにより測定でき、詳細には後述の実施例に記載の方法などで測定できる。
【0104】
上述したように、SS連鎖とTT連鎖の割合が多いポリ共役エステルにおいて、ジハライド単位(1)の割合は、ジハライド単位全体に対して、例えば80~100モル%程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、85~100モル%、90~100モル%、95~100モル%であり、さらに好ましくは実質的に100モル%、すなわち、ジハライド単位がジハライド単位(1)のみで形成されるのが好ましい。
【0105】
(ii)ジハライド成分中のジハライド化合物(1)の割合が少ない場合
ポリ共役エステルが、ジカルボン酸ハライド単位などの他のジハライド単位を含む3元以上の多元共重合体である場合、ジハライド成分中のジハライド化合物(1)の割合が少ないと(ジカルボン酸ハライドなどのジハライド化合物(1)とは異なる他のジハライド成分の割合が多いと)、重合初期に支配的に進行する求核アシル置換反応によってジカルボン酸ハライドが消費されるため、生成するプレポリマー(オリゴマー)の中央部分(両末端を除いた部分)はジカルボン酸ハライド単位およびジオール単位で主に形成され、プレポリマーの両末端にはジハライド化合物(1)由来のα-(ハロメチル)アクリロイル基および/またはジオール成分由来のヒドロキシル基が優先的に配置される。次いで、得られたプレポリマーが重合後期に共役置換反応してポリ共役エステルが生成するため、得られるポリ共役エステル(多元共重合体)は、2つのジハライド単位(1)の間に他のジハライド単位が比較的均一に導入された一次構造を有しており、アクリル骨格(ジハライド単位(1))が局在化することなく均一に分散(分布)している。すなわち、他のジハライド単位の割合によって、アクリル骨格の導入間隔を制御することができる。そのため、このポリ共役エステル(多元共重合体)を利用して硬化物を形成する際には、硬化(または架橋)反応にアクリル骨格を効率よく利用でき(硬化率を向上でき)るとともに、架橋点の集中による脆弱性(または脆性)を改善したり、架橋点の偏りから生じる物性のばらつきを有効に抑制できる。また、アクリル骨格を分解点として利用する際にも、分解点の偏りによる不均一な断片化を抑制して、効率よく分解できる。
【0106】
このようなポリ共役エステル(多元共重合体)において、ジハライド単位(1)の割合は、ジハライド単位全体に対して、例えば80モル%程度未満であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~50モル%、1~30モル%、1~20モル%、3~17モル%、5~15モル%であり、さらに好ましくは7~13モル%である。ジハライド単位(1)の割合が多すぎると、硬化反応において、アクリル骨格を効率よく反応できないおそれがあり、硬化物の機械的特性の低下やばらつきを招くおそれがあるとともに、分解する際には効率よく分解できないおそれがある。逆に少なすぎると、硬化反応が不十分となり硬化物を形成し難くなったり、分解する場合にも十分に低分子量化できないおそれがある。
【0107】
また、上記のように所定の順序で置換反応が進行することから、ポリ共役エステルの末端は、通常、ジハライド単位(1)および/またはジオール単位で形成される。特に、モノマー成分中のジハライド化合物(1)の割合が少なくても、ポリ共役エステルの少なくとも一方の末端にジハライド単位(1)を有していてもよい。なお、ポリ共役エステルの末端に位置するジハライド単位(1)は、求核アシル置換反応のみに関与し、共役置換反応しなかった単位であるため、下記式(1c)で表されるように、α-(ハロメチル)アクリロイル基が残存した構成単位である。
【0108】
【0109】
(式中、X1、R1およびR2は、好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0110】
末端に位置するジハライド単位(1)[前記式(1c)で表される構成単位]の割合は、ポリ共役エステルの末端に位置する構成単位全体に対して、例えば10~90モル%程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、20~80モル%、30~70モル%、40~60モル%である。
【0111】
なお、前記ポリ共役エステル(多元共重合体)が含んでいてもよい他のジハライド単位としては、ジカルボン酸ハライド単位が好ましく、さらに好ましくは芳香族ジカルボン酸ハライド単位であり、機械的特性や耐熱性の観点から、芳香族ジカルボン酸ハライド単位と、ジオール単位としての芳香族ジオール単位とを組み合わせてポリアリレート骨格を形成するのが特に好ましい。
【0112】
他のジハライド単位がジカルボン酸ハライド単位である場合、上記のように所定の順序で置換反応が進行するため、得られるポリ共役エステル(多元共重合体)は、下記式(4)で表される構成単位(繰り返し単位)を少なくとも有している。すなわち、ポリ共役エステル(多元共重合体)は、ジハライド単位(1)と下記式(5)で表される構成単位Bとが交互に結合した化学構造を有しているため、ジハライド単位(1)の導入間隔は、下記式(5)で表される構成単位B中の残基数(ジオール残基R3およびジカルボン酸ハライド残基R4の合計(2×係数x+1))により制御されている。
【0113】
【0114】
[式中、Aは、前記式(1a)または(1b)で表されるジハライド単位(1)を示し、
Bは、下記式(5)で表される構成単位を示す。
【0115】
【0116】
(式中、R3はそれぞれ独立してジオール成分の残基を示し、
R4はジカルボン酸ハライド成分の残基を示し、
xは1以上の整数を示す)]。
【0117】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「ジカルボン酸ハライド成分の残基」または「ジカルボン酸ハライド残基」は、対応するジカルボン酸ハライド成分から2つの酸ハライド基(ハロカルボニル基)を除いた2価の基を意味する。
【0118】
前記式(5)において、ジオール残基R3としては、例えば、前記(ジオール成分)の項に記載のジオール成分に対応する残基が挙げられ、好ましい態様も対応して同様である。ジオール残基R3は、単独でまたは2種以上組み合わせて含まれていてもよい。
【0119】
また、ジカルボン酸ハライド残基R4としては、例えば、前記(ジハライド成分)の項に記載のジカルボン酸ハライドに対応する残基が挙げられ、好ましい態様も対応して同様である。係数xが2以上である場合、2以上のジカルボン酸ハライド残基R4は、単独でまたは2種以上組み合わせて含まれていてもよい。
【0120】
係数(繰り返し数)xとしては、例えば1~200程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、8~100、10~65、12~40、14~30、15~25であり、さらに好ましくは17~20である。なお、係数xはポリ共役エステル中における平均値であってもよく、平均値の好ましい範囲は、前記整数の好ましい範囲と同様である。係数xが小さすぎると、硬化反応において、アクリル骨格を効率よく反応できないおそれがあり、硬化物の機械的特性の低下やばらつきを招くおそれがあるとともに、分解する際には効率よく分解できないおそれがある。逆に大きすぎると、硬化反応が不十分となり硬化物を形成し難くなったり、分解する場合にも十分に低分子量化できないおそれがある。
【0121】
なお、係数xは、界面重合の初期に求核アシル置換反応が完全に進行した際に得られるプレポリマーの重合度(数平均重合度)Pnに基づいて、例えば後述する実施例に記載のように算出してもよい。また、重合度Pnは、フローリー(Flory)の式[Pn=(1+r)/(1+r-2rp)](式中、rはジオール成分中のヒドロキシル基の総量に対するジハライド成分中のハロカルボニル基の総量の割合(仕込み量における割合)を示し、pは反応度を示す。)から算出してもよい。
【0122】
ポリ共役エステル(多元共重合体)において、前記式(4)で表される構成単位(繰り返し単位)の繰り返し数は、例えば1~20程度の整数であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、2~10、3~7、4~5である。なお、前記式(4)で表される構成単位の繰り返し数は平均値であってもよく、好ましい態様は前記整数の範囲と同様である。
【0123】
ジハライド単位(1)と、前記ジカルボン酸ハライド単位との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/99~20/80程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1/99~19/81、3/97~17/83、5/95~15/85であり、さらに好ましくは7/93~13/87である。前記割合は、ジハライド単位(1)と、芳香族ジカルボン酸ハライド単位との割合であるのが好ましい。ジハライド単位(1)の割合が多すぎると、硬化反応において、アクリル骨格を効率よく反応できないおそれがあり、硬化物の機械的特性の低下やばらつきを招くおそれがあるとともに、分解する際には効率よく分解できないおそれがある。また、ポリアリレート骨格を有する多元共重合体である場合には、機械的特性や耐熱性などのポリアリレート骨格に由来する特性が低下するおそれがある。逆に少なすぎると、硬化性や分解性などの機能性を付与できない(硬化反応が不十分となり硬化物を形成し難くなったり、分解する場合にも十分に低分子量化できない)おそれがある。
【0124】
(ポリ共役エステルの界面重合による製造)
本発明のポリ共役エステルは、前記ジハライド成分と前記ジオール成分とを界面重合により反応(または縮合)させることにより製造できる。本発明の製造方法(界面重合)では、室温下、空気中などの穏和な条件で重合できるとともに、高い収率でポリ共役エステルを調製できる。また、従来の溶液重合とは異なり、モノマー成分を一括して添加しても、定量的にアクリル骨格が導入された規則性の高いポリ共役エステルを調製できる。そのため、本発明の製造方法は簡便性または生産性に優れている。
【0125】
界面重合において、前記ジハライド成分1モルに対する前記ジオール成分の割合(仕込み比)は、0.8~5モル程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、0.8~3モル、0.9~2モルであってもよいが、通常、当モル程度、例えば以下段階的に0.8~1.2モル、0.9~1.1モル、0.95~1.05モルがより好ましい。なお、界面重合では、前記割合が当モル程度でなくてもポリ共役エステルを得やすいため、ジオール成分を過剰量添加してもよく、ジハライド成分1モルに対する前記ジオール成分の割合は、例えば1~1.5モル程度であってもよい。なお、前記ジハライド成分および前記ジオールは、分割して添加してもよいが、生産性の点から一括添加するのが好ましい。
【0126】
重合反応は、通常、塩基の存在下で行ってもよい。塩基には、有機塩基および無機塩基が含まれる。
【0127】
有機塩基としては、トリエチルアミンなどの第3級アミン類、ピリジン、モルホリン、ヘキサメチレンテトラミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)などの複素環式アミンなどが挙げられる。
【0128】
無機塩基としては、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属アルコキシドなどが挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属水酸化物が挙げられる。金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属炭酸塩が挙げられる。金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属直鎖状または分岐鎖状C1-6アルコキシドなどが挙げられる。
【0129】
これらの塩基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらの塩基のうち、水酸化ナトリウムなどの金属水酸化物が好ましい。
【0130】
塩基の割合は、ジハライド成分1モルに対して、例えば1~5モル、好ましくは1.3~3モル、さらに好ましくは1.5~2.5モルである。
【0131】
界面重合における反応では、塩基に加えて、相間移動触媒の存在下で行ってもよい。相間移動触媒としては、クラウンエーテル、オニウム塩、クリプタート、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。相間移動触媒は、これらの誘導体であってもよい。これらの相間移動触媒のうち、オニウム塩が好ましい。
【0132】
オニウム塩としては、テトラメチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、テトラ-n-ブチルアンモニウムクロリドなどのテトラアルキルアンモニウムハライド;ベンジルトリエチルアンモニウムクロリドなどのアラルキルトリアルキルアンモニウムハライド;テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素塩などのテトラアルキルアンモニウム硫酸水素塩;テトラ-n-ブチルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムクロリドなどのテトラアリールホスホニウムハライド;トリフェニルメチルホスホニウムクロリドなどのトリアリールアルキルホスホニウムハライド;4-ジメチルアミノピリジンなどの4-ジアルキルアミノピリジニウム塩;テトラフェニルアルソニウムクロリドなどのテトラアリールアルソニムハライド;ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン]イミニウムクロリドなどのビス[トリス(ジアルキルアミノ)ホスフィン]イミニウムハライド;テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフィンイミノ]ホスホニウムクロリドなどのテトラキス[トリス(ジアルキルアミノ)ホスフィンイミノ]ホスホニウムハライドなどが挙げられる。
【0133】
相間移動触媒の割合は、ジハライド成分1モルに対して、例えば0.001~0.5モル、好ましくは0.01~0.1モル、さらに好ましくは0.02~0.06モルである。
【0134】
界面重合では、通常、モノマー成分および溶媒を含み、かつ互いに相溶しない2つの液層を接触させて界面を形成し、混合・撹拌して反応させる。溶媒としては、水および/または有機溶媒を利用できる。有機溶媒としては、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、スルホキシド類、アミド類などが挙げられる。
【0135】
炭化水素類としては、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。
【0136】
ハロゲン化炭化水素類としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類;クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類などが挙げられる。
【0137】
エーテル類としては、ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類;シクロペンチルメチルエーテルなどの脂環族エーテル類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどの環状エーテル類などが挙げられる。
【0138】
スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0139】
アミド類としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。
【0140】
これらの溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて各液層を形成してもよい。これらの溶媒のうち、水、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類が好ましい。互いに相溶しない2つの液層の代表的な組み合わせとしては、ジオール成分および水を含む水層と、ジハライド成分および非水溶性有機溶媒を含む有機層との組み合わせなどが挙げられ、好ましくはジオール成分および水を含む水層と、ジハライド成分およびクロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類を含む有機層との組み合わせである。
【0141】
有機層に含まれる有機溶媒の割合は、水層に含まれる水100質量部に対して、例えば10~1000質量部、好ましくは50~500質量部、さらに好ましくは100~200質量部である。
【0142】
溶媒の割合は、ジハライド成分およびジオール成分の総量100質量部に対して、例えば100~5000質量部、好ましくは500~2000質量部、さらに好ましくは700~1500質量部である。
【0143】
重合温度は、例えば0~80℃程度の範囲から選択でき、好ましくは5~70℃、さらに好ましくは10~50℃、特に20~30℃であり、通常、室温である。重合温度が高すぎると、ポリ共役エステルが分解したり、架橋反応が併発するおそれがある。反応時間は、例えば1~100時間程度の範囲から選択でき、好ましくは10~90時間、さらに好ましくは20~80時間である。
【0144】
反応は、空気中または不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。本発明では、室温の空気中でも分子量の大きいポリマーを重合できる。また、反応は、減圧下で行ってもよいが、通常、加圧下または常圧下で行う場合が多い。反応終了後、反応生成物は、洗浄、抽出、濃縮、乾燥、ろ過、再沈殿、遠心分離、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの慣用の分離精製手段や、これらを組み合わせた方法により、分離精製してもよい。
【0145】
このようにして得られるポリ共役エステルの数平均分子量Mnは、1000~100000程度の範囲から選択でき、前述の(i)の態様の場合に好ましい範囲としては、以下段階的に、2000~50000、3000~30000、5000~20000、8000~15000、10000~12000であり、前述の(ii)の態様の場合に好ましい範囲としては、以下段階的に、5000~80000、10000~60000、20000~50000、25000~45000、30000~40000である。また、分子量分散度D(Mw/Mn)は、1~5程度の範囲から選択でき、好ましくは、以下段階的に、1.5~4、1.7~3.5、2~3である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、数平均分子量Mnおよび分子量分散度Dは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて、標準ポリスチレン換算で測定できる。
【0146】
ポリ共役エステルの結晶化温度(結晶化点)Tcrystは、後述する硬化温度Tcureより十分に低いことが望ましい。例えば、結晶化温度(結晶化点)Tcrystは260℃以下、好ましくは80~200℃、さらに好ましくは120~160℃である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、結晶化点Tcrystは、後述する実施例に示すように熱重量示差熱分析装置(TG/DTA)により測定できる。
【0147】
また、ポリ共役エステルは、アクリル骨格を有するため熱または光硬化性樹脂として利用でき、従来のビニル基含有ポリマーに比べて高い反応性を有することから、重合開始剤を用いることなく硬化することもできる。また、高い反応性を生かして架橋剤としても利用できる。そのため、熱重量示差熱走査熱量分析装置を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で測定した硬化温度Tcure(ポリ共役エステルを加熱により単独で重合開始剤を添加することなく硬化させる際の硬化温度Tcure)は、例えば150~350℃程度であってもよく、前述の(i)の態様の場合に以下段階的に、180~300℃、200~280℃、210~260℃であり、さらに好ましくは220~250℃である。また、前述の(ii)の態様の場合に好ましくは、以下段階的に、200~340℃、230~330℃、260~320℃であり、さらに好ましくは280~310℃である。硬化温度Tcureが高すぎると、熱硬化し難くなるおそれがある。
【0148】
本発明のポリ共役エステルは耐熱性が高く、10%重量分解温度Td10が硬化温度Tcureよりも高いため、ポリマーの分解を伴うことなく熱硬化することができる。10%重量分解温度Td10は、例えば220~500℃程度であってもよく、前述の(i)の態様の場合に好ましくは、以下段階的に、250~400℃、280~350℃、290~330℃、さらに好ましくは300~320℃である。また、前述の(ii)の態様の場合に好ましくは、以下段階的に、300~450℃、360~430℃、さらに好ましくは390~410℃である。10%重量分解温度Td10が低すぎると、熱硬化し難くなるおそれがある。
【0149】
また、ポリ共役エステルのガラス転移温度Tgは、例えば80~300℃程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、100~250℃、150~230℃であり、さらに好ましくは180~220℃である。
【0150】
なお、ポリ共役エステルの硬化温度Tcure、10%重量分解温度Td10およびガラス転移温度Tgは、後述する実施例で示すように熱重量示差熱分析装置(TG/DTA)を用いて測定できる。
【0151】
[ポリ共役エステルの用途]
本発明のポリ共役エステルは、高分子量体であるため、そのまま各種の成形体として利用してもよい。さらに、本発明のポリ共役エステルは、塩基の存在下で共役エステル単位(またはアクリル骨格)における転移反応によって容易に分解するため、リサイクル可能な環境に優しいプラスチック成形体としても利用できる。塩基として、例えば、チオール、アンモニア、アミンなどの弱塩基によって分解できるため、取り扱い性も高い。
【0152】
また、本発明のポリ共役エステルは、共役エステル単位がラジカル重合性を有しているため、硬化性組成物や架橋剤などとして利用してもよい。本発明のポリ共役エステルを硬化性組成物として利用する場合、本発明のポリ共役エステルは、熱硬化性および光硬化性を示すため、熱硬化性組成物および光硬化性組成物のいずれの組成物としても利用できる。本発明の硬化性組成物は、安定性に優れるため、重合禁止剤を添加しなくても、長期間保存でき、取り扱い性に優れる。
【0153】
本発明の硬化性樹脂組成物は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、ポリ共役エステルの重合で使用するための溶媒として例示された溶媒などが挙げられる。溶媒を含む硬化性組成物の固形分(または不揮発分)濃度は、例えば0.5~50質量%、好ましくは2~40質量%、さらに好ましくは5~30質量%である。
【0154】
本発明の硬化性組成物は、ラジカル重合性モノマーをさらに含んでいてもよい。ラジカル重合性モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレートなどのC1-24アルキル(メタ)アクリレート類;シクロアルキル(メタ)アクリレート類;橋架け環式(メタ)アクリレート類;ヒドロキシC2-10アルキル(メタ)アクリレート類;フェノキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル類などが挙げられる。これらのラジカル重合性モノマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。ラジカル重合性モノマーは、光硬化性組成物に含まれるのが好ましい。
【0155】
ラジカル重合性モノマーの割合は、ポリ共役エステル100質量部に対して100質量部以下であってもよく、例えば1~100質量部、好ましくは10~50質量部である。
【0156】
本発明の硬化性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤の割合は、ポリ共役エステル100質量部に対して、例えば0.01~10質量部、好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部である。
【0157】
本発明では、硬化性組成物が熱硬化性組成物の場合、熱重合開始剤を用いることなく、加熱することにより容易に熱硬化できるが、熱硬化性をより向上させるために、熱重合開始剤を含んでいてもよい。
【0158】
熱重合開始剤としては、ジアルキルパーオキサイド類(ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなど)、ジアシルパーオキサイド類[ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなど]、過酸エステル類[t-ブチルパーオキシベンゾエートなどの過カルボン酸アルキルエステルなど]、ケトンパーオキサイド類、パーオキシカーボネート類、パーオキシケタール類などの有機過酸化物;アゾニトリル化合物[2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)など]、アゾアミド化合物、アゾアミジン化合物、アゾアルカン化合物、オキシム骨格を有するアゾ化合物などのアゾ化合物などが含まれる。これらの熱重合開始剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0159】
熱硬化性組成物を硬化させるための加熱温度は、例えば80~230℃、好ましくは100~220℃、さらに好ましくは150~200℃、最も好ましくは160~180℃である。
【0160】
硬化性組成物が光硬化性組成物の場合、光硬化性組成物は、ガンマー線、X線、電子線、紫外線などの光エネルギーで硬化でき、好ましくは紫外線で硬化できる。光硬化性組成物は、光重合開始剤を含んでいてもよい。
【0161】
光重合開始剤としては、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンジル系化合物、アントラキノン系化合物、チオキサントン系化合物、モルフォリン系化合物などのケトン系化合物;ホスフィン系化合物;ジブチルスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ジベンジルスルフィド、デシルフェニルスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのスルフィド系化合物などが挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0162】
本発明の硬化性組成物は、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、重合開始剤、重合禁止剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、滑剤、安定剤、可塑剤、界面活性剤、溶解促進剤、着色剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、レベリング剤、分散剤、分散助剤、流動調整剤などを含んでいてもよい。前記安定剤としては、例えば、抗酸化剤、熱安定剤、耐光安定剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0163】
本発明のポリ共役エステルを架橋剤として利用する場合、オレフィン系樹脂やスチレン系樹脂などのラジカル重合性樹脂の架橋剤として利用できる。架橋剤として利用する場合は、ラジカル重合性樹脂を構成するモノマーに配合してもよく、ラジカル重合性樹脂に配合してもよい。架橋剤として利用する場合のポリ共役エステルの割合は、架橋させる対象のモノマーおよび/またはポリマーの総量に対して、例えば0.1~20モル%、好ましくは0.5~15モル%、さらに好ましくは1~10モル%である。
【実施例】
【0164】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例および比較例における各評価方法および使用したモノマーは以下の通りである。
【0165】
[評価方法]
(1H/13C NMRスペクトル)
核磁気共鳴分光計はAVANCE 400(Bruker社製)、AVANCE III(Bruker社製)またはAVANCE NEO(Bruker社製)を用いた。測定は26℃(AVANCE 400またはAVANCE III)または25℃(AVANCE NEO)で行い、化学シフト値はテトラメチルシランおよびCHCl3を基準に較正した。なお、重溶媒として、重クロロホルム(関東化学(株)製、2%テトラメチルシラン入り、D化率99%)を使用した。
【0166】
(分子量)
分子量(数平均分子量Mn)および分子量分散度D(Mw/Mn)は、EXTREMAクロマトグラフ(日本分光(株)製)に40℃に加熱したサイズ排除カラム「PL-gel,Mixed C(300mm×7.5mm)」(Agilent,Polymer Laboratories社製)を2本直列に接続し、溶出液としてテトラヒドロフラン(高速液体クロマトグラフ用、安定剤なし、和光純薬工業(株)製)を0.8mL/分で流して、紫外吸収分光計「UV-4070」(日本分光(株)製、235nmないし254nmで検出)および示差屈折率計「RI-4030」(日本分光(株)製)で検出したクロマトグラムを、標準ポリスチレン(東ソー(株)製、TSKゲルオリゴマーキット,Mn:1.03×106,3.89×105,1.82×105,3.68×104,1.36×104,5.32×103,3.03×103,8.73×102)による三次曲線で較正して評価した。
【0167】
(熱物性)
ガラス転移温度(Tg)、結晶化点(結晶化温度)(Tcryst)、結晶化エンタルピー(ΔHcryst)、硬化点(硬化温度)(Tcure)、および10%重量分解温度(Td10)は、熱重量示差熱走査熱量分析装置(TG-DTA、リガク(株)製、「示差熱天秤Thermo plus EVO2試料観察TG-DTA」)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から500℃の範囲で測定した。
【0168】
[モノマー(または重合成分)]
(ジハライド成分)
α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド:後述する合成例1により合成したもの(化合物(1-1))
テレフタル酸クロリド:イハラニッケイ化学工業(株)製
イソフタル酸クロリド:イハラニッケイ化学工業(株)製
(ジオール成分)
BisZ:ビスフェノールZ、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、東京化成工業(株)製、EP
BisA:ビスフェノールA、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、東京化成工業(株)製、一級。
【0169】
(他の試薬)
ホルムアルデヒド水溶液:米山薬品工業(株)製
アクリル酸tert-ブチル:大阪有機化学工業(株)製
DABCO:1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、関東化学(株)製、一級
1,4-ジオキサン:和光純薬工業(株)製、特級
ジエチルエーテル:関東化学(株)製、特級
ヘキサン:和光純薬工業(株)製、一級
酢酸エチル:和光純薬工業(株)製、一級
塩化チオニル:和光純薬工業(株)製、一級
クロロホルム:和光純薬工業(株)製、一級
モレキュラーシーブ4A:モレキュラーシーブス4A 1/8、和光純薬工業(株)製
Et3N(またはTEA):トリエチルアミン、和光純薬工業(株)製、特級
メタノール:和光純薬工業(株)製、一級
BTEAC:ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、東京化成工業(株)製、一級
NaOH:水酸化ナトリウム、和光純薬工業(株)製、一級。
【0170】
[合成例1]α-(クロロメチル)アクリル酸クロリドの合成
【0171】
【0172】
(α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸tert-ブチルの合成)
ホルムアルデヒド水溶液(37質量%、99.9g、1.23mol)とアクリル酸tert-ブチル(52.6g、0.410mol)をDABCO(9.00g、80.2mmol)の1,4-ジオキサン/水(300mL/300mL)溶液に加え、60℃で9 時間攪拌した。生成物をジエチルエーテル(150mL×4)により抽出し、有機層を濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[溶離液:ヘキサン/酢酸エチル(v/v)=4/1]により精製した後、無色透明のオイルとしてα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸tert-ブチル(59.5g)を得た。
【0173】
α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸tert-ブチル:colorless liquid;1H NMR( 400MHz,26℃、CDCl3)δ/ppm 6.12(s,1H,CHH),5.73(s,1H,CHH),4.25(s,2H,CH2OH),1.48(s,9H,-CH3)。
【0174】
(α-(クロロメチル)アクリル酸クロリドの合成)
α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸tert-ブチル(GC純度:88%,122g,0.681mol)に塩化チオニル(125mL,1.14mol)を滴下し、40℃で19時間反応させた。反応母液を濃縮したのちに、減圧蒸留によりα-(クロロメチル)アクリル酸クロリド(化合物(1-1))を無色透明のオイルとして得た(40.6g,43%)。
1H NMRの測定結果を以下および
図1に示す。
【0175】
α-(クロロメチル)アクリル酸クロリド:colorless oil;bp 73.5-80.0℃/20Torr;1H NMR(400MHz,CDCl3,26℃)δ/ppm 6.78(s,1H,CHH),6.45(s,1H,CHH),4.30(s,2H,CH2Cl)。
【0176】
[比較例1]ポリ共役エステルの溶液重合による合成
【0177】
【0178】
クロロホルムはモレキュラーシーブ4Aで予め乾燥した。アルゴン雰囲気下で、BisZ(0.671g,2.50mmol)およびEt3N(0.556g,5.49mmol)を、クロロホルム(2.5mL)に溶かし、溶液を氷浴中で攪拌し、合成例1で調製した化合物(1-1)(0.348g,2.50mmol)のクロロホルム(2.5mL)溶液を加え、0℃で1時間、室温(25℃)で23時間攪拌した。反応溶液をメタノール(40mL)へ滴下し、遠心分離/デカンテーションにより沈殿物を単離した。沈殿物を水で洗浄したのちに真空乾燥によりポリマーを得た(0.842g、収率:>99%、Mn=6200、D=2.01)。
【0179】
1H NMRおよび
13C NMRの測定結果を以下および
図2~3に示す。なお、
図2~3にはピークの帰属を理解し易くするために構成単位(または化学構造)の一例を化学式で示しているが、この構成単位の配列が繰り返し結合したポリ共役エステルが得られたことを示すものではない(後述する
1H NMRスペクトルおよび
13C NMRスペクトルの図面についても同様である)。
【0180】
1H NMR(400MHz,CDCl3,26℃)δ/ppm 7.30-7.26(m,2H),7.27-7.18(m,2H),7.07-7.03(m,2H),6.89-6.87(m,2H),6.59(s,1H),6.17(s,1H),4.81(s,1H),2.30-2.19(br,4H),1.15(br,6H)。
【0181】
13C NMR(100MHz,CDCl3,25℃)δ/ppm 164.5,156.5,148.7,148.5,147.2,146.5,14.22,141.4,136.2,128.8,128.7,121.7,121.5,115.1,114.9,66.5,46.6,46.0,45.6,37.9,26.9,23.4。
【0182】
[実施例1A]ポリ共役エステルの界面重合による合成
BisZ(0.215g,0.800mmol)およびBTEAC(0.0093g,0.041mmol)の1M NaOHaq(1.6mL)を激しく攪拌し、合成例1で得られた化合物(1-1)(0.111g,0.800mmol)のクロロホルム(1.6mL)溶液を加え、室温で24時間反応させた。水層を除去したのち、メタノール(40mL)へ滴下し、遠心分離により沈殿物を回収し、真空乾燥してポリマーを得た(0.286g,収率:>99%,Mn=11000,D=2.28)。
【0183】
1H NMRおよび
13C NMRの測定結果を以下および
図4~5に示す。
【0184】
1H NMR(400MHz,CDCl3,26℃)δ/ppm 7.30-7.26(m,2H),7.27-7.18(m,2H),7.07-7.03(m,2H),6.89-6.87(m,2H),6.59(s,1H),6.17(s,1H),4.81(s,1H),2.30-2.19(br,4H),1.15(br,6H)。
【0185】
13C NMR(100MHz,CDCl3,25℃)δ/ppm 164.5,156.5,148.7,148.5,147.2,146.5,14.22,141.4,136.2,128.8,128.7,121.7,121.5,115.1,114.9,66.5,46.6,46.0,45.6,37.9,26.9,23.4。
【0186】
[実施例1B]ポリ共役エステルの界面重合による合成
BisZ(0.274g,1.20mmol)およびBTEAC(10.8mg,0.047mmol)の0.5M NaOHaq(1.9mL)を激しく攪拌し、合成例1で得られた化合物(1-1)(0.112g,0.800mmol)のクロロホルム(1.6mL)溶液を加え、室温で24時間反応させた。水層を除去したのち、メタノール(40mL)へ滴下し、遠心分離により沈殿物を回収し、真空乾燥してポリマーを得た(0.268g,収率:98%,Mn=8000,D=2.78)。
1H NMRおよび
13C NMRの測定結果を以下および
図6に示す。
【0187】
1H NMR(400MHz,CDCl3,26℃)δ/ppm 7.30-7.26(m,2H),7.27-7.18(m,2H),7.07-7.03(m,2H),6.89-6.87(m,2H),6.59(s,1H),6.17(s,1H),4.81(s,1H),2.30-2.19(br,4H),1.15(br,6H)。
【0188】
13C NMR(100MHz,CDCl3,25℃)δ/ppm 164.5,156.5,148.7,148.5,147.2,146.5,14.22,141.4,136.2,128.8,128.7,121.7,121.5,115.1,114.9,66.5,46.6,46.0,45.6,37.9,26.9,23.4。
【0189】
[参考例1]ジエステルの界面合成
BisZ(0.108g,0.402mmol)およびBTEAC(9.5mg,0.042mmol)の1M NaOHaq(0.8mL)に、合成例1で得られた化合物(1-1)(0.112g,0.800mmol)のクロロホルム(0.8mL)溶液を一気に加えて21時間撹拌した。飽和食塩水(2mL)を加え、クロロホルム(2mL)で抽出した。有機層を濃縮したのちに真空乾燥して、ジエステル化合物(すなわち、1,1-ビス[4-(α-(クロロメチル)アクリロイルオキシ)フェニル]シクロヘキサン)を主成分とする粗精製物を透明液体として得た(0.209g,収率:>99%)。
1H NMRの測定結果を以下および
図7に示す。
【0190】
比較例1、実施例1A、1B、および参考例1で得られたポリ共役エステル(またはジエステル)の評価結果を下記表1に示す。
【0191】
【0192】
[一次構造の規則性の解析]
表1において、結合様式は、BisZ由来の構成単位の両端に結合する化合物(1-1)由来の構成単位の結合の仕方を示している。詳しくは、化合物(1-1)が非対称構造のモノマーであり、求核アシル置換反応によりエステル結合を、共役置換反応によりエーテル結合をそれぞれ形成して重合されるため、化合物(1-1)由来の構成単位には方向(結合の向き)が存在する。そのため、BisZと化合物(1-1)との結合様式としては下記式(3a-1)で示すように、BisZ(残基)の両端でエステル結合を形成したエステル-エステル(単にSSともいう);下記式(3b-1)で示すように、BisZ(残基)の一端でエステル結合、他端でエーテル結合を形成したエステル-エーテル(単にSTともいう);下記式(3c-1)で示すように、BisZ(残基)の両端でエーテル結合を形成したエーテル-エーテル(単にTTともいう)の3パターンが挙げられる。
【0193】
【0194】
各結合様式の割合は
13C NMRスペクトルに基づいて測定でき、46ppm付近のBisZのシクロヘキサン環の4級炭素(2つのフェニル基と結合する炭素、
図3および5におけるe)の信号が各結合様式に対応して、SS(45.9ppm)、ST(45.5ppm)、TT(45.2ppm)の3つのピークとして観測されるため、これらの積分強度比から表1に示す各結合様式の割合を算出した。
【0195】
比較例1では、表1および
図3に示すようにSS/ST/TT(モル比)=25/50/25であり、溶液重合では求核アシル置換反応と共役置換反応とがランダムに発生していることを示唆している。
【0196】
一方、界面重合により重合した実施例1Aでは、
1H NMRスペクトルでは比較例1との大きな違いは見られなかったものの、表1および
図5に示すようにSS/ST/TT(モル比)=44/12/44であり、溶液重合体とは異なってSTの割合が極端に少なく、BisZ由来の構成単位の多くがSSおよびTTの結合様式で存在しており、規則性の高いポリマーが得られたことが分かった。
【0197】
そこで、界面での重合挙動を調べるために、参考例1では化合物(1-1)が過剰な条件下で反応させたところ、
図5に示すように
1H NMRスペクトルにおいて6.1および6.6ppmにビニリデン基、4.4ppmにアリル位由来のピークが観測され、7.3~7.0ppmに芳香族に由来するピークが大きく2つ観測されており、ジエステルが生成した。このことから、界面反応では共役置換反応はほとんど進行せずに求核アシル置換反応が支配的に進行したことが示唆された。
【0198】
参考例1とは対照的に、BisZが過剰な条件下で界面重合させた実施例1Bではポリマーが生成した。重縮合でポリマーを得るためには、一般に、求核モノマーと求電子モノマーとを等モルずつ仕込むことが理想とされているが、界面重縮合では、未反応の求核モノマーが水層に残留するため、逐次的な成長反応が有機層で進行する場合には等モルでなくても重合が進行する。すなわち、実施例1Bでは、まず求核アシル置換反応が水/クロロホルム界面で進行してジエステルが生成することにより、BisZがSSの結合様式で組み込まれる。このことは、参考例1の結果からも支持される。次に、生成したジエステルが有機層(クロロホルム層)でBisZと共役置換反応することにより、TTの結合様式が生じる。結果として、SSおよびTTの結合様式に富む規則性の高いポリ共役エステルが得られたと考えられる。
【0199】
[熱分析]
比較例1および実施例1Aで得られたポリマーのTG/DTAを測定した結果を下記表2および
図8に示す。
【0200】
【0201】
表2および
図8から明らかなように、比較例1および実施例1Aのいずれにおいても、結晶化点T
crystおよび硬化点T
cureの発熱ピークがみられた。実施例1Aとの結晶化点T
crystにおける試料1gあたりの発熱ピーク面積は、比較例1の3.5倍に相当することから、界面重合により規則性の高いポリマーが得られた実施例1Aでは、高い結晶化度で結晶相が形成されたものと推測される。結晶化度はヤング率などの力学物性に大きく影響することから、実施例1Aでは機械的特性に優れたポリ共役エステルが得られたことが分かった。
【0202】
[実施例2]ポリ共役エステルの界面重合による合成
BisA(0.183g,0.799mmol)とBTEAC(0.009g,0.040mmol)の1M NaOHaq(1.6mL)を激しく撹拌し、合成例1で得られた化合物(1-1)(0.111g,0.799mmol)のクロロホルム(1.6mL)溶液を加えた。室温で24時間反応させた後、反応溶液の有機層を濃縮、真空乾燥して、白色固体として実施例1で得られたポリ共役エステルと同一の繰り返し単位を有するポリ共役エステルを得た(収率92%,Mn=3000,D=1.74)。
【0203】
得られた共役ポリエステルの
1H NMRの測定結果を以下および
図9に示す。
【0204】
1H-NMR(400MHz,CDCl3,26℃)δ/ppm 7.25(dd,J1=8.7Hz,J2=2.5Hz,2H),7.15(d,J=7Hz,2H),7.05-7.02(m,2H),6.89-6.86(m,2H),6.61(s,1H),6.18(s,1H),4.82(s,2H),1.66(t,6H)。
【0205】
[比較例2]溶液重合(モノマー逐次添加)による4元共重合
アルゴン雰囲気下で、BisZ(0.537g,2.00mmol)、トリエチルアミン(0.406g,4.01mmol)のクロロホルム(1.5mL)溶液に、テレフタル酸クロリド(0.1825g,0.9mmol)、イソフタル酸クロリド(0.1825g,0.9mmol)のクロロホルム(1.5mL)溶液を加えて25℃で2時間撹拌して、下記の繰り返し単位を有し、かつ両末端がBisZ由来の構成単位であるプレポリマー(Mn=4900、D=2.10)を含む反応液を得た。
【0206】
【0207】
プレポリマーを含む反応液にアルゴン置換を再度行い、合成例1で得られた化合物(1-1)(0.0277g,0.200mmol)とトリエチルアミン(0.0417g,0.412mmol)のクロロホルム(1.0mL)溶液を滴下し25℃で2時間反応(鎖延長反応)させ、プレポリマーに対してさらに下記構成単位を有する4元共重合体を合成した。なお、反応液は粘性の高い溶液となったため、反応系の撹拌が困難となった。反応液に水(2mL)を加えて反応を停止し、有機層をメタノール(40mL)に加えて沈殿させ、デカンテーションにより沈殿物を回収し、真空乾燥によりポリマーを得た(0.834g、収率:>99%、Mn=13000、D=2.38)。
【0208】
【0209】
得られた4元共重合体の鎖延長反応前後におけるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の測定結果を
図10に示し、得られた4元共重合体の
1H NMRスペクトルを以下および
図11に示す。
【0210】
1H-NMR(400MHz,CDCl3,25℃):δ/ppm 8.98(s,0.468H),8.42(d,J=7.7Hz,0.932H),8.30(s,1.89H,),7.65(t,J=7.7H,0.468H),7.36-7.30(m,3.76H),7.22-7.13(m,3.76H),7.13-7.04(m,0.24H),6.93-6.87(m,0.12H),6.76-6.72(m,0.12H),6.62-6.52(m,0.059H),6.36-6.14(br,0.059H),4.75(s,0.12H),2.30(br,4H),1.60-1.52(m,6H)。
【0211】
1H NMRスペクトルから、6.6ppm、6.2ppm付近に主鎖骨格中のビニリデン基、4.8ppm付近にアリル位に帰属されるピークが観測され、化合物(1-1)の導入が確認された。また、テレフタル酸クロリド(TP)、イソフタル酸クロリド(IP)および化合物(1-1)に由来する構成単位の含有率(モル比)は、TP/IP/(1-1)=47.3/46.8/5.9であり、反応系中に添加した化合物(1-1)の割合より少なかった。
【0212】
[比較例3]溶液重合(モノマー一斉添加)による4元共重合
BisZ(0.537g,2.00mmol)、トリエチルアミン(0.449g,4.43mmol)のクロロホルム(4.0mL)溶液に、合成例1で得られた化合物(1-1)(0.0276g,0.200mmol)とテレフタル酸クロリド(0.1825g,0.9mmol)、イソフタル酸クロリド(0.1825g,0.9mmol)のクロロホルム(4.0mL)溶液を加えて24時間撹拌した。水(2mL)を加えて反応を停止し、有機層をメタノール(40mL)に加えて沈殿させ、デカンテーションにより沈殿物を得た。沈殿物の真空乾燥によりポリマーを得た(1.08g、収率:>99%、Mn=12000、D=2.14)。
【0213】
得られた4元共重合体の
1H NMRスペクトルを以下および
図12に示す。
【0214】
1H-NMR(400MHz,CDCl3,25℃):δ/ppm 8.98(s,0.44H),8.42(d,J=7.7Hz,0.88H),8.30(s,1.84H,),7.65(t,J=7.7H,0.44H),7.36-7.30(m,3.6H),7.22-7.13(m,3.6H),7.13-7.04(m,0.44H),6.93-6.87(m,0.22H),6.76-6.72(m,0.22H),6.59(br,0.10H),6.17(br,0.10H),4.81(s,0.20H),2.30(br,4H),1.60-1.52(m,6H)ppm。
【0215】
1H NMRスペクトルから、テレフタル酸クロリド(TP)、イソフタル酸クロリド(IP)および化合物(1-1)に由来する構成単位の含有率(モル比)は、TP/IP/(1-1)=45.1/45.4/9.5であった。
【0216】
[実施例3]界面重合による4元共重合
BisZ(0.538g,2.00mmol)、BTEAC(13.0mg,0.057mmol)の1M NaOHaq(4.0mL)に、合成例1で得られた化合物(1-1)(0.0278g,0.200mmol)とテレフタル酸クロリド(0.1825g,0.9mmol)、イソフタル酸クロリド(0.1825g,0.9mmol)のクロロホルム(4.0mL)溶液を一気に加えて72時間撹拌した。水層を除去したのちに油層をメタノール(100mL)に加えて遠心分離/デカンテーションを行い、沈殿物を得た。沈殿物の真空乾燥によりポリマーを得た(0.782g、収率:>99%、Mn=35000、D=2.52)。
【0217】
得られた4元共重合体の
1H NMRスペクトルを以下および
図13に示す。
【0218】
1H-NMR(400MHz,CDCl3,25℃):δ/ppm 8.98(s,0.440H),8.42(d,J=7.7Hz,0.880H),8.30(s,1.86H,),7.65(t,J=7.7H,0.440H),7.36-7.30(m,3.54H),7.22-7.13(m,3.54H),7.13-7.04(m,0.38H),6.93-6.87(m,0.19H),6.76-6.72(m,0.19H),6.62-6.52(m,0.096H),6.36-6.14(br,0.096H),4.75(s,0.19H),2.30(br,4H),1.60-1.52(m,6H)。
【0219】
1H NMRスペクトルから、テレフタル酸クロリド(TP)、イソフタル酸クロリド(IP)および化合物(1-1)に由来する構成単位の含有率(モル比)は、TP/IP/(1-1)=46.4/44.0/9.6であり、仕込み比に近い割合の4元共重合体が得られた。
【0220】
なお、参考例1などの結果から明らかなように、界面重合ではまず求核アシル置換反応が支配的に進行するため、重合初期ではハロゲン化アリル基、すなわち、化合物(1-1)のクロロアリル基の存在が無視できる。そのため、実施例3では、ジハライド成分のクロロカルボニル基(塩化アシル骨格)の総量の割合が、ジオール成分(BisZ)のヒドロキシル基の総量に対して95%であり、求核アシル置換反応が完全に進行した際に得られるプレポリマーの重合度(平均重合度)はPnは、フローリー(Flory)の式から、(1+0.95)/(1-0.95)=39である。得られるプレポリマーの末端には、化合物(1-1)および/またはBisZ由来の構成単位(化合物(1-1)のクロロアリル基および/またはBisZのヒドロキシル基)が存在し、このプレポリマーがさらに共役置換反応により成長すると考えられるため、2つの化合物(1-1)由来の構成単位間に存在するBisZ、TPおよび/またはIP由来の構成単位の総数は38程度である。
【0221】
比較例2~3および実施例3で得られたポリ共役エステル(または4元共重合体)の評価結果を下記表3に示す。
【0222】
【0223】
逐次的にモノマーを添加して溶液重合した比較例2では、化合物(1-1)に由来する構成単位の含有率(モル比)がジハライド成分の仕込み比よりも低下したため、末端においても化合物(1-1)が十分に反応できていないと考えられる。また、比較例2では逐次的にモノマーを添加するためか、再現性も低かった。
【0224】
一方、モノマーを一斉添加して溶液重合した比較例3では、反応終盤まで溶液が撹拌できる状態であったため、仕込み比に近い割合の4元共重合体が得られたものと考えられる。通常、ポリアリレートの反応溶液は粘性が高くなり易いが、化合物(1-1)を一括して加えたことで、主鎖骨格中にエキソメチレン骨格(または化合物(1-1)由来の構成単位)が挿入され、高分子の剛直さが緩和されたために、反応溶液の粘性が下がったと考えられる。しかし、溶液重合では求核アシル置換反応と共役置換反応とがランダムに進行して重合されるため、アクリル骨格が不均一(ランダム)に挿入されたポリマーが得られた。
【0225】
これに対して、界面重合した実施例3では、まず求核アシル置換反応が進行し、プレポリマーが生成した後に共役置換反応が進行したと考えられる。そのため、界面重合は溶液重合と異なり、モノマーを一斉に混合していながらも、反応速度差によりアクリル骨格が均一に挿入されたポリマーが合成できる。
【0226】
[4元共重合体の熱分析]
比較例2~3および実施例3で得られた4元共重合体のTG/DTAの測定結果を下記表4および
図14に示す。
【0227】
【0228】
表4および
図14から明らかなように、いずれの例においてもT
d10が高く、アクリル骨格を導入してもポリアリレート骨格(2価のフェノール類および芳香族ジカルボン酸類に由来する骨格)に起因する優れた耐熱性が保持されている。なお、比較例2が他の例に比べてT
d10が高いのは、アクリル骨格の含有率が低いためと考えられる。
【0229】
硬化温度Tcureについて、比較例2~3では240℃付近に発熱ピークが観測された。このピークはBisZとテレフタル酸クロリドおよびイソフタル酸クロリドとで構成されたポリアリレート樹脂のガラス転移温度である185℃付近から立ち上がっており、テレ/イソフタル酸単位を含まない比較例1の硬化温度229℃にも近いため、アクリル骨格の架橋反応に基づく発熱ピークと推定した。なお、比較例2で信号強度が弱いのは、アクリル骨格の含有率が低いためと考えられる。
【0230】
一方、実施例3では、硬化温度T
cureは約50℃ほど高く観測され、アクリル骨格の含有率が同程度の比較例3と比べて、硬化温度T
cureにおける発熱量(発熱ピーク面積)は約3倍ほど大きかった。このことは、実施例3では、熱硬化に関与したアクリル骨格が比較例3の約3倍に相当することを表している。この理由としては、ポリマー中におけるアクリル骨格の分散状態が影響したものと考えられる。
図15に、異なる重合方法で得られた4元共重合体におけるアクリル骨格の分散状態の違いを概略模式図で示す。
【0231】
詳しくは、溶液重合では求核アシル置換反応と共役置換反応とがランダムに進行して重合されるため、アクリル骨格が不均一(ランダム)に挿入、すなわち、アクリル骨格が近接した部位と隔離された部位とを有するポリマーとなる。そのため、熱硬化に際して、アクリル骨格が局在化して存在した部分では硬化(架橋)反応が一気に進み、一部のアクリル骨格が未反応のまま取り残されると考えられる。
【0232】
一方、界面重合ではアクリル骨格はポリマー鎖全体に分散して平均的に挿入され、アクリル骨格が局在化していないポリマーとなるため、局所的な硬化は進行し難く平均的に架橋構造が形成され、アクリル骨格が効率よく架橋反応した(アクリル骨格の硬化率が向上した)と考えられる。また、アクリル骨格が広く分散したことで、BisZとテレ/イソフタル酸クロリドとで形成されるポリアリレートセグメントの連続長(持続長)が相対的に長くなり剛直性が増したこと、さらには架橋反応するアクリル骨格を接近させるためにより激しい分子運動を誘起する必要があったことなどが硬化温度Tcureの上昇につながったと推測される。
【0233】
このように界面重合では、モノマーを一括添加して簡便に4元重合体を調製しても、アクリル骨格が均一に分散できるため、アクリル骨格を効率よく(効果的に)架橋反応に利用できるとともに、架橋点の集中(局在化)による硬化物の脆弱性や物性のばらつきを有効に抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0234】
本発明のポリ共役エステルは、一次構造の規則性が高いため、優れた機械的特性を示すとともに、硬化性および分解性という相反する性質を併せ持っており、各種の成形体、例えば、日用品、容器、電気・電子機器部品、自動車などの車両部品、建築資材などに利用できる。
【0235】
また、前記ポリ共役エステルを含む硬化性組成物およびその硬化物は、例えば、塗料、電線被覆材、電子機器の封止材及び絶縁材、プリント配線基板、保護膜、フォトレジスト、印刷製版材、インキ、接着剤、粘着剤、液晶ディスプレイなどの反射防止膜の高屈折率層や反射板などの光学薄膜などの用途に好適に利用できる。